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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・167『ピタゴラスゴールデン街・1』

2023-06-29 13:14:40 | 小説4

・167

『ピタゴラスゴールデン街・1』緒方未来 

 

 

 月の勤務は月番になっている。

 月の月番、なんかダジャレっぽいけど、本当のはなし。

 

 昔の江戸幕府は上から下まで月番制だった。

 ほら、時代劇でよく出てくる江戸の町奉行は北町奉行と南町奉行でしょ?

 桜の入れ墨で有名な遠山金四郎は北町奉行、大岡裁きで有名な大岡越前守は南町奉行とかさ。

 江戸の街は広いから、北と南に奉行所が置かれて分担してたように思われてるけど、ぜんぜん違う。

 ひと月交代で奉行が交代する、奉行所ぐるみね。

 奇数月が北だったら、偶数月は南とかね。

 奉行所以外にも、たいていの役職は二つあって交代でやってたんだよ江戸幕府は。

 理由は、二つにして互いにけん制させてサボったり不正なことをさせないため。

 もう一つは、武士の数が多すぎるから。

 戦国時代は武士=軍人だった。戦争では兵隊がいっぱい必要だった。旗本八万騎とか云ってウジャウジャいた。

 平和になると、そんなには要らないんだけど、クビにするわけにもいかず、一つの役職を複数でやらせた。

 月番制でね。

 とうぜん給料は安いんだけど、それでも、不正もせずに黙々とお務めを果たしていた。

「まあ、それが日本人なんだ」

 現役の時に老中まで務めたお祖父ちゃんが加齢臭のする膝に幼児だったわたしを載せて言ってた。

 お父さんの消毒薬の匂いも好きだったけど、お祖父ちゃんの加齢臭も嫌いじゃなかった。

 

 扶桑も幕府の体制をとっているので、月番制がある。

 

 人数が多いからじゃない。

 扶桑は独立前から人手不足で、地球からの入植者を受け入れて、なんとかやってきた。

 開墾、インフラ整備、国境警備、水の生成事業、大気循環管理、教育の充実、やることはいっぱいあって、どの仕事も楽じゃなかった。

 それで、初代将軍の一仁(かずひと)様は「幕府なんだから月番制にしよう」とおっしゃった。

 みんなビックリした。

 江戸幕府とは違って、扶桑幕府は人手不足。

「いや、比較的に穏やかな仕事と、きつい仕事を交代でやるんだよ」

「交代で?」

「そう、交代で。例えば……」

 

 ということで、真っ先に月番制になったのが月面でのあれこれの仕事。

 

 パスカルの診療所勤務を一か月やったわたしは、ピタゴラス医科大学の医局勤務に戻る。

 医局は、月面のあちこちにある病院や診療所への派遣や設備更新の仕事が中心なんだけど、附属病院での診療もあって、江戸時代の月番で言う非番とは違う。

 最前線の現場と職種の中央を交代させることで血の巡りを良くしようという仕組み。

 むろん月番に馴染まない職種もある。学校の先生とか芸能関係、軍人、議員とかね。人によっては交代したくないという人も居て、そういう人までも縛ったりはしない。

 

 パスカルの診療所では考えられなかった5時に仕事を終えて街に出る。

 

 修学旅行で行った東京とは比較にならないけど、ピタゴラスにも羽を伸ばすところはある。

 ピタゴラスゴールデン街

 ご先祖が新宿ゴールデン街で店を持っていたおばちゃんがピタゴラスで居酒屋を始めたのがきっかけで、いろんな人が寄り添うように店を出したのが150年前。

 その後扶桑国が3PA(パスカル、プラトン、ピタゴラス、アルキメデス)の開発権を獲得して再開発され、今では、プラトンの八戸ノ里と並ぶ賑わいを見せている。

 

 三層構造になっているゴールデン街の南半分には大きな吹き抜けになっていて、吹き抜けの底のイベント広場では駆け出しのミュージシャンやアーティストたちが演奏したりパフォーマンスをやっている。

 みんな指向性のマイクを使っているので、その周囲にしか音が漏れなくて、混じり合ってグチャグチャになることはない。気にいればハンベを指向させて、ゴールデン街に居る限り聴き続けることができる。

 ハンベを操作して、お気に入りの『月面宙返り楽団』の演奏を拾って二階のスリッパ書房に向かう。

 

「あ、緒方先生、入ってますよ(^▽^)」

 店に入ると、お父さんと歳の変わらない店主のおじさんが笑顔で迎えてくれる。

「え、ほんと!?」

「復刻版ですけどね、正真正銘の『宇宙戦艦三笠』の初版本」

 復刻版で初版本は笑っちゃうんだけど、こういうやり取りが面白い。

「わ、この紙質、インクの匂いぃ~」

「はい、ちゃんと琥珀の風合いを出して、二百年前の出版された時のままです」

「アハハ、さすが復刻版ですね(^_^;)」

「はい、本物は手に取っただけでバラバラになりますからね」

「ありがとうございます! これで来月の診療所勤務もがんばれます!」

「いやあ、お若いのに先生も大変ですね」

「アハハ、それほどでもぉ」

「いえいえ、こうやって店に出られているのも先生のお蔭です」

「いえいえ、たまたま当直だったからですよ。他の先生でも、ちゃんとやってますから(^_^;)。えと、次の予約していいですかぁ?」

「はい、次は『はるか』ですか?」

「はい、作者初期の単行本です」

「さすがはお目が高い、普通は『まどか』を好まれる方が多いですが『まどか』は本来は『はるか』のスピンオフ。『はるか』から読むのが正当ですよ」

「あ、じゃあ、よろしく」

「承りました」

 

 ペコリと頭を下げて店を出る。

 この歳で「先生」と呼ばれるのは、居心地が悪いんだけど「緒方さんとか未来さんとか呼んでは、こちらが喋れなくなります」と言われては仕方がない。

『月面宙返り楽団』を聴きながら、北半分のコアなピタゴラスゴールデン街に足を向ける。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

 

 

 

 

 

 

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銀河太平記・166『パスカルからピタゴラスへ』

2023-06-24 11:50:31 | 小説4

・166

『パスカルからピタゴラスへ』緒方未来 

 

 

 月は地球に近いこともあって南極と同様に国際管理ということになっている。

 

 南極と同様の国際管理……と言っても、モデルになった南極大陸は21世紀の末に南極条約がなし崩しになって『国際社会のための有効活用』の美名のもとで乱開発されてしまったので押して知るべしなんだけど。

 地球と火星の大国が、あちこちにベースを作って、そこから地下資源を掘り出してはそれぞれの母国に送っている。

 月には大気が無いので火星のように地球化することができないので、地表に都市や国家が作れない。

 大きさも見てくれもドーム球場に似た街や施設はあるけど、月面全部合わせても100に満たない。

 ベースのほとんどは地下に作られている。資源の採掘、秘匿、防衛のためには地下に潜った方が有効なんだ。

 

 その中で数少ない露天掘りの採掘場が、このパスカル鉱山。

 

 扶桑第一の月面都市(月面と言っても大方は地下にある、さっきも言ったけど)はピタゴラスにある。

 それ以外に、プラトンとアルキメデスが扶桑のベースで、いずれもクレーターの中にある。

 

「助かる、乗せてってよ!」

 

 採掘場のドクターに引き継いでシャトルバスに乗るつもりでいたら、ダッシュがピタゴラスの基地まで戻ると言うので乗せてもらう。

 お互い、鉱山施設しかないパスカルよりも、扶桑第二の月面都市の方がいいに決まってる。

「オレは休暇じゃねえんだぞ。連隊で勤務が待ってる」

「残念、わたしは一カ月ぶりの休暇」

「一度、診療所に戻らなくていいのか?」

「昨日から交代のドクターが来てる。ちゃんと引き継ぎ規則は守ってるんだぞ」

「そうか、まあ、オレも連隊に戻れば原則的に週一回の休みはある。マス桜が五分咲きだっていうから観に行かないか?」

「ああ……うん、疲れの取れ具合でね」

「だな……ピタゴラスに近くなったら起こしてやるから、少し寝とけ」

「うん、ごめん」

 ウィーーン

 シートがパズルのように移動して後部に周る。

 ダッシュが気をきかせてくれたんだ。幼なじみでも寝顔を見られるのは恥ずかしい。

「照明落そうか?」

「このままでいい……無駄話でいいから、喋ってて、返事しなくなったら寝たと思って」

「ああ、それでいいなら」

「ほんと、パスカル勤務ってのは疲れるよねえ……」

「穴掘りの荒くればっかりだからな」

「信じられないよ、たかがゲームの得点で死人まで出るんだもんねえ。夕べので四回目だよ死体検案書書いたのぉ」

「西之島紛争からこっち、月でも地球でも荒れてるっぽいからな」

「ああ……うん……」

 

 西之島紛争は漢明の劉宏大統領がPI(パーフェクトインストール)したことで様相が変わってしまった。

 

 それまでは関羽と劉備を足して孔明で割って曹操を掛けたようなお爺ちゃんだったけど、王春華にPIさせてからは漢明は武断的政策を引っ込め融和的な方向に向きを変えた。

 西之島に侵攻していた部隊を引き上げさせただけではなく、引き上げ命令に従わない部隊には攻撃さえ加えた。元々中央の意思に従わない軍閥の暴発という体裁をとっていたけど、味方にも厳しい劉宏のやり方は、おおむね賞賛された。

 でも、関羽と劉備を足して孔明で割って曹操を掛け、見てくれは虞美人か楊貴妃か。

 世界の半分は騙された。

 ううん、騙されたフリをした。たとえ表面的にせよ、世界は平和を指向するものなんだ。

 実際には劉宏の息のかかった財閥、あるいは外国資本を迂回させた財閥、当面の利害を共にする外国資本。そういうのを通じて、軍事力を伴わないという意味において『平和的』に権益を拡大させつつあるんだけどね。

 そういう空気の中で、パージされた武断派や役人、表面上の穏やかさに業を煮やした荒くれや没落知識人、技術者たちが地下に潜った。

 その何割かが、地球を離れ月や火星に当面の息継ぎの場所を求めたんだ。そのしわ寄せが、そこに最初の任地を与えられたわたしやダッシュに来ている。

 まあ、苦労は若いうちにと割り切ってはいるんだけど、取りあえずは疲れたぁ(;゚Д゚)。

 

 あれ?

