goo blog サービス終了のお知らせ 

大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・3』

2019-07-21 06:09:04 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・3

大橋むつお

 

 

時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん  マッチ売りの少女  かぐや姫

 

赤ずきん: 家がない!?
マッチ: うん、住所もあってるし、そこにちゃんと一軒分の土地もあるんだけど……家がないの……ひょっとして、家ごと散歩してたのかな……?
赤ずきん: そういうこともあるかな……って、んなわけないだろ!
マッチ: だって、そうなんだもん。金八郎先生スマホのナビでなんども確認してたもん。ほんとだって。
赤ずきん: ドロシーんちみたいに風にとばされたってのはあるけどよ。
マッチ: ほんとだって。ほら、これがそんときの写メ。
赤ずきん: え……あ、ほんと!?
マッチ: こんなのもあるよ。
赤ずきん: あははは、金八郎のびてやんの。
マッチ: 必死にさがしてるうちにパニくっちゃって、電柱に頭ぶっつけたの。介抱すんのたいへんだったんだから。どう、信じてくれた?
赤ずきん: まあ、家がないってのはな。ファンタジーの世界はなにおこるかわかんねえからな。
マッチ: さすが赤ちゃん。のみこみが早い!
赤ずきん: 金八郎ほど頭かたくねえからな。
マッチ: 金八郎先生は人間なのに、どうしてこの世界にいるんだろう?
赤ずきん: ま、そういうこともあるよ。逆の場合もあるしね、鬼太郎の場合とか……
マッチ: あ、鬼太郎さんのチャンチャンコってかっこいいよね!
赤ずきん: どこがよ。あの遮断機のダンダラもようみたいなのが!?
マッチ: だって……
赤ずきん: だいたい、おまえの趣味はな……
マッチ: あんたじゃないよ、マッチだよ。赤ちゃんが決めたとこじゃないよ。
赤ずきん: ガルル~!
マッチ: あ、オオカミさんだ!
赤ずきん: いちいちひとのあげ足とんな!
マッチ: ごめん。 
赤ずきん: マッチとあたしは似たキャラだけど、どうしてこうもちがうんだろうね。持ってるバスケットだって、あたしのは四角くて実用的だけど、マッチのは丸っこくて使いにくそうじゃん。 
マッチ: だってこのほうがかわゆいもん。
赤ずきん: あ、それってあたしがかわいくないってことか?
マッチ: そういう意味じゃないよ。
赤ずきん: じゃ、どういう意味だ?
マッチ: それは……
赤ずきん: だいたいな、マッチすりまくって凍え死ぬってのが、お涙ちょうだいのナルシスチックで、やなんだよな。
マッチ: しかたないよ、アンデルセン先生がそう書いてるんだから。
赤ずきん: 先生のせいにするかあ? なんだか今どきの高校生みたいだぞ。
マッチ: あ、今日はちゃんと家があるよ(^_^;)!
赤ずきん: うまいタイミングで見つけるもんだなあ。
マッチ: もう~!
赤ずきん: こんどは牛かよ。家がお散歩してたってのは、ほんとみたいだな。
マッチ: でしょ。
赤ずきん: さ~て、本人がいるかどうか……(ドアベルを鳴らす)ほらな、留守みたい。
マッチ: ごめん、無駄足だったかな……

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・2』

2019-07-20 05:43:28 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)

大橋むつお

 

 

時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

赤ずきん: で、そのかぐやさんになんの用?
マッチ: ようす見にいこうかな……とか思ってえ。
赤ずきん: ……ようすか。
マッチ: わたしも、どっちかっていうと、不登校になりやすい方でしょ。だから人ごとと思えなくて……
赤ずきん: ……一人では行く勇気がない?
マッチ: うん。ついてきてくれないかなあ……赤ずきんちゃんだったら、オオカミさんのいる森でも平気で行けちゃったりするでしょ。メルヘン界一番のかくれマッチョだもん。
赤ずきん: わたしは和田アキ子か!?
マッチ: ……で、ついてきてくれないかな? 手作りケーキとかも持ってきたんだ。
赤ずきん: あたしは食わないぞ。
マッチ: ええ!? 赤ずきんちゃんにも食べてもらおうと思って、赤いイチゴクリームいっぱい使ってつくったのに……
赤ずきん: 泣くな! ちょっとだけなら食ってやるからさ。
マッチ: ありがとう、やっぱり赤ずきんちゃんだ。根は優しいんだよね。やっぱり赤ずきんちゃんにお願いしてよかった。赤ずきんちゃんだったら、きっときいてくれると思っていたんだ。わたし昔から赤ずきんちゃんのこと大好きだったから。
赤ずきん: あのな、とってもうれしいんだよ。頼りにしてくれて。そいで、不登校のかぐや姫に気を配ってくれるのも嬉しいよ。クラスで、かぐやのこと気にかけてんの、マッチ売りの少女、おまえだけだもんな。
マッチ: ありがとう、赤ずきんちゃん……
赤ずきん: その「赤ずきんちゃん」てのなんとかならないか。
マッチ: え……?
赤ずきん: おまえのアクセントだと、赤どきんちゃんて聞こえるんだよ。あたし、アンパンマンのキャラクターじゃないんだからな。
マッチ: ……わたし、地方の出身だから、まだアクセントおかしいのね……
赤ずきん: 傷つくなよ、こんなことで。それにさ、少し長いんだよ、微妙に「赤ずきんちゃん」てのは。もっと気安く、フランクにさ……
マッチ: じゃ……赤ちゃん。
赤ずきん: ズコ……!
マッチ: だめ?
赤ずきん: ま、いいか、赤どきんちゃんより……
マッチ: あの……わたしの呼び方も……「おまえ」って呼ばれると、ちょっと言葉がきついの……
赤ずきん: かもな、いちいち「マッチ売りの少女」ってのも長いしな……じゃ、マッチだ。どうだ、かっこいいだろ?
マッチ: マッチ……うん。気にいっちゃった。さすが生徒会長!
赤ずきん: じゃ、そろそろ行くぞ。
マッチ: うん。あ、こっち。こっちだよ……
赤ずきん: たしか月ヶ丘の方だよな。
マッチ: うん、こっちの路地から行くんだ。
赤ずきん: 行ったことあんの?
マッチ: おう、担任の先生と。
赤ずきん: 金八郎と?
マッチ: うん、家の前まで行ったんだけど……
赤ずきん: 閉じこもって出てこなかった……とか。
マッチ: うん……二回行ったけど、二回とも留守だった。
赤ずきん: そっか、留守じゃしょうがないわね。
マッチ: ……っていうか、家がなかった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・1』

