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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲・すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)9

2019-06-06 08:18:35 | 戯曲
連載戯曲
すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)9

 

※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最後に連絡先を記します
 
時  ある年のすみれの花のさくころ
所  春川町のあたり

  
人物 

すみれ  高校生                        
かおる  すみれと同年輩の幽霊
ユカ   高校生、すみれの友人
看護師  ユカと二役でもよい
赤ちゃん かおると二役
 
  
 


 かおるのスマホが鳴る。

かおる: ……石田さんだ。
すみれ: ……?
かおる: ……当たったんだ!
すみれ: え?
かおる: 宝くじが当たったって、石田さんが……
 ほら、さっきの女性警官の人が、メールで教えてくれたの、一等賞の生まれかわりが当たったって。
すみれ: かおるちゃん!  
かおる: ……どうしよう、生まれかわりは今すぐだ……でも、そうだよね。消えかかってるんだもんね。

 生まれる寸前の早鐘をうつような胎児の心音が聞こえてくる。

すみれ: 赤ちゃんの心臓……これで消えなくてもすむのね!?
かおる: うん、そう……でも、どうしよう心の準備が……。
すみれ: これでまた宝塚を受けることができるじゃない!
かおる: そうね、そうよね。今度こそ、今度こそ……ね、戦争だいじょうぶだよね。
 さっきの戦争が日本にくることなんかないでしょうね。もう空襲で、まっ黒こげなんてやだからね。 
すみれ: うん、大丈夫だよ。ずっと平和が続いてきたんだから。
かおる: ありがと……このスマホあげる。
すみれ: え?
かおる: これで、あたしの生まれかわる瞬間が分かる。
 生まれかわって、あたしが生前の記憶をなくすまでは、あたしのこと、このスマホで分かるから。
 あたしのことを訪ねてきて……すみれちゃんには見えないスマホだから、無くさないようにね……。
すみれ: うん、かならず会いに行くからね。
かおる: FOR YOU……。
すみれ: 愛……。
二人: 信じて……!

 心臓の音、力強く大きくなる。

すみれ: いよいよ……。
かおる: いよいよね……じゃ、行くわ。必ず、必ずね……。

 かおる消える。同時に赤ちゃんの産声。

すみれ: 生まれた……生まれかわった!

 看護師(ユカと二役でもよい)が赤ちゃん(かおる)を連れて、うかびあがる。嬉しそうなすみれ。

看護師: 北野さん、無事に生まれましたよ! 三千六百五十グラム。元気な赤ちゃん! 
 ハハハ、だいじょうぶ、五体満足。お母さん似のお目め。お父さん似の口もと。利発そうなはり出したおデコ。
 きっと立派な子に育ちますよ。ね、レロレロバー。さ、それじゃお母さんのところにもどりましょうね……え? 
 ああ、ごめんなさい。とっても元気な男の赤ちゃんですよ! 男の子!
すみれ: 男の子!?
赤ちゃん: 男の子!?(ひっくりかえり、くやしそうに泣く)
看護師: おーよしよし……(去る)
すみれ: 男の子じゃ、宝塚に入れないよ……。

 暗転。保育所のさまざまな音がして明るくなる。数ヶ月後のすみれ。

すみれ: あれから数ヶ月。アラブでおこった戦争はまだ続いていますが、今のとこ日本は平和です。
 あたしはとりあえず大学生になりました。運命的な出会いはまだ。
 情けないけど、今は、とりあえずユカにぶら下がってます。
 かおるちゃんが心配していたとおり、あの見えないスマホは無くしてしまい、
 手がかりは北野という苗字、誕生日、そして三千六百五十グラムという体重だけ。
 秋の奉仕活動の実習に、ユカといっしょにこの春川保育所にやってきました……
 そして、この子を見つけました(無対象の赤ちゃんを抱き上げる)北野たけしちゃんといいます。
 手がかりの三条件にピッタリ。鼻すじが通って、ちょっとシブイ顔をしてるところなんか、かおるちゃんに似ています。
 保育所の先生たちはジャニーズ系だって言いますが……あたしはひそかに決心しました……
 男でも宝塚に入れる運動をおこそう! おかしいですか? 
 おかしいっていえば……あの一等の宝くじ、
 女性警官の石田さんが、自分の当たりくじをかおるちゃんにまわしてくれたんじゃないかなって、
 今は、そんな気がします……あ、やってくれちゃった……ユカ! かおる……たけしちゃんおしっこ! 
 え、あたしが!? はいはい、おしめかえまちょうね(おしめをはずす)
 ああ、出てる最中!(おしっこが顔のあたりまで吹き上がる)ええと、おしめのかえ方は……ええと……ちょっとユカ!

 テーマ曲流れ、すみれが不器用におしめを替える(登場人物全員が出てきて、宝塚風のフィナーレになったら、いっそういい)

                    ――幕―― 


※ この戯曲を上演されるときは、下記までご連絡ください。

〒081-5866 大阪府八尾市東山本新町 6-5-2   大橋むつお

 上演料は、高校生のコンクール(無料上演)などは無料です。
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高校ライトノベル・連載戯曲・すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)8

2019-06-05 06:51:20 | 戯曲
連載戯曲
すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)8
   
   
 
※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します

時  ある年のすみれの花のさくころ
所  春川町のあたり

  
人物 

すみれ  高校生                        
かおる  すみれと同年輩の幽霊
ユカ   高校生、すみれの友人
看護師  ユカと二役でもよい
赤ちゃん かおると二役



 かおるが戻ってきている。

かおる: ほんと、いいセンいってるわよ。
すみれ: かおるちゃん!
かおる: 本人に素質がなければ、体験版でもぎこちなくなるものよ。
すみれ: もう! で、八千草ひとみさんは?
かおる: ……九十五才のおばあちゃんだった。
すみれ: やっぱ、むつかしいのね。
かおる: プレッシャーかけるつもりじゃないけど。ほんと、すみれちゃん素質あるわよ。
すみれ: ありがとう……。
かおる: やっぱ宝塚は……だめ?
すみれ: ごめんね。
かおる: そうよ、そうだよね。でも、宝塚はともかく、なにか、その素質生かせる、音楽の先生とか……。
すみれ: うん……あたし、進路のこと思うと考えがまとまらなくなる。
 これかな……と思った尻から違うって気持ちになってしまう。苦手なモグラ叩きみたいで、ゲームそのものから逃げ出したくなる。
 そのくせ夏の夕立みたいに突然やってくるおもしろいことには、後先考えずにとびついて……。
かおる: 放送部とか、ソフトボールとか、演劇部とか、一人文芸部とか?
すみれ: 言わないでよ。これでも自己嫌悪。
 それって進路と何の関係もなくって、人生の無駄になっちゃうんだよね。
 ユカなんか、うらやましい。さっさと、志望校とか決めちゃって。
かおる: あたしもね、無駄って言われたんだよ、宝塚うけたいって言ったとき。
 その宝塚の譜面とりにもどって死んじゃったから……親にとっちゃ無駄中の無駄だったんだろうね宝塚なんて。
 ……あ、これってよかった?(無対象の号外で紙飛行機を折っていた)
すみれ: え、いいんじゃない。ユカが持ってきた号外だから。
かおる: 号外……(紙面を見て)どこかで戦争がおこったのね。
すみれ: 関係ないよ、そんな戦争。
かおる: アハハハ……。
すみれ: なに?
かおる: わたし、だいとうあせんそう大東亜戦争の号外も紙飛行機にして叱られたんだ。
 宝塚のことばっかり考えていて、お父さんが持って帰ってきた号外。
 叱られながら思った「関係ないよ、そんな戦争」エヘヘ、でも、その関係ない戦争で死んでちゃ世話ないけどね。
 ……すみれちゃんもやってみな。号外の紙飛行機って、よく飛ぶんだよ。
すみれ: うん。
かおる: ……無駄って大事だと思うんだ。無駄の中から本物が現れる。
 無駄かなって思う気持ちが、いつか自分にとっての本物を生むんだ。気にすることないよ。
すみれ: ありがとう……。
かおる: あたしもね、最初から宝塚だったんじゃないんだよ。
すみれ: え?
かおる: 最初は看護婦さん。今は看護師だっけ。盲腸で入院したときに憧れちゃって。
すみれ: それがどうして?
かおる: ちがう。ここはこう折るんだよ……よし! 飛ばしに行こう、春川の土手に!
すみれ: うん。

 二人、無対象の紙飛行機を持って、春川の土手へ。

すみれ:看護師さんが、どうして宝塚に?
かおる: 昭和十六年に東京にオリンピックがくるはずだったんだよ。
すみれ: ほんと?
かおる: うん。で、あたし、陸上の選手に憧れたんだ。
 でもね、戦争でオリンピックが中止になって、むくれてたらね、叔父さんがかわいそうに思って、帝国劇場に連れて行ってくれたの。
すみれ: 帝国劇場?
かおる: あのころは、宝塚の大劇場は閉鎖されてたから、そんなとこでやってたの。
すみれ: そこで宝塚に出くわしたんだ!?
かおる: うん、そこでビビっときたの。あたしの人生はこれだって!
すみれ: 運命の出会いだったのね!  
かおる: うん。いくよ。いち、に、さん!
すみれ: えい!

