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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・227『緊急ちゃぶ台会議』

2024-06-16 18:11:37 | 小説4
・227

『緊急ちゃぶ台会議』メグミ 




 サイズにも寄るだろうけど、ちゃぶ台の定員は四人だと思う。

 むろん円形だから三人でも二人でもおかしくは無い。ちょっと詰め合えば五人くらいで卓を囲むこともできる。円形だから上座も下座もないしね。

 その気になれば、いくらでも大きなちゃぶ台は作れる。じっさい国際会議などでは、直径5メートルのちゃぶ台(円卓)が使われることもある。直径5メートルもあれば二十人ぐらいは楽に座ることができる。

 三十年も前に漢明で国際会議が開かれた時には直径8メートルの円卓が使われた。卓の高さも40センチに抑えられ、当時の大統領は「中華式のちゃぶ台です」と互恵・平等の発露だと自慢していたが、8メートルもあってはちゃぶ台とは言えない。

 お岩さんは言う。

「茶碗を差し出せば直接受け取ってお替わりを渡せる大きさ」

 シゲ爺は言う。

「ちゃぶ台返しもできねえのはちゃぶ台じゃねえ」

 
 そのちゃぶ台を二つ並べ、島のくせ者たちが寛いでいる。
  

 ついさっきまでは、ちゃぶ台をもう三つ並べ、この三倍の人数で非公式の緊急会議を開いていたんだ。

殿下:「いや、大事にならなくてよかった……最初にあの映像を見た時には、どうしようかと思ったけど」

サブ:「抜かりはないつもりだったけど、こんなに早くコピーされて、正直ビビっちまったけどな」

ハナ:「ウンコもらしそうな顔してたもんな」

サブ:「うっせえ!」

マヌエリト:「朱元尚大佐、生きて返したの後悔した」

お岩さん:「もう、ナイフは仕舞っとくれよ、村長(^_^;)」

及川市長:「しかし、あの写真から劣化版とはいえ概念的に同一のものを作ってしまうとはビックリでした」

 実は、漢明がうちのそれにソックリな選鉱機を作ったと漢明技術研究所が動画を発表したんだ。

 こないだやってきた朱元尚大佐が秘密に写真を撮っていて、そこから概念設計をやり、ソックリなものを作った。

 スペック的にも、うちの90%の能力を持っていて、漢明が採掘するパルス鉱は20%増しの力を発揮すると言われた。特に、パルスギについては、その選鉱途中の状態から精錬法まで類推できると思われた。

シゲ爺:「なあに、なぞっただけでは何もできん」

 現役の技師だったころに選鉱機の概念設計をやったシゲ爺が、映像のあちこちを指摘し、その性能が島のそれに匹敵しないことを指摘。

シゲ爺:「それに、ここじゃ、選鉱速度が早いように見えとるが、早回しにしとおる。脇に写っとるパルスガの振動が理論値の二割増し、あり得ん。それと……」

 ヨレた神主姿からは思いもつかない明晰さで、他にも三点の矛盾を説明してくれて、ほとんどフェイクと言っていいしろものだということを説明してくれた。

ハナ:「なんか、見かけはメグの方がえらいように見えてるけどなあ。ポンコツでも、うちの神主は大したものだったんだなあ」

シゲ爺:「誰がポンコツじゃ」

メグ:「いや、ほんとにシゲ爺はすごいよ」

 じっさい、そう思う。わたしは十年以上前に失った自分本来の姿を未だに取りもどせてはいないんだからな。

お岩さん:「さあ、一安心できたんなら一杯やろうか、夜は長いんだからね。ハナ、取りあえず熱燗十本」

ハナ:「ヘイヘイ~……え?」

お岩さん:「どうしたぁ?」

 ハナが開けたままの障子の向こうに人影。

ハナ:「どうした、フーちゃん?」

 明かりを落としたフロアーに立っているのはフーちゃんだ。フーちゃんらしからぬ沈黙に、座敷のみんなが身を乗り出す。

フーちゃん:「転属を命ぜられました……」

 ええ!?

     
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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銀河太平記・226『朱元尚大佐・4』

2024-06-11 09:39:28 | 小説4
・226

『朱元尚大佐・4』メグミ 




 フーちゃん(胡盛媛中尉)の父、胡盛徳大佐に止めを刺したのはわたしだ(147『待ち伏せ』)。

 待ち伏せのプランを考え、崖を爆破したのはハナ、部隊の指揮を執ったのはお岩さんだ。島の交戦記録にも、そう記載されている。
 フーちゃんには、彼女が連絡所の隊員としてやってきたときに、お岩さんを含め三人で打ち明けた。

「あ、いえ、あれは戦闘行為ですから(^_^;)」

 両手をワイーパーみたいに振って屈託のないことを示してくれた。

 それどころか、有志で作った慰霊碑があると聞くと、数秒絶句し、ポロポロと涙を流しながら「ありがとうございます」と頭を下げた。

 それからは、お岩食堂の常連になって、もうほとんど島の住人のようになっている。

 氷室神社の近くに設置された連絡所は漢明軍の末端施設だが、駐在員も温厚な者ばかりで、軍服を着ているけど武装はしていない。

 劉宏大統領の陰謀……と言ってしまえば身もふたもないことなんだけど、深慮遠謀。漢明と日本が将来どのような関係になっても、最もストレスと犠牲が少なくて済むように布石を打っている。

 平和には友好的な態度が基本――庇を貸りて母屋を取る――ためにね。

 戦うにしても相手と友好的なチャンネルを残しておくのがセオリー。

 始めた戦争はいつか止めなければならない、有利な条件で矛を収める土台は人間関係だからね。

 そのどちらにしても西之島は受け止められる。直に接する相手が人の心をしていれば、人の心で受け止める。たとえ、それが朱元尚大佐のように外交的ポーズであってもね。

 フーちゃんは軍人にしておくにはもったいないほどに優しい子だ。いつか除隊することがあるなら、そのまま本当に島の住人になってくれたらと思う。ココちゃん(須磨宮心子内親王)が抜けてガラッパチになった島の空気を柔らかくしてくれると思う。できたら、うちのラボの助手に……


 と思ったら、朱元尚のクソッタレが先を越そうとしている。


 選鉱機のアクシデントのあと、朱元尚は花束を抱えて、胡盛徳大佐の慰霊碑に向かっている。こちらは、わたし(メグミ)と巫女服のハナ、それに食堂のお岩さん。

「ほう、崖の上なんですか」

 慰霊碑のある崖を見上げる朱元尚。

「はい、戦死したのは崖の下なんですけど、落石が絶えないし、日陰なので、見晴らしのいい崖の上に設置していただいています。あちらの階段から上がれます」

「そうか、島の方々の心づくしなんだね」

「上は五人も並べないし、まずはお二人で」

 お岩さんが提案し、漢明の二人は花束を持って階段を上がる。

 朱元尚大佐が花束を、フーちゃんが水桶と中華式の長い線香を持っている。

 潮騒とウミネコの鳴き声、わたしたち三人は崖の下で手を合わせる。

 中華式なら、線香をあげながら祭文を唱えるはずなんだけど、波の音とウミネコにかき消されて聞こえない。
 しかし、空気の流れで線香の煙はその匂いと共に降りてくる。
 和式の線香とちがって、どこか横浜あたりの中華街を偲ばせる陽気な匂いだ。

