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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・36『初代だからこそ』

2023-01-20 09:30:43 | 小説3

くノ一その一今のうち

36『初代だからこそ』 

 

 

 あ、三村先生!?

 

 服部課長代理と他人の距離を空けてお茶を飲んでいると監督が飛んできた。

「あ、見つかっちゃった(^_^;)」

 白々しく頭を掻く課長代理。

「来られるんでしたら車を用意しましたのに」

「あ、いやいや、気まぐれですから」

「え、ソノッチもいっしょだったの?」

「え、いえ、自分はお茶を買いに来ただけで……」

「こちら『吠えよ剣』の脚本を書いていただいてる三村紘一先生だよ。すみません、まだ新人なもので。まあやの付き人の風間そのです。ごあいさつ!」

「え!?」

 ほんとうにビックリした! なんで課長代理が脚本家!?

 

 理由は課長代理の車の助手席で聞いた。

 なんで、みんなと別行動になったかと言うと、課長代理、いや脚本家の三村紘一が「甲府の周辺を見ておきたいので、助手を貸してもらえませんか?」と監督に頼んで、まあやがOKしたから。

 わたしも、しっかり聞いておきたかったしね。

 

「まあやは、我が徳川物産の最大の存在理由だ」

「ですね、豊臣の血筋を守ることが第一だと社長もおっしゃってました」

「そのためには、まあやの生活そのものをコントロールすることが望ましい。まあやの出るドラマを書けば、まあやの生活の半分以上を掌握できる」

「他にも書いてるんですか?」

「ああ、ペンネームは他にもある」

 ペンネーム? ひょっとして服部半三もペンネーム?

「『吠えよ剣』は今年に入ってからだ、企画は、俺が持ち込んだ」

 そうなんだ、『吠えよ剣』は、ツ-クール26回の企画で、今度の山梨編からツークール目に入るはずだ。

 二つ聞きたいことがあった。

 なんで……聞こうとしたら、車は高速を降りて、三叉路にさしかかっていた。

「どっちにするか……?」

「え、行先決まってないんですか?」

 車は、三叉路を前に路肩に寄って停まってしまった。

「甲府市内か善行寺か……」

「善光寺は困ります! 長野県に行ってしまったら離れすぎです」

 あくまでまやのガードなのだ、そういつまで離れているわけにはいかない。課長代理のくせに何を考えているんだ。

「修業も足りんが勉強も足りんやつだなあ、甲府の近くにも善光寺はあるんだ。ナビを見てみろ」

「え?」

 ……あった。

 ナビの画面をスクロールすると、甲府の東に善光寺という駅とお寺がある。

「信玄が、本家の善行寺からご本尊と宝物をかっさらって作った寺だ。本家善光寺への尊崇の現れと言われているが、あの信玄坊主が、そんな動機だけでやると思うか?」

「あ!?」

「そう、信玄の埋蔵金だ……」

 今度の『吠えよ剣・山梨編』は、千葉周作が幕府から信玄の埋蔵金を探るように言われ、龍馬とさな子を派遣するという話なんだ。

「ほんとうに、あるんですか、埋蔵金?」

「ああ、木下(まあやの鈴木家と並ぶ豊臣の本流)の方でも探りを入れてる。海外進出を目論んでいるんだ、金はいくらあっても足りないだろう」

 草原の国で出し抜かれたのは、ついこないだ。あれだけのことをやるんだ、課長代理の言う通りだろう。

「一つ聞いていいですか?」

「なんだ?」

「なぜ『吠えよ剣』の千葉道場の師範は周作なんですか? 史実では弟の千葉定吉のはずですが」

「ああ、それなあ」

 そこのところがいい加減だから、まあやは、さな子が周作の娘だと勘違いしていたんだ。

「俺は、初代が好きなんだ」

「は?」

「ガンダムとか、AKBとか、みんな初代は伝説めいてかっこいいだろ」

「え?」

 カッコいいが理由? なんか中学生みたいだ。

「豊臣家も初代の秀吉が偉いんだ。徳川家は家康、織田家は信長だろう」

「ええ、まあ……でも、課長代理は十何代目かの服部半蔵じゃないですか」

「俺は、服部半三。ぞうは数字の三だ。家康に取り入った服部半蔵とは違う」

「え、あ……」

 空中に字を書いてみる、蔵と……三……確かに違う。

「確かに、俺は服部半蔵の裔ではあるがな。俺からは別の服部家だと思ってる。だから、俺が初代なんだ」

「なるほど……」

「お前も、ほとんど滅んだ風魔小太郎の裔だろう。自分が初代だと思って切り替えろ。切り替えなければ、豊臣も徳川も服部も風魔も先細りだ」

「は、はい……」

「とりあえずは、目の前の善光寺だ……」

 グルンとハンドルが切られると、木立の向こう、要害山を背景にして甲斐善光寺の屋根が見えてきた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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くノ一その一今のうち・35『まあやの独笑(๑˃▽˂๑)』

2023-01-13 13:08:04 | 小説3

くノ一その一今のうち

35『まあやの独笑(๑˃▽˂๑)』 

 

 

 お休みとれたら行こうね!

 

 両手を胸の前でグーにしてマナジリをあげるまあや。

 このポーズは『吠えよ剣』でよくやるポーズだ。

 てっきり演技かと思っていたら、どうやらまあや自身の癖のようで、おかしい( *´艸`)。

「なにがおかしいのよ!?」

「ごめんごめん、まあやって、さな子のまんまなんだなって」

「ああ……それも落ち込むぅ」

「なんで?」

「だって、まあやは地のままやってるだけってことでしょ」

「いいじゃない。地のままって言っても、ちゃんと演じられてるよ」

「そーかなあ」

「そうだよ、事件とかが解決して、みんなで笑うってところから始まるシーンあるでしょ」

「あ、うん。お決まりの大団円。ファンの人たちは、あのシーンになると安心するんだって」

「最初見た時はビックリしたよ。キューが出てカメラが回ったとたんに、みんな笑いだすんだもん」

「ああ、あれは、ベテランの役者さんたちが空気を作ってくれてるからだよ。素でやれって言われたら、できないよ」

「そうか……でも、他にも泣いたり怒ったり、ちゃんと演技出来てると思うよ」

「うん……でもさ、いつか『吠えよ剣』も終わっちゃうじゃない。そうしたら、いまみたいに自分の延長みたいな演技じゃダメだと思う」

「そうか……で、どこに行くって?」

「もー、山梨よ、さな子さんのお墓!」

「あ、そうか、とんぼ返りじゃ、ちょっときついよね」

 

 まあやさ~ん、本番五分前です。

 

 ADさんのお迎えで、そろってスタジオへ。

「さな子のひとり笑いから入りまーす」

「え、一人でですか!」

「うん独笑、周作の『さな子の笑顔は救いだなあ』って台詞に続くんで、最初の笑い出しは一人で」

「は、はい(^_^;)」

 独笑とはうまくいったもんだ。でも、大丈夫かなあ、一人で笑うことってほとんどないって、ついさっき言ってた。

 心配なのはわたしばかりじゃない。カメラの後ろに周作さんと、準レギュラーの蕎麦屋のおじさんが見守ってる。

 でも、心配は無用だった。

 キューが出たとたんに、周作さんと蕎麦屋のおじさんが、とびきりの変顔(☉౪ ⊙)(╯⊙ ⊱⊙╰ )!

 アハハハハ(๑˃▽˂๑)!

 一発できまった!

 

 そして、山梨行きも決まった。

 

 ロケハンをやっていた監督が、山梨で絶好のロケ地を探り当てたということで五日間の山梨ロケが決まったのだ。

 サービスエリアでコーヒーを買っていると、横のおじさんが呟いた。忍び語りで……。

―― このロケは、お前にとっても仕事だ ――

 え?

