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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・6』

2019-08-05 06:53:31 | 戯曲
となりのトコロ・6 
 
大橋むつお
 
 
時   現代
所   ある町
人物……女3  
のり子
ユキ
よしみ
 
 
 ひとしきり木々のざわめき
 
のり子: でも、ややこしいね。土地の名前が常呂で、そのトトロみたいなのがトコロで、聞いただけじゃ区別がつかない。
ユキ: 区別なんかいらない。常呂は常呂のことだし、トコロはトコロのことだし。常呂って言えばトコロを含んでるし、その反対もそうだし。つまり一方のところを言えば、もう一方ところを言ったことにもなる。ところどころわからなくても、心のところどころでところって感じれば、それで、それは十分に常呂とトコロを言ったこと、聞いたことになるよ。
のり子: なるほど……
ユキ: ところ!(叫ぶ。高まる木々のざわめき)ほらほら! 感じるでしょ。ところを感じるでしょ! 感じた?
のり子: ……うん(^_^;)
二人: ところ!……ところ……ところ……ところ……
ユキ: ほら、わたしたちの中で「ところ」がこだましてる……
のり子: 自分で言ってるような気もするけど(;^_^)
ユキ: それはトコロがわたしたちの声を使ってこだまさせているのよ……(強いざわめき)トコロは、遠い縄文の昔から、歴史をつらぬいてわたしたちに心を伝えにきた常呂の森の精霊……(へべれけに酔ったおっさんの声で、童謡「あめふり」が、かすかに聞こえる)
のり子: だれかが歌ってる……
ユキ: そう……
のり子: あたし、この歌の三番と四番が好き(歌う)あらあら、あの子ずぶ濡れだ。やなぎの根方でないている。ピチピチジャブジャブジャブ、ランランラン。母さんボクのを貸しましょか、君々この傘さしたまえ……フフ、君々だなんて、生意気そうだけど。すなおな親切でいい感じ。でもおっさんが酔って唄う歌かぁ?
ユキ: ごめんね。お父さんが唄ってるの……
のり子: え……傘が……ほんとだ、傘が、傘のお父さんが唄ってる……でも、なんだか悲しいね……傘のお父さんが傘の歌を唄ってるなんて……哀感があるよね、お父さんの声。
ユキ: お父さんの十八番(おはこ) ゆうべも脂ぎってイカの足かじって、酒臭い息をはきながら……わたしや、姉さんの邪魔にならないように静かに唄ってた。そして涙と鼻水にまみれたイカの足のこま切れをくしゃみといっしょにはき散らした時にトコロはやってきた……こんなのと、こんくらいのと、こーんなに大きなトコロが口を……心をそろえて言った……やっと見つけた……。
のり子: ひょっとして、そのトコロがお父さんを傘にしちまった……
ユキ: ちがう……そうなの、でもちがうの。話は最後まで聞いて。トコロは恩返しに来たの。
のり子: 恩返し?
ユキ: お父さんは、おじいちゃんといっしょに常呂の森を守ってきたの。
のり子: 農水省のお役人?
ユキ: おじいちゃんは、考古学の偉い先生。ずっとアイヌ文化を研究していて、常呂の森の下に古い古いアイヌ文化が残っていることに気づいたの。遠い昔はアイヌも、内地も、ロシアもなかった。広くオホーツクにひろがるのどかなところだった。人が人として、自然を神さまとして愛せた時代。国境も軍隊もなんとか主義もJALやJTBもなかった時代。じいちゃんが見つけたのは、そういう宝物。おじいちゃんは身体を張って、戦争中は軍隊から、戦後は開発から常呂を守って……おじいちゃんは、常呂を守るために、世の中の傘になって死んでいった。おじいちゃんのお葬式の、秋の昼下がり……季節はずれの小雪が白く降る中を……その時、初めてわたしは見たの……木の間隠れにトコロがいるのを。
 
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高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・5』

2019-08-04 06:39:05 | 戯曲

となりのトコロ・5 

大橋むつお

 

 

時   現代
所   ある町
人物……女3  

のり子
ユキ
よしみ

 

のり子: ハハ、「あなた」はよしてよ。「のり子」とか「トドロ」で頼むよ。
ユキ: トドロキでしょ?
のり子: ううん、トドロ。先生がね……おまえは大したマンガも描けないのに、ボーっとしてる時間が長いって。だから気の抜けた轟でトドロ。ハハ、ネーミングがうまいよね。センスもいいんだけどなあ、がめついんだよなあ。質より量……数こなしゃいいってもんじゃないよ、マンガとかアニメは……あたしのことじゃないよ、あんたのことだろう。
ユキ: あ、ごめん。じつはね……ゆうべ、あたしの家にトコロが来たの。
のり子: トコロ?
ユキ: こんなのとね、こんくらいのとね、こーんなに大きいのと。三匹とも、まーるい目をしててね、口はこーんなに大きくて体中に毛がはえてんの。
のり子: どこかで聞いたことあんな……動物?
ユキ: ううん。言葉はわからないけど、気持ちは通じるの。多分……心で話すのよ。
のり子: あ、アニメのトトロみたい。
ユキ: ちがうよ、アゴにひげが生えてるし、着物を着てるもの。
のり子: 着物?
ユキ: ゾロっとしたコートみたいなの。アイヌのおじさんが着てるみたいな……実際トコロは北海道から来るの、北海道のトコロから……
のり子: え、北海道の……?
ユキ: 常呂。
のり子: だから……
ユキ: だから、地名なの。常識の常に風呂の呂と書いてトコロと読むの。北見市常呂町。
のり子: ああ、なるほど。
ユキ: ほら、聞こえない?
のり子: え?
ユキ: 森のざわめき……
のり子: ……風?
ユキ: トコロの森よ……トコロの風……トコロのざわめき。あ、あれ? トコロ、来てるの? トコロ……それとも森の木たちが懐かしがってトコロのまねをしているの?

