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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

宇宙戦艦三笠28[グリンヘルドの遭難船・1]

2023-02-16 07:43:54 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

28[グリンヘルドの遭難船・1] 樟葉  

 

 


 ―― 国境の長いトンネルを過ぎると、雪国だった。宇宙の底が白くなった ――


 変なフレーズを口づさんで苦笑してしまった。


「なんだ?」


 艦長席の修一が目だけ向けて聞いてきた。

「ううん、こんな穏やかな宙域に出て、思わず出た感想。でも川端康成の借り物なんで、笑っちゃった」


「雪国か……おれ読んだことないよ」

「わたしは……」「ボクは……」「わっきゃ……」


 星団を抜けてホッとしたのか、わたしの独り言に応えてくれるんだけど、ほとんど同じ。

 元ボイジャーのクレアは、タイトルだけは知っていた。ボイジャーとして打ち上げられたときに、世界文学の中で、ただ一つ入っていた日本小説が、この『雪国』だったんだって。

「素敵な書き出しですね。雪国の前に『そこは』なんて、余計な言葉を入れてないところがいいですね」

「うん、模試で出た問題が、その『そこは』の有り無しの二択だった。たいていの人は『そこは』って無駄な言葉を付けて覚えてる。文章にぜい肉が付いちゃうし、直ぐ後に『夜の底』で同じ音が出てくるからありえない」

「すごいなあ、文学への愛を感じるぞ」

 天音が素直に感心した。

「修一よりはね。あたしんちブルジョアじゃないから、奨学金で進学すんだ。ある程度の成績でなきゃ奨学金取れないからね」

「オレんちも似たり寄ったりだけど、勉強はしてねえ」

「修一は、それでいい。あんまり先のことを心配してると、人生小さくまとまってしまうからな……」

「なんだか、妙に優しいんだな、樟葉」

「この宙域のせいかな……ピーススペースって、まんまだけど、ほんとに穏やかなとこだな、レイマ」

「ピレウスが付げだのよ。暗黒星団の者はめったに星団の外には出でいがね。出だっきゃ秘密の暗黒星雲でなぐなってまるはんでね。こぃがらの宙域は、みんなピレウス付げだ名前だよ……まだ、グリンヘルドもシュトルハーヘンも大人すくてあったごろのね」

 しばらく穏やかな沈黙が続いた。


 そう……暗黒星団を抜けると、ピースペ-スだったのさ。


 ウレシコワが自分で作ったサモワールで、お茶を配っているときに思わず呟いてしまった。

 その時、コスモレーダーに微かな反応。

「前方0・5パーセクに三隻のクルーザー……エネルギー反応微弱。遭難船の可能性大」

「ぼくも、捉えた。グリンヘルドの哨戒艦の様子」

 トシが、穏やかにつづけた。ナンノ・ヨーダの訓練の賜物か、みんな、普段の任務もテキパキこなせて、艦内生活も穏やかになってきた。

「レーダーを映像に切り替え、拡大」

「ラジャー」

 修一の指示で1000倍の映像にする。

 おお……

 グリンヘルドの三隻は立体としては全く無駄のない球体をしていた。

 なんだか作りかけの雪だるまが放置されているようにも見えた。

 解析すると、意外にも新鋭艦。二隻はロボット艦で、残り一隻に生命反応がある。

―― 危害は加えない。遭難しているのなら救助に向かう。乗船してよろしいか ――

 そう通信を送ると「救助を要請する」と穏やかな女性の声で返ってきた。


 グリンヘルドのクルーザーには、修一とわたしだけで乗り込む。ロボット艦への警戒も緩められないからだ。


 全き球体のどこに入り口があるのか戸惑ったけど、近づくと一点が仄かに光り、近づくと、円形に口が開いた。

 二重の隔壁を通ると、ホログラムの艦内案内図が点滅してブリッジへのルートを示してくれる。

 そして……。

 金魚鉢のようなブリッジに入るとシートをほとんど水平にして、女性のクルーは眠っているように見えた……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長



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宇宙戦艦三笠27[フィフスのクレージードリル(訓練)]

2023-02-15 06:27:13 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

27[フィフスのクレージードリル(訓練)]  

 

 


 最初は、単なるジャンケンだった。

 ロボットが相手だったが、スキルを人間程度に設定してあったので、まあ、十回勝負で六勝四敗というところだった。


「さあ、これが出発点だ」


 と、言われても、先が読めない。

「こんなので訓練になるのか?」

 天音が口を尖らせる。

 天音は父が職業自衛官だったので、横須賀の親類に引き取られるまで、父の転勤に付き合って何度も引っ越している。ゆく先々で頼れる者は自分一人「揉まれているうちに度胸も付いて勘も良くなった」と言っているが、俺は、持って生まれたものだと思う。


 ケンカや勝負ごとに勝った時に「天音の強さは生まれつきだもんな」と言って張り倒されたことがある。

「強いなんて言うなっ!」

 褒めたのに、なんでキレるんだ?


 後で樟葉が話してくれた。


「天音はね、自分が弱くて大人しい子だったら、お父さんはPKOなんかに行って死ぬことは無かったと思ってる」

「あ……」

「いくら自衛隊でも父子家庭の下士官を引っ張っていくことはしないよ。でもね、大変なPKO任務に志願して行ったお父さんは天音の誇りでもあるんだよ」

 高校生になって『二律背反』という言葉を習った。俺の『二律背反』は天音の顔をしている。

 そんなことを思い出したら、ミカさんの頬がポッと赤くなった。みかさんは、今の思い出をエネルギーに変換したんだ。三笠は俺たちの思い出をエネルギーにしている。

 そんなミカさんの足元に四匹の猫がすり寄って来る……こいつら、三笠のネコメイドたちだ(^_^;)。こいつらはミカさんからエネルギー貰ってんのか?

 ミャーー(^▽^)

「今のは人間と同じ設定だったので、君たちの実力がそのまま出ておる。今度はロボットのスキルをマックスに上げる。ロボットは、君たちの表情や息遣いからちょっとした変化まで解析してジャンケンをする。君たちは、そのロボットの解析を読んで対応してもらう」

 

 今度は完敗だった。

 

 ガルルルル

 天音が唸ってる。ほんとはただの勝負好きなのかもな(^_^;)

 振り向くと、ミカさんまで負けている。船霊のみかさんが勝てないのなら、仕方がないと俺たちは思った。

「はああ……だめじゃのう。これが戦闘なら、全滅じゃ」

 ナンノ・ヨーダは四等身の頭を振ってため息をついた。

「だって、ミカさんだって勝てないんだよ(>0<)」

 トシがプータレる。

「船霊は、クルーの能力に合わせて成長する。船霊とはそういうもんだ」

「テヘペロ(๑´ڡ`๑)」

 ミカさんはテヘペロで誤魔化す。ウレシコワは船を下りた船霊だったので、湯気を立てながらも寂しい顔をしている。クレアは、元々前世期のボイジャーだったので、CPの能力が追いついてこない様子だった。

「負けても仕方がないと思っとるじゃろ、しょせんジャンケンは運しだいじゃと。その負けても仕方がないでは、グリンヘルドにもシュトルハーヘンにも勝てん。今度はやり方を変える。参加するロボットを百万にまで増やす。そして、君たちを含め全員に百円を持ってもらう。二人一組で始め、勝った方が勝った者同士でまた一対一の勝負。簡単な計算じゃが、最後の勝者は一億円を手にすることになる。それでは、勝負じゃ!」

 ザワ

 百万のロボットが転送されると圧を感じる。ネコメイドたちは、どこかに消えてしまった。

「オーーーーシ!」

 天音は両の手の平を交差させて組んで覗き込むっちゅう伝統的準備姿勢!

 すると、ロボットの半分以上が真似をするが、関節のリミッターを超えてしまうのか、こんぐらがって取れなくなってしまう。

「おまえたちは、真似せんでいい!」

 ヨーダのこめかみがピクピク震える。

 真似しなかったロボットたちが直してやって、仕切り直し。


 最初はグー、ジャンケン、ポン!!


 百万と八人の声がダススターに轟いた。

 無邪気な欲と言うのは恐ろしいもので、数回繰り返しているうちに三笠組の八人が残るようになり、最後の勝者は俺一人になった。

「これで良い。無邪気な欲が勝利に繋がる。これが実戦なら、三笠の大勝利じゃ!」


 が、これで終わりではなかった。


 次に、レフトセーバーの使い方の訓練であった。レフトとは心臓が左側にあることからついた名前だ。
 人間は最後に心臓を守ろうとする。人と並ぶとき左側に人に立たれると、なんとなく落ち着かないことや、喫茶店、映画館のシートが左側から埋まっていくことなどにも現れているんだそうだ。樟葉は単に著作権の問題かと思ったが、ミカさんと目が合うと、ミカさんは、ただニッコリ笑みを返してきただけだ。


「よいか、やみくもにセ-バーを振り回しても勝てやせん。心の中にプレステのコントローラーを思い浮かべよ。そのコントローラーで操作するようにやれば、勝利は疑い無し。励め!」

「でも、なんでプレステのコントローラー? うちXボックスなんだけど」

「プレステはフォーまできておる。フィフスは、それを超えるものじゃからじゃ!」

「プレステは5(ファイブ)まで出てるんだけど」

 自分は持っていないくせに、トシが苦情を言う。

「ファイブは半導体不足で品薄じゃ!」

 ヨーダも負けてはいない(^_^;)

 ダジャレとこじつけみたいだったが、やってみると、なるほど上達が早かった。

 他にも、様々な訓練(ドリル)が課された。中には、ここで書けないような内容も含まれているが、それではつまらないので、その一端を紹介しよう。

 セックスアタックへの耐性訓練と言うのがある。バーチャルではあるが、絶世のイケメンと美少女の誘惑に勝つ訓練だ。三笠のクルーは、みんな高校生という多感な年ごろ、ウレシコワやクレアも入れ物としての体は少女だ。反応は人間と変わらない。

 詳述は省くが、この訓練がもっとも大変だった。三笠組は年頃であるということとラノベのキャラであるということで、この種の誘惑には弱かった。レイマ姫は過去に訓練を受けていた様子だった。で、この訓練が一番つらいことを知っていた様子であるが、この訓練のときだけ標準語になることが可笑しかった。

 かくして、ひと月にわたる訓練が終わり、各自のHPとMPが発表された。ゲームで言えば、初回最後のボス戦の時のような数値だった。

「これからは、実戦が訓練であると思って頑張りたまえ!」

 ナンノ・ヨーダは、そう締めくくった。クルーたちは、まるでチュートリアルを終えたばかりのゲーマーのように新鮮な闘志に燃えていた。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

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宇宙戦艦三笠26[ダススターとヨーダ]

2023-02-14 09:23:07 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

26[ダススターとヨーダ]  

 

 

 一言で言って、クレーターの中は一見ガランドーだった。

 モニターで拡大すると、ガランドーの中には神経細胞のシナプスのようなものがあって、それぞれがニューロンのような突起を張り出している。突起の先にはゴミのようなものが付いているが、よく分からない。

 なんだ、あのシナプスとニューロンは?

