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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・197『お岩食堂のレトロテレビ』

2023-12-29 14:49:32 | 小説4
・197
『お岩食堂のレトロテレビ』お岩 




 中華メニューを始めたら妙なことになった。


 いや、なにね、漢明が占領を解いて、軍人を引き上げさせ、代わりに連絡員を置いて行った。ほんの10人前後なんで、食事とかはレプリケーターで済ませているんだ。

 レプリケーターは、メニューを選んでボタンを押したら10秒で大昔のレンジみたいな「チン」の音をさてご飯もおかずも出てくる。古い日本語では食餌合成機っていうんだよ。

「え、食事じゃねえのか?」

 最近漢字を覚え始めたハナが指を立てる。

「ううん、食餌さ」

「それって、大昔の病院のご飯のことだよね」

 さすがにメグミは知っている。

「ええ、餌(えさ)なのかよぉ(^_^;)」

「だからさ、中華メニューも作ったんじゃないか。あ、そっちのテーブルもカタしといて」

「ええ、もう巫女服着てんだけどぉ」

「エプロンすりゃあいいだろがぁ、あ、メグは、まだゆっくりしてるといいさ」

「いいわよ、本務以外の事やるのもいい休憩になるから」

「そうかい、済まないねえ」

 そう言って、メグとハナは、ついさっきまで漢明の連絡員たちが使っていた座敷を片付けに行く。

 座敷は六畳が二つ。ちゃぶ台が四つ置いてあって、レトロな茶の間の雰囲気にしてある。

 ちょっとした遊び心でやってみたんだけど、意外なことに漢明の子たちに人気で、いつも、ここで食事をしていく。
 で、お気に入りが日本の家庭料理というんだから恐れ入る。
 まあ、中華の方も島の人間やゲストには人気で、まあ、無駄にもなっていないからいいんだけどね。

「お岩さん、カタしたら、ちょっと横になってていい?」

「いいよ、ランチまではヒマだしねえ」

 カタンカタン バサ バフ プチ

 ちゃぶ台の脚を畳む音、座布団を並べて横になる気配、テレビが点く音もして、あっぱれ日本のくつろぎタイムの雰囲気が出来あがる。テレビは、AIが生成しているということさえ忘れてしまえば、古典的なワイドショーのスタイルで周回遅れのニュースを流している。

 まあニュース性なんかは二の次、雰囲気を楽しむものだからねえ。でも、リアルタイムで見逃したトピックスなんかに、面白いのがあって、ちゃぶ台共々、食堂の人気アイテムなのさ。

 ええええ!?

 メグがワイドショーのゲストに贔屓のアイドルが出てきたような声を上げる。

「お岩さん、ちょ、スゴイよぉ!」

「え、なにぃ?」

 カウンターから首を出すと、テレビは漢明のトピックスを流している。


――昨年PI措置をして新ボディーになった劉宏大統領は、大連工業地帯の視察を行いましたが、視察先の工場でとても珍しいものを発見しました――

『いや、お恥ずかしい、なんだか昔の友だちに出会った感じです!』

 なんせ、新ボディーは大統領秘書だった王春華だ。王春華だったころは、秘書らしいショ-トボブの髪型に硬いスーツ姿だったけど、今は、ロングにしたりポニテにしたり、ファッションも軽やかで、フォーマルな時以外は活発な女子学生という雰囲気さ。

 その劉宏が、頬を染めて指さした先には、埃まみれのマイドがガラクタに混じって見えている。

『マイドは、漢明と日本が緊張状態になる前、日本の大阪で開発された超小型のパルスボートです。漢明や大陸では大型のピックアップボートが一般的だったんですが、このドアツードアをコンセプトに開発されたマイドは、積載量は一トンですが、静粛性、運動性能、航続距離に優れていて、なによりも可愛い!』

 埃がたつのも気にせずマイドを撫でまわす姿は、ちょっと反則なぐらいにチャーミングだ。

『ねえ、工場長、これ譲ってください。ちゃんと時価で買わせてもらいますからぁ!』

 工場長にカメラが振られると『いや、差し上げます(^_^;)』と言うのを『ダメです、ちょっとハンベで検索……こんなもので、どうですか?』とカメラにハンベを向ける。

 ハンベには、このお岩が見ても妥当な金額が示され……いや、エンジンやら、あちこちのオーバーホールを考えたら少し高い金額が示されている。


「いやあ、懐かしいなあ」

 
 いつの間にか、社長(睦仁親王殿下)が入り口に立っている。

「殿下、ひょっとして、今から朝ごはんかい?」

「あ、申しわけない。打合せを先に済ませたら、こんな時間になって(^_^;)」

「簡単なものしか作れないけど?」

「ああ、なんならご飯にカツ節かけたのでもいいよ」

「そんなネコマンマみたいなのは作らないさ、十分ほど待ってて」

「うん、じゃあ、座敷で待たせてもらう。メグミさん、お邪魔します」

 やっぱり畳敷きは人気だ。

「あ、殿下、いや社長、劉宏がこんな玩具を見つけましたよ!」

「あ、ああ……マイドじゃないですか! ボク、このプロトタイプの制作に関わってましたよ!」

「ええ!?」「そうなのか、社長!?」

「うん、金剛山に天狗……いや、東大阪工業組合の研究室があって、そこで居候している時に、マイドの試作機作っていてねぇ、ちょこっとだけ手伝いました。劉宏大統領も見かけは変わったけど、りっぱなオッサン趣味だねえ(^_^;)」

「こんなちっこい乗り物のどこがいいんだぁ」

「スピードは出ないけど燃費がいいから、衛星軌道からのシャトルにも使えるんだよぉ、そうだ、ちょっとハナに似てるかもよ」

「え、そうなのか(n*´ω`*n)」

「そうだね、ハナは整備助手もやるし、食堂の手伝いもやるし、神社の巫女もやるし、いざという時は立派に戦闘員の働きもしてくれるしねえ」

「アハハ、褒めてもなんにも出ねえぞ(^〇^;)」

「この映像は先週のだから、もうあちこちいじってるかも……さすがに、まだ無いか」

「さあ、そろそろ巫女さんの仕事すっかなあ……あれ、連絡所の方でジタバタやってんぞぉ……おおい! フーちゃん、なにやってんだあ!?」

 ハナが窓を開けて呼びかけると、フーちゃん(胡盛媛)が藁をもつかむって顔で駆けてきた。

「大変なんですぅ! うちの大統領が急に連絡所の視察に来るって! もう、どんな準備していいのか、みんな舞い上がってしまって(;゚Д゚;)」

「「「ええ( ゚Д゚)!」」」


 面白いけど、なんか大変なことになってきたみたいだよ。


☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 



 
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銀河太平記・196『お岩とフーちゃんと』

2023-12-23 15:37:30 | 小説4
・196
『お岩とフーちゃんと』お岩 




 好意的に受け止める者ばかりじゃなかったさ。


 ほら、島の南端の氷室神社に漢明占領軍の新しい広報官がやってきた。

 胡盛媛(フーションユェン)、去年の戦争で戦死した胡盛徳大佐の娘さん。着任すると、すぐに氷室神社にお参りに来てくれて孫大人と仲良くなった。
 氷室神社は、休戦中とはいえ敵の神さま。お参りすることを良く思わない漢明人も多いさ。

「でも、漢明というか中華文化の宗教観は多神教で、土地の神さまを大事にするんです。だから、ぜんぜん普通のことなんですよ」

 お参りのついでに境内を掃除してくれているフーちゃん。あ、盛媛(ションユェン)というのは言いにくいし愛称としての省略形も思い浮かばないんで、苗字の方で胡(フーちゃん)と呼んでる。

「そーお、でも、フーちゃんも軍人さんなんだから、無理しなくていいよ」

「あはは、無理なんかぁ。子どもの頃は、毎日村のお社の掃除とかもやってましたし、わたし的には自然なことなんですよ……ほら、これが村のお社です」

 二世代前のハンベを立ち上げて映像を見せてくれる。

「古いハンベなんで動画じゃないんですけどね……」

「ううん、必要な機能が付いていればいいのさ……関帝廟だね」

「はい、商売と運気向上の神さま、明の時代からあるんだそうです」

「そりゃあ、大したもんだ」

「いえいえ、日本なんて千年以上の神社がコンビニと同じくらいあるじゃありませんか。式内社っていうんですよね?」

「へえぇ、式内社って日本人でも知らない人多いよ!」

「え、そうなんですか? でも、神社の鳥居の横なんかに『式内社』って標柱(しめばしら) に彫ってありますよ」

「標柱も知ってるんだ。日本人でも石柱とか、音読みしてヒョウチュウだよ」

「あはは、アニメとかいっぱい見ましたから(^_^;)」

 そう言って照れながら頭を掻く、今どき、こんな風に照れる日本人も少ない。

「でも、すごいですよ。千四百年も前に日本中の神社を調べて記録して、それがそのまま残って、標柱に彫られてるんですから。日本との緊張状態が解れたら、日本に行って聖地巡礼とかやってみたいです」

