ライトノベルセレクト番外
『連続笑死事件・笑う大捜査線・3』
次々と起こる笑死事件。確たる死因が掴めぬまま、その規模は世界的になってきた。死因が分からないので、殺人事件とは呼べず、特捜本部は『連続笑死事件』と呼ぶしかなかった。この屈辱的な捜査本部の看板を忸怩たる思いで見つめながら、たたき上げの倉持警視は解決への意志を固めつつあった。そうして、世間は、いつしか、この特捜本部のことを『笑う大捜査線』と呼ぶようになった。
犯人は重大なミスを犯した。メッセンジャーに使った子供たちに顔を晒してしまったのだ。
むろん子供たちはマインドコントロールされ、暗示もかけられているので、当たり前に聞いては四人それぞれの「犯人の特徴」を言う。それも、聞く度に、その特徴が変わる。
逆に言えば、そのマインドコントロールと暗示を解いてやれば、子供たちは正確な犯人像を言ってくれるはずだ。
倉持警視と鑑識の山本部長は、石川奈々子という身内の犠牲者を出したこともあり、非常な決心をもってこれに臨んだ。
「早くホシを上げなきゃ、日本の警察の威信に関わります!」
管理監は、そう吠えたが、要は、自分の出世に関わるからである。
そうこうしている間に、しだいに子供たちの暗示が解け始めてきた。
「ちょっと手荒だけど、動き出さなきゃならないわね」
警視庁の脇を法定速度で走りながら、女は、そう呟いた。
車の中には、子供たちの脳波を検知するためのパソコンが置いてある。測定機は、子供たちの髪の毛に結びつけてある。髪の毛にそっくりなので、結びつけた髪の毛が抜けない限り有効である。
それが、もう限界に近いことを示している。むろん簡易な変装はしているが、鑑識の山本にかかれば、半日で正体を見破られてしまうだろう。
「もう、これまでね」
そう呟くと、女は眼鏡をしただけで、警視庁に乗り込んだ。
「もしもし、どこの部署にごようでしょうか?」
案の定、エレベーターの入り口で、警戒の警察官に声をかけられた。女は一枚のカードを警官に見せた。
「ああ、どうぞ、五階です」
「誤解ですね」
誤解がキーワードの一つであった。「五階」と「誤解」は微妙にアクセントが違う。言われた本人も気づかないほどに。そして、もう一つ「交代」という言葉を聞くと、この警官は笑い死ぬ。
五階につくと、特捜本部まで行くのに二度誰何され、二度、さっきと同じカードを見せ、通過した。
二人目までは、交代の時に死ぬはずである。三人目は若い女性警官であった。たまたま、妹に似ていた。
「ありがとう、婦警さん」
女性警官は、少し吹き出した。
「いまどき、婦警なんて言う人いませんよ」
「そうね、でも、わたし『婦人警官』て、言い方好きなもんで。母はそう呼ばれてましたから」
「お母さん、婦人警官でらっしゃったんですか!?」
「ええ」
「じゃあ、もっともですね」
これで、この子は昏睡のあと、少し記憶障害が残るだけですむ。
特捜本部に入ると、女はすぐに小さなヘッドセットを着けた。これでこの部屋中に声が届く。
女は、最初のカードを読み上げた。部屋の全員がクスクス笑い出した。倉持警視は、密かにイヤホンを両耳につけた。
「ハハハ、そいつが被疑者だ、確保しろ。ハハハ」
まだ、症状の軽い倉持警視が言った。
ニコニコした若い刑事が三人やってきた。女はすかさず、次のカードを読み上げた、マイクを外して。
三人の若い刑事は大爆笑し、床に倒れ痙攣し始めた。
「この三人は、四十秒で死ぬ。次は、あなたたち」
女は再びカ-ドを読み上げた。特捜本部のほぼ全員が大爆笑になり、床をのたうち回った。
「なぜ、あなたたちには効かないの……」
「だって、面白くないもの……」
そう答えたのは管理監だった。女は思った。こいつは日本語の機微が理解できないインテリバカだと。すかさず、カードを英訳して言ってやると、管理監は即死した。
「そこまでだ!」
倉持警視が、叫んだ。外で大勢の人の気配がした。同時に倉持警視がピストルを撃った。女は、かろうじてかわしながら、マイクをスワットの無線と同期させ、カードを読み上げた。とたんに外で大爆笑が起こり、人がどたどた倒れる音がした。
