大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『となりのアノコ・2』

2021-06-03 05:44:01 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『となりのアノコ・2』  

 


  

 呼吸も脈拍も停まっていた。

 つまり、病院についた時点でアノコは死んでいた。

「なんとかならないんですか!?」

 ボクは緊急外来のドクターに詰め寄った。だって、ほんの20分前には元気に話していたからだ。

「ほんとうかい? この子はどう見ても一時間前には死んでいる。もう顎に硬直が始まりかけている。きみこそ、いったい……」

 ドクターやナースの咎め立てるような視線が集まった。

「悪いが、警察に連絡するよ。キミは、ここを動かないで、いいね。森田さん、お願いします」

 屈強なガードマンが、ボクの横に貼り付いた。

 8分ほどで警察がやってきた。

「ちゃんと、確かめてから通報してくださいよ」

「はあ、すみません(-_-;)」

 文句を言っているのがお巡りさん。謝っているのがドクターだ。

 なんと、お巡りさんが着いた頃には、アノコは息を吹き返し、元に戻っていたのだ。

「申し訳ありません、あたし、時々こんなになっちゃうんです。こんなにひどいのは初めてですけど」

 申し訳なさそうに、アノコが言った。

「ありがとう明君。びっくりしたでしょ、この子の持病なの。100万人に一人ぐらいなの突発性乖離病っていうんだけどね。近頃は出ないんで、あたしも主人も油断していて」

 そのあとに、パート先から駆け付けたお母さんが謝りながら説明してくれた。アノコは念のために一晩入院した。

 念のためというのは、アノコのためではなく、病院のメンツのためだということは、ボクにも分かった。突発性乖離病なんて、こんな病院で治せるわけもないし、大学病院でもないので、病理研究のために泊まるわけでもないから。

 明くる日、学校に提出するレポートを書いていると、窓ガラスがコツンと音をたてた。なんだろうと思っていると、また、コツンと音。どうやら、誰かが小指の先ほどの小石を、窓ガラスに投げている。

 ソロリと窓を開けると、前の道路にアノコがニコニコと立っている。

――あたしんちに来て――

 身振りと口パクでボクを呼んだ。

「もう、大丈夫なの?」

 アノコのあとに続きながら聞いた。

「大丈夫。ごめんね、迷惑かけて。ちょっとお願いがあるんだ」

 そう言って部屋を開けるとびっくりした。昨日あんなにあった油絵やデッサンがどこにもない。一瞬違う部屋に通されたのかと思った。

「昨日と同じ、あたしの部屋よ」

「でも……」

「あれは擬装なの。明君に信じてもらうための」

 アノコは、笑顔で、でも真剣な目で、ボクの目を見つめた……。

「これは、ほとんど賭なんだけど、明君をアナライジングして出した結論。明君は人への思いやりもあるし、昨日救急車を呼んでくれたように臨機応変で、秘密を守れる人」

「なんだよ、あらたまって?」

「あたしが宇宙人だって言ったらビックリする?」

 これが、オチャラケタ顔や、真面目すぎる顔なら、なんかの冗談かとも思える。だけど、昨日のこと、そして、昨日とはうって変わった彼女の部屋。絵やデッサンはかたづけられるとしても、部屋に染みついた匂いや、空気まで変えるのは無理だろう。ボクは、間の抜けた真剣さで答えた。

「そりゃ、ビックリするよ……」

 


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