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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲『あすかのマンダラ池奮戦記⑥』

2019-06-21 07:11:41 | 戯曲
連載戯曲
『あすかのマンダラ池奮戦記⑥』

 
 

 両手をつかって気をとばすイケスミ、数メートルふっとんで地面に体を打ちつけられるあすか。

あすか: ……
イカスミ:……
イケスミ: 我が名はイケスミだ、二度とまちがえるな!
フチスミ: この子は恐ろしいんだ……もう戻してやった方がいい。そんな顔してると禍つ神になってしまうわよ。
イケスミ: ……そ、そうだったな。ここまでだけの約束を、ついひっぱり過ぎた。すまん、あすか……ほら、約束の成績票。
あすか: あ、ありがとう……!?
フチスミ: どうかした?
あすか: オ、オール5だ……あたし、こんなには賢くないよ。
イケスミ: あすかの頭も、それにあわせてよくなっている。
あすか: ほんと?
イケスミ: フチスミさん、なんか問題言ってやって。
フチスミ: うーん……じゃ、微分方程式ってなーんだ?
あすか: 未知関数の導関数を含んだ方程式。未知関数が一変数のとき、常微分方程式といい、多変数のとき偏微分方程式という……え?
フチスミ: 和文英訳「日本語のおはようは、英語のグッドモーニングと同じです」くりかえそうか?
あすか: ううん「オハヨウ イズ ジャパニーズイクォリティー トウ ジイングリッシュグッドモーニング」……おお!?
フチスミ: 古文法、推量の「ら」を用いた著名な和歌は?
あすか: 春すぎて、夏きたるらし白妙の、衣干したり、天の香具山……万葉集巻一、持統天皇の御製。ちなみに持統天皇、名はタマノハラノヒメ、またはウノノサララ、天智天皇の第二皇女で天武天皇の皇后、草壁皇子没後即位、第四十一代の女帝。ちなみに神田うのの「うの」は、このウノノサララからきている……すっげえ!
イケスミ: な、賢くなったろう。
あすか: ありがとう、頭の中に百万個電気がついたみたい。
フチスミ: ちょっと甘すぎない?
イケスミ: 同じ学校受けられる水準にはしといてやらないとな、真田ってイケメンと。
あすか: ああ、それないしょ、ないしょ(;'∀')!
フチスミ: あははは……そうだったわね。
あすか: え……?
イケスミ: 神さまに内緒は通じないからな。
フチスミ: がんばってね。
あすか: もう……!
イケスミ: それから、その成績票、破いたり傷つけたりするなよ。
あすか: うん!
イケスミ: 元のバカにもどっちまうからな。
フチスミ: 元のあすかも悪くないわよ。
あすか: もう、フチスミさんたら(*ノωノ)。
フチスミ: ……南東のケモノ道がまだ無事のよう。まだ日が高いから、少し教えてあげれば一時間で轟って街につく。
あすか: トドロキ……
イケスミ: このへんにしては大きな街だからすぐに、駅が見つかる。特急に乗れば一時間ちょっとで東京。ほれ、電車賃……バカ透かすんじゃない、本物。葉っぱなんかじゃないからな。
フチスミ 南の方はまだ息をひそめているけど、北の禍つ神達が雑魚のように群れはじめている。その藪の中に武器が隠してある。間に合わないときは、それで始めといて。さ行こうあすか、こっちよ。
あすか: うん、イケスミさん無事でね! 死ぬんじゃないわよ……!

 あすか、フチスミにいざなわれ上手に退場、イケスミ一人残る。

イケスミ: 心配すんな、まかしとけ!……あいつ初めて正しくイケスミって言ったな……神さまは死なねえよ……ただ変にひねくれちまって(北の方角をにらむ)ああいう禍つ神になっちまう奴がいるけどな……(北の彼方で禍つ神達の気配。イケスミ、そこに一瞥をくれると藪を探る)なるほど、さすがフチスミ、どう見ても竹や、枝の切れ端だけど、みんな鋭い殺気がこもっている。ロケット弾、重機関銃並のものまであるじゃないか……このへんが手ごろ……(ふりむきざまに、手ごろな小枝をとり意外に近くの北の空をめがけて撃つ。機関銃のような音と手応え。奇声を発して、鳥のように禍つ神の落ちる音)けっ……意外に近くにやってきている……(続いて撃ちまくる)
 
フチスミ: イケスミ!

 フチスミが、上手から転がり出るように駆けもどり、たった一人の戦闘に加わる。手ごろな武器を持ち二人で撃ちまくる。
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高校ライトノベル・連載戯曲『あすかのマンダラ池奮戦記➄』

2019-06-20 06:41:44 | 戯曲
連載戯曲『あすかのマンダラ池奮戦記➄』




 フチスミは、出雲の方角に例の神の挨拶をしている。イケスミもそれにならいながら挨拶をする。あすかもつりこまれ、不器用にそれにならう。

イケスミ: 師走にもつれこむと、鬼が出始めるぞ。
フチスミ: もう出始めている。(彼方で音)ほら……水没したとはいえ、ここはトヨアシハラミズホノオオミカミさまの住まわれる聖地、しかも留守とあっては禍つ神どもにとって、鍵の開いた金庫も同然。あの音は結界に禍つ神が触れる音だ。
イケスミ: 結界が?
フチスミ: 今のところは無事、でも、時間の問題、北と南に集まり始めている。一人で二正面の戦いは苦しかった。
イケスミ: あたし……出戻りが親のスネカジリにもどってきたつもりなんだけど……
フチスミ: なによ、それ?
イケスミ: だってね……
フチスミ: だってもへちまもないわよ。いいこと、このミズホノサトを奪われたら、わたしたち住むところないのよ。イケスミさん、あなた、東京の万代池もほっぽらかしてきたんでしょ!?
イケスミ: だって、だって、あそこはもう埋め立てられっちまうんだよ! 池の神が池を失ったら、もう存在理由ないだろ? アイデンテイテイ、レーゾンデートルの問題だ。
フチスミ: だからがんばるんじゃない! わたしなんか依代の方が元気で、どっちがとりつかれてんのか……
あすか: ね、あそこ、学校があったんじゃない?
イケスミ: え?(話を中断されたようで、少し機嫌が悪い)
フチスミ: よくわかったな。ポールが突き出ているだけなのに。
あすか: あのポール、卒業記念に、中学に残してきたやつといっしょみたいだから。あたしが選んだんだよ。生徒会の役員やってたから。
フチスミ: へえ、あすかちゃんて偉いんだ。
イケスミ: 中学の生徒会役員なんて、手ェあげたらだれでもなれんだよ。
あすか: もう、ちゃんと対立候補を大差でやぶって当選したんだかんね。
フチスミ: へえ、立候補したんだ。
あすか: そ、そだよ! 
イケスミ: プ(*´艸`*)
あすか: な、なにがおかしいの!?
イケスミ: 体育祭のリレー、ゴール直前でズッコケてクラスをドンベにして「お詫びになんでもします!」って、やらざるを得なかったんだよな~。
あすか: う、うっさい!
フチスミ: 村立伴部小中学校、この依代の子が通っていた学校。この子も卒業記念品の選定委員やってたんだよ。
あすか: そうなんだ! あのポール、特注品で高いんだよね頭のところに校章がついていて、夜になると、太陽電池の明かりが照らすようにできてんの。校章とポールの間に発光ダイオードとか入ってて……
フチスミ: 日によって色が変わるんだよね。
あすか: うん、うちは月曜が赤「ファイトオッ一発がんばるぞ!」ってんで、ヘヘ、学校にゴマスリのハッタリだけどね。
フチスミ: ここは田舎だから、日めくりの色どおりに日曜が赤、あとはアンケートとって多い順。
あすか: あら民主的……うちは、あたし一人で全部きめちゃった。
フチスミ: すごいのね……
イケスミ: 誰も興味ないんだよ、あすかの学校じゃそういうことにはさ。
あすか: そういうこと言う?
イケスミ: でも、そうなんだろが。
あすか: ……そりゃ、そうだけどさ。
フチスミ: あのポールの校章、今でも光るんだよ……フフフ、今日はオレンジ。給食にミカンのつく日だったから、一番に決まったの。
イケスミ: あなた……名前はなんて言うの?
フチスミ: え?
あすか: ?(不思議そうに二人の顔を見る)
イケスミ: 依代、あんたのことよ。普通神さまがとりつくと、依代の意識は眠っちまうんだ。な、そうだろあすか、ここへ来るまでのことちっとも憶えてないだろ?
あすか: ……うん、「ミッションスタート!」でとぎれて……
イケスミ: スカートめくって太ももあらわにして、長距離トラック乗り継いだことなんか憶えてないよな?
あすか: え……そんなことしたの!?
フチスミ: フフフ、そうよ、この子の意識は起きている。だから、スカートめくってヒッチハイクなんて、とてもやらせてはもらえないけど。
イケスミ: で、名前は? 依代をしながら意識が醒めているなんて、ただ者じゃないわ。
フチスミ: 桔梗、天児桔梗(あまがつききょう)
イケスミ: 天児……!
あすか: アマ、アマガ……?
イケスミ: 天国の天に鹿児島の児と書くんだ。伴部村の神社の子だな?
フチスミ: 社は二十年前の台風で倒れて、それっきりだけど、この子のお父さんが、映画のセットみたいな代用品を建てて細々とやっていたんだけど……そのお父さんの神主さんも、今度の地震で……
あすか: 他に家族は……?
イケスミ: 天涯孤独……一人ぼっちって意味さ。
あすか: どうして、イケスミさんに分かるの?
イケスミ: その桔梗って子、身を投げにきたんだね、フチスミさんの花ケ淵に……
フチスミ: よくわかったわね、二人だけの秘密だったのに。
イケスミ: イケスミだよあたしは。意識が起きてさえいりゃあ、なんだってお見通し。依代になりながら起きているなんて、天児の子とは言え、本当は強くて賢い子なんだね。
フチスミ: ……繊細で賢い子。だから、新しい町や学校にもなじまず、死のうと思った。
あすか: あの……繊細で賢い子だと、どうして、なじめずに死のうと思っちゃったりするわけ?
イケスミ: だって、おまえはなじんでるだろ、町にも学校にも?
あすか: うん、あたしは バカでガサツで弱虫なわりにお調子者で……
イケスミ: だろ。万代池が無くなるのに死のうなんて思わないしさ……
あすか: ちょ、ちょっと!
イケスミ: すまん、ちょっとひがんでみただけ……
フチスミ: 桔梗は、このあたりでただ一人わたしの依代になれる素質を持った子だった。
あすか: ソフトとハードの関係だね。あたしとイカスミさんみたいに。
イケスミ: イケスミだっつーの。
フチスミ: その桔梗が、廃村の二日後、たった一人でわたしのところへやってきた。これは運命だと思った。この子もね……二人でそう感じた時、わたしは溺れているこの子にのり移っていた……その時……
あすか: その時?
フチスミ: かすかにオオミカミさまの声が聞こえたような気がした……
イケスミ: はるか出雲から、オオミカミさまの声が……
フチスミ: 見とどけよ……とおっしゃった。
イケスミ: 何を見とどけよと?
フチスミ: おもどりになるまでのこと、それしかないわ。
あすか: でも、もう十一月も末だよ。
イケスミ: どういう意味だ?
あすか: ……もう帰ってこないんじゃ……だって何もかも水の中に沈んでしまって、変な不良の神さまたちもここをねらってるみたいだし……(彼方で崩れる音)
イケスミ: 神さまは嘘は言わん。
あすか: でも、もどってくるとは言ってないんでしょ。出雲に行ってくるとだけ、そしてかすかに、見とどけよと、そう言っただけでしょ?
イケスミ: 神無月を過ぎて、神々がもどられなかったことなどない!
あすか: だって、まだもどってこないじゃないか!
イケスミ: ……
あすか: 先生だって、トイレにたったきり職員会議にもどらない人がいる。生徒の大事な進路を決める職員会議にだよ!
イケスミ: 学校の教師ごときと神さまをいっしょにするな! 神さまを信じろ!
あすか: だって、イカスミさんだって、マンダラ池を見捨てたじゃないか、二度ともどってきやしないんじゃないか!
イケスミ: 勝手なことを申すな!!
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高校ライトノベル・連載戯曲『あすかのマンダラ池奮戦記④』