「そうだね、そんな日が早く来るといいねぇ」

「はい」

 潮風がフーちゃんの髪を撫でる。セミショートの髪が靡いて形のいいオデコと生え際の産毛がソヨソヨ揺れる。

 この子の横顔に戦争は似合わない。そう思って切り出した。

「お父さんの胡盛徳大佐が戦死した作戦。あれを指揮したのはわたしなんだよ」

「……はい、知ってます」

「フーちゃん……」

「広報っていうのは情報部の所属です」

「あ、そうだった。でも、氷室神社っていうのは、シゲジイが気まぐれででっちあげたモグリの神社だよ」

「そんなことありません」

「どうして? シゲジイってカンパニーでずっと穴掘ってた。元々は鉱山技師だけど、無資格だし」

「シゲさんが神社を造ったきっかけは、落盤事故(078『落盤事故』)……だったと思うんです。大勢犠牲者が出ましたでしょ?」

「あ、ああ……」

 あの時の犠牲者で素性の分からない者や引き取り手のない遺骨は、うちの食堂で預かっていた。シゲのやつ、そういうことは一言も言わなかったさ。

「なにごとの おわしますかは 知らねども……ええと(^_^;)」

「かたじけなさに涙こぼるる……西行法師だね」

「あ、あ、そうです。さすがはお岩さんです!」

「フーちゃんすごいねぇ、西行法師まで知ってるんだ。これもアニメ?」

「いいえ、これは軍の学校で」

「へえ、漢明も捨てたもんじゃないねえ」

「習った時は――日本人のいいかげんさ――の例としてだったんですけどね。それまでに仕入れた知識で、これは日本人の……言葉は浮かんでこないんですけど、凄みだと思うんです。人智を超えたものに素直に感動して、感動したら、そこを掃き清めて神社にしちゃう。そして、それが千年以上も続いて、コンビニよりもたくさんあって大事にされてるって、すごいですよ!」

「アハハ、シゲジイが聞いたら嬉しすぎて死んじゃうかもね」

「死んでもらっちゃ困りますぅ。それに、神社は新しいですけど、御祭神は秋宮空子(ときのみやそらこ)内親王さまと大綿津見神 (おおわたつみのかみ)、空と海が神さまって、とても素敵です」

「ああ……」

 見上げると、社殿は戦闘で失われ、真新しい賽銭箱がドーンと据えられた向こうに、大空と大海原と…… シゲのうさん臭さが、ちょっと違って見えてしまうから不思議だ。

 いつもは、パンパンと二拍手しておしまいだけど、フーちゃんといっしょに、きちんと二礼二拍手一礼、お賽銭もちゃんと100円あげたさ。

 食堂に戻るとモニターにニュースが出ていた。


 漢明は西之島南端の占領を解く。新たに西之島は漢明に対し、緊急時に避難の為に港の使用を認める。漢明は占領部隊を引き上げ、連絡員若干名を常駐させることとする。

 フーちゃんはどうなるのだろう……気になって連絡をとると、引き続き連絡員として残留の見通し。

 まずは、良かった。


☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

 


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銀河太平記・195『広報係・胡盛媛中尉』

2023-12-18 15:53:26 | 小説4
・195
『広報係・胡盛媛中尉』孫悟兵 




 虫歯治療の為に麻酔をかけたらこんな感じだな。


 痛みは無いが、物言わぬ虫歯が地味にその存在を主張している。

 いや、腎臓結石をやって内視鏡カテーテルを突っ込まれた時の感じにも似ている。他人には言わないが、この孫悟兵、体のかなりの部分が生身だ。なによりも脳みそは、混じりけなしの100%自然のままアル。

 神社裏の崖から釣り糸を垂らすのが、ここのところのルーチンになりつつある。
 釣りはうまくない。義体やロボットなら、釣りのスキルをダウンロードすれば、並の名人程度には釣れる。
 生身だから、大いに連れる時もあれば、まるきりの坊主ということもある。

 そこが面白い。

 釣り糸を垂れながら、ボンヤリ思う。

 この戦の行方はどうなるんだ?

 全面戦争をやる気持ちは日本にも漢明にもない。たとえ勝利したとしても、とんでもない傷を負って、当分は今の国際的地位を失ってしまう。
 人類の活動範囲は百年前に太陽系(主に月と火星だけだが)に広がり、パルスギが採掘されるようになった現在では、銀河世界へ飛び出すのも時間の問題だと言われている。
 その変革の時に、枢要な国際的地位と力を保持し続けるためには、国力の疲弊は避けなければならない。

 だから、決定的な戦局を迎えることもなく、麻酔をかけたような平穏が続いている。

 自分の商売は、漢明においても日本においても、この西之島、アメリカ、ヨーロッパにおいても、拡大こそしていないが手堅くやっている。月や火星でも気まぐれに取引することはあるが、本腰を入れるつもりはない。十分に根が張っていない木が枝葉を伸ばしても仕方がないアルヨ。

 カサコソ

 神社の方で気配。

 神社は漢明の占領地にあるが、宗教施設なので非武装ならば出入りは自由になっている。大晦日から正月にかけては島民やボランティア兵、それに珍しもの好きな漢明兵も混じって初日の出を拝んだりしていた。

 折悪しく、神主のシゲも巫女のハナも留守にしている。

 しかたない、この孫大人が相手をしてやるアルカ……

「あのぅ、ちょっとすみません」

 きれいな女言葉に振り返ると、漢明の第一種軍装に身を包んだ女性中尉が見下ろしていた。

「お参りの仕方が分からないので、教えていただけると嬉しいんですが」

 国営放送のアナウンサーかと思うほどきれいな日本語だが、軍服に敬意を表して漢明語で応える。

「新米の中尉さんが神社に用事なのかい?」

「え、あ……漢明の方なんですか?」

 むこうも漢明語に切り替える。

「孫悟兵という年寄なんだがね、漢明と日本と両方相手に商売させてもらっとる。両方に顔がきくんで、釣りをしながら留守番をしとるんですよ」

「あ、それはよかった。こちらの神さまに着任のご挨拶にあがったんです」

「おお、それはそれはご奇特なことで」

「すみません、釣りをしていらっしゃるところでしたのに」

「いやいや、下手の横好き……お……今になって」

 グンと糸がひいて、竿がギギっとしなってきた!

「あ、大きいですよ!」

 グン ググン!

「おっとっとぉ……!」

「手伝います!」

 第一種軍装の上を脱ぐと、軽々と岩場に下りてきて、竿を曳いてくれる。

 緩急の力の入れ具合も良く心得ていて、二分余りで目の下一尺はあろうかという見事な鯛が釣れた!

「そうだ、お参りのお供えにしよう!」

「え、いいんですか?」

「いいもなにも、あんたの助けが無きゃ逃げられてましたよ」

 ころあいの石を見つけてお供えの台にする。

「中尉さん、お名前は?」

「あ、申し遅れました。守備隊広報係りの胡盛媛と申します」

「胡盛媛……たしかチルル空港の」

「あ、はい……第一次制圧隊長をやっていました胡盛徳の娘です」

「あ……そうでしたかぁ、お父上は残念なことでした」

 胡盛徳大佐は一次攻撃で瀕死の重傷を負って、一時は沖の艦隊に収容され、二度目の攻撃でお岩さんたちの待ち伏せ攻撃で戦死している(147『待ち伏せ』)。

「あ、いえ、軍人ですから(^○^;)」

 日本語で応えた、理由は主語を付けずに言えるからだろう。

 広報担当に選ばれるだけあって、言葉の感覚がいいようだ。


 日本式のお参りは二礼二拍手一礼であると見本を見せると、きれいに所作を決めた。


「教えていただかなかったら中華式でやるところでした、あれだと三跪九拝です……軍服、クリーニングしたてでしたから」

「アハハ、なるほど、ここに膝を突いたら洗濯のやり直しだぁ」

「ありがとうございました」

「そうだ、せっかく二人で釣った鯛だから、二枚におろして半分ずつにしよう」

「え、いいんですか?」

「いいさ、ここに供えていても酒飲み神主のサカナになるだけだからね」

 
 そのまま、お岩さんの食堂に行き、きれいにおろしてもらった。


 盛媛の明るさと礼儀正しさに、お岩さんも喜び、父の胡盛徳大佐の話になると、食堂に居合わせた者たちは、ちょっとシンミリしてしまった。

 休戦中とは言え、敵同士なので、いっしょに乾杯した後、盛媛中尉は鯛の半身をぶら下げて帰って行った。


「あ……孫大人、盛徳大佐ってロボットだったよ」

「え、あ……」

 盛媛中尉、いっしょに竿をひいた時の感触は、ぜったい人間だ。義体であったとしても義体率は50%は超えていない。お岩さんも、この孫悟兵も、そのあたりの見間違いはしない。


 その夜、漢明守備隊の広報誌が出て、昼間のエピソードが新広報係りの紹介と共に出ていた。

 胡盛媛中尉は盛徳大佐の養女であった。

 漢明は、ロボットと人間の養子縁組を認めていなかったが、劉宏大統領がPI後に民法の改正を示唆して実現したのだそうだ。

 この話を知った児玉元帥は越萌マイとして睦仁親王と共に盛媛中尉に「氷室神社参拝に感謝」と電信を打った。


☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・194『作戦会議中断』

2023-12-12 11:49:45 | 小説4
・194
『作戦会議中断』メグミ 




「困ったことに評判がいいんです」


 役人の頃の癖が抜けないのか、及川市長の言葉に深刻さは無い。

「春の七草海山群というのは、21世紀日本が付けた名前なのですが、まるで海底にお花畑でもあるような名前なので、いかにも平和ニッポンというイメージです。むろん、日本の領海でも排他的経済水域でもありませんので、浮体構造の調査拠点を作ることに苦情は言えません」

