やくもあやかし物語 2
「時間切れで戻ったんじゃないの!?」
マーフォーク(半魚人)とともに海になりかけていた水も消えた草原。剣を地面についてゼーゼーいうハンターに声をかける。
「もう一度試してみたんだ。親父が野球の監督でね、9回の裏に同点にして延長戦て感じかな(^_^;)。ソフィー先生が近衛の剣を持ってきてくれていてね――あ、使ってみたい――と思ったら、来られたというわけさ」
「あ、待ってて、すぐにあがるから!」
『ちょ、やくも!』
御息所が急降下して来てタオルで隠してくれる。
間一髪のところを助けてもらったんで、思わず裸のままで飛び出すところだったよ(^_^;)。
で、服を着て出て見ると……あれ?……近衛の剣だけが残っていてハンターの姿は無かった。
「もう帰っちゃった? 9回の裏のピンチヒッターって感じだったねぇ」
『はつらつとした男だと思っていたけど、野球選手の息子だったんだ』
「監督って言っていたよ」
『か、監督は元々は選手であろうが』
「そうだね……剣、どうしよう」
『持っていくしかないだろ』
「そうね……よいしょ……ちょっと長い(^_^;)」
腰につけてみるんだけど、地面をこすってしまう。
「肩に担ぐか……」
忍者みたいに担いでみる。ちょっとカッコいいかもしれない。
『おお、佐々木小次郎みたいじゃ』
「ささきこじろう?」
『宮本武蔵を知っておろうが』
「あ、ああ、宮本武蔵にやっつけられる人!」
『あれは、武蔵がゴチャゴチャ言ってイラつかせるから。ほんとは、武蔵に負けないくらい強いのじゃ!』
「そ、そうか、ならいいか……でも、わたしにはミチビキ鉛筆があるよ」
『武士は二本差しと言って、大小二本の刀を持っているもんじゃ』
「そうか、ならいいや」
『ふふふ( *´艸`)』
「なによ」
『では、参るか』
「おお!」
緩やかな坂を下っていくんだけど、マーフォーク(半魚人)があれだけの勢いで出した海は水たまりさえ残っていない。振り返るとカルデラからは春のタケノコよりも早いスピードで木が生え始めている。
「ふふ、あの半魚人、見た目にエネルギーを使いすぎなんだよね」
『ふふ、けっこう必死だったけど……まあいい、意気軒昂なのはいいことじゃ』
「見た目も実力もなかなかよ、見てなさい……」
トォォォーーーー!
ジャンプすると同時に旋回して、カッコよく背中の剣を抜く!
グヌ!?
旋回はできたけど、着地しても剣が抜けない。先っぽの方が鞘に入ったままで、うでは伸びきって突っ張らかってしまう。
『アハハ、なるほど、カッコいいのう』
「なんで、こうなるの?」
『右肩に掛けておるからじゃ』
「ええ、だってドラマとか映画とか、右肩じゃない」
『ためしに左掛けでやってみ』
「……こう?」
『それで、さっきみたいに抜いてみよ』
トォォォーーーー! シャラン!
「抜けた!」
『さあ、参るぞ』
「お、おお」
なんで?
『行くぞ』
「うん」
御息所と二人、さらに先に進んだ。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人