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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・357『百武真鈴 改訂版を書く・2』

2022-10-30 10:24:53 | ノベル

・357

百武真鈴 改訂版を書く・2さくら    

 

 

サクラ・ウメ大戦

2『おつかれさまあ』

 

作・大橋むつお  脚色・百武真鈴

時 ある日ある時
所 桜梅公園

人物 

(やさぐれ白梅隊)   (はみだし八重桜隊)

ゆき(園城寺ゆき)    さくら(長船さくら)  (ITVスタッフ)
咲江           百江           リポーター
ルミ           純子           カメラ
春奈           ねね           音声
千恵           やや

その他いっぱいいれば なお良し(^▽^)/ 

 

 

リポーター: おつかれさまあ。

ゆき: なんだ、そんなところから撮ってたんですか?

リポーター: いい絵がとれたわよ。

さくら: すみません、本当は、二人とも千鳥(前に進みながらザコを打ち倒すこと)の末に、取り巻きをバックに太刀打ちってことになっていたんですけど……みんな、サッサと死んじゃって。

ゆき: やっぱ――テキトーにチャンバラって――ト書きが雑過ぎなんかなあ。

さくら: だって、殺陣の用語って、そんなに知らないし。

ゆき: まあ、自分でやるのと、人にフリ付けんのは別だしな。

 

 二人が言い訳を言ってるうちに、カメラが舞台に上がってきて、双方の切られた者たちもカメラ目線で生き返ったり、袖から出てきたりする。

 

リポーター: 大丈夫、クライマックスのとこはローアングルのバストアップで撮ったから、大丈夫よ。

咲江: ローアングルって、下から撮ること?

ルミ: パンツ写っちゃうんじゃない。

ゆき: 大丈夫スパッツ穿いてっから。

リポーター: 大丈夫よ、バストアップで撮ってから。

百江: さくらってペチャパイだからね。

純子: 下から撮ったら胸も大きく写るんじゃね?

 みんな、カメラを意識してワチャワチャやってる。

ゆき: ちょ!

さくら: うっさいよ、あんたたち!

リポーター: ほんとはもっとカメラ使って交互にカットバックでいきたかったんだけどね。編集で、なんとかするわ。

みんな: えーー! あたしたちはぁ?

ゆき: ちょっ、ギューギュー寄ってくるんじゃないわよ!

さくら: 今ごろになって、出てくるんだもんなあ!

ねね: だって、あたしたちも写りたいしィ。

やや: そうだよ二人だけ目立っちゃって。

リポーター: 今、カメラ回ってないよ、ね、沢田さん。

カメラ: はい、バッテリーもったいないですから。

春奈: ええ!? じゃ、どうしてカメラ構えてんのよ。

リポーター: いつシャッターチャンスがきても撮れるように構えてるのよ、プロの常識。

春奈: ええ、せっかくファンデやり直したのに。

千恵: あたしずっとカメラ目線でいたんだよ。

百江: 放送局のケチ!

音声: 音声は生きてるんだけど……

百江: え! 音声さん美人よ! ね、ねえ!

純子: ねえ、マイクの棒持つ手なんかスラッとしちゃって。

咲江: ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ……

ルミ: 今頃発声練習してどうすんのよ。

ゆき: あんたたちねえ! あ、入ってんだ。

音声: いま切った。

さくら: ほんとに、あんたたち、さくらも満足にできないのね。

春奈: だって、あなたたち桜女子と違うしィ

さくら: その他多勢、モブ、NPCって意味だよ!

一同: だって……!

やや: ねえ……

ねね: わけわかんないうちに連れてこられて百均の刀渡されて。

千恵: こっちも似たようなものよ、

ゆき: ちゃんと説明したろ。

さくら: 聞いてないんだろ。

百江: やっぱマニュアルとかさ……

リポーター: これはね、老人ホームに取材に行ったらね。お婆ちゃんたち、旧制女学校のころ、白梅と、八重桜の二校で果し合いしたって、なつかしい話になってね。それで急きょ後輩のあなた達に頼んで、模擬果しあいをしてもらったってわけよ。

ルミ: そういや、ゆきが老人ホームがどうとかって……

春奈: ああ、食堂でラーメンすすってた時。

純子: そう言や、さくらも、昼休みに、おにぎりかぶりつきながらゆってた。

さくら: 飯時でなきゃ、みんあ集まらないだろうが!

ゆき: 先生達の気持ちがわかるよ……

咲江: だって……

リポーター: わかった。見せ場だけ、もっかい撮ろう!

 

「と、まあ、中盤はこんな感じなんだけど、ノリと成り行きで、どんどん変わるからね!」

 ノドチンコまで見えそうな笑顔で中盤の盛り上がりを一人で演じて見せた真鈴さん!

 遮音カーテンで半分に区切った視聴覚教室には参加希望のクラスやら個人やらが集まって、中盤まで改定された台本を聞きに来てる。

 台本は、そのつどネットに上げられてるんやけど『視聴覚室で書きながら制作の話もしてるよ(^▽^)/』と書かれてるんで、自然発生的に集まった。

 なんせ、人気の高校生声優が、ノリノリで一人芝居(本人は「読んでるだけ」と頭を掻いてる)をやってくれるんで、制作発表から二日しかたってないのに、雰囲気はマックス!

「おお、キミは頼子さんの妹分の……そうか、キミはリアルさくらだったんだ! 後ろのノッポさんは!?」

「こ、古閑巡里です」

「よし、そのコンビ面白い! B班、主役決定!」

「「え、ええ!?」」

 パチパチパチパチ!

 ノリと勢いというものは恐ろしいもので、A班、B班の他のキャストも次々に決まっていく。

「これだけ増えると、衣装とか道具とかも大変だと思うんですけど……」

 キャストは絶対イヤという留美ちゃんが的確な質問をする。

「おお、いい質問だねぇ!」

「えと、そっちに目途があるようなら、そっちのスタッフで……」

「よし、キミを……一年B組の榊原留美さん、キミを舞台監督に任命しよう!」

「か、監督だなんて(;'∀')」

「じゃあ、衣装・道具係りだ!」

「あ、でも、アテはあるんですか?」

「もちろんだとも、キミたち、昨日はなんの日だったか分かっちょるかねぇ?」

 あ……!?

 みんなが息を呑んだ。

「そうだよ、夕べ、世界中がハローウィンのバカ騒ぎをやっとったんだよ! コスプレの衣装や道具は、一夜明ければゴミ同然!」

 というか、もうゴミとして回収されてるんちゃうん?

「心配ご無用!」

 パチン

 真鈴さんが指を鳴らすと、ファンファーレと共に後ろの遮音カーテンがスルスルと開いて、トラック一杯分ほどのハローウィングッズが現れた!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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せやさかい・356『百武真鈴 改訂版を書く・1』

2022-10-29 09:00:29 | ノベル

・356

百武真鈴 改訂版を書く・1さくら    

 

 

 大した人よねぇ!

 

 朝の昇降口で出会った頼子さんは、うちらの「お早うございます」に応えもせんと、下足のローファーを左手に、右手にはスマホを持ったまま感嘆の声を上げた。

「え、なにがですか?」

 留美ちゃんが穏やかに聞き返すと、頼子さんの守護霊みたいに立ってるソフィーが――モモタケマリン――と口の形だけで教えてくれた。

 それで、一瞬自分のスマホを出しそうになったんやけど、ソフィーの斜め横に立って頼子さんのスマホを覗き込む。

 ほんまは、校内でスマホはご禁制。一年のうちらは、とっさに遠慮する気持ちが先に立つ。昨日、職員室前でスマホを開いたのは、真鈴さんの勢いがあったから。

 まあ、こういう慎みと要領の良さが同居してるのは、うち(真理愛学院)の生徒のええとこです。

 

 それで、スマホに出てたのは『サクラ・ウメ大戦 聖真理愛学院版』というタイトル!

