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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・342『涙腺崩壊』

2022-08-19 13:25:43 | ノベル

・342

『涙腺崩壊』さくら   

 

 

 特別番組?

 

 窓辺でスマホをチェックしていた詩(ことは)ちゃんが呟いた。

 詩ちゃんは、うちの十倍は賢い。

 その賢さは、才能もあるんやろけど、日ごろの努力によるところが大きい。

 暇な時間があると、ゴロゴロとかボーっとかしてるのがうちやけど、詩ちゃんは、なにかしら調べものとか読書とかしてる。

 この旅行に来てからも、スマホを開いては現地のニュースやらトレンドを調べるのが日課。

 この酒井さくらも半分は同じ血が流れてるんで、素養はいっしょやと、小さいころから自分に言い聞かせてる。

 ちょっと手遅れ? ほっといて!

「え、また24時間テレビ? 鳥人間コンテスト?」

「ばかね、ここは日本じゃないんだよ」

「アハハ、せやせや」

 

「ねえ、なにか設営してるよ!」

 今度は、朝から宮殿の図書室に行ってた留美ちゃんが、息を切らして戻ってきた。

 で、両方の情報を突き合わせると、午後から、王族の人たちがバルコニーにお出ましになって、宮殿前に集まる国民にスピーチをするらしい。特番は、その実況中継であるらしい。

「それで、頼子さん会議とかで抜けてたんやねえ」

 さすが一国の王女さま(暫定やけど)、夏休みでも自由にはなれへんのや。

「「たぶん」」

「あ、頼子さんから(^_^;)」

「う、うん。ヤマセンブルグの戦死者が五人になったって、オリエント急行に乗ってるときに……」

「わたしも、ネットで見ました」

 知らんかった。

「ヤマセンブルグの五人は、日本に当てはめたら百倍だろうからね」

「そのための、追悼のスピーチなんだろうね」

「おそらく、亡くなられた人たちには勲章授与とか」

「その段取りとか、勲章の種類とか、難しいことがあるんでしょうね」

 さすが、留美ちゃんと詩ちゃん。洞察力がちゃいます。

 

 せやさかい、うちらは、宮殿の皆さんに気を遣わせないよう、お邪魔にならないように、静かに半日を過ごして午後を待ちました。

 

 せやけど、現実はうちらの想像を超えていました。

 うちらは侍女のコス(正確には、王女さまのご学友コス=むかし、王室にあった王族貴族学校の制服)を着て、バルコニーの端っこに並びました。

 ファンファーレが鳴って女王陛下がお出ましになると、前庭と、そこからはみ出して王宮前広場に集まった人々から歓声が起こります。

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 陛下が肩の高さまで右手をお上げになると、数秒で静かになる。

 中学の全校集会を思い出す。

 全校集会は、校長先生が立っても静かにはなれへんので、春日先生とか生活指導の先生が「じゃかましいんじゃ!!」と一喝せんと収まれへんかった。

 この一つをとっても、女王陛下の権威と人気はすごいもんやということが分かる。

「ここにお集まりのみなさん、テレビなどで中継をご覧のみなさん、今日は大事なお話をしなければなりません。おそらくは、あの大乱の中で即位宣言をした時以来の重大なスピーチになるでしょう」 

 フワリと吹いてきた風が陛下の前髪を乱して、それを、そっと直してお続けになる。

「我々の五人の軍人が、かの地で戦死を遂げたことは記憶に新しいところです。本来ならば、国を挙げて喪に服さねばならないのですが、彼らが生前に残した言葉『万一、戦死することがあって、その知らせに接しても、喪に服すのは戦争が終わってからにしてほしい。まだまだ戦いは続くのですから』に従って、彼らの意思を尊重して、今しばらく辛抱することにいたしましょう。ただ、このままでは、わたしたちの思いと感謝の行き場所がありません。まずは、この場を借りて、彼らに感謝の心を捧げるために彼らにヤマセンブルグ栄誉勲章を授与するとともに、彼ら五人を男爵位に列することを宣言します」

 満場の拍手がとどよめきが沸き起こった。

 その満場の人々一人一人の目を見つめるように、言葉を停めたまま、幾度も頷かれる。

「もうひとつ、お伝えすることがあります」

 

 再び、万余の人たちが息を整えて陛下に注目する。

 

「本日、わたくしの孫が、正式にヤマセンブルグの王位継承者になります」

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 今まで以上の歓声が王宮前広場に木霊し、広場に面した窓ガラスがビリビリと振動するほどになった。

「ヨリコ、ここへ」

 呼ばれた頼子さんは、緊張しながらも笑みをたたえて陛下と並んだ。

 その頼子さんの背中を、女王陛下はそっと押して、一歩後ろに下がられる。

「もう少し考えようと思いましたが、女王陛下並びに国を代表する総理大臣はじめ三権の長、議会のみなさん、そして、なにより国民の皆さんの、わたしへの期待と気持ちを受け止めるのは、今を置いて他に無いと思い至りました。まだまだ未熟なヨリコですが、陛下と国民のみなさんのご期待と負託にお応えするために、本日ただいまをもって……日本国籍を離れ、ヤマセンブルグ王位継承者たる王女になることを、ここに宣言いたします!」

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 今度は、なななか静まれへん(^_^;)

「迫水日本大使閣下……」

 頼子さんが呼ぶと、バルコニーの端っこに居った風采の上がらんオッサンが寄ってきた。

 そして、頼子さんが手にしたのは日本のパスポート。

「十八年間お世話になりました。ここに謹んで日本のパスポートをお返しいたします」

「謹んで、ヨリコ王女よりパスポートをご返納いただきました」

 8888888888888888888888!!!

 オチョケて拍手を888で表現せなあかんくらい、ちょっと涙腺崩壊。

「すこしだけ我がままを許してください」

 頼子さんが向き直ると、また水を打ったような静けさになる。

「わたしは、まだ18歳で、日本の聖真理愛学院高校の三年生です。来年の四月には卒業します。それまでは日本に滞在することを許してください。そして、18歳のこの日まで、わたしをはぐくんでくれた日本と日本のみなさんに、少しでも恩返しすることと日本とヤマセンブルグの橋渡しをすることをお許しください……宜しいでしょうか……」

 8888888888888888888888!!!

 さらなる満場の拍手、今日最大最高の拍手が沸き起こって、そのあと、頼子さんは女王陛下と並んで、いつまでもいつまでも手を振ってたのでした。

 

 そのあと、控室に戻ってスマホを開くと、何本もツイートやら書き込み。

 その、どれもがプリンセスを、女王と同じ色の赤にしていました。

 気が付くとサッチャ-……イザベラのオバハンが覗いていて「この赤をヤマセンレッドと云うのです」と注釈を垂れて行った。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

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せやさかい・341『妖精の標識・2』

2022-08-18 10:11:33 | ノベル

・341

『妖精の標識・2』さくら   

 

 

 やっぱり詩(ことは)ちゃんの観察力はすごいよ。

 宮殿に着くまでの道で、日本とはちがう交通標識に気が付いた。

 黄色の丸い標識の中に黒塗りの子どもが走ってる姿を描いたもので、うちらも前に来た時に見たことがある。

 交通標識やと思てた――子供の飛び出しに注意――のね。

「あ、そう言えば、標識によって、微妙に姿が違ったっけ?」

 うちより賢い留美ちゃんでも、あれは交通標識やと思てたみたい。

「今日見ただけで、ドアーフ、エルフ、ティンカーベルみたいなのがあったよ!」

 それで、ランチの時にソニーに聞いてみた。

「え、ああ……交通標識だよ『子どもの飛び出しに注意』の。日本にもあるんでしょ、子どもが学校に通う道とかに、どこにでもあるよ」

 なんで、そんなものに興味持つんだって感じで、軽くスルーされてしもた。

 いつもやったら頼子さんかソフィーに聞くねんけど、初日と二日目は二人とも姿が見えへん。

「三年も開いてしまったから、いろいろ儀式とか話し合いとかあるからね」

 ソニーは、そう説明してくれて、その午後と明くる二日目は自分が運転して、あちこちを案内してくれた。

 

 その二日目

 

 王立植物園は夏の花が真っ盛り、うちのお寺もささやかやけど、檀家のお婆ちゃんがらが丹精の花々がある。

「お婆ちゃんたち、喜ぶよ!」

 詩(ことは)ちゃんの発案で、一つの花に三十秒ずつ解説動画を作る。

 シャクヤク  ゼラニウム  デイジー  アイリス  サルビア  ヤグルマギク  ペチュニア

 三十秒の解説やねんけど、解説(英語)を読んで、喋ることに決めて、リハーサルやって本番やって、仕上がりの確認したら十分くらいかかってしまう。

「もう、ぶっつけ本番でやろうよ!」

 詩ちゃんが提案して、四つ目のアイリスからは、嚙みまくり、とちりまくりのまんま。

「さくら、笑いすぎ!」

 留美ちゃんに怒られる。

 失敗するんちゃうか思うと、うちは笑いがこみ上げてくる体質。

「もう、笑ったままでいいよ。さくらのとこはテロップ付けるから!」

 NHKのアナウンサーみたいな詩ちゃん。カチコチの留美ちゃん。一歩下がらんとフレームに収まらんメグリン。

 ほんで吉本みたいなうち。

「ちょ、ソニー、なに撮ってんの!?」

「面白いから、あとで陛下やプリンセスに見せようと思って( *^皿^)」

 ソニーは、ちょっと根性ワル。

 最後に向日葵を見た。とたんに、みんな静かになる。

「え、なんで、みんな大人しなるのん?」

「だって、向日葵はウクライナの国花だよ」

 あ、そうか……

 思わず、ナマンダブが出てしまいました。

 

 午後は、ヤマセンブルグ陸軍の第三連隊にお邪魔しました。

「第三いうことは、一とか二とかあるんよね?」

「いや、陸軍は、この第三連隊だけだ」

 草薙素子みたいなそっけなさで、ソニーが言う。

「一と二は欠番なんだ」

 あ、野球チームの背番号みたいでかっこええかも。

 軍事に関してはメグリンの独壇場。

 営庭に並んでる戦車や大砲のスペックをスラスラと言う。

「ねえ、あの戦車、大砲おっきくて強そうやんか!」

「あれは自走砲」

「え、ちゃうのん?」

「ドイツのPzH2000、155ミリりゅう弾砲を装備していて、ウクライナにも7両貸与されてる」

「ふーーん」

「自走砲は戦車じゃなくて、火砲に分類されていて、所属は砲兵科。強そうに見えても、装甲は最大で25ミリしかないから、敵の戦車がやってきたら、とにかく逃げる」

「ふーーん」

「いや、だから……」

 花の話みたいに食いつかへんあたしらに、メグリンは懸命に説明してくれる。

「君たち、日本から来たんだね?」

 きれいな日本語で声を掛けられて、振り向くと陸上自衛隊のおっちゃんが立ってる。

「日本から派遣で来てるんだ。陸自の栗林です、よろしく……あ……きみは、ひょっとして古閑一佐のお嬢さん?」

「あ、栗林副官!?」

「「「え?」」」

 なんと、栗林さんは、メグリンのお父さんの、かつての部下。

 いやあ、世間は狭い!