―― 安心しろ、ここ一番の時は、俺が変顔してやる ――

 横を向くとおっさんの変顔(΄◞ิ౪◟ิ‵)。

 でも、笑えなかった。

 だって、そのおっさんは服部半三課長代理だったんだよ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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くノ一その一今のうち・34『巣鴨』

2023-01-07 11:38:26 | 小説3

くノ一その一今のうち

34『巣鴨』 

 

 

 お年寄りが多いねえ!

 

 巣鴨の改札を出ると、まあやが感動した。

「やっぱりとげぬき地蔵とかがあるしね」

 巣鴨は別名『お婆ちゃんの原宿』と呼ばれるくらいにお年寄りが多い。

 うちのお祖母ちゃんも時々来ているんで話には聞いていた。

 商店街に向かうと、活気は十分なんだけど雰囲気が昭和。

 アーケードっていうのか屋根が無くって、一見ショボいんだけど、シャッターで閉まっている店なんか無くって、買い物客が多くって、そのほとんどがお婆ちゃん!

「昭和って、こんな感じなんだろうねぇ……」

 まあやはツボにハマったようで生き生きしている。

 行儀のいい子だから、いつでも笑顔なんだけど、今日の笑顔は普通にティーンの女の子として楽しんでいる。

「明太子……自然食品……蕎麦屋さん……季節料理……お饅頭屋……まぐろ屋さん……焼き芋屋……甘味と蕎麦……」

 いちいち口に出して感動する、可愛い(^_^;)んだけど、正体ばれるとヤバイよ。

 まあやは『吠えよ剣』で人気がある通り、中高年の女性、つまり、この地蔵通り商店街を闊歩しているお婆ちゃんたちのアイドルであるわけで、バレたら人だかりになること間違いなし。

「あ、塩大福めっけ!」

「あ、ちょ……」

 止める間もなく『名物塩大福』の看板に突撃していく。

「ほい、食べながら行こう(^▽^)/」

 一個130円の塩大福、一個はポケットに、一個を、そのままハムハムしながら商店街を進む。

「たしかに、若者向けのお店って、皆無だよねぇ……」

 アクセとかブティックとかスィーツとかの片仮名の店が一つも無い。

「あ、あった!」

 初めて渋谷にやってきた高校生がお目当ての店に突撃していくノリだよ。

 

 赤パンツ!

 

 別に!マークが付いているわけでは無いんだけど、雰囲気的には!マークが三つぐらい付いている感じで看板が出ている。

「やっぱり、巣鴨に来たら潮大福と赤パンツ!」

 そう言って、さっさと買ってきた赤パンツの一つを押し付ける。

「ほんとうは、もっとゆっくり選びたかったんだけど……」

「若者は、ああいうお店にはいかないから……」

「だよね、視線が集まるのは、そういうことなんだよね。でも、バレちゃうんじゃないかと思うとハラハラしちゃって」

「まあや、あんた楽しんでるよね?」

「うん、おかげ様でぇ(^_^;)……あ、あの食堂、エビフライ定食がすごいんだよ!」

「ダメ!」

 さすがに止めた。食事なんかしたらマスク外さなくちゃならないから、絶対不可!

「あはは……だろうねぇ」

「このままじゃ、とげぬき地蔵に行ってしまうよ。目的地は違うんだから」

「あ、そうだね、三時には局入りだったよね」

 

 実は、今日は仕事の合間を縫ってお墓参りに来ているんだ。

 

 お墓と言っても、まあやのご先祖でも、わたしのご先祖でもない。

「どこなんだろう、さな子さんのお墓は……」

 急きょ花屋さんで買ったお花を持って、本妙寺というお寺の墓地に来ている。

 ずっと千葉周作の妹の役をやっているので、一度はお参りしておこうと思っていたまあや。

 千葉周作のお墓、きっと、その横だか斜め向かいぐらいにはあるんだろうと見当をつけた。

「あ、あった!」

 周囲のお墓よりも首一つ高くて大きなお墓。横には『剣豪 千葉周作成正の墓』書かれた木製の標柱が立っている。

「ええと……」

「見当たらないねえ……」

 周作の墓は立派に立っているけど、さな子のお墓が見当たらない。

 思い当たった。

「ねえ、さな子は龍馬とは結婚できなかったけど、他の人とは……」

「え、あ……ちょっと持ってて」

 花を押し付けると、まあやはスマホを出してググり出した。

「ああ、やっちゃったあ……さな子のお墓は山梨だって!」

「出直しだね……」

「うん……え……ええ?」

「どうかした?」

「さな子は周作の妹じゃないよ!」

「ええ?」

「周作の姪だって……」

 

 感情量の多いまあやは、自分の戸籍の秘密を知ったみたいに落ち込んだ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

 

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くノ一その一今のうち・33『猿飛佐助の陰謀』

2023-01-03 16:01:17 | 小説3

くノ一その一今のうち

33『猿飛佐助の陰謀』 

 

 

「なかなかの連係プレイだったが、ここまでだ」

 

 王子の姿をしたそいつは聞き覚えのある声で終了を告げた。

 燃え盛る車を間に挟んでいるので、城の中の者に気取られることはない。

 さっさと退散すべき状況なんだけど、動けば、僅かでも遅れた者がこいつと戦わなければならない。戦えば城内の者が駆けつけてきて厄介なことになる。

 話を聞くほかに手立てはない。

「わたしは豊臣本流の木下家に仕える猿飛佐助だ」

 佐助が王子に化けていた。なんのためだ?

「木下家は海外に力を伸ばしている。日和見の鈴木と違って世界の豊臣家を目指しているからだ。豊太閤の遺徳を帯してこその豊臣家再興、その意志と力を知ってもらうために、このドラマに付き合ってもらった。この草原の国は、いずれ木下の援助のもとに復興を遂げるだろう。復興を遂げた草原の国は、やがては木下、いや復興豊臣家の藩屏として豊臣の大陸進出の先駆けとなる。鈴木も豊臣の裔であることに変わりはない。我が木下家の行く末を黙って見ていてもらおう。黙って見ている限りには、鈴木に手出しすることはない。それではな。百地三太夫、嫁持ち。そして、風魔流二十一代目風魔その。これは木下家の最後の警告である。しかと伝えたぞ!」

 ドゴーーーン!!

 再び車が爆発した。

 佐助も我々も、車の断片が飛び散るのと同じ速度で、その場を離れた。

 

 来た時と同じC130輸送機に乗っている。

 

「あのう……もう帰るんだから、その擬装は解きません?」

 社長も嫁持ちさんも、まだわたしの姿のままだ、さすがに気持ちが悪い。

 しかし、そう言ったのは嫁持ちさんだ。わたしは同じことを言おうとして息を吸い込んだところなんだ。

「まだ早い……」

 そう言って、社長は綺麗な指で(わたしソックリなんだから、指は綺麗)わたしの背中に手を回した。

 首の後ろに手が回って、わたしソックリの顔が目の前に迫ってきた。

 自分自身にキスされるなんて、ちょっと悪夢なんですけど!

