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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

宇宙戦艦三笠43[宇宙戦艦グリンハーヘン・5]

2023-03-06 08:50:37 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

43[宇宙戦艦グリンハーヘン・5] 修一  

 


「ミネアさん、無理するのはよそうよ」

 ミカさんの言葉に、ミネア司令は微かにたじろいだが、それはミカさんにしか分からなかった。

 俺たちは、ミネアがミカさんの挑発に一歩前に出たようにしか見えなかった。

「そうやって、なにかあると、いつも一歩前に出てしまうのよね」

「なに……!?」

 ミカさんは、ミネアの厳しい視線と言葉をサラリと躱して言葉を続けた。

「グリンハーヘンというのは悲しい名前ね。グリンヘルドにもなれずシュトルハーヘンにもなれない人たちのアイデンティティー。両方の母星から疎外された人たち。二つの母星は、地球侵略については共同戦線を張っているけど、内心では信じあっていない。だから、二つの母星の間に生まれたあなたたちは疎外され、軍の中でも、遊撃隊でしかいられないんでしょ?」

「わたしたちは選ばれた真のエリート部隊だ。だから、本隊が暗黒星雲の両脇を固めているのに、ドンピシャ三笠の真正面に出てくることができた」

「でも、だれも応援にこない」

「ステルスの三笠を見抜けたのは、このミネアだけだ!」

「でも、グリンハーヘンが停船して、動きがおかしいことは、グリンヘルドもシュトルハーヘンの艦隊も分かっている。だのに助けにもこないし、この船も応援要請をしない」

「三笠捕獲の栄誉は、このグリンハーヘンだけにある。味方と云えど邪魔はさせない」

「今の状況は逆でしょ。いくら遊撃部隊でも、こんな状況なら、なんらかの連絡や、作戦行動があって当たり前じゃないかしら?」

 その時、グリンハーヘンの艦体が身震いするように揺れた。

 ワ!? ウワ! ニャ!?

 双方のクルーが仲良く驚いた。

 ミネア一人、足を踏ん張りなおすだけで顔色も変えない。

「三笠を修理しているの。資材が足りないから、グリンハーヘンから少しいただいてるの。今のは、その衝撃」

 ミネアの表情が微かに動いた。

「大丈夫、この船がダメになるほどには頂かないから。じゃあ、三笠の仲間は解放させてもらうわね。艦長、そこのタラップを上がって。三笠の第二デッキに出るわ。順番は、わたしが最後。いいわね」

 ミネアは、最後まで視線を外さないミカさんに対抗して身動き一つしなかった。三笠に閉じ込められていたミネアの兵士たちは、逆に通路が開いてグリンハーヘンに戻ってきた。

 

 ミカさんの帰艦は少し遅れた。

 

「ちょっと遅すぎない?」

 天音が腰を上げる。

 三十分過ぎても、我らが船霊さまは戻ってこず、開きっぱなしの通路からは三笠を修理するオートメカの音がくぐもって聞こえるだけだ。

 ニャンケンポン ニャンケンポン アイコデニャ!

 ネコメイドたちがジャンケンを始めた。

「なにしてんだ、おまえら?」

「ミカさんの様子を見に行くニャ!」「順番を決めてるニャ!」「「ニャニャ!」」

「順番て、そんなの、だれか一人行けばいい話だろ」

「そうだ、同じ乗組員だろ、僕たちもジャンケンに入れてよ」

 トシの申し出なんか無視して勝負がついた。

 ニャンパラリン!!

 四人のネコメイドが揃ってジャンプすると、一匹の半透明の猫に変わったぞ!

「「「「ステルスネコにゃ! 頭と前脚と後ろ脚と尻尾を四人でやってるニャ!」」」」

 なるほど、その順番を決めてたってわけか(^_^;)

 ステルスネコが飛び込もうとしたら、その通路からミカさんが戻ってきた。

「「「「いまから行くところだったニャ!」」」」

「ごめんなさいね、帰ろうと思ったら、ラッタル上がらなきゃだめでしょ、ねえ東郷君」

「え、あ……(#^皿^#)」

「ミネア司令以下100人の目が見てるし、モジモジしてたら、ミネア司令が特急で、通路の高さを下げてくれて。その作業が終わるの待ってたから……アハハ」

 いつも、すっと現れてすっと消えてるじゃないか……思っていても言わない。

 
「追ってきませんね、グリンハーヘン」


「ミネアさんは分かっているのよ。地球侵略がいかに無謀なことかを……」

「だったら」

「ただね、地球の温暖化が常識で抗いがたいように、グリンヘルドもシュトルハーヘンでも地球侵略が侵しがたい目的になっている。でも、グリンハーヘンの力は弱いから……いろいろあるのよ」

 神さまがいろいろと言うんだ、それ以上の詮索はできない。

「しかし、どうして三笠にステルス機能が付いたんですかぁ。そんなもの無いはずなのに」

 クレアが不思議そうに聞いた。

「三笠もニャンパラリンなのかニャ?」

「アクアリンドのクリスタルのおかげよ」

「アクアリンドの?」

「アクアリンドがグリンヘルドにもシュトルハーヘンにも見つからないのは、暗黒星雲のためだけじゃない。このクリスタルが、外界から、あの星を隠す大きな力になっていたの。クリスタルも学習したと思う。隠れて引きこもっていることの危うさを……」

 そう言うと、ミカさんは微かに微笑んで神棚に戻って行った。

「あとは、オレたちでやれって目だったな……」

「ピレウスまで、8パーセク。二回のワープで到着。いいわね?」


 樟葉が決意を促すように宣言。

 それを受けて俺は小さく頷いた。

 三笠のクルーの結束は、いっそう強くなっていった。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠42[宇宙戦艦グリンハーヘン・4]

2023-03-05 06:52:38 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

42[宇宙戦艦グリンハーヘン・4] 修一  

 

 

「いったい、どんな仕掛けになってるのだ!?」

 前の壁が消えて、ミネアが怒りに震えている。

「仕掛けも何も、クルーは全員ここに居るし、三笠は大破したままだ」

「……なにか隠している。三笠と君たちの情報は全て取り込んだけど、こんな能力が隠されているなんて分からなかった。手荒なことはしたくなかったけど、もう容赦しない!」

 ミネアが手を挙げると、残りの三方の壁が消えて、バトルスーツに身を包んだグリンハーヘンの兵たちが100人ほど現れた。

「情報が得られれば、それでいい。本当のことを言うまでだ、一人ずつ死んでもらう……まずは、アナライザーのクレアから。クレアは本当の人間じゃない。ボイジャー1号が擬態化しただけのガイノイド。最初の見せしめにはちょうどいい……構え!」

 ガチャリ!

 100人の兵が一斉に光子銃をクレアに向けた。

「待て! クレアは人と同じだ、オレたちの仲間だ、手を出すことは許さん!」

 俺の抗議に、ミネアは冷笑をもって応えた。

「フフフ……人の中でさえ序列があるんだ。グリンハーヘンでは司令がトップ、次席が副司令でもある艦長。以下副長、船務長、航海長、機関長、砲雷長、各科先任曹長という具合にね。三笠でもそうだろ、艦長以下の職掌が決まっているのはそういうこと……」

「それは役割の序列だ、人として階級があるわけじゃない。だから司令の言う序列で犠牲者を決めるなんて認めない!」

「正義面して人の話をさえぎらないで。クレアは、その序列にさえ入らないガイノイド、つまりは機械。機械に仲間意識を持つなんて変態の戯言だよ。クレアを破壊しろ!」

「「「「待ってエ!」」」」

 ネコメイドたちがメイドの姿に戻ってこぶしを握っている。

「な、なんだお前たちは!? そこには回収した愛玩用の小動物がいたはずだが!?」

「愛玩用小動物言うニャア!」

「あたしたちは、ネコメイドニャ!」

「シロメニャ!」「クロメニャ!」「チャメニャ!」「代表のミケメニャ!」

「ニャーニャーうるさい奴らだ」

「うるさい言うニャ!」「言うニャ!」「ダメニャ!」「ニャニャ!」「「「「ニャーニャー!」」」」
 
 たしかにうるさいかも(^_^;)。

「もう、代表のミケメが言うニャ!」

「「「ニャー」」」

「ふふ、この猫化けどもにさえ序列があるんだ」

「わたしらは、横須賀の街で人といっしょに暮しているニャ。ノラネコ、カイネコ、マチネコ、いろいろだけど、ネコは人の心を慰めて、人は程よく面倒見てくれて助け合ってるニャ。ネコたちはネコだけの地球にしようなんて考えないし、人も人だけの地球にしようって思わないのニャ! だから、わたしたちは東郷君たちと一緒に銀河の果てまで来たニャ、みんな仲間ニャ!」

「わたしたちも共存しようと思っているぞ、地球の寒冷化を防いで、お前たちともいっしょに暮して行こうと思っている。ただな、そこには序列がある。序列の無いところに秩序も平安も無い。地球人類は三級市民としてのみ生存を許される。そうだろ、我々の寒冷化防止装置がなければ人類も愛玩動物も死に絶えるしかないのだからな」