「シナプスはベース(基地)、ニューロンは港の埠頭のようなものよ」

 クレアが冷静に解析してくれる

 ガチーーン

 誘導ビームは――しっかり掴まえたぞ――という感じの牽引ビームに切り替わって、速度は落ちたがレールに載っているような確かさで引っ張られていく。

 三笠は、アルファ星のど真ん中にある巨大シナプスのニューロンの一つに接岸した。

「おお、これは……」

「ニューロンの突起のように見えてたのは、全て戦闘艦や戦闘機だよ……!」

 ニューロンの埠頭を歩きながらトシが、感激の声を上げた。

「いったいどれだけの数なんだ……」

 演習で、レイマが言っていた数字がハッタリでないことがよく分かった。

 いつも、俺の喜怒哀楽に茶々を入れる天音も、それを程よくいなしてくれる樟葉も黙ったままだ。

 クレアは観察と演算のし過ぎで頭に放熱の陽炎が立っている。

 ウレシコワは数歩先の地面だけを見て歩いている。ソ連、ウクライナ、中国と流浪の半生だったので、余計なものは見ないという習慣がついているのかもしれない。

 これだけのベースと戦闘艦艇を持っていても、星として観察するとスカスカ。リアルの星の密度の凄さには及ばない。その星々を数光年、数十光年、数百光年の隔たりをもって、無限に抱えている宇宙というのは、泣きたくなるほどに広大なんだ。

 この旅が終わったら、俺は宗教の一つや二つは起こせるかもかもしれない。

 戦後、真珠湾攻撃体の飛行隊長だった淵田中佐は、戦後キリスト教の伝道者になったし、アポロ計画で月に行った宇宙飛行士の中にも宣教者になった者がいるという。


 埠頭の向こうに人が現れた。


 人型のロボットを二台連れている。ロボットは中学生ぐらいの背丈だが、人間の方は、それよりも低い、いや小さい。

「アルファ星にようこそ。姫には申し訳ありませんが、念のためダススターに寄ってもらいました。お許しを」

「やっぱり、わの考えだげでは頼りねようだね」

「畏れながら、10万機の飽和攻撃のシュミレーションで、船が大破、艦長戦死の結果では、暗黒星団からお出しするわけにはまいりません」

「ハー、やっぱり、あれやるんだが?」

「ベー卿も同意です、殿下」

 レイマ姫は、思い切り嫌な顔(⁎ꈍ﹃ก⁎)をした。

「このアルファ星は、通称ダススターと呼ばれておりましてな。暗黒星雲の中にあるベースの一つです。あなたがたには姫といっしょにフィフスの訓練を受けてもらいます。おお、わたしとしたことが自己紹介を忘れておりましたな」

「この爺っちゃは、暗黒星団一のジョーダンマスターだす。ジョーダンでしゃべっても冗談の通ずるふとでねはんで、そのづもりで」

 レイマが前フリをした。

「わたしは、地球で言えば大統領補佐官兼特殊部隊の指揮官と教官を兼ねたことをやっとります。名前はナンノ・ヨーダ。ナンノが苗字で、ヨーダが名前です」

「で……ナンノ先生、我々が受ける、そのフィフスの訓練とは、どういうものなんだろうか?」

 天音が恐る恐る聞いた。恐る恐るでもタメ口だけどな。ウレシコワは黙ってついてくる。大昔のソ連を擬人化したような沈黙だ。クレアは五感のスイッチを切ったのか、頭に陽炎をたてることもなく、外交的笑顔になり、トシは早くも疲れが出たのか背中が丸い。

 ミカさんは分身を同伴させてくれた。日本の神さまは便利で、分祀という形で、いくらでも分身がきいた。ミカさんは年季の入ったアルカイックスマイルだ。

 埠頭を過ぎると、管制塔のような建物の中に入った。

「このダススターには、君たちが考えているより一桁多い艦艇と作戦機がいる。きたるべきグリンヘルドとシュトルハーヘンとの戦いに備えてのことです」

「この暗黒星団は、グリンヘルドもシュトルハーヘンも敬遠してるんじゃないですか?」

「今の段階ではのう。しかし、将来は分からん。げんにこうして三笠の諸君が、ここにいる。君たちが来られるということは、敵がいつ来てもおかしくない……ですなレイマ姫」

「……んだの、ヨーダ」

 それから、三笠のクルーたちはフィフスの訓練に入った。なんでフィフスというのか不思議だったが、答えは簡単だった。

「フォース(4th)の上をいくものだからです」

「ああ、5th(五番目)」

 簡単に言えば第六感を磨き、その5thにふさわしい魔術を身につけることらしい。

 五番目で第六感……それなら、6th(シクスス)とか言えばいいのに。

―― ヨーダのジョーク ――と、レイマが囁く。

「第六感というのは、閃くもので、人の意思ではコントロールができません。意志によって、自由に操れるのがフィフスなのです。コントロールできる第六感、故に、その手前のフィフスというわけですな」

 えーーほんとかなあ(^_^;) なるほどぉ むむむ  反応はさまざま。

 で、その最初は、ナンノ・ヨーダが連れていた二台のロボットとジャンケンすることから始まった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

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宇宙戦艦三笠25[暗黒星団とど根性レイマ姫]

2023-02-13 07:24:40 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

25[暗黒星団とど根性レイマ姫]  

 

 


「ただ今の戦闘ぉ、三笠大破ぁ、航行不能ぉ。艦長と砲術長戦死だ~す( ´ ▽ ` )」

 可愛い顔で、レイマ姫は宣告した。


「今の設定ありえねーよ! 両舷から10万機の飽和攻撃なんて、攻撃側も味方の弾くらって、二割がたの損失は出てるっての! なあ、クレア!?」

 子どもみたいに拳を上げるトシ。

「あ、えと、10万機の戦闘機を、一度に管制して攻撃する能力は、わたしの知っている限り、ありえません」

「そりゃ、クレアさんは、元ボイジャーでぇ、相当の宇宙情報持ってらげども、全ででねわ。わんど暗黒星団観測すた限りは、グリンヘルドもシュトルハーヘンも、こぃぐらいの戦闘は普通にこなすだ」

「でも、同士討ちの二割に、三笠が撃破した分を入れれば6万機の喪失よ。部隊としては壊滅。次の作戦に差し支えるわ」

「そうだ。仮にあたしたちを撃破したとしても、他の国の艦隊がいるぞ。それに対する準備も……」

 樟葉も天音も自分の立場から反論する。

「でもさ、考えてみたら、そのありえないことでソ連は壊滅したんだよ。レーガンの際限もない軍備拡張に、ソ連はかなわなかった」

 ウレシコワはソ連時代の感覚でレイマの肩を持つ。

「なんど、日本人の末裔だべな。第二次大戦で、負げるど分がってながら、神風やったんだべな。あれ、アメリカは想定外であったって、恐れてながらも尊敬すてらってダースのお祖父ぢゃんも褒めぢゃーよ」

「あ、でも、俺たちは寒冷化防止装置を取りに行くんだから……」

「分がってらわ艦長。死んでまったっきゃなんにもなねものね。い、わーがしゃべりでのは、それぐらいの前向ぎな敢闘精神で取り組まねばぁ、腕は上がねっていうごどなのよ。見でけ、この数字!」

 レイマがクリックすると、モニターに数字が現れた。

 損失:485  損傷:2707  戦死搭乗員:3044

「え! いつの結果だったっけ!?」

 知らない数字らしく、クレアは真剣な顔でモニターを見上げる。

「こぃは、大東亜戦争で米軍が被ったB29の被害よ」

 喪失と損傷を合わせると3000機を超える。

「3192だ」

 天音が正確な数字を言う。さすが砲術長。

 もう一度クリックすると、2505という数字が出てきた。

 ?

「終戦までに製造されだったB29の数だよ」

「え、間違ってないか、撃墜撃破が生産機数よりも多いぞ」

「撃破されだのは修理すて、まだ使ったはんでね」

「それでも、3044人の戦死はけっこうな数字よね……」

 樟葉は、機体の被害よりも戦死者の数を気にして眉を顰める。

「なんどの先人は、困難な戦況の中で、こんきの成果上げであったのよ」

「で、でも、日本は負けちまったんだろ。そんなこと自慢にならねえよ」

 トシが口を尖らせる。

「そうがなあ、ニ十一世紀の今日までのスパンで考えだっきゃね。大東亜戦争って野球さ例えだっきゃ、せいぜい二回の裏。いまの繁栄やら世界がらの尊敬考えだっきゃ十分勝ってらど思うわよ」

 あ、なんか意表を突かれた感じがしたぞ。

「でも、何百光年も離れた暗黒星団が、そこまで地球の事を気にかけてるって、なんか……不思議」

「そう? だって、観察すてあったはんでごそ、こうやって出会えだ時さ、いっぱいお話がでぎるでね。ウクライナだって、自分の戦争さ必死の時さ、世界の穀物状況や日本の北方領土のごど気にかげでらでね(^▽^)」

「あ……」

 レイマは、ちゃんとウレシコワの、ウレシコワ自身でも揺れているアイデンテティーを踏まえて話しをくれている。こいつは、ただのギャップ萌えのお姫様ではないかもしれない。

「あはは、みんな熱心さ聞いでけるはんで、つい生意気しゃべってまったぁ(*ノωノ)。話戻すわね。ま、最初のエクササイズはグリンヘルドの攻撃だげで瞬殺さぃであったはんで、進歩ってば進歩じゃね。もう一回クレアさんとスミュレーションすなおすてけでみるはんで。天音砲術長もよろすくだ」

「お、おう、任しとけ!」


―― 可愛い顔して、あの子、わりとやるもんだねと…… ――


 俺の頭には、祖父ちゃんが歌っていた懐メロのイントロが、リフレインした。

「あ……!」

「どうかした、レイマ姫」

 トシが、急に立ちあがったレイマ姫に声を掛ける。CICに走りかけていた天音も、思わず振り返った。

「申す訳ね、わんつか寄り道すてもらえねだびょんか」

 こめかみを押えて、めちゃくちゃ可愛い顔でお願いするレイマは反則だ!

