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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

誤訳怪訳日本の神話・38『助っ人は海の彼方から・スクナヒコナ』

2021-05-03 09:13:48 | 評論

訳日本の神話・38
『助っ人は海の彼方から・スクナヒコナ』  

 

 

 かくしてオオクニヌシ(オオナムチ)は出雲を中心に北陸地方から中部地方の一部を含む地域の神(支配者)になりました。その間に、あちこちの女神と関係を持って、いや、仲良くなって180人も子どもの神さまが生まれます。

 オオクニヌシの女性関係の話ばかりしてきましたので、ここでは、オオクニヌシの国造りを補佐した神さまに触れたいと思います。

「女神のオネーチャンたちも大事だけど、ちょっとは国造りのことも考えなくっちゃなあ……近ごろはオオナムチじゃなくってオオクニヌシって呼ばれる方が多くなったしなあ……オオクニヌシって、漢字で書いたら『大国主』だもんなあ……大いなる国の主って意味だもんなあ……」

 そんなことを呟きながら出雲の海岸を歩いておりました。

 そもそもオオナムチで通っていたころ、兄のヤソガミたちの荷物を持たされて海岸を歩いていたら因幡の白兎と出会って運が開けたので、ゲン担ぎ、あるいは占ってみたら『海岸を歩きて吉!』と結果が出たのかもしれません。

 海岸を歩いていると、沖の方から小さな船が波に流されて海岸に漂着します。

 二十一世紀の今日では、海岸に打ち上げられるものは不審船かプラスチックゴミかとろくなものが無いのですが、昔の日本人の感性は、ちょっと違うのです。

 海岸に打ち上げられるものは尊いモノという感覚があります。

 日本のお寺や神社には、海岸や水辺に打ち上げられたものをご神体やご本尊に祀っているところがいくらもあります。

 たとえ、それが水死体であっても尊いものなので、七福神の一人『恵比寿・戎』の由来は海岸に打ち上げられた水死体を祀ったことが始まりと言われています。

 栃木県佐野市の龍江院には1600年に難破したオランダ船リーフデ号のフィギュアヘッドか船尾の飾りであったエラスムス象が貨狄尊者という神さまとして祀られています。

 オオクニヌシが見つけた小さな船には蛾の卵で作った衣を着た小さな神さまが乗っていました。

「この神さまは、いったい誰なんだろう?」

 小さな神さまは自分の名前を名乗らなかったのです。

 そこで、オオクニヌシは他の神さまや人やら、はては動物にまで「この小さな神さまを知らないか?」と聞いて回ります。最後に聞いたガマガエルが「それなら、田んぼの久延毘古(くえびこ)に聞いてみるといいよ」と教えてくれます。久延毘古とは田んぼの神さまで案山子(かかし)の姿をしています。

 カエルといい案山子といい、田んぼには知恵が詰まっているということなのかもしれません。

 その久延毘古が言います。

「そいつは、高天原のカムムスヒの神のお子さんでスクナヒコナ(少彦名)の神さまですよ」

「カムムスヒって言えば、俺の舅のスサノオノミコトの姉さんのアマテラスのブレーンじゃん、そんな偉い神さまの息子なのか!?」

 ビックリして手の中のスクナヒコナを見ていると、天上から声がします。

『やよオオクニヌシ、そいつは本当にわしの息子じゃ』

「え、その声は!?」

『オオモノヌシノカミじゃ』

「え、あ、恐縮です(^_^;)、で、なんで、そんな偉い神さまの御子息がわたしのごとき田舎の神のもとへ?」

『いやあ、あんまりチッコイので、儂の手からこぼれ落ちてしまってな。ま、これも縁じゃ、これからは兄弟ってことで、うまく葦原の中つ国を治めるといいぞ』

「ハハア、ありがたき幸せ!」

 こうやって、オオクニヌシはスクナヒコナと一緒に建国間もない葦原の中つ国を治めました。

 

 二つ妄想することがあります。

 

