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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・94『実話  茶屋の東窓』

2021-08-19 10:17:29 | ライトノベルセレクト

やく物語・94

『実話  茶屋の東窓』    

 

 

 ジュウソウ峠だよね。

 

 峠の看板を見て、あたしは自信満々に言う。

 お風呂のスノコに引っかかったチカコをもう一度お風呂に入れてやった夜。再びお地蔵イコカを使って高安に来ている。

 ネットで『難解大阪の地名』を調べていたので、自信たっぷりだ。

 高安に行くことになったわたしは、チカコに内緒で調べていたのだ。

 玉祖神社を、最初は「たまそじんじゃ」だって思ってたもんね(^_^;)

 

 調べると、いっぱいある。

 

 放出(はなてん) 喜連瓜破(きれうりわり) 五百住(いおずみ) 内代(うちんだい) 住道(すみのどう)

 交野(かたの)  私市(きさいち)  御幣島(みてじま)

 

 そして、十三(じゅうそう)

 

 梅田から阪急電車に電車に乗って、淀川を渡った駅が十三なんだ。

 調べた時は「へーー!?」「ホーー!?」って感動したので頭に焼き付いている。

 だから、自信をもって「じゅうそう峠だよね」とポーカーフェイスで答えた。

「ううん、十三(じゅうさん)峠だよ」

「え、だって……(;'∀')」

「ふふ、やくもの知識は、まだまだ初級よ」

 ク……ジト目で笑うな!

「ほら、ここから下が神立……読めるかしら」

 ニクソイままの目で地面に字を書く。

「カミダテ……なんて単純な読み方じゃないんだよね……ジンリュウ?」

「フ……」

 鼻で笑われた。

「コウダチって読むのよ」

「チカコ、ネットで調べた?」

「やくもじゃあるまいし」

 くそ、知ってるんだ。

「さ、ここから茶屋の辻。空気が変わるわよ」

 

 ホワ~ン

 

 変わったのは空気だけではない。

 普通の家が数軒軒を並べていただけの坂道に、時代劇に出てきそうな茶店が十軒以上現れた。

 なるほど茶屋の辻だ。

「ちょっと、のいてんか」

 ビックリして振り返ると、馬に荷車を引かせたオジサンが怖い顔をしている。

「あ、ごめんなさい!」

 慌てて道を譲ると、オジサンは変な顔をしながら通り過ぎていく。

 変なのはオジサンの方、チョンマゲに荷車も大八車みたいだし。

「1300年前だからね。東窓の彼女のその後を見に来てるのよ」

「え、あ、じゃ、この格好じゃ」

 パジャマのまま……と思ったら、ちゃんと着物を着ている。

「見かけは合わせてあるから。でも、言葉は令和のまんまだから」

 あ、それで、さっきのオジサンは変な顔したんだ。

 

 茶屋の中を見通せる薮に隠れる。

 

 さっきのオジサンが、荷車ごと馬を停めて茶屋に入って来る。

「ハナちゃん、甘酒と団子」

「はい! ただいま(o^―^o)」

「オレ、お茶と団子」

「こっち、甘酒」

「こっち、お勘定」

「はーい、ただ今あ! はい、三十文もらいます。お団子置いとくね(^▽^)/、甘酒はツケたとこやから、ちょっと待っててねえ(^▽^)」

「ええよええよ、ハナちゃん見てるだけで元気出るさかいなあ」

「もう、ハナ見代とったろかしら」

 奥で、お上さんが軽口を言う。

 

「なんだか、イキイキしてるよ」

「これが答えだと思いなさい」

「え……どういうこと?」

 業平さんに大口開けてご飯を食べているところを見られて、ガッカリしてるはずなのに。

「もうちょっと見ていなさい」

「うん……」

 

「はい、甘酒おまち」

「え、ハナちゃん、ちゃうんかい?」

 甘酒を持ってきたのはお上さんだ。

「朝から働きづめやさかい、ちょっと休憩いかした」

「ああ、まんの悪いこっちゃ」

「せやけど、ハナちゃん、元気になったなあ」

「さいな、大きな声では言われへんけど……」

「小さな声では聞こえまへんけど」

 大阪弁のやりとりは面白い、奥で休憩しているハナちゃんもクスリと笑った。

「アハハ、ハナちゃん笑ろたな」

「いや、ほんま。業平さんに見初められてからは、あてもハナも正直気ぃ重うて……」

「あれやろ、東の窓からハナちゃん、メシ食うてるとこ見られて……」

「いや、もう苦肉の策やってんわ」

「え、ほんならやっぱり?」

「はいな。業平はん言うたら、都のどえらい公達どっしゃろ。桓武天皇はんのお孫はん。畏れ多いけど、こんなお方に、たとえ通われて、都に連れていかれたりしたら、ええ暮らしはでけるやろけど、窮屈で死んでしまうわ」

「なるほどなあ」

「で、オバハン、なんか知恵めぐらしたんか?」

「それが、夢に俊徳丸が現れてなア」

「え、あの山畑長者の?」

「はいな、伝説の俊徳丸はん」

「え、ワシの嫁にくれとか?」

「てんご言うてな、とうに亡くなった伝説のヒーローや」

「その伝説が、どない言うたんや?」

 店中どころか、向こう三軒両隣の客まで集まり出した。

「それがな『東の窓を開けて、子どものころみたいにご飯食べなさい。七日もやったら効果が出てくる』言わはってな、ほんで、ちょうど七日やったとこで、業平さん諦めてくれはったいうわけやねんわ」

「そうかいな!」

「せやったんか!」

「なるほどなあ!」

 オジサンたちは感心しきりだ。

 で、オジサンたちは、奥で休憩しているハナちゃんに目をやる。

 

 ちょうどハナちゃんは、まかないご飯を食べているところだ。

 

 さて、ハナちゃんが、どんな食べ方をしていたか?

 そりゃあ、普通の食べ方だよ。

 左手にお茶碗持って右手にお箸。

 けして、胡座で大口開けてバカバカって食べ方じゃない。お姫さまって感じでもないけど、そこらへんの女子が普通にご飯食べてますって感じ。

 つまりね、東窓の時は演技だったんだよ。

 

 チカコが言ったよ。

 

「たぶん、業平さんも分かってたと思う。業平さんは、嫌の者を無理やりって人じゃなかったと思うよ……」

 

 チカコと二人、令和の我が家に戻ると、朝までゆっくり眠れました。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

 

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ライトノベルベスト『ちょっとした躓き・3』

2021-08-19 06:51:12 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ちょっとした躓き(つまずき)・3』 

 


 交番を出ようとしたら、天海祐希似の女性警官に呼び止められた。

「天海祐希って、名前気に入ってるからね」
「それも、あたしが?」
「そう、なんだか宮沢って人が来て交代してくれそうな気がしてきた」
「あ、でも不可抗力だし、あたしの思いこみだから……」
「あ、それから一言。わたしは女性警官じゃなく、婦人警官だから。そこんとこ、よろしく!」

 あたしは、ハイテンションな天海祐希さんを、持て余して、通りに出た。

 まったく、いつもの通りだった(あ、オヤジギャグじゃないから)。ただ、通行人が、あたしを避けないで、あたしの体を素通りしていくのには、まいった。

 まるで、3Dのゲームの中を歩いているような……いや、それ以下。ゲームの中なら、アバターが通れば避けてくれるもんね。それでも素通りされるのは気味が悪いので、気を遣って歩いた。

 大通りに出ると、ゲンチャや自動車まで素通りしていく。あたしは、日頃、どれだけお互いが距離や間合いをとって行動しているか、文字通り体を張って体験した。

 通りを渡って、コンビニに入ってみた。

 妙なことに、コンビニにのドアは、手で開けないと開かなかった。何気ないことなんだけど、とても感動した。

 レジのオネエサンのところへ行った。森三中の大島さんみたいな体型で、いつもプニプニのお腹に触ってみたい衝動にかられていた。

 今日は、人間は素通しなんで、思い切って触ってみた。

 やっぱり素通りだった。でも胸のあたりに手をあげると、なんだか冷たい……いや、寂しいところに届いた。佐藤という名札を付けたオネエサンは、わたしと体が重なったお客さんの相手をニコニコしながらやっていた。でも、この笑顔の下には、こんな冷たく寂しい心を隠していたんだ。

 あたしは、この佐藤さんの触れてはいけないところに手をやったようで、慌てて手を引っ込めた。

 いつものように、雑誌の立ち読みでもしようかと、手を伸ばすと、手に取れなかった。マガジンラックごと素通りになってしまう。他の商品にも手を出したが同じことだった。

 そのとき、AKBのマユユをそのまま小型にしたような小一くらいの女の子が、お母さんと入ってきた。あたしは、この子と時々、この店で会う。たいてい目が合って手を振るとマユユそっくりな笑顔で手を振り返してくれる。この子の側を通ると日向くさい子どもの匂いがするのも好きだ。

 そこで、あたしは、その子の目の高さに屈んで、ちょうど頭が重なるようにすり抜けた。

 ショックだった。

 瞬間、脳みそが重なり、この子のあたしへの気持ちをモロ感じてしまった。

 いい高校生が、昼日中からコンビニでスマホばっか。でも、あたしが来ると気づいちゃうのよね。ああ、やだやだ、こんないかれたオネーチャン。でも、とりあえずマユユの真似してニコって手を振ると、それでおしまい。それ以上は関わってこないから、このオネーチャン見たら、取りあえずやっとくの。

 くそ、カワイイ顔して、そんなこと考えてたのか……!