 

「真鈴、学校の現状に合わせて手を入れてるのよ。昨日の今日だよ!」

「いや、まだ13時間しか経ってない」

 ソフィーが冷静に付け加える。

 

 昇降口では目立つので、教室に行ってから窓のカーテンでガードして、メグリンも加えた三人でスマホを開いた。

 

※ サクラ・ウメ大戦の改訂版です。取り組み状況に合わせて改定していきます。

 注……授業中には読まないでね(^_^;)

 


サクラ・ウメ大戦

1『やさぐれ白梅隊、はみだし八重桜隊』

 

作・大橋むつお  脚色・百武真鈴

時 ある日ある時
所 桜梅公園

人物 

(やさぐれ白梅隊)   (はみだし八重桜隊)

ゆき(園城寺ゆき)    さくら(長船さくら)  (ITVスタッフ)
咲江           百江           リポーター
ルミ           純子           カメラ
春奈           ねね           音声
千恵           やや

その他いっぱいいれば なお良し(^▽^)/ 

 

 荒野の決闘を思わせるような曲が流れるうちに幕があがる。そろいのセーラー服に、それぞれ寸をつめたり、スカートの丈をかえたり、リボンの結び方が違ったり、それぞれ制服でありながら個性を主張するいでたちの十数名の集団が、スケバンのゆきを中心に、ドスをきかせながら(本物のワルになりきれない可愛さを残すこと)客席奥を睨んでいる。睨んだその先には(客席後方)違う制服の集団が似たような人数、いでたちで、舞台上の集団を睨んでいる。こちらのスケバンはさくらという。双方手に、百均のビニールの刀、ビニールのバット、水鉄砲など、いかにもチープな得物(武器)を構えている。

 前者を白梅学園女子中等部やさぐれ白梅隊と言い、後者を八重桜女学院中等部はみだし八重桜隊と言い、戦前の女学校時代からの宿敵同志である。この年、とある理由から何十年ぶりに、両校の中ほどに位置する桜梅ケ原と昔は言った、桜梅公園の東西にわかれ、果し合いの寸前である。

 
ゆき: おう、八重桜女学院中等部の諸君! 本日は白梅学園中等部の我々が、高等部のお姉様連になりかわり、宿怨のうらみを果たしにこの桜梅ケ原、現桜梅公園に打ちそろった。すぐる大正三年の創立以来の雌雄をここに決する覚悟、かく言うあたしは白梅学園中等部三年一組、出席番号四番、やさぐれ白梅隊隊長園城寺ゆき! 尋常に勝負しろい! それとも、このゆき姉さんの啖呵に恐れ入ってしっぽを巻いて逃げ出してもいいんだぜ……

さくら: なにぬかしゃあがる。昔の夏休みみてえに長げえ御託並べやがって、こちとら気が短えんだ。おめえたちみてえに高えところに登らなきゃあ、威勢の出ねえ弱虫は一人もいねえ! 負ける前にこれだけは覚えておきな。あたいたちは八重桜女学院中等部、はみ出し八重桜隊! そしてこのあたいが総長の長船さくらだ! 逃げたい奴は、今のうちだ、こちとら気が短え、三つ読む間にそこを降りなきゃ、引き摺り下ろして、三つにたたんでやらあ!……ひとおっつ……ふたあっつ……みっつ……ほう……いい根性だ。女郎ども、百年のカタキだ! たたんじまえ! 

 この掛け声をきっかけに、大昔のチャンバラのBGМ、客席で黄色い声をあげながら、双方二十秒ばかり戦う。数組が舞台で戦っていたが、それも三十秒も立つ間に、ゆきとさくらだけになってしまう。二人つばぜり合いをしながら……

ゆき: ちょ、ちょっと、あたしたちだけになっちまってるよ。

さくら: え、ええ!?

ゆき: どうする?

さくら: だってカメラまわってんだろ、どっかで!?

ゆき: 声が大きい、マイクに入っちゃうよ。

さくら: だって……

ゆき: 一応、決めたとおりに……

さくら: 相打ちってことで……

ゆき: 山形三回(上段の構えで三回打ち合うこと)

さくら: ぐるっとまわって、場所入れ替わって天地(上段と下段の打ち合い)三回、さっと離れて、あたしが胴を。

ゆき: 胴抜きはあたし、さくらは面打ち!

さくら: 声が大きい!

ゆき: あんたに言われたかないわよ。

さくら: じゃ、いくよ!

 

 チャンバラのBGM、急速にフェードアップ、クライマックスを暗示する。テキスト通り山形と天地を打ち合った後、気合とともに相打ちとなり、二人とも、あらかじめ仕込んでおいた血の紙ふぶきを派手に撒きあげて、見栄をきる。大向こう(客席後方)から「よっ、ゆきちゃん!」「ゆっきー、かっくいい!」「ゆっきちゃーん!」「さくらや!」「千両桜!」などと掛け声がかかる。上手寄りの客席からカメラとリポーターが上がってくる。

 

「すごい、めっちゃテンポええやんか!」

「ねえ、このさくらって、あて書きかなあ!?」

 メグリンが尊敬のまなざしで見てくれる。

「でやろ!?」

「原作がさくらになってるよ」

 留美ちゃんが冷静に言う。

 ちょっと残念。まあ、うちはガラやないけどね。

 

 スクロールした最後の一行でビックリした!

 

A班・配役

 ゆき(園城寺ゆき)…………夕陽丘 頼子  さくら(長船さくら)…………百武真鈴

B班・配役  未定

 

 適材適所と早い者勝ちを旨としてプロディユーサーが独断と偏見で決めます。

 文句とやる気のある者は生徒会室まで!

 

「す、すごい!」

「『恋するマネキン』のゴールデンコンビだよ!」

「すごすぎる!」

 

 ちょっと、そこの三人!

 

 気ぃついたら朝のSHR、教壇でペコちゃんが怖い顔してた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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せやさかい・355『百武真鈴(田中真央)の企み』

2022-10-28 16:43:04 | ノベル

・355

百武真鈴(田中真央)の企みさくら    

 

 

 百武真鈴、いや田中真央生徒会長の狙いは、こうなんです!

 

 今から、ひと月余りでやっても大半の取り組みは空中分解するか、ショボいもんしかつくられへん。

 それやったら、経験も豊富で、かつ最初で最後の文化祭で熱が入ってる三年生、それもイベントとかに経験のある者が中心に一二年生を引っ張って行ったら、短期間でもええもんが作れる。

 せやさかい、この文化祭を三年生に任せてほしいという要求! いや、提案なんですわ。

「むろん、従前どおり自分のところでやるというクラスまで、節を曲げて参加してほしいということではありません。まだ決まっていない、途方に暮れているクラスがありましたら、この生徒会長田中真央の、この指とーまれ! という訳です。いかがでしょうか、先生方!?」

 この演説をAランク、経験値マックスの女騎士みたいな声でやらはるんですから、外野で聞いてるうちらも惚れ惚れです!

「田中さん」

 教頭先生の後ろから声がかかった。

 教頭先生の後ろはドアになってて、給湯室を挟んで校長室に繋がってる。

 そう、つまり校長先生が出て来はったんです。

「それは、単なる呼びかけだから、許可をとるようなことではないと思いますよ。けして強制にならないよう、無理にならないような取り組みを考えて、できるだけ早く企画書を……」

「はい、それならば、ここにあります、魔王陛下! あ、すみません『異世界大戦』のノリで言ってしまいました(^_^;) 岸田さん、お配りして」

 総理大臣と同じ苗字の書記に命じて、あっという間に先生らだけでなく、廊下で見てたうちらにも企画書のプリントを配ってくれました。

「あ、これ知ってる!」

 企画書を手に取った留美ちゃんが声を上げて、メグリンも「どれどれ(._.)」と覗き込む。

 

 それは『サクラ・ウメ大戦』というクラス劇用の台本で、登場人物は最低13人で、40人くらいには、いくらでも増やせるというスグレモノ。

 劇中に、歌やらダンスやらも入って、それでいて上演時間は20分ほど。

「いい役者が居るようでしたら、ダブルキャストで、二回公演も可能です。ステージが苦手な人は、道具やら音響やらのスタッフの仕事もあります。また、学校の許可が出るようなら、動画で流してみようとも思います」

「う~~ん、まず、台本を読んでみたいかなあ……」

 教頭先生が腕を組む。

「それなら、企画書にQRコードを貼り付けてありますので、スマホでご覧になれます」

 職員室と廊下に居てるものがいっせいにスマホでQRコードを読みはじめる。

 なんか、みんな魔法にかかったみたいで、ちょっと面白い。

 うちの横でスマホを見てる頼子さんは早くも台本を読み始めてガッツポーズ。

 ひょっとしたら、事前にイッチョカミしてたんかもしれへん。

 

 で、六時間目のホームルームが終わるころには全学年から7クラスが田中先輩の企画に乗ることになった。

 むろん、うちらのB組も参加することになりました。

 やっぱり、三年生の情熱と突破力はすごいもんです……というか、田中真央(声優名・百武真鈴)はスゴイ人です。

 聖真理愛学院三年ぶりの文化祭は、がぜん熱をもってきたやおまへんか!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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せやさかい・354『文化祭が決まれへん!』

2022-10-27 14:55:19 | ノベル

・354

文化祭が決まれへん!さくら    

 

 

 文化祭の取り組みが遅れてる。

 

 うちのクラスだけやなくって、学校全体が遅れてる。

 なんでかっちゅうと、コロナですわ。

 外国人旅行者への規制もほぼなくなってインバウンド(中身に凝ったバウンドケーキみたい(^O^))もコロナ前に回復し始めてんねんけども、相変わらずテレビとかでは『本日の感染者数』を発表してて、『第八波の流行が危ぶまれる!』とかワイドショーで煽ってるんで、先生やら理事やらPTAの一部なんかが二の足、三の足ですねんわ!