「ど、どうしてもやると言うなら、ネコメイドからやればいいニャ!」

「「「そうニャそうニャ!」」」

「お、お前たち!!」

「心配いらないニャ、二十年の冬眠状態の中でも生き延びたニャ、殺されたぐらいじゃ死なないニャ!」

「「「ニャー!」」」

 その瞬間、再び三方の壁が現れて、100人の戦闘員たちは一瞬の驚愕を残して壁の向こう側になってしまった。

「え……何が起こった!? 壁を開け!」

 応える者はいなかった。そして、ミネアの死角になっている天井の一部が開いてタラップが降りてきた。

「こんな操作、わたしは命じていない。だれがやっている、返事をしろ!」

「冷静な話をしましょう……」

 そう言いながら、タラップを降りてきたのは、ミカさんだった。

 タラップは垂直なので、降りてくるみかさんの、スカートの中がチラリと見え……ない。

 無邪気な男性本能に、みかさんは微笑で答えた。みかさんにはCERO倫理規定のようなものがあるのかもしれない。

「誰だ、おまえは?」

「三笠の船霊です。みんなは親しみをこめて『ミカさん』と呼んでくれるわ」

「フナダマ、そんな情報は無い……」

「それは、あなたたちに信仰がないから。グリンヘルドもシュトルハーヘンも、はるか昔に宗教を捨ててしまったものね。無いものは理解できない」

「そんなことが……そうか、お前が三笠の秘密なんだな。」

「三笠に乗り込んできた人たちは無事よ。ミネアさん、あなたとの話が終わったら解放します」

 ミカさんは、日ごろから微笑を絶やさない。

『微笑女』というダジャレが言いたくなるほどに人の心を和やかにしてくれる。しかし、この時のみかさんの微笑は、神さまらしく慈愛に満ちたものだった。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠41[宇宙戦艦グリンハーヘン・3]

2023-03-04 09:02:43 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

41[宇宙戦艦グリンハーヘン・3] 修一  

 


「ええ! また偽物!?」

 樟葉が警戒心丸出しの表情で後ずさる。気づくと天音もトシも、クレアでさえ疑惑の目で俺を見て、ネコのままのネコメイドたちは「フーーーー!」って唸りながら毛を逆立てる。

「どうやら、おまえらもホログラムの偽物に会ったみたいだな……」

 そう言いながら壁を叩く。

 ドンという音がして、みんな安堵のため息をつく。ちょっと、手が痛かったけどな(^△^;)。

「こっちも体が触れ合うまでは、分からなかった」

「触れるって、どんな風に?」

「何気なく肩に手を掛けたら、素通しになった」

「修一が、あんまりグダグダ聞くんで、おかしいと思って……」

「オレといっしょだ。樟葉がくどかったから、おかしいと思った」

「いっしょだ。あたしは頭をはり倒したら、空振りになった。修一は?」

「キスしようとしたら、顔が重なってしまった」

「ええー、キスなんかしたの!?」

「だから怪しいと思ったからさ。ちょっと大きな声じゃ言えないって誘ったら、顔を寄せてきた。で、ホログラムの偽物だって分かった」

「本物だったら、どうするつもりだったのよ!?」

 樟葉がむくれた。

 他のやつらは呆れながらも笑ってる。

「しかし、なんだな……俺たちって、あんまりスキンシップしてなかったんだ」

「されてたまるか!」

「それは文化の差よ。ウレシコワさんやジェーンさんはよくボディータッチやハグしてくれてた。日本人はしないから」

 クレアがフォローした。

「しかし、なにもキスしなくてもさ!」

「とっさだよ、とっさ!」

「それより、本物の艦長かどうか確認しておきましょう!」

「そうだな、ホログラムの偽物に会ったって言うけど、油断させるための罠かもしれん」

 トシの提案に天音が同意して、四人と四匹で迫って来やがった。

「ちょ、おまえら目つきが怖い」

「いくぞ!」

「ちょ、やめ、いて! 痛い! ちょ、アハハ ギャハハ……」

 で、捻られたり、つねられたり、くすぐられたり。俺は、まるで罰ゲームのような目に遭った。

「艦内に動きがあります……三笠にかなりの人数が……」

 笑い死ぬかと思った時、クレアが警戒の顔つきになった。

「何をしに行ってるんでしょう」

「あたしたちの情報を総合して、まだ誰か残っている人間がいると思っているらしいです……」

 クレアも自分でバージョンアップしているようで、この秘匿性の高い敵艦の中でも、ある程度は読めるようだ。

「他に、人間て……」

 みんなの頭の中で、同時に一人の顔が浮かんだ……ミカさんだ。

「敵に動き。三笠から退去しようとしています!」

「……ミカさんは船霊、神さまだから、予見できない能力を恐れたんでしょう」

 クレアの分析は正しく、ミカさんの能力は、そのクレアの分析を超えていた。なんと三笠に乗り移った敵兵たちが、三笠の艦内に閉じ込められてしまったのだ。

 そして、ミカさんの力は、それだけでは無かった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠40[宇宙戦艦グリンハーヘン・2]

2023-03-03 08:41:04 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

40[宇宙戦艦グリンハーヘン・2] 修一  

 

 

 意識が戻ると独房に入れられていた。

 セラミックのような独房には、床も壁も継ぎ目も無かった。ただ、出入り口と思われるところだけが、薄い鉛筆で書いたように、それと分かる程度。独房内はベッドが一つあるだけで無機質この上ない。

―― お目覚めのようだね。体には異常はない。ドアを開けるから、通れる通路だけをたどって、わたしのところまで来てくれ ――

 司令のミネアの声がした。

 通路に出ると、さすがに船の通路らしく、パイプや電路が走り、いたるところの隔壁はロックされていた。通れる隔壁は、あらかじめ解放されていて、十数回行き止まりに出くわして、やがて小会議室のようなところにたどり着いた。


 樟葉が先に来ていて、背もたれのない椅子に座っていた。


「艦長のくせに、遅いのね」

「通路で、ちょっと迷った」

「ハハ、あんな簡単な迷路で迷っちゃうの」

「樟葉は、迷わなかったのか?」

「あたしは、探索のために全ての通路を見て回ったのよ。通路の左側に手をついて、ぐるりと回ったら、全部見られた。遊園地の迷路攻略の方法よ。通路は、いかにも船の中らしいけど、大半ダミーね。配管配線ともに脈絡がない。どの隔壁の通路も何種類かのパターンの組み合わせ。よほど船の構造を知られたくないのね。本気になったら、案外簡単に船の弱点がみつかるかもよ」

「ダミーなのは、オレにも分かった。こんな宇宙戦艦がアナログなわけないものな」

「で、これからどうするの?」

 それから、樟葉の話は質問が多くなった。仲間のこと、地球のこと。

「大きな声じゃ言えない。もっと顔を寄せて」

 樟葉は、興味津々で顔を寄せてきた。

 俺は、いきなり樟葉にキスをした。

 ……なんと、俺の顔は樟葉の顔にめり込んだ……というよりは、重なってしまった。CGバグのポリゴン抜けみたいだ。


―― やっぱり ――


 思った瞬間、樟葉の姿は消えてしまった。

「やっぱり、ホログラムだったんだな。下手な小細工すんなよ、ミネア司令」

 そう言うと前の壁が消えて、部屋が倍の大きさになった。目の前にミネアがいた。


「思ったよりも賢いんだ」

「賢くはないよ。樟葉にキスするいいチャンスだと思っただけ」

「お、針が振れた」

「なんの針だ?」

「東郷君は見えないだろうが、目の前にインタフェイスがあるんだ……ほら」

 ミネアの前に仮想画面が現れて消えた。

「え?」

 今度は俺の前にインタフェイスが現れた。俺をスキャニングした時のままで、心拍数の針が元気に振れている。

「画面をタッチすれば、こっちをスキャンできるぞ」

「これか……え!?」

 軽くタッチすると、ミネアが骸骨になった。

「不器用だなあ、そっとやれ、そっと」

 やり直すと、様々なレベルでミネアの様子が分かる。骨格、筋肉層、内臓配列、神経系、その一つ一つに項目があって――心拍数――と思うだけで、数値とモデル化された心臓の様子が浮かび上がる。試しに、皮膚層で止めようとすると……着衣状態にジャンプしてしまう。

