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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・187『上様の目は微笑ってはいなかった』

2023-10-27 10:22:59 | 小説4

・187

『上様の目は微笑ってはいなかった』胡蝶 

 

 


 御池の中島に明々と輝く楕円のブロンズ。


 台座はマメ科植物の群れの下に隠れ、あたかも、この群れの気が凝って精霊に昇華したように見える。

 マースビーンズの商品化百周年を記念して火星農産が先週上様に寄贈したものだ。

 マースビーンズは二代将軍正仁様がお造りになった品種で、いまでは扶桑以外の火星でも主要穀物になっている。

 日本庭園のど真ん中に、豆とはいえブロンズ像が佇立しているのはどうかと思うのだが、上様は頓着されないし、意外に面白い。

 幾星霜か経ってみれば、鮮やかな緑青がふいて案外な侘び寂びの点景になるのかもしれない。

 

 ソヨリ

 

 マースビーンズの群れが戦いだ。

 歩を緩めると、池の半ば近くを占める水田の稲穂もマースビーンズに倣って戦いでいるのが分かる。

 明らかに風向きが変わった。

 納得すると、お召しを受けた東屋への歩みを速める。

 

「胡蝶も気が付いたようだね」

 上様は東屋の外に出て風に御髪をなぶらせておられる。

「大老殿の狙いは、これだったのですね」

「うん、これが停戦のきっかけになればいいんだけどね」

「まことに」

「あ、ここじゃ畏まらなくていいからね。畏まられると話しにくくなるからね……」

「は」

「……………」

 話があると仰せられながら、上様は後ろ手組んで、あいかわらず風を読んでおられる。

 

 感慨にふけっておられる、あるいは、念じておられるのだ、火星の平和を。

 だが、こういう時の上様は難題を申し付けられることが多い。

 

 穴山大老は、老中若年寄たちの反対を押し切って戦略ミサイルを打ち上げさせた。

 100基の戦略ミサイルは、200キロの高度に達すると、二発が空中爆発、残りは一定の方角には飛ばず、ウロウロとマス漢とは真逆の東に向きをとって飛び始めた。慌てたロケット軍は、すぐに自爆させようとしたが、自爆できたのは3基にすぎなかった。

 発射前から兆候を掴んでいたマス漢は、最高レベルの迎撃態勢をとって待ち構えていたが、ミサイルの迷走ぶりに安堵し、かつ嗤った。

「なんという恥さらし!」

 たちまち官民の怨嗟の声があがり、C国系の多い虎ノ門ヒルズでは爆竹を鳴らして喜ぶ者たちもいて、扶桑を応援する難民たちとの間で衝突騒ぎまで起こった。

「いやはや、まあ、こんなこともある」

 当の穴山大老は、近ごろ禿の進んだ頭をつるりと撫でるだけだった。

「やはり、大老はタヌキです」

 弾道ミサイルの射程は1300キロ、逆回りではマス漢には届かない。扶桑からは反対側の荒れ地に落下して虚しく爆発炎上する。100に近いミサイルの爆発は中緯度地方の大気の流れを真逆にした。赤間関に吹く風は、方向を真逆にしてマス漢の方角に流れ、腐乱した遺棄死体の悪気はマス漢を苦しめることになる。

 しかし

「ミサイルの炸薬や燃料が燃えても一時間ももたないのでは?」

「あれに炸薬は入っていないよ」

「え?」

「代わりにマス炭が入っている」

「マス炭が!?」

「うん、考えたものだよ穴山大老は」

 マス炭とは、マースビーンズの搾りかすを脱水して固めた固形燃料だ。パルス処理されて、穏やかに一か月は燃え続ける。

「これでマス漢も思いとどまってくれるといいんだけどね、かの国はそれほどヤワではないし、連合国(アメリカ系の火星国家)の帰趨もなかなか読めない」

「はい」

「そこで、胡蝶、君に頼みだ」

「はい!」

 いよいよ本題。

 

 上様は穏やかに笑みを浮かべておられるが……その目は少しも微笑ってはいなかった。

 

☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

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RE・トモコパラドクス・60『友子の夏休み グータラ編・3』

2023-10-27 06:43:10 | 小説7

RE・友子パラドクス

60『友子の夏休み グータラ編・3』 

 

 

 リビングのテレビは、共に5000メートルの噴煙を上げている桜島と西之島新島の映像を流している。桜島は鹿児島を始め近隣自治体の交通をマヒさせ、火山灰による被害が憂慮され、西之島新島は日本の国土と排他的経済水域が広がると喜ばれた。

 政府は、この二つの火山噴火とその影響のシミレーションCGをゲーム会社に作らせ、国民に警戒と希望の両方を喚起させている。要は両火山に対する予算措置や特例法の成立をやりやすくするための国家的宣伝だ。

 友子は、これだと思った!
 
