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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・402『王宮某重大事件・1・詩の災難』

2023-04-21 15:41:45 | ノベル

・402

『王宮某重大事件・1・詩の災難』詩(ことは)   

 

 

 ヤマセンブルグには『妖精飛び出し注意』の道路標識がある。

 大阪の幹線道路からちょっと生活道路に入り込んだところに『子どもの飛び出しに注意』の標識がよく出ている。

 そんな感じ。

 地元の人たちが子どもを妖精に例えて安全運転を喚起するために私的に設置したものでは無くて、ちゃんと警察が大まじめで建てた公的な標識。教習所の筆記試験の標識問題のところにちゃんと出ている。

 それに気づいたのは、去年。頼子さんやさくらといっしょエディンバラとヤマセンブルグを訪れたとき。宮殿に向かう車の中で発見して、ディズニーランドでミッキーマウスに出会った時みたいに興奮してしまった。

 女王陛下(頼子さんのお祖母ちゃん)が、その時のわたしの目の色をご覧になって「そんなに興味があるのなら、もっと面白い話があるわよ」と、滞在中、いろんな資料を見せて、お話してくださった。

 そして、それが縁で、わたしはヤマセンブルグに留学している。

 中学からずっと吹奏楽をやってきて、一時は、これで身を立てようと思っていたけど、自分の力に限界を感じて大和川の流れに自分の吹部人生は流してきた。

 それからは、義務的に大学に通うだけで、大げさに言えば生ける屍。さくらや留美ちゃんが生き生きと高校生活を送っているのが、正直羨ましかった。

 

「ヨーロッパは、国同士が親類みたいなもので神話や物語を共有している。ううん、宗教だって、みんな兄妹、親類の関係。それぞれの聖典にお互いのことが載っていて、ユダヤ教キリスト教、イスラム教にさえ被っていることが多くある。同じ文化を持っているからこそ、その、東洋から見ればわずかな違いに目くじらを立てていがみ合ってしまうところがあるのね。日本では、こういうのをなんとか言うわね……」

「近親憎悪ですか?」

「そうそう、キンシンゾウオ。待ってね……(電子辞書をお引きになる)Hatred for close relatives is bigger than ordinary person.……ちょっと長いわね。まあ、息子や孫のヨリコがわたしに楯突くようなものね」

「アハハ( ´艸`)、失礼しました陛下」

「いいのよ、笑って済ますのがキンシンゾウオの一番の解決法。ベスねえさんも、その笑いの感覚で乗り切ってこられたんだから。はてさて、息子の方にそれだけの度量があるのかしらねえ?」

「戴冠式には、陛下おん自ら?」

「ええ、親類の喜び事だし、ベスねえさんとの約束でもあるし、わたしが足を運ばなければならないでしょう。コトハも付いて来てね」

「はい、承知しています」

「バッキンガム宮殿にしろ、ウェストミンスター寺院にしろ、妖精や魔法に関わることが、それも部外秘のものがいっぱいあるから、またとない勉強になるわ」

「ありがとうございます」

「そうそう、その下調べのために見ておく資料が……そうそう、第二図書室の方だったわ。ぜひヨリコに見せてあげたいものが。こっちよ……」

 陛下は階段を八段上ったところで思いつかれ、九段目に足を掛けたまま振り返られ……そしてバランスを崩してしまわれた。

「あらあああああ!」

「陛下っ!!」

 ドッシン ガラガラガッシャーーーーン!!

 六段目にいたわたしは、全身で陛下をお支え申し上げたけれど、抗しきれず、そのまま二階の廊下まで転げ落ちてしまった。

 わたしが下敷きになったので、陛下は筋を違えるだけで済んだ。

「陛下、大丈夫ですか!?」

 陛下をお起こししてさしあげなければ……え……足が動かない。

 でも、陛下を……陛下を……

 ウッ!!

 もう一度体を起こそうとすると、背中に激痛が走って、そのまま気を失ってしまった。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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せやさかい・401『早川のお婆ちゃん 一年の宿泊学習』

2023-04-18 09:40:38 | ノベル

・401

『早川のお婆ちゃん 一年の宿泊学習』さくら   

 

 

 ヘルメットを被って一週間。

 

 初日は自転車を降りて戸惑った。

「どないしょ?」

 自転車を降りると、とたんにヘルメットは邪魔。

 ヘルメット被って電車に乗るわけにもいかへん。

「持って行こうか?」

 持っていけんこともないけど、満員電車では気が引けるし、きっと迷惑。校門入るとこで生指の先生に呼び止められそうやし。

 

 さくらちゃ~ん! 留美ちゃ~ん!

 

 お店の方から声がかかったんでビックリ!

 瑞穂さんが亡くなってからずっと閉めてたはずのハンゼイが開いてる。

 で、開けたドアから、檀家の早川のお婆ちゃんがオイデオイデしてる。

「あ、おはようございます!」

「お婆ちゃん、そのかっこう!?」

 早川のお婆ちゃんは、瑞穂さんが着てたんと同じコスで、あっぱれ喫茶店の超ベテランフロア係り!

「若いころ、ミナミの喫茶店で働いてたさかいなあ」

 あとは言わんと、ニッコリ笑って手を出す。反射的にヘルメットを渡す。

「入り口入ったとこに掛けとくさかい」

「ありがとう!」「ありがとうございます!」

 檀家さんとはありがたいもんです。

 それにしても、檀家のお婆ちゃんらは元気です(^_^;)。

「早川のお婆ちゃん、10歳くらい若く見えたね」

「アッカンベ48やし!」

「あはは、そうだね」

「ま、気ぃつけていっといでや」

「「いってきまーす」」

 早川のお婆ちゃんはAKBは知らんかったけど『会いたかった』とかは知ってた。BGM的に耳に入ってたんやろね。

 そんで、ハンゼイのマスターの苦境を知って、昔取った杵柄で話つけてんわ。

 

 それから一週間。

 新学年も半月たって、すっかり日常モードで校門の見える角を曲がった。

 

「「え?」」

 二人そろって驚いた。

 校門からバスが次々に出ていく。

「一年生の子たちだよ」

「遠足?」

「いや、宿泊学習だ」

 気が付くと、横をソニーが歩いてる。

「おはよう、ソニー」

「ああ、おはよう。さくらたちは無かったんだろ宿泊学習?」

「行きたかったあ!」

「あはは、コ▢ナだったからね」

「宿泊学習て、どこに行きやるんやろ?」

「神鍋という話だぞ」

「え、神鍋言うたらスキー場やんか!」

「いまは四月だぞ」

「あ、せやった(^_^;)」

「留美ちゃん、クラスには慣れたか?」

「え、あ……うん」

「園田先生は気は効かないが面倒見のいい先生だ。日ごろからコミニケーションを忘れないことだな」

 あいかわらずの軍人口調やけど、人のことよう見てる。

「じゃあ、今日は日直だから先に行く」

「「うん」」

 スタスタと先に行くソニーを見てると、なにかせんとあかんような気になってきた。

「よし、散策部でどっかいこか!」

「そうだね、四月になって、まだどこにも行ってないもんね」

 

 校門を潜ると、ちょうど最後のクラスのバスが出ていくとこ。

 窓から見える一年生たちは楽しそうな子やら不安そうな子、早くも寝てる子。

 元気そうな中にも緊張感があって、一年前の自分らの姿と重なった。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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せやさかい・400『灌仏会 二つのヘルメット』

2023-04-12 10:47:58 | ノベル

・400

『灌仏会 二つのヘルメット』さくら   

 

 

 三年ぶりの灌仏会、お花まつりは盛況やった。

 

 うちの如来寺は、都会のお寺としては広くて檀家さんの数も多い方。

 せやけど、檀家さんのほとんどはお年寄り。

 お年寄りのほとんどはお婆ちゃん。

 大方が昭和も戦前のお生まれで、数人は大正生まれいう人も居てる。いえ、居てはります。

「さくらちゃん、セブンチーンやなあ(^▽^)!」

 歳に似合わん真っ白な歯ぁを剥きだして、田中のお祖母ちゃんが喜んでくれる。

「早いなあ、さくらちゃん来て、もう十年かあ」

 早川のお婆ちゃんがスカタンを言う。

「やあ、まだやっと五年目ですよぉ」

「せやがな、歌ちゃんと戻って来て、すぐ中学やったもんなあ。ポニーテールをキリっと結い上げて、なんかタカミナみたいで、かいらしかった(^〇^)」

「タカミナてなに?」

「AKBの総監督やってた子ぉやがな」

「ああ、なんちゃら48の!」

「AKB48やがな」

「AKB、あっかんべーか?」

「アキバぁ、秋葉原のこっちゃ。東京にある日本橋みたいなとこに専用のシアター持ってがんばってるアイドルグループやがな。会いに行けるアイドルちゅうてやな、乃木坂とか日向坂やらHKTとか、大阪にもNMB48とかあんねんで」

