はるか 真田山学院高校演劇部物語・75
『第七章 ヘビーローテーション 13』
再びヘビーローテーションの日々が始まった。
歌もばっちり、台詞も完ぺき。感情も自然に湧いてくるようになった。
『おわかれだけど、さよならじゃない』も、新大阪での経験が生きて、カタルシスになってきた。
動きのほとんども、稽古の中で出てきた感情や、表情に合ったものに置き換わっていた。
でも、大橋先生はこう言うのだ。
「スミレとカオルが似てきてしもたなあ……」
「それって、だめなんですか?」
「人間と幽霊いう差ぁはありますけど。同じ世代同士やから、同じ感じになってきてもしゃあない……いうか、ええことちゃいます?」
「いや、やっぱり違う人格やねんから、違ごてこならあかん。だいいち時代性が出てけえへん。特にカオルなあ」
「わたしですか?」
「うん、ゼイタク言うてんねんけどな。やっぱし戦時中の女学生の匂いが欲しいな」
「匂いですか……」
「うん、ちょっとした仕草、物言い、表情とかにな。ま、もういっぺんやってみよか」
「はい」
そして、さらにヘビーローテーション。
わたしは戦時中女学生だった女流作家のエッセーや小説なんか読んでみたりした。
佐藤愛子さんや田辺聖子さんの本なんか参考になったけど、つい中味の面白さにひっぱられ……。
「アハハ」で終わってしまう。
もうコンクールの地区予選まで一ヶ月を切っていた。
わたしたちから希望してテスト中も、時間をきって稽古させてもらった。
そんな五里霧中の中、こんなことがあった。
学校で一回通しの稽古を済ませて、明日はテストの最終日、わたしがもっとも苦手とする数学がある。
ベッドにひっくり返って……以前も言ったけど、家で本を読むときは、時に他人様にお見せできない格好をしております。
もちろん頭は戦闘態勢。苦戦中ではありますが……。
上まぶたと下まぶたが講和条約を結びそう……。
鉄壁の防御を破り、y=sinθどもが足許から匍匐前進で、ベッドの下からはy=sin(θ+π/2)どもが攻め上ってくる。身体は金縛りにあったように動かない。
――ウウウ……ウ……と、わたしは苦悶の形相!
あわや、本塁を抜かれようとした、その刹那。
一匹の小さな白い狼のようなものが現れ、寄せ来る敵をバッタバッタと打ち伏せて、敵は無数のyや、θ、π、αなどに粉みじんになって消えていった。
その白いものは、人のカタチをしていた。
――マサカドクン……?
東京のホテル以来じゃないよ。大阪に来て、こんなに長いこと姿を見せないことってなかったじゃないよ。
すると、マサカドクンは少しずつ姿を変えていった。
四頭身の身体がスリムになっていき七頭身ほどになった。
そして、少しずつピントが合っていくようにあきらかになってきた……。
その姿はカオルそのものだった。
そして、何かを伝えようとしているように胸に手を当てた。
そして、何かを受け取ったような気がした……。
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