「チ」

「皮膚層はキャンセルしてある、東郷君のスケベ属性は承知しているからな。露出部分ならスキャンできるぞ」

 たしかに、カーソルを胸から首に移すと画像も数値も現れる。

「ほおぉ、泣キボクロが拡大される。ちゃんとメラニンの構造まで分かる。おお……!」

「な、なにを興奮している!?」

「エ、エロイなあ、ミネアのホクロはぁ(^O^;)」

「地球の男は、ホクロで欲情するのか?」

「ホクロってのはな、体のアンナとこやコンナとこの反映なんだ、知識さえあれば分かってしまうんだぞぉ(#^0^#)」

「見るなア(#>0<#)!」

 手で顔の下半分を隠しやがる。

「DNAの塩基配列が妙な規則性があるな……」

「フフ……それは、わたしがグリンヘルドとシュトルハーヘンとのハーフだからだ。この船のクルーはみんなそうだ。ハーフだけで作った遊撃部隊なんだよ」

「でも、グリンハーヘンて船の名前は安直だね」

「分かりやすいだろ、名前なんて符丁みたいなものだから。直に会ったら、東郷君の考えやら思考パターンなんかが良く分かると思ったんだがな、どうやら時間の無駄のようだね。わたしの希望だけは、きちんとしておくぞ。わたしは地球人の絶滅までは考えていない。共存した方が、上手くいくと思っている。例えば、無菌で育った動物って耐性が低いだろ。多少のストレスは抱えながらやった方が、グリンヘルドにもシュトルハーヘンのためになると思っている。いまの東郷君の様子でも再確認できたからな。グリンヘルドもシュトルハーヘンも君たちの能力を高く評価している」

「評価してくれるのなら、寒冷化防止装置ってのを早く渡してくれないか。一刻も早く地球に戻りたいから」

「正直、君たちがたどり着けるとは思っていなかったんだよ、グリンヘルド、シュトルハーヘンの首脳たちもね。装置は、我々が運んで稼働させるつもりだった。しかし、君たちはやってきた」

「俺たちを呼んだのは、ミネア、君なのか?」

「ああ、地球で共存するためには君たちの力を知っておかなければと思ってね。知ったうえで対策を考えなければならない」

「なんだ、対策とは?」

「地球の定員は多めに見積もっても100億といったところだ」

「ちょっと、多すぎやしないか?」

「我々の力なら可能だ。だがね、こちらから移民させるのは50億」

「数が合わない、地球の人口だけで80億。130憶は無理だろう」

「だから、地球人類の半分は消えてもらう」

「なんだと?」

「地球を救うのは我々だ、それくらいの妥協はあってしかるべきだろう」

「勝手なこと言うな!」

「一律に減らしたりはしない。能力と適性を考えて判断する。君たち三笠の乗組員を調べさせてほしい。ここまでやってきた能力と胆力は驚嘆に値する。君たちと、君たちと同等の人類は残す。友好的であるという条件が付くがね」

「奴隷になるか滅ぶかの二択ってわけか」

「そんな目で見るなよ。君たちだって、野生動物たちを適正な数に調整したりするだろうが」

「俺たちは野生動物じゃねえぞ」

「首脳たちの中には地球人類など野生動物同然で殲滅しろと主張するものもいるんだ。こういう友好的なプランを持っているのは、グリンヘルド、シュトルハーヘン双方の血をひくグリンハーヘンの者だけだ。どうだ考えてくれないか」

「考えねえ」

「協力してくれたら、三笠の諸君たちを二級市民として受け入れよう」

「二級?」

「ああ、並みの恭順者には三級しか認められないがな。二級は破格なことだぞ」

「断る」

「どうしてだ? 二級は参政権以外は一級市民と変わらん。君一人だけなら名誉一級市民という道もあるぞ」

「俺たちは共存しようとは思ってない。それって共存とも呼べないけどな。地球は地球の人類と生物のためのものだ。けして隷属なんかしねえ」

「古臭い民族主義だね。もう少しファジーになってもいいんじゃないか」

「ならねえよ」

「そうか、仕方ない。じゃ、他の仲間といっしょに居てもらう。みんなで相談してみるんだね」


 そう言うと、ミネアの前の壁が再生し、左横の壁が消えた。五つのベッドに、樟葉、天音、トシ、クレア、猫の姿に戻ったネコメイドたちは一つのベッドにまとまって眠っていた。


「おい、みんな!」

 仲間に駆け寄ると、今までいた部屋との間の壁が再生し、雑居房になった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠39[宇宙戦艦グリンハーヘン・1]

2023-03-02 08:53:38 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

39宇宙戦艦グリンハーヘン・1] 修一  

 

 

 虚無宇宙域ダルの正面はガラ空き。

 ……の、つもりだった。

 ワープし終わってもしばらくは分からなかった。

 それとの距離が50万キロという、宇宙単位では目と鼻の先になって知れた。


「正面50万キロに大型宇宙戦艦。ロックオンされている!」

 念のためCICに入っていたクルーがホッとして出ようとした時に砲術長の天音が叫んだ。

「取り舵一杯。右舷シールド展開。砲雷戦ヨーイ!」

 ドゴーーーン!!

 天音と樟葉が、操艦と砲雷戦の用意をし終えたころに、着弾があった。

「右舷装甲版、第四層まで破壊される。右舷舷側砲、全て損傷!」

「次の砲撃には耐えられない」

「そのまま旋回、左舷を敵に向けろ!」

 敵は、三笠が大破したことで一瞬の油断があった。旋回も舵の惰性だと思っている。

「光子砲、雷撃、テー!!」

「照準ができていない!」

「構わない、主砲、舷側砲、光子魚雷全て発射! 前進強速!」

 三笠の砲雷撃は、それでも半分が敵艦に命中したが、全て敵のシールドに阻まれた。機関もダメージを受けていて、10万キロ進んだところでダウンした。

―― 降伏を勧告する ――

 いきなりモニターに敵の艦長の姿が現れた。見かけは中一程度の女の子だったが、同時に送られてきた情報は、彼女がグリンヘルド、シュトルハーヘン両星連合タスクフォースの司令官であることを示していた。

―― 20年待った甲斐があったわ。狙い通り、ダル宇宙域に隠れていたんだ。わたしはタスクフォース司令のミネア。その船は破壊するが、あなたたちは助けます。ここまでやってきた努力はあなたたちの優秀さを示しています。地球支配の役に立ってもらいます。一分だけ待ちます。降伏か、戦死かを選びなさい ――


 トシが、メモをよこしてきた。


―― ワープ、敵艦に体当たり ――


 三笠の残存エネルギーは、さっきのワープと、今の攻撃を受け止めることに使われて完全にエンプティーのはずである。しかし、修一は、クローンのトシに賭けてみる気になった。ワープは通常機関を使わない。なにか目論見があっての事だろう。この三笠のクルーは、誰も地球支配のお先棒を担いでまで生き延びようとは思わない。その確信はあった。


「……分かった、降伏しよう。三笠の救命カプセルでは、そこまでたどりつけない。近くまで牽引してくれないか、ミネア司令」

―― 了解、賢明な選択ね。まず残っている主砲と舷側砲をロックして ――

「するまでもなく、あらかた破壊されてしまったけどね」

―― 余計なことは言わない。言われた通りにしなさい ――

「了解。美奈穂、オールウェポンロック」

 ガチャリ

 天音が、悔しそうな顔で、全装備をロックした。

 三笠は牽引ビームが来ると同時にワープした。修一とトシとの阿吽の呼吸である。

 牽引ビームとワープエネルギーの相乗効果で、三笠は、船そのものが巨大な弾丸になり、敵巨大戦艦の艦首にめり込んだ。

 半分消えかかった意識で、敵の艦首の銘板が読めた。

 グリンハーヘン……芸のない艦名だと思った。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠38[虚無宇宙域 ダル突破]

2023-03-01 08:52:43 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

38[虚無宇宙域 ダル突破] 修一  


 

「……遼寧が撃沈されたの」

 クレアから聞いてもあまり驚かなかった。まだ20年の仮死から覚めきっていないのかもしれない。
 

 遼寧……ウレシコワにとってはヴァリヤーグの撃沈は、その拠り所の喪失を意味する。つまり、ヴァリヤーグの船霊(ふなだま)としては存在できないことになるんだ。
 日本の船は実在する神社の御神体を分祀する。だから、船が無くなっても、それぞれの神社に帰れば済む話だが、ウレシコワは、ヴァリヤーグが出来上がるにしたがって現れた船霊なので、船が無くなると居場所が無い。

 一瞬三笠の艦首にメーテル姿のウレシコワが見えたような気がしたが。それは遼寧に成り果てたヴァリヤーグに居場所が無くなって三笠にやってきたときの彼女の残像。三笠に来てからは、ニコニコとサモワールを沸かして機嫌よくお茶を淹れてはみんなに振舞っていたけど、いろいろ無理をしていたんだ。自分の船を離れた船霊が楽しいわけがない。

 どうも、二十年の眠りから覚めて、スッキリするよりはセンチメンタルになっているのかもしれない。早く切り替えなきゃな。

 遼寧は、無謀にも虚無宇宙域ダルの外縁に展開していたグリンヘルドの大艦隊に飛び込んでいった。三分も持たなかったそうだ。

 戦艦大和の水上特攻のように思えて胸がふさがったが、ミカさんの話は違った。

「遼寧には、党の指導が入っていたみたい。党は三笠もアメリカの艦隊も足踏みしたのをチャンスだと判断したのね。ここで出し抜いて、グリンヘルドに突撃させ、一番槍の栄誉を獲ろうとね……乗っていた子たちは大半がカプセルで脱出。あらかたはグリンヘルドの捕虜になったみたい」

