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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・改 005:御釈迦さんといっしょ 2019年4月

2025-04-02 16:03:56 | 真夏ダイアリー
(増補改訂版)
005:御釈迦さんといっしょ 




 昨日は二三年生との対面式や。


 二三年生はあたしらよりも先に体育館に集まって整列してる。

 始業式をやってたらしい。

 生徒会長のナントカさんが歓迎の挨拶。続いて新入生代表のカントカさんが書いたものを見ながら入学の挨拶。

 二人とも女子。

 たまたまなんか、伝統的に女子のできがええのんかは未知数。しかし、従姉のコトハちゃんも卒業生。

 せやさかいに、やっぱり女子のグレードが高いのんかもしれへん。

 会長のナントカさんは、メモとかは持たんと挨拶してた。アクセントは大阪弁やけど、きちんとした標準語。マイクの高さが合わへんのでマイクの高さを調整してから喋るとこなんか余裕やなあ。前髪と眼鏡でよう分からへんけど民放の女子アナみたいに存在感があった。

 ナントカさんカントカさん言うてるのんは司会の先生の発音が悪いこともあるねんけども、うちも緊張しまくってるから(^_^;)。それに、もともとものごとを一発で覚えられるほど頭ええことないし。

 それに、ちょっと他の事に気ぃとられてるせいでもある。

 あたしは、横で俯いてしもてる榊原さんに神経を遣ぅて余裕がない。

 榊原さんは、クラスで一人だけ遅刻してきた。入学早々いうこともあるんやろけど、菅井先生がめっちゃ怒った。

 入学早々やから、他の生徒の手前もあってカマしとかならあかんと思てんやろね。

「なんで、入学早々遅刻したんや!?」

「あ、あ、えと……桜が満開になってて見惚れてしまいました」

「はぁ、桜が満開? アホか!!」

 この一喝で、榊原さんは蒼白になった。

 真っ青通り越して、真っ白……

 ほんで、席に戻ってからはずっと、机に突っ伏してる。すぐ前の席なんで、榊原さんが嗚咽を噛み殺してるのがよう分かる。

「気にせんとき、榊原さん……」

 それから、対面式のいまに至るまで、うちは榊原さんに付きっ切り。

 あたしは思う。

 菅井先生は、あんなふうに怒鳴ることが似合わん先生や。入学式の事やら家庭訪問のときの先生見てたら、ほんまは人に強うなんか当たられへん人やと分かってる。

 人間似合わんことはせんほうがええ。


 半日で学校は終わり。


 帰り道は公園とかは通らへんねんけど、あちこちの家の庭とかで桜が満開。そやけど、うっかり見惚れて遅刻するほどの桜ではない……榊原さんは、どこの桜に見惚れてたんやろ?

 家の前まで来てハッとした!

 山門脇の築地塀から伸びてる植物が満開の桜や!!

 越してきてから十日にもなろうというのに、ぜんぜん気ぃつけへんかった。

 たしかに子どものころから大きな木ぃがあるのんは知ってたけど、桜やったとは知らんかった。

 新学年の始まりいうのもあって、これまで四月にお祖父ちゃんとこ来ることはなかった。まして四月八日はね……山門の脇には『灌仏会 お花まつり』の張り紙。

 そうや、今日はお釈迦さんの誕生日で、日本中のお寺で、なにかしらお祭りをやってる。

 山門を潜るとオバチャンやお婆ちゃんらのご陽気なさんざめきに溢れる。

 檀家の婦人会のみなさんが集まってバザーをやったり、お釈迦さんに甘茶をかけたりお喋りしたり。

「やあ、さくらちゃん、お帰りぃ(^▽^)」

 米屋のお婆ちゃんが若やいだ声で挨拶をしてくれる。詩ちゃんに紹介された町内の人たちも。

「こ、こんにちは(;'∀')!」

 声が上ずってしまう。なさけない。

「おかえり、さくらちゃん。このあと、さくらちゃんのお誕生会もするからね、早く着替えて出てらっしゃい」 

 おばちゃんがにこやかに宣告する。

 そうなんです! 

 四月八日はうちの誕生日でもあるんです!

 ごく小さいころは別として、誕生日は家でお祝いしてもろてた。七年前まではお父さんもおったし、お父さんがおらんようになってからはお母さんが、忙しいなかでも必ず時間をやりくりしてお祝いしてくれてた。

 その後、米屋のお婆ちゃんの発案で、本堂でお釈迦さんと並んでのお誕生会になってしもた。何十人もの檀家さんやら町内の人やらが一斉に「さくらちゃん、お誕生日おめでとう!」言うて乾杯。

「あ、ありがとう(#*´▭`*#)!」

 きちんとお礼の言葉は言えんねんけど、自分でも分かるくらい顔が赤い。正直、こんな顔は見られたない。

 嬉しいねんけど、まさか、毎年はやれへんやろねえ?



☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら   この物語の主人公 安泰中学一年 
酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主
酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
榊原留美     さくらの同級生
菅井先生     さくらの担任
春日先生     学年主任
米屋のお婆ちゃん


 

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千早 零式勧請戦闘姫 2040・25『挿の結婚式』

2025-04-02 11:57:56 | 不思議の国のアリス
千早 零式勧請戦闘姫 2040  
25『挿の結婚式』




 
 今日の千早は、挿(かざし)の結婚式で大阪のホテルに来ている。

 お寺の住職と神社の巫女の結婚なので、少しもめた。

 お寺なら仏式、神社なら神式で式を挙げるのだが、どちらにするかで微妙にもめたのだ。

 読者は、こう思われるだろう。

 新郎のお寺が仏式を主張し、新婦の神社が神式を主張して揉めたに違いない!

 事実は真逆で、お寺が神式、神社が仏式を主張していたのである。

 譲り合いというか謙譲の精神というか……新婦の父の一彦などは「じゃあ、間をとってキリスト教式で」などと提案する始末。

 さすがに「なにを考えとるか!」と祖父の介麻呂は息子を叱った。

「だって父さん、筋向いは来栖さんの教会なんだし、挿も千早も仲良くしてもらってるし(^▽^)」

 千早は――それもおもしろいかも――と思った。九尾市の市民憲章は『多様性の尊重、共に生きる喜び』なのだし、市民の人たちも筋向い同士に立っている神社と教会を千早と貞治の仲の良さにも重ね合わせて微笑ましく思っている。

 それで、介麻呂の一喝で神式に落ち着いたのが三週間前、妖たちが鳥居の前を大岩で塞いでしまった日(19『一人で掃除をしていると道三たちが戻ってきた』)だった。
 式をつかさどる神主は介麻呂の甥で岐阜八幡宮の良麻呂が、巫女は股従姉の二人がやることになって、めでたく今日の結婚式を迎えている。

 で、当の千早は悔しさ半分、安心半分で股従姉二人の巫女舞を見ている。

 二人とも挿にヒケをとらない優雅さで浦安を舞っている。ちょっと悔しくて視線を移した後姿にドキっとした。

――え、酒井さくら!?――

 新郎の従妹が声優の酒井さくらだということは知っていたが、まさか式に出ているとは思わなかった。


 正直、式場のホテルに来るまでは、先日の戦いのことで頭が一杯だった。

 
 なんとか黒ウサギをやっつけたが、まだ三匹残っている。

 ウズメもカミムスビも「しばらくは大丈夫」と言う。森の中に感じた逆鱗も戦いの後にはただの荒れた宅地に戻っているし、道三も「なんの二日や三日、道三とその郎党に任せておけ」と胸を叩いた。

 そして、式場で挿の白無垢姿にドキッとし、股従姉の神楽舞で巫女魂に火が付き、人気声優の酒井さくらに時めくとバブルの森のことはきれいに飛んでしまった千早だ。

「あの、声優の酒井さくらさんですよね」

「え?」

 思い切って声をかけた人気声優は、遠い異世界から召喚されたばかりという顔で振り返った。

「あ、あの、わたし新婦の妹で八乙女千早って言います(;'∀')」

「あ、妹さん! あ、はいぃ、人気はどうか分からへんけど、酒井さくら、新郎の出来過ぎた従妹です。この度はお姉さん、どうしようもないクソ坊主のとこにお嫁に来てもろて感謝してます。ほんまにありがとうございます。ほれ、テイ兄ちゃんもお礼言わんかいな!」

 おどけた言い回しになったかと思うと、後ろから介添えさんに付き添われて新郎新婦。

「だれが出来過ぎた従妹やねん」

「あ、アハハハ、いやあ、セーラー服のように合う妹さんや。気ぃつけなあかんよ、このクソ坊主、制服フェチやさかい」

「おいおい」

「せや、うちと千早ちゃんて似た背格好やと思わへん?」

「背格好は似てるけど、顔がぜんぜんちゃうがな。千早ちゃんは清楚系で神社の看板巫女さんやねんぞ」

「うっさい。せやぁ、これからは親戚同士。遊びに来てもらうこともあるやろし、うちの服とか送ってもらわしてええやろか、キャンペーンとかで一回袖通しただけみたいなんがけっこうあるさかい」

「ええ、いいんですか!?」

「いいわねえ、千早って私服って男の子みたいなかっこうしかしないから」

 白無垢の挿まで参加してきて盛り上がってきた。

「あのう、披露宴の方に……」

 介添えにソロリと言われ、ようやく披露宴が始まった。
 

 
☆・主な登場人物
  • 八乙女千早           浦安八幡神社の侍女
  • 八乙女挿(かざし)         千早の姉
  • 八乙女介麻呂          千早の祖父
  • 神産巣日神          カミムスビノカミ
  • 天宇受賣命           ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
  • 来栖貞治(くるすじょーじ)  千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
  • 天野明里            日本で最年少の九尾市市長
  • 天野太郎            明里の兄
  • 田中            農協の営業マン
  • 先生たち          宮本(図書館司書)
  • 千早を取り巻く人たち    武内(民俗資料館館長)
  • 神々たち          スクナヒコナ タヂカラオ
  • 妖たち           道三(金波)
  • 敵の妖           小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)
 
 
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