 そうだ、これからは中華式に換えようかと思った。

 やがて、お参りが終わって、降りてきた二人と交代で崖を上る。

「日本式のもあげとくかぁ?」

 ハナが、持ってきた線香を持て余して提案する。巫女服で線香をあげるのは微妙にミスマッチなんだけど、西之島は明治以前の日本のように神仏習合だ。

 三人手を合わせていると、崖の下から声が上がってくる。

 気流の関係で、煙は下におりてくるが声は逆に上って来る。たぶん、岩に反射するからだろう、トンネルの中の音が外に漏れるのと同じ理屈だ。

『……かつての部下として、宿願のお参りも済ますことができた。今度は、わたしが大佐の恩に報いる時だ。どうだね、こんな敵の小島で燻っていないで、本土の部隊に復帰してみては』

『は、はい……それは……』

『実は、今度、現役に復帰して中央軍の配置になりそうなんだ』

『それは、おめでとうございます(^_^;)』

『早手回しにカミさんは新調の軍服をよこしてきた』

『あ、それが、いまお召しの……』

『こんなものは、どうでもいい、ただのラッピングに過ぎない。それよりも、必要なのは人材だ。復帰すれば、たぶん少将、悪くても准将。有能な副官が必要だ。お父上の恩に報いることにもなる、どうかね、わたしといっしょに本土に戻ってみては』

『は、はあ……』

『君にも立場とメンツがあるだろう、今すぐにという話ではない。考えておいてくれ』

『は、はい……』

『ま、特別のことだからね、連絡所の同僚にも島の人間にも内密にね』

『はい……(-_-;)』


「「「あいつぅ……」」」


 三人の声が揃った。


 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・225『朱元尚大佐・3』

2024-06-05 15:08:16 | 小説4
・225

『朱元尚大佐・3』朱元尚 




 フォルムだけだが選鉱機の概要が分かった。

 フォルムが分かれば、内部の動力や制御機器の大きさや配置の見当がつく。まったくのゼロよりはスペックの推測がしやすく、コピーを作る手間と時間の二割ぐらいは省けるだろう。

 母国に送るパルス鉱石などはどうでもいい、都合よく台風が接近してきたので、それをネタに西之島の先端技術を盗むのが目的なんだからな。

 選鉱機そのものもパルス関連の周辺技術に過ぎないが、こういうことの積み重ねが出世の糸口になる。いつまでも、ホトケノザにいるつもりはない。予備役の身分とはいえ資源開発公司の管理職の端くれになったんだ、目指すは公司の社長かCEO……いや、それも手段だ。俺の欲は日本海溝よりも深く、志は泰山よりも大きく須弥山よりも高いのだからな。

「大佐、お怪我はありませんでしたか?」

 胡中尉といっしょに地上に引き上げられた時、氷室社長は坑口まで来ていて、心から心配そうに訊ねてくれる。
 社交辞令に過ぎないのだろうが、こういう機敏さは敵ながら見事だ。

「いや、お騒がせしました。中尉が注意してくれた時に踏みとどまればよかったのですが、新しいものにはつい前のめりになってしまって、もうしわけありません」

「医務室で少し休まれませんか、あちこち打っておられるようですし、一応の検査もなさった方が……」

「大丈夫、ハンベの簡易検査で異常ありません」

 ハンベの仮想インタフェイスを拡大して見せると、眉を寄せながらも笑顔を見せる氷室社長。

「なるほど(^_^;)」

「それに、胡盛徳大佐の慰霊碑にはお参りしたいですから」

「そうですか、では、こちらからも人を付けましょう。ええと……」

「わたしが行きます、社長」

「ああ、メグミさん」

 坑口に集まっている関係者の中から、ドクターともメカニックともつかない女性が手を上げる。

「彼女はラボのチーフですが、戦時中は緊急にドクターもやっていましたので適任です。じゃあ、よろしくお願いします、戻られましたら歓迎会というほどではありませんが、昼食会をやりますので、食堂の方へお越しください」

「そうでしたね、一時間で戻れるだろうか中尉?」

「間に合うとは思いますが、90分ということで、お岩さん、いいかしら?」

「ああ、9秒後でも90分後でも間に合わせてあげるよ。でもまあ、ご馳走を前に待たしとくと暴動が起きかねないから、連絡してもらうと嬉しいかな」

「はい、承知しました。では、参りましょうか、大佐」

「ああ、頼む」

 選鉱機の概要も確認し、島の様子もある程度は掴めた、あとはオマケだ。

 

☆彡この章の主な登場人物
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  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
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  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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銀河太平記・224『朱元尚大佐・2』

2024-05-30 14:51:40 | 小説4
・224

『朱元尚大佐・2』朱元尚 




 西之島の選鉱機は部外秘の技術だ。


 なかば断られると思って見学を申し入れたら快く許諾の返事をもらって、正直――言ってみるもんだ――とほくそ笑んだ。

「選鉱機は、坑内の深いところにある選鉱基部と中間の移送パイプ、そして、ここにある取り出し槽に分かれます。取り出し槽には輸送コンテナが直結できるようになっていて、ここでコンテナをいっぱいにして船に積み込みます」

 サブという技師……いや作業員か、がていねいに説明してくれる。

 いったん受け入れると決めてしまうと、下心アリアリのわたしへの説明にも手を抜かない、いや、手を抜けないのだろうな。愛すべき国民性ではある。

「お預かりしたパルス鉱は、こちらの逆走パイプから選鉱基部に落とし込んで選鉱することになります」

「ご丁寧な説明痛み入る。この下の選鉱機はどんな具合になっているんだろう」

「あ、それは部外秘ですので、お見せできません。申し訳ありません」

 さすがに断るな。

「覗いてみる分には構わないだろうか?」

「はい、覗いて見るくらいなら。足もとが悪いのでお気をつけください」

「うむ」

「大佐、軍服が汚れます」

 胡盛媛中尉が手すりとわたしの間にタブレットを持ったままの手を差し入れる。

「いや、すまん」

「上海縫製公司のオーダーメイドですね、とびきりの高級品です」

「ハハ、父上のように実力が伴わないんで『見た目だけでもキチンとしなさい』って、カミさんがやかましくてね」

 見え透いた諧謔だが、中尉も島の者も頬を緩める。

 よし、これなら……こっそりと手すりの掛け金を外す。

 ウワアアーーーーー!

 キャーーー!

 大佐あ!

 中尉を巻き込んだまま、竪坑を落下する。

 寸前に作業員の手が伸びてくるが、虚しく空を掴んでいる。

 落下しながらも、下の選鉱機本体にしっかり視点を合わせる。わたしの義眼は昔風に言えば8Kの解像力がある。暗視補正も付いているので、真の暗闇でなければ鮮明な画像が撮れる。

 パシャパシャパシャパシャパシャパシャ

 古典的なシャッター音などするはずも無いのだが、そんなエフェクトを入れてみたくなるほどにきちんと撮れている。

 ズチャ!

 中尉自らがクッションになり衝撃を和らげてくれる!

