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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・387『2683』

2023-02-11 11:37:47 | ノベル

・387

『2683』さくら   

 

 

 2683……何の数字やと思います?

 

 冬物衣料のクリアランス、ティーンの人気ブルゾンが2683円!

 ちゃいます。

 イコカの残高、2683円、そろそろチャージせなあかん。うちのイコカは残高103円で終わってるけど。

 ちゃいます。

 昨日食べたあれこれのカロリー合計、2683キロカロリー。ちょっと食べすぎ。

 ちゃいます。

 うちの家から堺東の駅まで2683メートル……う~ん、そんなもんやけど計ったことないから分かりません。

 

 じつは、令和5年は、紀元2683年なんです!

 

 で、今日は2月11日で、建国記念の日ぃなんです!

 話は、頼子さんロスで落ち込んでたあくる日のこと。

「ちょっと佐藤さん……」

 朝のショートホームルームが終わったら、教室出る足を止めてペコちゃんがオイデオイデする。

 留美ちゃんとメグリンは心配そうに、ソニーはニヤニヤ笑って視線を向けてくる。

 三人の気持ちを一言で表したら――なにやらかしたんやぁ?――ですわ。

 呼ばれたうちも、ちょっとドキドキ。

 せやかて、ペコちゃんは、うちに欠点を宣告した時みたいな憂い顔してるし。ふだんは『さくら』って呼び捨てやし。

「えと、なんですか?」

 

「実はね……」

 

 と、ヒソヒソ話しをされて、一週間後の今朝、大きな姿見の前でメチャ緊張してます!

 同じように、留美ちゃん、メグリン、ソニーの三人も!

 三人とも揃いの巫女服の上に千早いうのんを羽織って、手にはぶどうを逆さに持ったような神楽鈴。

 髪もロン毛のエクステ付けて、地毛との境目を半紙みたいな紙で巻いて熨斗が付いてる。

「これがわたしか!?」

 目ぇ剥いてるのはソニー。

 ソニーはブロンドなんで、黒髪のウィッグ。ペコちゃんは「地毛でも構わないんだけど、ブロンドの付け毛は無いからねぇ」と恐縮してた。

 それで、黒髪のウィッグにしたんやけど、眉毛が合わへん。「じゃあ描くわ」とペンシルで描いたら、今度はまつ毛が合わへん。それで、今度は黒のツケマまでしたら、完全に別人!

「ごめんね、ここまでやらせてぇ」

 ペコちゃんは恐縮のしまくり。

「いや、先生、いいですよ。新しい自分を発見しました!」

「みっともなくないかなあ(;'∀')」

 頭一つ分背の高いメグリンは背中が丸い。

「大丈夫よ、たった五日間だったけど、舞の呼吸はピッタリ合うようになってきたし!」

 ドン!

「は、はい」

 背中に気合いを入れられてピッとすると、うちの頭はメグリンの肩よりも低くなる。まあ、ええけど。

「なんだか『君の名は』の……みたい」

「それ連想したら、巨大隕石が降ってくる!」

「え、あ、どうしよう!」

 留美ちゃんは妄想の世界に入りかけてるしぃ(^_^;)

 

「じゃあ、そろそろ本番、神楽殿に行くよ!」

 

 もう分かってると思うんですけど、うちらは、ペコちゃんの神社でお神楽を舞います。

 今日は建国記念の日ぃで、一般的には休日やねんけど、ペコちゃんの神社では建国祭という行事なんですわ。

 神楽舞をやる氏子のお嬢さんたちの都合が悪くなって、急きょペコちゃんはうちらに頼んだわけです。

 うちの学校はカトリックやし、うちはお寺の子ぉやし、だいたい担任がクラスの生徒に家の用事頼むのは反則めいてるし。

 それで、学院長先生の許可までもらって、うちらに頼んだというわけ。

 学校は、特別な理由によるアルバイトいうことで公に許可してくれる。

 

 渡り廊下を通って静々と神楽殿へ。

 

 昨日までの鬱陶しい曇り空もすっかり晴天になって、神楽殿の前には氏子さんやら一杯の参拝客やら見物のお客さんやら。あ、院長先生まで来てくれて……テイ兄ちゃんとお祖父ちゃんも。

 よし、気合い入れて頑張るぞ!

 

 2683年前のこの日、神武天皇が橿原神宮で即位されて、今の日本が始まったんやそうです。

 うちも一週間前までは知らんかったんやけどね。

 あ、頼子さんと詩(ことは)ちゃんには知らせてません。

 あとで動画を送ってやって、羨ましがらせてやろうと、四人の意見が一致したからね。

 

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・386『頼子さんロスとこけし』

2023-02-05 16:18:44 | ノベル

・386

『頼子さんロスとこけし』さくら   

 

 

 ゴトン

 

 ちょっと大き目のものがコケる音がした。

 小さなもんやったら、コトリ。

 中くらいやったら、ゴト。あるいは、コトン。

 それが、ゴトン。5トンはないやろけど、ゴトン。

 

 寝返り打って確かめたらええねんやろけど、気力が湧かへん。

 

 目ぇ開けると壁。

 うっすらとシミの痕……なんのシミやろ?

 思い出した。中二で留美ちゃんといっしょに暮らすようになって、留美ちゃん、めっちゃ気ぃ遣てた。

 どっちかというと神経質な部類に入ると子ぉやと思う。

 出席番号一番違いで席が前と後ろやったさかい、クラスでは、いちばん早う友だちになった。

 そういう縁で……まあ、いろいろあって一人暮らしになったとき、ほとんど拉致するようにしてうちに引き取って、お父さんも、毎月仕送りしてくれはることになって、うちに来てもろた。

 友だちやし、うちはお寺で広いさかい、すぐに馴染むと思たけど、最初はストレスやったみたい。

 もともと大人しい子ぉで、それが、ますます無口になって、ちょっと心配した。

 えと……あれ、なんて云うねんやったっけ……ジュースが双子になったやつ。

 冷凍庫でキンキンに冷やしたやつを、ポキンと二つにワケワケして、飲もうと思たら口のとこが凍ってて、留美ちゃんは手でくるんで融かしてた。まあ、そないやってたら間ぁ持つしね。

 こらえ性の無いうちは、前歯で口のとこを嚙みちぎる。

 プシュっと音がして中身が飛び散って、慌てて口で受けたけど、飛び散ってしもて、その名残り。

 あの時は、留美ちゃん「プッ( ´艸`)」っていっしゅん笑って、うちも爆笑になって、解れるきっかけになった。

 その時のシミや。

 

 あれ……こういう時は思い出し笑いになるんやけど、笑われへん。

 

 詩(ことは)ちゃんがヤマセンブルグに行って寂しいねんけど、事前に言うてくれたから、なんとか収まってる。

 せやけど、頼子さんまで消えてしまうとは思えへんかった。

 分かってんねん。事前に言われたら、送別会とか、せめて見送りとか大騒ぎして、たぶん、縋りついて大泣きしたやろと思う。

 そんなん分かってるさかい、せやさかい、詩ちゃんも頼子さんも、なんにも言わんと行ってしもたんや。

 ソフィーもいっしょに行ってしもた。

 頼子さんは王女さまやさかい、しゃあないねん。

 なんとか一週間は学校行けたけど、来週は行けるやろか。

 

 せや、さっきのゴトンは何がこけたんやろ。

 

 死にかけの芋虫みたいに寝返り打ってゴトンの正体を見極める。

 ああ……こけしか。

 お祖父ちゃんが高校の修学旅行で買うてきたという白樺の木のこけし。ゴミでほられるとこをうちが引き取った。40センチもあって、高いとこに置いといたら危ないのんで、コースターを下に敷いて床に立たせたった。それがこけて……こけるからこけし?

 いつもやったら、自分で笑てるとこやねんけどね。

 襖開けたらすぐのとこやし、だれか入ってきたらけ躓く。

 なおしとかなら……けど、体が動かへん。ちょっと眠たいし……。

 

 そのまま寝てしまう……。

 

 次に目が覚めて、トイレに行こと思った。

 

 ズデン!

 

 こけしが転がってるのん忘れてこけてしまう。

 そうか、こけしは、人をこかすからこけして言うんか。

 プッ( ´艸`)。

 ちょっとだけ笑えた。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・385『ちょっと寂しい日曜の夜』

2023-01-30 15:21:03 | ノベル

・385

『ちょっと寂しい日曜の夜』さくら   

 

 

 お風呂入りに部屋を出たばっかりの留美ちゃんが戻ってきた。

 

 またパンツ間違えた?