 栗林さんに誘われて、基地のカフェテリア。

 他の兵隊さんも寄ってきて、期せずして交歓会ですわ(^▽^)。

 気が付くと、ソニーがお茶くみとかやってて、一人忙しそう。

「なんで?」

「言ったろ、ヤマセンブルグの陸軍は、ここしかないんだ」

「え……あ、ソニーも、ここの所属?」

「あのテーブルに居るのは最低でも中尉だ」

「え……ソニーて?」

「伍長だ」

 伍長て、よう分からんけども、お姉ちゃんのソフィーが少尉やから、その下、もっと下?

 

 キャフェテリアの窓から見える基地内の道路にも、例の妖精の交通標識が見えた。

「基地の中に通学路があるんですか?」

 詩ちゃんも気ぃついて栗林さんに質問。

「ああ、あれは妖精に注意の標識」

「「「ええ?」」」

 ちょっと混乱してきて、昨日からの事情を説明する詩ちゃん。

「それは……」

 口を開きかけた栗林さんに大尉の階級章を付けたオニイサンが耳打ち。栗林さんは、ソニーに笑顔を向けてから説明してくれた。

「子どもが通る道は、昔から妖精が通る道って言われててね。じっさい、ヤマセンブルグじゃ妖精は存在してるって考える人も多いし。子どもの飛び出しと妖精の両方を掛けて注意書きの標識にしてるんだ。だから、ソニーの説明も正しいよ」

「うん、こんなハナシもあるよ」

 日本語のできる中尉さんが付け加える。

「子どもが人の悪口を言うとね『妖精が聞いてるよ』と言って、天井を指さす」

 あ、なるほど『仏さんのバチあたるで!』といっしょなんや。

 うちらが大きく頷くと、最初の大尉さんがソニーにウィンクした。

 そうなんや、そうやって、伝統と交通ルールを重ねて、その両方を大事にしてるんや。

 

 それから、ソニーも入って三十分ほどお話して、立ち上がって……見えてしもた。

 

 交通標識のとこを渡ってる半透明の妖精。

 瞬間目が合うと『シーーーッ』って感じで、人差し指を口にあてて見えんようになってしもた……。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

 

 

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せやさかい・340『妖精の標識』

2022-08-17 10:48:52 | ノベル

・340

『妖精の標識』詩(ことは)  

 

 

 悪魔祓いとか魔物との戦いなんて、ゲームかアニメの話だと思っていた。

 

 でも、ワンオクロックガンが鳴った直後に戻ってきたソフィーはフルマラソンを完走してスタジアムに戻ってきた選手のようだった。

 いや、足りない。あの生々しい闘気はチャンピオンベルトを激戦の末に守り抜いた世界チャンピオンのようでもあった。

 そのマラソン選手、世界チャンピオンが、汗だけを拭いて身だしなみを整えただけで現れた、そんな感じ。

 迎えたわたしたちは、一様に驚いたけど。わたしを除く五人は――さもありなん――と納得顔。

 聞くと、三年前に退治し損ねた魔物との戦いに、やっとの思いで勝利したとのこと。

 

「なぜ、ソフィーが戦わなくてはならなかったんですか?」

 

 お屋敷に帰ってから、イザベラさん(さくらたちからサッチャーの二つ名を頂戴しているメイド長)に聞いてみた。

 イザベラさんは、一見『アルプスの少女ハイジ』に出てくるロッテンマイヤーさんみたいで、正直とっつきいくい人なんだけど、玄関ホールで出迎えた時は、ソフィーを見つけるやいなや、母親が出征から帰ってきた子どもにするように抱きしめていた。すごく意外だったんだけど、わたし以外は涙ぐみながらも納得顔。

「それについては、陛下がお答えになると思いますよ」

 そう言って、陛下に連絡してくれて、五分後には陛下の居間でローズヒップを頂きながらお話をうかがった。

「我が王家は、元々は大陸に派遣された辺境伯でした。出自は武装商人の長であったとも海賊王であったとも言われています。その辺境伯が一国の王として認められる過程でスコットランド防衛の一翼を担うことになったのです。当時のエディンバラは、街の地下に大勢の貧しい人たちや移民、敵の捕虜たちが暮らしていました。その人たちの中には、スコットランドの危機に乗じて内紛を起こす者も多く、また、長引く地下生活のために病が流行ったりもしました。スコットランドの騎士たちは、あまり褒められたことではない手段で彼らを退治して、その結果、彼らは悪霊となってしまったのです。その悪霊を鎮めたのがヤマセンブルグ一世と、その部下たちだったのですよ」

「退治したんですか?」

「いいえ、鎮めて封印しただけ。何十年に一度は力を盛り返して、ヤマセンブルグに災いをもたらすの。ヨリコは千羽鶴を折って鎮めようとしたんだけれど、うまく行かなかった。ソフィーが、魔法でねじ伏せて仮の封印をしたのが三年前。でも、それはほんの一時しのぎ。ヨリコとヤマセンブルグの事を考えて、乾坤一擲の大勝負に出たというのが、今日のソフィー。これで100年は大丈夫でしょう」

「そうだったんですか……」

 なるほど、三年前のソフィーの戦いを見ていたから、みんなああいう反応だったんだ。

 でも……メグリンは三年前には居なかった、どうして、さくらたちと同じ反応になったんだろうか。

 

「父に、よく聞かされました」

 

 隣同士のシートだったので、水平飛行になってから、メグリンと昨日のことを話していたんだ。

「自衛隊って七十年の歴史ですけど、施設の多くは旧軍のものを引き継いでいるせいか、そういう話は多いんですよ」

「そうなのか?」

「一般には公開していないものが多いですけど、慰霊祭とか、よくやってますし、たいていの駐屯地には神社とか祠とかがあります」

「そうなんだ」

「海外派遣される時には、見送りの中に旧軍時代の軍服着た人が写り込むこともあるんですよ」

「そうなの!?」

「はい!」

 メグリンが明るく頷いて、飛行機はヤマセンブルグの空港に着陸。

 

 驚いたことに、タラップの下では先に着陸した女王陛下が出迎えに立っていらっしゃった。

 

 陛下の後ろには、王族の方々と政府の要人、日本大使の姿まで。

 空港ビルや、駐機場の周囲には大勢のヤマセンブルグの人たちが国旗や横断幕を掲げて歓迎してくれている。

「さあ、まずは記念撮影よ」

 迎えの人たちとの握手が終わると、空港ビルを背景に記念写真。

 屋上の出迎えの人たちも鈴なりになって、嬉しそうに旗を振ってくれて、延べ千人ぐらいの記念撮影になる。

 横断幕の女王陛下の名前は赤の飾り文字、頼子さんのは黒の飾り文字で、少し地味。

「あれでいいの、赤は正式な王女にならないと使えないの」

 ちょっと、ホッとしたような頼子さん。

 ちなみに、わたしたちはメイド服に似たコスを着ている。

 これは、行動の自由を得るために、暫定的にプリンセスの侍女という待遇になっているためで、三年前もそうだったらしい。

「控え目くらいで手を振って」

 宮殿に向かう車に乗って、ソフィーに言われる。

 日本の場合、皇族方が移動される時にお付きの人たちが手を振ることは無いと思う。

―― え、いいのかな? ――

 迷ったんだけど、沿道の熱狂的なのや暖かいのやらの歓迎ぶりを見ていると、とてもポーカーフェイスではいられない。

「やりすぎ!」

 さくらは二度ばかり注意されてた。

 子どもたちの中には、女王陛下や頼子さんの可愛いイラストを描いてあるのもあった。

 中には、描き損ねて妖精じみたアニメのキャラみたいになっている子もいて微笑ましい。

 たとえ似ていなくても、一生懸命の歓迎の心は紙一杯に描けている。

 プリンセスの名前は黒なんだけど、チラリとめくると赤くなっているものもあって、頼子さんも涙目の苦笑い。

 小さな女の子たちが、わたしたちの侍女服に似たワンピを着て、車といっしょに走って来る。

「転んじゃダメよーー」

 手をメガホンにして頼子さん。ちょっと異例なことなんだろう、一瞬みんな注目。

 でも、そのあとは歓声になって、ますます盛り上がる。ヤマセンブルグの王室は愛されてるんだ!

 

 え?

 

 一瞬、目を疑った。

 速度制限の標識の向こうにシルエットのドアーフが走っている標識が立っている。

 ほら、日本だったら『子供の飛び出しに注意』的なやつ。

 しばらく行くと、今度はエルフ、次はティンカーベル的な。

 四つ目を見た時にソフィーに聞いた。

「あれって?」

「ああ、妖精の飛び出しに注意の標識よ」

「え?」

 それ以上は、沿道の人たちに応えるのに忙しいまま、車列は宮殿の正面ゲートに入って行った。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
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せやさかい・339『ヤマセンブルグへ』

2022-08-16 09:43:28 | ノベル

・339

『ヤマセンブルグへ』留美  

 

 

 大砲というのは撃った後もすごい。

 

 ワンオクロックガンは、一時の時報を撃ったあとも、砲口からモワ~っと煙を吐いて、一仕事終えた後の一服の煙みたいなんだけど、電柱の太さほどの筒先から漂い出てくる煙は、ちょっとした狼煙という感じ。

「あれは、時報のための空砲で、弱装薬だら、実包の半分もないよ」

 メグリンは、さすがに幹部自衛官の娘さん、動じません。

 

 その実包の発射直後を思わせるような顔で、ソフィーが戻ってきた!

 

「ソフィー!」

 声を上げて抱き付いたのは、さくら。

 わたしとさくら、それに頼子さんは分かっている。

 三年前の、ソフィーの壮絶な戦いを知っているから。

 

「Run away! dont look back!」

 ソフィーは、杖を持った右手を闇に向け、一瞬横顔を見せて叫んだ!

 ワオオーーーーーーーン ワオオーーーーーーーン

 地下からのうめき声は、もう、すぐ下の階層まで上って来ていて、いまにもわたしたちを呑み込んで地獄の底に引きずり込んでしまいそう!

「殿下!」

 ジョンスミスが懐に抱え込むようにして、地上への階段を駆け上がる。

「ソフィア!!」

 渾身の叫び声で、気遣う頼子さんを押し上げるようにして、わたしとさくらも地上に急ぐ!

 ガチャピーーーーーン!

 地下一階まで上がると、待機してたマスターはドアを閉める!

