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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・182『アジト閉鎖・1』

2023-09-22 16:09:33 | 小説4

・182

『アジト閉鎖・1』アルルカン 

 

 

 カーーーーーーーーーーーーーーーン

 

 蹴り上げたオイル缶はカラとはいえ、100メートルの高さに舞い上がった。

 ピシュンピシュン ピシュピシュ ピシュピシュピシュピシューーン

 オイル缶は二つのパルス波によって100メートルの高さで踊らされ、三秒後にはほとんど蒸発したように消えてしまった。

 蒸発しきれなかった微細な破片がキラキラと宙に舞う。

 

 アルルカン:50  マーク:50  

 

 チェ!

 

 三度目のスコアが空中に浮かんで、二人の舌打ちが揃った。

「もうよそうぜ」

「なんだ、止めるのかぁ?」

「朝までやってもケリがつかん」

「言い出したのはマークの方だぞ」

「口やかましいボスがいたんじゃ、部下がやりにくいだろうが」

「まあいい、次の予定もあることだしな」

 ガチャガチャガチャ……空中のスコア票が古典的なエフェクトをさせながら、今日、88シュートの成績を表示する。

 88シュート全て50:50

 ガチャガチャガチャ……続いて、今までの99回分の成績を表示する。

 第一回の51:49を除いて、全て引き分け。

「いいのか、わたしの勝ち逃げになるぞ」

「続きはこんど会った時だ」

「フフ、そっちが生きていたらな」

「そっちこそな」

「…………」

「…………」

 ガラにも無く黙りこくって隠れ家に向かう。

 キュ キュ 

「やっぱり鳴き砂か?」

「ああ、ミナホの趣味でな」

 キュ キュ

「わざわざ入れ替えたのか?」

「いや、特殊なパルス波で処理すると、ここいらの砂は変質してこうなる。バルスの新案特許だ」

「ほほう、あの朴念仁がか」

「ふふ、いろいろあってな」

 面白そうなのでわけを聞こうと思ったら、副長のツナカンが気が付いて不満そうな声を上げる。

 

「ええ、もう帰ってきたんすかぁ!? まだバイクの整備終わってないっすよ!」

 

「かまわん、シャトルでいく」

「シャトルって、ステルスだけども光学迷彩じゃないからバレるっすよ」

「そんなヘマはせん」

「まさか、そのまま母船に拉致られるとかねえだろうなあ」

「ヒンメルは心子内親王殿下もお乗せするほど綺麗な船だ、ゴミは乗せん」

「ゴミか、オレは!?」

「あ、ゴミに失礼だったか?」

「この、くされ女海賊がぁ!」

「なにを! この宇宙ドブネズミがぁ!」

「ああ、もう仲がいいのは分ったっすから、さっさと済ませて戻って来てください。カサギの最終チェックもしなくちゃならないんすからぁ」

「ああ、そういうラブコメ風締めくくりはすんなぁ!」

「そーだそーだ!」

「ふん、いくぞマーク!」

「おお!」

 

 シュィーン

 

 図体のわりには、かそけき発進音でシャトルを起動させる。モードをアナログに切り替えると、立ち働く部下たちを尻目に、シャトルは地を這うように扶桑とマス漢の紛争地に向けて飛んだ。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

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銀河太平記・181『奥の院』

2023-09-16 10:31:41 | 小説4

・181

『奥の院』穴山新右衛門 

 

 

 奥の院は御庭の奥にある。

 

 御庭の奥は五月の斜面を挟んで啓林が借景の山のように蹲っている。

 斜面の小道は緩いカギ型で、啓林の入り口には二本の石柱が立って結界になっている。

 石柱の先は、めったに入れない。

 石柱の先、苔むした小道の尽きたひそみに奥の院がある。啓林に足を入れると、周囲より二度ばかり気温が低く、その静謐さと相まって、いかにも神域めいている。

 拝殿があって、奉行以上の役職に任ぜられたときは、ここまで来て祖神と祖霊である一仁(かずひと)様に精励の誓いをたてる。

 法的には将軍家の私的な霊廟であるが、扶桑の国にとって一番の聖域でもある。

 

「奥まで入るよ」

 

 てっきり拝殿でなにやらお誓いすることになるのかと思っていたら、奥の奥、神社で言えば本殿まで行くと仰せになる。

「しかし、平服でありますし、斎戒もいたしておりません」

「それはわたしも一緒だ」

「はは!」

 

 正面に『扶桑大神』 左に『扶桑一仁』 右に……なにも書いていない木牌。

 

 主従並んで最敬礼したあと、お上は、厳かにおっしゃられた。

「祖神、祖霊の御前で命ず。穴山新右衛門、大老職を受けよ」

「は、ははあ!」

 ここに至って否とは返せない、お上の並々ならぬご決意、お受けする他に道は無い。

「ハンベを鑑(かがみ)にせよ」

 鑑とは役人言葉で、書類の表紙の事を言う。ハンベの鑑とは大昔のスマホでいうところのマチウケのようなものだ。

 役人の場合、持ち主の姓名と職員番号が秘められている。

「鑑にいたしました」

「自分の姓名を、右の木碑が光るまでクリック」

「は?」

「はやくいたせ」

「は!」

 タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ……

 息子の親友たちの顔が浮かんだ、ハンベゲームで、よく弾幕シューティングゲームをやっていた。息子の彦には禁止こそしなかったが、あまり見っともいいものではない。この歳で、不本意ながらも大老職を引き受けたばかりの大人がやることではないだろう。

 パンパカパーーン!

 今どき、子どものゲームでも使わないようなエフェクトがして、木碑が輝いた。

「よし、これで、シキシマとの縁が結べた」

「シキシマ?」

「ここでは畏れ多い、黒書院……いや、東屋で話そう」

「は!」

 

 もう一度最敬礼すると、二柱の木碑も輝き、どうやら祖神、祖霊も嘉したもうご様子であった。

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

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銀河太平記・180『城内放送』

2023-09-08 14:50:24 | 小説4

・180

『城内放送』穴山新右衛門 

 

 

 老中首座 老中首座 お上のご用命です至急黒書院までお越しください 繰り返します……

 

 あやうく印判を押し間違えるところだった。

 板倉、酒井の二人の老中もキーを叩く手を停めて城内放送のモニターに目をやる。

 この春にモデルチェンジしたモニターには、初代様から変わらない広報係が笑顔でイレギュラーな呼び出しを繰り返している。

「どういうおつもりだ上様は?」「ちょっと変だな」

 板倉、酒井の老中もデイスプレーの画面から顔を上げる。

 

 普通、城内呼び出しは内線でおこなう。内線で掴まらない場合だけ例外的に城内放送を使うこともあるが、わたしは朝から御用部屋と呼ばれる老中共同執務室に詰めている。

「上様に心づもりがおありなのだろう」「抜き差しならぬご相談、いや、御下命かもしれんなあ」

「一時間で戻らなければ黒書院に電話してくれ」

「「こころえた」」

 

 同輩二人の返事を背中に黒書院への廊下を進む。廊下で出会う役人どもも――なんですか今のは?――という顔をしている。

 城内放送は城内全域に聞こえるばかりではなく、静かにしていれば城外でも聞こえる。風向きによっては半蔵門を超え、近ごろ問題が起こりつつある虎ノ門方面にも届くだろう。この瞬間に黒書院に飽和攻撃が加えられたら、幕府は一瞬で消滅する。

 

「なに用でありましょうか、お上?」

 

「そう尖らないでくれ、新右衛門が心配していることは全て織り込み済みのことだ。いい刺激になるだろ?」

 黒書院の上様は、部屋住みであったころのような気楽さで出鼻をくじかれる。

「赤間関や移民問題で多忙なのです、お手短に願います」

「そうか、ならば簡単に言う。新右衛門、大老職を引き受けてくれ」

「大老職!?」

「地球のあおりをくらって、この火星も安定を欠いている。このままでは、マース戦争以来の戦いが起こる。強い指導力がいる」

「畏れながら、それは、それこそが上様のお役目かと存じます」

「わたしはね、良き表札になろうと思うんだよ」

「権威に徹するということでありますか」

「将軍は権威の源であればいい、新右衛門たち幕閣が相談して国の方向を決め、将軍は、それを裁可する。ゆくゆくは議会の権限を大きくして軍事・外交・政策の全てを議会と、その代表である大老に任せたいと思う」