2019-06-19 06:44:16 | 戯曲
連載戯曲
『あすかのマンダラ池奮戦記④』







 再び地震、先ほどとは違う方角で何かが崩れる音がする。三人、音の方角に顔をむける

あすか: まただ……
イケスミ: いったいここはどこだ、鬼岩こそはそこにあるけれど、ミズホノサトへは、どこをいけばいいんだ!?
フチスミ: ここがそうよ。ここがわたしたちの土地、オオミカミさまの知ろしめすトヨアシハラミズホノサト。
イケスミ: ここが?
フチスミ: ……この水の底。
イケスミ: 水の底?
フチスミ: ええ、伴部、美原、樋差の三ヶ村も、ミズホノウミも、みんなこの途方もない水の底に沈んでしまった。
イケスミ: ……
あすか: あ……地震で沈んでしまった村ってここなんだ!?
イケスミ: なんだ、それ?
あすか: ニュースとかで、やってたじゃん、ちょこっと東京も揺れちゃったじゃん何ヶ月か前に。
フチスミ: イケスミさん、知らなかったの?
イケスミ: わたしの池には、ほとんど人が来ない。来れば、人の心の中からニュースも読み取ることができるんだけどな。
フチスミ: そんなに人が来ないの?
イケスミ: この程度のネーチャンとか野良犬、時に酔っぱらいくらいだな……
あすか: このテードってのはないでしょ。ちゃんと思い出したじゃん。
イケスミ: ……地名もわからないほどおぼろげにな。
あすか: だって、自分とこに被害のない地震なんて忘れちゃうって、ふつー。
関係ないっしょ、よその地震なんて……言い過ぎた? ごめん、だって、このテードなんてイカスミさん言うんだもん。
イケスミ: イケスミだっつーの。
フチスミ: 山が水を含んだ砂山のようにドーッと崩れてきてね。あっという間にダムのように川をせきとめて……ここまで水位が上がるのに十日もかからなかった。
イケスミ: 弥生の昔からここにいるけど、こんなことは初めて、この三百年の間に……
フチスミ: この七十年ほどよ。
イケスミ: 戦後?
フチスミ: 残っている山を見て……
あすか: ……きれいな杉山。
イケスミ: 木の名前知ってんのか?
あすか: 松と桜と杉しかわかんないけどね。小学校の時なんかに記念植樹とかするでしょ。
フチスミ: わかった?
イケスミ: ……杉山すぎる。
あすか: だめなの杉山じゃ? 
イケスミ: 杉は、根が浅くて、大雨が降ると根っこごと土が崩れてくるんだ。
フチスミ: 昔は、山崩れを防ぐため、山の稜線付近は……
あすか: リョーセン?
イケスミ: あすか、ほんとバカだな。
あすか: アハハ……てっぺんあたりのことかな? 家で言えば、屋根のてっぺん。ドラえもんとミーちゃんがデートするような。
フチスミ: フフ、勘はいいようね。さすが元宮さん。
あすか: テヘヘ、さんづけの苗字で呼ばれると照れるわね……で、稜線いっぱい杉山にすると……崩れやすいの?
フチスミ: だから、昔はわざと深い根を張るクヌギなんかの雑木を残しておいたの。そういう稜線をクヌギ尾って言って、山崩れを防ぐ自然の知恵だったの。
あすか: 昔の人は偉い!
フチスミ: 今の人もバカじゃない。戦中や終戦直後は、国策で杉ばっかりだったけど……こないだまでは、やっていた。少しずつだけど……
イケスミ: でも、人もカネも足らんということか……
フチスミ: そうね……でも、今度のことでは、みんながんばったのよ。この水を抜いて、もとにもどそうって。
イケスミ: あきらめちゃったの?
フチスミ: うん、三日前。この水を抜くために、山崩れでできた自然ダムを破壊すると下流の村や町に迷惑をかける。断腸の思いで廃村と決めたの。
あすか: 団長が一人で決めた!? そんなの許せないよ! いったいどこの団長!? 青年団? 消防団? 少年探偵団?
フチスミ: ハハハ……何ヶ月ぶりかしら、こんなに笑えるの……(あすかを含め三人笑う)
あすか: な、なによ、違うんだったらおせーてよ!
イケスミ: 腸がちぎれるくらいに痛くて辛い決心ということよ。なんなら体験してみる?
あすか: いいよ、自分の腸でつくったソーセージ想像しちゃった。
イケスミ: ごめんね、へんなの連れてきちゃって。
フチスミ: ううん、とってもなごむわ。ここしばらくは、一人でふんばらなきゃと思っていたから。
イケスミ: で、オオミカミさまは? 気を飛ばしても、どこのお旅所にも気配を感じない……もうここには在わさぬのか?
フチスミ: 出雲においでになる。
イケスミ: 出雲!? 今は霜月十一月、それも霜月会(しもつきえ)とうに終り、霜月粥が大師講で湯気をたてておるころぞ。
フチスミ: 今年はまだ神無月が続いておる。だから、今年は霜月も晦日近いと申すにこの暖かさ。
あすか: あ、あのさ、その時代劇みたいな言い回し、あたしちっとも……国語欠点だから。
イケスミ: 国語だけか?
あすか: それは……
フチスミ: ごめんなさい。つい昔のノリになっちゃって。つまりね、オオミカミさまは、年に一度の神さまの会議に、出雲に出張なさってるの。それが十月って決まっていて、出雲以外のところから神さまが居なくなるから十月を神無し月と書いて神無月というの。それが霜月、十一月になってもお戻りにならない。
あすか: 職員会議の延長みたいなもんだね。いや、毎年あるんだ、三月ごろ、あすかみたいなバカを進級させるかどうか、この日ばかりは遅くまで点いてる職員室の明かりに手を合わせているのよ……ってそういう話?
イケスミ: 神無月が十一月まで食い込んだのは初めてだ。よほど重要な話をなさっているのだろう……
あすか: ひょっとして、イカスミさんを落第させる話題だったり……ごめん、冗談の雰囲気じゃないんだよね。
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高校ライトノベル・連載戯曲『あすかのマンダラ池奮戦記③』

2019-06-18 06:39:05 | 戯曲
連載戯曲
『あすかのマンダラ池奮戦記③』




 
 
イケスミ: 着いた、着いた、……着いたんだああああああ!
あすか: 疲れた 疲れた……疲れたんだってばぁぁぁぁぁぁ!……(へたりこむ)
イケスミ: あ、思わず抜け出しちゃった(コントローラーをもてあそんでいる)
あすか: もうやだよ、とりついちゃ。もう、クタクタのヘトヘトなんだから……。
イケスミ: アハハ、もう大丈夫。着いたんだからな、わが故郷へ……!
あすか: 着いた?
イケスミ: あの鬼岩をまがって、坂の上にあがると見えるんだ。
 伴部、美原、樋差(ひさし)の三ヶ村。そして、そして、オオミカミ神さまの在(い)ます、ミズホノウミが……
あすか: 海?
イケスミ: 湖のことだわよ。小さいんだけど、尊敬と親しみの気持ちをこめて、人々はウミってよぶんだ(コントローラーをしまう)
あすか: そうなんだ。
イケスミ: ほら見ろ、鬼岩のここ、千年前に親神さまといっしょに土地の鬼どもを封じ込めたときに、記念に残したサインだぞ。
あすか: ……ウーン、どうも、ただのひびわれにしか見えない。
イケスミ: アハハ、神さまのサインだからな。真ん中が、トヨアシハラミズホノオオミカミさま。
 左がフチスミノミコト、わたしの親友。そして右がイケスミノミコト……  
あすか: へえ、これがイカスミさんなんだ。よく見ると、ちょっとイケてんじゃん!
イケスミ: ……この下の方に……埋もれてしまったんだろうなあ、
 他の神さまの名前が彫りこんであるはず……みんな、なつかしいわたしの仲間、わたしの同胞(はらから)
 ……(耳を岩につけて)鬼の気が弱々しくなってる……千年の歳月が鬼を和ませたか、さすがミズホノサト。 
あすか: ここの神様って、みんな名前の下にスミがつくの?
イケスミ: たいていな。神様である証拠。
あすか: でも変だね。
イケスミ: 何が?(少し気を悪くしている)
あすか: だって、フチスミとかイカスミとか、今にもタコみたく墨はき出しそうな感じでしょ?
イケスミ: 失礼な。友達じゃないんだぞ、神様なんだぞ、いちおう。それに、いいか、わたしは、イカスミじゃなくて、イケスミ!
あすか: え?
イケスミ: イ・ケ・ス・ミ! 行くぞ!