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高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・4』

2019-08-03 06:20:32 | 戯曲

となりのトコロ・4 

大橋むつお

 

時   現代
所   ある町
人物……女3  

のり子
ユキ
よしみ

 

 

ユキ: ユキ、北風ユキ……
のり子: そりゃまた、ずいぶん寒そうな名前だ!
ユキ: ひい婆ちゃんが雪女だったの。
のり子: アハ……
ユキ: また本気にしてない。
のり子: してるしてる。あんまり突然に、ぴったりの名前とひい婆さんだったからさ。うん、それで……?
ユキ: ほんとうに真剣に聞いてくれるの?
のり子: うん、真剣。
ユキ: (さぐるようにのり子の目を見る)じゃ、しばらく姉さんを抱っこしててちょうだい。ほんとうに真剣なら、姉さん起きないわ(姉をおしつけて、下手の端にうずくまる)
のり子: ……ん(ポケットをまさぐり、ポケティッシュを渡す)
ユキ: ……ん?
のり子: ガマンしてるとからだにわるいよ。
ユキ: ちがうわよ! 考え事してんのよ。
のり子: 考え事?
ユキ: (舞台中央まで走り、大事なほうの傘を、思いつめた顔で開こうとする)……!
のり子: 雨なら、とっくに止んだよ。
ユキ: やっぱりだめだ。やっぱり開かないんだ(泣く)
のり子: ユキ……?
ユキ: お父さんやっぱり開かない……お父さんやっぱり開かない!
のり子: (勘ちがいして、あたりを見回す)ユキ、あんたお父さんと二人連れだったの?

ユキ: お父さんは、この傘。
のり子: え?
ユキ: この傘が、お父さんなの。
のり子: ……傘が、お父さん(ユキと目が合う)信じてるよ! その傘がお父さんなんだ!
ユキ: (もう一度開こうと努力する)お父さん開いて! お願いだから、素直に開いてみせて……(傘を構えたまま泣きくずれる)
のり子: ユキ……話してくれないかな……納得はしてるんだよ。その傘がお父さんだって、うん。でも、その……話がさ、見えてないんだよね……その、姉さんがブタで、ひい婆さんが雪女で、お父さんがこうもり傘だっとかさ……そして、どうしてユキがひとり寂しくバスを待ってるいるのか?
ユキ: 姉さん、目をさましてない?
のり子: う、うん。
ユキ: 姉さんの胸に耳をあててみて。
のり子: 心臓の音が聞こえる……
ユキ: どんなふうに?
のり子: なんか変……
ユキ: どんなふうに変?
のり子: だってリズムが……トントコ、トントコ、トントコトッコトッコ。トントコトントコ、トントントントン……なんだかミュージカルにあったよね、このリズム……
ユキ: そう、コーラスラインのリズム! やっぱり、あなたは本物なんだ! 姉さんの心臓のリズムがわかるんだから!
のり子: でも、どうしてコーラスラインなの?
ユキ: ミュージカルスターに憧れていたの。憧れるだけでなんの努力もしなかったけどね……ふつうの人には、ただのブタぬいぐるみ。でも、こうやってイッチョマエに心臓は動いている。それがわかるあなたは信じることができる。信じていい人。あなた……

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高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・3・わたしは貝になりたい』

2019-08-02 07:13:24 | 戯曲

となりのトコロ・3

 

わたしは貝になりたい』 

 

大橋むつお

 

時   現代
所   ある町
人物……女3  

のり子
ユキ
よしみ

 

ユキ: ……あの人、もっと言いたいことがあったみたい……
のり子: 気が弱いんだ……あんたも隠れることないだろ。
ユキ: てへ。でも、あの人ちゃんと傘もってきたわよ。
のり子: でも雨は止んじまった。あの子の親切って、どこかタイミングずれてんのよ。
ユキ: そうかしら。
のり子: ねえ、それやっぱりぬいぐるみだよね、ブタの……
ユキ: もう生きてるようには見えない?
のり子: ……さっきはそう見えたんだけどね。
ユキ: わたしの子守歌で眠ってるんだ……
のり子: え、聞こえなかったよ。いまだってこうして、あたしと話してるし。
ユキ: 心のなかで歌ってるの。わかりやすくするとね……(口をパクパクさせるが、心で歌っているので聞こえない)
のり子: 声だしてやってくれないかなあ(^_^;)。
ユキ: 究極の子守歌って声にならないものなの。そうでしょ、子守歌って愛情の発露よ。愛情って、とことんのところ言葉では表現できないものよ。
のり子: そうかもしんないけど。その納豆が糸ひいたような口の開け方やめてくれる。
ユキ: 姉さん、納豆が大好きだった。ほかに、とろろやあんかけ、山芋、なめこも好きだった。
のり子: ネチネチ糸ひくものばっかりだな。
ユキ: 糸ひいちゃうの。なにをやっても踏ん切りがわるくて。だから姉さんブタになってしまったの。
のり子: 糸ひいて踏ん切りがわるいと、どうしてブタになってしまうの?
ユキ: 姉さん、糸ひきながら登校拒否してたの。ちょっといっては休み、もうちょっといってはたくさん休みして、部屋にこもって糸ひくように食べてばかりいたころに……
のり子: ああ、過食症な。わたしにも覚えがあるわ……
ユキ: お父さんが怒ってしまって、思わず「おまえみたいなやつは、ブタにでもなっちまえ!」って。 そうして、あくる朝……姉さんは一人しずかにブタになってしまっていたの…………信じてないでしょ……ああ、話さなきゃよかった。どうしてこんな話をしてしまったんだろう……
のり子: あんたが、納豆が糸ひいたみたいにパクパクしてるからだよ。
ユキ: それは姉さんに……もういい、もう何も言わない……わたしは貝になりたい(泣く)
のり子: ならなくっていいよ。とにかくなんかの縁があって、同じバス待ってんだからさ。ね、泣くなよ。
ユキ: (いっそ激しく泣く)
のり子: だ、だからさ。人生って、こういう出会いの連続というか、積み重ねというか、くりかえしというか……
ユキ: 人生とは……涙で繋ぐ出会いのチェインリアクション(また泣く)
のり子: チェイン、リ……?
ユキ: チェインリアクション。連鎖反応って意味、その連鎖反応という単語のちょっとリリカルなオマージュ。わたしってどうしてこんなときに文学的なんだろう(また泣く)
のり子: 泣きながら、ずいぶんじゃないのよ。ま、とにかくそのチェイン……
ユキ: チェインリアクション。ん……人生のパッチワークくらいが一般大衆むきのオマージュ……いや、キャッチコピー……正確だけど、リリカルじゃない……
のり子: 泣きながら、ずいぶん文学少女してくれてんじゃん。ま、とにかくそのパッチワークなんだからさ、心と心を縫い合わせて語りあおうよ。な……(ユキの手をとる)あんた、冷たい手してるね(ユキ、こっくりとうなずく)えと……まだ、名前聞いてなかったね。

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高校ライトノベル・連載戯曲:となりのトコロ・2『ブタが姉さんでよしみがやってきて』