 ムナクソが悪いので、あたしはコンビニの外に出た。

 で、ここまでスマホを見ていないことに初めて気が付いた。急いで気分直しにスマホをだしたけど、圏外だった!

 あり得ない、こんな街中で、いつもの下校時間、いつものコンビニ前で圏外だなんて!

 気づくと、道の向こう側に友だちの朱美がいた。声を出しても通じないのは分かっているから、スマホで呼び出した……でも圏外!

 信号が変わったので、朱美は、こっちに近づいてきた。

「……美恵、どうして通じないかなあ」

 嬉しい、持つべきものは友だち。あたしのこと心配してくれてる!
 朱美の心は、近づいただけで分かった。あたしのことを思ってくれている。
 でも……朱美の中のあたしの姿は、プリクラのマチウケだった。プリクラ特有の影のない、変な美白のあたしだった。いつもなら気にもしないんだけど、今はリアルのあたしを思い出してほしかった。

「あ、麗羅。あんた通じるんだ。ううん、なんでもない……」

 とたんに、朱美の心からあたしが消えて、麗羅のことだけになってしまった。
 まるで、テレビのリモコン押したみたいに、いとも簡単に。

 ま、こんなもんかと思い直し、我が家に向かった。

 トキワレジデンスというアパートを曲がって三件目が家…………が無かった。
 

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鳴かぬなら 信長転生記 25『敦子と今川焼』

2021-08-18 17:17:08 | ノベル2

ら 信長転生記

25『敦子と今川焼』  

 

 

 おい、ブタになるぞ。

 

 三つ目い手を出そうとしたら、頭の上から声がした。

 ああ……?

 首をひねると、斜めになった敦子の顔が見える。

「ばか、おまえの首が斜めなんじゃろが」

 そうか、ソファーに浅く座ったまま今川焼を食べていたら、いつの間にかずり落ちてしまったんだな。

「生きていたころから行儀の悪いやつだったが、美少女になってもかわらんなあ」

「うるさい、我が家で今川焼を食うのに行儀も何もない」

「そうだろうがな、今食べたのは六つ目だぞ」

「え……?」

 のっそり上半身を起こしてテーブルの上を見ると、10個入の箱には三つしか今川焼が残っていない。

「で、あるか」

「あはは、嘘じゃ。わらわが三つ食べたから、おぬしが食べたのは四つじゃ」

「では、食べる」

「甘いもの好きは、こっちに来ても変わらんのう」

「言うな、買ってきたのは敦子、おまえだぞ」

「ああ、転生してから一か月になるしな、たまには話すのもいいかと」

「その割には、口数が少ないな」

「お前がずっと考え事をしておるからな……食べた今川焼の数もわからんくらいな」

「そうか……」

 手にした今川焼が停まってしまう。

「いっちゃんのことが気になるのであろう?」

「そういうわけではない」

 ハム

「なにをする!」

「手に持ったままじゃからのう、今川焼も生殺しでは可哀想じゃろうが」

「もう好きにしろ」

「市はのう、学校で孤立しておる。信長の妹だけあってケンカがうまい。ただ腕力だけでは無くて、頭も切れるし口もたつ。学園で、市に敵う者はおらん」

「そうなのか?」

「タイプは違うが、パヴリィチェンコと同じじゃよ」

「あの鉄砲女とか」

「ああ、市も、一途に思い詰めておることがある」

「なにを?」

「察してやれ」

「はっきり言わんやつは嫌いだ」

「信長、おまえみたいにハッキリ言う奴のほうが、世の中には少ないんだ。分かってやらんと、また本能寺の無限ループになるぞ」

「次は、光秀を家臣にすることはせん」

「それはダメじゃ。信長と光秀の主従関係はデフォルトなんじゃぞ。ここを変えては、このゲームは成立せん」

「……どうでもよいが、今日の敦子は、喋り方が偉そうだぞ」

「信長に言われとうはないのう。わしは神さまじゃから、基本は偉いのじゃぞ」

「だったら、その女子高生のナリはよせ」

「これもデフォルトじゃ……」

 言葉の継ぎようが無くなる……自然に今川焼に手が伸びるが、箱の中は空っぽになっている。

「茶でも淹れるか……」

 敦子に淹れさせてもいいのだが自分でやる。

 転生してから、家事をやることが平気になってきた。まあ、ガキの頃に平手のジイに一通りは仕込まれたし、町や村のワッパどもと遊んでいたころは、何ごとも自分でやったしな。

 スーーーーー

 茶を淹れていると、目の前を白いものが、音もなく横切る。

 式神か……敦子は神さまだ、式神くらい飛ばしても不思議ではない……リビングの隅で力尽きたそれは……紙飛行機?

「それを極めれば、なにかが開けるぞ」

「呪をかけたのか?」

「いっちゃんが、いま、それに出会った。帰ったら聞いてやれ。茶は、いま頂いた」

 それだけ言うと、敦子はソファーに尻の窪みだけを残して消えてしまった。

 手元を見ると、二杯淹れたはずの茶碗の一つが空になっていた。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  パヴリィチェンコ    転生学園の狙撃手
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誤訳怪訳日本の神話・55『ウミサチ・ヤマサチ』

2021-08-18 09:32:09 | 評論

訳日本の神話・55
『ウミサチ・ヤマサチ』  

 

 

 ニニギとサクヤの間には三人の子どもが生まれました。

 

 ウミサチ  ホスセリ  ヤマサチ

 

 結論から言って、これから活躍するのはウミサチ・ヤマサチの二人で、次男のホスセリは出てきません。

 以前にも、こういうことがありましたね。

 イザナギが黄泉比良坂を千曳の大岩で蓋をして、からくもイザナミに勝利して帰りました。

「ああ、汚ったねえ、あちこち穢れてしまった!」

 そう言って、顔を洗った時に生まれた神も三人でした。

 

 アマテラス  ツクヨミ  スサノオ

 

 アマテラスとスサノオは、その後古事記前半の主役になっていきます。

 ところが、ツクヨミに関しては、その後の記述がありません。

 

 人間というのは3という数字に安定や落ち着きを感じるもののようです。

 オリンピックのメダルは金・銀・銅の三つです。

 ギリシアやローマの古典世界で描かれた美の女神は三人でワンセットの三美神。

 なんちゃら御三家や三人娘

 サザエさんは三人姉弟

 三番叟  三代実録  背番号3  三つ巴  三菱  三々五々  単三電池  3ストライク三振  三審制

 ボキャ貧のわたしでも、ゾロゾロ出てきます。

 

 カメラの三脚がありますね。

 三脚は三本足だから、たいていのデコボコでも安定しています。二脚では立ちませんし、四脚ではおさまりが悪いですね。

 鼎(かなえ)という漢字があります。

 足が三本ある器(うつわ)のことですね。古代においては、神にささげる酒や供物の入れ物でありました。

 単に座りがいいというだけではなく、三という数字に神聖さを感じたのでしょう。

 ですから、イザナギから生まれた神や、サクヤの産んだ子が三人というのは、その神聖さを現すための数字でありましょう。

 

 で、やっと主題のウミサチ・ヤマサチであります(^_^;)

 

 成長したウミサチは毎日海に魚を釣りに行きます。ヤマサチは弓矢を携えて山に獲物を求めます。

 個人的な嗜好ですが、わたしは、山の上から下界を眺めるよりは、砂浜に座って海を眺めている方が好きです。

 吉田茂が政界を引退して、袴姿で湘南の海岸を散歩している景色のいい写真があります。坂本龍馬のブロンズも桂浜の海岸がよく似合います。

 好きなアニメに『ラブライブサンシャイン!!』がありますが、沼津を舞台にしていて、海のシーンが多く出てきます。山や丘の上では、あの前向きな少女たちの希望は出てきません。