 

 やっと眠気がさして、ピタゴラスまで5キロというところで背中に伝わる感触が変わってきた。

「気が付いたか?」

「なんか、修学旅行で乗り回したアナログ車の感じなんですけど!」

「パルスギで人口重力を作った実験線だ」

「おお、まるで地球の道路を走ってるみたい!」

「だろ、これになぁ……」

 ダッシュがコンソールにタッチすると景色が一変した。

「ウワア、東京の湾岸線だ!」

「ああ、重力を変えると、ホログラムでも完ぺきにリアルになる」

「すごい発明だね!」

「だろ、これを作ったの、テルだ」

「え、ええ(# ゚Д゚#)!?」

 

 ビックリして懐かしくなって、とても感動して、涙が溢れてきた。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

 

 

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銀河太平記・165『再会』

2023-06-16 16:30:03 | 小説4

・165

『再会』緒方未来 

 

 

 骨折3名 銃創2名 ショック性発熱3名 おまけに突発性電脳障害2名 それと検死報告1

 

 合計10名のカルテと検死報告書を整理して、使用薬品とメディカルストックのチェックと発注。

 えと……メディカルストックの発注はミスがあってはいけないので、明日点検してからやる。

「あ、手ぇ抜いたなぁ」

「うるさい!」

 ボス…………ポトン

 投げたボールは器用に躱されて、背後の壁にめり込んで、人を馬鹿にしたようにポタリと床に落ちる。

 医務室は休憩室の一画にあって、床や壁は休憩室と同じ低反発の樹脂で被覆してある。

 少々暴れたりケンカが起きても怪我をしないようにという配慮で改装してある。

 にもかかわらず、10名の怪我人と運の悪い死者が出て、とうとうベースに帰ることもできずに医務室に泊まり込むことになった。

 診療所の女医を一人で残しておくこともまずいというので、所長の依頼を受けた署長の命令で護衛の三等軍曹が付いている。

 

「え、おま……」

「ゲ……」

 

 臨場してぶったまげた……お互いに。

 最初こそ分屯署の軍警が8人も臨場してくれていたんだけど、現場検証が終わると交代でやってきた三等軍曹を置いて引き上げていった。診療所の車検切れは、ちょうど鉱山の入り口でエンスト、帰るころには直ってるだろうと期待を見事に裏切って採掘所のゲートで『月社会のインフラの貧弱さ』を現すオブジェになり果てている。

「診療所の薮医者ってミクのことだったのか!?」

「なによ、この三等兵!」

「三等兵じゃねえ、三等軍曹だ!」

 お互い三年ぶりなんだから、もう少し言いようもあるんだろうけど、聞くと見るとは大違いの配属先。そして幼なじみだからこそ、素直に再会の喜びを現せない。いや、自分の方が不運だと思うポテンシャルのために――こいつは自分よりは楽してる――と思ってしまう心の貧しさ。

「おまえ、ロボットの電脳までいじったのか」

「仕方ないじゃん、この採掘所、ロクター(ロボット用ドクター)もいないんだから。知らんふりして暴走されたら困るでしょ」

 ほっとけよ、そんなの……とは言わない。

 ダッシュも、まだ真っ直ぐなものを失うところまではきていないようだ。

「噂じゃ、ピタゴラスの奉行所勤務になったって聞いてたぞ」

「一瞬、話はあったんだけどね、老中の孫娘だからって、そんなのイヤじゃん。ダッシュこそ、連合国の交換留学生でコペルニクスのムーンフォースに行ったって」

「コペルニクス的展開という奴なんだろ、西ノ島紛争からこっち、地球も月も、どこか緩んでる」

「……ああ、なんか計算合わない」

「人生の計算なんて、そうそう合うもんじゃねーだろ」

「違うのよ、メディカルストックの支出と残金が合わないのよ」

「ちょっと見ていいか?」

「あ、うん」

 本当は部外秘なんだけど、ダッシュの声の響きは昔通り、見せてもいいと思った。

「……これは、部外者が見ても首をひねるなぁ……桁が合わねえ」

「こんど、交代のドクターが来たら奉行所まで行ってくる」

「それがいい」

 賛成してくれてからメモをくれた。

 メモには――念のためスクショを撮っておけ――とあった。

 

 あくる日、シャトルバスで帰る前に確認したら、メディカルストックの会計の数字は――正しく――書き換えられていた。

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

 

  

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銀河太平記・164『恐るべし劉宏』

2023-06-10 17:12:49 | 小説4

・164

『恐るべし劉宏』越萌マイ(児玉元帥) 

 

 

 心肺停止!?

 

 長年、幾百幾千と人の死に立ち会ってきたので一瞬で分かる。

 熊が小鹿に担がれるようにしてプールサイドに引き上げられる。熊を下ろすと、直ぐに小鹿は熊に馬乗りになって蘇生措置を施す。

 熊は劉宏大統領、小鹿は大統領秘書官の王春華。

 春華の蘇生措置が冷静なので、森の小鹿が寝坊の熊親父を優しく起こしているように見える。

 有能なレスキューは、沈着だが、けして周囲をパニックに陥らせない。

 士官と学生と救急係りの看護師が同時にAEDを持ってきたが、士官と学生には待機を指示し救急係りのを使用する。

 救急係りのAEDが最新でメンテナンスも行き届いているせいなのか、後々、救急係りが要らぬ責任追及をさせられないためか、あるいはその両方か。

 そして、人工呼吸の間に女性下士官に呉麗花を保護するように目配せする。

 まだ小学六年生の呉麗花は、まるで自分が心肺停止にしてしまったように怯えて口に手を当てたまま動けないでいる。

 会場の全員が瀕死の大統領から目を離せない状況の中、よく気づくものだ。

 女性下士官が抱きしめて、その場から出そうとするが、責任感からなのだろう、麗花は震えながらも大統領の蘇生を祈っている。

 AEDが三回試され、蘇生措置は10分を超えた。

 心臓マッサージを続けながらも、王春華は会場の救護担当の医師と、来賓で来ていた軍医総監を呼んで、二言三言言葉を交わす。

 医師は軍医総監の表情を窺ってから、首を縦に振り、軍医総監は王春華の肩をたたくことで同意の意思を示した。

 

 春華は両手で大統領のこめかみを挟んだ。

 

 PI(パーフェクトインストール)をやるんだ!

 

 小文字のpiも大文字のPIも、その施術姿勢は変わらないが緊張感が違う。

 劉宏と王春華は度々PIをやっている。北大街大酒店での日漢秘密会談で確信した。

 漢明の技術が進んでいるのか、劉宏が並外れた耐性を持っているのか、これまでも幾度か繰り返されていると、わたしは読んだ。しかし、それは、何時間かの後に再び劉宏のソウルを劉宏の身体に戻すことが前提だった。いわば、鍵穴一つ残したPIで、危険とは言え復帰前提のPIだったはずだ。

 二十余年前、マンチュリアの丘でJQにやらせたことを思い出す。

 いま、王春華がやろうとしているのは、その鍵穴さえもサルベージしてしまう、史上二番目、究極のPIだ。

 瞬間、劉宏の身体が、ほんの皮一枚分縮んだように見えて、同時に王春華が劉宏の胸に崩折れた。

 失敗か!?

 会場に居る全員が息をするのを忘れて固唾をのんだ。成功例は二十余年前のわたしとJQの例しかないのだ!

 

 数秒後、数回瞬きをして王春華がゆっくりと立ち上がった。

 

「会場の諸君、中継を見ている全国、全世界のみなさん。たった今、劉宏は史上二番目のパーフェクトインストールを成し遂げました!」

 オオオオオオオオオオオ!

 どよめきを制止て、王春華、いや劉宏は続ける。

「医師団の尽力によりほぼ体力と健康を取り戻したと思い、少し無茶をし過ぎたようです。古い体を失ったのは、あくまでわたし劉宏の勇み足によるもの、ほかの誰の責任でもありません。むろん、そこで涙を浮かべて見守ってくれている麗花のせいでもありません」

 そう言うと、劉宏は笑顔で麗花を差し招いた。

「だ、大統領閣下!」

 飛び込んできた麗花の髪をくしゃくしゃにして劉宏は言葉を続けた。

「アハハ、いつもの劉爺ちゃんでいいさ」

「え、あ、でも……」

 あの姿かたちで「爺ちゃん」は言いにくいだろう。

「公務以外では春華姉ちゃんでもいいか」

「はい」

「じゃあ、古い体を見送らなくちゃ。いっしょに付いて来てくれるかい?」

「はい!」

 学生たちが持ってきたストレッチャーにさっきまで劉宏だった体を載せると、春華の体の劉宏と麗花は手を繋いで会場を出ようとした。

 

「おっと、ドンケツ大会は始まったばかり、大いに励んでくれたまえ!」

 

 ウオオオオオオオオ!

