大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・89『教官ドノの企み』

2023-01-19 07:24:16 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

89『教官ドノの企み』 

 

 

 夕食は、うな重定食をいただいて(おいしかった!)入浴。

 入浴中の描写はカット。だって、クリスマスの入浴じゃひと悶着あったしね(46『雪の三丁目』)

 ただ、「マリちゃん」の板に付いた女子高生らしさと、いっしょに入ってくれた大空さんのプロポーションがチョーイケテたとだけ申し上げておきます。

「大空助教、カラーガードのDVD見せてください」

 入浴後、里沙の一言で、DVDの鑑賞会になった。


「ワーーーーーガチイケテル、カッコイイ(≧∇≦)!」


 いつもながら、女子高生の感嘆詞は簡単であります。でも簡単な分だけ気持ちは伝わっているみたいで、大空助教は嬉しそう。で、後ろに座っていた男のみなさんも嬉しそう。

 ミニスカート、チアリ-ディングのミリタリー風のコスに、お揃いの旗を持って、『サンダーバード』と『軍艦マーチ』の曲にあわせて、器用に旗を操作しながら、いろんな風に行進。

 わたしたちは、見事に旗がヒラリするたびに――オオ!――

 男たちは、風にスカートがヒラリするたびに――オオ!――

「いやあ、いいものを見せてもらいましたが、ここの体験入隊はきついですなあ」

 企業グル-プの一人が、西田さんにグチった。

「あなたたちは、なんのための体験入隊なんですか?」

「来月、新入社員の研修でこれをやるので、下見ですわ」

「じゃあ、新入社員を連れて、もう一度来られるんですか」

「はい。もちますかねえ……」

「なあに、二度目はズンと楽になりますよ。もう靴を蹴散らされることもないでしょうし」

「あれには、たまげました」

「ま、カマシですよ、娑婆っ気抜くための。おたくの教官ドノは、いささか意地が悪そうですがね。まあ、要領覚えてしまえば難しくはないですよ」

 このヒソヒソ話は、わたしが聞き耳ずきんしてたから聞こえたんだけど、もう一人聞いてた人がいるた……その教官ドノがね。

「……西田曹長。なかなかのもんでしたね。障害走路といい、五千メートル走といい」

「おかげさまで、現役の頃を思い出して、楽しんでおりますよ」

「では、お楽しみついでに不寝番をやってみますか」

「おお、願ってもない。喜んで」

「では、女性は外すとして、男のみなさんで二人一組の四直制で」

「規範通りですな。では、組み合わせは、企業グル-プさんと相談しましょうか」

「いや、それには及びません。編成表を作っておきました。就寝前にご説明いたします。それまで、しばしの自由時間、お楽しみのほどを……」


 教官ドノは、振り向くと薄ら笑いを浮かべて行ってしまった。

 陰険なヤツ。障害走で負けたのを根に持ってるんだ。


 今日は建国記念の二月十一日、朝の天気予報では、関東平野には寒気団が居座って、夜半から大雪警報が出ている。窓から外を見ると、音もなく雪が降り始めている。

 西田さんは、元気そうだけど、もう七十歳をいくつか超えている。大丈夫だろうか。

 当の御本人は、企業グル-プのオニイサン相手にレンジャー訓練を受けたときの話しなんかしている。これで、障害走のときの「レンジャー!」ってかけ声の訳は分かった。

 でも、この不寝番で、とんでもない事件が起こることは誰にも予想がつかなかった。教官ドノも、西田さんも。そして幽霊の乃木坂さんでさえも……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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鳴かぬなら 信長転生記 103『時間よ停まれ! 君は美しい!』

2023-01-18 13:24:36 | ノベル2

ら 信長転生記

103『時間よ停まれ! 君は美しい!』織部 

 

 

 根っから染みついた武士ならば腹を切るところかもしれない。

 

 なんせ、助けたはずのわたしが馬の尻に乗って、救出されたはずの茶姫が手綱を握っていたんだからな。

「替わってくれ、わたしの方が速い!」

 追手の気配を感じて、直ぐに茶姫は言った。

「心得た!」

 わたしは左に、茶姫は右に体を寄せて二呼吸するほどの間は二人で手綱を握った。

 セイ!

 次の瞬間、掛け声と共に茶姫は左足を垂直に跳ね上げ、わたしを跨いで馬の鞍に収まった。

 その刹那に目の前に屹立した美脚には震えがきた!

 

 時間よ停まれ! 君は美しい!

 

 キュッと内側に握られた爪先は、脚を屹立させるには理にかなった形なのだが、それは女が絶頂した時のそれと同じだ。甲は浅く土踏まず美麗にくびれ、足首もそれに倣い、ふくらはぎと太ももの線の豊かさとなだらかさを荘厳している。アゲインストの風が薄物の胴着を靡かせ、太ももの末が尻のまろみに昇華され、ほとんど足の付け根までが露わになったところまで想像される。

 実際は、三国志の衣装で下半身は褲子(くうず)を穿いているので生足が見えているわけではないのだが、旺盛な審美眼は褲子の布などは素通しにしてしまう。

 いや、なにが言いたいかと言うと、この審美眼が無ければ、救出者たる武士として手綱を譲ることなどできなかった。

 それでも、曹素手練れの追手を振り切ることは難しく、境の森を出れば双ヶ岡まで一面の草原。たとえ、迎えの軍勢が控えていようと、一戦交えざるを得ないと覚悟した。

 武蔵が飛び出してきた。

 太刀は帯びずに、脇差一本の軽腰、両腕を蒸気機関車のロッドのように激しく屈伸させ、一直線に丘を駆け下りてきた。

 

 チェストーー!

 

 あの武蔵が、薩摩示現流の掛け声で境の森に対した。

 追手たちは、境の森を出ることなく引き返した。

 ほんの先月には、カラコンを装着してほとんどカミングアウト。皆虎の街ではアイドル以上の扱いだった。

 それが、役目を自覚し見敵と同時に元の武蔵に戻った。

 いや、元以上。いたずらに剣を振り回すのではなく、威嚇に止め、わたしと茶姫の保護を最優先にした。

 並の剣術馬鹿にできることではない。

 並の剣術馬鹿なら、追手を皆殺しにしている。

 部下が皆殺しにされて黙っているような曹素ではない。いや、曹素のその上、曹操に扶桑との決戦に踏み出させてしまう。三国志の民草も、扶桑の英傑たちも戦は望んではいない。

 そのことを理解したうえで、武蔵は行動した。

 

 元々なのか成長したのか、扶桑の転生という属性はすごいと思う。

 

「そうか……それなら仕方がない、歓迎会は少し先ということにしよう」

 信玄が頭を掻いた。

「そうね、茶の湯もそうだけど、和式のおもてなしは正座が基本だものね、学園の乙女生徒会長とも話し合って決めるわ」

 そう言って謙信がノーパソを閉じた。

「それがありがたいです、茶姫さんもお疲れだし、まずは心も体も休めてもらうのが一番です。いろいろおもてなしを考えていただいた様子。わたしも感謝します」

 部室の壁には、茶姫歓迎の資料やらプランが張られていて、すでに、歓迎の茶席も信長を呼んで予行済みとか。

 本気で準備していたことがよく分かる。

「天下布部、勝手に決められては困ります」

 石田三成が断わりも無く入って来て、挨拶もせずに苦情を言う。

「カリカリするな三成、ファジーにやらんと若禿になるぞぉ」

「今川会長も、予定を組んでおられます」

「いいじゃないの石田さん、生徒会も真剣に取り組んでいたという事実は残るんだから」

「そういうことではないんですよ謙信さん。執行部に一言も無しに方針転換されるのが困るんです」

「ああ、そうか。この信玄としたことが不覚だった! じゃ、今から今川会長のところに行くわ。そうだ、せっかくだから『ほうとう』の味噌煮込みで一杯やろう」

「あ、ちょっと信玄さーん!」

 あわただしく信玄と三成が出て行って、首を戻すと謙信と目が合った。

「歓迎会が終わった後の話がしたい……」

 どうやら休ませてはもらえないようだ……まあ、望むところではあるんだけどね。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・88『障害走路』

2023-01-18 06:17:53 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

88『障害走路』 

 

 

 え……( ゜Д゜)!?