「じつはぁ……(-_-;)」


 レイマ姫は、暗黒星団の防衛軍があるアルファ星からサイコ通信が入ってきたと言って目を伏せた。


「艦長、申すわげねが、アルファ星さ寄ってもらえねだびょんか」

 納得はしたものの、あの厳しい演習が始まるのかとゲンナリしていたクルーたちは、レイマ姫の予定変更を歓迎した。


「見たところ、大きさも環境も月と変わりません。地表はクレーターが多くて、人工構造物は感知できません」

 クレアの観察だった。

「あの星のどこに、秘密基地があるんだ?」

「近づげば、分がるわ(ಠ_ಠ )」

 レイマ姫は、快活そうに、でも目は真剣……というより、厄介なことになるなという色をしていた。


「え……え、そんな!?」


 クレアが驚きの声を上げた。

「分がった?」

「容積のわりに質量が小さい、小さすぎです。たった今感知しました。たった今まで月と同じ数値だったのに……」

 三笠のアナライザーCPUは、あいかわらず月と変わらないデータを表示していた。

「10万キロさ近づぐど、クレアさんみだいな優秀なアナライザーには、分がってまるんだぁ。アルファ星は人工の星だびょん」

 デススターか!?


 周回軌道に乗ると、極に近いクレーターが開くのが分かった。

「「「「おお!」」」」

「構造物は、全て星の内部にあるのか……」

 俺たちは驚きの声を上げた。

 三笠は誘導ビームに従ってクレーターの中に入って行った……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

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宇宙戦艦三笠24[暗黒星団 暗黒卿ダースべだ・2・レイマ姫]

2023-02-11 07:28:09 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

24[暗黒星雲 暗黒卿ダースべだ・1・レイマ姫]  

 

 

 東北弁とダースベーダー風の衣装は、とっても似つかわしくない。

「まえだおぢが目指すてらピレウス北極どするど、この三笠は、やっと福島あだりだ。というごどだげでもねんだが、言葉はやっぱ訛ってまる、ガースー」


 その間にもダースは、特有の籠ったような声で、荒い息遣いだ。


「訛ってても、貫録あるねぇ。下手に取り巻き連れてかっこつけてないとこなんか、シブいよ!」

 こういうことに関しては、トシは独特の感性で反応する。

「それはだな……ゲホンゲホン、ゼーゼー……」

「大丈夫、ダースさん?」

「なんでもね、歳なんだ。聞ぎぐるすくてすまね、ガースー」

 みかさんの質問に、ダースは年寄りくさく応えた。


「で、御用はなんなのかしら(`Д´)?」


 お誕生会に水を差されたウレシコワは、いささかカドがある。

「折り入って頼みがあるんだ。そえで、みんな集まってらどごろがいど思ってな、ガースー」

「断りもなく現れて、お願いって言われてもねえ」

 天音も、そっぽを向いた。

「まあ、聞くだけ聞いてみようや」

 俺は間に入った。年寄りイジメ的なのは嫌だからな。


「すまね艦長。この暗黒星団は宇宙の大田舎なんだ。ガースー、なんの因果か、星雲の外がらは中の様子は分がね。なんだが、とでづもね暗黒帝国があるみだいに思わぃでら。要は宇宙開闢以来、電波も光も外がらは通さね。ガースー、そえで、宇宙のみんなはおっかねものど思って、寄り付ぎもすね。グリンヘルドやシュトルハーヘンでさえも見向ぎもすね。おめんどが名付げだロンリネスなんて、星どすては一等地なんだぞ、ガースー」


「ひょっとして、暗黒星団の宣伝してこいとか?」

「いや、図々すいお願いなんだが、ガースー、ピレウスまで、一人同乗させではもらえねびょんか?」

「あ、帝国の皇帝とかならお断りだぜ! せっかく和気藹々とやってるとこに、えらそーなオッサンなんてごめんだからな」

「皇帝どがはいねじゃ。このダース、暗黒星雲の代表だ、ガースー」

「でも、そういうナリしてると、皇帝がいるように思うわ」

「そう思っでもらえるみでぐ、こったナリすてらんだ。なんか、もっと偉ぇ存在がいるみでぐ思うびょん、ガースー」

「……ああ」「なるほどね」

 クルーたちは、変に納得した。

「そえで、お願いどいうのは……ガースー……」

「わーがらしゃべるじゃ!」

 もう一人現れた。純白のローブが良く似合う、見るからに王女だった。

「あ、姫……」

「秘密ばらすてはまいねだ!(ダメです!)」

「最後の秘密は……ガースー」

「しゃべったも同然でねの」

「あのう……ひょっとしてお孫さんですか?」

 樟葉が、遠慮なく核心をついた。

「ほら、分がってまったでねの!」

「すまね。実は、このレイマ姫ピレウスさ連れでいっで欲すいのだ。ガースー、この三笠の遠征は一大叙事詩なるびょん。きっど宇宙のレガスーになるびょん。それに、うぢの王女さまが一緒であったどいうごどになるど、暗黒星団の名前も挙がる。ガースー、姑息な手段ど笑わぃるがもすれねがな。それえも、オラだぢは、王女さ、レイマ姫にかげでみるすかねのだ、ガースー」

「あの、レイア姫じゃないんですか?」

「うんにゃ、レイマ姫だ。著作権の問題だす」

「もう、違います。暗黒星雲の言葉で『希望』って意味があるんだ。ずっちゃ、卑下のすすぎだ」

 

 といういきさつで三笠のクルーが増えた。主だったポストは埋まっているので、レイマは主計長ということになった。

 だが、この見かけは宇宙一可愛く、喋らせると完全に東北弁のレイマ姫は、とんでもない力の持ち主だった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

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宇宙戦艦三笠23[暗黒星団 暗黒卿ダースべだ・1・ウレシコワの誕生日]

2023-02-10 09:27:08 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

23[暗黒星団 暗黒卿ダースべだ・1・ウレシコワの誕生日]      

 


 今日はヴァリヤーグ、つまりウレシコワの誕生日だ。

 数奇な運命をたどったヴァリヤーグは、ソ連の航空母艦として作られたが、建造費の不足から工事がストップ。その後ソ連の崩壊からウクライナの所管になるが、ウクライナは彼女を空母として完成させる気持ちも費用も無かった。


 持て余したウクライナ政府は、スクラップにするのももったいないので、売りに出すことにした。

 しかし建造途中の新古品空母として売り出したもので価格が高く。また、空母としては時代遅れであったっため買い手が付かず、中国海軍の息のかかったペーパーカンパニーがスクラップとして格安で購入。最初はカジノとして使われる予定だったが、中国は、これを本格的な空母として修復したが、エンジンが商船用のディーゼルしか間に合わず、空母としては必須要件の30ノットの発艦速度が20ノットしか出せず。艦載機は武装した重量では発艦ができないというお粗末さだった。


 世界は、彼女のことを「空母の実物大模型」と揶揄した。


 当の中国も、これをもって主力空母にするつもりは無い。「遼寧」と改名し、いかついガタイで東南アジアの国々に睨みをきかせ、空母としてのノウハウを手に入れるだけで充分であった。現に彼女のデータをもとに設計がしなおされ、山東と福建が建造された。

 妹二人は、中国の最新鋭空母としてやる気満々だったが、カジノになるつもりだった彼女は気持ちが乗らず、無理なワープで故障したのを機に船霊のウレシコワは三笠にやってきたのだ。

 しかし不調のウレシコワはロンリネスでは上陸もできず、三笠の居候になった気分であった。そんな彼女を慰めるために、ロンリネスを発ってから三日目に、クルーのみんなでお誕生会を開いた。

 

「お誕生日、おめでとう!」

 

 船霊のミカさんも神棚から出てきて、俺が乾杯の音頭をとってお誕生会が始まった。

「ありがとう、みんな。あたし、今日が自分の進水式の日だってこと忘れてた」

 泣き笑いの顔で、ヴァリヤーグの船霊ウレシコワは乾杯に応えた。

「1988年11月25日。君は立派に生まれたんだ」

「でも、船を離れちゃって、今は三笠の居候……」

「気にすることないわよ。あたしだって元はボイジャー1号だったけど、今はクレアとして三笠のクルーよ」

「そうよ、今を元気に生きていく気持ちがあれば十分よ!」

「ありがとう。ミカさんもみんなも懐が深くて、とても嬉しい」

「もう120年も船霊やってるからねぇ……わたしも、いろいろあったわ。原因不明の爆発で二度沈んじゃったし、記念艦になったあと、終戦直後にはダンスホールにされたり水族館にされたり。でも、いろいろあることが船霊にとっては勲章のようなものよ」