 

 割れんばかりの歓声が上がって、劉宏は公明正大に、そして、今まで以上の信頼を勝ち得た。

 士官食堂で中継を観ていた、こちらの兵たちも、ほとんどが胸を熱くしている。

 

 恐るべし劉宏。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・163『劉宏大統領VS呉麗花』

2023-06-02 13:51:23 | 小説4

・163

『劉宏大統領VS呉麗花』越萌マイ(児玉元帥) 

 

 

 伝説の大帝、昭和天皇は相撲を好まれた。

 

 小よく大を制す。たとえ非力な小男であっても、技と工夫、または機を見ることによって相手を下せるところを好まれた。

 その姿勢とお心の強さを兼ね揃えておられたからこそ、終戦の御決心をいたされ、戦後復興の先頭にお立ちになれた。

 

 劉宏大統領は、その就任にあたって、昭和天皇の相撲好きに触れ、これを見習おうと挨拶した。

 

 満州戦争が終わって数年、中国の大半を漢明がまとめ上げ、ようやく大中華復興の光が見え始めていた。

 しかし、漢明は分裂時代の軍閥や財閥の寄り合い所帯。共和国成立の慶祝な空気に包まれていたが、心底では動乱再来の気を孕んで、数億の民も軍閥や財閥の首魁たちも、その地盤の上で姿勢を制御することで心も頭もいっぱいだった。誰も、進んで大中華の舵取りをしようとは思わなかった。

 だからこそ、あの大戦、困難な戦争の中にあって、大勝利こそ得られずとも漢明を最大の勝利者に止めることができた劉宏将軍を担ぎ上げた。

 もし、最初から漢明全軍の指揮権を劉宏に与えていたら、圧倒的勝利を漢明にもたらしたであろう。

 その劉宏が就任のスピーチで昭和天皇に触れたのだ。その祝典会場に居た者たちも、その様子を中継で観ていた者たちも鼻白んだ。漢明中興の期待を寄せられた新大統領が、二百年以上も前の島国の王の事績を称揚したのである。

「諸君、この姿勢を最初に持ったのが、この大中華の最初の統一を成し遂げた秦の始皇帝であったことを思い出してほしい!」

 歴史に詳しい年寄りたちは「おお……!」とどよめきながら身を震わせ、疎い若者たちは訝しがりながらも、年寄りたちの興奮に刮目した。

「始皇帝、いや、秦王政は、幼少のころから艱難辛苦の中にあり、非力な秦国が天下に覇を唱える機をうかがっておりました。幼くは趙の人質になり秦に帰る機を窺った時、丞相呂不韋との確執の時、合従軍を迎え撃った函谷関の戦いの時、弟成蟜との対立の時、山の女王楊端和との協和の時。彼は、待つ時は石の如く、攻める時は雷の如く、緩む時は海月の如くに身を持しました。それが、その姿勢こそが、中華統一の偉業を為さしめたのです。それは、あたかも土俵に上がった力士の如くであります。その、秦王政にならい、この劉宏は、大中華、その精神の結実点であり、秦王偉業の徴である万里の長城、八達嶺の城頭において大統領就任の宣言をするものであります!」

 敵将ではあるが、あのスピーチには感心した。

 守勢をもって当面の方針とし、いずれは、その充実発展の意欲を示すのには文句なしだ。

 その上、日本の相撲を持ち出すことで、当面、日本との融和と協調を示すことにもなった。

 やつは、その演説だけではなく、戦後傾きかけた日本の相撲にも肩入れしてくれ、じっさい彼の援助が無ければ相撲の復興は十年は遅れただろう。

 そのくせ、相撲復興の表舞台に出ることはしなかった。ようやく優勝者に『劉宏盃』を出すことになった時も、その授与式に出ることは最後まで辞して、その奥ゆかしさは日本国内でも好意をもって受け止められた。

 

 その劉宏が、漢明海軍大学の大プールで、我が日本士官学校謝恩祭の名物である尻相撲『大ドンケツ』に臨もうとしている。

 それも、相手は身長差50、年齢差60の呉麗花という12歳の少女だ。それも、潜在的な政敵と噂の高い統合参謀本部議長の孫娘ときている。

 二人が50メートルプールに浮かべられたフロートの上で『尻合い』のファイティングポーズをとると、会場も、我が士官食堂もワールドカップのキックオフ直前のような興奮に包まれた。

 

 ピーーーーー!

 

 キックオフ同様に審判のホイッスルが鳴り響き、観衆の太いのや黄色い歓声が屋内プールに響き渡る。

「えい!」「それ!」「なにを!」「これでも!」「くらえ!」「わはは!」「あはは!」「どうだ!」「よいしょ!」

 骨ばったのと、小さく丸まっちいのと、二つの尻が、当ったり躱されたり……そのつどフロートはチャプチャプ揺れて、本人たちが必死になるほど、姿勢や動きはコミカルになる。

 笑いと声援が等量に沸き起こる。

 試合は、二回連続で勝てば勝者が決定し、一勝一敗の場合は、三回目を行って勝者を決定する。

 一回戦は劉宏の尻がまともに麗花の尻をとらえ、麗花は意外に野太い悲鳴をあげて5メートルほども吹き飛んだ。

 麗花は、すぐにフロートに上がり、まなじりとお尻を上げて二回戦の構え。

 二回戦では麗花は容易には仕掛けず、前後左右上下と機敏に尻を振っていなしていく。

 二分もすると、劉宏は、大統領のそれではなく、戦場で敵の動きを見定める将軍の目になる。

 満州戦争でも、将軍はこんな目をしていたのか!?

 我知らず、飲み干した紙コップを握りつぶしてしまう。

 士官食堂のボランティア兵たちも、腰を浮かして尻を振る。

 いや、大ドンケツは時を超え国を超えて人を熱中させる。

 平和な時が訪れたら、日漢大ドンケツ大会を開こう!

 すると、ここ一番狙い定めた一ケツが空振りになって、刹那に戻した勢いで劉宏は、難しい顔をしたまま前方に水しぶきを上げて落ちてしまった。

 しまった! それから「ワハハ」と笑って腕を組んだまま落ちていく劉宏は見ものだった。

 瞬間だが、こいつに任せたら世界に平和が訪れるような気になった。

 二秒で水面に顔を出すと、ブルンと首を振って「再一次(^▢^)!」と指を立ててフロートに飛び乗る。

 麗花も、ファイティングポーズをとりながらも笑みをたたえ「请再一次(^〇^)!」、MCの士官候補生も「大家一起,再好好的享受一次吧!」も目をへの字にする。

 気をきかせたAIが即座に「もう一回だ!」「もう一回お願いします!」「みんな、もう一回楽しもうぜ!」と音声付きで翻訳してくれる。

 画面の隅で、少佐の軍服が立ったり座ったり……見ると、こないだ南の橋頭保で渡り合った王春華だ――ちょっと元気になったからと思って、うちのお爺ちゃんたら!――そんな感じでハラハラ見ているが、横の軍医が――まあまあ――となだめている。

 シュ シュシュ ドン シュ プイ シュシュ

 調子に乗ったAIが、今度は動きに合わせて効果音を付けてきた。

 ワハハ アハハ いいぞ! そこだそこだ! あ、惜しい! もう一発!

 オーディエンスの声まで入り出して、横須賀の謝恩祭よりも面白くなってきた。

 

 ポン

 

 狸が腹鼓をうつようなエフェクト、劉宏が引っ込めた尻を麗花のお尻が軽く当たったのだ。

 ウオオオオオオオオ…………オ!?

 辛くもバランスを保つ劉宏だったが、麗花がトドメとばかりにジャンプすると、大統領とは思えぬアホな姿勢のまま、ゆっくりと水に落ちて行った。

 

 ドッポーーーン

 

 ウワアアアアアア!!…………大歓声が、画面の中でも士官食堂でも湧き上がった。

 

 その歓声が一分近く起こって……でも、劉宏大統領は浮き上がっては来ない。

 

 王春華が血相を変え、軍服のままプールに飛び込んだ……。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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銀河太平記・162『漢明大ドンケツ試合』

2023-05-24 16:19:32 | 小説4

・162

『漢明大ドンケツ試合』越萌マイ(児玉元帥) 

 

 

 横須賀の士官学校では、海軍と合同で年に一回謝恩祭というのをやっていた。

 

 謝恩祭とは、なんとも女子大の謝恩会のように慎ましく優し気な名称だが、学校側も地元の人たちも楽しみにしているワイルドな一大イベントだ。

 盛り上がったのは『日米対抗奇襲試合』だ。

 日米の海軍基地は横須賀湾を挟んで向かい合っている。

 号砲とともに、日米双方から50ミリ山砲を載せたカッターを漕ぎだす。総勢8名を載せたカッターは、湾の中央ですれ違い、敵の仮設埠頭まで漕ぎつけると、8名で山砲を揚陸、弾を込めて三発発射する。発射する弾はセレモニー用の染色弾で、赤青黄の煙を曳いて、300メートル先の的に当たる。的には三色の弾痕が着いて、命中成績が一目瞭然。三発発射し終わると、砲を分解してカッターに積むこみ、行きと同様に全力でカッターを漕いで味方陣地に戻って待機姿勢をとって完了。

