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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・2・010『チャイムとセンパイ』

2023-10-06 16:57:20 | カントリーロード

くもやかし物語・2

010『チャイムとセンパイ』 

 

 

「スイスじゃヨーデルだぞ!」

 

 いたずらっ子みたいに目をクルクルさせ、ちぎったパンを振り回しながら言うのはハイジ。

「だめですわよ、食べ物を振り回しながらしゃべっては」

「ああ、ごめん。ここはチャイムだからビビっちまったぜ! 授業の始まりと終わりは、ヨロレイヒーって決まってたからよ」

 ルームメイトのオリビアに注意されながらも、ちっとも聞かないでハイジは喋りまくる。

 近ごろは、うち(ヤクモとネル)とオリビア(オリビアとハイジ)のところといっしょにお昼を食べてる。

 四人掛けに四人だからピッタリ。で、学校のチャイムが話題になった。

オリビア:「チャイムを鳴らすのは、ヤマセンブルグがイギリスと縁が深いからではないでしょうか?」

ハイジ:「ええ!? イギリスと縁が深いと、なんでチャイムになるんだあ?」

オリビア:「だって、チャイムのメロディーってイギリスのビッグベンと同じでございましょう?」

ヤクモ:「へえ、そうなの?」

 日本人のわたしは、小学校以来聞き慣れたチャイムなので、全然違和感なし。ごく当たり前で気にも留めなかったよ。

ロージー:「アメリカはさ、先生が時計見ていて『じゃあ、終わり!』って叫ぶんだよ」

 隣りの四人掛けからロージー・エドワーズが割り込んできた。

ロージー:「あ、割り込んじゃったけど、よかった?」

「うん」「どうぞ」「おお」「いいわよ」

ハイジ:「でもよぉ、授業の始めとかどうすんだ? 昼休みなんかグラウンドで遊んでたら分かんねえだろ?」

 自分の横を空けてやりながらハイジが聞く。

ロージー:「先生がホイッスル吹くんだ、指笛ですます先生もいたよ、こんな風に」

 ピューーーー!

オリビア:「ああ、かっこいいかもですぅ」

ハイジ:「牧場じゃ、犬呼ぶとき指笛だったぞ」

ロージー:「じゃあ、羊を集める時はどうするの?」

オリビア:「ああ、犬に命令すっと、犬が駆けまわって集めるのさ」

ネル:「でも、チャイムが鳴るって、アニメみたいでいいよね(^▽^)」

みんな:「「「「うんうん」」」」

ロージー:「そういや、ヤクモは日本人だよね?」

ヤクモ:「あ、うん?」

ロージー:「日本じゃ上級生のこと、センパイって呼ぶんでしょ?」

ヤクモ:「うん、そうだよ」

ハイジ:「ヤクモもセンパイって呼ばれてたのか!?」

ヤクモ:「あ、わたしは部活とかしてなかったから、先輩ってよばれたことは……あ、一人だけいたかも……」

みんな:「やっぱり!」「ほんと!?」「どんなんだ!?」「わあ、すてきですわ!」

 

 思い出した……三年の一学期、図書当番でいっしょになった一年生。

 ほんの数回、当番がいっしょになっただけだったけど、なにをするにも「先輩先輩」って、枕詞みたいに付けて呼んでくれた一年坊主。

 顔もおぼろで、名前は……思い出せないけど、わたしより、少し大きいだけの可愛い男子だった。

 

 いろんなあやかしに振り回されて大変な時期だったけど、ちょっとだけ先輩面ができたのは、その子に対してだけだった。

 

 先輩

 

 しゅんかん、その子の声が聞こえたような気がして、ネルが変な顔をしたけど「ううん、なんでも(^_^;)」と返して、午後の授業に行ったよ。

 

☆彡主な登場人物 

  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ

 

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RE・トモコパラドクス・39『ベターハーフ・2』

2023-10-06 06:41:09 | 小説7

RE・友子パラドクス

39『ベターハーフ・2』 

 

 


「……で、どうなのよ、二人の関係というか、可能性は?」

 駅前のパンケーキをモフモフ食べながら紀香が聞いてきた。今日は期末テストで二時間でおしまいなのだ。

「ま、ノッキー先生の記憶から取った情報……見てくれる」

 イヤホンの片方づつを耳に装着。

 こんなことをしなくても、一瞬で情報は共有できるのだが、こういう女子高生の雰囲気を楽しみたいという気持ちもある。それに、アズマッチの恋は、こんな風に受け止めてあげるのが相応しいような気がする二人。むろん、二人の電脳を直結させるので外に漏れることも無い。

