大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・022『修学旅行・22・ヒコの調査』

2020-12-14 15:58:13 | 小説4

・022

『修学旅行・22・ヒコの調査』未来   

 

 

 漏電に見せかけてあった。

 

 あまりに残念なので、ヒコが調べに行った。

 普段は安全な乗り物しか使わないヒコが、レンタルのグライド(一人乗りパルスバイク)で往復二時間半で富士山を真正面に望む富士吉田の展望台に戻ってきたところ。

 ほら、レプリケーターのレポート書こうとしていたら、ホームステイ先の小父さんからお詫びのメッセが来ていたでしょ。

 いつも端正にキメている髪がメットでプレスされてペッタンコ。

 こういうことにはお腹抱えて笑い転げるテルも神妙な顔で聞き入っている。

「前の日に急なメンテをやるって、電力会社が来ていじっていったんだけど、会社に問い合わせたら、そんなメンテはやっていないって、ご主人が言っていた」

「だれがやったのか分からねえのか?」

「認識モザイクがかかっていて、どこの防犯カメラにも写ってない。目撃者の記憶もモザイクされて復元のしようがないそうだ」

「警察は?」

「一応捜査に入ってるけど……これは靖国で陛下を襲った連中の仕業だ」

「本当かよ?」

「ああ、最終日の宿にもメンテが入るところだった」

「最後の宿も見に行ったのか?」

「ああ、行ったところで鉢合わせした。こいつらのは写真が撮れた」

 ヒコが腕ごと差し出したハンベには、電力会社の作業服を着たオッサン二人が浮かび上がった。

「こいつらは、顔が見えるのね」

「うん、あらかじめアンチをかけておいたから、ボクのハンベだけは撮れたんだ」

「で、こいつらの正体は!?」

「あ、見えないにゃ!」

 あたしとダッシュが顔を寄せたので、テルがピョンピョンする。

「こっちおいで」

 ダッシュとの隙間を開けてやると、顔を捻じ込んでくる。

「あちこち迂回して顔認証をかけたんだ……これが正体だ」

 ヒコがホログラムをワイプすると、指名手配の情報が出てきた。これは、相当高度なハッキング技術がないとアクセスできない、軍とか政府とかのサーバーを経由していることは、素人のあたしでも分かる。さすがは若年寄の息子。

「風魔銀二……!?」

「こいつ、まさか天狗党の!?」

「フェイクじゃなければね」

 天狗党というのは地球と火星を股にかけて悪さをしているテロリストよ。金星に逃亡する途中で行方不明になってるはず……。

「もう一人はだえなのよさ?」

「こいつは、高度な光学擬態をかけてる。万世橋商会を通じて扶桑防衛軍のCPにかけてもらってる」

 ああ、性能は良いけど別名『亀』と言われるぐらいに処理速度が遅いやつ。

「お、きたきた」

「いま『亀』って二つ名を思い出したから焦ったのかな?」

 オッサンのポリゴンが崩れて、別の人間の姿を構成していく。数秒かかって、もとのオッサンよりも二回り小さい姿……女性のようだ。

「あ、こいつ!?」

「ダッシュ見覚えがあるの?」

「こいつだよ、アキバでおまえのパスポート盗んでいった……えと、加藤恵!」

「え、あの時の?」

 驚いていると、ホログラムが動いて、ニヤニヤ笑いだした。

『やっと解析が終わったようね、ひょっとしたら、分からないままかと思ったけど、『亀』とはいえ、扶桑のCPは仕事はできるみたいね、褒めてあげるわ。ここからは忠告、さっさと火星に帰りなさい。今帰らなかったら、もう無事には火星に帰れないわよ、地球の人たちにも迷惑かかるかもね』

 それだけ言うと、女性の方のホログラムはポリゴンに分解して消えてしまった。

「ヒコ、電源落としゅのよ!」

 テルの忠告は一瞬遅かった。

「ウワ!」

 ジジっと音がしたかと思うと、スパークを放ってヒコのハンベはクラッシュしてしまった

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
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やくもあやかし物語・28『黒電話の怪異・1』

2020-12-14 06:25:11 | ライトノベルセレクト

やくもあやかし・28

『黒電話の怪異・1』     

 

 

 こうして私の部屋に黒電話が来た。

 

 むろん電話線に繋がっているわけじゃないので、単なるオブジェというかディスプレー。

 机の右っかわにデンと置いた。

 わたしの机は校長先生が使うみたいに大きな木の机。

 離婚したお母さんにくっついてくるまでは空き部屋だったそうだ。

 八畳くらいの部屋は物置同然で、机はベッドと共に最初から置いてあった。新しいの買ってあげようかと言われたけど、なんだか小説の中に出てきそうな趣があって「この部屋がいい!」と宣言して決まった。