「立憲君主制の日本化でありますか」

「日本化はまだ先だ」

「英国流?」

「『君臨すれど統治せず』という点に置いてはな。しかし、あれは君臣が対決的だ。イギリスでは議会に国王が臨席するとき、国王はガードに玉座の周囲に爆弾が仕掛けられていないか調べさせ、議会は王宮に人質を差し出す。そんな対立的なものではない。日本化するのが理想だが、あれには二千年の年月が必要だ、この火星の状況で二千年も待てない」

「それでは?」

「強いて例えればプロシャ、皇帝の指導力を残しつつ国家指導の実質を宰相が預かるという形だ」

「この新右衛門にビスマルクに成れと?」

「その顔にビスマルクのヒゲをつけたら、扶桑の子どもはみんな逃げ出すぞ」

「ムム、ならば、新右衛門からも申し上げます」

「なんだ、たいていのことでは凹まんぞ」

「早く御台所様をお迎えなさいませ、お世継ぎを設けるのは将軍の大事な務めでございますぞ」

「それは、今少し火星が安定してからだ。いざとなったら、弟のところから養子をとればいい」

「それは……幸い、ここは黒書院、白書院ならいざしらず、お互いにティータイムの余談ということにしておきましょう」

「ムム……白書院は幕府正式の対面の場、あそこで言ってしまえば完全に命令になってしまう」

「では、仕事も溜まっておりますので、これにて……」

「よし、ならば、奥の院で話そう」

「お、奥の院でございますか……!?」

「あそこならば、将軍私的な場所である。文句はあるまい」

「ムム……」

「あそこで違えれば……おお、想像するだに震えがくる。のう、新右衛門」

「…………上様(-_-;)」

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

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銀河太平記・179『赤間関』

2023-09-01 14:32:05 | 小説4

・179

『赤間関』胡蝶 

 

 

 トラコン(虎ノ門コンプレックス)はリトマス試験紙のようなものだ。

 

 虎ノ門ヒルズと呼ばれる地域にある住宅と商業の複合施設で、増加しつつある移民と扶桑人を混住させてスラム化するのを防いでいる。

 今のところは、多民族共生がうまくいって、少々猥雑ではあるが活気のある国際街として外国人旅行者にも人気の街になっている。

 上様直属の隠密としては異例に長く、新設された虎ノ門の大型交番を預かって三年。

 隠密が、他の部局に籍を置くのは、あくまで擬態なんだが。ほとんど本職になってしまった感がある。

 トラコン及びトラヒルが我々の手に余るようなことになった時、それは、扶桑が鎖国する時だ。

 野放図に移民を受け入れていては、扶桑そのものが倒れてしまう。

 だから――ここまで――という時を見極めるために虎ノ門交番があり、そこの所長をわたしが務めている。

 

「殿下」

 

 しばらく使っていなかった敬称で声をかけたので、さすがに緊張の表情を向けられる心子内親王殿下。

「なんでしょうか、胡蝶さん」

 殿下も役職名の所長とは呼ばれない。

「御城にお戻りいただきます」

「いよいよ限界ですか?」

「昨日、殿下と交代で入った北町の同心二人がやられました」

「殺されたんですか!?」

「重傷と軽傷です。奉行所に戻るまでは辛抱していたのでトラコンでは知られていませんが、トラコンにもいろいろ流入して来ている様子です。わたしも任を解かれ、別の任務に就きます」

「そうですか……残念ですが仕方ありませんね。荷物をまとめます」

 

 殿下の準備ができるころには、南町奉行所から後任の所長と所員二名が到着し、引き継ぎもそこそこに御城に戻る。

 

 そして、今日は元の小姓頭(隠密9課隊長)として、穴山彦と国境の赤間関に向かっている。

「どうだ、このまま実働部隊に所属しては」

「いやあ、勘弁してください。ぼくはあくまで文官です(^_^;)」

「そうかぁ、交番勤務ではなかなかだったじゃないか」

「いや、ドンパチとか力技とかは一度も無かったですから」

「それが力なんだ。ドンパチやるのは愚の骨頂だ、やらずに済ませるのが真の力だ。停めて……」

 言い切らないうちに車を停めてくれる。

 

 赤間関というのは新しい地名だ。

 

 以前は緯度と経度の座標でしか呼ばれなかった。

 マス漢他五か国と扶桑の間にある砂漠地帯、その扶桑寄りの荒れ地。

 ここで数年前にマース戦争当時の犠牲者のミイラが発見された。ミイラは扶桑軍の兵士のもので惨い扱い方がされた痕が歴然だった。発掘が進むと他にも三か国のミイラが発見され、三年前に戦争史跡に認定され外国人も訪れるようになって、赤間関と名を付けられた。平和が続くようなら史料館も建てられて観光地になったかもしれない。

 その赤間関が不法の移民の流入口になっている。慰霊と称してここを訪れ、そのまま扶桑に居ついてしまうのだ。

 

 黙祷

 

 たとえ任務とはいえ、慰霊碑の前を素通りするわけにはいかない。

 ほんの二十秒ほど首を垂れる……振り返ると、守備隊司令の少佐が立っている。

「先輩が来られるとは思いませんでした!」

 敬礼した手を下ろすや否や少佐は懐かしさを溢れさせた。

「そんなにビックリしてくれたら、エドからやってきた甲斐があると言うもんだな。守備隊長の橘少佐だ。こちらは隠密課の穴山彦だ、わたしの副官をやってもらっている」

「隠密課祐筆の穴山です」

「穴山……ご老中の?」

「息子だ、こいつはゆくゆくは老中になるぞ。サインでももらっておけ」

「勘弁してください、隠密課で老中になったものは居ませんから」

「だからこそ値打ちがあるんじゃないか、今度の任務は目立ってなんぼだ。少佐、敵の目玉は残っているだろうな?」

「はい、五機は破壊しましたが一機は残してあります。外すのに苦労しました」

「すまん、自然な形で露出しなくてはならんのでなあ。その一機はどこだ?」

「は…………」

「そうか。ヒコ、あの三時方向の岩山に石を投げろ」

「え、石をですか?」

 ブィーーーン

 岩の一つに羽が生えたかと思うと、西に向かって飛んで行く。

 ビシ

 監視哨からレーザーが伸びて、あっという間に撃墜してしまう。

「あんなにハッキリ姿を現されては墜とさざるを得ません(-_-;)」

「これで監視は衛星だけになるだろう、ほどよく見せるというのが大事なんだ。さあ、塀の視察に行くぞ」

「「はい」」

 ヒコと少佐が同時に返事をして、国境の塀の視察に向かう。

 当然、敵には見られている。

 

 それでいい、隠密9課のトップが視察しているという事実が大事なんだ。

 隠密9課とは将軍直属、つまりは将軍が直接見ているということと変わりなく、その上で不法移民を送って来るとなれば、ケンカを売っているに等しいからな。

 それに、これだけ露出しておけば、ヒコが実働部隊に回されることも防げると思う。

 ヒコはいつまでも隠密課に留めないで外務奉行に戻してやった方がいいからな。

 

 車が左にハンドルを切ると、先日完成したばかりの塀がうねりながら地平線にまで伸びていた。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

 

 

 

 

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銀河太平記・178『トラコン・2』

2023-08-26 10:43:19 | 小説4

・178

『トラコン・2』須磨宮心子内親王 

 

 

 お疲れさまでした  ごくろうさまです

 

 警察らしくない挨拶を交わすと『北町奉行』とロゴを変えてパトカーは行ってしまった。

 トラコンは北町奉行所と南町奉行所の共同警備地区になっている。

 トラコン二丁目のバザールは車が乗り入れられない。

 めちゃくちゃ人出が多いので昼間の車両の乗り入れは禁止。むろん緊急車両は例外なんだけど、一応トラコンの規則に倣って、バザールの入り口で南北奉行所の同心が入れ替わる。

 パトカーの北町は、グルッとトラコンを周って奉行所に帰っていく。その間、南町は徒歩でバザールを巡回。そうすることで、トラコンにはパトカーと徒歩の警察官が巡回していることになり、不測の事態が起こっても柔軟に対応できるようになっている。

 

「お、5000人超えてる」

 ヒコくんが掲示板を指さす。バザールの東西南北には掲示板があってバザールの込み具合を示している。バザールは観光スポットでもあるので観光客も多い。それで、混み具合を数字とドットで表示して、なるべく混雑を回避できるように誘導している。

