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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・327『初日の夜はバンコクで』

2022-08-04 10:05:18 | ノベル

・327

『初日の夜はバンコクで』さくら   

 

 

 スワンナプーム空港(タイの国際空港)では、ちょっと待たされた。

 

 飛行機いうのは車みたいに、空いてるとこに止めたらええというもんではないんですね。

 管制塔からの指示があって、地上で誘導するスタッフが配置について、荷物下ろすカーゴが横付けして、給油と整備のスタッフもやってきて……。これが、通常の国際便やったら、テキパキと進むんやろけど、うちらはプライベート機。それも双発の軍用機なんで、すぐにはいかへんみたいです。

「クイズ出しまーす(^▽^)/」

 メグリンが退屈しのぎにクイズというかナゾナゾを出してくれる。

「……じゃ、つぎ! 今から言う国の首都を言ってください!」

「おう、どんとこいや!」

「アメリカ」ーー「ワシントン!」

「オランダ」ーー「アムステルダム!」

「フランス」ーー「パリ!」

「イギリス」ーー「ロンドン!」

「エジプト」ーー「カイロ!」

「モンゴル」ーー「えと……」「ウランバートル!」

「ロシア」ーーー「モスクワ!」

「ウクライナ」ー「えと……」「キエフ」「今はキーウだよ」

「中国」ーーーー「北京」

「韓国」ーーーー「ソウル」

「バンコク」ーー「えっと……」「バンコク?」「どこだっけ?」

 ここでつまると、ソフィーがニヤニヤ。

 着てる軍服からヘアスタイルまで、印象は攻〇機動隊の草〇素子少佐(いちばん新しいバージョンの)のソフィー。ソフィーは、まだ駆け出しの少尉やけど、空中給油と着陸以外はみごとに決めた。

 で、バンコクの首都は?

「ここですよ、バンコクはタイの首都」

 メグさんが横から種明かし。

「メグリン、なかなかやるねえ」

 頼子さんも機嫌がいい。

「迎えの車が来ました」

 メグさんがドアを開ける。ソフィーは再びコクピットへ。

 

 車は大使館のワンボックス。で、税関を通ることも無く特別ゲートから空港の外へ出た。

 

「はい、これを渡しておきます」

 メグさんが、一人一人にIDを渡してくれる。

 Lady's maid?

「え、侍女なんですか、わたしたち?」

 直ぐに分かった詩(ことは)ちゃんが質問。

「ごめんね、こうしないと通関とかややこしいから」

 頼子さんがすまなさそうな顔。

「万一のことがあったら、王室関係者にしておいた方が簡単にすむんですよ(^_^;)」

 メグさん、万一のことて……あんまり想像はせんことにします。

「うわあ、見て見て、パゴダだよ!」

 留美ちゃんがキョロキョロ。

 確かに、道路から見える景色の中にはごりょうさん(仁徳天皇陵)みたいな緑の合間に、アイスのコーンをひっくり返したような屋根が窺える。

「なんやのん、あれ?」

「パゴダよ。お寺の仏塔」

「あ、うちの如来寺みたいな?」

「そう、タイは仏教国だからね」

 詩ちゃんは大学生なだけあって、詳しい。

「トランジットみたいなものだから、外に出て観光するわけにはいかないけど、えと……あの大きなパゴダがね……」

 まるで大阪市内の観光スポットを説明するような頼子さん。やっぱりプリンセスはちがう!

 車内のモニターにはバンコク周辺のグーグルアースやら、近辺の観光スポットなんかが映し出され、メグさんと頼子さんが説明してくれる。

 ヤマセンブルグの都合=自分の都合で長旅をさせてることへの気遣いやろねんね。

 うちらは、ぜんぜん気にしてないねんけど、こういうとこにも気を配るのは、やっぱりうちらの頼子さん。

 この気持ちには応えならあかんと思うねんけど……うちの頭で考えてもすぐには思いつかへん。

 この旅行を楽しむことが、頼子さんの気持ちに応えることに繋がる……いまは、そう横着に考えときます。

 パゴダを囲む緑が近代的なビル群に置き換わって大使館に着きました。

 晩ご飯の頃にはソフィー少尉も戻ってきて、そして、そのソフィーも私服に着替えると頼子さんの呼び方も変えてる。

 殿下からリッチ。

 リッチいうのはヨリッチがさらに短縮というか親し気になったもんで、百武真鈴(高校生声優)ことクラスメートの田中真央が広めたらしい。

 そう言えば、百武真鈴の勧めで『恋するマネキン』のノルンの女神の声をやった頼子さん(285回)はすごかった。

 もっかいやってくれへんやろか!?

「リッチ、もっかいやんなよ!」

 お友だちモードでせまったソフィーは本気やったと思います。

 

 そして、二日目のあたしらは、再び飛行機に乗って、インドはニューデリーのインディラガンジー国際空港を目指します。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

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せやさかい・326『空中給油』

2022-08-03 15:16:36 | ノベル

・326

『空中給油』さくら   

 

 

 三年前はユーラシア大陸を横断する航路やった。

 

 それも、自家用とはいえジェット機やったんで13時間ちょっとでエディンバラに着けた。

 せやけど、今度はユーラシア大陸の横断がでけへんらしいんです(;'∀')。

 ロシアと中国の上空が飛ばれへんて、メグさんが説明してくれる。

「ヤマセンブルグはNATOに加盟しているので、ロシアの上空は飛びません。中国は、この二三日の動向次第では危険になるので通過は避けます。でも、その分、あちこち寄って行けますから楽しんでくださいね」

 にっこり微笑むメグさん。うちらも、旅は始まったばっかりなんで「「「「ハーイ(^▽^)/」」」」と元気にお返事する。

「まずは、コクピットの様子を見てみましょう」

 メグさんがリモコンを押すと、正面のディスプレーにジョン・スミスとソフィーの後姿。画面の両脇には別画面が映っていて、斜め正面からのふたりの姿。

 二人とも操縦かんを握ってるんで、どっちが操縦してんのかよう分からへん。

「すごい、ソフィー先輩が操縦してるよ!」

 メグリンが感動。お父さんが自衛隊やさかい、どっちが操縦してるとかは一目瞭然やねんやろなあ。

「なにをやらしても、上達が早いのよ。まあ、レシプロの操縦なんてお茶の子さいさいなんでしょうね」

 ちょっと不満げな頼子さん。

「そう言えば、日本語マスターするのも早かったですよね。三年前は翻訳機使って、一生懸命エディンバラの街を案内してくれて……」

「そうよね、あのころのソフィーって留美ちゃんに似てたわよね」

 頼子さんがウィンクする。

「え、そうですか(;'∀')」

「うん、せやせや、言葉喋るのがいちいち重大事件みたいな、一生懸命なとことか!」

「そ、そんなことないよ! さくらったら!」

「そんなだったんですか?」

「えと、どうでもええけど、頭の上から言わんとってくれる(^_^;)」

「あ、ごめん」

 180超のメグリンは座ってても大きい。

「うちなんか、考える前に喋ってしまうさかいに、あとで『しまったぁ!』て思うこと多いしね」

「「「うん」」」

「ちょ、そんなとこで声揃えんといてくれますぅ」

 アハハハハ

「でもね、子どもの頃は、わたしの方がお喋りだったんですよ」

「え、そうなんですか詩(ことは)さん!?」

「うん、ほら『外郎売』ってあるでしょ」

「ういろううり?」

 メグリンは分からへんみたい。

「歌舞伎の演目でね、めちゃくちゃ長い口上なのよ」

「いや、最初はね『寿限無(じゅげむ)』やったんよ」

「あ、それは知ってる、日本で一番長い名前!」

「「じゅげむじゅげむ、ごこうのすりきれ、かいじゃり、すいぎょうまつの……」」

 うちと詩ちゃんで寿限無のデュエット。

「「「すごいすごい!」」

 ちょっと盛り上がる。

「お盆で、うちに来た時ドヤ顔で自慢するのよ、チビさくらが」

「へえ」

「紙に書いたら、調子がいいんで、わたしも半日で憶えてしまって。面白がったお祖父ちゃんが『じゃあ、外郎売をやってみろ』って」

「そうそう、お盆が過ぎるころには詩ちゃん憶えてしもて」

「でも、わたしがいっしょに住むようになったときは、断然お喋りはさくらですけど」

「さくらは中学に入ってタガが外れたのよね」

「あ、それは、お寺に住むようになったからやと思う!」

「「「なんで?」」」

「それまでは、お母さんと2Kのアパートやったし、あんまり喋ったら……」

「だよね、あっという間に部屋の空気吸いつくしちゃう。お寺だったら広いから、少々喋っても吸いつくせない!」

「あ、もう、あたしはバケモンとちゃいます!」

「「「アハハハ」」」

 