 さすがにベッドのマットレスは新品にしてもらい、机の上はお習字の下敷きみたいな大きめの緑のフェルトを敷いた上に板ガラスを置いてもらった。お爺ちゃんの発案なんだけど、掃除が楽だし、下敷きを敷かなくてもプリントとか書類とかが書きやすい。

 他にも、もともと部屋にあったものをそのまま使っている。

 二段になった木の引き出し。引き出しにはA4が入る蓋ナシの木箱が収まっていて、上が既決、下が未決と書かれている。書類やプリントを入れておいて、学校とかでもらって来たばかりのを未決に、記入とか処理の済んだのを既決に入れておくことにした。

 そこに黒電話だ、ますますレトロな雰囲気になってきた。

 ときどき受話器を持ってダイアルを回してみる。受話器もダイアルも重々しいのだ。エボナイトとかいう樹脂で出来ているらしくて、並みのプラスチックの倍は重い。長電話すると腕がくたびれたとお婆ちゃんが懐かしがってた。ダイアルもゼンマイを巻いてるんじゃないかってくらいの抵抗感が心地いい。

 なんだかくすんでいるのでウェットティッシュで拭いてみた。くすみは全然取れない。

 ティッシュにも汚れが付かないので、最初からつや消しというかセミフラットな仕様なのだと納得。納得すると増々カッコよく見える。

 お婆ちゃんがヌクヌクの中華まんじゅうを持ってきてくれたので、かぶりつきながら黒電話のある机の上を眺める。

 お腹がくちくなってくると健康な女子中学生としては眠くなってくる。机のガラスがヒンヤリと心地よく首を横倒しにしてヒンヤリを楽しむ。

 プルルル プルルル プルルル

 繋がっていないはずの黒電話が鳴っている。

 ちょっとホラーなんだけど、不思議と怖さは感じなくて受話器を上げた……

 

――皆さんこれが最後です。さようなら、さようなら――

 

 受話器の向こうで女の人が囁くような、でも切羽詰まった声で言って切れてしまった。

 え? え? 

 そこで意識が途切れた。

 わたしってば中華まんじゅう食べて寝てしまったんだ。ガラスの上に涎の跡が付いている。

 どうやら、夢の中で電話が鳴ったよう……黒電話に目をやると、受話器にベッチョリと指の形が付いている。

 ひどく寝ぼけてしまったんだ……。

 そのときは、そう思った……。

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている

霊田先生      図書部長の先生

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かの世界この世界:162『静かな宿』

2020-12-14 06:05:03 | 小説5

かの世界のこの世界:162

『静かな宿』語り手:ポチ           

 

 

 あれ…………?

 そう言ったきり、ダグ(フェン)は車を止めてしまった。

「どうかしたの?」

「街の様子が変わってしまってるんだ……大きくなってるし……」

 わたしは初めてだから、大きいもなにも分からないんだけど、ダグの表情から、うかつにデミゴッドブルクには踏み込めないということは分かった。

「さっきの車で、てっきりデミゴッドブルクは縮んでいると思ったんだが……」

「どういうこと?」

「あの婆さんは命のあるうちに葬られようとしていた。半神族は肉体が滅ぶと神になる。だから肉体には未練が無いんだ……だから、肉体の街や世界には未練がないんだと思っていたんだ……それが、このありさまだ。うかつには踏み込めない」

 市街地からは一キロはあるところだけども、建設中の機械や工事車両の音が聞こえてくる。

「今まで通って来たところは、あんまり人気(ひとけ)は無かったでしょ」

「ああ、やつらは、さっさと肉体を捨てて、ヨトゥンヘイムを征服するんだとばかり思ってたからな……どこか郊外で宿をとって考えよう」

 

 しかし、なかなか宿はとれなかった。どこも、工事関係者が泊っていて空き部屋が無かったのだ。

 四軒目で泊まることができた。

 築三十年ほどの二階建てのホテルだ。豪華でもきれいでもないが、清潔で品のいいコロニアル風。クラシックなところが敬遠されるんだろうか。

「先日までは、内外の工事関係者で一杯でしたが、ようやく落ち着きました。ごゆっくりお休みください」

 フロントの、たぶんオーナーだろうおじさんが、のんびりと言う。

「こちらへは、お仕事ですか?」

 部屋のキーをくれながらオバサンが続ける。

「ああ、デミゴッドブルクのルポをね。ぼくらは、夫婦そろってルポライターなんだ」

「それはそれは」

「静かさについては、スヴァルトアルムヘイム随一ですので、記事をお書きになるのにはうってつけです」

「よかったわね、ダグ」

「さ、お部屋へご案内いたします」

「どうも」

「ところで、オーナーさんたちは半神族じゃありませんね……」

 オーナー夫妻の表情が固まった……。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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