 おかげで、点検口から写そうと思った画像は二枚しか撮れなかった。

「いや、すまん中尉、大丈夫かね?」

「はい、大丈夫です、お怪我はありませんか大佐?」

「アハハ、家内にはちょっと叱られそうだがね」

――大佐! いまラッタルを下ろします! ご無事なら上って来てくださいーい! 無理なら別の坑口から救援に向かいまーす!――

 島の人間も中尉も優秀だ……そうそう付け入るスキは無さそうだが、それはそれでやり方はあると思った。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
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  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 

 
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銀河太平記・223『朱元尚大佐・1』

2024-05-25 11:38:27 | 小説4
・223

『朱元尚大佐・1』朱元尚 




 パルス鉱という燃料鉱石はプレートが隣り合う別のプレートの下に沈み込んだところで生成される。

 この太平洋地域においては西之島が最大最高の産出地だ。

 我が政府は十余年前、洛陽号事件をきっかけに西之島への干渉を試みて失敗した。
 
 我が国は日本海溝を挟んで隣り合うホトケノザに海上基地を作って、パルス鉱と西之島への興味を失っていないことを消極的に示した。

 PIした劉宏大統領は、協調路線、遠い将来に親善を深めたうえで再度の攻略を考えているのだろう。ホットウォーに寄らない方法、あるいは日本人にそうとは気づかせない方法で。しかし、そんな悠長なことはやっていられない。

 
「無理なお願いをしましたが、快く受け入れていただき感謝に耐えません」

「困った時はお互いさまです朱大佐、いや退役されて所長でしたね。パルスコンベアを使いますので、少々時間はかかりますが、鉱石への衝撃はほぼゼロです」

「ありがとうございます、これで、品質を落とさずに移送ができます」

「では、さっそく取り掛かりましょう。サブ、準備はいいかい?」

「OK、社長!」

 ほう、日ごろは殿下と呼ばれているはずだが、外部の人間には呼び方を変えているようだ。

「前よし、後ろよし、移送開始!」

 ウィーーン

 若い技師が合図すると、コンベアが動き出し、坑内の選鉱機まで運ばれる。コンベアは鉱石に刺激を与えないように作られていて、回転ずしのように慎重に流されていく。

「選鉱機もすごいと聞いていましたが、コンベアもすごいですねえ」

「ボランティアのアイデアです」

「ほう、ボランティア」

「ボランティア兵の多くが事変後も残ってくれまして。まあ、本国に帰っても景気がもう一つという人も多くて。うちは平時でも人手不足ですから働いてもらってます。あ、このコンベアは南アフリカの人のアイデアです。国では、ダイアモンド原石の切り出しの仕事をやってらしたようです」

「ほほう、多士済々というわけですなあ」

 視線を移すと、あちこちに、元ボランティア兵らしいのが働いている。

 潜在的な兵力、戦闘力は落ちていないようだ。

「遅くなりました!」

 ドキッとした。

 ふいに後ろから声を掛けられたせいだが、声の響きがかつての上官に似ている。

「きみは……」

「はい、西之島連絡所、広報担当の胡盛媛中尉であります」

「あ、そうか、ご苦労です。よろしくお願いする」

「ハ!」

 案内役兼世話係りは連絡所の要員があたると聞いていた。

 本来は小規模とはいえ駐留軍なのだが、非武装の連絡所にしている。これも大統領の意向なのだが、興味深い、こちらもよく観察させてもらうとしよう。

「では、フーちゃ……胡中尉、あとはよろしくお願いします。朱大佐、後ほどまたお目にかかります」

「こちらこそ、急な申し入れにもかかわらず、便宜を図っていただきありがとうございました」

「あ、昼食は、そこのお岩食堂で。乗組員さんの分も用意してありますので、ご遠慮なく」

「あ、それはそれは、船の烹炊に連絡を……」

「船の方には連絡しておきました」

「「さすがぁ」」

 期せずして氷室社長と声が揃う。

 この和やかさと効率の良さ、あまり友好の演技をせずに済みそうだ。

 氷室社長を見送って一つの提案をする。

「島には、胡盛徳大佐の碑があると聞きいている。あとで訪れてみたいと思うんだが」

「……承知しました」

 さすがに屈託がある。

「あ、いえ、時間を計算していたものですから。ありがとうございます。父も喜ぶと思います。花の手配をしておきます、少々お待ちを……」

 キチっと敬礼をしたかと思うと、神社の方に駆けだし小柄な巫女と一言二言。

 アハハハ(^▽^)

 巫女が、ここに居ても聞こえる元気な笑い声を立てると、ペコリと頭を下げて戻って来る。

「では、ご案内いたします」

「ああ、頼む」

 いろいろやり甲斐のある島だと認識を改めた。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・222『フーちゃんの憂鬱』

2024-05-20 16:27:34 | 小説4
・222

『フーちゃんの憂鬱』お岩 



 神社の拝殿落成の大宴会から三日目の朝、漢明連絡所のフーちゃん(胡盛媛中尉)が鉱山事務所から出てくるのをハナが見つけた。

「おーい、しけた面しやがって、こっち寄ってけよ!」

 言うが早いか、うち(食堂)のお仕着せのまま物干しから駆け下りてきた。

「おい、ハナ! 洗濯物は干し終わったのかぁ!?」

「はんぶん、残りはあとで!」

 宴会では、うちのテーブルクロスや座布団やらを貸して、酔っ払い共が汚しちまったんで三日かけて洗濯の真っ最中なのさ。

 仕事を途中で投げ出すのは許せない性分、ともだちのフーちゃんをダシにサボる気なのかと厨房の窓を音を立てて開けた。

 ガラリ!

「こらあ!……あ……え?」

 次の文句は声になる前に消えてしまった。

 フーちゃんのうち萎れた姿に、あたしも言葉が出なかった。


「困った時はおたがいさま……って話じゃないのかい?」

 洗濯物のシーツを伸ばしながら聞く。

 フーちゃんの顔を見て「お茶淹れるから、こっちで」とお岩食堂自慢の座敷(197『お岩食堂のレトロテレビ』参照)を指さしたんだけど「お仕事を手伝いながらなら」と言うんで、三人屋上で洗濯ものを干しているんだ。

「いいえ、味方を悪く言いたくはないんですけど、朱大佐は企みの多い人なんで心配なんです」

「大佐って、とっくに除隊して、民間の技師なんだろ?」

「ええ、資源開発公司の第二資源課長……という触れ込みなんですけど、第二資源課というのは大佐が入社するまでは無かった課なんです」

「でもよ、ホトケノザのプラットホームじゃ、ほんとに採掘とかやってんだろ?」

 単純な、いや純真なハナはフーちゃんの友だちなので、漢明に対しても警戒心が薄くなってきている。

 フーちゃんの説明によると、ホトケノザ採掘基地の選鉱機の具合が悪いのでカンパニーの選鉱機を使わせてほしいと申し入れがあった。
 正式なものではなくて、島の連絡所、つまりは広報係りのフーちゃんにカンパニーに打診してくれるように頼んできたんだ。

 いちおうの理屈は通っている。

 フィリピンの北に低気圧があって、この三日ぐらいで台風になりそうなんだ。ホトケノザから船を出すと、どうしても、この低気圧の影響を受け、積荷のパルス鉱石は船の中でこすれ合って純度が落ちてしまう。
 パルスラが中心の鉱石の半分は劣化してパルス鉱に変化してしまう。そこで、こないだ更新したばかりのうちの選鉱機で純度を安定させようというのが狙いだ。