 うちらがキャビンでアホな話してる間も、ソフィーは黙々と飛行機を操縦。

 さすがのうちらも喋りつかれたころに、ソフィーがキャビンにやってきた。

 

「あら、やっと休憩?」

「これから空中給油するんです。これは大佐でなければやれません」

「あ、その間は休めるんや!」

 うちは、ソフィーと喋れるんが、ちょっと嬉しい。

「横で、サポートしなくちゃならない。10分だけ仮眠」

 そう言うと、キャビンの一番後ろまで行ってアイマスクして寝るソフィー。

「やっぱり、きついんだろうね……」

 薄く口を開いて、速攻で寝てしまうソフィー。考えたら、ソフィーが人前で寝てるとこ見るのは初めてや。

 みんな、自然に静かになる。

「そこまで静かにしなくても大丈夫ですよ」

 メグさんが解してくれる。

「空中給油の予定は無かったんです。給油予定の台湾をとばすことになって、それを空中給油で済ませるんです」

 そう言えば、ペロシさんが台湾に来るとか言うてた。中国とアメリカがドンパチの寸前やとか。

「どこの国に空中給油してもらうんですか?」

 メグリンは、そっちに興味があるみたい。

「見れば分かりますけど、内緒です。これは、大佐の個人的なコネでやるそうですから」

 空中給油をさせてもらえる個人的なコネて……ジョン・スミスもすごいねんわ(^_^;)

「よし!」

 10分きっかりで起きると、すっかり疲れのとれた顔でコクピットに戻るソフィー。

 ソフィーが戻ったコクピットを見ると、窓の向こうに四つもエンジン付けた大きな飛行機のお尻が迫ってる。

「「「「ウワア……」」」」

 お尻から羽付きのホースがスルスルと伸びてきて、こっちからもでっかい槍みたいなんがスルスルと伸びて、お互いを探り合う。

 ちょっと失敗したら、ホースがプロペラに絡みついて大惨事!?

「さくら、ちょっとヤバイこと想像したでしょ」

 頼子さんに怒られる。

 なんと、ジョン・スミスは一発でドッキングさせて、そのまま二分ほど。

 ホースをパージさせると、給油機は翼を振って行ってしもた。

 翼には、日本ではない国のマークが付いてたけど、ナイショです。

 

 そのまま飛行機はインドシナ半島の方角へ飛んでいく。

 八時間かけて着陸したのは、タイのスワンナプーム国際空港。

 初日は、駐タイ・ヤマセンブルグ大使館で泊ることになりました。

 大使館では、面白いものをもらったんやけど、それは、また明日にね。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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せやさかい・325『旅の始まり』

2022-08-02 11:27:47 | ノベル

・325

『旅の始まり』さくら   

 

 

 もう三年もたってしもたんが嘘みたい。

 

 関空の国際線ロビーは、三年前と変わりはない。というか、鈍感なあたしは少々の変化には気ぃつかへんのかもしれへん。

「あちこち、コロナの注意書きがあるねぇ……」

 留美ちゃんは目をグリグリ回して違いに気ぃついてる。

「そうね、もう、マスクとか消毒とかが当たり前になっちゃったものね……」

 詩ちゃんは、ウェストポーチの中身をチェックしながらの感想。

「みなさん、ドリンク類は飲み干しておきましょう!」

 そう宣言すると、飲み残しのスポーツドリンクをグビグビ飲むメグリン。

「そうだね、液体は機内に持ち込めないもんね」

 みんなより、首一つ高いせえもあって、いまのメグリンを動画にしたらスポーツドリンクのCMに使えそう。

「飲み終えたら、ここに入れて、まとめてほりに行って来る(^▽^)」

 ニコニコ笑顔でレジ袋を広げてるのはテイ兄ちゃん。うちらを関空まで送ってくれたんやけど、目当ては頼子さん。

 このエロ坊主は頼子さんが中三やったころからのファンで、頼子さんが居てるとデレデレ。

「来週に入ったら盆のお参りで来られへんとこやった(^▽^)。まさかヤマセンブルグまで付いていくわけにもいかへんし、ほんま、今朝の出発でよかったなあ(^#▽#^)」

「嬉しいのは分かるけど、坊主のナリでにやけんといてくれる」

 テイ兄ちゃんのにやけっぷりは、そのうち本山か仏教会からクレームがくるにちがいない。

「おはよう、みんな!」

「「「「キャ」」」」

 いきなり声を掛けられたんで、四人ともビックリ。

 エロ坊主に呆れてると、不意に後ろから頼子さん。

「揃ってるわね、行こうか!」

 添乗のオネエサンのテンションの笑顔。この笑顔を見られへんのは、ちょっと可哀そうと、人ごみの向こうに行ったテイ兄ちゃんに目を向ける。

「ちょっとだけ待ってやってくれる、兄がゴミ捨てに行ってるから」

 にくていは言うても、やっぱり兄妹。詩ちゃんは優しい。

「頼子さーーーん!」

 アホが妹の優しさを踏みにじるような大声上げて走ってきよる。詩ちゃんも「いまのん取り消し!」いうような顔で睨んでる。

《わあ、テイ兄ちゃん!》

 マスクの下からやけど、頼子さんは、きちんと喜んで声を上げてくれます。

 ほんまに、ようできた先輩です。

「写真撮りましょ!」

 クス坊主でも、搭乗まで時間がないことを承知して、結論を言う。

「いいですよ(^▽^)」

 シャッターを押す瞬間だけ息を止めてマスクをとる。

 そうやって、ツーショットと全員の写真を撮って、いよいよ出国ゲートへ向かう。

「えと、ソフィー先輩は?」

 ゲートの手前でメグリンが立ち止まる。

「もう乗ってるわ」

 え、なんで?

 思いながらも流れにのって出国ゲート。

 一般のゲートと違って、VIPのゲート。

 そう、三年前と同じくヤマセンブルグの専用機で行くんです。

 頼子さんはヤマセンブルグの王位継承者。先月は奈良で不幸な事件もあったし、今度は大事をとった旅行になるんやそうです。飛行機も航路も三年前とはちゃうんやそうです。

「いってらっしゃーーい!」

 テイ兄ちゃんのアホ丸出しの見送りにも、これが最後とお愛想の手を振り返してやる。

 カルロス・ゴーンの一件で、三年前よりもきついセキュリティーやったけど、スイスイとプライベート機専用の駐機場へ。

 四機ほど並んでる中に、一つだけプロペラの付いてる飛行機……え、あれに乗るのん?

 シャトルバスが近づくと、前のドアから、男女の軍人さんが下りてきて敬礼してる。

「お馴染みさんだから、気楽にね……」

 頼子さんに続いてバスを降りる。

「操縦士は、三年前と同じジョン・スミス」

「ジョン・スミス大佐であります、殿下」

「昇進おめでとう、今度は長旅だけど、よろしく」

「こちらこそ、諸事情で旧式機ですが、ゆったり過ごしていただけるように心がけております」

「ありがとう……」

 次の女性将校に視線がいって、ぶったまげた!

「副操縦士を務めます。ソフィア少尉であります!」

「「「「えええ!?」」」」

 

 ビックリした!

 

 ビシッと敬礼した軍服姿は、目深に被った制帽で分からへんかったけど、うちらのお仲間のソフィーやおまへんか!

「この飛行は、ソフィー少尉の副操縦士の試験も兼ねております。よろしく願います」

「よ、よろしく(#-_-#)」

 頬こそ赤くしてるけど、軍服に身を包んだ姿は攻〇機動隊の少佐みたいや!

 七段のタラップを上がると、もう一人の軍服さん。 

「機内のお世話をさせていただきます……」

「あ、メグさん!?」

 三年前は副操縦士をやっていたマーガレットさんだ。

 シートに着いてから頼子さんに聞くと、メグさんは予備役から復帰したそうで、軍用のプロペラ飛行機(中は前のと同じくらいきれい)やし、世界は、うちらが思てるよりはシビアなんかもしれへん。

 それは置いといて、三年ぶりの大旅行が始まった!