 同じテーブルにいた隊員の人達がいっせいに西田さんに注目した。

「自分は、北海道の機甲科におりましてなぁ。ある時、アメさんと共同訓練になりました。その日は、対空射撃訓練……機甲科じゃ珍しいことなんですけどね。幹部の偉いさんのそのまた上で決まったらしい」

「高射特科じゃないんですよね?」


 大空さんの質問は、タヨリナ三人組にはチンプンカンプン。


「六一式の車長をやっておりました。イントルーダーが吹き流しの標的を引っ張って飛んでくるんですがね……むろん最初は普通にやっとりました。車載機銃で吹き流しを撃つんでですわ」

「車載機銃で当たるものなんですか?」

「あのころは、自動追尾なんかありませんので、目視でやっとりました。みんな良い腕をしとりましたよ。八割方は当たりましたな。で、アメさんも本気になってきたんでしょうなあ。それまで水平に部隊の前を横断するように飛んでおったのですが。本式に真正面から実戦と同じ攻撃姿勢でやってきおりました。ほとんどの機銃が沈黙しました。だって、真正面からだと、曳航機のイントルーダーと吹き流しが重なって、危なくて撃てない。間違って曳航機に当たれば大ごとですからな」

「誤射したんですか?」

「そんなヘマはしませんよ。真っ直ぐわたしの六一に低空で向かってきおりました。距離一千で、微かに吹き流しが十一時時の方向に流れたのを見過ごさずに射撃しました。アメさんは、まさか撃ってくるとは思わんかったんでしょうなあ。ビックリして機首を右に降りましてな。直ぐに射撃を中止しましたが、右のエンジンをぶっとばしてしまいました」

「それじゃ、事故の原因は米軍の方じゃないんですか?」

「そのころは、ビデオもない時代ですからなぁ。部隊のみんなは証言してくれましたが。泣く子とアメさんには勝てません、ワハハハ」


 昼からは、障害走路というのをやった、要は障害物競走。


 飛び越え障害、ロープ登り、柵越え、鉄条網くぐりなんかが十一種類ある。

「かかれ!」

 教官の号令で二人一組で始めんの、西田さんは峰岸先輩とペアであっという間にゴールに着いたみたい。遠くで「完了!」って声がした。

 忠クンは、企業グル-プの先発の人といっしょ。丸太橋のところでモタツイテるんで、わたしとマリちゃん(マリ先生)が待ちきれずに出発。後に里沙と夏鈴、次に企業グループの残りが続いた。

 ロ-プ登りで、忠クンのペアを抜かしちゃった……って、わたしの運動神経がいいわけじゃないのよ。ペアはお互い助け合っていいことになっていて、わたしたちのペアが、制限時間内で完了できたのでは、ひとえに「マリちゃん」のお陰ではありました。

 企業グル-プが、忠クンたちといっしょにゴールしたのは。なんと一時間後。里沙と夏鈴はさらに、その五分後だった。

 なんと、西田峰岸ペアの記録は、駐屯地記録歴代一位だった!

「自分と、もう一度やっていただけませんか?」

 企業グル-プの教官が、顔はにこやかに、でも目は闘争心向き出しで言ってきた。

「バディー(ペアの自衛隊用語)ではなく、競技としてですな?」

 西田さんは、闘争心をみなぎらせて……る。わりには目は笑ってた。

「用意……かかれ!」

 先任教官の合図がかかったとき、西田のおじさんは、こう叫んだ。

「レンジャー!!」

 この言葉に、あきらかに相手の教官は、ギクっとした。

 勝負はあっけなかった。西田のおじさんが、十秒の差を付けてゴール。ついさっき、自分で作った新記録もあっさり塗り替えてしまった。

 それから、自衛隊体操。人の動きを見て真似るのは得意だったのであっさりクリアー。忠クンと企業グル-プは少し時間がかかった。

 そして……恐怖の5000メートル走。これはコタエました(^_^;)。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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銀河太平記・141『漢明艦隊現る!』

2023-01-17 14:44:14 | 小説4

・141

『漢明艦隊現る!』お岩  

 

 

 氷室神社の前を過ぎると男どものざわめきが聞こえた。

 

 潮騒に紛れて言葉まではわからないが、空気は剣呑だ。

「ちょっと、通しとくれ!」

 隙間を縫って前に出る、出たつもりなんだけど、力余って押しのけちまったんだろう、文句やら悲鳴が上がる。

 うわ! グホ! てめえ! なにすんだ! ウギャ! ノワア!

 拳をあげる奴もいるけど、食堂のお岩だと気づくと、たいていの奴は口をつぐむ。新参者二人ほど無意識に蹴倒して「グホッ!」「ゲボ!」とカエルみたいな声をあげて視界から消える。

――ごめん――と心で謝って、前に出る。

 

 ウワアアア!

 

 男以上の声が出てしまった。

 南の海上には、三十隻を超える漢明の艦隊が溢れていた。

 戦艦・3 空母・2 巡洋艦・4 強襲揚陸艦・2 他に駆逐艦、輸送艦、病院船や工作艦まで出張っていやがる。

「まるでノルマンディーの撮影だよ、お岩さん」

 氷室社長が穏やかに言う。

「あはは、ノ、ノルマンディーは大げさでしょ(^_^;)」

 新参者が声を震わせる。

 社長は「撮影みたい」と言ったんだ。

 冷静な人だ、お見通しなんだ。数だけは島を攻略するに十分な規模だけど、闘気が感じられない。

 まるで、監督の「よーい! スタート!」の掛け声を待っているエキストラ艦隊だ。

「微妙に領海外だし、哨戒機を飛ばす様子もないみたいだ」

「そうだろうね、二十世紀じゃないんだから、その気になれば三十分もあれば漢明から師団規模の部隊を送れるだろうしね」

「まあ、まだまだ興奮した島民や観光客の人たちが押し寄せてくるだろうね。興奮すればお腹も減る。食堂は大賑わいになると思うよ」

「そうだね、ハナ、今日は巫女服にタスキ掛けで頑張っとくれよ!」

「ラジャー!」

 元気に返事して、早手回しにタスキを掛けるハナ。でも、その場を動こうとはせずに、腕組みして漢明艦隊を睨み据える。やっぱり、目に見える脅威は侮れない。

「ハナ、さっさとやりな!」

「イエス、マム('◇')ゞ!」

 やっと行った。

「あの艦隊はともかく、この二三日で漢明は仕掛けてくるだろう、腹積もりはあるのかい、社長?」

「ロボットのみなさんに、並列化を解いてもらうよう指示したよ」

「オフラインで戦わせるのかい?」

 ロボットたちの優れている点は、ラインで並列化されていることだ。一個体が獲得したスキルや情報は、同時に同じネットで繋がれているロボットたちと共有される。

 23世紀の今日、ロボットのPCやサーバーにはアンチウィルス機能が搭載されていて、たいていのウィルスやフェイクはろ過されるかワクチンが反射的に作られて無効化される。しかし、所詮はテクノロジー、万一ということがある。

「洛陽号の爆発直後から東西(東=ナバホ村 西=フートン)とも話を付けてあるよ。及川市長には政府との連絡と折衝を任せて、挙島体制にはしてあるしね」

 性格でもあるんだろうけど、社長は名言やら押し付けた物言いをしない。平時ならともかく、緊急時には……と思わないでは無いけど、あの落盤事故(078『落盤事故』)も原則を崩さずに乗り越えてきた。不安や不満を口にすべきじゃないさ。