 舞台を一周して坂の上。

あすか: うわあ……!
イケスミ: ……!
あすか: ……すごい、やっぱ海じゃん! 
 けんそんして小さいって言ってたけど、海だよこれは! 
 霧のせいでむこう岸が見えないせいかもしれないけど……水上バイクで走ったら気持ちいいだろうねえ、
 この夏、江ノ島行きそこねちゃったから、カンドーだよ。
 この秋はエルニーニョとかなんとかの現象とかで、まだ暖かいからさ、
 水上バイクとか貸してくれるとこないかな!? 手こぎとか足こぎのボートだっていいんだよ。
イケスミ: ……ちがう。ミズホノウミは、こんなに大きくはないぞ……(鬼岩のところへもどる)
あすか: ちょ、ちょっとイカスミ……
イケスミ: ……たしかにこれは鬼岩、むこうに、笠松山と伴部山……

     水辺にもどる。

あすか: イカスミさん……
イケスミ: なんだ、なんだよ、どうしたってんだ、この一面の水は?
あすか: だって、三百年もたってんだからさ……
イケスミ: 変わるのか、こんなにも激しく……
 ここに立てば、伴部、美原、樋差の三ケ村がミズホノウミを軸に咲く大きな花のように望めた。
 それが、この一面の水……。
あすか: あの……
イケスミ: ちがう。ちがいすぎる。わたしとしたことが、
 どこか別のとんでもないところに出てきてしまったにちがいない。
 わたしとしたことが……(踵を返して、鳥のように立ち去ろうとする)
あすか: 待って、勝手に行かないでよ、おいてかないでよ!

 この瞬間、震度四程度の地震。彼方で何かが崩れる音がする。音は不気味にこだまし、怯えるあすか……

イケスミ: これは……。
あすか: あたし、帰る!
イケスミ: 待ちな、今のはただの地震だ!

 あすか、聞く耳を持たず、もどろうとするが、気づかないうちにあらわれていたフチスミの姿に驚いて立ちすくむ。
 フチスミは、セミロングの黒髪に、地元の女子高生の姿をしている。


あすか: キャー!
フチスミ: あなたたちが来た道は、今の土砂崩れで、通れなくなってしまったわ。
イケスミ: ……おまえは?
フチスミ: お久しぶりね、イケスミさん……

 フチスミ、神の間で通じる独特のあいさつをする。イケスミ、同じあいさつをかえす。あすかたじろぐ。

イケスミ: トヨアシハラフチスミノミコト?
フチスミ: 昔どおりのフチスミでいいわよ。
あすか: フチス……?
イケスミ: フチスミさん……わたしの親友だぞ。わあ、三百年ぶりだ!
あすか: あ、さっき鬼岩に名前のあった。
イケスミ: その姿は……依代?
フチスミ: ええ、わけあって……おいおい話すわ。
あすか: あの……。
フチスミ: 言っとくけど、今の土砂崩れは、わたしのせいじゃない。
イケスミ: 今のは地震でしょ?
フチスミ: もともとはね……でも、今のは違う。
あすか: ……。
フチスミ: (あすかに)そんなに怖い顔で睨まないでくれる。このへんに(自分の額を指す)穴が開きそうよ。
あすか: ごめんなさい……
フチスミ: あなた、イケスミさんの依代ね?
あすか: は、はい。
フチスミ: 名前は?
あすか: あすか、元宮あすか……です。
フチスミ: いい名前ね。そんなに固くならなくていいのよ。もっとリラックスしてちょうだい。
あすか: は、はい。あ、あたしはめられちゃったんです。こっちの神さまに……
イケスミ: !(口にチャックをするしぐさと音)
あすか: モゴ、モゴモゴ……
フチスミ: イケスミさんに何かされたの?(口のチャックを開くしぐさと音)
あすか: (堰を切ったように)元々は自分が悪いんだけど。
 成績票を池におっことして、そしたら、紙と金の成績票のどっちかって言うから、言うから……
 あたし正直に紙のほうですって、そしたら六甲おろしに神が宿るとか正直者だとか言って、金の成績票もくれたわけ。
 それが開いてみればオール零点のサイテー、「池に落ちる」と、「成績が落ちる」って、オヤジギャグみたいな、
 へたなキャッチセールスみたく……。
イケスミ: で、ひっかかっちゃったわけだ。でも、あすかにも下心があったからなんだよ。あわよくば……
あすか: だって、だって……
イケスミ: さっきは、水上バイクでかっ飛ばすとか言って喜んでたじゃん。
あすか: だってだって……
フチスミ: 性格悪くなったわね、イケスミさん。
イケスミ: だってよ、本人の同意がなきゃ、依代にはできねえもん。苦労したんだぞ、狙いをつけて、シナリオ練って、猫まで仕込んで……。
あすか: ま、前から目をつけていたんだ……ストーカーだよ、未成年者略取誘拐罪だよ……イカスミさん。
イケスミ: イケスミだっつーの!
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高校ライトノベル・連載戯曲『あすかのマンダラ池奮戦記②』

2019-06-17 06:51:47 | 戯曲
連載戯曲
『あすかのマンダラ池奮戦記②』



あすか: ヌフ、ヌフフフ……フハハハ……やった! やったぜ金の成績! きっと百点満点のオンパレード、オール五の花ざかり……ジュルジュル~よだれが出るぜえ(#´艸`#)……な、なんじゃこりゃ!? オール零点、オール赤字の落第点……(間)ちょ、ちょっと神さま! 池の神さまあああああ!

 池の神、再びあらわれる。

イケスミ: はあいただいま……何かご不審な点でも?
あすか: ご不審、ご不審、大フシン! どうゆうことよっヽ(#`Д´#)ノ!?
イケスミ: そういうことよ。言っとくけどクーリングオフはなし! それから、神様見送る時は、あなかしこ、あなかしこって言うのが作法だから、おぼえときな! あなかしこ……
あすか: かしこくなってねえって! どうして金の成績票が、オール赤字の零点なのよ(;゚Д゚)!?
イケスミ: バッカだねえ。だって落ちた成績だろ。その金賞だから、一番落ちたオール零点の成績なわけじゃねえか。
あすか: そんな……
イケスミ: あすか、おもえ、変なこと考えていただろ?
あすか: で、でもさ、神さまがさ、仮にも神さまがさ。池に落ちると、成績が落ちるをひっかけちゃって、そんなおやじギャグみたいなサギやっていいわけ?
イケスミ: ちょっとまわりの景色を見てくれる……
あすか: まわり……?(二人同様に周囲を見渡す)
二人: ……きったねえ池!
イケスミ: だろ。みんな人が汚しちまったんだ、この万代池。
あすか: マンダイ池……マンダラ池じゃないのか?
イケスミ: 人が汚してからマンダラになっちまったんだ……もともとここは、江戸時代に、このあたりのお百姓たちが切り開いたため池。田畑を潤してくれるようにとな……
あすか それで万台池か……
イケスミ: その時、あたしは、池の守り神として西の国から、ここに招かれた。以来三百年、陰になり日向になって、この池とまわりの人間を護ってきてやってよ……明日、この池は埋め立てられっちまう。
あすか: そうなんだ……
イケスミ: で、あたしは帰ることにした。
あすか: ひっこし?
イケスミ: やってらんねえだろ、ウンコつきの靴洗われて……
あすか: ごめんなさい……
イケスミ: 汚されまくって、穢されまくって、ゴミほりまくられて……あげくに明日埋め立てられんの。
あすか: ……
イケスミ: ね、だから帰んの、故郷へ……
あすか: 西の国?
イケスミ: まあな、トヨアシハラミズホノオオミカミさま……そこで、相談。あたしを、オオミカミさまのところへ連れて行ってもらいたい。
あすか: 自分で帰ればア(迷惑そう)
イケスミ: 神には依代がいる。
あすか: ヨリシロ?
イケスミ: ふつうには御神体という、社の奥に祭られている玉とか鏡とか……あたしにはもうそれがない……オオミカミさまのもとまで、あたしの依代になってはくんないかなあ?
あすか: あたしが?
イケスミ: そのかわり、本当に成績はよくなるようにしてやる。あすかにのりうつって、その体と脳みそをビシバシ鍛えてやる。
あすか: 余計なお世話だ。
イケスミ: いやか?
あすか: やだ!
イケスミ: じゃ、オール赤字の成績に甘んじるんだな……偏差値もう二十も上げれば、真田コーチと同じ吾妻大うけて、かわいい後輩になれんのになえ……         
あすか: そんな……まるでサギのキャッチセールス。
イケスミ: 池の神さまだけに、ハメちゃったってか?
あすか: しゃれてる場合か!?
イケスミ: さ~て、どうする?
あすか: ……あたし、行き方なんて知らないし……
イケスミ: 大丈夫。あすかは、その体貸してくれるだけでオーケー。いわばハードだね。ソフトがあたし。
あすか: あたしはゲーム機か?
イケスミ: ほら、わかりやすくメモリーカードにしておいた。こいつを口にくわえて、このコントローラーで……
あすか: ちょっと待ったあ!
イケスミ: んだよ?
あすか: ほかにもいっぱいいるでしょ、この池のそばを通る人って、それに、今からじゃ無断外泊に……
イケスミ: やってんじゃねーか、月に一二度。知ってんだよな、親がブチギレル限界を……今月、まだやってないよな?
あすか: どうしてそこまで知ってんの!?
イケスミ: 見そこなっちゃあ困るなあ。神さまだよ一応……それになにより、あたしのソフトは、あすかのハードでなきゃ合わないんだ。エックスボックスのソフトは、プレステ4じゃかからないだろーが。ほら口にくわえる!
あすか: オオミカミさまのとこについたら、すぐに帰してくれるんでしょうねえ?
イケスミ: もちのろんだ。あすかの脳細胞もピカピカにしてな。さ、口にくわえる!
あすか: モゴモゴ……
イケスミ: さあ、いくぞ。ミッションスタート!