 ブイーーーーーーン

 プロペラの双発機は、夏真っ盛りの大阪湾の空に舞い上がった……

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
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せやさかい・324『初めてのお寺』

2022-07-26 14:35:47 | ノベル

・324

『初めてのお寺』古閑巡里   

 

 

 お寺に足を踏み入れるのははじめて。

 

 遠足で、いくつかのお寺には行ったけど、感覚的には観光地。

 はっきり覚えているのは、鎌倉と奈良の大仏。

 そう、大仏なんだ。

 ちょっとイケメンと思ったのが鎌倉の大仏。デッカイと思ったのが奈良の大仏。

 両方とも大仏には感心したけど、お寺の名前は憶えてない。

 他のお寺とか神社は、ほとんど憶えていない。

 うん、普通の高校生なら、お寺って、そういうものだと思う。

「え、畳敷きなの?」

 さくらの説明を聞いて、ちょっとビックリ。

 奈良の大仏も鎌倉の大仏も、忘れた他のお寺も床は石葺きだったり板張りだったり。

 本堂が畳敷き、ちょっと新鮮。

 

――食材として生まれてきた命は無い――

 門の横の掲示板に格言が貼ってある。

 な、なるほど……ちょっとたじろいでしまう。

 自分の家に門があるだけで――すごい!――とたじろいでしまうのに、この教訓。

 お父さんの職場にも立派な門というかゲートがあってポスターとか貼ってあるけど『隊員募集』とかで、教訓めいたことが書かれてあることは無い。建物とか施設の前に立って、こんなに緊張したことは無い。

 門の横には車の出入り口があって、見覚えのある青色ナンバーの車がお尻を向けている。

 先輩は、もう来てるんだ。

 門に踏み込んで、視界の端にインタホンが目に留まる。

 二歩戻って、インタホンを押す……………………手ごたえがない。

 普通の家は、屋内のインタホンが『ピンポ~~ン』とか鳴るのが聞こえたり『はい』とか返事が返って来る。

 ひょっとして電源入ってない?

 もう一回押してみようか、それとも、ここから呼びかけようか?

 呼びかけるとしたら……母屋っていうんだろうか、お寺の人が住んでる住居部分までは、プールの端から端までくらいある。かなり大きな声を出さないと、声届かないよ。

 そうだ、スマホで!

 スマホを出そうと、リュックを外したところでインタホンから声がする。

『そのまま本堂から上がって! 迎えに行くから!』

 元気のいいさくらの声。

「うん、分かった!」

 思わず大きな声出してしまって、境内に足を踏み入れる。

 本堂の前には階段。

 え、どこで靴脱ぐんだろ?

 奈良の大仏は、中まで土足だったし……本堂は畳敷きって言ってたから、靴は脱がなくちゃならないんだろうけど、階段の下? 上がったところ?

 フニャァァァァァ

 迷っていると、足もとで鳴き声がしてビックリ!!

 ウワアアアアアアアア!

 これは化け物かというくらいの猫が足もとにいる!

「ちょ、どないしたん!?」

 本堂の入り口が開いて、さくらが顔を出す。

「え、あ、アハハハ、猫にビックリしちゃってぇ」

「ダミア、こっちおいで!」

 フニャ

 化け猫は、スタスタと階段を上がって本堂の中に入ってしまう。

 続いて上がろうとしたら「靴は脱いでぇ」とさくらに注意される。

「上がったとこに下駄箱あるさかい、ここに入れといて」

 よく見ると、階段の横に注意書き『お履き物は、お脱ぎになって、階段上の下足箱に入れてください』とある。

 

 今日は、ヤマセンブルグ行を一週間後に控えて、メンバーで打合せ。

 打合せの中身よりも、お寺初体験の方がおもしろかったメグリでした(^_^;)

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
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せやさかい・323『鏡の中の留美ちゃん』

2022-07-24 14:45:29 | ノベル

・323

『鏡の中の留美ちゃん』さくら   

 

 

 人生で一番楽しいこと。

 

 それはね、ウフフフフフ……思い出しただけでも幸せの笑みがこぼれてしまう。

 朝、目が覚めて、いっしゅんハッとする!

 窓から差し込む陽の高さで、いっしゅん――寝過ごした!――とビビるわけですよ。

 それが……せや、夏休みやってんわ! そう思い出して、体中に幸せな元気が湧いてくる。

 おまけに、夏休みは、まだまだ始まったばっかりで、一月後も、まだ夏休みとか思うと、うれしさ百倍!

 なんせ、ここ二年は流行り病のために、ちょー短い夏休みやったからね。うれしさ千倍ですよ!

 

「もう、いつまで寝てんのよ。朝ごはん食べて、さっさと宿題やっつけるわよ!」

 留美ちゃんが、呆れた顔で、けど、歯磨きの爽やかな匂いさせながら文句を言う。

「せやかて……しみじみとうれしいねんもん」

「だいたい、夏休みに入って三日も経ってるのよ、しみじみでもないでしょ」

「ええやんかぁ、留美ちゃんのケチぃ」

「はいはい、ケチでけっこう。言うだけ言ったからね、あとはヤマセンブルグから帰ってから泣くといいわよ……」

 留美ちゃんは、背中を見せて一階に下りていく。

 この三日、ずっと幸せを寝床で噛み締めるさくらです。

 ニャーー(=^血^=)

 ダミアが――怒られよったぁ――いう顔をして留美ちゃんの後を追って行きやがる。

 

 さ、三週間!?

 

 朝ごはん食べてると、留美ちゃんが「夏休みは、実質三週間なんだからね」と念を押す。

「まだ、始まったばっかりやん!?」

「ヤマセンブルグで一週間。準備とか時差ボケとかで、その前後二日は宿題どころじゃないと思うよ」

「ヤマセンブルグでも、やったらええやんか!」

「なにを?」

「宿題やんか!」

「「「アハハハハハ」」」

「ちょ、みんな笑うことないでしょ!」

 食卓を囲んでる家族が笑う。

「最初が肝心だからね、今朝の本堂はわたしがやっとくから、食べたらすぐに宿題やるといいよ」

 詩(ことは)ちゃんが、男気のあるとこを見せる。

 せや、大学生には宿題なんかないもんね。

「ダメですよ、詩さん。仏さまのお世話は別です!」

「どっちがお寺の娘かわからへんなあ」

「や、やらへんて言うてないやんか」

 テイ兄ちゃんのお返しに墓穴を掘ってしまう。

 

 まずは数学から!

 

 これは意見が一致した。

 中間テストで欠点とって、期末で挽回したばっかりのうちとしては、やっぱり、数学と英語からですよ。

「よし、じゃあ、一日一ページね」

「二日で一ページでええやんか」

「早く終わった方がいいじゃない。一日一ページだったら、ヤマセンブルグ行く前に終われるわよ」

「あんまり高望みしたら、早死にするよ……」

「さくらぁ……」

「え、なに?」

「そこの鏡で背中見てごらん」

「え、またTシャツ後ろ前!?」

「ううん、たぶん甲羅が生え掛けてるよ」

「え、ええ?」

 正直者のうちは、言われた通り首をひねって、鏡の背中を見る。

「え、どこに甲羅?」

 鏡の中の留美ちゃんに聞くと、なんと、留美ちゃんの頭にウサ耳が生えてるやおまへんか!

 あ、兎と亀!?

 鈍感なうちでも悟りました。

 で、もっかい振り返った留美ちゃんの頭には、もうウサ耳はありませんでした。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
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せやさかい・322『こら、さくら!』

2022-07-20 20:20:03 | ノベル

・322

『こら、さくら!』さくら   

 

 

 ヤッター!!

 こら、さくら!

 

 思わず出た声とガッツポーズしたら、即怒られて、教室中の注目を浴びてしもた(#^_^#)。

 メグリンは、大きな背中を振るわせて笑いをこらえてるし、留美ちゃんは自分の事のように恥ずかしがって赤くなるし。

「あはは、すんませ~ん(#^▽^#)」

 頭掻いて謝るんやけど、緩んだ顔は直ぐには直りません。

 

 なにをヤッターのかと言うと、中間テストの欠点を挽回したんです!

 

 今日は、終業式で、体育館での暑苦しい式が終わって、教室で成績表をもらったとこ。

 中間テストでは成績伝票だけやったんで、カッチリした成績表は、これが初めて。

 初めての成績表を二色にせんで、ほんまに良かった!