「やっぱり人気高~い」

「南の1番2番が特に混んでるわね」

「行きますか!」

「はい!」

 掲示板はハンベにも連動していて、警察用のハンベにはドットごとの国籍も分かる。

 

『ちょっと、いいかげんにしなさいよ!』『そっちのほうこそ!』

 

 不穏な声が聞こえて、二人で急行する。

「どうかしましたか?」

「あ、お巡りさん!」「ちょっと聞いてよ南町!」「まあ、二人とも落ち着いて」「そうよ、頭冷やして」

 隣り合った出店同士で揉めて、周囲の出店やお客たちがなだめている。

「境界線守らないのよ、この小間物屋!」

「そっちこそ前に出過ぎだろ、アウトレット!」

 どうやら、店の境界で揉めている。

 バザールは設置された時からきちんと区画されている。しゃくし定規に取り締まっているわけじゃないけど、時どきもめる。

 シャーー

 アナログのメジャーを出して調べる。

「あ、小間物屋のおばさん、15センチ出てる(^_^;)」

 バザール内の道路幅は6mで、店の前1mまでの張り出しは認められている。15センチは、ちょっと出過ぎ。

「だって、アウトレットが寄せてくるから、前に出さなきゃやってらんないわよ!」

「なにさ、うちの方が前から店構えてんだ。後から店出してガタガタ言うんじゃないわよ!」

「後先なんて、関係ないだろ、決まりはみんな守らなきゃだめだろーがぁ!」

「なんだとぉ!」

「「「「「まあまあ」」」」」

 周囲の人といっしょに二人を止める。

「仲良くやってくださいよ」

「可愛い婦警さんだけど、これは譲れないわよ」

「いっそ、奉行所の方で裁定してやったら、どうだね」

 ケバブ屋さんが、こっちに振って来る。

「裁定しちゃうと、取りあえず二軒とも厳格に見なきゃならないから」

「いいわよ!」「厳格に見てよ!」

「う~ん、でも、お二人は先月も揉めてるから、今度は裁定出るまで、お店閉めなきゃならなくなりますよ(`•︵•´) 」

 最後のところだけキッパリ言い切るヒコ同心。

「あ、ああ……」「それは……」

 二人とも語尾はゴニョゴニョ。

 

 とにかくもケリをつけて先にいく。

 

 それから、バザールで三件もめ事を仲裁、一丁目でゴミの収集について指導、一丁目公園ではバレーボールと野球のイリーガル違反を注意。ペットのミニブタが逃げ出したのを捜索。

 最後のミニブタは、三丁目で食べられてしまっていて、ちょっと仲裁するのが大変だった(^_^;)。

 

 夕方、北町から引き継いだパトカーに乗って、やっと一息。

 

「バザール、変だとは思わなかった?」

「え、境界線のこと?」

「いや、掲示板の数字よりも微妙に人が多いような気がした……」

「え、それって?」

「あ、いや、気のせいかもしれない……」

「…………」

 珍しく表情の読めないヒコくんだった。

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

 

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銀河太平記・177『トラコン・1』

2023-08-21 14:32:51 | 小説4

・177

『トラコン・1』須磨宮心子内親王 

 

 

 水・金・地・火・木・土・天・海・冥 

 

 冥王星は200年前に太陽系の惑星グループからは外されたけど、冥まで言わないと語呂が悪いので、200年後の今でも言う。

「水・金・地・火・木・土・天・海・冥はおまけで」とか「水・金・地・火・木・土・天・海・冥は名誉会員」とかね。

 初等科で太陽系の順番を習った時も、この語呂合わせで習った。

 先生は「長年仲間だったんだから語呂合わせぐらいには入れてあげよう!」と教えてくださった。

 冥王星が太陽系惑星から外されたのは、20世紀にエリスという10番目が見つかったことが原因。

 エリスは太陽系の外側で大きな楕円軌道を描いて560年ほどかけて太陽系の外周を周っている。

 だったら、エリスも10番目の惑星に……とはならなかった。

「太陽系の中にはね、惑星とは呼べないんだけど、太陽の周りを周っている小惑星が何万とあるんだ。その中には冥王星ほどの星もあって、そういうのも入れたらキリがない。だから、準惑星とか小惑星とかいうカテゴリーにしている。でもね、そういう準惑星や小惑星も、ちゃんと太陽系の仲間なんだからね(^▽^)」

 そう教えてくださった。

 

 虎ノ門前派出所勤務を命ぜられたとき、その冥王星を思い出した。

 

 霞ヶ関の旧4丁目5丁目を、新たに虎ノ門にしたのは、ここに新しい町を作ったから。

 霞ヶ関の旧4丁目5丁目は、将来扶桑が拡大発展したら官庁街を拡大しようとして、ほとんど更地で保全されてきた一等地。

 ひところは民有地である神谷町を拡大して民間に払い下げようという声が大きかった。

 そこに、道隆さまの発案で集合住宅街が建てられることになって、あらたに虎ノ門の地名になった。

 

 虎ノ門コンプレックス、略してトラコン。

 

 実は、火星の政情は不安定になってきている。

 比較的安定していたマス漢や連合国も、相次ぐ政権交代や不正裁判、経済政策の失敗で不法移民が増えた。

 ほかの二十余りの国々は押して知るべしで、一部の余裕のある人たちは地球に移っていったけど、地球の各国は火星からの移住を厳しく制限し始め、昨年あたりからは合法的な移住はほとんど不可能になってきた。

 そして、行先は火星内。治安も経済も落ち着いている扶桑に向かうようになったわ。

 

 カキーーーン!

 

 ホームラン間違いなしの打撃音の後に――ウワアアア!――という子どもたちの歓声。

「あれは三階グラウンドですね」

 見上げると第二公園の三階フロアのバリアーを突き抜けたボールが数メートルバリアー突き抜けて消滅した。

「あ、イリーガル設定してる」

「まあ、数メートル、見なかったことにしましょう」

 念のためにボディーカメラをチェックするヒコ同心。

「うん、8.5m 大丈夫」

 トラコンの公園は重力制御されていて、三層構造になっている。

 パルスガエネルギーで、800坪の公園を三層にして使っている。一層の高さを20mに設定してあるので、VB(バーチャルボール)ながら野球をすることもできる。

 VBでも、昔とは違って、ちゃんと手ごたえがある。VBT(バーチャルバット)の真芯に当てれば、当たりに相応しい音と手ごたえがして、ついさっきのようにホームランにもなる。

 VBはVBTとVG(バーチャルグローブ)にしか反応しないので、どこでやってもいいようなものだけど、見た目にはリアルと区別がつかないので、道路に飛び出すと危険なので、公園の外に飛び出したボールは消滅することになっている。

 しかし、ゲームのバグのように空中で消滅すると興が削がれるので、システムをいじって消滅距離を伸ばす子もいるのよ。

 時間帯にもよるんだけど、おおよそ10メートルまでは許容範囲。それもボディーカメラで捉えた映像を町奉行所のAIで確認する仕組みになっている。

 公園に出入りする子、街をいく人たちの国籍はまちまち。

 不法を含めた移民の街だから、こんなもの。

 ただ、他の国のキャンプやコロニーと違って人種、国籍はまちまち。

 

 扶桑は、移民の人たちに混住の義務を課している。

 

 集合住宅の上下左右に同じ民族や国籍の者が隣り合わないようにしている。そればかりか、扶桑人の入居者も居て、その中に混じっている。混ざり合うことで互いを理解し尊重し合うという仕組みになっている。

「いやあ、わたしの発案じゃないですよ」

 制度が始まったとき、道隆さまに聞いてみた。

「え、上様のお考えではないのですか?」

「はい、250年も前にシンガポールのリークワンユー氏がやったことです」

「そうだったんですか」

「はい、良いことであれば、例え昔のことでも真似します」

 ただの真似なんかじゃない、移民歴が12年を超えると、居住の自由が認められ、扶桑国内どこでも住めるようになる。だけど、家賃も安く、ひところは官庁街になろうかというほどの土地なので治安も交通の便もよくて、積極的に引っ越ししようと言う人は出ないだろうと予測されているわ。

 パトカーは、第二公園前を過ぎてトラコンの中央に向かった。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

 

  

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銀河太平記・176『虎ノ門前派出所』

2023-08-15 11:03:56 | 小説4

・176

『虎ノ門前派出所』須磨宮心子内親王 

 

 

 扶桑の首都は扶桑府です。

 