 導入したばかりの新型選鉱機なので、カンパニーは断るだろうとフーちゃんは、わりと軽い気持ちで事務所に申し入れに行ったんだ。

『あ、それはお困りでしょう、使っていただいていいんじゃないかなあ』

 ちょうど居合わせた社長、いや殿下が笑顔で承知してしまった。いや、あたしだって「困った時はお互いさま」って言ったしね。

「朱大佐は父の部下だったんですけど、裏表のある人だったんで父も警戒していた人物で……」

「任せとけ、わ、悪いやつなら、このハナがやっつけてやるから!」

「おい、ハナ」

「え、あ……そんなつもりじゃねえんだけどな(-_-;)」

 フーちゃんの父の胡盛徳大佐を仕留めたのはハナだ、さすがに冗談にはならない。

「いえいえ、そんなこと気にしてないですからぁ(^_^;)」

「まあまあ、劉宏大統領の時も、フーちゃんワタワタしてたけど、結局はうまくいったじゃないか、案ずるより生むがやすしってことさ!」

「は、はい」

 なんとか納得させられたかどうか……でも、洗濯物は一気に片付いて、こういう点ではハナもフーちゃんも可哀そうなくらい能力が高いよ。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
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 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
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銀河太平記・221『溶接マスクとシゲジイと』

2024-05-15 11:25:24 | 小説4
・221

『溶接マスクとシゲジイと』サブ 




 シゲ老人は、今でこそ氷室神社の神主、むつかしい言葉では宮司(ぐうじ)って言うらしいけど、元々は叩上げの坑夫。腕は確かだけども口うるさい年寄で、島のみんなからは「シゲジイ」と呼ばれてきた。

 シゲ老人とか微妙に優しい呼び方をされ始めたのは、及川市長が『市政だより』で、シゲ老人と紹介してからだ。

 本土からやってきた新島民には、そういう穏やかな呼び方がいいらしい。弟子のオレとしては、そういう石鹸臭い呼び方は嫌いなんだけど、本人が気にしていないんだから、仕方がない。

 そのシゲ老人が久々に坑夫のナリで選鉱場にやってきた。

「神社は休みなんすか?」

「神社に休みはねえ」

 なんだか、少し怒ったような口ぶりで、以前そうだったように煙缶の傍のベンチに腰掛ける。

「サブ先輩、あの人はぁ?」「なんか、おっかないっすね」

 本土出身の新人たちが怯える。どうも神社の神主とは分からないようだ。

「また『市政だより』に載せるってからよ」

「で、なんで昔の作業服?」

「神社の特集組むんだそうでよ、神主の紹介でよ、昔のナリのを撮りたいっていうからよ」

「あ、そうっすか(^_^;)」

「久々に着たら、なんか石鹸臭くってよ。ここに来りゃ昔のニオイが付くかと思ってよ。写真とか撮るんなら、ロケーションとしては一番だしな」

「ああ、ほんとだ。石鹸の匂いのシゲさんて、新鮮だなあ」

「こ、こら、嗅ぐんじゃねえ(#>△<#)」

「だって、自分で洗濯したんでしょ?」

「だれがするもんか、ハナのやつがよぉ」

「ええ、ハナが!?」

 ハナも鉱山で働いていた。お岩食堂の手伝いをするうちに神社の巫女も兼ねるようになり、今ではそっちの方が本業になってきている。

「ありゃあ、いい嫁になるぞ。どうだ、サブ?」

「え……ああ、オレは子孫残したい派なんでぇ(^_^;)」

 ハルがロボットなのは、先年の戦争で明らかだ。首の半分を吹き飛ばされて生きている人間なんてあり得ない。

「いや、あいつはサイボーグなんだ。まだ半分近く人間の機能を残してる。ラボのメグミが言ってるから確かだ」

「え、そうなんすか?」

「むろん、そっちの機能も残ってる。まあ、本人に自覚はなさそうだけどな」

「そ、そうなんだ(#'∀'#)」

「まあ、おめえか兵二か……」

 久々に現場にやってきた照れ隠しなんだろうけど、話が飛躍しすぎ……と思ったら、ベテランらしく、選鉱場のあれこれをチェックもしている。

「なんか忙しそうだな」

「あ、選鉱機が新しくなって」

「ああ、優秀だって殿下も村長も言ってたな。変更はもう終わったんだろ?」

「うん、でも、あちこち微調整。新人たちもがんばってるしな」

「おい、ちょっと、その溶接面見せてみろ」

「え、これっすか?」

 新人がコンベアの調整に使っている溶接マスクを取り上げて、溶接棒をスパークさせる。

 バチバチバチ!

「バカヤロ! これは透過率が高すぎる、目を傷めっちまうぞ」

「あ、それは」

 新人はシゲジイには慣れていない、反射的に割って入る。

「先月買った新製品で、試験的に買ったんす。溶接対象も良く見えるって触れ込みだったんすけど、シゲジイの言う通りだから、次のが来たら廃棄に……」

「それも、もったいねえなあ……」

「うん、だから……」

「そうだ、ちょっと、貰っていくぞ!」

「あ、シゲジイ!」

 
 シゲジイは溶接マスクを持って帰ると、それで、拝殿の鳥居越しに太陽を見た。

 すると、いい塩梅に鳥居の輪郭を残しながら太陽が拝める。

「南中したお日さま拝むのがいちばんの御利益だって、シゲジイ喜んでたぞ(^▽^)」

 巫女服のハナが言う。

「ラボのメグミも言ってたけどよ、拝殿の鳥居から空とかお日さまとか拝むと、他よりもドーパミンとかセロトニンの量が違うってよ」

「そうなのか?」

「やっぱ、神さまってご利益あんだなあ」

「そうなんだ」

「うちの選鉱機もスグレモンになったって話じゃねえか」

「ああ、メグミさんの発明でよ。パルス鉱って精錬の過程でへたっちまうんだけど、選鉱の時に特殊なパルス波と振動を加えると、純度が上がるんだ」

「ええ、選鉱するだけで純度が上がんのかよ!?」

「ああ、鉱石がウブなうちにやると地中で生成された時の分子配列がどーのこーので……とにかく効果抜群なんだ!」

「あはは、どーのこーのってのはサブらしくていいな(^○^)」

「げ、現場の穴掘りに理屈はいらねえんだ。け、結果が全てなんだ、結果がな」

「そりゃそうだ、オ、ちょうどお日様が南中してきたぞ! いっしょに拝もうぜ!」

「お、おお」

 溶接マスクを持って拝殿の前に並んで立つ。

「もっと、こっち寄れ、真ん中で拝んだ方がご利益あんだぞ!」

「おお……(;'∀')」

 シゲジイと同じ匂いがする。

 シゲジイの時とは違って、頭がクラクラして、ちょっと困った。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
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  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
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 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
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銀河太平記・220『氷室神社拝殿完成式』

2024-05-13 14:54:07 | 小説4
・220

『氷室神社拝殿完成式』メグミ 





 ええ……なんだ……これは……。


 境内のみんなが戸惑いの声をあげた。

 氷室神社の拝殿が完成したので、睦仁殿下(氷室社長)を始め島のお偉方と手すきの島民が集まって落成お披露目の式が行われようとしている。

 島には観葉植物や、やっと根付いた街路樹程度しかないので、日本本土から用材を運んで、おとつい極秘のうちに竣工したばかり。


 神主のシゲ老人がケチなのか要領がいいのか用材の半分は古材。


 古材といっても、ただの古材ではない。

 大阪のある神社が建て替えられることになり、その古材を輸送費だけで譲ってもらったのだ。

「元をただせば橿原神宮の古材、まことにありがたいものであるぞ」

 シゲ老人は胸を張る。

 大阪の神社は、昭和の大修理の時に橿原神宮の古材をもらったのだけど、今回の建て替えではさすがに柱や梁というような構造材としては使えず、かといって廃棄するのも躊躇われる。
 境内の隅に覆いを作って保管するしかなかったが、都心の神社、境内にそれほどの余裕はない。「それでは、氷室神社の修築に是非!」と頼み込むと「三たび神の社に使われるのは願ってもないこっちゃ(^▽^)」と向こうの神主や氏子総代にも喜ばれ、この西之島に渡ってきたものなのだ。

 しかし、じっさい西之島の港について用材をチェックすると、意外に傷みや虫食いがひどく、さてどうなるものかと心配したり、おもしろがったりしていた。

 
 バサリ……バサリ……


 神主服のシゲ老人が幣を振ると、お岩食堂のパートと掛け持ちのハナが、この日の為に新調した(みんなでカンパした)巫女服でシズシズと進んで拝殿脇の紅白の紐を引っ張る。

 フワリ

 いっしゅん戦いで幔幕がひかれると、新造拝殿が露わになった。

 そして、みんなの「ええ」……「なんだ」……「これは」……に繋がる。

 
 なんと、新しい拝殿は唐破風庇の入母屋屋根しかないのだ! 