2019-08-01 06:32:18 | 戯曲
となりのトコロ
 
2・『ブタが姉さんでよしみがやってきて』
 
 大橋むつお
 
 
  • 時   現代
    所   ある町
  • 人物  女3  のり子  ユキ  よしみ
 
 
  
 
ユキ: 霊感がつよいのね……(人形に)姉さん、ごめんね。目がさめちゃったのね、また子守歌うたってあげるからね……バスが来るまでイイ子でいてね(姉をあやす)
のり子: なによ、あんた、それ?
ユキ: ……姉さん。
のり子: 姉さん?
ユキ: 人にはぬいぐるみにしか見えないけどね……
のり子: あんたねえ……
ユキ: シイイイイイイ…………もうすぐ寝るから……(ささやくように子守歌を口ずさむ。姉はようやく眠りにつく)薄気味わるいでしょうね。ほんとなら、あなたの前から消えてしまったほうがいいんでしょうけど、わたし次のバスに乗らなきゃならないから……ごめんなさい……。
のり子: あ、あたしも次のバスに乗らなきゃならないから……。
ユキ: ほんとは逃げだしたい。せめて道ばたのウンコみたいに軽く無視してかかわりあいになりたくない。
のり子: うん。
ユキ: ……はっきり言う。
のり子: まあね……ハアアアアアアアアアアア…………
ユキ: あなたも、なにか……あるようね。
のり子: あんたも、なんかワケありみたいね……
ユキ: (ソッポを向く)
のり子: あたし、のり子。轟のり子。人はあたしのこと……
 
下手かなたから、よしみの声。
 
よしみ: (声)トドロ……トドロ!
のり子: よしみ!?
よしみ: よかった、間にあった!
のり子: え、傘もってきてくれたの?
よしみ: うん。
のり子: ありがと……でも、もう止んだみたい。
よしみ: その傘?
のり子: この子が……あれ?(ユキのすがたがない)
よしみ: だれかいるの?
のり子: うん……
よしみ: トドロ、ほんとに行っちゃうの?
のり子: うん。
よしみ: どうしても?
のり子: うん。
よしみ: どうしても?
のり子: どうしても。
よしみ: 先生の言ったこと気にしてんの?
のり子: 気になんかしてない。
よしみ: じゃあ……
のり子: 切れちまったの。
よしみ: トドロ……
のり子: 四年も便利使いしといてさ、「こんな気の抜けたアイデアしかないのか。おまえにはマンガ家としての才能も情熱も良心のカケラもない!」 ああ、やめたやめた。大事な青春ムダにしてやってることないわよ。
よしみ: 先生だって、ついカッとして……淹れたばかりのお茶、机に置いたとたん茶柱が横になっちゃったから。
のり子: 茶柱の代わりにに腹たてたってか! 言っていいことと悪いことがあるわよ。あたしだって真剣に考えて……
よしみ: でも……
のり子: でも、なによ「お茶淹れた、あたしが悪い」なんて言うんじゃないでしょうね。
よしみ: ……(かぶりをふる)
のり子: よしみも早いとこ見切りつけたほうがいいよ。先生、自分こそ才能も情熱も良心も枯れはてたくせに。仕事もほとんどあたしたちまかせ。自分は気楽に旅行三昧。先月号の締め切り間に合わせたのも、あたしたちだよ。昔はあんな人じゃなかったのに……泣くなよ、デカいなりして!……ごめん、自分の考え押しつけちゃいけないよね。あたしはあたし、よしみはよしみだもんね。
よしみ: ……
のり子: その気の弱いところなおせよな。言いたいことがあったら、はっきり言う!
よしみ: タ、タバコ買うってでてきたから……もう帰る……じゃあ元気でね。ほんとに、ほんとに元気でね。
のり子: よしみもね!
 
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高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・1・そぼ降る雨のなか』

2019-07-31 06:59:13 | 戯曲

1『そぼ降る雨のなか』 

大橋むつお

 

  • 時       現代
    所       ある町
  • 人物(女3)  のり子  ユキ  よしみ

 

 そぼ降る雨のなか、バス停の横に貧相な少女ユキがたたずんでいる。さした傘に押しつぶされそうになりながらも手にはもう一本、大きめの古い男物の傘。背中には、小さな子どもを背負っているように見える。

 バス停の下手よりに古ぼけた街灯。それが懐かし色にバス停の周囲を包んでいる。背後には鎮守の森。雨音しきり。ときにカエルの鳴き声。

 ややあって、下手から、のり子がスケッチブックを頭にかざし、ボストンバッグを抱え、雨をしのぎながらやってくる。バス停の時刻表と携帯の時間を見比べ、雨のしのげそうなところをさがす。二三度場所を変えるが、どこも大して変わりはない。

 この間ユキは無関心。

 やがて……

 

のり子: ……えと、一本貸してもらえないかしら……
ユキ: ……(一瞬ドキリと身じろぎするが、聞こえないふりをする)
のり子: ……バス……来るまででいいんだけどね……
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: あなたも、バス……待ってんでしょ?
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: 次のバス……だいぶある……よな……
ユキ: …………………………………………………………………………

のり子: よく遅れるんだよな……ここ……
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: 二本持ってんでしょ。今さしてんのと、手に持ってんのと(`Д´)!
ユキ: ……(黙って、さしていた傘をのり子にさしかけて、渡してやる)
のり子: え……あ、ありがと(^_^;)。
ユキ: ……(傘を渡すと、またもとのところへもどり、もう一本の傘はささずに大事そうに持ち、黙って濡れている)
のり子: え……ささないの、その傘。
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: 怒った?
ユキ: ……(かぶりをふる)
のり子: じゃあ、さしなよその傘。
ユキ: いいんです。
のり子: よかないよ。
ユキ: いいんです。
のり子: なんだか、これじゃ、あたしがむりやり傘とりあげて、いじめてるみたいじゃないよ……返すよ。
ユキ: いいの、それはあなたに貸したんだから。
のり子: 返すよ!(傘の押し付けあいになる。ユキの背中の子どもの異常に気づく)あんた、その背中の……ブタ?
ユキ: 人形、ぬいぐるみの人形……
のり子: うそ。今あたしのことギロってにらんで、牙むいてうなったわよ。ガルル……って。
ユキ: 気のせいよ。ブタさんのぬいぐるみがそんなこと……
のり子: でも、ほんとうにそう見えたんだから…………あれ? ほんと。やっぱしぬいぐるみ(^_^;)。
ユキ: でしょ。
のり子: でも、やっぱし生きてるみたいな感じがする。
ユキ: そんなことないわ……
のり子: …………ううん、やっぱし生きてるよ。そのぬいぐるみ!