「よねちゃん、物知りぃ」

「お婆ちゃん、すごいよ」

 留美ちゃんと感心する。

「アハハ、死んだ亭主が好きでなあ、タカミナの卒業までは生きてる言うて、贔屓にしとった」

「え、サダオちゃんが!?」

「はいな、タカミナの前に自分が人生卒業してしまいよって、アハハハ」

「せやったんかいな」

 アハハハハハハハハハハハハハハ((´∀`))

 田中のお婆ちゃんの話に、本堂の外陣はホコホコと温もって、みんなでお釈迦さんのお像に甘茶をかける。

 留美ちゃんは、自分から喋ることはせえへんけど、ニコニコとよう話を聞いたげてる。

「いやあ、ほんとうにええ空気ですねえ、如来寺は!」

 ちょっと感激して声あげたのは、ハンゼイのマスター。

 マスターは、うちとこに預けてた瑞穂さんのお骨をとりにきて、そのままお花まつりに参加してる。

 瑞穂さんの骨箱はテイ兄ちゃんの発案でご本尊の前に置いてある。

 骨箱には『釋瑞穂』と法名を記した紙が貼ってある。

 釋はお釈迦さんのお弟子という意味で、浄土真宗の法名共通の文字。

 瑞穂は『ずいすい』と音読みにする。言うまでもなく俗名の瑞穂を音読みにしたもの。

 テイ兄ちゃんとマスターの友情が偲ばれて、ええ法名やと思う。

 従兄妹としては、ちょっとスケベエでオタクで軽すぎる感じやけど、マスターにはええ友人。お婆ちゃんらには、ええゴエンサンや。本人には言わへんけど。言うたら、ぜったい図に乗るしね(^△^;)。

 

「実は、これをね……」

 

 そう言いながら、リュックからプチプチの袋に入ったのを二つ取り出した。

「なんですか。マスター?」

「ヘルメットやねんけどなあ……」

 プチプチ袋から出したのは、二個のヘルメット。

 一個はピンクでエメラルドグリーンの縁がついてるオシャレなやつ。

 もう一個は、ウクライナで兵隊さんが被ってそうなオリーブグリーン。

「男用と女用かいな?」

 お婆ちゃんらも覗き込む。

「いえ、両方とも瑞穂用のんです。言うても、一回も使わずじまいなんですけど」

「せやけど、男女のオソロに見えますけど」

「四月から自転車のヘルメットが努力義務になりましたででしょ」

 

 ああ………

 

 本堂に居てるみんなが納得の声を上げる。

「けど、なんで二つなんですか?」

「それは…………」

 そこまで言うと、マスターは俯いたまま嗚咽し始めた。

 

「それはやなあ」

 

 いつの間にかテイ兄ちゃんがやってきて、マスターの横に腰を下ろした。

「病気がようなったら、いっしょに自転車でごりょうさんの周り走ろいうて昴(あきら)が用意しとったもんや」

 あ………

「ワイルドなんとオシャレなんと二つ用意したんやけど、決める前に逝ってしもたさかい、今日持ってきてくれたんや」

「瑞穂は、さくらちゃんや留美ちゃんみたいに仲よう自転車乗るのん楽しみにしとったさかい、これ、二人に使ってもろたら嬉しいんです」

「せやったんですか……」

「すんません、めでたいお花まつりに湿っぽい話で」

「ううん、これも仏さんの御縁やし」

「うん、タカミナのポニーテールや」

「「「「ナマンダブナマンダブ…………」」」」

 お婆ちゃんらのナマンダブで締めくくり。

 

 それで、日曜の9日を挟んで月曜の10日から、瑞穂さんのヘルメットを被って通学してます。

 

 うちがオリーブグリーン、留美ちゃんがピンク。

 で、並んで走って発見した。

 留美ちゃん、意外にピンクが似合う。

 けど言わへん。言うたら、この恥ずかしがり屋は二度と被らんようになるさかいね。

 

 それから、この『せやさかい』も数えて400回。

 

 ま、せやさかい、これからもよろしくお願いいたします(ᵕᴗᵕ)。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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せやさかい・399『灌仏会の前日は始業式』

2023-04-08 14:37:01 | ノベル

・399

『灌仏会の前日は始業式』さくら   

 

 

 

 昨日は一日中雨やった。

 

 散り始めてた桜は、この雨で一気に花を落として山門の桜は完全に終了。

 まあ、雨のお蔭で境内の掃除はやらんで済んだんやけどね。

 

 その雨の中、昨日の七日は始業式やった。

 

 一年の始まりが雨というのは、ちょっと凹む。

 制服はクリーニングしたてやのに、堺東まで自転車で行ったらスカートびちゃびちゃに濡れるし。

「よし、わしが連れてったろ」

 お祖父ちゃんが車で送ってくれる。帰りはテイ兄ちゃんが迎えに来てくれることになる。

「お祖父ちゃん、ありがとう……ウワ!」

 ブゥィーーーーン ベシャ!

 車降りたとたんに、原チャがすり抜けて盛大に水しぶき。ドアがガードしてくれて制服は無事やけど、足と頭にけっこうな水しぶき。

 まあ、ええねんけど……これは学校に着いてからのさらなる不幸の序曲に過ぎひんかった(-_-;)。

 

 ええ( ゚Д゚)!?

 

 昇降口に貼ってあるクラス表見て目ぇ剥いた!

 お仲間が、ほぼ完全にバラバラ。

 留美ちゃん・1組  メグリン・2組  さくら&ソニー・3組

「まあ、こういうこともあるよ」

 留美ちゃんは冷静に受け止めてる。

「せやかてぇ」

「今までが幸運過ぎたのよ。中学一年からずっと同じクラスなんて、ふつうあり得ないよ。もう高校二年なんだし……」

 そこまで言うた留美ちゃんが息を呑んだ。

「え、月島先生いない……」

「あ!?」

 8クラスある新二年生の、どのクラスを見てもペコちゃん(月島先生)の名前が無い!

 中二の時からの担任で、うちらが真理愛学院に進学すると同時にペコちゃんも真理愛学院に転職してた。

 なんと、中二からずっと同じなんで、これは高校出るまでずっとうちらの担任やと思てた!

 

 いつまでもあると思うな親と担任……格言のモジリがシュールに浮かんでくる。

 

「まさか、学校辞めちゃったんじゃ( ゚Д゚)!」

「え、どないしょ!?」

 なんや、地面が無くなってしもたみたいな不安にかられて、思わずラム&レムみたいに手を取り合う。

 あんまり気のきかん先生やったけど、うちらには頼子さんと並んで、うちらのオネエチャンいう感じの存在やった。

 担任イコールペコちゃん! ペコちゃんイコール担任! そんな存在やった!

 

「ちょっとぉ……手伝ってくれるぅ(;゚Д゚)」

 

 後ろで声。

「「え?」」

 振り返ると、そのペコちゃんがケーブルとかはみ出た段ボールの箱抱えてフーフー言うてるやおまへんか!

「ちょ、せんせ!?」

「担任降りても仕事はあるのよ。まだ時間あるでしょ、体育館までだから運ぶの手伝ってぇ」

「「は、はい!」」

「今年度は視聴覚係りでさぁ、体育館は講堂と違って、放送設備はその都度だからねえ……ヨイショ」

「ウンコラショ、なんで担任辞めたん?」

「中学から、もう三年連続。それに、うちの神社のこともね……」

 荷物が重いせいか、ちょっと仕事にも生活にも疲れた「OLのお局様」みたい。

「だれがお局様よ」

「え、なんで!?」

「さくら、口に出てた(^_^;)」

「まあ、バラバラになっても同じフロアだし、担任はみんないい先生だし、がんばんなさい」

「3組のコトリアソビいうのは、どんな先生なんですか?」

「コトリアソビ?」

 プ(;゚;ж;゚; )

 なんでか、留美ちゃんが吹く。

「小鳥遊(タカナシ)って読むんだよ」

「ええ、ほんまぁ!?」

「再任用だけど、いい先生よ。お歳召してるから、ご迷惑かけるんじゃないわよ」

「そら、もちろん。伊達に十七歳……あ……(n*´ω`*n)」

「ん?」

「そうだ、さくらは明日が誕生日なんですよ。花の17歳」

「そうか……早いものねえ(-_-;)……」

「なんか、死んだ子の歳を数えるみたいにシミジミせんとってくれます」

「ああ、ごめん。あ、ここでいいよ。じゃ、今年もがんばってね」

「「はい」」

「あ、それから、散策部の顧問は辞めてないからね」

「それも辞めてたら殺します!」

「おお、こわ~い(^0^;)」

 

 それから、教室に行って、いつもの学年始め。

 

「小鳥遊先生は、さくらの祖父君と同じ歳であられるようだぞ」

 席が隣になったソニーが、こっそりと教えてくれる。

「え、こ、古希!!?」

「酒井くん」

「すみません」

「謹んで指導第一号の称号をあげよう」

 先生は真面目な顔のまま閻魔帳に書いた。みんながクスクス笑う。

 

 今年も人に笑われるとこから始まってしもた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任)
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せやさかい・398『もうじき灌仏会』

2023-04-03 11:07:16 | ノベル

・398

『もうじき灌仏会』さくら   

 

 

 山門の桜も盛りを過ぎた。

 