 なにごとも最初が肝心やさかいね。

 もうちょっと詳しく言うと、みんなの笑いには二つの山があった。

 最初は、うちの「ヤッター!!」やねんけど、それに被せてペコちゃん先生が「こら、さくら!」と反射的に怒ったこと。

 真理愛学院は、お行儀のええミッションスクールで、先生も礼儀正しい(体育の長瀬先生は例外、ほら、学校の玄関で怒られた先生(297回)、こわいオバハンや思たけど、めぐりんが発作起こした時(318回」)は、じつに頼りになる先生やった!。

 生徒を呼ぶときは、必ず「~さん」と呼んでくれはる。もちろんペコちゃん先生もそうで、生徒を下の名前で、それも、頭に「こら!」を付けて呼ぶことは無い。

 それが、瞬間カチンと来て、思わず口に出た「こら、さくら!」は、怒られた方も懐かしい中学の時の怒られ方。

 怒る方も起こられる方も、漫才のボケとツッコミみたいに呼吸が合うてる。

「い、いや、だからね、もう中学生じゃないんだからね……」

 先生も気まずそうにブツブツ。

「先生、聞いていいですか?」

 伊達さんが手ぇ挙げた。

「え、なにかしら?」

 一瞬で、みんなの担任月島さやかに戻って質問を受ける。

「先生と酒井さんは、中学でも担任と生徒だったって本当ですか?」

「え、あ、それは……」

 さっきのボケとツッコミと呼び捨ての「さくら!」を聞いてしもた生徒らに嘘は言えません。

「ええ、そうです。さくら……酒井さんは中二から二年間担任で、わたしも、ここに来て受け持ちの生徒の名簿見てビックリしたわ」

「ええ!?」「やっぱり!?」「アハハ!」「おもしろ~い!」と、教室中からリアクションをいただく。

 で、すかさず返した。

「先生、それは二人だけの秘密だったのに……」

 我ながら、サスペンスドラマみたいにお返しする。

 アハハハハハハ!

 教室中が大笑い。

「はい、次配ります、榊原さん」

 先生に呼ばれて、うちの次の留美ちゃんが成績表をもらいに行く。

 すれ違いざまにアイコンタクト。

 留美ちゃんも、おんなじペコちゃん先生の生徒やったんやけど、真面目な留美ちゃんは、そういうの苦手やさかいね。

 ――留美ちゃんの秘密は守ったよ!――

 アホは、うちだけでええんです。

 とっさに、そういう気配りができるようになったんですわ。

 いや、子どっぽいはしゃぎ方せんほうが大事やろて?

 はい、そのとうりです。

 今年も、無事に夏休みが迎えられました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

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せやさかい・321『海の日 お祖父ちゃんと』

2022-07-18 14:14:02 | ノベル

・321

『海の日 お祖父ちゃんと』さくら   

 

 

 え、海の日ぃやったんか!?

 

 たまたま、お祖父ちゃんと二人だけのリビング、新聞読んでたお祖父ちゃんが声を上げる。

 時々、こういうことがある。

 お祖父ちゃんは、二年前に住職の仕事をおっちゃんに譲った。

 テイ兄ちゃんが、なんとか務まるようになってきたし、他所よりは檀家の多いお寺やけど、さすがに三人でやるほどやない。

 膝とかもガタがきて、長時間の正座がきついことも理由の一つ。

 正座は、坊主には必須条件。

「親鸞さんは胡座でお経唱えてたんやけどなあ……」

 と膝をさすりながら言うてた。

「そら、お父さん、親鸞さんの時代は正座の習慣なかったからなあ」

 おっちゃんが笑って、中坊やったうちはビックリした。

「昔は正座せえへんかったん?」

「うん、正座が習慣づいたのは江戸時代やなあ」

「「「え、ほんま!?」」」

 従兄妹同士三人でびっくりしたのも懐かしい思い出。

 昔は、天皇さんや将軍さんの前では、みんな胡座かいてたそうです。

 

 ま、それはおいといて、お祖父ちゃんのスカタン。

 

 やっぱり、檀家周りもせんと、うちで隠居生活してたら曜日感覚とかなくしてしまう。

 ひょっとしたら、ボケのはじまり!?

「まだ、ボケてへんわ!」

「え、なんも言うてへんけど」

「そんな顔してた」

「アハハ……」

「海の日て、ちょっと前までは20日やったやろ」

「え、せやった?」

「そうや、七月は、他に祝日あれへんやろ」

「えと……ほんまや」

 柱のカレンダーを見る。

「ちょっと前やと思うねんけど、七月にも祝日欲しいいうことで祝日になったんや」

「国も、たまにはええことするねえ(^▽^)」

「元々は、祝日やないけど海の記念日いうて昔からあったんや」

「そうなん?」

「明治天皇がな、地方巡行を終えて、初めて船で東京に帰ってきはったんを記念して、戦前につくられた記念日や」

「え、え、せやったらせやったら、天皇さんが初めて飛行機に乗らはった日を『空の日』とか、初めて自動車に乗らはった日ぃを『陸の日』とか増やしたらええのに!」

「天皇さんは祝日請負人とちゃうでえ」

「子どもは賛成すると思うよ」

「たしか、明治天皇は灯台の見回り船に乗って帰って来はったんや。明治の……9年ごろやったかなあ、日本でも主だったとこには灯台ができてな、その灯台を点検したり灯台守の生活必要品とかを届けるための船や。そういう海洋日本を支えてる仕事や人に思いをいたさはったんやなあ」

「へえ、そうなんや」

 あらためてカレンダーを見る。ほんまに、七月で一回だけの祝日が神々しく見えてくる。

 カレンダーの上半分を見ると『アミダさまのお救いは年中無休』と書いてある。

 

「ああ、あっついあっつい~~~~」

 

 檀家さんが見たら「お布施返せえ!」ていいそうなアホな顔、衣の裾をたくし上げてテイ兄ちゃんが返って来る。

 なるほど、うちの仏弟子も年中無休ではありました。

「おつかれさん!」

 キンキンに冷えた麦茶をビールジョッキに入れて持って行ってやるさくらでありした(^_^;)。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
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せやさかい・320『古紙回収の朝』

2022-07-16 10:12:19 | ノベル

・320

『古紙回収の朝』さくら   

 

 

 ミーンミンミン ミイ……ミーンミンミン ミイ

 二週に一回の古紙回収、留美ちゃんと二人で古新聞と段ボールを蝉の声かまびすしい中、回収場所に持っていく。

 今日はテイ兄ちゃんの当番やねんけど、「すまん、寺の用事で、ちょっと出るさかい!」言うて、ついさっき原チャで出て行きよった。

 

 回収場所は、うちのお寺の角。

 うちの角やから、めっちゃ近い印象かもしれへんけど、けっこうある。

 廊下の隅にまとめてある古新聞と段ボールを玄関に持っていくのに10メートル、玄関から山門まで25メートル、山門から角まで15メートル、合計50メートル! 

 曇り空やから、まだええねんけどね、これが日ぃ照っててたら、この50メートルは、ちょっときつい。

 

 新聞はサンケイと朝日。なんや両極端の新聞やねんけど、これはお寺の事情。

 意外かもしれへんけど、お寺は、あんがい左翼が多い。

 うちはやってへんけど『安倍政治を許さない!』いう習字の見本みたいな標語を貼ってるお寺もけっこうある。過去帳とかの日付は西暦が多いしね。檀家さんもお年寄りが多くて、年寄りの半分以上は左っぽい。

 むろん、そうでない人も居てるし、せやから、バランスとるために朝日とサンケイ。

 坊主というのは、法事とか月々の檀家周りで法話、まあ、仏さんに絡めた話をせんとあかんのです。世間話もあるしね。それで、檀家さんやら世間にあわせた話がでけんとあかんのです。

 せやさかいに、朝日とサンケイ。

 

 やっぱりねえ……

 

 古新聞を置きながら留美ちゃん。

「え、なにがやっぱり?」

「新聞の一面、みんな安倍さんのことだよ」

「あ、ああ……」

 安倍さんが暗殺されて一週間、どこの新聞も一面は安倍さん関連。

「きっと時代の境目にいるんだよ、わたしたち」

「せやねえ……」

 思わず、ふたりで古新聞の山に手を合わせてしまいました。

 気配を感じて振り返ると、ビックリ。

 

「「頼子さん!?」」

 

「おはよう」

「「おはようございます」」

 頼子さんの後ろには見覚えのある青色ナンバーがバックで境内に入って行く。

 運転席で片手振ってるのはソフィー。

「きのう、現場に献花してきたんだけどね。きちんとお参りしたくて、芝の増上寺って阿弥陀様でしょ。如来寺もご本尊阿弥陀様だし、思い立って来ちゃった」

 たしかに、増上寺は浄土宗、うちは浄土真宗。開祖の法然さんと親鸞さんは師弟の間柄。

 

「お花を供えたいんですけど」

 ソフィーから花束を受けとる。花屋さんで売ってる仏花とちごて、領事館の庭で見たことのある花。

 頼子さん、自分で摘んできたんやねえ。

 

 ドロロロ……

 

 花瓶を持って本堂の階段を上がると、山門に入って来る原チャの音。

「あ、頼子さ~ん(^▽^)!」

 テイ兄ちゃんが、花束とケーキの箱をぶら下げて走って来よる。

 わが従兄ながら、ちょっとキショイ。武士の情け、思てても言わへんけどね。

 せやけど、腹立つ。

「ちょ、お寺の用事て、これやったん!?」

「まあ、いいじゃないの、さくら」

 留美ちゃんは人格者です。

 手回しのええ従兄は、写真たてに入った安倍さんの写真も用意して、用意周到。

「さっき、お電話したばかりなのに、ありがとうございます!」

 頼子さんも感激やし、まあ良しとしとこう。

 

 テイ兄ちゃんが五分ほどお経をあげてるうちにお焼香。

 気が付いた詩(ことは)ちゃんもやってきて、ささやかやけど、きちんとした法要になった。

「で、こっちはついでなんだけどね」

 頼子さんが出したタブレットには、この夏休みに行く三年ぶりのヤマセンブルグ旅行の日程が出てた。

 そして、頼子さんと詩ちゃんが互いに触発されて、なんと、詩ちゃんもいっしょにヤマセンブルグに行くことになった!