 首都だから『都』と書かなきゃおかしんだけれど、扶桑の首都は『府』になっている。

 初代将軍の一仁さまが、建国にあたって『扶桑府』とされた。

 宗主国の日本に遠慮されたからだと言われているわ。

 日本の感覚だと『府』は『都』の格下という感覚でしょ。『都』は東京都が一つだけだけど『府』は大阪府と京都府の二つがある。法的には『都』『府』『県』は同等だけど、東京都民は潜在的に二つの『府』よりも偉いと思ってる。高等部の時、親友のチエが「お上りさんのふりしてタクシーに乗ってみよう(^▽^)/」言いだして、チエはお母さんの出身地である大阪弁で通すと運転手さんは得々と東京の自慢をして、可笑しかった。

 初代将軍の一仁さまも、正確な読み方は『もとひと』。

 皇族男子の名前は『〇仁』と書くのが普通で、読み方は訓読み。だから征夷大将軍にお成りになるにあたって重箱読みの『かずひと』に変えられた。つまり、もう皇族ではないというお気持ちがこめられている。

 扶桑府の整備に当っては、中央に『御城』を置いて、その周囲の地名は江戸の街に倣った。

 道隆さまに寮生活仲間を紹介されたのは、東京と同じく御城の北にある飛鳥山公園だったし(127『火星の春もたけなわ』)、お休みの日に遊びに行ったのは渋谷、原宿、秋葉原に浅草。浅草には本家の浅草ではとっくに無くなった奥山という歓楽街さえありました。ちなみに歌舞伎町は無いんです。本家の歌舞伎町は大東亜戦争後に生まれたものだから。

 つまり、扶桑府のモデルは、どちらかというと江戸なんですね。

 扶桑の人たちも、日ごろは扶桑府とは呼ばずにエドと呼ぶ人たちが多い。

 一つには、国名と首都名がいっしょなので扶桑ではややこしい。扶桑府と呼ぶと「府」一字が微妙に長いし。

 でしょ、東京の人は、日ごろ「東京都」とは呼ばないでしょ、「東京」で済ましてる。

 大阪も京都も同じよね。

 エドって言うのは、独立前の都市記号が「ED」だったことからきているって言われているわ。

 Eは、五番目に作られた街だから。Dは防衛機能に特化した街で、ディフェンスの頭文字からきているんだそうです。

 これほど江戸の街にあやかっているのに、一つだけ意識的に外された地名がある。

 

 虎ノ門

 

 御城そのものが桜田門が外縁で、その外側になる虎ノ門が存在していなくて、神谷町まで霞が関の地名が続いている。

 東京では三丁目までしかない霞が関は五丁目まで設定されていて「エドは東京の半分の規模だから」という言い訳と矛盾する。

「初代一仁さんが『虎ノ門』というのを忌避されたんです」

 道隆さまに聞くと、そうおっしゃった。

「あ……ひょっとして、虎の門事件ですか?」

 お聞きすると苦笑いされた。

 虎の門事件というのは、大正時代に、当時摂政宮とおっしゃった昭和天皇が狙撃された事件。

 幸い、摂政宮にお怪我はなかったけど、皇太子時代とはいえ天皇が襲撃されたのは、これが初めて。

 それを憚って『虎ノ門』という地名は使われなかった。

 

 それが、昨年、霞が関の官庁街を護るためにゲートが作られて『虎ノ門』と名前が付けられ、四丁目五丁目も虎ノ門の地名に変更された。

「まあ、虎の門事件では摂政宮殿下はご無事だったし、犯人を捕まえたのは、その場に居た市民の人たちだったし……まあ、いいでしょう(^_^;)」

 道隆さまは、いっそうの苦笑いで締めくくられた。

 

 わたしは、その虎ノ門前にできた虎ノ門前派出所に居ります。

 

「ココさん、巡回に行きますよ」

 わたしと同じ同心(日本の巡査)で、寮仲間でもあった穴山彦くん。

 彼も言わないし、わたしも聞かないけど、ヒコくんが交番勤務になったのは、わたしのガード役というか守り役。

 隠密課という書院番(将軍補佐官)としては異色なんだけど、それだけ、将来を期待された人。

「混住が始まって三か月、いろいろ出てくる時期だから、よく見ておいて。そして深入りしないようにね」

「「了解」」

 ボスの胡蝶さんに敬礼して、地域パトロールに出るココでした。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・175『冥王星の裏側』

2023-08-09 14:30:08 | 小説4

・175

『冥王星の裏側』周温来 

 

 

 アルルカンと言えば伝説の宇宙海賊だ。

 

 地球や火星のテクノロジーは太陽系の中での移動手段しかもたないが、アルルカンの船は自在に銀河宇宙を駆け巡っているという噂だ。

 銀河宇宙に乗り出すには最低でも光の速度で飛ばなければならない。実際には光の何倍、何十倍、何百倍の速度が出せなければ実用にはならない。光速や光速の数倍程度では、目的の星に行って帰って来るだけで数年、数十年、遠いところでは百年かかっても到達さえできない。宇宙船のような移動手段は、移動することで経済的な目的を果たせなければ、国家的あるいは惑星規模の道楽でしかない。

 パルスギが発見され、理屈の上では光速航行が可能にはなった。

 しかし、それは、石油が発見されたから飛行機が飛ぶというくらいに離れた技術だ。

 おそらく光速以上の速度、あるいはワープ技術を人類が獲得するのは数十年先のことだろう。

 

「ええと、だから、今見えてるのが冥王星でぇ(^_^;)」

「信じられない、月の軌道を発進して55秒しかたってない」

「いや、だから光速の二倍で飛んだわけで……」

「これはフェイク画像だろう……」

「あ、そういう疑問持つとキリがないんだけど……」

 案内されたブリッジの展望ディスプレーには、紛れもない冥王星が映っているのだが、こんな仮想現実はAIでいくらでも作れる。

「船長、だったら冥王星の陰に隠したアレ見せればいいんじゃないっすか?」

「え、あれを見せるのかぁ?」

「はい、あれ見せれば納得してもらえるっす。たぶん」

「じゃあ、回り込んでぇ」

 ウィーーーン

 微妙に加速して、ヒンメルは冥王星の裏に周る(フェイク画像だと思うけど)。

「あの傘みたいなのは?」

「目隠しだ。地球や火星から見えそうになったら、あの傘を動かして見えないようにしている。日本の四国ほどの大きさがあるから、角度を変えることで隠せるんだ。シャケカン、回り込んでくれ」

「了解っス。船外に出るっすか?」

「ああ、ディスプレーの画面だけじゃ信じてもらえそうにないからな。付いて来てくれ周温来」

「あ、ああ」

 ボートデッキに行くアルルカンの後を付いていく。

 あれ?

 相変わらずマントを翻していくんだけど、全く周囲のものに引っかからない。

「最初に会った時はリアルマントだったからね。普段はバーチャルにしている。ほら、こうすれば……」

 マントが消えて……え……その下に着ているものが順々に消えていく。

「……あ、船長(;'∀')」

「え、あ、しまった、全部消してしまった(#^_^#)」

「…………」

「あはは、サービスを兼ねて意地悪をしてしまったな」

 

 ボートデッキの手前で、船外服に着替えて複座のパルスボートに乗り組む。

 

 シュイーーン

 

 ボートは弧を描いて傘のふくらみの中に潜り込んでいく。

 

「おお!?」

「期待通りの反応で嬉しい。どうだ、すごいだろ(^▽^)」

 傘の中には古い宇宙船がコレクションのように係留されていた。

「まあ、半分趣味だがな。中にはビンテージものの船もあってな、けっこういい値段がつくものもある。あの小さいのはボイジャーだ」

「ボイジャー……」

 250年前に、初めて太陽系を飛び出したNASAの惑星探査機だ。太陽系を出てからは追跡不能になっている。

「プロキシマケンタウリに向かう途中で発見した」

「あんなの持って帰ってきていいんですか?」

「機能もとっくに喪失している、一人ぼっちで宇宙を漂っているのは可哀そうだろ。あれは2号だが、1号も見つけてやればセット売りでけっこうな値段になる」

「いや、でも……」

「忘れてもらっちゃ困る。このアルルカンは宇宙海賊なんだぞ」

「あ、あのシルエットは!?」

「宇宙戦艦ナガトだ」

「え、実在したのか!?」

「100年前に映画化された時の原寸大模型だ。あんなものCGでやればいいんだがな、あえてリアルセットを造ったところに値打ちがある」

「しかし、こんなデカブツ、ペイするのか?」

「ハハハ、だから半分道楽だ」

「なるほど……」

「分かってもらえただろうか、これだけのコレクション、たとえ傘で隠していても地球や火星の近くでは、必ず発見されてしまう。まあ、パルスギエンジンが本格的に作られれば、この冥王星の陰でも発見されてしまうだろうがな」

 秘密のコレクションが近々見つかってしまいそうで、寂しさを隠せない子どものような目をしている。

 アルルカンがオーバーテクノロジーと云っていいスキルを持っているのは、瀕死の俺を三日で治したことでも分かってはいる。

「どうだ、その……わたしの仲間に……」

「周温来はピタゴラスで死んだ」

「あ、ああ……」

「ということにしてくれたらな」

「お、おお! そうか、嬉しいぞ、周温来!」

「おい、無重力空間で抱き付くなあ!」

 俺とアルルカンは、ヒンメルが牽引ビームで停めてくれるまで冥王星の裏側でグルグル回っていたのだった。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

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銀河太平記・174『救急艇』

2023-08-04 11:16:19 | 小説4

・174

『救急艇』周温来 

 

 

 ピシピシピシ! ピシピシピシ! ピシピシピシ! ピシピシピシ!