 ウミサチ・ヤマサチというのは、弥生時代、ひょっとしたら血の中の記憶として残っていた縄文時代の日本人の有りようが反映されているのかもしれません。

 縄文・弥生の昔は、人々の多くは海沿いに住み、海沿いほど多くはない人たちが山に住んでいたと思います。

 海の民と山の民は時々交易していたでしょう。

 人の生活に絶対必要な塩は海でしか取れません。

 寒さをしのぐ毛皮や石器の原料は山の方が多くとれたかもしれませんが、塩ほどの必需品でもありません。

 収獲量も山よりも海の方が多かったでしょう。

 縄文の末ごろに起こった農耕も、水利の問題から海沿いの平地や扇状地で起こりました。

 

 海沿いの方が山よりも、いろいろな点で優位に立っていたのではないかと想像できます。

 

 その優位さが、古事記では、こう現れました。

「よう、ウミサチ」

「なんだ、ヤマサチ?」

「毎日山で狩りやったり木の実を拾ったりってのも退屈でさあ……いっかい、持ち物交換して、オレにも釣りさせてくれねーかなあ」

「え、あ、まあ弟の頼みだ。聞いてやらないこともないが、釣り針失くさないでくれよな」

「ああ、大丈夫。いっかいやったら納得するってもんだ!」

「そうか、じゃあ、まあ、がんばれ」

「お、おう! でっかい魚釣って来るぜ!」

 

 こうやって、得物を取り換えてウミサチは山に、ヤマサチは海に向かいました……。

 

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ライトノベルベスト『ちょっとした躓き・2』

2021-08-18 07:04:24 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ちょっとした躓き(つまずき)・2』 




 交番に着くと、天海祐希みたいな女性警官が机に座っていて、あたしをジロリと睨んだ。

「また、こんなの拾ってきたの?」

 なんだか、犬やネコを拾ってきたように言われて、最初から感じ悪いよ。

「児童相談所かとも思ったんですけど、あそこも手がいっぱいでしょ。それに高校の制服着てるんで、うちの担当だと判断しました」
「ほっとくというのが、正しい判断だとは思わなかった?」
「そりゃ、ほっときゃ十分もしないで、気がついたでしょうけど、それじゃ、この子は、ただちょっと躓いただけで終わっちゃいますからね」
「それで、いいのよ。あっちの世界のグータラ引き受けてちゃきりがないわよ」
「でも、あの窪みがわざわざ引っかけたんですよ。なんか意味ありげな気もして。じゃ、パトロールの途中なんで、あとお願いします」
「こら、上戸!」

 天海祐希の女性警官が立ち上がったが、上戸さんはさっさと行っちゃった……え、上戸?

「そう、上戸彩巡査。どうも、今イチね、今の若いのは」
「ほんとに上戸彩って、言うんですか……ってか、あたしなんにも聞いてませんけど」
「あんたが付けちゃったのよ。とりあえず調書とるから座って」

 座りながら気づいた、天海祐希さん似の制服がちょっとちがう。

 ネクタイがエンジだし、帽子や階級章の位置も違う。

「わたしは平成元年から、ここにいるから制服が違うの」
「あたし、なにも……」
「ああ、一からやんなきゃならないのね……邪魔くさいなあ」

 天海祐希さん似は、ボールペンで頭を掻いた。

「すみません」
「心がこもってないけど、まあいいや。ここはね、あの世とこの世の間の世界なの。昔は冥界とかいって、死にきれない人間がしばらくいる世界だったけど、いまは、あんたみたいに生きてるか死んでるか分からない奴がくるところ」
「あたし、死にかけてるんですか!?」
「そーーだよ。お愛想と、そのときの都合だけで生きてたでしょ。やることって、スマホばっかで……今の笑うとこだからね、スマホばかりとスマホバカ掛けてんの。ほら、ギャグなんだから笑う!」
「あ、アハハ……」
「で、ここは、地獄も天国も、現実の世界からも拒否されてんの。まあ、掃きだめね。放りこんどきゃ、なんとかなるだろうって、まあ、三つの世界の責任のナスクリアイでできたようなとこ……まあ、あんたは口で言っても分からないタイプだからね……」
「そんなことないです」
「あるある。ま、やっぱ、実感するところから始めようか。いったん家まで帰ってみて、少しは分かるから」
「あの、調書とかは?」
「もう出来てる。うしろ」

 振り返ると、スチール机の上でボールペンが、最後の行を書いて、わたしに向かってきた。

「ワ!」
「署名……サインよ。こればかりは自分で書かなきゃね」

 ボールペンは、あたしを促すように、空中でクイックイッとした。

「……はい、書きました」

 清水美恵と書いた、それを渡した。

「バカ、署名したらボインだろうが」
「え、ボイン!?」

 思わず、有るか無きかの胸を押さえた。天海祐希似さん似がバインダーで、机をバシーンと叩いた。下手なパーカッションよりいい音がした。

「指のハンコ」
「え、指とか切ってやるんですか?」
「バカタレ、印肉だよ。ほれ」

 円盤形の印肉が飛んできて、フタが開いた。一瞬どの指か悩んだ。

「ほんと、手やけるね。拇印って言ったら親指って決まってるだろう!」

 あたしの、ちょっとした躓きは、案外大変そうな気がしてきた……。 

 

 

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クレルモンの風・15『レイア姫と人間オセロ』

2021-08-18 06:53:59 | 真夏ダイアリー

・15

『レイア姫と人間オセロ』         




 運命の日が、レイア姫と共にやってきた(^_^;)!

 これだけじゃ、なんのことか分からない。

 同じ寮の留学生、アラブの富豪の息子ハッサンに求婚され(中略) わたしは、ハッサンとの結婚をかけ、人間をオセロのコマに見立てて勝負することになった。

 え、あたしが、誰かとハッサンの取り合い? 

 ちがう、ちがう! ちがうう(꒪ꇴ꒪|||)⚡!!

 あたしが、ハッサンのプロポーズを断るための、ハッサンとの決闘なの、決闘!

 ハッサンは、親の命令で国に帰ることになった。で、捨て身で、あたしにプロポーズしたわけ。

 でも、あたしはゴメンなの!

 考えてもみてよ。

 ハッサンには、すでに国に国王が認めた許嫁がいて、あたしは第二夫人。でもって、ハッサンの嫁さんは、これからも増える。だいたいハッサンクラスの王族で十人くらいはお嫁さんがいるわけ。ハッサンはいい人だけど(他がひどいということもあるんだけど)そーいう対象じゃないの。

 ハッサンは、苦しみながらも、あたしのキャンセルを受け入れてくれた。

 こないだ、モンジュゼ公園での誘拐事件に巻き込まれたときも、まっさきに、ハッサンは病院に駆けつけてくれた。

 だから、ハッサンの歓送会は盛大にやってやりたい。で、お気軽に『人間オセロ』なんて考え出したんだけど、これが大誤算。

 ハッサンの国では、大々的な賭け事(オセロが賭け事?)は決闘と同じで、大事なものを賭けなければならない。

 ハッサンは、自分の別荘を。あたしは負けたら、ハッサンのお嫁さん(何度も言うけど、第二夫人)にならなきゃならない。

 で、アグネスが秘密兵器をくれた。

 それが、レイア姫のパンツ。ここ一番の勝負の時は、これが一番なんだって。むろん新品よ。
 アグネスのお姉さんのアリスの伝授らしい。
 普段の運気向上の時は、アミダラ女王。ここ一番のときはレイア姫なんだ!

 その新品のおパンツの感触を肌に感じながら、あたしは勝負に臨んだ。

 会場は大学の玄関ホ-ル。床が白黒のチェックになっていて、チェスをやるのにもってこい。
 で、チェスの派生系であるオセロもできる。ルールがチェスより簡単で、学生みんなが楽しめる。
 我ながら、ナイスアイデア……掛け物が無ければね。
 コマは、ミシュランから借りたイベント用の白黒の大きな帽子を被った64人の学生たち。

 オセロは、勝負が早いので、五本勝負。

 最初の二回は、あたしの勝ち。なんたって、日本のゲームだし、子どもの頃からやり慣れている。

 しかし、さすがにアラブの秀才。その二回で、あたしのウチ癖を覚えられてしまい、三回、四回は、ハッサンに取られてしまった。

 そして、運命の五回目!