 背後で人垣が開く気配。

 振り向くと村長のマヌエリトと周温雷主席がやって来るところだ。

「同志、漢明の様子は?」

「ああ、状況はね……」

 社長が丁寧に話を繰り返す、時間はかかるが、これが島の東西南の結束に繋がっている。

 気短なわたしはイラつかないこともないんだが、辛抱辛抱。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

  

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・87『我らが助教大空真央』

2023-01-17 06:14:07 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

87『我らが助教大空真央』 

 

 

 突き当たりの部屋は、稽古場にしている談話室ぐらいの大きさがあって、なんだか健康診断の時のように机と椅子が並んでいた……実際、血圧と問診の健康診断。それから、制服が配られた。大空さんは一瞬でわたし達の体格を見極め、ピッタリのを渡してくれた。

「では、これから誓約書に署名捺印をしてもらいます。未成年の人は保護者の承諾書を提出してください」

 中隊長さんが言った……え……マリ先生が承諾書を出してる!

 夏鈴が吹きだしかけて、中隊長さんに睨まれた。

「では、それぞれの部屋に戻って、着替え。十五分後に先ほどの営庭に集合。かかれ!」

 で、着替えて入り口のところに行くと。わたし達のはあったけど、企業グループさん達の靴が一つもない。一瞬先を越されたかと思ったら、少し遅れてやってきた企業グル-プさんが慌てていた。

「おれ達の靴がない!」

 さっさと外へ出たわたし達は笑っちゃった。企業グループさん達の靴がみんな外に放り出されていた。一瞬乃木坂さんのイタズラかと思ったら、乃木坂さん、笑ってチガウチガウをしている。

「最初のハッタリ。ちゃんと脱いでいないやつをああしておいて娑婆っ気を抜く」

 そう言った西田さんの服装は、前のまま。

「助教のやつがサイズを間違えやがった。どうせ、体験者用の六五式。同じやつだからね、これで助教に貸し一つ」

「あの、マリ先生、承諾書出してましたけど……」

「ここじゃ、十七歳ってことになってんだ、君たちもそのつもりでね。それから歩きながら喋れるのは、この先の営庭までだからね」

 西田さんは、ウィンクすると、駆け足で行っちゃった。

 営庭に出ると、西田さんが中隊長さんと話しをしていた。敬礼を交わして別れたけど、ここから見ると西田さんのほうが偉く見えてしまう。


「西田さんのトラックが珍しいんで、夕方まで見せて欲しいんだって。で、西田さんが、分解しないことを条件に承諾したとこ」

 乃木坂さんが教えてくれた。西田さんが得意そうに鼻の下をこすった。

「やだー、マリのこの靴マメができそう」

 後ろで、マリ先生がブリッコをしておりました……(^_^;)。

 それから、基本動作の訓練に入った。

 基本動作って、ほんと基本。気をつけ! 休め! 右向け右! 左向け左! 敬礼!


 敬礼ってば、こんなことがあった。


「教官。貴官の敬礼は二度浅いように思われる。正対して親指が見えてはいかんと礼式にあったと思うのですが。それとも昭和三十九年に定められた自衛隊礼式に変更でもありましたかな……いや、除隊して三十余年、この世界にも疎くなりましたからな」

 と、西田のおじさんは……またもカマシました。
 
 それから、行進の練習。自衛隊では歩くとき、必ず一列。左足から出て、手はグーにして、真っ直ぐに伸ばして肩の高さまで上げる。

 かけ声は、一、二、一、二、ソーレッ! でね、一は「オッチ」って発音する。

「前に進め! オッチ、ニ、オッチ、ニ!」

 でもね、我らが助教大空真央さんのは、こう聞こえる。

「エッチネ、エッチネ!」

 思わず笑いそうになったけど、こういう場合でも自衛隊は笑ってはいけないのであります……はい。

 それから行進練習と駆け足練習をやって、昼休み。

 カツ丼におみそ汁。カツ丼は普通のお店の特盛りにワラジみたいなトンカツ。

 食事は、大きな食堂に分隊ごとに集まる。うちは大空助教が話しの中心になった。

「こんな言い方、なんですけど、大空さんはなんで自衛隊に志願したんですか?」

「そうですよ、こんなにカワイイのに」

 里沙と夏鈴が遠慮の無い質問をした……他の女性隊員がいたら怒られそうだ(汗)

「わたしの家は、おじいちゃんの代から自衛隊だったから、自然にね」

 特盛りのカツ丼をペロリと平らげて、大空さんが答えた。


「大空さん。あんた、ひょっとしてカラーガードじゃないかい?」

「あ、はい。分かりました……?」

「うん。動きがキビキビしているだけじゃなくて、イカシテおる。あれは儀仗隊かカラーガードだど思った」

「さすが、大先輩。二年前からカラーガードをやってます。よかったら今夜記録のDVDお見せしましょうか」

 カラーガードって……?

「ぜひ、お願いします。われわれが現役だったころは、まだ無かったもんでね。一度見たいと思っておりました」

「西田さんは、どうして、除隊されたんですか。自己紹介の時、八年の勤務で曹長までなられたと伺いましたが?」

「いや……演習中に、米軍機を撃墜してしまいましてね」

「「「「え……(;゜Д゜)!?」」」」

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・86『時間厳守!』

2023-01-16 07:07:21 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

86『時間厳守!』 

 


「では、発車します」

 と自衛隊のおじさんが言うまでの五分間の間にマリ先生は秘密を話してくれた。


 マリ先生は木崎産業の社長のお嬢さん。で、会長のお孫さん。でもって、先生自体は会社を継ぐ気などサラサラなくって、好きなように生きてるってこと。

 残りは、動き出したトラックの荷台の向かい合わせになった席で聞かされた。

 正直驚いたけど、これも先生なりのピリオドの打ち方なんだと理解した。これも乃木坂さんの影響かなあ……と、心の中でくり返してみた。

「え、これ自衛隊のトラックじゃないんですか!?」

「オレも驚いたよ」

 と、峰岸先輩も応えた。

 これがスットボケであると分かるのは、この長い物語が終わってからのことなんだけど、この時は「地下鉄の駅を降りたら、このトラックに出くわし乗せてもらった」という説明に頷いた。

 運転してんのは、先生のお祖父さまの運転手さんで、西田さんといって、元は本物の自衛官。で、トラックはその西田さんが趣味で持ってる自家用車。「女性自衛官」の人は、西田さんのお孫さんで、わたしたちの先輩にあたること。むろん本物の自衛官ではなく、西田さんの趣味につき合って、わたしたちをA駐屯地まで送ったあと、空になったトラックを運転して帰る……ってことは?