 同じ部屋で寝起きしてるうちらやけど、衣類は別々に仕舞ってる。

 制服とかは同じ真理愛学院のやし、別々の収納。

 それ以外は、一つのタンスを引き出しに『さくら』『留美』と書いて共用。

 入れる引き出しが別々やから、出し入れで間違うことはあれへん。

 せやけどね、取り込んだ洗濯物を分ける時に、時どき間違う。

 下着なんかには『S』と『R』とのイニシャル入れたあるねんけど、時どき間違う(^_^;)。

 うちは間違うてもかめへんねんけど、じっさい二度ほど間違うて「アハハ、留美ちゃんの穿いてたあ( ´艸`)」で済むねんけど、留美ちゃんは気にする。詩(ことは)ちゃんに言うと「留美ちゃんの方が普通だよ」とか「いつまでも小学生の感覚でいちゃダメだよ」とか意見される。

 せやさかい、お風呂場まで行って念のために確認したら間違ってた……で、戻ってきたんかと思た。

 

「少しいいかなあ」

 

 背中にかけられた声は詩ちゃんやった。

「アハハ、留美ちゃんかと思た(^_^;)、なに?」

「えと……」

 コタツに入って、ミカンの皮を剥こうとして、けっきょく止めてから切り出した。

「あたし、家を出る」

「え…………?」

「正確に言うと、日本を出る。二年間、とりあえずね」

「え、高跳びすんの!?」

「高跳び? なんで?」

「警察に追われて的な? みたいな? ぽい?」

「ぽくないわよ」

「流行ってるやん、フィリピンとかに」

「わたしはルフィーか!」

「イテ」

 空手チョップを食らわせられる。

「じつは、留学するんだ」

「落第!?」

「それは留年じゃ!」

「あはは( ´艸`)」

「コロナで延び延びになってたけど、やっとね」

「どこに留学するのん?」

「……ヤマセンブルグ」

「え、ヤマセンブルグ!?」

「去年、行ったでしょ、エディンバラとヤマセンブルグ……」

「うん、二キロ太って帰った」

「さくらは食べてばっかりだったよねえ」

「そんな、尊敬せんといて(^_^;)」

「してないから」

「さよか」

「妖精とか古代ゲルマン人とか、おとぎ話が、まだ現役で生きてるのよ」

「ああ、あったあった! 妖精の飛び出し注意の標識とか、笑ってしまっちゃいました!」

「旅行中に、三回ほど女王陛下と個人的にお話したの」

「ええ、せやったん?」

「資料や本には無いおとぎ話とか古代神話とか、妖精のお話とか」

「せや、最初に行った時は、ソフィーがリアル悪魔祓いしてた!(053『エディンバラ・9』)」

「『そんなに、フォークロアが好きなら、いっそ留学に来ない?』て勧めてくださって」

「な、なるへそ……よかったやんか!」

「あ、ありがとう」

「ほんなら、歓送会せならあかんやんか! 伯母ちゃんに言うてこなら……」

「さくらぁ」

 え……詩ちゃんが袖を掴む。

「明日には出るんだよ、日本を……」

「え……ええ!?」

「ごめん、つい言いそびれて」

「う、ううん、そんなん気にせんとって!」

「ありがとう」

「そや! ということは、向こうで二年間は頼子さんといっしょなんや!」

「え、ああ、まあね」

「ああ、ちょっとウラヤマやなあ……」

「あ、荷物とかは整理して片づけておいたから、使ってくれていいから、わたしの部屋」

「う、うん……」

 

 ちょっと寂しい日曜の夜になってしもた……。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・384『あ、あれ……涙が溢れてきた』

2023-01-26 11:59:08 | ノベル

・384

『あ、あれ……涙が溢れてきた』頼子    

 

 

 もし、ヤマセンブルグの王位継承者になんか生まれなかったら。

 

 寒さが続くせいか、ジッとしていると、そんなことを考えてしまう。

 英語のテスト、十分で終わって五分で見直して、三十五分も余ってしまった。

 答案用紙を裏がえし、神妙にしていると、つい考えてしまう。

 最初は危うく思い出し笑いをしてしまうところだった。

 思い出したのは、さくらが送ってきた写真。

 

 春アニメのモデルに東京の江戸川アニメに呼ばれたさくら。

 宗武監督の春アニメ『犬が西向きゃ尾は東』の主人公がさくらのイメージにぴったりだから、真鈴が引っ張って行って見本にされた。

 画鋲を買いにいかされ「押しピンください」と大阪弁をかます。さくらは不器用な子で標準語では会話できないし、できないことを屁とも思っていない。そういうところが良いらしい。

「押しピン」を「虫ピン」と聞き違えた店主とのトンチンカンなやりとり。その隠し撮りしたのを、スタッフや声優の花園あやめで研究。半日おしゃべりしたのと合わせて、監督のイメージが固まって、キャラの設定変更。

 そのキャラ設定の絵が送られてきて、めちゃくちゃ面白い。

 つくづく宗武監督はすごいと思う。

 監督は、去年の春アニメ一番人気だった『恋するマネキン』も手掛けていた。

 何を隠そう、最終回に出てくる女神ノルンの声は、わたしがやっている。百武真鈴に熱烈に誘われたせいなんだけど、めちゃくちゃ楽しかった。真鈴は声優だけじゃなくてプロデューサーの才能があるのかもしれない。

 その百武真鈴が、新作『犬が西向きゃ尾は東』の企画を聞いて、こんな女の子としてさくらのイメージを語った。

 アンテナのいい宗武監督は、その線で絵コンテを書き進めたけど、やっぱり掴み切れないので実物を呼んだんだ。

 それが、とても生き生きしていて、一部のエピソードや演出はさくらのイメージに合わせて書き直されたと真鈴の話。

「どうよ、やってみたくなったぁ?」

 意地悪そうな目で真鈴は粉を振る。

 予感はする。

 真鈴とさくらといっしょに声優ができたら、人生楽しいだろうなあと、背中に電気が走るみたいに心が疼くよ。

 だから―― 日本一の三枚目! ――とかのメールを打ちたかった。

 でも、そのメール送ったら、あの愛すべきバカは、必ず返事を寄こす。

 返事が来たら、それに返事を書いて、また返事が返って来て、ついには如来寺にまで行ってしまう。

 如来寺のみなさんは、みんな暖かいから、つい長居をしてしまう。あの元文芸部の部室は居心地が良すぎる。

 試験が終わったら、その日のうちのヤマセンブルグに飛ばなきゃならない。

 だから、メールは送らなかった。

 楽しかったよ、さくらたちとの四年間。

 

 あ、あれ……涙が溢れてきた。

 

 ちょ、ヤバイよ。

 試験中、ハンカチ出すのも躊躇われる。

 仕方がないので、眠いふりして右の人差し指で涙を拭う。

 拭ったことが――泣いてるんだ――という気持ちを増幅してしまって、ますます涙があふれてくる。

 もう、制服の袖で拭う。

 ヤバイ、ソフィーがこっち見てる。監督の先生も見てる。

 仕方ないので、うつ伏せて寝たふりした。

 ウ、ウ、ウ……

 だめだ、なんだかこみ上げてきて嗚咽してしまいそう。

「先生、頼子さんを保健室に連れて行きます」

 ゲ、ソフィーのやつ!

 

 保健室どころか、そのまま帰ることになって、領事館に着いたら東京の大使館から専門のドクターまで来ていたよ。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・383『exactly(イグザクトリー)』

2023-01-25 10:07:50 | ノベル

・383

『exactly(イグザクトリー)』頼子    

 

 

 殿下、よいのですか?

 

 わたしと同じ制服のソフィーが、トーストに塗ろうとしたバターナイフの手を停めた。

 睨めっこしていたスマホをなにも操作することなく食卓に置いたからだ。

 ソフィーに隠し立ては出来ない。スマホを置くというささいな動作で、全てを知られてしまう。

「知ってしまったら、ただでは済まないでしょ、あの子たち」

 ガリ

 少々焦がし過ぎのトーストが、ちょっと大げさな音をさせる。

 クフフ

 そんなささいなことで、笑えそうになるのは、自分の中に、まだ中学以来の少女が棲んでいるからだろう。

 ガサツなさくらなら、パンくずを噴き出して爆笑していたかもしれない。

 それが、同じ制服着たソフィーはニコリともしないで、中断したバター塗りを再開する。

「今日の試験科目はなんですか?」

 了解したようで話題を変えてくる。

「数三と現文」

「抜かりはないですね?」

「もちろん、最後のテストだからね」

「exactly(イグザクトリー)」

 ウ、英語で返してきやがった。

 

 それからは、主従ともに、静かに朝食をいただく。

 

 今日から定期考査が始まる。

 大学に進む予定は無いから、おそらく人生最後の定期考査。

 そして、この学年末テストが終わったら、その足で日本を離れる。

 できれば、卒業式までは日本に居たかった。

 でも、新米王女のささやかなセンチメンタルを許さないほどにヨーロッパは揺れているんだ。

 むろん、原因は、あの諜報部あがりのオッサンが始めた戦争。

 ヤマセンブルグが公に戦争に加わっているわけじゃないけど、戦争のお蔭で電気やガスがめちゃくちゃ値上がり。

 ウクライナからの避難民やロシアからの亡命者。他のEUの国々と比べたら大した人数では無いけど、人口比率で言えばイギリスと同じくらいは引き受けているだろうね。僅かだけども志願してかの地に行った人たちに戦死者も出ている。そういう諸々の不安は国民にも影響を及ぼしている。

 それに、エリザベス女王が亡くなってからは、お祖母ちゃん、微妙に鬱状態。

 国と言うのは、日本人が思うほど強固なものじゃない。あの大英帝国でさえ、北アイルランドやスコットランドの分裂という火種を抱えているんだ。

 去年、日本国籍を捨てて正式な王女になった。

 三日間、国中がお祭り騒ぎして喜んでくれた。でも、日本にいちゃあダメなんだ。国に戻って同じ空気を吸っていないと王女としての務めが果たせない。

 さくら達に言ったら、きっと大騒ぎになる。

 如来寺とかで、ぜったいお別れの会とか壮行会とかやるに決まってる。

 そんなのに出ちゃったら、平静でいられるわけないよ。

 そんなアンビバレンツ分かってるから、ソフィーは一瞬だけバターナイフの手を停めたんだ。

 よくできたガードだよ。きっと、妹のソニー共々わたしの股肱の臣てのになるんだろうね。

 

「殿下、そろそろ車を出します」

 

 いつの間にか、ジョン・スミスがやってきて宣言する。

「え、もう?」

「はい、雪は降りませんでしたが、ちょっと交通渋滞しかけています」

「そうなの?」

 目が覚めたら、予報に反してお天気だったし大丈夫だと思っていた。

「他府県からの出入りがありますからね、大阪で雪が降らなくても影響は出ます」

「あ、そうね。わたしが迂闊でした。三分で食べるわ」

「いいえ、八分なら大丈夫です」

「いざとなったらヘリを飛ばします」

「ヘリコプター!?」

 方頬で笑って、懐から出したのはヘリコプターとかの操縦免許!

