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女子高生と思しき少女は、じっと耐えていた。
そして、やにわに道路を渡ったかと思うと、堪えた声で、こう言った。
「あなたたち、どこの人? なんで、大勢で邪魔すんの?」
大勢の中の一人が諭すように言った。
「ぼくたちは、善意の市民団体なんだ。日本の安全と民主主義を守るために、こうして集まったんだよ」
「じゃ、地元の人じゃないんだね?」
「そう、はるばる全国各地から……」
「邪魔せんとって、とっとと帰って!」
「キミなあ、自衛隊は憲法違反なんだ、日本の平和のためには、あっちゃいけないんだよ。そもそも憲法9条……」
「ここの人らはな、あの震災の時に、歩いて助けにきてくれたんや。家が潰れてお母ちゃんと妹が下敷きになって、近所の人らも手伝うてくれたけど、いのかされへん。隣町の火事が、だんだん近こうなってくる。消防車もパトカーも素通りや。わかるか、あんたらに、この悔しさ。その中に、ここの部隊の人らが、歩いてきてくれはった。『ぼくたちで良かったら手伝います』そない言うて、『お願いします!』言うたら、ここの人らは隊長さんの『かかれ!』の一言で、人海戦術で瓦礫をどけて、どけて……火事が、すぐそこまで来てるのに、妹とお母ちゃん出してくれはった。二人とも、もう息してへんかった。ほんなら……ほんなら『ごめんな、かんにんな』『ぼくらが、もうちょっと早く来れてたら。申し訳ない!』言うて妹とお母ちゃんに謝ってくれはった。あとで知った。ここの部隊の人らは地震のすぐあとから出動の準備してたけど、出動命令が出えへんから夕方まで動かれへんかった。それから、ここの部隊の人らは、食事の配給やら、お風呂湧かしてくれたり、夜中は素手で見回りもしてくれはった。そんな部隊の人らの創立記念のお祝いのどこがあかんのや! うちは、だれもけえへんでも、一人でもお祝いするんや!」
最後のほうは、少女の声は嗚咽になっていた。
百人ほどの市民団体の人たちは一言もなく、横断幕をたたんで帰った。
少女は肩を震わせて、市民団体が引き上げるのを見届けると衛門に向かった。
衛門の衛守をしていた隊員は、けして社交辞令ではない、心からの敬礼で少女を迎えた。
USBメモリーには、You Tubeから移した、そんな映像が入っていた。
「こんなことが、あったんやね……」
アッチャンがしみじみと言った。
「これ、阪神大震災のときのことやね……」
ほかにも、東日本大震災の記録や、自衛隊の記録が残っていた。
自衛隊の機甲科(戦車隊)についての意見書もあった。
「90式は感心しない。50トンの重さに耐えられる橋梁が、我が国にどれだけあるのか。また、長距離移動では、特別なトランスポーターに砲塔を外しての輸送しかできない。砂漠や、原野ならともかく、日本の地理的条件には合っていない」
「ようやく、10式採用。44トン。3・24メートルの全幅は鉄道輸送も可能。我が国に合った戦車が、ようやくできた。慶祝なことである」
そんな文章もあった。あたしは、ヒイジイチャンから、こんな話を聞いたことは一度も無かった。いつも無邪気にラジコンの戦車で遊んでいる、子どものような姿しか覚えていない。
しかし、ただの遊びでは無かった。座布団で土手を作って、いかに効率の良い稜線射撃ができるか。M4シャーマンの76ミリ砲で、いかにタイガー戦車に勝てるか。そんなことがノートにこと細かく書かれていた。
ガルパンの最終戦で、ドイツの100トン戦車マウスを撃破したのを賞賛していたが、89式戦車をマウスの車体に載せて砲塔旋回を不能にするような高度な操縦が可能であろうか? と、専門家らしい意見と「自分がやれば、50%の確率で可能である」と締めくくっているところなど、ご愛敬。
あたしは、意地を張ってスマホを止めることはよした。使用を再開したが、必要最小限のことにしか使わなくなった。アッチャンもそれに付き合ってくれて、逆に直接会って話をする機会が増えた。
だから三年になったとき、進路のことなんか、二人で真剣に話すことができた。
アッチャンは特推で大学に。あたしは自衛隊に入った。で、三か月の基礎訓練が終わって気が付いた。
自衛隊では、唯一機甲科に女の子が入れないことに、ああ、美保のバカたれ!