「そうだよ。オレたちのブンケンも解散直前だったし」

「部室だって、三笠に来る前に軽音にとられちゃったし」

「メンバーも、みんなワケ有だし」

「ミカさん、ひょっとして、宿無しばっか集めてるんじゃない?」

 樟葉が鋭い質問をして、みんなの視線がミカさんに集まった。

「理由は簡単よ」

 みんなの視線が、みかさんに集まった。

「元の乗組員は、本人はおろか、孫だって生きていないでしょ……」

「まあ、120歳だもんねぇ……」

 トシが気の毒そうに目を向ける。

「人に言われるとムカつくかも……」

「こら、謝れトシ」

「ご、ごめん(;'∀')」

「アハハ、冗談冗談(´∀`)。海自のOBや自衛艦の船霊さんたちにも声かけたんだけどね、わたしって天照大神でしょ。みんな敬遠するのよね」

「アマテラス時代のミカさん、見てみたいっす(^▽^)!」

 トシが授業のように手を挙げる。

「いや、いまさらお見せするような姿じゃないわよ(n*´ω`*n)」

「アマテラスの画像ならいっぱいあるぞ」

 懐からスマホを取り出す天音。

「スマホ出しても検索できないでしょ」

「保存したのがあるんだ……ほれ」

「「「「「「おお!」」」」」」

「な、なんか神々しい……」

 ウレシコワが感動する。

 天照大神の画像は大昔のから現代のアニメのまであるんだけど、どれも雲の上に乗っていたり、後光を放っていたり、たくさん神さまを従えていたりして神々しい。

「あの……この甲冑姿で怖い顔をなさっているのは?」
 
 ウレシコワは、言葉まで改めて質問する。

「ああ……弟のスサノオが高天原にやってきた時にね、スサノオって、めちゃくちゃ不良だったから……」

「あ、知ってます知ってます!」

「はい、樟葉くん!」

 樟葉が嬉しそうに手を挙げるのを指名してやる。

「天岩戸とかに籠ったりしたんですよね! それで『アマテラスは凄い! かっこいい! 畏れ多い!』ってことになって、最後は、スサノオの爪とか髭とか抜いて追放するんですよね!」

「そうだそうだ、これが、その時の画像だぞ!」

「「「「「「どれどれ(._.)」」」」」」

「おお、テリブル!」「姫騎士!」「女大魔神!」

「ああ、もう恥ずかしいからやめてえええええ(;`O´)o!」

「いやあ、ごめんごめん(^_^;)」

「でも、いまのミカさんは、なんでJK風なんすか?」

 少しだけ空気をもどして聞いてみる。

「あなたたちのせいですよ!」

「俺たちの?」「あたしたちの?」

「あなたたちブンケンの人たちは、小さいころから三笠で遊んでいたでしょ」

「え?」「あ」「ああ」「そういえば」

「小中学生は無料だし!」「高校生でも300円だし!」「お弁当も食べられたし!」

「でも、ミカさんなんて知らなかったよ」

「わたしは知ってたぞ」

「わたしも」

「トシは?」

「アハハ……」

「男子はバチあたりだぞ!」

「ウフフ、神さまっていうのはね、そうやって、みんなが集まって楽しくしてくれたらエネルギーが溜まるものなのよ」

「それで、JK風になっちゃった?」

「まあ、慣れると、とっても具合がいいしね、もう元には戻れないかも(^_^;)……あら、お二人はどうかなさった?」

 気が付くと、クレアもウレシコワも黙ってしまった。

「ウ……なんかいいよね、この雰囲気」

「うん、わたしなんか、太陽系出てからひとりぼっちだったし」

「三笠に出会えてよかった……」

「うんうん」

 ちょっとシンミリしてきた。

「なにしてるニャ!」「めでたい誕生日ニャ!」「楽しくやるニャ!」「乾杯するニャ!」

 ネコメイドたちに元気づけられ、グラスを持ち直したところで、そいつがメインモニターに現れた。


 ジャジャジャジャーーーーン


 黒い鎧兜に黒マント、どこかで見たことがある。


「お楽すみのどごろ申す訳ね。わっきゃ暗黒星雲、暗黒帝国のダースべだ!」

「ダースベーダー!?」

「いんにゃ、ダース……べだ」

 

 暗黒帝国との関わりが始まった……。

 


☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠22[暗黒星団 惑星ろんりねす・2]

2023-02-09 08:51:03 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

22[暗黒星団 惑星ろんりねす・2]   

 

 

 予想はしていたがスカイツリーは無かった。

 公衆電話がやたらに多く、当然歩きスマホをしている人もいない。ただ、今はほとんど見かけなくなった歩きたばこはそこここに。
 よく見ると、自販機の飲み物が110円。車のデザインとかは良く分からないけど、シートベルトも無いし、なんとなく古臭い感じがした。

「ファッション古い……」

 天音が後部座席で呟いた。

 俺もトシもファッションには疎かったが、渋谷や原宿を通ってもガングロ茶髪にルーズソックスとか腰パンとかは、さすがに古く感じる。日本によく似た外国に来た感じだった。


「いやあ、よく来られましたね。東京を代表して歓迎しますよ」


 鈴木という知事さんだそうで、この人のことはよくわからない。

―― 石原さんの二代前の都知事 ――

 クレアが、三笠のCPに照会してくれたようで、レシーバーにクレアの声がした。

 俺たちには、石原さんより前の知事は、ほとんど歴史上の人物だ。鈴木さんは、見かけはとっつきにくい重役タイプだったが、進んでいろんな話をしてくれた。

 東京に、もう一度オリンピックを誘致したいことを強調していた。24年後に実現しますよ……と言ってみたかったが、なにか過去に干渉するようではばかられた。

 都庁で昼食をごちそうになり、展望台から下界の新宿を見ていた樟葉が耳もとで囁いた。

「街を行く人たち、なんだか変……」

「なにが……」

「5分間隔ぐらいで、同じパターンが……ほら、あの修学旅行の一団、さっきも通ったんだけどね……ほら、あの子またこけた」

「そうなの?」

―― みんな、この星はバーチャルだよ! ――

 クレアが、興奮して言ってきた。

―― 昨日から、この星の主だったことメモリーにしてるんだけどね、人工的なことは信号から人の動きまで、昨日といっしょ。よくできたバーチャルの3DCGみたいなもんだよ…… ――

「ほんとだ、いま飛んでったジェエット機、10分前と機体番号までいっしょだ」

 俺は大胆な行動に出た。

 給仕にきてくれた女の人のスカートを派手にまくってみた!

 なんと、太ももから上は、荒いポリゴンのようにカクカクしていて、真っ黒だった。別に黒いカクカクパンツを穿いているわけじゃない。太ももから上が存在しないのだ。

 そして、その女の人は、何事もなく、そのまま用事を済ますと行ってしまった。

「普通、叫ぶとかするよな……」

 三笠のクルーの疑問は決定的になった。

 そして、あたりの風景が急速にあやふやになり、数秒後には消えてしまった。

 星は荒涼として、荒れた大地が広がっているばかりだった。驚きとやっぱりという気持ちが一度にやってきた。

 三笠のクルーの前に、白いワンピースの少女が現れた。


「ごめんなさい。やっぱり分かってしまったようね」

 

 セミロングの髪を緩い風になぶらせながら詫びる少女。

―― この子はバーチャルじゃないわ ――

「そう、でも人間というわけでもないの」

 え?

「あ、わたしもクレアさんの声聞こえてるから」

 レシーバーもして無いのにクレアの声が聞こえてる。

 不思議に警戒心はおこらなかった。かわいい子だし、なんだか申し訳なさそうな顔してるし。

「あなたは……」

「こうちゃん」

 ちょっと微笑ましい。自分の名前にちゃん付けだ。

「おねえちゃんがいるんだけど、今はくたびれて寝てるから、わたしひとりでお礼を言いに来たの。
わざわざ立ち寄ってくれてありがとう。そして、十分なおもてなしもできなくてごめんなさい」

「そ、そんなことないよ(;'∀')」

 トシがワタワタと手を振る。

 ほんの一瞬だけど、こうちゃんの表情が、いや、顔が変わったような気がした。

―― この星に唯一の生命反応。さっきまであったのは、全てバーチャルよ。あ、裏側にも微弱な生命反応があるわ ――

「それはおねえちゃんです。わたしとおねえちゃんは、この星の星霊なんです。自分で言うのもなんだけど、できのいい星で、がんばれば地球のように生命が生まれていたわ」

 そうだろ、水と大気と適当な気温がある。荒れた半球はともかく、生命どころか人類文明が存在していても不思議じゃない。

「おねえちゃんと二人、いつも地球を見ていて『あんなふうになれたらいいね』と思って……でも、時々大災害とか大戦争とか起こるのを見て、それは、とても怖くって……それで、時どき地球の真似っこして遊んでいたんです……」

 なんだか、臆病な高校生みたいで、ちょっと親近感だ。

「でも、わたしたちが想うほど、地球の人たちはわたしたちには関心が無くて、ずっと見ていてくれたのは中国の天文学者の人だけです」

 ああ、安告正のことだな。

「あ、ああ、ごめんなさい。なんか愚痴っぽくなっちゃって(^_^;)。とにかく、立ち寄ってくれてありがとうございます! また、お帰りの時でも、よかったらお立ち寄りください(≧∇≦)!」

 ポン

 いっしゅん真っ赤な顔になったかと思うと、可愛い煙を残して消えてしまった。

 

 三笠に戻ると、クレアがネコメイドたちを助手にして、せわしなく星の解析をやっていた。


「99.999999%地球と同じ……」

「違いを解析……」 

 ミケメがエンターキーを押そうとしたら、ミカさんが現れた。

「止しましょう、あんなに恥ずかしがり屋さんなんだから」

「ああ、それがいいと思う」

 俺が声を掛けると、みんなビックリしたように振り返った。どこまで熱中してるんだ(^_^;)

「あら、お帰りなさい」「「「「お帰りなさいませ!」」」」

「わたしたち、お夕飯の用意をいたします!」

 ピュー

 ネコメイドたちは逃げるように行ってしまう。

「さっき、お礼を言ってた時、こうちゃんの顔が一瞬だけ妹の顔になったような気がした」

「そうか……」「そうなんだ……」「…………」
 
 天音と樟葉がしみじみし、ウレシコワは黙って微笑んだ。

「あ、星の表側からメール!」

 クレアがメインモニターを切り替えると、お袋が高校生の頃に書いていたような丸文字が現れた。

―― ありがとうございました、今度はお目にかかれればと思います。あん(こうちゃんの姉)――

 名前の由来に思い当たり、みんなでクスクス笑って三笠は発進した。


 みかさんは、星に『ろんりねす』と名付けてやった。

 


☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠21[暗黒星団 惑星ろんりねす・1]

2023-02-08 08:47:47 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

21[暗黒星団 惑星ろんりねす・1]   