「バイク通学は禁止ですが、ヘリは禁止されていません」

「アハハハ……」

「冗談です。早く食べましょう」

「う、うん」

 

 そのあと、急いで玄関のアプローチにいくと、係りの人たちが小型ヘリをガレージに仕舞うところだった。

  

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・382『週刊朝日休刊の話題』

2023-01-20 15:16:14 | ノベル

・382

『週刊朝日休刊の話題』さくら    

 

 

 ハ~~~~

 

 お祖父ちゃんがため息ついた。

 なんちゅうか、すでに穴の開いてた風船の口が開いて、盛大な割には勢いのない空気が漏れたような。

「どないしたん、お祖父ちゃん?」

 風呂上がりなんで、頭をガシガシ拭きながらお祖父ちゃんの向かいに座る。

「週刊朝日が無くなんねんて……」

 そう言いながら、うちの後ろを顎でしゃくる。

 振り返るとテレビがユーチューブのモードになってて――「週刊朝日」5月末で休刊――というハッシュタグ。

「え、朝日て、週刊になってたん!?」

 うちは、休刊の文字よりも週刊いう単語にショック!

 年々発行部数が減って経営が苦しいとネットで言われてた朝日新聞、うちは、お寺やけど、珍しいことに朝日新聞はとってない。

 まあ、新聞なんて読まへんけどね。それでも、朝日が大新聞とかクオリティーペーパーとかいうもんや言うことぐらいは知ってる。ネットで、よう言うてるしね。

 その朝日新聞が日刊を止めて週刊になってたいうことに驚いて、その週刊でももたへんようになって、五月からは、とうとう休刊するんか! とビックリしたわけ。

「違うわよ、週刊誌の朝日」

 入れ替わりにお風呂に行こうとしてた留美ちゃんが、あまりのアホさに足を止めて教えてくれる。

「週刊誌のくせにヌードグラビアとか無い週刊誌でなあ」

 缶ビール持って、テイ兄ちゃんが現れる。一本をお祖父ちゃんに渡してテイ位置(お祖父ちゃんの斜め横、定位置と掛けてます)に収まる。

「ほら、女子には檀家さんから貰た水羊羹、どうぞ」

「お、愛い奴じゃぞ諦一は(^▽^)/」

 小さなプラスチックの竹筒に入った水羊羹をくれる。

「せやなあ、電車の中でも広げられる安心の週刊誌やった。お祖父ちゃんが子どもの頃は100万部ぐらい出てたんや」

「お祖父ちゃん、読んでたん?」

「うん、時どきなあ。手軽に話題を拾うのにはええ週刊誌やったさかいなあ」

 坊主は、檀家参りやら法事の時には、話をせなあかん。檀家さんにもいろんな人が居てはるさかい、薄く広く話ができならあかんのやそうです。

「諦一は、しゃべくりのネタとかは、どこで拾うてくるんや?」

「ああ、市政だよりとか、回覧板とか」

「へえ、意外やなあテイ兄ちゃん(^▽^)。ネットのエロ記事とかやと思てた」

「アホか、檀家さんとこで、さくらに言うようなネタで喋れるか」

「あ、ひどいなあ、うちらにはセクハラの下ネタばっかり言うてたわけか」

「面白がって聞いてるのはダレやねん!?」

「あの、週刊朝日で、印象に残った記事はどんなだったんですか?」

 従兄妹同士のエゲツナイ話になる予感がしたのか、軌道修正を計る留美ちゃん。ええ子や(^_^;)。

「せやなあ……倭寇の置き土産とか」

「倭寇って、海賊の倭寇ですよね」

「うん、倭寇がな、中国の南岸とか朝鮮の海岸沿いとかで仕事した後に残していきよるもんがあってん」

「ああ――倭寇参上!――とかの落書きとかじゃないですか? 暴走族とかの落書きをネットで見たことありますけど、けっこう面白かった!」

 留美ちゃんは、意識的か無意識か話題を合わせようとしてる。ええ子や(^_^;)。

「いや、それがなあ、巨大なウンコやねん」

「ウ、ウ〇コ……(=゚Д゚=)」

「ウン、倭寇が去って、船着き場に行くとなあ、大きなぶっとい大蛇がとぐろ巻いたようなウンコが残っててな。こんなごっついウンコ残すのは、どんなごっつい人間やねん!? と、みんなが恐れおののく!」

「アハハハ」

「なに、それ、お祖父ちゃん(≧∇≦)」

「ワハハ、それがなあ、ふっとい竹筒にみんながひり出したウンコを詰めてなあ、ムニュムニュって押し出してこさえるんやてえ」

「あ、こんなふうにか、お祖父ちゃん!」

 ムニュムニュムニュ!

 テイ兄ちゃんは、竹筒を持って水羊羹を押し出しよった!

「ちょっと、風呂上がりの女の子にするような話じゃありませんよ」

 伯母ちゃんが怒ります。

 うちは、お腹抱えて笑ったんやけど、留美ちゃんは真っ赤な顔して俯くだけでした。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・381『三寒四温にはまだ早い』

2023-01-14 11:18:32 | ノベル

・381

『三寒四温にはまだ早い』さくら    

 

 

 サンカンシオンなんかなあ……

 

 食後のお茶を飲みながらお祖父ちゃんが呟く。

 プ(* ´艸`)

 伯母ちゃんが口を押える。

「まだふた月は早いですよ、お義父さん。お茶淹れ変えましょうか?」

「せやなあ、さくらは?」

「あ、うちがやるよ、おばちゃん」

「いいわよ、お祖父ちゃんの相手してあげて」

 伯母ちゃんは、二つとも湯呑を持ってキッチンへ。気ぃついてないお祖父ちゃんが空気を掴む。

「あれ?」

「伯母ちゃんが淹れかえてる。お祖父ちゃん返事してたやないの」

「あ、せやったか?」

 このシチュエーション、慣れてへんかったら――いよいよボケが始まった!?――と思う。

「お祖母ちゃんが逝ったんは、こんな日ぃやったんやろ?」

「せや、さぶいのが苦手やったさかい、ちょこっと温くなった雨の朝に逝きよった……」

 うちは小さかったから憶えてへん。お母さんから聞いて、春雨はお祖父ちゃんには思い入れがあると知ってるだけ。

 

 お祖父ちゃんが思わず勘違いしたぐらいに、今日は温い。

 

 サンカンシオンが三寒四温やいうことは、今やからこそ知ってる春の兆しの慣用句。

 初めて聞いたのは、小三くらいの朝礼で。校長先生が「サンカンシオンの季節になりました……」と訓話の枕で言うた時。

 え、また参観があるのん!?

 ビックリした。二学期の授業参観は、お母さん、ちょっと無理して休みとって来てくれた。

 お父さんが失踪して間もないころやったから、めっちゃ嬉しくって、何回も教室の後ろに他のお母さんらといっしょに並んでるお母さんを見た。

 せやさかい、サンカンは参観や思て、嬉しさ半分戸惑い半分。

「シオンてなんやろ?」

 友だちに聞いたら「心の清い人のこと」と答えた。その子はクリスチャンの家の子やった。

 なるほど、三学期は、子どもらの心の清さを重点的に観る参観なんかぁ!

 アホのさくらは一週間ほどは、そない思てたぞ。

 

「さくら、スマホ!」

 

 留美ちゃんが、アラーム鳴ってるスマホを持ってきてくれる。

「おお!」

 開けてビックリ玉手箱!