 先生 理事 PTAの偉いさん……共通点は、みんな年寄り! 年寄りはテレビのワイドショーばっかり見てるからね。

 それで二の足、三の足。

 年度初めの行事予定では10月の15日、16日やったんやけど、ズルズル遅れて11月の23日、一日だけの開催。

 中止の声も大きかったんやけど、三年生は入学以来一回も文化祭を経験してへん。

 その三年生からの強い要望やら、OBからの声援やら、近隣の実施状況やらを鑑みて、やっと実施のみこみ。

 せやけど、一年生は、ちょっと冷めてきてます。

 クラスでも、ペコちゃんが取り組みのアンケートをとってHRを盛り上げようとしたんやけど、どうも盛り上がれへん。

 アンケートでは、たこ焼き屋とかクレープ屋とかの模擬店が半分以上やったんやけど、いざ、話し合いをすると熱が無い。飲食店は、調理に関わる者は検便せならあかんというのが分かると、さらに熱が下がる。

「う~~ん、もう一つ議論が深まってこないわねえ……(^_^;)」

 ペコちゃんは、この三月までは安泰中学で、うちらの担任やってたさかい、生徒の事がよう分かってる。

 この状態で決めたら空中分解して悲惨な状況になるのん分かってるねんわ。

 ペコちゃん、舞台で合唱するという腹案を持ってるらしいねんけど、担任が押し付けるようなことはしたくない。

 それに、あんまり盛り上がれへんことは、口に出してこそ言わへんけど、ペコちゃんにもうちらにも予想はつきます。

 三年ぶりの文化祭、やっぱり熱の高いもんやりたいです。

 

「ねえ、ちょっと様子を見に行こうよ」

 

 留美ちゃんの提案で、昼休、職員室にメグリンも居れて三人でペコちゃんを訪ねることにしました。

「失礼しま……」

 職員室に入って、ペコちゃんの席を見ると、聖真理愛学院の重鎮が一二年生の先生らに熱く語りかけてるのが目に飛び込んできた!

「我儘なことを言っているのは百も承知です。でも、このままでは文化祭の取り組みの大方は空中分解してしまいます。われわれ三年生には最初で最後の文化祭になります。どうか、取り組みが未定のクラスがありましたら、三年生有志学級と合同の取り組みにご協力ください!」

 まるで、ラスボスの魔王を倒すのにギルドで仲間を募ってる女騎士長!

 というか、その声はまさに今春一番人気アニメやった『異世界大戦』のヒロイン、シャルロッテ・ヒンデンブルグ。その前は『恋するマネキン』でヒロイン、マネキとネキンの声を一人でこなした声優生徒会長の百武真鈴こと田中真央!

 声は、もともとスゴイとこへもってきて、120%の闘志がみなぎってて、これに賛同せえへんやつは、よっぽどの悪党か玉無しのヘタレという感じ。

「全体像を一分で示します、これをご覧ください」

 生徒会書記の眼鏡っ子が、国会中継の野党議員みたいに大型のフリップを掲げた。

 その声と手際の良さに、先生らのほとんどが視線を向け、わたしの肩には手が置かれた。

「え?」

 振り返ると、我らが姫騎士、頼子先輩がガードのソフィーを引き連れて立ってる!

 まるで、勇者を見送りにお城から出てきたお姫様みたいやったやおまへんか!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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せやさかい・353『知ってしまったテイ兄ちゃん』

2022-10-24 08:53:17 | ノベル

・353

知ってしまったテイ兄ちゃんさくら    

 

 

 テイ兄ちゃんの元気がありません。

 

 朝のお勤めの後も、檀家周りから帰って来ても、そのままボーっとしてることが多いです。

「分かっちゃったんだよ……」

「あのことやなあ……」

 留美ちゃんと二人、可哀そうやと思いながらなにもできません。

 

 堺東のスナック『はんぜい』のマスターが、密かにお嫁さんもらったことは前回言いましたよね。

 それが、とうとうテイ兄ちゃんの知るところになってしもたんですわ。

 マスターとテイ兄ちゃんは大学時代からの友だち。

 その友だちが、自分よりも早く、それも、すごいベッピンのお嫁さんをもらった。

「それだけじゃないよ」

 留美ちゃんは、もう一つ深く理解してる。

「内緒にされてたのがショックなんだよ」

「え?」

「ちゃんと、お式の連絡とかあって、結婚式にも出ていたら気持ちの収めようもあると思う」

「ああ……うん……せやなあ」

 テイ兄ちゃんは、檀家周りの最中にマスター夫婦を見かけたらしい。

 彼女いない歴=年齢というテイ兄ちゃんはビビッときた。

 ―― あれは嫁はんや ――

 坊主というのは、檀家さんとの付き合いやら、お葬式、法事なんかで人の内側を覗くことが多くて、自然に勘が良くなる。それに、自分自身もうちょっとで三十代。蜂蜜に飢えたプーさんみたいで敏感になっとうる。

「それに、寺の嫁は大変やさかいなあ……」

 いつの間にか、お祖父ちゃんがうちらの向かいのソファーに座ってる。

「せやねえ」

 お寺の世界では、住職のお嫁さんを『お大黒さん』とか『坊守(ぼうもり)』とかいう。

 お寺は、檀家さんとの付き合いだけやなくて、本山との関係とか報恩講とかから落語会まで、いろんな付き合いやらイベントがある。そういうことの切り盛りしながら、主婦として家の事も並みの三倍以上はある。じっさい、お寺の敷地は300坪もあって、掃除するだけでも大変。

「ねえ、お祖父ちゃん……あれ?」

 振り返ったら、もうおらへん。

「今日はゲートボールだよ」

「あ、そうか」

 お祖父ちゃんは、このごろ婦人部長の田中のお婆ちゃんの勧めでゲートボールを始めた。

 そんな年寄じみた事と言いながら、この頃はチームの役まで引き受けて積極的にやってるらしい。

「いっそ、どっちかがお嫁さんになってあげたら(^▽^)」

「「え!?」」

 すごい台詞にビックリしたら、詩(コトハ)ちゃんが、お祖父ちゃんが座ってたとこに居てる。

「あんたたちだったら、お寺の事も兄貴のことも良く知ってるしさ……パリ」

 そう言いながら、小気味よく煎餅を噛み砕く詩ちゃん。

「うちは従妹やしい」

「従兄妹同士は結婚できるんだよ」

「ちょっとありえへん」

「あはは、冗談だから、そんなマジな顔しないでよ。あ、もう時間だ!」

 詩ちゃん、よく見たら学校行くときの服装。

「え、日曜やのに学校?」

「ちょっとね、進路のことでね、日曜も無駄にできない感じなの。じゃね」

 カーディガンとリュックを持つと、秋やのに春風みたいに玄関に向かう詩ちゃん。

 リビングからはサッシのガラス越し、生け垣の隙間から境内が見通せる。

 パンプスの音も軽やかに山門を出ていく詩ちゃんは、もう大人の貫録。

「詩ちゃんて、あんなにお尻振って歩いてたかなあ……」

「もう、オッサンみたいなこと言わないでよ。さ、朝のうちに宿題やるよ」

「え、宿題って、あったっけ?」

「文化祭のアンケートよ、ペコちゃん先生、月曜には決めるって言ってたじゃない」

「あ、せやったせやった(^_^;)。ちょっと、もうどきなさい!」

 フニャーー

 膝の上のブタネコダミアを床に下ろすと、ドスドスと二階の部屋に戻る日曜のさくらと留美ちゃんでした。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

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せやさかい・352『今日から試験……の朝』

2022-10-12 14:17:40 | ノベル

・352

今日から試験……の朝さくら    

 

 

 忘れてたわけやないねんけど、今日からテスト、中間考査。

 

 そのせいか、昨日はあれだけ晴れてた空が、どんよりと曇り空。

 うちから自転車に乗って堺東のスナック『れいぜい』の駐車場。

「「お早うございます!」」

 今日から試験でも、ドンヨリ曇り空でも、留美ちゃんと二人、明るく挨拶は欠かしません。

「「おはよう!」」

 え、挨拶が二つ返ってきた?

 最初の頃は、お店のドア開けて挨拶したんやけど、お店は朝の営業中。「まあ、顔合わせた時だけでええで」とマスターの親友でもあるテイ兄ちゃんが言うので、駐車場で顔合わせた時だけにしてます。

 朝は、食パンやら牛乳やらのデリバリー、スタッフの(言うてもマスターとアルバイトさん)の制服クリーニングの受け取り、ゴミの運び出しなんかで、50%くらいの確率で会います。

 で、もう一回言います。挨拶が二つ返ってきた。

 マスターが同じスタッフの制服着たきれいな女の人と荷物運んでるやおまへんか!

 うちらも、十六年生きてきた人生の経験で分かるんです。

 この二人は夫婦、あるいは夫婦に近い関係、それも成たてのホヤホヤ!

 とうぜん、十六歳のJKとしては、瞬間で頬染めてニヘラ~と笑てしまうんです!