 クチャ

 幽けき音がした。

「ラクダに乗っているときにつけられたんだろう」

 社長の指先にはゴマ粒が潰れたほどの破片がくっ付いていた。

「そう言う社長の脇の下にも……」

「ちょっと、くすぐったいんですけど!」

「いや、だから、社長の方にも……」

「嫁持ちさんの方にも……」

 アハハハ キャハハハ ワハハハ

 三人のわたしが絡んでのクリック試合になってしまった。

―― 三人とも虫がつけられた ――

―― やっぱり佐助、油断がなりません ――

―― しかし ――

―― なんですか ――

―― 今のところ、誰がソノッチだか、奴には分かっていないということでもある ――

―― どうやら、それだけ脅威には感じているということですね ――

―― でも、社長、え、嫁持ちさん? ――

―― 嫁持ちは、わたし ――

―― じゃあ、わたしは? ――

 

 なんだか訳がわからなくなって、疲れ果てたころ立川基地に着いた。

 

 帰ってネットで確認すると、草原の国で、一時幽閉されていた王子が軍部と繋がった長老派を駆逐したと出ていた。

「ところで、王子、そのひょうたんは?」

 国営放送の記者は勝利宣言した王子のテーブルの上の1/12サイズのフィギュアほどのひょうたんを指さした。

「ああ、日本の友人からもらった七味唐辛子だよ。ケバブに合うよ」

 サラリと、そう答えた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
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くノ一その一今のうち・32『王子を逃がす』

2022-12-26 13:27:47 | 小説3

くノ一その一今のうち

32『王子を逃がす』 

 

 

 街を出てからどうするんだろう?

 

 敵の大方を撒いて、あとは街を抜け出すばかりになった。

 社長は、ざっくりとした指示しかしない。

 敵の出方で、戦術を変えなければならないこともあるし、一人が捕まった場合、全てが敵に知られてしまう恐れもある。

 そのために、頭の忍者は、いくつもの手立てを組んでおく。松ぼっくりの他にも、社長は手立てをしているはずだ。

 だから、一瞬頭に浮かんだ―― どうするんだろう? ――は胸の底に沈める。

―― 間もなく、ラクダが走り出して追跡の車が出る。その一台を奪う ――

「「「承知」」」

 わざわざ声に出したのは、王子に聞かせるためだ。素人の王子は先が読めなければ不安に思って混乱する。混乱した人間を無事に逃がすのは難しい。だから声に出した。闇語りした社長も含めて。

「わたしはラクダで」

「「承知」」

 わたしのアドリブに、社長も嫁持ちさんが返事。

 

 ンゴオオオオオオ!

 

 グロテスクな声をあげてラクダたちが駆けだす。社長がなにか仕掛けていたんだろう、あれは、人間で言えば「イテエ!」と悲鳴をあげたみたいだった。

「「「散!」」」 

 一頭残ったラクダの背に跨って腹を蹴る。

 ンゴオ!

 ラクダに乗るのは初めてだけど、馬の要領と変わらない。わたしに御せている、社長は一番穏やかな奴を残してくれたんだ。

 シュッ シュッ

 空気を裂くような音。

 パンパン 

 一秒遅れて銃声。

 ……300メートルは離れている。草原のわずかな高低差を読みながら走る。

 ブオーーー 

 車の追跡も始まった、月明かりもある。姿をくらますのが肝要だ。

 ブオー

 車の音があさっての方角に外れる。よし、あの稜線を超えたら、もう一度方向を変えよう。

 セイ!

 勢いをつけて稜線を超える。

 ズサッ!!

 ラクダの着地にしては音が大きいと思ったら、社長たちの車が目の前で停車。

 運転席から嫁持ちさんが飛び出す。

 目線で分かる―― 交代 ――のサインだ。

 ラクダの背中に王子を乗せ、嫁持ちさんが鞭を当てて先に進む。

「あのグリーン手前のバンカーに車を落とす。そこから一打でオンしてパーセーブだ。キャディーを見失うな」

 ゴルフのような事を言う。要は、車を捨てて真っ直ぐ突き進み、嫁持ちさんと合流のうえ、王子を城内に送り届けるということだ。

 

 ズザザザザ! ボン!

 

 バンカーを転がり落ちたと思ったら車はボンネット付近で爆発炎上してしまった。

 なるほど、これなら追跡者も城の者たちもバンカーに目を奪われる。

 90度回り込んで西門を目指す。

 嫁持ちさんが間に合って、西門は開いている。

 ギイイイ ガチャン!

 だが、今の爆発で警戒されて、あと50メートルというところで門が閉じられてしまう。

 社長が懐に手を突っ込む。コンマ二秒遅れて、社長に倣って鉤爪を出す。

 

 カラン

 

 鉤爪を投げる寸前に城壁の向こうから鉤爪が投げ出され、ガチッと胸壁を噛んだ。

 エ?

 ほんのコンマ2秒ゲシュタルト崩壊。コンマ3秒後には社長に倣って後方に飛び退る。

 トン

 かそけき音をさせて飛び入りてきたのは嫁持ちさんだ。

―― 罠だ! ――

 忍んだ叫び声で後ろざまに飛び退り逃走退散の姿勢!

 トン

 黒い影が城壁から飛んで、わたしたちの前に立ちふさがった!

 無言で立ち上がったそいつは…………嫁持ちさんが送り届けたばかりの王子だった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
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くノ一その一今のうち・31『潜入・3・爆ぜる』

2022-12-18 15:26:54 | 小説3

くノ一その一今のうち

31『潜入・3・爆ぜる』 

 

 

『申し訳ございません、竈(かまど)に松ぼっくりが入ってしまいました』『人騒がせな!』『気をつけよ!』

 

 食堂(じきどう)の役僧と警備の僧のやり取りが聞こえたのは、嫁持ちさんに続いて経堂の破風から忍び込もうとしている時だ。

―― 社長も古い手を使う ――

 たしかに、松ぼっくりを爆ぜさせて人の注意を引くのは超古い。お祖母ちゃんも「役小角(えんのおづね)の前からあった」と言っていた。しかし、爆ぜるタイミングを操るのが難しく、ご先祖の風魔小太郎も、めったにやらなかったという。凄い、さすがは百地流総帥。

 ムギュ

―― わたしに化けるのはいいですけど、そんなにお尻大きくないです ――

 破風から潜り込む、一瞬、わたしに化けた嫁持ちさんのお尻がつかえた。

 それには応えずに、先を進む嫁持ちさん。

 ウ(⊙ꇴ⊙)?

 自分のお尻もつかえたが、黙って嫁持ちさんの後に続く。

 

 梁から下を覗くと、王子の前には……まずい、警備の僧が蹲踞している。

―― あれは社長だよ ――

―― え、いつの間に? ――

―― 早い うまい 安くない……社長のモットーだよ ――

 なんだか、某牛丼屋のようなことを言う。

―― まだ行かないんですか? ――

―― 王子が怪しんでいる ――

「……待ってくれよ、今の今まで怖い顔をして僕を閉じ込めておいて、松ぼっくりがパンパン鳴ったと思ったら『お助けします』って。外に出たとたんに脱走を図ったとかで殺されたんじゃたまらない」

「いえ、けして怪しいものでは……」

「怪しいよ、しっかり怪しいよ! この国は、昔から権謀術数が絶えない。うちのご初代様も、前王朝を『お助けします』って言って城門を開かせて皆殺しにして滅ぼしたんだからね!」

「それは、前の王朝が悪逆非道であったので、ご初代様が謀をめぐらされたのでございます」

「黙れ、もともと城から誘拐したのは、お前たちの親分の大僧正じゃないか。その手下の坊主が、今の今まで経蔵の前で見張っていた人相の悪い坊主が『助けてやる』と言って、誰が信じる!」

「これはしたり、変装を解くのを忘れておりました(;'∀')」

 

 クルリ

 

 エフェクトを付けたら、まさにクルリという感じで、社長は僧の変装を解いた。

 ウ……(*゚O゚*)

 変装を解いて一つ前のわたしの姿。それはいいんだけど、どうして三秒間の素っ裸!?

