宇宙戦艦三笠
虚無宇宙域ダルの正面はガラ空き。
……の、つもりだった。
ワープし終わってもしばらくは分からなかった。
それとの距離が50万キロという、宇宙単位では目と鼻の先になって知れた。
「正面50万キロに大型宇宙戦艦。ロックオンされている!」
念のためCICに入っていたクルーがホッとして出ようとした時に砲術長の天音が叫んだ。
「取り舵一杯。右舷シールド展開。砲雷戦ヨーイ!」
ドゴーーーン!!
天音と樟葉が、操艦と砲雷戦の用意をし終えたころに、着弾があった。
「右舷装甲版、第四層まで破壊される。右舷舷側砲、全て損傷!」
「次の砲撃には耐えられない」
「そのまま旋回、左舷を敵に向けろ!」
敵は、三笠が大破したことで一瞬の油断があった。旋回も舵の惰性だと思っている。
「光子砲、雷撃、テー!!」
「照準ができていない!」
「構わない、主砲、舷側砲、光子魚雷全て発射! 前進強速!」
三笠の砲雷撃は、それでも半分が敵艦に命中したが、全て敵のシールドに阻まれた。機関もダメージを受けていて、10万キロ進んだところでダウンした。
―― 降伏を勧告する ――
いきなりモニターに敵の艦長の姿が現れた。見かけは中一程度の女の子だったが、同時に送られてきた情報は、彼女がグリンヘルド、シュトルハーヘン両星連合タスクフォースの司令官であることを示していた。
―― 20年待った甲斐があったわ。狙い通り、ダル宇宙域に隠れていたんだ。わたしはタスクフォース司令のミネア。その船は破壊するが、あなたたちは助けます。ここまでやってきた努力はあなたたちの優秀さを示しています。地球支配の役に立ってもらいます。一分だけ待ちます。降伏か、戦死かを選びなさい ――
トシが、メモをよこしてきた。
―― ワープ、敵艦に体当たり ――
三笠の残存エネルギーは、さっきのワープと、今の攻撃を受け止めることに使われて完全にエンプティーのはずである。しかし、修一は、クローンのトシに賭けてみる気になった。ワープは通常機関を使わない。なにか目論見があっての事だろう。この三笠のクルーは、誰も地球支配のお先棒を担いでまで生き延びようとは思わない。その確信はあった。
「……分かった、降伏しよう。三笠の救命カプセルでは、そこまでたどりつけない。近くまで牽引してくれないか、ミネア司令」
―― 了解、賢明な選択ね。まず残っている主砲と舷側砲をロックして ――
「するまでもなく、あらかた破壊されてしまったけどね」
―― 余計なことは言わない。言われた通りにしなさい ――
「了解。美奈穂、オールウェポンロック」
ガチャリ
天音が、悔しそうな顔で、全装備をロックした。
三笠は牽引ビームが来ると同時にワープした。修一とトシとの阿吽の呼吸である。
牽引ビームとワープエネルギーの相乗効果で、三笠は、船そのものが巨大な弾丸になり、敵巨大戦艦の艦首にめり込んだ。
半分消えかかった意識で、敵の艦首の銘板が読めた。
グリンハーヘン……芸のない艦名だと思った。
☆ 主な登場人物
修一(東郷修一) 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉(秋野樟葉) 横須賀国際高校二年 航海長
天音(山本天音) 横須賀国際高校二年 砲術長
トシ(秋山昭利) 横須賀国際高校一年 機関長
レイマ姫 暗黒星団の王女 主計長
ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
メイドさんたち シロメ クロメ チャメ ミケメ
テキサスジェーン 戦艦テキサスの船霊
クレア ボイジャーが擬人化したもの
ウレシコワ 遼寧=ワリヤーグの船霊
こうちゃん ろんりねすの星霊