 遠目には分からへんねんけど、近くで見ると、桜の花群れの下に若葉が芽吹いてるのが分かる。

 もう三日もしたら、若葉の方が花群れを圧倒する。

 なによりも、地べたに落ちる花びらの量が多くなってきた。

「全部掃いてしもたらあかんねんで」

 先週、メグリンやらソニーが来てお花見してる頃は、お祖父ちゃんは、こない言うてた。

 花びらにしろ落ち葉にしろ、全部掃いてしもたら風情が無いらしい。

 それが、四月三日の今朝は、掃いてる尻から花びらが降ってくる。

「まあ、こんなもんやろ。キリないし」

「そうかな、もういいかな?」

「ええよ、もう行っといで(^▽^)」

「あ、うん。じゃあ、行ってくるね」

「箒は片づけとくから、早よぅ」

「うん」

 留美ちゃんは、箒をうちに渡すと、つっかけをカラカラいわしながら本堂の階段を上がっていく。

 部屋に戻るのは庫裏から行くよりも本堂の中を通った方が早い。

 

 留美ちゃんはお父さんに会いに行く。

 

 留美ちゃんは真面目な子ぉやし、奨学金をとることにしたんや。

 毎月の生活費やら学費やらは、お父さんが口座に振り込んでくれて、その管理はお祖父ちゃんがやってる。

 最初はおばちゃんがやってたんやけど「ボケ防止にやらしてえや」というてお祖父ちゃんがやり出した。

 お祖父ちゃんは、自分の方が留美ちゃん、話しやすいいうことを知ってるさかい。

 おばちゃんは、お寺の坊守(ぼうもり)やし、他にもボランティアの仕事やらも引き受けてるさかい大変。

 まあ、並の大変ではへこたれへん人やねんけど、よくできる女いうのは年下の同性には圧が高い。

 住職の仕事も完ぺきにおっちゃんに譲って隠居の身分やしね。伊達に何十年も坊主をやってへん。

「親鸞さんも蓮如さんも人の面倒見のええ人やったしなあ」

 畏れ多くも浄土真宗の開祖と中興の祖を自分になぞらえよる(^_^;)。

 

 もう一つ、口に出して言わへんけど、お父さんに会いたいんや。

 

 うちも留美ちゃんも、親は失踪同然におらんようになった。

 留美ちゃんのお母さんは看護師やってはって、どうやら流行り病で亡くならはった。

 お父さんが全て後始末して、お父さんも留美ちゃんのことをお祖父ちゃんらに頼んで消えてしもた。

 うちの親も留美ちゃんのお父さんも、どうやら同じ仕事をしてるような気がする。

 公安調査庁とか内閣情報局とか、ひょっとしたら、ネットなんかで検索しても出てけえへん秘密組織とか。

 リコリスリコイル的な? みたいな? ぽい?

 あかん、お母さんがリコリコの制服着てるとこ想像してしもた(;'∀')。 

 よう知らんけど。

 

 じゃ、行ってきます!

 

 うちにまで、きちんと頭を下げていく留美ちゃん。

 グッドラック……と、後姿の相棒にエールを送る。

 

 来週は、三年ぶりの灌仏会、つまりお花まつり。

 お花見に来てくれたお婆ちゃんらも楽しみにしてくれてる。

 境内のお花の手入れも灌仏会に向けて佳境に入ってくるし。

 それに、うちの十七回目の誕生日。

 12歳でここに来て、七日目で誕生日やった。あ花まつりとも重なって、檀家のお婆ちゃんらも喜んでくれたのを懐かしく思い出す(005『御釈迦さんといっしょ』)。

 

 思い立って自転車で大和川を目指す。

 

 13号線を北に進む。

 13号線、ほんまは30号線。なんでか地元では13号線て呼ぶ。

 四車線の広い道やけど府道。

 四年前、堺東からタクシーに乗ってお母さんとやってきた道。

 毎日通学で自転車こいでる道やねんけど、休みの日に一人で走ると、なんや感じがちがう。

 時間を巻き戻してるような、リアルとは違う並行世界の13号線を走ってるみたいな。

 堺東まで来ると、信号のとこにいつもの婦警さん。

 自転車のおばちゃんを呼び止めてる。以前も危険運転の自転車を呼び止めて怒ってた。

 私服の彼女も知ってるさかい、職業的なものやろうとは思うねんけど可愛くない。

「ちょっとすみません」

 見とれてたら、男のお巡りさんに呼び止められる。

 え、なんかやったっけ!?

「四月一日から、自転車のヘルメット着用努力義務をお願いしてます」

 にこやかにポケティッシュ入りの啓発ビラをくれる。

「あ、はい、ごくろうさまです(^▽^)」

 ありがたくいただいてチラ見すると、婦警さんも笑顔で配ってて安心した。

 あの婦警さんは、やっぱり笑顔の方が似合う。

 

 さらに北上して大和川。

 

 川が広くて空が大きいいうのは、それだけで嬉しなる。

 なんか叫びたくなるけど、やめとく。

 もうじき17歳やし。

 大和川は永遠に流れる。

 永遠の17歳。

 なんや、アキバのメイドさん的。

 12歳から、あっという間やった。

 今度、ここに来るときは幾つになってるんやろか……西の空に一つだけ雲が浮いてる。

 よし、あの雲がこの上を通っていくのを見届けてから帰ろか。

 ハクション!

 まぶしいからクシャミが出てしもた。

 五分ほど見てると、もう一つの雲がやってきてひっついてしまう。

 孤高の雲や思たのに、ちょっと残念やった。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

  

 

 

 

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せやさかい・397『うちの桜』

2023-03-29 11:13:29 | ノベル

・397

『うちの桜』さくら   

 

 

 そろそろ桜も満開の春休み。

 

「来週あたりは大変になるだろうねえ……」

 境内の掃除が一段落して、山門横の桜を見上げる留美ちゃん。

「ああ、せやねえ……」

 これだけで意味が通じるうちらは、ほんまの姉妹みたい。姉妹みたいやけど、ほんまは中学一年から、ずっと同じクラスやいうお友だち。

 お家の事情で一人暮らしせんとあかんようになって、それなら「いっしょに暮らそう!」ということになって、早や三年、足掛け四年。

 うちも留美ちゃんも体動かすのん好きやから、特に決められたわけやないけど、本堂やら境内やらは二人の受け持ち。

 都会のお寺にしては広い境内で、曽ばあちゃんの頃は幼稚園やろかと本気で思たことがあるらしい。

 境内の塀の際には花壇があって、檀家の婦人部の人らが手入れしてはったんやけど、コロナの影響で足が遠のいて、それも、おばちゃん(伯父さんの奥さん)の監督のもと、うちらがやってる。

「ふふ、あのころ思い出すねえ」

「そうだね、感動した桜があるから観に行こうって、さくら誘って来てみたら、さくらの家だったんだもんね。ビックリした」

 入学早々、留美ちゃんは遅刻して怒られて、その理由が「あ、あ、えと……桜が満開になってて見惚れてしまいました」やった。

 それで、写真撮影の日の放課後、二人で観に行ったら、なんとうちのお寺の、この桜(005:『御釈迦さんといっしょ』006『クラス写真』)やった。

「中から見るのもいいんだけど、外から塀越しに見るのもいいんだよ」

「どれどれ……」

 ホウキ持ったまま門の外へ。

「こうやってね……」

 留美ちゃんは、美術の写生する時みたいに手でフレームこさえて覗く。

「あ、ほんまや」

 塀と山門の端っこだけをフレームに入れて覗いてみると、時代劇のタイトルに使えそうなくらいにサマになる、『暴れん坊将軍!』とか『太閤記!』とかね。

「将来、さくらをモデルに連続ドラマとかやったら、テーマの背景は、絶対これだね!」

「アハハ、なに言うてんねんな(^_^;)」

「いや、さくらの人生って、ぜったい面白いと思うよ。わたしに文才があったら、ぜったい書くよ!」

「アハハ、そういや。うちら元々は文芸部やってんねえ」

 頼子さんが王女さまになってしもて、文芸も散策部も開店休業……ちょっと寂しい。

「せや、花見しよう!」

 

 パン!

 二人で手を叩いて、急きょ、散策部のお花見になった!