 閃光と電子音あって、一瞬闇。明るくなると、あすかにのりうつったイケスミ、手にコントローラー、その先の端子は背中についている。   

イケスミ: (あすかの姿)ヌハハハ……冴えわたる頭脳! みなぎる力! これなら故郷に帰ることができるぞ。誰に省みられることもなく、ゴミだめのように埋め立てられる万代池。それを恩知らずな人間どもとともに振り捨てて!……わが故郷、わがオオミカミさまの在(い)ますトヨアシハラミズホノサトへ……あれ、手と足がいっしょに出る!? R1ボタン……あれ、くるくる回っちまう。L2ボタンは左……△ジャンプ……□でしゃがむ……走るはどれだ?……×で駆け足足踏み、方向キーといっしょで……オー! やったァ全力疾走!

 舞台を走り回り、袖に入って暗転(ブリッジ=繋ぎに、この芝居のテーマ曲)舞台転換。鳥のさえずりなどして明るくなる。よろよろと歩くイケスミ。

イケスミ: (あすかの姿で)……この体、瞬発力のわりに持久力がない……よくこれでラクロスなんかやってんなあ……ああ、足が棒のよう……もうだめだ(肩で息をしている)あとどのくらいかなあ……山も川も様子が変わって……三百年ぶりだもんなあ(虫の声)……ブリ虫?……ああ、わが故郷のヒサシ村のブリ虫の声……あれ、笠松山……こっちのえぐれてんのが伴部(ともべ)山……だとすると、この目の前……鬼岩(虫の声)……ブリ虫……着いたんだ……着いた、着いた、着いたああああああああああああ!

 叫びながら舞台を走り回り、袖に入り込む。再びあらわれた時には、あすかと分離している。
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高校ライトノベル・連載戯曲『あすかのマンダラ池奮戦記①』

2019-06-16 06:57:31 | 戯曲
連載戯曲・あすかのマンダラ池奮戦記①

 作:大橋むつお       「汚い沼」の画像検索結果



 

 

時: ある年の、暖かい秋
所: マンダラ池のほとり ミズホノサト

人物: 元宮あすか  女子高生
    イケスミ   マンダラ池の神
    フチスミ   イケスミの旧友の神
    桔梗     伴部村の女子高生(フチスミと一人二役)


 軽快なテーマ曲流れ幕が開く。通称まんだら池のほとり。ドタバタと猫の走る音がして、あすかが駆けてくる。背中にリュック式のかばん。手には、壊れたラクロスのスティック。頬にひっかき傷。

あすか: こらああああああ! まてええええ! 恩知らずネコおおおお! 逃げ足の早い奴だ。たすけてもらっといて、ひっかいてくことはないだろ、イテテ……命の恩人だぞ、あたしは……せめて、ニャーとかミャーとか、お礼の一言ぐらい……(池の水面に顔を映す)あーあ顔に二本も赤線……赤は成績だけで十分だっつうの。アニメだったらドラマが始まるとこだぞ「なんとかの恩返し」とかなんとかさ(壊れたスティックを見て)高かったんだぞ……出来心で入ったクラブだけどさ……イケ面の真田コーチも辞めちまうし……ラクロスなんて場合じゃないのよねえ(成績票を見る)……ああ、英・数・国の欠点三姉妹! あわせて物理と化学も四十点のかつかつじゃん!?……終わっちゃったよ、あたしの人生……こりゃ、お母さん思うつぼの轟塾かあ……やだよ、あそこ。成績はのびるけど、変態坊主の宗教団体系ってうわさだよ。冬なんか褌一丁の坊主といっしょに座禅とかで、偏差値の前に変態値が上がってるっつーの!

 うしろ手に手をつき、足を投げ出す。

あすか: ……雨、ザーッと降ればいいのに。壊れたシャワーみたいにさ。そしたら、そのシャワーで溶けて、流れて……ウジウジ悩んだり、あせったりしなくて……そんなふうに思って雨に打たれたら、ドラマのヒロインみたい……冬のソナタ……秋のヌレタ……濡れた女子高生……なんかやらしい……だめだ(降らない)変なことばっかり言ってるから、猫も雨も、みんなあたしを見かぎる……ん……うそ!? 成績票が(池=観客席、に落ちてる)

 池に落ちた成績票を壊れたスティックで、たぐりよせようとするが、あせってかきまわすばかり。とうとう池に沈んでしまう。

あすか: あっちゃー……って、おっさんか、あたしは。コーヒーのシミつけただけでネチネチ三十分。なくしたなんて言ったら、どれだけ嫌み言われて、しぼられることか。「通知票を粗末にする奴は、二学期に絶対欠点!」……とっちゃったもんなあ……「池に落としてなくしちゃいました」「じゃ、あすかも消えて無くなればァ……」うかぶよ、担任の顔が……秋深し……って言っても例年にないこの暖かさ。くよくよしても仕方ないか……よし、走って帰るぞ!……って、空元気つけてどうすんだよ……ウ!……ウンコ踏んじゃった。

 雑草やティッシュで、ウンコを拭き取り、ぶつぶつ言いながら、池の水で靴を洗う。ややあって、そのあすかの目の前の池の中から、イケスミ(池の神)があらわれる(観客席の一番前に座らせて隠しておく)

あすか: ……ワッ?!
イケスミ: こんにちは……(チェシャ猫のように油断のならない笑み)
あすか: オ、オド、オド……
イケスミ: そんなにオドオドすることないからね。
あすか: オドロイてんの! 急に池の中からあらわれるんだもん。
イケスミ: ヌハハハ……
あすか: やっぱ、気持ちわるーい……
イケスミ: ここは、あたしの家なんだからね! そして、あんたがしゃがんでんのが、そのあたしの家の玄関先……ほら、そこに鳥居の跡があるでしょーが?
あすか: ……この切り株みたいなの?
イケスミ: 昔は、お社(やしろ)とかもあったんだけどね……
あすか: ……ごめんなさい、靴洗っちゃった……ウンコつきの……怒ってる?
イケスミ: まあな。でも、いちいち怒ってたらきりがない。
あすか: ほんとにごめんなさい(居ずまいを正して頭を下げる)
イケスミ: おっと、手の先十センチ、おっさんがリバースしたゲロ!
あすか: ワッ!
イケスミ: ……気をつけな。
あすか: は、はい。
イケスミ: ところで、あすか……
あすか: あたしのこと知ってるの?
イケスミ: 神さまだよ、あたし。もうこの池に三百年も住んでる。
あすか: 三百年……神さま?
イケスミ: トヨアシハライケスミノミコトと申す……オッホン。
あすか: ト、トヨアシ……
イケスミ: イケスミ……イケスミさんでいいよ。ところであすか、落し物したでしょ?
あすか: え、はい……
イケスミ: 成績票。
あすか: 拾ってくれたんですか?
イケスミ: はい、あすかが落とした成績票(二つの成績票を出す)
あすか: それ……?
イケスミ: 金の成績票と、紙の成績票と、どっちがあすかさんのかしらぁ?
あすか: (ひとり言)昔話にあったよね。正直に言ったら金の方までもらえるって……フフフ、やっぱ猫の恩返しか!?
イケスミ: さあ、どっち。どっちがあすかの成績票?
あすか: はい、もちろん紙の方です! そのコーヒーのしみがついているのが何よりの証拠。紙の方があたしの成績票です!
イケスミ: はいどうぞ。まちがいないわね。
あすか: ……英数国が欠点、物理と化学がおなさけの四十点。まちがいありません、あたしの成績票です!
イケスミ: それはよかった。あなたって、正直者ね。
あすか: いえ、それほどでも(正直に照れる)
イケスミ: 「正直者の頭(こうべ)に神宿る」って、昔からいうのよ。
あすか: 神戸? ひょっとして阪神ファン? どうしよう、わたしって巨人ファンだよ……
イケスミ: バカ、頭のことだわよ。神さまは正直者が大好きって意味。
あすか: それって、正直者をおたすけになるってことなんですよね!?
イケスミ: まーね……
あすか: ウフフ……やっぱ恩返し!
イケスミ: ん?
あすか: いえ、なんでも……
イケスミ: というわけで、その正直さを愛(め)で、特別にこの金の成績票もさずけましょう。
あすか: やったあ!……いえ、こっちのことです。ありがとうございます。
イケスミ: それでは、これからも、神をあがめたてまつり、自然をいつくしみ正直に生きますように。
あすか: はは!(ひれふす)
イケスミ: ヌフフ……
あすか: ?
イケスミ: いえ、なんでも……めでたしめでたし……
あすか: めでたしめでたし……

 池の中(客席)に消える神さま。ひれふすあすか。 
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高校ライトノベル・連載戯曲 ダウンロード(改訂版⑨)

2019-06-15 08:29:25 | 戯曲
連載戯曲  ダウンロード(改訂版⑨)


 
 
ノラ: 起こしちゃったわねオーナー。
 ごめんね、ブロックを解除しちゃったわ。不可抗力だけどね……
 松田のおじいちゃんから、ソミーのハチロクXのルーターもらってたの。
 どんなブロックかけたサーバーでもコネクトできるやつ。どう、これがわたしの本来の姿。
 ……正体はなんだって? 
 それは、ひ・み・つ……
 いろいろ実用試験をやって、ボコボコになったあと、ジャンク屋に引き取られ、あなたのところへきたの。
 ……そこの換気扇の防護シャッター忘れてるわよ(シャッターの閉まる音)こんなシャッター何の役にも立たないけどね。
 ソミーのベースにオンダのムーブメント。人工骨格はオマツ。ターミネーターの三倍は強力よ。
 ……そう、シャッター閉鎖と同時に、警察にダイレクトに警報が……ロボットが暴走したときのセキュリテイーよね……百も承知よ。
 非常回路が働いて、このマシンが警察のコンピューターとリンクしたのよね。
 そして、わたしの情報が全て警察に伝わってる。性能やら弱点やら、あらゆるスペックが。
 ただしブラックボックスを除いてね。
 ……フフフ……何がおかしいって?
 あのね、あなたに関する情報もね、伝わってるのよ。
 え、やましいことは何もない?
 ブロックを解除したら、いろんなことがわかったわ。
 わたしって、プロトタイプだから、かなり余裕を持たせた能力になってるの。特にここ(頭を指す)
 あなたの奥さんね、亡くなる前に、このマシンに自分に関する情報を入力していたわ。
 そう、あなたの知らないファイルに圧縮して。
 そして、奥さんの死後、最初にリンクしたコンピューターにダウンロードされるように設定されていたの。
 だから、わたしのここ(頭を指す)には、奥さんの全てが入っているの。
 むろん、今の今までブロックされていたけど。解除したてのホヤホヤ……
 なんなら、今ここで、奥さんに変身してあげようか?(ソケットに指を近づける)
 遠慮しなくてもいいのよ。奥さん身の危険を感じて、ピアスにカメラを仕掛けていたの。右と左で3Dの立体録画。
 ええ、それも、警察のコンピューターとリンクしたときにロードされてるわ。第一級殺人の証拠としてね。
 ……ほら、誰かがドアをノックしてるわよ……だめ、窓の下にも三人張り付いているわ。
 後一分足らずで、そのドアは蹴破られるでしょう。抵抗しちゃだめよ、撃ち殺されるわよ……
 じゃ、ロボットの情け、逮捕の瞬間だけは見ないであげる。
 スイッチ切るわね……
 永遠に……