―― 社長ズボラだから、変態術の更新が遅れてるんだ ――

「我らは日本の忍者です、さる筋のお方から殿下を救出するように仰せつかってまいりました」

「日本の忍者!?」

 王子の声が弾んだ。

―― 日本製は信用が高い ――

「身に寸鉄も帯びておらぬことは、たった今、お見せした通りでございます」

―― よく言うよ、更新してないからフリーズしただけじゃん! ――

「あ、ああ。確かに、若い女子が全裸になってまでの身の証、感動したぞ……待て、いま『我ら』と申したな? 他にも仲間が居るのか?」

「いかにも」

 

 スタン

 

「わ!?」

 嫁持ちさんと揃って梁から飛び降りる。無音でも下りられるんだけど、これ以上王子さまを驚かせてはいけないので、子ネコが下りてきたほどの音を、わざとたてる。

 パン パパパパーン

―― え、なに!? ――

「また松ぼっくりか?」

「いえ、あれは門の蝶番に仕掛けておいた爆薬が爆ぜたのでございます。いくぞ!」

「「おお!」」

 嫁持ちさんが王子の手を引き、その前と後ろを社長とわたしで固めて走る。

 ドン

 門は、一見なんともないんだけど、社長が体当たりをかけると、あっさり外側に倒れた。

 また松ぼっくりかと思ったのはわたしと王子様だけではなく、警備の者たちも出足が遅れている。

 でも、街を出るには、もうちょっと時間を稼がなくっちゃ。

 

 ドドオオオオン!

 

 お寺を挟んだ反対側で大きな爆発音。

 街中の関心がそこに集まる。

 数秒間だけ路地裏に隠れ、警備兵たちが爆発地点に走るのをやり過ごして、易々と街を抜けだした。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
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くノ一その一今のうち・30『潜入・3・鏡』

2022-12-12 16:01:26 | 小説3

くノ一その一今のうち

30『潜入・3・鏡』 

 

 

 一分近くたっただろう、屋根裏の闇に慣れてきて、柱や梁の木目まで分かるようになってきた。

 南北の破風に風通しの桟があって、そこからホンノリと外の光が入って来る。

 月夜でもなかったので、篝火や常夜灯の類の照り返しだろう。二つ三つの壁や屋根に反射したあとの、ごく弱い光だから、常人では暗視スコープでも無ければ見えないだろう。

 あ…………鏡だ。

 駆け出しの忍者なら、そこに人が居たと思うだろう。

 薄明かりの中に、自分と同じく蹲踞の姿勢で気配を消している人影が見えたのだ。

 駆け出しなら、狼狽えて呼吸を乱す。甚だしい場合は、物音をたててしまって気取られてしまうだろう。

 いちど崩れてしまうと、忍者も人の子、簡単に追い詰められて虫けらのように殺されてしまう。

 そういう忍者対策の簡単な道具が鏡なのだ。古い鏡台などの鏡を置いておくだけでいい。

 念のために周囲を見渡すと、斜め後ろにも鏡。斜め後姿のわたしのお尻が映っている。

―― 闇の中なら、わたしも少しは可愛いか ――

 女子の可愛さ、美しさは、造作の問題だけではない。第一にフォルムだ、普通に言えばプロポーション。

 その点、わたしは悪くない。まあやの代役が務まっているいるんだからな、悪いはずはない。

 中三の夏、電車で痴漢に遭った。尻をもむ手が前にまわってきたので、勢いよく顔を向けてやった。

 至近距離で顔を向けられ、痴漢は「ヒッ!」と、猿のような悲鳴をあげてのけぞって、後ろの手すりに思い切り頭をぶつけて悶絶した。

 目いっぱい白目をむいて、口には吸血鬼の八重歯のブス顔、それも死後三時間ぐらいの真っ青だったからゾンビに見えたかもしれない。

「そりゃあ、大人しく被害者になっときゃ、慰謝料が取れたのに」

 お祖母ちゃんは残念がって、アハハと笑ってごまかしたけど、被害者を演ずるんだったら、もう少し可愛い子でなくっちゃと尻込みする自分が居たのかもしれない。

 まあやに出会った後なら、多分被害者を演じていたと思う。

 フフフ フフフフ

 

 え?

 

 鏡の中のわたしが笑った。

 しまった!

 思った時には、左右を二人のわたしに挟まれた!

「ソノッチの妄想はすごいなあ」

 わたしに化けた社長が好色そうな目をして言う。

「こんな顔だったのかなあ」

「も、もう!」

 嫁持ちさんは、白目むいて吸血鬼の八重歯付けてるし。

「てっきり鏡だと思ってましたよ(`_´)」

 鏡だと思ってしまったのは、呼吸や気配までわたしに化けていたからだ。一本やられてしまった。

「じゃあ、かかるぞ。王子がパニクルようなら、当身を食らわせ静かにさせたところで運び出す」

「社長、これを使いましょう」

 嫁持ちさんが懐から出したのはお線香だ。

「それなら、儂も持ってる。寺だから、あちこちに線香があるからな」

 なるほど、これでニオイからも誤魔化されたわけか。

「じゃあ、屋根伝いに忍び込みますか?」

「西側の破風から行け」

「社長は?」

「表の見張りを対策してから入る」

「表から、堂々とですか?」

「ああ、バッチリだ」

 

 パパン パン パパン

 

 銃声!? 

 

 方角は、この寺院の食堂(じきどう)の方角だ。

 これが開始の合図なのは、社長の目の色で分かる。

 

 わたし達は次の行動に移った。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

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くノ一その一今のうち・29『潜入・2・忍者の臆病虫』

2022-12-06 16:42:34 | 小説3

くノ一その一今のうち

29『潜入・2・忍者の臆病虫』 

 

 

 草原と言っても見渡すかぎりが草に覆われているわけではない。

 

 製作途中で投げ出されたジオラマのように、所どころに木が生え、場所によっては小さな林のようになっているところがある。平らな草原のように見えても微妙な高低差があって、短い雨期や雪融けなどの時に水が流れたり溜まったりして、恒常的な川や池を形成するほどでは無くとも、比較的水分に恵まれたところがあって、そこに木が生えているんだろう。

 そういう小さな林の木に登って街の様子を観察する。

 百歳の老人の歯茎のような土塁の崩れが街を取り囲んでいる。

 土塁の幅は山手線のホームの幅ほど……所どころに教室一つ分ほどに大きくなっているところがあって、おそらくは防塁が建っていたんだろう。相応の規模だから、その昔、シルクロード的なものが通っていたころは、いっぱしの交易都市で、それなりに栄えていたのかもしれない。でも、シルクロードがどこを通っていたかなんて知らないし。

 土塁は自然に崩壊したのが半分。残りは人の手で崩されているように見える。

 世界史の知識が無いから想像するしかない。

 ソビエトか中国か、そういう化け物みたいな国家に隷属するときに、隷属の証に破壊されたんだろうか。

 このご時世だから監視カメラは覚悟しなければならない。

 それでも、北京やモスクワのど真ん中ではないので、映った映像がただちに解析されて警察や軍隊に追われることもないだろう。

 まあ、常識的に仕掛けられているであろう監視カメラを避けるのは、それほど難しくはないけどね。

 

―― よし、あれが例の寺院だな ――

 

 目標を発見すると、五秒で、おおよその侵入経路を確定。

 木を飛び降りると、道を避けて草叢を拾いながら土塁の裂け目を目指す。そこからは水路の暗渠、住宅地の裏路地を縫って、洗濯物の外套、トーガとかヒジャブとか名前は分からないけど、それをひっかぶって、大胆にもバザールの真ん中を悠然と歩いて、寺院の隣のブロックへ。

 そうやって、大胆と慎重を使い分け、寺院の壁が見える路地にさしかかった。

 

 !?

 

 寺院の内外に剣呑な気配。おそらくは、警備のプロたちだ。

 ここに来るまでにも、優れたのやボンクラなのやら、警備の兵隊や制服私服の警察官が居て、そういうのは、そう苦も無く避けてきたけど、こいつらはグレードが違う。訓練された警備犬も連れているようだし、五割の確率で発見されてしまう。

 臆病の虫が這い出てきて、わたしの足を止める。

 忍者の臆病虫は武器だ。優れた忍者は、臆病虫をなだめて、成功の確率を八割ほどに上げなければ、次の行動には出ない。

 臭いと気配……隣の路地に脱糞中の犬がいる。

 これだ!