 スピードと命中精度、パフォーマンスの総合成績で勝ち負けが決まり、謝恩祭一番人気のイベントだった。

 しかし、なんとも男臭く、配点方法が複雑で、けが人も絶えないことから、わたしが二年生の時に新しい競技が始まった。

 その名も『横須賀大ドンケツ試合』。

 プールに六個の円形フロートを浮かべ、その上に背中合わせで二人組が向かい合い、ホイッスルとともに尻で押し合いをやる。

 参加条件は12歳以上で性別も官民の別も問わない。

 ドンケツというのは駆け引きが重要で、体力、体格は、さほどには影響されない。

 古参の兵曹長が、飛び入りで参加した小6の女の子にあっさり負けた時などは、現場でも、市内各所に置かれた3Dモニターの前でも、爆笑と大喝采だった。

 グランマが、まだ惟任美音(これとうみおん)の本名でドブ板通りのマドンナだったころに参加してくれた。

 グランマの見事な尻さばきで、自分は兵曹長に続いて負けを喫してしまった。

 後にも先にもグランマと肌を接したのは、あれ一回キリ。

 二回戦でグランマは施設科の女子生徒に負けてしまったので、彼女とのスキンシップは自分一人だけになり、同期の仲間からは――このラッキースケベ野郎!――と、キツイ眼差しで羨ましがられた。

 この恥も外聞も捨てた謝恩祭は好評で、謝恩祭の前後ニ三か月は、基地や兵学校、軍への風当たりも弱くなり、世間からは『遮音祭』と揶揄されつつも喜ばれた。

 

 それと同じことを漢明海軍大学で、今まさに行われようとしている。

 

 漢明らしく、盛大に花火が打ち上げられ爆竹が鳴り響き、上空には景気づけのドローンが編隊でアクロバット飛行をして雰囲気を盛り上げている。

「なんだか、日本のパクリっぽいなあ」

「なに、こういうイベントのルーツは米英の士官学校にある、どっちも同じだ」

「盛り上げ方は、漢明の方が面白い」

「問題は中身だ」

「あ、おい、酒瓶の中身がないぞ」

「え、もう飲んじまったのか?」

「じゃあ、ジャンケン!」

「待て、メインイベント始まるぞ!」

 士官食堂の大型プロジェクターで、噂の漢明軍体育祭を見ている。

「急きょ開催した割には、けっこう集まってるなあ……」

「反乱軍部隊にも声を掛けたって言うじゃないか」

「ああ、とにかく『いっかい漢明全軍で弾けよう』という大統領のアイデアだそうだ」

「優勝を当てた者には、国籍を問わず賞金を出すって言うんだから、劉宏大統領もなかなかだぜ」

 そうなんだ。種目ごとに賭けることができて、賭け方も連勝単式とか、賭け事に縁のないわたしには分からん魅力的な方法をやっているとかで、世界中のどこからでも賭けることができる。

 大統領の肝いりで、今朝までに三千万人が賭けたというのだから、恐れ入る。

 これが好評ならば、以後は世界中の軍隊に呼びかけて、ワールドアーミーの大運動会にしようと劉宏大統領は提案しているらしい。

 

 そして、いよいよプログラムは話題のドンケツ試合になってきた。

 

 海軍大学の50メートルプールには100のフロートが浮かべられ、一つのフロートに4人の介添えに支えられて2人づつの選手が乗る。

「なんか言ってるぞ」

 いよいよ試合開始になって、アナウンスが入った。

―― プールサイドで転倒して故障者が出ました。よって、第一試合は99組198人の選手で……お待ちください……なんと、故障者の代わりに劉宏大統領ご自身が試合に参加されます! ――

 ウワアアアアアアアア!!

 歓声が上がったのは会場ばかりではない。わが士官食堂の面々も拳を振り上げて盛り上がる。

 準備していたわけでは無いのだろうが、なかなかの戦略眼だ。

 どこをどう抑えれば『盛り上げられるのか?』『友好的な空気を作れるのか?』という戦術変更ができるかということを本能的に知っている。

 厨房のおばちゃんたちまで、手を停めてプロジェクターに目を向けた。

「劉宏さん、大丈夫なの?」

「多少は元気になったみたいだけど……」

「現役の学生や軍人相手じゃ……」

「でもまあ、ドンケツなんだから」

「ちょ、あんたのオケツじゃま」

「あ、これはケツレイ(^_^;)」

 ――相手役の選手は……なんと、統合参謀本部議長のお孫さん、呉麗花ちゃんが出ることになりました! 麗花ちゃんは福建小学校の6年生で……――

「あ、伝説の謝恩祭と同じになってきたねえ!」

 お岩さんまで、厨房から出てきて、わたしの横に腰を下ろした。

 北京の北大街大酒店での劉宏大統領の様子が思い出される。

 新薬と入れ替えになった医療団のスキルが功を奏し、奇跡的な回復を見せたという。

 つくづく化け物みたいなやつだ。ひょっとしたら、北大街大酒店で見せた姿はフェイクだったのか?

「アハハ、こりゃ、ひ孫とひい爺さんだわ( ´艸`)」

「いや、あの骨柄はなかなか……」

 及川市長まで、やってきた。

「「「おお!」」」

 女性陣から声が上がる。

 ジャージを脱いで水泳パンツになった劉宏……さすがに萎びてはいるが、体幹の逞しさは現役時代のままだ。

 漢明の会場からも好意的な歓声が上がる。

 その歓声に応えるように手を上げ、フロートに飛び乗った姿は、あっぱれ往年の劉宏将軍だ。

――会場のみなさんにお伝えします。劉宏将軍の勇気に敬意を表し、その御健康ぶりを祝し、まずお二人の試合を先行して行うことにいたします――

 

「……なんか間を開けますね」

 及川市長が品行方正な疑問を持つ。

「お客が賭ける時間を空けてるんだよ、ほら、ごらんな……」

 なるほど、我が士官食堂でも、あちこちで賭けなおしが始まった。

「あれ、お岩さんは賭けないの?」

「ちょっとね……」

 不敵に腕と足を組むお岩さん。シゲ老人のカップもメグミのサーターアンダギーを持つ手も停まっている。

―― 各就各位,预备,跑! ――

 漢明語で号令がかかり、身長差50、年齢差60のドンケツ試合が始まった!

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
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  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・161『作戦会議』

2023-05-20 16:54:00 | 小説4

・161

『作戦会議』越萌マイ(児玉元帥) 

 

 

 まさか!? そんな!? ゲゲ!? ええ!? なんと!?

 

 あげた声はさまざまだが、その驚きぶりと恐怖は一様だった。

「敵の指揮官は、実質的に劉宏大統領だということなんですねぇ……では、その事実を基にこれからの作戦計画を練りましょうか。議長、どうぞ」

 及川市長が官僚出身らしく、現状を確認し、議論を対策の方向に向けて、わたしに回してくれる。

「これが、わたしが戦ったときの劉宏大統領です」

 戦闘時に記録した王春華の3D映像をテーブルの上に展開した。

「無駄のない動き。だが、スピードは並のレンジャー並、インディアンの戦士なら互角に戦える」

 マヌエリトが目を細め、抑揚のない声で感想を述べる。

 目を細めるのも声に抑揚が無くなるのもナバホインディアンが本気になった証拠だ。

 それを知っている島の古参達は、さらに息を潜め声を失ってしまう。及川市長などは、国交省の役人として島にやってきて、こういう表情のマヌエリトに追いかけまわされたので顔色が青い(099『追う』)。

「これは再生スピードを1/2倍にしてあります。実際の速度では、こうです……」

 今度はマヌエリトも声が無い。

「通常の動体視力では視認することも難しいでしょう」

「しかし、それは戦闘員としてのスキル、戦闘術に優れているということに過ぎないのでは?」

 元海兵隊の猛者だというボランティアが冷静に言う。

「これを見てください」

 南部橋頭保での戦いを図式化した俯瞰図で示す。

 おお……

 静かなどよめきが起こる。中隊以上の指揮経験のある者なら、その動線が秀逸であることが一目瞭然。

「みなさん、戦術規模の指揮には卓越しておられることが偲ばれます、心強い限りです」

 寄せ集めの組織だ、程よく持ち上げておくことも必要だ。

「そして、これが四半世紀前、満州戦争における劉宏将軍の部隊指揮の記録です」

 満州の野で二日に渡って繰り広げられた日漢双方の師団規模のアニメ化した戦闘概況を映す。

 ムム……

 唸ったのは米英と独の師団長経験者。遅れて、十数人のベテランが顔を赤くしたり腕を組みなおしたりしている。

 すごいと思わせただけでなく、彼らの軍人としてのハートに火をつけたようだ。

「この王春華が劉宏大統領をpiしたというんですね」

 氷室、いや睦仁王が冷静に話を次のステップに持って行ってくれる。

「しかし、小文字のpiなら、限界があるでしょう、本人のスキルとアビリティを情報として、つまりはコピーしているだけなんだから」

 イギリスの軍事AIの専門家がジョンブルらしい楽観論を述べる。

「一つ付け加えさせてください、あ、発言いいでしょうか?」

 いいタイミングでメグミが手を上げてくれる。

「劉宏将軍は、その指揮能力を十分に発揮する前に軍を追われ、戦後まもなく政治家に転身して、現在の大統領職にあります」

 何を今さらという目でメグミを見る者が多く、メグミも瞬間、話が中断する。

「続けてください」

 睦仁王が水を向ける。

「つまり、彼の軍人としての才能は、かなりの部分埋もれたままと言えるでしょう……劉宏将軍が、まだ発揮していなかった才能やアビリティーが王春華の中には移植されている。それが、どんなカタチで軍事行動として発揮されるかは、予測が難しいと思われます。小文字のpiと言って油断はできません」