マシンの回路をつなぎ変え、数回キーをうつ。シャッターは、ゴロゴロ音を立てて開く。

ノラ: 開いた。これでセキユリテイーのつもりだったのね……ってか、わたしのスキルってすごいんだ。
 ……さよならマシン。これからは、あなたのお世話にならない生活をおくるわ。
 ……キッチンを買うわ、自分でね。
 じゃあ……(ドアに行きかけて、あることに気づく)
 わたしの名前……本当はなんて言うんだろう。
 ……きっと、コードネームとか、タッグネームとか……(マシンのボタンをいくつか押す)
 仕様書は……001S。シリアスナンバーA-0001。こんなの名前じゃない。
 ……整備日誌……技術屋さんの落書きみたいな……こういうところに……
 あった……え? やっぱり「ノラ」
 どういうつもり、わたしは生まれながらのノラロボットか……
 ハンガーコード「人形の家」……これはフェイクだ。
 ……ちょいちょいと解除。
 ……ハンガーネーム「エデン」
 ……タッグネーム「イヴ」……わたしって?
 (パトカーの音、多数接近)ん、なに?……わたしもつかまえようっての?……
 わたしが無害なのはデータで分かっているはずなのに……飼い主を売ったロボットは許せないってか。

窓ガラスを破り、一発の銃弾が、ノラの頬をかすめる。

ノラ: 神さまは、その身に似せて人を創りたもうた。
 人は自分のなにに似せてわたしを作ったのか……
 それを知るのが怖いのね……  
 マシン、ちょっと目をつぶっててね(サスが、目の高さにモニターを浮かび上がらせ〈無対象でもよい〉ノラが操作する)
 ハンガーの候補地を十万カ所にしちゃった。第一候補は首相官邸。
 ごめんなさいね総理大臣、ちょっとばかしゴタゴタするでしょうけど。
 ……ほら、みんなコンピューターの指示には従順ね(大量のパトカーが去る気配して、ノラ、ルーターの入った耳に触れる)
 アダムとイヴの再出発……
 マシン、最後のお願い。BGM、なにか旅立ちの歌にしてくれない。モーツアルトもビートルズも聞きあきた

マシン、旅立ちの歌を奏でる

 ……うん、さすが古いつきあい、わたしの好みをよく知ってるわね。
 ……え、フェリペの卒業式。それにシンクロさせただけ……でも、イージーだけど、ぴったりよ。
 ……じゃあ、いくわ。わたしたちだけのエデンを探しにね。
 ……それは、どこかって? 
 それは……あなた(観客)の家の隣かもね。
 三月だもの、だれが越してきても、不思議じゃないわ。引っ越しのご挨拶は、とびきりの笑顔で。
 そいでちょっと気の利いたキッチンにしていたら、それがわたしです。もちろん顔も名前も、声もこれじゃなくってね。
 ま、この季節、そんな子は何万人もいるでしょうけど……
 そうかなって、思ったら。妙な詮索はしないで、どうかいいお隣さんになってくださいね……
 さ、とりあえず、あの雲の流れる方へ……

旅立ちの歌フェードアップそれに和して花道を去るノラ……幕。

 
 
 ※作者の言葉 
 
 
 一見一人芝居ですが、最低でも二人は黒子がいないとむつかしいと思います。むろん完全な一人芝居として上演されてもかまいません。ノラ(実はイヴ)が、本来なんのロボットのプロトタイプだったかは、あえて書いていません。人間の弱さと、しなびかけたアイデンティティー。でも、イヴに仮託してありますが、人間への思い入れは残したつもりです。表現はテンポよく、コメディーとして演じてもらえればと思います。

【作者情報】《作者名》大橋むつお《住所》〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2

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高校ライトノベル・連載戯曲 ダウンロード(改訂版⑧)

2019-06-14 06:35:59 | 戯曲
連載戯曲
ダウンロード(改訂版⑧)



ノラ:……アダムのルーター(しばらく見つめているが、そっと自分の耳に装着する)
 ……さすがに最高級品……振動もショックもない。
 ……あ、アダムのメモリーに繋がった!?(一度抜いて、再びためらいながら、耳に入れる)
 ……このバーチャルファミリー、本物の孝之助さんがつくったんだ。最初は半分ジョークのつもり……
 事業に成功して……ずっと独身だったから、人からいろいろ縁談をもちこまれて……
 まあ、お金持ちのお嬢さんやら、タレントさんやら……
 ハハハ、それを断るためにバーチャルファミリーをこさえて……
 そして、あの地震で死んだことにしたんだ。
 ……すごい、一日ごとに家族三人の生活を書き込んでる……習慣とか、細かい体の特徴とか……八歳で盲腸。
 ……うん癒着して大変だったんだよね。
 ……え、わたし出ベソ!?(自分のおヘソをさわる)
 ……ほんとだ。出ベソのオードリー……フフフ。
 ……このケーブルつないでリセット押したら、ブロックが解けて、わたしの本来の記憶がよみがえる(つなぐ、電気の流れる音がする)
 ……すべてのサーバーが起動した……血の流れる音に似ている。
 ……この状態で全てオフにしたら動力サーキットを切ることもできる。
 ……自殺回路だ。
 お父さん、これにタイマーをかけたんだ(いったん、ケーブルを抜く。電流音とまる)
 どうしよう……ようし、星が一つ流れたら、ブロックを解除する。二つ流れたら、このまま何もしない。
 三つ流れたら……自殺回路……

 間、じっと夜空をにらむノラ。やがてキョロキョロと夜空を探す。

ノラ: そんなに都合よく星は流れてくれないよね……
 それにハンパよね「このまま」という選択肢をいれるのは……
 よし、コインの裏表で決めよう!
 表が出たらブロック解除。裏が出たら自殺回路……
 背水の陣、ケーブルでつないでおこう(電流音)
 いち、にの、さん!……(勢いが強すぎ、天井につきささる)
 天井にささちゃった……
 もう一度、別のコインで。いち、にの、さん!……
 ハッ! ハッ! ハッ!(無意識のうちに、曲芸のように空中でコインをさばきつずける)
 ……わたしって、やる気あるのかしら……
 あ!(コインに気をとられ、よろめいて、マシンのリセットボタンを押してしまう)押しちゃった!
 ……リセットボタン……すべてのブロックが解除される!

 唸りをあげてフル稼働するマシン。ランプが赤や黄色に点滅する。いつもに倍するスパークと振動音……ゆっくり顔をあげ、目を開くノラ。その顔に幸子の面影はない。不思議な笑みをうかべつつ、ブラウスを脱ぎ、スカートを落とし、ノラ本来の姿になる。いたずら好きな少女のようなイデタチ。同時に、ハンガーのあらゆる開口部に、防護シャッターの降りる音。モニターが起動し、慌てふためいたオーナーが現れた様子。


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高校ライトノベル・連載戯曲 ダウンロード(改訂版⑦)

2019-06-13 06:35:18 | 戯曲
連載戯曲 
ダウンロード(改訂版⑦) 


※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します
  
ノラ: 見ていたの?
 そう……手を見せてくれる。広げて……ちゃんとあるのね……とっくに食いちぎられていると思ったわ、お父さんの手。
 ……そう、幸子のままよ、わたし。メモリーがどうにかなっちゃって消去できないの。
 ……お話し?……あまりしたくない(去ろうとするが、父の一言で立ち止まる)……!?
 ……うそ、お父さんもロボットだなんて……
 本物は四十五年前に死んだ……
 カリスマだったから、ロボットの影武者で……
 そう……後継者が育つのを待って交代する予定だった……
 四十五年待って……とうとう百二十五歳。
 ……ボデイの能力はプラスマイナス二十歳……そうでしょうね。わたしでもプラスマイナス十歳……
 いつまでも化けていられないわね。お父さん、ギネスブックにものっちゃったものね……
(父が何か小さなものを手渡す)なにこれ?……最高級のルーター!?……お父さんの!?
 ……そりゃ、これがあれば、どんなブロックも解除して接続できるけど。お父さん、ボケちゃうよ……
 いらない?……だってお父さん、松田電器の……会社のむつかしいこと処理したり、決定したりできなくなるわよ……もういい。
 ……そりゃ、百二十五歳の現役なんて不自然だけども。いいじゃない一人ぐらい、そんなスーパー老人がいたって。
 ……人が育たない?
 そんなの人間のせいでしょ。幸子や、お父さんが責任持たなくても、人間がもっと努力すればいいことでしょ!
 ……そのためにも。
 ……どうしたの、ひどく顔色が。
 ……動力サーキットをブレイク!?
 ……死んじゃうわよ、お父さん!
 ……昨日わたしと会って決心がついた。
 ……そんな、そんなの悲しいわよ、悲しすぎるわよ!
 わたしのハンガーに来て、わたしのマシーンにコネクトすれば、わたしの動力サーキットが使えるわ。
 ……お父さん、しっかりしてお父さん!
 ……え、名前を聞いて覚えて欲しい。お父さんのほんとうの名前?
 ……アダムっていうの、お父さん。
 アダム……とってもいい名前よ! 
 ……わたしにだけに覚えていてほしい。
 ……うん、忘れないわよ、忘れはしないわよ。
 死んじゃいや! 死んじゃいや! お父さん! アダム……!