「ソフィアがあああああ!」

「閉めておかないとお祓いができない!」

 ジョン・スミスが目を吊り上げる。

 その直後、扉の下では、まるで台風と火山の噴火が一度に来たような音がして、頑丈な樫のドアを取付金具ごとガタガタと震わせていた。

 頼子さんとジョンスミスは、早口で神の御名を讃えながら幾度も十字を切って、さくらはナマンダブを、わたしは「お母さんお母さん」を繰り返す。

 一瞬、音と振動が緩んだ隙に、ドアを蹴破るようにしてソフィーが、やっと上がってきて、それから、何分か何十分か、地上の六人でドアを押して、そしてやっと凌いだ(053:『エディンバラ・9』)

 

 三年前のソフィーと自分たちの姿が蘇った。

 

 そうだ、ソフィーは三年前の勝負に決着をつけてきたんだ。

 ソフィーは、ヤマセンブルグの諜報部員で頼子さんのガードで、いつのまにか少尉の軍服がよく似合う軍人さんになっていたんだ。そして王室付き魔法使いの末裔でもあって、そういうことであるための義務を、たったいま果たしてきたんだ。

 でも、でも、わたしたち散策部のメンバーでもあり、学校の先輩でもあり、ううん、姉妹同然の仲間だから、さくらは瞬間で飛びついて涙でグチャグチャになってるんだ。

「殿下、これで、後顧の憂い無くヤマセンブルグに向かえます」

「ご苦労でした、ソフィア少尉」

 この三秒間だけ公式のやり取りをして、ちょっと遅いランチを食べに行った。

 

 そして、今朝は二機の飛行機に分乗してヤマセンブルグに向かっている。

 

「どうせやったら、みんな、おんなじ飛行機に乗ったらよかったのにぃ」

 ちょっとむくれ顔のさくら。

「複数のVIPを移動させるときは、複数の機体を用意するのが警護の常識だよ」

 メグリンが指を立てる。

「わたしとお祖母ちゃんが、いっぺんにお陀仏になるわけにはいかないからね」

「そんな、縁起でもないことを(^_^;)」

「リスクマネジメントの常識」

「ああ、ソフィーはすっかりガードモードになってしもてるしぃ」

「でも、正式な王女になるって大変なのね、わたしが大学出るのは二年後だけど、頼子さんに比べたら、まだまだノホホンとしてるもんね」

「せやせや、まだまだ先の話やのに外堀埋めるのん早すぎやよ、頼子さん!」

「賢い鳥はね、風に合わせて羽ばたくんだぞ」

「ソフィー、今日は操縦せえへんのん?」

「ジョンスミスが女王陛下の方に行っちゃって、こっちはメグさんの操縦なんだけど、メグさんは教官のライセンス持ってないから」

「あ、そうなんや」

「エディンバラじゃ、あんまり遊べなくてごめんね」

「ううん、あちこちは行かへんかったけど、中身は濃かったし」

 うんうん(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)と揃って頷く。

『着陸態勢に入ります、シートベルトをお願いします。ちょっと気流に乱れがあるようなんで、下噛まないようにしてください』

 メグさんのアナウンス。

 エディンバラからヤマセンブルグは拍子抜けがするくらいに早い。

 まあ、今回の旅は日本から三日もかかっちゃったから、余計に短く感じる。

 

 ガクンガクン

 

 武者震いをするような音をさせながら、飛行機は着陸態勢に入って行った……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 
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せやさかい・338『ワンオクロックガンが鳴るまでに』

2022-08-15 10:44:21 | ノベル

・338

『ワンオクロックガンが鳴るまでに』詩(ことは)  

 

 

 三年前、エディンバラとヤマセンブルグの旅行から帰ってきたさくらは夢の続きにいるようだった。

 魂を置いてきたみたいに、ボーっとして、時々口を半開きにして、ニヘラニヘラと笑っていた。

 お父さんの失踪宣告がされて、お母さんの歌叔母さんとうちの家にやってきたころは、どこか緊張が抜けないで、笑うにしろ喋るにしろ、どこか硬くてぎこちなかった。

 母親の実家だとは言っても、生まれ育った家と街と苗字を捨ててやってきたんだ。やっぱり馴染むまでは大変だった。

 そのぎこちなさが抜けて、持ち前の明るさと好奇心で、本当の家族、姉妹同然の従姉妹に成れたのは、まちがいなく、あの旅行の後だった。

 たまたま、あの時期だったのか、あるいは十日余り我が家を離れたことがよかったのかとか思っていた。あまり旅行そのものに意義があったとは思っていなかった。

 でも、夕べ、ミリタリータトゥーに参加して、やっぱり、あの旅行は特別だったんだと身をもって知った。

 

 観る側も演る側も距離が近い。

 日本のライブやコンサートでも似たような熱狂はあるんだけど、微妙に違う。

 例えば、文化祭などで、身内や友だちが舞台に立って熱狂する……近いんだけど、ちょっと違う。巨人阪神戦のときの阪神タイガースとファン……やっぱ違う。吹部の部活で、一曲仕上げた時……ちょっと近いかも。

 最後に全員で国歌である『ゴッド セイブズ ザ クイーン』を合唱して、そのまま最後の最後に『Auld lang syne』を参加者全員で合唱。メロディーは、そのまんま『蛍の光』で、中身も友との別れを惜しむ歌。日本で感じるアナクロな感じがまるでなくって……たぶん、日本の『蛍の光』も昔はそうだったんだ。紅白歌合戦……て、ここ何年も見てないんだけど、あの最後に『蛍の光』やってた。紅白で馴染める歌はAKBぐらいのものだったけど、大晦日の夜、なんとなく流れてる紅白の『蛍の光』は馴染みがあった。

 ヒルウッドのお屋敷には古い習慣が残っていて、朝、ゲストルームのドアの下にタイムズが滑りこませてある。

 タイムズというのはイギリスの代表的な日刊紙。世界中の『~タイムズ』という新聞の名前は、ここからきている。ま、日本で言うと『~銀座』の御本家が東京の銀座であるようなもの。

 わ……

 小さく声が出てしまった。さくらなら「ギョエ!」とか叫んでると思う。

 頼子さんと女王陛下のことが、三段の記事になって載っている。

 拙い英語力では細かいニュアンスまでは分からないんだけど、大意は分かる。

 almostやprobablyの後に、頼子さんが正式に王女になる日が近いことを書いている。

 写真も、女王のソロ ⇒ 二人でステップ ⇒ 頼子さんのソロ という順序になっていて、代替わりを暗示している。

 さらに拾い読みすると、バックダンスのことにも触れてある。

 女王のバックダンス ―― ジョン・スミス大佐  マーガレット少佐(メグさん)

 王女のバックダンス ―― ん?

 名前は書いてないけど、あきらかにソフィーとソニー。

 そうか、二人とも職務上名前を出せないんだと納得。君主だけではなく、ブレーンの世代交代を暗示している。

 

「さあ、明日にはヤマセンブルグに飛ぶので、今日は一日エディンバラを楽しんでくださいね」

 朝食の席でメグさんはソフィーの前に車のキーを置いた。

 

 エディンバラは京都市と姉妹都市で、世界文化遺産の代表でもある。

 当然、見るべきところは山ほどあるんだけど、今日一日だけというと見る場所も限られてくる。

 もし、外国の友だちがやってきて、一日ガイドするとしたら……我らが堺の誇りのごりょうさん!

 ごりょうさんというのは、地元堺の呼び方で、教科書的には仁徳天皇陵。

 でも、ごりょうさんて、傍で見たらただの森だからね。それに中に入ることもできないし。

 やっぱ、道頓堀と大阪城でしょ。

 この感覚をエディンバラに置き換えて、ロイヤルマイルを通ってエディンバラ城に行くことになる。

 

 ロイヤルマイルはディズニーランドのワールドバザールの感じ。

 石造りの家やお店が軒を並べていて、足もとは伝統的な石畳。それが、丘の上のエディンバラ城の大手門まで続いている。真っ直ぐと言っても微妙にS字に曲がっている。

 おそらく、攻めてきた敵の見通しを悪くするためだと思う。でも、ニ十一世紀の今日、観光客であるわたしたちには、おとぎの国、あるいは、アクションRPGの『始まりの町』めいていてワクワクする。

 中学の頃はSAOにハマっていた。

 ログアウト不可のフルダイブ型仮想現実世界に閉じ込められるのはごめんだけど、こうやって歩いていると、自分がアスナになったような気がする。

「ごめん、これから行かなきゃならないところがあるから、あとのガイドはソニーの任せるわ」

 左へ曲がったらエレファントハウスというところでソフィーが立ち止まった。

「お姉ちゃん!」

 いつもは対抗心むき出しで「ソフィー」と呼び捨てするのに、心配な声で、妹らしく呼びかけるソニー。

「大丈夫よ、しっかり案内するのよ。ワンオクロックが鳴るころには合流できる。では、殿下」

 私服なんだけど、そこだけビシッと敬礼して人波に紛れていくソフィー。

「じゃ、案内お願いね」

 ソニーに振ると、頼子さんは、わたしたちを先導して大手門への道を歩き出した。

 

 ミリタリータトゥーはまだシーズン中なので、観客席はそのままで大手前広場は、ちょっとした谷底。

 この感じ、ちょっとデジャブと思ったら、お祖父ちゃんと見た『ベンハー』の競技場がこんなだった。

 お城の展示物や、コスプレのスタッフなんか興味深かったけど、このお城の売り物はスコットランドそのものだと思う。

 大阪城も石垣の縁に立てば、大阪平野が一望なんだけど、大阪平野には特別な感動は無い。

 生駒金剛と六甲の山並みに画されたところに、境界も分からない街並みが広がっていてとりとめがない。

 スカイツリーから見える東京をデススターみたいだと形容した外国のあんちゃんがいたけど、大阪も似たり寄ったり。

 デススターはあんまりだろうと、その時は思ったけど。エディンバラ城の胸壁に立つと実感できる。

 街というものは境目があるものなんだ。

 それが、スコットランドでは明瞭なんだ。

 こうやって、家の窓とか校舎の屋上とかから見ていたら、街に対する、大げさに言えば郷土愛が違ってくると思った。

 大阪の街は、マンホールの蓋を見なければ町を越境したことも分からない。

 

 キリスト教がローマの軍隊と一緒に入ってくるまでは、イギリスに限らず、ヨーロッパは日本と同じく神々の国だった。エルフやらドアーフやらが息づき、魔法使いや錬金術師なんかも平気で存在していた。

 それが「あ、そうなんだ」と納得してしまう空気が、ここにはある。

 おそらくは、外人さんが京都の街を歩いていて、新選組とか坂本龍馬が出てきそうと思うくらいのミーハーな感覚。

 わたしごときには分かりようも無いのかもしれないけれど、真子様が留学先に選ばれたのももっともな気がする。

 

 ドーーーーン!

 

 ぼんやり、そんなことを感じて胸壁に立っていると、突然の大砲の音に心臓が口から飛び出しそうになった。

「あ、ワンオクロックガン!」

 エディンバラでは、午後一時になると本物の大砲が鳴らされる。それが、このエディンバラ城の胸壁にはあるのだ。

 さくらたちは三年前には発射するところを見られなかったようで、ちょっと他人のふりをしたくなるほどのハシャギよう。

「もう、みんな恥ずかしいんだからぁ……」

 文句言いながら寄っていくと、大手門の方からソフィーが現れた。

 ソフィ……

 みんな、呼びかけた言葉がフリーズしてしまう。

 服装こそ乱れは無かったけど、目つき顔つきは、持てる限りのHP、MPを使い果たし、やっとのことでラスボスをやっつけた魔導士のようだった……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 
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せやさかい・337『本番』

2022-08-14 15:04:40 | ノベル

・337

『本番』さくら    

 

 

 いよいよ本番。

 

 エディンバラに来てからは、スコティッシュダンスの練習がメインで、まだろくに観光とかはできてない。

 レッスンの休憩時間に三十分ほどメインストリートであるロイヤルマイル(エディンバラ城に続くメインストリート)をぶらつく程度。

 それでも、ミリタリータトゥーの本番が終わったら、あっちに行こう、こっちを見ようと計画。それだけでも、けっこうおもしろい。よう言うやんか「旅行は計画を立てている時がいちばん楽しい!」て。

 その旅行案内が、パンフでもなく、VRでもなく、リアルに目の前にあって、毎日「あーでもない、こーでもない」とお喋りできるのは贅沢なことやと思います。

 昨日は、特別にアンソニーさんがお昼をご馳走してくれはった。

 実はね、一昨日の昼休みに知ったんやけど、ハリーポッターが書かれたエレファントハウスいうカフェが、去年の暮れに火事で焼けたのを知ったんです。

 ええ、うっそぉぉぉぉ!!