 テイ兄ちゃんも行きたそうな顔してたけど、却下されたのは言うまでもありません(^_^;)。

 ミーンミンミン ミイ……ミーンミンミン ミイ……

 蝉の声が、いっそうかまびすしい如来寺の朝でした……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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せやさかい・319『めぐりんからの手紙』

2022-07-10 15:31:17 | ノベル

・319

『めぐりんからの手紙』さくら   

 

 

 一昨日は、ごめんなさい。そしてありがとう。

 

 みんなには言ったことないけど、あれがわたし、古閑巡里の持病なんです。

 度を超えたショックを受けたり、極度に興奮すると過呼吸になって、ひどいときは意識を失ってしまいます。

 小学校の頃にお医者さんに診てもらったんですけど、原因はよく分かりません。

 とにかく、興奮しすぎないよう、ショックに陥らないよう、わたしも家族も気を遣ってます。

 父は陸上自衛隊の幹部です。

 階級は一佐

 いわゆる職業軍人なので、子どもの頃から引っ越しと転校を繰り返しています。

 父は、二佐になったとき「これからは、自分一人で転勤するから、巡とお母さんは家を買って定住しよう」と言ってくれました。でも、わたしもお母さんも、定年で退官するまで、父に付いていく決心をしました。

 家族は、できるだけいっしょに暮らすものだと、わたしもお母さんも思っているからです。

 今年は、年度末の急な異動で、わたしとお母さんは大阪に引っ越すことになりました。

 引っ越して真理愛学院に入って、酒井さんや榊原さん、そして散策部の夕陽丘先輩、ソフィー先輩に出会えて、とてもラッキーでした。

 めったに会えない父ですが、日に一回、お昼休みに入った時にメールをくれます。

 訓練などでメールが送れない時は、事前に連絡してくれます。

 それが、一昨日は、事前の連絡無しにメールが来ませんでした。

 これは、なにかが起こったに違いない。

 そう思って、直ぐにネットで調べてみました。

 訓練でもないのに、連絡が来ないのは緊急事態が起こったに違いないからです。

 そして、調べてみたら、奈良県で安倍元首相が撃たれて心肺停止状態というニュースが飛び込んできました。

 

「え、これでしまい?」

 唐突に終わってる手紙に、ちょっとビックリ。

 

 実は、今朝、郵便受けにメグリンの手紙が入ってた。

 新聞といっしょにリビングに持って行って、さっそく読もうとしたんやけど、やっぱり自分の部屋で読みたいんで持ってきたとこ。

「さくら、落としてたわよ」

「え、ほんま!?」

「うん、新聞の広告の上にあった」

「あ、ありがとう!」

「わたしも読んでいい?」

「へ?」

「だって、最後に『酒井さくら様 榊原留美様』って書いてある」

「え、え? あ、ほんまや! はい、どうぞ」

 留美ちゃんは一二枚目を、うちは、三枚目を受け取って続きを読む。

 

 父は、常々「ひょっとしたら戦争が起こるかもしれない」と言っていました。

 世界は、わたしたちがのほほんとしている内に、緊張の度を増しています。ウクライナのこともそうだし、南西諸島や北海道でも油断がならない状況になりつつあるんだそうです。ロシアの外務大臣は「北海道の北半分はロシアの権益がある」とか言っています。

 でも、父は「安倍さんがいる限り、当面は戦争に巻き込まれることはないよ」と言ってくれます。父は、安倍さんが打ってきた外交政策は功を奏しているから、安倍さんがいる限り大丈夫。安倍さん、まだまだお若いからね」と言っていました。

 わたしも、そうだと思っていました。

 その安倍さんが、撃たれて、そして夕方には亡くなってしまいました。

 お父さんは、そのことで、急な任務が入ったかして、メールが来なかったんだと思います。

 そう思ったら、目の前が真っ暗になり、あとは、みんなのお世話になった通りです。

 もう、元気になったので、お礼を兼ねてお知らせしなくてはと筆を執りました。

 メールやラインにしなかったのは、スマホやパソコンでは情報が洩れるからです。

 郵便では着くのが週明けになってしまうので、自分で投函します。

 ほんとうにありがとう。

 月曜日から期末テストですね、がんばりましょう!

 

 古閑 巡              酒井さくら様  榊原留美様

 

「よかった、めぐりん元気になったんだ!」

「う、うん……」

「え……どうかした?」

「明日から試験やいうのん、忘れてた!」

「ええ!?」

 一昨日から、安倍さんのことやら、参議院選挙のことやらでネット見まくりで、ぜんぜん気ぃつけへんかった(;'∀')。

「もー! 数学と英語欠点なのに、なに言ってんの!」

「る、留美ちゃんこわいよ~」

「さっさと顔洗って! すぐに勉強開始!」

「せやけど、朝ごはん……」

「一時間、勉強してから! さっさとやる!」

「は、はい~~~(´;ω;`)」

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
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せやさかい・318『めぐりん倒れる!』

2022-07-08 18:01:37 | ノベル

・318

『めぐりん倒れる!』さくら   

 

 

 お財布持って食堂に行こうと腰を浮かした時、変な音がした。

 ヒュッ

 なんか小さなブラックホールが出来て、瞬間で周囲の空気を吸い込んだような音。

 振り返ると、スマホを持ったメグリンが目を見開いて、口を酸欠の金魚みたいにヒクヒクさせたかと思うと、いままで聞いたことのない、押し殺して絞り出すような悲鳴を上げた。

 アア アアアア……

 みるみる真っ青になったメグリンは、ハッ ハッ ハッ……と、つんのめるような荒い息になって、次の瞬間机に手を付いた。

「ちょ、どないしたん、めぐりん!? ワ! ちょっとおお!」

 ドサ!

 180センチ近い身長のメグリンが、わたしに覆いかぶさるようにして倒れてきた!

「キャー!」「古閑さん!」「メグリン!」「だれか、先生よんできて!」

 何人かの声がいっぺんにして、昼休みに突入したばっかりの教室はパニックになってしもた!

 

 日直の伊達さんが十秒ほどで長瀬先生(ほら、入学して間もないころ玄関で怒られた体育の先生)を連れて戻ってきた。

「過呼吸やな、伊達、保健室行って酸素ボンベ、居てはったら保健室の先生にも来てもろて!」

「はい!」

 伊達さんは、その足で保健室にすっ飛んで行く!

「古閑、大丈夫や、先生がついてるさかいなあ、ちょっとリボン緩めるで」

「は、はぃ……ハッ ハッ ハッ……」

 かろうじて返事はするけど、荒い息は続いてる。

「酒井、じぶん、古閑の友だちやな」

「はい」

「手ぇ貸して」

「はい」

「古閑、上体起こすぞ、前かがみで座ってみよ……」

 大柄なメグリンの背中に手をやったかと思うと、長瀬先生は、めっちゃ優しくメグリンを起こして、前かがみに座らせた。うちは、手ぇ添えてただけ

「そうや、これで、ゆっくりと前かがみで呼吸……ゆっくりと吐いたらええからな……そうやそうや、すぐに楽になるからな、楽になって昼ご飯食べならなあ……」

「あ、食堂……」

 気の回る留美ちゃんは、食堂のランチが売り切れになるんちゃうかと、腰が浮きかける。

「治ったら、昼は先生が奢ったるからな、焦ることはないで……せやせや、ゆっくりと息吐きぃ……」

 玄関で怒られた時と違って、めっちゃ優しい。

 そうやって、落ち着かせてるうちに伊達さんが保健室の先生連れて戻ってきた。

 やっぱり、その道のプロ、保健室の先生と長瀬先生の手当てで、急速に落ち着いてくるメグリン。

「念のために、ちょっと保健室でやすもう」

 先生らに促されて起き上がるメグリン。

「メグリン、スマホ……」

 拾って渡そうとしたスマホの画面には、ショックなニュースが出てた。

 

 元首相が西大寺で撃たれて心肺停止状態……!?