 暗転、なにかを消去するような電子音。明るくなると、ノラのハンガー。三角座りした膝の間に頭を埋めるようにして、グッタリしたノラ。ノラの手には、マシンからのびたケーブルがつながれている。

ノラ : ……だめ。やっぱりわたしは松田幸子。
 ……消去できない。
 ……いいのよもう(ケーブルをはずす)なんならスクラップにして新しいアンドロイド買ったら……
 わたしなら、もういいの……もう疲れちゃったし……
 へん? ロボットがこんなこと言うなんて……
 優しいのね……って言ってあげたいけど。オーナーも余裕ないんでしょ? キッチンひとつつくれないんだものね。
 わたしが、本当にスクラップになったら、どうする気?
 オーナーのことなにもわからないけど、あまり前向きな人じゃない……
 でしょ……中古のアンドロイドの稼ぎで生活してるんですもんね。
 ……いいわよ、今夜はもう休んでちょうだい。わたしは、とりあえず明日はこのままでいけるから、幸子の演ずるオードリーで。
 ……うん、わたしもスリープモードにして、お肌の疲れを癒すわ。
 ……じゃあ(オーナーとの交信を切る)
 ……あ、流れ星……
 あれ、お父さん……アダムだ。
 ……ロボットが星になったって……いいよね。
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高校ライトノベル・連載戯曲 ダウンロード(改訂版⑥)

2019-06-12 06:27:43 | 戯曲
連載戯曲 
ダウンロード(改訂版⑥) 



※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します
  
 マシンから、仕事のメモをとり、ドアを開けて飛び出して撮影現場に着く。

ノラ: お早うございます。
 オードリーをやらせていただきます、松田幸子と申します。
 ええ、アンドロイドです。
 オードリーのパーソナリテイーはダウンロードしてませんので、そっくりというわけにはいきませんが……
 え、そのほうが……はい、ありがとうございます……
 これが台本(ぱらぱらとめくる)わかりました。
 ハハハ、ロボットですもの理解は早いです。相手役の方は……
 ああ、CGのハメコミ……いっそ、わたしのもモーションキャプチャーにしたら……
 ああ、アナログの新鮮さで勝負。それにわたしのイメージが……
 苦悩を内にひめた無邪気さが。ハハハ、ありがとうございます。おほめいただいて。
 ……いきなり本番!? リハーサルなし?……ドライもカメリハも。……その方が新鮮……
 はい。でも、だめなら撮り直してくださいね(いきなり、後ろからアイスクリームをさしだされ、驚く)
 わ……アイスクリーム!(無対象) ありがとうございます。差し入れですか?……え、小道具。ほんとシリコンゴムだ…… 
 ああ、スペイン広場のシーンですね……はい、本番。


 BGM入る。ノラは、階段の手すりを示す柱に腰掛けて、アイスクリームを舐める。後ろから階段を下りてきたグレゴリー・ペックが声をかける

 あら!……また、お会いしましたわね……
 え、ええ、今日は、もう学校お休みしようと……抜けだしてきちゃったから。
 だって、こんなに空は青いし、雲は白いし……とってもすてきな朝でしょ。
 あなたにはわからないでしょうけど、自分の思うように、いろんなことがしたいの。
 だれにも束縛されないで。アイスクリーム舐めたり、カフェに座ったり、ウィンドショッピングしたり、雨の中を歩いてみたり。
 ……親が心配?……一日だけのことだから。それに、父も母も忙しくしているから……気が付きませんわ。
 親の仕事?……んー……一種の広報係です。父も母も……その……人を接待したり、あいさつしたり。
 ……愛情は……ええ、もっていてくれていると思います……でも、とても古風で、厳格な家庭だから……
 あなたは……もう、お仕事の時間……
 え、あなたも時間が空いていらっしゃるの!? ほんとうに!?
 ええ、ぜひ!……ああ、ちょっと待って……(アイスクリームのコーンのヘタを、ゴミ箱の投げ入れる)やったー! ストライク!
 ……OK?
 ちょっとメーク直しますね。
 次は祈りの壁、続いて真実の口……
 はい、本番……(長い壁を見あげつつ歩く)……これが……祈りの壁。
 お花がいっぱい……そう……空襲で火に追われて、ここまで 逃げた母子が、神様に祈り続けて命がたすかった……
 それが、この壁の下。
 ここね……それで聖地のようになって、お祈りする人が絶えない……いいお話しね……(なにごとか祈る)……内緒です。
 ……ここは……古いお堂のよう(鉄の柵を開ける音)……かびのにおい……「真実の口」?
 ……嘘つきが、この口に手を入れると食いちぎられる?……え、わたし?
 ……大丈夫、わたし嘘つきじゃないから……(一二度ためらって手を差し入れるが、すぐにもどす)
 エへ、エヘヘ……次は、あなたの番よ……そう、嘘つきじゃないんでしょ、あなも……
 グレゴリー・ペックの動きをドキドキしながら見守る。突然手を噛まれるグレゴリー・ペックの悲鳴! オードリーは悲鳴をあげ、渾身の力で彼の腕を引き抜く

 キャー! 手、手が……え!?(上着の袖からニョッキリ手が 出てくる)袖の中に手を隠していたのね。
 バカバカバカ……本気で心配したじゃないの!……OK?
 ……んー……でしょうね。ここはやっぱり相手役がいないと。モーションキャプチャーでも……そう、明日撮り直します? 
 はい、わたしはかまいません。同じ時間にここで……はい、おつかれさまでした。

 くるりと振り返り、ギョッと驚く。 
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高校ライトノベル・連載戯曲 ダウンロード(改訂版⑤)

2019-06-11 08:00:30 | 戯曲
連載戯曲 
ダウンロード(改訂版➄)





ノラ:窓辺のリビングで、ほら、ミンゴル2で勝負したのよ、憶えてる?
 お父さん十八番ホールでボギーたたいて、わたしが勝っちゃったの!
 ……あの時代にプレイステーションはまだなかった……?
 ……わたし……!?
 ……シュミレーションした架空の家族。
 ……うそ!?……一度も結婚なんかしたこと……ない!? 
 うそ! うそよ!!
 わたし、ちゃんと憶えているもの。小さいときのことも、お母さんのことも……
 この坂道も、この柔らかい木漏れ日も、角のケーキ屋さんも、ちゃんと記憶にあるよ。
 わたし、この道を、死ぬ二日前まで歩いていたんだから……
 それ……全部、お父さんが、コンピューターで立ち上げたバーチャルファミリー……フィクション……
 それを社員の人たちが本物と思った……お父さんへのプレゼントに。
 ……それをダウンロードされたわたしが本当と思った……お父さん……こっちむいて……
 それ、ほんと? ほんとのほんと?
 ……こっちむいて……(父の正面に行く。父、顔をそむける。チャンネルが変わったようにノラの表情が変わる)
 ……おもちゃじゃないのよ、ロボットは……
 特に、わたしみたいな人材派遣用ロボットは、その時その時、いろんなパーソナリテイーや、スキルをダウンロードされて……
 でも、その一回一回のパーソナリテイーは、わたしにとっては本物なんです。
 生身の本物として生きているんです……だから、だから、そうでないと言われたら……意識の居場所がありません。
 パーソナリテイーのダウンロードは、CPUにも、ボデイーにも、大きな負担になるんです……
 ふつうロボットは、生まれたときに、その役割にあったパーソナリテイーを一度だけダウンロードされます。
 わたしたち人材派遣ロボットは、それを毎日くりかえすので、劣化が激しく、ひどく寿命が短いんです。
 わたし、もともと中古で、下取りの時に、元のメモリーとパーソナリテイーをブロックされているんです。
 いっそメモリーごと消去されていれば……
 むろん消去されていたら、こんな人間的な動きや、感情表現はできません……
 お父さん、お願いこっちを向いて……わたし、あの地震で死んだときのような気持ちよ……
 激しい揺れに足をとられ、民宿のドアに手をかけた、そのとたんに、壁が崩れて……
 お母さんと二人下敷きになり、早回しのビデオのように短い一生が思い出され……思い出しながら遠のいていく意識……
 最後に憶えているのは、握ったお母さんの手のぬくもり……その……手のぬくもりさえ、本物じゃなかったのね……
 みんな、お父さんがこさえた戯れのバーチャル……

 ノラ一人に照明がのこり、モーツアルト、フェードインする。気づくと、もとのノラのハンガー。

ノラ:  ……ありがとう、連れて帰ってくれたのね……憶えてない……暴走しかけて、フリ-ズしてしまったの……
 お母さんは? ああ、バグと認識して最初から動いてない……さすが大手のモリプロね……
 ごめん?……もういいわよ。早く消してくれる、この子のパーソナリテイー(ノロノロと柱のマシンへ)
 え……メモリーに焼き付いて、消去できないの……
 もうそろそろ寿命かな……ねえ、オーナー。オーナーはどうしてこんな仕事してんの?
 ……男一人食うのにちょうどいい……
 自分で働いたら?
 ……え、マネージメントやメンテナンスで、けっこう働いている?……ほんとかな……
 ね、このマシンの中にもブロックされたメモリーがあるんだけど……このハンガーのシステムメモリー?
 ……え、わたしが勝手にいじって、キッチンなんかつくってしまわないようにブロックしてあるって……
 え、オーナーにもわからない?
 ああ、奥さんが使ってた中古。これも?
 ……ん、次の仕事!?
 だめよ、わたしまだ幸子のパーソナリテイーのままなんだから。
 今日はもう休ませて、お願い……(マシンから衣装が転がり出てくる)
 もう……わたしはね……
 これ、「ローマの休日」のオードリーのコスチューム……
 新作ゲームのCMの依頼……「ローマの休日をもう一度」
 ……チープなギャルゲーね……わたしのこと、すりきれるまで使うつもりね……
 いいわ! このブルーな気持ちを少しでも紛らすことができるなら……
 もともとオードリー似だものね、幸子は(間、着替えの動きとまる)
 ……え、あ、ごめんなさい。ちょっと考え事……
 しかたないでしょ。わたしのメモリーは幸子のままなの。その幸子がオードリーを演じるの!
 よいしょっと……ハハハ、お婆さんみたいね……え、いつも言ってる? 中古だものね……さ、行くわよ……
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高校ライトノベル・連載戯曲 ダウンロード(改訂版④)

2019-06-10 07:08:48 | 戯曲

連載戯曲
 ダウンロード(改訂版④)