 宗武真監督から――キャラデザ決定稿――のサブジェクトで画像が送られてきた。

「おお、これは正しくさくらや!」

 お祖父ちゃんが感激して、おっちゃん(伯父さん)、詩ちゃん、テイ兄ちゃんが寄って来て、伯母ちゃんが手回し良く全員分のお茶を持ってきてくれる。

「声もさくらがやるの!?」

 詩ちゃんが身を乗り出す。

「そうだよね、この顔にはさくら以外の声は考えられないよ」

 留美ちゃんも賛同する。

「いやいや、声は花園あやめさんがやるんやけどね(^_^;)」

「え、花園あやめ!?」

 オタクのテイ兄ちゃんの目ぇが輝く。

 頼子さんらにも見せたげよと思たけど――第三者への転送はご遠慮ください――と注意書き。

 よし、学校で見せたげよ!

 

 はよ月曜日になれへんかなあ♪

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・380『犬が西向きゃ尾は東・2』

2023-01-09 10:07:21 | ノベル

・380

『犬が西向きゃ尾は東・2』さくら    

 

 

 昨日のつづき、えと……声優の花園あやめさんが来はったとこからです。

 

「あやめさん、ちょっと休憩します。お茶でも飲んでてちょうだいませ! さくらちゃん、いっしょに来て!」

「あ、ちょ……」

 みなさんに0・1秒で頭を下げて、せわしない監督の後に続く。

 

「さくらちゃん、筋向いに文房具屋があるでしょ」

「あ、はい」

 監督の指さした筋向いに『勉強堂』の古看板の文房具屋さんが見えた。

「あの文房具屋で押しピンを買って来て欲しいの」

「押しピンですか?」

「うん、はい、この千円で」

「あ、はい」

「だいじょうぶ、ぼくも見守ってるからね!」

「はい」

 宗武監督は、今まで会ったことの無い人種で、言葉はソフトやねんけど言われたら抗しがたい力がある。ソフトパワーいう言葉が浮かんでくるよ。連想でソフトクリームが浮かぶ。監督の寝ぐせの付いた髪が頭頂部で捻ったようになってて、ソフトクリームの先っちょみたいになってるせいかもしれへん。

 ガラガラ……

 勉強堂の引き戸は見かけの割にはスルスルと開いた。

『らっしゃーい』

 カウンターの向こうから声が掛かる。大阪のコンビニでも標準語っぽい『いらっしゃいませ~』を言うてくれるけど、ここのおっちゃんの『らっしゃーい』は、天晴れ本場の東京弁。

「すみません、押しピンください」

「え、〇しピン? あったかなあ……ちょっと待っててね……」

 押しピンが直ぐに出てけえへん文房具屋て、どないやねん(^_^;)

「あたしが子どもの頃は、よく出たんだけどね、近ごろ〇しピンはねえ……」

 ガサゴソガサゴソ

「あ、あったあった、自慢じゃないけど、文具の事なら勉強堂ってもんだ。はい、〇しピン」

「え?」

 おっちゃんがカウンターに置いたのは、小袋に入った金色の小さな釘。

「うちのはね、真鍮製だから昆虫標本とかに使っても錆が出ない」

「あの、押しピンが欲しいんですけど」

「え、だから〇しピン」

「これ、真鍮の釘ですよね。うちが欲しいのは押しピン。ほら、掲示板とかにポスターとか貼る時に使うやつ」

「え、ああ、そりゃ画鋲かな?」

「がびょー?」

「うん、近ごろは、こんなプラスチック。こっちが昔ながらの画鋲、きっちり貼れるけど、外す時は専用のハズシが無いと取れない」

「ガビョーーン(゚ロ゚)」

「おもしろい人だね、お嬢ちゃん、関西の人?」

「はい、大阪の堺です。うちらは、これを押しピンて言うてます」

「へえ、なんで〇しピンなんて言うんだろうねえ」

「そら、グイっと押し込んで使うからやないんですか?」

「『押す』? 『虫』じゃないのかい?」

「いや、せやから押して使うでしょ?」

 グイッとカウンターを親指で押して見せる。

「あ、ああ、お嬢ちゃんは『押しピン』て言ってたのか!」

「いやあ、すみません、ついさっき東京に来たばっかりで」

「ひょっとして、江戸川アニメの?」

「はい、ちょっと休憩時間に頼まれましてぇ(^_^;)」

「監督、上京したばっかの子に用事頼んじゃダメだろ」

「え、監督!?」

 振り向くと、ショーケースの向こうで監督が頭を掻いてる。

「あはは、おいちゃん、その防犯カメラの映像コピーさせてぇ」

 

 それから、コピーした勉強堂の映像を会議室で映した。

 

「いやあ、香里菜の冒頭シーンのまんまだ!」

 制作進行の宮田さんがアングリと口を開けた。

「そうか……これが香里菜の呼吸なんですね!」

 声優のあやめさんは、台本になにやらメモしてる。

「うん、口の表情……目の動きが違う……抜け方もおもしろい。尊いです、沼から金の斧が出てきた感じです」

「これでリテイクいきましょう!」

「キミとは、どこかで会ったことが……」

 他のスタッフさんは、触発さたのか、散って行ったり二三人で相談し始めたり、アニメ制作会社とは、なんとアグレッシブなんやと感動してると、一番年配のオッサンが近寄ってきた。

「あ、脚本の武者走先生だよ。そもそも最初にNG出した張本人さん!」

 監督が引きつった笑顔で紹介してくれはる。

「あはは、初めてお目にかかりますですぅ(;'∀')」

「なんかデジャブだなあ、監督、まんま、こんな感じだよ。真鈴くんもでかした! このまんま、シリーズ終わるまで東京にいたまえ!」

「え、あ、いやあ、それは堪忍してください~」

 

 と、そんなこんなの一泊二日で堺に帰ってきて、三連休最後の今日はダミアといっしょに二度寝してます。

 ZZZZ……ZZZZ……

  

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・379『犬が西向きゃ尾は東・1』

2023-01-08 15:48:20 | ノベル

・379

『犬が西向きゃ尾は東・1』さくら    

 

 

 ええと……東京からの帰りです。

 

「ごめん、この土日で東京に来てほしい!」

 前生徒会長の百武真鈴先輩に拝み倒されて……拝み倒した本人は、うちの横でアイマスクして寝てます。

 こんなご時世やさかい、新幹線の車内はみんなマスクしてんねんけど、その上にアイマスクしてるさかい、ちょっと怪しい。

 高校生声優として人気うなぎのぼりの真鈴先輩は顔がさす。

 駅やら電車の中では高い確率で正体がバレてしもて、サインとか写真とか頼まれるんで目隠しのためらしいねんけど、ほんまに寝てるしぃ。

 真鈴先輩は原子力で動いてるんちゃうかというくらいに活発な人やねんけど、その秘訣は、この――どこでも寝られる――いう技があるからやないかと思う。

 

「みなさん、リアルさくらでーす!」

 

 先輩自ら両手のキラキラエフェクトやって紹介されたのは、江戸川アニメの会議室。

「は、初めまして、酒井さくらです!」

 元気なだけで、普通の挨拶すると。

 オオオ!

 教室の半分くらいの会議室にどよめきの声があがる。

 正直、ビビる(;'∀')。

「こちらが、監督の宗武真(むねたけまこと)さん」

「宗武です、東京までお呼びたてしてごめんなさいね。僕の我がままなんです、この日しか空かなくってねぇ(^_^;)」

「感謝してくださいよ、監督。高校生って言ったて、急に東京来るのは大変なんですからね」

「はい、しろと言われたら、たとえ足の裏でもお尻でも舐めさせていただきます!」

「アハハ、さっそくのセクハラありがとうございます……で、向かいが作監の江原さん……」

「サッカン?」

「作画監督、アニメの絵のグレードを管理してる偉い人」

「江原です。ご本人に来ていただいて本当に助かります」

「それから……」

 続けて、第一原画さんやらのアニメーターの人たち、プロデューサーやら制作進行やら演出やらナンチャラやら、十数人の人らが紹介されて、紹介されてる間にも五六人の人が入ってきて、トドメにうちでも知ってる女の人が入ってきた。

「すみません、遅れました」

 真面目な大人びた声でビックリしたんやけど、姿形と声質は、まごうかた無きベテラン声優の花園あやめさん!

 シリアスからコメディー、可憐から極悪まで、声と縁起の幅では五本の指に入ろうかという売れっ子さんです。

 真鈴先輩も売れっ子やねんけど、学校でしょっちゅう顔合わせてるし、校内のイベントやらではお馴染みやから、そんなに意識はせえへんねんけど、あやめさんのリアルは格別ですわ。なんか、背中に電気走った!