 手をかざし、紙飛行機の行方を追う二人。

すみれ: すごい、あんなに遠くまで……!
かおる: まぶしい……。
すみれ: 幽霊さんでもまぶしいんだ。
かおる: ……。
すみれ: かおるちゃん、色が白ーい……手なんか透けて見えそうだ(歌う)手のひらを太陽に、すかして見ればー♪
 ……どうかした?
かおる: ……始まっちゃった。
すみれ: え?
かおる: 消え始めてる……。
すみれ: 消える……!?
かおる: 幽霊はね、生まれかわるか、人につく憑くかしないかぎり……やがては消えてしまうの。
 ……早い人で死後数年、遅い人で千年……思ったより早くきたな……。
すみれ: かおるちゃん……。
かおる: これって、成仏するともいうのよ。だから、そんなに悲しむようなことじゃない……。
すみれ: いやだよそんなの。かおるちゃんがこのまま消えてしまうなんて!
かおる: 大丈夫だよ、すみれちゃんにも会えたし……。
すみれ: いや! そんなのいやだ! ぜったいいやだ!
かおる: すみれちゃん……。
すみれ: ね、あたしにのりうつって憑依って! あたしに取り憑いて!あたし宝塚うけるからさ!
かおる: だめだよそれは。そうしないって決めたんだから。
すみれ: あたし、素質あるんでしょ? あたし宝塚に入りたいんだからさ。ね、お願い!
かおる: 自分のことは自分で決める。そう言ったじゃない。
 すみれちゃんは、まだ運命の出会いをしてないんだから、本心から望んでるわけじゃないんだから、そんなことするべきじゃないよ。
すみれ: おねがい、わたしに取り憑いて! FOR YOU 愛信じて……。
かおる: ありがとう、そこまで思ってくれて。温かい気持ちのまま消えていけるわ……動かないで! 
 消えていく幽霊のそばにいちゃあ、すみれちゃんまで影響をうけてしまう。
すみれ: かおるちゃん……。
かおる: あたし、川の中で消えていく……そうしたら海に流れて、いつか雨か風になって戻ってこられるかもしれないから。
 ……さようならすみれちゃん。あなたに会えてよかった……嬉しかったよ。
すみれ: かおるちゃん、かおるちゃん……!  
 
 
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高校ライトノベル・連載戯曲・すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)7

2019-06-04 06:33:14 | 戯曲
連載戯曲
すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)7
 
 
 

※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します

時  ある年のすみれの花のさくころ
所  春川町のあたり
 
人物 

すみれ  高校生                        
かおる  すみれと同年輩の幽霊
ユカ   高校生、すみれの友人
看護師  ユカと二役でもよい
赤ちゃん かおると二役


すみれ: ごめんね。やっぱり宝塚はピンとこないや……。
かおる: うん……いいよ(去りゆく飛行機から、すみれに視線をうつす)その本ね、あたしのことも載ってるんだよ。
すみれ: え、ほんと?
かおる: 戦争中のところを見て。「戦時下の女性たち」ってとこ。
すみれ: ええと……ここ? 「……戦争で沢山の女性が犠牲になりました。特に三月十日の空襲では……」
かおる: ほら、この写真。
すみれ: なに、これ……?
かおる: まっ黒に焦げてつっぱらかってる……たぶん右から三番目があたし。
すみれ: うそ!?
かおる: 死んでしばらくはね、納得がいかなくって、このまっ黒の焼け焦げが自分だって信じられなかった。
 でも、さっきの石田さんみたいな幽霊さんがいらっしゃって、時間をかけて分からせてくださったの。      
すみれ: この黒焦げが……。
かおる: あたしね、最初はちゃんと避難したんだよ。でもね、宝塚の譜面を忘れちゃって、とりに戻ったのが運のつきだった。
すみれ: そうなんだ……。
かおる: あたしって忘れものの名人だから。
すみれ: ごめんなさい、力になれなくて。
かおる: いいよ、きっとまたいいことが……ほら。
すみれ: メール?
かおる: 小林さんからだ……霊波動の適う人が見つかったって!
すみれ: それそれ、それこそが運命の人よ!
かおる: 「適合者の氏名は八千草ひとみ。詳細は不明なるも、宝塚ファンでRHマイナスの霊波動。
 至急こられたし、霊界宝塚ファンクラブ会長小林一三(こばやしいちぞう)」
すみれ: やったー!
かおる: やったー、やったー、やったー! ちょっと行ってくる。ちゃんともどって報告するからね。
すみれ: うん。友だちだもんね。
かおる: そのあいだ退屈だろうから、宝塚の体験版でもやってて。一曲だけだけど、あたしがアシストしてるみたいに歌えるわ。

 すみれに向けて、スマホのスイッチを入れ、かおるは消える。

すみれ: かおるちゃん!……え、なにこの音楽……勝手に体が……。

 宝塚風の歌を一曲、明るく元気に歌いあげる(できれば、コーラスラインなど入り宝塚風になるといい)
 歌い終わって呆然とするすみれ。ユカが拍手しながらもどってくる。


ユカ: すみれ、すごいよ! さっきは照れてあんな言い方したのね……しぶいよ。 いつの間に練習したのさ!?
すみれ: これはね、つまり……ユカこそどうしたの、学校行ったんじゃないの?
ユカ: うん、表通りまで行ったら号外配っててさ。
 なんか分かんないけど、アラブとかの方で戦争始まっちゃったみたい。
 日本のタンカーが巻き添えくって燃えてるらしいよ(無対象の号外を渡す)
すみれ: さっきの……(飛行機が去った方を見る)
ユカ: かもね(すみれにならう)すみれの歌といい、戦争といい、世の中何がおこるかわかんないね。
すみれ: 学校行く?
ユカ: ううん。きっとうちの担任まいあがっちゃってるよ。
 あの先生、口では平和とか命の大切さとか言ってるけど、人の不幸にはワクワクしちゃうほうだから、
 今は進路相談どころじゃないよ。駅前の本屋さんでも行ってくるわ、志望校の本とか見に。
すみれ: とかなんとか言って映画とか行っちゃうんじゃない? ジブリの新作やってるから。
ユカ: かもね、アハハ……すみれも、宝塚とか、本気で考えていいんじゃない? ほんといいセンいってると思うよ!(去る)
すみれ: そんなんじゃないってば! そうじゃないんだから。
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高校ライトノベル・連載戯曲・すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)6

2019-06-03 06:57:27 | 戯曲

連載戯曲

すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)6  

   

※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します

時  ある年のすみれの花のさくころ
所  春川町のあたり
  
人物 

すみれ  高校生                        
かおる  すみれと同年輩の幽霊
ユカ   高校生、すみれの友人
看護師  ユカと二役でもよい
赤ちゃん かおると二役


 すみれの友だちのユカがカバンをぶらさげてやってくる。

ユカ: 一人でなにブツブツ言ってんの? あぶないよ。だいじょうぶ? 二時からの約束覚えてる?
すみれ: え……うん(かおるを見る)でも、気が向いたらって言ったんだよ。
ユカ: まただ、すみれの気まぐれ。言いたかないけどね……。
すみれ: だったら言わないで。
ユカ: 言うよ、言わせてもらいますよ。今の放送部始めたのだって、すみれの付き合いだったんだからね。
 その前はソフトボール。そのまた前は演劇部。そして今は帰宅部。
すみれ: ちがうよ、文芸部。
ユカ: 文芸部!?
すみれ: うん、こないだから。
ユカ: 文芸部なんてあったっけ?
すみれ: あたしが作ったの、部員わたし一人……ハハハ。
ユカ: いいかげんにしてよね。あたしも付き合いいいほうだけどね、気まぐれもたいがいにしてちょうだいよね。
すみれ: でも、今部長なんでしょ、放送部?
ユカ: あのね、うちの放送部三人しかいないんのよ。
 田中、鈴木、佐藤。で、全員が三年生、だから、今度の新入生五人は入れないと引退もできないの。
 受験をひかえてるってのに。すみれ、進路のこと、なんか考えてる?
すみれ: うん、少しはね……。
ユカ: だめよ。今から決めておかないと、進学なんて間にあわないわよ……あ、また決心遅らせようなんて。
 すみれの悪い癖、移り気なわりにはぼんやりで。
すみれ: ぼんやりなんかしてないよ。春休みの宿題をやろうと思って図書館に行ってたんだよ(本を示す)
ユカ: 「この町の女たち」……かたそうな本。
すみれ: この町に関係のあった女性のことを歴史的に書いてあるの、弥生時代から現代まで。
 知ってた? ヤマタイ国のヒミコって、この町にいたんだよ。
ユカ: うそ!? ヤマタイ国って九州とか奈良とか……。
すみれ: この本にはそう書いてあるの。
 水戸黄門の彼女が、この町の出身でさ。
 旅芸人とかしてて、黄門様は、そのおっかけをするために、全国漫遊とかしてたんだよ……。