2019-07-19 06:08:01 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)

大橋むつお

※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します


時   ある日ある時
所   あるところ
人物……女3  

    赤ずきん
    マッチ売りの少女
    かぐや姫

 

                                                                  
ジーコ……ジーコ……とネジを巻く音がして、オルゴールのメロディーが拡がる。曲目は「月の沙漠」 幕が開く。舞台には何もない。赤ずきんが手に四角いバスケットを持ち、ニコニコとオルゴールの音色に合わせてクルクルとまわっている。オルゴールのネジがゆるんで、ややななめの角度(少し後ろ向き)でとまる。キッと顔だけ正面に向ける……その顔は、もう笑ってはいない。

赤ずきん: ……遅い!

上手から、マッチ売りの少女、マッチとケーキの入った丸っこいバスケットを手に駆けてくる。

マッチ: ごめん、ちょっと遅くなっちゃった。ごめん、ごめんね。
赤ずきん: 何してたんだ。あたし、ばあちゃんの世話でいそがしいんだからね。だいいち時間指定したのはそっちの方だろが!
マッチ: ごめんね。バイト遅くなっちゃって、相方の子が急に辞めちゃったもんだから、ちょっと大変だったの。
赤ずきん: まだマッチ売りのバイトやってんのか?
マッチ: ……うん……ごめん。
赤ずきん: なにかほかにあるだろ。もっと手軽で時給のいいやつ。
マッチ: そんな……
赤ずきん: オッサン相手にあやしげなことをしろって言わないけどさ。マックとかケンタとファミマとか普通のがあるだろが。 
マッチ: わたし、これしか能がないから……ごめんね。
赤ずきん: ……それって、あんたのトレードマークでもあるんだろうけど……
マッチ: ごめん……
赤ずきん: 何度もごめんていうのはよしな、もう十回くらい言ってるぞ。
マッチ: うそ……七回だよ。
赤ずきん: おまえのそーいうところって、しめ殺したくなる!
マッチ: ごめん……
赤ずきん: で……なんなんだ、用は?
マッチ: あの……先月転校してきた……
赤ずきん: え?
マッチ: あんまし学校に来ない子。
赤ずきん: あ、ああ、かぐや姫!
マッチ: すごい、名前憶えてんだ!
赤ずきん: あたりまえだろ。
マッチ: わたしなんか、思い出すのに商店街一周しちゃったよ。
赤ずきん: なに、それ?
マッチ: ほんやさん、そばやさん、やおやさん、さかなやさん、くぎやさん、かぎやさん、……かぐやさん。
赤ずきん: しめ殺したろか!
マッチ: ご、ごめん!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・13』

2019-07-18 06:16:33 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石・13

ゼロからの出発

大橋むつお

 

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

少女、先ほどとも違う場所からあらわれる。姿はそのまま。

少女: ほらね。
パリー: ほんと……  
少女: あせりは禁物、ゆっくり、じっくりやっていけばいいわ。
パリー: ……先生、自然ですね。とても、さっきまでのコギャルとか、こないだまでのイマイチのオヤジ先生に見えません。
少女: 二百年前までは魔女だった。
パリー: え?
少女: 男性優位の時代だったから、男に鞍替えして魔法使い。そして百年もすると賢者の石井とよばれて、いい気になって……
パリー: 本物の女だったんですね!
少女: その前は男、ひげもぐら風の魔導師。アーサー王のもとで働いていた。あのひげもぐらは、その時のわたしの劣化コピー。本人は忘れちゃってるでしょうけどね。
パリー: ひげもぐら風だったんですか……(;゚Д゚)
少女: そんなバイ菌見るような目で見ないでくれる。もっと凛凛しくてキリっとしていたし。
パリー: やっぱり男だったんですね。
少女: さあ……男だったり女だったり、子供だったり年寄りだったり……年古びた魔女や魔法使いは、たいてい性別も年令もない。というよりは忘れてしまうのね、魔法の恐ろしいところ……わたしがおぼえている一番古い自分の姿は……なんだと思う?
パリー: さあ……
少女: 十五六才の少女だった。何か懸命に魔法をおぼえ、何かとんでもない敵を倒そうとしていた……そしてその前は……もう思い出せない。その少女の姿が最初だったのかもしれない。ひょっとしたら狐とか狸とか、人間以外のものだったのかもしれない……  
パリー: まさか……  
少女: パリー、だから今を大事に生きなきゃいけないのよ。何百年か先に、自分がパリー・ホッタであったことをおぼえているために。わたしが、いまゼロであることの、もともとの理由は、このへんにあると思うの。
パリー: ……
少女: わたしが、少女だったころに会えたらよかったね。
パリー: 先生……
少女: さあ、そろそろ行くわ。あなたは学校にもどりなさい。魔力がもどりかけてるから退学にはならないわ。
パリー: はい……先生!
少女: なに?
パリー: 「三べんまわって、わん!」には反対します。
少女: なぜ?
パリー: その……
少女: その……?
パリー: その……人も自分も、学校も粗末にしているように思えるから……じゃないでしょうか?
少女: そうか、百分の一ほどはわかってきたかもしれないわね。
パリー: 百分の一ですか……
少女: 今はそれで十分。あとの九十九は……
パリー: 自分でやります。自分でつかんで見せます!
少女: その意気込みよ、残りは九十七。
パリー: 九十七? 残りの二つは?
少女: それは……その意気込みを、ずっと持ち続けること。そして、静かにわたしを見送ること。
パリー: はい!
少女: 日が傾いてきた。そろそろ……
パリー: 先生。
少女: ん?
パリー: 先生は、けしてゼロではありませんでした。今も、そしてきっと、これからも……
少女: ありがとう……今夜は、星がきれいに出そうね。ほら、あそこに一番星。
パリー: え、あ、ほんと。
少女: もうすぐ二番星が出る。二番星は魔法使いの願い星。待ちかまえていれば、願いが叶うっていうわよ。
パリー: どこに出るんですか?
少女: 九と四分の三番星座……(希望を思わせる曲、フェードイン)
パリー: 九……と、四分の三番星座。
少女: じゃ、行くね。(花道を歩みはじめる)
パリー: 先生!
少女: しっかり空を見ていないと。見逃しちゃうぞ、しっかり見ていないと……!
パリー: 先生……先生……!