 

 


 暗黒星団とは、真っ黒、あるいは真っ暗な星団と言う意味ではない。

 前世紀末に発見されて以来、地球や地球の周回軌道にある電波望遠鏡で観察はされている。

 発見者は中国の安告正(アンコウチャン)。しかし、これといった発見や生命反応のある星が確認されたことが無い。安告正は真面目で清廉な学者であったので、観察に予断を交えることもなく、親が名付けた名前の通り、学会の中では正しきを告げる人で、学者としては不遇のうちに亡くなった。

 告正の死後、注目する学者も減って、面白みのない星団との評価が定着し、研究や観察を続けても宇宙物理学者としての名声が上がったり将来が明るくなる見通しが無いということで、いつしか発見者の安告正をもじって『暗黒星団』と呼ばれるようになった。

 逆に言うと、通り一遍の調査しかなされたことが無く『実際に行ってみれば、なにが飛び出してくるか分からない星団』と、SFやアニメの分野で想像力を逞しくする者もいたが、なんでも逆説やどんでん返しでしかストーリーを組み立てられない貧困クリエーターの戯言と揶揄された。

 まあ、宇宙戦艦ヤマトやガンダムでしか宇宙に飛び出せないリアルでは仕方のないことだがな。


「他の国の船は、この星団を迂回しています」

 アナライザーのクレアが、航跡の残像を検知して、そう言った。

「ここを通らなきゃ、他の船に追いつけないからな」

 みんなの覚悟を促すように腕を組む。皆は、無言をもって賛同の意を示してくれる。

 ピピピ

 受信のシグナルが鳴って、モニターにメッセージが浮かぶ。

 な、なんだこれは!?

 惑星ロンリネスから微弱ながら「歓迎」の信号が送られてきたのだ。

 ロンリネスの存在については、そのスケールと軌道は知れていたが、それ以外は影絵を見るように分からなかった。

 つまりはシルエットしか分からなくて、どうせ暗黒星団。生命反応はおろか、大気さえ無いだろうと決めつけていた不毛の惑星だ。

 星団の周囲には、いくつか宇宙船の航跡残滓が見られたが、全て、勢い余ってかすめた程度のもので、星団内部に入り込んだものは無かった。

 間もなく三笠は暗黒星団に突入。入り込むとレーダーもソナーも感度を取り戻し、クレアがせわしくアナライズし始める。

 調べてみると、自転速度は遅く、仮に地球方向から星団に突入しても荒涼とした月面のような半球しか見えていなかったことが分かった。

 世の中には、近づいてみなければ分からないことがある、ということを実感した。

「こんな面を隠していたのか!?」

「見えていなかった半分は地球型です」

「そんなことがあり得るのか?」

 ドリフターズかなにかのコントに、体の前はちゃんと服を着ているのに、後姿は丸裸というのがあった。惑星全体でコントをやっているのか、めっぽう恥ずかしがり屋の惑星なのか。

「地球の1/3程の生命反応があります。寄ってみます?」

 クレアが背中で尋ねる。

「儀礼的に一日だけ立ち寄るか」

「地球に似すぎているのが気になる……」

 ウレシコワ一人が慎重だったが、他のメンバーは、平均的日本人らしいというか、しょせん高校生というか、流れのままに招待を受けることにした。

 地球ソックリの半球は七割の海と三割の陸地でできていて、ちょうど恒星からの光を斜めに受けているせいか、ほんのり恥じらっているようにも見える。

 東西に大陸というか、月面めいた裏側の端っこが見えていて、中央の海には、地球のどこかにありそうな島々が浮かんでいる。

 その中の一つが、関東地方だけをデフォルメした日本列島のような形をしていて、東京湾を思わせるところから電波が発せられている。

 ピピピ ピピ ピピピピ

 寄港地はヨコスカを指定された。着水して近づくと、それは見れば見るほど横須賀に似ていた。

「懐かしいね、島のあそこだけが横須賀にそっくり」

「他の地域は?」

 樟葉が、当然のように聞いた。

「日本のような街が、あちこちに……ただ……」

 クレアの濁した言葉に全員が注目した。

「サーチの結果が出るのに、0・05秒タイムラグがあります」

「原因は?」

「弱いバリアーか……この星の磁場の影響か……三笠からでは確認できないわ」

「ま、とにかく存在するんだから寄るだけ寄ろう。天音、礼砲の用意だ!」

「了解」

 三笠は、21発の礼砲を撃ちながら、ヨコスカに入港した。

 港は横須賀にそっくりだった。港を出入りする船、アメリカ第七艦隊に自衛隊の横須賀基地。三笠公園にある三笠までそっくりだ。

 桟橋には、自衛隊とアメリカ海軍の音楽隊が軍艦マーチとアンカーアウェイの演奏で出迎えてくれた。

 市長、自衛隊、第七艦隊の挨拶を受けたあと、留守番にクレアを残して、全員が、横須賀ホテルに向かった。

「横須賀の街にそっくりなんですけど、ひょっとして、僕たちと同じ人間がいたりするんでしょうか?」

「さあ、どうでしょう。広い意味では地球とパラレルな世界ですが、なにもかもというわけではないと……まあ、ご自分の目で確かめてください」

 出迎えの市長は、にこやかな顔で応えた。

 望み薄だと思った。市長もミスヨコスカも自分たちの世界とは違う人物だったしな。

「ロシアの人は来ないんですか?」

 ウレシコワが淡い期待を込めて聞いた。

「あなたはロシアの方ですか?」

「今はウクライナになっていますが」

「それはそれは、さっそくロシア領事館にお知らせしておきます」

「お聞きになるならウクライナ大使館です」

「え、ああ……」

 市長が助役に耳打ちすると「早急に用意します」と返事するのが聞こえた。

 耳に掛けた骨伝導イヤホンから『ウクライナ大使館が出現しました』とクレアから連絡が入った。

 昼食会のあと、リムジンで、ヨコスカの街を見て回った。

「桜木町駅が昔のままよ……」

 樟葉が呟いた。

「まるで、『コクリコ坂』の時代だな」

 さすがにオリンピックのポスターなどは無かったが、あきらかに20年以上昔の横浜・横須賀の姿だった。

「あたし、自分ち見てくる!」

 天音がたまらなくなってリムジンを降りた。もし20年前のヨコスカなら中東で亡くなったお父さんが生きているだろうからな。


 学校の横を通ってもらった。古い校舎などはそのままで、十分自分たちの学校と言えたが、違和感を感じ、そのまま素通りした。

 ドブ板横丁は、昔の賑やかさがそのままで、アメセコの店などが繁盛していた。

「お父さんがいた……」

 ホテルに帰ると、天音が目を赤くして、ラウンジのソファーに掛けていた。

「会えたのか!?」

 意外だった。日本列島の形もいい加減だったしクリミア大使館も大慌てで用意したみたいだし、そこまでそっくりだとは思わなかったからだ。

「20年前のお父さんとお母さん。あたし知らないふりして道なんか聞いちゃった。娘だなんて言えないもんね……だって、あたしが生まれる前の時代っぽかったもの」

 樟葉も、ブンケンらしく、夕方までトシと二人でヨコスカの街を見て回った。

「ブンケンに残ってた資料そのままの横須賀だったわ」

「多分、20年遅れの地球と同じパラレルワールドじゃないっすかね!?」

 トシも喜んだ。

 三笠に残したクレアに交代しようかと連絡した。

「20年前なら、もう、あたしは打ち上げられていた。だからいいわよ」

 と答えが返ってきた。

 市長の提案で、あくる日はトウキョウに行ってみることになった……。

 

☆ 主な登場人物

  •  修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
  •  樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
  •  天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
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  •  メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
  •  テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
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宇宙戦艦三笠20[空母遼寧の船霊ウレシコワ・2]

2023-02-07 09:21:54 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

20[空母遼寧の船霊ウレシコワ・2]   

 

 

 

 Расцветали яблони и груши……Поплыли туманы над рекой;……Выходила на берег Катюша……


 彼女は小さく「カチューシャ」を口ずさみながら、やってきた。

「なんだかメーテルみたい……」

 天音呟いたとおり、黒のコートに黒の毛皮帽にブーツといういでたちで、艦首の甲板に佇んでいる。

 艦首のそこだけが黄昏色に染まって横殴りに雪さえ降っている。俺は、広瀬中佐の戦死を知って、はるばるペテルブルグからシベリア鉄道に揺られ、大連駅のプラットホームに降り立ったアリアヅナのように思えた。

「遼寧のウレシコワさんです……」

 クレアが冷静に、しかし語尾は濁して呟いた。

「なんだか、ワケありだな」

「あんなとこ寒いよ!」

「ちょっと!」

 トシは、天音が止めるのも聞かずにブリッジを降り、艦首のウレシコワの元に駆けた。遼寧として発見した時は「放っておこうよ」と言っていたのに、訳の分からん奴だ。

「なんだか、トシ君、鉄郎みたいね」

 船霊のみかさんといっしょにミケメたちネコメイドも現れて、あっという間にウレシコワ歓迎の形ができてしまった。

「やれやれ」

 これ以上抱え込んで大丈夫かという気持ちもあったけど、この雰囲気を無下にすることもできない。

 テキサスジェーンといい、ボイジャーのクレアといい、宇宙戦艦三笠は宇宙的規模で頼られるように出来ているのかもしれない。

 

「遼寧では、つっけんどんでごめんなさい」

 

 ブリッジに着くと、以前のウレシコワと、打って変わった穏やかさで頭を下げた。

「ブリッジじゃ狭いわ、長官室でお話しましよう」

 みかさんの提案で艦尾の長官室に向かった。ウレシコワが艦内に入ってから、心なし……いや、はっきり寒い。

「ウレシコワ、どうしてこんなに寒いの?」

「ごめんなさい。たぶん、あたしの心が寒いから……」

 メーテル風の暖かそうなコートは見せかけだけではなかったようだ。

 

 長官室はスチームが効いて、そんなウレシコワをさえ包み込むような温かさになっていた。

 