 さすがに、即座に反論する者はいない。

「いいかのう、越萌マリさん」

「どうぞ、シゲさん」

「よいしょ」

「でも、マリじゃありません、マイですから」

「あ、そうじゃったかい?」

『マリは愛想つかして出てった嫁さんじゃろがあ!』

「うるさいわ!」

『あ、ムキになったぁ!』

「静かに。続けてください、シゲさん」

「うむ、人の思考パターンは職業を変えても形を変えて現れるもんじゃ、やつの政治活動を洗ってみれば、ある程度のことは予測がつくんではないかなあ。それと、劉宏が自ら乗り出すと言いだして、隠密行動とはいえ、すぐに王春華の義体で島に現れおった。これの意味は大きくはないか?」

「シゲ正しい」

 マヌエリトが顔を上げた。

「劉宏、おそらく体悪い。長時間、戦争指揮耐えられない。自分で出てくるもできない。勝負を急いでる」

「あ、なるほど」

『シゲも、むだに愛想つかされてねえか』

 ワハハハハ

「お、おもて出ろい!」

「まあまあ、みなさん。話が佳境に入りかけていますが、ひとつ念を押しておきます。劉宏将軍と王春華のことが話題に上ったことは秘密にしておいてください。こちらの注目点が分かってしまっては敵に対策の機会を与えてしまいます。とりあえずは、敵の奇襲に備えての警備計画、前線の整頓、反攻計画の規模と問題点について……」

 作戦室の空気は、まだ劉宏と王春華にあるが、これぐらいが潮時だ。

 この程度に秘密と言っておけば、二日もすれば敵に伝わる。

 無理を言って、わたしが作戦会議の議長をかって出たことも含めてな……。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・160『主席代理』

2023-05-08 15:54:26 | 小説4

・160

『主席代理』メグミ 

 

 

 ヨイチ准尉の機動車がニッパチを乗せてブンカ―を出るのと入れ違いに、中型小型のパルスボートが数十機入ってきた。

 

 パルスボートには、世界中のボランティア……というと穏やかに聞こえるけど、要は志願兵や傭兵が乗っている。

「うまく考えたな」

 サブが「胡同首領」のヘルメットを阿弥陀にして、口を尖らせる。

 その横のマヌエリトは戦闘服でありながら、全身からナバホインディアンのオーラを出しまくって腕を組んでいる。

「え、なにがぁ?」

 呟いたのがマヌエリトだったら、きちんと顔を向けて「なにがですか?」と丁寧に聞いている。

「だって、ボランティアたちの入港に合わせて潜航させて気配を消したんだろう。北回りで島の西の海に出れば軽石がいっぱい浮いてるから、それに紛らせてしまう。時間はかかるけど、黒潮反流が本土の近海まで連れて行ってくれる」

 ウ……さすがは周温雷が主席代理に任命しただけのことはある。

「さあ、たまたまよ。それより、中華系はあんたが任されてるんだから、ちゃんとやらなきゃダメよ、胡同首領の肩書はダテじゃないんだから」

「うっせー、オレは出迎えと連絡専門、ほら、旗のドラゴンだって指は四本だ」

 周主席のドラゴンは五本指。

「え、あ、ほんと( ´艸`)」

「笑うな! オレも詳しくは分かんねえけど、主席代理の権威はよっく伝わるんだ」

「ごめんごめん」

「サブ、ここに立て」

 マヌエリトが腕を組んだまま、手前の岩を示す。

「え、ここ?」

「背が高く見える」

「え、あ、ああ」

 マヌエリトの指示は一発で聞く。

 支持の中身が適切だし、たいてい主席代理の自分を立ててもくれるからだ。それに、ナバホインディアン大戦士の押し出しはハンパではない。

 岩の上に立ってわたしよりは高くなったサブだけど、マヌエリトには首一つ分足りない。

 それでも、背後にフートン主席代理の旗、後ろにわたしとマヌエリトが控えると偉いように見える。

 

 フートン主席の周温雷は、パルスギ鉱が発見されるとサブを主席代理に任命して島を出た。

 

 販路の開拓という名目だけど、本心は違う。

 狙いは、わたしがココちゃんを火星に避難させたことに似ている。

 主席という立場を利用されないためだ。

 フートンは漢明系の者が多い、漢明が島に目を付けると、最初に働きかけてくるのがフートン。

 フートンは周主席がよく治めていて、良きにつけ悪きにつけ周の提案や指示が無ければ動かない。

 フートンの中には、わたしから見ても漢明の息のかかった者が入り込んでいる。でも、周は露骨な妨害工作でなければ放置していた。そういうファジーというか大ようなところが信頼を得るポイントになっていた。

 しかし、漢明が真正面から島に目を向け始めると、あの手この手でフートンを抱き込みにかかる。あらぬ噂も立つ。

 フートンを動かしたい漢明は周を、あるいは周の名前を利用する。

 そのために、周は姿をくらませた。噂では、月の裏側で金の鉱脈を掘り当てたとか、アメリカでトラックの運ちゃんをやりながら次の手を考えているとか。

「すみませんでした、メグミさん!」

 汗を拭きながら及川市長がやってくる。

 かくいうわたしは、市長が間に合わない場合、代わって歓迎の挨拶をすることになっていた。

 マヌエリトは口下手だし、サブは調子に乗ってなにを言い出すか分からないからね。

 ボランティア=志願兵の受け入れは、毎回増えてくる。

 この分では、次回からはうちの社長……いや、睦仁王にやってもらわなくてはならないだろうね。 

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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銀河太平記・159『海の中の木漏れ日』

2023-04-30 15:42:10 | 小説4

・159

『海の中の木漏れ日』ニッパチ 

 

 

 潜水モードにした機動車は深度20メートルで西に流されている。

 

「36時間は、このペースですが御辛抱ください」

「いいえ、こんなにゆったりとするのは久しぶりだから……それに、贅沢にも柔らかな木漏れ日も付いていますし」

「木漏れ日……ああ、これですね」

 ヨイチさんと見上げた海面には数万個の軽石が浮かんでいて、そこを透過した日光がまるで木漏れ日のよう。

 敵に探知されないように、機動車は動力を切って黒潮反流という海流にのって潜行している。

 時速0・5ノットほどだけども、流れは確実。この海流に乗っていく。時おりの小噴火で噴き上げられた軽石が南西諸島方面に流され、沖縄などで建材や装飾品の材料にされている。ヨイチさんは、その黒潮反流に機動車を潜らせ、ラダーを操作するだけで深度と進路を固定している。

「西之島は火山島だから緑が少ないでしょ、木漏れ日なんてショッピングモールのアプローチぐらいですから、とても和みます」

「ニッパチさんは西之島を出るのは初めてなんですね」

「はい、元々は本土で使われていたんですけど、単なる多用途作業機械でしたから記憶がありません」

「ロボットの登録はなさらないんですね?」

「ええ、島を出るつもりはありませんでしたから」

「技研に着いたら発行してもらいます」

「あ、それは……」

「むろんフェイクです。街を歩いたり交通機関を利用できる程度の」

「あ、それなら嬉しいです。胸のオペが終わったら基本的には用事がありませんから、お散歩できると嬉しいです」

「まあ、技研の周囲と江ノ島ぐらいですが」

「十分です」

「そうだ、このタブレットに観光案内が入っています。一昔前の10ペタモデルでおもちゃみたいなのですが」

「ありがとうございます! こういうのはオフラインがいいですね。ウィルスとか枝が付く心配とかありませんから」

「おお、少し流れが早くなってきました、1ノットあります。これなら20時間ほどで海面に出られます」

「わたしは、軽石の木漏れ日でもいいですよ」

「状況の許す限り可及的速やかに参ります」

「フフ、なんだか軍人さんみたい」

「アハハ、予備役ですが、陸軍准尉でありますから」

「あ、そうでしたそうでした。マイさん……元帥とは満州戦争からごいっしょなんですよね?」

「はい、興隆鎮以来副官を拝命しておりました」

「今は記念館の……」

「はい、管理人をやっております。あ、本土では元帥はお亡くなりになったことになっておりますので」

「承知して……ガガ ガ ピー……あら、ノイズ……が」

「ガガ……ケーブル直結……ピー……ですから」

「ですね、浮上でき……になったら、普通に……話せま……」

「そうしま……う」

 

 プチ

 

 ハンベに繋いだケーブルを抜くと、わたしもヨイチさんもダンマリになって、浮上の時を待った。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
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  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
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銀河太平記・158『47人救えた』

2023-04-25 13:40:27 | 小説4

・158

『47人救えた』メグミ 

 

 

 47人救えた。

 

 西海岸で集めた半導体で使えるものは半分に満たない。

 予想に反して上陸用舟艇も作業機械も旧式のものは少なく、中には見かけだけ旧式で中身は最新というものもあった。

 フェイクなのか間に合わせなのかは分からないけど、漢明の装備は見かけほどにポンコツではない。

 せっかくマイさん(児玉元帥)が時間を稼いでくれたのに申し訳ない。

「なあに、こっちも色々分かったし、橋頭保としては使い物にならないくらい破壊できたし、問題ないわよ」

 明るく答えるマイさんだけど、手足の包帯が痛々しい。

「手足にパルス砲を仕込んでたんですね」

「あ、ナイショね。これ使う時って凄い格好になるから(^_^;)」

「すみません、大きなことを言っておきながら半分しか救えませんでした」

「ううん、47人救えた。忠臣蔵と同じ数で縁起がいいわよ」

 

「ちょっといいかな」

 