 歩みを速め、花道をいく少女。懸命に手を振るパリー。希望を思わせる曲フェードアップするうちに幕。


 ※ この作品を上演される時は、下記までご連絡ください。 

《作者名》大橋むつお《住所》〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・12』

2019-07-17 06:11:58 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石・12
ゼロからの出発

大橋むつお

 

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

 

少女: あれ……?(ドアを開けて、くぐっただけで何もかわらない)
パリー: まちがえたんじゃないですか、「こどもでもドア」と。
少女: ……いいや、これはおためし品で四回しか使えんようだ。
パリー: あう……すみません。わたしのために……あ、あの、他に道具があるかもしれません。
少女: そうだな……ええと(スペアポケットをさぐり、タケノコプターを出す)
パリー: あ、タケノコプター! それ、使えますよ。どこもでもドアより時間はかかるけど。
少女: これは、首に全体重がかかって、見かけほど楽じゃないんだよ。それに、ファグワーツまではとてもバッテリーが持たんだろう。
パリー: かしてください。(自分でポケットをまさぐる)代役コンニャク、ヒラリスカート、ジャイアンツトンネル、金太郎印のきびだんご、タイムレジ袋……
少女: もういいよ。君のせいじゃない。
パリー: すみません……
少女: さあて、魔法と行き場所のない魔法使いは何をすべきか……そうだ、今朝の新聞……あった、これだ!……ふむふむ、よし、条件はピッタリだ……このなりをのぞいてな……(下手袖に入り込む)
パリー: どうしたんですか?
少女: 着替えと化粧なおしだよ。
パリー: どこか行くんですか?
少女: 駅前の書店だよ、アルバイトを募集している。
パリー: え、先生、アルバイトするんですか!?
少女: 働かざるもの、食うべからず。人間のアイデンティティーは働くことだ。
パリー: 働くって、先生、人間の女の子として生きていく気ですか?
少女: そうだ、仕方あるまい。
パリー: 先生が女の子に……(#´0`#)
少女: 君が照れてどうする!
パリー: はい……手伝いましょうか。女の子の着がえとか、慣れてないでしょう?
少女: バカモン! 姿かたちはコギャルでも中味はオヤジだ。若い女が、オヤジの着がえを見てどうする!
パリー: じゃなくて、手伝いを……魔法がつかえたら、先生のイメチェンの着かえなんてチョイのチョイって……(杖を軽くふる)。先生、アルバイトは、本屋さんとか、スーパーのレジとかぐらいにしておいてくださいね。ファミレスとかファストフードは誘惑が多いっていいますからね。あ、それから、言葉使いも、そのオヤジ風じゃなくて、おだやかに。それから、先生って、オヤジっていうオーラが溢れ出てますから一時間に一度は鏡を見てくださいね。オヤジっぽいコギャルならそれでいいかもしれませんけど。書店は気品第一、茶髪とかピアスもなし。お風呂は毎日入って、バイトの日はちゃんと朝シャンやって……ねえ、聞いてます!?
少女: ちゃんと聞いて……あら?
パリー: あれ?

少女、入った袖とは、まるで違うところからあらわれる(たとえば上手袖)それまでとは全然違った清楚な制服姿。

少女: パリー、なにかやった?
パリー: いえ……あ、ちょっと杖をふった、イメチェンの着替えぐらいチョイチョイって……
少女: 少し魔法がもどってきたみたいだね。こんなところから出てきた。テレポテーションだ!
パリー: ……いいえ、完全にもどって……だって、先生、こんなに清楚できれい!
少女: 馬鹿、これはわしの……いえ、これはわたしの今の普通の姿よ。メイクおとして、ちゃんと服を着ただけ。
パリー: だって……
少女: じゃ、もう一度、そっちへ入るから、もう一度魔法かけてくれる?
パリー: はい、先生をもとの先生の姿にもどしてあげます!(少女下手袖へ)いっきますよ……先生を先生の、もとのあるべき姿にもどせ……!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・11』

2019-07-16 06:02:35 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石・11
ゼロからの出発

大橋むつお

 

 

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

 

間、遠く暴走族の爆音。

パリー: ……わたし、ゼロなんですね。
少女: ハハハ……
パリー: 笑わないでください……
少女: とんでもない勘違いだ。ゼロなのはこのわしだよ。
パリー: 先生……?
少女: 自信を持ちたまえ、パリー。君は100だよ。その証拠にこれだけ喋ったり行動を共にしても君の魔力は少しも回復してはおらん。わしの方がゼロだからだよ。
パリー: そんなことありません。こんなに不安で自信のない者が100であるわけがありません。
少女: 100であるからこその不安と自信のなさなんだよ。だって、もとがゼロなら、不安もゼロ。自信の失いようもないだろう。
パリー: いいえ、それはちがいます。
少女: 君も頑固だな。そうだ、これを持つといい(一本の杖を差し出す)
パリー: これは?
少女: 国宝の杖だよ。ひげもぐらが取り込んでいたんだ。あのどさくさでうっかり持ってきてしまった。そいつを振ってごらん。君がつまらん魔法使いなら、そいつは大暴れする。家の二三軒もふっとぶかもしれない。そして、君が本物ならば……本物で、ただのスランプならば。何事もなく大人しくしているだろう。それほどプライドが高く、力のある杖だ。さあ、やってごらん……
パリー: はい……  