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
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せやさかい・317『暑いさかい(^_^;)』

2022-07-03 10:27:47 | ノベル

・317

『暑いさかい(^_^;)』さくら   

 

 

 ミストいうのはええもんやなあ……

 

 この暑い中、高校の同窓会で大阪城に行ってきたお祖父ちゃんが、汗拭きながら感激してる。

「お義父さん、もうお歳なんですから、控えてくださいね……」

 甲斐甲斐しく舅の背中を拭きながらおばちゃんがこぼす。

「いや、美保さん、かんにん。ホテルのラウンジで喋ってたら、目の前に大坂城やさかい、ついなあ(^_^;)」

 同窓会そのものは、馬場町(ばんばちょう)のホテルでやったんやけど、窓から見える大阪城に感動して、何十年かぶりで行ったらしい。

「で、ミストって?」

 麦茶を並べながら詩(ことは)ちゃん。

「観光局務めとった奴がな『天守閣にミストが付いたんやで』て言いよってな、それで、みんなで行こういうことになって」

「子どもみたい、天守閣までは坂道だらけなのにぃ、お祖父ちゃん血圧高いんだからね」

 詩ちゃんも手厳しい。

 たしかに、大坂城は、東西南北のどこから入っても、けっこうな坂道がある。

「アハハ、それが、もう小学校の遠足気分で、楽しかった。切符買うて、天守閣の石段上ると、石段の上までミストでなあ。子どもの頃にお祖母ちゃんが(お祖父ちゃんのお祖母ちゃん)境内の水まきしてくれてなあ、その下を近所の子らとキャーキャー言いながら、なんべんも潜ったのんを思い出した」

「それて、いつごろ?」

「昭和……三十年ごろかなあ」

「さすがに、終戦直後!」

「あほ言いいな、戦争は十年も前に終わっとる」

「十年なんて、まだまだ終戦直後みたいなものよ」

「そうよね、お義父さん、ほんと気を付けてくださいね」

「ああ、あははは」

 笑ってごまかすお祖父ちゃん。

 あとで新聞見たら、その大阪城のミストのことが写真付きで載ってた。

 観測史上最速ちゃうかいうくらい早く梅雨があけて、まだ蝉も鳴かへんいうのに体温並みの暑さが続いてる。

 

 お祖父ちゃんがミストに感激した晩にペコちゃん先生が電話してきた。

 なんでも、お知り合いの神社の御神木を切るので見にけえへんかというお誘い。

 このクソ暑いのに二の足やったんやけど、頼子さんがその気になって、散策部のみんなで出かけることになった。

 

 うわあああ……!

 来て見てビックリ! 境内の御神木やいうさかい、てっきり鳥居か拝殿の前あたりにある、ちょっと大きいくらいの楠を想像してた。

 なんと、森ですわ!

「神社創建のころからの森やさかい、1200年くらいは、そのまんまの河内の森ですわ」

 若い神主さんにお祓いしてもろて、入り口の鳥居を潜る。

「「「「「「ウワアアアアアアアア」」」」」」

 みんなの声が揃う。

 鳥居を潜ったとたんに、体感温度が5度くらい下がる。

「幸いなことに、うちの森は、桃山時代に四半分削られただけで、そのまんま残ってるから、よその神社のよりも涼しいんですわ」

「きっと、涼しさを好む神さまもおられるんですねえ」

 ソフィーが感動して、神主さんに水を向ける。

「そうです、御祭神には河内縣主命(かわちあがたぬしのみこと)がおられましてなあ、涼し気な清浄を好まれたそうです。鬱蒼とはして見えるんですが、定期的に氏子さんが入って、枝打ちやら下草刈りとかはやってるんですわ」

「氏子さんにお若い方がおられるんですか?」

 ペコちゃん先生が、ちょっと羨ましそうに聞く。

「いえいえ、うちもお年寄りが多なってしまいましてなあ、今回の伐採も、それが原因の一つですわ……ああ、これこれ、この木ぃですわ」

 

 うわあああ……

 

 それは、他の木ぃよりも一回りは大きな木で、大きさの割には、真っ直ぐに立ってる。

 その木の周りは、心なし、他よりも涼しくて、この森の主いう感じ。

「榧(かや)ですか?」

 ソフィーが質問すると、なんでか、ちょっと神主さんはたじろいだ感じ。

「い、いやあ、外国の方やのに、よう知ってはる。はい、ここらへんでは、ちょっと珍しい木なんですけどね、倒木の恐れがあるんで、やむかたなしですわ(^_^;)」

 実際の伐採は、もうちょっと涼しなってかららしい。

 それにしても、惜しい木や。

 汗が引くまで、御神木を眺めて、社務所でお茶を頂いて帰りました。

 あ、むろん、来た時と帰る時は拝殿にお参りしたよ。

 

 その夜、夢にごりょうさん(仁徳天皇)が現れた。

 

「あれはな、稲の実り具合を見る途中、よく休んだ森でなあ、名誉に思った縣主が丹精込めて手入れをしていてくれたものだ……」

「そうやったんすか!?」

「そうか、いまでも大切にしてくれているのだなあ、伐採される時は、わたしも見届けにいこう。榧の木は、将棋や碁盤の良い材料になる。家具の材料としても一級品だ、役にたてばよいのだがな……」

 え、そうか、神主は伐採した木を売り飛ばして一儲けを狙っとるんか!

 それで、ソフィーが聞いた時、ギクリとしよったんか!?

 

「あはは、さくらと居ると退屈しないわ」

 

 頼子さんに笑われた。

 あたしは、帰りの車の中で寝てしもた。

 車の中で、ソフィーが榧の木は、いろんなものの材料になって、それを売ったお金で神社の維持費やら整備費の一部にするという話をしてたらしい。

 似たようなことはヤマセンブルグの教会でもやってて、親近感を感じたらしい。

 神主さんは、ソフィーにまっすぐ見つめられて、ちょっとビックリしたらしい。

「だろうね、ソフィーはガードで眼光鋭いもんねぇ」

 留美ちゃんは感心するけど、あたしはちゃうと思う。

 頼子さんとはタイプちゃうけど、あのまんま魔法学校映画の主役が務められそうなベッピンさん。

 そのベッピンさんに至近距離で見つめられて、正直におたついたんやと思う。

 神主さん、うちには、終始近所の子ぉに話すみたいやったしね。

 ええんです、モテない歴を十五年もやってると、そういう勘だけは鋭いんです。

 

 なんや、大阪城のミストから変な方向にいってしもた。

 まあ、これも、暑さのせいです。

 チャンチャン。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

 

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せやさかい・316『それぞれの梅雨』

2022-06-26 09:20:57 | ノベル

・316

『それぞれの梅雨』頼子   

 

 

 どちらが好きかと聞かれることがある。日本とヤマセンブルグのどちらが好きか。

 

「それぞれの国に良いところ、優れたところがあって、いずれも甲乙つけがたく……」

 ローマの休日のアン王女のように、こんな顔(^~^;)して答えておく。

 でも、根っこの所では、7:3ぐらいで日本が好きだ。

 生まれ育った……生まれたのは日本じゃないんだけど、物心ついて、高三の今日まで育ったのは日本だからね。

 いちおうバイリンガルで、英語もヤマセンブルグ語もできるけど、考えるのは日本語。マザータングというやつです。

 でもね、一年の内、この時期だけは、こんな顔(^▽^)して「ヤマセンブルグ!」と答えられる。

 

 梅雨ですよ梅雨!

 

 この、じっとしていても粘りつくような湿気は17年生きてきても馴染めない。

 むろん、家も学校も電車の中も車の中もエアコン効いてるんだけどね。

 人工的に湿気を取ったり温度を下げた空気と、夏でもカラリとしてるヤマセンブルグの空気は違うんです。

 散歩して、ちょっと暑くなったなあと思ったら、日陰に入ればいいんですよ。

「日本の木陰は裏切り者です」

 日本に来て、最初の梅雨時にソフィーが言った。

 日本は、日陰、木陰でも蒸し暑い。

 さくらなんかは、ヘッチャラで汗をかいている。「もう、暑いのは、かないませんねえ(^_^;)」とか言って、平気でブラウスのボタンを開けて、タオルで腋の下とか拭いている。

 留美ちゃんは汗をかかない。「いえ、そんなことないですよ」とか控え目に言うんだけど、ほんと、汗を拭いてるとこなんて見たことない。

「お武家の女性は汗をかかなかったと言います」

 ソフィーが真顔で言った時は笑っちゃったけどね。留美ちゃんの苗字は『榊原』、ソフィーは領事館のコンピューターで調べて、榊原というのは、徳川将軍家の重臣の苗字だと発見した。