「あ、まだ式は挙げてへんねんけど、奥さんの亜里沙( #´o`#)。この子らは話してた友だちの身内で、さくらと留美ちゃんや、アハハハ(n*´ω`*n)」

「家内の亜里沙です、よろしく( #´o`#)」

「「はい、こちらこそ!!」」

 元気よくお辞儀して駐車場を出る。

「あ、せや!」

「え、どうしたの?」

「ちょ、待ってて!」

 うちは、取って返して、裏口から店に入ろうとしてたマスターを掴まえる!

「え、なに?」

「このこと、うちのテイ兄ちゃんは知ってるんですか?」

「え、あ……まだ知らんと思う」

「了解!」

 もう信号のとこまで行ってる留美ちゃんに簡単に説明。

「え、そうなの!?」

「なんか訳ありみたいやけど、これは面白いと思わへん?」

「え、お目出度いことでしょ」

「これ、テイ兄ちゃんに言うたったら、どんな顔しよるやろなあ( ´艸`)」

「ちょっと、ひとが悪いよ(^_^;)」

「さて、どんな風に話したろかなあ……クククク」

「さくら、今日から試験だって忘れてるでしょ?」

「え、あ、せやった!」

「今日は英語と公民だよ、分かってるよね、一学期、英語は欠点だったんだからね」

「憶えてますぅ」

「だったら、集中集中! 電車来るまで単語の復習するよ!」

「へいへい……」

「なに、ブツブツ言ってんの」

「いえ、ただのお念仏です」

「阿弥陀様は、極楽往生しか保証はしてくれません。勉強ばかりは自力作善です」

 ああ、留美ちゃんも、すっかりお寺の子になってしまいました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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せやさかい・351『三年ぶりの如来寄席』

2022-10-11 18:10:16 | ノベル

・351

三年ぶりの如来寄席さくら    

 

 

 なんで今日が晴れなん!?

 朝の青空を見上げて歯ぎしりするあたしです!

 

 昨日は三年ぶりの如来寺寄席やったんです!

 朝から雨の中を桂米国さんは、お弟子さんを連れて、うちの本堂に来てくれはりました。

「いやあ、三年ぶりの阿弥陀さんの神々しいこと!」

 そない感激すると、鈴(りん)を鳴らして手を合わせはります。

 米国さんは、いちおうプロテスタントで浄土真宗やありません。

 せやけど、お寺の本堂でやるんやさかい、ちゃんとご挨拶はするわけです。

「ナマンダブナマンダブ……」

 ちゃんと念仏も唱えはります。

「異教徒なのに、なぜお念仏を?」

 米国さんより早く頼子さんといっしょに来てるソフィーが聞きます。

「お念仏は『南無阿弥陀仏』でしょ、南無は『もしもし』いう呼びかけやし、阿弥陀仏は仏さんの名前。つまり『もしもし仏さん』という意味。これから本堂を使わしてもらいますいうご挨拶。なにごとも挨拶で始まって挨拶で終わるっちゅうわけです」

「でも、それならお念仏でなくとも……」

「うん、ソフィーさんも、そうやと思うねんけど、日本人に挨拶するときは日本語でっしゃろ?」

「はい、礼儀です」

「二人とも英語で会話できるけど、いま、日本語で話してまっしゃろ?」

「あ……はい。そういうことなんですね」

 ソフィーの日本文化理解が、また一歩進みました。

 

 組み立て式の高座を作って、メクリを整え、テルテル坊主ぶら下げて、あとは雨が止むのを待ちました。

 

 けど、雨は止みません。

「10月10日は晴れの特異日やねんけどなあ……」

 と、テイ兄ちゃんは、本堂の縁側から空を睨みます。

 雨を怨むのは、檀家さんのことなんです。

 檀家さん、主に婦人部。婦人部いうのは、平均年齢70歳ちょっとくらい。

「いや、70歳もっとや」

 テイ兄ちゃんが言いなおします。

 そうなんです、年寄りが多いので雨の日はお寺にくるのんが大変なんです。

 神経痛やらリウマチには厳しいし、人によっては電動車いすやったりして、健康でも来るのんが大変なんです。

 それから、学校の方は動員が効きすぎました(^_^;)。

 散策部はもちろんのこと、生徒会からも会長の田中真央と執行部全員。田中会長は人気声優百武真鈴でもあるので、そのファンが学校の内外から聞きつけて30人ほど。

 他にも、担任のペコちゃん、体育の長瀬先生(意外な落語ファンやそうです)やら、うちらのクラスメートも3人ほど。

 それから、正式に王女さまになったので、頼子さんファンもボチボチと。

 総勢100人ほどの入りで、お寺の檀家さんは、そのうちの10人ほど。

「みんな、檀家のお婆ちゃんたちを前にこさせてあげて!」

 会長の田中真央さんが仕切って、お婆ちゃんたちを最前列に。

「いやあ、なんか同じ苗字で、孫みたいやなあ」

 と田中のお婆ちゃんが喜ぶ。

「よねちゃん、孫やないやろ、ひ孫やで!」

 と、加藤のお婆ちゃんがチャチャ入れしはります。

 うひゃひゃひゃひゃ(^Д^)

 テンション高く笑うけど、あした大丈夫やろかと心配しました。

 

 前回同様、うちと頼子さんは着物着てお茶子です。

 会場整理とめくり、お囃子が録音やいうのは、ちょっと残念やけど、これは経費の関係。

 

 出し物は『所帯念仏』『はてなの茶碗』『千両蜜柑』『地獄八景亡者の戯れ(前半)』の三本。

 それぞれ面白かったんやけど、紹介してると、めっちゃ長うなるんで、別の機会にね。

 

 落語会そのものは大盛況。せやけど、檀家さんの数が少なかったんで、如来寺の催し物というよりは、完全なイベントになってしもた。

「まあ、ええで、にぎやかなんが一番や」

 テイ兄ちゃんは明るく返してくれる。

 田中のお婆ちゃんは、張り切り過ぎて、帰ってから寝込んではるそうです。

「檀家さんのこと、いちばんに考えてくれて、ありがとうなあ」

 お祖父ちゃんが喜んでくれた。

 喜んでくれるのはええけど、頭撫でるのんは、堪忍してほしい(^_^;)

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
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せやさかい・350『ラジオ体操人形の呪い』

2022-10-05 16:56:40 | ノベル

・350

ラジオ体操人形の呪いさくら    

 

 

 無抵抗なまま胸までスカートがまくり上げられ、パンツが膝までずり降ろされ、裏がえしにされたかと思うと、眩しいほどに白いお尻が露わになった!

 そして、その白い双丘に、ギラギラと欲望に満ちた十個の目玉が釘付けになるのであった!

 

 あ、変な想像したぁ?

 

 実はね、ほら、テイ兄ちゃんが、お骨といっしょに預かってきたドール。

 夜な夜な、シクシクと泣く。

 センサーが、時間やら人が近づいたのを感知して、いろんな言葉を喋るんやけど『シクシク泣く』という設定は無い。

 それに興味を持った頼子先輩とソフィーがやってきて、本堂裏の旧文芸部の部室で実況見分になったという次第。

「ドールは、お尻のところにメーカー名とシリアルナンバーがあるのよ」

 ソフイーの情報部員らしい着目で、ドールのお尻をみんなで視てるわけです。

 メーカー名とシリアルが分かったら、今のご時世、ネットで検索したら一発で分かるということなんです。

 

 …………無い!?

 

 ドールのお尻は、ツルンツルンで、ナンバーも刻印もありません。

「どういうことなの!?」

 ワトソン君の勇み足を咎めるシャーロックホームズみたいに眉根を寄せる頼子さん。

「では、背中と首筋を調べます! 物によっては、こちらにある場合があるから」

 ソフィーは、ドール本体や衣装にダメージを与えないよう、器用に素早く衣装を脱がせた。

 これは!?

 イテ!