「七つあるうちの『ほとけのざ』にした狙いはなんだい?」

 お岩さんが身を乗り出す。

「七草のうち、あそこが一番浅いんです。他の海山は水深1000mを超えますが、ほとけのざは120mしかありません」

「狙いは、なんと言うとるんじゃ?」

 シゲ老人が神主服のまま手を挙げる。

「パルス資源の調査と開発です」

 フフ

 作戦室に緩いせせら笑いが湧く。

 春の七草海山群は太平洋プレートの上にある。我々の西之島は小笠原諸島の東にあって共にフィリピン海プレートの上にある。

 パルス鉱の鉱脈はフィリピン海プレートの東側に集中し、太平洋プレート側ではほとんど確認されていない。

 パルス鉱はプレートが隣接する別のプレートに潜り込んだところで発生するようで、潜り込む側のプレートでの発見例は少ない。僅かに発見されたものも、純度が低く採掘には膨大な資金が必要であるので、本気で採掘に乗り出す国は無かった。

「調査に名を借りた軍事拠点の建設ではないのか?」

 元オーストラリア軍の大佐が腕を組んだまま発言した。

「それが……」

 及川市長が続けようとすると、モニターを操作していた情報官が「劉宏大統領のスピーチが入ります!」と手を挙げる。


『漢明国民のみなさん、そして、これをご覧になっている世界の方々にご挨拶いたします。漢明大統領の……最近は春華と呼ばれることが多いですが、劉宏です』

 春華 春華 春華 春華 春華 春華 春華 春華! 春華♡……の文字が漢字、英語で流れる中に、劉宏がその半分、残りは春華=劉宏などが流れる。

『私たちは休戦状態ではありますが、西之島と戦闘状態にあり、日本国とは準戦時状態で国交が途切れています。しかし、わたしたちは戦争ばかリやっているわけではありません。世界二位の人口を養い、かつ国際社会の一員として生きています。そのために、世界のあちこち、関係諸国のご理解を頂きながら資源の開発と採掘に乗り出しました』

 88888888888 好! 好! 8888 好! ♡ (^▽^) 好!

 仕込もあるんだろうけど、王春華の姿をした新劉宏は国の内外で人気がある。

『どうもありがとう、漢明国民のみなさん、日本のみなさん、世界のみなさん』

 オーディエンスに応える劉宏の笑顔は200年前『ローマの休日』をやった時のアン王女の笑顔にも例えられ、PI前と比べて、その支持率は倍以上に高くなった。

 オホン

 及川市長の咳払いで、緩みかけていた空気がピリっとする。

 が、次の春華、いや、劉宏のスピーチで緩んでしまう。

『西之島のみなさん、わたしたちは、このほとけのざで少しずつ進めて参ります。パルスガ、パルスギなどの高純度のパルス鉱は望むべくもありませんが。パルス鉱、パルスラ鉱など低純度の鉱石の採掘に力を注ぎます。より安価により大量にパルス鉱を採掘精製できれば……例えば、速度は出ずとも大陸間移動のエネルギーが今の半分以下の燃費でいけるとしたら、産業用家庭用のエネルギーが半分になるとしたら、素敵なことだとは思いませんか? 一日も早く休戦が、ほんとうの終戦になって、お互い資源開発やイノベーションで鎬を削れる時代が来ることを望んでやみません。むろん、パルスギなんかが見つかったらラッキーですけどね(^▽^)! その時はごめんなさい(๑´ڡ`๑) 。あ、すみません、ちょっとハジケすぎました(⁄ ⁄•⁄ω⁄•⁄ ⁄) 。それでは、ほとけのざ資源プラットホームから劉宏のご挨拶でした!』

「稚拙なプロパガンダに過ぎんのだが、なかなかやる」

 再び緩みかけた作戦室の空気を引き締めるように、元海兵隊中将のアメリカ人が顎を撫でる。

 劉宏の笑顔のまま停まった画面には、劉宏を賞賛するコメントが横殴りの吹雪のように続いている。その多くは劉宏ではなく春華の愛称になっている。

「いやはや、わたしもソフト路線でやらなきゃいかんかなあ」

 児玉元帥が眉をしかめるけど、こちらもミテクレは美人社長で名の通った越萌マイのボディーで勘が狂う。

「どうやら、新局面に入ったようだね」

「敵の様子を観察、分析を進めます。暫時休憩といたします」

 社長、いや睦仁様が苦笑いされ、作戦会議は中断された。

「七草がゆとランチが出来てるから、希望者は食堂へ。七草がゆは数に限りがあるから、遅れた人はレプリケーターのでがまんしてね」

 劉宏のスピーチで情報の取り直しと分析のやり直しになって、作戦会議は中断して仕切り直しになった。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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銀河太平記・193『春の七草』

2023-12-05 14:01:41 | 小説4
・193
『春の七草』メグミ 



 せり~なずな~ごぎょう~はこべら~ほとけのざ~すずな~すずしろ~


 思わず口をついて出てしまう。

 早春の西之島は休戦状態とは思えない長閑さで、春の七草を鼻歌のように節をつけてそらんじてしまう。

「七草って、みんな同じ順序で言うよね、なんでだろ?」

 巫女服にタスキ掛けのハナちゃんがアレコレ摘みながら聞く。

「ああ、和歌になってるのよ」

「ワカって『なにわづに さくやこのはな ふゆごもり いまや春べと さくやこのはな』って、やつだよな?」

「そうそう、ハナちゃん、序歌覚えたんだ」

「アハハ、かるた会の最初にやるからね。それに、最後の『さくやこのハナ』って、すごく感じいいし(^▽^)」

「あ、そうだね。なんだかハナちゃんの歌みたいだね」

「だろ! でもさ……『すずなすずしろ』で終わったら、字足らずじゃね?」

「ああ、最後に『これぞ七草』って締めになるのよ」

「え……せりなずな・ごぎょうはこべら・ほとけのざ・すずなすずしろ……これぞななくさ。ほんとだ!」

「でしょ」

「アハハ、和歌っていうか日本語っておもしろいよなぁ」

「あ、それは、ただの雑草だよ」

「え、ああ、こっちは分かりにくいなあ」

 漢明とは、あれ以来休戦が続いている。島の南部にはわずかだけど漢明軍が駐留しているが、大統領の命を守って大人しくしている。

 年末には氷室神社の敷地だけ返還されて鳥居に賽銭箱だけの神社だけど、三が日には島民やボランティア兵たちが初詣して賑わった。創建の時、シゲ老人が『本殿は海と空だ!』と言い放った時は横着なインチキ神主と思ったけど。これはいいアイデアだ。海と空なんて、核兵器やパルス兵器を使っても壊しようがない。
 神明造の鳥居は材木が四本あれば簡単にできるし、あり合わせの箱を賽銭箱にしてしめ縄の一つでもかけておけば立派な神社だ。

 ちょっと怪し気な神主(シゲ老人)と巫女(ハナ)だけど、なんだか神代の昔からのやっているという雰囲気で好ましい。


「どう、少しは採れたかい?」

 
 お岩さんが気の毒なほどの汗をかきながらやってきた。

「いちおう採ったけどよ、全部OKかどうかは自信ねえぞ」

「どれどれ……ああ……すこし違うのが混じってるねえ」

「使える?」

「まあ、仕方ないよ、戦闘でひっくり返されて雑草と一緒くたに生き残った七草だからね」

「足りねえ分はレプリケータだな」

「まあ、島のみんなに行き渡らせようと思ったら仕方ないさ。あ、それより、昼から久々に作戦会議だって、ベースで二時から」

「え、二時! じゃあ、急がなくっちゃ」

「なんだ、厨房はハナひとりかぁ?」

「終わったら、一気に作るから、昼寝でもして待ってな。あ、薬塗んの忘れないようにな」

「もう飽きたぜ、あの薬、傷跡がヒカヒカしちまってよ」

「ちゃんと治さないと、傷跡残ったままになるよ」

「いやあ、もう、こんなガラッパチな性格だからよ、こんくらいでいいよ」

「大事にしな、女の子なんだから!」

「わ、分かったよ。あ、メグミの持ってってやるよ、かしな」

「え、いいの?」

「ハナは力持ちだからよ、メグミこそ飯くらい落ち着いて食っていけよ」

「ありがとう、じゃ、頼むね。行こう、お岩さん」

「ああ、じゃあな、厨房は頼んだよ」

「おお、任しとけ(^▽^)」

 
 ドンと胸を張って手を振るハナ。


 笑顔が、ちょっといびつ。敵に待ち伏せ攻撃(147『待ち伏せ』)をかけた時に首の半分を失って、ラボで再生してやった。新造した方が早いのだけど「オリジナルがいい」と言って修理で済ませている。この戦争が本格的に終わったら、きちんと時間をかけて治してやろうと思う。

 二時からの会議は五分前には始まり、児玉元帥から気になる報告があった。

「敵は小笠原の東方、春の七草海山群、ホトケノ座に拠点を築きつつあります」

 さっき、七草を採っていたばかりなので、一瞬冗談かと思った。

 
 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・192『ココちゃんに決めてもらうっす!』

2023-11-29 15:09:26 | 小説4

・192

『ココちゃんに決めてもらうっす!』こころ 

 

 

 大きいのはダメっすからね!