 思いついたわたしは、姿勢を五十センチの高さに保持したまま走って、隣の路地の犬の背後にまわる。

 グフ

 僅かに声を上げさせてしまったけど、何とか成功。

 犬の四肢と口を掴んで、寺院の壁が見えるところまで走って、犬を投げ飛ばす。

 キャイン!

 犬は、ぶざまに最後の一ちぎりをぶら下げたまま、塀の際で腹ばいの姿勢で落ちる。

 ワンワンワン! ワンワンワン!

 警備犬が寺院の内外で吠え始めて、警備のプロたちが走り出す。

 

 よし、今のうち!

 

 その三分後、無事に什器倉庫の屋根裏にたどり着くことができた。

 あれ?

 わたしが一番?

 風魔流忍法免許皆伝とは云え、駆け出しのわたしが一番とは、微妙に意外。

 嫁持ちさん、ノホホンとしてるけど、技量はわたしより上だ。

 社長……普段は、いぎたない初老の親父だけど、わたしに化けた腕の良さや、街はずれまでの行動を見ると、やっぱり風魔流忍術の総帥というだけのことはある。

 九割五分の確率で、わたしに後れを取るようなことはない。

 

 なにかあったか……?

 

 一分もたつと、またまた臆病虫が這い出てくる。

 今度は脱糞中の犬を投げるわけにもいかない……

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

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くノ一その一今のうち・28『潜入・1・草原を走る』

2022-11-29 11:43:38 | 小説3

くノ一その一今のうち

28『潜入・1・草原を走る』 

 

 

 たぶん中央アジアのどこか。

 

 小さいころから、お祖母ちゃんに日本の地理については教えられた。

 物心ついたころの玩具は、都道府県の形をしたブロックだった。

 毎日、それを組み立てて、保育所に行く頃には都道府県名と旧分国名を県庁所在地と合わせて憶えていた。

 小学校に入ると、都道府県別のブロックになって、国内の地理に関しては、そこいらへんの教師よりも詳しくなった。

 ただ、世界地図になるとお手上げだ。ざっくりと五大陸が分かって、ニ十個ほどの国の位置と名前が分かる程度。

 まあ、並みの高校生レベル。

 これで、観光バスのバスガイドになれるかなあと四年生になるくらいまでは思っていた。

 五年生になると、鏡に映る自分の顔を見てバスガイドじゃなくてブスガイドになると思った。

 お祖母ちゃんは、万一忍者になることを考えて教えてくれたんだと思う。

 それでも、地理は国内だけで、世界地図には踏み込まなかった。

 空飛ぶ犬や猫が居ないように、忍者が世界を舞台に働くことがあるとは思わなかったんだ。

 

 原チャで爆走しているところは見渡す限りの草原。だから漠然と中央アジアだとしか分からない。

 

「ここからは、脚でいく」

 わたしと同じ姿で社長が宣言し、わたしと嫁持ちさんも停車。社長に倣って原チャを茂みの中に隠す。

 C130を降りてから二時間ほどたっている。たっているけど、相変わらず草原のど真ん中。どうするんだろうと思うけど、質問はしない。

 忍びの任務に就いたら、あとは指示に従って動くだけだ。上司がそこにいるいないは関係が無い。

「横一列で走る」

 セオリー通り。縦列で走ると序列が知れてしまう。今日日は、はるか成層圏からでも、人工衛星が地上を覗いている。油断ができない。

 ニ十分ほど走ったところで匍匐前進。

 匍匐前進には五段階あって、五分おきに姿勢を変え、最後は蛇がのたうつような第一匍匐で十分あまり。

 

 あ……!

 

 声には出さないけど驚いた。

 草原は、そこから緩やかな下り坂になっていて、五キロほど先にゲームに出てきそうな街が見える。

 街の向こうには、さらに草原が広がっていて、山々を背景に三つばかりの街が霞んでいる。

 どうやら、C130で降り立ったのは広大な台地の上で、そこから、原チャと足で人界に近づいているらしい。

「あの街に潜入する」

 いつの間にか、社長が左に、嫁持ちさんが右に寄ってきて匍匐姿勢のままブリーフィングになる。

「街の寺院に、この国の王子が幽閉されている。その救助が目的だ」

 そう言って、A4サイズの紙を二枚広げた。

「こっちが、街の地図。三方から別々に侵入する。こことこことここだ、仮にA・B・Cとする。Aは嫁持ち、Bは儂、Cがソノッチだ。そして、これが寺院の見取り図。王子はこの経蔵庫の中。五時間後に二つ西側の什器倉庫の屋根裏で落ち合う。一分で地図と見取り図を憶えろ」

「「………………………………………………………………」」

 一分後、社長は地図と見取り図を粉々に引き裂いて風に飛ばした。

「食べてしまわなくていいんですか?」

 忍者は、命令書などは目を通したあと、証拠を残さないために食べてしまうものなんだ。

「紫外線にあたると半日で分解される。時計を合わせるぞ」

「え、電波時計でしょ?」

「気分の問題なんだよ」

 嫁持ちさんが注釈して、三人で時計を見つめる。

「5秒前、4、3、2、1、テー!」

 それを合図に、わたしたちは三方に散った。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
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くノ一その一今のうち・27『C130機内』

2022-11-21 15:19:47 | 小説3

くノ一その一今のうち

27『C130機内』 

 

 

 横田基地から米軍の輸送機で飛び立つ。

 

「これはC130ハーキュリーズという輸送機でな、西側では一番よく使われている輸送機なんだ」

 やっと本来の姿に戻って社長がレクチャーしてくれる。

「C130である意味があるんですか?」

「1000メートルちょっとで離陸できて、500ちょっとの滑走路で着陸ができる」

「えと……飛行機のことって、よく分からないんで(^_^;)」

「同サイズの飛行機の半分以下で離発着ができる。1000メートルの滑走路なんて、どんな田舎の飛行場でもあるからな。世界中どこの飛行場でも離発着できるということだ」

「オスプレイとかだったら、滑走路そのものが要らないんじゃ……」

「オスプレイは、まだ使っている国が少ない」

「なにか問題なんですか?」

「C130は69か国で使われている……つまり、ほとんど世界中で使っているから特定されにくいんだ。いまの軍用機は国籍マークや機体番号はボンヤリ書かれて、よほど近くで見ないと特定できない。車で言えばナンバープレートの付いていないカローラみたいなもんだ」

「隠密性があるということなんですね」

「そういうことだ」

「それから、米軍との関係なんだが……」

 ひとしきり輸送機や米軍と会社の関係や装備など、いろいろ話してくれる。

 途中で気が付いた。

 わたしは飛行機に弱い。修学旅行でも半分くらいはシートを倒して寝ていた。

 まあ、地味子のわたしだから、話しかけてくる者もいないし、ゲロゲロになるほどでもないし、目立つことは無かった。けど、社長は、そういうことを知っていて気をそらしてくれている。

「では、闇着替えの練習をしておこう」

「このコスじゃダメなんですか?」

「現地の状況では着替えることになる。とりあえずは……これだ」

 社長は野戦服を取り出して、輸送機の床に置いた。

「印を結んで、着替え終わった姿をイメージする……えい!」

 一瞬姿がブレたかと思うと、社長は国籍不明の野戦軍兵士になった。

「やっと、自分の姿に戻ったんですね」

「サイズが、オッサンのサイズだからな(^_^;)」

「あはは、その方がいいかも」

 ヘリコプターからこっち、首は社長で体はリコリコのコスを着たわたしだったから、ちょっと気持ち悪かった。

「じゃ、今度はソノッチの番だ」

「はい、えと……印の結び方は……」

「あ、俺は百地流だけど、風魔流でいいよ。要は気を貯めて集中することだから」

「は、はい……息は止めた方が……」

「あ、自然に。うん、ちょっと止めるぐらいが集中できるかな」

「はい……えと……」

 忍術とは言え、人前で着替えるのは抵抗ありまくり。まして、オッサンオーラ出しまくりの社長の目の前だよ。

 エイ!

