馬鹿に付ける薬 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
005:即席青空天井の茶店・1
「……校長先生?」
思わず声をかけて――しまった!――と思うアルテミス。
木の間隠れに見える校長は、思いのほかアタフタしてしまっているのだ。
異世界の旅に出たところで怪しい土を掘る音が聞こえた。
さては早くも魔物が現れたか!?
ベロナをおいて見に来ると、さっき申し渡し式で舞台の脇に立っていた宮沢校長がザックザックと鍬を振るっているのだ、アルテミスはビックリした。
「どうかしたのぉ~?」
ベロナものんびりした声を上げて、こちらにやってくる。
「あらあぁ、校長先生ではありませんかぁ」
「あはは、とんだところを見られてしまったねえ(^_^;)」
手拭いでハタハタと土を落とす校長。正体を知っている学校関係者が見れば紛れもない宮沢賢治校長なのだが、知らない者が見れば、ただの初老のお百姓だ。
「いや、すまんねえ。畑のことが気になって、つい教頭先生に任せてしまった」
校長とはそういうものだと思っている二人にこだわりはいないが、こんなところで畑仕事をしているのは不思議だ。
「裏の畑とは繋がっていてね……いや、なに、来年からは学生も増えそうだし、学食のメニューもね、もうちょっと品数を増やそうと思って、畑を増やしているんだ」
「それは、どうもごくろうさまです」
「校長先生も大変なんだな」
「あはは、いやいや、君たちに比べたら年寄の道楽だよ」
「わたしとアルテミスは、ただの落第生です」
「そうだそうだ、学食のおばさんにもらったおはぎがあるんだ。はなむけと言ってはなんだが食べて行きなさい。下の川でお茶も冷やしてるから」
「あ、あの川だな」
校長の返事も聞かずに川に下りるアルテミス。校長は朴葉(ほうば)の葉っぱを切り株に敷いて即席の茶店のしつらえが整う。
「すみません、先生(^_^;)」
ベロナは、こういう急な思い付きや展開は遅れるところがある。
「いやいや、生徒会長は、それぐらいドッシリとしていた方がいい」
「そっちの方はしばらく休むことに……」
「ああ、そうだったね。でも、今年度の予算も年間計画も立ててくれているし、大丈夫さ。真の指導者は、自分が不在でも回るようにしているもんさ」
「おそれいります(^_^;)。湯呑はこちらのでよろしいですか」
「ああ、自由に使ってくれたまえ」
湯呑はちょうど三人分――先生、見越してらっしゃった?――と思わないでもないベロナだが、ちょうどアルテミスがヤカンを下げて来て、即席青空天井の茶会が始まった。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- アルテミス 月の女神
- ベロナ 火星の女神 生徒会長
- カグヤ アルテミスの姉
- マルス ベロナの兄 軍神 農耕神
- アマテラス 理事長
- 宮沢賢治 昴学院校長
- ジョバンニ 教頭