 

「みごとなもんだ……」

 山門に入って来るなり、ソニーは桜に見入ってしまった。

「手入れがいいんですねえ……お父さんの駐屯地に、これより大きいのがあったけど、なんか色が濃いっていうか8Kの有機ELDみたいに鮮やかですね……香りも濃厚……」

 メグリンは背ぇが高いので、鼻の先に来た桜の香りに感動。

「うん、この美しさには霊的なものを感じる……」

 ふつうの子が言うたら危ない中二病やけど、ソニーはソフィーと姉妹で魔法使いの家系やからスゴミがある(^_^;)。

「よかった、二人にも感動してもらえて(^▽^)」

 留美ちゃんは、こういうところがある。

 自分の感動は独りよがりで、人に勧めても変に思われたり気を使わせるんやないやろかと気をもむ。

 うちと暮らすようになって、かなりマシになったんやけど、二人の車が見えた時には、ちょっとだけ緊張してた。

 運転手のジョン・スミスは「ほう」と小さく言うただけで、そのまま車を走らせていった。

「部長(ジョン・スミス)も見たがってたんだけど、領事館の方が忙しくてな」

「ちゃんと車の中から撮影してましたね」

「ウ、古閑は部長の隠しカメラに気付いていたのか?」

「え、アハハハ」

「さすが古閑大佐の娘だ……いや、それにしても……」

「きれいですねえ……」

「みんなで観るとひとしおねえ……」

 とりあえずは、四人、その場で桜を見上げて、ひとしきり感動。

 

「ねえ、あなたたち」

 

 本堂の縁側からおばちゃんの声。

「檀家のお婆ちゃんたちもご一緒したいって、いいかなあ?」

「はい!」「うん!」「かまいません!」「喜んで!」

 おばちゃんは話の途中やったらしく、そのまま手にしたスマホでお婆ちゃんたちに連絡。

 おばあちゃんたちは、重箱やらタッパやらにいっぱいご馳走を詰めて持ってきてくれる。

 

 もうじき月も改まって新年度。

 心配なこともあるけど、とりあえず幸せな気分になれるのは、うちと同じ名前の花の季節やからかもしれません。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・396『うちのWBC』

2023-03-24 14:12:04 | ノベル

・396

『うちのWBC』さくら   

 

 

 WBC…………字面で見ると、トイレのドアを二本の指で開けてるとこに見える。

 言葉で聞いても、ダブルビーシ、ダブルシー、なんかトイレっぽい。

 思わへん?

 思わないよ( ´艸`)。

 

 コタツに向かい合って座ってお煎餅齧りながらテレビを見てる。

 テレビ言うても放送局の実況と違って、ユーチューブ。

 留美ちゃんと二人、ライブでは見られへんかったWBC決勝戦、日本VSアメリカ戦のダイジェストを観てる。

 留美ちゃんは感動しまくりやねんけど、うちはあかん。

 どうも、野球というのは性に合わん!

 どうも、うちは日本人としてはかなり珍しい部類に入るんやと思う。

 

 たとえばさ、古典の授業で万葉集とかあるでしょ。

 うちは、言葉の意味が分からんでも、なんとなく耳に心地い言葉を聞いてるだけで面白い。

―― あかねさす紫野(むらさきの)行き標野(しめの)行き野守(のもり)は見ずや君が袖振る ――

 最初聞いた時はチンプンカンプンやねんけど、なんか、リズムのええ和歌やなあと思た。

 ポップスの歌い出しとかサビのとことかに使ったら印象的かも。

『これはね、額田王(ぬかたのおおきみ)っちゅう天智天皇の奥さんが紫の花が咲き乱れる御料地の野原を歩いていると、野原の向こうを歩いている大海人皇子という旦那の弟が親し気に手を振って来る。そんなことしたら、御料地の管理人が――あの二人はおかしい(^_^;)――と思うでしょ! っていう、人妻額田王の気持ちを明るくおかしく歌ったものなんです』

 先生の説明を聞いて、うちは、めっちゃ面白かった(#^▽^#)。

 際どい内容やねんけど、言葉の響きが明るくてテンポも良くて、面白かった。留美ちゃんも顔を赤くしながらもウフフて笑ってたしね。

 せやけど、クラスの半分以上は―― あ……そう…… ――いう感じで板書をノートに写すだけ。

 

 万葉集と野球はいっしょになれへん!

 

 ほな、これは?

 中学の時、社会の授業でペコちゃんが蹴鞠のビデオを見せてくれた。

 蹴鞠っちゅうのは、貴族のオッサンらが、神主みたいな装束で輪になって鞠を蹴り合うという遊び。

 うちは――ああ、これやったらできるかも――と思って、面白かった。

 なんせ、ボールを落とさんように蹴るだけで、サッカーみたいにややこしいルールはない。

 けど、みんなの食いつきは微妙で、ペコちゃんは5分ある動画を2分で止めてしもた。

「う~~ん、かなり珍しい部類に入るだろうねえ(^_^;)」

 留美ちゃんは、ええ子やから、あからさまには言わへんけど、へんなやつて思てるやろねえ。

「大谷翔平って、すごいけど、なんか爽やかだよねえ……」

 インタビューを受けてる大谷翔平に溜息つく留美ちゃん。

「大谷て門主さんと同じ苗字やけど関係あんねんやろか……」

「……え、そうなの?」

「いや、こんなニイチャンが住職やったら檀家増えるやろと思て」

「……特に関係はないみたい」

 真面目な留美ちゃんはスマホでググってくれた。なんか申し訳ない。

 

 ガラ

 

 襖が開いて、うちのクソ坊主が顔を覗かせる。

「明日、親鸞聖人八百五十回忌のお勤めやるさかい、そこのトイレ掃除しといてや」

「ええ!」

「あ、はい」

 うちの不満を押しのけるようにして留美ちゃんがええ返事をする。クソ坊主は留美ちゃんには笑顔を、うちにはアカンベェをして行ってしまう。

 うちは、お寺なんで三つもトイレがある。

 家族用の家のトイレ  境内のトイレ  本堂裏のトイレ

 クソ坊主が言うてきたのは、本堂裏のトイレ。

 報恩講とかの行事やら、本堂でやるお葬式やら行事の時のトイレ。まあ、普段はうちらも使うさかいええねんけど。

 

「ねえ、本堂裏のトイレ、WBCって呼び方にしよか!?」

「え?」

 いっしゅん息を呑んで、アハハと笑う留美ちゃん。

 うちもアハハと笑って、WBCの掃除に行った。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
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せやさかい・395『湘南からの写真』

2023-03-19 16:10:16 | ノベル

・395

『湘南からの写真』さくら   

 

 

 朝に本堂であげるお線香の順番。

 ご本尊の阿弥陀さま ⇒ 聖徳太子ご尊像 ⇒ 歴代住職絵像

 いつもやったら、この三つなんですけど、昨日から一つ増えた。

 

 釋恋女(しゃくれんにょ)さんのお骨。

 

 釋が付くのは浄土真宗の法名です。他の宗派で言うところの戒名。

 法名は、お葬式で導師を務めた坊さんが付けます。

 釋恋女と付けたのはテイ兄ちゃん。

「恋の字使うのは、ちょっと艶めきすぎてへんかあ」

 おっちゃんは反対したんやけど、テイ兄ちゃんは押し切った。

「昴が『恋』の一字は入れてくれて言うしなあ、俺も『恋』は外されへんと思うんや」

 そない言うて仮位牌にけっこう上手な字で書いたんが六日前。

 そうなんです、この釋恋女さんは、俗名今井瑞穂。

 つまり、うちと留美ちゃんが毎朝自転車を預けてるスナック『はんぜい』の奥さん。

 奥さん言うても、うちらとあんまり変わらへん18歳。

 

 正月にお礼を兼ねて挨拶に行った(377『テイ兄ちゃんの偵察に付き合う』)。

 マスターの昴さんは、テイ兄ちゃんの大学の同期で歳は同じ30歳。

 結婚の知らせを受けた時、彼女いない歴=年齢の従兄の頬っぺたは引きつっとった!

 しかし、阿弥陀さんの啓示を受けたのか、ちょっと冷静になって友だちに聞きまくって事情を知って、その上に――自分の目で確かめる!――の信念で、うちを連れて偵察に及んだという次第。

 とにかくデレデレの新婚夫婦で、あれだけムカついとったテイ兄ちゃんが、わりと穏やかな顔でデレデレ新婚夫婦に付き合ってたんは不思議やった。

 学校が始まって、留美ちゃんとチラ見したお店の中では、十八とは思われんほどにテキパキ働いてた瑞穂さん。

 二人は、新婚生活が一年も続かへんことを承知で結婚したんや。

 昴さん、瑞穂さんのどっちが言い出したのかは分からへんけど、ほんまやったら何十年もあるはずやった二人の時間を四カ月で駆け抜けたんや。

 

「さくら、昴が写真送ってきよった」

 

 テイ兄ちゃんがタブレット持ってキッチンにやってきた。

 留美ちゃんと二人晩ご飯の下ごしらえしてた手を休めてリビングに行く。

「あ、やっぱり湘南の浜辺だ(^▽^)」

「ほんまや、よかったねえ、ええ天気で」

「ちゃんと瑞穂ちゃん抱っこしてからに……」

 湘南の浜辺、江ノ島をバックに砂浜に座ってる昴さんの膝の上に袱紗の袋に収まった小さな骨壺。

「二人で湘南の海辺を歩くのが夢や言うとったさかいなあ」

「このために分骨したんですか?」

「それもあるけどな、瑞穂ちゃんの家は山梨の甲府や。ご両親やら向こうの親類の事考えたら分骨するのが自然やろ」

「動画やったらよかったのに……」

「そうだね、この昴さんと瑞穂さん、波の音が似合うと思う」

「せやな……せやけど、これは昴の照れや、動画やったら、ちょっともたへんと思う」

「そうかもしれへんねえ」

「あいつも、三十のオッサンやねんで」

 他に、江ノ島のでの写真、江ノ電の踏切、鎌倉高校前のプラットホーム……なんや、アニメの聖地巡りみたいで微笑ましい。

 最後の一枚は小田急江ノ島の駅前。

―― これから瑞穂の実家に向かう ――

 短いコメントが入っていて、マスターの気持ちが伝わってきた。

 