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・12』

2019-07-30 06:25:09 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・12

大橋むつお

 


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

 

赤ずきん: わっ!……いてて……
マッチ: 大丈夫、赤ちゃん?
赤ずきん: おう、大丈夫……ここ……?
マッチ: さっききたとこみたい……
赤ずきん: また鳥取砂丘?
かぐや: ……
マッチ: うさぎさん……?
赤ずきん: とっくに、花火見物にいっちゃったんだろ。
マッチ: ……波の音がしない。
赤ずきん: 営業時間終わったんじゃないか?
マッチ: そっか……
赤ずきん: んなわけないだろ。
かぐや: ……(じっと「月」を見つめている)
赤ずきん: 月……少し大きくなってない?
マッチ: ……ほんと、さっきは一円玉くらいだったけど。
赤ずきん: ……五百円玉くらいの大きさだよ。
かぐや: ……あれ、月じゃありません。
二人: え?
かぐや: あれは……地球。
赤ずきん: え……あれが!?
マッチ: でも……地球って、青いんじゃなかった?
かぐや: そのはずなんだけど……今の地球は、なつかし色の月にそっくり。
赤ずきん: じゃ、ここは?
かぐや: 月よ。月にもどってきてしまったみたい……月から見たら、地球はあんなふうに見えるのね……
マッチ: じゃ……ここ、本物の……
赤ずきん: しゃれじゃなくって、月の砂漠? でも、この家には月までもどる力はないんだろ?
かぐや: はい、鳥取砂丘へ行くのが関の山……
赤ずきん: ……それじゃ……
かぐや: 神様のおぼしめし……それとも……
赤ずきん: それとも……
かぐや: わたし……月にもどりたかったのかしら……
赤ずきん: そんな……帰ろう、地球に帰ろうぜ! こんなところでひきこもっていちゃだめだ! たとえずっこけても、前むいて歩かなくちゃ!
かぐや: ほほほ、金八郎先生みたいよ、
マッチ: あ、金八郎先生のカードだ。
赤ずきん: あ、またなくしたんだ。
マッチ: ほんとだ。
かぐや: わたし、にがて。で、これは、なににつかいますの?
赤ずきん: IDカードっていってね。首からぶら下げて、学校入るときと出るときに機械をとおすんだよ。で、校長とかがいつもこれで監視してんだ。
マッチ: 金八郎先生よくなくすんだよ。いつも校長先生にしかられてる。
赤ずきん: 犬の首輪みたいなもんだ。
マッチ: でも、これが先生の証明になるんだよ。
かぐや: こんなものがね。おいたわしい……あ……いま、オオカミ男さんがお吠えになったわ。
マッチ: ほんと?
かぐや: ええ、わたしには聞こえましてよ……お手紙間にあわなかったけど、よろしくお伝えくださいな。
マッチ: よろしくって……
赤ずきん: かぐやは元気にひきこもってますってか!? こんなの、どうやってよろしく伝えられんだ。
マッチ: かぐやさん……
かぐや: また千年ほど眠ります。千年たったら、またお会いしましょう。
赤ずきん: かぐや……
かぐや: 大丈夫。赤ちゃんさんやマッチさんなら……千年たっても生きてるわ。
マッチ: でも千年たって、あの地球は残っているかしら、あんなになつかし色で……(赤ずきんと並んで地球を見つめる)
かぐや: ほほほ、それほどやわじゃございませんでしょ……たぶん、このかぐやも……あ、星の王子さまの宅配便……(トラックの接近音と停止とアイドリングの音)オーイ、星の王子さまあ! ほーら、お気づきになった。お二人は、星の王子さまのトラックにのせてもらって、おもどりなさいな。ね、王子さま、このお二人どうかよろしく。
赤ずきん: かぐや……
マッチ: かぐやさん。
かぐや: ほら、おいそぎになって、王子さまもおいそがしい方ですから(クラクション、かわいく鳴る)さ、早く。
二人: う、うん。

 

下手に去る二人、続いてトラックの発進音。

 

二人:(声) かぐや、かぐやさ~ん!
かぐや: みなさんによろしくお伝えくださ~い。ごきげんよう……!

 

去りゆくトラックに手をふるかぐや。月の沙漠のオルゴールの音、かぐやの姿フェードアウト。ややあって赤ずきんあらわれる。
  
赤ずきん: あれから十年、あたしはファンタジーの国で老人介護の仕事をしてるんだよ。いま、こぶとりじいさんの世話をしてるんだ。出ぶしょうの運動不足で、すぐに太っちゃうので、大ぶとりじいさんになるなア! とハッパをかけてるんだ。マッチは、花火の職人さんになり、あちらこちらで大きな花火を打ち上げては、「かぐやさん、見えるかなあ……」と言ってる。昨日ひさびさに、天体望遠鏡で、月をのぞいてみたぞ。そしたら、かぐやの家のドアには……

 

かぐや(声): あと九百九十年眠ります。おこさないでくださいね。

 

赤ずきん: ……と、ふだがかかっていたぞ。そのドアの前では、オオカミ男さんからのプレゼントを届けにきた星の王子さまが伝票片手に「置き配はいやだしなあ……」と、小さくため息をついておりました。オオカミ男さんは、今日も月にむかって吠えておりました……とさ……

 

オオカミ男の遠吠え、マッチの花火の音がして、オルゴールの音が重なる。赤ずきん、最初と同じようにクルクルと回り始める。顔が正面を向いたとき、バイバイと手をふりニッコリと笑う。その姿きわだつうちに幕。

 

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・11』

2019-07-29 06:41:57 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・10

大橋むつお

 


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

マッチ: うん、行こ行こ(^▽^)/。夕焼けもきれえだし(窓から夕陽がさしこんでいる)あ、大きな鳥……
赤ずきん: 白鳥……鶴だな……(鶴の鳴き声)
かぐや: 鶴の恩返しの鶴さんです。
マッチ: ツルノオンガエシ?
赤ずきん: 何にも知らないんだな。助けられたお礼に、鶴が男の女房になって、自分の羽根で、ビンテージもんの布を織ってやる。織ってるところを見ちゃいけないっていうのを、男はスケベー根性おさえきれずにのぞいて、悲しんだ鶴が家を出てっちゃう……
マッチ: ああ、思い出したあ。
かぐや: お家をとびだしてから、ああして飛び続けていらしゃるの……
赤ずきん: 降りてこないの?
かぐや: ええ、対人恐怖症でしょうね……
マッチ: ……かわいそう……
赤ずきん: 疲れて落ちてしまうでしょうに……
かぐや: 銀河鉄道さんがね……
マッチ: 銀河鉄道?
赤ずきん: 宮沢賢治の?
かぐや: カムパネルラとジョバンニがいっしょに乗って走ってもらっているの。落ちたときにクッションになってもらえるように……

轟音をたてて銀河鉄道が通過する。それぞれの姿勢で見送る三人。

 

マッチ: ほんとだ……銀河鉄道さ~ん、ごくろうさま!
赤ずきん: あ、カムパネルラとジョバンニが手をふった!