 

 ツナカンさんにくぎを刺されて唇を突き出すアルルカンさんは、とても宇宙海賊のボスには見えない。

 わたしよりも首一つ、胡蝶さんと比べても10センチは高く、主席さんと並んでも遜色がない八頭身の高身長。

 お顔もボディーも申し分のない凹凸で、切れ長の目には、それ自体が生き物ではないかと思うようなまつ毛が戦ぎ、伝説の宇宙戦艦アニメの主要女性キャラみたい。

 艦長席に収まって、進路の先を見つめている時など伯母様に匹敵する神性を感じる時がある……んだけど、今は別人。

 

「だって、ナガトは持っていきたいぞぉ(`へ´)」

 

 腕を組んだままホッペを膨らます。

 そうっと後ろから近寄って、両手でホッペを押したくなる。

 むかし、お母さんにやれれて『プ』って陽気な音がして、みんなで笑ったのを思い出した。

 西之島のメグミさんにならできる(身長もあまり変わらないし)けど、アルルカンさんにはできません。

 背が高いし、タイミングがむつかしいし。

「ナガトは225mもあるんすよ」

「224.95mだ。レプリカだから5000トンしかないしぃ」

「200mを超えるのはダメっす」

「曳航すればいいじゃないかぁ」

「プロキシマまで行くんすよ、レプリカの船は曳航に耐えられないっす。小さいので我慢してほしいっす」

「けち」

「ああ、もう、こういうことになると子どもなんすから、船長はぁ」

 ガチャ

 レトロなエフェクト音をさせて展望室のドアから船務長のアルミカンさんが入って来る。

「……この雰囲気は、まだ悩んでいるんですか、船長(^_^;)?」

「だって、ツナカンが、ナガトはダメだって意地悪を言うんだぞ」

「ああ……」

 ゲンナリという感じで手にしたバインダーを下ろしてしまうアルミカンさん。

「船長のオモチャ……」

「オモチャ!?」

「お持ちになる携帯品が決まれば出航なんです、そろそろお願いしますよぉ」

「だってぇ(๑> ₃ <)」

「よし、それじゃ、ココちゃんに決めてもらうっす!」

「え、わたしですか!?」

「ムググ……そうだな、ここはココちゃんに決めてもらうか」

「え、え、そんな、わたしなんかぁ(;'∀')」

「お願いするっす!」

「自分もです!」

「ええ……」

 振り返ると、胡蝶さんもサンパチさんも聞こえないふりをしている。

 主席さんは、傷が痛むと言ってキャビンに戻ってしまうし。

 

「えと……じゃあ……これでどうでしょう?」

 

 せっかくのプロキシマβへの出発なのだし、できるだけ穏やかに収めたかったので『松』という可愛い船を指さした。

 

「「え、松?」」

 ツナカン、アルミカンのお二人が気の抜けたようなリアクション。

「あ、あれは無いぞ、ココちゃん。松はナガトを買った時にオマケで付いてきた戦時急造艦だ、もともと撮影で悪役のやっつけられ役で払い下げられたスクラップ同然の艦で、日本でも雑木林シリーズって茶化されてたショーモナイ駆潜艇だぞ!」

「船長、あれなら、いっしょに引き取った『竹』と『梅』も残ってるから三つワンセットでOKですよ!」

「そうだ、松竹梅で縁起もいいっす! 船務長、これで決定!」

「おい、おまえら!」

 アルルカンさんの抗議は無視して、テキパキと出航準備が進められる。

「全乗員に告ぐ、松竹梅を収容の後、ただちに抜錨! 冥王星軌道を離脱、プロキシマβに向け最初のワープに入る!」

「かかれ!」

 グィーーン ブルンブルン ズゴゴォォォ

 ヒンメルのあちこちで起動音がして、たちまちのうちに松竹梅の三隻も収容して、ヒンメルは太陽系を後にした。

 

 ナガトぉーーーーーー!

 

 ワープ準備にかかる艦内にアルルカン船長の悲痛な叫び声が響き渡りました(^_^;)

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

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銀河太平記・191『ロールケーキのチョコクリーム』

2023-11-22 15:42:51 | 小説4

・191

『ロールケーキのチョコクリーム』胡蝶 

 

 

ツナカン:「もー、飯食ってる最中に呼び出さないで欲しいっす!」

 

 むくれながらオカモチをぶら下げてきたのは副長のツナカンだった。

アルルカン:「おお、ツナカン、オカモチとはしぶいぞ。てっきりウーバーイーツ風に背負ってくると思ってたぞ」

ツナカン:「なに言ってんすか、カサギを引き上げる時に『いいものメッケ(^▽^)!』って喜んで、以降は艦内の配達に使おうって言いだしたのは船長っすよ。はい、ケーキセット五つ」

ココロ:「あら、一つ多いですよ?」

ツナカン:「自分のっす、むろん船長のツケっす」

アルルカン:「抜け目のない奴だ」

ツナカン:「仕事熱心だからっす、周温来殿と内親王殿下をお引き受けするわけっすから、こういう機会に仲良くって思うわけっすよ」

アルルカン:「なんかサボリの言い訳くさいぞ、飯食ったらブリッジの二直だろーが」

ツナカン:「二直は臨時でシャケカンっすよ、もうじき冥王星っす」

アルルカン:「そーか、じゃ、いっしょに寛げ」

ツナカン:「言われなくっても」

ココロ:「フフフ、相変わらずですね、お二人は」

 文句は言いながらも慣れた手つきでケーキセットを配膳するツナカン。セットのケーキは大き目のロールケーキ、ドリンクはカフェオレ、シュガースティックが人数分。

ツナカン:「ゴチャゴチャ持ってくるのはめんどうなんで、全員船長と同じっす。烹炊に言えば以降は好みのを出してくれるっす」

アルルカン:「ええ、これがいちばん美味しいんだぞ」

 甘すぎるのではと思ったが、カフェオレのシュガーをひかえるとなかなかのものだ。ロールケーキも挟んであるチョコクリームの微妙な歯応えと甘さがが絶品で、上様の好みに近いと思った。

主席:「助けられて言うのもなんだが、船長、これからどこに行くんだろうか?」

アルルカン:「それを伝えに行くところだったんだ。内親王……もとい、ココちゃんと周温来という二人のVIPを引き受けたんだ。地球からも火星からも干渉を受けない安全なところに向かうつもりだ」

主席・ココロ:「安全なところ?」

アルルカン:「プロキシマB(ベータ)」

 ちょっと驚いた。

 殿下のガードという立場上控えようと思っていたがプロキシマBと言われては訊ねざるを得ない。

胡蝶:「それは、プロキシマ・ケンタウリの惑星ですか?」

アルルカン:「いかにも、地球から4光年、太陽系からもっとも近い地球型惑星だ」

サンパチ:「少し遠すぎではござらぬか、ヒンメルでも5年以上かかるのではござらぬか?」

アルルカン:「亜光速ならばな」

 みんなの手が停まった。

アルルカン:「このロールケーキの中身、チョコクリームだと思っているだろ?」

ココロ:「え?」

サンパチ:「チョコクリームではないのでござるか?」

アルルカン:「羊羹なのだよ、これが! クリームでは味わえない上品な甘さと香りと歯ざわり。むろん、烹炊科のレプリケータが作るんだがな、クリームを変更してプログラムすると、この風味と味わいが出る」

ツナカン:「船長の趣味なんで、まあ、つきあってやってくださいっス(^_^;)。よかったっすね、こないだの納豆チョコは不評だったっすからぁ」

アルルカン:「アハハ、まあ、それと同じような要領でヒンメルの動力系は数世紀の先をいっているのだ!」

ココロ:「ひょっとして、パルスギを使っているんですか!?」

 パルスギは西之島で発見された最新のパルスエネルギー、確かにパルスギなら光速も可能だと言われているが、まだ実用には至っていないと聞いている。

アルルカン:「ワハハハ、最新のエネルギー技術はパルスギばかりとは限らんのだよ、胡蝶君」

 ムムム……やはり、アルルカンというのは底知れぬところのあるやつだ(-_-;)。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

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銀河太平記・190『ヒンメル左舷プロムナードデッキ』

2023-11-15 15:40:12 | 小説4

・190

『ヒンメル左舷プロムナードデッキ』胡蝶 

 

 

 全長1200メートル 基準排水量600万トン

 