 ユカとかおる、のどかに笑う。かおるの笑い声の方が大きい。

すみれ: ほんとうだってば!
ユカ: どっち向いて言ってんの?
すみれ: 樋口一葉がね……。
ユカ: 五千円札の女の人?
すみれ: 頭痛と肩こりがひどくって、この町のこう薬とか薬とか、よく買いにきたんだって。
 それを売っていたのが新撰組の土方歳三の姉さんでさ。
 一葉が薬を買いにくるたんびに、日頃のうっぷん喋りまくってさ。
 つまり思いのたけをね、ぶつけあって、それがもとで「たけくらべ」とか名作が生まれたんだって(二人ずっこける)
ユカ: オヤジギャグじゃん……。 
すみれ: だって、そう書いてあるもの!
ユカ: 分かった分かった。でもさ、読書感想文の宿題なんてあったっけ?
すみれ: ……ううん。
ユカ: え……宿題やりに図書館に行ったんでしょ?
すみれ: しようと思ったんだよ。そしたら、この本がおもしろくって……。
ユカ: すみれらしいわ。
すみれ: ……あたし、宝塚歌劇団うける!
ユカ: え!?
かおる: え……!?
すみれ: アハハ、やっぱりおかしいよね。
ユカ: なによ?
すみれ: 言ってみただけ。口に出してみればなにか響くものがあるんじゃないかなって思った。
ユカ: それがどうして宝塚?
すみれ: あ……。

 この時、上空を多数の飛行機が通過する音がする。

すみれ: となり町の基地からだね……。
かおる: …………。
すみれ: 戦争でもおこるのかなあ……。
ユカ: まさか……まさか、本気で宝塚考えてんじゃないでしょうね。
 だったら親友として忠告しとくけど。あんたにその才能はないよ。
すみれ: わかってるよ。言ってみただけだって。
ユカ: 逃げ口上言ってる場合じゃないわよ。真剣に考えて準備しておかないと、受験なんてあっという間にくるんだからね。
 下らない本とか、飛行機に気をまわしてるヒマないの。
すみれ: うん、分かってるよ……。
ユカ: じゃ、あたし一人で行くよ、たった一人の文芸部さん。バイバイ。
すみれ: イーだ!
ユカ: ウーだ!
すみれ: せっきょう屋!
ユカ: 気まぐれ屋!
二人: ふん!(ユカ去る) 
かおる: アハハ。
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高校ライトノベル・連載戯曲 すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)・5

2019-06-02 06:52:53 | 戯曲
連載戯曲 すみれの花さくころ
(宝塚に入りたい物語)・5 


※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します
 

すみれ: どうするの……あたしが断ったら?
かおる: その時はその時。また別の人をさがす。ああ、しょんぼり。
すみれ: 見つかる……?(少し同情的になる)
かおる: むつかしいでしょうけど、確率の問題だから……
 (燃えるような目で)でも、いま目の前にいるのはすみれちゃんだからね。
 真剣にお願いする……お願い、あたしに憑依(のりうつ)らせて!
すみれ: うん……。
かおる: あたし、いつも目の前の可能性に全力をつくす人間でいたいの、幽霊だけどね。
 あとでうじうじ後悔しないために……すみれちゃん、どうだろ、やっぱしだめかな……ごめんね、しつこい幽霊で。
すみれ: あたし、この四月で三年生……夏ごろには進路を決めようかなって思って……
 今はまだ心の準備ができていないの。ごめんなさい。
かおる: ううん……でも、友達って思っててもいい? 
すみれ: うん、それくらいなら。でもさっきのキョウイクなんとかっておまじないはやだよ。
かおる: あたしも好きじゃなかった教育勅語なんて。
 式の日なんかに校庭に並ばされて、最敬礼で校長先生が奉読するの聞かなきゃなんないの。
すみれ: サイケイレイ……?
かおる: う、うん、こんなの(やってみせる)
すみれ: ハハハ、こんな感じ?(真似してみる)
かおる: だめだめ、腰から上はまっすぐに、角度は六十度!
すみれ: ……うーん……きっついなあ(我慢できなく、体を起こす)
かおる: だめだよ、そのまんま十分は我慢しなくっちゃ。ほれ(すみれの上半身を倒す)
すみれ: 十分も!?
かおる: 最敬礼!(二人して最敬礼)
 ……朕惟フニ我カ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ、徳ヲ樹ツリコト深厚ナリ。
 我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ、億兆心ヲ一ニシテ世世厥ノ美ヲ濟セルハ此レ我カ國體ノ精華ニシテ教育ノ淵源亦實ニ此ニ存ス。
 爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信ジ恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ボシ……
(ちんおもうわがこうそこうそうくにをはじむることこうえんに、徳ヲたつるコトしんこうナリ。
 わがしんみんよくちゅうによくこうに、おくちょう心ヲいつニシテよよそのびをなせるハ、
 これわがこくたいのせいかニシテ教育ノえんげんまたじつにここにそんす。
 なんじしんみんふぼにこうにけいていにゆうにふうふあいわし、
 ほうゆうあいしんじきょうけんおのれをじしはくあいしゅうにおよぼし……)
すみれ: ……鼻水が……ズズー(鼻をすする)ああ、やってらんないよ。
かおる: でしょ! ニ三分もすると、あちこちで鼻をすする音がズズー、ズズーって。まるで壊れた水道管。
すみれ: ハハハ……(かおるも、のどかに笑う)
かおる: でもね朋友相信ジって言葉は好きだった。
すみれ: ほーゆー?
かおる: 相信じ。友達同士信じ合いって意味。
すみれ: 英語のFOR YOUかと思った。
かおる: あたしもよ。FOR YOU……君のために愛を信じて! 
すみれ: FOR YOU……君のために愛を信じて。いい言葉だね。
かおる: でしょでしょ!?   
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高校ライトノベル・連載戯曲 すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)・4

2019-06-01 06:22:28 | 戯曲
連載戯曲 すみれの花さくころ
(宝塚に入りたい物語)・4
        


 
※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください
 最終回に連絡先を記します

かおる: 教育勅語! 
 兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信ジ(けいていゆうにふうふあいわしほうゆうあいしんじ)って!
すみれ: なに、そのおまじない?
かおる: おまじない? 友達同士信じ合いなさいってことよ。友達って、信じ合ってこその友達でしょ!?
すみれ: それとこれは別よ! 自分のことは自分で責任もたなきゃ!
かおる: すみれちゃん、あんたって、そんな子だったの……。
すみれ: そんなもとくなもないよ。頼みもしないのに昼日中から幽霊なんか出てきちゃって、いったいあなったって何様のつもりよ!
かおる: 何様のつもりって、あんた……!
すみれ: なんだってのよ! 
かおる: なんだってねって、人が真剣に……!
すみれ: 勝手に真剣になられてもね!
かおる: ……ね、そこの公園にでも行こう。通行人の人達が変な目で見てるよ。
すみれ: 独り言言ってる変な子だと思われてる……アハ、アハハ(あいそ笑い)
かおる: やめなさいよ、余計変な子だと思われるよ。
すみれ: う、うん、行こう……。