 夕刊をとりに山門に向かう。

 境内から見上げる空は三日ぶりの晴天、せやけど湘南の空の方がもうちょっと青いような気がした。

 山門横のポストに夕刊は入ってへん。

 そうか、今日は日曜日やった(^_^;)。

 

 ニャ~~

 

 足元でダミアの一声「アホやなあ」いう感じに聞こえた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
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せやさかい・394『せや、花粉症やってんわ!』

2023-03-13 11:05:21 | ノベル

・394

『せや、花粉症やってんわ!』さくら   

 

 

 歳を取ると鈍くなる……て、言うたらお祖父ちゃんに怒られそうやけど(^_^;)

 

 頼子さんがヤマセンブルグに行ってしもたことも、江戸川アニメに行って人生初の声優(花園あやめさんの相手役で、3カットだけやけどメチャビビった)やったのも、遠い思い出みたいな感じになって、この四五日は、すごく穏やかに一日が過ぎていく。

 子どもの頃は、大好きな人形の腕が取れて、ムリクリ直そ思てがんばったら、今度は首が取れて―― もう人類なんか滅びてしまえ! ――なんて何カ月も落ち込んだり。

 お父さんが珍しく「三人でご飯食べにいこ!」言うて連れてってくれたファミレス、そのお子様ランチに立ってた日の丸の旗を世界最高のラッキーアイテムや思て、ダイソーで買うてもろた宝箱の中に入れて、時どき開いてはニマニマしてた。

 あのころみたいに、嬉しいにつけ悲しいにつけ、心に刻まれたことにいつまでも縛られることは無くなった。

 

 早手回しに夏が来たんちゃうん!? と錯覚するくらいに温すぎる、この二三日。

 夕べからの雨は家を出るころには上がって、雲間に見え始めた青空を追いかけるようにペダルを踏む。

 マスクも鼻の下にズラして盛大に朝の空気を吸う。

 ヘーーーックション!!

 盛大に出たクシャミに―― せや、花粉症やってんわ! ――振り返ると、留美ちゃんも可愛く―― ヘクチ ――を連発してる。

 いつものハンゼイの駐車場に自転車を停め、ゴシゴシ掻きたくなるのを我慢してポケットから目薬を出す。

 二秒で両目にさして、自転車の鍵をかける。

「え!?」

 留美ちゃんが目薬を持ったまま固まってる。

「どないしたん?」

「ちょっと、あれ……」

 留美ちゃんの目線の先、ハンゼイのドアに『忌中』の張り紙。

 坊主の孫やから直ぐに分かる『忌中』は、その家の人が亡くなったばっかりや言うことを現してる。

 葬儀屋さんが入って、お通夜、ご葬儀の段取りをたてたり、あちこち連絡したり。喪主さんは、悲しいよりもめちゃ忙しい。

 それに、この頃は防犯上の事もあって『忌中』の張り紙をしはらへんとこも多い。昔と違って、遺族はみんな葬儀会館かお寺。『忌中』はうちは留守ですて言うてるようなもん。中には、葬儀場を突き止めて、お香典を盗もうかというような者もいてるさかいねえ。

 ハンゼイはお店で、家は裏側のお屋敷。

 通学途中やから、周って確認するのも憚られて、そのまま堺東の駅へ。

 誰が亡くなったんやろ?

 信号渡るとこまでは、うちも留美ちゃんも思てた。

 

 ピリピリピリ!

 

 婦警さんがホイッスル吹いて原チャのオッサンを停めた。

―― 10キロオーバーです ――

―― え、うそ? ――

―― 40出てました ――

―― ここて、40制限やろ? ――

―― 原付の制限速度は30キロ ――

―― ええ、うっそー!? ――

 オッサンのとぼけ方が面白いので最後まで観てたかったけど、エスカレーターで改札へ。

 

 で、電車に乗ったら忘れてしもて、留美ちゃんは単語帳、うちはスマホを開く。

 

 昼になるころには完ぺきに晴れて、暑くもなく寒くも無い春の真っ盛り。

 盛りを過ぎた梅を惜しみ、蕾をつけ始めた桜を愛でながら昼ご飯食べたら、関心事は学年末テストとWBCの行方。

 

 家に帰ると、テイ兄ちゃんがお通夜の装束を検めてる。まあ、月に一二回はあるこっちゃから冷蔵庫に冷凍の回転焼きをとりに行く。

 あ!

 小さく声を上げて留美ちゃんが立ち止まる。

「ひょっとして……」

「うん、ハンゼイや」

「誰が亡くなったんですか?」

「瑞穂さん」

 

 言われてピンとくるのに数秒かかった。

 

 瑞穂さんいうのは、うちらと、そう歳も変わらへんマスターのお嫁さん。

 お正月の挨拶に行った時のイチャイチャぶりやら、お店で忙しそうに、でも楽しそうに働いてはった姿が浮かんできた(377『テイ兄ちゃんの偵察に付き合う』 378『今日から三学期!』)

 めちゃショック。

「ずっと悪かったらしいわ……結婚急いだのも、忙しそうに働いてたのも……そういうこっちゃてんなあ」

 そう言うと、荷物を持つと車で出かけて行った。

 普通、お通夜は7時ごろから、ちょっと早い。

 マスターでご主人の昴さんとは親友のテイ兄ちゃん。ちょっとでも早よ行ったろ思てんやろね。

 忘れっぽくなった自分がちょっと疎ましく、回転焼きはそのまま冷凍庫に戻した。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
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せやさかい・393『江戸川アニメの危機・2』

2023-03-08 10:22:46 | ノベル

・393

『江戸川アニメの危機・2』さくら   

 

 

 その三時間後、うちは真鈴先輩に連れられて都内のスタジオに着いた。

 

 ちなみに移動手段は、車 ⇒ 飛行機 ⇒ 車

 

 パム

 

 アフレコスタジオやから、ドアはスポンジケーキで出来てるんちゃうかいうくらいに小さい音で閉まった。

 ブン

 音がしたわけやないけど、雰囲気としては『ブン』という感じでスタジオ中の人らの首がうちに向けられる。

 ほぼ全員の目ぇが血走ってる。

「や、やあ、急なことで、めんごめんご(^▽^)!」

 宗武真監督一人がハイテンションの笑顔。

 他に、見覚えのある制作進行さんやら脚本さんやらプロデューサーさんやら……それ以外は、見覚えのないスタジオのスタッフさんやらが顔を引きつらせてる。

「おはようございます……て、もう昼やけど、ほんまにうちで間に合うんですか(^△^;)?」

「だいじょぶだいじぶ、台本は読んでくれたよね?」

「はい、もう憶えてしまいました……」

「よし、音監いこうか!」

 監督は、うちの言葉の後ろ半分は聞かんと、眼鏡で表情の読まれへんオッチャンに振った。

 後ろ半分は―― ……けど、ぜんぜん自信ありません! ――なんですけど(-_-;)

 

 飛行機の中での話が思い出される。

 

真鈴: 八話の3カットがリテイクになってね、その中にカリナっていうのが出てくるの。

さくら:香里菜ですか?

真鈴: 香里菜の内面の声的な、みたいな、っぽい、まあ、香里菜の心の声かな。

さくら:はい。

真鈴: ここをね、飾りのない声でやりたいって言うのよ監督は。

さくら:はい。

真鈴: 最初は、新人の声優でやろうってことだったんだけど「うぅ~ん、ここは野生の声でいきたい!」なんて言うのよ。で、声質も似てるし、なんたって香里菜CVの花園あやめはさくらを意識してやってるしね、ここはさくらにやってもらうしかないってことになったのさ。ちょ、なにキョロキョロ探してるの?

さくら:次降りますボタン(꒪꒳꒪;)

真鈴:次は羽田だよ。はい、台本!

さくら:ちょっと、おねえさーん!

客室乗務員:はい、なんでございましょうか?

さくら:この飛行機にパラシュートはないんでしょうか!?

 

『じゃ、本番、テイクワンいきます』

 

 花園さんの香里菜の声だけ入ってるのを二回観て、リハとかテストやと思たら、いきなり本番。

 

香里菜:もう、辛気くさいのはこりごりや。

かりな:辛気くさいのは香里菜や。

香里菜:どういう意味や!

かりな:東京きてから文句ばっかり。

香里菜:せやかて、辛気くさい! 勝手に相談持ちかけてきてからに、うちがまるっとドガチャガに収めたろとしたら、とたんに迷惑顔や。ほんまに、東京の人間は!

かりな:そんな針突き刺すみたいに考えたら、どこ行ったってあかんわ。

香里菜:そんなことないわ!