 一つは、スクナヒコナの素性を教えてくれた案山子の久延毘古(くえびこ)です。

 神代の昔から案山子があったことも面白いのですが、案山子が知恵者だということです。

『オズの魔法使い』にも案山子が出てきますね。

「ボクはね、カカシだから頭の中は空っぽでさ。オズの魔法使いに、ぜひとも知恵がいっぱい詰まった脳みそをさずけてもらいたいよ!」

 そう言って、カカシはドロシーたちと旅をしますが、実際はカカシは知恵が一杯あって、ドロシーを助けるということになっています。

 他にも、童話やお伽話に案山子が実は賢かったという設定があったように記憶します。

 たしかに、子どものころ母の里であった蒲生野の田んぼで突っ立っていた案山子は、どこか哲人めいて見えていたような気がします。

 二つ目は、スクナヒコナが高天原の出身だと言うことです。

 高天原は言うまでもなく、皇祖神で伊勢神宮の御神体であるアマテラスの世界で、天皇家の初代である神武天皇のご先祖の出身地であります。つまり大和朝廷そのものです。

 そこからやってきたスクナヒコナと共同で治めたということは、出雲政権には早くから大和朝廷の力が浸透していたか、古事記が成立した8世紀初頭には出雲と大和が協力関係にあって、目出度く合併していたということの現れではないかと思います。

 スクナヒコナは蛾の神さまであったという暗示の通り、長く出雲に留まることなく、高天原に帰ってしまいます。

「さて、まだまだ国造りはこれからなんだけどなあ」

 オオクニヌシがボヤいておりますと……

「女遊び止めたらいいんじゃね!?」

 スセリヒメが言ったかどうかは分かりませんが、高天原から、もう一人の助っ人の神さまがやってきます。

 オオモノヌシノカミという神さまなのですが、いろいろ面白い神さまなので次回、ゆっくりと語りたいと思います。

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ライトノベルベスト『さくらする(さくらの気になろう第二話)』

2021-05-03 05:56:20 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『さくらの気になろう・第二話』   





 佐倉艇長は運が悪いと思った。

 機関の調子が少し怪しく、三週間後には佐世保のドックで本格的なオーバーホールを受けることになっていた。
 念のために繰り返すが、佐倉艦長ではなく佐倉艇長である。
 つまり、彼がキャプテンを務める船は音で読めば皮肉にも佐倉と同じミサイル艇『さくら』なのである。
 数年前から、南西諸島の警備配置につき、不審船や密猟漁船が出るたびに空自でいうスクランブル出動をやっている。
 二年前までは海保の仕事であったが、沿岸警備法が改正され、自衛隊も、この任務に就くようになった。
 軽武装の海保よりも、200トンとは言え外国で言う軍艦籍である自衛艦の方が押し出しが利くという政治家の思惑からで、実際はC国をいっそう刺激し、彼をしてより強固、強力な軍艦の出動に口実を与えただけだった。

 C国海軍の増強充実ぶりは目覚ましいものがあり、3000トンクラスの汎用駆逐艦を、多いときは五隻ほどでS諸島方面に頻繁に出撃させ、三回に一回は領海侵犯をやる。

 今もさくらは、衛星からの情報を得た。南西護衛隊群の司令から緊急出動を命ぜられ、現場へ全速の44ノットで急行しつつあるところだ。
「艇長、2ノットほど落としてもらえませんか、どうも主機の音が怪しい」
「……わかった。42ノットに減速」
 これが、運の悪さの始まりだった。
「艇長、C国艦隊の三隻が離脱していきます」
「こんなチョロ船相手には二隻で十分ってか!」
 船務長兼副長が吐き捨てるように言った。
「熱くなるな副長。オチョクラレにいくのが我々の任務なんだ。二時間も張りついていれば、いつものようにずらかるさ」

 ところが、その日はいつものようにはいかなかった。

「艇長、C国の残存艦は昆明級が二隻です!」
 見張り員がレーダー手が艦種を特定する寸前に言い当てた。
「やれやれ、横綱二人に子供相撲一人か」

――ここは日本の領海内です、速やかに領海内から退去してください――

 さくらは、きれいな人工音声、それもC国の有名女性歌手に似た音声で、C国語、英語で繰り返した。
 M党が政権を握っていたころ、自衛艦はC国の軍艦に20キロ以上近づいてはいけないことになっていたが、今の政権になって4キロにまで縮められた。
 これは、言いなおせば、以前は20キロでよかったものが4キロという至近距離まで接近しろということで、現場には辛い指示だった。