 舞台を移動し、近くの公園に行く。 

かおる: すみれちゃん、自分のことは自分で決める人なんだよね……。     
すみれ: そうだよ。見かけによらず、ガンコなの、あたしって!
かおる: そうだよね、あたしもそうだったから(モジモジしてる)
すみれ: おトイレだったら、あっちにあるよ。
かおる: 幽霊はお便所なんかいかないの!
すみれ: 何が言いたいのよ!?
かおる: すみれちゃん、宝塚って知ってる?
すみれ: うん、ベルバラとかやってる歌劇団?
かおる: 興味ある!?
すみれ: うん、お母さんとかは……若い頃はなんとかっていう宝塚の女優さんのおっかけとかしてたらしいけどね。
かおる: そうだろうね。すみれって名前も宝塚にちなんでるんじゃない?
すみれ: うん、かな?
かおる: すみれちゃんは?
すみれ: ……分かんないよ。
かおる: あたし、宝塚に入りたかったんだ。
すみれ: かおるちゃんが?
かおる: うん、何十年も昔のことだけどね。  
すみれ: 試験おっこっちゃったの?
かおる: 試験の十日前に死んじゃったの。
すみれ: え!?
かおる: 戦時中だから募集停止だったけど、毎年その日。戦争が終わったら受けようって、準備してたの。
 すみれの花の咲くころ……ちょうど今じぶん。
すみれ: なんで、なんで死んじゃったの?
かおる: え……まあ、それでさ。宝塚うける気ない!?(おもいきり顔を近づける)
すみれ: かおるちゃん……。
かおる: もし、少しでもその気があったら、あたしがすみれちゃんに憑依(のりうつって)ってさ、
 試験にも合格させて、宝塚のスターにしてあげる! 
 憑依っていっても、すみれちゃんは、ちゃんとすみれちゃんなんだよ。
 ただ、試験とか、ここ一番という時に助けてあげるの!
すみれ: それって……。
かおる: そんなばい菌みるような目で見ないでよ。
すみれ: ごめん……。
かおる: ほら、電動自転車ってあるでしょ。自転車だから自分で漕ぐんだけど。
 坂道とか、苦しい道になったら、モーターが働いて助けてくれるやつ。アシスト機能っていうのかな……あれに近い! 
 あくまですみれちゃんの人生だから、すみれちゃんが、その気になってペダルを漕いでくれなきゃ、
 このかおるモーターも力のふるいようがないんだけどね。
すみれ: うん……。
かおる: ……これって霊波動が合ってないとできないんだよ。
 あたしとすみれちゃんて、RHマイナスの霊波動……百万人に一人くらいしかいないの……。
すみれ: うん……でも、急な話だから。
かおる: あたしは、ずっとずっとずっとずーっと思っていたんだけどね。
すみれ: あたしには急なの!
かおる: ごもっとも……あたしの勝手な思い入れだから、断ってくれてもいいのよ。
 自転車が乗る人を選んじゃいけないものね。しょんぼり。
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連載戯曲 すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)・3  

2019-05-31 06:38:04 | 戯曲
連載戯曲 すみれの花さくころ 
(宝塚に入りたい物語)・3 
※ 無料上演の場合上演料は頂きません。下段に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください

 
すみれ: え……?
かおる: あ……見えないんだ、すみれちゃんには……買って間がないから、まだ持ち主になじんでないんだね……
 いろいろできるんだよ。情報の端末になってて、買い物したり、占いしたり、好きな場所の映像とりこんだり。
 これで宝くじ買ったんだよ、ゴーストジャンボ!
すみれ: え、幽霊にも宝くじがあるの?
かおる: もちろんよ。生きてる人の世界にあるものはたいていあるわよ。だって、もとはみんな生きてる人間だったんだから。
すみれ: 一等は、やっぱ三億円?
かおる: ううん、生まれかわり!
すみれ: 生まれかわり?
かおる: 幽霊って、めったに生まれかわれないんだよ。だって、死んだ人って、生きてる人の何千倍、何万倍もいるんだからね。
すみれ: そうなんだ。
かおる: そうだよ。特にこのごろは少子化の影響で、めったに生まれかわったりできないんだよ……
 見て、今日の占い! あ、見えないんだ……。
すみれ: なんて出てるの?
かおる: 今日は、あなたの死後で一番のラッキーデーでしょう。運命の人との出会いがあります……すみれちゃんのことだよ!
すみれ: あたしが!? ちがうちがう、あたしそんな運命的な人なんかじゃないよ。
かおる: ううん、絶対そうよ! この占いは絶対だよ。だって、阿倍野晴明さんが占ってるんだよ、本物の。
すみれ: アハハ……本物か。そうだよね。
かおる: あ、メールが入ってる。
すみれ: 阿倍野晴明さん!?
かおる: まさか、そんな偉い人が……お友だちよ……え……
 アハハ(道路の電柱一本分むこうに声をかける)そんな近いところからメール打つことないでしょ。
 直接声をかけてくれればいいのに……え……もう石田さんたらテレ屋さんなんだから!
すみれ: 誰と話してるの?
かおる: 石田さん。わたしの友だち。メール打ったり、いっしょに宝くじ買ったり。
すみれ: あ、かおるちゃんのカレでしょ!?
かおる: 違うよ、女の人だよ。婦人……女性警官。ほら、去年パトロール中に死んじゃった女性警官の人、いたでしょ?
すみれ: ああ、暴漢におそわれた子供を助けようとして、刺された……
 気の毒に亡くなったんだよね、お母さんなんかウルウルだったよ。
かおる: あはは、照れてる……行っちゃった……今でも、ああしてパトロールやってんの。
すみれ: 一人で?
かおる: うん。今日は迷子の男の子の手をひいてる。
すみれ: 迷子……幽霊の?
かおる: けんちゃん。二日前に死んだばかりで、まだ自分が死んだってことが分かってないんだ……
 お母さんがわりかな、しばらくは……あたしもね、宝くじ預けてるの。
 あたしって忘れ物の名人だから。今まで三枚もなくしちゃったのよね。
すみれ: あは、そそっかしいんだ。
かおる: 失礼ね、大らかなのよ、人がらが。
すみれ: そうなんだ。でもさ、だいじょうぶ人に預けたりして?
かおる: どういうこと?
すみれ: だって、万一当たりくじだった時にさ。すり替えられちゃったりしたら、分かんないじゃない。
 どうせ自分のくじの番号なんか覚えてないんでしょ?
かおる: そりゃ……覚えてないけど……失礼だよ、そんなふうに考えるのは。
すみれ: ちがうよ。そういう貴重品はちゃんと自己管理しなくちゃ。
かおる: 自己管理!?
すみれ: そう、自分の物は自分で責任持たなくちや。
かおる: それって、人を見たら泥棒と思えってこと?
すみれ: まあね、学校でも自分の物には自分で責任もてって言ってるよ。
かおる: 学校で!?
すみれ: 常識だよそんなこと。
かおる: 常識って、教育勅語習ってないの?
すみれ: キョウイクチョ……。
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高校ライトノベル・連載戯曲 すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)・2

2019-05-30 07:05:57 | 戯曲
連載戯曲 すみれの花さくころ
(宝塚に入りたい物語)・2 

※ 無料上演の場合上演料は頂きません。下段に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください

 
すみれ: 気味が悪い。新手のキャッチセールスかオタクか、変質者か……それで、夢中で土手を駆け下りて。
 三つほど角を曲がった自販機の横で、やっと息をついて(ぜーぜー言う)思わずジュースを買って……振り返ったら……また!
かおる: (首から下げた自販機のダミーを外して)アハハ、ごめんね。あたし慣れないもんだから、やっぱり驚かしちゃったよね。
すみれ: あ、あなた、いったいなんなのよ!?
かおる: だから、幽霊。
すみれ: うそよ。こんなまっ昼間に出る幽霊なんか……。
かおる: あたし、暗いとこ嫌いなの。
すみれ: そんなズッコケ言ったって信じらんないよ。
かおる: ほんとうだってば……そうだ、ちょっと見ててね。

 自販機をソデに放り込み、交差点の真ん中に出て、大きく手をひろげる。

すみれ: あ、赤信号……あ、あぶない。ダンプが……キャー!!

 ブレーキもかけず、クラクションも鳴らさず、ダンプはかおるの体をすりぬけ何事もなかったように走り去る。

かおる: 分かった?
すみれ: な、なんなの、今の?
かおる: だから幽霊。一度死んじゃってるから死なないの。実体がないから、すり抜けちゃうし、運転手の人からも見えないの。
すみれ: うそ……。
かおる: なんなら、今度は電車にでも飛び込んでみせようか?
すみれ: だって……。
かおる: あなとは霊波動があう適うから見えるの……分かった?
すみれ: ……い、いちおう。
かおる: よしよし。
すみれ: で、でもさ……あたし、小さいころからあの土手道は通っているけど。会ったことないよ……あなたって、浮遊霊?
かおる: んー……地縛霊かな、どっちかっていうと……その本のおかげなのよ、こうやってお話できるの。
すみれ: この本?
かおる: うん。本とか物体にも霊波動があるの。人とは違うけどね。それが鍵になって、二人をこうして結びつけてくれるの。
 それも、もともと二人の霊波動が適うからだけどね。
 ほら、占いとかで、ラッキーアイテムってあるでしょ。何月生まれの人は何々を持っていると幸運がやってくるとか。