 掛け声をかける……着替えられてはいなかったけど、周囲の景色が停まった!

 社長は、優しいのかヤラシイのか分からない表情のままフリーズするし、エンジンの振動で小刻みに震えていた金具も静止しているし、なによりもエンジンの音がしない。

 時間を停めてしまった……に近いけど、恐らくは、お祖母ちゃんのいう『境地』という奴だ。

 境地に入って、すごいスピードで着替えることができる。そういうことなんだろう……うん。

 納得すると、普通に着替えた。普通と言っても、やっぱり恥ずかしいから、前の授業が長引いて速攻で着替えなきゃならない体育の授業って感じだけどね。

「惜しい、ボタンが一個ずつズレてる!」

「え、あ、ほんとだ」

「もう一回」

「はい」

 それから、二回三回とやるんだけど、なかなか完ぺきにはできない。シャツが後ろ前だったり、ブーツが左右反対だったり。

「う~ん、ソノッチは境地の中でリアルに着替えている?」

「は、はい」

「それは、まだ初級だなあ」

「ダメなんですか?」

「境地に入るところまではいいんだけど、その先もイメージで姿が変えられなければ完全じゃない」

「あ、それって、変身するのも……」

 そうだ、社長は着替えるだけじゃなくて、わたしの姿に変身までしている。

「まあ、現地に着くまで時間がある、ゆっくりやればいい。そうだ、骨語りの稽古もしておこう」

「はい」

 

 それから骨語りの練習、それから二つの豊臣家についての話を聞いている間に、いよいよ目的地の上空に着いた。

 

「え、やっぱりわたしの姿になるんですか?」

 社長も嫁持ちさんもわたしそっくりに変身した。

 そして、C130は、草原の真ん中にバリカンを掛けたような滑走路に着陸していった。

 エンジンを掛けたまま停止すると、縛着していた三台の原チャが解かれる。

「じゃ、しっかり付いてくるのよ!」

「「ラジャー!」」

 わたしソックリの姿と声で命令すると、社長はアクセルを吹かしながらC130のお尻から走り出した。

 もう一人、わたしソックリの嫁持ちさんと三人で、草原の道を疾駆する。

 バックミラーに目をやると、早くも離陸して、ギア(車輪)を格納しつつあるC130の後姿が小さくなりつつあった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
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くノ一その一今のうち・26『百地流忍法骨語&闇着替』

2022-11-12 16:49:07 | 小説3

くノ一その一今のうち

26『百地流忍法骨語&闇着替』 

 

 

 ―― いま下りたソノッチは金持ちだ ――

 

 ヘリコプターのドアを閉めながら、もう一人のわたしが口の形で言う。

―― なんで化けてるんですか? で、あなたは? ――

 言いながら指さすと、そいつはニヤリと笑って『わたしだよ』と忍び語りで応える。

 おかしい、この騒音の中だ、いくら忍び語りでも聞こえるわけがない。

『一種の骨伝導さ』

 見ると、そいつは、わたしが座っているシートのアングルを掴んでいる。離すと、とたんに口パクになる。

『百地流忍法、骨語り』

―― 百地流……え!? ――

 見破ったわけじゃない、そいつの顔が、一瞬で百地社長になったんだ!

『いやあ、歳だな、化けているのは三時間が限度だ』

―― 術を解くなら、全部解いてください! 首だけ社長というのは気持ち悪いです! ――

『解いてもいいが、この服を着たままだと悲惨なことになる』

―― う…… ――

 たしかに、わたしに化けているからリコリコの衣装のままだとパッツンパッツン……術を解いたら……想像もしたくない(^_^;)。

―― でも、なんで? ハローウィンはとっくに終わってるでしょ ――

『大きな仕事でな、わしも出ざるをえなかった』

―― わたしに化けるのが大きな仕事なんですか? ――

『さっきまで、金持ちと二人、湘南であばれていたところだ。金持ちは経理の仕事が残ってるんで、いったん戻ってきたところだ』

―― で、今度は、どこへ? ――

『詳しくは言えんが、外国だ』

―― 外国……このヘリコプターで? ――

 乗り物には詳しくないけど、ヘリコプターでは無理だろ、オスプレイでも無理だと思う……どこかで乗り換えなきゃ。

『そう、乗り換える……ほら、見えてきた』

―― え、もう? ――

 社長が指差したキャノピーの斜め下には都内で唯一……だと思うんだけど、米軍基地の滑走路が見えてきている。

『あそこで乗り換えて、某国に飛び立つ。心配するな、月曜の朝には帰って来られる』

―― 某国って……外国でしょ? 学校に行く用意しかしてないし、制服のままだし ――

『用意ならできている、ほら……』

―― え……!?……いつの間に!? ――

 気が付くと、社長と同じリコリコの制服を着ている! カバンも変わってるし!

『身に着けていたものは、こっちのカートの中だ』

―― 着替えた憶え無いんですけど! ――

『百地流忍法闇着替……ニンニン』

―― (#꒪ȏ꒪#) ――

 意識を肌感覚にすると、ほんとうに身に着けていたもの全てが変わっているではないか……恐るべし百地流忍法!

『まあ、僕も付いていくから(^_^;)』

 別の声がしたかと思うと、背中を向けていたパイロットが振り返る。

 パイロットは、わたしに化けた嫁持ちさんだった……。

 

 

☆彡 主な登場人物

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くノ一その一今のうち・25『してやられる』

2022-11-02 08:58:46 | 小説3

くノ一その一今のうち

25『してやられる』 

 

 

「行ってきまーす」「行ってらっしゃい」

 

 お祖母ちゃんと言葉を交わして玄関を出る。

 三歩で通りに出て左に曲がる。

 お線香の匂いがして、つい「お早うございます」を言いかける。

 筋向いのお爺ちゃんは、仏壇にお線香をたて、リンを鳴らして、ナマンダブを三回唱えるのが朝のルーチン。

 そのあと、郵便受けに新聞を取りに出て、玄関を出たばかりのわたしに「お早う」を言ったり「お早うございます」をこっちから投げかけたり。

 でも、先月、お爺ちゃんは亡くなったので「お早うございます」は言わない。

 それが、つい口をついて出てしまったのは、お線香の匂いがしたからだ。

「お早う、そのちゃん」

 お爺ちゃんの声。

 思わず振り返ると、郵便受けから新聞を取り出しながらお爺ちゃん。

「お早うございます」

 してやられたと思いながらも挨拶が口を突いて出る。

 忍者が変異に出会った時の対応は二つだ。

 さっさと逃げるか調子を合わせるか。

 変異の正体や出方が分からない時は、とりあえず調子を合わせる。

 そして、相手の意図や力を推し量れたところで、次の行動に出る。

 さあ、なにが起こるんだぁ?

