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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:224『玄室・2』

2024-01-13 10:28:13 | 時かける少女
RE・
224『玄室・2』ブリュンヒルデ 




「あれほど約束をしたのに……来てしまったのね……」

「すまない、しかし、これ以上国生み神生みを遅らせることはできないんだ」

「それは現世の理り。ここは幽世のどん底、黄泉の国。黄泉の国には黄泉の国の理りと時の流れがある、それを蔑ろにして……」

「それも重々承知のこと、役目が終われば、このイザナギも共に黄泉の国の民に成ろう。どうかイザナミ、いま一度わたしのところに……」

「戻れと言われるか……しかし、しかしそれならば、なぜ、この妻の顔をご覧にならぬ。目と目を合わせ、心の底からお頼みにならぬ。それに、なぜに異世界の者たちがいっしょなのじゃ、異世界の者に恥を晒されるのじゃ……」

「ここにいるのはブリュンヒルデ殿とその警護の者。ヒルデ殿は、我々の国生みを陰に陽に見守って助けてくれたお方です。向こうには、同様にオノコロジマから助けてくれているテルさんを始め、旅の途中で仲間になってくれた人たちも控えています。みんな心配し、力になろうと……」

「力になろうと……ならば……なぜ、顔を、妾の顔を見てお話にはならぬのじゃ? わたしは、それを先に問うたぞ」

「ならば……」

 しっかと面を上げるイザナギ殿。わたしはタングニョーストと共にわずかに頭を上げるのみ。ここは、腹を割った夫婦の会話であろうと思う。

「なぜに、そのように平然と笑顔を向ける?」

「だって夫婦ではないか」

「異世界の姫は、正直に面を伏せたままではないか……膿み腐れた者に対しては、そちらこそ、正直な反応……イザナギ殿、その笑顔は偽善じゃ、偽りじゃ!」

 顔を見ろと言ったのはイザナミの方ではないか、鳥頭か、こいつは……つい顔を上げてしまう。

「見るな! 夫に見られてさえ、このように腹が立つ、異世界、蛮族の姫ごときにコケにされる謂れはない! 立った腹が弾けてしまいそうじゃあ!」

 !!

 いかん、ほとばしる怒りと殺気の前にタングニョーストが身構える。軍人としてのあるべき反射行動なのだろうが、ここは拙い!

「おのれえ、やはり妾を愚弄するか! 害そうとするかあ!」

 ゾワゾワゾワ!

 イザナミのオーラが騒めいたかと思うと、その騒めきは一瞬で数十の鬼を生み出した。

「イザナミ!」

 イザナギ殿は、叫びながら鬼夜叉と化した妻を抱きしめようと身を乗り出す!

「「危ない!」」

 タングニョーストと二人、男神を引き留め、同時に剣を抜き矢をつがえる。

「もう話にならない、ここは退こう! タングニョースト、イザナギ殿を!」

「ここは、わたしが食い止めます! 姫こそ……」

 言い終る前に五本の矢を放ち、ソードを抜いて三匹の鬼の首を払った!

 ビシュ! ドガ! シュビビ! バシュ! ビシュ! バシ!

 わたしも、ソードを抜いてたちまちのうちに七匹の鬼を切る。

 間近で見る鬼は、その体つきから女の鬼だと分かる。

「女だと舐めるではない、この鬼どもは黄泉醜女(よもつしこめ)、数においても力においても汝(うぬ)らの敵う相手ではないわ、それえ!」

 ゾワゾワゾワ

 イザナミが袖を振ると死臭とともに打ち倒した以上の黄泉醜女が湧いて出て、その一部は退路を断とうと後ろに周り始める。

「囲まれます!」

 そう叫ぶと、両手でわたしとイザナギ殿を羨道方向に突き飛ばし、振り返りながらフレームレート100以下では描画できないほどの早業で黄泉醜女どもを切り伏せるヒルデの忠臣。

 タングニョーストオオオオオオオオオオオ!!

 羨道を半ばまで戻って戻る途中では玄室からの雄たけびや剣戟の音や閃光がしていたが、元の通路に達した時には間遠になり、やがては途切れてしまった。



☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第49話《勢いで頷いてしまった》

2024-01-13 06:59:51 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第49話《勢いで頷いてしまった》さくら 





 ワケてんの台本がきた。


 正確には『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』という。

 はるかさんの高校時代、ドラマチックな青春の7カ月を描いた前評判十分な小説の実写版。

 四月の下旬には本屋さんの店頭に並ぶんだけど、前評判が高いので、夏に封切りの予定で映画化することになり、はるかさんの推薦で、わたしは、はるかの親友・鈴木由香の役をやらせてもらうことになった。


「さくらもいっしょにね」


 まるで、コンビニに行くような気楽さで言われた。撮影の休憩時間、窓から見える桜がきれいなんで「ちょっと桜見てきま~す」と誘われた。

「あ、はい」

 と、軽く返事した。正直頭の中は花より団子で、このあとどこでお昼にしようかと思案中だった。

「……え、『ワケてん』映画化するんですか!?」

「うん、ちょっとハズイんだけどね。ピュアな青春映画……大昔の日活青春ドラマじゃあるまいし……とは思ったんだけどね……けどね」

「『けどね』が多いですね」

「だって、自分が主人公の映画だよ、正直不安。で、キャストの一部を、わたしが選んで良いって条件で引き受けた」

 この時点では、舞い散る桜の花びらみたくエキストラに毛が生えたような役だと思っていた。

 多分、東亜美とか住野綾とかの、はるかのイジメ役。ラストで和解して、ちょっと仲良くなる。その程度の役だと思っていた。

「鈴木由香をやってもらいたいの」

「ギョエー( ゚Д゚)! 由香ってはるかの親友じゃないですか!」

「ハハ、ギョエーは、わたしよ。ワケテンて、まるっきりわたしの話だよ」

 そう言って、はるかさんは、まわりに一杯いる家族連れに目をやった。

「みんな仲の良い家族に見えてるけど、家族の絆って、案外もろいんだよね。高校生のころのわたしは気づかなかった。それだけの話なんだけどね」

 それだけなんてもんじゃない。

 あたしは原作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』を読んでいるから分かっている。

 元は成城にお家があったIT関連会社の社長の一人娘。それが会社の倒産で、実家の南千住にある従業員三人の印刷会社の名ばかり専務の娘……要は下町の女の子になった。

 そして、高校二年になったばかりで両親が離婚して大阪へお母さんといっしょに引っ越し。そこから、さらに苦労が……そこまで思い出していると、はるかさんが後を続けるように語った。

「わたし、時間と努力があれば家族って、取り戻せると思ってた。だから、お金貯めたり借りたりして南千住にもどったら、お父さんには秀美さんて、新しい奥さんがいた……」

「あの荒川の河川敷で大泣きするシーン、感動的でした!」

「あそこ一番ハズイのぉ。普通の子だったら、親が別れたら、『あ、そう』てなもんらしいのよ」

「でも、あれがあったから、みんなの絆が強まったんじゃないですか」

「結果的にはね。わたしは、そんな自覚なんにも無かったけど」

 で、あたしは、核心に入った。

「だからこそ、今時貴重な愛の物語に……鈴木由香って、それに大きな影響あたえるんですよね?」

「そうよぉ。カレはもってかれちゃうし、シバキ倒して、わたし停学になっちゃうし。でも、心の友なのよね」

「あれって、カレの吉川裕也をシバキ倒そうとしたら、止めに入った由香を、シバいてしまうんですよね」

「うん、あの痛みは今でも覚えてる」

「は……?」

「ひとをシバクとシバいた人間も痛いんだよ……」

 はるかさんは開いた右手を数秒見つめると、ズイっと手を差し出した。

「この役はさくらじゃなきゃ務まらないから。ま、よろしくね」

「は、はい」

 勢いで頷いてしまった。

「ああ、お腹空いてきた。お昼にしようか!」

「はい、ちょっと適当なお店検索してみますね」

 スマホ出してスイッチ入れたら、はるかさんが、その手をさえぎった。

「お昼は手配済みだから」

 公園の向こうから、お弁当のデリバリーのオニイサンがやってきた。

 ま、こんな調子でハメられた。

 由香の役は正直重い。


 なんたって、全編大阪弁なのよ!


 それに、明日からは高校二年生。あたし自身将来のこと真剣に考えなきゃ。

 わたしは、まだ女優を専業にする覚悟はできていなかった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 
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