 これが亜光速で飛ぶというのだから信じられない。

 サイズ的には。地球でも大型の客船や貨物船で近いものはあるが、とても亜光速で飛ぶことなどできない。

 おまけに、戦闘能力は伝説の宇宙戦艦の4倍もあるというから恐れ入る。

「まだまだです、容積比で言えば、かの宇宙戦艦の90倍の戦闘力が無いと釣り合いません」

「90倍ですか( ゚Д゚)!?」

 素直に内親王殿下は感動しておられる。

 今日はアルルカン船長自らの案内で、プロムナードデッキを艦尾方向に散歩に出ている。

 広い艦内なので、それまで動いたのは艦首側からの100メートル余りの区画でしかない。

「まるで客船のプロムナードデッキですね!」

 殿下が疑問に思われるのは無理もない。

 左舷の舷側を前後に貫くデッキは、幅が4メートル余りもあって、左舷側の壁と天井の半分が透明なっている。

 要所要所には観葉植物や絵が掛けてあり、まさに客船のプロムナードといった風情なのだ。

「同じものが右舷にもあって、艦尾と艦首で連結されていて、一周すると2キロになります」

「まあ、ちょっとしたジョギングコースですね!」

「はい、年に一回運動会を開くんですが、最上甲板の周回コースを入れて10周走って42.195キロのマラソンコースになるんです」

「まあ、運動会、楽しそうですねえ(^0^)」

「長い航海になります、一度や二度は開くことになるかもしれません」

「ふふ、楽しみができました」

「しかし、戦闘艦で、こんなに長い通路を設けていては防御的に問題があるのではないですか?」

 ウフフフフ

 横を歩いているサムライ少女が笑う。

「人の質問を笑うのは無作法ですよ、サンパチさん」

「これは失礼。拙者も同じことを思ったでござるよ。桔梗殿、ここは、戦闘時には隔壁とシールドがかかる仕掛けになっておるのでござる」

「可動式?」

「シールドは外側に。隔壁は、ほら、ジョギング用に距離が刻んでござろうが、あそこから隔壁が立ち上がる仕掛けのようでござるぞ」

「ムム……」

 聞きしに勝る戦闘艦のようだ。

 しかし、そろそろ艦の半ばまでは来ていると思うのだが、乗組員を一人も見かけない。

「日常の艦内移動には、両舷の中央寄りにある通路を使うのです。特に規則にしているわけではないのですが、乗員たちもオンとオフを使い分けているようで、交代の時間には、ジョギングで走っている者も見かけます」

「この艦には、何人ぐらいが乗り組んでいるんですか?」

「はい、ざっと300名です。300名が三交代で任務に付いているので、常時配置についているのは100名といったところです」

 大したものだ、600万トンの艦を100人で動かすとは。

「お、艦尾の方から誰か走ってくるようでござるぞ」

 艦尾の方は湾曲した艦腹の向こう側、まだ視認はできないのだが、サンパチ殿は探査能力が高く分かってしまうようだ。

「あ、まだ走っちゃダメだろ!」

 アルルカン殿が顔色を変えて艦尾方向に走りだし、我々もその後を走る。

「あ、シュセキさん!?」「シュセキ殿!」

 殿下とサンパチ殿も驚いて、ジャージ姿で走って来る男に駆け寄っていく。

 シュセキ? 

「まだまだ安静だとドクターに言われてるだろ周温来!」

 周温来……西之島三傑の一人、胡同の主席と呼ばれた周温来か!?

 たしか、西之島紛争の最中に忽然と姿を消したと外事方隠密から聞いている。

「いやあ見つかってしまった(^_^;)。起きられるようになると、じっとしていられなくて……というか、ココちゃんとサンパチじゃないか! え? どうして二人が?」

「もおぉ! 今から温雷の部屋に行ってビックリさせるつもりだったんだぞ! 台無しじゃないか(ꐦ°᷄д°᷅)!」

 アルルカンが本気で怒ってる。

「いや、申しわけない。乗組員の会話から、この時間帯のプロムナードは人気(ひとけ)が無いと踏んだんだ、いや、しっぱいしっぱい(^_^;)」

「トリャー!」

 アルルカンが投げ飛ばした!

「ニャンパラリン!」

 投げられた勢いを空中回転でいなして、見事に着地を決める周温来……微妙に顔が引きつっている。

「まあ、普通には動いて差し支えないようだな」

「アハハ、平気平気……(^△^;)」

「なら手間が省ける。ちょうど800mのラインだ」

 ハンベを操作するアルルカン。

 壁の一部が変形して三人掛けのベンチが二つ現れた。

「士官食堂か、船長のアルルカンだ。左舷プロムナードの800mに居る。ケーキセット五つ頼む。え……人手がない? 誰か食事してる者は……よし、そいつに出前させろ。いやあ、楽しみは半減だが、こうやって顔を合わせられたのはめでたい」

「あのう、船長、どうして主席さんがヒンメルに……」

「いやあ、それがあ……まあ、聞いていただきましょうか(^▽^)」

 得々と、実に楽しそうに周温来捕獲のエピソードを語るアルルカン。

 この人の三枚目ぶりやおかしみは自己演出と見定めていたのだが、存外、ただのオモシロガリなのかもしれない。

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

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銀河太平記・189『火星周回軌道上のホロ通信』

2023-11-08 11:21:03 | 小説4

・189

『火星周回軌道上のホロ通信』胡蝶 

 

 


 ヒンメルのブリッジは広い。


 教室四つ分ぐらいの広さがあって、後に向かって緩く立ち上がり、その立ち上がったところに艦長席がある。

 20世紀末から21世紀にかけてブームになった宇宙戦艦アニメのブリッジを参考にしたらしいが、広さも豪華さも、その上をいっている。

「あ、すまん、調整がまだ済んでいないんだ。そこのシートに座ってくれ……あ、殿下もご一緒で!? 早くしろツナカン!」

「船長、相手は征夷大将軍っす。ホロステージは上段中央しかないっすよ」

「しかし、わたしも立場は国家元首級なんだぞ( ー`дー´)」

「いや、だから艦長席をズラして中央に……」

「それでは艦長の威厳がだな……」

「船長でしょ?」

「それは身内の通称で、正式的立場的にはだな……」

 ツナカンは無視して殿下……ココロにふった。

「殿下ぁ」

「はい、なんですか、ツナカンさん?」

「殿下が拉致られ……もとい、お招きした時は、どこにお立ちでしたっすか?」

「あ、この横のハッチから入って来て、その羅針盤の横当たりかな……そうそう、船長は、その艦長席から下りてこられて……プ(* ´艸`)、ごめんなさい、そこに」

「あ、思い出したっす! そこでマントがどうとか、ブーツのグリップがどうとかって言って、けっきょく転倒してパンツが破れたっす!」

 アハハハハ

 ブリッジの総員が笑って、アルルカンが真っ赤になる。

 殿下、いや、ココロもコロコロ笑って、とても和やかな空気になる。

「わ、わかったぁ(-_-;)! ホロステージは中央に、艦長席は中段に移動!」

「アハハ、結局は、ツナカンのプラン通りになったじゃないっすかぁ」

「うるさい、ツナカン! アルミカン、艦の現在位置!」

「はい、扶桑城の東100キロ、高度80キロ、方位角90度です」

「よし、自動操縦にしてブリッジ総員起立!」

 ザザッ!

 さすが、たった今までドタバタしながらも、ケジメはきちんとしている。

 さっきまで艦長席があったところの照度があがり、人型に輪郭が浮かび上がると、上様のお姿を描いた。

 パンパカパンパンパーーン♪ パンパカパンパンパーーン♪

 栄誉礼のラッパが響き「敬礼!」と副長ツナカンの号令。

「ようこそ将軍閣下、ホログラムとはいえ初めてお目にかかります。宇宙戦艦ヒンメルの艦長にして銀河一のパイレーツクィーン、メアリ・アン・アルルカンであります」

『恐縮です艦長、扶桑道隆です。本日は、急な申し入れに関わらず、面会の機会をもうけていただき、感謝に耐えません』

「こちらこそ、隠密にしていたとは言え火星を離脱するにあたり、正式な対面の機会を与えていただき感激いたしております」

『須磨宮内親王殿下におかれましても、その御意思に反して火星をお離れ戴くことになり申し訳ありません』

「いえ、わたくしこそ、扶桑滞在中は格別なおもてなしをうけて喜んでいます。いつか、火星と地球、この太陽系、銀河の全てに平和が訪れましたら、もう一度火星に、扶桑に伺いたいと存じます」

『かたじけのうございます、殿下。その日まで、この扶桑道隆、扶桑を護り、火星に一日も早く平和が訪れますよう国民と共に励みます』

「では、さっそくながら、扶桑の戦い方などお伺いできればと」

『望むところです。わたしの方こそ、ヒンメルとアルルカン殿の戦略の一端をお示しいただけるのではと胸を高鳴らせております』

「嬉しいことです、それでは、ここからは人払いをいたします。ツナカン、頼んだぞ」

「了解っす!」

 
 驚いた、いつの間にか、上様とアルルカン殿との間には繋がりが出来ている。

 わたしたちが同席したのは、外交的辞令の場だけであったが、上様とは部屋住みであられたころからお仕えしている。

 アルルカンもアタフタしているように見せかけてはいるが、底の底では馴れている。

 

 一時間後、お城への帰還の支度をしていると、こんどは通信室に呼ばれ、1/6サイズの上様と直接の話になった。

 

「アルルカンとの話は終わりましたか?」

『八割はね』

「あとの二割は探り合いですか?」

『ああ……というか、互いに確信がない。お互い確信がないことには見栄もハッタリもカマさない。信頼の持てる相手だよ』

「それは良かったです」

『アルルカンは、太陽系の外に協力者を持っている』

「太陽系の外……銀河世界ですか?」

『ああ、全貌はアルルカンにも分からないようだが、彼女の勘では、こちらの働きかけ次第という感じだ』

「こちら次第……」

『八割の見通しがあるなら飛び込んでみようと言うのがアルルカンの腹積もりだ』

「そこに殿下をお預けになるのですね」

『うん、火星は貧しい、戦いはいつまでも続くわけではない、経済も生産力も長期戦には耐えられない。ただ、今度のパルス菌は、ちょっと厄介でね。扶桑とマス漢周辺のチーチェはほとんど罹患している。いずれは火星中に広がるだろう、変異株も出現するだろうし、とても殿下に居ていただくわけにはいかない』

 扶桑も上様も大変な局面を迎えようとしている。

「承知しました、ただちに帰還して任に当たります」

 防疫は専門外だが、防疫に伴う治安の確保、実力行使は自分の仕事だ。火星の周回軌道でグズグズしているわけにはいかない。

『それには及ばない』

 え?