 友子は、起こりもしない極東戦争のために開発された義体である。その開発には大手家電メーカーや自動車メーカーが義肢メーカーやバイオメーカーを新たに立ち上げたり買収したり、産業構造を変化させるほどのムーブメントを起こした。そのことが、利権化してしまい。友子は存在し続けなければならない。ストレスはハンパではない。従って、並のグータラでは、発散のしようがない。思い切ったガス抜きが必要だ。

 

「でぇ、なにしようってのよ?」

 

 二日続けて遊びに来た紀香が、気乗り薄げに聞く。

「極東戦争のシミュレーションやってみよう!」

「起こりもしないのに?」

「だから、面白いんじゃない。これくらいのことやらないと、あたしたち義体には息抜きにもならないわよ」

「でも、電脳のバーチャルでやっても……ん……ひょっとして、本当にやってみるつもり!?」

「ガハハハハハ」

 返事の代わりに、友子は身に合わない豪傑笑いで応えた。

――大変であります。尖閣諸島東方海域に、旧ソ連軍の大艦隊が出現いたしました。アドミラル・クズネツォフ級空母3隻を中核とした機動部隊で、総数60隻に及び……いま、関連のニュースが入ってきました。ロシア政府は、この旧ソ連軍の艦隊は、ロシアとはなんの関係もないと周辺諸国に通達いたしました。続いて……尖閣諸島の西南に旧日本海軍そっくりの大艦隊が出現しました。これが映像であります……海上自衛隊の発表によりますと、大和型戦艦2隻……どうやら、特徴から、前が大和、後方が武蔵のようであります。続いて、長門、陸奥……高速巡洋戦艦、榛名、金剛、比叡、霧島と続き、その周囲を巡洋艦、駆逐艦が続いております――

「なんで、空母出さないのさ」

「作戦よ、作戦」

――中国政府は、日本の陰謀であると非難し、周辺海域の中国の艦船を避難させました。日本政府も、この旧帝国海軍の艦隊は日本政府が関わったものではなく、全くの不審艦隊であると発表いたしました。双方の艦隊の距離は50キロに迫り……あ、今ソ連艦隊の空母群から次々と艦載機が発艦しております!――

「スホーイ33の対艦ミサイルで、ドッカン、ドッカンやっちゃうからね!」

 紀香の鼻息は荒い。友子はおもむろに高速戦艦4隻を艦隊の前方に展開した。まともに勝負しては、友子に勝ち目はない。なんと言っても亜音速で飛んでくるミサイルである。

「全機、ミサイル発射!」

 合計120発の対艦ミサイルである。現代のイージス艦でも、飽和攻撃で、全ミサイルの撃破は難しい。
 友子は、それまでに弾着観測用の零式観測機と零式三座水偵を12機発艦させていた。

「なに下駄履き飛ばしてんのよ、砲戦になる前に、そっちは全滅よ」

「どうかなぁ……」

 なんと、12機の下駄履きは、120発のミサイルを撃ち落としはじめた!

「そんなバカな(;゚Д゚)!」

「見かけで判断してはいけません」

「機銃の弾に自動追尾装置つけるなんて反則だ!」

「勝てば、なんでもありよ!」

 そうこうしているうちに、ソ連艦隊は日本艦隊の射程に入ってきた。

 傲然と火を吐く大和・武蔵の46サンチ砲。高速で接近した巡洋戦艦4隻も主砲を撃ち始めた。

 ソ連艦隊も対艦ミサイルで反撃するが、そのほとんどが高角砲に撃ち落とされる。

「アナログの高角砲が対艦ミサイル撃ち落とすなんて不合理だ!」

「でも、こっちの主砲はアナログのままよ」

 下駄履きが、本来の任務である弾着観測をし始めたので、日本艦隊の弾は確実に当たり出した。

 結果は、旧日本艦隊の一方的勝利、旧ソ連艦隊は、ほとんどが撃沈された。

「どうだ、庭でバーベキューでも……」

 一郎が、呼びかけると、二人はスホーイ33と零式水偵でドッグファイトの真っ最中であった。二機の背後には沈み行くソ連艦隊。

「お前ら、こんなの国際問題になるぞ……」

 一郎の声に一瞬気を取られた隙に、スホ-イの30ミリ弾が水偵に当たったが、複葉機であるために、主翼の間をすり抜けてしまった。

「今だ!」

 水偵の後部座席の7・7ミリ機銃がスホーイのコックピットをぶち抜いて勝負がついた。

「負けたあ!」

「勝ったあ!」

 次の瞬間、ソ連艦隊も日本艦隊も分子にまで分解され、その姿がきれいに消えた。

 友子たちが、バーベキューをしている間に、周辺諸国は、居なくなった相手に非難のしまくりであった。

 なんの痕跡も残さなかったので、アメリカと日本のゲーム会社が一時疑いの眼で見られたが、技術的に不可能であるといわれ、国際的なハッカー集団のせいにされて決着した。

 友子のウサバラシも、かなり人迷惑ではあった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 鈴木 友子        30年前の事故で義体化された見かけは15歳の美少女
  • 鈴木 一郎        友子の弟で父親
  • 鈴木 春奈        一郎の妻
  • 鈴木  栞        未来からやってきて友子の命を狙う友子の娘
  • 白井 紀香        2年B組 演劇部部長 友子の宿敵
  • 大佛  聡        クラスの委員長
  • 王  梨香        クラスメート
  • 長峰 純子        クラスメート
  • 麻子           クラスメート
  • 妙子           クラスメート 演劇部
  • 水島 昭二        談話室の幽霊 水島結衣との二重人格 バニラエッセンズボーカル
  • 滝川 修         城南大の学生を名乗る退役義体兵士
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