 一手一手打つ間が長くなった。

 予想はしていたが、ハッサンの学習能力は、すごく高い。感じとしては十手ぐらい先まで読まれている気がする。

「……悪いユウコ、ゆうべオセロのゲームソフト、ダウンロ-ドして練習させちまった」

 シュルツが、こっそりポーカーフェイスで呟く。

 ハッサンの一生懸命さが、あたしへの想いだと思うと、打つのも切ない。

 そして、それは起こった。

 あたしが角をとって、形勢逆転。コマが同数になった!

 あたしは、この一手を打つのに十分もかかった。コマの学生達は、くたびれないように椅子を用意し、中には軽食を用意している者もいる。

 結構広いホールなんだけど、100人近い学生の熱気が籠ってムシムシしてきた。

「風通し悪い……」

「玄関開けよう……」

 誰かが玄関を開けるのとイタリアのアルベルトがハンバーガーを広げるのがいっしょだった。

 ワンワンワン!

 ウワアア! キャアアア! 

 一匹のドーベルマンが飛び込んできて、アルベルトのハンバーガーをふんだくろうとした。アルベルトは逃げる、ドーベルマンは追いかける。会場はハチの巣をつついたような有り様になった。

「ごめん、ごめん、これドゴール、こんなとこで暴れちゃだめでしょ!」

「ちょ、ドゴール!」

「あ、朝ごはんやるの忘れてた!」

 事務のベレニスのオバチャンが掴まえて、やっと騒ぎが収まった。

 ドゴールはドーベルマンにしては大人しいやつなんだけど、ベレニスが朝ごはんあげるの忘れて、腹ペコだったんだ。

「みんなごめんね、今日の勝負にウキウキしちゃって、ドゴールのこと忘れちゃって。さ、ドゴールはこっち!」

 ワンワン

 飼い主のベレニスに引かれ、戦利品のハンバーガーをくわえて行ってしまった。

「勝負は、ここまでだな!」

 副学長のカミーユ先生が宣言した。

「二人とも、うちの大学の名に恥じない名勝負をやってくれた。ドゴールの闖入で、コマもバラバラ、集中力も切れただろう。潮時だな」
「でも、先生……」
 アルベルトが、なにか言いかけた。
「すまん、もうすぐ清掃業者も入ってくるんでな。これにて散会」

 カミーユ先生が、拍手をすると、みんながそれに習い、ギャラリーを含め全員のクラップハンドオベーションになった。

 これは、カミーユ先生を始めとする、大人の仕業だと、みんなは思った。

 でも、わたしとアグネスは密かにレイア姫に感謝。

 で、結論。

 ハッサンは、求婚を取り下げた。

 でも、あたしも、なにもしないわけにはいかない。シュルツとエロイが仲介案を出した。

「ユウコが、一か月ハッサンの別荘でバカンスを楽しむ。その間、良き友だちとして、ハッサンとの友情を深めてくれたまえ」

 この外交折衝で話が決まった。一か月も休めば大学が心配だったが、ハッサンが言った。

「インシャラー(神の御心のままに)!」

 で、アグネスがつづいた。

「うち、ユウコの付属品やから、いっしょについていくわ!」

 二人とも、あたしってか、日本人の弱さをよく知っている……。

 かくして、あたしは、しばしクレルモンの風からは離れることになった……。

 『クレルモンの風・第一部』 完 

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せやさかい・234『寝る前に水を飲みに行く』

2021-08-17 08:47:14 | ノベル

・234

『寝る前に水を飲みに行く』さくら     

 

 

 もう半年になる。

 

 なにが半年かというと、留美ちゃんがいっしょに暮らすようになって。

 留美ちゃんの苗字『榊原』を書き加えた表札も、山門の古色に馴染んできた。

 コロナがずっと続いてることで、留美ちゃんが家に居てる時間も長くなって、並みの一年を半年で過ごした感じ。

 詩(ことは)ちゃんは、うちのことは「さくら」て呼び捨て。

 留美ちゃのことは「留美ちゃん」と呼ぶ。

 最初は「榊原さん」やったから、かなりの進歩。

 

「うちも、ここに来たころは『さくらちゃん』やった」

「え、そうなんだ。昔から呼び捨てだと思ってた」

「従姉妹っちゅうのは、半分他人みたいなもんやさかいねえ」

「そうなの?」

「うん、異性の従兄妹同士やったら結婚かてできるからねえ」

「フフ(* ´艸`)」

 お布団を目の下まで引き上げて笑う留美ちゃん。

「どないしたん?」

「テイ兄さんとさくらちゃんが結婚するの想像した」

「それはありえへん!」

 変態坊主は願い下げです!

「いや、まあ、そういう距離やいうことです」

「そうね……よいしょっと」

 話が終わると、いったん起き上がる留美ちゃん。

 小さいころからの習慣で、寝る前はトイレにいく留美ちゃん。

 いっしょに住むようになったころは、嬉しいから連れションもしたけど、今はせえへん。

 

 プ~~~

 

 その代わり、オナラをしとく。

 親友とはいえ、オナラ聞かれるのは、ちょっと恥ずかしい(^_^;)。

 まあ、これが、今の留美ちゃんとうちの距離。

 寝返りを打つ。

 

 ウ……くさい(;'∀')。

 

 慌てて、布団をバサバサ。

 それでも臭うので、ドアを開ける。

「あら、起きるの?」

 ちょうど部屋から出てきた詩ちゃんと鉢合わせ。

「あ、ちょっと水飲も思て(^_^;)」

「わたしはお茶」

 開いてるドアからは、まだ灯りの付いてる机が見える。

 えらいなあ、まだ勉強してるんや。

 感心したのは言わへん。詩ちゃんは、褒められるのが苦手。

 キッチンで麦茶をいただく。

「よう降るねえ……」

「ほんと、梅雨みたい」

 雨がうっとうしいという感想を言うただけで部屋に戻ろうとする。

「お、ちょうどええ」

 変態坊主が段ボール箱を抱えてやってくる。

「なに、それ?」

「檀家さんから空気清浄機もろたんやけどな、お祖父ちゃんとこも、お父さんらとこもあるしなあ、自分らとこで使わへんか?」

「「ああ」」

 返事がガチンコしてしまう。

「さくらの部屋で使いなよ」

「詩ちゃんとここそ」

 遅まで勉強してる人が使うべき……というのは言い訳。

 空気清浄機いうのは、オナラしても反応しよる。

 

 まあ、夜も遅いんで、女子三人で話し合ういうことで、お休みなさい(^_^;)。

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ライトノベルベスト『ちょっとした躓き・1』

2021-08-17 06:35:32 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ちょっとした躓き(つまずき)・1』 


 あ(⚙♊⚙ノ)!     

 こんなところで転ぶとは思わなかった。

 数メートル前から、この穴とも呼べない窪みには気がついていた。

 いくらスマホを見ながらといっても転ぶような場所じゃない。

 自慢じゃないけど、ホームの際ギリギリのところでも、線路に転落したこともなく、通学途中の混雑した道でも、スマホ見ながらスイスイで、人とぶつかったことなんかない。

 そりゃあ、多少歩くのは遅くなるけど、そんなに急いで歩く、まして走るシチュェーションなんかは、あたしには無い。

 たまに自転車に乗っていてもスマホは見ている。商店街の中でも平気。オッサンやオバハンたちが、睨んでも平気。

 どうやったって、大人には気に入られない。気に入られようとも思わない。リアルに迷惑かけなきゃ、人の自由じゃんと思っている。

 先生や、お巡りさんの顔だって立てている。

 授業中は、膝の上に乗っけて、視野の端で画面をとらえながらやってるから、たいていの先生には、分からない。滝川って世界史の先生だけは気づいているようだけど、あたしの気遣いを分かってか、注意はしてこない。

 世の中の高校生がみんな世界史好きでないことも、自分が、あまり授業が上手くないことも知ってるから、見逃しているんだと思う。

 数多い先生の中でもお気に入りの先生。かといって、他の女子みたく、メス猫みたいにすり寄っていったりはしない。

 滝川先生は、あたしら生徒との距離の取り方が上手いだけで、他に取り柄ははない。28って歳は、あたしたちにとってはギリギリ射程距離だけども、男の魅力は、限りなくゼロ。

 だから、一年の時、現代社会で追試を受けるハメになったとき、おアイソにニッコリしただけ。先生も、その八掛けぐらいの笑顔。「おアイソはつうじませ~ん」という意味で。

 あたしも期待していたわけじゃない。追試を受けさせる、受けるという、学校生活では、ややイレギュラーな関係に陥った者同士の社交辞令ぐらいのつもり。

 お巡りさんの存在は、視野角160度で30メートル、前方真っ直ぐで50メートルぐらいの距離で認知する自信がある。

 それが、なんで、こんなところで転ぶんだ!?

