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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・012『あんたさん』

2019-04-30 15:05:41 | ノベル
せやさかい・012
『あんたさん』 
 
 
 
 テイ兄ちゃんが放っておくわけがない。
 
 金髪の美少女が門前に来て妹と談笑している。
 むろん、わたしと留美ちゃんも居てるねんけど、テイ兄ちゃんには金髪の美少女しか見えてへん。
 
「やあ、ちょうどお饅頭頂いたところだから、いっしょにどうぞ」
 歯磨きの宣伝みたいに白い歯を光らせ、作務衣の手にはホウキなんか持って、インテリ坊主風に現れた。
「うわー、お坊様だ! え? え? さくらちゃんのお兄さん(正しくは従兄なんやけど)? こちらがお姉さん(正しくは従姉)なんですか!?」
「こっちが、おんなじクラスで文芸部の榊原さん!」
「は、初めまして、酒井さんにはお世話になってます、榊原留美です」
 留美ちゃんが挨拶すると、身についた坊主の慇懃さで挨拶を返すテイ兄ちゃん。
 坊主の挨拶は丁寧なほど職業的慇懃さで出てきたもんで、見かけの割に気持ちは籠ってへん。せやけど、留美ちゃんが感動してるんで、なにも言いません。
 
「お饅頭なんて、いつでもあるんですよ」
 
 お茶とお饅頭をテーブルに置きながらコトハちゃんが笑みをこぼす。お寺の娘やから、こういう動作と言葉遣いは、そのへんの旅館の仲居さんよりサマになる。
「「ありがとうございます」」
 頼子さんと留美ちゃんが初々しく頭を下げる。テイ兄ちゃんもにこやかに受け答えして、頼子さんとお近づきになりたそう。でも、本堂の方から「諦一ぃ~」と伯父さんの声がして、仕方なく尻をあげる。
「桜もすごかったですけど、境内にはいろんな木や花があるんですね!」
「ポピーにアセビにハナミズキ、ガーベラにツツジ……ハハ、わたしも知らないのがある」
 ケラケラ笑ってもコトハちゃんはベッピンさんや。
「そうだ、お祖父ちゃんが写真に撮ってたのがある」
 立ち上がってボードから写真帳を出してきた。
 写真帳には季節ごとにお寺で咲く花の写真と解説が載っている。お祖父ちゃんはマメな人やけど、こんなん作ってたなんて知らんかった。
「檀家さんや、お寺を尋ねてきた人に説明と言うか、喜んでもらうために作ったらしいわ」
「へー、そうなんだ!」
 お母さんの「そうなんだ」と違う、感動の「そうなんだ!」を発する頼子さん。ちょっとだけ「そうなんだ」を見直す。
「お寺って、本当は来てもらってなんぼってところがあって、夕陽丘さんみたいに興味を持ってもらうのが狙い……なんて、言ってるけど、ようは見せびらかしたいだけ。よかったら、いつでも見に来てちょうだい。お饅頭ならいつでもあるから」
「はい、お言葉に甘えて、また来させてもらいます! あ、お経……」
 
 本堂の方からナマンダブナマンダブが聞こえてくる。
 
「陰気臭くてごめんなさいね、うちの商売だから、朝と夕方は、阿弥陀さんにお経唱えるの」
「ナマンダブって……南無阿弥陀仏のことですか?」
「ええ、そうよ。ずっと昔に南無阿弥陀仏が訛ってナマンダブになったらしいわ」
「そうなんだ……安泰山と書いてアンタサンと読むのもそうなんですか?」
「あ……そうかな、たぶん。普段から気にしたことないから」
 わたしは――気にしたことないどころか、安泰山という山号じたい知らんかった。
「でも、うちの学校は同じ字で安泰中学って書いて、アンタイって普通に読むんですですよね」
「え、あ……そうね。あら、今まで不思議だなんて思ったことも無かった」
「あ、ごめんなさい。こういうことが気になると放っておけない性質で」
「あ、ううん。こういうことに疑問を持つなんて、大事だし素敵なことだと思うわ。こんどお祖父ちゃんにでも聞いてみてお知らせするわ」
「すみません、変なことが気になって(^_^;)」
 
 その後、お祖父ちゃんに聞いて分かったんだけど、頼子さんが推測した通り、安泰山が訛ってアンタサンの読みになったらしい。
 ちなみに、家の前の道路を如来通りというのも、うちの如来寺という名前から来たらしい。
 安泰中学というのは、なんのことはない、このあたりの地名が安泰というところからきているんだそうだ。むろん読み方はアンタイで、うちのお寺との関係は……また調べとくということやった。
 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩        さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美        さくらの同級生
  • 夕陽丘・スミス・頼子  文芸部部長
  • 瀬田と田中       クラスメート
  • 菅井先生        担任
  • 春日先生        学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん

 

 

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