 

 事情は、こうです。

 

 江戸川アニメが元請けになって作られてる新作春アニメ『犬が西向きゃ尾は東』の制作が遅れてる。

 ほら、年末に、うちら東近江市のお寺で除夜の鐘撞いてたでしょ(376回『四回目の大晦日』)。その時に頼子さんのスマホに真鈴先輩から電話がかかってきて、なんか揉めてた。あれですわ。

 アニメ制作のことは、よう分かれへんねんけど、四月のオンエアまでに間に合うか間に合わへんかの瀬戸際らしい。

『犬が西向きゃ尾は東』というのは、東京のJKと大阪のJKの物語。二人ははとこ同士。はとこいうのは祖父母のころに兄弟やったいう関係で、めっちゃ小さいころに曽ばあちゃんの葬式で会って以来で、日ごろは親類付き合いも無い。

 それが、別々の事情で大阪と東京に入れ違って引っ越して苦労するというコメディー。

 東京のJKは真鈴先輩、大阪のJKは花園あやめさんが声を当てることになった。

 ところが、五回目までの絵コンテが出来て、制作発表までしたとこで、監督と作監が頭を抱えた。

 大阪のJKのキャラの細部が決まれへん。

 いちおう中肉中背のポニテ、素顔ではキツメやけど、笑うと愛嬌があるという線で進んでんねんけど行き詰ってしもたんやそうです。

 年末には「よし、この線でいくぞ!」と監督は書き上がったばかりの絵コンテを自慢げに振り回してたんやけど、新年を迎えて再び挫折。

 なんや、ヒントは文化祭の動画。ほら『サクラウメ大戦』の芝居やったり、駅前までパレードやった、あれですわ。

 あれに写ってる酒井さくらが参考になったという、嬉しい話やねんけど……うちなんかを参考にするから行き詰るんやと思う……。

「いちど、リアルさくらに合わせてくれ!」

 と監督は叫んだ!

「やっぱり、映像資料からだけでは掴めん! 頼む! 百武真鈴!」

 ほんで、真鈴先輩に頼んだ。

 

 せやさかい、東京に一泊しての帰りの新幹線いうわけですわ。

 

 素人のうちが見ても――だいじょうぶ?――いう感じ(^_^;)。

 この話は、とうぶん続きそうな気配です。ナマンダブ ナマンダブ……

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
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せやさかい・378『今日から三学期!』

2023-01-06 13:28:30 | ノベル

・378

『今日から三学期!』さくら    

 

 

 今年もよろしくお願いしま~す。

 

 三日の日に挨拶に伺ったとはいえ、三学期最初の登校日、きちんとお店のドアを開けてご挨拶しとく。

「こないだはありがとう、また遊びに来てくださいねぇ(^_^;)、モーニング二つ、アメリカンでございます、そちらさまは……」

 トレーを二つも持って、それでも半身を捻って挨拶してくれはる瑞穂さん。片手で挨拶のマスターはドリップから目を離せません。

 ペコリと頭を下げて駅に急ぎます。

 

「未成年て感じやないねえ」

 

 信号待ちで思わず感想が口をつく。

「うん、十個は上に見える」

 マスターが「あ、瑞穂はまだ未成年だから(n*´ω`*n)」なんて言うもんやさかい、うちらは気になってた。

 今どきの未成年はあいまいや。十八で選挙権あるし、なにか契約するにしても親の同意もいらんようになるし。

「いったい、いくつやねんやろか?」

 未成年には昔ながらの十八歳未満ちゅうのと二十歳未満がある、もし、十八歳未満いうことやったら、うちらとの年齢差は一つか二つ、頼子さんと同い年。

「ちょっと、それはねえ……」

 あれへんやろと留美ちゃん。

 二十歳未満にしても、十九歳。

 マスターはテイ兄ちゃんと大学の同窓やさかいにニ十七か八……ありえんことやないけど、テイ兄ちゃんがショック受ける程度には珍しい。

 ま、そういう興味もあってご挨拶、ちなみに提案したのは留美ちゃん。

 留美ちゃんも、かなりアグレッシブなキャラになってきたぜぃ( ⑉¯ 皿¯⑉ )。

「あ、青になった」

 揃って横断歩道に足を踏み出して、婦警さんが目につく。

「あ、あの婦警さん」

 クリスマスの日に見かけた小柄な婦警さん(369『留美ちゃんが立ち止まるわけ』)。

「フフ、やっぱ、かわいい」

 婦警さんの制服制帽は体にあったサイズやねんやろけど、ベルトやら拳銃やらはフリーサイズ。

 なんか、中学生がコスプレしてるみたいで可愛い。

 ピピピピピ!

 激しくホイッスルを吹いて自転車のオバチャンを制止。信号無視は見逃してません。

「あの感じは、五年はやってるねえ……」

 気負いもためらいもない職務執行、思いのほかのベテランなんかもしれません(^_^;)。

 

 明けましておめでとうございます。

 

 ペコちゃん先生が言うと、ほんまに「おめでとう!」いう感じがする。

 ペコちゃん先生は、学校の近所の神社の娘さん。

 子どもの頃から巫女服に身を固めて、正月やらお祭りやら神社の手伝いしてきたから決まります。

 返すうちらは「おめでとうございます」が2/3、「おはようございます」が1/3。

 メグリンは「おは、めでとうございます」と微妙に」とちってる。

 ウフ(* ´艸`)。

 留美ちゃんが口を押える。見るとソニーは舌を噛んで、ポーカーフェイスにはしてるけど、痛そう。

 せやけど、神社の娘がミッションスクールで先生やってるというのは、なんや寛容の精神を地で行ってるいう感じで、ほんまに目出度いです。

 政治家も宗教家も、こんな感じでやってくれたら、世界は平和になると思う。

 

 新年の挨拶をして提出物を出して、講堂に集合して始業式。

 

 いつもは、始業式が先やねんけども、暖房の効きが悪いので温めるのに時間をとったということらしい。

 中学では、そもそも講堂(体育館兼用)に暖房なんか無かったさかい、暖房にまで気を配る学校にビックリ。

 せやけど、暖房がめちゃくちゃ気持ちええさかい、半分以上寝てしまう(ごめんなさい)。

 フワァ~~(´Д`)。

「ちょっと」

 留美ちゃんに小突かれる……ヤバイ、演壇の院長先生と目が合うてしもた!

『ということで、三学期も気を緩めることなく、しっかりと頑張っていきましょう!』

 そんな、うちの顔見んといてください。みんなクスクス笑てるし(*゚O゚*)。

 

 始業式で笑われた以外には、大きなドジもせんと帰りの昇降口。

 

 ローファーに履き替えて、上履きをロッカーにしまおとしたら殺気を感じた!

 ドタドタドタ!

 前生徒会長の百武真鈴が血相を変えて駆け下りてくる。そんで、その美しくも怖い瞳は、しっかりうちの顔を見てる!

「よかった! 間に合ったぁ!」

「うわ!?」

 最後の三段は飛び降りて、うちのことをガッチリと掴まえた! 掴まえられた!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・377『テイ兄ちゃんの偵察に付き合う』

2023-01-03 11:59:28 | ノベル

・377

『テイ兄ちゃんの偵察に付き合う』さくら    

 

 

 元日の昼まで東近江市のお寺におって、夕方に堺に帰ってきた。

 

 除夜の鐘撞いた後も、交代でお風呂に入ってしゃべくりまくって、いつ寝たんやら起きたんやら(^_^;)。

 お雑煮をいただいて「こんなお雑煮初めて!」と感動したのはメグリン。

「古閑さんは、どんなお雑煮だったの?」

 詩ちゃんが興味深そうに聞く。

「お雑煮って、すまし汁に角餅でした」

「古閑さん、もともとは関東の人なのね?」

「はい、父も母も東京です」

 メグリンは、お父さんが幹部自衛官で、子どもの頃から引っ越しばっかり。行く先々で、うまいこと馴染んできたけど、お雑煮なんかは、やっぱり親の出身地のスタイルになるねんやろね。

 うちも、四年前、大和川の向こうから引っ越してきて戸惑うこともあった。せやけど、お母さんの実家やさかい、お雑煮が同じやったんで感動したのを憶えてる。

 お母さんは、ズボラやったんで、冷凍ものとかレンチンのものが多かったけど、お雑煮だけは自分でこしらえてくれた。大和川渡っただけで、これだけ食べ物がちゃうんか思たけど、最初のお正月でお母さんが作るのんと同じお雑煮が出てきて感動した。

―― やっぱり、うちのルーツは、ここやねんわ ――そない思て安心したのを昨日のことのように思い出す。

 

 他にも、日本で最初のお正月のソニーのことやら、大晦日に電話してきた真鈴先輩のことやら、盛り上がった話題はあるねんけど、話は、お正月も三日目のことになります。

 

「ほんまは偵察やねんやろ?」

 留美ちゃんと並んだ後部座席からテイ兄ちゃんをいじる。

「あほ、新年の挨拶や」

「うふふ(*´艸`*)」

 留美ちゃんが、優しく笑う。

「檀家周りのついでに顔見ただけやからな。ちゃんと、お祝いの言葉を言う意味でもやなあ……」

「まあ、ええやん。うちらも、マスターのお嫁さんと喋るのは初めてやさかい~(ㅎ.ㅎ)」

「あんまり、余計なことは喋るなよ」

「アハハ、自信ないなあ」

 

 今日は、いつも自転車停めさせてもろてる『スナックはんぜい』に新年のご挨拶……という、うちと留美ちゃんは刺身のツマで、ほんまはテイ兄ちゃんがマスターの新妻を偵察するカモフラージュ。

 

 うちらも、自転車を停めさせてもろた駐車場でチラ見しただけやさかい、興味津々ではあります。

「あ、そっちの階段から上がってぇ!」

 駐車場に入ると、二階の窓から顔を出したマスターが店の裏を指さす。

「え、ここもマスターの家だったんだ!」

 留美ちゃんも驚く。

 店の裏側には塀を隔ててお屋敷があったんやけど、なんと、そのお屋敷がマスターの家やおまへんか!