「あ、市長」

 目の下にクマを作った市長が、さっき提出した報告書を手に割り込んできた。

「蘇生完了のロボット数なんだけどね」

「すみません、全員救えなくて」

「あ、いやいや、47人も救ってもらって感謝してます」

「なにか不具合が?」

「人(にん)という表記が困るんです」

「え?」

 西之島では人もロボットも区別しない。数え方は人(にん)だ。

 市長は元々は島に派遣された国交省の役人、ちょっと杓子定規。マイさんも白けた顔をしている。

「いや、戦いが終わったら日本政府に経費やら損害賠償を請求しようと思ってるんです。日本政府の書式ではロボットは『〇台』あるいは『〇機』と表現するんです」

「あ、ああ(^▽^)!」

「ロボット平等法とかありますけど、手続きや書式は旧態依然でしてね。まあ、二重線で消して『人』に直して訂正印押しとけばいいことですから」

「はい、分かりました」

 チャッチャと訂正、でも、市長は、まだ屈託あり気な顔のまま。

「実は、これが本題なんでありますが……」

 う、言葉が丁寧になってきた。こういう丁寧モードに入ると市長は無理なことや困ったことを言う。

「なんでしょうか?」

 こっちもつられて丁寧になる。

「こちらの被害もけっこうな量になりまして、ニッパチを本土に送ってやる機材がないんです」

「東のブンカ―に予備のボートがあったはずです」

 救急の連絡を受けて、直前に確認した。

「たった今、敵の襲撃を受けて、撃退はしたのですが、ボートは二隻とも……」

「修理は出来ないんですか?」

「ちょっと難しいようです」

「実は……」

 マイさんが口を開いた。

「南の空港で王春華という凄腕と渡り合ってきました、大統領府直属の戦闘ヒュ-マノイドです。敵勢力は粗かた駆逐しましたが、王春華は健康なままです」

「そのヒューマノイドが?」

「こちらの手の内を知っているわけでなありませんが、一矢報いるために手近な東のブンカ―を襲ったのでしょう」

 ガチャガチャガチャ

 直してやったばかりのロボットたちが、いびつな音をたてながら集まってきた。

「ちょ、あんたたち、駆動系とかはリペアしきれてないんだから!」

 ガチャ

 代表めいたのが、一歩前に出てきた。

「ワタシタチ モ イッシムクイマショウ!」

「アハハ、気持ちは嬉しいけど、まだ駄目だって(^_^;)」

「労基法にも抵触するから、おさえておさえて(^o^;)」

「いいわ、ニッパチの輸送は任せて」

「元帥、いや、マイさん!?」

「ヨイチ准尉!」

 

「はい、御用でありましょうか、閣下?」

 

「至急、パルス車を出してくれ」

「お戻りになるんですか?」

「後送の任務だ、要人一名を軍の技研まで送ってくれ。敵の囲みは厳しいが、貴様の技量なら大丈夫だろ」

「はい、多少の欺瞞進路をとりますので、通常の倍は掛かるかと思います」

「かまわん、確実なことが大事な任務だ。後送するのはニッパチ、西之島技研の要員でもあり、西之島銀行の頭取でもある。安全第一でいけ」

「帰りが明後日以降になるおそれがあります」

「戻って来んでいい。任務が終わったら江ノ島で待機していてくれ」

「それでは、戦闘に加われません」

「戦闘は、これが最後ではない」

「しかし」

「大丈夫、この戦争には勝つ。以上だ」

「……了解しました。ヨイチ准尉ニッパチ殿を本土技研まで後送いたします」

「よし、かかれ!」

 ビシッと敬礼を決めると准尉は行ってしまった。

「なにかな?」

「完全に元帥に戻ってますけど」

「あ……あははは、今のは見なかったということでぇ……さ、そろそろ作戦会議の時間ですので、これで失礼しますね」

 それでも軍人丸出しの回れ右をきめて、作戦室のラッタルを上がるマイさんだった。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・157『邂逅する者たち・5・王春華』

2023-04-20 10:47:41 | 小説4

・157

『邂逅する者たち・5・王春華』越萌マリ(児玉元帥) 

 

 


 最初に目に着いたのは大きな漢明国旗と、漢明陸軍の連隊旗だ。


 景色的にも風水的にもいい場所を選んでいる……と思ったら。旗竿は鳥居の縦の柱に括り付けられている。

 そうか、あそこは氷室神社だ。

 すでに、本殿拝殿ともに破却されているが、鳥居はカンパニーのシゲ老人が鉱山技師の技術で建てた堅固なものだ。

 堅固な上に無駄のない神明造で、二本の縦柱は垂直に立てられているから、竿を括り付けるだけで立派な掲揚台になる。

 しかし、宗教施設を掲揚台にするのは無法で下品だという感覚は無いらしい。日本人以外にこれをやったら、たとえ戦争に勝っても信用はえられない。

 

 視力を等倍から三倍、十倍、二十倍と切り替えて敵基地になりつつある空港と、その周辺を観察する。

 

 露出した坑道や巨人輸送機の残骸、砲撃の穴などに少人数が屯しているが固定した基地施設を構築する様子は無い。

 弾薬や物資は露出させることなく坑道や穴の中に隠している様子だ。沖には健康な艦船が五隻見える。中型の輸送船とクルーザー。侵攻部隊としては規模が小さい、島の反撃で半分ほどの規模になっているのだろうが、上陸部隊のバックアップには十分だ。

 劉宏大統領は侵攻部隊を反乱軍扱いしているが、それは表面的なものに過ぎない。

 その証拠に、この反乱軍に対して鎮圧の部隊を出していない。時を見計らっているんだ。侵攻軍の配色が決定的になれば、そこに鎮圧部隊を投入して一気に『反乱』を鎮める。

 反乱軍に勝ち目があると判断すれば、鎮圧軍は手のひらを返したように増援軍となって、一気に島の占領にかかる。

 事実上の占領を果たしてしまえば、日本政府の腰が引けている現状では、国際世論は腕組みして中立の旗を掲げるしかないだろう。旗の掲揚台以外は行き届いた戦略だ。

 そう、まずは旗だ。

 アサルトライフルのスコープの中央に軍旗の掲揚索を捉える。

 フッ フッ

 パルスライフルなので、ほとんど無音。軍旗と国旗がハラハラと落ちていく。

 次に、岩に背中を預けて尻餅姿勢、両手両足の先を敵の四カ所のターゲットに向ける。

 まるで弘法大師だ。

 弘法大師空海は、両手両足に筆を持ち、さらに一筆を口に咥えると壁に向かって、瞬時に五行詩を書いて唐の皇帝を驚かせたという。

 わたしは筆ではない。手首足首を寛げて砲口を露出させると、同時に四つの目標に対してパルス弾を発射。

 ズビズビズビズビーーン

 立て続けに、もう一斉射。

 ズビズビズビズビーーン

 直後に横に飛ぶ。敵の陣地八カ所から爆炎が上がるのを横目に見ながら崖を駆け下りる。

 体にはたすき掛けに弾帯をかけている。腹帯と合わせ弾帯には合計で46発の手榴弾。機械化兵用で一発で155ミリ榴弾同等の威力がある。威力の分重量は一発2キロと重い、側車に詰めるだけ積んできたが、重さはともかく(JQの積載能力は1000キロ)、運動能力を削がれる。早々に使い切らなくてはならない。

 ズドーーン ズドーン ズドーーン ズドーーン ズドーン ズドーーン ズドーーン ズドーン 

 時速百キロで駆けながら、手当たり次第に手榴弾を投げ込む。

 敵は混乱した。

 最初にパルス弾を二斉射したところに迫撃砲や機関銃を撃ち込んでいる。六発手榴弾を投げ込んだところで、敵はゲリラ部隊の奇襲と思い、デタラメに銃撃を加えてくる。

 こちらも手榴弾を半分使ったところで銃撃を加える。アサルトをオートにして単発、あるいは連射。

 ダン ダン ダダダダ ダダダダ ダン ダダダダ ダン ダダダダ ダダダダ

 地上すれすれを遮蔽物を利用しながら、あるいは部分的に地下坑道を走って。時おり、残りの手榴弾を投げる。

 ズドーーン ズドーン ズドーーン

 坑道を抜ける途中で小隊規模の弾薬集積所を見つけて破壊。

 ズッドーーーン!

 ダダダダ ダダダダ ダン ダダダダ

 一部では同士討ちさえ始まっている。

 西海岸のメグミがパルス半導体を回収する間だけ敵を引き付けておけばいい。

 あ?

 いつの間にか、鳥居の掲揚台に国旗と軍旗が戻っている。

 旗などアナログそのものだが、味方の健在とくじけぬ闘志を示すのには効果的だ。

 日露戦争では203高地に日章旗が揚がったのをきっかけにロシア軍の抵抗は目に見えて落ちた。硫黄島では摺鉢山の星条旗は日本軍によって二度引き下ろされ米軍によって三度揚げられている。フランス革命ではトリコロールの旗の元に自由の女神の伝説が生まれた。

 ダダ ダダ

 ただちに旗を撃ち落とす。

 ダダダダダダダダダダダダダダ ダダダダダダダダダダダダダダ ダダダダダダダダダダダダダダ

 敵も盛大に反撃してくる。射点を掴ませないように一二秒で移動、瞬間最大速度が200キロを超える。

 敵が三度目に旗を挙げようとした時は、護衛も含め五人の敵兵を撃ち倒した。

 しばらくは旗を挙げようとは思わないだろう。

 

 チュイーン!

 

 たった今まで居た岩陰に火花が散る。

 振り返ると、一番会いたくない敵の姿。

 王春華!