「なにか、暖かいものを頂きながら、お話しましようか?」

「じゃ、わたしに作らせて」

 ミカさんの提案に、ウレシコワは全員分のボルシチ風鍋を作った。甲斐甲斐しく給仕をするウレシコワだが、どこか屈託がある。

「いつまでも、三笠にいてくれていいのよ」

 ミカさんの言葉は、クルーたちにもウレシコワにも意外だった。

「なにもかも、お見通しのようね……」

 ウレシコワは、安堵したようにオタマを置いた。

「いっしょにピレウスに行きましょう。ピレウスへの旅は、どこが勝ってもいい。どこかの国の船が、寒冷化防止装置を受け取れればいいの。これは全人類と、全ての船霊の戦いなんだから」

「わたしは、三笠に勝ってほしい。わたしもクルーとして働くわ。三笠こそ勝つべき船なのよ」

「どこが勝っても、誰が船霊でも、それは地球の勝利よ」

 そう言うと、ミカさんは、オタマを置いて所在無げなウレシコワの手を取った。

 ネコメイドたちが食後のお茶を給仕してくれる。

 そのティーカップの紅茶が微かに揺れて、三笠は増速した。


 

☆ 主な登場人物

  •  修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
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宇宙戦艦三笠19[空母遼寧の船霊ウレシコワ・1]

2023-01-11 18:23:28 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

19[空母遼寧の船霊ウレシコワ・1]   

 

 

 レベルマックスのワープが終わると後方に中国の航空母艦遼寧が感知できた。

 こちらがワープ完了直後の静止状態なので、微速で三笠の後を追っている形になっている。

「遼寧に連絡――救助の必要有や否や?――」

 副長の樟葉が、俺が言い終わる頃には連絡をし終えていた。ワープの間に見た夢のせいか、二人の呼吸はとても合ってきた。

 遼寧は、元ロシアの航空母艦だったので、見かけはいかつく堂々としている。ブリッジを中心とする上部構造物は、クリンゴンかガミラスのそれを思わせるほどにマガマガしい対空、対艦兵器が各種のむき出しのレーダーと共に取り囲んでいて、いかにも頼もしい。艦首はバルバスバウ(球状艦首)とよくバランスの取れたジャンプ台式の滑走甲板。アメリカの空母に比べると小ぶりではあるが、見かけは立派な航空母艦だ。

 それが、時速300キロという、宇宙船としては静止しているのに等しい鈍足で漂流している。

「修一、矛盾する返事が複数きたわよ」

 樟葉が見せたタブレットには8通の返事があった。「本艦に異常無し、お気遣い無用」という木で鼻を括ったようなものから、「救援を乞う。本艦は操舵不能、漂流しつつあり」という悲壮なものまであった。

「放っておこうよ」

 トシはニベもなかったが、美奈穂もクレアも、様子を見に行った方がいいという顔をしていた。

―― ただいまより貴艦に接舷する ――

 そう返事をすると、これに反対する反応は返ってこなかった。

 遼寧には樟葉とクレアが向かった。樟葉は口数は少ないが冷静な判断ができる。クレアの分析能力は三笠のマザーコンピューターの次に優秀だというミカさんの判断だ。


 遼寧の艦内は荒れていた。

 三笠と違ってクルーは多いようで、数百の人の気配がした。

「ようこそ、艦内をまとめている紅紀文です。艦内の序列では3位ですが、とりあえず艦長代理と思ってください」

「船は停止同然のようですが、機関に故障でもあったんですか(。í _ ì。)?」

 クレアが、白々しい心配顔で聞いた。

 アナライザーを兼ねているクレアには分かっていた。この遼寧はウクライナから、スクラップとして中国が買ったもので、エンジンさえ付いていなかった。

 空母は、飛行機を発進させるため、30ノット以上の速度が必要で、元々は強力なガスタービンエンジンが4基ついていたが、スクラップと言うことで、エンジンは外されていたのだ。中国はやむなく商船用の蒸気タービンエンジン4基を付けたが、速度は20ノットしか出なかった。20ノットでは、対空、対艦兵器を満載した戦闘機を発艦させることができなかった。その他電子部品にも不備があり、日本製の民生品で間に合わせていて、まあ、実物大の航空母艦の模型に等しかった。

「もおおお、やって、らんないのよね(;`O´)!」

 ウサ耳をブンブンさせて、バニーガールコスのロシア娘が割り込んできた。

「遼寧の船霊さまよ」

 クレアが樟葉に耳打ちした。

「あ、ウレシコワ……!」

 紅紀文が慌てた。

「ズドラーストヴィーチェ」

 おざなりな挨拶だけすると、ウレシコワは紅紀文の横顔五センチまで顔を寄せて息巻いた。

「だいたいね、あたしは香港でカジノになる予定だったのよ! だからウクライナ出るころから覚悟決めて、こんなナリして頑張ろうと決心してきたのにぃ、今になって空母に戻るなんてありえないわよっ!」

「いや、だから艦内委員会にも諮って、今後のことは……」

「それに、よりにもよって、日本の三笠に救援頼むなんてどういう神経してんの!? ニェット! あたし、絶対やだからね!」

 なるほど、日本海海戦でボロ負けしたロシアとしては、日本の救援は受けにくいだろう。まして、こちらは当時の連合艦隊旗艦の三笠だ。

 船霊のウレシコワを挟んで、遼寧の代表者たちが集まって、もめはじめた。

 ウレシコワは、特別に背が高いわけではないが、網タイツに5センチのヒールを履いて40センチはあろうかというウサ耳を付けている。数十人の幹部乗員に取り巻かれても、耳がピョンピョン動いて、コミカルに目立つ(^_^;)。

「ああ、これはまとまらないわねぇ……」


 結局、盛大にため息をついただけで、樟葉とクレアはそのまま三笠に帰ってきた。


「あれ……でも遼寧、動き出してるぜ」

 二人が三笠に帰ると、トシがメインスクリーンの遼寧を指さした。

「最低動けるようにはしてやれって、ミカさんのお願いでしたから」

 クレアが、きまり悪そうに言った……。


☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊

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宇宙戦艦三笠18[クレアが見せてくれた夢]

2023-01-04 08:46:57 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

18[クレアが見せてくれた夢]   

 

 


 東郷少尉は、無表情のまま水盃を飲み干した。

 真珠湾で三飛曹で参加して以来生き残った数少ないベテランである。ガダルカナルの攻防に負けて以来、部隊は解隊され、東郷は一人横浜鎮守府に移され、各地から選抜された訓練生の飛行訓練に明け暮れていた。


 訓練生が特攻に使われることは分かっていた。

 基本の操縦技術を教えると、航法や戦闘訓練はおざなりに合格点を付けさせられた。旧式のグラマンならともかく、米軍の主力戦闘機であるF6Fやコルセア、ムスタングなどに太刀打ちできる技術ではなかった。それでも東郷少尉は合格点を出した。次に待ち構えている急降下爆撃や超低空飛行による爆撃訓練に時間を割くためである。

 急降下爆撃は降下角70度でやらせる。普通は、せいぜい60度であるが、それでは米軍の優れた対空火器に落とされてしまう。
 70度でも危なかった。上空500で数秒間80度にさせる。敵の対空砲の最大仰角を超えている。つまり敵の弾に当たらないように突っ込む訓練である。ただ、80度の急降下にゼロ戦は耐えられない。せいぜい30秒が限界である。敵弾の命中率が上がる500メートルで80度にさせるのである。ただ訓練なので、80度は、ほんの数秒で水平飛行に戻させる。10人に1人ほど、低空飛行に向いた者がいて、彼らには低空飛行を教えた。

 東郷少尉たち下級のベテランは気づいていた。敵の対空砲の命中率がいいのは米兵の腕ではなく、砲弾そのものに仕掛けがあるのだと。


 何度か、試しに超低空で敵艦に近接爆撃して気づいた。海面近くに飛んでくる敵の弾は、とんでもない場所で爆発する。さらに海面3メートルほどの高さで飛ぶと、敵弾は射撃直後に爆発した。おそらくは音響に関係した仕掛けがある。海面近くでは爆音は海面に乱反射して爆音が木霊して音源が分かりにくくなる。だから超低空ならば、敵弾に当たらずに接近が出来る。そのために、超のつく急降下爆撃と低空爆撃の訓練に力をいれた。

 本当は、こういう訓練は不本意であった。どちらも爆撃を終えた直後に急上昇し、敵の対空砲火に無防備な腹を晒すことになり、高い確率で撃墜されるからだ。必中を期待できる攻撃方法だが生存の望みは薄い。投弾に成功しても回避のタイミングを誤って敵艦に激突する可能性が高いのだ。でも、彼らには、それを回避する訓練は不要だった。

 そのまま敵艦に体当たりするのだから。

 東郷は、別のベテラン教官といっしょに、飛行長や飛行隊長に意見具申をしたことがある。

「二機一組で低空爆撃を加えます。一機はそのまま爆撃して姿勢を戻して離脱します。もう一機は我々がひき受けます。敵の直前で投弾して真横に振って離脱します。敵は我々に気を取られ、僚機の生還率が高くなります」

「高いと言っても、何度かやるうちには貴様たちも墜とされるぞ」

「体当たりさせるよりは、生還率が高くなります」

「われわれに必要なのは、確実な戦果なんだ。無駄な訓練をやっている余裕も燃料もない。だいいち、そんな砲弾に耳があるような話が信じられれるか」

 東郷の案が採用されることは無かったが、自分で実践し、その名の通り決め弾を出した。

「これをご覧ください」

 東郷は不発の40ミリ弾を出した。

「中に、小さな真空管が入っています。これが米軍の仕掛けなんです。おそらく近接信管……一定の距離になると自爆する砲弾です。これを使われていては、通常の攻撃は通用しません」

「だからこその、神風攻撃だ!」

 東郷らの意見具申は握りつぶされた。

 そして、昭和20年の8月には、東郷自身にも特攻命令が出された。


 操縦席に入って、人の気配を感じた。


 ゼロ戦は、操縦席の後ろに空間がある。移動の時には荷物置きにもできるロッカーほどの空間だ。そこに人がいたのである。

「き、君は……」

 それは、幼馴染の美智子だった。たしか挺身隊にとられて埼玉の工場に居るはずだった。

 美智子の家は維新までは代々半蔵門の警備が担当の幕臣で、当然ながら伊賀流の使い手であった。長い付き合いだったので、互いの覚悟は分かっていた。離陸するまでは無言だったが、上空に上がり直援機も引き返すと東郷は無線のスイッチを切った。