「まあ、半分道楽みたいな店やさかいなあ、嫁さんも……」

 羨ましそうなテイ兄ちゃんの後をついて本宅へ。

 

 開けましておめでとうございま~す(^▽^)

 

 定番の挨拶を交わしてリビングに通される。

「家内の瑞穂です、きちんとご挨拶するのは初めてですね。よろしくお願いいたします」

「は、はい。御主人の大学時代からの友だちで、酒井諦一です、こちらこそよろしく(^_^;)」

「昨年は過分なお祝いを頂戴して、ほんとうにありがとうございました。酒井さん榊原さんも、駐車場でお辞儀しただけで失礼しました」

「いえいえ、うちらこそ駐車場使わせてもろて、ほんまにありがとうございます」

「いえ、こちらこそ」

「まあ、硬い挨拶はこれくらいにして、まあ、座ろうや」

「あ、そうですねアキラさん。どうぞ、こちらへ」

 てっきりソファーに座るんかと思たら、リビングをクニっと曲がったとこが襖になってて、瑞穂さんが開けてくれると、大きなコタツの上にお正月の用意が並んでた。

「ほんのあいさつ代わり」

 テイ兄ちゃんの目配せに合わせて、風呂敷包みを解いて出す。

「まあ、ありがとうございます。まあ……お酒もお饅頭もいいものですねえ、わたしも、ここのお饅頭は好物なんですよ。こんなに頂いて、恐縮です」

「気にせんでいいよ、諦一が持ってくるのは、みんな檀家さんからもらったもんやから」

「アキラさん、そんなこと言っちゃダメですっ」

 なんか可愛い。きれいな奥さんやけど「メ」っちゅう顔すると、なんとも可愛い!

「まあ、適当にやってくれ、まずは乾杯だ」

「そうですね、みんなでやりましょう」

「はい、喜んで!」

 瑞穂さんの明るい声に、うちも我が家のノリでしゃしゃり出る。留美ちゃんも瑞穂さんも、お酒やらソフトドリンクを注いだり、お重のおせちを取り分けたり。

「あ、どうぞ奥さんも」

「あ、わたしはウーロン茶で(^_^;)」

「あ、はい」

 女の人がソフトドリンク、ようあることなんで、そのままウーロン茶を注いでおしまいやねんけど、亭主のマスターが、すごいことを言うた。

「あ、瑞穂はまだ未成年だから(n*´ω`*n)」

 

 み、未成年!?

 

 テイ兄ちゃんの頬っぺたが痙攣したぞ。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・376『四回目の大晦日』

2022-12-31 14:26:35 | ノベル

・376

『四回目の大晦日』さくら    

 

 

 

「みなさん、大晦日の夜をいかがお過ごしでしょうか? わたしは、日本最大の湖である琵琶湖の近くのお寺に学校の友だちと来ています。日本では、大晦日の夜から新年にかけて、お寺の鐘を108回鳴らす習慣があります。ヤマセンブルグでも年明けと同時に新年を祝って教会の鐘が鳴りますが、日本の108回の鐘は意味が違うんですよ。人間には煩悩という108の良くない心があると言われています。キリスト教でも『七つの大罪』というのがありますが、それに近いものでしょう、それを打ち払うために鳴らすのが元々の意味だと言われています。でも、じっさいに鐘を撞く人たちは――ゆく年を惜しみ、来たるべき新年良かれ――と願うんだそうです。わたしは、18年間、わたしを育ててくれた人たちと日本に感謝して愛しみながら鐘を突きたいと思います。そして、来年はセントヤマセン大聖堂の新年の鐘をみなさんと聞くことをお約束します。それでは、ヤマセンブルグに幸あれ、日本に幸あれ、そして、世界に平和と幸あれかしと祈ります……」

 そう締めくくると、頼子さんは胸の前で指を組んで、静かに瞑目するのでありました……。

「う~~ん…………まあいいでしょう」

「だあああ、やっと解放されたあ!」

 それまで真っ直ぐ背筋を伸ばして座ってた頼子さんは、足を投げ出し、電車の中でやったら絶対ヒンシュクやいう姿勢になって、一気にダレた(^_^;)

 年末の夜回りは、他の町内で夜回りの人が車にはねられるという事件のために、未成年は中止。

 それで、テイ兄ちゃんが話を付けてくれて、大晦日の今日は四年前にお世話になった東近江市のお寺に来てます。

『除夜の鐘お助け隊!』

 頼子さんは、領事館で新年の挨拶をヤマセンブルグの国民にライブで流す予定やった。

 それを行った先のお寺からやるということで、やっと許可が下りて、五回目のリハーサルでOKが出たというわけです。ちなみに、実際は次のように英語でやらはりました。

「How are you all doing on New Year's Eve? I am visiting a temple near Lake Biwa, Japan's largest lake, with my school friends. In Japan, there is a custom of ringing temple bells 108 times from New Year's Eve through the New Year. Even in Yamasenburg, church bells ring to celebrate the New Year at the same time as the beginning of the year, but the meaning of the 108 bells in Japan is different. It is said that human beings have 108 bad thoughts called earthly desires. Even in Christianity, there is "The Seven Deadly Sins", but it is similar to that, and it is said that the original meaning was to ring to drive away them. However, it is said that the people who ring the bell actually wish for the coming year and wish them a happy new year. I would like to ring the bell while appreciating and loving Japan and the people who raised me for 18 years. And I promise that next year we will all hear the New Year's bells of St. Yamasen's Cathedral. Well then, I pray for Yamasenburg, Japan, and peace and happiness in the world...」

「こら、さくら! そんなの見せなくていいからあ!」

 怒られてしまいました(^_^;) ちなみに、うちらはオーディエンス。

「みんな、お餅つくぞぉ! リッチも、へたってないで! 餅つきしなさい!」

 ソフィーが腕組みして、本堂のうちらを睨んでる。

 あ、リッチいうのは頼子っち⇒ヨリッチ⇒リッチです。

「ソフィー怖いよぉ」

「友だちモードでやれって言ったのは殿下の方じゃなかったですかぁ」

 カメラを片付けながらジョン・スミス。

 

 えい! ペッタン ほ! えい! ペッタン ほ! えい! ペッタン ほ! えい! ペッタン ほ!

 

 境内の臼を囲んで、湯気と歓声が木霊します。

 ちなみに「えい!」はめぐりん、「ほ!」は留美ちゃん、残りのもんは臼の周りで待機。

 つきあがったら、総勢でお餅を丸めたり伸ばしたり。つき手と合いの手は交代。

「あ、ごえんさん、うちが持ちますよって!」

「ありがとう如来寺さん」

 蒸し終わったもち米を抱えてくるごえんさん、年が明けたら七十の大台やそうです。

 うちの倍の規模のお寺を一人で切り盛りしてはります。四年近いお寺生活で、うちも手伝いの呼吸がちょっとは分かってきた。

「ごえんさんてなに?」

 お姉ちゃんに負けず劣らず日本語ペラペラのソニーやけど、さすがに『ごえんさん』は分からへん。

「お寺の住職」

「ジューショク?」

「えと、神父さんとか牧師さん的な?」

「ああ、なるほど」

 

「ウァッチლ(‘꒪д꒪’)ლ!!」

 

 ジョン・スミスが丸めようとしたお餅を落としてしまう。 

「これ、めちゃくちゃ熱いよ!」

「 部長、修業が足りません」

 ソフィーが冷やかす。ソフィーはポーカーフェイスちゅうかジト目やから、ちょっと怖い。

 

 キャーキャー ワハハと笑って、はしゃいで早くも夕方。

 

『おお! いいなあ! わたしも行きたかったあ!』

 頼子先輩に真鈴先輩から電話。

「どうだ、羨ましいだろ!」

 イチビリの頼子さんは、スマホをカメラに切り替えて、うちらを写す。

 真鈴先輩は、年明けに始まる新作アニメのアフレコで東京のスタジオ。

 なんでも、監督の絵コンテがなかなか上がってこなくて、予定よりも十日も遅れてるらしい。

『え、あ、ちょ……ちょっと監督!』

 なんかゴチャゴチャ、なんか揉めてる?

 と、急にオッサンの声になった!

『頼子さん、いる?』

「あ、はい、頼子ですが」

『マネキンではお世話になりました!』

「あ、わたしの方こそ」

『そっち、さくらさん居ます?』

「あ、はい、いま写します」

 え、なんでうち!?

『ども、文化祭の動画見ました。いちどご挨拶と思って、真鈴がいろいろ引っ張りまわして、ごめんなさいね』

「いえいえ、うち、いえ、わたしも楽しかったですから。あ、えと、監督さんのお声聞けて嬉しかったです」

『アハハ、それは何より……え、もう時間? それじゃ、頼子さん、みなさん、よいお年を!』

 後ろの方で――かんとく!――と――あ、ちょ!――の声が重なって切れてしもた。

 

 日が西に傾いて、年越しそばの下準備にかかり始めると、境内に見慣れた車。

「え?」

「あの車動くんや!」

 留美ちゃんと二人びっくり。

 その車は、この四年で二回ほどしか動いてるとこを見たことが無いミニクーパ。

「まさか!?」

 車から出てきたんは、お祖父ちゃんと詩(ことは)ちゃん。

「お祖父ちゃんが運転してきたん!?」

 たしか詩ちゃんは免許持ってへん。

「あはは、午後から空いちゃったら、お祖父ちゃんが『連れてってやる!』って」

 よかった! いや、よくない!