パリーは、呪文を唱えおそるおそる杖を振る。何事もおこらない。もう一度、しっかり振る。やはり何もおこらない。

少女: ほらね。杖も君を100だと認めている。その杖は君が持っているがいい。
パリー: でも……
少女: 杖も君を選んだんだ、たとえ君に魔力がもどらなくても、そいつは文句を言わん。相性がいいんだ。大事にしてやりたまえ。
パリー: はい……(彼方で汽車の走る音がする)先生、ファグワーツ行きの最終が……
少女: こりゃ、ドラ屋経由どこもでもドアの直行便だな。ゼロの気楽さ、イージーに行こうか。パリー、君にはこれから100の苦悩が待っている。そして100の成長が。けして、こういうイージーな道をえらぶんじゃないぞ。人と人とは掛け算だが、人一人に関しては足し算だ。一つ一つ確実に積み重ねること。基本中の基本だ。そうでないと……(暴走族の爆音)ああいう馬鹿になるか、ひげもぐらのようなイカレた魔法使いに……

爆発音。フォグワーツ行きの列車が行ったあたりから。

パリー: 先生、フォグワーツ行きの列車が……
少女: ひげもぐらのしわざだな……
パリー: でも魔法使いなら、あの程度の爆発で死ぬことはないでしょう。
少女: 今のわしは生身の人間と同じだよ。
パリー: あ、そうでしたね……
少女: くれぐれも、イカレた魔法使いにはならんようにな。
パリー: わたしには、これがついています(杖を示す)
少女: いい子だ。じゃ、そろそろ行くよ(「どこもでもドア」にむかう)ドラ屋経由、ファグワーツ正面玄関へ!
パリー: い、行ってらっしゃい!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・10』

2019-07-15 06:10:47 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石

10『ひげもぐらのパソコン』

大橋むつお

 

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

 

暗転、明るくなって、ひげもぐらの校長室。どこもでもドアが開いて二人が入ってくる。上手に校長用の机、その上にパソコンが見える。

少女: 奴はおらんようだな……
パリー: 今日は、あれから出張に出ているみたいです。
少女: この時期に?
パリー: 明かりはつけないでください、外に漏れます。
少女: そうじゃったな。しかし、ここはまるでもぐらの穴だ。この暗さで操作できるか?
パリー: なんとかやってみます。
少女: 暗くてよくわからんが、いろいろ貯め込んでおるな。博物館の金庫室のように魔法はかかっておらんようだが、このコレクションは、心の中が貧弱な証拠だ……スフィンクスの鼻……お岩さんの足……狼男の毛皮……ん、これは?
パリー: 先生、立ちあがりました。ほら、このデータです。
少女: 魔力減退の処方……パリー・ホッタの場合、魔力回復の必要条件は、賢者の石……
パリー: ここで、ひげもぐらがやってきたんです……では、次のページにいきます……
少女: ……井の指導であり、その指導は……これは……?
パリー: え……魔力回復の必要条件は、賢者の石、井の指導……賢者の石井の指導? これは石ではなくて、石井という人の名前なんですかね……
少女: そのようだな……
パリー: どなたでしょう、この石井という賢者は……

間、ディスプレーの画面を見つめる二人。と、突然アラームが鳴りはじめる。

少女: 時間をかけすぎた。アラームだ! すぐにもどるぞ!
パリー: はい!

アラーム、けたたましく鳴る内に暗転。明るくなると、最初のロックウェルの家の前の路上。どこもでもドアを背に、へたりこむ二人。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・9』

2019-07-14 06:33:16 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石・9
ゼロからの出発

大橋むつお

 

 

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

 

少女: どうだ……?
パリー: ……すみません。やっぱり……
少女: あきらめるな! もう一度やってみよう。今度はアッコ風にやってみなさい。
パリー: 和田アキコ? えと……オリャアアアア!!
少女: バカ、ここでスゴミをきかせてどうする。秘密のアッコちゃんにきまってるだろ! 一年の一学期に習っただろうが。
パリー: はい、いきます! テクマクマヤコン、テクマクマヤコン……
少女: バカ、それは化ける時だろ。元にもどる時の呪文だ!
パリー: は、はい。ええと……ラミパス、ラミパス、ルルルルル……
少女: 元のロックウェルにも~どれ……!

   間

少女: どうだ……?
パリー: やっぱり駄目です……(しおれる)
少女: 駄目かぁ……(落ち込む)
パリー: 落ち込まないでくださいよ、先生。
少女: まちがうな。オホン、こうなっちゃいかんという見本を示したんだ。これで永久に魔法が使えないときまったわけじゃない。
パリー: ……
少女: 魔法とは、とても精神的な技術だ。超一流の芸術と言ってもいいだろう。もし、君の、君にも気づかない心のどこかで、魔法や魔法を使う自分に迷いや疑問があるとしたら、魔法は使えない。しかし、それは、超一流の芸術家によくあるスランプのようなものだ。いつか迷いが解けたら、また使えるようになるだろう。
パリー: そんな時がくるんでしょうか?
少女: くるさ……見てごらん、この賢者の石はレプリカ、よくできた複製品だ、端っこの方にメイドインジャパンと書いてある。
パリー: じゃ、本物は?
少女: たぶん、もう存在しないんだろう。しかし、迷いが解ければ、こんなものがなくても、魔力は自然にもどってくる。
パリー: 本当でしょうか?
少女: 本当だとも、しかし……
パリー: しかし?
少女: パリーの迷いが底なしならば、二度と魔力はもどってこないだろう。
パリー: ……
少女: しかし、それはそれでいいじゃないか。新しい人生を見つければいい。勉強もよし、遊びも仕事も、恋もよし。そこから始めればいい。わしなんぞ、ライセンスをたよりに魔法を切り売りしていくしかないイマイチの魔法使いだ。成功した人生に見えるかもしれんが、これは、実りのない淀んだ人生だ。もう八百……いや千年だったかな……生きていると、もうこの淀みは流れようがない。ブツブツとメタンガスのようにグチをこぼすだけさ。パリー、淀んだ安定より、不安定でもいい、前進し、流れ続けることが大事だぞ。
パリー: はい……
少女: うつむくんじゃないパリー! 胸を張り、あごをあげ、地平の彼方まで見渡すんだ、そして考えろ、見落としはないか、次の一歩をどこに降ろしたらいいかを!
パリー: ……先生。「どこもでもドア」で、もう一度わたしを校長室へ連れていってください。
少女: ひげもぐらの部屋に?
パリー: あのパソコンをもう一度見てみたいんです。賢者の石のデータ、まだピリオドのあるところまで読んでいないんです。無駄かもしれませんが、そこから始めてみたいんです。
少女: ……よし、行ってみるか!
パリー: はい!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・8』