「右手だな」

「え、両手とも隠してたのに」

 美智子は、ずっと腕を組んだままだ。

「俺の目が誤魔化せると思ったか」

「旋盤に巻き込まれて……」

 美智子が見せた右手には指が二本欠落していた。

「なんでこうなる」

「だから、旋盤に……」

「話を省略するな」

「旋盤に巻き込まれそうになったのよ」

「誰が?」

「隣の子が」

「それを助けようとして指を持っていかれたんだな」

「お蔭で帰郷できる」

「途中奄美大島の脇を通る、30ノットまで落としてやるから飛び降りろ」

「帰郷するって言った」

「忍者の末裔だろ、自分の才覚で東京に戻れ」

「先祖は長嶋の一向一揆で半蔵さまに拾われた」

「なら、伊勢だ。東京よりも近い」

「一向宗の者が帰るところはお浄土だ」

「俺の家は禅宗だぞ」

「わたしが連れていってやる」

「……東京湾で落としておくべきだった」

 
 ピケット艦が近くなると、超低空飛行にうつった。さすがに、それからは無駄口をたたくことも止めて、ひたすら目標になる敵艦を目指した。

 それから十数分後、運よく大型空母への接敵に成功し、海面から3メートルの高さで接近。東郷はセオリー通りに対空射撃を躱して急上昇し、敵の飛行甲板の真ん中に激突し、甲板に並んでいた米軍機の全て道ずれにして敵空母を大破させた。空母は大戦中二度と現役復帰することなく、ビキニの原爆実験の標的艦になって沈んだ。

 同じ夢を、修一と樟葉は観た。

 クレアが見せてくれた時空を超えた二人の運命と約束だった……。

 4人それぞれの過去と想いを載せて、三笠は二度目のワープに入ろうとしていた。

 

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの

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宇宙戦艦三笠17[クレアの役割]

2022-12-31 09:33:42 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

17[クレアの役割]   

 

 


 宇宙戦艦三笠は4人で十分コントロールできるようになっている。

 艦長:東郷修一  副長兼航海長:秋野樟葉  砲術長:山本天音  機関長:秋山昭利

 これで十分だった。そこにボイジャーから変態したクレアが加わった。アナライズの補助ということになっているが、三笠にはAIの立派なアナライザーが付いていて、クレアにはやることがない。


 クレアは、一見どうでもいいことをやりだした。


 艦内のあちこちに、小ぶりな一輪挿しを付けて、コスモスのような小さな花を活けたりした。

「あら、コスモス」

 樟葉が二日目に気づいて、それっきりで、なんの効果もないようだったが「あれクレアが活けてくれたの?」「はい……」それだけで、三笠の何かが温まった。

 でも、三笠のどこにコスモスが咲いていたんだろう?

 ちょっとだけ不思議になった。

 樟葉が航路の確認をしようと宇宙海図を広げると、直ぐ上の戦闘指揮所でなにやら気配。

 あら?

 ラッタルを上がると、ネコメイドたちがしゃがんで何かを見ている。

 邪魔しちゃ悪いと待っていると、反対側のラッタルを下りていく。

 なんだろ……上がってみると東郷提督の標の前にフラワーポッド。いくつもの花が芽を出したり蕾を膨らませていたよって、目をへの字にしていた。

 その話を聞いて、小学校で生き物係だったのを思い出した。ウサギとか飼いたかったんだけど、先生にダメだと言われて、樟葉は花の世話を始めた。あれ、すみれだったかな? 見に行こうかと思ったら、トシが叫んだ。


「おれグリンピース食っちゃった!」


 夕食の肉じゃがにグリンピースが入っていた。トシはグリンピースが苦手だ。だから三笠のアナライザーはメニューの中にグリンピースは入れなかった。クレアは、それに干渉してグリンピースを入れたんだ。クレアと目が合うと、クレアは「え?」という顔をしている。

 トシは考えた……というより思い出した。

 トシは妹を亡くしてからグリンピースを食べなくなった。トシの母は、トシの食べるものにグリンピースを入れなくなった。

―― よかったね、一つ克服できた ――

 クレアの小さな声が、直接心に響いてきた。

―― 克服……そうだ。グリンピースは由美が好きだったんだ ――

 妹が死んでから、トシはグリンピースを食べなくなったことを思い出した。


「0・2パーセクの座標に船の残骸。モニターに出すわね」


 樟葉がモニターに出した映像には、定遠の残骸が映し出されていた。テネシーの時とは違って、船の形を留めないほどに壊されていた。

「生命反応は?」

「ない……」

「全滅か……?」

「いや、痕跡もないから、元々無人の船だったようね」

「もともとハリボテのレプリカだったからね」

「贅沢なドローンだ」

 天音が、無感動に締めくくった。

「じゃ、記録だけして、先を急ごう」

 三笠のアナライザーは数秒で記憶し終えると、乗組員たちといっしょに定遠のことは忘れてしまった。三笠は絶えず前を向いている船なのだ。

「定遠から光子魚雷」

 クレアが短く言った。

「え!?」

 樟葉の手が反応した。後部バリアーを張り、フレアーを放ち、船を面舵に切った。その間0・2秒。

 連携が良くなった。


 ドーーン!


 艦尾の方で大きな衝撃があった。

 フレアーと艦尾のバリアーに光子魚雷が命中した。三笠自体には損傷はない。

「危ないところだった……」

「定遠の残骸をダミーにして、光子魚雷を仕込んでいたんです。シュトルフハーヘンの得意技です」

「クレア、よく知ってたわね」

「ボイジャーでいたころに、いろんなことを経験しましたから……」

 チョコレートのような香りがしているのに気付いた。

 調べてみるとコスモスの香りだった。コスモスはチョコレートのような香りを放つ。その香りには鎮静作用があることも分かった。クレアに目をやると、少しニコリとした。


 トシは気づいた。


 グリンピースが嫌いだったのは、妹が死んだのは親が新しくても身に合わない自転車を買ってやったから……トシは、妹の死は自分にあると思って引きこもりになってしまったと思っていた。

 だけど意識の底で、妹が死んだのは、半分は親のせいだとも思っていた。

 臆病と裏表のトシの優しさは、それを押し殺して、グリンピースが嫌いということで現していたのかもしれない。

 でも、知らずにグリンピースを食べてしまった。

 アハハハ

 士官食堂のみんなが笑った。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの

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宇宙戦艦三笠16[ボイジャーが仲間に]

2022-12-26 08:58:11 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

16[ボイジャーが仲間に]   

 

 


 ボイジャーは回収されると、すぐに医務室に運ばれた。

 

 不思議だった。

 光子レーダーで確認した時は、お猪口にアンテナを付けたような古いタイプの人工衛星だった。

 それがモニターで女の子の姿になっていることは確認していたが、こうやって生で見ると、とても不思議になる。頬はほのかなバラ色で、胸は呼吸に合わせてゆっくり上下している。そして、まるで夢を見ているように瞼の下で目が動いているし。

「可愛い子だな……」

「うん、初めて見るのに、なんだか懐かしい」

 顔かたちに敏感なのは、やはり女子だ。天音と樟葉が最初に反応した。男子は、こういう時は驚きが直ぐには顔に出ない。ただ、目を丸くして見つめるだけだ。

「これ、ヘラクレアの娘さんの姿だよ……」

 みかさんが、しみじみと言った。

「どうして、あのオッサンの娘さんの姿に……ってか、あのオッサンの娘が、こんなに可愛いわけ?」

 引きこもりが長かった分、トシの反応は遠慮がない。

「ヘラクレアさん、娘さんのことは、ほとんど口にしなかったけど、それだけ印象としては強くわたしの心に残ったのね。だから、こんなに似ちゃったんだ。なんとなく懐かしく感じるのは、みんなも無意識にヘラクレアさんの影響を受けていたからかな」

 みかさんは、思いのこもったものに容を与える力があるようだ。

 みかさんは暖かい口調のまま続けた。

「人の心って、こんなに共鳴するものなのよ。ボイジャーも40年あまりの宇宙旅行で、いろんな宇宙人に空間や次元を超えて書き込みをされている。まだ未整理だけど」

「50年前のCPにそんなに記録容量はないんじゃない?」

「それは、あなたたちの概念よ。その気になれば、何もない空間にでも記録は残せるわ。わたしみたいな船霊も、いろんな人の思いの結晶だとも言えるかもしれない……さ、ボイジャーが目を覚ますのには、少し時間がかかるわ。あなたたちのむき出しの好奇心に、いきなりご対面しちゃ混乱する。わたしがいいというまでは面会謝絶です」

 四人のクルーは医務室を出された。

 分からないということは、想像力を刺激する。

 ブリッジで待っている間に、100通りぐらいのボイジャーのイメージが4人の頭に喚起された。美奈穂は中東で死んだ父への反発から母親の少女時代のイメージを。トシは、亡くした妹や、自分をストーカー扱いした美紀のイメージに。俺と樟葉は、ラノベかアニメのそれだろうか……自分でも覚えのない少女たちのイメージが浮かんだ。