かりな:人間、ひとに相談したから言うて、解決を求めてるとは限れへん。

香里菜:そんなことないわ。っていうか、それくらい分かってる。あの子らが言うてきたんは……

かりな:いまかて、香里菜、うちに言うてるけど、うちにどないかしてほしいて思てへんやろ。

香里菜:あたりまえやん、これは自問自答や。

かりな:あの子らも、自問自答するような気持ちで話したんとちゃうん。

香里菜:そんなん、分かれへんわ!

かりな:そうかあ……ほんなら、香里菜、あんたが寝てるうちにメール打っといたるわ。いや、電話がええかなあ。あんたは、目ぇ覚めたら顔洗て、クソして大阪帰り。それで、全部リセットや。

香里菜:なんで、かりながメールとか電話とかできんねん!?

かりな:うちは、あんたの本心やさかいな、ほら……もう眠たいねんやろ?

香里菜:え……あ……うちは……くそ、できそこないのアルターエゴ……

かりな:ちゃいます、アルターエゴはあんたの方や。もう起きてこんでええさかい。

香里菜:ちょ、ちょお、待てぇ……

かりな:あはははは……

 

 ビギナーズラックと言うんでしょうか、後で聞いても、我ながらええデキ……と思たのは100%錯覚。

 

「ちょ、駅着いたよ、さくら!」

「へ!?」

 留美ちゃんに怒られて、学校最寄り駅に着いてるのに気付く。

 ただいまの気温 13度  ただいまの自己嫌悪 39度

 東京から帰って三日間、じんわり物思いの春本番です(~ ̄▽ ̄)~。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・392『江戸川アニメの危機・1』

2023-03-05 14:40:55 | ノベル

・392

『江戸川アニメの危機・1』さくら   

 

 

 春、夏、冬の三つの休みで一番ええのんは春休み。

 気候はええし、宿題もないしねぇ~。

 その春休みにはまだ間ぁがあるけど、春休みの予告編か体験版かという感じの麗らかな日曜の朝。

 

 朝食と、後片付けの手伝い、本堂やらの掃除も早々と終わって部屋に戻る。

「ちょ、じゃま」

 ニャ

 ブタネコのダミアを跨いで、ベッドの上に寝転がる。

 まあ、朝のルーチン終わって一休み……で、寝てしまう(^_^;)

 

「そうだったんだ!」

 

 留美ちゃんの声で目が覚める。時計を見ると三十分過ぎてた。

「え……なにがそうだったん?」

「あ、ごめん、起こしちゃったね」

「ううん……なに調べてたん?」

 留美ちゃんはパソコンで、なにやら調べてる最中。

 留美ちゃんは、時間を大切にする子ぉで、ボンヤリとネットサーフィンとかはせえへん。

「ほら、『犬が西向きゃ尾は東』、先週は中盤までの総集編だったじゃない」

「ああ、せやったねえ、まあ、何回観ても面白いけど(^▽^)」

 主役の井上香里奈のキャラ設定が、言うのも恥ずかしいけど、このあたし酒井さくらがモデルなんです(^_^;)

 新年早々に真鈴先輩に元請けの江戸川アニメまで連れていかれて、監督やら作監さんやら声優の花園あやめさんやらに会って、面白いやら恥ずかしいやら(379・380『犬が西向きゃ尾は東』)を懐かしく思い出す。

 放映の評判も上々で、前半のダイジェストみたいな総集編も、声優さんらのトークとか入ってて面白かった。

「これってさ、実は、進行が遅れて本番が間に合わなくって、苦肉の策らしいよ」

「え、なにそれ?」

「作画が間に合わなかったり監督が途中で悩んだりして納期が間に合わなくって、間に合わせの総集編なんだってよ」

「え、そうなん!?」

 確かに、アニメは学校の宿題みたいに時間を掛けたらできるというもんとちゃう。

 特に江戸川アニメは監督のこだわりがすごいとかで、リテイクになったり、制作を中断してあたしを呼んだり。素人のあたしが見ても、ちょっと危なっかしい。

 監督の宗武真さんは、ドガチャガに見えてても、すごいこだわりのある芸術家なんやと思う。

「ええ!」

「どないしたん?」

「ちょっと、これ!」

 スクロールしてた手を停めて画面を指さす留美ちゃん。

 

『犬が西向きゃ尾は東』制作中止か!? 『犬西東』打ち切り!?  監督逃亡!?

 

 すごいスレッドが立ちまくってる!

「あっちゃあ……(@o@)」

 フニャア

 ダミアまでコタツに前脚かけてパソコンの画面を睨みよる。

「ちょっとヤバイよねぇ……」

 その時、スマホがメール受信のシグナル。

「ちょ、どいて」

 ブタネコを押しのけてスマホをとる。

 

―― これから行く、真鈴 ――

 

 え、なに?

 

 留美ちゃん+ダミアと顔を見交わしてると、山門の前で急停車する車の音。

 窓から見ると、車を停めたまま山門に駆け込んできて、敷石にけつまずく二枚目半のおねえちゃん。

「え、真鈴先輩?」

 ニャ?

 直ぐに起き上がって、玄関に入ったかと思うと、伯母ちゃんと一言二言。

 ダダダダ ドダダダ 

 ガラ!

 襖が開いたかと思うと、髪を振り乱して肩で息してる真鈴先輩!

「これから、東京! いっしょに来て!」

 有無を言わせぬ勢いで迫って来た!

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・391『ヤマセンブルグの卒業式』

2023-02-26 13:10:21 | ノベル

・391

『ヤマセンブルグの卒業式』さくら   

 

 

 前回は飛行機の他に鉄道を使ったり、途中で泊まったりして四日もかかったけど、今回は大回りしたとはいえ、なんとか二十時間ほどでヤマセンブルグに着いた。

 全行程の操縦を覚悟してたソニーやけど、操縦桿を握ってたのは離陸の時と途中の四時間余り。今回の操縦は、操縦技能の昇級テスト兼ねてるんやとか。

 大半はお馴染みのジョン・スミスのおっちゃん。おっちゃんは、ソニーの昇級テストの教官と検定官も兼ねてるんやとか。

 ジョン・スミスは領事館の勤務を解かれて情報局に戻ってたんやけど、ソフィーが頼子さんと共に国に戻ると決まった時に、また領事館に戻ってきた。ヤマセンブルグはNATOの中で一番小さな国やけど、大国に任せっきりにすることなく、積極的に動いてるらしいです。

 

 空港には、頼子さん自身とソフィー、我が従姉の詩(ことは)ちゃんが出迎えてくれてて感激やった。

 ソニーは到着の挨拶もそこそこ空港のビルへ。それでも、空港を離れて王宮に向かう頃には戻って来て『無事』に昇級テストに合格したことを嫌そうに教えてくれた。

 頼子さんの話によると、昇級すると仕事もメチャ増えるらしい。

 

「それでは……聖真理愛学院2022年度の卒業証書授与式を行います。全員起立!」

 

 卒業証書の授与は、なんと、歴代国王の戴冠式が行われるライオンキングチャーチ(獅子王教会)で行われる。

 ライオンキングというのはディズニーとタイアップしたわけと違って、第三代国王が獅子王と呼ばれる勇猛な王様やったんで、それにちなんでるらしい。

 それから、卒業証書の授与は女王陛下、つまり頼子さんのお祖母さまが聖真理愛学院学院長のローブを取り寄せて、本格的な代理として行われます。

 式場には、日本大使や教育大臣、統合参謀本部議長、ヤマセンブルグ大司教、侍従長、侍女長、他にえらいさんいっぱい(^_^;)

 式壇の上には、ヤマセンブルグ国旗、王室旗、日章旗、それから聖真理愛学院の校旗が並んでる。

 でもって、式壇に近い右前列には、もう二度とは見られへんと思てた制服姿の頼子さんとソフィー。

 左前列には、同じく制服姿のうちら(さくら 留美ちゃん メグリン ソニー)が控えてる。真鈴先輩は後ろの来賓席、真鈴先輩は卒業式終わってるもんね。せやけど、なんでか制服姿。

 うちらが制服着てるのん見て、自分一人私服なのが寂しくなってトイレで着替えたんやとか。でも、校章やらは外しててケジメはつけてはります。

 式そのものは小規模やけど、こないだやった卒業式よりも立派です(^_^;)

 で、卒業式よりも凄いのは、参列してるヤマセンブルグ国民の人ら!

 教会は800人入れるんやけど満席! 入りきれへん人らは教会の前に3000人余り(もっと居てるねんけど、教会前の広場は3000人が定員)、教会から王宮までは人垣ができて、もう、戴冠式かいうくらいに賑わってるそうです。

「Singing the national anthem Everyone stand up!(国歌斉唱 全員起立)!」

 なんと、女王陛下の音頭で君が代斉唱。その後にヤマセンブルグ国歌。

 教会の内と外からも大合唱! で、早手回しに花火の爆ぜる音。

 もう、なんやお祭りですわ。

「卒業証書授与、ソフィア・ヒギンズ」

「はい」

 ちゃんと日本語で返事して式壇に進む。ちなみに、女王陛下は英語。

「ヨリコ スミス メアリー アントナーペ エディンバラ エリーネ ビクトリア ストラトフォード エイボン マンチェスター ヤマセン」

 毎回すごいと思うねんけど、女王陛下は、頼子さんの正式名を一息で言うてしまう。これに勝てる名前は落語の寿限無しかないやろね(^_^;)

 名前呼ぶときは証書見てないから、空で言うてはる……と思て、あとで見せてもろたけど、小さな字でほんまに書いたった! 学校もきっちりやってます!

