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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・59『古戦場のピクニック』

2018-10-24 06:52:44 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・59
『古戦場のピクニック』 
    


「あ~たまに来る田舎もいいもんだなあ」

 高橋宗司がノビををした。


 わたしたちは、ひょんなことで友だちになり、みんなでお好み焼きパーティーをやったあと、今日のピクニックの話になった。
 で、木下クンの提案で、多摩の自然公園のピクニックに来ている。

 自然公園といっても奥多摩のような完全な自然公園ではない。今世紀の初頭まで、団地が林立していた多摩市、八王子市、町田市にまたがるニュータウンの北西部である。
 人口の減少、高齢化にともないニュータウンの過疎化が進み、先の極東戦争では首都圏内で唯一戦場になったこともあり、1/3にあたる1000ヘクタールあまりが、戦後自然に戻され、多摩自然公園……のようにされた。
 戦場跡であったので、そのままの状態で保存しようという声も高かったが、「平和を希求する日本の象徴」として、自然公園のように作り替えられ、昭和の昔には多くの人の営みがあったことなど、痕跡も留めていない。
 コンクリートやアスファルトなどは、クラスター砲(物質を分子の次ぎに大きいクラスターのレベルまで分解するショックガン。その威力は、一発で10000平米ほどに展開した戦車部隊を、鉄とセラミックのクラスターに分解し、核とは無関係なのに極地核兵器とまで恐れられ。戦後は国際法で使用が禁止された。なぜなら、人間さえタンパク質やカルシウムのクラスターに分解してしまう。今では対クラスターの技術も進んでいるのだが、象徴的に禁止兵器とされている)を民生用に転用したクラスター破砕機で素材にまで分解され、自然の岩のようにされて、十数年たった今では苔むして、見かけは完全な自然に戻っている。

 わたしは無意識に、その「自然な姿」をCPの中で元の形に復元して見ていた。

――ここは、ジブリの『耳をすませば』のモデルになった公団住宅のあたりだ――

「なに思い出にふけってんのよ」

 優子が、たしなめた。義体の能力を使えば、パッシブセンサーに捉えられる可能性がある。
「優子だって、こないだ宗司クン助けたじゃん」
「あれは、一瞬の出来心。真由、もう10分もサイトシーングしてるよ」
「ああ、やっぱ、あれは出来心だったのか!」
 意外なところで、宗司クンが傷ついた。
「あたりまえでしょ、あんなのほっといたら、事故になって、みんなが迷惑するんだからね」
「ねえ、ここらへんでお昼にしようよ!」
 宗司クンの気を引き立てるように、春奈が明るく言った。

「うわー、豪華なランチパックじゃないの!」
「夕べから、川口さんといっしょに作ったんです」
 宗司クンが際どいことを言う。
「それって、原因、結果?」
 木下クンが、意地悪な質問をする。
「いやあ、作っているうちにアイデアが膨らんで、あれも、これもって……」
 宗司クンが頭を掻く。
「あ、結果ですからね、結果。宗司クンには下心なんかありません!」
「そういう言い方って、想像力をかきたてんのよね」
 真由まで調子にのりだした。

「ここに、カントリーロードが走っていた」

 ちっこいPCを出して、木下クンが言った。
 覗いてみると、PCには今の風景と、ニュータウンがあったころの風景が、重なって映し出されていた。
「この道を挟んで、杉本が雫を呼び止めるんだ」
「知ってる、で、神社ですれ違いの告白になるんだよね!」
 と、わたしが言おうとしたことを春奈が先を越した。
「しかし、木下クンのPC技術はすごいね」
「実は、他にも使い道が……」
 地図にグリーンのドットが現れた。
「なにこれ?」
「多摩奇襲作戦で、敵のロボットが破壊された場所」
「今でも残ってんの!?」
 優子がすっとんきょうな声を上げ、驚いた小鳥が二三羽飛び立っていった。
「本体は回収されたけどね、部品が地中に埋まってる……こいつを掘り出して、オークションにかければいい値段になるんだけどね」
「ひょっとして、木下クン、そのために、わたしたちを連れてきたとか?」
「少しはあるけどね、みんな地中深くだ。大がかりな重機でもなきゃ無理さ。たとえできても採算が合わない…………ん、これは?」

 モニターに赤いドットが現れた。

「こいつ、生きてるよ!」

「え、何が?」
 みんなが寄ってきた。
「これは国防軍のレベルCの機密なんだけど。奥多摩奇襲作戦で補足した敵のロボットと撃破したロボットの数が一つ合わないんだ。カウントミスということになっているけど、こいつはスリーパーだったんだ……」
「寝てたの?」
 春奈が、あどけない質問をする。
「今までは、グリーンの残骸と認識されていたんだ……」
「なあ、このドット動いてないか?」
 宗司が、信号機が変わったぐらいの関心で言った。
「ヤベエ、こっちに近づいている!」
 その時、地響きがして、やがて地震のような揺れになった。
「みんな、逃げよう!」

 ボーーーーーーン!