 あんまり顔を寄せたんで、うちはメグリンの頭とぶつかってしもた。

「あ、ごめん」

 メグリンは膝立ちになって、うちの頭の上から覗き込む(^_^;)。

 首筋と背中にはメーカー名があったんやけど、なんとメーカーが違う。

 背中・メーカーA  首・メーカーB  お尻・無印 

 なんや、バラバラの死体から別の体をでっち上げたフランケンシュタインみたいな……思たけど、口には出しません。

 あたしも、高校生、ちょっとは考えるようになった。中学やったらいちびって叫んでたやろけどね。

「どういうことなの、ソフィー?」

「おそらくは、三つ以上のメーカーのパーツを寄せ集めて作られたオリジナル……内部のメカもだと思う。これ以上は、本格的に分解しないと分からない」

「ああ、ちょっとそれは……」

 頼子さんがためらいの声を上げて、留美ちゃんもメグリンも詩(ことは)ちゃんも――それはそうや――とうなづく。

 あたしは分解してみたかったけどね。

「たぶん、プログラムもオリジナルだけど、これ以上は興味本位で触るべきじゃないでしょ」

 ドールの衣装を戻しながらソフィーが結論付け、ドールを元の場所に戻して、お祖父ちゃんを呼ぶ。

「気ぃすんだんか?」

「あ、はい。無理なお願いいたしました。お供養お願いします」

「よっしゃ、ほんなら、みんなで手ぇ合わせとこか」

 みんなで手を合わせて、おしまいにしました。

 

「あ、人形っていえば、あれがあるじゃない」

「あれ?」

「あれよ、あれ」

「あ、ああ、あれ」

 

 これだけで意味が通じるのは、同居の従姉やからやと思います。

 うちは、部屋に戻って懐かしい人形を持ってきました。

 

「クレーンゲームの景品?」

「いや、ちゃうんです!」

 詩ちゃん以外は――なんや(期待外れ)――いう顔したけど、うちの一言で顔を寄せてくる。

 フフっと笑うお祖父ちゃん。

「これは、ラジオ体操人形なんです!」

「「「ラジオ体操?」」」

 ほら、三年前の夏、テイ兄ちゃんが檀家さんから貰ってきた縫いぐるみ(041『不発の漫才いう感じで縫いぐるみをもらった』)です。

「ほら、ここを押えるとね……」

 チャンチャカチャン(^^♪ チャンチャカチャン(^^♪ チャチャチャチャチャンチャカチャン(^▽^)/

「「「「おお!」」」」

 ソフィー以外の四人が――懐かしい!――という歓声をあげる。

 日本人以上に日本慣れしたソフィーやけど、このメロディーは知らんかったみたい。

「体操みたいだけど、聞くのは初めて」

「そういえば、小学校でやったきりかも、あなたたちは?」

 ソフィーが興味を持って、詩ちゃんが水を向ける。

「あ、そういえば……」

「ラジオ体操って、まともにやったことないかも」

「自衛隊体操なら知ってるけど(^_^;)」

「なんや、いまの学校はラジオ体操せえへんのんか?」

 中学でも高校でも……いや、小学校の三年ぐらいからは、学校独自の体操で、ラジオ体操はせえへんかった。

「テンポはいいけど、どうやるのか、分からないわね」

「わたしは、全然分からない」

 ソフィーは腕を組んでしもた。

「よし、お祖父ちゃんが見本見せたろ!」

「え、お祖父ちゃん!?」

「これでも、高校で体育委員やってたんやぞ」

 そういうと、お祖父ちゃんは、本堂の真ん中で見本をやりはじめた。

 

 チャンチャカチャン(^^♪ チャンチャカチャン(^^♪ チャチャチャチャチャンチャカチャン(^▽^)/

 

 おお!

 

 意外な体の柔らかさに、みんな感嘆の声を上げる。

 一番を終わったお祖父ちゃんは、自分からラジオ体操人形2号のスイッチを入れて、二番に移った……

 

 グキ!

 

 最初の跳躍運動で足をグネてしもた!

「大丈夫、折れてはいません!」

 ソフィーが調べて応急措置をしてくれる。

 で、みんなが「ありがとうございました」とお礼を言うて帰った後、今度は腰が痛みだした。

「いや、ここまで歳はとってへんぞぉ!」

 お祖父ちゃんの強がりのため、この一件は『ラジオ体操人形の呪い』ということになってしまいました(^_^;)

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
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せやさかい・349『ダミアが唸る』

2022-09-27 13:31:35 | ノベル

・349

『ダミアが唸る』さくら    

 

 

 うちはお寺やさかい、時々お骨を預かる。

 

 お葬式は『ご出棺』で終わりやねんけど、喪主さんはご遺体と一緒に火葬場に行って最後のお別れをしたあと、葬儀会館、あるいはお寺に戻ってきて、お斎(みんなで食事しながら骨上げを待つ)を頂いて、二三時間して、もう一度火葬場へ。そして親類縁者でお骨上げをやって、もういっかい葬儀会館やお寺に戻ってから初七日法要。そこまで坊主(うちやったら、テイ兄ちゃんとかおっちゃん)は付き合って、喪主さんが骨箱を持ってお家に帰らはって、おしまい。

 ところが、亡くなった人が一人暮らしやったりすると、納骨までお寺に預けはることがある。

 せやさかい、テイ兄ちゃんが骨箱持って帰っても不思議には思えへんかった。

 ただね、今回は、お骨の他に、もう一つ……お人形が付いてた。

 

「ドールだね……」

 

 お骨に手を合わせたあと、詩(ことは)ちゃんが呟いた。

「ドールて、人形のことやろ?」

 そのくらいの英語は分かるいう感じで詩ちゃんに返す。

「あ、こういうタイプはドールって云うんじゃないの?」

 言うた詩ちゃんも、ようは分かってへんらしい。

「多関節人形のことだと思うよ」

 留美ちゃんが付け加える。

 フーーーー!

 なんでか、ダミアが怒って毛を逆立てよる。

「ダミアは近づけない方がいいみたい(^_^;)」

 詩ちゃんに従順なダミアは、尻尾を立てて庫裏の方へ帰って行った。

「亡くなったお婆ちゃんが大切にしてはったんやて。昼間は居間に、寝る時は枕もとに置いてはって、姉妹みたいに大事にしてはったらしい」

「そうか……別々にしたら、お婆ちゃんも人形も可哀そうやと思わはったんやね」

「まあ、納骨までには喪主さんも考えはるやろ」

 そう言うて、みんなでナマンダブを唱えて、本堂を後にしました。

 

 ミャーーー

 

 宿題も終わって、そろそろ寝よかと思てると、廊下でダミアが鳴いとる。

 いつもは、詩ちゃんの部屋に潜り込んでる時間なんで、ちょっとイレギュラー。

 廊下に出ると、詩ちゃんも出てきて、留美ちゃんと三人でダミアのあとを追いかける。

 ダミア~

 詩ちゃんが声かけても、知らん顔で本堂の方へ行きよる。

 庫裏の方から行くと、ちょうど須弥壇の裏に出る、

 チリン

 ダミアの鈴が外陣の方から聞こえる。

 本堂は、用心のためにLEDの薄明かりが点いてる。その薄明かりの中、ダミアはお座りして、小さく唸っとる。

「え?」「ちょ?」

 留美ちゃんと詩ちゃんの声が重なる。

 鈍感なわたしは、一瞬遅れて気が付いた。

 

 シクシクシク……シクシクシク……

 

 人形が泣いてるやおまへんか!?

 お寺というのは、あちらの世界とこちらの世界の狭間というところがあって、ときどき不思議なことが起こる。

 にくそい顔で唸ってるブタネコダミアも、子ネコの頃は、ちょびっと不思議なことがあったしね。

 ほら、夢にマリーアントワネット出てきたり(084『前の廊下で話声がする』)とか、佐伯さんのお婆ちゃんが亡くなったと思たら、中学生の頃の姿で出てきたり(038『佐伯さんのお婆ちゃん改め、のりちゃん』)とか、他にもお雛さんの三方( 127 『お雛さん・3』)が出てきたり、ごりょうさん(134『ごりょうさん奇談・2』 )が出てきたり。

 少々の事では驚かへんねんけども、人形が泣くのは気持ちが悪い。

 けど、みっともなくうろたえたりはせんと、三人でナマンダブを唱えて部屋に戻りました。

 

「ああ、あれなあ……」

 

 翌朝、朝ごはんの時にテイ兄ちゃんに報告すると、気楽な返事が返ってきた。

「中に音声ユニットが入ってて、センサーに感応したらリアクションしたり喋ったりするらしいで。スイッチは切ったあるはずやねんけどなぁ……まあ、何かの拍子でスイッチ入ったんやろなあ」

「そういうことは、最初に言っといてよね!」

 珍しく、詩ちゃんが食ってかかる。

 落ち着いてナマンダブを唱えてた詩ちゃんやけど、ほんまは一番ビビってたみたい(^_^;)。

 でね、今日になって分かったんやけど、人形のリアクションの中に「シクシクシク泣く」というのは無いらしい。

 

 ほんでから、学校で話したら頼子さんとソフィーが目を輝かせて、今度の休みには見に来ることになった!

 むろんメグリンも加わって、散策部の立派な部活になる予定です!

 

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  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
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せやさかい・348『密かに喜ぶ』

2022-09-19 13:28:52 | ノベル

・348

『密かに喜ぶ』さくら    

 

 

 今日から部活!……にはなれへんかった。

 

 ごっつい台風が鹿児島に上陸して、大阪は強風注意報が出てる。

 暴風警報やないさかい、休校にはなれへんねんけど、部活は止めて帰りなさいという学校のお達し。

 それに加えて頼子さんも、王女さまとしてエリザベス女王のご葬儀が終わるまでは、部活は控えならあかんらしい。

「明日からは部活もできるからね」

 そう言って、昇降口で小さな封筒を三人に配ってくれて、ソフィーといっしょに帰って行った。

 いつもの黒塗りの車が見えんくなるまで見送って封筒を開ける。

「うわあ、あれだ!」

 留美ちゃんが歓声をあげた。

 そう、写真は昨日ネットニュースでも見た『二重(ふたえ)の虹』やんか!