「在校生代表、送辞」

「はい」

 え!?

 ビックリした、留美ちゃんが静々と式壇に!

「The chirping of birds flying in the sky. warm spring light. Full bloom of plum blossoms
Cherry blossom buds in the schoolyard about to open. It seems that all of them are celebrating the departure of seniors……」

 なんと英語で送辞をブチかまし始めた!

 日本語やとトツトツとしてる留美ちゃんやけど、英語でやると、なんとクリアでハキハキしてることか!

 これも後で聞いたんやけど、詩ちゃんを通じて極秘で要請があったらしい。

 極秘やいうのは頼子さんの気遣い―― さくらが気にするからね ――です。

 アハハ ちょっと複雑な心境。

 続いて頼子さんの答辞やねんけど、これは、また改めてね。

 どっちも感動的で、教会の内外から盛大な拍手が起こった。送辞答辞ともに日本語訳が式次第に挟んであって、あとで読み返してシミジミでした。

 

「真鈴ちゃん、やっぱすごいよねえ……」

 詩ちゃんがしみじみ呟いたのは、全てが終わって、戻ってきた宮殿の庭。

 外から引き込まれた小川が流れてたりしてて雰囲気。

 実は、ソニーに教えてもろた―― お話するんだったら、小川の傍 ――やて。

 無口で武骨で、そのくせ黙ってたら姉のソフィーよりも可愛らしい陸軍伍長という変な奴。

 せやけど、こういう雰囲気のええとこを勧めてくれるとは、やっぱり持つべきものは友だち。この際、親友のカテゴリーに入れたろかと思ったりした。

 で、真鈴先輩。

 ライオンキング教会から駅前までのパレード、沿道は式が始まる前の三倍ぐらいに増えてて、街路樹に上ってる人もおってお巡りさんに怒られとった(王族を見下ろしてはいけないという伝統と警備上の問題)り、迷子案内の放送が掛かったり(^_^;)。

 で、パレードに移ると、一番人気は頼子さんと女王陛下。ま、これはいつものこと。

 で、同じくらい人気やったんが真鈴先輩!

 

 キャーーマリン! コイスルマネキン! マネキ! ネキン! キャー!

 

 声優百武真鈴の人気は日本以上かもしれへん。

 頼子さんも最終回にノルンの女神役で出て評判やったんやけど、やっぱりレギュラーで、それも恋する二人の恋人の声を一人でやってのけたのは超有名な話で、ファンの数もハンパやない。

 それに、女子高生の制服姿いうのは海外のオタクさんたちにも人気で、人気の真鈴が人気の制服姿やねんから、もう人気爆発!

 で、地元の放送局の要請で、急きょサイン会。

 むろんサインだけで済むはずもなく、放送局前でライブをおやりになっています。

「日本の放送局が企んだんだろうけど、あれは、今回の卒業式も含めて真鈴ちゃんの力だと思う」

「あ、それは思う!」

 大江戸プロに呼ばれたことやら、文化祭のことやらが頭に溢れる。

「うん、わたしもSNSで見たし、ここじゃ、地上波でもやってたしね。真鈴ちゃんは声優としてもすごいけど、プロディユーサーの才能もあると思う」

「うん、頼子さんもノセてしまうほどの人たらしやしぃ!」

「さくらも、そういうとこあるよ」

「ええ、ないない、それはない!」

 うちは単なるオッチョコチョイ。

「わたしね、こっち来て仲良くなった人がいるんだよ」

「ええ!?」

 おっちゃん、おばちゃん心配するでえ!

「あ、男の人じゃないよ」

「いや、きょうびLGチーズの時代やし」

「え、ああLGBTS?」

「アハハ そういうボケも才能だあ」

「もう、いじらんといて!」

「ごめんごめん、仲良くしてくださってるのはイザベラさんだよ」

「ええ、あのサッチャー!」

「うん、宮廷の作法や伝統に詳しくってね、フォークロアや民間伝承のことも造詣が深いの。さすがは女王陛下の秘書ね。近ごろじゃ月に三回ほど呼んでくださって、いろいろレクチャーしてもらってるのよ。陛下もたいてい顔を出されて、議論に加わってくださったり」

「いやあ、あのオバハンと五分以上話ができるのは、やっぱり超才能やしぃ!」

 他の人が聞いたらリップサービスと思うかもしれへんけど、従妹のうちはよう分かる。

「ぜったい、才能や!」

「アハハ、ソニーがここを勧めてくれたわけが分かったよ(^_^;)」

「へ?」

 小川のせせらぎが絶好の防音壁になると気が付いたのは日本に帰ってからでした。

 くそ!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・390『卒業式のサプライズ』

2023-02-24 15:03:36 | ノベル

・390

『卒業式のサプライズ』さくら   

 

 

 …………と、いろいろな出来事やさまざまな思いがありましたが、無事に目出度く卒業の日を迎えることができました。

 こんな身勝手な三年生に付いて来てくれた在校生のみなさん、導いてくださった先生方、職員のみなさん。お父さんお母さん、家族のみんな。商店街を始めとするご近所の方々。そして、入学以来ここまで見守り、我々の魂を磨いてくださったマリア様に感謝の誠を捧げ、卒業の言葉といたします。

 2023年 2月 24日    卒業生代表 田中真央

 

 シーーーーーーーーーーーン

 

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!

 

 さすがは百武真鈴! いや、卒業生代表田中真央!

 式場の全員、聞きほれてしもて、とっさには拍手がでけんと、シーンとしてしもてからの大拍手!

 三年に及んだ流行り病のために、授業やら行事が押せ押せになって、例年より一週間遅れての卒業式。

 でも、もうマスクもせんでええし、ソーシャルディスタンスもいらんし、真鈴先輩の名調子も拝聴できたし。

 これで雨やなかったら120点の卒業式やった!

 

 で、折り入って話があるんだが……

 

 学食の外テーブル。

 散策部の四人で、午後の紅茶を頂きながら卒業式の感動を噛み締めてると、本人の真鈴先輩がやってきた。

「先輩、さっきの答辞、めっちゃよかったですよ!」

「百武真鈴の新境地ですね!」

「あはは、うんうん、好きなだけ褒めてくれていいんだぞぉ……と言いたいんだが、直ぐに結論を出さなければならない相談があるんだ」

「「「「え?」」」」

 四人揃ってびっくりし、わたしが代表で聞いた。

「なんですか?」

「実はな、この金土日と君たち散策部に付き合ってもらいたいんだ」

 え?

 期待半分心配半分(^_^;)

 文化祭のパレードといい、こないだの『犬が西向きゃ尾は東』と言い、真鈴先輩の「ちょっと相談」というのは絶対ちょっとやないからね。

「実はな、頼子に卒業証書を持って行ってやりたいんだ。ついてはわたし一人ではつまらないし、みんなにもいっしょに付いて来てもらいたいんだが。みんな、パスポートは切れてないだろう?」

「はい、大丈夫です!!」

 わたしが代表して、行く気まんまん!

「でも、費用とか飛行機のチケットとかは……」

「うん、むろんこっち持ち。っていうことは放送局の企画なんだけどね(^_^;)」

「いくいく!」

「大丈夫です!」

「わたしはダメだ」

「ええ、ソニーあかんのん?」

「部長から金曜の夜から仕事だと言われてる」

「部長って、ミスター・ジョン・スミスだよね?」

「うん、あっちは大佐、こっちは伍長だからね」

「ああ……軍務なら仕方ないよね」

 お父さんが自衛隊のメグリンは俯いてしまう。

「ええと、その反応は想定内だったりしてね……」

 先輩が言葉を継ごうとしたら、ソニーのスマホが鳴った。

「ちょっと、ごめん」

 スマホを持ってピロティーの方へ行くソニー。

「忙しそうだね……」

 メグリンが同情の眼差しを向ける。

 英語でやり取りしてるソニー、むろん話が聞こえる距離やないねんけど、うちらと話す時とは違う軍人さんの姿勢。

「なんか、草薙素子みたいだね」

 先輩は声優の大先輩がやってるキャラの印象みたいに言う。

「イエッサー!」

 なんか、最後はやけくそみたいに返事して戻ってきた。

「わたしも行くことになった!」

 よかったあ(^▽^)/…………うちらが喜ぶ割には、冴えへんソニー。

「最後まで聞け、使う飛行機はヤマセンブルグの公用機、そしてパイロットは、このソニーだ」

 

 え!?

 

 みんな口を開けたままフリーズしてしもた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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せやさかい・389『三方さんの引き継ぎ』

2023-02-20 16:54:57 | ノベル

・389

『三方さんの引き継ぎ』さくら   

 

 

 夜中に目が覚めた。

 

 なんやら、ヒソヒソと話声がする。

 ひょっとすると夢?