「先生達もいっしょなんですか( ゚Д゚)!?」

「元陸曹長、西田敏夫。自分を含め七名の体験入隊者を引率してまいりました。なお六五式作業服を着用しております者は、自分の孫で、五六式輸送車の後送要員であります」

 書類を見せられた門衛の隊員さんは、二昔前の自衛隊のトラックに目を白黒させていたけど、駐車場を教えてくれて、あっさり通してくれた。むろんこの人数以外にもう一人便乗者がいることは、わたし以外知らないことだったけどね(^_^;)。

 トラックを降りるとグラウンドに集められた。

 わたし達の他に、どこかの企業の十人ばかりの若いグループが来ていた。新入社員の研修にしては少し早い。
 六人の迷彩服の隊員さん達が待っていてくれていた。きっと入隊式かなんかあるんだろうと思ったけど、なかなか始まらない。企業グル-プの二人が遅れて走ってきた。トイレにでも行っていたのだろうか。

 六人の迷彩服が気を付けをして、偉そうな人が朝礼台の上に上がった。

「時間厳守!」

 という言葉から始まり、励ましてんのか怒っているのか分からない訓辞のあと、それぞれ担当の教官と助教さんが自己紹介になった。助教さんが女の人だったのでビックリした。それまでは小柄な男の隊員さんだと思っていた。

 名前は大空真央さん。なんだか宝塚の女優みたいな人。

 それから、六人の迷彩服に連れられて、体験入隊専用の宿舎に連れていかれた。ちょっと田舎の小学校の校舎みたい。

「靴は、あの連中とは離して置くように。置き方は、わたしの真似をして」

 西田さんが小声で注意。

 部屋は四人部屋だった。女子四人と男子三人……乃木坂さんは、男部屋を指差して行ってしまった。

 大空さんが来て、荷物の置き場所を教えてくれ、すぐに奥の突き当たりの部屋に行くように言われた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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巡(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記・002『いっそ、昔の宮の森に通う?』

2023-01-15 09:19:44 | 小説

(めぐり) 型落ち魔法少女の通学日記

002『いっそ、昔の宮の森に通う?』   

 

 

 空は晴れても心は闇だぁ……

 

 古いお芝居の台詞だったかが浮かんでくる。

 桜はまだまだだけど、ゾロゾロと流れにのって出てきた講堂の外、植え込みの梅は嫌味なくらいに紅白の花をつけてるし、空は益々晴れてるし。

 グシャ

 下足を入れていたレジ袋が風にあおられて飛んできて、不可抗力で踏んでしまう。

「失礼します」

 場内係りの女生徒さんが、そのレジ袋を拾ってくれる。他にも二三人の女生徒さん、憧れの旧制服姿で甲斐甲斐しく合格者と保護者の案内やら下足袋の回収やら。後ろのドアからは男子の旧制服たちが入って行って後始末にかかっている。

 あら?

 見かけと好奇心だけはわたし以上に若いお祖母ちゃんが人だかりに気付く。

 合格者と保護者が「へえ」とか「ほー」とか言ってる。物見高いお祖母ちゃんの後に着いていくと、トルソーに着せた二着の新制服。脇には業者のオバサン二人が付き添ってニコニコ。

「合格おめでとうございます。本日より採寸とお申込みを承っております」

「本日と、次の合格者登校日に承ります、直接店舗の方にお越しいただいてもけっこうですよ」

 集まっている半分以上は女子と保護者。

 さっそく採寸してもらったり、注文したりしてる。

「どうする?」

「帰る」

「そうね、次でも間に合うしね」

「…………」

 

 電車を降りて家まで歩く。

 

「待ち時間考えたら自転車もありね」

 電車は二駅、二駅分合わせても二キロも無い。自転車どころか歩いて通ってもいい距離だよ。

「この遠回りが無きゃねえ……」

「うん……」

 表通りと家の前の通りの間には寿川がある。橋の位置が悪いので、グルッと百メートルほど遠回りしないと表通りには出られない。制服の事が無ければ、半分は散歩気分で、この道で通学できたと思う。

 小学校も中学校も、反対側を三分ほどのところだったから、この道のりは楽しみでもあったんだよ。

 

 それが、もう疎ましい。

 

「どうしても、イヤ?」

 お茶を淹れながらお祖母ちゃん。

 家に帰ったから、本来の年相応の姿に戻って、わたしの前に座る。

「でも、仕方ないよね、よく確かめなかったわたしも悪いし……」

「イヤなら無理しなくてもいいのよ」

「だって、今から受け直せる高校なんて無いし……」

 ズズズ……

 めっちゃ年寄りみたいな音をさせてお茶をすするお祖母ちゃん。

 この五月で古希、それで猫舌なんだから仕方ないんだけど、癇に障る。

 コトリ

 分かっちゃったのか、飲みかけの湯呑を置いた。

「ごめん、そんなつもりじゃ……」

「じゃあ、いっそ、昔の宮の森に通う?」

「え?」

「引退したけど、お祖母ちゃん魔法少女だったからね、それくらいの魔法は使えるし」

「え、えと……どうやって?」

 お祖母ちゃんは、現役の頃から型落ちの魔法少女で、ドジばかりしていた。だから、第一線の戦闘部隊からは外されて、内勤の事務仕事とか新米魔法少女の相談係りとかばかりやっていた。いきなり言われても、ブタさんが「なんなら空飛んでみせようか?」って言うくらい戸惑ってしまう。

「うちは時司(ときつかさ)って苗字でしょ」

「うん」

「大昔は、朝廷の陰陽師の家系でね、時間の管理とかしていたんだよ」

「初めて聞いた」

「そうだっけ?」

「えと……昔の宮之森に通うって?」

「亜世界の宮の森」

「あせかい?」

「うん、異世界の手前。まあ、パラレルワールド的なかな? 派手な魔法とかは使えないんだけどね、忘れ物取りに行ったり、調べものしたりをね。異世界と違って、ほとんどこの世界と同じだから、昔の人に教わってくるようなこともしてたからね」

「でも、高校って三年間だよ。三年間昔に行きっぱなしになるじゃん」

「ううん、通いでいいんだよ。朝に、昔の学校に行って、夕方には今の時代に戻って来る。まあ、通いのタイムトラベル的な……かな?」

 なんかあやふや~。

「ほら、お祖父ちゃん落語が好きだったでしょ。特に八代目の三遊亭円馬」

「うん」

 ひとりヘッドホンで落語聞いて笑ってたお祖父ちゃんを思い出す。

「古典落語の名人だったけど、あれは、昔に戻って六代目に稽古つけてもらっていたんだよ」

「そうなの!?」

「うん、真打になったのも昔の亜世界でだったし。その渡りを世話したのは、曽ばあちゃんだったりしてね」

「そうなの……」

 

 ちょっと、そんな気になってきた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・85『体験入隊の日がやってきた』

2023-01-15 05:57:37 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

85『体験入隊の日がやってきた』 

 

 


 そうこうしているうちに体験入隊の日がやってきた。

 埼玉と東京にまたがるA駐屯地だったので、どこかの駅前に集合かと思ったら、三日前に峰岸先輩からメールが来た。

―― 当日は、午前八時半、学校裏門前集合。服装は学校指定のジャージ。携帯品は自由だけど、駐屯地に入ったら使えないから少なめがいいよ ――

 で、当日。

 こういうことにはダンドリのいいわたしは六時に起きて茶の間に降りた。

 で、びっくりした。おじいちゃんとおばあちゃんがテレビの天気予報を見ながら待っていた。

「なに、そのカッコウ?」

「国民服だい!」

 胸を張ったおじいちゃんの横に、セーラー服にモンペ姿。二人とも頭にキリリと日の丸の鉢巻き。

「あ、それ、わたしの中学のときの制服!」

「やっぱ、出征のお見送りは、これでなくっちゃ!」

 想像してみて、九十ん歳のオバアチャンのセーラー服……!

 わたしは、十五分ほどで朝のいろいろやって(女の子の朝なんて、いろいろとしか言えません)かっ飛びで、家を出……ようとした。

 おばあちゃんが、どこにそんな力があんのよって感じでジャージの裾をつかんだ。

「ちゃんと、お作法ってのがあるんだよ」

「あ、わたし未成年だから(^_^;)」

 おじいちゃんが出した盃をイラナイしたら怒られた。

「ばか、こりゃ水杯(みずさかずき)だ。作法だよ作法……ばか、そんな、事のついでみたいにやるんじゃねえ。気をつけだ、気をつけ!」

 気をつけして、行こうとしたら、また裾をつかまえられた。

「挨拶だよ、挨拶」

「行ってき……」

 まで言うと。おじいちゃんが叫んだ。

「仲まどか君の出征……もとい。体験入隊と!」

「武運長久を祈って!」

 と、おばあちゃんが受けた……そのころには、家族や近所の人たちが目をこすりながら出てきちゃった!