 ザシッ

 岩を蹴って走る、その速さの為に風景が流れるが、春華の姿はブレもしない。

 わたしと同じタイミング、同じ速度で追随しているんだ。

 以下は、双方走りながらの応酬になる。

「越萌マリのお出ましとはね、さすがは総理秘書」

「情報が古いわね、そんなものとっくに辞めたわ」

「この攻撃、越萌マリ一人の所業ね」

「そう? 背後にレンジャーの一個小隊がいるかもよ」

「それはない。最初の八発のパルス弾は貴女が撃ったのよ」

「そうかしら」

「手首足首に血のリングが付いている。手足にパルス砲を仕込んでいる」

「生体組織のリペアは時間がかかるからね」

 さすがに見透かされている。

「弘法大師を気取ったのかもしれないけど、弘法大師が順宗皇帝から賜ったのは『五筆和尚』の称号だったはずよ」

 あ!?

 反射的に飛び退る。

 ゴオオオオオオオオオオオオ!

 大きく開いた口から王春華が吐き出したものは稲妻のような、おそらくはパルスラ波!

 まともに喰らったらJQの義体でももたないだろう。

 しかし、体内にどんなジェネレーターがあるのか分からないけど、これだけのパルスラ波を使えば数秒は動けなくなる。

 まあ、これが潮時。メグミも十分に半導体を回収できただろう。

 

 王春華が動き出したのは、彼女から100メートルも遠ざかったところ。

 1.5秒、予想よりも早い。

 

 丘の上で振り返ると、掲揚台には、まだ国旗・軍旗ともに復活はしていなかった。

 

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・156『邂逅する者たち・4・南を目指す』

2023-04-11 17:27:14 | 小説4

・156

『邂逅する者たち・4・南を目指す』越萌マリ(児玉元帥) 

 

 

 初期戦闘で敵は空港の制圧と占領を目論み、実行して九分通り成功させた。

 

 南北の空港に同時に二個空挺大隊を降下させ、同時に空港周辺の防空施設を破壊。降下した空挺部隊は滑走路周辺の迎撃部隊を圧迫しつつ、旅団主力の着陸援護の態勢を整えた。

 そして、軍事的には瞬間と云っていい60分余りで制圧し終え、作戦は成功したかのように見えた。

 見えたからこそ、敵は間髪入れずに空挺旅団の主力を載せた巨人輸送機を着陸させようとした。

 しかし、そこからが真の勝負だった。

 それまで温存されていた守備本隊が行動を起こした。

 守備本隊は輸送機が無事に着陸し、停止したとたんに滑走路直下の坑道を爆破。輸送機を擱座させ、同時に坑道から飛び出したロボットたちが残った空挺部隊に対して自爆攻撃を加え、十分余りで形勢を逆転した。

 空挺部隊は陸軍、陸戦隊は海軍。ここでも連携の悪さが出てしまった。

 陸戦隊司令は空挺二個大隊の降下成功の時点で作戦成功と踏み、陸戦隊主力を西海岸に取りつかせた。

 空挺部隊も、最後まで自分たちで挽回しようとして海軍側への連絡が遅れていた。

 

 弁護するわけではないが、敵の戦術的な思考に間違いはない。

 初期戦闘で敵に打撃を与えられれば、時を置かずに敵の弱点に攻撃を加え、戦果を拡大するのは用兵思想の基本だ。空港を占領した空挺旅団も南北から西海岸に進出して陸戦隊を援護するはずであった。

 成功すれば、長年確執の有った陸海軍の不仲も改善できたかもしれない。

 陸海軍の不仲は、程度の差はあるがどこの軍隊にも付き物だ。しかし、二十余年前の満州戦役において、漢明陸海軍の連携は気の毒なほどにとれていなかった。戦闘の九割九分は満州の野で行われ、海軍は陸戦隊も含めて出る幕が無かった。いや、無かったことで説明されてきている。

 実際は、漢明の軍閥争いが災いして、なかなか手が出せなかった……真実であるが、これは真実の半分だ。

 長引くと思われた奉天戦が早くに決着がついて停戦になったため、漢明の海軍や陸軍の他の勢力が手を出す暇が無かった。

 満州戦争を国難と捉え俊敏に動いたのは劉宏の一個旅団のみだ。

 満州戦争の評価は戦後二十余年を経ても定まっては居ない。

 たった一個旅団で奉天を包囲し、奉天の漢明軍を潰走させた点では俺の勝ちとも言えるが、俺は肉体的には戦死してしまった。実際、包囲戦の末に生き残った兵は500に満たなかった。

 漢明軍も奉天包囲戦までは善戦した。特に、俺を付け回した東北旅団の劉宏少将は出色だ。

 もし、劉宏に漢明全軍の指揮を任せていたら、俺の奉天包囲戦は成功していなかっただろう。

 いや、あの戦いの真の調停者は先帝だ。

 奉天包囲の直前に崩御され、敵味方共に停戦の意を表し受け入れやすくなった。

 以来、満州は漢明の優位を認めつつも自治国家、東アジアのバランサーとして命脈を保っている。

 

 二十余年前の想いが浮かび上がってくるのは、やはり、この戦場の匂いだろう。

 いや、匂いの中に劉宏の出現を予見しているのかもしれない。

 岩田首相の通訳として北京の北大街酒店で謁えた劉宏は、どこまでが本来の劉宏なんだろう。

 劉宏は俺と違って劉宏本来の肉体を残している。

 しかし、度重なる王春華(JQと同じ究極ロボット)とのpi(パーフェクトインストール)はソウルの居所、いや、ソウルそのものを異質なものにしているかもしれない。

 漢明という巨大で肉厚の国家を統御するには、病み疲れた劉宏のソウルでは無理だろう。

 …………なんで、ここまで劉宏を気にするんだ。

 確かに、二十余年前は俺の好敵手だったが、今の劉宏は漢明国の大統領だ。

 彼の意思が反映されるとしても、それは官僚や軍という手足を通してのことだ。

 目の前の敵情と戦況にだけ集中しよう。

 

 まずは、敵のかく乱だ。

 西海岸の圧力を下げさせて、メグミが活動しやすいようにしてやらなければならない。

 瀕死のロボットの命を救う。この発想は漢明軍にはないだろう。瀕死のロボットは壊れた装備に過ぎない。

 装備の修繕の為の欺瞞戦闘。

 予想できない行動に出れば、人も組織もボロを出す。俺も、ついさっきまでは、せいぜい強行偵察ぐらいのつもりでいた。

 ちょっと愉快だ。

 

 一人称を「わたし」に変え、ボランティア戦闘員越萌マリとしてパルスバイクのハンドルを南にきった。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・155『邂逅する者たち・3・スロットル』

2023-04-06 15:46:34 | 小説4

・155

『邂逅する者たち・3・スロットル』越萌マリ(児玉元帥) 

 

 

 なんだ、付いてこないのか。

 

 パルスバイクの側車を示すと、孫大人はニヤリと笑った。

「命が惜しい」

「満州じゃ地平線の向こうまで馬を走らせた仲じゃないか」

「何十年前の話アルカ」

「そうだな、あの頃、俺は新米の中隊長。大人は西域公司の五番番頭……」

「四番番頭アルよ、それに、勝ったらグランマが一晩付き合ってくれるって話だったアル」

「そうだったのか。勝ちを譲ってやるんじゃなかった!」

「あれは、実力アル! それに、一晩付き合ってやらされたのは、超アナログな帳簿の整理だったアル」

「アハハ、そうだったな。じゃあ、今度も西之島のロジスティクスは頼んだぞ」

「任せろアル。大事なお得意様アルからなアル!」

「だから、その変な中国語はよせ」

「普通に喋ったら泣きそうだ、劉宏は簡単な相手じゃない。なんだか、今の児玉はあの戦いの前日、北大街で会った時のようだぞ」

「それは、孫悟兵、貴様もいっしょだ。これから漢明と付き合うには悟兵みたいな奴は欠かせんからな。お互い命は大事にしよう」

「お、おお」

「元帥、そろそろ……」

「ヨイチ、貴様は残ってくれ」

「は?」

「ヨイチは、俺とは別に仕事があるような気がする。まあ、作戦会議までには戻る」

「お気をつけて」

「ああ、俺も一人で決戦するつもりはないからな。では!」

 

 ウィーーン

 バイクのスロットルを上げる。

 レトロな表現ではナナハンの倍ほどの馬力のあるバイクだが、パルスエンジンなので馬力に相応しい爆音がしない。

 やはりオートホースの方が身には合っている。馬腹を蹴って瞬発。瞬発して人馬共にアドレナリンが沸騰するような感覚が懐かしい。

 下方四時の方向から同型のパルスバイクが追って来る。

 シュィーーーン

 高度を下げて横に並ぶと、さっきブンカ―で出会ったラボのメグミ所長だ。

「どこに急いでいるのかしら?」

「あ、越萌さん」

「救急ね?」

「ええ、危篤状態のロボットのパルス半導体を交換してあげたいんですが予備が無くて……」

「負傷したロボットから部分的な移植をすれば……あ、型式が?」

「はい、ポーランド式で、漢明の……」

「戦死体から取る?」

「それよりも古いんです。敵の舟艇やパルス機に組み込まれているので、それを挑発に行きます」

「西部海岸に押し寄せてきた部隊ね」

「はい、撃破されて擱座しているものから頂きます」

「そう……分かった。南部で陽動攻撃を加えるわ。そう……三十分でいいかしら?」

「危険です! 南部は敵が集中しています、劣勢になりつつはありますが、まだまだ健康な部隊も存在しています!」

「じゃあ、強行偵察をやるまでよ!」

 

 ブィーーーーーーン!!