 女の子が驚くと、たいていこの叫び声になります。

 みんなでムンクの『叫び』みたいな顔になってしまう。

 アンソニーさんが連れて行ってくれたのは、昔の貴族さんのお屋敷を改造したレストランやねんけど、それ書いてたら肝心の事が書かれへんので、今は置いておきます。

 

 そう、今日の主題はミリタリータトゥーなんですわ!

 

 今年は、観客として観てるんやなくて、自分自身が出場者やおまへんか!

 出番はラストの一つ前。

 地元のスコティッシュダンスの一団に混じってお城の大手門から出て大手前広場に並ぶ。

 みなさんと一緒にワンコーラス分踊るんですわ。まあ、盆踊りのノリですね。

 一曲終わって全員で決めポーズになって、アナウンスが入る。

『ご来場のみなさん。本日は、日本の高校生グループがいっしょに参加してくれています! 日本は大阪の聖真理愛学院高校のみなさんです!』

 もう、これだけで「「「ウワア!」」の歓声ですわ(^_^;)。

 すると、地元のみなさんが、わたしらを残して輪にならはります。

 自動的に、真ん中に残ったうちら六人(さくら、コトハ、留美、メグリン、ソフィー)は、晒し者みたいにスポットライトをあてられて、もっかいワンコーラス。

 ほんまやったら、河内音頭の一発もかましてみたい気になるんですが、グッと堪えて真面目にやります。

 実は、言われてたんは、ここまでで、あとの展開は分かりません。

 このままやったら24時間耐久スコティッシュダンス! まさかね(;'∀')!?

 すると、わたしらの後ろで、ハードシューズのステップの音!

『みなさん、我がスコットランドの友邦であるヤマセンブルグ女王陛下のソロステップであります』

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 なんや、ものすごいことになってきました!

 踊りながら目の端でチラ見する……え、これが、あの女王陛下!?

 伝統のタータンチェックのキルトで軽やかに踊らはる姿は、いつもよりニ十歳は若く見えます!

 陛下の脇には、同じキルトの衣装でバグパイプを吹いてるジョン・スミスとメグさん。

 うちらは、所定の位置で、言われた通りステップを踏んで踊りまくる。

 すぐに、陛下が、うちらの前に出てきはって、うちらは自動的にバックダンサー。

 正直、バックダンサーの方が気ぃ楽(^_^;)

 それにしても、メッチャハツラツの女王陛下。スピンして、うちらの方を向くときは、一瞬のウィンク。

 いやはや――やったったー!――いう感じのドヤ顔クィーンですわ!

 

 で……これだけやないんです。

 

 大手門から、陛下と同じコスのネエチャンが現れて、小走りで陛下の横に立ってステップを踏み始めた。

『みなさん、ヤマセンブルグのプリンセス、ヨリコ・スミス・メアリー・アントナーペ・エディンバラ・エリーネ・ビクトリア・ストラストフォードエイボン・マンチェスター・ヤマセン殿下の登場です!』

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 もう、何回目か分からん歓声が起こる!

 それで、ワンコーラス終わると、女王陛下は優雅に退場されて、頼子さんのソロになる。

 いつの間にか、ソフィーが抜けて、ソニーといっしょに頼子さんの横でバグパイプを吹いてる。

 うちらは、ひたすら三十秒でワンクールのステップを踏むだけやけど、頼子さんのそれは、千変万化!

 上げる足は90度どころか、もう頭の高さまで上がってるし、後ろに跳ねた足は、自分のお尻を蹴るんちゃうかいうぐらいやし、クルクル回る時は、お正月のコマみたいやし!

 そして、バグパイプは再びジョンスミスとメグさんに引き継がれ、ソフィー姉妹は頼子さんの横で、負けへんくらいのステップを踏んでる。なんや、新しい主従のお披露目みたい。

 

 え……これって、あきらかに、ヤマセンブルグ王室の代替わりを暗示してる。

 すると、それまで周りで輪になってた地元の皆さんが入ってきて、ドガチャガの群舞になってしもた。

 いよいよ、エディンバラもクライマックスの予感。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

 

 

 

 

 

 

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せやさかい・336『早起きグッジョブ』

2022-08-13 11:22:48 | ノベル

・336

『早起きグッジョブ』詩(ことは)    

 

 

 予備知識が無かったら軽く見ていたと思う。

 

 エディンバラのミリタリータトゥーと言うのは、まあ、ライブですよ。

 スコットランドの中心であるエディンバラ城の大手前広場に臨時の観客席を作って、八月の二週間あまり、夕方から夜にかけて大手前広場でくり広げられるライブイベント。

 元々は、第二次大戦の後、戦勝国とはいえ疲弊した国民のために、スコットランドとイングランドの連隊が軍楽隊や儀仗兵を動員して実施したイベント。雰囲気としては、オリンピックの閉会式の雰囲気に似ているかな。

 軍隊の主催だから、軍楽隊のパレードや演奏が主体。スコッチウィスキーのラベルみたいな、熊の毛皮の帽子にタータンチェックのキルト(女子高生のスカートみたいな)を身に着けた兵隊さんたちが、ノシノシとパレードしながら演奏するのは壮観です。

 駅前広場は、サッカーコートぐらいしかないので、突き当りまで行ったらパレードごと回れ右して所定の位置に着く。

 すると、次のグループというか部隊がパレードして来て、同じように所定の位置に着く。

 何曲か演奏すると、次の出し物の部隊やグループがやってきてパフォーマンスを繰り広げる。

 出場するのは、イギリスだけじゃなくて、世界中から40か国以上の軍楽隊やグループがやって来る。何年かに一度は日本の自衛隊も参加して、評判をとっている。

 中高と六年間吹奏楽をやっていたので、さくらたちよりは深くのめり込んでしまう。

 軍楽隊というのは、ブラスバンドだから、思わず自分のパートであったサックスを探してしまう。

 探すんだけど、バグパイプに目と耳を持っていかれるのは、やっぱり伝統の力なのかも。

 お母さんが言っていた『丘の上の王子さま』がバグパイプじゃなくて、サックス吹いていたら、キャンディーの人生は違ったものになっていたかもしれない。

 半年前、大和川の河川敷で久々にサックスを吹いてみた。

 あれが、サックスでなくってバグパイプだったら、キャンディーみたいな子が現れて、ちょっと面白くなったかも。

 いや、居るよ。

 さくらですよ。

 キャンディーみたいなブロンドじゃないし、グリーンの瞳でもないけど、そばかすはある。

 なによりも、あの明るさと好奇心は、アドバンテージだと思う。「さくらって、キャンディーみたいね」と言ってやったら、どんな顔をするだろう? イチビリさんだから、キャンディーのコスプレとかしてハローウィンの心斎橋なんかに行ってしまうかもしれない。

 

 この三日のレッスンで、初歩的なスコティッシュダンスはこなせるようになった。

 ブキッチョなわたしが踊れるようになったのは、さくらたちのノリが良かったこともあるけど、インストラクターのアンソニー先生の教え方が上手いから。さくらは、イケメンだということにアクセントを置いてるけどね。

 このエディンバラとヤマセンブルグの旅行は有意義だ。って、まだ半分なんだけどね。

 さくらたちと一緒に居ると、毎日がサプライズ。

 頼子さんなんて、身分的には王女様同然なんだけど、毎日、なにかしらの楽しみを見つけて生きていくのはさくらたちと同じ。旅行の前半で三回も「ゲゲゲ!」と叫んでいたしね。日本に帰ったら『ゲゲゲの王女さま』って小説を書いてなろう系サイトに投稿してみようかしら。

 

「あら、コトハ、もう起きてらっしゃたの?」

「あ、陛下!?」

 

 早く目が覚めてしまって、朝焼けの庭に出たら、なんと女王陛下に出くわしてしまった。「おはようございます」も言い忘れるくらい、ビックリして気を付けしてしまった。

「早起きがクセになるには50年ほど早いわよ」

「あはは、つい、ついですよ。お寺で行事がある時とかは早く起きて手伝うこともありますから」

「そうだったわね、あなたはお寺の娘さんだったわね」

「は、はい、不信心者ですが」

「ふふ、謙遜なんでしょうけど、それぐらいがいいわ。若い時に深すぎる信仰心を持っちゃうと、ジャンヌダルクになっちゃう」

「そうですね、火あぶりにはされたくないですから」

「フフ、あなたたち、上達が早いって、アンソニーに聞いたわよ」

「は、はい、アンソニー先生の教え方がいいんです」

「そうね、それに、みんなで楽しくやろうという積極性だと思うわ。アンソニーも『教えていて楽しい』って言ってましたよ」

「あのう?」

「なにかしら?」

「陛下は、いっしょにレッスンとかなさらないんですか?」

 ジョギングはいっしょなんだけど、この三日、レッスンではお会いしていないので聞いてしまった。

「国家元首だから、みっともないところは……ね、恥ずかしいでしょ」

「あはは」

「大丈夫、完成品は、ちゃんとお目にかけますからね」

「あの……ヤマセンブルグの女王様が、どうして、スコットランドのフェスティバルに出られるんですか?」

「ヤマセンブルグの王族がイギリス国籍も持っていることは知っているわよね?」

「はい、頼子さんから聞きました」

「ヤマセンブルグは、その建国に当って、ずいぶんイギリスに助けられましたし、イギリスの戦争にも関わってきました。このスコットランドにもね。その縁でというか都合でイングランドやスコットランドの人間として扱われたこともあるのです。出自はスコットランドの辺境伯でしたしね。まあ、独立の気概を表すために、国王一人は、即位と同時にヤマセンブルグの国籍一本になるんですけどね」

「そうだったんですか。あ、でも、ミリタリータトゥーに参加されるって凄いことだと思います。ミリタリータトゥー自体、とってもいい行事だと思いますし」

「そうね、戦後すぐに始まったイベントだけど、国民から支持されて、良く続いています」

「元々は、軍隊が国民を慰め励ますために始まったイベントなんですね」

「そう、国民も軍隊もよくやっています」

「はい、日本では考えられない行事ですね」

「それは違うわ」

「え?」

「日本では、エンペラーがなさいました」

「は?」

「エンペラーは、戦後二十年あまりかけて全国を周られて……日本語では『巡幸』ですね、直接国民を励まし慰められました。あの真似は、他国の王族では、ちょっと無理でしょうね」

「……そうなんですか」

 ちょっと盲点だった。

「そうですよコトハ、古来、敗戦に耐えられた王室は天皇家だけです。これは、GHQが占領政策のために残しただけでは説明が尽きません。日本人は、もっと誇りに思っていいことです」

「はい」

 我ながら、神妙な「はい」が出てしまった。

「あ、バグパイプ」

 控え目にバグパイプが鳴り出したかと思うと、庭の端っこで、アーネストさんのバグパイプに合わせてスコティッシュダンスの練習をしているソフィア姉妹が目に入った。

「あの二人も踊るんですか?」

 レッスンにも付いてこないし、てっきりバグパイプ要員だと思っていた。

「はい、あの二人には両方やってもらいます」

 大変だ……とは思ったけど、庭のお花畑の向こうで踊っている姉妹は、朝露の妖精のように見えた。

 