 

「やっぱ、氷川丸は外せませんね」

「ふふ、乗せてしまえば、管理もしやすいですしね。でしょ、東先生?」

「違いますよ!」

「あら、ごめんなさい」

 

 ……二人は、遠足の下見に横浜の山下公園にやってきていた。去年の春のようだ。

 

「氷川丸は、昭和五年に造られた大型貨客船で、横浜とシアトルを何度も往復……あ、チャップリンも、この船で日本に来たんですよ」

「まあ、あのチャップリンが?」

「ええ、柔道の嘉納治五郎も東京オリンピック招致の会議のあと、この船で帰国中に肺炎で亡くなってます」

「嘉納治五郎って、東京オリンピックの前まで生きてたんですか!?」

「ハハ、昭和十六年の幻のオリンピックですよ」

「へえ、そうなんだ……」

「戦時中は、病院船になって、船体を白く塗って、緑の帯に赤十字が映えましてね。海の白鳥って呼ばれたもんです」

「へえ……この船、きっと白が似合ったんでしょうね」

「戦後は、引き揚げ船やったり、もとの太平洋航路にももどって、その後は展示船になって、ユースホステルになったり、船上結婚式に使われたり……」

「え、ここで結婚式!?」

 ノッキーは、思わず身を乗り出した。

「白い船体に、白いウェディングドレス……素敵だわ!」

「あ、そのころはエメラルドグリーンに塗られてました」

「エメラルドグリーン、もっと素敵。そのころの氷川丸見て見たかったわね!」

「あ、じゃ、そこに立ってみてください!」

「え、この白黒じゃイメージちがうなあ……」

「あ、パソコンで処理して、船はエメラルドグリーンにしときますよ」

「ついでに、ウェディングドレスにしてもらおうかなあ」

「あ、それいいなあ、やっときますよ( #ºωº #)!」

「ハハ、冗談よ。このままでいい」

 

 パシャ パシャパシャ パシャ

 

 スマホで撮って、アズマッチはノッキー先生に見せた。

「あ、思い出した。このアングル!」

「ハハ、分かりました?」

「『コクリコ坂』で、海と俊がアベックで歩いたとこだ!」

「そう、お互い好きなんだけど……」

「その時は、お互い兄妹だと思いこんでいて、なんだか、とってもせつないのよね!」

「そういう、歴史的な背景を説明してやってから、生徒たちを、ここに連れてきてやりたいんですよ」

「うん、とってもいいアイデアだわ!」

「そして、帰りは、ここで集合写真撮ってやりたいんです。母港に落ち着いた氷川丸の前で!」

「うんうん!」

 そのとき、いたずらなカモメが、ノッキー先生の頬をかすめた。

「きゃ!」

 思わず、ノッキー先生はアズマッチの胸に飛び込んでしまった。

「柚木さんが、ボクの母港になってくれたら、どんなにいいだろ……」
 
 ノッキー先生は、優しく顔を上げた。

「……わたしみたいな小さな港には、東先生みたいな大きな船は入りきらないわ」

 そして、ノッキー先生は自然にアズマッチの胸から離れた。

「母港にしている船は……?」

「……まだ、一度も入港してくれたことはないけど……さ、次ぎ行きましょうか」

「そ、そうですね、柚木先生!」


 それからのアズマッチは、彼女のことを、かならず「先生」をつけて呼ぶようになったところで駅に着いた。


「いい話だけど、切ないね。アズマッチは諦めちゃったの?」

「ううん、今でも好きだよ。でも、アズマッチはエライよ」

「え、あのボクネンジンが?」

「ほんとうに人を愛することは、その人が、一番幸せになることを願うことだって……」

「アズマッチの心覗いたの?」

「だけじゃなくてね……」

 ――間もなく二番線に各駅停車綾瀬行きが参ります――

「……え?」

 ――黄色いブロックの内側でお待ちください――

「まあね、ちょいと見届けたいと思う訳ですよ」

「さすが、歳の功」

「歳の功いうなあ(*`Д´*)」

 

 ポロロン ポロン ピロン♪

 

 発メロ『君の名は希望』が軽やかに弾んで、二人を乗せた地下鉄は、ゆっくりと走り出した……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル

 

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