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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・120『晴美の黒歴史』

2020-01-10 14:41:31 | 小説

魔法少女マヂカ・120  

 
『晴美の黒歴史』語り手:安倍晴美 

 

 

 冬の空は、なぜ暗い鉛色だと思う?

 

 それは万年講師の安倍晴美の心を映しているからなのよ。

 いまは、日暮里高校の常勤講師で、担任も引き受けて調理研の顧問とかもやってる。

 仕事内容は、他の正職の先生たちといっしょ。給料も常勤講師だから正職の先生たちともほとんど変わりはない。

 ただ、ただ一つ違うのは、この仕事が保障されるのは三月末日までということなのよ。

 だって、講師の契約は一年限りで、次年度の保証はない。

 同じ学校で継続して勤務できる場合、一月中には打診がある。

 廊下で校長と出くわした時にさ「安倍先生、来年度もお願いできますか?」的に言われる。でもって、二月には正式な要請になり、めでたく一年間の保証になるわけよ。

 それが、年が改まっての新学期、校長とは五回もすれ違ったのに知らん顔。

 今朝なんか、廊下の端でわたしを見とめるやいなや「あ、忘れ物」って言って回れ右するんだもんね!

 

 今年の誕生日で三十四だよ! たった一人でも三銃士なんてギャグ思いついても笑えねえっつーの!

 

 特務師団の突撃隊長とかもやってるんだけど、これがまた、いまんとこ給料が出ない!

 航空自衛隊が宇宙航空自衛隊に変わるとかニュースでやってたけど、特務師団は特務の「と」の字も出ない!

 M資金の回収が頓挫しているので「もうしばらく待ってくれ!」と来栖司令は繰り返すばかりというか、このごろは出動がかかっても、めったに姿を見なくなったぞ。

 でもって、昼休みの学食で定食食った後にラーメン食って、デザートに豚まんとアンマンとカレーマンのどれにしようかと思って三つとも食ってるあたしって、どーーよ!?

 もう、生徒みたいな新陳代謝しないアラフォーが、こんなことしてたら、行先は豚地獄しかないってーのにさ!

 

「安倍先生! 見つけちゃいましたよお!!」

 

 聞き覚えのある声が降ってきた。

 ひょいと、豚まん持ったまま顔を上げると、愛すべき調理研の四人が立っている。

 そいつらが……掲げていたのは。

 

 ギョエーーー!!

 

 十数年前のバジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世(⋈◍>◡<◍)。✧♡!!!

 つまり、わたしの黒歴史中の黒歴史、最高汚点のメイド服姿のフォトパネルではないかああああああ!!

 

 

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巷説志忠屋繁盛記・2『志忠屋亭主の正体』

2020-01-10 07:07:19 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・2
『志忠屋亭主の正体』  



 地下鉄の階段出口をぬけると、そこは雪国であった。

 突然の夕立であったことも、大雨であったことも、常夏の日差しであったことも、頬なでる風に秋を感じたこともあった。

 それくらい通っている。通い詰めるという程ではないが月に一度ぐらいは訪れる。
 大阪の人でないと分からないが、わたしは上六の日赤病院の帰りに、志忠屋に寄る。ランチタイムのピークを避けるため、上六の近鉄百貨店の書籍売り場で小一時間あまり時間をつぶしてからいく。
 地下鉄は谷町線で、近鉄百貨店の地下二階から、そのまま地下通路を三百メートルほど歩き、谷町線のホ-ムにいたる。そこから、四つ目の駅が南森町である。その間地上に出ることがない。時間にして二時間ほど、わたしは、地上の世界とは無縁で志忠屋にたどり着くのである。

 で、地下鉄の階段出口をぬけると、そこは雪国であった……ということになる。

 地下鉄の階段出口はMS銀行の一階の一部に食い込み、向かいの歩道から見ると、銀行のドテッパラに開いた口から、人が吸い込まれたり吐き出されたりするように見える。一度、このことに気づいてしまうと、上六の光景の落差もあり、なんだか自分がお伽の国の人間であるような錯覚におちいる。

 出口を出て右に折れると、直ぐ横が交番である。大きな交番ではないが、いつもお巡りさんが二人ほどのどかに収まっていらっしゃる。東京のように、交番の前に後ろ手組んで、帽子を目深に被り、四方に目を配りながら立っている威圧感はない。どうかするとお茶をすすりながら日報のようなものを書いていたり、道に迷った人に丁寧にハンナリと地図示しながら教えていたりする。
 そののどかな交番の角を曲がるとMS銀行の裏口になっていて、その北側にある四階建てビル。
「ビルというほどのもんじゃありませんよ」
 と、ビル自身が頭を掻いているように見えるほどささやかなビルの一階に、その愛すべき志忠屋がある。
 工事の途中までは、駐車場のスペースになるはずであったが、たった二台ほどの車しか入らないような、それにするよりも、堂々とビルの一階部分としてテナントとして入れたほうがニギヤカシになるとオーナーが判断し、建設途中に店舗スペースとなり、四半世紀前に志忠屋が開店した。