 それから、こんなにスムーズな会話ができたのは、陛下自身日本語がおできになるだけではなく、女王陛下の後ろで適宜通訳してくれたマーガレット少佐(ほら、あのメグさん)が居たからです。

 通訳しながらも、気配すら感じさせない。いやはや、ヤマセンブルグの諜報部はグッジョブです。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

 

 

 

 

 

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せやさかい・335『ハードシューズ』

2022-08-12 13:31:28 | ノベル

・335

『ハードシューズ』さくら         

 

 

 その昔、おばちゃんが子どもの頃に『キャンディキャンディ』というアニメが大人気やった。

 

『ポニーの家』という孤児院にキャンディーという、ブロンドでツィンテールの女の子がおった。

 活発で元気なキャンディーは、孤児院の近くにある丘が大好き。遊びに疲れた時や、悲しいことがあった時は、この丘に上がって風に吹かれている。

 ある日、丘に上がっていると、どこからともなくバグパイプの音色が聞こえてきて、キョロキョロ探していると、木の陰から現れたのが『丘の上の王子さま』やねんて。

 その時、少しだけ話せたことが、キャンディーの支えになって、いつか再開することが夢になっていく。

 苦しいとき、悲しいときは、この『丘の上の王子さま』を思い出して、苦労しながらも明るく元気に波乱万丈の人生を生き抜いていくキャンディー。

 そんなキャンディーは、当時の女の子のハートを鷲づかみにした、少女アニメの金字塔……なんやそうです。

 

 昨日の朝食の時、執事のアーネストさんがソフィー姉妹といっしょに、朝食のBGMと練習を兼ねてバグパイプを演奏してくれてた。それが、たまたま繋いだスカイプで聞こえたもんやから、テイ兄ちゃんを押しのけておばちゃんが聴きいったという次第。

「え、わたしが丘の上の王子さまなのですか!?」

 その話を頼子さんから聞いたアーネストさんは目を丸くして驚いた!

「『丘の上の王子さま』というのはね……」

 さらなる説明をしようとしたら、アーネストさんは、頬を染めて、こう続けた。

「わたくしは、とてもとてもアルバートおじさんなどでは……(n*´ω`*n)」

「「「え、アルバートおじさん?」」」

 え、うちらは『丘の上の王子さま』の話をしてるんで、アルバートなんちゅうもんは……

 ところが、話が進むと分かったんです。

 アーネストさんも、子どもの頃に妹たちといっしょに英語吹替版の『キャンディキャンディ』を見てはったんですわ!

『キャンディキャンディ』は『ベルばら』と並んで世界的なアニメやったんですねえ。

 波乱万丈の最終回に、丘の上の王子さまはアルバートさんやいうことが分かるんやけど、あたしは『キャンディキャンディ』知らんし、ネタバレになってもあかんので書きません。

 せやけど、地球の裏側同士で、同じ時代に同じアニメ観てて、ウン十年後に感動を共有できるのはスゴイと思いません!?

「おかげで、練習がきつくなったんだけど」

 ゴルゴ13に娘がおったら、こんなんやろいうくらいの仏頂面でソフィーにグチられた(^o^;)。

「如来寺のおばさんが独身だったら、ドラマが始まったかもね……」

 むりやりパソコンの前に座らせられたアーネストさんは、もう真っ赤っか!

 アーネストさんは、若いころから執事の仕事一本の人で、チャンスが無かったのか、いまだに独身。

「おばちゃんが独身やったら……」

 アーネストさんが二分そこそこで出て行ったあと、画面のおばちゃんを冷やかしてみる。

「オバサンをからかうもんじゃありません」

「せやかて、おばちゃんきれいやんか!」

 これは本心。

 子どもの頃から心の中でお母さんと比較してたんやけど、二割り増しくらいでおばちゃんの方がきれい。

「アハハ、じゃ、これからお洗濯だから」

 明るくスカイプを切るおばちゃん。

 

 ジィィィィィ

 

「なによ、さくら」

 思わず、詩(ことは)ちゃんの顔を見てしまう。

「おばちゃんて、詩ちゃん似やねんね」

「それって、逆だよ(^_^;)」

 留美ちゃんが注釈。

 けど、うちの頭の中では、整合性がとれてるんです。どっちも同じDNA、モテることに違いは無い。

「あ、でもね、うちの兄貴もお母さんのお腹から生まれたんだよ」

「あ、せやった!!」

 テイ兄ちゃんと同じ遺伝子もおばちゃんは持ってるわけで、あのおばちゃんにも変態の資質が!?

「もう、バカなこと言ってないで、レッスンの車出ちゃうわよ!」

 

 スコティッシュダンスの練習も三日目です。

 

 ダンスの先生はアンソニーいう若いニイチャンやねんけど、教えるのがメチャ上手い。

 頼子さんは、小さいころに習ったことがあるらしく。アンソニー先生から指導されることは無くって、先生の助手みたいな立場に立って、主に、うちと留美ちゃんを教えてくれる。

 つまり、二人の先生で四人の生徒を教えるから、効率がよくって、昨日の終り頃にはサマになってきた。

 そのアンソニー先生が、頼子さんに一足の靴を渡した。

 それも、跪いて王女様に渡すみたいに……って、もともと王女様(正式やないけど)やねんけど。

「今日からは、これで練習してください、殿下」

 語尾にも殿下を付けた!

 むろん英語やねんけど、うちらも聴き慣れた「Your Highness」が付いてたからね。

「ゲゲゲ!」

 頼子さんは、ここへきて三度目のゲゲゲのヨリコ!

 それは、うちらが履いてる「ソフト」言われるダンスシューズと違って、カッチリした革靴になってる。

 グイっとかえした靴底には、つま先の方に硬くて分厚い皮底が付いてる。その名もハードシューズ!

「やっぱり、いよいよなのね……」

「はい、いよいよです、Your Highness!」

 アンソニー先生の目は、舞踏会にシンデレラを誘う王子さまみたいやった!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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せやさかい・334『バグパイプと丘の上の王子さま』

2022-08-11 11:33:55 | ノベル

・334

『バグパイプと丘の上の王子さま』さくら   

 

 

 朝食の食卓に着くと同時にバグパイプが鳴り出した。

 

 みんなも「あれえ?」いう顔で、座りかけた腰を上げて窓の方を向く。

「ああ、アーネストさんだわ」

 頼子さんは、一瞬で確認すると――こっちこっち――と目でサイン。

「練習かねて、朝食の間やってくれてるんだわ。彼も、どうやらかり出されるみたいね」

 アーネストさんは、このお屋敷の執事。サッチャー……イザベラさんは女王陛下に付いてるメイド長やけど、アーネストさんはお屋敷に付いてる執事さん。

 イザベラさんは女王陛下に付いて、夏の間だけここに居てるけど。アーネストさんは、陛下の移動に関係なくお屋敷に居て、維持管理と運営を任されてる。

「バグパイプの演奏付きって、素敵で贅沢ねぇ」

 詩(ことは)ちゃんの目ぇがへの字になる。

「あはは、うちの朝は、どないかしたらお経のBGやもんね」

 留美ちゃんが、いっしょにウフフと笑う。留美ちゃんも、すっかり如来寺の子ぉです。

「両方ともいいですよ、お経もバグパイプもライブですからね……」

 多くは語らへんけど、メグリンは一人でご飯食べてるときが多いんちゃうやろか。

 うちも、小6までは母子家庭で、半分くらいは一人飯やったから、雰囲気で分かる。

「さあ、さっさと食べちゃおうか、今日も予定がいっぱいだよ!」

「「「「はい!」」」」

 

 昨日は、ジョギングの後、シャワーしてから、ジョン・スミスの運転でエディンバラの街に。

 せやけど、前みたいに観光やないんです。

 ミリタリータトゥーのための衣装合わせ。

 さすがにオーダーメイドやないねんけど、試着した上で部分的な補正が入る。

 詩ちゃんはウエスト、メグリンは胸のタック、頼子さんは肩のとこ、うちはスカート丈を補正……そうですよ、うちのんは、3センチも丈を詰めました!

 留美ちゃん一人だけは、補正無しのピッタリ。ま、こういうこともある。

 それが終わって、昼からはスコティッシュダンスの練習。

 練習の前と後に、ちょっとだけ時間があって、ロイヤルマイル(エディンバラ城に続くメインストリート)を、ちょっとだけ散歩。

 今日も似たようなスケジュールやねんやろね。

 

 朝ごはんが済んで、部屋に戻る。

 

 今年は、頼子さんの希望で、みんな揃って大部屋に寝泊まりしてます。

「あれ、バグパイプ、まだ続いてる」

「というか、増えてない?」

 雁首揃えて窓の下を見る。

 なんと、ソフィーとソニーの姉妹もやってるやおまへんか!

「お祖母ちゃん、どこまで広げるつもりなんだろぅ」

 呆れたり、素敵に思ったりしてると、頼子さんのパソコンが着信のシグナル。

「あ、テイ兄ちゃんからだよ。スカイプやっていいかって」

 よくない!

 言おうと思ったら、すでに頼子さんは、スタートのボタンをクリックしてた。

 クソ坊主の話は割愛やねんけど、途中でおばちゃんが割り込んできた。

『ねえ、バグパイプが聞こえてるわよね!』

 おばちゃんらしからぬハイテンションで、画面に現れる。

「おばさま、バグパイプがお好きなんですか?」

 プリンセススマイルで頼子さん。

『うん、そうよ、頼子ちゃん! バグパイプって言ったら《丘の上の王子さま》なんだからね!』

「「「「「丘の上の王子さまぁ?」」」」」

 みんな、ぜんぜん分かってへんねんけど、おばちゃんの喜びようは、こっちまで嬉しくなってくる。

 別にマイクを付けてカメラを持ってバルコニーまで出て、ちょうどソフィア姉妹に見本を見せてるアーネストさんを激写する。

 あとで「丘の上の王子さまなんだって!」と、頼子さんが伝えてあげると、少年のように頬を染めるアーネストさんが、とっても可愛かったです(^▽^)/

 

 で、『丘の上の王子さま』ってなんやろ?