2019-07-13 05:52:44 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石・8
ゼロからの出発 

 

大橋むつお

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

 

 先ほどとは違う電子音して暗転。明るくなると大金庫の中。

 

パリー: ……今度は本物だ、いろんな宝物が……ソロモン王の指輪…… 

少女:フェロモン王の栓抜き……

パリー: バチカン美術館のラオコーン……
少女: シリコーン、クレオパトラの鼻の……
パリー: ジョンレノンのイマジンのサイン入楽譜……
少女: なわのれんのヒマ人のサイン入サイフ……
パリー: そっち側は変なお宝ばっかりですね。
少女: じゃ、かわろう……
パリー: クイーン・エリザベスが被った王冠……全面豪華!
少女: クイーン・エリザベスが読んだ朝刊……全面広告!
パリー: 阿倍清明のお番茶……
少女: 日本生命のおばちゃん……
パリー: やっぱ、先生おかしいですよ。
少女: そうかい。お……パリー・ホッタの魔法ビン!(パリーが肩から下げたポットを指す)
パリー: え……ああ、君のお茶が飲みたいっておっしゃればいいのに(お茶をついでやる)
少女: すまんなあ。でも、なんかギャグとばさないとつまんないだろう。
パリー: あ、国宝の魔法の杖……
少女: 貸し出し中になってんな。
パリー: あ、貸し出し期限がとっくに過ぎてる。誰が借りてるんだろう。
少女: 過ぎてるって言やあ、我々も通り過ぎてしまったんじゃないかな?
パリー: え、どこを?
少女: 何をさがしにきたんだよな、ここに……?
パリー: 何をさがしに……?
少女: いかん、入口にもどろう! 早く!(パリーの手をひいて入口までもどる)……思い出したかい、さがしものは?
パリー: ……思い出した! 賢者の石です! でも、どうして忘れてしまったんでしょう?
少女: 魔法がかかっているんだよ、ここのお宝には……いろいろ気をとられているうちに、本来の目的を忘れるようにできているんだ。いいかい、今度は他のものには目をくれないように、まっすぐ前だけを見ていくんだ……いいか、走るぞ!
パリー: はい!

   二人、目を真正面に向けて駆け出す。いくつか角を曲がって、賢者の石を見つける。

少女: あった! 見つけた! 賢者の石だ!
パリー: これが……!?
少女: おっと、それに手を触れる前に念をおしておく。たとえその石に効き目がなくても、けっして落胆しないこと。駄目なら駄目で、きっと別の道がひらける。そう信じること。約束できるか?
パリー: はい……行きます!
少女: うむ……と、その前に……
パリー: ズコ(ずっこける)
少女: すまんが、もし、魔力がもどったら、真っ先にこのわしを元の姿にもどしてくれんか。このなりでファグワーツに行くのはきまりが悪い。
パリー: はい……では!(石を手にし、高くかかげる)
少女: ……どうだ?
パリー: なにか全身に力がみなぎってきたような……!
少女: 試してみるか?
パリー: 全知全能の魔王の名にかけて、再び我にその力を与えたまえ。そして、ロックウェル先生を元のお姿にもどしたまえ!!
少女: へーーーーーーーーんしん……!!

   間、二人とも目をつぶっている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・7』

2019-07-12 05:42:56 | 戯曲

パリー・ホッタと賢者の石・7
ゼロからの出発

 

大橋むつお

時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  

           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女

 

 

二人、下手の袖に入りごそごそする。やがて、ピンク色のドアを押しながらあらわれる。

少女: たぶんこれだな。
パリー: まちがいありません。ピンク色の片びらき、おなじみの「どこもでもドア」です!
少女: よし、「どこもでもドア」よ、魔王の名にかけて命ず、我ら二人を魔法博物館の……
パリー: あの……魔法じゃないんですから、これは。
少女: すまん、いつものくせが出た。
パリー: 魔法博物館地下百階の大金庫!(キンキラキーンとか電子音がする)
少女: ……賢者の石と御対面だな。
パリー: き、緊張しますね。
少女: わしも、現物にお目にかかるのは初めてだからな。
パリー: せ、先生からどうぞ。
少女: 君から先にいきたまえ。
パリー: いえ、先生から。
少女: じゃ、二人いっしょに入ろう。(二人でノブに手をかける)
パリー: 二人同時には無理なようです。
少女: では、わしから(ドアを開けて入る)……おお、これが魔法博物館地下百階の大金庫か!
パリー: せ、先生……
少女: 家の前の道路にそっくりだ!
パリー: 家の前の道路です(少女ずっこける)
少女: そんな馬鹿な……
パリー: 先生、ここにマニュアルが(ドアの枠を示す)
少女: なに……「どこもでもドアの使用説明」……
パリー: ちょっとちがいます「こどもでもドアの使用説明」
少女: 「こどもでもドア」?……「こどもにドアの開け閉めのしつけをするための練習用のドアです。完全なドアの開閉には、まず……」
パリー: まちがえたようですね……
少女: やりなおそう……

 ドアを押して再び袖へ、すぐに別のドア(開きが左右逆。つまり、さきほどのドアを裏がえしにしたもの)