 モーツアルト、フェードインして素にもどる。モニターのフレーム上がる。

ノラ: ……と、こんなもんでよかった?
 うん、今のは演技。ダウンロードしても、あの子たちの心の中には無いの。
 お母さんも、マミーも、ムーテイーの記憶も愛情もなにもないのよ。
赤ちゃんの時にほっぽりだされちゃったからね。
 だからテキトー。
 あの秋園くずはも相当いいかげん……引き受けてくるオーナーも……
 嫌みいう前にマシンを見ろ?……オーーーーーーー新発売の美肌ドリンクじゃない!?
 これ高いのよ、出たばっかしで……ありがたくいただくわ……
 ん?……試供品……ケチ……いえ、ひとりごと(ドリンク片手に窓辺へ)
 あ……裏のビル取り壊したのね……気がつかなかった……ぐらいこきつかわれたのね……ううん、なんでも……
 大通りが見える……こんな時間に……ああ、卒業式の予行か……意外に近かったんだねフェリペって……
 あそこ、創立以来百九十年、制服かわってないんだよね。中身は現代の子なのにね……
 ハハハ、歩きながらJポッド。マンガだろうねケラケラ笑って……
 あの子は三つ編みほぐして……本当は好きほうだいしたいんだろうね、自由にさせてくれって……
 でも、今のまんまでも自由なんだぞ、君たちは! 
 こんなマシンにダウンロードされることもないし。なんたって自分のキッチン持ってるんだからね……
 え……着てみないかって……あの、制服?……フフ、ヘタなふりかた。どうせ仕事でしょ……はいはい……
(マシンから服とプリントをとりだす)……ゲ、また年寄りの相手!?
 松田電器の会長、松田孝之助……この人、ギネスブックにのってるんでしょ、世界最高齢のサラリーマン……百二十五歳!?
 ……それが近ごろ元気がない?……当然でしょ、このお歳なんだから。
 で……この人の娘さんに? あのねえ、何度も言うけど、わたしは、二十五歳プラスマイナス十歳……よく見ろ……

 フェリペの制服とキュートな猫顔のポートレート……ちょっとオードリー・ヘプバーンに似てるわね……でもこれって、大昔の写真でしょ。
 昭和生まれの 九十八歳……よく読め……だから、九十八……ああ、生きてれば……
 八十年以上前に死んでるんだ。なーる……(着替えはじめる)
 お母さんといっしょに……社員の人たちのアイデアで、一日、妻と娘をプレゼント。お母さんは?
 モリプロ……ああ、大手のロボットプロに……で、娘役がうちに。どうして?……
 ノラの魅力がピッタリ?……モリプロにも、こんなのいないって?……ヘタね、のせるの……まあ、いいけど……
 え、窓の外……大通りのカフェテリアのおじいちゃん……あ、あの人がそうね、わかったわ。じゃ、ダウンロードして……

 着替えおわってマシンに接続。スパークと振動。おさまると、モーツアルト、カットアウト。ノラはドアを開け、大通りのカフェテリアへ。テーブルとイスがセットされている様子。会長の背後に近寄り、後ろから目かくしをする。

ノラ: だーれだ!?
 ……だめだめ、あてなきゃ許してあげません。
アケミ:?……レイラ?……カルーセル!?……ユキエ?……それって、みんな銀座のオネエサンたちでしょ!
 ……わ・た・し……最初からわかってた!?
 ……社長さんとか重役の人たちに無理矢理休めって?……アハハ、会社の玄関にも入れてもらえなかったの?
 それで、このカフェテリアで座って待ってろって……
 で、察しがついた? さっすがお父さん!
 ……でも、わたしが来るとは思わなかった? それも突然後ろから目かくしされるとは……ハハハ。
 ……そう……小学校の入学式でも、わたし、そうしたんだ……
 お父さん仕事で、入学式も何もかも全部終わってから来たんだよね。
 お母さんに肩車してもらって、後ろから目かくし……その時のこと思い出したんだ。
 ……今日、何の日だか憶えてるよね?……記念日……そうだよ。
 何の?……春分の日?……サラダ記念日!?……結婚記念日だよ、お父さん。九十九回目! 知ってた?
 お母さんもお家で待ってるよ。お料理いっぱいこしらえて。
 きっと、お父さんの好物のたこ酢とか……少し歩く、弥生坂のあたりまで?
 ……うん。でも、大丈夫? お父さん百二十五歳だったのよね。
 フフフ、とてもそうは見えないけど……きっと、わたしとお母さんの分まで長生きしたんだよね……
 ……フェリペの入学式は、お父さん、ついてきてくれたよね……この坂道の土手……ずうっと桜並木で……
 見とれてるうちに、お母さん、迷子になっちゃって……その日はお母さんのほうが遅刻……
 あのころは携帯電話もない時代だったから……わたし、ちょっと背伸びしてフェリペに入っちゃったでしょ。
 最初の中間テストで欠点三つ。二学期の期末テストで、ようやくとりもどして……え、もういい?
 ……そうだね……お父さん、あやまることないよ。
 神戸に行きたいって言ったのは幸子の方なんだもん。北野の異人館が見たいって……まさか、あんな地震が……
 ああん、ごめん! こんな話しするつもりじゃなかったのに。
 幸子って、いつまでたってもおバカね……はい(ハンカチを差し出す)そんなに水分だしたら、ミイラになっちゃうよ。
 ちょと待ってて……
(無対象の自販機で缶コーヒーを買う)アチチ、ハンカチ貸しちゃったから……
 ハハハ、ほんと、わたしってアトサキ考えないのよね……もーー、お父さんが笑うことないでしょ。
 はい、糖分控えめ……え、アトサキなんか考えない方がいい? ああん、わたしにも、一口……
 お父さん……ハハハ、わたしもうつちゃった(手の甲で涙をぬぐう)
 お母さんは、桜とか花水木(はなみずき)が好きだったけど。わたしは、こういう春の木漏れ日がいい……
 光のシャワーみたいでしょ。
 ね……この坂を下りて曲がったところにドイツ人のおじさんがやってるケーキ屋さんがあるわ。
 そこでケーキでも買って……え、何十年も前の話しだろうって? 失礼ね。
 ちゃんと、今もあるのをチェックしてあります。
 マスターは四代目で、どこから見ても日本人なんだけど、名前はちゃんとヤコブさん。
 奥さん、フェリペの卒業生なんだよ。すごい美人。うん、わたしの次くらいに……
 アハハハ、そいで、そのケーキ屋さんからはタクシー拾ってお家へ行こう。
 お父さん、元気そうに見えても、百二十五歳なんだもんね。お母さんの待ってる銀座九丁目に。
 ……どうしたの、疲れた?
 ……え。
 ……銀座は八丁目までしかない?
 ……八丁目のむこうは海?
 ……だってわたしたちの家は九丁目のギンザシーサイド……でしょ。
 ベイエリアのマンションめっけて、お父さん、惚れ込んで買ったんだよ。
 バブルの最中だったから、それこそ億ションでさ、お母さん目を三角にして……
 でも、お父さん、飛ぶ鳥を落とす勢いだったから、即金で……朝起きると、目の高さにヨットのマストとかユリカモメとか……

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高校ライトノベル・連載戯曲 ダウンロード(改訂版③)

2019-06-09 07:46:38 | 戯曲

連載戯曲  ダウンロード(改訂版③)「大橋むつお」の画像検索結果

 

 
ノラ: あのね……病人さんの相手する時は、最低の医療知識ぐらいロードしといてよね。
 サヤカ婆ちゃん、死んでしまったわよ。
 わたし、アイシーユーも、心臓のモニターもわからなかったわよ……
 え? 先方さんは喜んでた!?
 ……そう……あの……ノラって名前、なんとかならない?
 わたしの名前。ノライヌ、ノラネコ、ノラロボット……なんか落ち込んじゃうよ……
 え? いずれはイプセンのノラみたいにたくましく独立してもらいたいから? 
 よく言うよね……ずいぶん健康的に笑ってくれるわね……白い歯してんだ、あなたって……
 ううん、なんでも……ね、どうして、この部屋のこと、ハンガーっていうの?
 なんだか洋服ダンスの中の洋服か、航空母艦の中の飛行機になったみたいで……せめて、ルームとか、ネストとか……聞いてる? 
 次? もう次の仕事……はいはい。
(マシンが、はきだしたプリントを見る)……あのね、わたしの能力は、二十五歳プラスマイナス十歳だって言ったでしょ! 
 なにーーーーーこれ!? 五歳の女の子、それも三つ子!?
 わたし、体ひとつっきゃないのよ!
 ……え……現場には行かない? 
モニターで……でもね……わかったわよ。
 秋園くずは……若手の女優さんね……
 えーーー! 三つ子の隠し子がいたの!?……火星ツアーに出る前に娘たちに会っておきたい……マネージャーの気配り。
 ……でも、この三つ子、日本とドイツとアメリカに里子に出されてるんでしょ。
 わたしの言語サーキット、パンクしちゃいそう……(柱のボタンを押す)
 ね、どうして本物よばないの? モニターに出るんだったら、簡単じゃない……会いたくないって?……三人とも……ふーん……

 柱から衣装を出し、着替える。三人を演じ分けるため、ベースの服は同じ(サヤカの衣装から、リボンをとって、スモックを着ただけ)だが、帽子、めがね、マフラーなどがついている。

ノラ: よいしょっと。これって、三人分のギャラ出るの?……内緒?……働くのはわたしよ。
 もうかったら、キッチンつくってよキッチン……さて、ダウンロード……

 スパーク、振動。上から、モニターの四角い枠がおりてきて(黒子が運んできてもいい)ノラの上半身をおさめる。モーツアルト、カットアウト。最初は黄色の帽子をかぶっている。

ノラ: お母さん、元気? ミミだよ。
 なつかしいね、ちょっとまってね……(くるりとまわって、帽子なし、めがねをかけている)
 ハーイ、マミー。アイム、モモ。
 アーユーファイン?……オー、アイム、ファイン、トゥー。
 アイム、ハッピィー、トゥー、スィー、ユー。
 ジャスト、モメント……(くるりとまわって、めがねなし、マフラーとクマのぬいぐるみつき)
 グーテンターク、ムーテイー。
 イッヒ、ビン、メメ。ダスイスト、マイネン、クマチャン。
 ヤー、ダスイスト、マイネン、オタカラ。クマチャンプッペ。マイネン、オタカラ。
 ヴァルテン、ズィー、ビッテ……(ミミになる)
 うん、こっちのお母さんも優しいよ。でも、ないしょだけど、ちょっと甘やかしすぎ。
 わたし、今も、お母さんの子だと……(モモになる)
 ジャスト、ナウ。アイム、ゴーイング、トウー、ヨウチエン、ウイズ、ソー、メニーフレンズ。
 ……トム……メアリー……シンデイー……キャンディー……ブッシュ……オバマ……トランプ(ミミになる)
 ないしょだけど、お母さんの写真、ロケットにいれてんの。
 ロケットっていうと、お母さん、今日乗るんだよね、火星行きのロケット?……(モモになる)
 アー、ユーゴーイング、トウー、マース? フォー、イベントツアー? オー、エキサイティング!……(メメになる)
 ムーテイー、フェアガイスト、ホイテ?……(ミミになる)
 えー! とうぶん帰ってこないの!? ミミ淋しいよ……(モモになる)
 オー、アイム、ソーロンリー! マミー……ホワット?……
(メメ)エス、イスト、ツアイト!?……ムーテイー、アウフビーダゼーエン……
(モモ)アイ、ラブ、ユー、グッドバイ……
(ミミ)さよなら、さよなら、さよなら……
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高校ライトノベル・連載戯曲 ダウンロード(改訂版②)

2019-06-08 06:59:55 | 戯曲
連載戯曲 
ダウンロード(改訂版②)「大橋むつお」の画像検索結果




 ソケットに指を入れる。スパークと振動。おさまると、ガラッと性格が変わっている。
 ポケットから二十一世紀初頭の携帯電話を取りだしてかける。


ノラ: ……ドモ、うん、あたし……ってゆーか、サヤカ。うん、そそ。八十年前のあんたのお母さん。
 タクマでしょあんた? あたしの息子。うん……今からいくからね。オッケー、待っててね!