 

     三人手をふる。

 

かぐや: さ、まいりましょうか。
赤ずきん: ようし、ゴーアヘッド!

マッチ: え、なにそれ?

赤ずきん: なにって「さあ、いくぞ!」って意味だ、軍隊じゃ「前進!」って号令に使うんだ。

マッチ: レッツゴーじゃないの?

赤ずきん: レッツゴーって、ダセーなあ、おまえ昭和かよ。

マッチ: そんな、掛け声一つで差別しないでよお!

赤ずきん: て、言い出したのはおまえだろが!
かぐや: ……あら……ドアが開かない。
マッチ: 押すんじゃないの?
かぐや: ホホ、そうだったかしら……押しても開かない。
赤ずきん: ちょっと(かわる)ほんとだ開かない。
マッチ: なんだか暗くなってきたよ。窓の外まっくら。
かぐや: え……?
赤ずきん: くそ、ほんとに開かないよ。どうなってんだ!? くそ! くそ!!

 

     ドア、急に開く。そのいきおいで、赤ずきん、外へとびだしてしまう。

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・10』

2019-07-28 06:14:25 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・10

大橋むつお

 


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

マッチ:で、なにしに来たんだっけ?
赤ずきん: えと……かぐやさんが、やだとか変だとか思うこと聞いてたんだよ。
かぐや: そうでございましたわね。
赤ずきん: そうだよ、携帯の着メロとか、ニコニコ写真とか。
かぐや: ええ。でも……これかなって思って口にすると、スルッとそこからすりぬけてしまって……けっきょく、どうでもいいことなんですよね……そういうことは。
赤ずきん: でも、そういうことがいっぱい重なってさ……
かぐや: ……先日。
赤ずきん: ちょっと前?
かぐや: カチカチ山のタヌキさんが、お亡くなりになりましたでしょ……
マッチ: うさぎさんが沈めちゃったんだよね。泥舟に乗せて!
赤ずきん: あのうさぎって、さっきのイナバの白うさぎと関係あんの?
かぐや: いとこ同士でらっしゃいますの。
マッチ: やっぱ女の子?
かぐや: ええ。で、たぬきさんは気のいいおじさま。 
マッチ: なんかスキャンダラスなおはなしね!?
赤ずきん: なんか、意味深な事情があるんでしょ?
かぐや: おふたりの最後の会話……
赤ずきん: どんな?
かぐや: おぼれながら、たぬきのおじさまは、こう叫ばれました「惚れたが悪いか!?」。で、うさぎさんは、お持ちになったカイでおぼれるたぬきさんに最後の一撃をくらわせになって、ぽつんと一言「ほ、ひどい汗……」。
マッチ: う~ん……
赤ずきん: そうなんだ……
かぐや: で、校長先生が全校集会で「命の大切さ」って、お話なさってましたでしょ。
赤ずきん: 人の命は山よりも重いんだよ君たち……校長のきまり文句。
かぐや: 重くて軽いお話。
赤ずきん: え……?
かぐや: あのお言葉正確には「命は山よりも重く。鴻毛より軽し」と申しますの。下半分省略。幽霊さんみたいなお言葉。
赤ずきん: あたし、そこんとこ居眠りしてて聞いてない。
かぐや: たぬきさんとうさぎさんは、その最後の一言。それで不滅の存在になって生き続けてらっしゃると思ってますのよ……トカトントン……
マッチ: あ、あの時の金槌の音。
かぐや: あら、おぼえていたの、あの金槌の音!?
マッチ: うん、とびらの修理にきてた大工さん。
赤ずきん: そうだった?
マッチ: 校長先生が「エヘン!」というと、トカトントン。「……人の命というものは」トカトントン。「お互い命を大切に」トカトントン。
かぐや: あの大工さん、あれが最後のお仕事でしたのよ。ガンで入院されるんで、最後のお仕事きっちりしようって心をこめて……
マッチ: トカトントン……おかげで、校長先生のお話ひとつもおぼえていない。
赤ずきん: 金槌がなくってもおぼえていないわよ。
マッチ: 失礼ね。
赤ずきん: どっちに? 
マッチ: もちろん……
かぐや: 言わぬが花。
マッチ: 花よりダンゴ!
かぐや: おほほほ……
赤ずきん: あははは……あたし、今、校長先生にはじめて同情した。
マッチ: もう……!
赤ずきん: また牛だ!
マッチ: もう!!
赤ずきん: また、じゃんけんになるぞ。
かぐや: よしましょう、マッチさんはとても気持ちのきれいな人なんですから。
マッチ: ね、今から学校に行ってみない?
二人: え!?
マッチ: 放課後だから、もう誰もいないし……あの……大工さんのなおしたとびらとか見に行かない? きっと学ぶべきものがいっぱいある……かも。
赤ずきん: そ、そうだよかぐや。マッチもたまにはいいこと言うじゃん。

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・9』

2019-07-27 06:31:29 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・9

 

大橋むつお

 