 お爺ちゃんは、笑顔一つ残して家の中に入って行った……生きていたときのまんま。

 ハッ

 小さく息を吐いて角を曲がる。

―― このまま事務所に行け ――

 不覚、ブロック塀の上の猫が語りかけてくる。

『なんでですか?』

 猫は課長代理に違いなく、こないだからしてやられっぱなしなので、少しムキになる。

―― その車に乗れ ――

 キーー

 聞く間も無く、スライドドアを開けながらミニバンが横付け。

 

「全部読まれてるね」

 

 ハンドル操作をしながら力持ちさん。

「力持ちさんも?」

「ああ、テレビ局に行こうとしたら電話がかかってきた。ソノッチを送り届けたらまあやを迎えに行く。今週のまあや番はわたしがやることになった」

「任務ですか?」

「うん、ソノッチもな、おそらく、事務所全体で対応している。ムカつくくらい機先を制されているからな。わたしらに考える隙を与えない。ソノッチも考えないほうがいい」

「はい」

 それからは沈黙になり、五分余りで丸の内の会社に着いた。

 

「お早うでござる、そのさん。このまま屋上に参られよ」

 

 二課のドアを開けると、案内ロボットが真ん前で待っていて、胸のディスプレーに屋上へのルートを表示してくれている。

「了解」

 屋上へは、八階までエレベーターで、そこからは階段だ……で、エレベーターの前で気が付いた「って、ここは八階じゃん」。完全に指示で動くようにならされてしまった。 

 走って階段を上がり、屋上に出る。

 バーーン

 せめての腹いせに、元気よくドアを開ける。

 ウワ

 騒音と激しい風が同時にやってきた。

 バラバラバラバラバラバラバラ!

 目の前にヘリコプター!?

 ガラ

 胴体のドアが開いたかと思うと……わたしが出てきた!

 出てきたわたしは、評判のアクションアニメ『リコリ〇リコイ〇』の制服を着ている。

「お早う、次は、あんたの番ね。頑張って!」

 軽く肩を叩くと、背中のカバンを肩掛けにして階段室に入って行った。

「早く乗って!」

「はい……!?」

 振り返ったヘリコプターの中からは、もう一人のわたしがオイデオイデして急き立てているし……。

 

☆彡 主な登場人物

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くノ一その一今のうち・24『緊張を孕んだ平穏……ちょっと堪える』

2022-10-24 16:22:11 | 小説3

くノ一その一今のうち

24『緊張を孕んだ平穏……ちょっと堪える』 

 

 

 佐助に脅かされ、服部課長代理に皮肉をとばされたわりには平穏な日々が続いている。

 緊張を孕んだ平穏……ちょっと堪える。

 

 今日も表面的には無事に『吠えよ剣』の収録が終わり、無事にまあやを送り届けたので事務所である総務二課の部屋でお茶を飲んでいる。

「ほい、どっちだ?」

 力持ちさんが両手をグーにして突き出した。

「え、なんですか?」

「コンビニで買い物して、お釣りを握ってるんだけど、どっちだと思う?」

 なるほど、デスクの上にはレジ袋が置いてある。

「あ、わたしボンヤリしてました?」

 佐助の一件以来、まあやのガードには少し……いや、けっこう気を遣っている。

 マネージャーに引き継ぐところで、わたしの仕事は終わりなんだけど、今日は事務所まで送り届けた。本当だったら、事務所どころか、まあやの家まで付いて行きたいところなんだけど、お互い事務所の顔もあるし、課長代理も「今のところは、それでいい」と言う。

「さあ、どっち?」

「……右です」

「ち、当たっちゃった」

「丸わかりです」

「そうなの?」

「はい、表情に出てます」

 お祖母ちゃんに仕込まれ、この手の事はお茶の子さいさい。

 お祖母ちゃんは、自分で握ったり、お茶碗の下に隠したり、いろいろやってくれたけど、六つの頃には、ほぼ完ぺきに当てられるようになった。ただ、お祖母ちゃんの訓練には他の狙いもあったんだけど、それは、またいずれね。

 人間、物を隠すと――ここに隠した――という意識が強くなって、それが出てしまう。

 どういうところに出るかは言えない。

「じゃ、わたしのは、分かるかなあ……」

 伝票処理が終わった金持ちさんがティッシュペーパーを丸めながらやってきた。

「おお、真打登場!」

「ヒューヒュー」

 パチパチパチ

 金持ちさんも嫁持ちさんも、おどけて、金持ちさんのために場所を空ける。

「ええ、どうぞ」

「それじゃあ……エイ!」

 金持ちさんは、わたしの目の前で素早く握った両手を上下左右に交差させて、わたしの前に示した。

「どっちでしょうか?」

「……わたしの後ろ、たぶんデスクの上」

 振り返って、予想通りデスクの上にあったティッシュを示した。

「あれえ、ポーカーフェイスには自信あったんだけどなあ」

「だって、金持ちさんが名乗りを上げると、力持ちさんも嫁持ちさんも、わたしの視界から外れましたよね。それって、わたしに表情を読まれないためです。そして、交差した手は、上下方向に振られた時、大きく、わたしの視野の外まで振られました。視野から外れた時に後ろのデスクに投げたんです」

「ほう……さすがは風魔」

「ティッシュ持ち出した時点で予想はつきましたけど」

「そうだね、落ちても音がしないもんな。やっぱ、読まれてるよ金持ち」

「でも、表情からは読めなかったでしょ?」

「はい、さすがは会計担当です」

「ぬふふふ」

「でも、お風呂でやったら分かります」

「え、そうなの?」

「はい、表情が出るのは顔だけではないですから」

「な、なるほど……」

 

 フフフ……先輩を負かして、ちょっとリラックス。

 ありがたい、先輩たちは、わたしの苦しさを分かって解してくれている。

 さ、社長に報告して、今日は帰ろう。

 

 コンコン

 隣の社長室(百地社長もこっちに来るようになって社長室をもらってる)をノックする。

 

「どうぞ」

「失礼します」

「おう、ご苦労様。ところで、どっちだ?」

 社長は、握った両手をわたしの前に突き出した。

「え、社長もですかぁ?」

「百地流はすごいんだぞぉ(⊙ꇴ⊙)」

 目を、それこそ目いっぱい開いて、鼻の穴も膨らませて誤魔化したつもりかもしれないけど、丸わかり。

「左です」

「ほれ!」

 社長が左手を開いた。

「ウッ(꒪ꇴ꒪|||)」

 一瞬気が遠くなって、目を開けた時には社長の姿は無かった。

『ワハハハ、見たか、百地流忍法〔握り屁〕じゃ! まだまだ修行が足らぬ! 励め! そのいち!』

 

 わたし、ここに居て大丈夫なんだろうか?

 思わないではなかったけど、エレベーターで一階に下りるころには笑いがこみ上げてきた。

 西の空は茜に染まって、思いのほか足どりが軽くなったのに驚いて地下鉄の駅に向かったよ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

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くノ一その一今のうち・23『自習時間の忍び語り』

2022-10-14 10:03:07 | 小説3

くノ一その一今のうち

23『自習時間の忍び語り』 

 

 

 今日は一時間目から自習だ。

 

 自習は、たいてい自習監督の先生が自習課題を配って「あとで取りに来るから、やっておけよ」と言って出ていく。

 一時間目の自習なので、SHRを済ませた担任が、そのまま自習課題を配っていった。

 あれ?

 取り掛かろうと思ったら、すでに自習課題には答えが書いてある。それも、わたしの字で。

―― やってるふりをしておけ ――

 忍び語りの声が飛び込んできた。声は服部課長代理だ。

『どこにいるんですか?』

―― 自分で探してみろ ――

 二秒で教室内のクラスメートたちを透視……教室には居ない。

 胸元の魔石が仄かに熱を持つ……とたんに意識が倍ほどに冴えてきて、窓の外、校庭のメタセコイアの根方で日向ぼっこしている猫が目に入る。

―― ほう、気づいたか。さすがは『その一』だな ――

『なんの用ですか、学校にまで押しかけてきて』

―― おまえ、佐助に会ったな ――

『あ、今日報告するつもりだったんです』

 昨日の今日だ、業務報告なら、バイトに行ってやればいいと思ってた。

―― 会社では人の目がある ――

 課長代理だって会社の人間だろうに……いや、ヤバイ話?