「あまり嬉しそうじゃないね、ミカさん。ウレシコワは残念だけど、人の命が助かったのなら、ミカさんの気性なら喜びそうなものなのに」

「そんなことないわ。少しでも生存者の可能性があることは喜ばしいことだわ」

 日本の神さまは正直だ。ミカさんの顔には当惑とも悲しみともつかない色が滲んでいた。俺には、それがウレシコワの消失によるものなのか、それとも、俺には言いにくい別のことによるものなのか区別がつかなかった。


 あくる日には、樟葉と天音が覚醒した。


 トシのことは伏せて、ウレシコワのことだけを伝えた。二人ともウレシコワのことを悲しんだが吹っ切るのは早かった。

「クレア、前よりきれいになったんじゃない?」

 天音も樟葉も、クレアの新しい生体組織に興味を持った。女の子は、居なくなった者よりも、生きて変化を遂げている者に興味のある薄情な生き物かと思った。

 が、違った。二人とも、すぐに三笠の状態をチェックし、発進の準備と周囲の警戒に没頭した。過ぎ去ったことよりも、これからのことに意識を集中しなければならないという決意の現われだったんだ。

「航海長、機関は万全です。エネルギーも充分で、ダルを脱出しても15%の余裕があります」

「了解。いよいよね!」

 樟葉は気づいていなかった。トシが今まで名前で呼んでいたのを航海長と呼んだことを。クレアの変化には気付いたのに……一瞬思ったが、これから先のことに軸足を置いているのなら、役職で呼称することが自然なんだろう。

 俺は、あらかじめ知っていたせいか、トシのクローンには違和感があった。

「ワープ到達域に障害物なし。一気にダルを抜けるわよ!」

「機関長、前進強速。一気にワープ!」

「ワープカウント、30秒前!」

「対ショック、閃光防御!」

 そう命じながらも、オリジナルトシとウレシコワの喪失感がせきあげてくる。ゴーグルを直すふりして涙を拭いた。

 ゴーグルの装着ぐらい一発で決めろ的に天音、いや砲術長の視線が飛んできた。

 その砲術長の後ろではネコメイドたちのVサイン。ドンマイの意味なんだろうけど、ゴーグルの下の口が強調されてチェシャ猫めいて見える。

 そして。

 ワ――プ!

 三笠は20年の眠りから覚めて、グリンヘルドもシュトルハーヘンも予測だにしなかったダルからの脱出を果たそうとしていた。
 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠37[20年の歳月]

2023-02-28 06:49:38 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

37[20年の歳月] 修一  

 

 

 体が鉛のように重い……手足も痺れたように動かない……視界もボケている。

 でも、どうやら20年の眠りから覚めたんだ……そう理解するのに30分ほどかかったんじゃないだろうか。

「オ! 艦長の目が覚めたニャー!」

 一瞬ネコミミの女の子の顔が覗いたかと思うと、パタパタと音が続いて、ネコミミが四つに増えた。

 ネコの惑星……いや、耳以外は人間だし?

「ウフフ、寝ぼけているニャ」「可愛いニャ」「おひさニャ!」

 あ……シロメ……クロメ……チャメ……ミケメ……?

「おーい、はやくはやく、艦長目覚めたニャ(^▽^)/」

 あ……

 パタパタパタ……ネコメイドたちだと認識できた瞬間、四人とも誰かを呼びに行く気配。

 プシュっと音がしてカプセルの蓋が開く、恐る恐る上体を起こし、首をひねって息を呑んだ。

 え……!?

「もう、大丈夫ですよ」

 優しい声が聞こえたが、誰の声であるのか思い出すのに数秒かかった。

 えっ……え?…………ええ!?

 後ろでニコニコ笑顔で並んでいるネコメイドたちと、あまりにかけ離れた姿に言葉が出ない。

 目の前にいるのは、スケルトンだった。

 くたびれたユニホームと声からなんとか本人だと想像する。

「クレアなのか?、その姿は……?」

「生体組織のメンテナンスに使うエネルギーも三笠の蘇生に使いました。三笠がダルを抜けたら、元に戻します。しばらく見苦しいでしょうが辛抱してください」

「ごめん、他の乗員は?」

「こちらです」

 クレアが案内してくれたのは浴室だ。浴室は戦闘時には戦死者の安置室になる、血が流れてもシャワーで洗い流せるためで、日露戦争の時は数十名の戦死者が安置された。余計な知識が悪い予感をさせる。

「換気と密閉性に優れた施設だからです。艦長も一昨日まではここに収容していたんですよ」

「そ、そうか……」
 
 よかった、とりあえずは生きているようだ(^_^;)

 
 救命カプセルは、船内で使う場合、状態を視認できるように半面が透明になっている。樟葉と天音のカプセルを見てドキリとした。

「なんで裸?」

「服は、体を締め付けます。そこから皮膚や内臓に負担をかけてしまうので、みなさんが眠りについたあと、裸にしました」

「オレは、服を着てるけど」

「蘇生の兆候が見えたので、昨日服を着せました」

「え、クレアが着せてくれたの(#^_^#)?」

「はい、ちゃんと着せたつもりなんですけど、不具合があったら、ご自分で直してください」

「クレアこそ、そのスケルトン、なんとかしろよ。他の三人が目を覚ましたら、オレよりビックリするぜ」

「ダルを抜けるまで気が抜けません」

「そうか……トシのカプセルは?」

「トシさんのカプセルは、こちらです」

 トシのカプセルは、隣のキャビンに移されていた。


「お早う。東郷君が一番だったわね」


 みかさんがカプセルに寄り添ってくれていた。悪い予感がした。トシのカプセルには白い布がかけられているのだ。

「トシは……?」

「カプセルとの相性が悪くて五年しかもたなかった。ごめんなさいね……」

「そんな!」

 白布を剥ぎ取った。

 透明なカプセルの中にいたのは、ミイラ化したトシの変わり果てた姿だった。

「どうにもならなかったの……?」

「秋山君を助けようと思ったら、その分三笠の復旧が遅れる。カプセルは20年しかもたないのよ」

「機関長を助けようとしたら、全員助からなかったです」

「そうなんだ……」

「そこで相談があるの。三笠の復旧も終わったし、秋山君のクローンを作ろうかと思うの。これからの航海に機関長は欠かせないわ」

「どうしてオレに聞くんだよ。オレに黙ってやってくれたら、こんなショック受けずにすんだのに!」

「だって、あなたは艦長だもの、全てのことを知っておく必要があるわ」

「じゃ、クローンでもいいから再生してやってくれよ。トシは、やっと立ち直ったところなんだから」

「その前に、秋山……トシくんの最後をしっかり見ておいてあげて」

「う、うん……」

 トシのカプセルの蓋が開けられた。

 賞味期限が過ぎたスルメのような臭いがした。トシが胸に抱いているスマホを手に取った。

 皮肉なことに、スマホの電池は残っていた。日本の電池技術はすごいぜ。

 マチウケは、亡くなった妹の写真だった。

 ホームセンターで自転車を買ってもらったばかりの写真。

 嬉しくてたまらない顔でピースサインをしている。あまりにいい顔なので思わず撮ったのだろう。その数分後にバイクに跳ねられて死んでしまうとも知らずに。

「じゃ、カプセルを閉じて。再生するわ」

 ミカさんは、ミイラ化したトシの皮膚のかけらに息を吹きかけた。目の前のベッドが人型に光った。

 光が収まると、そこには寝息を立てているトシがいた。そして、みかさんが指を一振りすると、カプセルの中のミイラは、煙になって消えてしまった。

「ミイラがいたんじゃ、話のつじつまがあわないから。あくまで、トシくんは東郷君と同じように目覚めた……忘れないでちょうだいね。それからクレアさんも、それじゃあんまり。生体組織再生しときましょうね」

 クレアが、元に戻ると同時にクローンのトシが、ベッドで目覚めて伸びをした。

「ああ……よく寝たあ。やっぱ先輩の方が目覚めるの早かったっすね。樟葉さんと天音さんは?」

「隣の部屋、あ、おい……」

「せんぱーい!」

 お気楽に、トシは隣の浴室に行った。数秒後真っ赤な顔をしてトシが戻って来た。

「な、なにも着てないんですね(# ゚Д゚#)……で、ウレシコワさんは?」

「あ?」

 虚を突かれたような気がした。ウレシコワのことは、今の今まで忘れていた。

 ネコメイドたちが揃って目をそらせた。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠36[虚無宇宙域 ダル・2]

2023-02-27 09:20:55 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

36[虚無宇宙域 ダル・2] 修一  

 

 

 20パーセクワープしたつもりが、わずかに0・7パーセクで停まってしまった。

 つまり、直径1・5パーセクある虚無宇宙域のど真ん中で立ち往生してしまったわけだ。

 

―― 20パーセク行ける出力で、たった0・7パーセクしか進めないのか!? ――

 

 さすがに言葉もなかった。

「非常電源で、艦内機能を維持するのが背一杯です。もう三笠は一ミリも動きません」

 機関長のトシが肩を落とした。

 他のクルーたちも元気は無かったが、俺の決定を責めるような空気は無かった。

 ダルを抜けなければ迂回する以外に手立てがないが、迂回すれば、待ち構えているグリンヘルドとシュトルハーヘンとの戦いは避けられない。20万の敵を相手にしても顎が出ていた。推定100万の敵艦隊に抗する術は無いのをみんな知っているんだ。