「これからは、希望をもってやっていこうということだね!」

 メグリンがこぶしを握る。

「裏にサインしてある!」

 留美ちゃんが写真の裏側を掲げる。

―― Over the rainbow! 頼子 ――

 気の利いたプレゼントに、凹んだ心を戻して家路についた。

 

 瑞兆(ずいちょう)というのは続くもんやろか。

 家の山門をくぐると、正月の掛け軸から抜け出したみたいに、尉と姥(じょうとんば)が熊手と箒を持って境内を掃除してるやおまへんか!

「いやあ、お寺のベッピンさんら!」

 歯ぁの抜けた口を開けて喜んでくれてるんは、婦人部長の田中のおばあちゃん。

 いっしょに掃除してるのは、うちのお祖父ちゃん。

「おかえり、今日はええニュースあるでぇ」

「え、なんやのん、お祖父ちゃん?」

「わたしに言わせて!」

 田中のおばあちゃんが尉(じょう)を押しのける。

「実はね、こんどのこんどこそ落語会ができんねんで!」

「え、ほんま!?」

 喜んでると、米国さん(外人落語家の桂米国さん)が帰り支度で出てきた。

「さいでおます、お嬢さんがた!」

 マスクからはみ出しそうなくらい口を開いて米国さんが寄って来る。

「ちょ……」

 真面目な留美ちゃんがソーシャルディスタンスをとると、米国さんも「かんにんかんにん(^_^;)」言いながら一歩下がる。

「よそのお寺さんでも、ぼちぼちやってはるし、婦人部のおばちゃんらも後押ししてくれはるし、10月10日の大安の日に如来寄席やらせてもらえることになりました!」

「「うわあ!」」

 留美ちゃんと二人でピョンピョンする。

「で、まあ、久々やし三度目の正直やし、今度は出し物はリクエストでやらせてもらおと思てます。なんか希望があったら、米国までメールしておくれやす!」

 いつもより濃い大阪弁で宣言して行ってしもた。

 

 今日はエリザベス女王の、もうちょっとしたら安倍さんの国葬。

 

 ちょっと早いかもしれへんけど、密かに喜んでるうちらでした。そう、密かに、静かにね……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

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  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
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  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

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せやさかい・347『二重の虹』

2022-09-18 09:55:39 | ノベル

・347

『二重の虹』さくら & 頼子   

 

 

 へえ、二重の虹ってあるんだ!

 

 スクロールする手を停めて留美ちゃんが呟く。

 頼子さんの消息が消えて、なんにもやる気のおこらへんうちら、放課後は図書室で時間を潰す。メグリンはお家のことがあるんで、終礼が終わると「お先に!」いうて帰った。言わんでも分かる、久々にお父さんが返って来るんや。うちも留美ちゃんも、そういうことには鋭い。

 図書室でスマホはNGやけど、備え付けのパソコンはノープロブレム。

 スマホが普及してないころは取り合いやったパソコンもスマホほどの機能がないので、けっこう空いてる。

 それで、ボンヤリとパソコンをググる週末です。

「いや、ほんま!」

 画面には、崖から海を撮った写真があって、見事に上下二段の虹が写ってる。

「うん、これは、きっといいことがあるよ!」

 なんか、秘密めいた顔で宣言する留美ちゃん。

 留美ちゃんは偉い。自分も落ち込んでるのに、パソコンで縁起のええこと探して気を引き立ててくれる。

 投稿した人はお婆さんと言っていいくらいのおばさん。

 小さいころから――二重の虹が見えたら、とってもいいことが起こる――とお祖母ちゃんから聞かされてて、この歳で、やっと発見できたんや。

 かけた願い事は――一刻も早く世界が平和になりますように――やった。

 この女の人は、イギリス人とのハーフで、境遇が頼子さんに似てる。

 ――きっと、頼子さんも大丈夫だよ―― 留美ちゃんの気持ちもありがたい。

「ちょうど二時やし、いこか!」

「うん!」

 下手な洒落にひっかけて、景気つけて校門を出る。

 

「あ、トンボ」

 

 公園の横まで来ると、五六匹のトンボがヘリコプターみたいに飛んでる。

「つい最近まで、蝉がうるさかったのにね……」

「公園の中通っていこか?」

「うん」

 公園を通ると微妙に遠回りになるんやけど、うちらは雰囲気に浸りたかった。

 

 God ~save~ the Queen♪

 

 着メロの『ゴッド セイブズ ザ クイーン』が鳴り出した。

「あ、わたしのも」

 留美ちゃんはマナーモードのバイブみたい。

「「あ、頼子さん!」」

 

―― 月曜日から学校に行きます ――

 

 簡単なメールやけど、意味と気持ちは十分伝わって来る。

 やっぱりヤマセンブルグに帰ってたんや。たぶん、お祖母ちゃんの女王陛下のことやろね。

 ひょっとしたら、二度と帰ってこーへんちゃうかと思ってたから、めっちゃ安心したよおおおお!

 

 

 三人にメールを打ってホッとした。

 取りあえずは日本に帰って来れた。

 場合によっては、このままヤマセンブルグだと思っていた。

―― 国王が執務できないときは、王位継承権第一位の者が摂政になる ――

 王室典範の規定に書いてある。

 正式に王女になったのだから従わないわけにはいかない。

 ソフィーはじめ、周囲の人たちも、そういうモードに入っていたしね。

―― しっかりなさってください ――

 サッチャー……いや、イザベラさんの目は、露骨に物語っていたしね。

 二年前だったら『くそ、このオバハンめ!』とか反発もできたんだけど、女王側近の彼女の信条。心配は十分すぎるくらいに身に染みている。

「ヨリコ、いっしょに見て」

 お祖母ちゃんは、ずっとエリザベス女王との思い出の写真や映像や手紙を見せてくれる。

 お祖母ちゃんの若いころ、ロシアがソ連だったころ、ヤマセンブルグでも革命騒ぎがあったりした。

 お祖母ちゃんは、半ば避難するようにイギリスに留学して、ずいぶんエリザベス女王に助けられたんだ。

 だからね、すごく落ち込んで、ジョン・スミスなんか「このままご譲位されるかもしれません」と出迎えた空港で言うんだもんね。あのジョン・スミスの目が笑ってなかった。

 何日もかけて、お祖母ちゃんと思い出のあれこれを見て、ようやく一段落。

「ヨリコ、明日日本に帰りなさい」

 そう言って、お祖母ちゃんは、わたしを送り出してくれた。

 

「殿下、富士山が見えてきました」

 ソフィーが呟く。

 これは、日本の領空に入ったからメールしてもいいというサイン。

 

―― 月曜日から学校に行きます ――

 言葉は一杯浮かんだけど、余計なことは書けないし、気持ちは伝えたいし。ごく簡単な文面になった。

 

「Wow!」

 

 ソフィーが母国語で歓声をあげた。

 窓から覗くと、富士山に二重の虹がかかっていた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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せやさかい・346『目をつぶった』

2022-09-10 20:37:45 | ノベル

・346

『目をつぶった』さくら & 頼子   

 

 

 頼子さんが学校休んでる。

 

 頼子さんとの付き合いは四年になるけど、二日続けて学校休んだことは初めて。

 王女さまやから、たまに早引きとか早退とかはあった。お婆さまの女王陛下が来日された時は、いっしょに行動せなあかんかったりして、早退してたし、東京での行事を終えた時は遅刻してた。

 せやけど、昨日今日と二日続けての休み。

 ソフィーも休んでるから、王室の仕事やいうのんは見当つくねんけどね。

 ペコちゃん通じて探ってみても「家庭事情で休んでるんだって」という漠然とした答えしか返ってこうへん。

 なによりもね、今まではメールをくれてたのに、今回は突然でなしのつぶて。メール送っても既読マークもついてへん。

――たぶん、たぶんだけどね……エリザベス女王と関係ある――

――え、頼子さんはヤマセンブルグの王女さまやで――

 下校中の電車の中、留美ちゃんとメールのやり取り。

 電車の中で声出すのんが憚られるいうこともあるねんけど、頼子さんの身分考えたら、他の人が居てる電車の中で口にすること自体がNGのような気がする。

 ヤマセンブルグ王室と英国王室の関係は深いし、今回の御不幸も知ってるけど、まだ、ご葬儀のだんどりも分かってへん。

 動くにしても早すぎる。

――一般人とはちがうからね……――

 この夏休み、みんなでヤマセンブルグ旅行に行って、そこで、頼子さんは日本国籍を捨てて、正式な王女様になった。

 なんとか、自分の中で折り合いをつけて、この事実を受け止めたとこや。

 なんとか、いつものうちらに戻れて、部活の散策部もがんばろういう気持ちになってた。

――だいじょうぶ、頼子さんの判断は間違っていたことないし、きっと連絡くれるよ――

――せやね――

 そこまで打ったとこで、電車は大和川の鉄橋を渡り出した。

 ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン

 鉄橋渡る音と振動が、なんや理不尽で、それ以上メール打つのは止めて、うちは目をつぶった。

 ひょっとして、もう会われへんのんちゃうやろか……

「バカなこと言うんじゃないわよ」

 留美ちゃんが声に出して怒る。

 うち、知らん間に声に出てたみたい(-_-;)。

 それから、堺東に着くまでは、目ぇつぶって、じっとしてるわたしらでした。

 