『胡蝶は殿下のお側にこそ居てくれ、殿下は、予想される動乱の時代に無くてはならないお方だ。よろしく頼む』

「……承知しました」

 

 ツナカンなら「そりゃあないっスよ!」と口を尖らせるか「ガーーーン!」と顎を落として目を剥くか。

 

 不器用な胡蝶は一礼してホロ通信のスイッチを切るだけだった。

 

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・188『ヒンメル貴賓室で殿下の呼び方に悩む』

2023-11-02 17:41:13 | 小説4

・188

『ヒンメル貴賓室で殿下の呼び方に悩む』胡蝶 

 

 

 全長1200メートル、基準排水量600万トン。

 

 いやはや、とんでもない戦艦だ。

 戦艦である以上、そのキャプテンは提督あるいは艦長と呼ばれるべきなんだろうが、ついさっきまで内親王殿下に付き従っていたアルルカンは船長と呼ばれている。

「ウフフ、あいかわらず綺麗で面白い船長さんです(^▽^)」

 殿下は、まるでクルージングの旅に出たら、乗り組んだ船が修学旅行の時に乗った船で、船長も修学旅行の時のままであったように喜んでおられる。

「殿下、ご不自由なことがあれば、なんなりとお申し付けください。船長とも相談してご希望に沿うようにいたします」

「では、さっそく」

「はい」

 姿勢を正してハンベを記録モードにする。

「記録しなくていいです、一言だけですから」

「ハッ」

「殿下と呼ぶのは勘弁してください、ついこないだまで胡蝶さんの部下だったんですから」

「いまは立場が違います」

 そう、ついこないだまで、わたしは南町奉行虎ノ門交番の所長、殿下は所属の巡査であった。

 所轄の虎ノ門界隈の状況が悪化したので、殿下には城内にお戻りいただき、わたしも元の小姓頭に戻った。

 それが、一昨日の朝、お庭の東屋に呼ばれ心子内親王殿下のヒンメルへの避難と警護にあたるように命ぜられた。

 帝都東京の御用邸をお出ましになられてから、西之島、沖縄、ヒンメル、扶桑の御城、虎ノ門、再びお城、そしてまたヒンメルへのご乗船。

 当たり前なら、赤坂の御用邸で皇嗣としてお過ごしになっておられるお方だ。おろそかな扱いなどできようはずがない。ヒンメルの受け入れ態勢が整うまでは、わたしがお側に仕えしなくてはならない。

「せめて、ヒンメルにいる間はこころと呼んでください」

「は、はあ」

「苗字の呼び捨てが一般的なんでしょうが、わたしには世間でいう苗字はありませんし、須磨宮は神社みたいだし(^_^;)、こころというのは初等科の頃から友だちも先生も、そう呼んでくれていましたから。いちばんしっくり的な?」

 そうなのだ、正式にお呼びしたら須磨宮心子内親王殿下、ちょっと言いにくい。

「いま、正式な呼び方を想われたでしょ、スマノミヤココロコナイシンノウデンカ」

「は、はあ」

「とくにココロコっていうのは舌を噛みますからね、ココロでいいです。母も普段はココロとかココちゃんとか呼んでましたから。所長も交番ではココロって呼んでくださったじゃないですか」

「はい! それでは交番に居た時の呼び方でいきましょう、いや、いこう( #`皿´#)!」

「はい、所長(^▽^)!」

 ビシッと敬礼で返される、こちらも敬礼で応える。

 形と言うのは嵌ってしまうと楽だ。遅くとも明日にヒンメルは周回軌道を離れる。その時までの辛抱だ。

 

 トントン

 

 貴賓室のドアがノックされる。殿下、いやココロが「どうぞ」という前にドアが開く。

 この無礼者は、あいつしかいない。

「失礼するっす」

 見かけは美少女、喋らせたら真逆というのが二人立っている。

「あら、なにかしら、二人そろって?」

「ブリッジにホロ通信が入るっす、ブリッジに来てほしいって船長の伝言っす」

「五分後、将軍から胡蝶殿に宛ててでござる」

「わたしにか?」

「そうっす」

「分かった」

「わたしも行っていいのかなあ?」

「むろん、と言うか、将軍も同席していただきたいと希望されているでござる」

「行きましょう、所長」

「はい、いや、うん」

 

 悪い予感がする、業務連絡ならハンベで行えばすむ話だ。それをわざわざ、ホロ電でヒンメルのブリッジに掛けてくるというのは、すごく正式の、ブリッジの全員を証人にとるような連絡だ。

 ツナカンとサンパチに先導され、殿下、いやココロといっしょに貴賓室を後にした。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・187『上様の目は微笑ってはいなかった』

2023-10-27 10:22:59 | 小説4

・187

『上様の目は微笑ってはいなかった』胡蝶 

 

 


 御池の中島に明々と輝く楕円のブロンズ。


 台座はマメ科植物の群れの下に隠れ、あたかも、この群れの気が凝って精霊に昇華したように見える。

 マースビーンズの商品化百周年を記念して火星農産が先週上様に寄贈したものだ。

 マースビーンズは二代将軍正仁様がお造りになった品種で、いまでは扶桑以外の火星でも主要穀物になっている。

 日本庭園のど真ん中に、豆とはいえブロンズ像が佇立しているのはどうかと思うのだが、上様は頓着されないし、意外に面白い。

 幾星霜か経ってみれば、鮮やかな緑青がふいて案外な侘び寂びの点景になるのかもしれない。

 

 ソヨリ

 

 マースビーンズの群れが戦いだ。

 歩を緩めると、池の半ば近くを占める水田の稲穂もマースビーンズに倣って戦いでいるのが分かる。

 明らかに風向きが変わった。

 納得すると、お召しを受けた東屋への歩みを速める。

 

「胡蝶も気が付いたようだね」

 上様は東屋の外に出て風に御髪をなぶらせておられる。

「大老殿の狙いは、これだったのですね」

「うん、これが停戦のきっかけになればいいんだけどね」

「まことに」

「あ、ここじゃ畏まらなくていいからね。畏まられると話しにくくなるからね……」

「は」

「……………」

 話があると仰せられながら、上様は後ろ手組んで、あいかわらず風を読んでおられる。

 

 感慨にふけっておられる、あるいは、念じておられるのだ、火星の平和を。

 だが、こういう時の上様は難題を申し付けられることが多い。

 

 穴山大老は、老中若年寄たちの反対を押し切って戦略ミサイルを打ち上げさせた。

 100基の戦略ミサイルは、200キロの高度に達すると、二発が空中爆発、残りは一定の方角には飛ばず、ウロウロとマス漢とは真逆の東に向きをとって飛び始めた。慌てたロケット軍は、すぐに自爆させようとしたが、自爆できたのは3基にすぎなかった。

 発射前から兆候を掴んでいたマス漢は、最高レベルの迎撃態勢をとって待ち構えていたが、ミサイルの迷走ぶりに安堵し、かつ嗤った。

「なんという恥さらし!」

 たちまち官民の怨嗟の声があがり、C国系の多い虎ノ門ヒルズでは爆竹を鳴らして喜ぶ者たちもいて、扶桑を応援する難民たちとの間で衝突騒ぎまで起こった。

「いやはや、まあ、こんなこともある」

 当の穴山大老は、近ごろ禿の進んだ頭をつるりと撫でるだけだった。

「やはり、大老はタヌキです」

 弾道ミサイルの射程は1300キロ、逆回りではマス漢には届かない。扶桑からは反対側の荒れ地に落下して虚しく爆発炎上する。100に近いミサイルの爆発は中緯度地方の大気の流れを真逆にした。赤間関に吹く風は、方向を真逆にしてマス漢の方角に流れ、腐乱した遺棄死体の悪気はマス漢を苦しめることになる。

 しかし

「ミサイルの炸薬や燃料が燃えても一時間ももたないのでは?」

「あれに炸薬は入っていないよ」

「え?」

「代わりにマス炭が入っている」

「マス炭が!?」

「うん、考えたものだよ穴山大老は」

 マス炭とは、マースビーンズの搾りかすを脱水して固めた固形燃料だ。パルス処理されて、穏やかに一か月は燃え続ける。

「これでマス漢も思いとどまってくれるといいんだけどね、かの国はそれほどヤワではないし、連合国(アメリカ系の火星国家)の帰趨もなかなか読めない」

「はい」

「そこで、胡蝶、君に頼みだ」

「はい!」

 いよいよ本題。

 