「そんな偉い家じゃありませんよ!」

 ソフィーに聞かれて壁を塗るように否定していたけど、家系はともかく、留美ちゃんの佇まいには、そういうところがある。

「あ、さくらの『酒井』も徳川の重臣ですよ」

 バランス感覚のいい留美ちゃんは、そう付け加えたけど、「それは、なにかの間違いです」とソフィーは切り捨てる。

 メグリンこと古閑巡里は、汗をかきながらも(さくらほどの大汗じゃないけど)普通にしている。

「暑いのも寒いのも、わりと平気です。わたし、人よりでっかいですから、表面積はさくらの倍はあります。だから、冷却能力は高いんですよ」

 一種の自虐ネタなんだろうけど、メグリンが言うと、アハハと笑っていられる。

「メグリンは、お父さんが自衛隊の大佐です。きっと、日本各地を転勤してきたのに付き合ったから……それと、やはり武人の子です。泣き言は言わないんですよ」

 ソフィーの日本愛は凄いものがありますよ。

 

 昨日は、プールの緊急点検とかで、急きょ体育館の授業だった。

 冷暖房完備の聖真理愛学院なんだけど、さすがに体育館の冷房まではできない。

 さっきも言ったけど、日本の日陰・木陰は裏切り者。身に絡みつくような湿気と汗はたまらない。

 部活ではシャワーを使うこともできるんだそうだけど、授業では人数も多く、時間も無くて、ただただ汗を拭くだけ。

 湿気と制汗スプレーのニオイにゲンナリしたまま放課後を迎えたので、まあ、こんなことを思う訳ですよ。

 

 で、お祖母ちゃんとのスカイプで、思わず返事してしまった。

 

『夏休みになったら、お仲間連れていっらしゃい(⌒∇⌒)』

「うん、いくいく!」

 お祖母ちゃんは、宮殿の庭の木陰でアイスティーなんぞを飲みながら涼しい顔でかけてくるんだもんね。

 お祖母ちゃんの後ろには、かわいいブランコなんかが揺れている。わたしが、子どもの頃使ってたブランコ。

 お父さんの膝に乗っかって、あまりの心地よさに、つい眠ってしまったブランコが。

 まんまと引っかかって、うっかり返事して。

「ソフィーから聞きました!」

 なんて、部活で全員に言われたら、もう行くしかない。

 

 で、単に行くだけではなく、結論を出さなければならないんだろうと爪を噛む頼子です。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

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せやさかい・315『さくら的民の竈』

2022-06-19 13:55:09 | ノベル

・315

『さくら的民の竈』さくら   

 

 

 この組み合わせは無いと思う。

 

 体育の後の数学とか英語。

 前も言うたけど、中間テストで、英語と数学が欠点やった(;'∀')。

 一学期の成績は、中間テストと期末テストの点を足して二で割る……だれでも知ってるよね。

 せやさかい、うちは、期末テストでは、数学と英語に関しては40点ではあかへんのです!

 最低でも42点くらいは取らんと、一学期の成績が欠点で確定してしまう!

 せやさかい、数学と英語は目ぇしっかり開けて見て、耳をかっぽじって聞いとかならあかんのです!

 

 それが……Z Z Z Z Z Z

 

 つい寝てしまうんです。

 今月の二週目から、体育はプール。

 終わった後は、めっちゃ眠たなってしまうんです……Z Z Z Z Z Z

 

 あ、あかん!

 

 いつもやったら、後ろの留美ちゃんがシャーペンの消しゴムのとこでツンツンしてくれんねんけど、今日は、それも無い。

 留美ちゃんは、プールの授業頑張り過ぎて、ちょっと保健室で寝てる。

 せやから、起こしてくれるもんも居らへんし……Z Z Z Z Z Z

 

 スーーーーースーーーーースーーーーー

 

 なんや、風が吹いてくる。

 教室にはエアコン入ってるけど、エアコンの風とはちがう……なんや、もっと優しい風や……

 

 がんばって目を開けると、教室のみんなも先生もおらんくて、どこかで見たことのある人が立ってる。

 歴史で習った厩戸皇子(うまやどのみこ)みたいな着物着て、腕組みして高欄の向こうの景色を見てる。

「厩戸皇子ではない、聖徳太子だよ」

「え、聖徳太子さんですか?」

「ごりょうさんだよ」

「え、ごりょうさん……仁徳天皇!?」

「そうだよ、いつだったか、お寺にお邪魔して以来かな?」

「え? あ、あ、その節は……」

 とりあえず、手を合わせて頭を下げる。

「ハハハ、わたしは阿弥陀さんじゃないから、手を合わせることはないさ」

「は、はひ、仁徳天皇さま!」

「さまは付けなくていいよ。天皇とつけるだけで、もう尊称だからね。堺のみんなが呼ぶ『ごりょうさん』でいいかな」

「は、はい、ごりょうさん!」

「さくらはいい子だ」

「あ、ありがとうございます!」

「それより、ここに来て景色を見てごらん」

「はい」

 高欄に手を添えて、下の景色を見る。

 生駒山の裾から、田んぼの間にいくつも家々が見える。みんな、将来は堺や平野や八尾やら、大阪の街に発展していく家々、村々や。

 あれ?

 見てると、あちこちの家々から、ささやかな煙が上がる。

 あ、これは、民の竈は潤いにけりや!

 前に見た時は、民の竈から上がる煙がまばらやったんで、ごりょうさんは「むこう三年、民の税を免除せよ」とかおっしゃって、宮殿の雨漏りも直さんとほっとかはった。

 三年たって、もっかい景色を見たら、民の竈は潤いにけりやったさかい、やっと税を復活しはったいう、ごりょうさん、ここ一番のエピソード。

 え?

 ところが、あちこち立ち上ってる煙は、ちょっと赤い。

 ちょっと前に、お祖父ちゃんが見てた黒澤明の『天国と地獄』いう白黒の映画を思い出した。

 誘拐犯に渡した身代金を入れたカバンに細工がしてあって、燃やしたら赤い煙が出るようにしてたんや!

 黒澤明監督は、スタッフに命じて、フィルムの一コマ一コマの煙を赤く塗って効果をだしたんや。

 めっちゃアイデアやし、めっちゃ労力かけてるし、スゴイと思た!

「よく見るんだよ、あれはね、あの竈の煙がたっているところには、中間テストで赤点をとった子たちがいるんだよ」

 え!?

「わたしの祈りが足りなかったんだねぇ、これも、大君たるわたしの徳が足りないからだ。わたしは、あの赤い煙が無くなるまで……なにも食べないことにするよ」

「そんな、畏れ多いことを(;'∀')」

 見ると、ごりょうさんは、ハラハラとご落涙されてはります。

 グ~~~~

 早くも、ごりょうさんのお腹の虫が鳴き始めます。

「そんな、そんな、うち、頑張りますよって、ごはんは食べてください! お願いです、ごりょうさん!」

 グ~~~~

「せ、せめて、その空腹の満分の一でもお引き受けしますよって!」

「そうかい、さくらは優しい子だ……それなら少しだけ……」

 グ~~~~

 今度は、うちのお腹が鳴った。

 え? え? めっちゃお腹が減ってきて……あかん、飢え死にしそうになってきた!

 

「もう、バカな夢見てないで、勉強しなさいよね!」

 

 保健室から帰ってきた留美ちゃんに怒られる。窓際では、メグリンが下敷きで仰いでくれながら笑ってるし!

「アハハハ、下敷きで煽ってあげたのは逆効果だったわね」

 さくらが、アホな夢見たいう話でした。ちゃんちゃん。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
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せやさかい・314『改めて忠魂碑』

2022-06-14 13:45:20 | ノベル

・314

『改めて忠魂碑』頼子   

 

 

 ソフィーがすごいって云うのは何度も言ったわよね。

 

 三年前、はるかたちを連れてエディンバラからヤマセンブルグを周った時が最初だった。

 王室付き魔法使いの末裔で、通訳とボディーガードをやってくれた。

 通訳もボディーガードも専門の者が居て、あくまでも見習いだったけどね。

 日本語の最後に「です!」を付けるクセが抜けなくて、さくらは『デス ソフィー』って呼んだりしてた。

 でも、わたしの高校進学と共に日本にやってきて、本格的にご学友とガードを兼ねるようになってからの進歩は目覚ましい。

 学校でも、同じクラスで成績も優秀。「です!」の口癖も無くなって、ネイティブと変わらない日本語を喋る。わたしとの会話も校内では、ほとんどタメ口。呼び方も「ヨリッチ」なんぞと親し気で、この頃は、それさえ省略して「リッチー」とか呼ぶものだから、クラスメートも「リッチ」と「ー」抜きで呼んでくれたりする。ほぼほぼ王女の身分なんだけど、けしてリッチなわけじゃないんだけどね。