 屋根の下は、そこだけは島にいくらでもある石や岩で堅牢に作られた土台。まるで、地震で倒壊したばかりの姿だ。

「ここからが氷室神社の神髄じゃ!」

 バサリ! バサリ!

 再び気合いを入れて幣が振られる。

 キエーーー!

 鶏がトキを上げるような声で気合いを入れると……驚いた!

 ズズズズ……

 入母屋の屋根が四本の柱で持ち上がり、大相撲の屋根のようになる。

 ズズズズ……

 それよりも少し控え目な音がしたかと思うと、土台の中央に白木の鳥居がせり上がってきた!

「おおお!」 「これはぁ……!」 「すごい!」 「神々しい!」

 みんなが驚嘆すると、咳払いひとつして、シゲ老人は解説した。

「この氷室神社の御神体は、かねてより知られておるように、睦仁親王殿下の五代前、秋宮空子内親王の命様じゃ。そして、その空子内親王の命は、その御名の通り、このはるけき空、宇宙そのもの! 空は、いずくより拝み奉っても空ではあるが、この拝殿の前に額づき、この橿原神宮の材をもって作られし鳥居を通して拝み奉れば、その功徳はパルスに対するパルスガ、あるいはパルスギの如くじゃ! 皆々、畏れ奉りますようにぃ! アナカシコ……アナカシコ……」

 なるほど、材料の節約でもあるし、波風の強い時には地中に収めて凌ぐという安全対策も兼ねているんだ!

 わたしも島ではシゲ老人にヒケをとらない技術者だけど、こういう発想はない。

 バサリ! バサリ!

 ハハハァ!

 居並ぶ島民、市役所職員、カンパニー、ナバホ村、フートン、在留外人部隊、フーちゃんはじめ漢明救難隊(守備隊が改組された部隊)の人たちがいっせいに最敬礼するありさまは、とっても平和的。

 火星の紛争や、月や地球の一部も巻き込んだマッパ病(マースパルスウィルス病)も終結、鳥居の向こうに見える海と空のように平和になった。

 その後は、お岩食堂と神社の前いっぱい、思い思いいくつもの車座になって、氷室神社拝殿新築祝いの宴会を夜が明けるまでやった(^▽^)。

 
 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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銀河太平記・219『納骨の旅・6・陛下といっしょに』

2024-05-06 11:46:33 | 小説4
・219

『納骨の旅・6・陛下といっしょに』ミク 



 そうねえ…………


 恩師の納骨に合わせてお参りに来たとお話すると、少女のように小首をかしげてお考えになる陛下。

「うん、あの時は元帥と一緒に戦ってくださったから……うん、不自然じゃないわ。いっしょに参拝しましょう(^ー^)」

 どこかココちゃん(心子内親王)を思わせる笑顔になって、いっしょの昇殿参拝をさせてくださった。

「今日はね、児玉元帥の命日なの」

 あ……

 今日は、いくつかある終戦記念日でも例大祭でもないので、なんのためのご参拝かと思った。そうだ、今日はパルス症で亡くなった(機能停止した)元帥の命日だ。

 元帥の元々の体は満州戦争で死んでいるけど、ロボットのJQにソウルをPI(パーフェクトインストール)させた。そのJQボディーの元帥もパルス症で限界が来て電脳が停止。名実ともに元帥の命が終わった日なんだ。

「頑固な人でねえ、亡くなる時に記念日とかの特別な日にはしないように言い残したの。一部にはお祀りして神社を造ろうという動きもあったんだけど『児玉神社はすでにある』って封じてしまって」

「児玉神社があるんですか?」

「山口と江ノ島にね、日露戦争の時の児玉大将がお祀りしてあるの」

「あ、そうなんですねぇ」

「ご先祖でも何でもないんだけどね、そうやって煙に巻いて派手なことはさせなかった。あ、宮司さまがおいでになったわ」

 御式の時の上様を忍ばせる古代衣装の宮司さんがやってくると、そこからは陛下もわたしも無言で昇殿してお参りを済ませた。


「どうかしら、お時間があるのなら元帥の記念館、いっしょにどう?」


「は、はい、喜んで!」

 おしのびのご参拝なので御料車でもなく天皇旗もつけていないので、わたしのような火星人でもごいっしょできる。こんな機会はもうないだろうし、アキバは諦めて朝霞駐屯地の記念館に御同行させていただく。

「お待ち申し上げておりました」

 准尉のおじさんが普通の事業服で出迎えてくれる。

 事前の連絡はしてあったんだろうけど、特別な出迎えではない。上様も、よく普通のナリで学校なんかに足を運ばれるので、少しリラックスできる。

「ここで、少しお待ちください」

 通されたのは基地の応接室。

 靖国ではすぐに参拝できたので、ちょっと意外。

「わたしたちは、一般の時間が終わってからになるの」

「ああ、そうですね!」

 今日は元帥の命日だ、人がたくさん来ていてあたりまえ。そう広くもない記念館。お忍びとはいえ、大勢の一般の人たちに混じるのは憚られるだろう。

「道隆さんはお変わりなくて?」

「あ、今は……」

 月面の勤務であることやパルス病の蔓延、マス漢との紛争のことなどをお話すると、眉を曇らせる陛下だった。

「そうだったのねぇ、扶桑は将軍が正面にお立ちになるから大変なのねぇ……落ち着いたら、ゆっくりお話がしたいわ。ココのことでもお世話になったし、その時は、他の卒業生の人たちも……どうしているのかしら、大石君、穴山君、それに、テル……あら、テルちゃんの苗字はなんだったかしら?」

「あ、平賀、平賀照です。いつまでたっても子どもみたいですから、先生たちも苗字で呼ぶことはなかったですし」

「あはは、そうね。でも、いまは大科学者でしょ。最近じゃパルス病のワクチンも作っちゃったし。そうよね、ネットでも平賀博士と出ていたのにね、あなたたち、第一印象がフレッシュだから、そのまま憶えて、なかなか上書きされないわ」

「アハ、恐縮です(^_^;)」

 それから、火星や月での勤務のことやらをお話して、姉崎先生の話では「そう、大変な人生を歩んでこられたのね……それをちゃんとご供養して、でも、立派で素敵な教え子をお持ちになって、少し羨ましいですね」と締めくくられた。

 それから准尉さんに付き添われて、モスボールされた児玉元帥に対面。

 陛下とは姉妹で通りそうな美しい姿に見惚れ、その後は宮内庁の車で予約していたホテルに送っていただいた。

 あくる日、羽田からシャトルに乗って、成層圏の母船に乗るまでアキバのあたりをずっと目で追ってしまった(^_^;)。

 いつか、みんなと一緒に修学旅行のやり直しができたらいいなと思って、納骨の旅が終わった。



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・218『納骨の旅・5・再びの靖国神社』

2024-05-01 10:28:03 | 小説4
・218

『納骨の旅・5・再びの靖国神社』ミク 





 ちょっと後ろ髪を引かれたけど中央通りに出てタクシーを拾う。

 アキバは不滅だ、また来ればいい!