 すみれ、まが禍々しそうに、本を投げ捨てる。

かおる: それはないでしょ! 本には罪はないのよ。それに、今さらこれを捨ててもわたしは消えたりしないわよ。
 もう鍵は開けられたんだから(本を、すみれに返す)
すみれ: その幽霊さんが何の用?
かおる: かおるって呼んでくれない。あたし、あなたのこと、すみれちゃんて呼ぶから。
すみれ: どうしてあたしの名前?
かおる: アハハ、小さい時から知ってるもの、すみれちゃんのこと。あなたも言ってたでしょ。
 あの土手道は、しょっちゅう通っていたって。ほら、五年生の夏。あの春川の土手で昆虫採集やったでしょ。
 若い担任の先生がはりきっちゃって、昆虫採集しろって。こんな都会の真ん中で……。
すみれ: うん。でも、たくさんとれたよ。カブトやチョウチョ。あの夏だけは鼻が高かった……あ!?
かおる: 分かった?
すみれ: あれって……。
かおる: そう、あたしが手伝ったの。ひょっとしたら通じるんじゃないかと思って。
すみれ: ありがとう……。
かおる: いいのよ。あれって、あたしのあせりみたいなもんだったんだから、
 アハハ、タラララッタラー(思わずタップを踏んだりする)
すみれ: 明るいのね、かおるちゃんて。
かおる: 幽霊が暗いなんていうのは、生きてる人たちの偏見です! 
 ちゃんと二本の足もあるし、昼日中でも出てくるし……そうだ、スマホだって持ってるんだよ。ほら!
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高校ライトノベル・連載戯曲 すみれの花さくころ(宝塚に入りたい物語)

2019-05-29 05:49:51 | 戯曲
連載戯曲 すみれの花さくころ・1
(宝塚に入りたい物語) 



※ 無料上演の場合上演料は頂きません。下段に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください
 


          

時  ある年のすみれの花のさくころ
所  春川町のあたり

人物 すみれ  高校生
   かおる  すみれと同年輩の幽霊
   ユカ   高校生、すみれの友人
   看護師  ユカと二役でもよい
   赤ちゃん かおると二役


 人との出会いを思わせるようなテーマ曲が、うららかに聞こえる。すみれが一冊の本をかかえて、光の中にうかびあがる。

すみれ: こんちは。あたし畑中すみれです。
 これから始まるお話は、去年の春、あたしが体験した不思議な……ちょっとせつなく、ちょっとおかしな物語です。
 少しうつむいて歩くくせのあるあたしは、目の高さより上で咲く梅とか桜より。
 地面にちょこんと小さく咲いている、すみれとかれんげの花に目がいってしまいます。
 その日、あたしは春休みの宿題をやるぞ! 
 というあっぱれな意気込みで図書館に行き、結局宿題なんかちっともやらないで、こんな本を一冊借りて帰っていくところ。
 あーあ、机の前に座ってすぐに宿題はじめりゃよかったのに。
 つい、なにげに本たちの背中を見てしまったのが運のつき。
 だから、この日、うつむいて歩いていたのは、いつものくせというよりは、自己嫌悪。
 だから、いつもの大通りを避けて、久しぶりで図書館裏。
 春川の土手道をトボトボうつむいて歩いていたのです……
 ところが、そこは春! 泣く子も黙って笑っちゃう春! 
 そのうららかな春の日ざしを浴び、土手のあちこちに咲きはじめた自分と同じ名前の花をながめている。
 ふいに母親譲りの鼻歌などが口をついて出てくるのです。
 春川橋の手前三百メートルくらいに差しかかった時、それが目に入りました。
 保育所脇の道から土手道に上がってくる、あたしと同い年くらいの女の子。
 セーラー服に、だぶっとしたズボン……モンペとかいうのかな。
 胸には、なんだか大きな名札が縫い付けて、肩から斜めのズタブクロ。平和学習で見た映画の人物みたい、一見して変! 
 近づいてくると、もっと変!……あたしと同じ鼻歌を口ずさんでいる! 
 まるで学校の廊下でスケバンのキシモトに出くわした時みたいな気になり。
 目線をあわさぬよう、また、不自然にそらせすぎぬよう、なにげに通りすぎようとした、その時……。

 舞台全体が明るくなり、ちょうど通りすぎようとしている少女、かおるも現れる。
 すれ違った瞬間かおるが知り合いのように挨拶する。


かおる: こんにちは……。
すみれ: こんちは(蚊の鳴くような声だが、かおるにはしっかり伝わる)。
かおる: こんにちは……!
すみれ: こ、こんにちは。
かおる: 通じた!……あたしのことが分かるんだ!?
すみれ: あ、あの……
かおる: わ、わ、通じた!通じちゃった!通じちゃったよ!!
すみれ: あ、あの……。
かおる: あ、あたし、あたし、咲花かおると申します。あたし、ずっとあなたみたいな人が現れるのを待っていたの!
 急にこんなこと言われたって信じられないかもしれないけど。あたし幽霊なんです!
すみれ: ゆ、ゆうれい!!??
かおる: 驚かないでね。人にも幽霊にも、霊波動ってものがあってね、血液型みたいに型があるの。
 あたしの霊波動はめったにない型、RHのマイナス型。百万人に一人ぐらいかな。
 この型に適う人でないと、あたしの姿も見えないし声も聞こえないの。
 人によって幽霊が見えたり見えなかったり、霊感があったりなかったりっていうのは、つまり、つまり、そういうことなの。
 そうなの、あなたの霊波動もRHのマイナスで、しっかりあたしのことが見えて、聞こえるわけなの……わかってもらえた? 
 やっぱり驚かしちゃった?
すみれ: あ、あの、あたし急いでいるから!
かおる: ま、ま、待って!

 すみれ駆け出し、かおるが追う。 



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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・11

2019-05-28 06:30:50 | 戯曲
連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・11

 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)


 白雪、その場で半歩進み、目を閉じ、王子の口づけを待つ姿勢をとる。

王子: 白雪姫……(白雪を両手で抱きしめ、口づけの一歩手前までいく)しかし、今のわたしは汗くさい……。
三人: ガクッ……。
白雪: 何を汗くささなど、お気にしすぎです。それこそ殿方の雄々しさのしるし、その軽い塩味こそが男の値打ちと申すもの。
赤ずきん: がんばれ、塩味王子!
王子: エヘン、オホン……。
ヨンチョ: 勝負どころでございますぞ、殿下!
王子: ケホン、では……。
白雪: どうぞ!

 再度いどむ王子! しかし一センチの壁を越えられない……。

王子: だめだ……わたしという男は!
白雪: 王子さまあァ……。
ヨンチョ: 殿下ァ……(わが事のように身悶える)
赤ずきん: こんなオクテ見たことないよ……。
王子: (顔を被って)すまん……泣きたいくらい自分が情けないよ。
白雪: 泣きたいのは、わたくしの方でございます。
ヨンチョ: ここで口づけなさいませんと、姫は朝にはまた仮死状態におなりになるのですぞ……!
赤ずきん: わかった、最後の手段!
王子: 何か他の方法が……。
白雪: あるの!?
赤ずきん: 二人とも、例の一万人のお母さんの心のエッセンスの薬、幸福のポーションを飲んだでしょう?
 効き目は半分ほどしかないみたいだけど……握手をしてごらんなさい。
 ほら、二人とも愛しあっているから……握手と言っただけで、外分泌腺を刺激して汗ばんできたでしょ。
 口づけのかわりになるかもしれない……。
王子: 握手ぐらいなら……。
白雪: 少しもの足りないけど……。
王子: では、姫、失礼します!
白雪: どおぞっ!!

 握手する二人、赤ずきんはポンプの仕掛けにかかる。

赤ずきん: 誓いの言葉を……黙っていちゃあ何の握手だかわかんないでしょ!
王子: なんと言えば……。
ヨンチョ: じれってええええええええええ!!
赤ずきん: 「愛しています」でいいわよ
王子: ……(息を吸う)
白雪: 愛しています、神の御名にかけて、そしてわが命にかけて……愛していますっ!!
王子: うん……あ、愛しています、神の御名と、この名誉と……。
白雪: この方々の友情にかけて、愛していますっ!