「ど、どうしたんですか!?」
さっきの女性警官の声がした。女はドアに向かい「交代」と叫んだ。痙攣したような笑い声がして、気配が消えた。
「無益な殺生しやがって!」
倉持警視の怒声続いて、銃声がした。
「スワットは死んだけど、あの婦警さんは昏睡しているだけよ。それにしても、あなたには、なぜ効かないの!?」
「オレは、洒落の分からん男でな!」
倉持警視は、一気に間合いを詰めてきた。女はパソコンのケーブルを思い切りひっぱり、倉持警視はそれに引っかかって、ドウと倒れ、イヤホンの片方が外れた。
女は素早く、それを奪うと、倉持のピストルを持った手を踏みつけた。
「なるほど……翻訳機か。日本語が英語で聞こえるのよね。そっちのエライサンとは反対か」
「一つ、教えてくれないか。お前さん自身は、なぜ死なないんだ……」
「作家はね、自分の言葉に愛情を持ってるのよ。その愛情を注いだ言葉で死ぬわけ無いでしょ」
「でも、生かしておくわけにもいかないな」
「どうぞ……」
女は、倉持の手を踏みつけた足を緩めた。すかさず倉持警視は、しびれる手でピストルを撃った。
弾は女の胸を貫いたが、死ぬまでには至らなかった。
「最後の一枚、お父さんのギャグ……」
女は、苦しい息の中で、その短いギャグを読んだ。そしてニッコリ笑ってこときれた。
倉持警視は、大爆笑の末、二分後に息を引き取った。
この内容は、女のヘッドセットを通して、彼女のパソコンに送られ、自動的に文章化され出版社に送られた。ただし、殺人ギャグは全て文字化けしていた。
作品は『連続笑死事件・笑う大捜査線』として出版され、その年のベストセラーになった。
ちなみに文字化けした殺人ギャグは以下の通りである。解析すれば、まだ効き目があるかも知れない……。
!""""#$%&'((()))))=~~^\”%%`@@@_¥♪!""""#$%&'((()))))=~~^\”%%`@@@_¥♪###!!
『連続笑死事件・笑う大捜査線』完
『連続笑死事件・笑う大捜査線・3』
次々と起こる笑死事件。確たる死因が掴めぬまま、その規模は世界的になってきた。死因が分からないので、殺人事件とは呼べず、特捜本部は『連続笑死事件』と呼ぶしかなかった。この屈辱的な捜査本部の看板を忸怩たる思いで見つめながら、たたき上げの倉持警視は解決への意志を固めつつあった。そうして、世間は、いつしか、この特捜本部のことを『笑う大捜査線』と呼ぶようになった。
犯人は重大なミスを犯した。メッセンジャーに使った子供たちに顔を晒してしまったのだ。
むろん子供たちはマインドコントロールされ、暗示もかけられているので、当たり前に聞いては四人それぞれの「犯人の特徴」を言う。それも、聞く度に、その特徴が変わる。
逆に言えば、そのマインドコントロールと暗示を解いてやれば、子供たちは正確な犯人像を言ってくれるはずだ。
倉持警視と鑑識の山本部長は、石川奈々子という身内の犠牲者を出したこともあり、非常な決心をもってこれに臨んだ。
「早くホシを上げなきゃ、日本の警察の威信に関わります!」
管理監は、そう吠えたが、要は、自分の出世に関わるからである。
そうこうしている間に、しだいに子供たちの暗示が解け始めてきた。
「ちょっと手荒だけど、動き出さなきゃならないわね」
警視庁の脇を法定速度で走りながら、女は、そう呟いた。
車の中には、子供たちの脳波を検知するためのパソコンが置いてある。測定機は、子供たちの髪の毛に結びつけてある。髪の毛にそっくりなので、結びつけた髪の毛が抜けない限り有効である。
それが、もう限界に近いことを示している。むろん簡易な変装はしているが、鑑識の山本にかかれば、半日で正体を見破られてしまうだろう。
「もう、これまでね」
そう呟くと、女は眼鏡をしただけで、警視庁に乗り込んだ。
「もしもし、どこの部署にごようでしょうか?」
案の定、エレベーターの入り口で、警戒の警察官に声をかけられた。女は一枚のカードを警官に見せた。
「ああ、どうぞ、五階です」