「ばんざーい!」

 おじいちゃんの雄たけびを合図に、わたしは横丁まで世界新ぐらいのスピードで走った。

 もちろんハズイからよ。恥ずかしいの(≧Д≦)!!


 で、早く着きすぎた。


 裏門には、まだだれもいない……と、思ったら、門柱の陰に気配。

「あ、乃木坂さん……どうしたの、その格好?」

「体験入隊、僕も付いていこうと思って」

 乃木坂さんは。ズボンのスネのとこをタイトなレッグウォーマー(ゲートルって言うらしい)みたいなのでキリリと締め上げ、制服の上からは左右二個の物入れみたいなのが付いたベルト。背中には四角いリュックみたいなのをしていた。

「これはね、軍事教練の時の格好さ。あのころは嫌で仕方がなかったけど、君たちが体験入隊をするって言うんで、付いていってみようと思ってさ……捧げ筒!」

 プっと吹き出しかけた、で、あのことを聞いてみた。稽古場じゃ、里沙と夏鈴がいるので聞きそびれていたのだ。

「潤香先輩の夢の中に出てきたのって、乃木坂さんよね?」

「……うん。意識が戻って、いきなりこの三ヶ月間の変化を知ったら、また頭の線切れそうだから。予備知識をね」

「潤香先輩、関根さんとか言ってたけど」

「紀香さんの大切な人……それ以上は言えない。言えば、君は顔に出てしまうからね」

「マリ先生も同じこと言ってた……」

「世の中には、そういうこともあるんだ。大人になるためのピリオドだと理解してくれたら嬉しい」

 寂しそうに、でも温もりのある顔で乃木坂さんが言った。


 そこへ忠クンが白い息を吐きながらやってきた。こちらは規定通りのジャージ姿。


「なんだ、まどかも早く来ちゃったのか」

「違うわよ、不可抗力なのよ……」

 朝のイキサツを話した。二人とも大笑い(むろん乃木坂さんのは、わたしにしか聞こえない)そうこうしているうちに、里沙と夏鈴がやってきた。里沙のリュックはコンパクトだけど、夏鈴のは冬山登山に行くくらいの大きさだった。

「なに、夏鈴、その冬山登山みたいなのは?」

「だって、お母さんがあれも持ってけ、これも持ってけって……」

「こりゃ、過保護か嫌がらせかのどっちかだわね」

 夏鈴が異議を唱えようとすると乃木坂を一台のトラックが登ってきた。今時めずらしいボンネットトラック。その濃緑色の車体は、素人のわたしが見ても自衛隊のトラックだった!


「八〇二五(ハチマルフタゴオ)到着」


 そう言って、「自衛隊」のおじさんが「女性自衛官」を従えて降りてきた……で、幌着きの荷台からは、峰岸先輩と……マリ先生が降りてきた(°д°)!?

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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せやさかい・381『三寒四温にはまだ早い』

2023-01-14 11:18:32 | ノベル

・381

『三寒四温にはまだ早い』さくら    

 

 

 サンカンシオンなんかなあ……

 

 食後のお茶を飲みながらお祖父ちゃんが呟く。

 プ(* ´艸`)

 伯母ちゃんが口を押える。

「まだふた月は早いですよ、お義父さん。お茶淹れ変えましょうか?」

「せやなあ、さくらは?」

「あ、うちがやるよ、おばちゃん」

「いいわよ、お祖父ちゃんの相手してあげて」

 伯母ちゃんは、二つとも湯呑を持ってキッチンへ。気ぃついてないお祖父ちゃんが空気を掴む。

「あれ?」

「伯母ちゃんが淹れかえてる。お祖父ちゃん返事してたやないの」

「あ、せやったか?」

 このシチュエーション、慣れてへんかったら――いよいよボケが始まった!?――と思う。

「お祖母ちゃんが逝ったんは、こんな日ぃやったんやろ?」

「せや、さぶいのが苦手やったさかい、ちょこっと温くなった雨の朝に逝きよった……」

 うちは小さかったから憶えてへん。お母さんから聞いて、春雨はお祖父ちゃんには思い入れがあると知ってるだけ。

 

 お祖父ちゃんが思わず勘違いしたぐらいに、今日は温い。

 

 サンカンシオンが三寒四温やいうことは、今やからこそ知ってる春の兆しの慣用句。

 初めて聞いたのは、小三くらいの朝礼で。校長先生が「サンカンシオンの季節になりました……」と訓話の枕で言うた時。

 え、また参観があるのん!?

 ビックリした。二学期の授業参観は、お母さん、ちょっと無理して休みとって来てくれた。

 お父さんが失踪して間もないころやったから、めっちゃ嬉しくって、何回も教室の後ろに他のお母さんらといっしょに並んでるお母さんを見た。

 せやさかい、サンカンは参観や思て、嬉しさ半分戸惑い半分。

「シオンてなんやろ?」

 友だちに聞いたら「心の清い人のこと」と答えた。その子はクリスチャンの家の子やった。

 なるほど、三学期は、子どもらの心の清さを重点的に観る参観なんかぁ!

 アホのさくらは一週間ほどは、そない思てたぞ。

 

「さくら、スマホ!」

 

 留美ちゃんが、アラーム鳴ってるスマホを持ってきてくれる。

「おお!」

 開けてビックリ玉手箱!

 宗武真監督から――キャラデザ決定稿――のサブジェクトで画像が送られてきた。

「おお、これは正しくさくらや!」

 お祖父ちゃんが感激して、おっちゃん(伯父さん)、詩ちゃん、テイ兄ちゃんが寄って来て、伯母ちゃんが手回し良く全員分のお茶を持ってきてくれる。

「声もさくらがやるの!?」

 詩ちゃんが身を乗り出す。

「そうだよね、この顔にはさくら以外の声は考えられないよ」

 留美ちゃんも賛同する。

「いやいや、声は花園あやめさんがやるんやけどね(^_^;)」

「え、花園あやめ!?」

 オタクのテイ兄ちゃんの目ぇが輝く。

 頼子さんらにも見せたげよと思たけど――第三者への転送はご遠慮ください――と注意書き。

 よし、学校で見せたげよ!

 

 はよ月曜日になれへんかなあ♪

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・84『稽古は暗礁に乗り上げていた』

2023-01-14 07:29:35 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

84『稽古は暗礁に乗り上げていた』 

 


「……さん」

 わたしたちには語尾しか聞こえなかったけど、マリ先生には全部聞こえたみたい。

「だれ……関根さんて?」

「あ……それは」

 マリ先生に聞かれてとぼけるのはむつかしい。潤香先輩も例外じゃない。

「……姉の元カレです。夢の中に出てきた人が……顔は見えないけど、そんな感じだったんです。わたしにも実の妹のように接してくださって……姉には内緒にしておいてください。姉には、大きなトラウマなんです」

「分かったわ……そういうことだったんだ」

「え……」

 潤香先輩をシカトして、先生は命じた。

「いまのことは口外無用。潤香も含めて……いいわね」

 はい……

 四人が声をそろえて返事をした。


 稽古は暗礁に乗り上げていた(-_-;)。


 最初の口上もそうだけど、歌舞伎や狂言的な表現には苦労ばっか。

 無対象の演技も、縄跳びなんかのレベルじゃない。見えないちゃぶ台に見えない食器、それも見えないお盆に載せて運ばなきゃならない。

 バケツに水を入れるのも一苦労。空と水が入ってるんじゃ重さが違う。

 ちゃぶ台を拭くのも、また一苦労。雑巾を水平に拭くのってムズイ!