 詩ちゃんが来たんはええけど、うちが如来寺に来て、一回も運転してるとこ見たことないお祖父ちゃんが堺から車運転してきたのはめちゃくちゃよくない!

 折り返し帰るいうお祖父ちゃんを引き留めて、こっちで年越しさせるのは一苦労でした(^_^;)

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

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せやさかい・374『ショック!』

2022-12-29 16:22:22 | ノベル

・375

『ショック!』さくら    

 

 

 ちょっとショック!

 

 夜回りのコースの下見を終わって帰ってみると、山門入ったとこでテイ兄ちゃんに呼び止められた。

「未成年の夜回りはやんぺになるかもや」

「え、なんで!?」

「夕べ、よその町内で夜回り中に事故があって二人亡くなってなあ、それでやと思う。今から町会長さんと市役所に事情聞きに行くとこやねんけどな」

 そこまで言うと、テイ兄ちゃんは町会長さんを車に乗せて市役所に走って行った。

「さくらぁ」

 留美ちゃんがビッコ曳きながらこっちに来る。

「あ、うちの方が行くよって!」

 留美ちゃんは本堂の大掃除で足をグネってしもてるんや。

「やっぱり中止って言ってた?」

「うん、いま、町会長さんと市役所行きやったとこ」

「だったら、まだ決まったわけじゃないんだね?」

 留美ちゃんはええ子や。

 足グネて、自分は行かれんくなってしもたけど、みんな楽しみにしてるのん知ってるから、自分の事のように心配してるんや。

「うん、テイ兄ちゃん帰ってこんと分からへんと思う」

 

 コンコン

 

 リビングのガラスが鳴って、振り返るとお祖父ちゃんが右手でオイデオイデして、左手でメモをガラスに貼り付けてる。

―― 善哉食べにおいで ――

「「わ、善哉!」」

 脊髄反射で玄関に向かう。

「ちょ、さくら!」

「あ、ごめんごめん(^_^;)」

 留美ちゃんに肩を貸してキッチンへ。

「本堂の方に出そうと思ったんだけど、ちょっとごたついてるから、お祖父ちゃんと先に食べて」

 伯母ちゃんがお椀によそってくれる。

 ドン

 伯母ちゃんが乱暴なんとちゃうんです。丼鉢みたいなお椀にドッチャリ入ってるんで、テーブルに置いただけで充実した音がするんです(^〇^;)。

 お寺で言う小餅、世間的には中餅が二個も入って、塩こんぶまで付いて、もう世間の憂さなんか飛んでしまいそう!

「諦一が町会長と行きよったんは、みんなの顔たてるための……優しさや」

「……いま、方便て言いそうになりました?」

 留美ちゃんは鋭い。

「まあ、あけすけに言うたらな。役所の方でも『慎重にやってください』くらいの言い回しやねんやろけどな。まあ、町会の判断いうことになるねんやろなあ」

 ずっこい!……中学生やったら、そない思たやろね。

「頼子さん、楽しみにしてたのにね」

 せや、頼子さんは日本で最後の冬休みやったんや……。

「頼ちゃんは、警護のこともあるやろから、もう連絡してあげた方がええかもしれんで」

「せやねえ……」

 

 うちは、ポケットからスマホを取り出して頼子さんの番号をクリックした。

 

『ちょっと、さくら!』

 ワンコールで出た頼子さんは、もう機嫌が悪い。

「ちょ、怒らんと聞いてくださいよ(;'∀')」

『あ、ごめん』

「…………というわけで、中止みたいなんですわ」

『ああ…………そうだったんだ。うちは、ソフィーがさ「領事からお控えくださいと要請されました」って、それだけなんだもん。そうか、そういう事情だったんだね』

「正式に決まったら、また電話しますから」

『あ、うん、待ってるね……ひょっとして、さくら、お善哉とか食べてるぅ?』

「え、なんで分かったんですか!?」

 いっしゅん、ソフィーかソニーに隠しカメラを仕掛けられたかと思た!

『いや、匂いがね』

 え、こないだアップグレードしたかと思たら匂いを送る機能が付いたか!?

『え、そっちもリアルお善哉?』

―― 殿下、冷めないうちに召し上がってください ――

 ソフィーの声がしてる。

「なんや、そっちもお善哉やったんですかぁ!」

『アハハ、偶然の一致だね。そうだ、お善哉の見せあいっこしようよ、写真送って! こっちも送るから!』

「ラジャー(^^ゞ!」

 

 一度電話を切って、まだ手を付けていない留美ちゃんのを撮って送る。

 同時に、向こうの写真も着信。

―― そっちの方が大きい! そっちの食べたいぞ! ――

 子どもみたいなメールも来る。

 分かってんねん、こうやって子どもっぽくすることで、お互いに残念なことを吹き飛ばそうという心遣い。

 頼子さんが日本に居てるのは、あと二か月あるかどうか。

 楽しい思い出作ってあげなら……さ、とりあえずは食べよ。

「え、お餅無い(⊙▃⊙)!」

「え、電話する前に食べたじゃない」

「え、ウソお!?」

 あたしのんは、ホンマのボケです(-_-;)。

 ワハハハハハハハ!

 お祖父ちゃんが、入れ歯が飛び出しそうなくらい笑って、お餅を一個分けてくれました。

 

 そのあと、テイ兄ちゃんが帰ってきて、正式に未成年の夜回り中止を宣言。

 

 せやけど、とっても、むっちゃステキな提案もしてくれて、みんなへのメールも楽しく送れたぜ(≧∇≦)!

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

 

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せやさかい・373『さくらのアップグレード』

2022-12-28 12:09:16 | ノベル

・374

『さくらのアップグレード』さくら    

 

 

 あっという間に冬休み。

 

 学校案内のプロモーションビデオで大いに盛り上がった。

 終業式も、けっこうおもしろかったんやけど、今日から歳末特別警戒の夜回りが始まります。

 今年は町の集会所が雨漏りやら傷みやら隙間風やらで使われへんので、急きょ、うちの本堂が本部。

 山門の前には『歳末特別警戒』の提灯が二つも出て、なんか堺奉行所か新選組の屯所かいうくらいの雰囲気。

「やっぱり、提灯は、こういうとこに掛けるのんがええなあ!」

 曲がった腰を伸ばして喜んでるのは、お寺の婦人部長をやってる田中のお婆ちゃん。

「ウンショっと……ほら、温いうちにおあがり」

 ゴロゴロ(年寄りがよう押してるカート)を本堂の階の前に据えてお婆ちゃん。

 開ける前に分かってる。中身は焼き芋。匂いしてたしね(^_^;)。

 米屋が本業やねんけど、秋冬は焼き芋も売ってる。それを持ってきてくれたんです。

 中学のころも、部活でランニングとかしてたら焼き芋をくれた。

 三回続いたら、なんか申し訳なかったんやけど「さくらちゃん、朝顔で世話になったやんか」と目をへの字にするお婆ちゃん。

「それに、若い子ぉが、毎日元気に家の前走ってくれてるだけで、ナマンダブやし」

 そない言うて手合されたり。

「あんたらも、年寄りは大事にせなあかんで」

 本堂に居てる町会のオッチャンやらお爺さんやらに檄を飛ばす。

 なんせ、お婆ちゃんは女子挺身隊に行ってた。戦後生まれの六十代七十代は鼻たれ小僧。

 アハハハ(^_^;)

 昔はヤンチャやったいう町会長さんも、頭掻いて笑うしかない。

 夜回りとかは陽が落ちてからやけど、こないやって、みんなが火鉢囲んで無駄話やってんのんがええんや。

「学校のお仲間は、いつ来るんや?」

「あ、午後には来ます。せや、夜回りのコース、下見しとかなら!」

「いやあ、さくらちゃんは真面目やなあ」

 町会長さんがヨイショしてくれる。

「ほな、ちょっと行ってきます」

 夜回りのコースを書いた地図を持って立ち上がる。

「ごめんね、つきあえなくて」

 留美ちゃんが手を合わせる。留美ちゃんは本堂の掃除してて、内陣から外陣に降りる時に脚をグネてしもた。

 詩(ことは)ちゃんは、進路の書類の事で午前中は大学。

 

 地図を見ながら角を曲がる。

 

 もう二十メートルも行ったら公園……やと思たら『鎌倉殿の十三人』に出てくるみたいな女の人が出てきた。

 長い黒髪に緋の袴、ゴ-ジャスな十二単、遠目にはお内裏さんやねんけど、近づくと眉毛は無いし、ニッコリ笑った口の中はお歯黒で真っ黒やし。初対面やったら、ぜったい逃げてる。

 このお雛さんの化け物みたいなんは、お母さんのお雛さんのメンバーやった三人官女の三方(さんぽう)さん。

 こいつが……この人がしゃしゃり出てくるには訳があるんやけど、ややこしいから省略。

「ご無沙汰いたしております、さくらさま」

「あ、はあ……て、オジャリマス言葉はやめたん?」

「はい、いまお仕えしているお方が、当世風にしなさいとおっしゃいますので、及ばずながら改めました」

「え、再就職できたん!?」

「はい、おかげさまで」

「おめでとう! 三方さん!」

「はい、二君に仕えずというのが、官女の矜持ではございますが。いとやんごとなききわからの思し召しでございましたので……わたくしのことはよろしいのです。我が主が、さくらさまにお話があると仰せになりますので、その先ぶれとしてお供してまいりました」

「やんごとなきお方?」

「はい、あちらに……」

 三方さんが示したのは公園の奥……源氏物語に出てきそうな牛車が停まってた!