 

 しつこい奴らだ、もう死にかけているというのに、まだ撃ってくる。

 しかし当たらない。

 仕方がない、窪地からにじり出て撃たれやすくしてやろう……

 ジリ ピシュ ジリ ピシュ ジリジリ ピシュピシュ……

 動くたびにスーツの破れ目からエアーが漏れる。

 大昔の爆撃機の燃料タンクにヒントを得たというスーツは小さな穴ならオートリペアする。リペア中の穴からヘタクソの口笛のような音がして、周温来様の断末魔にしては間抜けすぎる。

 まあいい、聞いている者も見ている者もいない。

 

 タタタタ

 

 くそ、軽やかな足音させて……間近に寄って至近距離で止めを刺そうというのか、勘弁してくれ(^_^;)

 

『動かないで、スーツの上からだけど応急処置します』

『え……』

『犯人たちはぶち殺しました。間もなく、救急艇が来ます』

『救急艇……どこの……』

 思っているうちに意識が切れかかる。

 

 フートンで酔いつぶれたような感じになって、みんなの様子を……薄目を開けると、目の前に巨大な宇宙船……え、フートンは……また意識が途切れる。

 

 ピ ピ ピ…………

 

 心音計のような音がして目が覚める。見えている限りは病院の処置室という感じだ。自分のも含めて三つのベッドがあって、正面は壁全体がガラス張になっている。

「よかったぁ、これで大丈夫ですよ」

「えと、救急病院なのかなあ」

「いっぺんに言うと混乱しますから、ちょっとずつ言いますね」

「あ……うん……」

「ご自分の名前、分かりますか?」

「えと……聖天大聖孫悟空」

「真面目に聞いてます」

「さっき死んだから、生まれ変わった」

「死んでません、わたしが救助したんですから」

「えと、君は?」

「国際救助隊」

「サンダーバードォ♪……え、あれのクルーって、全員男だよね」

「見かけで性別を判断してはいけません」

「あ、LGBTQ?」

「仕返しで言っただけですよ、周温来さん」

 ピ

「う……」

「はい、脳波は『その通り』って言ってます。あ、わたしはアルミカンと言います。宇宙戦艦ヒンメルの先任船務員です。略してSSです」

「宇宙戦艦ヒンメル……それって……」

 

『そう、宇宙海賊アルルカン艦隊の旗艦よ』

 

 首を巡らすと、正面のガラスの向こうに、プラチナブロンドにマントを翻した女宇宙海賊の親玉が立っていた。

『ようこそ、宇宙戦艦ヒンメルへ。検査が終わったら艦長室に来てちょうだい。あとは頼んだぞアルミカン』

「ラジャー(^^ゞ」

 アルミカンが敬礼すると、女海賊はマントとロン毛を翻し、ブーツの音を響かせながら行ってしまった。

 大戦艦とはいえ船の中、あの宇宙海賊のコス、引っかかったりしないのか?

 ドシン!

『アイテ!』

 

 ああ、やっぱり引っかかるんだ。

 

「あははは……」

 アルミカンが――しょうがないんです、うちの艦長は(^_^;)――という感じで頭を掻いた。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

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銀河太平記・173『周温来撃たれる』

2023-07-30 11:03:21 | 小説4

・173

『周温来撃たれる』周温来 

 

 


 流しの坑夫は便利屋だ。

 頼まれれば坑夫以外の仕事もこなすし、話があれば、どこにでも出かけ、たとえ半日の賃仕事だってやる。

 今日は、カルデラの外に出て通信設備の保守点検。

 月も火星も通信設備は多元化されている。

 日ごろはパルス通信だが、万一のことも考えて光通信や電気通信も残されている。電気通信にも二通りあって、無線と有線。無線は中継設備の点検だが、有線の方は長いケーブルを目視確認しなくてはならない。

 何事にもチャランポランな月社会だが、通信インフラに関してだけはキチンとしている。通信がダウンしてしまえば、悪党どもの密売や違法賭博もできなくなってしまうからね。

 ケーブルの点検は二人一組でやる規則になっている。組み合わせはロボットと人間という決まりになっているが、それでは人件費が倍になってしまうので、二人でやったことにして、ベテランの人間一人にやらせる。

 やらせる方も、信用が掛かっているので、そうそういい加減な奴にはやらせない。

 鉱山でも呑屋街でも、そこそこに評判と実績のある流れ者には打って付けのアルバイトだと言うわけだ。



 B区間4000mの点検を終えて作業車を停める。


 4000というのは、いい区切だ。

 古典的に言えば1里。集中を途切らせずに作業をするには1里という単位がベスト。

 顔を上げると、少し先に軍のドームプラントが見える。

 東京ドームほどのそれは、巨大な金魚鉢のようで、金魚鉢の下半分は様々な植物が枝を伸ばし葉を茂らせている。ところどころ、花や実を付けているのが遠目にも覗える。

 たとえ実験プラントであっても、こういうことを大真面目にやるところが扶桑流なんだろう。

 彩の中央にあるのは桜だろうか。

 どこに行っても桜を咲かせたがるのは、扶桑の宗主国である日本の血なんだろう。

 中国人の俺も桜は好きだ。

 ヒムロのシゲ爺が神社を造って桜を植えたとか、西之島紛争で神社は破壊されたが桜は残っているらしい。

 島に帰るつもりは無いが、桜を眺めながら氷室とマヌエリトと三人で酒を酌み交わし、エンドレスの法螺話。

「日本人は、桜を見て『きれい』とか『美しい』とか『潔よさ』とか思うらしいが」

「あ、まあ、そうだね。僕は、ただボンヤリ見ているのが好きだけどね」

「ボンヤリかぁ?」

「ボンヤリ、大事」

「どう大事なんだ酋長?」

「ボンヤリ、先祖や地の聖霊といっしょになる。こころ、たましいキレイになる」

「日本もインディアンもアニミズムだもんな」

「あはは、カタカナで括られると、ちょっと、カックンですね(^_^;)」

「桜というのは豊かさのシンボル。満開になったら大金持ちになる前兆みたいで気持ちいい。大盃でググっとやりたくなるだろうが」

「チビチビがいいです」

「酒はほどほど、飲み過ぎたら白人に土地とられる」

「白人に盗られたら、この周温来が取り返してやる!」

「中国頼む、あと、怖い」

「ああ、マヌエリト、俺はそんじょそこらの中国とは違うんだぞぉ!」

「まあまあまあ」


 てな具合になあ…………あ、星が流れた。

 !?

 プシュ!

 咄嗟に身を躱したたが、スーツ(宇宙服)の肩を射抜かれた。

 体には当たっていないが、エアーが漏れる。

 シューーー

 ハンベをアクトにしてジャンプ。着地してダッシュ!

 ピシピシピシ!

 アクトにしたので、銃撃音も聞こえる。

 いつか来るとは思っていたが、それは鉱山事故に見せかけてか、町の中で事故に見せかけてかと思っていた。

 出来ることなら、ゴールデン街あたりで、華々しくと思っていたんだが。

 バイザーの端にスーツ姿の二人組が見える。

 ここは逃げるにしかず。

 セイ!

 岩を蹴った勢いで作業車にジャンプ。スロットルを上げて急発進!

 ピシピシピシ! ピシピシピシ!