―― 俺の気まぐれだ ――

『……ですか』

 だめだ、想念が読まれてる。聞くことに専念しよう。

―― 社長は『同じ豊臣のガード、構うな』と言うだろう ――

『だめなんですか?』

―― 豊臣の裔は鈴木の家一つがあればいい。木下は不要だ。あちらは鈴木こそ不要だと思っているがな ――

『はい、シカトします』

 あんな奴、こっちから願い下げ。

―― 言っておく。佐助とは慣れ合うな。いずれ命のやり取りをすることになる ――

『無視すればいいんじゃないんですか?』

―― 今はな、将来的には殺す。木下の当主ともどもな ――

『じゃ、今から始末すればいいんじゃないですか』

 売り言葉に買い言葉。

―― 笑わすな、お前が敵う相手じゃない ――

 ちょっと腹立つ。

―― その子は笑っていただろ ――

『お祖母ちゃんを呼び捨てにしないでください』

―― その子は下忍、俺は上忍だ ――

『そうですか』

―― 手に負えない時、あいつは笑うんだ ――

『でも、佐助の方から仕掛けてきたら?』

―― まあや様をお守りすることだけに集中しろ ――

『それだけですか?』

―― 必要があれば連絡する ――

『とりあえずは?』

 佐助の様子からして、近々なにか起こりそうな気がしているから聞き返す。

―― 近々な……フフフ ――

『なにがおかしいんですか!?』

―― ハハハ……俺だって笑うんだぞ ――

「課長代理!」

 

 ヤバイ、声が出てしまった(;'∀')。

 

 さいわいクラスメートには気付かれなかった。

 胸に手を当てると、魔石がさらに熱を持っていた。

 メタセコイアに気を戻すと、すでに猫の姿は無かった。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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くノ一その一今のうち・22『一日署長と猿飛佐助』

2022-10-06 11:24:50 | 小説3

くノ一その一今のうち

22『一日署長と猿飛佐助』 

 

 

 戸締り用心火の用心、安全運転を心がけ、特殊詐欺に気を付けましょう(^▽^)/

 

 可愛く笑顔を振りまきながら手を振って、お年寄りが居ればこちらから握手して標語の入ったポケティッシュを渡し、子どもが目に留まれば目の高さにかがんでキャンペーンの風船を渡す。

 わたしの後ろには交通安全と特殊詐欺予防啓発の横断幕を持った婦警さん、いや女性警官さん。リスとパンダの着ぐるみが手を振って、地元自治会や商店会の役員さんたち、本物の署長さんと地域安全課のお巡りさんが続く。

 むろん、わたしは一日署長のタスキをかけて、助手兼ガードのお巡りさんが付いてくれて、行く先々で愛嬌を振りまく。

 大きな声では言えないけど、今日は代役としてではなく、鈴木まあや本人として○○警察の一日署長を務めている。

 まあ、はっきりと声を出さなきゃ、事務所の社長だって区別がつかないくらいにソックリなんだ。

 本物は放送局で『吠えよ剣』のリハーサルの真っ最中。

 夕方にはリハーサルを終えた本人と入れ替わって、帳尻を合わせるように段取りが組まれている。

―― ほんとにごめんね ――

 時々視線が合って、ダブルブッキングの張本人が手を合わせたり頭を掻いたり。

 来年、大学受験の弟が居て、がんばらなきゃいけなくて( ノД`)という泣き言を信じてるわけじゃないけど、まあ、マネージャーも大変なんだと了解したふりをしている。

 まあやは、驚いたことに豊臣秀頼の子孫で、徳川物産の社長は二代将軍秀忠以来、残された豊臣家の血筋を保護してやるのが務め。その任務は下請けの百地芸能に、実際の業務は孫請けと言っていい風間その、つまり、わたしが引き受けている。

 まあ、そういう公的な事情は別にして、まあやとは、そういう事情が分かる以前からの付き合い。

 いまは、ほとんど姉妹みたいな感じだから、仕事とか役割とかを度外視してやってるわけ。

「商店街を抜けたら本町通りを通って、いったん署に戻って休憩です」

「午後は北町の商店街を中心に回ります」

 横断幕の女警さんが小声で教えてくれる。もう、三十メートルほどで、南町商店街のアーケードを抜ける。

「はい、承知しました」

 笑顔で返事して、お婆さんにポケティッシュ、女の子に風船を渡したところでアーケードを抜けた。

 正直ホッとする。

 代役としては自信があるけど、ここは街の中、万一バレてしまったらと、内心では少し心配だった。

 

 ブオオオオオオオオオ!!

 

 すごい爆音がして、その場の人たちが音のする通りの向こうに目を向ける。

 暴走者だ!

 危ない! 避けて! ピリピリピリ!

 お巡りさんたちの叫び声やホイッスルが鳴り響く!

「まあやさん!」「こっち!」

 女警さんたちが、横断幕を捨てて、わたしを避難させようと手を差し伸べる!

 しかし、それ以前に、風船を渡した女の子が立ちすくんでいるのが目に入る!

「 ! 」

 忍者の行動は無言だ。

 横っ飛びに女の子を抱くと、そのまま歩道まで跳躍!

 ほんとうは、自販機を踏み台にしてお店の屋根まで飛んで完全を期したかったけどブレーキがかかった。

 まあやが屋根まで飛んだら、さすがに不自然だもんね。

 グオオオ ガッシャン!

 自動車は、30キロ制限の標識をなぎ倒し、女の子を庇うわたしの背中を掠め、コンビニの店先に突っ込んだ!

 とっさに見えた運転席にはお爺さん、ブレーキとアクセルの踏み間違い!

 コンビニの入り口付近を壊しただけで停車したのは、とっさに踏み間違いに気付いたからかもしれない。

「大丈夫ですか、まあやさん!」

 すかさず女警さんが飛んできてくれる。

「だ、大丈夫です。それよりも……」

 女の子は、わたしの胸の中でキョトンとして、コンビニの惨状に気付くと、やっと火のついたように泣き始めた。

 

 さすがは『吠えよ剣』のヒロイン!

 

 午後になってニュースで知ったリアルまあやは、すっ飛んできて入れ替わって、わたしの無事を知ると、マスコミのインタビューをこなした。

「ちょっと大変だけど、あとはよろしくね」

「うん、危ない目に遭わせて、ごめん」

 簡単に言葉を交わすと、来庁者を装って警察を出る。

 

 !!?

 

 暴走車の倍ほどの危険を感じて横に跳び、マンションの二階外廊下に着地……すると、後方に気配。再びジャンプして、隣のビルの屋上に。

 スタ

 同時に着地された!

 ハッ!

 給水タンクの陰にまわると、気配が忍び語りで話しかけてきた。

―― さすがに風魔のくノ一だな、いい身のこなしだ ――

―― だれだ、おまえは? ――

―― 十五代目猿飛佐助だ ――

 猿飛佐助? 

―― 佐助の血脈は絶えているはずだ、聞いたことが無いぞ ――

―― まぬけ、豊臣の血筋が生きていることも知らなかっただろうが ――

―― おまえ、豊臣家に付いているのか? ――

―― ああ、俺は本流の木下の方だがな ――

―― なんの用だ? ――

―― 木下こそが豊臣の嫡流、鈴木は目障りだ。木下の邪魔をするな。同じ忍び、一度だけは忠告しておいてやる ――

―― 待て ――

―― なんだ? ――

―― 昼間の事故、おまえが仕組んだのか? ――

―― ああ、ジジイ一人に暗示をかけてな。おかげで、おまえの技量が掴めた ――

―― あやうく大惨事になるところだったぞ ――

―― ちゃんと最後にはブレーキを踏むように暗示をかけた。人死にはおろか怪我人も出なかっただろ ――

―― おまえはクソだ ――

―― じゃあ、おまえはゴミだ ――

―― おまえは…… ――

 

 言葉を継ごうと思ったら気配が消えた。

 

 家に帰ってお祖母ちゃんに話したら、嬉しそうに笑われてしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

 

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