 

 お祖母ちゃんがおかしい。

 きのうスカイプしてきて、ポロポロと涙を流すだけでなにも言わない。

 十分ほどして、やっと言った一言が。

『ヨリコ、すぐに来て』

「え、どうしたのお祖母ちゃん!?」

 すると、画面が切り替わって、サッチャーさんが出てきた。

『失礼します、殿下。もう、ご存知の事とは思うのですが、エリザベス女王が崩御なさいました。それで……』

 二重の意味でびっくりした。

 早朝だったので、わたしは英国王室の御不幸をまだ知らなかったし、こんなに落ち込んだお祖母ちゃんを見るのも初めてだった。

 それから、総領事とも話をして、外部にはいっさい内緒で、その足で飛行機に乗った。

 学校には『家庭事情で休みます』とだけ電話した。

 さくらたちには済まないけど、今回ばかりは、なにも伝えられない。

 お祖母ちゃん大丈夫だろうか……

「大丈夫ですよ、殿下」

 いつの間にか、隣のシートにソフィーが来ていた。

「そうね、ありがとう、ソフィー」

 ひょっとしたら、何カ月、何年か日本には帰れないかもしれない。

 いや、ダメだ。

 わたしの帰るべき場所はヤマセンブルグしかないんだ。

 少しでも眠っておこう。

「どうぞ」

 ソフィーが眠剤と水をくれる。

「ソフィー」

「なんでしょうか?」

「面構えが、ジョン・スミスに似てきた」

「光栄です」

 それだけ言うと、よきガーディアンは、通路を挟んだ本来のシートに戻って行った。

 薬を下の上に載せて、ゆっくりと水で流し込む。

 とりあえず、目をつぶった。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

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せやさかい・345『あずきバーとペコちゃん』

2022-09-03 18:02:07 | ノベル

・345

『あずきバーとペコちゃん』さくら   

 

 

 ねえ、見てよ!

 

 お風呂から上がったら、留美ちゃんがパソコンの画面を指さしてる。

「え……アハハハ( ´艸`)」

 思わず口を押えてしまう。

 動画のタイトルは『怒れるフランス人』です。

 

 フランス人のカップルが、浅草の雷門。はんぶん怒って、はんぶん面白がってる。

『日本はキュートで好きだけどさ、これはあり得ないわあ』

 男が、右手に持ったそれを左手で指差してる。女の人が『ちょっとやめときいや』いう感じ。でも、目ぇ笑てるから、なんや面白いこと言うんやろねえ。

 なにを言いよんねん? すると、お前にだけ教えたるいう感じでカメラに寄って来る。

『そこで買ったアイスなんだけどさ、世界で一番硬い! 硬すぎる! 知らずに齧りついたら、ぜったい歯を折ってしまうぞ!』

『でも、美味しいよ(^_^;)』

 彼女がフォローして、はんぶん面白がって、男がガキっと奥歯で嚙み切った!

 

 それは、うちが大好きな『あずきバー』やおまへんか!

 

 おぜんざいをそのままに凍らせたような、いかにも日本のアイスいう感じのあずきバー。

 うちらはまるカブリなんかはせえへん。

 最初、ペロペロ舐めて、それから前歯で削るようにして齧る。

 すると、お善哉の甘さが口の前の方から広がってきて、もっかい、ひと齧り。

 やがて、小豆が顔を出して、冷やし善哉。でもって、全体に張った霜が、だんだん小さなって、小さなったとこは柔らかなって、ガブっと齧りつける。

 他のアイスよりも溶けるのん遅いし、美味しいし、うちはあずきバーが大好き。

「これって、ソフィーが初めてあずきバー食べた時といっしょだよね」

 留美ちゃんがくすぐったそうに喜ぶ。

 

 まだ、語尾に「です」が抜けきれへんかったころのソフィー。

 本堂の階段に頼子さんと四人腰かけて食べたあずきバー。

『なにかの呪いですか!?』

 魔法使いの末裔は、戦闘的な顔であずきバーの齧り跡を見つめてたっけ。

 そのソフィーも、こないだ頼子さんと昼寝に来た時は、うちらと同じ食べ方をしてた。

 

 で、放課後のキャフェテリア。

 

 二割ぐらい霜が消えたあずきバーを持って、スマホを見つめてるペコちゃん先生。

 後ろからそーっと回って、留美ちゃんと覗いてみる。

 え?

 スマホの画面は、お台場の大観覧車とアンナミラーズの停止と閉店のニュースをやってる。

「え、あ、やだなあ(n*´ω`*n)」

 気ぃつい照れまくるペコちゃん先生。

「なにか、思い出があるんですか?」

 留美ちゃんにしては直球の質問。

「え、あ、うん……」

 そう言うて、あずきバーの先を二センチ近く齧る。フランス人の男並みに歯が強いみたい。二人で感心。

「「おお」」

「……学生の頃にね、ここでバイトしてたの」

「ええ!?」

 アンナミラーズは、うちでも知ってる。行ったことは無いけど、日本で一番制服の可愛い喫茶店ですやんか!

 ミニスカートの切り返しが高い位置(ほとんどオッパイの下)にあって程よくバストが強調されて可愛い!

 スカートはオレンジ系の暖色、色は何色かあって、ブラウスの白に映えてる。

 こ、これをペコちゃんが着てたぁ!?

「ほら、この人……」

 スクロールすると、雑誌の表紙にもなったという伝説の神メイド、いやカリスマウェイトレスさん!

 今は、結婚してお母ちゃんになってはるねんけど、最後にお客で来てはるのが写ってる。

「笑顔とか、人との接触の仕方というか接客とか、ここで勉強したんだよ……友だちも、ここのバイト仲間が多かったし。まる三年やって、ほんとに、わたしの青春だった……かな?」

「いやあ、先生やったら不二家でバイトしてたと思ってましたぁ(^▽^)/」

「アハハ、顔は生まれつきだからね」

 気が付くと、先生のあずきバーは最後のひと齧りを残すだけになってる。

「でも、なんであずきバーなんですか?」

「え? ああ、このあずきバーの会社の経営なのよ……ガブリ」

 先生は、最後をひと齧りにすると、時計を見て行ってしもた。

 うちらも、時間なんで部室にいくことにしました。

 二学期の学校も、いよいよ平常運転です。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

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せやさかい・344『畳の温もり』

2022-08-27 15:08:40 | ノベル

・344

『畳の温もり』さくら   

 

 

 け躓いたら、そこに杖があったゆう感じ。

 

 ヤマセンブルグから帰って来ると、もう虚脱状態。

 行きしなの飛行機、オリエント急行、エディンバラのミリタリータトゥー、初めてのスコティッシュダンス、そして……ヤマセンブルグで正式な王女宣言をやった頼子さん。トドメの芋ほり。

 ほとんど半月にわたるあれやこれやが、整理のつかへんままに頭の中でグルグル回ってる。

 25日から学校が始まってる。

 午前中だけの短縮授業やねんけど、なんともしんどい。留美ちゃんの強い勧めで、旅行前に宿題をやっといて正解。

 

 やっぱりね、頼子さんが王女宣言してヤマセンブルグの人になってしもた……喪失感。

 

 自分にお姉ちゃんがおって、そのお姉ちゃんがお嫁に行ったらこんな感じ?