 二連射を躱して、ハンドルを回したところで衝撃がきた!

 ドッゴーーーン!

 瞬間、ひびの入ったバイザーに三人目の姿が映ったが、喰らってからでは遅い。

 ドサ!

 地球だったら完全に五体バラバラという勢いで地面に叩きつけられる。

 ピシピシピシ! ピシピシピシ! ピシピシピシ! ピシピシピシ!

 念押しに撃ってくるが、微妙に窪地になっているせいか当らない。

 当らなくても、十分に死にかけている。

 腹を撃ち抜かれて血が噴き出している。スーツに穴をあけられているので、出血が止まらない。

 バイザーの中にも薄く血がスプレーされていく。

 自分の血で窒息死……ちょっと勘弁してほしい。

 あ……その前にエアーが切れる……もういいか……。


 
☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

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銀河太平記・172『実験プラントのマス桜』

2023-07-25 15:42:46 | 小説4

・172

『実験プラントのマス桜』緒方未来 

 

 

「ほかにご質問が無いようでしたら、時間も押してまいりましたのでお開きにさせていただきたいと存じます」

 

「写真いいですか!?」「サインしてください!」「動画かまいませんか!?」「かわいい!」「握手!!」てな要望が会場中から出て……シンポジウムはアイドルの営業のようになってしまった。

「一列に並んで欲しいのよさ! ご要望にお応えしゅゆのよさ!」

「次の予定も迫っていますので、これで打ち切らせていただきます!」

 ダッシュがマネージャーのように立ちふさがり、わたしがかっさらうようにしてテルを控室に連れ帰る。

「もうちょっとやっててもよかったのよしゃ(^▽^)」

「あんたも調子にのるんじゃないわよ」

「らってらってぇ!」

「らってじゃねえ!」

「控室、しょっちなのよさ!」

「「こっち!」」

 

 控室を素通りして廊下の突き当りのドアを開けると、回しておいた車にテルを抱えたまま乗り込む。

 バタム

 ダッシュがドアを閉めると同時にアクセルを踏んで、文字通りダッシュ!

 ブィーーン!

 

「あ、あ、だましたにゃ! お弁当まだ食べてないのよさ!」

「ここにあるわよ、さっさと食べて」

「おお……で、どこに行くのよさ?」

「あ、えと……」

「え、ダッシュ考えてなかったの?」

「あ、いや、とにかく連れ出さなきゃ、話もできないだろ」

「じゃあ、マス桜観に行こう、もう満開近いよ」

「おお、よし、じゃあ」

 グィン!

「プギャ!」「キャ!」

「おお、すまん」

「もう、急にハンドル切らないでよ!」

「近道を逃してしまいそうだったからな」

「え、こっちってカルデラ出ちゃうよ」

 ピタゴラスは直径130キロのクレーターで、外への出入りは飛行能力が無い限り12カ所のトンネルかカルデラ越えの山道を通るしかない。

「3号トンネルの外に軍の実験プラントがあるんだ。マス桜の固有種もあるし、なによりほかの人間が居ないからな」

「おお、絶景なのよしゃ!」

 ピタゴラスは他のクレーターのようにお皿のような底面ではなくて、すり鉢状になっている。中腹の3号トンネルまでは九十九折れになっていて景色がいい。

 ダッシュもわたしも、月には任務で来ていて、たまの休日は、せいぜい買い物をする程度。

 移動途中とは言え、友だち三人でつかの間のサイトシーングするのは面白い。

 特に観光ルート化されているわけでもなく、10分ほど「おお!」「うわあ!」「しゅごい!」と言ってるうちにトンネルに突入した。

 

 トンネルを抜けて見えてきたプラントは東京ドームほどの大きさで、雰囲気が扶桑城の御庭に似ている。ほら、上様が実験的に品種改良なさっているプライベートガーデン。

 

「ほら、あれがマス桜だ」

「「おお!」」

 満開ちょっと前、まだ花びらが散ることもなく、木にも花にも勢いがある。

「ピタゴラス公園は数は多いけど、こんなのは無いよね」

「大きさ的にはあるんだろうけど、色や勢いでは、こっちの方だろ」

「これも上様の品種改良なのかにゃ?」

「栽培方法が違うんだそうだ」

「でも、日照とかはどうしてるの、オートソレイユ(太陽灯)とかは無さそうだけど?」

 月は自転周期が27日、つまり夜が27日も続くわけで、オートソレイユが無ければドームの中でも植物は育たない。

「ソレイユはこの真上」

「「え?」」

「静止衛星が三つ上がっていて、夜間は衛星を経由して太陽光が降り注ぐ」

「なるほど……でも、衛星でそこまで賄えるの?」

「あ、パルスギ使ってるにゃあ?」

「ああ、パルスギは生成エネルギー量もすごいが、蓄光量も桁外れで、衛星一個分の蓄光でこれくらいのドームプラントを賄える」

「あ、しょれって……」

「ああ、テルのパルスチャージの応用らしいぞ」

「お、おお……テルってしゅごいのよさ! 褒めていいじょ!」

 パチパチパチ

「ハハハ、なんかショボくて悪いな(^_^;)」

「ううん、友だちに認めてもらえるのがいちばんなのよさ(n*´ω`*n)」

「そうだな、これでヒコが居たら同窓会だな」

「ヒコ、まだ隠密課?」

「あ、えとにゃ……」

 テルが言い淀む。

 仕方がない、隠密課というのは、幕府の機密を扱うセクションで、ここに配属されると身内であっても連絡が取れない。

「今は南町奉行所にいるにゃ」

「え、なんかやったの?」

 ヒコは、若年寄穴山新右衛門の息子で、わたしたち同期の中でも主席の成績。

 親の七光りが通用するような幕府じゃないけど(老中の孫娘がパスカルの診療所で働かされてるのでも分かるでしょ!)毛並みの良さと才能に恵まれて、おまけに人柄もいい。隠密課で機密のイロハを学んだあとは外国奉行か勘定奉行所あたりでエリ-トコースの階段を上って行くと思っていた。

 隠密課から町奉行所に行くなんて、ハッキリ言って左遷!

「でも、年番方とか吟味方(裁判官)かなんかだろ?」

 ダッシュでも、そう思う。せめて、町奉行所のエリートではあるだろう。

「定廻同心(じょうまわりどうしん)にゃ」

「え、平同心なの!?」

「えと……ここだけの話にゃ」

「「う、うん」」

「ココちゃん(心子内親王)がにゃ現場の仕事がしたいってにゃ……」

「「あ、ああ……」」

 聞かずとも分かる。

 ココちゃんは、宗主国日本からの大事な預かりもの(絶対内緒だけど)。でも、扶桑に来て四年。あの性格から言っても、いつまでもお客様扱いの資料整理係りじゃ収まらないだろう。

 それで、民政最前線の町奉行所。扶桑は火星の中では最も安定した国だけど、民政の最前線まで下りてくるといろいろある。お姫様一人にはしておけないものねぇ。

「上様は、じゅっと先を観てるにゃ」

「ずっと……」

「先……」

「パルスギはエネルギー革命にゃ、まだ周辺のぎじゅちゅが追いつかにゃいけど、そのうちに人類は光のしょくどを超えて太陽系を飛び出すにゃ。銀河の時代になるにゃ。上さまは、その銀河の時代に立ち向かえる人材や指導者の養成に力を入れはじめたにゃ」

「そうなんだ……」

「よし、今度は、扶桑の飛鳥山で、みんな揃って花見をしようぜ。そのころにゃ、上様も、もっとすごい桜を作ってるかもしれないしな」

「再来年くらいかにゃ?」

「アハハ、テルはせっかちだなぁ」

「いや、分かんねえぞ。テルの頭の中には何が入ってるか分かんねえからなあ」

「あ、もう、あたまクシャクシャはなしにゃあ!」

「アハハ……」

『親子みたい!』という言葉が出てきそうになったけど抑えた。

 修学旅行に行ったころは、こういうじゃれ合いを見て『年の離れた兄妹みたい』と続いたんだ。

 あのころと全然変わらないテル。

 ちょっとずつ大人になっていく私たち。

 テルは……と思って、考えるのを止めた。

 

 見上げるとマス桜の上、ドームを通して星が流れるのが見えた。

 むろん願い事をする暇もなかった。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

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銀河太平記・171『緊急招集かぁ!?』

2023-07-20 14:16:34 | 小説4

・171

『緊急招集かぁ!?』緒方未来 

 

 

 明日からまたパスカルの診療所。

 

 めちゃくちゃ気が重い。

 鉱山の医務室で発見したメディカルストックの不正会計。

 金額は知れている。一年分の操作でわたしの給料一か月分ちょっと。

 あくる朝には「適性」な数値に書き換えられていたから放っておいても、そうそうまずいことにはならない。

 この程度のことは開発の重点が月から火星に移った百年以上昔からある。

 しかし、いっしょに確認したのが、軍警の三等兵、いや三等軍曹で幼なじみのダッシュ。

 それに、老中だったお祖父ちゃんの顔もチラつくしね。

 月よりもマシな火星の中でも、扶桑はとびきり清廉な国だ。

 国民の九割が日系、政体は征夷大将軍を元首にいただく幕府の体制。

 そこで育った人間として、やっぱ見過ごしにはできない。

 重い腰を上げてシャトル便の時刻を調べる。

 医局の車が使える身分じゃないし、レンタカー借りてまでとは思わないしね。

 まあ、帰りにプラトンのショップに寄って、月面宙返りのグッズでも漁って見よう。

 

 うう……30分に一本しかない上に時間が迫ってる。

 

 エイ!