「もう20パーセクワープするエネルギーを溜めこむのに、どれくらいかかる?」

「楽観的に見て20年です……」

 トシが力なく答えた。

 

 三笠は虚無宇宙域のど真ん中で孤立してしまった。

 

「アクアリンドのクリスタルは使えないの?」

 航海長の樟葉が聞いた。

「エネルギーコアがあるにはあるんですが、エネルギーに変換されるのは80年後です。それに、三笠の光子機関との接続方法もわかりません」

「トシって、ダメな結果を言う時の方が答えがはっきりしてるな」

 天音が毒を吐くが、トシを含め、だれも反論する元気は無かった。

 そんな乗組員の前で頭を抱えるわけにもいかず、船霊のミカさんに聞きにいった。

「アメノミナカヌシは、虚無から世界をお創りになりました」

 ニコニコと、古事記の創世記を聞かせてくれた。

「みんなで決心してやったことだもの、誰も責められないわ。自然の流れに乗っていくしかないでしょう」

 そこまで言うと、影が薄くなって神棚に隠れてしまった。


 二日がたった。


「なんだ、この非常食は!?」

 食卓に、非常用の乾パンが載っているのを見て、天音が悲鳴をあげた。

「生命維持に必要なエネルギーを優先的に残すためです」

 クレアが事務的な声で言った。

「アクアリンドで補給しただろ?」

「さっき調べだっきゃ、補給品はなもかも消えであった。水さ流れでまったが、ダルの影響が……申す訳ね」

「レイアのせいじゃないさ」

「すたばって、わっきゃ、この宇宙域の人間だよ、暗黒星団のレイマ姫だよ……」

「いいさ、どこにだって未知なことはあるもんさ。だから、宇宙は面白い!」

「艦長……」

「ネコメイドたちは?」

「チャペの姿さ戻って丸ぐなっちゃーよ」

「チャペ?」

「あ、津軽弁で猫のことだす」

 ネコメイドの変身も艦のエネルギーを使うんだろう。

「チャペ、なんか可愛いな」

 樟葉がフォローしてくれて、少しだけ和んだ。

「よし、とにかく考えよう」

 ガリ……イテ。

 俺は乾パンを齧った。舌を噛んでしまって、みんなが笑う。


 四日がたった。


「重大な提案があります」

 トシが憔悴しきった顔で言った。食卓の乾パンは、さらに半分に減っていた。

「クレアさんと相談したんです。救命カプセルに入って冬眠状態になろうと思います」

「わたしとウレシコワさんは残ります。二人は人間じゃないから、入る必要がありません」

「でも、クレアの義体の表面は生体組織だ。それにメンテナンスもしなきゃ、持たないよ」

「生存の可能性は、みなさんの何倍もあります。ウレシコワさんは船霊だから、このままで残れると思います」

『賭けてみましょう』

 ミカさんの声だけがした。

 薄情なのかと思ったら、実体化するだけで船のエネエルギーを使ってしまうらしかった。

 気になって見に行くと、ネコメイドたちはガンルームの隅で猫の姿で丸まって、置物のように硬くなっていた。

―― 一足先に冬眠したか ――

 こうして、俺、トシ、樟葉、天音、レイマ姫の四人は救命カプセルで冬眠することになった。

 そして、20年の歳月がたった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠35[虚無宇宙域 ダル・1]

2023-02-26 06:14:49 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

35[虚無宇宙域 ダル・1] 修一  

 

 


 アクアリンドのクリスタルは、クレアが送った情報をもとに三笠でレプリカをつくって交換した。

「組成や形態がいっしょだから、80年たたなければ偽物とは気づかないわ」


 クレアも、レプリカを作ったトシも自信満々だった。


 本物は、三笠の二つある機関の真ん中に置かれた。仮にも一つの星の運命を握っていたクリスタルだ、いまは眠っているような状態だが、数百年の記憶を取り戻し稼動し始めた時に巨大なエネルギーを放出する恐れがあった。三笠の中央に置かなければ、いざと言う時に、船のバランスを崩すおそれがあるという僧官長の意見に従ったものだ。


「微弱だけど、クリスタルから波動が出るようになった。なにか感じているみたいだよ」

 トシがインジケーターを指さした。

「さすが世界一の殊勲艦。与える影響も違うんだ!」

 ウレシコワが感心して言った。

 クチュン

 神棚でみかさんが小さくクシャミをしたようだ。

「で、なにか三笠の役に立ちそうなエネルギーとかは出てないの?」

「居候なんだから、なんかの役にたってもらわないとね」

 天音と樟葉は、夢が無いというか現実的だ(^_^;)。


「樟葉、これからの航路は?」

 艦長らしく航海長としての樟葉に聞く。

 樟葉も航海長の顔に戻って応えてくれる。

「5パーセク先が分岐になりそう。直進すれば、ダル宇宙域に突入するわ」

「避けるのか?」

 樟葉のニュアンスから、修一は先回りをして聞いた。

「ダル宇宙域の外周は、グリンヘルドと、シュトルハーヘンの艦隊が百万単位で待ち伏せている。切り抜けられないことはないけど、三笠も無事ではすまないわ」

「四十万の飽和攻撃で、シールドが耐えられなかったからな……」

 ダル宇宙域を突破するしかないという気持ちになってきた。

「待って艦長、ダル宇宙域は、恒星が二個あって、その恒星も惑星も公転していないわ。とてつもない負のエネルギーが満ちているような気がする」

「アナライズの結果か?」

「エネルギーそのものは感じないけど、全ての星が動いていないということは、動いていないだけの理由があるはずよ。グリンヘルドもシュトルハーヘンも、哨戒艦すらここには出していない。状況から考えて未知の何かがある」

「しかし、ここを避けたら、敵の待ち伏せのど真ん中に突っ込んでしまう。確実な脅威に飛び込むよりは、未知の可能性に賭けてみたい。みんなはどうだ?」

 ……………………。

 艦橋のみんなに言葉は無かった。

「しかたがない。ミカさんに聞いてみよう」

 神棚のあるホールにいくと、ミカさんはセーラー服でニコニコ待っていた。

「その顔は、ミカさん、いい答えを持ってるんだね!?」

「ううん、みんなが前向きの気持ちだから嬉しいの。わたしがここにいるというのは、三笠に差し迫った危機がないということだから、みんなが話し合った結果でいいんじゃないかしら」

「ミカさま、お茶の用意ができましたニャ(^▽^)/」
 
 ミケメがワゴンを押してやってきた。他の三人のネコメイドたちも『猫ふんじゃった』をハミングしながらテーブルを整えたり、ティーカップを並べたり。

「気楽だなあ。それで今まで、どれだけの危機に出会ったか」

「でも、結果として三笠は無事でしょ? まだまだ試練はあるだろうけど、大丈夫。いまのあなたたちなら乗り越えられるわ」

「そうニャそうニャ」「みんなもお茶するといいニャ」「ダージリンニャ」「オレンジペコニャ」

「いいのよ、みんなで出した結論で進みなさい。100パーセント問題なしに進める道はないわ。でも、みんなに前に進む勇気が出てきたのなら、それで十分よ」

「そうだねミカさん。決めたんだ、迷わずに前に進むよ」

「そう、それがいいわ。ワープの準備が済んだら、ここにいらっしゃい。ちょっと寛いで、それからワープすればいいから」

「分かった。じゃあ、ブリッジに戻ってワープの準備だ。それから、お茶にして、一気に切り抜けるぞ!」

「「「ラジャ('◇')ゞ」」」


 寛いでいるようだったけど、ミカさんは、それとなくダル宇宙域突破を示唆してくれた。
 
 やんわりとだけど、俺の方針を後押ししてくれた。

「よし、ワープで一気に抜けるぞ。ダル宇宙域は1・5パーセクしかない。最大ワープで抜けるぞ!」

「じゃ20パーセクで」

 トシは、機関室へ向かおうとした。

「いや、100パーセクだ!」

「100パーセクもワープしたら……二三日動けなくなってしまうよ。その間に攻撃されたら、反撃することもバリアーを張ることもできなくなる」

「勘だよ。それだけワープして、やっとダル宇宙域を突破できるぐらいだと思う」

「でも」

「ものごとやってみなければ、前には進めん……だろ」

「う、うん」

「よし、では100パーセクのワープの準備をして、お茶会だ」

 了解!!