 みかさんの言葉が思い出された。

「二人の心には、もっと奥があるわ」

 改めてみかさんの言葉が思い出された。

 ボイジャーは三日目に目覚めた。

「みんな医務室に来て」

 みかさんの声で、四人は心弾ませて医務室に向かった。

「みなさんよろしく。えと……あたしがボイジャーです」

 ボイジャーは、転校生のように硬い笑顔で挨拶した。ワンピースが黒の花柄から淡いグリーンの花柄に変わっていた。

「あ、その方が可愛い!」「黒は魔女っぽかったし」「ツインテールが似合いそう!」

「あ、ども……です(-o-;)」

「まだ、この子の心は整理ができてないの。だからちょっとぎこちないけど、少しずつ慣れていって。ボイジャー、あなたの呼び方、どうしようか?」

「……できたら、クレアって呼んでください。いろんな意味で、これが一番しっくりくるんです」

「じゃあ、ようこそクレア。君が三笠の最初のゲストだ」

「いえ、あたしはクルーです。役割はアナライザーです」

 みんな戸惑った顔になった。アナライズ機能は、すでに三笠には付いている。

「三笠については、補助的なアナライズをやります。本務は、あなたたちの心のアナライズです。修一さん、トシくん、天音さん、樟葉さん、よろしく」

「これからは、クレアさんが、わたしの代わりだと思って。わたしは本来の船霊の役割に戻ります」

 みかさんは、そう言うと、姿が朧になってホールの神棚の方に消えていった。

 ブリッジに戻ると、ネコメイドたちが模様替えを終えたところだ。

 俺の艦長席の横に一回り小さなアナライザーのシートが出来ている。

 シートに着いてポチポチとキーボドを操作するクレア。

 インタフェイスの光が柔らかくクレアを包んで、とてもしっくりいっている。

 見渡すと、他の四人も、それぞれのコンソールやらインタフェイスの光に柔らかく包まれている。

 視線を戻すと、クレアが上目遣いに微笑んでくれる。

 なんとなく、みかさんの筋書通りのような気がした……。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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宇宙戦艦三笠15[ボイジャーとの遭遇]

2022-12-26 08:30:55 | 真夏ダイアリー

 宇宙戦艦

15[ボイジャーとの遭遇]   

 

 

 フワァワァァ……………………プ

 

 三回目のアクビをしたら、いっしょにオナラが出てしまった。

 最初トシがクスっと笑い、ややあって天音、樟葉へと伝染するころには爆笑になってしまった。ただ船霊のみかさんはニコっとしただけだ。

 ヘラクレアを出てから一週間がたっていた。その間、三笠は、ただただ、星たちがきらめく宇宙を走っているだけだ。

 

 要するに退屈なんだ。

 

 三笠は21世紀の概念では、それほど大きな船ではないけど、たった四人、みかさんを入れて五人、ネコメイドも入れて九人の乗組員には広すぎた。各自自分のキャビンは持っているけど、ブリッジに集まることが多くなった。

 あ、ネコメイドたちのキャビンは分からない。艦内のどこかに居るんだろうけど、元々は横須賀の野良猫だとか、だったら簡単には見つからないだろうしな。
 時どき、デッキの端っことか内火艇やボートのキャンパスやマストの上で日向ぼっこ、いや星空ぼっこしてる。目が合うと律儀にお辞儀してくれるんだけど、すぐに居なくなる。気を遣わせてもいけないので、視界に入っても見つめないように気を付ける。

 みんないっしょなんだ。真っ暗な星空とはいえ、やっぱり外の景色が見えることは、単調な宇宙旅行の慰めなんだ。

「……東郷先輩のオナラ、初めて聞きました」

 やっと笑いの収まったトシが言った。

「そうね、あたしも小学校以来だな。保育所の頃はしょっちゅうだったけど」

「みんな退屈そうだから、一発かましたの!」

「ハハハ、でもオナラ一つで、ここまで笑えるんだ、アハハハ(≧艸≦)」

 天音が収まらない笑いのままで言った。

「みかさん、ヘラクレアを出てから亜光速でしか走ってないけど、みんなに先越されないないかなあ」

「早いだけが取り柄じゃないのよ。ゲームで言えばRPG、経験値を積んでおかないと、ゲームはクリアーできないわ」

「例えば、ヘラクレアみたいな?」

「そう、あそこでテキサスに出会えて、ヘラクレアさんにも会えたことは大きいわ」

「どんな意味で?」

 みかさんは、しばらく考えた。みかさんは神さまだから、考えている姿もさまになる。こういうことでは自信のある樟葉でも見とれてしまう。

「……悲しい思い出も、大事に守っていれば、美しいものになって、その人の心を高めてくれる」

「え、あのヘラクレアのオッサンが?」

「娘さんの魂を悲しませずに記憶し続けるのには、あんなオッサンの姿がいいのよ。辛い思い出も大事にしていれば、素敵な光になるわ」

「みかさんが言うと、なんだかとても良いことのように思えるわ」

「でも、修一さんのオナラには負けますぅ」

 アハハハハ(((^0^)))

 みんなが笑った。

「どうせ、オレは屁をかますぐらいしか能がねえよ!」

 ピピピ ピピピ ピピピピ

 光子レーダーが、アンノウン発見のアラームを発した。

 ブリッジは活気づいた。

「焦点を合わせて、解像度をあげて」

 指示するまでもなく樟葉がレーダーを操作。ボンヤリした画面がくっきりしてきた。

「え……あ、ボイジャー……!?」

 みかさんが感動の声を上げた。

「ボイジャーって?」

 天音が素朴な質問をした。

「1977年に打ち上げられた人工衛星です。太陽系を飛び出した、たった二つの人工物の一つです」

 ミカさんが応える前にトシが意外な知識を披歴した。

 ボイジャーは、三本のアンテナとテレビの衛星放送用のアンテナのようなものでできていた。

「あれは、一号ね。二号は……近くにはいないようね……」

「あ、解像度が落ちてきた」

 樟葉が慌ててキーボードをたたいてマウスをグルグル回す。

「……違うわ、変態し始めてるんだ」

「へ、変態!?」

「メタモルフォーゼのことよ……」

 ミカさんの言葉に、みんなはメインモニターに見入った。いつの間にかネコメイドたちも乗員の間から顔を出して注目している。

 そして。

 ボイジャーは5分ほどかけて変態した……その姿は栗色ショ-トヘアーの女の子だった。

「ちょっと男子は向こう向いててくれますぅ」

 みかさんが優しく言って、すぐに理解した。女の子は裸だった。

「……いいですよぉ」

 男子二人が振り返ると女の子は、黒字に赤い花柄のワンピに黒のスパッツ姿になっていた。意識はないようだ。

「面舵二十(ふたじゅう)、ボイジャーの回収に向かう」

 静かに命ずると、樟葉はレーダーを睨みながら、ゆっくりと舵を切ったのだった。
 

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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宇宙戦艦三笠14[ヘラクレアの信号旗]

2022-12-10 11:47:21 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

14[ヘラクレアの信号旗]   

 

 

 

 テキサスも三笠も修理が終わってもやいを解く。

 ボーーーーーーー ボーーーーーーー

 出航を告げる汽笛が響く。

 空気の無い宇宙空間に汽笛が響くはずもないんだけど、テキサスも三笠も儀礼用の衝撃波を起こして汽笛の代わりにしている。衝撃波は近くにいる船や星にぶつかって汽笛にそっくりな音を響かせるというわけだ。二隻の宇宙戦艦はもやいのロープをたなびかせながら5ノットの微速でヘラクレアを離れていく。

 だいたい、宇宙船が微速で出港する必要なんてない。いきなりのワープをすることもできるんだけど、長い宇宙旅行、こういう演出も必要なんだ。

 ヘラクレアは、テキサスの廃材と、代わりにテキサスに使った材料を整理するために、星全体がガチャガチャと音を立てて形を変えている。小惑星とは言え、長径30キロ、短径10キロもある星である。テキサスの修理ぐらいで形が変わるはずもないんだけど、ヘラクレアのオッサンにはこだわりがあるようで、全てのスクラップをあるべき場所に収めなければ気が済まないようだ。テキサスという異質物を取り込んでそのままにせず、全体の調和の中に収めているんだとみかさんは言った。

「あんな面倒なこと、わたしにはできないわ」

 みかさんは天照大神の分身でありながら、言うことが、片付けが苦手な女子高生みたいだ。

 パッと見は変わらないんだけど、モニターにテキサスと三笠が来る前と、今のヘラクレアを重ねてみると微妙に細部が違う。星全体を覆っている外板と鋲の位置が違うし、デコボコした張り出しもセンチ単位で位置や形が異なっている。

「まるで『ハウルの動く城』ね」

 天音が言った。

「それならソフィーがいなくっちゃ。ヘラクレアのオッサン一人じゃね」

 と、樟葉がチャチャを入れる。

「いっそ、天音さんが居てあげれば」

 みかさんも尻馬に乗る。

「あたしがいなきゃ、三笠の射撃ができなくなるぞ」

「及ばずながら、わたしが帰りに通りかかるまで代わってあげてもいいことよ」

「いいや、三笠の砲術長はあたしだから!」

 天音はムキになった。

「それなら、それでいいのよ。ただね、ヘラクレアのおじさん……」

「なんですか?」

「娘さんを亡くしてるの……」

「ほんと……!?」

「あなたと逆ね。娘さんは戦争で、仲間を庇って亡くなってるわ」

 トシも樟葉もみかさんの言葉に驚いた。

「あんな風に、スクラップを集めているのは、あの星の中心に娘さんが乗っていた戦艦の残骸があるから……それが捨てられずにね、ああやってスクラップで囲んで思い出を守っているのよ」

「あ、信号旗が上がった」

「航海の無事を祈る……か」

 天音は、ずっと信号旗を見ていた。

「どう、お父さんを見直す気になった?」

「あたし、お父さんのことなんか……」

 天音のお父さんは、天音一人を残して中東で死んでいる(8[思い出エナジー・2])

「ヘラクレアのおじさん、天音ちゃんのお父さんに似てる……直観でそう思ったんでしょ?」

「……いいんだ。おかげで横須賀に来られて、みんなに出会えたから。物事には表と裏が……」

 ドーン ドーン ドーン ドーン ドーン ドーン ドーン

 天音が言い終わる前に7発の礼砲が鳴った。

「え、なんで礼砲?」

 天音が訝しむ。

「通じたと思ったんでしょ……それで、遅まきながら……礼砲?……弔砲?……祝砲かな?」

 ドーン

「あ、テキサスも」

「あ、じゃ、三笠も撃たなきゃ! 祝砲って、やっぱ主砲?」

「副砲よ」

「えと、右舷にヘラクレア、左舷にテキサス どっちで撃つの?」

「ぼくも行きます! 両舷で撃っちゃいましょう!」

 トシも手を挙げて、慌てながら、でも、ちょっと嬉しそうにラッタルを駆け上がる二人だった。

 やってみなければ分からないだろうが、テキサスの艦尾は均整がとれていて、180度曲がることも無く急制動もかけられるだろうと思った。
 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊

コメント
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