時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

かぐや: さ、またお茶の続きをしましょうか(三人、家の中へもどる)赤ちゃんさん、おばあさんお元気?
赤ずきん: うん、元気。あたしが世話をしてるからね。このごろはオオカミも手伝ってくれるし、ばあちゃんもオオカミさんに字の読み書きとか教えていて、今はとってもいい関係だぞ。
かぐや: そうね、誰かの役にたっていると思えることは大切なことね。
マッチ: かぐやさんは、どうして学校へ来ないの?
かぐや: さあ……
赤ずきん: 学校にいじめっ子とか?
かぐや: いいえ……
赤ずきん: 勉強いやとか、つらいとか?
かぐや: さあ……
赤ずきん: 勉強ってつまんないもんだからね。勉強ってもともとは「嫌なのに、無理に努力する」って意味。知ってた?
かぐや: はい、強いて勉めると読みますものね。
マッチ: 赤ちゃん、よく知ってたわね!
赤ずきん: B組の孫悟空が、補習で残された時に、そう言ってボヤいていた。
かぐや: 勉強にかぎらず、人生ってそういう強いて勉めることですものね。それは厭いません。そうではなくて……
赤ずきん: そうではなくて……?
かぐや: さて……わたし、うまく言えなくて。
赤ずきん: ……うまく言えなくてもいいからさ。ちょっとしたことで嫌だなってこととか、変だなってこととか……
かぐや: そうね……学校のかまえ……
赤ずきん: かまえ?
かぐや: ええ、英語でファサードってもうしますの、正面入口のたたずまい。ピロッティーの吹き抜け……開放感というより、ガランドーな感じで……その上にスローガン書いてございますでしょ「みんなかがやけ!!」 みんなかがやいたら……まぶしくってしかたないでしょ……ほほほ。それに「かがやけ!!」というわりに汚れてくすんでますでしょ……その脇には運動部のなんとか大会出場の懸垂幕……
赤ずきん: ああ、あの大売り出しみたいな。
かぐや: ほほほ、昔の源氏や平家のノボリなんかシンプルでよろしゅうございましたよ。赤とか白とか一色……ただそれだけで……でも、あの懸垂幕は、それはそれで無邪気でよいのです……
赤ずきん: それじゃ……
かぐや: 授業中、みなさんが無意識でなさる……指先でシャープペンシルなどをクルクルおまわしになる……
マッチ: ああ、あれわたしも!
かぐや: 最初は、すごい芸だと思ったんですけど……
赤ずきん: ほかに?
かぐや: そうね……携帯の着メロ……らぬきのお言葉……語尾をあげる疑問形、体言止めの言い方……枯れ木のようなお茶髪……ずり落ちたおズボン……子供にはダメと言いながら、平気で街角に立っているお酒やおタバコの自販機……先生が首からぶらさげてらっしゃるわけのわからないカード……どこでもチョキの平家蟹の呪いみたいなニコニコ写真……ほほほ、きりがございませんわねえ。
マッチ: どこでもチョキ?
かぐや: ほら、こういうの……いつもじゃんけんで赤ちゃんさんが二番目にお出しになる。
マッチ: それってピースサインっていうんだよ……って、わかった。いつもわたしがじゃんけんで負けるの!
赤ずきん: いつもパー出すマッチがぬけてんだよ。
マッチ: ぐやじい~!
赤ずきん: ははは…… 
マッチ: 自分こそプリクラとかでピースサインがくせになってんじゃないよ!
赤ずきん: あたし、ピースサインなんてしないぞ。こうやって、胸の前で手を組んでニコってすんだよ。
マッチ: それって、すっごくブリッコだ。
赤ずきん: なんだよ!?
マッチ: 中味とぜんぜんちがう。不当表示だよお! 消費者センターに言っちゃうからね。
赤ずきん: なんだとお!?
マッチ: なによ!
赤ずきん: やろうってのか!?
マッチ: やるときゃ、やるわよ! いつも負けてばっかじゃないんだかんね!
かぐや: おほほ……
赤ずきん: いくぞ!
マッチ: こっちこそ!
ふたり: さいしょはグー、じゃんけんポン。
マッチ: うう、三回しょうぶ!
赤ずきん: おうよ!
ふたり: じゃんけんポン! じゃんけんポン!
赤ずきん: あはは……
マッチ: おっかしいなあ、どうして負けるかなあ?
赤ずきん: あいかわらずパーしか出さないからだよ。
マッチ: え、じゃんけんポン……ほんとだ?
かぐや: おほほ……おふたりはいいコンビね。
赤ずきん: え?
マッチ: そっかなあ?
かぐや: とてもファンタジーでいらしてよ。(三人のどかに笑う)

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・8』

2019-07-26 06:29:50 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・8

大橋むつお

 


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

 

「エッヘン」とうさぎの声聞こえる

赤ずきん: ほんとだ「エッヘン」て言った。
マッチ: ……で、どなたなんですか、かぐやさん?
かぐや: あの方はイナバの白うさぎさんです。近所の白兎海岸から遊びにくるの。人間の女の子のかっこうをなさってる時もあるわ。
マッチ: イナバの白うさぎって、女の子だったんだ!?
赤ずきん: セーラームーン(^▽^)/!?
マッチ : 古いんじゃ! で、イナバの白うさぎって?(ふたり、ずっこける)
赤ずきん: なんだ知らねえのかよ?
マッチ: 赤ちゃんは知ってんの?
赤ずきん: アキバの地下アイドかなんかじゃないの(^▽^)?
かぐや: ううん。沖の島からね、サメさんたちをだまして並ばせてね、その背中をピョンピョン渡ってイナバ、って、鳥取県の東のほうにきたうさぎさん。
マッチ: 好奇心つよいのね。
かぐや: で、だまされたったってわかったサメさんたちに身ぐるみはがされちゃって。
赤ずきん: やられちゃったの!?
マッチ: ……集団暴行!?
かぐや: そういう表現はヤラシイ想像をさせてしまうわ。ほらあの方なんて、身をのりだしていらっしゃいますわ。
マッチ: 赤ちゃんの目もヤラシイ~。
赤ずきん: マッチの四文字熟語だって三流新聞の見出しみたいだろうが!
かぐや: シバキたおされておしまいになっただけ。ジェンダーフリーのおしおき。そこになんともいえないくやしさを感じて泣いてらっしゃったの。由緒正しいうさぎさんだから。
マッチ: あ、サンタクロース!
かぐや: いいえ、あの方はオオクニヌシノミコトさま。
マッチ: オオクニヌシ?
かぐや: そのとき、うさぎさんをおたすけになったえらい神さま。
マッチ: へえ……
赤ずきん: そうなんだ……
かぐや: こんにちは! お仕事帰りですか?(何やら、声にならぬ声がする)あ、研修中ですか。こちらが赤ずきんちゃんさんと、マッチ売りの少女さん。(二人、ペコリと頭を下げる) 今日は……? ああ、松江の水郷祭に花火をご覧に。よろしゅうございますわねえ。わたしも行きたいなあ……小泉さんによろしくね。
赤ずきん: 元総理大臣の息子?
かぐや: ううん、小泉八雲さん。耳なし芳一とかお書きになった。ラフカディオ・ハーンともおっしゃるの。
赤ずきん: ああ……
マッチ: でも、どうしてサンタさんみたいなの?
かぐや: むかしは羽振りがよかったんだけどね、ここんとこ、ずっとリストラされてらっしゃるの。自前の袋をお持ちなので、今度サンタクロースのアルバイトをなさるのよ。
マッチ: アルバイト!?
赤ずきん: そういや。星の王子さまなんかも、近ごろ宅配便のアルバイトしてるらしい ね。ほら、あの流れ星(キンキラキーンと星の流れる音)……あれ、星の王子さまだ。
マッチ: みんな生活苦しいのかな……
かぐや: 星の王子さまは、著作権がきれたんで趣味でやってらしゃるの。でもオオクニヌシさんはやっと教科書にのりはじめたばかりだから。あなたは?
マッチ: わたし?
かぐや: マッチ売り。
赤ずきん: そうだよ。必要ないバイトならよした方がいいよ。友だちと約束して遅刻することもないだろ。 
マッチ: でも、マッチ売りをしていないマッチ売りの少女なんて……ただの漢字二文字の「少女」になってしまう。
かぐや: ほほほ……
マッチ: ね、そうでしょ。