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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せやさかい・333『スッスッ ハッハー』

2022-08-10 11:17:27 | ノベル

・333

『スッスッ ハッハー』さくら   

 

 

 スッスッ ハッハー スッスッ ハッハー

 

 体育の長瀬先生に習った呼吸法で、朝からランニング。

 ほら、例のおそろのジャージ着てね。昨日、女王陛下とサッチャー、いやイザベラのおばはんが着てたのと同じやつ。

 ジャージ言うても組み合わせは自由。

 長袖長パン、半そでにハーフパンツ、ショートパンツ、タンクトップと揃てるんです。

―― 体調に合わせてお召しになればけっこうでございます。一式だと、かなりかさばりますが、帰国される時には別便で、領事館、あるいはそれぞれのご自宅に送らせていただきます ――

 そう説明してくれたんは、ソフィーを一回り小型にしたようなメイドさん。

「ソニー!?」

 頼子さんが目を剥いて驚いた。

「ご無沙汰いたしております、殿下。ご滞在中、姉のソフィアに成り代わりお世話させていただきます」

「ソフィーは?」

「はい、エディンバラには居りますが、軍務もございますので、行き届かない分を、わたしが務めさせていただきます」

 せや、ソフィーはヤマセンブルグ軍の少尉さんでもあったんや。

「みんな、紹介しておくわ」

「いえ、自己申告いたしますわ。ソニア・ヒギンズと申します。殿下がお呼びになったようにソニーと呼んでくださいませ。ソフィアの妹ではございますが、国籍はイギリスでございます。英国王室のメイドではありますが、相互研修制度に基づき、ヤマセンブルグ王室で研修させていただいております。このあと、スィティングルームで午後のティータイムでございます。特にドレスコードはございませんが、陛下のご体調に合わせてエアコンは低めに設定しておりますので、お気をつけくださいませ。それでは、30分後にお迎えにあがります。なにかご不自由なことがございましたら、内線の007で呼び出してくださいませ。失礼いたしました」

 優雅に頭を下げると、ソフィーの妹は静かに退出していった。

「顔は似てるけど、ぜんぜん感じちゃうねえ」

「日本語だってペラペラだし」

 留美ちゃんと二人で感心する。ソフィーは今でこそネイティブ日本人みたいに喋るけど、三年前は会話には翻訳機使ってたし、語尾に「です」を付けるクセが直るのは日本に来てからやった。

「ソニーは魔法が使えないからね。その分、学習能力と身体能力は姉以上。そっか、国籍変えたんだ……」

「ソフィー先輩。魔法使いだったんですか!?」

「うん、ハリポタみたいなことはできないけど、いろいろと少しはね……」

 うちは憶えてる。エディンバラのパブの地下で悪魔と戦ったソフィーを。勝ったとは言い難いけど、ボロボロになりながらも、頼子さんとうちらを守ってくれたしね。

「ソフィーは、いっしょには行動しないの?」

 すっかりお仲間意識の詩(ことは)ちゃんが質問。

「どうだろ、そっちの方は、わたしにも分からなくって。でも、ソフィーも本心じゃ、いっしょに遊びたがってるから、顔は出すと思うわよ」

 

 そのあと、ソニーの予告通り、女王陛下とティータイム。

 

「エディンバラにもウクライナから避難してきた人がいらっしゃっるの、中には日本へ行くことを希望する人も居て、そういう人たちの相手をするのには、ソフィーはうってつけですからね。ヤマセンブルグもNATOの一員、軍事的に協力できることはあまり無いけど、出来ることはお手伝いしなくてはなりません」

 日本におったら対岸の火事やけど、ヨーロッパは切実みたいや。

「で、お祖母ちゃん、あのジャージ姿なんだけど……」

「あ、そうそう。今年はミリタリータトゥーに参加します」

「「「「「ええ!?」」」」」

「ほら、ミリタリータトゥーの最後にAuld Lang Syneをやるでしょ、あれに参加するの」

 Auld Lang Syneは『蛍の光』の原曲で、スコットランドに古くから伝わるお別れの歌。

 お別れだけと違って、催し物やらパーティーの最後にみんなで歌う曲。三年前のミリタリータトゥー観に行って、最後にめちゃくちゃ感動した。隣のイギリスのおっちゃんおばちゃんらと肩組んで……ああ、思い出しただけで思い出ポロポロやし!

「参加って、最後には、みんな立ち上がって歌うでしょ?」

「違うわよ、コートで歌いながら踊るのよ、スコティッシュダンスを(^▽^)」

「ゲゲゲ!!」

 出た! ゲゲゲのヨリコ!!

「スコティッシュダンス?」

 メグリン一人冷静……というか、分かってません。

「百聞は一見に如かずよね、ソニー、お願いね」

「はい、陛下」

 ソニーがリモコンを押すと、150インチはありそうなモニターにミリタリータトゥーのAuld Lang Syneが映し出される。

 大方は、ブラスバンドやねんけど、ヨサコイみたいに民族衣装のキルトを身に着けた一団が、バグパイプの演奏に合わせて踊らはります。

 両手上げたり方手にしたり、足は休みなくピョンピョンさせて、エルフとか精霊さんが踊ってるみたいで、見てる分には楽しい。

「そう、今年は、これで参加します!」

 

 そういうことで、まずは基礎体力。

 おそろのジャージで、ホリウッドの森の中を、みんなで走っております。

 

 スッスッ ハッハー スッスッ ハッハー

 くたびれてくると、ヒッ ヒッ ハー ヒッ ヒッ ハー

「それはラマーズ法だよ(^_^;)」

 詩ちゃんに注意される。

 ラマーズ法て、なに?

 森を出るころには、いつのまにかソフィーも加わって、ソニーといっしょに走って、ええ汗をかいてるエディンバラの朝です。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 
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せやさかい・332『いよいよエディンバラ』

2022-08-09 14:08:57 | ノベル

・332

『いよいよエディンバラ』さくら   

 

 

 頼子さんは99%ヤマセンブルグの王女さま(正式には日本国籍を捨てんとなられへん)なんで、言葉が丁寧。

 

 ビックリするときも「ま!」「え!」「わ!」ぐらいの優しい驚き方をする。

 年に何回か、ほんまにビックリした時は「ゲ!?」とか「ゲゲ!?」とか「ゲゲゲ!?」とか驚き方をして『ゲゲゲの頼子』になってしもて、ああ、やっぱり、うちらのお仲間なんやぁ(^0^)とうれしくなる。

 ま、それは、ちょと置いといて。

 うちらは、ウィーンでオリエント急行を下りて、ウィーン観光は駅から空港に向かう車の中で見るだけ。空港に着いたら、そのままイスタンブールで修理しおわって飛んできた飛行機に乗って、最初の訪問地であるエディンバラに着いたわけです。

 今日で三日目になる移動で、さすがに疲れ果て、飛行機の中でも空港からの車の中でも、ほとんど寝てた。

 お屋敷は、エディンバラ市街の手前のホリウッドいう丘の上にある。

 もうちょっとで、そのお屋敷に到着という時に、頼子さんの「ゲゲゲ!?」の驚き声で目が覚めた。

「ええ、なに~~?」

 ネボケまなこでバックミラー見ると、バスの後ろの方を走ってる二人の女の人が小さく見えた。

「三年ぶりのホリウッド、懐かしいでしょうから、少し回ってからお屋敷に向かいます」

 運転手のジョン・スミスが、彼にしては長すぎる注釈をして、ホリウッドを周る道にハンドルを切る。

 小さな動物園や公園、丘の上から望めるエディンバラの遠景……それなりに「懐かしい」んやけど、長旅に疲れたあたしらは、正直、早く着いて休みたい。

 それでも十分ほどすると、ホリウッドの周回を終えて、お屋敷に向かう。

 ヤマセンブルグの国章の付いたゲートを入って、クニっと曲がると、お屋敷本館へのアプローチ。

「わ、すごい!」

 初めてのメグリンが感嘆の声を上げる。詩ちゃんはさすがに声は上げへんけど、口に手を当てて驚いてます。

 屋敷中のメイドさんや執事さんが居並んでお迎えしてくれてます。

 アキバとちゃうさかい「お帰りなさいませ、ご主人さま~」は言わへんけど、王侯貴族のお出迎え。

「ゲゲゲ!?」

 うちも、同じように驚いてしもた!

 お出迎えの正面には、ヤマセンブルグの女王陛下(頼子さんのお祖母ちゃん)が、サッチャー……いや、イザベラのおばはんを従えてにこやかに立ってるやおまへんか!?

 で、二人とも、さっきバックミラーで小さく見えたジャージ姿やおまへんか!?

 そうか、頼子さんは動物的な警戒心で、天敵を早期発見したわけなんや!

 

「ようこそ、エディンバラへ! 待ちわびたわよぉ! いまいましい流行り病のために丸二年も会えなかったけど、まあまあまあ! こんなに大きくなって! こんなに美しくなって! やっぱり、スカイプだけじゃ、ヨリコの成長や美しさは分からないわねえ! サクラとルミも元気そうでなによりです! 始めてこられたメグリ、コトハも大歓迎です! どうか、素敵な、思い出深いバカンスを過ごしてちょうだいね!」

「ほんとうに、プリンセスはお若いころの陛下そのままでございます!」

 サッチャー、いやイザベラのおばはんも、胸に手ぇ当てたりして、眠れる森の美女が結婚する時の魔法使いの婆さんみたい。

「ありがとうお祖母ちゃん、ありがとうスタッフのみんな。ここまでの旅も楽しかったけど、みんなの心のこもったお出迎えも心にしみます」

 そして、頼子さんは女王陛下とハグするねんけど、その時交わされたヒソヒソ話を、うちは気いてしもた。

『なんなのよ、このジャージ姿は?』

『気に入った?』

『さっき、このジャージで走ってたわよね?』

『安心して、あれは、すぐ洗濯にまわして、わたしもイザベラもおニューのを着てるから』

『いや、そうじゃなくて……』

『だいじょうぶ、あなたたちのも用意してあるから』

『いや、だから』

『それは、あとのお楽しみ』

『お祖母ちゃん!?』

「さあ、みんな疲れたでしょ、まずは、それぞれのお部屋でくつろいでちょうだい!」

「ご案内を!」

 イザベラのおばはんが締めくくると、みんな、一斉に「イエス、マム!」の返事をして、うちらは、それぞれの部屋に搬送されてしもた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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せやさかい・331『美しき青きドナウ』

2022-08-08 10:17:42 | ノベル

・331

『美しき青きドナウ』詩(ことは)   

 

 

 探偵ごっことかで疲れて寝てしもた。

 

 目が覚めると……ウィーン!

 ウィーン言うたら『美しき青きドナウ』やったっけ?

『美しき青きドナウ』ちゅうとウィンナソーセージが浮かんでくる。

 なんでやろ?

 せや、ウィンナワルツの代表作やいうて、音楽の時間に習ったんや。

 ウィンナ言うたら、お弁当のおかずの定番ですやんか。

 起き抜けの車窓には旅行案内のプロモ動画みたいにきれいなウィーンの街。

 トルコはエキゾチックで、タイはパゴダと緑のコントラストがすてきやった……ウィーンは、なんか、異世界系アニメが始まりそうな、赤と青の鬼娘のメイドがお買い物してそうな。タイとは違うねんけど、建物と緑の調和が美しい。

 あ、ええ匂い!?

 それこそ、ウィンナソーセージが焼ける匂いがしてきた。

「おはよう、みんな起きてるわよ!」

「早く顔洗って、食堂車いくよ!」

 留美ちゃんと詩ちゃんが、一言ずつ言って消えていく。

 コンパートメントのドアが開きッパになってて、その後も、頼子さんとメグリンが「いつまで寝とんねん」的なことを言って通り過ぎていく。

「ちょ、待って!」

 立つと、出すもん出したくなって、お手洗いに直行して、手櫛で髪を整えただけで食堂車に向かう。

 

「なにこれ!?」

 

 テーブルに載ってるのは、ちゃんとした朝食。

 スクランブルエッグにウィンナソーセージまで付いてるやおまへんか!