 卒業したらヤマセンブルグに行くんや。

 王女さまやし、将来自分が入るお墓まで用意されてて、めったに帰ってこられへんねやろなあ……あ、日本は行くとこで帰って来るとこやないねんわ。

 ウクライナが、あんなことで、ヨーロッパの国はどこも大変や。

 国民の結束が必要やから、自分が、お祖母ちゃんの女王陛下と立たならあかん。そない思ての決心。

 日本に帰ってから、頼子さんは、まだ学校に来てへん。手続きやら挨拶やら、いろいろあるんやろねえ。

 十七年の人生で、こんなに学校に行くのがしんどいのは初めてや。

 せやさかい、今日の日曜日は嬉しい。け躓いたら、そこに杖があったゆう感じ。

 

 詩(ことは)ちゃんは、あくる日から大学に行ってる。

 うちとは逆に、なんか掴んで帰ってきたみたい。話したら、なんか言ってくれそうやねんけど、きっと圧倒されそうで、詩ちゃんも、そういうとこ分かってるようで、うちには、そう言う話はせえへん。

 今朝は、留美ちゃんといっしょに本堂の大掃除。

 だだっ広い本堂やさかい、めっちゃ遣り甲斐があって、掃除してる間だけは忘れることができた。

 

 ……ちょっと暑なってきた。

 

 じつは、エアコンは止めてる。

 ほんで、本堂の外陣で寝てる。畳の自然な冷たさが気持ちようて、横になったんや。

 まだまだ夏やけど、それでも、今朝はだいぶマシで、それで寝てしもた。

 せやけど、さすがに畳が温もってしもて、ちょっと暑い。自分の温もりやねんけど、ちょっと疎ましい。

 コロン

 そのまんま、横に転がると、また冷こい畳。

 う……うちの放射熱やろか、思たほど冷こない。

 コロン

 もう一回転。

 ん……ハッキリと温い。だれか寝てた?

 留美ちゃん? いや、留美ちゃんは部屋で本読む言うてたし。

 

 ガバ

 

 起きてみると、広い本堂にうち一人。

 え、だれが、横で寝てたん?

「やっと起きたんか」

 後ろで声がしたかと思うと、寝起きには最悪の顔。

 作務衣姿のテイ兄ちゃんが、呆れた顔して立ってる。

「顔でも洗てこい、ぶちゃむくれやぞ」

「ふぇ?」

「惜しいことしたなあ」

「え、なにが?」

「今の今まで、さくらの横で頼子さん寝ててんぞ」

「え、ええ! ウソ!?」

「ひょこっとソフィーの車で来てな、そんで、さくらが気持ちよう寝てるさかい『わたしもいっしょに』云うて、一時間程や」

「ちょ、なんで起こしてくれへんかったんよ!」

 思わず、飛びかかってしまう!

「こら! なにすんねん!」

「おいおい、本堂で暴れたらあかんやないか」

 お祖父ちゃんの声で、ちょっとだけ正気に戻る。

「リビングの方は用意できてるで、早よおいでや」

「え、用意?」

「せや、久々に頼子ちゃん来てくれはったさかい、リビングで歓迎会、早よおいでや」

「アハハ、びっくりしたか!?」

「も、もおおおおお!」

「牛か、おまえは」

「クソ坊主!」

 本堂の縁側に出てみると、お馴染み青色ナンバーの車が停まってる。

 

 頼子さーーーん!!

 

 うん、明日からはニュートラル! いつものさくらでいけそうです! 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

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せやさかい・343『ジャガイモ尽くし』

2022-08-20 10:15:04 | ノベル

・343

『ジャガイモ尽くし』さくら   

 

 

 夕べのディナーはジャガイモ尽くしやった(;'∀')

 

 お料理が出てきて思い出した。

 ヤマセンブルグは、ご先祖の遺徳をしのぶため、慶弔の行事があったときは、ご先祖が食べてたのと同じものを食べる。

 ジャガイモのソテー、 イモサラダ、 ジャガイモのスープ、 ベーコンとジャガイモのボイル、 ジャガイモのガレットなどなど……

 そうなんや、初代のヤマセンブルグ辺境伯がスコットランドで汚れ仕事をしてたころに食べてたメニュー。

 これでも味付けは現代風にしてあって、見かけほど不味いものでもない。

「お祝い事の時は、まだいいの。不幸があった時は、ほんとに味が付いてないんだよね」

 こそっと頼子さんが言ってくれる。

「でもね、いっそう不幸な顔をしていられるから、そういう時にはピッタリなの」

 もちろん、夕べは頼子さんが正式に王女になったので目出度い方のジャガイモ尽くし。

 モグモグ ムシャムシャ ハムハム……

「あ、ひょっとしたら!!?」

 思わず叫んでしもて、みんなの注目を浴びてしまう!

 頼子さんはポーカーフェイスで、女王陛下は――思い出したぁ?――というお茶目な顔でうちの顔を見はる!

 留美ちゃんは俯いてるし、詩(ことは)ちゃんは顔いっぱいに?マークを浮かべてる!

 

 ああ、やっぱりこれやったあ(,,꒪꒫꒪,,)!

 

 エディンバラ以来馴染んだジャージに麦わら帽子を被って、ジャガイモの収穫をやってる。

 宮殿の庭にある60アール(プールの水面二枚分くらい)の畑でジャガイモの収穫。

 むろん、これもご先祖の御遺徳を偲ぶための王室行事。

 日本の皇室でも、天皇陛下は田植えと稲刈り、皇后陛下はお蚕のお世話をなさっています。

 女王陛下が若いころ来日して天皇陛下と、この農耕儀礼の話で盛り上がって、大いに発奮して規模を大きくしたんやとか。

頼子:「お父さん(亡くなった皇太子)は、この芋尽くしが嫌いでね、お祖母ちゃんに反発してて、芋畑の縮小を主張したんだけど、天皇陛下のお話を聞いて勇気百倍になって……ウンショ! 今の規模にしたの」

留美:「三年前は、外の御用畑だったですよね? ヨイショ」

さくら:「せや、ここの十倍はあったよねえ……ドッコイショ!」

詩:「十倍!?」

頼子:「お祖母ちゃんも歳だからね……ほら、エディンバラじゃ張りきり過ぎてたでしょ」

 ミリタリータトゥーで、ニ十歳は若く見えるステップを踏んでたのを思い出す。

みんな:「ああーーーーー」

頼子:「でもね、それがきっかけで、お父さん、国を飛び出して世界中を放浪してお母さんに出会ったの」

詩:「ということは、この、ジャガイモ畑の一件が無かったら、頼子さん、生まれてない?」

頼子:「うん、人間万事塞翁が馬だよね」

さくら:「お祖父ちゃんが言うてた。悪事が善を善が悪事を呼ぶこともある。ことの良し悪しは分からんもんや」

詩:「だから、阿弥陀さんは人間全てを極楽に連れて行ってくださる!」

詩・さくら:「ナマンダブナマンダブ……」

頼子・留美:「アハハハ(^▽^)」

みんな:「ワハハハハハハ」

ソニー:「そこ、喋ってないで手を動かして!」

頼子:「うう、妹の方は容赦なさすぎぃ、ヨイショ!」

 

 ソフィーはメグさんやジョンスミスといっしょに、午後からの行事の為、すでに警備配置に就いてる。

 安倍さんの一件から、世界中でVIPの警備は厳しくなってる。

 世界に警鐘を鳴らした安倍さん、改めてナマンダブです。

 

 王立墓地は全体としては森の形をしていて、いかにも深淵な墓地の風格。

 中に入ると『の』の字型に渦を巻いてる。『の』の字の真ん中に初代ヤマセンブルグ辺境伯のお墓、その横にお妃、二代目、三代目と渦巻き状に続いて、一周したとこで周囲に木を植えて、それが連続して、いつしか『の』の字の形になったらしい。

 むろん、木々の間を抜けてショートカットすることも出来て、急いでるときや、お忍びのときは、ショートカット。

 出方は幾通りにも出来るわけで、警備はしやすいらしい。

頼子:「あ、もう用意してある!」

 ほとんど真ん中に来た時、皇太子のお父さんのお墓で頼子さんの足が停まる。

詩:「この区画?」

 お父さんのお墓の横の区画は、草が刈られ、境界の石も磨かれてた。

頼子:「わたしは、ここに葬られるんだねぇ……」

 なんとも、ヤマセンブルグは打つ手が早い(^_^;)

 

 その後、女王陛下もお出ましになって、先祖代々の王様に正式な王女になったことをご報告。

 それを後ろから見うと、うちらの頼子さんが、ちょっと手の届かんとこに行ってしまうみたいで、ちょっとウルウル。

 

 それからは、国立軍人墓地にまわって、五人の戦死者にお花を捧げました。

 むろん、国内はもとより世界中のマスコミやらユーチューバーやらが取り巻いて、正式な王女になったことと併せて、ニュースやら動画で世界中に流されました。

 それから、一日の猶予があって、うちらは残暑厳しい日本に帰ります。

 

「殿下、新しいパスポートをお持ちしました」

 

 軍服に身を固め、ビシッと敬礼しながらソフィーが真新しいパスポートをテーブルに置いたのは、その日のディナー。

「ありがとう、ソフィア少尉」

「では、失礼します」

 きれいな回れ右で退出するソフィー。

 わたしも、三年前よりかは賢くなって、これくらいのことは分かる。

 パスポートは、一日や二日ではでけへん。

 おそらくは、うちらが日本を飛び立つ前には決まってたことやねんわ。

 そろっと開かれたパスポートの発行は、その通り8月8日になってたよ。

 

 ※ エディンバラ・ヤマセンブルグ編は、ここでおしまい。また、月に五六回の不定期になりますけど、よろしくお願いいたします(^▽^)/   8月20日  酒井 さくら♡

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 
コメント
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