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・7』

2019-07-25 05:43:17 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・7

大橋むつお

 


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

かぐや: 先生がまだほんのお子様のころ、お母さまが内職のミシンをふみながらよく歌ってらっしゃったんですって。お母さまが、この歌を口ずさまれるとそれだけでね、六畳一間のお部屋が月の砂漠になったんですって。ほほほ、おわかり?
赤ずきん: わかったような……
マッチ: わからないような……
かぐや: 先生はね、月の光に照らされた砂漠じゃなくて。そのまんま月の砂漠とお思いになったんだって。
赤ずきん: え?
マッチ: ん?
かぐや: で、どうして空気のない月の砂漠を王子さまとお姫さまが、ラクダに乗っていけたんだろうって…… 
二人: あははは……
かぐや: でも、すてきじゃございませんこと……お母さまのお歌一つで六畳のお部屋が月の砂漠になって、畳のへりを、小さな王子さまとお姫さまがラクダにのっていかれるなんて。
赤ずきん: でも、それがどうして鳥取砂丘?
かぐや: 学生のころに鳥取砂丘でラクダのりのアルバイトをなさってたの。それで、月の砂漠はここだってお思いになった。はじめて砂丘をごらんになったとき、ミシンをふむお母さまのお背中と、月の砂漠がパーっとスリーディーの映画のように、よみがえったとおっしゃってました。
マッチ: ふうん……いい話だよね。
赤ずきん: でも、この家は金八郎にがてなんだろ?
かぐや: せっかちのエンジン全開でいらっしゃいますから。
マッチ: だよね。
かぐや: 一時間……いいえ、正味四十八分で、問題を解決しなきゃいけませんでしょ。スポンサーやディレクターのご意見もございます。ムリもございませんわ。
赤ずきん: だろうね…… 
マッチ: 波の音がする……
赤ずきん: ほんとだ。
かぐや: そりゃ海岸ですもの……海と、月と、砂丘と……ぜいたくでしょ、ここ。
マッチ: あ、うさぎさんだ!
赤ずきん: え、どこ?
マッチ: ほら、あそこ。あの砂丘のかげ。
赤ずきん: ……ほんと!
マッチ: おっこっちゃったのかな?
赤ずきん: 月から?
かぐや: ほほほ、わたしもそう思って、思わず月を見上げましたわ(三人月を見上げる)ほら、ちゃんと月ではうさぎさんが、おもちをついていらっしゃるわ。
赤ずきん: ……ということは、ただのうさぎ?
かぐや: いいえ……あの方は由緒正しいうさぎさんなのです。
マッチ: ほんとだ、腰に手をあてて胸をはっている。
赤ずきん: セーラームーンか!?
マッチ: ちょっち古いよ。

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・6』

2019-07-24 05:53:18 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・6


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

 

赤ずきん: 男は女を愛したらオオカミになるっていうぞ。
かぐや: あの方……オオカミになりながら涙をためていらっしゃった。とても悲しそうに、とてもせつなそうに。だからわたし、そっとハンカチを渡してあげたの。あの方、ハンカチをにぎりしめ、大つぶの涙を流しながら、じっとわたしの目を見つめ……ポツンと一言……
マッチ: おいしそうだ……

赤ずきん: ズコ!
かぐや: ほほほ……
赤ずきん: せっかく真面目に聞いてんのに、まぜっかえすな。
かぐや: まぜっかえさないと焦げついちゃうでしょ、鍋の底とか心の底に。わたし好きよ、そういうの。
マッチ: へへへ
赤ずきん: それで?
かぐや: それでオオカミ男さんは大つぶのよだれをたらし……あら、うつっちゃった。

三人、のどかに笑う。

赤ずきん: 大つぶの涙を流しながら……
かぐや: 大つぶの涙を流しながら……ぼくと同じ目だ。
 
「月の沙漠」のオルゴール聞こえる。

かぐや: 唐突だけど「月の沙漠」を思ったわ。(歌う)金と銀との鞍置いて、ふたつ並んでゆきました……そうしたら、オオカミ男さんも、同じメロディを口ずさんでいた……ね、外に出てみましょうか?
マッチ: う、うん。

三人外に出る。空に月が出ている。

マッチ: うわあ……!
赤ずきん: なに、これ?
マッチ: 砂漠?
かぐや: ううん、鳥取砂丘。月までもどる力は、わたしにも、この家にもない。だから時々ここに来てなつかしんでるの。今のわたしたちの話で、この家がなつかしがったのね。金八郎先生が来たわけじゃないわよ。
マッチ: 砂ばっかりで、砂漠みたい……
かぐや: 「月の沙漠」って、千葉県の御宿海岸がモデルなんだけど。わたしはこの鳥取砂丘のイメージなのよね……
赤ずきん: どうして?
かぐや: それはね……金八郎先生がそう教えてくださったから。
赤ずきん: 金八郎まちがったこと教えたんだ。
マッチ: いけないんだ~。金八郎先生って、かりにも国語の先生だよ。
かぐや: ううん、まちがってらっしゃらないわ。
赤ずきん: どうして?
かぐや: あの先生はご自分の感動を正しく教えてくださったわ。
赤ずきん: でも、まちがってんじゃ、しょうがないじゃん。
マッチ: うんうん。
かぐや: あのね、わたしこう思いますの。すみからすみまで正確な授業でも、感動のない授業なら、教えたことにならないって。
赤ずきん: はあ……
かぐや: 金八郎先生は授業を脱線して「月の沙漠」のお話をなさった。
赤ずきん: 知らないぞ、その話。
マッチ: わたしもよ。
かぐや: あの日は、お二人とも改訂版が出るんでお休みになってましたよ。
赤ずきん: あはは。あたしたちって、売れっ子だから(^^♪
マッチ: うふふ。
かぐや: おしいことをなさいましたわね。それは、それは熱く語ってくださいましてよ。
マッチ: そうなの?