「食器は使ってもいいんで、戦闘糧食を温めて、それらしく盛り付けてみただけよ」

「ソフィー、すごいよ!」

「わたしも手伝ったんだからね」

 頼子さんがドヤ顔。

「一時間ちょっとで駅に着いて、そこから車で空港。もう飛行機は着いてるから、そのままエディンバラに飛ぶわよ。慌てなくてもいいけど、ゆっくりガールズトークしてるほどの時間も無いからね」

「イエス、マム!」

「私服でいる間は、そう言うのかんべんしてくれる」

 せや、飛行機に乗ったら、ソフィーは新米少尉に戻って任務やねんわ。

「でも、ウィーン素通りというのも寂しいわね」

「ウィーンの空気は吸えます。空気を知っていれば、いくらでも世界は広がりますよ」

 詩ちゃんを励ますメグリン、この前向きなとこは、お父さんに付いて引っ越しばっかりしてきた強さやろね。

 メグリンに感心したとこで、ソーセージにかぶりつく。

 パキ

 小気味のええ音がして、口の中にジューシーなソーセージのお汁が広がる。

 戦闘糧食グッジョブ!

「ねえ、やっぱり美味しいもんは、後にとっといたん?」

「ううん、昨日といっしょだよ」

「せやけど、ぜんぜんちやうし!」

「う~ん、湯せんじゃなくて、フライパンで火を入れたことと、やっぱり器が違うからよ」

「うん、そうかもしれへんけど、それを思いついて実行したソフィーは、やっぱり偉いと思うよ」

「そ、そんな、褒めたってなにも出ないわよ(#'▽'#)」

「ウフフ(*´艸`*)」

 ソフィーが照れてる。ソフィーにとっても、このオリエント急行は、ええ息抜きやってんやろね。

 ジョン・スミスの企みかなあ、あのオッサンもダテに大佐の階級章を付けてるわけやないみたい。

「あ」

 頼子さんが小さく声を上げる。

「今日は、8月8日だよ」

「え?」

「「「あ」」」

「え?」はあたし「「「あ」」」は他の三人。

「原爆忌だったんだ」

 頼子さんが、静かに目をつぶって手を組む。うちらも、それに倣って三十秒の黙とう。

 去年は、詩ちゃん留美ちゃんと散歩してて、たまたま通りすがりの家から原爆忌のライブが流れてきて、思わず手を合わせた。

 頼子さんも、留美ちゃんも、こういうことが自然にできる人やねんわ。

 いや、メグリンもソフィーも。

 明日は、長崎の原爆忌。忘れんようにしよ。

 

 黙とうの後は、お茶飲みながら、みんなでワチャワチャとお喋り。

 気ぃついたら、みんなのスマホにメグさんからの一斉送信の――そろそろですよ――のメール。

 ちょっと慌ててるソフィーが可愛かったぁ!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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せやさかい・330『名探偵団ポワラ!』

2022-08-07 14:39:16 | ノベル

・330

『名探偵団ポワラ!』詩(ことは)   

 

 

 突然の悲鳴に慌ててコンパートメントに戻る!

 

 ガチャ!

 先頭のさくらが開けたコンパートメントに異変は無かった。というか、誰も居ない。

「こっちか!?」

 ガチャ!

 もう一つのコンパートメントを開けるけど、そこにも人影はない。

「ちょっと、みんな居てるよね!?」

 眉を逆立てて、さくらが振り返る。

 みんな、目玉だけ動かして互いの安否を確認する。

 さくら……留美ちゃん……古閑さん(メグリン)……ソフィー……頼子さん……そしてわたし(詩)

「ひょっとして……密航者?」

 留美ちゃんが唇を噛む。

 オリエント急行は国際列車だ。EUが存在する21世紀の今日、EU圏内の往来は自由だ。

 でも、不法難民や、世界中を敵に回して戦争やってる国の人間は大っぴらには移動できない。あるいは、マフィアとか、某国と某国のスパイ同士の抗争とか!?

「死体無き殺人事件!?」「異世界からの逃亡者!?」「攻殻機動隊!?」「被害者は転送された!?」

 さすがは元文芸部、怯えながらも妄想逞しい。

 すると、ソフィーがコンパートメントの中に入って、ぐるりと見渡して、静かに言った。

「犯人は、この中に居る」

「「「「「ええ!?」」」」」

「せ、せやかて、死体無いし、人の気配もせえへんし」

「こっちよ」

 進行方向の壁を探るソフィー。

「これだ」

 ソフィーが軽く抑えると、かそけき音をさせて、人一人が通れるほどに壁の一部が開いた。

「これは、XOタイプと云って、隣のコンパートメントと繋がっている。一見ただの壁だけど行き来ができるんだ。お忍びとか、立場上必要な者が利用した」

「せやけど、隣はカギ締まってるしぃ」

 そう、わたしたちが使ってる二つを除いて施錠されている。

「内側からは開く。アガサクリスティーもこれを利用した……」

 そう言うと、ソフィーはそっと秘密のコンパートメントに入って行った。

 

 ドギュン!ドギュン!

 

 銃声が二発したかと思うと、ズサッっと人が倒れるくぐもった音がした!

 ヒャ!!!

 みんなの息を呑む音。人間、ほんとうの恐怖に襲われた時は叫び声も出ないものなんだ!

「ちょっと、見てくる!」

 頼子さんが隠しドアの前に出た。

「いえ、わたしが行きます!」

 古閑さんが、前に出て、体を斜めにして入って行く。

 

 …………………………

 

「誰も居ません」

 体を斜めにして戻ってきた古閑さんが、緊張した顔で報告する。

 数秒の沈黙があって、ソフィーが静かに口を開いた。

「リッチは、どうして最後尾にいるのかなあ……」

 リッチとは学校での頼子さんの愛称『ヨリッチー』を縮めたものだ。縮めた分親しみが深い。

「え?」

「最後にお手洗いに行ったのはさくらだよ。悲鳴があがったときは、わたしとお手洗いの間に居たから、最後尾はさくらになってなきゃおかしいよ」

「あ、そう言えば、悲鳴が上がった時、食堂車に……」

 そう、食堂車に頼子さんの姿は無かったような気がする。

 ……みんなの視線が頼子さんに集まる。

 

 フフフ……フハハハハハ!……ギャハハハ(థꈊథ)!!

 

 狂ったように笑うと、頼子さんは首元に手をやって「メリメリメリ」とシリコンのマスクをとった!

「ク、何もの!?」

 ソフィーが見構え、みんな後ずさり……そして、現れた顔は……!?

 

 やっぱり頼子さん!

 

「どうだ、ビックリしたか(*`ㅅ´*)!?」

 

 アハハハハハハ……と笑うしかないわたしたち。

「だって、せっかくのオリエント急行だよ、オリエント急行ってば『オリエント急行殺人事件』でしょーがぁ」

「で、ソフィーもグルなん(^_^;)?」

「それは、永遠の謎……」

「でも、あの銃声はどうしたんですか?」

「スマホに効果音のアプリ入れてるのさ」

「な、なるほど」

「けっきょく、うちがお手洗い行ってるうちに、頼子さんがコンパートメントに行って悲鳴を上げて、そのすぐあとに秘密のドアで隣に行って、あたしらを引っかけたっちゅうわけですね!?」

「ハハハ、まあ、そんなとこさ」

「わたしの推理は当たったんだね。みんな、今日からは、わたしのことを『アガサクラ・クリスティー』と呼びたまえ!」

「ええ、さくら一人だけが?」

「ほんなら、えと……名探偵ポワラ!」

「なに、それ?」

「ポワロの複数形やんかぁ! 名探偵団ポワラ!」

 

 こうして、名探偵団ポワラを乗せたオリエント急行はバルカン半島を横断していくのであった。

 

 バルカン半島……進行方向の右側にはルーマニア、吸血鬼ドラキュラの故郷、コマネチの出身国。チャウシェスク大統領のルーマニア社会主義共和国は今は共和国すら取れてルーマニア。西側の大半を版図にしていたチトー大統領のユーゴスラビアは今は無く、マケドニア、スロベニア、ボスニア、ヘルツェゴビナ、クロアチア……だったけ、分裂を重ねた。

 はしゃいだ後、さすがに疲れが出て、みんなお昼寝。

 わたしは、ぼんやりと車窓からの眺め……見ていると、大学で習った地理や歴史のあれこれが湧き上がって、かえって眼が冴える。

 そうなんだ、二年もすれば卒業。

 マスターやドクターを目指すほどのめり込んでいるわけじゃない。でも、勉強したいとは思っている。

 留学はコロナのおかげで流れてしまったけど、頼子さんとの縁でヨーロッパを斜め上に縦断していると、ぼんやり景色を見ているだけで、湧き出してくる知識の断片。

 そうだ、ルーマニアって、正しく発音するとロマニア、その昔はローマ人の国であり、幾多の民族の歴史が積み重なっている。その一つ一つを理解……なんてできっこないんだけど、ボンヤリと民俗とか人々の暮らし……ボンヤリのボンヤリなんだけど、昔話とかフォークロア、そういうものに浸っていられたら……許されるなら、ね、もう十年は学生……さすがに、ハンガリーに入るトンネルが見えたころには目蓋が重くなってくる。

 眠りに落ちる寸前、ヨダレを垂らしたさくらの顔が見えて、その顔が――そんなんどうでもええやんか――と言っているような気がした。

 ちょっと、さくらのコンパートメントは隣だよ……zzzzz

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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せやさかい・329『オリエント急行○○事件!』

2022-08-06 14:58:16 | ノベル

・329

『オリエント急行○○事件!』さくら   

 

 

 故障というわけやないねんけど、ちょっとした不具合が見つかったんで部品交換の為に飛行機が飛べんようになった!

 

「部品交換のためにニ十四時間は飛べないんで、その代わり、オリエント急行でウィーンまで行きます!」

 ベテランツアーコンダクターみたいに頼子さんが宣言する。

 ソフィーが持ってきたメモを見て言ってるねんけど、まるで自分が考えて結論出したみたいに力強い。

 これも、王女さまとしての努力と才能やねんやろね。

 信頼のおけるスタッフが決めたことは、自分の決定として国民に伝えて安心感を与える。一朝一夕でできる芸やない。

 次に、ダイニングの隅でスマホをチェックしてたメグさんが頼子さんに耳打ち。

「え、そうなの!?」

 素の頼子さんに戻ってビックリ。ビックリすると目が二割増し大きくなる(目を見開くわけですねえ)のが可愛らしい。ほら、プリクラの補正で目を大きくするの、あれが自然にできてしまうんよ。

「マーガレット(メグさんの正式名)が副操縦士に、ソフィア(ソフィーの正式名)がバトラーをやります」

「イエス、マム」

 ソフィーが踵を鳴らして敬礼する。

「申し訳ありません、説明が不十分でした」

「え?」

「ソフィーと交代しますが、エディンバラ到着までは、このわたしが緊急事態の対応まで織り込んで手配済みです」

 ドンと胸を叩くメグさん。

「ですから、ソフィアは殿下といっしょに行動するだけでいいんです」

「それは、どういう意味ですか、少佐?」

 え、メグさんリアル少佐やったん!?

「軍服を脱いで私服に着替えなさい、ソフィー」

「承知しました! ソフィア少尉、私服に着替え少佐よりバトラーの任務を継承します!」

「だからぁ、バトラーはわたし。全部段取りはつけてあるから、ソフィーは着替えたら、殿下のクラスメートで散策部の部員です。分かった?」

「え、あ、はい」

「understand?」

「understood mam!」

 二人そろってダイニングを出ると、頼子さんが噴き出して、みんなに伝染してしまう。

 フフフ( *´艸`) ハハハ( *´〇`)

 関空からこっち、ソフィーは副操縦士とSPの立場でガチガチやった。

 それで、飛行機が具合悪なったのをきっかけに開放してあげたいうのがホンマのとこやと思います。

 

 ウワアアアア(꒪ȏ꒪)!