 そう自分に言い聞かせ「九段の靖国神社まで!」と運ちゃんに大声で言ってしまった。一瞬驚いた顔になった運ちゃんだけど、あとは笑顔混じりのポーカーフェイスで靖国の鳥居の前まで走ってくれる。

 心の片隅に――間に合うようだったらアキバに戻ろう――というスケベエ根性があったんだろう。急ぎ足で鳥居を潜ろうとしたら、下校途中の小学生が立ち止まってぶつかりそうになる。

 ム(`・´)

 反射的にムカつくけど、その子たちは鳥居に向かって一礼して、そのあとは普通にキャーキャー言いながら九段の坂を下っていく。

 そ、そうか(-_-;)

 見習って一礼してから鳥居を潜る。

 思い出すなア……九年前は、ちょうど例大祭の日で陛下が児玉元帥とご参拝に来られて、扶桑人のあたしらは、思わず扶桑流に「オオ!」って鬨の声を上げそうになったっけ。
 御料車から下車された時に天狗党が襲撃してきて思わず陛下とテロリストたちの間に飛び込んでしまった(^_^;)。

 その後、陛下と児玉元帥にお目にかかることになってお礼のお言葉まで頂いて……修学旅行そのものは中断してしまって、ちょっと無鉄砲で恥ずかしい思い出だけど、ちょっと鼻の奥が切なくなってくる。

 よし、今は扶桑の軍医官なんだ。きちんとお参りしなくちゃ。

 神門を潜るころには、ちゃんと昇殿して玉ぐしを捧げてお参りしようと決めた。

 ハンベで調べると参集殿で玉ぐし料を払って申し込むとある。

 あ、ああ……

 参集殿の窓口には『四時半まで一般の昇殿参拝はできません』と札が出て、儀式やVIPの参拝がある時は一般の昇殿参拝はできないと続いている。

 アキバに戻るのは無理っぽい……一般参拝で済ませておこう。

 まあ、仕方がない……気を取り直して拝殿に向かう。

 神門の方から衛士に先導されたVIPっぽい一行がやってくる。銀ネズ色のスーツと帽子の女性。お伴が二人付いて、きっと大臣の身内か財閥の奥方。はたまたどこか外国の大使夫人か、そのあたり。

 ヤバイ、ガン見してしまった。

 子どもじゃないので、軽く一礼して拝殿へ行こうとしたら、そのVIPから声がかかってしまった。

「あら、扶桑第三高校の……」

 え?

 きれいな声に、再びガン見してしまう……え……ええ!?

「ああ、やっぱり(^-^)」

 親し気に近づいてこられる、その人はまごうことなき天皇陛下だった( ゚Д゚)!!



 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・217『納骨の旅・4・秋葉原』

2024-04-25 15:37:35 | 小説4
・217

『納骨の旅・4・秋葉原』ミク 





 万世橋に行くについては神田で降りた。


 最寄りの駅は秋葉原なんだけど、秋葉原の駅に下りてしまったら根が生えてしまって、下手をすると万世橋には行かずじまいになってしまいそうだったからね(^_^;)。

 万世橋商会で用事を済ませたわたしは、足取りも軽く史跡指定もされているラジオ会館に突撃した!

 幼いころから憧れたラジオ会館は、修学旅行で来た時のままだ。外観も内装も全盛期だった平成の終りから令和の頃の状態を残している。

 正面こそはラッピングいっぱいのガラス張りだけど、他の三面は八階建てというだけのビルに過ぎない。その素っ気なさは手抜きなんじゃなくて、建物として堅牢であることの証で好ましい。

「うわあ、リアルエスカレーターだよ!」「上ってる感ハンパない!」

 わたし同様、地方(月や火星も含む)からの観光客が喜んでいる。今どきの商業施設で200年前のエスカレーターなど使っているところは無いんだけど、重要文化財なのでパルスベーターよりも、文化財級のエスカレーターがメインになっているんだ。

 素直にお上りさんになっておこう。

 そう決めて、工場の生産ラインを思わせるエスカレーターに足を載せる。

『エスカレーターをご利用の際は、ベルトにつかまり黄色い線の内側にお乗りになり、お足もとに十分お気をつけくださいませ。またベビーカーや車いすでのご利用はご遠慮くださいますよう。お子様をお連れのお客さまは……』

 なんともレトロなアナウンスがお客を喜ばせている。ひょっとしたら、音源はAIなんかじゃなくて人間のアナウンサーが吹きこんだ声かもしれない。

 階が上がるごとに、フロアーの店舗や売り場が見えてそそられるんだけど、屋上に直行する。

 昔の屋上はスタッフオンリーで買い物客は踏み入ることができなかったけど、今は、その程よい高さが好まれて、屋上展望デッキのようになっている。

 ドリンクコーナーでメロンソーダを買ってアキバの街を見下ろす。

 JR総武線を挟んで駅前広場、その向こうにアキバUDXやらのビルが望める。

 9年前、御即位25周年記念のアキバフェスの真っ最中で、広場全体にグラビテーションコントロール(重力操作)を仕掛け、観客も巻き込んで『ミクとそに子のバトルショー』をやっていた。

 初音ミクチームとすーぱーそに子のチームに分かれて三次元鬼ごっこ。最初は自分と同じ名前のミクチームで遊んで、途中からそに子チームも面白そうで、そっちに移った途端にパスポートをすられたんだ。

 それから、ダッシュが犯人を追いかけてくれて、取り返したと思ったら偽物だった。

 あの後、大使館に呼び出されて……靖国神社の例大祭に……そうだ、靖国神社に行かなくちゃ!

 先生の納骨と和尚さんに送る作業機械のことで頭いっぱいだったけど、東京に来て靖国に行かないわけにはいかない。
 今度のマッパ病や、その後に起こった紛争で沢山の犠牲者が出ている。姉崎先生……山野勘三郎……やっぱり、我らの姉崎先生も傭兵とは云え軍人だったんだ。ウウ、明日の朝には月に戻らなくてはならない(-_-;)。

 ズズズ―!