 お茶を飲んだら、里沙と夏鈴はともかく乃木坂さんにまで笑われてしまう。

―― それじゃ、お茶を被っちゃうよ ――

「だって、ムツカシイんだもん!」

「まどか、誰に言ってんのよ?」

「え、あ……自分に言ってんの。自分に」

「ヒスおこしたって、前に進まないよ」

 そりゃあ、幽霊役の夏鈴はお気楽よね。壁でもなんでも素通りだし、この幽霊のノブちゃんだけ無対象の演技が無いのよ。


 で、稽古場の奥じゃ本物の幽霊さんがお腹抱えて笑ってるしい~(プンプン!)


 乃木坂さんは、ときどき上手に見本を見せてくれる。無対象でお茶を飲んだり、お婆さんの歩き方を見せてくれたり。

 でも稽古中にそっちを見ていると、こうなっちゃう。

「モーーー、どこ見てんのよ!?」

「いや、その……考えてんのよ。で、遠くを見てるような顔になんの!」

 乃木坂さんは、メモも残してくれる。

 ありがたいんだけど、古いのよね……「体」は「體」だし「すること」は「す可」だし、まるで古文。むろん理沙や夏鈴に見せるわけにはいかないし。

 はるかちゃんにも聞いてみた。説明はしてくれるんだけど、やっぱ、チャットじゃ限界。

 いっそ、乃木坂さんが理沙や夏鈴にも見えたらなって思ってしまう。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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くノ一その一今のうち・35『まあやの独笑(๑˃▽˂๑)』

2023-01-13 13:08:04 | 小説3

くノ一その一今のうち

35『まあやの独笑(๑˃▽˂๑)』 

 

 

 お休みとれたら行こうね!

 

 両手を胸の前でグーにしてマナジリをあげるまあや。

 このポーズは『吠えよ剣』でよくやるポーズだ。

 てっきり演技かと思っていたら、どうやらまあや自身の癖のようで、おかしい( *´艸`)。

「なにがおかしいのよ!?」

「ごめんごめん、まあやって、さな子のまんまなんだなって」

「ああ……それも落ち込むぅ」

「なんで?」

「だって、まあやは地のままやってるだけってことでしょ」

「いいじゃない。地のままって言っても、ちゃんと演じられてるよ」

「そーかなあ」

「そうだよ、事件とかが解決して、みんなで笑うってところから始まるシーンあるでしょ」

「あ、うん。お決まりの大団円。ファンの人たちは、あのシーンになると安心するんだって」

「最初見た時はビックリしたよ。キューが出てカメラが回ったとたんに、みんな笑いだすんだもん」

「ああ、あれは、ベテランの役者さんたちが空気を作ってくれてるからだよ。素でやれって言われたら、できないよ」

「そうか……でも、他にも泣いたり怒ったり、ちゃんと演技出来てると思うよ」

「うん……でもさ、いつか『吠えよ剣』も終わっちゃうじゃない。そうしたら、いまみたいに自分の延長みたいな演技じゃダメだと思う」

「そうか……で、どこに行くって?」

「もー、山梨よ、さな子さんのお墓!」

「あ、そうか、とんぼ返りじゃ、ちょっときついよね」

 

 まあやさ~ん、本番五分前です。

 

 ADさんのお迎えで、そろってスタジオへ。

「さな子のひとり笑いから入りまーす」

「え、一人でですか!」

「うん独笑、周作の『さな子の笑顔は救いだなあ』って台詞に続くんで、最初の笑い出しは一人で」

「は、はい(^_^;)」

 独笑とはうまくいったもんだ。でも、大丈夫かなあ、一人で笑うことってほとんどないって、ついさっき言ってた。

 心配なのはわたしばかりじゃない。カメラの後ろに周作さんと、準レギュラーの蕎麦屋のおじさんが見守ってる。

 でも、心配は無用だった。

 キューが出たとたんに、周作さんと蕎麦屋のおじさんが、とびきりの変顔(☉౪ ⊙)(╯⊙ ⊱⊙╰ )!

 アハハハハ(๑˃▽˂๑)!

 一発できまった!

 

 そして、山梨行きも決まった。

 

 ロケハンをやっていた監督が、山梨で絶好のロケ地を探り当てたということで五日間の山梨ロケが決まったのだ。

 サービスエリアでコーヒーを買っていると、横のおじさんが呟いた。忍び語りで……。

―― このロケは、お前にとっても仕事だ ――

 え?

―― 安心しろ、ここ一番の時は、俺が変顔してやる ――

 横を向くとおっさんの変顔(΄◞ิ౪◟ิ‵)。

 でも、笑えなかった。

 だって、そのおっさんは服部半三課長代理だったんだよ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・83『潤香先輩回復!』

2023-01-13 06:24:04 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

83『潤香先輩回復!』 

 

 

 それまでは心に刺さったトゲのように見えていた。

 それが今日は、晴れがましい記念碑のように青空を背に立っている。

 それってのはスカイツリーのこと。潤香先輩の病室から、いつも見えてんの。

 そのスカイツリーを窓枠を額縁の絵のような背景にして……ウフフ。

 ジャーン! 潤香先輩の笑顔がありました!!

 お見舞いに行く途中、地下鉄、駅横の宝くじ売り場の前で着メロが鳴った。
 
『今! たった今! 潤香の意識がもどったのよ!』

 普段は、明るくても、大人の落ち着きを崩すことなく話す紀香お姉さんが、まるで入試に受かった中学生みたいにはしゃいだ声で言った。


「やったー!」「やった、やったあ!」「ウキー!」

 三人は、はしゃぎまくり。宝くじを買おうとしていたオジサンが誤解した。

「そうか、当たったんか。おネエチャン、もう五十枚追加!」

 で、宝くじ売り場の売り上げを五十二枚伸ばして、わたしたちは病院に向かったわけ。

 え……二枚多いって? それはね、里沙の発案とオジサンの刺激でもって、わたし達で二枚買ったのだ♪


「まどか……里沙……夏鈴……ありがとね……」

 小さな声だったけど、潤香先輩はハッキリ言った。涙が出そうだった。

「ジャーン! 潤香先輩、回復祝いです。宝くじ、どっちにします!?」

「いいお祝いだ。君たちは気が利くね」

 お父さんが喜んでくださった。訳を話すと、その場にいたお母さんもマリ先生もいっしょになって大笑いになちゃった。潤香先輩も顔だけで笑って、あっさりと右側のを取った。

「そんなに、あっさり取っていいんですか?」

 夏鈴がつまらなさそうに言う。

「このことだったんだ。あの人が最期に――右だよ、右――って言ってた」

「あの人って……」

「潤香ったら、変なのよ。意識が戻るやいなや――悪いのは、わたし。マリ先生もまどかも悪くない。無理に笑いを堪えたわたしが悪いの――って」

 紀香さんがおかしそうに言った。

「それって、靴を履こうとしたときの……」

 わたしは、乃木坂さんの言葉を思い出した。

「どうして……」

 潤香先輩が目で、そう言った。みんなも不思議な顔で、わたしを見ている。

「いや、稽古中に先輩のマネして、カッコヨク靴を履こうとしてひっくり返って、ハデに道具を倒しちゃったことがあるんで……そのときのことかなって……」

「フフ、半分当たって、半分外れてる……」

「そうなのよ――倒れる寸前に靴を履こうとして、まどかのことを思い出してね。それで笑いそうになったのを堪えようとして――こうなっちゃったって」

 紀香さんは、笑うと微妙に鼻が膨らむ。そんな些細なことに気づけたのは、やっぱ、潤香先輩が、良くなった余裕からなのだ。

「それがね、不思議なの。潤香ったら、クラブがあんなふうになっちゃったことや、マリ先生が学校を辞めたこともみんな知っていたのよ」

「そうそう、わたしの顔を最初に見たときも『先生、次のお仕事はいかがですか?』って」

「潤香は、ひょっとして、意識不明の間に超能力がついたんじゃないかな……どうする母さん、テレビとか取材に来たら!?」

 お父さんが無邪気に言って、お母さんが突っこんだ。

「ちょっと不思議だけど、わたしたちが喋っていたことが、無意識のうちに潤香の頭に入ったのかもしれませんよ。そんなことが、たまにあるってお医者さんも言ってらしたもの」