 校門を一歩出ると、呼び方は「殿下」に変わる。

 じゃあ、校門の敷居をまたいだ状態なら、どう呼ぶか実験したら「リッ下」って呼ばれた。逆に、外から校門の敷居を跨いでいるとね「殿チ」ですよ。

 

 こないだ、学校裏の神社から東に伸びてる『馬場』を散策部のみんなで走ってみた。

 

 その途中で、ソフィーは忠魂碑を発見して、今日はあらためて、お花を捧げに来ている。

「忠魂碑というのは、その地方で戦死された英霊をお祀りした神聖なものです。ほら、日本の総理大臣などが外国に行った時、真っ先に無名戦士の墓などに献花するでしょ?」

「ああ、安倍さんとか、やってたねえ!」

 お寺の子なのか、さくらがピンとくる。でも、自分の習慣じゃないから――握手は外国ではやるけど、日本ではやらない――くらいの感覚。

 だから、お花を捧げ、揃って頭を下げるのは、みんなドギマギ。

「大阪の第八連隊は、もっと誇りにすべきです」

 忠魂碑を背にソフィーはマナジリを上げる。

「「「はあ」」」

 みんなピンとこない。

「『またも負けたか八連隊 それでは勲章九連隊』と言ったものです」

「えと……それってぇ?」

 さくらが、間延びした質問。

「八連隊は大阪で、九連隊は京都でしたよね?」

 お父さんが自衛隊なだけあって、メグリンが答える。留美ちゃんはニコニコしてるけど、たぶん分かってない。

「大阪と京都の兵隊は最弱と言われて、子どもが手毬歌にして遊んだものです。そのくらい、戦闘をやらせると弱かったらしいです」

 おいおい、いま献花したばかりだよ(^_^;)

「あはは、忠魂碑の前で、そんなん言うてええねんやろかぁ」

「阪神タイガースといっしょです。みんな、タイガースにはめちゃくちゃ言うけど、真のところでは応援してるでしょ?」

「「「あ、ああ」」」

 タイガースの線で理解できるんだ(^_^;)

「それに、占領地で軍政をやらせると、日本で一番うまかったそうです」

「グンセイて、なにぃ?」

「ああ、占領地を治めること。配給とか治安維持とかインフラの整備とかね。現地の行政が生きている時は、その調整をやったり。災害地の復興や支援をやらせても、早くて確実だったそうです」

「そうなんだ……ソフィー先輩って、よく勉強してますよねえ」

 メグリンが感動する。まあ、こういう話題は日本人同士じゃやらないもんね。

 よし、ソフィーを持ち上げておこう。

「ソフィーはね、大きくなったらヤマセンブルグの国防大臣になるんだよ」

「「「すごい!」」」

 ところが、当のソフィーは――なに言ってんのよ――という顔をしている。

「うん? なんか一言言いたげね」

「ヨリッチ……いえ、殿下は、ヤマセンブルグ国防軍の最高指揮官になられるんですよ」

「え、そうなの?」

「帰ったら、ヤマセンブルグの憲法を勉強し直しましょう」

「アハハハ……」

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
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せやさかい・313『馬場を走った!』

2022-06-09 15:27:16 | ノベル

・313

『馬場を走った!』頼子   

 

 

 う~~~ん、ちょっと無理ねぇ。

 

 院長先生は腕を組んで唸ってしまった。

 いえね、思いついたのよ。

 ほら、裏の神社(ペコちゃん先生の実家)から東に伸びてる道が昔の馬場だってわかったでしょ。

 神社の前の鳥居は二の鳥居で、馬場の向こうの端、600メートル先に一の鳥居。

 それが馬場の跡で、悠々三車線くらいの一本道が続いてる。

 馬場だから、当然馬が走ったわけよ。多分、お祭りなんかの神事で、奉納競馬って感じ。

 本当は馬で走ってみたいなんだけど、無理だから、人間で走ってみようと思ったのよ!

 むろん、散策部のメンバーでね。

 それで、散策部の顧問でもある院長先生にお願いの巻というわけです。

「どうして、無理なんですか?」

「だって、今は一般道なのよ。途中に信号のある交差点が二カ所あるし、とうぜん車も走ってるわけだし。高校の部活で交通規制までは、さすがにねえ……」

「あ、いえ、ただ走ってみるだけなんです。運動部が校外をランニングしますよね、あんな感じで、イチニ イチニって感じで風を感じるというか、昔を偲んでみるというか……」

「え? ああ、わたしったら、人間が馬の代わりに走って人間競馬をやるのかと思っちゃった!」

「いやあ、そんな大それたことは(^_^;)」

「それなら、普通の部活としてやればいいわ。いちおう校外だから、監督にはわたしが立ちましょう!」

 

 ということで、600メートル先の一の鳥居の下に、散策部五人が体操服で並んだ。

 院長先生も忙しいお方なので、スタート地点の一の鳥居までは学校のマイクロバスで送ってもらう。

 ペコちゃん先生のお父さんも神主のコスで、並んだわたしたちをお祓いしてくださったり。少し大げさっぽくなってきた(^_^;)。

「ヨーイ……ドン!」

 院長先生の掛け声でスタート!

 修道女みたいな院長先生と神主さんが見送って、小柄なさくらからバスケの選手みたいなメグリンまで、五人のJKが髪を靡かせて走るんだから、思ったよりも目立つ。なにより、五人揃って美少女だしね(アハハ)。所々で、写真を撮る人もいる。

 一番遅い者のペースに合わそうと申し合わせてあるので、ペースメーカはさくら……と、思いきやメグリン。

 そういや、運動部から声がかからないのは、病気があるからとか言っていたわね。

 まあ、そのメグリンでも、授業の準備運動で走るよりは速い。まあ、ノープロブレム。

 

 ちょっと感動。

 

 わたしたちって、基本、授業でしか走ったことが無い。

 走るのはグラウンドなわけで、直線距離は、せいぜい50メートル。でしょ、何年かにいちど体力測定とか体育祭とかで走るよね。200や400走る時は、グラウンドのトラックを走ってる。冬季の耐寒走だって、たいていグラウンドか、せいぜい学校の周囲。

 600メートルの直線を走るって、わたし個人としては初めての事。

 走り始めた時から、600メートル先に二の鳥居が小さく見えて、それに向かってひたすら走っていく。

 ちょっと感動……と、思わない?

 馬はどうなんだろう? ピシって鞭があてられて、走るという衝動が体に湧き上がって、真っ直ぐだから、馬にだって、ゴールの鳥居を意識したと思うのよ。ぐんぐんゴールが近づいて来て――オレ、走ってる! 生きてるぞ!――とか思うのかな?

 トラックコースのゴールとは全然違う。トラックだと、物理的なゴールは何度か通り過ぎてしまう。

 うっかりしてると、もう一周あるのに止まってしまったり、余計に走ってしまったり。つまり、真のゴールは頭の中にあるわけよ。たった今通過したけど、あれはゴールではなくて、もう一周先にあるんだとかね。

 人生の場合は、さらに分岐があって、どっちのゴールを目指すべきかって考える。

 わたしの場合、ほとんど決定だけど、ヤマセンブルグの王女としての人生。そして、日本人の女性としての平凡、うん、たぶん平凡だと思うんだけど、そういう普通の人生。ひょっとしたら、もっと別の人生……。

 ヨリッチ!

 ソフィーが手を伸ばして止める。

 あ、赤信号!?

 ゴールの鳥居ばっかり見ていて、交差点に差し掛かっていることに気付かなかった! 危うく、赤信号を突っ切って行ってしまうところだった(^_^;)。

 ゴールして、みんなに聞いてみた。

「ペース配分考えてました」と言うのは、メグリン。だよね、体の事があるから。

「『走れメロス』が浮かんでました」は留美ちゃん。さすがは文学少女。

「パン屋さんとケーキ屋さん、ちょっと曲がったとこにパスタ屋さんがあるのを発見!」さくらは相変わらず。

「忠魂碑を発見しました」と、まじめな顔はソフィー。

「帰りに寄ってもいいですか?」

 と、ソフィーが言うので、コースを戻って忠魂碑を見に行く。

 二階建ての軒先ぐらいはありそうな石碑の忠魂碑。

 ソフィーが真剣に礼をするので、わたしたちも倣ってしまう。

 揮毫は第四師団師団長 森なんとか(草書だから読めない)中将。

「ほう……」

 ソフィーが感心する。有名なんだろうか?

「八連隊が所属していた師団です!」

「有名な連隊です!」

「「「「ほう……」」」」

 みんなで感心して、石碑の忠魂碑を見上げる。

「どんなに有名なの?」

「日本で、いちばん弱かった連隊です!」

 ズッコケてしまった!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
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