 その、かわいい客席十五席ほどの店の亭主が、我が悪友・滝川浩一である。
 
 高校生の頃は、アメフトのマッチョでありながら、高校生集会のウルサガタであるという、当時流行の心情左翼的な面もあり、大阪の高校演劇では、わたしとは異なり、反主流派で、コンクールにはめったに出場しないが、コンクール会場には顔を出し、ハンパな審査などには遠慮無く噛みついていたりした。で、同時に地元八尾のアンチャンたちの兄貴分的な存在でもあり、家の宗旨であるカトリックの……信者には、いまだになってはいないが、なにくれとなく教会行事の手伝いもやるという可愛げもあった。
 
 高校二年の時に恋をした。一人前に……いや、十人前ほどの。

 駆け落ちを覚悟し、学校を長欠して、万博の工事現場で目一杯働き、100万あまり稼いだ。
 しかし、その恋がゴワサン(この男の場合、破局とか、恋に破れたなどという生っちょろい言葉は似合わない)になると、大阪の北新地で三日で使い切ってしまうという豪快さであった。

 この滝川浩一(以下タキさん)について書き出すときりがない。
 
 あと一点、人並み外れた読書家であり、映画ファンであるとだけ記しておく。志忠屋の亭主のかたわら、映画評論でも、名を成している。
 下手な描写より、彼の映画評論をサンプルに挙げた方が早い。

タキさんの押しつけ映画評
『アウトレイジ・ビヨンド』

 これは、悪友の映画評論家滝川浩一が、身内仲間に個人的に送っている映画評ですが、もったいないので本人の了承を得てアップロードしたものです。


 なんだ 馬鹿やろう! 今時のヤクザが こんな単純な訳ゃねえだろが。
 
 それに いきなり出てくる外国人フィクサーってな何なんだよぉ。大友(たけし)がなんぼか自由に動ける言い訳じゃねぇか。片岡(小日向)が知らねえってのはおかしいじゃねぇか。大体が中途半端なんだ。
 何さらしとんじゃ ボケィ!
 脚本も演出も たけしが一人でやっとるんじゃ、こんなもんで上等やろがい! それより、関西の会が「花菱会」っちゅう名前なんはどないやねん! アチャコかっちゅうんじゃ ボケィ!……。
 
 と言う、まぁ、お話でござりました。役者さんは気持ち良さそうに、実にノビノビと演ってはります。特に西田敏行なんてなアドリブ連発、一番気持ちよさそうに演ってはります。
 ある意味、どうしようもない閉塞状況にある日本のガス抜きを狙ったギャグ映画とも言えそうですが、残念ながら半歩足らずです。
 ギャグとリアルのギリギリラインを狙ったんでしょうが、結局 前作と同じように役者の力で助けられてはいるものの設定が甘すぎて、ストーリーテリングもご都合主義。
 バンバン殺される割には陰惨なイメージにならないのだが、もう少し説得力が欲しい。ここまで見え見えで警察が動かないはずが無い。アイデアとしては面白い(但、使い古しやけどね)、後は発展のさせかたでもっと面白くなるはず…少々残念、原案たけしで脚本は切り離した方が絶対良かった。
 ただ、今回 大友の悲しみが表現されており、前作に比べてこの点は評価出来る。
 結局、何をどう足掻こうともヤクザの泥沼から抜けられない大友の姿を描けなければ本作の意味は無い訳で、さて それをリアルバイオレンスに仕立てたとのたまうが…それこそ悲しいかな コメディアンたけしの魂はどこかで笑いに繋げてしまう。
 問題はたけし自身にその自覚が無い事なんだと思う。それにしても、石原(加瀬亮)の処刑シーンには大笑いしそうになった。最高のブラックギャグでした。
 
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・5・大きなため息が重なった

2020-01-10 06:53:23 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)5
大きなため息が重なった                     


 
 目的があったわけではない。

 本さえ広げていれば格好がつく。
 図書室というのはシェルターだ。
 
 でもシェルターというのは一時避難するところで住みつくところではない。だのに千歳は放課後になると図書室に来てしまい、姉が迎えに来るまでの90分ほどを過ごすことが日課になってきている。

 いっそ辞めてしまおうかとも思い始めている。

 空堀高校を選んだのは、完全バリアフリーということと姉が空堀高校の近所に住んでいるという2つの理由からだ。
 横浜からわざわざ来るほどの理由じゃない。

 千歳は両親から逃げたかった。逃げるために大阪の高校を選んだのだ。

 父も母も千歳の足が動かなくなったのは自分たちのせいだと思っている。口に出すことこそ少なってきたが、どうしても態度に出てしまう。
 近所のコンビニに行くときでも「どこへ?」と声がかかる。明るく言ってくれるのだが、声の裏に過剰な気遣いを感じてしまう。
「コンビニ、直ぐ帰って来るから」
 そう返事すると「あ、そう」と返ってくる。「あ、そう」なんだけど、大丈夫なんだろうか? 無理してがんばってるんじゃないだろうか? がんばらせているのは自分たちのせいだ、というような思いが潜んでいるのでやりきれない。ちょっと夕方にかかったり雨とかが降っていると、こっそりと着いてくる。千歳の車いすにはミラーとドライブレコーダーが付いているので着いてこられると直ぐに分かる。父も母も、自分が電柱の幅よりも太いということが分かっていない。