「そうか、奇跡の少女の父にはなれんか」

「潤香はね、夢の中で何度も男の人が出てきて教えてくれたって……そうなのよね潤香」

 紀香さんが妹の顔を、イタズラっぽく見た。

「ほんとだってば……顔は分からないけど。乃木高の昔の制服を着ていた……」

「学校の玄関に飾ってある、旧制中学のころのやつですか?」

「……鋭いね。あそこ、昔から今までのが四種類もあるのに」

「あ……わたし、あれが一番好きだから」

 多分……それは、乃木坂さんだろうと思った。

「さあ、テレビ局も来ないなら、そろそろ行くよ。出張間に合わなくなるからな」

「いけない。まだなんの準備もしてないわよ。潤香の意識が戻ったって聞いてそのまま来ちゃったから」

「じゃ、母さん急ごう。飛行機に間に合わなくなる」

「あ、わたし、そこまで見送りに行くわ。みなさん、しばらく潤香のことよろしく」

 程よい挨拶を交わして、紀香さんとご両親は病室を出ていかれました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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鳴かぬなら 信長転生記 102『双ヶ岡に待ち構える』

2023-01-12 15:05:50 | ノベル2

ら 信長転生記

102『双ヶ岡に待ち構える』信長 

 

 

 丘に駆けあがると、すでに信信コンビは南を向いて轡を並べていた。

 

 取り巻きたちも、よく訓練されていて、丘の中央には孫子と毘沙門の旗印が翩翻と翻っている。

「遅れた分だけ、良い戦支度ではあるな」

「大山祇神社大宮司(おおやまづみじんじゃだいぐうじ)の息女・鶴姫の鎧ね、素敵よ」

 褒め殺すつもりか、その手にはのらんぞ。

「敵の規模は?」

「まだ見えん」

「情報はリュドミラからだ、さすがは二宮忠八の紙飛行機、敵の動きよりも数倍早い」

「早く飛び過ぎたのか、迷彩柄に窯変していたわ」

 見ると、一人だけ旧陸軍の軍装で緊張している忠八。学園の生徒たちは、乙女生徒会長を先頭に丘の下で鶴翼の陣を布いている。軍装はまちまちだが、統制はとれている。

 ん?

 謙信の背後の茂みに気配がしたかと思うと源義経が飛び出してきた、この扶桑で鎌倉期の転生者は初めて……と思ったら違った。

「なんで、こんなに早い!?」

「ヘッヘー、八艘飛びの鎧だぞ!」

 オオーーー((((⊙∀⊙))))!!

 丘の兵たちもいっせいに義経……の鎧を着た市の姿にどよめいた。

 赤糸縅大袖鎧。

 パッと見は大仰な大鎧に見えているが、札薄く、草摺も八間で胴丸の仕立てになっている。小柄な義経ならではで、壇ノ浦の八艘飛びは、この鎧で成し遂げたと言われているぞ。そして、俺の鶴姫鎧同様に古くから大山祇神社に奉納されていた名品で神意を被っていると言われる。くそ、敦子のやつ市の肩を持ちやがって!

「上総介(俺のこと)の着領は重要文化財だが、市のは国宝だな」

 信玄が止めを刺す。そう言えば、信玄の着領も派手な金小札朱糸縅大袖鎧だが、同じコンセプトで胴丸の仕立てになっている。

 まあいい、勝負は本番の戦だ。

 おおよその軍勢が出そろって、信玄が馬を前に進めた。

「リュドミラの知らせによると、織部が三国志の貴人を伴って逃げてくる。その追跡を口実に魏の王弟、曹素が大軍を擁して仕掛けてくるということだ。方々、これは、過ぐる元寇以来の国難になるやもしれぬ! 心して待ち受けよ!」

 オオオオオオオオオオオ!!

 丘全体が呼応したかのような勲しの声、大河ドラマなら、最終回前の大戦のノリになってきた!

 

「前方、境の森に騎馬! 突っ込んでくる!」

 

 吠えたのは武蔵。丘の杉の木に登り物見をしていたのだ。

 見敵必殺の武蔵、敵を見れば、総毛だつような殺気を放つ奴だが、それが無い。

 大軍の来襲を予見し、気は高まるものの、寂と静もる。学院も学園も士卒ともに徒に逸ることが無い。

 さすがは来たるべき再転生に夢だか運だかを賭ける者どもではある。

 数秒経った。

 

 ズサ

 

 杉の木から飛び降りるや、武蔵一人が丘を駆け下りた。

 抜け駆け……いや、あの剣術馬鹿、麓の学園生に大刀を預けるや、さらに足を速める。

 すると、境の森から一騎の馬が駆け抜けてきた。

 遠目にも明らかだ、馬の腹を蹴りながらやってくるのは織部を庇いながら見事に手綱を捌く曹茶姫だ!

 

 いち早く気づいた武蔵が懐かしさのあまり……いや、ちがう。

 

 茶姫の馬を見送るや、武蔵は腰の脇差を抜いて森を睨み据える。

 分かった、ほんの数騎だが追いかけてくる。

 森の際まで迫ってきた様子だが、追手は森から出ることはせず、そのままとって返した。

 

 武蔵の奴、脇差一本抜き放つだけで追手を睨み返してしまいおった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

 

 

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・82『幽霊さんの生き甲斐』

2023-01-12 07:33:11 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

82『幽霊さんの生き甲斐』 

 


「なんだい?」

「……潤香先輩のこと助けたの、乃木坂さんじゃないの!?」

 ただの閃きだったけど、図星のようだ、乃木坂さんはスカートのときと同じ反応をした。


「潤香君は君のようにはいかなかった。破れた血管を暫く固定しておくのが関の山。幽霊の応急治療はMRIでも見えない。あとは自然回復するのを待つだけだったんだけどね。立て続けに二回。二回目に切れたのは何故だかわかるかい?」

「……ソデのとこで平台に頭ぶつけたからじゃ……ないの?」

「それも原因の一つだけど直接的には、まどか君、君なんだよ」

「わ、わたし(# ゚Д゚#)!?」

「あの日、潤香君は屈んで靴を履こうとして君のことを思い出したんだ。君は、あの芝居の稽古中、ずっと潤香君の真似をやっていただろう?」

「え、うん……」


 わたしは、あるシーンを思い出した。キャンプに行く前の日に真由が靴を試すシーン。で、スタイル抜群で体の柔らかい先輩は、とてもカッコヨクやるわけ。
 わたしは何度やっても、オッサンが水虫の手入れしてるようにしかできなくて、このシーンになると、箱馬に腰掛けて、パクろうとして必死。一度など仰向けにひっくり返って道具のパネルを将棋倒しにして、怒られて、笑われて、大恥だった。


「そうさ、潤香君は靴を履こうとして、それを思い出したんだよ。ゆかしい潤香君は、たとえ本人が居ないとはいえ、その努力を笑ってはいけないと堪えたんだよ。屈み込んだ姿勢で笑いを堪えたものだから、瞬間的に血圧が高くなり、応急処置だった脳の血管が破れてしまった」