 と、転びながらスマホをカバーするために左半身を下にして、右手でめくれ上がりそうになったスカート押さえ、後ろのオッサン、ニイチャンたちへの生パンモロ見せを防御した。

 で、しすぎて、左の頭をアスファルトに打ちつけ、ほんの二秒ほど気を失った。

「だいじょうぶ……?」

 優しげな声が、上から降ってきて、立ち上がるのを助けるように手が差しのべられた。

 目の焦点が、しばらく合わなかったけど、その紺と白の組み合わせのコスは、女性警官。笑顔が上戸彩に似ている。

 このシュチェーションは、程よくお礼を言わなければならない。

「すみません、ありがとうございます……」
「気をつけなきゃ、根性の悪い穴は、じっとしてないからね」

「……え?」

「ほら」

 なんと、穴とも言えない窪みは、嬉しそうに、あたしの周りを、尻尾があったら千切れそうなくらいの勢いで走り回った。

「おとなしくしなさい。しつこくすると、霊惑防止条例でひっぱっていくわよ!」

 女性警官の一言で、窪みは大人しくなった。

「まあ、このままじゃ、あなたも不自由だろうから、交番に行こうか」
「え、交番?」

 あたしは、交番と歯医者と生活指導室は大嫌いだ。

「心配いらないって、普通の交番じゃないわ。あなたたちみたいな人のための交番よ。清水美恵さん」
「え、あたしの名前……」

 そう呟いたとき、後ろから来た男子高校生が、わたしの体をすり抜けて、前に歩いていった。

「ヒヤ~!!」

 思わず悲鳴が出た。

「今の、男の子……幽霊……?」
「アハ、どっちかっていうと、清水さんの方が、それっぽいなあ」

 そう言うと上戸彩風の女性警官はさっさと歩き出した。しかたなく、あたしは、スマホとカバンを持って、その後を付いていった。

 これが、あたしのちょっとした躓き(つまずき)の始まりだった……。 

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クレルモンの風・14『優子とアミダラ女王の危機一髪!』

2021-08-17 06:16:38 | 真夏ダイアリー

・14

『優子とアミダラ女王の危機一髪!』         




 メグさんちからの帰り道、モンジュゼ公園のあたりはお巡りさんで一杯だった。

 すぐに女の子の捜索隊だと分かった。

『きみ、こんな女の子を知らないかい?』

 ビックリした!
 すぐ側で、若いお巡りさんが視野の外から声をかけてきた。

『あたしも、さっき事件を知ったばかりで、この子はわかりません』
『どうもありがとう。セレナ・アバックって言うんだ。気の付いたことがあったら警察まで』

 そう言って、写真入りのビラをくれた。さっきメグさんに見せられたのといっしょだ。

 帰り道は、さすがに走らなかった。普段の運動不足のところへ、メグさんちまで走ってきたので、気がついたら、足がパンパン。
 

 こりゃ、ゆっくり歩いてほぐしておかないと、明日あたり痛むなあ……そう思って歩くことに決めた。

 百メートルも歩くと、ブツッと音がしてスニーカーのヒモが切れた。

 あたしは道ばたの消火栓にもたれるようにして、しゃがむ。

 スニーカーのヒモはハンパなところで切れていて、残ったヒモを穴に通して結ぶのが大変だった。いや、結ぶ前に切れてささくれ立ったヒモの先を穴に通すことそのものが大変だった。

 気づくと頭上で声がした。

 正確には、横に停まっていたセダンの窓が少し開いていたので、そこから声が漏れてくる。

『みんなモンジュゼ公園のあたりだと思ってる』
『これだけ、ビラを撒けばね』
『セレナの始末は』
『古い方の納屋の冷蔵庫……』

 ギョッとして立ち上がってしまった。

 で、運転席のオッサンと目が合ってしまった。

 背を向けて逃げ出そうとすると、運転席からバスケット選手みたいにでかいオッサンが出てきて、簡単に掴まってしまった。

 慌てる風もなく簡単にボンネットに押さえ込まれ、降りてきたオバハンといっしょになって、猿ぐつわを噛まされ、後ろ手に縛り上げられトランクに放り込まれた。

 オバハンは、あたしを放り込みながらジーパンを足首まで脱がせ、ベルトを二重巻きにして足かせにした。この間、わずか五秒ほど。

 ほんの百メートル先にはお巡りさんがいるんだけど、前のトラックが障害になって死角になっている。

『こいつの始末も考えなきゃな』

 オッサンの一声がして、車が憎ったらしいほどゆっくりと動き出した。

 とっさに思ったのは、暴れたらすぐに殺されるだろうってこと。そして、行くところまで行けば、これも殺されるという予感。

 カーブを曲がって、車は少し加速した。警察の目が届かないだろうと判断したようだ。

 トランクの中は、真っ暗。なんだか酔いそう……でも、酔わなかった。やっぱ必死の緊張感なんだ。

 足許に触れるものがあった。スマホだ!

 うんしょうんしょ……あたしは、ゆっくりと、縛められた手許までたぐり寄せた。

 でも、画面が見えないんじゃ、まともに操作ができない。

――そうだ、海ちゃんだ!――

 アドレスを交換したばかりだから、アドレス一覧のトップにある。なんとか後ろ手のまま、スマホを通話にして、勘で画面にタッチした。

「もしもし、もしもし……」

 かすかに海ちゃんの声がする。

 スマホの灯りで、トランクの中が少し明るくなった。

「どうしたのユウコ?」

 あたしのスマホにはナビ機能がついている。海ちゃんのにもナビが付いていてシンクロできたら、場所が分かる。あたしは冷静になって、ビデチャモードにした。

「え……ええ!」

 という声が聞こえた。事態は飲み込めてもらえたようだ。

 どこを走っているんだろう。感じとしては南の方なんだけど。

 時間の感覚がマヒしている。三十分にも一時間にも感じた。でもスマホの灯りが点いているのだから二時間にはならない。バッテリーの残量が、そんなものだから……。

 グィン

 と、急に車が急ハンドルを切った。すごい加速……と思ったら、また急ハンドル!

 もう、なにがなんだか分からないようになって、衝撃! 車が停まった。

 何やらフランス語の罵声が続いたあと、気を失った。直前トランクが開く気配がした。

――いま、ハズイ格好……――

 気がついたら、病院のベッドだった。目の前に海とメグさん。

『先生、意識が……』

 メグさんの声が遠のいていく。海の顔がアップになった。

「最初、アミダラ女王のアップなんで、ワケ分かんなくて。で、ユウコのお尻が、縛られた手といっしょに写って、ただ事じゃないと思って警察に連絡したの。ナビが付いていたんで、先の方で検問かけてもらって。大変よ、大立ち回りのあげくに犯人逮捕(;'∀')!」
「どのあたりだったの?」
「リベラシオン通りの南の方」
「で、あたし……どんな格好で」
「あ、事情は分かってたから、トランク開けたのは女性警官の人。直ぐに毛布でぐるぐる巻きにしたから見られてないわよ」
「よかった……」
「しかし、いまじぶんにアミダラ女王のおパンツなんて珍しいいわね」
「あれはね……で、女の子、セレナ・アバックは!?」

 海は、悲しそうに首を振った。

 で、悲しみに浸る間もなく、アグネスを先頭に寮の仲間達が入ってきた。

「ムチャクチャ心配してんで!」

 というアグネスから始まり、最後が涙でグチャグチャのハッサンだった。

「よかった!よかった!よかったよおおお! (#१д१#)」

 そうだ、こいつとの結婚を賭けて、人間オセロが待っているんだ……!