 この誓いの言葉の途中から、白雪のおなかが膨らみはじめる
 (白雪のスカートの中に風船が仕込んであり、白雪の背後で赤ずきんが懸命にポンプを押している。工夫は様々)

白雪: あ……ああ、なんということ!?
ヨンチョ: おお、なんという神の御技!
白雪: ああ、おなかが、おなかの中に赤ちゃんが……。
赤ずきん: この薬、オクテのおじいちゃんを口説かせる時に使ったって言ってたけど、
 ほんとうに、効き目があったんだ!(白々しい。赤ずきんはかなりの役者である)
王子: これは、早く医者を産婆を……誰がサンバを踊れと言った(ヨンチョをはり倒す)
 そうか、人まかせではいかんのだな、赤ずきん?
赤ずきん: そうよ、自分で、自分の愛する者のために行動をおこして!
王子: わかった、わたし自身、城下まで走り医者と産婆を連れてこよう、ヨンチョ、赤ずきん、それまで姫を頼んだぞ!
ヨンチョ: アイアイサー!
赤ずきん: まかしといてー!
白雪: がんばってね、あなた……。

 間

赤ずきん: けなげねえ……少しかわいそうな気もするけど……。
ヨンチョ: ああやって大人になっていかれるんだモラトリアム王子は……。
白雪: もういいかしら……。
赤ずきん: いいわよ、もう峠のむこうまで行っちゃったから。

 白雪、手にしていたピンで、おなかを一刺しする、ボンと音がして、おなかの風船が割れる。

白雪: なにか騙したようで気がひける。
赤ずきん: 念のためと思ったことが役にたったんだからいいじゃない。
ヨンチョ: 儂も事前に話を聞いていなかったら、ぶったまげて怒ったかも知れねえだども、これでいいよ。
 さっきの戦闘指揮もなかなか立派なもんでがした。お子様の方は、男と女いっしょに暮らしていれば、どうにかなるもんだで。
赤ずきん: おじいちゃんの時はうまくいったんだけどね。
ヨンチョ: 何十年もたってるんだで仕方のないことさ。
 なんせ敵の攻撃をやわらげ、傷もやわらげ、オクテの男もやわらげようって欲ばった薬だもんなあ、
 その分効き目が早く抜けても仕方ねえ。
白雪: 王子さまには想像妊娠だったって言えばいいのね?
赤ずきん: でも、これでもう朝がきても仮死状態にもどらないはずだよ……気がとがめる?
白雪: ……。
赤ずきん: 王子さまの手を握ったとき、心が通じたような気がしたでしょ?
白雪: うん……シャイで恥ずかしがり屋で、普段は思ってることの半分も言えず、
 やりたいことの十分の一もできない……その分良くも悪くも思い込みが強く……これと思うことにはまっすぐで……。
赤ずきん: まっすぐ白雪さんを愛している。
白雪: 手を握って王子さまと目があったとき、一瞬本当に赤ちゃんが……ウッ(口をおさえて、えずきはじめる)
 こ、これって……ウッ
赤ずきん: 効いたんだ! そうか、つわりだよ白雪さん! 
 白雪さんも傷を治すためにゆうべ 飲んだから、飲んだもの同志手を握って汗を通して効き目が〇.五かける二で一に、
 元の効き目が出てきたんだ!
ヨンチョ: ほ、ほんとけ!?
赤ずきん: きっとそうだよ。
白雪: 嬉しい……けど苦しい……ウッ……。
赤ずきん: がんばりな白雪さん。
白雪: うん……がんばる……。
ヨンチョ: 儂は何を?
赤ずきん: 婆ちゃんとオオカミさんに知らせてきて。
ヨンチョ: アイアイ……。
赤ずきん: ごめん、それよりも、王子さまを手伝って二人で、お医者様と産婆さんを背負って……。
ヨンチョ: アイアイ……。
赤ずきん: でも、やっぱりお婆ちゃんに……いえやっぱり王子さま……やっぱ婆ちゃん……
 がんばって白雪さんん……やっぱ王子……やっぱ……。

 白雪がえずきはじめた頃からハッピーエンドを思わせるテーマFI 
 ここで一気にFUして、キャストと出られるだけの黒子、スタッフが出てきてフィナーレの歌とダンスになり……幕 


 ※ 本作は無料上演である限り作者名「大橋むつお」を記していただければ自由に上演していただいてけっこうです。上演許可も取らなくてかまいません。チラシやパンフレット、中高生の場合はコンクール等で連盟に提出する書類等に作者名「大橋むつお」を明記してください。
 大幅な脚色、たとえば、登場人物が増えるとか減るとか性別が変わるとか、劇中のエピソードや台詞が変わる時は脚色者を記していただければ幸いです。


 2024年4月 大橋むつお
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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・10

2019-05-27 06:43:14 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・10


 
 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)



ヨンチョ: これは……。
赤ずきん: これがドラゴンの正体……。
王子 :マンガ……CDにゲームソフト……。
赤ずきん: みんな童話の世界の敵……。
王子: 敵にしてしまったんだ……。
二人: ……?
王子: これらは、みな童話の世界から、別れ、自立し、育っていった者たちだ……。
 それが異常繁殖し、ドラゴンとなって、この世界を食いつぶしかけていたんだ。
ヨンチョ: とんでもねえ野郎共だ(踏みつける)
王子: よせヨンチョ……ドラゴンに変化(へんげ)したとは言え、もとはわが同胞、兄弟も同然、後ほど、塚をつくり丁重に葬ってやろう。
赤ずきん: 王子さま……。
王子: おお、こんなに怪我をして……二人ともよくふんばってくれた。
赤ずきん: 王子さまこそお怪我は?
王子: 大丈夫、みな軽いかすり傷だ……。
ヨンチョ: おう、あれに……!

 花道に白雪があらわれる、怪我は意外にも治りかけていて、額や頬にバンソーコウを残す程度に回復しかけている。

白雪: 王子さまーっ! 赤ずきんちゃーん! それに……。
ヨンチョ: 王子さま第一の家来にして近習頭のヨンチョ・パンサと申します。
白雪: こんにちはヨンチョさん、そしてありがとう。
 みなさんの御奮闘ぶりは、その丘の木陰から見せていただきました。
 三度目のドラゴンの突撃の時など思わず目をふせてしまいましたが、御立派にお果たしになられたのですね。
赤ずきん:駄目じゃないか、ちゃんとお婆ちゃんの家に籠っていなくちゃ。
白雪: ごめんなさい、赤ずきんちゃんの話を聞いて、矢も盾もたまらず。
 それに夜になって体が自由になると、思いの他傷も……ゆうべお婆ちゃんにいただいた薬が効いたみたい、幸福のポーション。
赤ずきん: でも、それ古い薬だから、効き目は半分だね、まだ、体のあちこちが痛いでしょ?
王子: お体はしっかりといたわらねば。
白雪: それはこちらが申す言葉ですわ。三人とも、こんなに傷だらけになられて。
赤ずきん: 白雪さん……。
白雪: 御心配ありがとう、でも、もう大丈夫。
 こんな痛み、薬の力で半分に、そしてこの喜びと感謝の気持ちでさらに半分に減ったわ。
 今までは仮死状態の心の目でしか王子さまを見ることができなかったけど、
 やっとこうして、フルカラー、スリーDのお姿として拝見して……バーチャルじゃない、本当の王子さまなのね。
赤ずきん: きまってるじゃないか。百パーセント混じりっ気なしの王子さまだよ。
ヨンチョ: 戦闘で、ちょいと薄汚れっちまってらっしゃいますがね、
 なあに一風呂あびて磨き直せば、この百五十パーセントくらいにはルックスもおもどりになります。
白雪: いいえ、このままでも、わたしには十分凛々しく雄々しくていらっしゃいます。
 これ以上磨かれては、そのまぶしさに目が開けていられなくなります。
王子: 姫……。
白雪: 王子さま……。
赤ずきん: 行け! 白雪さん!
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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・9

2019-05-26 06:32:25 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・9


 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)

 
※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください

赤ずきん: そんなもんじゃないよ、ちょっとくせがあるけどね(苦しそうに飲む)
王子: なあにハナクソでさえなければ……(飲む。とりつくろってはいるが気持ち悪そう)なあに大したことは……ない。
ヨンチョ: おつな味だねえ……で、本当は何なんだい?
赤ずきん: 聞かない方がいい……。
ヨンチョ: そう言われると余計知りたくなる。
赤ずきん: 青い狼のミミクソ!
二人: ゲッ?!
赤ずきん: 吐いちゃだめ! あーもどしちゃった。(王子はかろうじてこらえる)
ヨンチョ: おまえが言うから……。
赤ずきん: ヨンチョのおじさんが聞くから……
王子: シッ! 来るぞ……。
赤ずきん: ほんとだ……。
ヨンチョ: え、どこに……?
王子: 来た!
ヨンチョ: え?……ワッ!

