美優は、職業的緊張感の顔で会議室へと向かった……。
廊下に出ると、メガネの外人のおじさん。目が合うと、英語でなんだか言って、握手。側にいた通訳とおぼしき女性は英語で一言いうと、笑顔を残していってしまった。
会議室に入って、美優は驚いた。
「美優ちゃん、これに着替えて」
衣装の篠崎がウェディングドレスを持って待ちかまえていた。ヘアーやメイクさんも揃っていた。
「こ、これって……」
五十分ほどかけて、美優は花嫁姿にされてしまった。プロ達の手際としては時間がかかりすぎているが、それは、美優が朝寝坊で、顔もろくに洗っていなかったからだ。
シャワーから始まり、シャンプー、スキンケア……そして、着付け、ヘアセットとメイクの同時進行。
そのころになって、届けた衣装が一着多かったことに気づいた。
ウェデイングのリカちゃん人形が仕上がって廊下に出ると、AKRの研究生の子たちが廊下に並び、拍手で連れていかれ、スタジオに入った……。
スタジオが教会に変わっていた!
真ん中に真っ赤なバージンロ-ド。左右の席には、AKRのメンバーや研究生、スタッフのみなさん。前の方には、留め袖姿の母と、ブル-のドレスの由美子が立っていた。
そして、一段高くなったところには神父さん。そして、そして……その前にはタキシードの花婿の姿で黒羽が緊張した顔で立っていた!
――そうか、みんなで仕組んだんだ。道理で、衣装が一着多いはずだ。スタジオのシートにくるまれていた秘密の道具は、このためだったんだ。
呆然と立ちつくしていると、脇を小突かれた。会長がタキシードに白手袋で腕を差し出した。美優は、そっと、その会長に腕をからませた。するとキーボードがパイプオルガンになり、メンデルスゾーンの結婚行進曲を奏で始めた。
美優は、感覚がマヒしていた。
まるで全てが分かっていたように、堂々とバージンロ-ドを歩くことができた。最初の一歩は、危うくつまずきそうになったが、それで会場のみんなが一瞬クスっときたが、動揺することもなかった。
――わたし、英二さんのお嫁さんになるんだ――
その思いさえ、ひどく冷静に、パソコンのそっけない書体のように思い浮かんだだけだった。
神父さんの前で、黒羽と並んだ。神父さんは、廊下ですれ違った外人さんだった。おごそかな顔で分からなかったが、ウィンクされて、そうだと気づいた。
それから、神父さんは型どおりに式をを進行させ、いよいよエンゲージリング……そこで、感動が湧き上がってきた。婚約指輪を外されていたことも、花嫁用の白い手袋をさせられたことも覚えてはいなかった。そして、黒羽が、エンゲージリングをはめるため、そっと美優の左手をとったときの手の温もりが、感覚をよびさまさせた。夕べと同じ黒羽の手の温もり……。
「一言ごあいさつを」
会長が、スマートに立ち上がった。
廊下に出ると、メガネの外人のおじさん。目が合うと、英語でなんだか言って、握手。側にいた通訳とおぼしき女性は英語で一言いうと、笑顔を残していってしまった。
会議室に入って、美優は驚いた。
「美優ちゃん、これに着替えて」
衣装の篠崎がウェディングドレスを持って待ちかまえていた。ヘアーやメイクさんも揃っていた。
「こ、これって……」
五十分ほどかけて、美優は花嫁姿にされてしまった。プロ達の手際としては時間がかかりすぎているが、それは、美優が朝寝坊で、顔もろくに洗っていなかったからだ。
シャワーから始まり、シャンプー、スキンケア……そして、着付け、ヘアセットとメイクの同時進行。
そのころになって、届けた衣装が一着多かったことに気づいた。
ウェデイングのリカちゃん人形が仕上がって廊下に出ると、AKRの研究生の子たちが廊下に並び、拍手で連れていかれ、スタジオに入った……。
スタジオが教会に変わっていた!
真ん中に真っ赤なバージンロ-ド。左右の席には、AKRのメンバーや研究生、スタッフのみなさん。前の方には、留め袖姿の母と、ブル-のドレスの由美子が立っていた。
そして、一段高くなったところには神父さん。そして、そして……その前にはタキシードの花婿の姿で黒羽が緊張した顔で立っていた!