少女: さあ、今度こそ本物の「どこもでもドア」だぞ。
パリー: さっきのと同じようですけど。
少女: ようく見なさい。さっきの「こどもでもドア」は右びらきだが、これは左びらきだ。
パリー: なるほど……
少女: さあ、いくぞ。魔法博物館地下百階の大金庫おおおおおおおおおお!!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・6』

2019-07-11 07:01:01 | 戯曲
パリー・ホッタと賢者の石・6
ゼロからの出発
 
 
大橋むつお
時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  
           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女
 
 
 空から宅配便が降ってくる。
 
少女: あ、青色耳なしネコからだ!
パリー: 青色耳なしネコ!?
少女: ああ、もつべきものは友だちだ。
パリー: 先生、それってドラ……のことですか!?
少女: 名前は言えんが、ドラやきがとりもつ縁でな……やったア! 異次元ポケットのスペアだ! (彼方にむかって)ありがとうドラ……いや、青色耳なしネコく―ん!
パリー: あ、手紙がついてます。
少女: なになに……(友人の声で)「こんにちは、ぼく青色耳なしネコです。けして青ダヌキではありません。御依頼のあった道具、いちいち荷づくりしては大変なので、スペアのポケットごと送ります。フォグワーツまでは魔法が使えないのですから、ひげもぐら校長のいやがらせや妨害があるかもしれません。お役にたてればさいわいです。なお、ポケットの中の道具は種類は多いですが、その分おためし品や体験版がほとんどです。使用回数や機能に制限がありますので御注意ください。おちついたら、またいっしょにドラ焼を食べにいきましょう。ウフフフ、二〇××年、イマイッチ・ロックウェル先生へ、青色耳なしネコ。」
パリー: すごい、ドラ……いえ、青色耳なしネコって字が書けるんですね。でもあの丸い手でどうやってペンを持つんだろう?
少女: そりゃあ、二十二世紀のロボットだからね。
パリー: ひげもぐらの妨害ってありそうなんですか?
少女: わしは、妨害されるほど値打ちのある魔法使いじゃないがね。それでも妨害はしてくるだろう、奴は反対されるだけで、相手の存在が許せなくなる心のせまい男だ。
パリー: ひげもぐらの何に反対されていたんですか?
少女: すべて! しかし、わしも自他共に認める事なかれ主義のイマイチ先生じゃ、九十九パーセントは我慢した、ニッコリと微笑さえうかべてな。しかし、最後の一つだけは許せん!
パリー: あ、勤務評定の実施!
少女: うんにゃ。
パリー: 魔法の国の歌と旗の強制!
少女: うんにゃ。
パリー: 食堂のカレーライスの十円値上げ!
少女: あれは二十円あげろと言うとる。ただし肉を二十グラム増量したうえだがな。
パリー: それじゃあ……
少女: わからんか?わしが奴の何に反対しておるか?
パリー: ……はい。
少女: 「三べんまわってワン!」じゃ
パリー: え……?
少女: この春から奴が実施しようとしとる、新しい挨拶のスタイル「三べんまわってワン!」じゃ。
パリー: ああ、ピロティーの掲示板に大きなポスターが貼ってある、あれですか?「スリーターン・エンド・ワンバウワウ」 あれ、評判ですよ。
少女: なんだと?
パリー: だって、かわいいでしょ。しゃっちょこばった起立・礼よりソフトだし、土下座しろってわけでもなし。頭下げたり、腰まげたりしないところがいいってみんな言ってますよ。両手を胸のところへもってきて、ぐるぐる回って……ワン! 自治会じゃ、この「ワン」というところで首を傾げるって修正案を考えてるみたいなんですが、右に傾げるか左に傾げるかで対立が続いているそうです。
少女: あのなあ……
パリー: ワン!……やっぱ右かなあ、ね、先生はどっちがかわいいと……あ、先生は反対なんですね。
少女: かわいいだけでものごとをかたづけちゃいかん。ものごとの本質を見なさい、「三べん回ってワン!」が、どれだけいいかげんで人を馬鹿にしたものか。我々はけして犬ではないんだぞ!
パリー: ……それって、犬を差別していませんか?
少女: なに?
パリー: 有史以来、犬は人間にとって最上のパートナーです。そのパートナーの挨拶をとりいれることを否定するのは、人として傲慢ではありませんか?
少女: じゃ、なにか、「お手」とか「おあずけ」とかやるのかい? 「ハウス!」と指をさされたらしっぽをまいて家に帰るのかい? これはな、犬にえさを「やる」と言うのを、えさを「あげる」という、ささやかな文法上の間違いを許したことに遠因があると思うぞ。
パリー: それは……
少女: 君は多少もののわかる子のようだから……こう言おう、「三べんまわってワン!」をやることで、ゆるみはじめた学校がひきしまると思うのかい? 君がなぜ魔法がつかえなくなったのかその理由がわかるのか? そしてパリー、君の失った魔力がもどってくると言うのか?
パリー: はい……(落ち込む)
少女: すまん、イマイチともあろう者が、ムキになりすぎたようだな……そうだ、いい考えがうかんだ! このポケットの道具で魔法博物館にいこう。「どこもでもドア」を使えばあっという間だ(スペアポケットに手をいれる)おっと、ここでは人目につく、家の裏側へいこう。
パリー: は、はい!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・5』

2019-07-10 06:27:48 | 戯曲
パリー・ホッタと賢者の石
ゼロからの出発
 
 
 
大橋むつお
時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  
           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女
 