 ドラゴンの降下音。一瞬目玉を思わせる光が走る、王子と赤ずきんは左右の藪に、素早く身を隠す。
 ヨンチョだけボンヤリ立っていてふっとばされる。脱げ落ちたヘルメットを拾いつつ……。


ヨンチョ: すまん、あのミミクソまだあるか?
赤ずきん: 今度は吐いちゃだめだよ……。
ヨンチョ: ありがとう(あわてて飲む)
王子: 今のはほんの小手調べ、上空を旋回しながら様子を見ている……。
ヨンチョ: 今度は儂にもわかる……。
赤ずきん: 王子さま。
王子 :心配しなくても、貴重な弾を無駄に使ったりはしない。
 降りてきたところを二三度ぶちのめしてから、とどめに……。
赤ずきん: 違うの。王子さまには、もう一つ薬を飲んでもらいたいんです。
王子: 今度は何のクソだ?
赤ずきん: 違いますよ。お婆ちゃんからもらってきた幸福の薬、敵の打撃を弱める力があります。はい、このポーション!
王子: ヨーグルトみたいな味だなあ……。
赤ずきん: 天使たちが世界中の母親の愛情を一万人分集めて作ったエッセンスだそうです。
王子: そうか、一万人分の母性愛に守られるわけだなあ。
赤ずきん: 王子さまは、この国でただ一人の王位継承者、大事にしていただかねば。
ヨンチョ: 来るぞ!

 戦闘のBGMカットイン、飛翔音、降下音、光が走る。
 三人それぞれに剣をふるい、ドラゴンに当たるたびに金属音がする。
 二三合渡りあうと、ドラゴンは再び上空へ、藪へころがりこむ三人(戦闘を歌とダンスで表現してもいい)
 赤ずきんは頬を、ヨンチョは腕に打撃を受ける。


王子: 大丈夫か?!
赤ずきん: ホッペを少し(頬横一線に出血)
ヨンチョ: 右腕を少し、大丈夫でさあ……かえって燃えてきましたぜ!
王子: 気をつけろ、今度は奴も気がたっている……来たぞ!

 再び前に増す飛翔音、降下音、光が走る。
 激闘。ヨンチョ、赤ずきんは何度かころび、ヘルメットはとび、王子の服にも血しぶきが飛ぶ。
 前回にも増して激しい打撃の金属音。
 赤ずきんなど、藪までふき飛び、袖もちぎれ、胸から腕にかけて血しぶきをあび「大丈夫か!?」と王子の声。
 瞬間の気絶のあと、渾身の力をこめて、ドラゴンに斬りかかる(前の台詞を間奏にして、歌とダンスの処理でもよい)


赤ずきん: オリャー!

 ザクッと金属に切り込む音がして、王子が鉄砲を放つ。意外に重々しい「ドキューン」という腹に響く音。
 「キュー」っという悲鳴を残し、また上空へ逃げ去るドラゴン


赤ずきん: やった?!
ヨンチョ: ……いいや、傷は負わせたが急所は外したようだ……。
王子: そのようだなあ……二人とも大丈夫か?
ヨンチョ: まだまだ。
赤ずきん: 大丈夫よ。

 と言いながら二人とも、あちこち服は破れ、血しぶきをあび、あまり大丈夫そうではない
 (これらの傷、血しぶきは藪に忍ばせた黒子による。歌とダンスの処理なら省略)


ヨンチョ: 弾はあと二発です。
王子: わかっている。今度こそしとめてやる!(銃を、目標にあわせつつかまえる)
赤ずきん: 来る……!
ヨンチョ: 来るぞ……!
王子: わたしにまかせろ!!

 戦闘のBGM、カットアウト。
 腰を据え、今や水平からの攻撃の体制に入ったドラゴンにピタリと照準をあわせる王子。
 剣を構えながらも、動物的勘で身をよじり、王子にその瞬間を譲る二人。
 ドラゴンは王子一人を目指し渾身の力でいどみかかってくる。二発連続で発砲する王子。断末魔のドラゴンの叫び。
 この一連の運動はスローモーションでおこなわれる。
 わずかに間を置いて通常のモーションにもどると、ドラゴンの突撃してきた、ほとんど水平に近い方向から、
 大量のマンガ、マンガ雑誌、CD、ゲームソフトなどが、空中分解したミサイルの部品のようにとびこんでくる
 (CD等は実物を使うと危険なので、銀紙を貼ったボール紙などの代用品が良いと思われる。
 または、音と演技だけで表現してもいい)
 
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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・8

2019-05-25 06:21:51 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・8

 
※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください
 
 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)



赤ずきん: その手は、白雪さんのためにとっておいてあげて(舞台へもどる)
王子: わたしは何をすれば……
赤ずきん: 自分で決めて!
王子: 何をすればいいか、今言おうとしたんだ!
赤ずきん: そう……ごめん……。
王子: わたしはドラゴンを倒す! で……どうしたらいい?
赤ずきん: そうでしょ、けっきょく人に聞かなきゃ何もできない……。
王子: すまん……。
赤ずきん: やっかいな相手です、成長してステルス化したため、ほとんど姿が見えません。
 それに、ほとんど夜にしか現れませんから、戦いは困難が予想されます。
 とどめには、銀の鉄砲に銀の弾……それも正面から急所を狙うか、戦いで弱ったところをしとめるしかありません。
王子: やろう! 銀の鉄砲なら母上のものがある。弾は鉛しかないから、急いで造らせよう。
赤ずきん: 待って。並の銀の弾では効果は半分以下。製造から三十年以上たったもので、
 できたら神の祝福の籠った弾が望ましいんです。昔わたしを救けてくれた狩人のおじさんがそう言ってました。
王子: それはちょっとむつかしいぞ……。
ヨンチョ: なら、これを……兄のサンチョがお守りがわりにくれた銀の弾です。
 サンチョの御主人様が神の祝福をうけられたもので、四百年はたっていますで……。
赤ずきん: ありがとうヨンチョのおじさん。
王子: すまん、この礼はいずれ……。
ヨンチョ: いずれと言わずに今すぐに。
王子: なに? 抜け目のない奴だ、いくら欲しい?
ヨンチョ: なあに、わたしもいっしょに戦わせて下さい。これが条件でさ。
王子: こいつ、わたしに仕えて初めて気の利いた台詞を吐いたな!
赤ずきん: もともとはわたしのアイデアなんだからね!
王子: 赤ずきん!
ヨンチョ: 決まった! 
王子: 三人寄れば文殊の知恵も団体割引!
赤ずきん: 成功疑いなし!
ヨンチョ: 合点!
王子: それじゃあ、実行は今夜、月のアルテミスが、太陽のアポロンと睨みあうころに。
二人: おお!
王子: では、作戦の成功を祈って!(剣を抜く)……一眠りしておこうか、(二人ズッコケる)
 おまえたちも、夜の戦いにそなえて眠っておけ(去る)
ヨンチョ: アイアイサー
赤ずきん: ヨンチョさん、もう少し打ち合わせをしておこう、仮眠はそれから。
ヨンチョ: 合点だ、今眠らなくても、今夜が永遠の眠りの始まりになるかもしれないからな……。

 二人、王子とは反対側に退場。暗転。虫たちの集く声して、なつかし色に明るくなる。
 例の森のバス停前をめざして、主従あらわれる。バス停には「運休」と書いた紙が貼ってある。


王子: あのバス停だな、赤ずきんとの待ち合わせは?
ヨンチョ: ちょいと早く来すぎたようで……。
王子: 気の早いアルテミスが山の上で頬杖ついて、この勝負を見物しているぞ。
ヨンチョ: アポロンが西の山から片目だけ出して見物してござる。さても物見高い兄妹どもじゃ。
王子: お、あの赤いフードは?
赤ずきん: ごめん、遅くなっちゃった。
ヨンチョ: 大丈夫、まだ数分は昼の世界。しかしひやひやさせた分、何か土産があるんだろうな?
赤ずきん: するどいねヨンチョのおじさん。
王子: なんだそれは?
赤ずきん: 狼のマックスからもらってきたんだ。飲むと感覚が狼と同じくらいに鋭くなるんだよ。
ヨンチョ: なんだかハナクソのような……。
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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・7

2019-05-24 06:53:13 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・7


※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください
 
 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)



 二人身をひそめる。バサバサと音をたてて、ドラゴンが梢の高さほどのところを通り過ぎる気配がする(音と光で表現)

白雪: ……今の見えた?
赤ずきん: ううん、気配だけ。多分ドラゴン。
白雪: そう、ドラゴンよ。夕方わたしを襲った時も、半分体が透けていたけど、とうとう……。
赤ずきん: ステルスになっちまいやがった。よほど気をつけないと、不意打ちをくらってしまう。この分では狸バスも……。
白雪: どうしよう……。
赤ずきん: 仕方ない、今夜はわたしも婆ちゃんちに……。

 スマホを出そうとすると、下手よりかすかなパッシングと間の抜けたクラクション。

赤ずきん: 狸バス、あんなところに隠れていたんだ……(狸語が返ってくる)
 え、今日は特別に婆ちゃんちまで送ってくれる? 
 じゃ、白雪さんを送ってもらって、それから、ちょこっとだけ婆ちゃんと話して、それからお城まで……。
 オッケー?(狸語)え、そのかわりしばらく休業? 
 仕方ないわねえ、あんなぶっそうなドラゴンがいたんじゃねえ……。
 (白雪に)婆ちゃんに薬をもらおう、よく効くの持ってるから。じゃタヌちゃん、お願いね!(狸エンジンの始動音)