 メロンソーダを飲み干すと、文化財のエスカレーターではなく、パルスベーターで一気に地上階に戻ると中央通りに出てタクシーで靖国神社に向かった。
 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・216『納骨の旅・3・万世橋』

2024-04-20 11:47:37 | 小説4
・216

『納骨の旅・3・万世橋』ミク 




 トンビが視界から消えて――さて、どうしよう――と考えた。


 今度の納骨に際して三日の休暇をとった。

 初日に納骨を済ませた後は、東京か京都かのどちらかだろうと思っている。

 両方は回れない。

 扶桑のルーツは日本だ。その日本のルーツは京都だ。

 794年に遷都されて以来23世紀の今日に至るまで千年以上日本の都は京都なんだ。
 明治維新で天皇は東京にお移りになったけど「ちょっと江戸に行って来る」とおっしゃられただけになっている。

 実は、憲法にも法律にも――日本の首都は東京である――とは書いていないらしい。各種の法律には「首都開発」とか「首都機能整備」とか「首都防衛」とかの冠がついたものがいっぱいあって、国の内外を通じて東京が日本の首都であることは常識。

 でも、肝心の首都法という法律は無く、東京=首都とも規定されていない。

「これが日本人の知恵なんだ」

 姉崎先生は言っていた。

 世俗的な意味での首都は東京、霊的には京都が都なんだそうで、京都の人たちは天皇陛下が京都にお越しになるのを「お戻りになる」と言う。
 そういう日本のソウルに触れてみたいという気持ちもあったけど、9年前の修学旅行をトレースしてみるというプランも捨てがたい。

 山梨を過ぎてトンネルを出るころには決心がついた。

 やっぱり東京に行こう。

 特に日本史に興味があってとか、扶桑の公務員としての意識に目覚めたというわけじゃない。

 和尚さんとの約束を思い出したんだ。作業機械のいいのがあったら送りますって。

 アキバ近くの万世橋に、修学旅行でお世話になった万世橋商会がある。

 あそこで相談すれば、月や火星に戻って手配するよりも早い。月に戻ってからじゃ次の休暇までは動きが取れないだろうしね。

 ほんとうはアキバ……という誘惑はグッと呑み込んだ。


「あ、扶桑第三高校の……!」


 受付のオネエサンが反応する前に、どこか見覚えのあるオジサンが立ち上がった。

「え、あ、その節は、お世話に……」

 と言いながら完全には思い出せないわたし(^_^;)。

「あの時の御縁で、平賀先生とは懇意にさせていただきまして、先生ご発明のアイテムを取り扱わせていただいて繁盛させていただいております(^▽^)」

 あ、車の駐車をお願いした時の総務のニイチャン(修学旅行・5・『アキバ 初音ミク』に出てくる)だよ、たしか。

 胸のIDには『営業課長』の肩書がついている。総務から営業へ転身、やり手だったんだねぇ。

「あちらのショーケースに先生との提携商品を並べております!」

 受付のオネエサンも、立ち上がってショーケースを示してくれる。

「ほおぉぉぉ」

 そこには、テルが片手間というか気分転換というかに思いついたアレコレが並んでいた。

 アルファ波消しゴム:(使うとアルファ波が出る) 
 提案貯金箱:(入れた金額に合わせて使い道を提案する) 
 思念工具:(思い浮かべるだけで機能や形を変える家庭用工具)
 ミニトング付きポテチの袋:(手が汚れない)
 卓上グラビテーションコントローラー:(机の上の物を浮かせて掃除しやすくする)
 失せものホイッスル:(あらかじめ登録しておいた物は、失くした時に吹くと返事する)
 知り合い感知器:(身内 友人 知人 苦手な奴)が一定の距離に近づいてくるとアラームを発する)
 お別れ機能付き電池:(残り5%を切ると「お別れの時です」と別れを告げる)

 あげるとキリがないんだけど、全部冗談半分のアレコレ。

「売れてるんですか?」

「はい、半分近くはヒット商品になって、ご愛顧いただいております」

「そうなんですか」

「ああ、こういうファンシーグッズ系だけではなく、素材系やエネルギー系の発明や新案特許がありまして、売上金額的には、そちらの方が三倍以上ございます。はい」

 ウウ……大した奴だとは思っていたけど、いやはや、かなりの大物なんだ(^_^;)。

「それで、緒方さまは、どのようなご用命で?」

「あ、実は……」

 甲府の和尚さんの話をすると、3分でモノを見つけてくれて、手配と発送までやってくれることになった。

 いやはや、人の縁というものは大事にしなくちゃと感じ入る。

 そして、晴れてアキバに足を運べることになった\(^_^)/!

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

 

 
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銀河太平記・215『納骨の旅・2・甲府』

2024-04-13 11:42:50 | 小説4
・215

『納骨の旅・2・甲府』ミク 





「甲府盆地はハート形なんですよ」


 お墓に行く途中の坂道で振り返ると、和尚さんは景色を撫でるようにして言った。

「うわぁ…………」

 つられて振り返ると、笛吹川、釜無川、富士川と、それに沿って走っているリニア路線がハートの骨のように見える。

「勘十郎は血管だと言うとりました」

「血管ですか?」

「血管じゃったら、一本余計じゃろと言うてやると『一本は気脈じゃ』と笑うておりました。奴は、甲府盆地を日本の心臓のように思うて子どもの頃から喜んでおりました」

「気宇壮大な子供だったんですね」

「はい、実は甲府の下には三つのプレートがせめぎ合っておりましてな。ユーラシアプレート、北米プレート、フィリピン海プレート。その境目が三つの川です」

「そうなんですねえ……」

 先生の実家を探すのはダッシュの力もあって、そう難しいことじゃなかった。

 山梨県の甲府にある旧家が先生の家で、家系をたどれば武田信玄の参謀だった山本勘助に繋がる。そう、本姓は姉崎でもなく山野でもなく山本。

 山本の家は令和の時代からエコ発電の関連部品の製造で力をつけ、この二十三世紀でもパルス燃料の端子製造では結構なシェアを持っている。
 
 三つのプレートがせめぎ合うように、山本の家は跡継ぎを巡って争い、それに嫌気がさした先生は、苗字を山野に変え、いろいろあった末に静かの海戦争で傭兵をやっていたわけなんだ。

 甲府のお墓に納めるには少し迷った。先生自身嫌気がさして飛び出した家だからね。

 そして、山本の家は衰退というか、甲府では消滅していた。

 外国の会社と提携したのが20年前で、そのあと、いろいろあって会社は社名だけ残して外国企業になってしまった。

 そして、先生の最後の姿を見て、ダッシュと二人、山本のお墓に納めるべきだと思った。

「いやあ、けっこうあるんですねえ」

「バテましたか?」

「いえ、大丈夫です」

「うちのお墓は寺よりも古いんですよ」

「え、そうなんですか?」

「おそらくは弥生時代からの墓地です」

「や、弥生時代!?」

「ええ、山の斜面に南面して墓を作ったのが最初です。600年前にうちの寺ができた時に引き受けたんです。墓というのは、常日頃から管理が必要ですからねぇ……さ、着きましたよ」

「うわぁ……」

 山の斜面が三段、ところによっては五段になって、ざっと千基ぐらいのお墓が並んでいる。

「ところどころ抜けてますねえ」

「はい、墓じまいをされた家もありますし、月や火星に移住する時に移されたお墓もあります」

 そうか……そう言えば、姉崎すみれさんのお墓も地球からご先祖ともども移してこられたお墓だった。

「山本のお墓はこちらです」

 墓地全体に合掌した後、三段上の区画に上る。

「立派なお墓ぁ」

 上様に招かれてお城の奥に上がった時、チラリと見えた将軍家のお墓を一回り小さくしたような立派なお墓だ。

「いえいえ、なかなか行き届きません……これは、少し掃除してからだなぁ。お手伝い願えますか?」

「はい、喜んで」

 よく見ると、墓石もくすんで、墓域の端っこの方は草が生えたり枯れ葉が溜まったりしている。

「道具がいりますねえ……少々お待ちを」

 和尚さんがハンベをクリックすると、麓の方からガシャガシャと音がして、四足歩行の作業機械が上がってきた。

「檀家さんから農作業用の型落ちを譲ってもらいましてね」

「すごいですねぇ、三世代前のピックアップですよ!」

 ガッシャン プシュー

『ソウジガスンダラ ジブンデ ドウグハモドシテクダサイ』

 すごい、自己収納機能すらも無いんだ(^_^;)