 

 駅に着いてビックリしたのは、あたしらだけやない。

 ホームに居あわせたトルコの人やら旅行者やらが貨物のホームで写真を撮ったり歓声をあげたり。

「ああ、やっぱりこうなるわよねえ……」

 あたしらは、ホームの群衆を前にたじろいでしまう。

「いちおう貨物扱いなんだけどね……チェックしてみる」

 頼子さんがため息をつく横でソフィーがお友だちモードでスマホを操作

 食堂車を含めて三両のオリエント急行は正規の列車編成とちゃうんです

 オリエント急行いうのは、もう何年も前に廃止されてて存在せえへんのです。

 今回は、アメリカ人のお金持ちがトルコに残ってた車両を買いとって、オーストリアの工場に移動させるのに便乗するんです。これも、ヤマセンブルグ諜報部のテクとかコネとかやねんやろねえ。

 前後には機関車も含めて十二両、その最後尾四両のうち三両が青い車体のオリエント急行。

「いま乗ったら目立ちすぎるわねぇ」

 なにごとも控え目な留美ちゃんは、目立つのが苦手。

 それに、頼子さんはプリンセス。あんまり目立つ行動はでけへん。見つかったらすぐに写真とか動画に撮られてSNSにアップされてしまうしね。

「……いちおう配慮はしてあるみたいよ、リッチ」

「え、これで?」

「みんな、こっちこっち」

「あ、そっちは……」

 鉄道ファンの群れの中に入って行くのかと思ったら、その手前の最後尾の車両。

 貨車みたいやけど、入り口と小さな窓がいくつか付いてる。車掌さんやら作業の人を収容する車両。

 うちらが近づくと、中の方からドアを開けてくれる。どうやら話はついてるみたい。

「発車してホームを離れたら、前の方に移るよ」

 ソフィーにそう言われて、窓の外から見えへんように息を潜める。

 

 プォーーーーーーン

 

 貨物列車やから、出発のアナウンスも発車のベルもない。

 ガッタン   ゴットン  ガッタン  ゴトン ガタン ゴトン ガタン ゴトン……

 列車がホームを離れて、さすがに車や自転車で追いかけてくる日本のテッチャンみたいなのはおらへんみたい。

 車掌さん的なオッチャンにお礼を言うて、前の車両に移る。

 

 オオ……………ウワア……………スッゲー………………

 

 みんな静かに感動。

 ゴージャスやねんけども下品やない、 高級そうやねんけどえらそぶってない、 みんな静かに感動……。

「せやけど、どこに座ったらええのん?」

 ゴージャスな車内の椅子やらテーブルには白いシーツみたいなんが掛けてあって、座るとこがない。

「コンパートメントが二つ使えるよ」

「コンパートメント?」

「個室のことよ、行ってみよ!」

 頼子さんに先導されて前の車両に行く。編成は前の方から食堂車・コンパートメント車・サロン車。

「うわあ、ハリーポッターが魔法学校行くときに乗ったやつみたい!」

「あれより、豪華だよ!」

「ワインセラーがある!」

「なにも入ってないけど!」

「中にもドアがあるでぇ!」

「勝手に開けちゃ……」

「うわ、シャワー室や……水もお湯も出えへんけど」

「営業車じゃないからね」

「わたしでも余裕で座れる!」

「外のお手洗い、どこかなあ……」

「進行方向の前だよ」

「みんなで見に行こ!」

 ゾロゾロ

「うわあ、お洒落!」

 お手洗いも、木目の壁で、フックとかドアノブとかレバーとか、ピカピカの金色。

「ウォシュレットじゃないんだね……」

「けど、便座はぬくもりのマホガニー!」

「注意書きがあるよ」

「英語は読めまっせーん」

「なになに……停車中は使わないでください」

「これって、そのまんま線路に落ちる式だ(^_^;)」

「だ、だいじょうぶよ。停車中使わなきゃいいんだから」

「でも、ヨーロッパの列車って、平気で一時間二時間停まってるよ」

「ええ、そうなのぉ!?」

「おう、向こうにも探検に行こうぜ!」

「ちょ、さくらぁ」

「ここにも、なんか書いたある……Japanだけ読める」

「なになに?」

「……ええ、これ、日本で走ったことがある車両だよ!?」

「オリエント急行は広軌と標準軌です、狭軌の日本じゃ走れませんよ」

「1988年に、バブルにものを言わせて、パリ発東京行を一編成だけ組んだことがある。その時の車両だよ」

「え、でもレールの幅が……」

「広島の工場で台車を付け替えたのよ」

「でも、途中、海を渡るでしょ?」

「翼とジェットエンジン付けて飛んできたのよ」

「え、ほんとですか!?」

「ウソよ、香港から広島までは船に積んできたの」

「もう、ソフィーは夢がないんだから」

「リッチのは、夢じゃなくてヨタだよ」

「ムーー」

「みんなぁ、食堂車も入れるよ!」

 ゾロゾロ……

 ああ…………

 食堂車は、ちょっと期待したんやけど、サロン車と同じようにシーツみたいなん掛けられて、使用はでけへんみたい。

「でも、24時間乗ってるわけですよね……」

「そうだよね……飲み水とか食事とか、どうするんだろ?」

「厨房の湯沸かしは使えるそうです。食料も……あ、その段ボールに」

「うわ、なんやろなあ(^ω^)……」

 ベリベリ

「え、なにこれ?」

「あ、戦闘糧食」

「戦闘糧食って、軍隊の?」

「フランス、イタリア、自衛隊……うん、比較的おいしい軍隊のがそろってる」

「あ、そう、ちょっと楽しみかも」

 さっそく、食堂車のテーブル二つを使えるようにして、戦闘糧食ランチ。

 意外に美味しかった。

 ソフィーが静かに予定をチェック。

「……次の駅は、90分停車」

「「「「「え?」」」」」

 ジャンケンして、みんな、交代でお手洗いに行きました(^_^;)

 

 ジャンケンでビリケツになって、お手洗いから出てくると、ソフィーが腕組みして思案顔。

「どないしたん、ソフィー?」

「うん……殺人事件が起こったのは、どこかと思って」

「さ、殺人事件!?」

「オリエント急行と言えば……殺人事件だろうが……」

「ちょ、ソフィー、目がこわい(;'∀')」

 

 キャーーーー!!

 

 そのとき、コンパートメントからえげつない悲鳴が聞こえてきた!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

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せやさかい・328『飛んでイスタンブール』

2022-08-05 10:54:46 | ノベル

・328

『飛んでイスタンブール』さくら   

 

 

 イスタンブールの在トルコヤマセンブルグ大使館の朝です。

 

 ダイニングの窓から入って来る日差しはレースのカーテンでろ過されているとは言え、あっぱれ真夏の日差しです。

 せやけど、日本製のエアコンが効いてるので三日目になる旅行で痺れてる脳みそを、ほどよくアイドリングにしてくれてます。

 

 昨日は、タイのバンコクからインドのニューデリーはインディラ・ガンジー空港まで飛んで給油。

 インディラ・ガンジー空港では飛行機から下りることも無く、そのままイスタンブール向けて飛び立った。

 インドを真ん中に据えたアジア大陸の南を一気に飛び越えるというか、かすめるというか。

 プロペラ機はジェット機と違って低いとこを飛んでることもあって、地上の事がよう見える。

「バングラディシュ、インド、パキスタン……別々の国だけど、ほんとは一つの国になるはずだったんだよ」

 右の窓から見えるインド亜大陸を見ながら頼子さん。

「みんなイギリスの植民地だったけど、ガンジーはまとめて一つの国として独立させようと思ったんだけどね……」

「ガンジーって、暗殺されたんですよね」

 メグリンが食いついてくる。

「うん、そのせいもあって、まとまって独立はできなかった」

「宗教が違うのよね、ヒンズー教とイスラム教。スリランカは仏教だし」

 詩(ことは)ちゃんの補足で、うちの脳みそでも、ぼんやりとイメージが湧いてくる。

「ヒンズーのインド、イスラムのパキスタンとバングラディシュ、仏教のスリランカに分かれたんですよね」

 留美ちゃんの理解は、うちの二歩先をいってるし(^_^;)

「バングラディシュは東パキスタンと言って、パキスタンの一部だったんですよ」

 メグさんがモニターに地図を出して、ダメ押しの説明。

「西パキスタンとの格差が大きすぎたんで、五十何年か前に独立したんです」

「かくも、国とか国境とかは移ろいやすいものだ……って、締めくくりになるのよね」

 なんか、頼子さんがまとめに入った。

「そうです、国家というものは、実は不確かで頼りないところがあるものなのです」

 まとめた紐を、また解いていくメグさん。

「国家には求心力が必要なのです。求心力の無い国は容易くバラバラになって、バラバラになると国民は割を食って、大変な苦労をします。周辺の国にも大変な迷惑がかかります」

「それゆえに、国際社会の一員としての国家と、求心力である王室の重要性に思いをいたし、王族であることの自覚を持たなければならない」

「そうです、殿下」

「なんか、メグさん、サッチャーさんに見えてきたわよ」

「え……!?」

 さすがのメグさんもサッチャーさんみたいと言われると息を呑まはります。

 サッチャーさんの元祖は鉄の女と言われた、イギリスの女性総理大臣。

 アルゼンチンの軍事政権に売られたケンカを正面から買って出て、フォークランド紛争の勝利を勝ち取ったオバチャン。

 以来、イギリスにケンカを売る国は、21世紀の今日になってもありません。

 勉強からきしのうちが、なんでサッチャーさんについては詳しいかというと、サッチャーいうあだ名のメイド長で女王陛下の秘書も兼ねてるという、すごいオバハンが居てるというか、今度の旅行でも、ぜったい絡んでくるからやさかいです。

 コクピットで攻〇機動隊の草〇素子みたいにかっこよく副操縦士をやってるソフィーでも頭の上がらんオバハン。

 本名は……あかん、思い出したら、ぜったい祟られる(;'∀')。

「でも、バングラディシュって、国旗が日の丸なんですよね」

 メグリンが指を立てる。

 モニターの地図には、すかさず各国の国旗が現れる。メグさんも行き届いてる。

「そうです、建国に当っては日本をリスペクトして、緑地の日の丸にしたんです。それも敬意を払って、日の丸の位置を少しだけ左にずらしてあります。他にもパラオ共和国が独立に当って国旗をライトブルーにイエローの日の丸にしました……」

 ええと……ご節ごもっともやねんけど、頼子さん寝たフリしてるし。

 頼子さんは、なにかにつけて、こういうレクチャーされてるんやろねえ。

 まあ、その後は、そういう通過する国の食べ物の話になって、機内食にもインドのナンとかカレーとかが出てきて旅の雰囲気は盛り上がった。

 

 バタン

 

 そんなことを思い出してると、ダイニングのドアが、ちょっと乱暴に開いて軍服のソフィーが入ってきて、頼子さんに耳打ち。

 いっしゅんビックリした頼子さんやったけど、一言二言やりとりすると、中学の時にイタズラ思いついた時みたいな顔して、うちらに宣告した。

「みんな聞いて、イスタンブールからはオリエント急行で行くわよ!」

 有無を言わせんドヤ顔で、その貫録は王女を通り越して女王陛下の貫録やった!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

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