 だから高校進学をきっかけに横浜の家を出た。

「熱心に読んでるわね……」
 
 振り返ると国語の八重桜が笑みをたたえて立っていた。
 
「アハハ、開いているだけです」
 正直に言うが謙遜に取られてしまう。
「いえいえ、これでも国語の先生やから、読んでる読んでないはすぐに分かるわよ。沢村さん、太宰を系統だって読んでるでしょ」
「あ……それはですね……」
 千歳は――しまった!――と思った。もともと読書家なので、本を前に置くと自然に目は活字を追いかけてしまう。実際は追いかけているだけで読んではいない。太宰を選んだのも、中学の時に代表作は読んでいたので、ぼんやり書架に手を伸ばすと太宰になっただけである。
「いっそ文芸部に入れへん?」
「え?」
「読書仲間がいてる方が張り合いがあるわよ」
「あ。えとえと……」
 とっさに上手い断り方が出てこなくて、ワタワタする。
「ま、考えといて。その気になったら、授業の終わりにでも声かけてくれたらええからね~♪」
 半分千歳をゲットしたような嬉しさをまき散らしながら、八重桜は根城である司書室に戻っていった。

――好きで読んでいるのか、エスケープのためか分からないのかなあ――

 学校を辞めたい気持ちはつのってくるが、辞め方が分からない。
 辞めるにしても、致し方なかったということにしたいのだ。これ以上の心配をかけたくないし、自分が新しい環境に馴染めず負けて帰るというイメージにはしたくなかった。

「「ハ~~~~」」

 大きなため息が重なった。

 アニメだったら、空堀高校の上に大きな書き文字で現れるところなのだが、図書室と演劇部の部室に別れているので、ため息の主たちは気づかないのであった……。 
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乃木坂学院高校演劇部物語・92『演習場』

2020-01-10 06:42:23 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・92   
『演習場』    

 
 
 
 この日は、トラックに乗って演習場に行った。

 西田さんのとちがって七十三式大トラ。新型らしいけど乗り心地は西田さんのクラッシックの方がいい。ドライバーのテクニックかなあ……なんて思っていたら、いつの間にか一般道に出ていた。後ろから、ノーズが凹んだポルシェがついてきている。
――よくやるよ。おまえら、何が悲しくって自衛隊なんかやってんだ――てな顔したアベックが乗っていた。
――お、自衛隊にもカワイイ子いるじゃん――なんて、思ったんだろう、女の子に携帯でポコンとされてやんの。
 でも、二人ともニヤツイて感じ悪~。
 一番後ろに座ってた西田さんが、ヘルメットを脱いで、ポルシェに向かってニターっと笑った。とたんにポルシェは運転がグニャグニャになり、ガードレールに左の横っ腹を思い切りこすって停まった。
「今度は廃車だな……」
 西田さんは小さく呟くと、ヘルメットをかぶり直した。

 演習場に着いた。一面雪の原野でチョー気持ちいい!

「まずは、演習場を一周ランニング。小休止のあとテント設営。壕掘りを行う」
「オッチ、ニ、ソーレ!」
 雪の進軍が始まった。昨日の五千もきつかったけど、雪の上のランニングもね……と思ったら、案外楽に行けた。やっぱ慣れってスゴイってか、自衛隊の絞り方がハンパじゃない。
 走り終わると、みんなの体から湯気がたっているのがおもしろかった。

「では、テントの設営にかかる。各自トラックから機材を取り出す……」
 教官ドノは、ここで西田さんと目が合って、言い淀んだ。
「教官。ただ命じてくださればよろしい。『かかれ』が言いにくければ『実施』とおっしゃればよろしい」
「テント張り方用意……実施!」
 教官ドノのヤケクソ気味の号令で始まった。支柱を立てて打ち込む。その間支柱を支えていることを「掌握」 支柱をロ-プで結びつけることを「結着」という。
 企業グル-プさんは手間取って、規定時間をオーバーしてしまった。
「腕立て伏せ、用意!」
 あらら……お気の毒。と、同情していたら、大空助教が宣告した。
「乃木坂班は、これより壕掘りにかかる。各自円匙(えんぴ)用意!」
「エンピツ!?」
 夏鈴が天然ボケをかます。大空助教が吹き出しかけた。
「円匙とはシャベルのことである。用意、実施!」
 大空さんも、西田さんを相手に「かかれ!」とは言いにくそう。

 結局、このカワユイ大空助教の「命令」が、一番きつかった。むろん夕べの不寝番は別にしてね。
 気がついたら、乃木坂さんがいっしょに壕を掘っていた。
「これ、よくやらされたんだ。校庭の土は硬くてね。それに比べれば、ここは何度も掘ったり埋めたりしてるから、楽だよ」
「あのね、乃木坂さん……」
 ひとりでに動いているとしか見えない円匙を隠すのは大変……はい。
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