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魔法少女マヂカ・227『天城を助ける』

2021-08-16 09:12:24 | 小説

魔法少女マヂカ・227

『天城を助ける語り手:マヂカ   

 

 

 もう千年以上も魔法少女をやっている。

 

 これだけやっていれば、さぞかし強くて万能のように思われるだろうけど、そうでもない。

 戦いで相手にする妖たちにも千年クラスは珍しくない。

 いま、この手で抱き起している天城という少女も、オーラを感じた時から分かっている。

 天城は、千年を経た時の匂いと、打ちあがったばかりの新刀の鉄の匂いの両方がする。

「わたし、戦艦天城の船霊なんです……」

 痛みに耐えながら天城は正体を明らかにした。

「戦艦?」

「天城……?」

 霧子もわたしも訝しんだ。

 霧子は、女生徒の外見と戦艦という属性が結びつかない。

 わたしは、船霊には驚かない。つい最近も三笠の船霊に助けられたとこだし。

 ただ、戦艦天城というのが分からない。

 帝国海軍に天城という戦艦は存在しない。終戦の年に未完成のまま放置された改造空母に天城というのがあったが、それの本性は巡洋艦だ。

「八八艦隊の長女です、赤城は二番艦の妹で……」

「あ」

「思い出していただけましたか?」

 大正時代はシベリア出兵にともなって、満州やシベリアを飛び回っていて、内地の事に関わることが無かったが、ワシントン軍縮会議で日本は計画中、建造中の戦艦を廃棄している。

「もう、船霊が宿るところまでできていたんだ」

「はい、船台にキールが据えられ、艦名が決まったときに船霊は宿るのです……三番艦以下の子たちは、まだ艦名も決まっていませんから」

「妹さんは、どこに?」

 霧子は、もう助けてやる気になって腰を浮かしている。

「この山の麓に……」

「ここは、いったい……」

「横須賀の山の中だろう、その麓と言えば横須賀海軍工廠だ、行くよ!」

「天城さんは?」

 霧子は魔法少女ではないが、この数か月の付き合いで霊的な素養が芽生えている。

 漠然としてだろうけど、起こっていることの半分ほどは分かっているようだ。

「天城さんを看ていて」

「うん、分かった」

 霧子は分かっている、天城の魂が消えかかっているのを、そして、だれかが寄り添っていてやらなければならないことを。

「頼んだよ!」

 山を駆け下りる。

 百歩駆けるうちに風切丸を抜き放つ。

 二百歩駆け下りたところで一閃!

 アルミ缶を切ったほどの手ごたえがあって、ロシア海軍の艦娘がもんどりうって後方に消える。

 水兵帽に駆逐艦の名前があったようだが巡洋艦かもしれない。

 令和の世界で、ロシアバルチック艦隊の化け物と戦ったのを思い出す。

 日露戦争から、まだ二十年余りしか経っていない大正時代。

 油断はならない。

 

 トウ! オリャー! セイ!

 

 立て続けに三体を切る。二体は駆逐艦、一体は水雷艇、次も小艦艇かと浅く振りかぶる。

 小艦艇は水雷戦隊を構成している、足が速くて数が多い。タメを大きくしていては打ち漏らすし、隙を突かれかねない。

 ガシ! ガシ! ガシ!

 アルミ缶の手ごたえが続く。

 カ! カ! カ!

 駆逐艦よりも軽い手応え、これは水雷艇でも、より小さい艦載水雷艇。

 

 カシーーーン!

 

 水雷艇と振り下ろした風切丸がはじき返される!

 ウワーー!

 反動で、空中を数回転させられる。

 その回転のさ中、瞬間視野に飛び込んできたのは、腰高なロシア戦艦の艦娘だ。

 逆方向に風切丸を振って回転を止める。

「貴様は!?」

「やっと会えたな」

 混乱した。

 目の前で腕組みしてふんぞり返っているのは、秋田沖で激闘の末に撃滅した戦艦アレクサンドル三世だ。

「なんで、ここに、この時代にいるんだ!?」

「フフフ、時空を超えるのは、魔法少女のおまえたちだけではないんだぞ」

 不敵に笑うと、両手をグイッと突き出す。

 突き出した両手の先には、二連装の三十サンチ砲が構えられていた……。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
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ライトノベルベスト『ガルパン女子高生・2』

2021-08-16 06:03:36 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ガルパン女子高生・2』     

 

 


 女子高生と思しき少女は、じっと耐えていた。

 そして、やにわに道路を渡ったかと思うと、堪えた声で、こう言った。

「あなたたち、どこの人? なんで、大勢で邪魔すんの?」

 大勢の中の一人が諭すように言った。

「ぼくたちは、善意の市民団体なんだ。日本の安全と民主主義を守るために、こうして集まったんだよ」
「じゃ、地元の人じゃないんだね?」
「そう、はるばる全国各地から……」
「邪魔せんとって、とっとと帰って!」
「キミなあ、自衛隊は憲法違反なんだ、日本の平和のためには、あっちゃいけないんだよ。そもそも憲法9条……」
「ここの人らはな、あの震災の時に、歩いて助けにきてくれたんや。家が潰れてお母ちゃんと妹が下敷きになって、近所の人らも手伝うてくれたけど、いのかされへん。隣町の火事が、だんだん近こうなってくる。消防車もパトカーも素通りや。わかるか、あんたらに、この悔しさ。その中に、ここの部隊の人らが、歩いてきてくれはった。『ぼくたちで良かったら手伝います』そない言うて、『お願いします!』言うたら、ここの人らは隊長さんの『かかれ!』の一言で、人海戦術で瓦礫をどけて、どけて……火事が、すぐそこまで来てるのに、妹とお母ちゃん出してくれはった。二人とも、もう息してへんかった。ほんなら……ほんなら『ごめんな、かんにんな』『ぼくらが、もうちょっと早く来れてたら。申し訳ない!』言うて妹とお母ちゃんに謝ってくれはった。あとで知った。ここの部隊の人らは地震のすぐあとから出動の準備してたけど、出動命令が出えへんから夕方まで動かれへんかった。それから、ここの部隊の人らは、食事の配給やら、お風呂湧かしてくれたり、夜中は素手で見回りもしてくれはった。そんな部隊の人らの創立記念のお祝いのどこがあかんのや! うちは、だれもけえへんでも、一人でもお祝いするんや!」

 最後のほうは、少女の声は嗚咽になっていた。

 百人ほどの市民団体の人たちは一言もなく、横断幕をたたんで帰った。
 少女は肩を震わせて、市民団体が引き上げるのを見届けると衛門に向かった。

 衛門の衛守をしていた隊員は、けして社交辞令ではない、心からの敬礼で少女を迎えた。

 USBメモリーには、You Tubeから移した、そんな映像が入っていた。

「こんなことが、あったんやね……」

 アッチャンがしみじみと言った。

「これ、阪神大震災のときのことやね……」

 ほかにも、東日本大震災の記録や、自衛隊の記録が残っていた。
 自衛隊の機甲科(戦車隊)についての意見書もあった。

「90式は感心しない。50トンの重さに耐えられる橋梁が、我が国にどれだけあるのか。また、長距離移動では、特別なトランスポーターに砲塔を外しての輸送しかできない。砂漠や、原野ならともかく、日本の地理的条件には合っていない」
「ようやく、10式採用。44トン。3・24メートルの全幅は鉄道輸送も可能。我が国に合った戦車が、ようやくできた。慶祝なことである」

 そんな文章もあった。あたしは、ヒイジイチャンから、こんな話を聞いたことは一度も無かった。いつも無邪気にラジコンの戦車で遊んでいる、子どものような姿しか覚えていない。

 しかし、ただの遊びでは無かった。座布団で土手を作って、いかに効率の良い稜線射撃ができるか。M4シャーマンの76ミリ砲で、いかにタイガー戦車に勝てるか。そんなことがノートにこと細かく書かれていた。

 ガルパンの最終戦で、ドイツの100トン戦車マウスを撃破したのを賞賛していたが、89式戦車をマウスの車体に載せて砲塔旋回を不能にするような高度な操縦が可能であろうか? と、専門家らしい意見と「自分がやれば、50%の確率で可能である」と締めくくっているところなど、ご愛敬。

 あたしは、意地を張ってスマホを止めることはよした。使用を再開したが、必要最小限のことにしか使わなくなった。アッチャンもそれに付き合ってくれて、逆に直接会って話をする機会が増えた。

 だから三年になったとき、進路のことなんか、二人で真剣に話すことができた。

 アッチャンは特推で大学に。あたしは自衛隊に入った。で、三か月の基礎訓練が終わって気が付いた。

 自衛隊では、唯一機甲科に女の子が入れないことに、ああ、美保のバカたれ!