 以前も、夜中に話し声がして、それが夢やったことがある。

 十七年も生きてると、五千回ぐらいは夢見てる。

 せやさかい、夢やという予想はついた。横を向くと、留美ちゃんが幸せそうに寝息を立ててる。

 親友の幸せは、うちの幸せ。

 このまま寝てもええねんけど、夢の中のヒソヒソ話というのは、めっちゃ気になる。

 

 ニャゴニャゴ……

 

 耳を澄ますと、話声のひとつはダミアの声。

 もっかい薄目を開けると、ちょっとだけ部屋の襖が開いてて、その隙間に向かってブタネコとは思えん甘えた声でニャゴニャゴいうとおる。

 誰と喋ってんねん?

 お布団は目の下まで被って、心眼を凝らす……見えてきた。

 襖を素通しにして見えてきたのは、なんとマリーアントワネット!

 

「……それじゃあね」

 

 最後の一言だけが聞こえて、マリーアントワネットは口の前に人差し指を立てると、こっちに向かってニッコリ微笑んで消えていってしもた。

 ダミアは、うちの顔見て「ニャ」と一言だけいうと、そのまま留美ちゃんのベッドに潜り込んで寝てしまいよった。

 ヒソヒソヒソ……

 まだヒソヒソ声がする……これは廊下の、まだ向こう……本堂から聞こえてくるんや。

 じんべさんを羽織って本堂に向かう……話し声は外陣の真ん中へんから聞こえてくる。

 うちは、須弥壇の陰から――すんません、阿弥陀さま――とことわって、外陣の様子を見る。

 え……?

 

 なんと、二人の三方さんが向き合ってお話の真っ最中やおまへんか。

 

「……ということで、まだまだ気ぃの回れへんお方であらっしゃいますが、よろしゅうお頼申します」

「はい、縁あって三方のお役目を引き継ぎましたからには、専心誠意、お役目を務めさせていただきます」

「それでは、これを収めてもろて、引継ぎのしるしといたしましょう」

 なんや、旧三方さんが、三方に載せた和綴じのブットイ帳面を新三方さんの前に進めた。

「少し拝見してもよろしいでしょうか?」

「よろしいもなにも、これからは、こなたさんが当家の三方。しっかり目を通しておくりゃれ」

「それでは……」

 新三方さんは、捧げ持ってお辞儀をして、ハラリハラリとページをめくる。

「……なるほど、これからもご主人さまは波乱万丈の人生を歩んでいかれるのですねえ」

「うむ、それを、苦労ととらまえては、とても続くものやありまへん。気は持ちようという言葉もおますよって、どうぞ、こなたさんも気を大きゅうお持ちなさりませ。こなたさんに譲ったとは申せ、わたしは、目と鼻の先のごりょうさんにお仕えしとります。宮仕えゆえ、言われて直ぐというわけにはまいりまへんやろが、ごりょうさんも『さくらのことは気にかけてやれ』との仰せにおじゃります。そうそう、番号の交換をいたしておきまひょ」

「おお、先輩もスマホをお持ちなのですか?」

「二台持っておるぞえ。パブリックとプライベートじゃ。構えて公私混同はならぬからのう」

「そうですねえ、そういう分別は大事ですからねえ」

「ついでに、裏情報も送っておくぞ」

「それでは……」「それでは……」

 

 ピ!

 

 無事に番号の交換は終わったみたい。

「あ、これは……」

「いかがいたしゃった?」

「ご主人様は、おねしょの癖がおありなのですか?」

「ああ、それは、くれぐれも内聞にな。さくら殿も十七、人への聞こえもあるというもの、こなたが十分に気をつけておれば事なきを得るでありましょう。くれぐれも頼みましたぞえ」

「ははあ!」

「ほれ、申したしりから……」

 

 二人の三方さんがこっちを向いた!

 

 とたんに催してきて、リアルに目ぇ覚ましてトイレに行きました(^_^;)。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

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せやさかい・388『おお、これが雛人形か!』

2023-02-18 11:30:05 | ノベル

・388

『おお、これが雛人形か!』さくら   

 

 

 来週から学年末試験。せやさかい、こんなことしてる場合やないねんけど。

 

「おお、これが雛人形か!」

 本堂に入るなり、ソニーが感嘆の声を上げた。

「やっぱり、昔の人がやると飾りつけも違うわねえ!」

 留美ちゃんもカバンを下ろすのを忘れて感動。

「こんな間近で見るのは初めて!」

 先週ペコちゃんとこで巫女服着でお神楽やった時と同じくらい感動のメグリン。

 

 今年は、檀家のお婆ちゃんらが飾りつけをやってくれた。

 なんでかいうと、一昨年飾りつけをやったとき、実は、いろいろミスしてたらしい。

 それでも婦人部のお婆ちゃんらは、今どきの子ぉらがお雛さんを大事にしてるいうことだけで感動してくれた。

 去年は流行り病でお雛さんどころやなかったしね。

 うちには、詩(ことは)ちゃんのと、お母さんのと二組のお雛さんがある。

 二年前は、本堂と部室(本堂裏の座敷)に分けて飾ったんやけど、田中のお婆ちゃんの提案で二組とも本堂で飾って大勢の人に見てもらうことになった。

 

「婦人部で見本やったげるさかい、もう一つをあんたらでやってみい」

 

 ということで、テスト前や言うのに、お仲間そろって本堂に集合!

「うちは、雛祭りは、お内裏様の色紙を出すだけだった」

「軍人の家は転勤が多いから、大げさなことはできないんだろう」

「うん。でも端午の節句は鎧を出してた」

「鎧! 本物か!?」

「あ、たぶん。お祖父ちゃんが送ってきたの」

「メグリンは武士の家系か!?」

「どうだろ、熊本の農家だよ」

「熊本といえば肥後の国、肥後の国と言えば加藤清正ではないか!」

「あはは、清正公とは関係ないよ」

「謙遜するな、清正に公の尊称を付けるのは、武門の血筋であるからだろ!」

「あ、熊本じゃ誰でも清正公って云うし(^_^;)」

 なんか、マニアックなノリやけど、あっという間に雛壇を完成させるソニーとメグリン。

「うん、野戦のテント張りみたいで感嘆だったぞ」

「問題は、これからだよね……」

 箱から出したお雛さんたちと、出来あがっている雛飾りを見比べる留美ちゃん。

「キングとクィーンの並べ方は欧米と変わらんのだなあ」

 なるほど、お内裏さんはキングとクィーンか。

「明治のころまでは逆やってんでぇ、大正天皇が結婚式で西洋風にしはったんで変わったいう話やで」

「へえ、そうなんだ」

「あ、なに、その『さくらにしては』的な驚きの顔は(^_^;)」

「ん……この侍女、変だぞ?」

「さすがソニー、気ぃついたんや」

「眉毛が無いし、口の中が真っ黒だぞ……あ、こっちは侍女が一人足りんぞ」

「ああ、それは三方さんて云うて……」

 三人官女と、それにまつわる我が家の事情(125~127『お雛さん』)を説明する。

「そうか、それぞれの家にドラマがあるんだなあ」

 いや、ソニーの家ほどやないと思うよ。ソニーの家は魔法使いの家系やし。

 

「やあ、あんたら、もう来てたんやなあ(^▽^)」

 

 田中のお婆ちゃんがテイ兄ちゃんを従えてやってきた。

「あ、お婆ちゃん」

「田中さんがネットオークションで競り落としてくれはったんや、ほら、開けてみい」

「え、どれどれぇ?」

 テイ兄ちゃんが持ってきた桐の箱には三方さんが入ってた!

「ちょうど、この三方さん一人だけ云うのんが出ててなあ。焼き芋焼きながらポチったら、他に入札してる人もおらんでなあ、まんまとゲットしたんや。まあ、教えてくれたのはテイぼんやけどなあ」

「あ、それナイショですがなあ(^0^;)」

「戦前の優月の品物らしいわ、歌おばちゃんのも優月やさかい、ピッタリやろ」

「さっそく、並べたげぇ」

「ありがとう、お婆ちゃん!」

「……おお、留美とさくらを従えたメグリンみたいだぞ!」

 ソニーが感動。

「あ、そんな、わたし……」

 三方は、他の官女よりもワンサイズ大きいみたいで、ちょっと面白い。真っ赤に照れるメグリンも可愛い。

 

「田中さん、忘れ物、忘れ物」

 

 鈴木のお婆ちゃんがレジ袋ぶら下げてやってくる。

「あ、せや。お雛さんで気ぃせいてしもて、肝心なもん忘れてた!」

 お婆ちゃんが忘れてたのは焼き芋。

 お婆ちゃんは米屋さんやけど、夏以外は焼き芋もやってて、時どきご馳走になってた。

 高校に入って、お店の前通らんようになってご無沙汰やったし。

 懐かしく、みんなで焼き芋頂きながらテイ兄ちゃんがカメラで撮って、たちまちのうちにヤマセンブルグとスカイプ。

 テイ兄ちゃんは、ハナから、その狙いでお婆ちゃんを焚きつけてたみたい。

 まあ、ええけどね。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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