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・5』

2019-07-23 06:28:18 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・5


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

赤ずきん: ひょっとして、その金八郎がいやで学校に来ないの?
かぐや: ほほほ、それほどヤワじゃございませんわよ。
マッチ: あの……わたし、かぐやさんにいろいろグチこぼしたじゃない。
かぐや: お互い、か弱い乙女ですもの、グチのひとつやふたつ。
マッチ: うん……かぐやさんとか、赤ちゃんとか、しゃべりやすくって……
赤ずきん: ほんとか?
かぐや: ほほほ……わたしの方こそいろいろ教えていただいて……それに、マッチさんのお話って、おっしゃるほどグチっぽくなくてよ。
マッチ: そう!?
かぐや: そうよ、いろんなことをおもしろおかしく話してくださって。赤ちゃんさんのこと、郵便ポストさんとかサンタさんのお嬢さんとか。
赤ずきん: え、あれマッチが。おまえなあ……!
マッチ: あの、それはね……
かぐや: 赤は情熱、ぬくもりの色よ。マッチさんの赤ちゃんさんへの好意がよくあらわれてますわ。

赤ずきん そ、そう?
マッチ: そ、そだよ。あの、これ、ケーキつくってきたの。みんなで食べようよ。
かぐや: まあ、かわいいケーキ。赤いサンゴの色のようね。
赤ずきん: それ、トンガラシクリーム。最初甘いけど、飲みこんでから、おなかの中でヒリヒリすんだぞ。
かぐや: まあ、ほんと!?
マッチ: うそ、普通のイチゴクリームだよ。
赤ずきん: うちのオオカミさんに食わしたら、胃ケイレンで、そく救急車。
マッチ: もう、赤ちゃんたら(ぶつかっこうをする)
赤ずきん: なんだ、やろうってのか?
マッチ: や、やるときゃ、やるわよ! いつも負けてばっかじゃないかんね!
かぐや: あらら……
赤ずきん: いくぞお……
マッチ: こっちこそ……
ふたり: さいしょはグー、じゃんけんポン!
マッチ: うう、三回しょうぶ!
赤ずきん: おうよ!
ふたり: じゃんけんポン! じゃんけんポン!
赤ずきん: あはは……
マッチ: おっかしいなあ、どうして負けるかなあ?
赤ずきん: おしおきだぞ~…… 
マッチ: え……?
赤ずきん: こちょこちょこちょ(くすぐりまくる)
マッチ: きゃははは……死ぬう!
赤ずきん: まいったか。
マッチ: まいった、まいったよ~。
かぐや: ほほほ、笑いは最高の調味料。おいしいわ……
赤ずきん: そのレターセットかわいいね。彼氏に?(コンビニの袋のレターセットに気をとめる)
かぐや: オオカミ男さんがね。時々おたよりをくださるので、お返事を出そうかなって思って……

マッチ そうか~、満月のたんびに月に吠えていたのは、かぐやさんへのラブコール!
かぐや: さあ……どうでしょう……もう少し複雑なお気持ちなの
かも……

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・4』

2019-07-22 05:48:13 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・4

大橋むつお

※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します


時   ある日ある時
所   あるところ
人物……女3  

    赤ずきん
    マッチ売りの少女
    かぐや姫

 

 

下手から、コンビニの袋を持ってかぐやがやってくる。

 

かぐや: あら、わたくしに御用?
赤ずきん: あら。
マッチ: かぐやさん!
かぐや: マッチ売りの少女さん……と、こちらは……郵便ポストさん?
赤ずきん: あのね……
かぐや: あ、サンタさんのお嬢さん。お父さんのお手伝い?
赤ずきん: そのね……
かぐや: 知ってるわ、赤ずきんちゃんさんでしょ? 生徒会長さんですよね。どうぞ中へ。きたなくしてるけど、お茶でもいれましょう。
マッチ: わたしたちね、呼び方かえたの。赤ずきんちゃんとか、マッチ売りの少女とか、長くて呼びにくいから。わたしはマッチで……
かぐや: まあ、かっこいい。赤ずきんちゃんさんは?
赤ずきん: それがね……
マッチ: 赤ちゃん!
かぐや: まあ、かわいい! じゃ、わたしもそう呼ばせてもらっていい、赤ちゃんさんて。
赤ずきん: さん抜きでいい。
かぐや: そんな不しつけな。わたしは「さん」をつけさせていただきます。いいでしょ?
赤ずきん: ま、いいけど……
マッチ: こないだも来たのよ、金八郎先生といっしょに。
かぐや: まあ、そう。それでね……このお家が急にお散歩に出かけてしまったのは……
マッチ: ああ、やっぱりお散歩だ。
かぐや: はい。このお家、すききらいがはげしいんですぅ。
赤ずきん: きらいなのか、この家?
かぐや: にがてなんですの。熱心でいいお方なんですけど……むき出しでいらっしゃいますでしょ、いつもエンジン全開で……
赤ずきん: あたしも元気な方だけど、それでも持てあましちゃうもんね。
かぐや: どうぞ……(お茶を出す)あの先生悪いかたじゃございませんのよ、ご兄弟もいい方ですし。
マッチ: 兄弟いたの?
かぐや: はい、お兄さんたちとは古いおつきあいよ。
赤ずきん: お兄さん?
かぐや: 金太郎さん。動物好きの、マッチョだけれどもおだやかなお方。その下が金二郎さん。いつも柴を背負って、お勉強ばかり。その下は早くに亡くなられたけど。四番目が金四郎さん。桜ふぶきで入れ墨がとってもおにあいのナイスガイ。以下省略。
赤ずきん: どうして、あの先生この世界にいるんだろう?
マッチ: あ、さっきのわたしの質問!?
かぐや: それは……あの先生のおつむりの回路がメルヘンみたいだから……でも本当のメルヘンて……よしましょう、こんなヤボな話は。

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