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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

真夏ダイアリー・28『アイドルは大変だ……』

2019-10-03 06:47:08 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・28
『アイドルは大変だ……』       





「急性虫垂炎だと思う……」

 医務室のドクターが、クララさんを診察して、そう告げた。
「……なんとか……なりませんか?」
 クララさんは、苦しい息の中、やっと、その一言を発した。
「救急車を呼ぼう、残念だけど……」
 ドクターは、スタッフに指示した。
「クララ……」
「クララさん……」
 医務室に入りきれないメンバーが、気配に気づき、泣き始めた。
 サブの服部八重さんが、一人冷静なので、医務室に呼ばれた。
「クララに、大丈夫だって言ってやれ」
 黒羽さんがうながしたようだ。
「クララ、残念だろうけど、チームは大丈夫。みんなでがんばってたどり着いた念願の紅白、ちゃんと勤め上げるからね」
「頼むよ……ヤエ」
 そんなやりとりが成されているうちに救急隊の人たちがやってきて、クララさんはストレッチャーに乗せられて廊下に出てきた。メンバーのみんなは、口々に何か言っているが、クララさんには届かない。あまりの痛さに意識が無くなったようだ。
 ストレッチャーが前を通るとき、わたしは、一瞬クララさんの手に触れた。

 クララさんの悔しさが、どっと伝わってきた。それが、自分の感情になってしまい、それまでの冷静さが吹っ飛んで、涙が溢れてきた。
 そして、反射的に、こう祈った。

――良くなれ!

 黒羽さんは吉岡さんをうながして、わたしたちを楽屋に集合させた。
「クララのセンターはヤエが代わりに入る。ヤエのポジションは、一人ずつ詰めて処理。いいね」
「……はい」
「しっかりしろ、クララのためにも、ここは乗り越えなきゃいけないんだ。いいな!」
「はい!」
 やっと、みんなの声が揃った。
 わたしは賭けていた。わたしの力がほんものであることを……。

 そして、わたしは、自分の力を確信した。

 昼過ぎに、クララさんは、タクシーで、もどってきたのだ!



「ご心配かけました。盲腸じゃなくて、神経性の腸炎だったみたいです!」
「そんな……いや、わたしの誤診だったようです。ご迷惑かけました」
 医務室の先生を、ちょっと自信喪失にしてしまったが、わたしの力は本物だ。
 急性の虫垂炎を、あっと言う間に治してしまった……。

 メンバーの感激はハンパじゃなかった。喜びのあまり泣き出す子が半分。あとの半分は、初めてサンタクロースを見た子どものようにはしゃぎ、ヤエさんなんかクララさんにヘッドロックをかましていた。
「心配かけんじゃねーよ、死ぬかと思ったじゃねーか!」

 本番は順調だった。

 自分たちの出番だけじゃなく、男性グル-プのバックに入ってバックダンサーも務めた。
 大ラスは、スナップのみなさんたちだ。朝の連ドラのテーマミュージックにもなった曲で大団円。終わりよければ全てよし。赤組は負けちゃったけど。

 帰りのバスの中で、省吾のお父さんの思念が入ってきた。



――「紅白歌合戦」「FNS歌謡祭」「ベストヒット歌謡祭」の年末3大歌謡祭が、今年は外国歌手の出場をこぞって見送った。これも歪みの現れか……真夏さんに、いつ、どのように飛んでもらうか研究中です。
 
 来年はえらい年になりそうな予感がした。

 元日は昼まで寝てしまった。
「真夏、年賀状来てるわよ」
 お母さんの声で目が覚めた。
「なに、その段ボール?」
「だから、年賀状……どうすんのよ、こんなに来ちゃって」
 どう見ても、千通はありそうだった。

 アイドルは、たいへんだ……。

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