「そんな……わたしが原因だったなんて……(-_-;)」

「大丈夫だよ。潤香君は間もなく意識も回復して、もとの元気な潤香君に戻る。そうでなきゃ君に言える訳がないじゃないか」

「ほんと!? ほんとに潤香先輩は良くなるの!?」

「幽霊は嘘は言わないよ。なあ、みんな」


 乃木坂さんは、椅子たちに呼びかけた……椅子の人たちが答えたような気がした。


「僕は、空襲で死んだあの子が自分の姿をとりもどし、そして無事に往くのを、見届けるだけのつもりだった。あの子が自分の姿をとりもどしたのが去年の十一月」

「それって……」

「そう、潤香君が階段から転げ落ちた前の夜。でも、その時は、それだけで済ますつもりだった」

「それがどうして……」

「だって、そのあと立て続けだったろう。潤香君はまた頭打ってしまうし、意識不明になってしまうし。まさか君が代役やるなんて思いもしなかったし。そして例の火事……」

「あれは……」

「幽霊でも、火事を防ぐ力はないよ。垂れた電線をしばらく持ち上げて発火を遅らせるのが精一杯。だから、みんなが倉庫を出たところで力尽きて手を放した……これで、みんなを助けられたと思ったら、どこかの誰かさんが火が出てからウロウロ入ってくるんだもの」

「あ、あのことも……」

「助けてあげたかったんだけど、空襲で死んだもんだから、火が苦手でね……しかし、大久保君は大した子だよ。あの火の中を飛び込んでくるんだもの。並の愛情じゃできないことだよ」

「それは……感謝してます」

「感謝……だけ?」

 意地悪な幽霊さんだ。

「大久保君も、まだ未熟だ。大切に育んでいきたまえ。それから貴崎さんは辞めちゃうし、演劇部は解散……すると思ったら、起死回生のジャンケン……ポン。そして君達三人組が、事も有ろうに、ここで稽古を始めちゃった」

「ごめんなさい、無断で」

「いいんだよ。幽霊が言ったら可笑しいけど、僕の生き甲斐になってきた」

「ハハ、幽霊さんの生き甲斐」

「と、いうことで、宜しく頼むよ!」


 そこで、軽いめまい目眩がして、座り込んでしまった。


「まどか、大丈夫?」「保健室行こうか?」

 里沙と夏鈴が覗きこんできた……そこは、中庭のベンチ。

「あ……もう大丈夫。わたしずっとここで?」

「ずっともなにも、立ち上がったと思ったら、バタンとベンチに座り込むんだもん」

「あ、もう授業始まっちゃう!」

「なに言ってんのよ、たった今座り込んだとこじゃないよさ」

「何分ぐらい、こうしてたの?」

「ほんの二三秒だよ」

 そうなんだ……妙に納得するまどかでありました。

「元気だったら、明日のことだけどさ……」

 風の吹き込まない中庭は、冬とは思えない暖かさ……かすかに聞こえてきました。
『埴生の宿』の一番。

 のどかなりや 春の空 花はあるじ 鳥は友……♪

 その友の小鳥のさえずりのようなお喋りの中、それは切れ切れにフェードアウトしていきました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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宇宙戦艦三笠19[空母遼寧の船霊ウレシコワ・1]

2023-01-11 18:23:28 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

19[空母遼寧の船霊ウレシコワ・1]   

 

 

 レベルマックスのワープが終わると後方に中国の航空母艦遼寧が感知できた。

 こちらがワープ完了直後の静止状態なので、微速で三笠の後を追っている形になっている。

「遼寧に連絡――救助の必要有や否や?――」

 副長の樟葉が、俺が言い終わる頃には連絡をし終えていた。ワープの間に見た夢のせいか、二人の呼吸はとても合ってきた。

 遼寧は、元ロシアの航空母艦だったので、見かけはいかつく堂々としている。ブリッジを中心とする上部構造物は、クリンゴンかガミラスのそれを思わせるほどにマガマガしい対空、対艦兵器が各種のむき出しのレーダーと共に取り囲んでいて、いかにも頼もしい。艦首はバルバスバウ(球状艦首)とよくバランスの取れたジャンプ台式の滑走甲板。アメリカの空母に比べると小ぶりではあるが、見かけは立派な航空母艦だ。

 それが、時速300キロという、宇宙船としては静止しているのに等しい鈍足で漂流している。

「修一、矛盾する返事が複数きたわよ」

 樟葉が見せたタブレットには8通の返事があった。「本艦に異常無し、お気遣い無用」という木で鼻を括ったようなものから、「救援を乞う。本艦は操舵不能、漂流しつつあり」という悲壮なものまであった。

「放っておこうよ」

 トシはニベもなかったが、美奈穂もクレアも、様子を見に行った方がいいという顔をしていた。

―― ただいまより貴艦に接舷する ――

 そう返事をすると、これに反対する反応は返ってこなかった。

 遼寧には樟葉とクレアが向かった。樟葉は口数は少ないが冷静な判断ができる。クレアの分析能力は三笠のマザーコンピューターの次に優秀だというミカさんの判断だ。


 遼寧の艦内は荒れていた。

 三笠と違ってクルーは多いようで、数百の人の気配がした。

「ようこそ、艦内をまとめている紅紀文です。艦内の序列では3位ですが、とりあえず艦長代理と思ってください」

「船は停止同然のようですが、機関に故障でもあったんですか(。í _ ì。)?」

 クレアが、白々しい心配顔で聞いた。

 アナライザーを兼ねているクレアには分かっていた。この遼寧はウクライナから、スクラップとして中国が買ったもので、エンジンさえ付いていなかった。

 空母は、飛行機を発進させるため、30ノット以上の速度が必要で、元々は強力なガスタービンエンジンが4基ついていたが、スクラップと言うことで、エンジンは外されていたのだ。中国はやむなく商船用の蒸気タービンエンジン4基を付けたが、速度は20ノットしか出なかった。20ノットでは、対空、対艦兵器を満載した戦闘機を発艦させることができなかった。その他電子部品にも不備があり、日本製の民生品で間に合わせていて、まあ、実物大の航空母艦の模型に等しかった。

「もおおお、やって、らんないのよね(;`O´)!」

 ウサ耳をブンブンさせて、バニーガールコスのロシア娘が割り込んできた。

「遼寧の船霊さまよ」

 クレアが樟葉に耳打ちした。

「あ、ウレシコワ……!」

 紅紀文が慌てた。

「ズドラーストヴィーチェ」

 おざなりな挨拶だけすると、ウレシコワは紅紀文の横顔五センチまで顔を寄せて息巻いた。

「だいたいね、あたしは香港でカジノになる予定だったのよ! だからウクライナ出るころから覚悟決めて、こんなナリして頑張ろうと決心してきたのにぃ、今になって空母に戻るなんてありえないわよっ!」

「いや、だから艦内委員会にも諮って、今後のことは……」

「それに、よりにもよって、日本の三笠に救援頼むなんてどういう神経してんの!? ニェット! あたし、絶対やだからね!」

 なるほど、日本海海戦でボロ負けしたロシアとしては、日本の救援は受けにくいだろう。まして、こちらは当時の連合艦隊旗艦の三笠だ。

 船霊のウレシコワを挟んで、遼寧の代表者たちが集まって、もめはじめた。

 ウレシコワは、特別に背が高いわけではないが、網タイツに5センチのヒールを履いて40センチはあろうかというウサ耳を付けている。数十人の幹部乗員に取り巻かれても、耳がピョンピョン動いて、コミカルに目立つ(^_^;)。

「ああ、これはまとまらないわねぇ……」


 結局、盛大にため息をついただけで、樟葉とクレアはそのまま三笠に帰ってきた。


「あれ……でも遼寧、動き出してるぜ」

 二人が三笠に帰ると、トシがメインスクリーンの遼寧を指さした。

「最低動けるようにはしてやれって、ミカさんのお願いでしたから」

 クレアが、きまり悪そうに言った……。


☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊

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