 上様は穏やかに笑みを浮かべておられるが……その目は少しも微笑ってはいなかった。

 

☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
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銀河太平記・186『ゾンビの秘密』

2023-10-21 14:14:59 | 小説4

・186

『ゾンビの秘密』ツナカン 

 

 

「「なぜ?」」

 

 岩陰に身を潜めたところで、同じ言葉が出てしまったっす。

 ノッシ……ノッシ……ノッシ……

 二人の動きに動体視力がついていけないゾンビどもが岩の向こうを通過するのを待って、やっと二の句を継いだっす。

「拙者は」「自分は」

 応えも重なりかけると――そちらから――とうなづくサンパチ殿。やっぱり、内親王殿下のガードだけあってゆかしいっす。その感動にワタワタしてると、はにかんだような顔で口を切るサンパチ殿っす。

「拙者は、この序盤戦の様子を探っておるのでござる。ツナカン殿は?」

「自分もっす」

「アルルカン殿は、参戦されるのでござるか?」

「とんでもないっす、アジトも引き上げて姿をくらますっす。でも、この戦争の性格を知っておきたいって船長が言うもんで、自分が偵察に出てきたっす」

「アルルカン殿は火星を出られるのでござるか?」

「そうっす。取りあえずは周回軌道のヒンメルに退避っす、それからどこに行くかは、自分にも分からないっす」

「さようか……ツナカン殿の報告次第というところでござるな」

「サンパチ殿は?」

「殿下の安全を図るためでござる」

「安全……」

「事と次第によっては扶桑を……あるいは火星を出ていただかなくてはならぬでござる」

「殿下の御命令っすか?」

「独断でござる。ろくに並列化もできぬ作業機械でござる、拙者は自分の目で見た情報を報告するまででござる。お決めになるのは殿下ご自身でござる。それゆえ、確度の高い情報を得るため、時には敵中に身を置いて強行偵察もいたすのでござる」

「さ、サムライっすねえ!」

「そうでござるか?」

「ござるっす。あっしの場合は船長が決めていて、シャケカンやアルミカンとジャンケンして、負けて来たっす」

 どっちかって言うと気の進む仕事じゃないっす(-_-;)。

「よいではござらぬか、アルルカン殿は、一見抜けたように自己演出され、とても軽やかに明るく人を動かされるのでござるよ」

「そ、そうっすかね(^_^;)」

「ああ、殿下共々ヒンメルに拉致されもうした時に観察して、そう感じたでござる。良き総帥でござる」

「え、そうなんすか?」

「ああ、あのパンツが破れたところやブーツでずっこけたところ(122『ずっこけアルルカン』)など、心憎いまでの演出でござった」

「ああ……」

 あれは、船長もクルーもガサツなだけなんすけど(;'∀')。

 

 ノッシ……ノッシ……ノッシ……

 

「あんなゆっくり動いていては、ビシバシやられるだけじゃないっすかね?」

 ビシビシビシビシ!

「うわ!」

 岩のすぐ後ろを進んでいたゾンビがパルス機関銃の斉射をうけてミンチになったっす!

 ビチャビチャビチャガチャビチャガチャ

「うッ」

 粉砕されたロボットのパーツや生体組織が混ぜこぜになって飛んでくるっす!

「さすがに惨いものでござる」

 言いながら、平然とパーツやら肉片を見つめるサンパチ殿。外見が小柄な美少女なんで、なんか壮絶っす。

「こういう時は、少し気持ち悪くなるくらいがバランスがとれて良いでござるよ」

 エヅキそうになっているあっしを労わってくれるサンパチ殿は、やっぱサムライっす。

 壊死して時間が経っているので、見た目以上にグロテスクで、思わず解析してしまうっす。

 ジジジジジジジジ…………

 サンパチ殿も同じく解析、二人とも念入りの重層解析をやるもんで、解析波が共鳴して虫が鳴くような音がするっす。

 

「「まずい!」」

 

 同時に叫んで飛びのいたっす!

 ロボットの肉片や腐敗した体液にはパルス菌が繁殖しかけていたっす!

 パルス菌は開拓時代に地球から持ち込まれた感染菌が火星で変異したものっす、150年後の今でも完全な対策がないっす、人間が罹れば致死率は70%っす。ロボットでも粘膜や生体組織の傷口から入って来られたら生体組織がやられて無残な姿になってしまうっす!

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

 

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銀河太平記・185『ゾンビと旧友』

2023-10-14 09:20:36 | 小説4

・185

『ゾンビと旧友』ツナカン 

 

 

 ゾンビだぁ(゚д゚)!

 

 そう思ったっす、慌てて口を押えたっす!

 チーチェが群がっていた戦死者どもは、ムクムク起きだしてぎこちなく動き始めたっす!

 

 ノッシ……ノッシ……ノッシ……

 

 まるで、オデンカンが嵌ってる古典ゲームのゾンビみたいっす!

 ――任 ヒンメル副長――

 船長にもらった副長の辞令が頭に浮かんだっす。

 もし、この辞令が浮かんでこなかったら、そのまま逃げだしたかもっす。

 副長なんだから、しっかり見極めて報告しなくっちゃっす!

 ゲロ吐きそうなのを、必死でこらえて観察するっす…………少し分かったっす。

 ロボットも義体も、電脳で動いてるっす、人間の脳みそと変わりないっす。

 でも、末梢神経的なのが、体のあちこちにあって、突然の刺激や情報に反応するように出来てるっす。

 人間が熱いもの触ったら「アチ!」って感じで手を引っ込める、アレっす。

 突然の危機に出くわして、いちいち脳みそを経由して行動していたら生きていけないからっす。

 恐竜が分かりやすいっす。恐竜は図体でかいっすから、足でなにか踏んづけて「痛い!」と思って脚を上げるのに脳みそを使っていたら間に合わないっす。だから、あちこちにある制御用のプチ脳みそが信号送って回避するっす。

 目の前のゾンビどもは、扶桑のパルスター攻撃で電脳は焼かれてるっす。

 でも、目の前をノッシノッシ動いてるのは、体のあちこちにある制御系が生きてるからっす。

 

 チーチェどもが埋め込んだのは、そういう制御系に指令を与えるチップ、あるいはソフト。

 

 電脳によって全体としての制御はされていないので、走ったり跳んだりの素早い動きができない様子っす。

 大勢の人間が体の部分部分を動かすコントローラー持って、一体のロボットを動かすようなものっす。

 だから、ゆっくりでしか動かせねえっす、バラバラな動きになるっす、だからゾンビみたいなんす。

 

 そうと分かっても気持ち悪いっす。

 

 副長って自覚が無かったら逃げ出していたかもっす。

 

 バシ! ビシバシ! ブシュ!

 

 突然の斬撃音に驚いて目を向けたっす!

 小柄な迷彩服が刀でゾンビどもをビシバシ切りまくってるっす!

 セイ!

 迷彩服は、数匹のゾンビに囲まれそうになると、小気味いい掛け声をかけてジャンプ、空中で一回転して、十メートルほども飛んだっす!

 あ!?

 その美しい跳躍、反らした胸の膨らみ、きれいな喉から顎にかけてのライン……サンパチ殿!

 思わず漏れ出た感激にサンパチ殿も気づいた様子で、着地の寸前に向こうの岩山を指したっす。

 ザザザザザザザザザ!

 ゾンビどもの群れの中を掻いくぐって岩山を目指すっす。

 

 ズチャ! ズサ!

 

 岩山に着地したのは同時っす。

 美少女という点では引けを取らないツナカンっすけど、サンパチ殿の美少女ぶりは、ほとんど反則っす!

 140センチそこそこの身長、小さく引き締まったお尻、掴んだら潰れてしまいそうな肩、細い首に載った瓜実顔は、頬っぺたがぷっくりして、五年もしたらすこぶる付の美人まちがいなし!

 着地と同時に振り返った上半身、意外に大きい胸がブルンと揺れて、ツインテールの先っぽが頬っぺたを撫でて、長いまつげがパチパチしたかと思うと、朱い唇が小さく開いて懐かしい声を発したっす!

 

「久方ぶりでござる! ツナカン殿!」

 

 美少女に武骨な侍言葉のアンビバレンツ!

「サンパチ殿おおおおお!」

 背中にビビっと電気が走って、思わずハグしてしまったっす(#^▽^#)!