 みんなの声が揃って、三笠は能力の五倍を超えるワープの準備に入った……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

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宇宙戦艦三笠34[水の惑星アクアリンド・4・水に流す]

2023-02-25 10:26:38 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

34[水の惑星アクアリンド・4・水に流す] クレア  

 

 

「この星では、全てのものの寿命が80年しかないのです」

 長い沈黙のあと、僧官長は覚悟を決めたように言った。


「どういう意味でしょう……」

「クレアさん、御神体のクリスタルに手を触れて、アナライズしてくださらんか」


 全て見通している僧官長は、クレアを偽名ではなく、本名で呼んだ。そしてクレアのアナライザーとしての役割も知った様子たった。


「……この星、80年以上の寿命を持っているのは、星本体と、僧官長さまだけです……なんということ……海の中には四つの大陸が沈んでいる」

「「え?」」

「待って、続きが……」

「やはり、続きは、わたしからお話しましょう。辛いことを先延ばしにしたり人任せにすることはアクアリンド人の悪い癖です」


 僧官長は後ろ手を組んで、クリスタルにも修一やわたしにも背を向けるようにして言った。


「この星は、地球に似た星で、かつて五つの大陸がありました。人口も50億と、穏やかな、星の容量に見合った数でした。しかし、地球がそうであったように、この星は大きな戦争や紛争を繰り返してきました……」

 アクアリンドの戦争や紛争の歴史がVR映像のようにフラッシュバックしていく。あらかじめ聞かされていなければ、頭も心もかき回されてしまいそうな凶暴さだ。

「ある日、ある戦争でICBMが撃たれました。落ちてくれば国の二つ三つが吹き飛んでしまうぐらいに強力な核ミサイルです。星を半周して大気圏に再突入しようとした時、突然流星が軌道を変えて、このミサイルに触れて、その弾みで核ミサイルは宇宙の彼方に弾き飛ばされたのです。流星は、衝突で速度を落として、大気圏で燃え尽きることなく、ここに落ちてきました。それでも巨大な隕石であることに変わりはなく、半径10キロが破壊され、大勢の犠牲者が出ました」

 ひょっとして……

「そうです、それが、このクリスタルなのです。クリスタルは囁きました『わたしを崇めれば、全てを水に流してやろう。そして、一からやり直しなさい。試しに、わたしの墜落で壊してしまった半径10キロを墜落前の状態に戻してみよう』、クリスタルが輝いたかと思うと……表現が難しいのですが、半ば実体化した水が流れて墜落の痕を洗い流していきました。そして、半径10キロは墜落前の状態に戻りました」

「そんなことが……」

 修一が漏らした言葉は怖れを含んでいる。正常な反応で安心した。

 僧官長の横顔は―― ここで間違った ――という表情だった。

「この星の指導者は、これに頼ってしまったのです。クリスタルに頼み、この星が真に平和になるまで水に流して欲しいと……」

「水に流すとは?」

「人の寿命は80になりました。あらゆるものを80年で更新するようにしました。その結果、大きな破綻や戦争が起こることは無くなりましたが、小さな不満や破綻は絶えることがありません。クリスタルは、この星の人間が満足していないと判断して、80年周期の更新をやめません。一時はクリスタルの破壊や星の外への移送を考えましたが、クリスタルは、この星の人間が触れることを許しません、このように……」

 僧官長が手を伸ばすと、あと30センチというところでスパークが走る。

「試しに、わたしの体を押してみてください」

「じゃあ、俺が」

 修一が押すが、30センチのところでスパークが走るばかりで僧官長とクリスタルの隙間は埋まらない。

「という次第です……流してしまったものは全て水になって海に流れ込み、四つの大陸は海に沈んでしまいました。まもなく、この星の人口は1億を割り、このままでは、最後に残されたアクア大陸も水没してしまうでしょう」


「それって……?」


「星が滅亡してしまうということ」

 思わず、無機質な言い方をしてしまった。

「そうです、クレアさんはお優しい。こういう話は情緒的に話してしまえば、嘆きしか残りませんからね。わたしは嘆くために、こんな話をしているわけじゃない。この星を元に戻したいのです。滅びに向かいつつある星なので、グリンヘルドもシュトルハーヘンも征服しようとは思いませんでした。この星を覆う水を減らせるかどうかは分かりませんが、残ったアクア大陸だけでも元の姿に戻したいのです」

 いつの間にか天窓が開き、潮騒が聞こえてくるようになっていた。地球同様に心が癒される波音ではあった。

「海の安らぎに頼り過ぎた姿が、このアクアリンドなんです」

 

 でも……


 そこまで言いかけて、あとは修一に任せた。

 言いにくいことをまわしたともとれるし、決意を伴う話になりそうなので、修一が話を付けるべきと譲ったともとれた。

 潮騒の音が大きくなってきた。なにやら大きな波が岩肌にぶつかるような音もし始めた。

「で、ぼくたちに、なにをしろと……」

「このクリスタルを、三笠で持ち出していただきたい」

「え……?」

「これは賭けです。グリンヘルドとシュトルハーヘンの戦いの中で、このクリスタルは、本来の存在意義を取り戻すと思うのです。80年の周期で、全てを更新し、水に流す愚かしさに気づいてくれるのではと思うのです。今のアクアのクリスタルは優しすぎます。その優しさが、この星を滅ぼすことに気づかせたいのです。それに、クリスタルには秘めた力があります。万一の時は、きっと、三笠のお役にもたちます……お願いできんだろうか」

 三笠は、アクアリウムのクリスタルを預かることになった……。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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宇宙戦艦三笠33[水の惑星アクアリンド・3]

2023-02-24 06:32:37 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

33[水の惑星アクアリンド・3] 修一  

 

 


 あくる日は視察と親善訪問でいっぱいのスケジュ-ルだった。

 アクアリンドのIT施設、生命科学研究所、老人介護施設、交通システム管理センター、軍の閲兵、そして、たまたま日が重なった三年に一度の高校総合文化祭の観覧と目白押しだった。

―― やっぱ、この星おかしい ――

 クレアの言葉が、直接頭に飛び込んできた。老人介護施設の訪問が終わろうとした時だった。

「この星の歓待ぶりは格別だね……」

 俺は、会話の流れとしては自然な一言を発した。

 次の瞬間、俺とクレアはデコイと入れ替わった。

 昨夜、クレアとバーチャル映像を監視カメラなどにかましながら決めた合言葉だった。クレアが用意した修一とクレアそっくりのデコイと瞬時に入れ替わっていた。瞬間各種のカメラに微弱なノイズが入るが、気が付く者はいないだろう。また気づいたとしても、ノイズを解析し、二人がやったことに気づくころには三笠は、この星を離れている。


「これはこれは珍しい。旅の修行僧のお方とは」

 アクアリンド大陸南端の密林の中に、それはあった。


 アクア神の唯一の神殿であるセントアクア聖殿である。僧官長のアリウスが両手を広げ、若い修行僧姿の修一とクレアを神殿に招き入れた。アリウスは、どうやら二人の正体と、訪れた目的を知っている様子である。

「夕べ、夢を見ましてな。北の方角から、若い修行僧二人が訪れると。これもアクア神の賜物でしょう」

「僧官長さまのお教えと、アクア神のお導きがいただきたく、大陸のあちらこちらを経めぐり、ようやくアクアの神殿にたどりつくことができました」

「いずこから来られた方であろうと、このアクア神のみ教えを拝する方は同志です。どうぞ聖殿に入られよ」

「我々のような修行浅い者が、聖殿などに入ってよろしいのですか?」

「聖殿でなければ、神の声は聞こえませんでな……」

 聖殿は神殿の奥にある八角形の台座で、その上にマリア像に似たアクア神の神像があった。

「入られよ」

「「失礼いたします」」


 僧官長にいざなわれ、俺たちは台座の中に入った。中央に八角形の大きなクリスタルが、様々な色に変わりながら輝いて、中央でゆっくりと旋回していた。

「これが、アクア神の御神体。上の神像は、人の目を欺く……と言ってはなんですが、分かりやすく人に見せるために作られた、祈りの象徴にすぎません。八十年に一度新しいものと交換いたします。本当の神のお姿はこのクリスタルです。地球のお方」

「やはり、ご存じだったんですね」

「この星で、八十年以上前の記憶を持っているのは、わたし一人です。わたしは、今年で二百八十歳になりますが、世間には八十歳で通しています。だれも怪しみません」

「それは……みんな八十年以上前の記憶がないからですね」

 クレアの言葉に僧官長は、かすかな笑みをたたえて沈黙してしまった。

 深遠な、すごみのある沈黙だった。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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宇宙戦艦三笠32[水の惑星アクアリンド・2]

2023-02-22 07:45:57 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

32[水の惑星アクアリンド・2] 修一  

 

 


 暗黒星団ロンリネス以上の歓待だった。

 アクアリンドは、夕刻の入港を指定してきた。

 船の入港は朝が多く、異例といえたが俺たちは素直に従った。

 二十一発の礼砲を鳴らすと、それが合図であったように、港街であり首都であるアクアリウムの各所から一斉に花火が上がり、花火には無数の金属箔が仕込んであって、それが他の花火や夕陽を反射して、ディズニーランドのエレクトリカルパレードの何倍も眩く、この世のものとは思えない美しさだった。