――そうか、みんなで仕組んだんだ。道理で、衣装が一着多いはずだ。スタジオのシートにくるまれていた秘密の道具は、このためだったんだ。
呆然と立ちつくしていると、脇を小突かれた。会長がタキシードに白手袋で腕を差し出した。美優は、そっと、その会長に腕をからませた。するとキーボードがパイプオルガンになり、メンデルスゾーンの結婚行進曲を奏で始めた。
美優は、感覚がマヒしていた。
まるで全てが分かっていたように、堂々とバージンロ-ドを歩くことができた。最初の一歩は、危うくつまずきそうになったが、それで会場のみんなが一瞬クスっときたが、動揺することもなかった。
――わたし、英二さんのお嫁さんになるんだ――
その思いさえ、ひどく冷静に、パソコンのそっけない書体のように思い浮かんだだけだった。
神父さんの前で、黒羽と並んだ。神父さんは、廊下ですれ違った外人さんだった。おごそかな顔で分からなかったが、ウィンクされて、そうだと気づいた。
それから、神父さんは型どおりに式をを進行させ、いよいよエンゲージリング……そこで、感動が湧き上がってきた。婚約指輪を外されていたことも、花嫁用の白い手袋をさせられたことも覚えてはいなかった。そして、黒羽が、エンゲージリングをはめるため、そっと美優の左手をとったときの手の温もりが、感覚をよびさまさせた。夕べと同じ黒羽の手の温もり……。
「一言ごあいさつを」
会長が、スマートに立ち上がった。
「本来なら、きちんと仲人をたて、吉日を選び、わたしのようなインチキ野郎が、新婦の父の代役をすることもなく結婚式をやらねばならんのですが、新郎黒羽英二は、明後日の新曲発表後、AKRホンコンの立ち上げのため、当分日本から離れます。黒羽君は自分で思っているほどには、女にモテやしません。その黒羽君と結婚の約束をしてくれた、美優ちゃんが心変わりしてはいけませんので、不肖わたくし光ミツルのグッドアイデアで、スケジュールの合間を縫って、ささやかながら、わがHIKARIプロのスタジオで、強引でインチキクサイ結婚式を執り行うことになりました。まあ、変人オヤジの酔狂とお許しください。しかし、式とわたしはインチキくさくはありますが、ここに集まった、みなさんの、二人の門出を祝福する気持ちは本物であります。そして二人の気持ちも……そうだよな?」
新郎と新婦は、頬を染めてうなづいた。
「それが確認とれたら結構、これから直ぐに区役所に行って婚姻届を出してこい。披露宴その他は、黒羽が帰国後ドハデにやろう。まあ、よかったら、美優ちゃんがホンコンにいっしょにくっついていくってのもありだけどな!」
くだけて、話す会長の目は全てを承知しているような光があった。ありがたいと美優は思った。
「さ、とりあえず区役所だ」
「はい、直ぐに着替えます!」
「ばか、着替えてる時間なんかねえの!」
美優と黒羽は、式のウェディングドレスとタキシードのまま、事務所のバンに乗せられ、区役所に行くハメになった。婚姻届の証人になったクララが、どうしても付いていくときかず。そのまま放送局に行くことを条件に認められた。
ロビーに突然現れたウェディングドレスとタキシード+AKRのクララに、区役所は、一時騒然とし、その様子は複数の人たちによって、その数十分後にはYou tube等の動画サイトに流れてしまった。
マユは、もうすぐ一億個目のガン細胞を壊すところだった……。
新郎と新婦は、頬を染めてうなづいた。
「それが確認とれたら結構、これから直ぐに区役所に行って婚姻届を出してこい。披露宴その他は、黒羽が帰国後ドハデにやろう。まあ、よかったら、美優ちゃんがホンコンにいっしょにくっついていくってのもありだけどな!」
くだけて、話す会長の目は全てを承知しているような光があった。ありがたいと美優は思った。
「さ、とりあえず区役所だ」
「はい、直ぐに着替えます!」
「ばか、着替えてる時間なんかねえの!」
美優と黒羽は、式のウェディングドレスとタキシードのまま、事務所のバンに乗せられ、区役所に行くハメになった。婚姻届の証人になったクララが、どうしても付いていくときかず。そのまま放送局に行くことを条件に認められた。
ロビーに突然現れたウェディングドレスとタキシード+AKRのクララに、区役所は、一時騒然とし、その様子は複数の人たちによって、その数十分後にはYou tube等の動画サイトに流れてしまった。
マユは、もうすぐ一億個目のガン細胞を壊すところだった……。