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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・29『阿弥陀さま?』

2022-11-19 06:41:06 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

29『阿弥陀さま?』  

 

 

「おーい」

 という声で目が覚めた。

 ボンヤリと白い服を着た人たちが目に浮かんできた……天使さんたちだ。

 十五歳のこの歳まで、わたしはいい子でいた……自己評価だけど。だから、わたしは天国に来たんだ……そう思った。

 真ん中に大天使ミカエルさま。両脇にきれいなオネエサンの天使がひかえていらっしゃる。

 でもいいのかな。うちって、たしか浄土宗か、浄土真宗……じゃ、これは阿弥陀さま?

 ドタっと音がして、阿弥陀さまの顔が、マリ先生のドアップの顔に入れ替わった。

「気がついた、まどか!?」

 ドアップが叫んだ。

「こまりますね。これから、いろいろ検査しなくちゃいけないんだから」

 阿弥陀さまが文句を言った。

「すみません」

 ドアップのマリ先生の顔が、視界から消えた。

 そして、ようやく気づいた。


―― わたしってば、助かったんだ ――


 頭の中がジーンと痺れている。こういう時って、その混乱のあまり泣いちゃったりするんだろうなあ……ひどく客観的に見ている自分がいた。自分でも意外に冷静。

 これが精神的なマヒであることは、あとになって分かってきた。

 阿弥陀さんだと思ったのは、お医者さん。天使は看護師のオネエサンだった。

 その向こうに、うれし涙の、お父さんとお母さん。さっきドアップになったマリ先生の顔があった。

――でも、どうして、わたし助かったんだろう……あの燃えさかる倉庫の中から……?

「もう、その袋、放してもいいんじゃないかな」

 阿弥陀……お医者さんが言った。

 わたしってば、衣装の入った袋を握りっぱなしだった。そのときは……素直に……は手放せなかった。

 手を開こうとしても、袋の握りのとこを持った手は開かない。ナース(看護師って言葉は、このとき馴染まなかった)のオネエサンが、その見かけより強い力で、やっと袋を放すことができた。

 それからCTやら、なんやらいろいろ検査があった。

「大丈夫、どこも怪我はしていないよ」

 お医者さんが笑顔で言った。

――よかった。

「でも、インフルエンザに罹っている。注射一本うっとこうね」

 さっきのナースのオネエサンが注射器を、お医者さんに渡した。

「ちょっとチクってするよ……」

 チクっとではなかった。グサッ!……ジワジワ~と痛みが走る。

 お医者さんの向こうでニコニコしているナースのオネエサンが、白い小悪魔に見えた。

 やっと解放されて、ロビーに出た。みんな待っていてくれた。

「お母さん」と、言ったつもりだったんだけど。白い小悪魔にマスクをさせられていたので、「オファファン」にしかならなかった。

「こいつが、おめえを助けてくれたんだぜ。さすが大久保彦左衛門の十八代目だ!」

 お父さんが、そいつを押し出した。

「ども、無事でなによりだった……」

 ヤツは……忠(ただ)クンは、煤と泥にまみれた制服姿で、ポツンと言った。

「ども、ありがとう」

 マスクをつまんで、わたしもポツンと応えた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問

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