大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・トモコパラドクス・77『彼岸花の季節・1』

2018-12-04 06:32:18 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・78 
『彼岸花の季節・1』
        

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……今年の彼岸花は、早く咲いた……。


 掃除当番のみんなは目を見張った、一面に赤い彼岸花が広がっているのだ……。

 連休明けの今日は、朝から一時間かけて大掃除。友子のクラスは、志願者による、ちょっと奥まった西側斜面のゴミ拾いである。
 昔は乃木坂の駅から見えたらしいが、前の東京オリンピックのころに、周囲の建物がビルになり、普段は見えないところになっていた。

 メンバーは、友子の他に、妙子、亮介、麻衣、妙子、大佛、純子、梨香の七人。
 男子は制服のままだが、女子はスカートの変わりにジャージを穿いていた。フェンスの柱にロープを結びつけ、ロープをたすきがけにして、先頭に亮介と大佛、その次ぎに友子、妙子、麻衣がいてそれぞれの場所でゴミを拾う。絡まった蔦や大きめのゴミは、下から上へと送っていく。

「いやあ、ご苦労様。ここは気にはなっていたんだが、あまり目につかんところだし、危険だしね……昔は、よく自分で手入れしたものだがね」
 御歳九十ウン歳の理事長先生がねぎらってくれた。

「あ、白い彼岸花がある!」大佛が叫んだ。
「ほんとかね!?」

 そこから、ゆっくりとに空気が変わり始めた。

 最初は「おや?」という程度のものだった。二年生の紀香が通りかかり、理事長先生は、ちょうど友子と、紀香、そして白い彼岸花から伸ばした線が交差するところを通った。とたんに理事長先生は、とても九十代とは思えない足どりになって、斜面を駆け下りてきた。

「六十六年ぶりだ……」

 その一言で、変化は大きくなった。
 気づくと、友子達は制服ではないセーラー服にモンペ姿だった。亮介と大佛は、旧制中学の制服に弾帯、手には小銃を持っている。そして、まわりには彼岸花の数ほどの兵隊さん。先頭は隊長らしき人と、肩から参謀飾彰を下げた将校、そして、若い理事長先生が兵隊服で従っていた。

「東の空に敵機!」
 紀香が叫んだ。
「総員、前方のガマに入れ! 学生急げ! 第一小隊は、対空警戒!」
 中隊長が、低い声で、でも、しっかりと命じた。

「早くしなさい!」
 そう叫んだのは、学級担任の宮里先生……初めて見るんだけど、それが沖縄第一高女の、わたしたちの担任、宮里明菜先生であると分かった。

 全員がガマに入るまでに機銃掃射が始まった。
 数人の兵士が、彼岸花をまき散らしたように血を吹きだし、壊れた人形のように手足をばたつかせて倒れていった。
 敵機は、ガマの上あたりに、小型の爆弾を落としていった。
「キャー!」
 女学生たちが、悲鳴をあげる。
「大丈夫、兵隊さん達がいる!」
 先生は、みんなを励ました。

「分隊機銃前へ……」
 理事長、高山曹長が、静かに命じた。
「なにをする気か!?」
 少佐参謀が、高山曹長に詰め寄った。
「もう、無線で伝えられているでしょうが、飛ばれているだけで、敵の目に付きます」
「よせ、そんなもので敵機は落とせん。かえって場所を教えるようなもんだ!」
「なら、中隊長に具申してください」

 参謀に指揮権はないのだ。まだ軍隊としての秩序は失われていない。

「敵機、旋回。こちらに向かう様子!」
 そこで、高山曹長は、四五発撃って、すぐに機銃を横十メートルほど、小隊ごと移動させた。
 敵機は、ついさっきいたところに集中的に弾を撃ってくる。
 そして、パイロットの顔が見えるくらいに引き寄せたところで、引き金を引いた。敵機のプロペラが吹き飛んだ。敵機は、一度旋回しながら上昇すると、コントロールを失いガマから三百メートルほど離れた森の中に墜ちて爆発した。
 パイロットは直前に脱出したが、パラシュートが開ききる前に墜ちてしまった。おそらく命はない。

「中隊長、このガマは、もう発見されています。緊急に移動を!」
 高山曹長が、中隊長に具申した。
「ばかもん! 今出たら、ねらい打ちだぞ」
「ここにいれば、いずれ包囲されて殲滅されます。すぐ移動を!」
「宮里先生。この近くにガマはありますか?」
 中隊長は、穏やかに聞いた。
「はい、南と南西に一つずつ」
「このあたりですか?」
「はい、多分」
「高山、お前は第一小隊を南西のガマに、学生達を援護していけ。自分は中隊の残りで南のガマを目指す。運があったら、また会おう。参謀殿は、お好きな方をお選びください」

 こうして、運命は二つに分かれた。

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