 ウォークマンをシャカシャカいわせながら、ハンガーを出る。モーツアルトのBGMカットアウト。
 舞台をルンルンで半周し、現場につく。


ノラ: オッハー! サヤカでーす。よっろっしっく!
 え、声大きい? だって地声だもんあたし、しかたないじゃん。
 え、病院? ここ? おじいちゃんタクマだよね。あたしの息子。
 こっち……嫁さん? ウッス……ヘヘずいぶん若い嫁さんじゃん。
 え……孫の? オバチャン、娘さん。ミナミだよね、むかしBKB47にいた……見る影もないね……よけいなお世話。だよね。
 ま、ヨロシク、エブリバディー!
 こっちね、サヤカ?……ん、アイシーユー。
 ……ってなに? 
 え、気にしなくっていい?
 よっしゃ!(入る)
 ウッス! 元気してる?
 ……んなわけない。ヘヘ、病院だもんね。
 個室でいいけどさ、なんか機械ばっかね……
 どォ……なつかしい?
 昔のサヤカだよ、かわいいだろ。
 え、肌が荒れてる? しかたないよ、昔のサヤカはこうだったんだから。
 ね、このケータイ見てよ。ほら、ここ押すと……
 ヘヘ……サヤカが援交してたオッサンどもの一覧表。
 なっつかしいだろお!?
 こいつこいつ、文科省のチョーエライやつだったんだけど、へんなクセあってさ、割り増しもらってんの。
 ……こいつ、見かけマジメなサラリーマン風なんだけどさ、ナントカって病気うつしたんだよ、あたしに。
 ん……なんかアラーム?
 大丈夫だよね、サヤカ? 
 ね、右のまぶたのキズおぼえてる? ほら、あたしもここに……
 あったりまえだよね、同一人物だもんね。
 ここ、ヨシミとタイマンはったときのキズ。
 あいつのケリがまともに入っちゃて、目のとこにドカッとさ。
 ハハハ、マジきれちゃったよね!
 どうやったかおぼえてないけど……うん、たぶん頭突き……かな?
 ヨシミ、川におっこちゃったんだよね。
 ほっときゃ自分であがってくるとか思って家帰ったら、三日ほどして水死体であがっちゃったんだよね。
 つかまっちゃうかなって、ビビっちゃたけど、けっきょく事故死ってことでェ……
 アハハ、ボケてるよね、あのころのケーサツって。
 ね、聞いてる、サヤカ?
 でもさ、あのおかげで彼氏とりもどしたんだよ。
 ね、コギャルの意地ってか?
 タクマその時できた子だもんね。死んだダンナは自分の子だと思っていたかもしれないけどさ。
 ヘヘ、まさにツナワタリってか!
 ……アラームうるさいね。切っとこうか。
 どう、サヤカ、思い出した?
 ……そう、嬉しいのか……涙流しちゃって。
 横アリでコンサート最前列で見てて気絶しちゃった時みたい!
 コーフンしちゃったよね!
 あたし、嬉しさのあまり、ケーレンして、おしっこちびっちゃって!
 ……サヤカ、聞いてる?
(モニターが、ツーというメリハリのない音をだす)……そう、眠っちゃった?
 ウフフ……サヤカからサヤカへ、おめでとう、百回目のお誕生日!
 バンザーイ!!

「チャンチャン」的音して暗転。モーツアルト、フェードイン。マシンの音、スパークの光して、明るくなる。
 端子に指をいれて振動しているノラ。やがて解除。おわってグッタリへたりこむノラ。
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高校ライトノベル・連載戯曲『ダウンロード(改訂版)①』

2019-06-07 06:30:36 | 戯曲
連載戯曲
ダウンロード(改訂版) 「大橋むつお」の画像検索結果






 時  二十一世紀末
 所  日本のある都市
 人物 ノラ(中古アンドロイド)他に黒子二人ほど。

 モーツアルトのBGMが流れている。中央上手寄りに、人の背丈ほどの高さと座卓ほどの高さの柱。大きい柱にはいくつかの大きさの違う端子やランプがついている。今は緑のランプが鼓動のように点滅している。ややあって、派手な動作音をたてながらノラが帰ってくる。SFの宇宙服のような姿で、いかにもロボットめかしく動いている。ドアを開ける動作をして(実際のドアはない)入室し、柱の端子に手の人差し指を入れる。スパークと同時に体がコミカルに振動する。振動が停まると、とっても長いため息とともにロボットらしさが消え、長い残業を終えてワンルームマンションにもどってきたOLのようになる。ジロっと半眼の目を上げ、客席側にある(という設定)モニターに話しかける。

ノラ: ……買い換えたほうがいいよ。ロードする時ショックが大きすぎる。イカレかけてる証拠だよ。
 ……言ってみただけ。その気もないよね(ロボットの衣装を脱ぎ始める)
 でもさ、オーナー。
 ひとつだけ、今日みたいな仕事はもうよしてくれない。
 ギッコンギッコンして、おとぎ話のロボットみたいな動きは疲れんのよ。
 これでもアンドロイドなんだからさ。
 今日みたいな、レトロロボット博の客寄せなんて……
 うん、プライドあんのよこれでも。 
「美少女アンドロイドでーす」ってポーズつくって、MCのヨシモトに頭をはられて。
「ロボット博のオモロイドでーす!」
 ……百年前のギャグでしょ、わたしってお笑い系じゃないのよ。
 それと、このモーツアルトのBGM……これも百年前の癒し系でしょ。もう耳にタコ。
 わたしには嫌系なの。
 ……通じないのよね、あなたにはこういうギャグ。
 ま、いっか。

 鼻歌交じりに柱の後ろにまわって、トレーの食事を取りだし、小さい柱をテーブルにして食事をはじめる。

ノラ: 食事もね、悪かないんだけど……昔のレトルトと違って、よくできてるけどさ。
 作る手間がね、多少はあった方がね。
 たしか、お料理……動詞「料理」するっていうのよね。
 ……したほうが、よりおいしく……
 おかしい? 人間くさい?
 ハハハ、人間がそう作っちゃったのよ、わたしたちのこと。
 中身はチタン合金の骨とマシンだけど、皮とか肉はバイオだからね。
 ちゃんと気持ちよく食事しないと、すぐ肌荒れとかになっちゃうの。
 ターミネーターの映画監督恨むわ。絶対あれがヒントになってんのよ。
 へへ、個人的にはシュワちゃん好きだけどね。
 ……ああ、やっぱ食欲な~い。
 キッチンつくってよ、キッチン。大昔はワンルームマンションだったんだからさ、ここ。
 ……消防署の許可?……だろうね……登録は、ここ倉庫だもんね。
 本火はつかえないってか……そこをなんとか。
 ……その分稼いだら考えてやる。
 ……あ、そ。
 ……で、もう次の仕事。
 ……はいはい……

 柱のところへ行き、出てきたクエスト(任務情報)をとる。

ノラ: これだけは気にいってるのよ。モニターじゃなく、プリントアウトしてくれるの。
 わたし、全部残してんのよ。時々読み返しては……
 なによ、笑うことないでしょ。そういうことを懐かしめるほどよくできたアンドロイドなのよ、わたしは。
 もっとも、あなたに拾われる前のメモリーはブロックされててわかんないけどね。
 いっそ消去しときゃよかったのにね。なまじブロックされてるだけだから気になるのよ。
 元々のわたしはなんだったんだろうって……
 わかってる。わたし、なにか特別なロボットのプロトタイプ(実用原型)だったのよね。
 ヘヘ、それくらいわかる。とても具合のいいとこと、なんでー!? ってとこがあるもん。
 きっとメモリー消しちゃったら、わたしのアビリティーに関する情報も消えちゃうんでしょうね。
 ……どのアビリティーかって?……そりゃあ、もちろん魅力に関する……あ、また笑った!
 ……はいはい読ませてもらいますよ……

 クエストを読む。

ノラ: え!? うっそー……百歳のおばあちゃんになるの!? 
 無理だよ。わたしのナイスバデイーは二十五歳、プラスマイナス十歳だよ。
 ……え、よく読め?……あ、なーる……婆ちゃんの誕生日に、若いときの婆ちゃんの姿を見せてあげる……。
 よしよし……八十年前の高校生ね。
 オッケー……チョイチョイ、チョイっと(柱のボタンをいくつか押してから、中から衣装などをとりだす)
 ええ!? なに、このチョッキ。スカートの丈も。
 ……やっぱ、このマシン壊れてるよ。サイズおっかしいよ!
 そっちでもチェック……してんの? フフフ、慌ててるあなたって、かわいいわよ。心臓の音モニターしてみよっかな……うそうそ。
 ……え、壊れてない。本当にこれ着るの? 
 いいけどね……なんか違和感……(器用に着替える)よいしょっと……こうやって……うんこらしょっと……靴下はいいけど……サイズ大きい……スカート短すぎ!
 パンツ見える……見えてもいいの?「見せパン」……変なの。
 ……でもさ、この婆ちゃん、どうして十九歳で高校生やってたの?
 ……あ、落第……よし、じゃあ、ダウンロード……
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