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クレルモンの風・13『メグさん再び』

2021-08-16 05:48:11 | 真夏ダイアリー

・13

『メグさん再び』         




 藁にもすがる思いでメグさんに相談することにした。

『溺れる者は藁をもつかんで……沈んでいくよ(;゚Д゚)!』

 と、電話ではシニカルなユーモアで返してきたけど、真剣に話を聞いてやろうという感じ満々だった。

 元気がないんで路面電車で行こうと思ったけど、運転手のオッチャンが乗客のオバチャンと話し込んで、停留所を十メートルもオーバーランした。

 ゲンが悪いので、思い切って走っていくことにした。

 電車が時間通りに来なかったり、運ちゃんが乗客と喋っていたりは当たり前なんだけど。今日のあたしはナーバス。そして若い。で、結論は二キロの道のりを走ることにした。

 パルク・ド・モンジュゼ通りに入った頃は上り坂なので、ジャケットもシャツも脱いで、タンクトップ一枚になって走った。走っている間だけは問題を忘れることができた。

 ノアム通りに入ると青臭い臭いが満ちてきた。

 どの家も草花を大事に丹精しているのだけど、このゼラニウムの臭いだけは慣れない。植物オンチのあたしが、ゼラニウムを覚えたのは、ひとえに、この臭いによるものだ。

「まさに青春の真っ盛りを走ってますって、感じね」

 メグさんの第一声が、これだった。
 庭で(メグさんちは、ゼラニウムがない)涼んでいると、突然メグさんが若返って現れた!

「あ、娘の海です」

 そう言って、ヒエヒエの麦茶をくれた。数か月ぶりの日本の麦茶に、思わず涙が出そうになった。

「あたし、あなたと同い年なのよ」
「ほんと!?」
「うん、あなたが行ってる大学も、あたしの受験候補の一つだったから」
「え、そうなんだ!?」

 それから、キッチンに行って簡単な和食を二人で作った。ほんと簡単。ニューメンと冷や奴。

 この簡単だけど、思いっきり日本を思い出させてくれるメニューに、またあたしはウルウルしかけた。

「しかけたって言えば、元々は、ハッサンて子の片思いなんでしょ?」
「うん、嬉しいんだけど、あたし的にはね……」
「お友だちなだけなんでしょ?」
「うん……」

 で、気がついたら全部喋らされていた。

 オカンのメグさんといい、娘の海ちゃんといい。この家の女は油断がならない。

 で、気づいた。オカンのメグさんの姿がない。

「あ、町内会の寄り合い。で、あたしが代理……悪かったかな?」
「ううん。同世代の日本の子と話ができてうれしかった。ルームメイトが日本語バリバリのアメリカの子なんだけど……」
「アグネスでしょ?」
「え、なんで知ってんの!?」
「ユウコちゃんの大学は、リセでいっしょだった子もいるから、ちょっと詳しいの。アグネスの日本語は、一昔前の大阪弁だから、あの子が来た頃、日本語の先生は、自分の日本語がおかしくなりそうだったって。ユウコちゃんが来たんで、だいぶニュートラルに戻れたって」

 少しは、自分も役にたっているようで嬉しくなった。

「こっちの学生は、事件を大きくしたり大ゴトにするの好きだから、あんまり心配することないよ。目的はお楽しみなんだから」
「そうなの?」
「うん。だから、ユウコちゃんも、楽しむぐらいの気持ちでいたほうがうまくいくと思う」

 メグさんジュニアは名前の通り「海」みたいで、同い年とは思えない懐の深さがあるようだった。この子に大丈夫と言われると、本当に大丈夫のような気がしてくる。

 そこにメグさんが憂い顔で戻ってきた。

「なにかあったの、お母さん?」
「うん、モンジュゼ公園で、女の子が行方不明になったんだって」
「大きい子?」
「ううん、まだ十歳。父親といっしょにモンジュゼに来て、行方が分からなくなったって。この子」

 メグさんは、女の子の写真がアップになったビラを見せてくれた。とってもカワイイ子で、親御さんの心配な顔が思い浮かぶよう。海ちゃんに慰められた気持ちはそのままで、心の別なところが痛んだ。

「今日は、ありがとうございました。海ちゃんに聞いてもらったら、ケセラセラになりました。ほんと久しぶりに日本の同い年の子と喋れて良かったです」
「あ、この子、半分はフランス製だから」
「今日の、あたしは全部日本製。明日は全部フランス製になって、試験だわ~」

 と、フランス人の顔になって嘆いた。

「あ、メアド交換しとこ。お互い力になれそうだから。いい?」

 このメアド交換が後に大きな威力を発揮することになるのだった……。
 

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せやさかい・233『恥ずかしがりの朝顔』

2021-08-15 09:15:04 | ノベル

・233

『恥ずかしがりの朝顔』さくら     

 

 

 終わってしもた!

 ……と言うたら、なに連想しますぅ?

 

 オリンピック? 勉強しよ思たら切れてしもてるシャーペンの芯? 日々更新されるコロナ感染者数?

 水上バイクかっ飛ばして殺人未遂で訴えられたオッサンら? 食べよ思て出したら一年前に賞味期限の過ぎてたパスタ?

 だれかの人生(うそうそ(^_^;))?

 

 正解は留美ちゃんの宿題。

 

 朝ごはん食べて、今日も雨なんで散歩は諦めて、宿題をやろう!

 昨日までは、ダイニングのテーブルに並んで宿題やってた留美ちゃんは、文庫を取り出して読み始める。

「え……もしかして、終わった?」

「え、あ……うん……終戦記念日だしね(^0^;)」

 うまいこと言う。

 うちら中学生にとっては、夏休みの宿題は、まさに戦い。

 それをやり終えたんやさかい、まさに終戦。

 せやけど、テーブルの向こうとこっちではニュアンスがちがう。

 留美ちゃんは予定通りやり終えて、ミッションコンプリート、勝利者の終戦。

 うちは、その留美ちゃんの前で、シコシコ戦闘を続けてる。宿題戦線敗残者の終戦。

 

 便利な言葉やねえ、終戦いうのは。

 単に戦争が終わったいう意味で、勝った方でも負けた方でも使える。

「終戦記念にお茶しよか」

「え?」

「シュウセンキネン」

「あ、ああ……」

 お寺と言うのは、お八つというかお茶うけというか、ちょっと食べるものには困りません。

 檀家さんから頂いたスィーツ(たいてい饅頭的な)を持ってきてお茶にする。

「あら、もうティータイム?」

 詩(ことは)ちゃんが来て、ちょっと驚く。

「うん、終戦記念」

「え、ああ……」

「留美ちゃん、宿題やり終えたさかい、その記念!」

「アハハ、さくらはなんでも記念にしちゃうんだ」

「「アハハ」」

「じゃ、わたしはお茶だけにしとく」

 冷蔵庫の麦茶を取りに行く詩ちゃん。

 詩ちゃんは、ちょっと気にしてる。

 中学生いうのは、少々食べ過ぎてもデブにならへんし、ちょっとくらい肥えても「ブタやあ!」とは言われへん。

 大学に入ったころから、ちょっと食べるものに気ぃつこてる。

 高校までは、饅頭三つくらい平気で食べてたのに、このごろは二個にしてる。

 わずか三つ違いやけど、新陳代謝がちがうんやねえ。

 留美ちゃんが読んでる文庫(将棋指しのラノベ)の話題で盛り上がる。

「将棋会館建て替わるんだよね」

「うん、今までは福島区あったけど、高槻に建て替えるそうです」

「藤井壮太って、同年配だけど、なんだか異世界の人って感じ……」

「そうなんですよ、ただの名人じゃ……」

 うちは、将棋の会館があるのも、藤井なんちゃらいう名人もわかりません(^_^;)

 

「ねえ、朝顔咲いたのね」

 

 おばちゃんが、回覧板持って現れる。

「え、うそ?」

「蕾が二つ開いて赤い花つけてたわよ」

「「「ええ!」」

 この声だけは揃った。

 この雨なんで、昨日も今日も水はやってないねんけど、様子は見てる。

 今朝は、まだ蕾が並んでただけで、開くとこまではいってへん。

 

「朝顔って、早朝に開いて、日が上るころには萎びちゃうんだよね」

 三人、プランターの前で首をひねる。

「雨が続いてるせいですかねえ」

「きっとね、恥ずかしがりの朝顔やねんわ……ええねんよ、うちらは家族みたいなもんやさかい、明日からは、恥ずかしがらんと咲いてね(^▽^)」

 よしよししてやると、二人に笑われてしまいました。

 

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ライトノベルベスト『ガルパン女子高生・1』

2021-08-15 06:44:55 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ガルパン女子高生・1』     


 

 ガルパンと聞いて何を想像しますか?