「さ、やりましょうか」

「はい!」

 なんだか、学校時代に奉仕活動をやってるみたいで楽しくなってくる。

「でも、少しは手入れされてるんですねえ、他のお墓はもっと荒れてるのがありますよ。やっぱりお身内の方が?」

「いえ、この十年余りはどなたも……」

「でも……」

「たまに家内と二人で……」

「ああ、そうだったんですか!」

「あ、今のは内緒です。他のお墓は行き届いてませんから」

『シンガタ カエバ ヤッテクレマス カタログダウンロードシマショウカ?』

「今はいいよ。どうもCM機能はしっかりしているようで(^_^;)」

「あはは、あ、ごめんなさい」

「いえいえ、勘十郎は家内の先輩なんです」

「え……」

「わたしは高校の同期で、ま、そんな縁もありましてね……」

 和尚さんの横顔にほんのりと朱がさす。

 ひょっとしたら、なにかドラマめいたことがあったのかもしれない。

 一通り手入れも終わって納骨。

 こんど扶桑に戻ったら、作業機械のいいのを見繕って送ろうと思った。

 だって、わたしとダッシュの出せる供養料ってたかが知れてるしね。


 いい汗をかいて、甲府からリニアに乗って東京を目指す。

 たった一日だけど、9年前の修学旅行を偲んでみようと思う。

 ピーヒョロロ……

 発車までの僅かな時間、お弁当を買って空を見上げると、トンビがきれいに輪を描いた。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・214『納骨の旅・1・空港』

2024-04-08 11:14:02 | 小説4
・214

『納骨の旅・1・空港』ミク 




 扶桑科学研究所の教授で養生所の委託博士研究員である平賀照教授……つまりテルが作ったワクチンのおかげでマッパ病は収束して、ようやく月と地球の往来が復活した。

 ワクチンの発明者であるテルの、そしてわたしらの母星である火星との往来は、まだ認められていない。マス漢と扶桑は休戦はしているけど、火星全体での防疫体制も出来ていなくて、月や地球のように火星全体としては終息宣言がなされていないからだ。

「まだ、意識の底では植民地と思ってるんだ。地球についても火星人て言うんじゃねえぞ」

 そう言いながらお茶のペットボトルを投げてよこすダッシュ。

「あ、600㏄なんて飲み切れないよ。機内には持ち込めないしぃ」

「小さいのは売り切れ、余ったら俺が飲む」

「やだあ、間接キスぅ」

「子どもの頃は平気だったじゃねえか」

「お互い、もう二十六歳なんですけどぉ」

「だったら飲むな」

「うそうそ」

「すまんな、俺も付いていければいいんだけどな」

「仕方ないわよ、今月から曹長でしょ。しっかり軍務に励まなきゃ」

「二十六で曹長なんてありえねえ」

「士官学校断るからよ」

「…………」

 ダッシュにしては珍しく考えてから答えようとすると――Good afternoon passengers……――と、搭乗開始のアナウンス。

「あ、ヤバイ」

「まあ、俺の分もしっかり気持ち籠めといてくれ」

「うん、納骨の時はちゃんと動画にとって送るからあ!」

 お茶を半分飲んで、ペットボトルを投げる、それを左手でキャッチすると、交代に右手を上げて新品曹長はきれいに敬礼を決めた。


 姉崎先生と言おうか姉崎すみれさんの死から一年。すみれさんの脳核は火葬して姉崎家の墓に収めた。

 そして、別に火葬した姉崎先生……山野勘十郎の体の遺灰は、わたしが山野家のお墓に収めに行く。

 もっと早く行くつもりだったんだけど、マッパ病のあれこれや山野家のお墓を探すのに時間がかかってしまった。

 修学旅行から九年ぶりの地球、扶桑の始まりの国である日本。

 どうしよう、思ったよりもドキドキするよぉ。

 


☆彡この章の主な登場人物
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  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
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  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・213『真・姉崎すみれ物語』

2024-04-02 11:59:54 | 小説4
・213

『真・姉崎すみれ物語』ダッシュ 




 先生が跳びこんだ窪地には逃げ遅れた十数名の民間人が居た。

 十数名と曖昧なのは、五体満足な者は三名しか見当たらず、断裂飛散した遺体からは直には人数が読めないからだ。

 先生は、そのうちの二名に見覚えがあった。

 岡島という技術者夫妻だ。二人とも静かの海の深層採掘の見通しを立てるために国交省の依頼を受けてやってきた資源採掘の専門家だ。もう一人は技術者でも専門家でもない、学生風の女性。

 夫妻の方に外傷はないが、すでに生命反応は無い。女性の方は右半身にヒートパルスを浴びて重度の火傷を負っていたが、辛うじて息はある。

 先生はハンベを軍事用のトリアージモードにした。

 一般のトリアージと異なり、軍事用のそれは、軍事的社会的な有用性緊急性をも判定基準にする。そのために、単なる負傷のレベルだけではなく対象者の属性を機密レベルまで検索している。

「息のあるのは女性だけなのに、なんでトリアージするんだろ?」

 ミクがジト目で俺を見る。

「場合によっては『救助しない』という選択もあるからだ」

「ええ!?」

「戦争をやってるんだからな、そういうこともある」

 不愉快そうに眉を顰めるが、俺は構わずに再生を続けた。

 画面には、先生が開いたトリアージのためのデータが映し出されている。

「「ええ!?」」

 声が揃ってしまった。

 姉崎すみれ:岡島香里菜(旧姓・姉崎香里菜、すでに生命反応無し)の姪、宇宙地質学者姉崎浩一郎の長女、東京教育大学1回生。姉崎浩一郎博士は月面開発のため、娘夫婦と共に月に移住。末娘のすみれは学業のために地球に残るが、夏休みで父親と姉のいる月に帰省して戦災に遭う。

 本籍地・ピタゴラス〇〇市ゴールデン街北町〇〇番地。現住所・世田谷区豪徳寺〇〇。

 トリアージレベル赤1。

「これって……」

「先を見るぞ」

「う、うん……」

 先生は30秒置いて、瀕死の『姉崎すみれ』と会話した。

『俺は日本の傭兵で山野勘十郎という。この窪地に避難した者で生きているのはきみ一人だ』

『叔母さんは……』

『言った通りだ。きみも10分以内に死ぬ。もうきみのボディーは数分脳核を維持することしかできない。今から俺の脳核と入れ替える』

『え?』

『脳核不全症でな、もう一か月ももたない、最後に一花咲かせようと月に来たんだが、もう、ここらへんでいい。オッサンのボディーで気持ち悪いだろうが、地球に戻ったらアキバのジャンク街にでも行って、頃合いのボディーに積み替えるといい』

『そんなぁ……』

『たったいま、ボディーの名義変更と適正化をやっておいた』

『でも』

『もう時間がない、バイタルが落ちてきた。いくぞ』

『あ、待っ……』

 プツン

 そこで切れてしまった。


「これって……」

「先生は、なんというか……真・姉崎すみれだったんだ」

「でも、なんで?」

「身内はみんな亡くなっている、それに三十年前だ、静かの海戦争の後で荒れているしな、オッサンで居る方が楽でもあったんだろう……」

 説明している俺自身確証は持てないんだけど、大筋で外してはいないと思う。

 
 ミクが死亡診断書と検死報告書、俺が事案報告書を書いて、姉崎先生の人生にピリオドを打った。



 
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  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
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  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
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  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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