 
パリー: 教えてください。わたしにはどうしても、あれが、賢者の石が必要なんです!
少女: どういうことかな?
パリー: 調べたんです、図書室の本を全部ひっくりかえして。どうやったら失われた魔力がもどってくるのか!? 最後はステルスマントをかぶって閲覧禁止の本まで調べました。
少女: その閲覧禁止の本に賢者の石とでも書いてあったのかい。それなら駄目だ、みんな賢者の石がくだかれる前に書かれた本だ。
パリー: ちがうんです。二〇××年度版の魔法大全に、こう書いてあったんです。「校内に置ける魔力の管理は校長が行い、その情報は、魔法政府のコンピューターに集約され、その端末は校長室のみに設置されるものとする」
少女: 校長の権限は強くなる一方だからなあ。
パリー: それって悪いことですか?
少女: 必ずしもそうとは言えんが、ひげもぐらが校長でいるかぎり最悪だろうな。
パリー: わたし、ひげもぐらの部屋に忍びこんだんです。
少女: え、校長室に?
パリー: そして、端末のパソコンを開いてみたんです……
少女: やったぁ……
パリー: 「失われた魔力をとりもどすには」そう打ちこむと……パリー・ホッタの失われた魔力をとりもどすのに必要なものは賢者の石……」と、ディスプレーに……そこまで確認すると、ひげもぐらがもどってくる気配がしたので、あわててスイッチを切って先生のところへ来たんです。
少女: そうだったのか……(パリーに背をむけて立ち上がる)
パリー: やっぱり、わたしには魔力をとりもどす資格はありませんか?
少女: そうじゃない。
パリー: それとも、賢者の石は……
少女: 賢者の石はある……
パリー: やっぱり……
少女: 今はもう、ごく一部の者にしかその存在を知られてはおらん。
パリー: それほどすごい石なんですね。
少女: あれはその名の如く文化財だ、本当に効き目があるのかどうか、それを知るものはだれもおらん。
パリー: でも、ひげもぐらのパソコンにははっきりと……
少女: たとえ効き目があるとしても、今はとても手が出せん。
パリー: どこにあるんですか?
少女: 魔法博物館地下百階の大金庫の中、百の呪いと百の魔法に守られて眠っている。いつものわしの力をもってしてもたどりつけるかどうか。まして魔力を失った今のわしではとてもなあ……
パリー: だめですか?
少女: すまんな。
パリー: ……
 
  やや近く暴走族の爆音
 
少女: またバカが走りはじめた……思うんだよ。つくづく魔力の無力さを。
パリー: 魔法さえつかえれば、あんな暴走族の百や二百、いつでもカボチャにしてやります。
少女: だから無力だと言うんだ。カボチャにかえて何の解決になる。それではカボチャの数だけ、この地上から人間を抹殺したことにしかならんだろう。
パリー: え……?
少女: 奴らを人間のままでバカをやめさせなければ解決にならん……魔法ばかりやっていると、そういうところの感受性が鈍くなる。
パリー: 放っときゃいいんです、ああいうバカは!
少女: おや、またなにかやってきた……
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・4』

2019-07-09 06:27:01 | 戯曲
パリー・ホッタと賢者の石・4
ゼロからの出発
 
 
 
大橋むつお
 
時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  
           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女
 
少女: まあ、そこに掛けたまえ。これを飲むといい、百味ボーンズを溶かしたお茶だ。心配せんでも鼻くそ味とか耳くそ味じゃないはずだ(飲む)うん、初恋の味だ。
パリー: ……(飲む)
少女: どうだい?
パリー: 初恋の……でも失恋味です。
少女: こりゃ、重症だな。
パリー: はい……先生は、どうしてそんな一昔前のコギャルの姿に?
少女: 底意地の悪い校長のせいさ。
パリー: ひげもぐらの?
少女: ああ、実は、学校をおはらい箱になっちまってな。
パリー: ひげも……校長先生がクビにしたんですか?
少女: 名目は転勤だけどな、ファグワーツへ。
パリー: ファグワーツ……魔法界の名門校。大栄転じゃないですか!
少女: 本人が望んでおればな。ひげもぐらはわしに転勤を申し渡すと同時に、ライセンスをとりあげ、ファグワーツに送ってしまいおった。ファグワーツに着くまで、わしは魔法がつかえん。
パリー: で……そのお姿は?
少女: 化学(ばけがく)の時間に話が脱線してな。非模範的な人間の姿に化けて見せてやったんだ。学校や、ここの近所にも暴走族が出始めたり、援助交際のまねごとに興味を示す女生徒がいたりするからな。
パリー: 箒にオートバイの爆音をおぼえさせて喜んでる男の子もいますからね。
少女: そのとおり。そして、この姿に化けたまんまでひげもぐらに呼びだされ、転勤を申し渡されちまった。
パリー: その時、ライセンスも?
少女: 一瞬遅ければ、奴を本物のひげもぐらにしてやれたんだがな……おまえさんは、いつ魔力を失ったんだ?
パリー: えと……夏のおわりごろから魔法がかかりにくくなって、先週の薬学の時間、笑い薬の調合ができなくなってからは、さっぱり……
少女: 薬学……ジェシカ婆さんの時間だな。
パリー: その時は、隣の席のシンディー、ウォールをくすぐって……あの子、クラス一番のゲラだから、なんとかごまかせたけど、今週隣に座るのはパティー・デューク・ジュニアなんです。
少女: ああ、あの入学以来一度も笑ったことのない……
パリー: いいえ、生まれてこのかた一度も笑ったことのない……
少女: なんと……
パリー: 先生におうかがいしたいことがあるんです。
少女: わたしで間にあうことなら。
パリー: 賢者の石をご存知ですか?
少女: 魔界重要文化財に指定されてる……あれかい?
パリー: そう、あれです!
少女: たしか、ファグワーツの校長が災いを恐れて粉々にくだいたはずだが。
パリー: 本当は、まだどこかにあるんじゃないんですか!?
少女: どうして?
パリー: わたし、あれが必要なんです!
少女: ……なんだと?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・3』

2019-07-08 06:23:35 | 戯曲
パリー・ホッタと賢者の石・3
ゼロからの出発
大橋むつお
 
 ※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します 
 
時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  
           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女
 
 
 小鳥のさえずり。そよ風に吹かれる二人。
 
パリー: ……ちがったの?
少女: 苗字はロックウェル。イマイッチ・ロックウェルが正しい。そこの表札にもちゃんと書いてあるだろーが。
パリー: ……あ、ほんと……(落ち込む)
少女: だからロクなもんじゃないっていうんだ。
パリー: ……そうね。
少女: そういうデリケートで大事なものをすっとばして、派手な魔術や魔法にばかり目をうばわれる。そして、ちょっと魔力を失ったら、尻尾に火のついた猿みたいにうろたえて……今度は、塩をかけられたナメクジかい?
パリー: ……ごめんなさい(背をむける)
少女: 待てよ。そのままもどっても何の解決にもならないだろ?
パリー: だって……
少女: あたしでよけりゃ相談にのるよ。最終電車にゃ、まだ間があるから。
パリー: あなたが……?
 