 

 気合いを入れて玄関を出ようとしたらハンベが鳴った、それも緊急公用の赤を点滅させながら。

 ググ……どこぞで大事故とか起こって緊急招集かぁ!?

『ミク、非番のところすまない』

 ゲ、人工音声のオペレーターじゃなくて、所長の肉声だ!

「で、事故現場はどこですか!?」

『いや、救急じゃない。文化局から直接のオファーなんだ』

「文化局ぅ!?」

『ああ、ほら、なんて言ったかな……月面道路の重力を地球並みにした実験線……Moon Gravity Control……か? その開発技師のシンポジウムがあるそうなんだが、言葉に癖があるそうで、通訳が必要なんだそうだ。その通訳に緒方君、君をご指名なんだ、講師は……』

「なんで医局が通訳を……え、講師の名前、もう一回……」

『平賀照、真っ平ごめんの「平」に賀正の「賀」、照は天照大神の「照」だ』

「わ、分かりましたぁ!」

『迎えの車が、そっちに行くから。間もなく着くから、宿舎の玄関前で待っていればいいそうだ』

「ガッテン!」

『よかったぁ、じゃあ、頼んだぞ!』

 

 そうか、テルが来るのか。

 テルは天才だけど、そろそろ十五になろうかと言うのに癖のある幼児言葉。

 あの子の言葉は翻訳機では無理だ。

 よしよし、ミクおねえちゃんが完ぺきに訳してあげよう(^▽^)/

 こんなことなら、ダッシュも呼んであげられたらいいんだけど、奴は軍人だしね。

 まあ、シンポジウムなんて、さっさと終わらせて遊びに行こう!

 

 で、宿舎の玄関に迎えに来たのは軍の車を運転するダッシュだった。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・170『パスカルの原理』

2023-07-15 10:53:23 | 小説4

・170

『パスカルの原理』周温雷 

 

 

 おお! やったあ! なるほど! こんな手があったんだぁ! 温雷えらい!

 

「いやいや、ちょっと思いついたことが上手くいっただけ。さ、仲良く並んで手も顔も洗おうぜ」

 おお(^▽^)!

 三日前から続いている水道のトラブルを直して、みんなが喜んでくれている。

「いやあ、これで少しは落ち着いて食べてくれるでしょ」

 鉱山食堂のオバチャンたちも喜んでくれて、まあ、めでたくケリが付き、俺もトレーを持って列に並ぶ。

 

 俺が来たころからポンプの具合が悪くて、鉱山食堂は水圧が上がらずに困っていた。

 ようやく予算がついてポンプを交換したんだが、今度は水圧が高すぎて水しぶきがひどくなった。

 技師が来て、ポンプの調整をやったんだが、これが、なかなかうまくいかない。

「いやあ、この方法には思い至りませんでした(^_^;)」

 ハゲの技師は喜んで帰って行った。こんな荒くれの鉱山に長居はしたくないだろう。

「あれ、パスカルの原理っすよね」

 席が隣になった若いのがラーメンすすりながら笑顔を向けてくる。

「ああ、俺は難しいことは分からないから、ま、経験則でね」

「密閉された流体に圧力をかけると、圧力は密閉している容器全体に均質に伝わる。逆もまた真なり!」

「あはは、その説明がもう難しい。単に蛇口を太くさえすれば水は緩くなるってだけさ。子どもの頃にホースの口を指で押さえて遊んでなかったか」

「ああ、やりましたやりました! そうか、あれと同じ原理なんすねぇ」

「それだけのことさ」

「でも、それを思いつくっていうのが……」

 そいつのさえずりを聞きながら思った。

 

 人間にもパスカルの原理は当てはまる。

 

 劉宏は西之島に手を出すにあたって、フートンに目を付けてきた。

 西之島には三つのコアがある。

 マヌエリトのナバホ村、氷室のカンパニー、そして俺のフートン。

 コアのリーダーはいずれも個性的で、その個性で緩く結びついていた。コアの中でも島全体としても。

 俺を始めフートンの者には大陸出身の者が多く、三つのコアの中では一番漢明に親和性がある。

 劉宏は、そこに目を付けフートンに働きかけてきた。

 西之島を話題にするとき、三回に一回はフートンやこの俺、周温雷に言及した。

 あからさまにではない。

「周温雷もわたしも焼き餃子が好きだ。中華の伝統では水餃子だがね」

 劉宏も周温雷も主流からは外れているが、共に中華の伝統の中にいるというアピールだ。

 実際、ネットでは劉宏と周温雷の餃子を食べる姿が一時トレンドになった。焼き具合のこだわりや箸の使い方がソックリとか。

 俺は逆らって、餃子をシュウマイに換えてフォークで食べてみた。

 すると「箸の上げ下ろしまでとやかく言われるのは窮屈だ。わたしが言ったわけではないが、ご迷惑をおかけした」とコメントしてきた。

 その後、劉宏は事故に見せかけてPIをやってのけ、その外見は楊貴妃もかくあらんかという王春華(大統領秘書)になった。

 餃子の件はずっと前だが、その映像はPI後も新バージョンになって流れている。

 すると今度は、好きな女の子に意地になって反発してるガキみたいな感じになって、今でも劉宏の画像検索をするとベストテンに入ってくる。

 

 いずれ、劉宏は俺を取り込みにかかる。

 

 中華が敵を懐柔する手練手管はすさまじい。

 べつに国を挙げて取り込むようなことはしない。劉宏は、ほんの少し水圧を上げるだけで、小さなフートンの蛇口から出る時は奔流になる。まさにパスカルの原理。

 西之島はフートンから切り崩される。

 そうならないためには、俺自身が島から出ることだ。

 俺が居なければ、フートンは静かにカンパニーやナバホ村に吸収され、島は一つにまとまるだろう。

 あとは、ヒムロとマヌエリトがまとめてくれる。

 

 さて、そんな周温雷を漢明はどうするだろうか。

 

 おそらく、俺の予想は当たっている。

 それを確かめるために、俺は少しだけ目立つことにしてみたというわけだ。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

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銀河太平記・169『ピタゴラスゴールデン街・3』

2023-07-10 14:03:22 | 小説4

・169

『ピタゴラスゴールデン街・3』緒方未来 

 

 

「まぁた、おまえらかぁ」

 

 警務の班長は、そう言うと二人の部下に酔っ払いを連行させ「先生も大変だねえ、でもまあ、一応……」と簡単な事情聴取をして行ってしまった。

「さっきは、ありがとうね」

 路地から出てきたそいつに一応の礼は言っておく。

「分かってるんだな。あのキックが入ったら事情聴取で済まなかったぜ」

「うん、下手したら半身まひ、古い型式だから義体の修繕費高そうだし」

「診療所の給料なら三か月分くらいはとんでしまうだろうね」

「ああ、知ってんだぁ」

「先週見かけた時は救急の制服だったけど」

『ねえ、中に入んなよ、今日は二人とも驕りにしとくからー』

「ラッキー!」「それはありがたい!」

 女将さんの声に同時に反応して店の奥に収まる。むろんスリッパに履き替えて。

 

「いやあ、ご活躍!」「たいしたもんだよ!」「二人とも!」「いっぱい奢らせてくれ!」「スッとしたぜ!」

 

 席に着くまで酔っ払いたちが喝采してくれるのを「やあやあ」「どもども」「またねえ」「ありがと」といなしながら……「プライベートの奥使っていいよ」と女将さんの言葉に「こっちでいいよ」と、そいつが言うので奥にあるというだけの四人掛けに収まる。

 

「プライベートの奥も時々使わせてもらってるのよ」

「ああ、でも、俺は新参者だし」

「見かけによらず硬いのね。でも、嫌いじゃないわよ、そういうの」

「ただの不器用者だよ、先生」

「じゃあ、不器用者の器用な助太刀に感謝して、ほらほら、グラス持って!」

「あ、ああ(^_^;)」

 かんぱーーーい!!