 三笠のクルーは正装して上甲板に並び、登舷礼の姿勢のまま美しい歓迎を喜んだりビビったり。

「悪いけど、わたしは神棚にいるわね。この星の雰囲気、どうも肌に合わない」

 で、ミカさんを除く全員で上陸し、アクアリンドの大統領以下、この星の名士やセレブの歓迎を受けた。


「いやあ、よくお越しくださいました。実に八十年ぶりの来航者で、我々も感動しております」

 大統領の言葉から始まり、各界名士の挨拶が続いた。

 歓迎レセプションには、この星一番のアイドルグループのエブザイルや、AKR48(アクアリンド48)のパフォーマンスが繰り広げられた。

「正直、退屈な民族舞踊なんか見せられると思っていたけどニャ。良い感じニャ!」

 ネコメイドたちは、ほとんど素の猫に戻って地元猫たちと楽しくやっていたが。他のクルーたちは微妙な違和感を感じていた。

 たかが水の補給にきて、この歓待はなんだ? 違和感の元は、ここにあった。


 深夜になって、クレアが憂い顔で艦長室にやって来た。

 クレアは元々はボイジャー1号で、漂流していたのを三笠で保護して、ミカさんが人間らしい義体を与えたものだ。ヘラクレアの娘さんのイメージが反映されているようだけど、並み居る敵艦隊を一手に引き受け玉砕した壮烈な軍人それではない。聡明で、でも少し引っ込み思案な……うん、トシの従姉だと言われたら、そのまま頷いてしまいそうな感じ。


「ちょっと、いいかしら……」


 と言った時には、その夜の晩さん会の素晴らしさを語り合う二人のフェイクデータをダミーに流していた。だから「今夜のおもてなしは素晴らしかったわね」とアクアリンドの諜報機関には聞こえていたが、実際は「この星、おかしいわよ」になっている。深夜になったのは、このダミーデータを作っていたかららしい。


「具体的に言ってくれ」


「レセプションでも気づいたと思うんだけど、この星には伝統芸能や、伝統技能がないの。それに、この星のコンピューター全てにアクセスしてみたけど、八十年前以前の記録がどこにもないの」

「ロンリネスのときみたいにバーチャルってことはないのかい?」

「そう思って調べたけど、全て実体よ。人口は一億八千万。惑星としては少ない人口だけど、大陸としてはほどほどの人口。ジニ係数も二十以下で、地球のどの国よりも貧富の差が少ないの」

「歴史が分からないという点を除けば、よくできた星だな」

「それから、この星は、ほとんど無宗教。アクア神というのがあるけど、信者は数百人といったところで布教している様子もないの。大陸の南端に神殿があるほかは寺院とか教会とか呼べるものが無いし、サーチした限り僧侶や神官らしき人も居ない……穏やかに見えるけど、どこかおかしいわ、この星」

「明日、名所案内をしてくれる。そのときに、ちょっと気を付けてみよう」

「それから、この音を聞いてみて」

「あ、ちょ……」

 クレアは、俺のオデコに自分のオデコを近づけて、自分の聴覚とシンクロさせてきた。見かけに似合わず大胆だ(;'∀')

「五感の99%を聴覚に集中して聞こえてきたの……目をつぶって集中して、そうでなきゃ聞こえないくらいに微かだから」

「う、うん……」

 それは、微かにサラサラと水の流れる音だった。

「えと……クレアの体の中を流れる血流?」

「違います! わたしのは……」

「ちょ!」

 頭を挟んで胸に持っていきやがる。

 ドックンドックン

 ウ!?

 意外に強い乙女の血潮に、ちょっとたじろぐ。

 俺の反応に満足すると、再びオデコに戻される。

 見かけも振舞も、ほとんど普通なんだけど、まだ人間に成り切れていないんだ。ま、いいんだけどな。俺が指摘したら、逆に変になりそうな気がする。俺も器用なほうじゃないからな(^_^;)

「ちょっと、聞いてる?」

「あ、すまん」

 横須賀港で見かけた自衛隊の……世界一と言われる静粛性を誇る潜水艦、それが限界潜行深度でたてるキャビテーションノイズを聞いたような気がした。

 うかつに目を開けると、目の前にクレアのドアップ。

(灬╹X╹灬)

「ちょっと、なにやってんの二人で!?」

 樟葉が怖い顔をして立っている。

 三笠の外にはバリアを張ってくれたクレアだが、艦長室のドアには気が回っていなかったようだ(^_^;)

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  


 

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宇宙戦艦三笠31[水の惑星アクアリンド・1]

2023-02-20 06:31:21 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

31[水の惑星アクアリンド・1] 修一  

 

 

「両舷10時と2時の方向に敵艦体!」「距離4パーセク!」

 Jアラートみたいな警報とともに当直のクレアとウレシコワが叫んだ。


「両舷共に10万隻、クルーザーとコルベットの混成艦隊、あと1パーセクで射程に入ります」

「敵艦隊、共にエネルギー充填中の模様。モニターに出します」


 クレアとウレシコワが的確に分析し、報告を上げてくる。モニターには、敵艦一隻ずつのエネルギー充填の様子がグラフに表され、まるで、シャワーのようなスピードでスクロールされている。

「全艦の充填には3分ほどだな。両舷前方にバリアー展開!」

 俺が命じたときに、砲術長の天音が遅れて駆け込んできた。

「ごめん! ミカさんバリアーお願い!」

 天音は、濡れた髪のまま、いきなり船霊のミカさんに頼んだ。

「天音、冷静に。ボタンぐらい留めてからきなさいよ(#`_´#)!」

 樟葉に怒られる。

 天音は、ざっと体を拭いたあとにいきなり戦闘服を着て、第一第二ボタンが外れたままだった。俺とトシの視線が自然に天音の胸元に向く。さすがに、0・2秒で、天音はボタンを留めた。

 が、その0・2秒が命とりになった!

「敵、全艦光子砲発射。着弾まで15秒!」

「ミカさん、バリアー!」

「大丈夫、間に合うわ」

 ミカさんは冷静に言った。

「カウンター砲撃セット!」

 カウンター砲撃とは、三笠の隠し技で、敵の攻撃エネルギーを瞬時に三笠のエネルギー変換し、着弾と同時に、そのエネルギーの衝撃を和らげて、攻撃力に変えるという優れ技である。カタログスペック通りにいけば、三笠は無事で、敵は鏡に反射した光を受けるように、自分の攻撃のお返しを受けるはずだった。

「着弾まで2秒。対衝撃閃光防御!」

 クルーは、ゴーグルを下ろし、身を縮め持ち場の機器に掴まった。

 

 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!

 

 ウワアアアアアアアア!!

 震度7ぐらいの衝撃がきた!

 天音が急場に留めたボタンが、みんな弾け飛んだ。瞬間胸が露わになった天音だったが、余裕ぶって見ている余裕はなかった。

 三笠はシールドで受け止めたエネルギーの大半を攻撃力に変換。カウンター砲撃を行った。主砲、舷側砲から、毎秒100発の斉射で光子砲が放たれた。

 しかし、両舷で100万発を超える敵弾のエネルギーは変換しきれず。舷側をつたって、シールドの無い艦の後方に着弾し、いくらかの被害が出てしまった。


「敵、6万隻を撃破。シールドを張りながら撤退していきます」

「各部、被害報告!」

「推進機、機関共に異常無し!」

「主砲、舷側砲異常なし!」

「右舷ガンルームに被弾。隔壁閉鎖」

「……後部水タンクに被弾。残水10」
 
「天音、シャワー済ましといてよかったね。飲料用に一週間もつかどうかだよ……」

 樟葉が優しくフォローするが、責任感と癇癪の強い天音は唇を噛んでいる。

「ここらへんで、水を補給できる星はないかしら?」

 ウレシコワが、真っ直ぐにレイマ姫に声を掛けた。

「右舷の2パーセクさアクアリンドがあるじゃ……」

「「「「アクアリンド……」」」」

「んだ……覚悟が必要じゃ」

 アクアリンドは、表面の90%が水という星であったが、グリンヘルドもシュトルハーヘンも手を付けないだけの理由があったのだ……。


☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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宇宙戦艦三笠30[グリンヘルドの遭難船・3]

2023-02-19 09:34:34 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

30[グリンヘルドの遭難船・3] クレア  

 

 

 エネルギーを注いであげると、エルマは話を続けた。


「……グリンヘルドの人口は200億を超えて久しいのです」

 その一言は衝撃的だった。グリンヘルドもシュトルハーヘンも地球型の惑星で、大きさも大陸の面積も地球とほぼ変わらないことが分かっている。

 ……とすれば、惑星としてのキャパは80億ほどが限界で、惑星全体として手を打たなければならないのは容易に想像がつく。

「そこまで文明が発達しているのに、どうして人口の抑制を考えなかったんだ」

 修一艦長は当たり前な質問をした。

 わたしがボイジャーとして宇宙に出たころの地球は、まだ60憶ほど。現在は80億を目前に、人口の抑制を考え始め、その成果も出始めている。

「その文明の発達が災いなんです。増えた人口は他の惑星に移住させればいい。なまじ文明が進んでいるので、古くから、そう考えられてきました」

「それで、地球に目を付けたんですか」

 樟葉が冷静に聞いた。

「ええ、皮肉ですが、地球の『宇宙戦艦ヤマト』がヒントになってしまいました」


「ヤマトが?」


「あれを受信して、地球の存在を知ると同時に、グリンヘルドとシュトルハーヘンの連合軍なら、デスラーのようなミスはしないと確信しました。上手い具合に地球人はエコ利権から、地球温暖化を信じ、数十年後に迫った寒冷化に目が向いていません。放っておいても地球の人類は100年ももちません。ところが、わがグリンヘルドもシュトルハーヘンも、もはや人口爆発に耐えられないところまできてしまいました。だから前倒しで地球人類の滅亡に乗り出したんです。もう地球には数千人の工作員を送っています。地球温暖化を信じさせるために。わたしの役割は、地球移送のための航路を開くことでした」

