鳴かぬなら 信長転生記
兄ちゃんが泣いている、腹の底から泣いている。
え……え……それって、俺のためなのか?
荒れ狂う長江の水から引き上げられて、やっと意識が戻ったら、家来や兵隊、それに川で助けてやった者たちが泣いていた「こんな年寄捨ておかれればよろしかったのに!」とか「おいらなんか助けて、将軍様があ!」とか「曹素さまあ!」とか。
泣くなみんな、ちょっと頑張り過ぎて体が動かないが、なに、ちょっとひと眠りしたら元気になるから……大丈夫だ……から……な……気が遠くなって、気が付いたら、今度は兄ちゃんが泣いてる。
こんな風に兄ちゃんが泣くのは父ちゃんが亡くなった時以来だ。
主筋の人や身近な家来、親類のおいちゃんやおばちゃん、大事な人が死んだときも泣いてたけど、こんな風に泣いたのは父ちゃんの時だけだ。
「曹素よ、俺が真に泣けるのは親父と、曹素、おまえに対してだけだ」
「え、なんでだ兄ちゃん?」
「親父は、世界で一番偉いから、曹素は一番愚かだからだ」
「な、なんだよ、それ(`Д´)」
「親父は俺以上の英雄だが、俺が生まれた時に星を失った」
「星?」
「天下人の星だ、いくら力があっても星を持っていなければ災いになるだけだ。そういうものだ」
「そうなのか?」
「曹素、お前には星も無ければ知恵もない。いっそ百姓にでも生まれていれば、普通に妻を迎え子をなし田畑を守って幸せに暮らせただろうに。なまじ俺の弟に生まれたばかりに破滅していく。許せ、弟よ」
「でも、兄ちゃん、兄妹なら他にも……茶姫なんか、にくたらしいけど、力があるじゃないか。だから、兄ちゃんの邪魔にならないように、時どき『余計なことを!』って兄ちゃん怒ったけど、懲らしめてやったし。兄ちゃんが必要だと思ったら、助けにいったし」
「曹素、おまえは愚かだが見る目はある……小動物が生きていくために災いを避けるような目だがな」
「災いなのか茶姫は?」
「茶姫は俺に並ぶほどの力があって星も背負っている。人の助けを得て大業を成す星を。しかし、茶姫の星は、残念なことに三国志の星ではない。そういう星を持った者は我が曹の家だけではなく天下の毒になる」
「茶姫も滅ぼすのか?」
「毒は使いようで薬にもなる」
「え、そ、そうか」
「俺にも愚かなところがある。ほとんどは母の腹の中に置いてきたがな。おまえは、この曹操が母の腹の中に残してきた、その愚かさ、曹家の愚かさを全て担って生まれてきたのだ、いわば曹家の人身御供、兄として涙せずにおられるものか」
そうか、兄ちゃんが泣いているのはそういうことなんだ。
俺は、ほんとうに死んでしまったんだ。
愚かだから、俺は死んでから反省してるのか……また眠くなってきた……え……あ……兄ちゃんの姿がダブってくる……え、兄ちゃんが何人もいる。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主