 二人、下手の狸バスに行くところで暗転、小鳥たちの朝を告げる声で明るくなる。
 花道を、王子を先頭に、ヨンチョが続き、赤ずきん遅れて駆けてくる。


王子: だから何度も言ったろう、その場で気持ちが変わったのではない。
 姫の女性としての尊厳を守るために、わたしはあえて我慢をして……。
赤ずきん: なにが尊厳を守るよ、白雪さんの気持ちはズタズタよ。
王子: それを乗り越えて自分で行動を起こさねば、一生わたし、つまり男性に従属せねばならなくなる。
 男の口づけを待って生命をとりもどすなど、女性を男の玩具とし、その尊厳を汚すものだ。
 わたしに出来ることは、男とか女とかを越えた人間としての地平から「がんばれ、めざめられよ!」と叫び続けることだ。
ヨンチョ: 王子は叫ばれた!
王子: 「がんばれ、めざめられよ!」
ヨンチョ: 「がんばれ、めざめられよ!」
赤ずきん: ……それが何やらつぶやかれるってやつね。それ、自分の考えじゃないよね。
王子: わたしのの考えだ!
ヨンチョ: 王子さまのお考えである!
赤ずきん: 影響されたわね……女王さまに? 朝の御あいさつに行ってから変だもん。
王子: ……参考にはした。しかし自分の考えではある。
ヨンチョ: 御自分の考えではある! とおおせられた。
赤ずきん: うるせえ!
ヨンチョ: おっかねえ……。
赤ずきん: 家来にバックコーラスしてもらわないと自分の考えも言えないの!? 
 女王にちょこっと言われただけでコロッと考え変わっちゃうの!?
王子: ……。
赤ずきん: わたし、昨日は自分の説得力に自信持ったけど、とんだピエロだったようね。
 さようなら、時間かかるけど別の王子さま探すわ。そして白雪さんの怪我はわたしが治して見せる!
王子: 待て! 姫は怪我をしているのか……!?
赤ずきん: ええ、森のドラゴンが成長し、夜と昼のわずかな境にも居座るようになり、
 ガラスの棺からよみがえろうとして、まだ低血圧のところを襲われた。心配はいらない、全治一ヶ月程度の怪我よ。
 それにこれからは、わたしたちグリムの仲間で白雪さんを守るから……じゃ、さよなら!
王子: 待て、待て、行くな……行くなと申しておるのだぞ!(ヨンチョに)赤ずきんをつかまえろ!
ヨンチョ: アイアイ(サー……と動きかける)
赤ずきん: (花道の途中で立ち止まり)バカヤロー! そんなことも家来に言わなきゃできないのかよ!
王子: ……すまん、わたしの悪い癖だ……頼む、もう一度もどってきてはくれないか?

 階段(花道のかかり)まで進み、手をさしのべる 
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高校ライトノベル・連載戯曲・ステルスドラゴンとグリムの森・6

2019-05-23 06:34:06 | 戯曲
連載戯曲
ステルスドラゴンとグリムの森・6


※ 無料上演の場合上演料は頂きません。最終回に連絡先を記しますので、上演許可はとるようにしてください
 
 
 
 時   ある日ある時
 所   グリムの森とお城
 人物  赤ずきん
 白雪姫
 王子(アニマ・モラトリアム・フォン・ゲッチンゲン)
 家来(ヨンチョ・パンサ)



 暗転、フクロウの声などして、夜の森のバス停が浮かび上がる。花道を、スマホで喋りながら赤ずきんがやってくる。

赤ずきん: ごめん、今日はそういうわけで遅くなる、行けないかもしれない。
 どうしてもつきとめておきたいの、だから婆ちゃんごめんね(切る) 
 何よ、てっきり白雪さんを連れてもどってくると思ったのに、もどってきたのは、いつもどおり王子一匹! 
 白雪さんはどうしたの? あの眉間によせたシワはなんなのよ!? 
 聞いてもちっとも教えてくんないし、ヨンチョのおっさんもあてになんないし……白雪さーん……白雪さーん……と、
 ここにも姿が見えない。
 棺は空だったし、きっと森の中にいるはず、小人さんたちのところにいるはずもないし心配だなあ……白雪さーん!

 花道に、腕をつり、杖をつきながら、傷だらけの白雪があらわれる

白雪: 赤ずきんちゃーん……。
赤ずきん: あ、白雪さん……どうしたのその怪我!?(白雪をたすけ、舞台へもどる)何があったの、誰に何をされたの!?
白雪: (泣くばかり)
赤ずきん: 泣いてちゃわからないよ。とにかく大丈夫だからね、わたしがついているから。
 スマホもあるし、いざとなったらお婆ちゃんもオオカミさんもいるからね。ね、どうしたの?
白雪: あの、あのね、ドラゴンがあらわれてね……。
 まだ夕陽が沈みきっていないのにあらわれて、ようやく動けるようになり始めたわたしを襲ったの。
 今日は側にあった棒きれで追い払ったけれど……明日は殺されてしまうわ……(泣く)
赤ずきん: 大丈夫、わたしがついているから、ドラゴンだろうが何だろうが、指一本触れさせやしないんだから……。
白雪: ありがとう……今はあなただけが頼り……小人さんたちにもあんな姿は見せられない。
 心配して、怒ってドラゴンに立ち向かうでしょうけど、とても小人さんたちの手に負えるしろものじゃない。
 逆に返り討ちにあって全滅させられてしまうわ。
赤ずきん: 大丈夫、今夜はおばあちゃんの家に匿ってもらうわ……今朝、お城に忍び込んで、王子さまと話をしたのよ。
白雪: え、お城まで行ってくれたの?
赤ずきん: 言ったじゃない、まかしといてって。水泳とロッククライミングは、白雪さんだけの専売特許じゃないのよ。
白雪: 赤ずきんちゃんもやるんだ……。
赤ずきん: あたりまえよ、友だちじゃないか! 王子さまは真面目な人だったよ。ただ真面目すぎて……。
白雪: 真面目すぎて……?
赤ずきん: 口づけをして救けてあげることはやさしいけども、その後、白雪さんを幸福にできないって。
白雪: どういうこと、他に好きな人でも……。
赤ずきん: そんなのいないよ。あの人も白雪さんのことが大好きだって!
白雪: だったら
赤ずきん: 王子さまは、去年お兄さんを亡くしたの。
 それで王位第一承継者の皇太子になってしまって、今そのための勉強と訓練が大変なんだって……。
白雪: それはわかるわ、わたしも違う王家とはいえ王族の一人。
 皇太子とそれ以下の並の王子とは、その自由さが天と地ほどに違う……。
 だけど、それを考えても、この仕打ちと言ってもいいおふるまいは理解できない。
 たとえ王子さまがどんなにお忙しく、お辛くても、それを分かち合ってこその夫婦……。
 いえ、まだ口づけも誓言も交わしあっていないから夫婦とは言えないけども。
 将来を許しあった恋人としては当然の覚悟、そうでしょ。
赤ずきん: そうだよ、それを、朝の一番鶏が時を告げる前からお城に忍び込み,
 宿直の二人を薬で眠らせて、王子さまが目覚めると同時に説得したわ。
 病めるときも貧しきときにも互いに助けあい、王子さまが帝王学を学ばれ、懸命の努力をなさっている間、
 きっと喜んで我慢も努力もされるはず。
 たとえ何日も顔を会わせなくても、たとえ夜遅く帰ってベットにバタンキューでも、
 きっと白雪さんは耐えて王子さまを支えてくれるはず。
 そう懸命にお伝えしたら、そこは賢明な王子さま、女王さまに朝の御あいさつに行かれるころには、
 ジュピターのように雄々しく……とまではいかないけども……ちゃんと白雪さん救出を神聖な使命とお考えになるようになったわ。
 わたしを近習の一人として森の入口まで、他の御家来習といっしょの供をするようにお命じになったくらいよ。
白雪: 信じられないわ……今朝の王子さまは、いつにも増して、険しい御表情でひざまづいて、
 わたしの顔をいとおしそうにご覧になって、何やらつぶやかれるばかり。
 棺の蓋を開けようともなさらずに立ち去ってしまわれた。
 ごめんなさい……一瞬ではあるけれども、あなたの約束を疑りもした。
 でも、やはり一日や二日の説得ではあの方の心を動かすことはできないのだと、あきらめ……。
 いえ、気長に待つことにしたの……でも、あのドラゴンののさばりよう……気長に待つうちに、
 日干しのミイラになる前に骨にされてしまいそう……。
赤ずきん: しっ! 伏せて、何か邪悪なものが……
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