 ミセパン、ハミパン、ガールズパンツなどを連想する方は期待はずれです。

 ガルパンとは、『ガールズ&パンツァー』のことで、大洗の町おこしにも大いに役立ったっていう、スグレモノのアニメです。で、パンツァーとは、ドイツ語でPanzer Kampf Wagenで、戦闘車両=戦車を現します。

 可憐な女子高生が、戦車道にいそしむアニメで、その戦車や戦闘の描写などには定評があり、今でもコアなファンが全国各地に生息していて、この冬にはシリーズ最終映画が封切られます。

 あたしがガルパン女子高生になったのは、二つのきっかけ。

 一つは、スマホの煩わしさ。
 
 ラインなんかやってると、もうヤギさんのお手紙状態。「今なにしてる?」「電車乗ってる」「今は?」「テレビ見てる」「なんのテレビ?」「なまり歌コンテスト!」「なにそれ?」「鉛で歌うたってるの(変換ミス)」「ってか、わけわからん」「アッチャンは?」「前田 敦子かあたしのことか?」「あんたのことに決まってとろうが!」「これからお風呂」「じゃ、しばらくバイバイだね」「うちの、耐水仕様!」「あ、そう」「今から、体洗う」「おお、洗いますか?」「今、どこを洗ってるでしょう?」「え、え、え、どこどこ!?」「ラインじゃ言えません」「この変態オンナ!」などとつまらないこと、この上なし。

 で、止めた。てか、ちょうどヒイジイチャンが亡くなったんで、三日ほど止めざるを得なかったのです。

 家族葬だったけど、親友のアッチャンは来てくれた。

 で、お通夜の晩、シミジミとしてしまった。ヒイジイチャンは97歳だったけど、亡くなる直前まで元気で、あたしのこともよく可愛がってくれた。スマホを買ってくれたのもヒイジイチャン。中学の時、スマホが欲しくて、お母さんにオネダリしたら拒絶された。

「あんなのにハマってどうすんのよ。自腹で払えるようになるまではダメ!」

 と、今時の母親としては珍しいことを言った。うちは、お母さんがダメだと言ったらダメなのだ。

 で、ヒイジイチャンにグチったら、一発で買ってくれたし、毎月の支払いまでやってくれた。

「人間、やって失敗する後悔よりも、やらなかった時の後悔の方が大きい」

 この一言で、お母さん以下家族全員が黙った。

 そのヒイジイチャンが、スマホのお礼を言いに行ったとき(なんせ、本人はスマホもケータイも持っていない)ガルパンを教えてくれた。

「人が死ななければ、戦車ほど面白いものは無い。美保も見てみい」

 で、あたしはガルパンにはまった。

 ヒイジイチャンは、戦時中戦車隊の小隊長をやっていて、戦争がもう一カ月も続いていれば、九州で死んでいたらしい。
 戦後は、陸自で戦車に乗っていた。射撃は特一級で、コンピューターの無かった時代に、30キロでスラロームしながら1000メートル先の的をぶち抜いた腕を持っていた。

 遺品には、ラジコンの戦車が10台ほど出てきた。ヒイジイチャンは、よくこれで、BB弾を発射して遊んでいた。

 子どもみたいなジイサンだと思っていたけど、やってみると案外ってか、すごく難しい。まっすぐに走ることさえ、あたしには出来なかった。

 ラジコンはオモチャだと思っていたけど、ヒイジイチャンはこまめに改造して、相対速度、砲塔の旋回、弾の発射の間隔など実物通りにしていた。

「61式が、世界で一番」と、よく言っていた。

 ネットやらで検索するとアメリカのM47の縮尺コピーみたいな戦車。ちょっと詳しくなると、車高が高いことや、変速機のカバーを車体前面のネジ留めにしたことで、前面装甲に問題があること。変速のタイミングがデリケートで、世界でも操縦の難しい戦車であることなどが分かった。

 でも、日記に、こう書いてあった。

 2000年3月30日、61式全車退役。一度も実戦に出ずに退役した世界で唯一の戦車になった。こんなに目出度いことはない。

 軍隊ってのは、戦わないためにあるんだ。ヒイジイチャンの言葉を思い出した。でも、ヒイジイチャンの理解は、まだ浅かった。

 それは、ラジコンの戦車のメンテをやっているとき、M4戦車の車体の中から出てきたUSBメモリーがきっかけだった……。

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クレルモンの風・12『人間オセロ』

2021-08-15 06:27:09 | 真夏ダイアリー

・12

『人間オセロ』         


 

 それでもハッサンは、礼儀正しくリムジンで寮まで送ってくれた。

 逆説の接続詞「それでも」で分かるとおり、あたしはハッサンの申し出を断った。

 申し出って……あれよ、お嫁さんになってくれって、突然の告白。

 あたしは、ハッサンは嫌いじゃない。ノリの良すぎるアルベルトやエロイなんかよりは、側にいて疲れない。最初想像していたより、すごく相手の気持ちを大事にする人だ。

 でも、それは、ハッサンが同じ寮生だからだ。寮生として気の置けない友だち。それ以下でも、以上でもない。

『人間はやって失敗する後悔よりも、やらないで、諦める後悔の方が大きい。だからダメモトでも当たってみようって、それだけだから、気にしないでユウコ』

 ハッサンは、これを正確な日本語にしてあたしに伝えるようにアグネスに言った。

「ユウコがクレルモンに来て、フランス語が出来ないなら入学でけへん言われて、粘り倒して入学したときと同じ気持ちや。ユウコ、あのまんま日本に帰ったらムチャクチャ後悔したやろ。ハッサンは、あの時のユウコと同じ気持ちや」

 めちゃくちゃ意訳だったけども、気持ちは120%伝わった。

 理由を口にすれば、いくらでも出てくる。

 第一に、あたしが『ウイ』と答えても、あたしは第二夫人だ。

 ハッサンは、まだ未婚だけども、第一夫人になる許嫁がいる。親が決めたモノなので、変更はできない。ハッサンは、普段は地味にしているけども王族の一人である。この許嫁は国王も了解しているので、もう、これは絶対。

 こうも言った。ボクは分け隔て無く二人を愛する。平等に妻達を愛し、面倒を見る。イスラムの男に科せられた義務だし、それを履行する自信がある。

 日本にも、むかし側室制度があったことや、今でも二号さんいることを彼は知っていた。そして、イスラムの一夫多妻は違うことを力説した。

 結婚しても日本に住んでいてもいいとまで言った。年に二三度国に来てくれればいいからとも……どこまでも強引だけど、根っこのところで優しい。

 一番の問題は、あたしに、その気が無いこと。

 お父さんのオハコの『神田川』の歌詞の意味がリアルに分かった。

―― ただ あなたの優しさが 怖かった ――

「ユウコ、気にせんとき。あれがアラブやねん。アラブのやり方やねん。持ち上げて、すかして、押したり引いたりしながら、要求を通してきよんねん!」

 あたしは、アグネスが、初めてアメリカ人に見えた。

「ハッサンは、そんなんじゃないわよ!」
「もう、あんたの気持ちをシャッキリさせよ思て言うてんのに!」
「……ありがとう、アグネス」

 そうなんだ、アグネスは、あたしにディベートを仕掛けてるんだ。あたしのグジグジをシャキッとさせるために。あたしが、この大学に入るときも、これでがんばってくれたんだ……。

 ハッサンの申し出を受けるわけにはいかなかったけど、なにかしないではいられなかった。

 そこで思いついた。アラブ人のわりにシャイなハッサンに賑々しい送別会は迷惑だ。その代わり、彼が熱中できて、みんなも参加出来ることを考えた。

 『人間オセロ』をやろう!

 学長の許可を得て、大学の玄関を使う。白黒のチェックで、チェスにうってつけだけどオセロもできる。

 ハッサンに分からないように、64枚の駒になってくれる学生を集めた。アグネスやキャサリンが面白がって、二日で集めてくれた。カミーユ副学長先生が、ミシュランがイベントで白黒の大きな帽子をコンパニオンに被らせていたことを思い出し、ミシュランに掛け合って借りてきてくださった。

『ハッサン歓送、人間オセロ!』のポスターを、あちこちに貼りだした。

 むろん対決は、あたしとハッサン。あたしはハッサンを送り出すのに一番ふさわしいイベントだと思った。
 ポスターを見たハッサンが、ガチ真面目な顔で、あたしに言った。

『あれじゃ、決闘と同じだ。決闘には掛け物がいる……』
『か、掛け物?』
『昔のアラブなら、互いの命だった。そこまでは言わないが、互いに大事なものを掛けなきゃならない。それが、ぼくの国の習慣……オキテだ』
『そ、そんな……』
『ぼくが負けたら、ぼくの第一別荘をユウコにあげよう……』
『あたしが負けたら……』
『……ぼくの第二夫人になれ!』

 それだけ言うと、ハッサンは早足で行ってしまった……。

 ああ、藪蛇だあ(;゚Д゚)!

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