「あの……エルマさんは、なんで、そんな機密事項を、あたしたちに教えてくれるんですか」

 樟葉は冷静だ、エルマの話の核心をついてきた。

「わたしたちの考え方は間違っていると思うようになってきたのです。温暖化を妄信している地球も救いがたい馬鹿ですが、他の惑星の人類を滅ぼして移住しようとするのは、もっと馬鹿です、間違っています。わたしたちは、科学的に思考を共有できるところまで文明が発達しています。でも、その思考共有は惑星間戦争の戦闘時の軍人にしか許されません。そして、知ったんです。テキサスとの戦闘で……」

 エルマの目が深い悲しみ色に変わった。

「いったい何を?」

「弟は、工作員として地球に送り込まれていました。温暖化のことだけに関わっていればいいはずなのに、あの子は関係のない戦争に参加して命を落としました。その情報が戦闘中の思考共有で伝わってきました。それまで、軍は弟の名でメールを送ってきていました。わたしが怪しまないために。その後暗黒星団の監視に回され、生命維持装置がもたなくなり、救難信号を発し続けましたが、グリンヘルドは無視しました」

「そこまで、グリンヘルドは無慈悲なのか……」

「グリンヘルドは、一本の大きな木なんです……そしてわたしは枯れかけた一枚の葉っぱ。枯れた葉は、そのまま散っていくのが定めです。木は、枯れ落ちていく葉っぱに愛情など持ちません。グリンヘルドの摂理です」

「そんなこと……」

「来るわ」

 不器用なわたしは、残ったもう一隻のロボット船に目を向けた。

「さような……」

 プシュ

 エルマがお別れの言葉を言い切る前に、ロボット船は一条のビームになってエルマの体を蒸発させた。直後、ロボット船は消えてなくなり、エルマの痕跡はシートに残った人型の窪み。それも、三人が驚いている数秒間で戻ってしまった。

「なんてことだ……」

 修一が呟いて、樟葉とトシは言葉も無かった。

 わたしには分かった。あのロボット船は、最後の力を振り絞ってエルマを弔ってやったんだ。

 きれいなままで残ったエルマをきれいなままで逝かせてやるために。

 わたしもボイジャーとして、ずっと宇宙を漂っていたから、機能を停止して……いわば死んだまま宇宙を漂うのは怖かったもの。

 でも、三人には話してやらない。時間をかけて、少しずつ分かっていけばいい。

 わたしは、記録と分析は得意だけども、お話するのは苦手だしね。

 

「監視船への照準完了」

「出力は50で」

「あんな船一隻なら10で十分だぞ」

 砲術長の天音が異を唱える。

「跡形も残したくないんだ」

「分かった、出力50……設定完了」


「テーッ!」

 

 三笠の光子砲は、エルマの船を完全に消滅させた。

 言わなくても、修一には通じるものがあったのかもしれない。

 


☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 クレア         ボイジャーのスピリット
 ウレシコワ       ブァリヤーグの船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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宇宙戦艦三笠29[グリンヘルドの遭難船・2]

2023-02-18 08:34:35 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

29[グリンヘルドの遭難船・2] 樟葉  

 

 


 遭難船の女性クルーは衰弱死寸前だった。

 と言って、見たは目は健康な女性がうたた寝をしているようで、とてもそうは見えない。

―― 残った生命エネルギーを、外形の維持にだけ使っていたようです ――

 スキャンした彼女のデータを送るとクレアから答えがトシといっしょに返ってきた。

「なんで、トシが来てるんだよ?」

「クレアさんの意見で、三笠から携帯エネルギーコアを持ってきました。これを船の生命維持装置に取り付けて、この女の人を助けたらってことで。オレ、一応三笠のメカニックだから」

「でも、グリンヘルドの船の中なんて、初めてでしょ。トシにできるの?」

「フィフスの力で……うん、なんとかなりそう」

 トシは目をつぶって、調査船のメインCPとコンタクトをとり、船体の構造概念を知った。

「トシ、ツールも何にも無しで、CPとコンタクトできたのかよ!?」

 俺も樟葉も驚いた。

「ナンノ・ヨーダの訓練はダテじゃないみたいだよ。それぞれが持っていた能力を何十倍にもインフレーションにしてくれたみたい。とりあえず作業に入るよ」

 トシは、自分のバイクを修理するような手馴れた様子でエネルギーコアを船の生命維持装置に取り付け、グリンヘルド人に適合するように変換した。

 やがて、ただ一人の女性クルーは昼寝から目覚めたように、小さなあくび一つして覚醒した。

「おお、大したもんだな!」

「それもそうだけど、この人のリジェネ能力がすごいんだよ」

「まずは挨拶よ。えと、こんにちは、救難信号を受けてやってきました……」

「三笠のみなさんですね。助けていただいてありがとうございました。わたし、グリンヘルド調査船隊の司令のエルマ少佐です。もっとも、この船隊の人間は、わたし一人ですけど。あとの二隻はロボット船。あの二隻が救難信号を……あの二隻は、もう回復しないところまで、エネルギーを使い果たしたようです」

「ボクが直しましょうか?」

「もう無理です。アナライズしてもらえば分かりますけど、あの二隻は、もうガランドーです。すべての装置と機能をエネルギーに変換して、わたしの船を助けてくれたようです……ほら」

 片方のロボット艦は、最後の力を振り絞るようにブルっと震えると、陽に晒された氷細工のように霧消してしまった。もう一隻も昼間の月のように頼りなくなってきた。

「なんで、ここから外が見えてるんだ?」

「シールドが組成を維持できなくなって……質量比……1/100……負担の軽いアクリルみたいなのに変換したんだ」

 アナライズしながらトシが感動する。

 三笠から照射されるサーチビームが照明に変換され、船内は懐かし色に染まっていく。

 コチ コチ コチ……

「なんの音?」

「この船も崩壊が始まってるんです、せめてもの雰囲気……あなたがたのイメージに合わせて変換……合っているかしら……」

 ああ……!

 いっぺんにイメージが湧き上がった。

 これは、小学校の音楽で聴いた『おじいさんの時計』のイメージだ。

 悲しくって、でも暖かくって―― でも いまは もう 動かない おじいさんの時計 ――のところでは、樟葉は目に一杯涙を浮かべていたっけ。

「グリンヘルドは救援にこられなかったの?」

 指の背中で目を拭って、樟葉が聞く。

「わたしは、数億個の細胞の一つみたいなものだから、救難する労力を惜しんだみたいです……」

「つまり、切り捨てられた?」

「全体の機能維持のためにはね……それがグリンヘルド。さっそくだけど、お伝えしたいことがあります」

「もう少し、休んでからでも」

 トシがパラメーターを見ながら言った。

「見かけほど、わたしの機能は万全じゃないのです。いつ停止してもおかしくない。地球人の感覚で言えば、わたしは120歳くらいの生命力しかありません。時間を無駄にしたくないのです」

 三笠の三人は、エルマの意志を尊重した。

「……地球の人類は、あと百年ほどしか持ちません。地球の寒冷化は進んでいるのに、温暖化への対策しかしていません」

「ああ、温暖化は今や世界のエコ利権になっているからな」

「だから、あたしたちが、ピレウスに寒冷化防止装置を取りにいくところ」

「グリンヘルドもシュトルハーヘンも、寒冷化で人類の力が衰えて、抵抗力が無くなったところに植民するつもりなんです」

「だいたい、そんなところだろうと、オレたちも思ってる」

「グリンヘルドの実態を、三笠のみなさんに知っていただきたいのです」


 そう言うと、エルマの姿がバグったように、若い姿と老婆の姿にカットバックした。


「すみません、エネルギーコアを、もう少しだけ充填していただけないかしら。わたしの命は間もなく切れます。今の姿のまま逝きたいんです」

「なんなら、三笠の動力から直接エネルギーが充填できるようにしようか? 接舷すれば直接送れる」

「艦長、エルマさんの体は、もうそんな大量のエネルギーを受け付けられないところまで来てるよ」

「トシさんの言う通りです。あと少しお話しが出来ればいいんです」

「それなら、三笠のCPに情報を送ってもらった方が。少しでもエルマさんが助かる努力がしたいわ!」

 樟葉らしい前向きな意見だ。

「いいえ、情報はただの記号です。直に話すこと……人の言葉で伝えることが重要なんです……」

「トシ、急いで携帯のエネルギーコアを!」


「大丈夫、あたしが持ってきました」


 クレアが、携帯エネルギーコアを持って、調査船のブリッジに現れた。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長 ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長

 

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