「艇長、もう一時間になりますが、なんの反応もありませんなあ」
 副長が、さっきの意気はどこへやら。諦めたように言った。
「腐るな、こうやってオチョクラレているのが仕事だ」
 佐倉艇長は意識的にのんびりと言った。

「艇長、C国艦二隻が射撃管制レーダーを照射してきました!」
「なに!?」
 狭いブリッジが緊張に包まれた。
「逃げますか?」
「相手はそれを狙っている、このまま並走」

 貧すれば鈍すで、主機が半分エンコした。

「当て舵で20ノットが精一杯です」
 機関長が音を上げた。
「C国艦、主砲を我に向けつつあり!」
 今や敵と言っていいC国艦が130ミリの主砲を向けてきた。人間で言えば、銃を向けて撃鉄を起こしたのに等しい。
「通信、南西護衛隊あてに映像を付けて送れ。ワレC国艦二隻に射撃管制レーダーを照射され追尾されつつあり、指示を乞う」

 6000トンのC国艦二隻は、さくらの主機が故障したことを悟り、挟み込むようにして、追尾してくる。護衛隊からは、ただ離脱せよと言い続けてくるだけであった。

「C国艦、対艦ミサイル発射準備の様子!」
 佐倉は、ブリッジから、C国艦の垂直ミサイル発射セルを見た。確かに二隻とも、発射筒の蓋が開いている。

 佐倉は軍事国際法を頭の中で反芻した。そして結論に達した。

「砲雷長、対艦ミサイル発射ヨーイ、射撃管制始め。発射と同時にチャフ!」
「ヨーイよし!」
 打てば響くような答えが返ってきた。

「テーッ!」

 さくらの艇尾の二基の対艦ミサイルセルからミサイル、同時に大量のチャフが散布された。
 C国艦は一瞬うろたえた、まさか日本の海自が反撃してくるとは思わずオチョクッていたのである。
 一瞬の混乱の後、C国艦はミサイルと艦砲射撃を同時に始めたが、チャフのためレーダーが効かず、130ミリ砲の初弾が至近弾になったところで大爆発を起こした。さくらのミサイルが直撃したのである。わずか五秒の勝負であった。

 佐倉艇長は、国会で喚問を受けるはめになったが、彼が東京に着く前に南西戦争がおこってしまった。

 戦争は三日で方が付いたが、歴史に『南西戦争』と『西南戦争』の二つが並ぶことになり、引っかけ問題の典型となった。

 佐倉艇長は防衛駐在官としてアフリカ某国に飛ばされ、南西戦争の象徴であるさくらは解体されてしまった。

 この措置により、実戦では勝利したにも関わらず、C国を始めとする諸外国は我が国を軽んずるようになってしまい『さくらする』という言葉が、その年の流行語大賞になった。自分のために引っ越しや転校を余儀なくされる家族には申し訳ないと思う佐倉艇長であった。

 

 俺の女に手を出すな!

 夕闇迫る屋上に俺の声が響く。瑠理香も高階もギョッとしたように俺の方を向いた。
「な、なによ真二くん!?」
「なんだ佐倉!?」
 二人とも驚いているが、高階の声には侮蔑の響きがあった。

 俺は続けた。

「瑠理香は俺の彼女だ! そうだろ瑠理香!」
「え、あ……えと……うん」
 なんだか気乗り薄な声で小さな返事。聞きようによっては迷惑そうに感じる。
「……吉沢さん、あんまり気乗りしてないね……ひょっとして、佐倉の一方的な思い入れ?」
 弱気な瑠理香の態度に――こいつは大したことはない――とふまれたようだ。
 俺は実直な学級委員長という以外には取り柄のない男だ。このままでは次の瞬間、高階に蔑まれておしまいになる。
「瑠理香は恥ずかしがってるだけだ。そうだろ!?」
「あ……えと……」
「なんだか嫌がってるようにも見えるけど」
「それは……いくところまで行った関係だから、恥ずかしがってるだけなんだ!」
「ほう、行くところまで行った関係って、どんな?」
 高階は完全にバカにしてきた。
「そ、それは……だ、男女の関係にあるってことだ!」
「「男女の関係!?」」
「肉体関係だあああああああああああああああ!!」
「に、に・く・た・い……」
 瑠理香の顔が真っ赤になる。

 俺は全開になった。

「る、瑠理香の右股の付け根にはハート形のホクロがあることだって知ってるんだぞ!」
「え、え、真二くん……!?」
 瑠理香はスカートの前を押え、火を噴きそうな顔でワナワナと震え出した。
「え、え、マジなの吉沢さん?」
 瑠理香の表情は否定していない、だって事実だから。
「どうよ、勝負はついたな、諦めろ高階!」
 俺は唇をゆがめて勝利の微笑みを向けてやる。
「コッノーーーー!」

 バチコーン!