 

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

 

 

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銀河太平記・184『ツナカン偵察に出る』

2023-10-04 15:51:55 | 小説4

・184

『ツナカン偵察に出る』ツナカン 

 

 

 シャケカン ツナカン オデンカン アルミカン

 なんかふざけたタックネームっすけど、宇宙海賊アルルカンの四天王っす。

 

 宇宙海賊船ヒンメルの乗員は全員がロボットっす。

 中には義体化した人間も混じってるかもっすけど、区別はないし詮索もしないっす。

 ロボット、義体人のいずれにしても、真っ新でヒンメルに乗り組んだ者はいないっす。

 あちこちの戦争や紛争で、致命的なダメージを受けて再生不能と判断されたロボットや義体人をサルベージして生き返らせてもらった者ばっかっす。

 船長のアルルカン自身、サルベージされて徹底的に改造されたロボットか義体人。

 でも、元がどんなであったか、なんだったかは、誰も知らないっす。

 

 あっしは、たぶんチンピラロボットだったっす。

 がさつだし、考えるの苦手だし、おっちょこちょいだし。

 でも、そんなあっしをアルルカンはヒンメルの副長にしてくれてるっす。

 あ、あっしなんて一人称使ってるっすけど、美少女型っす。自分では「あたし」と言ってるつもりなんすけど、船の誰に聞いても「『あっし』って言ってる」んだそうで、もう、開き直ってるっす。

 心子内親王殿下を拉致……いや、保護した時にサンパチってロボットがお供に付いていたんすけど、これがガチガチの侍言葉だったんで、いやあ、親近感感じて、嬉しかったっす(^▽^)。

「ええ、なんで、あっしが副長なんすかぁ!?」

 辞令もらった時はぶったまげたっす(;'∀')。

 あ、アルルカンは、ひとに役職に就かせるときは必ず紙の辞令をくれるっす。

 予定では、とっくに引き揚げて、地球からも火星からも気づかれないところにトンズラするはずだったっすけど、船長がマーク船長と戦場の視察に行って方針が変わったっす。

 カサギのアジトは予定通り閉鎖したけど、ヒンメルは火星の周回軌道にいるっす。

 

「ジャンケンして負けたやつが地上偵察な」

 

 副長の自分と砲雷長のシャケカン、それに船務長のアルミカンでジャンケンさせて、自分が残ったっす。

 通称ランドセルって個人用パルス機を背負って戦場の縁をなぞるように飛んでるっす。

 船長は「24時間以内に動きがある、おそらくは衛星軌道なんかにいては分からない動きだ、よく注意して見ていてくれ」と言ったっす。

 あ?

 扶桑からも、マス漢からも斥候が出ていたっすけど、深入りはしないっす。

 たぶん、兵たちの死に方っす。

 5人くらいが行儀よく並んで機能を停止していて、まるで大勢で昼寝をしてるみたいだからっす。

 パルスター弾のせいだと船長は言っていたっす。たしかに不気味。

 扶桑軍の方は、そういうマス漢の消極的な動きを警戒してるのと、戦場に満ちている腐敗臭のせいっす。

 

 チー チチチ チチチ

 

 何かが鳴いていると思ったらチーチェっす。

 百何十年か前の入植時代の頃、地球から持ち込んだ小動物型ロボットが野生化して砂漠に住み着いてしまったやつっす。

 自律していて、戦場跡や放棄された入植地からパーツや電子部品をかっぱらっては壊れた部分や仲間の修理をやるっす。最近では、かなり高度なパーツも作るようになって増殖する様子もあるとか。

 チーチェが出てくるのは不思議じゃないっす。こんなにたくさんの遺棄死体があるんだから、パーツや素材を狙いに来ても不思議ではないっす。

 ん?

 チーチェどもは、遺棄死体の関節部に集中してる様子。

 電子部品が集中している頭部や、燃料系が集まっている腹部には寄り付かない……それどころか、死体から部品や素材を取ってる様子が無いっす。

 自分も、あらかじめ船長から「衛星軌道なんかにいては分からない動きだ」と言われてたんで気が付いたっす。

 

 こいつら、逆に死体に何か埋め込んでやがるっす!

 

 念のため、チーチェを二匹掴まえてシュラフに詰めたっす。

 チーチー

 元々が愛玩ロボットなんで、見た目が可愛く、なんか小動物をイジメてるみたい(;'∀')。

 でも、心を鬼にして、掴まえるとすぐに動力系を切ってやるっす。

 ただの偵察ならここで帰るっすけど、これからが変化の本番という気がして岩陰の窪みに身を隠すっす。

 一時間ほど過ぎたころに異変が起こったっす!

 

 ザザ ザザザザ

 

 え? ええ(;゚Д゚)!?

 

 戦死者たちがゾンビみたいに動き始めたっす!!

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

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銀河太平記・183『アジト閉鎖・2』

2023-09-29 15:47:54 | 小説4

・183

『アジト閉鎖・2』アルルカン 

 

 

 二百年前の地球にクラスター爆弾というものがあった。

 

 砲弾、爆弾、あるいはミサイルで敵の直上に運搬され、設定された高度で炸裂し、数百の子爆弾をばら撒き、それぞれの子爆弾が地上で炸裂する。

 装甲車両には効果は薄いが、対人攻撃には通常爆弾の数十倍から数百倍の威力があって、その残虐さから、その使用は禁止、あるいは制限されていた。

 

「原理的には同じなんだがなあ……」

 

 操縦桿を倒しながらマークが呟く。

 シャトルは機体を左に傾けて旋回し、もう一度新戦場の上を飛ぶ。

 眼下にはマス漢の第一空挺旅団のロボット兵が5人、10人とまとまって寝転がり、そのまとまりが200組近く並んでいる。

 みんな、あおむけの状態で行儀よく並んでいる。水着でも着ていれば砂浜で行儀よく日光浴をしているように見えるのだが、全員完全装備。そして、人間の状態で言えば死んでいる。

「恐るべし、パルスター弾だな、マーク」

「パルス波でCPとメモリーだけを破壊している。マス漢のロボット兵はバックアップなんかとってないから一巻の終わりだ」

「扶桑としては人道的な配慮なんだろが、こうやって放置しているとかえって残酷だ」

「宇宙海賊が言うかぁ」

 扶桑のパルスター弾は、CPとメモリーを焼き切るのだが、遅延プルグラムされていて敵の個体が活動を停止する前に一定の行動を強いるようになっている。

 武器を捨てて、直近の仲間と並んで寝転がる。寝転がったあとに打ち込まれたパルス波は最大になってCPとメモリーを焼き切ってしまう。そのタイムラグは30秒ほどで、結果的に5人から10人のグループになって横たわる。

「扶桑の人道的措置なんだろうが、俺には意趣返しに見える」

「なんの意趣返しだ?」

「先のマース戦争で、マス漢は捕虜の虐待をやりやがった」

「ああ、赤間関の露頭遺跡か」

「ああ、男は首を切られ、女は凌辱されていた。それが、まんまミイラになって発見されたのが五年前」

「森ノ宮親王殿下だったわね、発見者は」

「公式には旅の商人になっているがな」

「それで、戦争をするにも人道的にということなんだろう」

「いったい誰の考案だ?」

「去年就任した大老の発案らしいわよ」

「穴山新右衛門だったか……」

「ああ、バカな爺さんだ」

「そうかぁ、大老と言えば将軍の直轄人事だろ、道隆将軍はなかなかの人物だと俺は見てるぞ。それに……」

「それに、なんだ?」

「いや、なんでもない」

 大老となれば、奥の院のあいつが絡んでいるはずだが、これはマークと云えど軽々には教えてやれない。

 それよりも、もう少し、この火星の争乱を見極めておかなければ撤退もできない。

 こう見えて、アルルカンは優しい宇宙海賊なんだ。

「下りてみよう」

「おいおい、ここは戦場だぞぉ」

「このシャトルはステルスだ」

「光学迷彩はできないんだろ、スイッチに『使用不可』のテープが貼ってあるぞ」

「簡易迷彩ならできる。それに、このアルルカンは、まだ人の弾を受けたことが無いからな」

「ヘイヘイ、大した自信だ」

 歩兵戦闘車が二両擱座している間に着陸すると、簡易迷彩のスイッチを入れてシャトルを出る。

「赤外線で感知されるかもな」

「大丈夫、前後の二両もまだ熱を持ってる。あんまり心配してると禿が広がるぞ」

「俺は禿げてねえ」

「そうかぁ」

「イテ、なにしやがる!」

 後ろから髪の毛を掴んでやると、ちゃんと頭の皮が付いてくる。

「ほんとうだぁ」

「分かったか!」

「ああ、これだけ心配していたら、とうに禿げてるかと思ったがな」

「あんまりオチョクッテると、後ろからケツ揉むぞぉ」

「いやぁ~ん、マークの変態ぃ~」

「気持ち悪い声出すなぁ!」

「………………」

「ん、どうかしたか?」

「こっち!」

 微かに腐敗臭がする。

 ロボットでも外殻は生体組織で出来ていて、本体が機能停止すれば腐敗が始まるが、ヒトのそれよりは数時間から数十時間遅れてやってくる。

 この臭いは、ひょっとして人間が混じっていたか、あるいは……

 

「これは……」

 

 上空から見ていては気が付かなかったが、古い遺棄死体が連なっている。

 状態から見て、十日以上たっているものもあり、ちょっと正視に堪えない。

 戦闘が膠着状態に陥った場合、相互に連絡を取って戦場整頓を行う。

 遺棄死体をそのままにしておいては、士気にかかわるだけではなく、衛生上好ましくない。

 敵の位置が風下である場合は、嫌がらせのためにあえて放置することもあるが、ロボットとはいえ味方の骸をそのままにしていては味方の士気がもたなくなる。

「いったん戻るぞ」

「あ、おい、アルルカン」

 

 アジトは撤退する。

 しかし、もう少し戦争の成り行きは見守ることにする。衛星軌道上の我が母船、ヒンメルからな。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

 

 

 

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