 

 よっこいしょっ……と。

 

 牛車の簾を自分で上げて衣冠束帯のオッサンが出てきた。

 どこのお内裏さんや!?

 お内裏さんは、牛車の横に立つと笏(しゃく)でオイデオイデという風に手招き。

 怪しいお内裏さんや、髭なんか生やして、微妙にメタボやし。

「あ、わたしだよ、わたし」

 なんか気安い……

「ほら、ごりょうさんの堀端で自転車借りただろ」

「あ、赤い馬の!?」

「そうそう、夢にも何度か出てきたんだよ」

「え?」

「やっぱ、夢は憶えてないか。オオサザキですよ」

「オオサザキ?」

 どっかで聞いたことがある。

「えと、ごりょうさんと、堺のみんなは呼んでくれる」

「え、仁徳天皇?」

「うん」

「いやあ、今風にスタジャンとかブルゾンとか、スェットでジョギングしてるオジサンでもいいと思ったんだけどね、三方さんが、これにしろって。まあ、彼女も今風にやろうと努力してくれてるしね」

 ああ、牛車に衣冠束帯では古墳時代には合わないかな(^_^;)

「わたしは五世紀だし、衣冠束帯って九世紀……まあいい、まずはお礼を言うよ」

「お礼ですか?」

「うん、あしかけ四年前……年号はまだ平成だったね、お母さんに連れられて堺の街にやってきて、如来寺でもご町内でも、明るく元気にやってくれて、堺のいろんな人たちの心を温めてくれた」

「いえ、そんな大層なことは(#^_^#)」

「いや、まさに民の竈ならぬ民の心は潤いにけり。ほんとうにありがとう。そして、よくがんばりましたね」

「い、いえ、ぜんぜん、そんなことは。期末テストも赤点ギリギリやったし、下駄はかしてもらえへんかったら、三つぐらい赤点でした」

「赤点は、人生の色どりだ」

 ああ、なんか頬っぺたが熱つなってきたし。

「ほんとうに、よく頑張ったね」

「は、はい!」

「これからも、いろいろあると思うけど、陰ながら応援しています」

「はい!」

「友だちの中には日本を離れる者もいる、進路に悩む者、家族や友だちのことに心を痛める者、そういう者たちに寄り添ってあげておくれ」

「え、わたしみたいなオッチョコチョイがですか」

「オッチョコチョイには熱がある、心がある、恥じることはないぞ」

「は、はい」

「アハハ、なんだか金八先生みたいになってきたなあ。じゃあね、この四年あまりの頑張りに感謝して御褒美をあげます」

「そんな、わたしこそ、みんなに助けられて、ここまで来たんです。感謝するのはわたしの方です」

 謙遜やない、ほんまにそない思てるし。

「……じゃあ、これからも頑張ってくださいと思いを込めてのアップグレードだ」

「アップグレード!」

 ごりょうさんが指を動かすとインターフェイスが現れた。

 ピピピピ……ピ!  さくらバージョン1.00の下一桁が上がって1.05になった。

 なんか分かりやすい。

「三つ願いが叶うようになった」

「え、願いが叶うんですか!?」

「あ、大層なものはダメだぞ。世界征服したいとか魔王をやっつけて世界を助けたいとか、財布の中のお金を増やしてほしいとか、男を惚れさせたいとか、そいうのは無し!」

 両手を✕にするごりょうさん。

「は、はい、ありがとうございます」

「お願いをするときは、心に念ずればいい。念ずれば、このインタフェイスが現れる。無事に叶えば星が一つ消える」

「は、はい」

「では、これからも息災でな」

「はい、ありがとうございました!」

 

 ペコリとお辞儀をして顔をあげたら、牛車もごりょうさんも消えてた……というか、公園そのものが無くなって、うちは家の一本向こうの道路に立ってるだけやった。

 そもそも、うちの裏に公園なんてあれへんしね。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

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せやさかい・372『モデル! モデル!! モデル!!!』

2022-12-26 16:04:36 | ノベル

・373

『モデル! モデル!! モデル!!!』さくら    

 

 

 登校風景は普通に撮った。

 

 普通と言うてもスケールアップ。

 なんせ、高校生声優で前生徒会長の百武真鈴! ヤマセンブルグ王女の頼子先輩!

 後輩やら取り巻きやらファンやら、その場に居てた者が三十人ほど、最初は観てるだけやったんやけど「登校風景だから、いっぱいいた方がいいよ!」と真鈴先輩の呼びかけで、五分後には百人ぐらいに増えた。

「う~ん、百人じゃ途切れてしまうなあ」

 頼子さんが言うと真鈴先輩が手を叩く。

「昇降口まで行ったら、通用門から出て正門に戻って、OK出るまで通ってくれる? カメラ目線にだけはならないようにね!」

 ということで、リアルの登校風景みたいな迫力になってきた。

 みんな、撮影とあって、日ごろ以上に丁寧で、急きょ職員室から出てきた先生らも登校指導いう感じで正門の両脇に居並ぶ。

「カットカット!」

 真鈴先輩がNGを叫ぶ。

「ダメですよ、そんなに先生が並んじゃったら、めちゃくちゃ指導のキツイ学校に見えますから! 長瀬先生と校長先生だけにしてください。他の先生方は……」

 生徒と一緒に出勤する先生、授業の準備風に遠くを歩く先生、職員室の窓を開ける先生、開けた窓の中で一瞬だけ見える先生……と、完全にモブ配置。

 いつもやったら、十人に一人ぐらいは服装やらマリア様への礼の仕方で注意されるんやけど、注意されたんはうち一人。

「さくら! 芝居のやり過ぎ!」

 マリア様のありがたさに立ち眩む 涙ぐむ 投げキッス 最敬礼……全部NG

 

 昇降口では真鈴先輩の演出が滑った(^_^;)

 下足ロッカー開けたら……ゴキブリが出てきた! 手紙が入ってた! 人の上履きが入ってたと思たら隣のロッカー開けてた! ノブを曳いたら蓋ごと取れた! 

「ぜんぶ、実際にあったことなんですけど(^0^;)」

 みんな喜んだんやけど、長瀬先生の「NG!」には逆らえません。

 

「餌場に行くサルみたい!」

 学食へ行くシーンでは、またうち一人怒られる(;'∀')

 

 保健室のシーンでは、ソニーが軍隊式に負傷者を運んできて(負傷者の襟首掴んで匍匐前進で引っ張って来る)NG

 それではと、体育の授業風景……創作ダンスをやったら、真鈴先輩は決まり過ぎてNG

「じゃ、さくら組が真似してやってみなさい」

 うちらが真似してやったら、一発でOK。うちらの普通っぽいとこがええのやそうです。

 

 百メートル走をヒギンズ姉妹(ソフィーとソニー)でやったら日本新記録でNG

「では、世界新で走ります」

「いや、そういう話じゃないから(-_-;)」

 

 チャペルのシーンでは頼子さんの祈りを捧げるシーンが真に迫って、ついつい見とれる。

 やっぱり本物はちゃいます。

 

 休み時間のシーンでは、あえて脚だけ撮りました。

「全身の演技は難しいけど、脚だけだったら、わりと普通に撮れるし、いい表情出るかも」

 これも真鈴さん。

 で、やってみたら、なるほど足は口ほどにものを言いです。

「京アニが、足とか手とかだけの描写がいいですよね」

 留美ちゃんの指摘。

「アハハ、京アニのパクリ、やっぱバレたぁ?」

 と頭を掻く真鈴先輩。

 

 と、いろいろ撮った最後に校長先生の談話をチャペルで撮ります。

 

「ご覧になったように、我が校の生徒も先生方も、ほんとうに多士済々。みんな、自然な環境と云うか校風の中で教え教えられ、楽しくやっています。みなさんも、どうぞ、この聖真理愛学院の輪の中に加わってみてください。マリア様と共にお待ち申し上げております」

 めちゃくちゃ自然な微笑みになって、見ていたうちらも―― 校長先生に全部持っていかれてしもた ――と思いました。

 せやけどね、校長先生は、こうおっしゃるんです。

「いえいえ、みなさんが楽しそうにやっているところを見せてもらって、本当に嬉しくって、楽しくって、幸せな気分になって、自然に喋っただけです。わたしこそ、ほんとうにありがとう」

 そう言って、にっこり微笑まはって、期せずして、みんなで拍手してしまいました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

 

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