「誤解ですね」
誤解がキーワードの一つであった。「五階」と「誤解」は微妙にアクセントが違う。言われた本人も気づかないほどに。そして、もう一つ「交代」という言葉を聞くと、この警官は笑い死ぬ。
五階につくと、特捜本部まで行くのに二度誰何され、二度、さっきと同じカードを見せ、通過した。
二人目までは、交代の時に死ぬはずである。三人目は若い女性警官であった。たまたま、妹に似ていた。
「ありがとう、婦警さん」
女性警官は、少し吹き出した。
「いまどき、婦警なんて言う人いませんよ」
「そうね、でも、わたし『婦人警官』て、言い方好きなもんで。母はそう呼ばれてましたから」
「お母さん、婦人警官でらっしゃったんですか!?」
「ええ」
「じゃあ、もっともですね」
これで、この子は昏睡のあと、少し記憶障害が残るだけですむ。
特捜本部に入ると、女はすぐに小さなヘッドセットを着けた。これでこの部屋中に声が届く。
女は、最初のカードを読み上げた。部屋の全員がクスクス笑い出した。倉持警視は、密かにイヤホンを両耳につけた。
「ハハハ、そいつが被疑者だ、確保しろ。ハハハ」
まだ、症状の軽い倉持警視が言った。
ニコニコした若い刑事が三人やってきた。女はすかさず、次のカードを読み上げた、マイクを外して。
三人の若い刑事は大爆笑し、床に倒れ痙攣し始めた。
「この三人は、四十秒で死ぬ。次は、あなたたち」
女は再びカ-ドを読み上げた。特捜本部のほぼ全員が大爆笑になり、床をのたうち回った。
「なぜ、あなたたちには効かないの……」
「だって、面白くないもの……」
そう答えたのは管理監だった。女は思った。こいつは日本語の機微が理解できないインテリバカだと。すかさず、カードを英訳して言ってやると、管理監は即死した。
「そこまでだ!」
倉持警視が、叫んだ。外で大勢の人の気配がした。同時に倉持警視がピストルを撃った。女は、かろうじてかわしながら、マイクをスワットの無線と同期させ、カードを読み上げた。とたんに外で大爆笑が起こり、人がどたどた倒れる音がした。
「ど、どうしたんですか!?」
さっきの女性警官の声がした。女はドアに向かい「交代」と叫んだ。痙攣したような笑い声がして、気配が消えた。
「無益な殺生しやがって!」
倉持警視の怒声続いて、銃声がした。
「スワットは死んだけど、あの婦警さんは昏睡しているだけよ。それにしても、あなたには、なぜ効かないの!?」
「オレは、洒落の分からん男でな!」
倉持警視は、一気に間合いを詰めてきた。女はパソコンのケーブルを思い切りひっぱり、倉持警視はそれに引っかかって、ドウと倒れ、イヤホンの片方が外れた。
女は素早く、それを奪うと、倉持のピストルを持った手を踏みつけた。
「なるほど……翻訳機か。日本語が英語で聞こえるのよね。そっちのエライサンとは反対か」
「一つ、教えてくれないか。お前さん自身は、なぜ死なないんだ……」
「作家はね、自分の言葉に愛情を持ってるのよ。その愛情を注いだ言葉で死ぬわけ無いでしょ」
「でも、生かしておくわけにもいかないな」
「どうぞ……」
女は、倉持の手を踏みつけた足を緩めた。すかさず倉持警視は、しびれる手でピストルを撃った。
弾は女の胸を貫いたが、死ぬまでには至らなかった。
「最後の一枚、お父さんのギャグ……」
女は、苦しい息の中で、その短いギャグを読んだ。そしてニッコリ笑ってこときれた。
倉持警視は、大爆笑の末、二分後に息を引き取った。
この内容は、女のヘッドセットを通して、彼女のパソコンに送られ、自動的に文章化され出版社に送られた。ただし、殺人ギャグは全て文字化けしていた。
作品は『連続笑死事件・笑う大捜査線』として出版され、その年のベストセラーになった。
ちなみに文字化けした殺人ギャグは以下の通りである。解析すれば、まだ効き目があるかも知れない……。
!""""#$%&'((()))))=~~^\”%%`@@@_¥♪!""""#$%&'((()))))=~~^\”%%`@@@_¥♪###!!
『連続笑死事件・笑う大捜査線』完