この時、ふくろうが運んできた五、六通の郵便物と新聞が落ちてくる。
 
パリー: わっ!
少女: 郵便と新聞停めるのを忘れていた……ダイレクトメールばっか……何か飲み物でもとってくる。それ、そこのゴミ箱に捨てといてくれ。
   
少女、家の中へ。パリーは手渡された新聞とダイレクトメールを何気なく見る。
 
パリー: ほんと、あて名はみんな、ちゃんとロックウェルだ……新装開店、ジュンプ書店、求むパート、アルバイト……宅配ピザ半額……不動産に、車の広告……アイボにアシモ……ロボペット……先日おたずねのありました単身者用家事ロボットとロボット犬のカタログを送ります……単身、一人住まいのことだよね……?(少女が飲み物を手にもどってくる)
少女 おまちどう……あ、それロボットのカタログ……
パリー: イマ……ロックウェル先生って、一人住まい……?
少女: そうだよ。
パリー: 家族とかは?
少女: いない。完全無欠の一人暮らしさ。
パリー: ……え、じゃ、あなたは?
少女: ……まだ気がつかないのかい?
パリー: ……!?
少女: フフフフ、フハハハ……!(不敵な笑いに耐えられず、パリーが駆け出す)フリーズ!
 
氷りついたようにパリーが停まる。
 
少女: この程度の力は残っているようだな。魔法などというほどのものじゃないが……ホイ(指をひとふりすると、パリーの氷づけが解ける)
パリー: あ、あなた……?
少女: イマイチだよ。イマイッチ・ロックウェル。こんなナリはしておるがな。
パリー: せ、先生……!?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・連載戯曲『パリ-・ホッタと賢者の石・2』

2019-07-07 09:05:13 | 戯曲
パリー・ホッタと賢者の石・2
ゼロからの出発
 
大橋むつお
 
時     ある日
所     とある住宅街
登場人物……女2(パリーを男にかえても可)  
           パリー・ホッタ 魔女学校の女生徒
          とりあえずコギャル風の少女
 
 

パリー: え……!?
少女: 親父になにか用?
パリー: ……うん。
少女: あいにくだな……早くもどった方がいい、午後の授業が始まっちまう。
パリー: もう間にあわない。
少女: 箒に乗れば、あっと言う間じゃないか。
パリー: ……
少女: 二年生だったら、箒ぐらいスイスイ乗れるだろ?
パリー: ……魔法つかえないの。
少女: え……?
パリー: 急に魔法が使えなくなってしまって……だから先生に相談しようと……
少女: どうして親父に? 親父に習ってんのか?
パリー: 習ってる先生には相談できない。魔法が使えなくなったことがわかったら退学だもの。
少女: それで親父か?
パリー: 学校では誰に聞かれるかわからないから、ここしばらく学校に来ていないイマイチ先生に……
少女: それだけ?
パリー: 入学式の時、ズラッと並んだ先生の中で、イマイチ先生が一番優しそうだったし。わたし、この先生が担任だったらって思ったの……
少女: その日は宝くじの当選発表があった日。五等の一万円であれだけ喜んじまうんだ、人間的には、かなりチンケなおっさんだぞ。
パリー: そんな……
少女: 他の先生も中味は似たりよったり。あんたもいいタイミングじゃん、やめちゃえば学校なんて。
パリー: わたし……
少女: 魔法なんて、社会に出たら何の役にもたたないよ。妙なプライドだけが残って、いいことなんて一つもない。
パリー: …………
少女: 錯覚してんだよ、何十倍という入試をくぐりぬけて入った学校だから、何かとってもいいことがあって、とっても素敵で立派な魔法使いになれるんじゃないかってな。ロクなもんじゃねーよ魔法なんて。空を飛んだり、いろんなものに化けたり、呪いをかけたり。ひところは世界の半分が魔法の国になっちまったけど、二十世紀の終わりにバタバタつぶれて、今はほとんど残ってない。人間というのはやっぱり自分の手足をつかって働くようにできてんだ。魔法なんかやってると、普通にものを見たり聞いたり、考えたりってことがだんだんおっくうになってバカになっちまうんだ。あんた、名前は……パリーだったよな。
パリー: パリー。パリー・ホッタ。
少女: ハリー・ポッター!?
パリー: パリー・ホッタ。
少女: まぎらわしいなあ、パリー・ホッター。
パリー: ううん。ホッターじゃなくてホッタ。
少女: ホッタ……?
パリー: ほんとは、漢字で書くの。お城の堀に田んぼの田と書いて「堀田」 
少女: ……この国の人間じゃないな。
パリー: うん、留学生。東の国からの。
少女: でも。パリーってのは東の国にしちゃあ、めずらしいじゃん。
パリー: わたし、フランスで生まれたの。お父さん外交官だから。
少女: それで、よけい魔法にこだわるんだ。
パリー: ちがう。
少女: あんまり魔法にこだわらない方がいい。しばらく休学して、他の仕事とか趣味とかしてみるのもいいんじゃないか?
パリー: ……やるって決めたことだから。
少女: そういうのは流行らない。
パリー: 悪いけど、わたし、お父さんとお話がしたいの。イマイチ先生と。
少女: イマイチってのは失礼だぞ。
パリー: わたしはちゃんとイマイチ先生って呼んでるじゃない。
少女: イマイチという呼び方には軽蔑の響きがある。
パリー: 上級生の中には、先生を苗字で呼捨てにする人もいるけど、わたしはちゃんとイマイチ先生って……
少女: イマイチというのは名前だ、苗字じゃない。
パリー: え……?
少女: ん? ずっと苗字だと思ってたのか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする