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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・213『仏蘭西波止場・3』

2021-05-20 09:45:53 | 小説

魔法少女マヂカ・213

『仏蘭西波止場・3』語り手:マヂカ     

 

 

 数が多い! 多すぎる!

 

 中華街から桜木町駅にかけての上空には雲の上から黒コショウをまき散らしたように妖たちが集まり始めていた。

 実体化している者は、前衛のわずかな者たちで、デテールを明らかにしつつ地上に降下している。

 降下し終えた者は、仏蘭西波止場からは死角になるビルや倉庫の陰を目指しているようで、波止場前の大通りに達している者はいない。

 ザザ!

 反射的に地面を蹴って、ブリンダと距離をとる。

 敵は、仏蘭西波止場に通じる十数本の道路から同時に現れるのに違いなく、それをたった二人で迎え撃つには、固まっていては、取りこぼしが出てしまう。

 万全とは言えないが、横に広がって、できるだけ多くの妖どもを消滅させなければならない。

 波止場にたどり着かせては、上陸してくる妖たちと合体してしまって、手が付けられなくなってしまう。

「さすがは歴戦の魔法少女、たった二人とは言え、適切な対応、まるで奉天包囲戦の秋山将軍を見るようだよ。存分に戦ってくれたまえ。存分に力を発揮し、彼我の力と志しを感得して……霧子の味方になってくれたまえ」

 新畑の広げた手の間には、先ほどよりも輝きを増した霧子のソウルが、今まさに飛び出さんと振動し始めている。

「「来る!」」

 同時に叫んだ時には、取るべき二人の行動は変更されている。

 波止場に押し寄せてくる妖をブリンダが、わたしは上空に蟠っている未成体を攻撃する。

 二年余りの付き合いで、ブリンダとは言葉で確認しなくても臨機応変の対応ができるようになっているのだ。

「ほう」

 新畑も感心したようだが、ソウル錬成の手を停めるところまでは行っていない。

 

 スプラッシュアロー!

 

 術式を唱えると同時に風切丸を弓にして矢を放つ。 

 放った矢は放物線の頂点で十本あまりに分裂して降下し、敵の直上でさらに分裂、最終的には幾百の矢になってクリーチャーどもを消滅させた。

 

 カンザストルネード!

 

 ブリンダは、横っ飛びになって、ほとんど地面と平行に走りながら術式を唱える。

 本来は縦方向に働く風属性の魔法を横方向に広げ、波止場前に湧きだしてきた敵を吹き飛ばした。

 出鼻はくじいた。

 次は、視界に飛び込んでくるクリーチャー、妖、それらの未成体の各個撃破に移る。

「ウィンドブレイク三号! マジカビーム! マジカアターック! マジカパーーンチ! マジカキーーック!  マジカブレイクッ!」

 敵の数が多いので、今では恥ずかしくなるような、もう何十年も使っていない技まで総動員して戦う。

「かわいいぞ」

 すれ違いざまにブリンダが冷やかす。

「くっ……」

 ブリンダも、古い個人戦闘用のスキルを発動させているのだけど、いちいち術式を唱えることはしない。

 ちょっと悔しい。

 五分もすると、わたしも詠唱しなくても技を発動できるようになる。

 というか、詠唱していては間に合わなくなるほどの敵の数なのだ。

 取りこぼしたクリーチャーの中には、上陸した外来の妖と合体を成し遂げる者も現れてきた。

 合体した妖は、侵入してくる妖たちとすれ違うようにして横浜の街に浸透していく。

「くそ、間に合わないか!?」

 そう観念しかけた時。

 

 ズボボボボボ!!

 

 掃除機を逆噴射させたような衝撃音がして、浸透しかけた妖たちが吹き飛ばされてきた。

「なんだ、これは!?」

 余裕だった新畑の手が止まった。 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  •  

 

 

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ライトノベルベスト『The Exchange Vacation』

2021-05-20 06:13:48 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『The Exchange Vacation』  




 わたしは、三つある内の「ナントカ休み」で春休みが一番好きだ。

 それも、一二年生のそれに限る!

 夏休み・冬休み、それに対する春休みは全然違う。

 そう思わない?

 だってさ、夏休みと冬休みっていうのは、単なる長い休み。
 休みが終わると、また同じ教室で、同じクラスメートで、時間割とか先生とか完全にいっしょで変化がない。せいぜい席替えがあるくらい。基本的に同じ事が始まるだけ。でしょ?

 だけど、春休みは違う。

 だってそうでしょ。学年が一個上がって、クラスも教室も先生もクラスメートもほとんど変わっちゃう。教科書だって、最初手にしたときは、なんだか新鮮。
「今年こそ、がんばるぞ!」って気持ちになる。もっともこの気持ちは連休ごろには無くなってしまうけど。年に一度の身体測定なんかもあって、背が伸びた、体重がどうなったとか、なんかウキウキじゃん。それでいて、学校はいっしょ。勝手知ったる校舎、四時間目のチャイムのどの瞬間までに食堂にいけば並ばずに済むとかも合点承知之助!

 三年生は事情が違う。だって、完全に環境が変わってしまう。

 中学にいく前の春休みは、それほどじゃなかった。だって公立の中学だから、半分は同じ学校の仲間。学校そのものも、子どものころから、よく側を通っていたし、お姉ちゃんが三年生でいたから心強くもあった。

 高校に入る前の春休みは、最初は開放感。でもって、入学式が近づくにしたがって、つのる緊張感。二年生になろうとしている今、思い返せば、良い思い出になっている。
 だけど、高三になったら、きっと緊張はハンパじゃないんだろうなあ。だって大学だよ、大学。でもって十八歳。アルコール以外は大人といっしょ。アルコールだって、十八を超えてしまえば飲酒運転でもしないかぎり、大目に見てくれる。そう車の免許だって取れちゃう! 恋の免許も、なんちゃって……これは、こないだお姉ちゃんに言ったら、怖い顔して睨まれた。
 お姉ちゃんは、この四月から大学生だ。最初は地方の大学を受けて独立するとか言ってたけど、お父さんもお母さんも大反対。で、結局、地元の四大で、自宅通学。ここんとこの緊張したお姉ちゃんをみていると、正解だったと思う。

「ねえ、お姉ちゃん、ま~だ!?」
 あまりの長風呂にわたしはシビレを切らし、脱衣所のカーテンをハラリと開けた。
「なにすんのよ!」
 乱暴にカーテンを閉め直した拍子に、カーテン越しに右のコメカミをぶん殴られた。
 お姉ちゃんの裸を見たのは、スキー旅行で、いっしょに温泉に入って以来だ。湯上がりに、肌が桜色。出るところは出て、引っ込むところは、キチンとくびれて、同性のわたしが見てもどっきりした。
「高校最後の、お風呂だからね、いろいろ考え事してたの」
「卒業式、とうに終わってんのに……案外……」
「案外、なによ!?」
「いやはや、大人に近づくというのは、大変なもんだなあって。同情よ、同情」
「余計なお世話。さっさと入っといで」

 そんなに長風呂した訳じゃないのに、お風呂から上がって、少しグラリときて、脱衣場でへたり込んでしまった。一瞬頭の線が切れたのかと思った。
 時間にすれば、ほんの二三秒なんだろうけど、わたしの頭の中で十七年間の人生が流れていった。そして小学校の終わり頃に、なにかスパークするような思い出があったんだけど、言葉では表現できない。

「どうかした?」
「ううん、ちょっと立ちくらみ」

 お母さんの心配を軽くいなして、リビングへ行った。
 テレビが、どこかの春スキー帰りに高速で事故が起こったニュースを流していた。
「あ~あ、二人亡くなったって……」
 お姉ちゃんが、ドライヤーで髪を乾かしながら言った。

 お父さんは、仕事の都合で、会社のワゴン車で帰ってきた。かわりに自分の車は会社の駐車場。
 代わりに残業がお流れになったので、夜食用のフライドチキンを一杯持って帰ってきてくれた。
「また歯の磨き直しだ」
 そう言いながら、わたしも、お姉ちゃんもたらふく頂いた。
「わたしね、春休みは『 Exchange Vacation』だと思ってるの」
「なに、ヴアケーション交換て?」
 お姉ちゃんが、紙ナプキンで、口を拭きながら聞いてきた。
「なんか、全てが新しくなるようで、夏休みとか冬休みとかじゃない、特別な印象」
「それなら、Vacation for Exchangeでしょうが」
「イメージよ、イメージ!」
「ハハ、美保、英語はしっかりやらないと、大学はきびしいぞ」
「もう、うるさいなあ」

 
 その夜、わたしは寝付けなかった……正確に言えば意識は冴えているのに、体が動かない。金縛り……いや、それ以上。目も動かせなければ、呼吸さえしていない。でも意識だけは、どんどん冴えてくる。お父さんが、何かをしょって部屋に入ってきた。お母さんが、大容量の外付けハードディスクみたいなのを持って続いてくる。

 お父さんは、しょっていた物を横のベッドで寝ているお姉ちゃんの横に寝かした。

 ……それは、もう一人のお姉ちゃんだった。

「いつも辛いわね、この作業……」
「真保は、これで終わりだ。あとは擬体の調整でなんとかなる」
 お母さんは、ハードディスクみたいなのを中継にして、二人のお姉ちゃんの右耳の後ろをケーブルで繋いだ。古い方のお姉ちゃんの目が開いて、赤く光った。それは、しだいに黄色くなり、五分ほどで緑に変わると、光を失った。
「起動は五時間後ね」
「ああ、それで熟睡していたことになる。着替えさせるのは、お母さん、頼むよ」
「年頃の女の子ですもんね」
 お母さんは、古いお姉さんを裸にして、新しいお姉さんに着替えさせた。
「じゃ、美保の番だな……」
「真保、きれいに体を洗ってますよ。分かってたんじゃないかしら?」
「まさか、そんなことは……」
「そうですよね。ただ、三月の末日と重なっただけ……明日は入学式ですもんね」
 お父さんは、右耳の後ろとハードディスクみたいなのをケーブルに繋いで、いろいろ数値を入力していった。
「右の記憶野に……」
「なにか、異常ですか!?」
「いや……単純なバグだ。回復したよ」
「来年は、美保の擬体も交換ですねえ……あの事故さえ無ければ」
「もう言うな。スキーに行こうと言ったのは、オレなんだから」
「せめて、母星のメカニックにでも来てもらっていたなら……」
「言うなって。もう、真保はシュラフに入れたか」
「はい……」
 お父さんが、シュラフに入った古いお姉さんを担ぎ、お母さんが、跡を確認して出て行った。


 そして、目が覚めると、夕べの事は全て忘れていた。

「もう、どうして早く起きないかな。入学式でしょうが」
 歯ブラシを加えながら、お姉ちゃんが何か言った。
「訳分かんないよ!」
「美保は春休みなんだから、時間関係無いでしょうが!」
「あ、そか……」

 わたしは大事なものが頭に詰まっているようで、半分ぼけていた。でも、今の遣り取りで飛んでしまった。

 でも、このことは人生の大事な時に思い出しそうな予感もしていた……。
 

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真凡プレジデント・88《環状道路に入って驚いた》

2021-05-20 05:47:04 | 小説3

レジデント・88

《環状道路に入って驚いた》     

 

 

 

 水害被害地の救援ボランティアに行くことになった。

 

 前回(88:火曜の授業だぞ)の流れで分かってもらえると思うんだけど、藤田先生がボランティアに行っていたことを知った我々生徒会執行部は、その意気に感じて、次のボランティアに同行することになったのだ!

 そして、ボランティアというのは大変なのだと思い知った。

 ちゅ、注射すんのーーーーーーー!?

 なつきの声がひっくり返った。

 かなりの落ち着きを取り戻したとはいえ、被災地のO県S市には廃棄物の片づけや運搬・整理などの仕事があって、当然怪我をする可能性がある。破傷風と言う厄介なのがあって、その予防注射をしないと参加できないのだ。

 根っからの注射嫌いのなつきは、そのことだけで怖気をふるってしまったが、生徒会執行部のバッジを握りしめて耐えた。

「なつき、後悔してる?」

「う~~( ;∀;)つぎ行こ、つぎ」

 涙目になって注射の痕をさすって先頭を進んだ。

 

 被災地へは藤田先生の車で出かける。 

 

 その車を見てぶったまげた!

 予防注射が終わったら、すぐに出かけられるように、迎えを兼ねて病院の駐車場で待っていてくれた。

「おーーい。こっちこっち!」

 車の群れの向こうから声が掛かった。

 クネクネと車の隙間を縫い、先生の車を見て驚いた。

「これ、軍用のハンビーじゃないですか!」

 さすがの琢磨も目を丸くしている。

 女子の執行部は車の名前なんか分からないんだけども、迷彩塗装のいかつい四輪駆動に感心した。

 藤田先生は、定年間近の生徒会顧問で、後輩の中谷先生などからは「ジミー」の愛称で呼ばれている。

 面と向かっては呼ばれない「ジミー」が地味からきていることで想像がつく風情なんだ。

 

 むろん、ハンビーの前に立ってる先生は、いつものジミー。

 

 洗いざらしのTシャツにGパン。学校での先生は地味なりに清潔なナリで、先生らしさがうかがえるんだけど、今の姿は、夜道でお巡りさんに会ったら間違いなく職質されるだろう。

 それで、ハンビーとかいう目の前の車。

「先生の車なんですか?」

「ああ、趣味のサバゲーのために買ったんだが、こういう時には大いに役に立つ。さ、前に二人、後ろに三人。荷物は後ろのハッチから」

 ハッチの中に驚いた。

 これから戦争がやれるんじゃないかというくらいの禍々しいものが詰め込まれていた。

「ミリタリーばかりだが、ドンパチのものは一つもない。みんなボランティアで使うものばかりだ」

「分かります。ジェリカン、シャベル、テント、レーション、ジェネレーター、メデシンパック、CPR、ライフジャケット、携帯トイレ……」

 琢磨先輩があれこれ指さすのを、綾乃、みずき、なつきが興味津々に目を輝かせている。

 サバゲーというのは、ウェポン以外はミリタリーの実物を使うものらしく、ハンビーという車と、その中の諸々は実際に使われた様子がありありで、あっちこっち禿げていたり補修されていたりで、イメージとしては中学の時の飯盒炊爨の道具に通じる雰囲気が合った。

「乗り心地は悪いが、ちょっと辛抱してくれ」

 先生は、そう言ったけど、見かけほどに悪くはなかった。車に弱いなつきなどは「こういう沈みこまないシートがいいよ!」とかえって気に入った様子だ。

 環状道路に入って驚いた。

 なんと、いつの間にか前後を軍用車両に取り巻かれているではないか!

「ああ、サバゲー仲間と合流していくんだ」

 いろんな意味で藤田先生を見直すことになった……。   

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女
  •  コウブン     スクープされて使われなかった大正と平成の間の年号

 

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