 店中の酔っ払いが唱和してくれて、気分のいい乾杯。

「みんないい人みたいだね」

「うん、みんな穴掘りだから、見てくれはいかついけど、ちゃんとスリッパに履き替えてるしね。酒の勢いでウザがらみしてくるのも居ないし」

「うん、いいね、こういうのは」

「ん……そのニュアンスは、以前同じようなところに居た?」

「ああ、地球の鉱山に居た」

「漢明? 骨柄は大陸系とお見受けしたんだけど」

「中国だよ」

 中国……という人間は少ない。けど、初対面で深入りしていい話題ではない。

「周温来」

「周恩来?」

「そんな歴史的人物じゃないさ、字はこう書く」

 ハンベをモニターにしてきれいな漢字で書いてくれる。

「……どこかで聞いたような……見たような」

「俺も、先生のことは見たような気がする……」

「おや、二人ともお安くないねえ。はい、どうぞ」

「え、こんないいお酒!」

「ヤマザキの百年物じゃないか、女将さん!」

「ここ一番てとき用にね、まだ何本か残ってるから遠慮なく」

「すみません!」「いただきます!」

 

 あらためて乾杯して、思い出した。

 

「あなた、西之島の周温来!?」

「あ、声大きいよ(^_^;)」

「あ、ごめん。だよね、西之島の周温来って言えば氷室、マヌエリトと並ぶエライさん!」

「今は、ただの流れの坑夫さ」

「いや、でもさ……」

「先生こそ、姉妹とか居ないの?」

「ううん、一人っ子だけど」

「ああ……他人の空似かなあ」

「エヘヘ、周さんのいい人だったの?」

「先生のいい人になら、なってもいいけど」

「プ……もう、噴いちゃうじゃないの!」

「いやあ、申しわけない。島では、いつもこんな感じだったんで」

「お手柔らかにお願いしますよ、まだ、大学出て間が無いんだからあ」

「え、この道十年選手ってオーラがするんだけど」

「そこまで歳じゃありません。まあ、火星の出身なんで、地球の女の人よりはワイルドかもしれませんけど」

 昨日もパスカルの荒くれどもの治療をやって死体検案書まで書いたんだけど、それは言わない。

「よし、じゃあ、俺も挨拶代わりに中華のワイルドやっちゃおうかなあ!」

「え、なに!?」

 立ち上がっただけで120%って感じの周さんに、声がひっくり返ってしまう。

「女将さん、ちょっと舞わせてもらうよ!」

「え、なにが始まんの?」

 ドワアア~~~~~~~ン!!

 すごい銅鑼の音がしたかと思うと、京劇のようなサウンドが店内に満ちた。周さんが自分のハンベを店のコンピューターに同期させて、ワンマンショーのステージを作ってしまう。

「アチョーー!」

 大げさな身振りでハンベをタッチすると、周さんは鐘馗様のような姿になった!

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

 

 

 

 

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銀河太平記・168『ピタゴラスゴールデン街・2』

2023-07-04 14:35:16 | 小説4

・168

『ピタゴラスゴールデン街・2』緒方未来 

 

 

 扶桑の月面領土(正確には管理地)を3PAと書く。

 

 三つのPカルデラ(パスカル・プラトン・ピタゴラス)で3P。それにアルキメデスのAを合わせて3PA。

 英語読みしてスリーパ。

 月面開発勢力として後発組の扶桑は、他の勢力からは警戒されて先代将軍さまのころまでは、これをもじってスリーパーと呼ばれていた。

 まあ、眠れる獅子的な感じ。

 それが、御当代の道隆さまが将軍位に就かれてからはスリッパと呼ばれるようになったんだよ。

 

 これにはエピソードがある。

 

 将軍位に就かれた道隆さまは、最初に征夷大将軍の大礼服でお写真をお撮りになったんだけど、誤ってスリッパのまま撮影されてしまった。黒皮のスリッパだったので、前の方から写したお写真では、ほとんど靴と区別がつかない。

 そのお写真が、全火星、全地球に配信されてから奥女中御年寄(御年寄と言ってもお婆さんじゃない、役職がそういう名前)が気づいて、ちょっと問題になった。

 一時は「撮り直し!」とか「担当女中を処分しろ!」とかの声が内外で起こった。

「いいよいいよ。僕の不注意だし、あのスリッパは気に入ってもいたし。一人ぐらい、こんな将軍がいてもいいでしょ」

 と、笑って済ませられ、その後も、上さまは、この黒スリッパを奥で使われている。

 この話が評判になると、それまでスリーパーと通称されていた扶桑の月面管理地はスリッパと親しみを籠めて呼ばれるようになった。

 

 そして、月面宙返りのポップな曲を聴きながら向かっているのが、ゴールデン街で一番古い居酒屋のスリッパ。

 もともとは、そのまんま3PAだったけど、道隆さまのエピソード以来『スリーピーエー』とは読まれずにスリッパと呼ばれている。

 慣れるまでに五回も迷った路地を拾ってスリッパの見える通りに出てきた。

 ちょっと、店の中で言い争っている。

 

「ちょいと、うちはスリッパに履き替えてもらうのが決まりなんですよ。靴箱はそこですから、どうかお履き替えになって、ご入店くださいまし」

「ふん、なんで扶桑人でもない俺たちが扶桑のしきたりに倣わなきゃなんねえんだ!」

「そうだ、バカ将軍の言い訳が、ちょっとウケたからって、下衆な真似して、みっともねえじゃんよ」

「うちはね、四代さまのころから店出してるんですよ。そのころからご入店の際は下足を履き替えてもらうことにしてるで、よろしく願いますよ」

「俺たちゃ、人手不足のスリッパに来て生産性をあげてやってるんだ、四の五の言うんじゃねえ!」

「それなら、このゴールデン街には、他にもお店はございますから、どうぞ、そちらの方へ」

「んだとぉ、客を締め出そうってか!?」

「入店拒否たあ、いい度胸してんなあ」

「……………(-_-;)」

 

 だめだ、女将さんキレる!

 

「ねえ、ちょっと、あんたたち」

「あん?」

「なんだぁ?」

「女の出る幕じゃねえ!」

「あたし、ここの客で、医者なの。女将さんがお客に履き替えさせるのはバイ菌持ち込ませないためなのよ。月面は無菌だけど、人間が生活してるところには地球並みの雑菌がいっぱいいるんだからね」

 理屈が通る相手じゃないとは分かってるけど、いちおう筋道は通しておく。

「ああん……おまえ、俺たちのことを雑菌だっていうのかあ!」

「はいはい、じゃあ、表に出なさい」

「未来ちゃん、相手にしちゃダメよ!」

「大丈夫よ女将さん、わたしも火星育ち、ちゃんと相手を見て喋ってる。いちおう警務には連絡しといて」

「フン、警務が来る前にはぶっ倒して売り飛ばし……グホ( ゚Д゚)!」

「やると決めてから、能書き垂れてんじゃないわよっ!」

 ドゲシ!

「このあまぁ!」

「しつこい!」

「いっ、イデデデ」

「火星の医者はね、みんな一度はこういうとこで働くから、一応のスキルは持ってんのよ!」

 半分はウソ、もともと並みのちょっと上くらいにケンカはできる。ダッシュほどじゃないけど。

 ドス!

「ゲボ!」

「あんたは、関節外しとこう……ねっ!」

 グギ

「ウオオ!」

「こっちは、もう一発!」

 ドゴ!

「こっちもっ!」

 セイ!

 ……と、次にぶん回したキックは空中で停まってしまう。

 いや、だれかに掴まれてる!

「こういうじゃじゃ馬は、俺の好みだ……」

 しまった、もう一人いたんだ! ゴリラみたいに大きい、それも腕が立つ!

「ほれ」

「ウワアア!!」

 

 天地が180度ひっくり返った……

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

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