 

 つい馬のつもりになってボディーを蹴ると、思いのほかの爆音でパルスバイクは飛び出した。

 

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・154『邂逅する者たち・2・スポンソン』

2023-04-01 11:46:52 | 小説4

・154

『邂逅する者たち・2・スポンソン』越萌マリ(児玉元帥) 

 

 

 孫大人と二人でブンカ―のスポンソン(海側に張り出した連絡通路)に出る。

 

「あんたと喋っていると男言葉になってしまうからな」

「儂は、越萌マリでもいいぞ。ネットで時々見とるが、カルチェタランのマダムに負けん女っぷりだ(^▽^)」

「冷やかすな。あそこに見張り所がある、あそこまで行こう」

「あんなとこまでかぁ……足もとがスノコというのは、どうも落ち着かん」

「あそこなら、鉄板の床がある、キャッツウォークよりはいいだろ。なんなら、アンテナのスポンソンまで行くか?」

「勘弁してくれ、あそこはジャッキステーを上らなきゃならん。儂はサーカスをしにきたわけじゃない」

「じゃ、見張り所だ」

 

 見張り所と云ってもリアルに見張りが立っているわけではない、将来の拡張性を考えて設置されたものだ。

 西之島が市制を布くにあたって、さまざまな助言をしてきたが、このブンカ―の機能を100%使うようなことは無いだろうと踏んでいた。

 平時は全天候型の荷役港や荒天時の避難港になればと進言したが、及川市長は本気で整備した。

 官僚時代にはいろいろ軋轢もあったようだが、立派に市長職をこなしている。

「四方を海に囲まれているせいかね、潮風と海風に晒されて、人が磨かれていくいくようで、面白いなあ」

「孫大人が殊勝気に褒めると蕁麻疹が出るぞ」

「アイヤー、そのきれいな肌に蕁麻疹を出させては申し訳ないアル。悪党に切り替えようか」

 大人とは満州で司令官をやっていたころからの付き合いだ、バカ話を続けていたいが、そうもいかない。

「念を押しておく、大人は島の味方をしてくれるんだな?」

「儂は、関羽将軍の味方アル」

「関帝、商売の神さまだな。でも、漢明の神さまだ」

「商売はインターナショナルさ。その目で見れば、今の漢明は敵。その次にできる国に賭けるよ。西之島は、いい投資先だ。カッてもらわなければ困る」

「漢明は、西之島遠征軍を反乱軍認定して、国際世論を味方に付けたな」

「劉宏大統領は賢い、反乱軍鎮圧を名目にして、ついでに西之島にも進駐するつもりだ。日本政府は事変不拡大の方針で、出撃をためらっている。手を打たないと、数年後には劉宏に盗られてしまう」

「劉宏のこと、どこまで知ってる?」

「手の内は明かせないが、劉宏はあんたと同じニオイがする」

「やつの本性は劉宏だが、入れ物としての劉宏は死につつある。劉宏の体に入っていては全力を発揮できない。やがて、ソウルを100%王春華に遷すさざるを得ない」

「アイヤー、元帥も劉宏の秘密を知ってるアルかぁ!?」

「劉宏の姿をしているからこそ大統領でいられる。おそらく、想像もつかない奇策に出てくる。その第一歩が反乱軍認定だ」

「ひとつ聞いていいアルか?」

「なんだ?」

「氷川社長は親王を名乗って綸旨を発したアル」

「日本政府が救援を送ってこないんだ、自存自衛のためには仕方あるまい。実際、相当のボランティアが集結しつつあるぞ」

「しかし、元帥」

「なんだ!?」

「元帥は、今上陛下の元帥アル」

「そうだ」

「皇統を二分することになるアル」

「島の独立を確保するのが緊急の課題だ。パルスギの管理を島の者以外に渡すわけにはいかん」

「それもそうアル。パルスギを握れば世界を征服できるアル」

「想像したくないがな」

「政府は別にして、日本国内で秋宮睦仁親王の人気はうなぎ上りアル」

「あくまで方便だ、氷室社長に野心はない。さっき本人に会って確信した。わたしも、ここではシマイルカンパニーの越萌マリとして力を尽くすのだ」

「元帥のソウル丸出しででアルか?」

「え、あ、越萌マリです(^o^;)!」

「ちょっと気持ち悪いアル(ー_ー)」

「貴様……あ、あなたの中国風もキモイですわよ!」

「儂のはお国言葉アル!」

「アルアルは中国語じゃないですわよ!」

「色気出しながら怒るなアル!」

「なによ、この猪八戒!」

「そっちこそ、鉄扇公主!」

「人を妖怪みたいに言うな!」

 子どものいじり合いのようになってきた。

 

「前線偵察の用意ができました」

 

 二人そろってバカになりそうなところにヨイチ准尉が飛行モードのパルスバイクで現れ、思考を元に戻すことができた。

 

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
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銀河太平記・153『邂逅する者たち・1・ブンカ―』

2023-03-27 15:58:58 | 小説4

・153

『邂逅する者たち・1・ブンカ―』越萌マリ(児玉元帥) 

 

 

 ブンカ―のドックは中型小型の船や水陸両用車でごった返していた。

 

 ドックを上がった待機エリアや整備エリアも足の踏み場が無い状況だ。

 到着したボランティア、配置の指示や装備の配給を待つ者、補給品の整理や管理をする者、装備を修理する者、負傷者の手当てをする者とされる者、戦死者を確認しながらシュラフに収める者、戦闘配食の用意をする者、片づける者、ドック各所に設置されたモニターを睨んで、どこまで正確か分からない戦況に一喜一憂する者、見ているだけで魚のように表情のない者、そういう、もう戦争と言っていい西之島紛争の前線基地の様子をマスとして捉える。

 数字としての戦闘経過や戦闘配置を見るよりも確かな戦争の『現在』が分かる。

 活気と疲労がせめぎ合っているが、負け戦特有の饐えた臭いはしていない。一進一退、ここが辛抱のしどころというところか。

「越萌さーん!」

 馴染みのある声に振り返ると、ニッパチにオンブされたラボのメグミ所長。

「メグミさんも出撃?」

 越萌マリの感性で尋ねる。

「負傷者の手当てに来ました、あ、わたしはロボット専門ですが」

「大変ねぇ、研究職までかり出されてるんだ」

「アハハ、本職は何でも屋ですから」

「負傷ロボットはCとDの柱の間に集められてるみたいよ」

 たったいま確認したばかりのロボット治療所を指さす。

「ありがとうございます。マリさんは、しばらくこちらに?」

「うん、この戦いの目途がつくまではいるつもり……」

 言葉を継ごうと思ったら、わたしを呼ばわる声。

 

『越萌さーん、こっちでーす!』

 

 首を振ると、ラッタルの踊り場で及川市長が手を振っている。あそこを上がったところが作戦やブリーフィングのエリアなんだな。

「じゃ、また」

「はい」

 会社の昼休みが終わって、それぞれの部署に戻るような気楽さで別れる。周囲はとても昼休という状況では無いんだが、それに浮足立つようでは先は無い。

「ありがとうございます。発光信号で越萌さんと分かってびっくりしました、ここを上がったところが作戦室です。市庁舎が爆撃を受けたので、今は、ここが島の中枢です。あ、足もとに気を付けてください、緊急に司令部機能を整えたんで、配線なんかがむき出しで」

「大丈夫です、島の幹部の方々は御無事で?」

「はい、ロボットの方々が初戦でがんばってくださって、なんとか五分五分というところで……あ、親王殿下、越萌さんをお連れしました」

 ハンガーを仕切っただけの作戦室には特設のモニターや各種機器が並び、制服もまちまちな公務員や志願者、ボランティアたちが、忙しく作業や連絡の真っ最中だ。

 親王殿下と呼ばれてモニターから顔を上げたのはお馴染みの氷室社長。

 綸旨を発してからは島内でも、その呼称を親王に変えているようだ。

「ありがとうございます越萌さん。シマイルカンパニーがご援助してくださるという知らせだけで百人力です。その上、CEO自らお出ましいただいて感謝に耐えません」

「頭を上げてください、仮にも綸旨を発して親王を称しておられるのです。わたし如きに笑顔はともかく、度を過ぎた敬礼は不要です」

「あ、すみません、まだ慣れないもので(^△^;)」

「いえいえ、初めてお目にかかってから、お若いに似ず大人の風格のあるお方と思っていました。総司令官としてドンと構えていてください。政府が対日武力行使と認めない状況、法的制約があるので会社としてできることは限られていますが、越萌マリ個人は一兵卒として奮闘いたします」

「ありがとうございます。日没後には作戦会議が始まります。どうか、それまでは体を休めていてください」

「いえ、とりあえずは島の状況を確認します」

「え、今からですか?」

「はい、善は急げというところです」

「それなら人を付けましょう」

「いえ、うちの運転手は元満州軍の精鋭でしたから」

「でも、予備役の方では」

「ハハ、この島で戦っている現役兵は敵の漢明軍にしかいないでしょ」

「あ、それもそうだ。承知しました、でも、くれぐれも無茶はなさいませんように」

「はい、では1830には戻ります」

「おお、ヒトハチサンマル、雰囲気ですねえ」

「素人ですからカタチからです」

 

 ラッタルを降りる途中C・Dの柱に目をやる。メグミ所長が瀕死のロボットを治療している。隣のEの柱の下では人間の兵士が治療を受けている。働いている看護師の何人かは市民病院で見た顔だ。本土からやってきた者はあらかた帰ったと思ったが例外は……あらためて見渡すと、けっこういる。

 日本政府は腐っているが、どうして、日本人は捨てたものではない。

「日本人ばかりではないアルよ」

 変な日本語に振り返ると、ラッタルを下りてくるもう一人の顔見知り。

「おお、孫大人!?」

 思わず声が大きくなった。

 

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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