 思いっきりのパンチを食らわせてから、高階は階段を駆け下りて行った。
「イッテーーーでも、これで高階は言い寄ってこないよ」
「こ、こんなやり方は頼んでないわよ!」
「いや、だって、こうでも言わなきゃ見透かされてたよ」
「フン、父親の真似して、さくらするんじゃないわよ!」
「お、親父は関係ないだろ」
「あ、あんた、どうしてホクロなんて言ったのよ、高階くん本気にしたじゃん!」
 春先の風の強い日に、瑠理香のスカートが翻って目に焼き付いていたのをとっさに言ってしまったんだ。
 事実だったからこそインパクトがあった。そのことを言うと。
「死ねええええええええ! このさくらするーーーめっ!」

 バチコーン!

 また張り倒された。

 俺は、家庭の事情で明日転校する。
 だから、高階を諦めさせる役を引き受けたんだ……ま、いいけどな。

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真凡プレジデント・71《峠を越える》

2021-05-03 05:35:16 | 小説3

レジデント・71

《峠を越える》      

 

    

 ……地獄に行くのかなあ

 

 そう呟いたのは閻魔大王の娘エマのせいでもなく、ビッチェの消防車のせいでもない。

 地獄と関りがあるというには、エマはやんちゃながらも可愛い少女っぽすぎるし、ビッチェの消防車が亡者を護送する火の車というのはfire truckの拙い和訳みたいで切迫感がない。ビッチェも地獄の使いというような禍々しさを微塵も感じさせない女の子だ。

 それなのに真凡が地獄行にいくのかなあと呟いたのは、もう一時間以上も走っている坂道のせいだ。

 悪路と言うほどではないが、ガタピシとお尻に響く振動は、今どきの日本にはありえない。

 カリフォルニアのデスバレーなら、こんな感じかと思うが、消防車の前後十メートル先が乳白色のガスだか霧だかに覆いつくされて、景色がまるで見えない。

 そのために、上り坂であるにもかかわらず地獄の印象がするのだ。

「ここは黄泉平坂(よもつひらさか)、峠を越えると根の国底の国、地獄とは、ちょっと違うの」

「それって、日本の神話に出てくるんじゃない?」

「うん、外れてはいないけど、それとも違う。えと、言うならば……」

 

 ビッチェが言葉を捜しているうちに、長かった上り坂が平たんになり、ガスだか霧だかも晴れて景色が広がった。

 

「最初はここね」

「うわーーーー!」

 

 出てきたところは、お尻の振動に変わりはないが、山の中腹の葛籠折れの下り坂。

 山肌の木々の間からは涼やかな街並みが広がり、街の向こうは麗らかな瀬戸内海。

 舗装されていない地道、道路わきの電柱はことごとくが木製で、露幅の狭さや広島までの距離を示す標識がレトロなことから、どうやら2021年の今の時代ではないことがうかがわれる。

 退院してからの数時間が現実離れしているので、この程度の違和感は何でもなくなっている。

 ビッチェが大きくハンドルを切って、崖に差し掛かったんだろう、大きく海が広がった。

「おーーパノラマだ!」

 感激していると、彼方の沖、海が大きく盛り上がった。

「え?」

 グイっと消防車がカーブを曲がって衝撃音がした。

 

 ズズズーーーーーーーーーーーン!

 

 消防車のバックミラーには灌木の向こうに、大きな水柱が三本も立ち上がっていた。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、いまは家でゴロゴロ
  •  橘 なつき    中学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
  •  柳沢 琢磨    天才・秀才・イケメン・スポーツ万能・ちょっとサイコパス
  •  北白川綾乃    真凡のクラスメート、とびきりの美人、なぜか琢磨とは犬猿の仲
  •  福島 みずき   真凡とならんで立候補で当選した副会長
  •  伊達 利宗    二の丸高校の生徒会長
  •  ビッチェ     赤い少女

 

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