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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・075『バイト許可願を出しに行く』

2024-01-21 10:36:33 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
075『バイト許可願を出しに行く』   




「あのう……若杉先生の机はどこでしょうか?」


 一番近い席の先生に聞いてみる。

「あ、向こうの三番目。でも、めったにこっちには来られないから国語の部屋か生活指導行った方がいいわよ」

「あ、はあ……」

 生返事になるのは、国語準備室も生活指導室にも行って、似たようなことを言われて、職員室に周ってきたからだ。

 中学も小学校も、先生と言えば職員室に居た。

 用事があったら職員室、それでたいがい間に合った。

 ところが、宮之森高校の先生は一筋縄ではいかない。職員室以外にも教官室とか教科別の準備室とか、先生によっては分掌(進路指導とか生活指導とか保健とか)の部屋があって、そこに籠ってる。かと思ったら、図書室とかで油売ってる先生も居て、一度で掴まえられることは少ない。

「ああ、一年五組の写真屋さん」

「え、あ、はい(;'∀')!」

 奥の教頭先生に声を掛けられ、ちょっとビックリ。

「ひょっとしてバイト許可だろ?」
「はい」

 反射的に返事して教頭先生のところに足を運ぶ。

「どうせ、僕の所に周って来る書類だから、受け取っておくよ」

「え、そうなんですか?」

 教頭先生が指差したところには捺印の欄があって、担任、生活指導、教頭、校長の順に並んでいた。

「すみません、それじゃお願いします」

「須之内写真館は長いの?」

「去年の四月から……あ」

 言って、しまったと思った。ほとんど十カ月無届だったんだから。

「ほとんど結婚式場の仕事でしょ?」

「あ、はい。希望が丘の公民館の結婚式場です」

「そうか、あそこなら手堅い仕事だねえ」

「はい、マスターなんかもそう言ってます」

「マスター……ああ、お父さん……須之内も結婚式の写真が一番いいって言ってたなあ」

「その須之内って、宮之森連隊の?」

「うん、同年兵でね同じ班にいたんだ。除隊したらお目出度専門の写真屋になるって言ってた。現在は姪の直美ちゃんが継いでるみたいだね」

「はい、外回りは。写真館の中はマスターです」

「そうか、まあ、勉強との両立を忘れずに励みなさい」

「ありがとうございます。じゃ、失礼します」


 ちょっとかたいお辞儀をして教室に戻る。

 よかった、教頭先生の配慮が無かったら昼休みがつぶれるのを覚悟していたからね。

 それで、昼休はいつものようにお仲間と学食へ飛んでいく。

 
 あれぇ?

 ちょっと拍子抜け。いつも混んでる学食がガラガラ。


「あ、明日から三年は学年末テストだから、今日は午前中だけですよぉ!」

 ロコが喜んでガッツポーズ。

 そうか、高校は三年間ていうけど、三年生は十カ月しかないんだ。

 A定食をトレーに載せて窓際の席へ。

 窓際と言っても、二階まで吹き抜けのガラス張り。それが厨房からの熱気とストーブの熱で曇ってる。ここから見える景色は大きくて学校で一番のオキニ。

 だから、ちょっとだけ魔法を使って曇りを取ってみる。

 見上げた空は、いつの間にか鈍色になって、けっこうな雪が降り始めていた。昭和の空は気合いが入ってると思った。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第57話《あかぎ奇譚・4》

2024-01-21 07:46:46 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第57話《あかぎ奇譚・4》惣一 




 その船は……戦艦大和であった。


「対空兵装から天一号作戦時の大和かと思われます……」

「沖縄水上特攻時の姿か……」

「しかし……」

「艦上に人の気配がない……」

 大和は「あかぎ」と500メートルほどの至近距離で併走しており、甲板上の針ネズミのような対空機銃座やブリッジ、対空戦闘指揮所に人が居れば見える距離であった。それが艦上には、まるで人の気配が無い。

 そして、相変わらず「あかぎ」にいくつもあるレーダーには映らないのである。

「所属と艦名を聞け」

「は……」

「待て、この距離なら、発光信号と旗旒信号でおこなえ。C国に傍受されると厄介だ」

 艦長の命令でアナログの信号が送られた……が、返事がない。

「……あの大和は実在なのか?」

「艦長、ビデオには姿が映りません!」

「なに?」

 ブリッジだけでは無かった、我が砲雷科でも何人かがビデオ撮影を試みる。モニターには映るが、映像としては取り込めない。つまりデジタルとしては存在しない船なのである。

「艦長、本艦は左舷に流されています」

 当直航海士が、静かに言った。

「潮の流れではないのか?」

「潮は艦首方向から二ノット。右舷からの影響は、あの大和の縦波の影響かと思われます」

 大和ほどの大型艦が500の距離で併走すると、相手が起こす波が微妙に影響し、反対方向に流される。その物理的な影響は受けていることになる。

 つまりは、幻ではない。

「面舵五度。大和に300まで接近」

 あかぎは、かすかに左舷に傾斜しながら大和に近づいた。全長・全幅で大和とあかぎは、ほぼ同じ大きさだが、艦上構造物、特に46サンチ砲三基の威容は圧倒的であった。

「シーホークを飛ばそう」

 艦長は艦載ヘリのシーホークを飛ばし、全方位的に大和を観察することにした。

 ヘリからも、大和の映像が送られてきた。それはCGなどではない実在感があった。甲板も伝説通り黒く塗装され、甲板の機銃の周りには土嚢が積まれていた。ただ、人の姿が見えない。そしてビデオには映らなかった。

「大和との距離300」

「もどーせ、よーそろ」

 船は、近づきすぎると、僅かに引き合い、放置すれば衝突する。観艦式などで、何隻もの船が単縦陣で併走するのが高度な技術であるのは、このへんの事情による。現在、世界で、これが出来るのは米英海軍と我が海自ぐらいのものだ。

「艦長、ソナーに感あり。両舷後方より二隻(ふたせき)距離フタ千」

 CICから、ブリッジに報告が上がってきた。

「キャビテーションは?」

「ハン級と思われます」

「気づかないフリをしておこう。ここはバカになっておく」

 外国の潜水艦が近づいても、よほど危機が迫らない限り反応しないのが海自のセオリーである。反応すれば、こちらの対潜能力が知れてしまうからだ。

「大和より発光信号!」

 右舷見張り員が叫んだ。そして、ブリッジからの指示を聞くまでもなかった。発光信号であるので、大和を見ていた乗組員にはみんな分かった。

――ヒト分後、機関停止、両舷全速反速サレヨ――

「どういう意味だ?」

 1分後にスクリューを停め、逆回転させろということだ。車で言えば、急ブレーキをかけ、全速でバックで走れということである。

「艦長、ハン級二隻が速度をあげてきました」

 CICが言ってきた。

「真横で浮上して驚かそうという腹でしょう。放置しときましょう」

 副長は独り言のように意見具申した。

「盛大に驚いたフリをしてやろう」

 以前、アメリカの機動部隊の輪形陣の真ん中に、C国の原潜が浮上したことがある。アメリカは艦隊全部で驚いたフリをした。これでC国は、米軍や海自の対潜能力を低く見積もった。で、艦長は、今回も同じであろうと判断したのだ。ただ、両舷から二隻同時にという離れ業……司令部からの指示ではないだろう、現場の撥ねっかえりの思い付き。

「大和より、発光信号。機関停止、全速反速30秒前」

「……」

「艦長……」

 乗員は、大和の意図を計りかねた。

「機関停止、全速反速。総員衝撃にそなえよ!」

 艦長は、大和にかけてみた。

 ガク!

 あかぎは、つんのめったように速度を下げ、十数秒後には停止。すぐに後進になった。艦長の指示がなければ、ほとんどの乗員が転倒していただろう。

「ハン級、全速で我が進路を塞ぎます!」

 ゴゴーン!

 C国のハン級は、あかぎの前方300ほどで急速浮上し、なんと味方同士で衝突してしまった。

「あのまま進んでいたら、どちらかの潜水艦と接触事故をおこしていたところだ」

「ナンクセをつけられるところでしたね……」

 航海長が、汗を拭いた。

 潜水艦は両舷の直近で浮上して、こちらを驚かそうとしたんだ。ところが、あかぎが急停止して後進をかけたので、追い越してしまい味方同士で接触してしまったのだ。

「左舷前方の潜水艦浸水の模様、乗員が避難しつつあり!」

 左舷の見張り員が叫んだ。

 あかぎは、救命艇を出して、C国の乗組員の救助に向かった。そして、それに気を取られているうちに大和の姿は消えてしまった。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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