 鈍い爆発音のようなのがして、現れた……そいつが。

 C国の戦時中の出来損ないのガンダムのようなロボットが……。


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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・58『優子の場合』

2018-10-23 06:57:30 | ボクの妹

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・58
『優子の場合』 
    


 バカか、あいつは……?

 優子は、他の通行人といっしょに、そう思っていた。
 大学の帰り、真由のようにお友だちもできなかった優子は、晩ご飯の用意にスーパーに寄ろうとして、そいつを見てしまった。

 ベースは悪くないのだろうが、一目でW大生とわかるダサいパーカーのそいつは、交差点の真ん中で立ち往生していた。
 荷台に括りつけていたゴムバンドが外れて、垂れたフックが自転車の後輪に絡まり、身動きがとれなくなっていたのだ。
 滑稽なことに、本人は気づかず、幽霊かなんかが、自分の自転車を止めている超常現象のように思っているらしいことである。
「あれ、あれ……ええ……?」
 で、パニック寸前の顔で、交差点の真ん中で、オロオロしている。見ている通行人は、原因が超常現象などではなく、ただのドジであることが分かっていたので、クスクス笑っていくばかり。それが、このW大生をさらにパニックに陥れていく。
「あ、悪霊の仕業か!?」

 で、信号が青から黄色、そして赤に変わった。

 バカかあいつは……!?

 通行人の認識が変わった。ただ、信号が赤になったばかりの交差点に入って、哀れなW大生を助けるのにはリスクが高かった。信号は赤だが、彼の顔は青いままで、すでにパニックになりかけていることが分かった。下手に助けに飛び込んだら、巻き込まれる恐れがあるので、誰も助けには出ない。
 優子(幸子と優奈の融合体)は、義体のモードで車道に飛び出し、自転車を担ぎ、W大生の手を引いて、反対側の歩道に、あっと言う間に着いた。拍手と冷やかしが等量におこった。

「ほんとっ、バカね、あんた」

 優子は、後輪に絡んだゴムひものフックを見せながら言った。
「え、え……このせいで?」
「そう、悪い霊のせいなんかじゃなくて、あんたの悪い勘のせい!」
「あ、ど、どもありがとう」
「じゃ、これからは気を付けてね」
 優子はさっさと車道の向こう側に戻りたかったが、信号が変わらない。W大生は動く気配がない。
「あんたの行く方向は、あっちじゃないの?」
「考え事してて、つい渡っちゃったんだ。バイトが、こっちのほうなもんだから」
「じゃ、バイト急いだら」
「今日はシフトに入ってないんだ。晩ご飯の材料買って帰るとこ」
「あ、そう」
 優子は、さっさと歩き出した。なぜかW大生も後を付いてくる。
「なんで、付いてくんのよ!?」
「だって、Kマート、こっちだから」
「あ……」
 木下に教えてもらったス-パーもKマートであった。もうKマートは目の前である。
「言っとくけど、運命だなんて思わないでね。わたしも最初からここに買い物に、来るつもりだったの」
「あ、ども……」
 優子は、さっさとKマートに入り、買い物かごを持って、野菜売り場から順路に従って回り始めた。

 そして、冷凍食品のコーナーで、あいつを見つけてしまった。

 あいつは、店の順路を逆回りして、実に手際よく品物をカゴののなかにぶち込んでいた。
「やあ!」
 そいつは、元気に手をあげた。
「あんたって、ほんと変わり者ね。どうして逆に回るのよ?」
「スーパーって、総菜コーナーが最後にあるの。で、総菜って一番旬で、店でもお買い得の材料を使ってるんだ。そこで偵察して、食材を選ぶ。セオリーだよ。それから、豚コマ、しめじ、もやし、なんかは工場生産で、価格が安定してるから、まず確保だね。あ、お好み焼き粉買っちゃったの!?」
「うん、だって一円の超特売だから」
「バカだなあ!」
 バカにバカと言われて、優子はむっとした。
「粉を大安売りしてるってことは、それに付随するキャベツとか、蛸、イカなんかの値段が高いんだよ。スーパーの手。う~ん……レタスにしときな、これは並の値段。あと豚コマ。ソースは二個セットの……」
「二個もいらないわよ」
「ボクも切れてるから、あとで分けよう」

 こんな調子で、完全にW大生のペースに巻き込まれた。

 帰り道、同じマンションであることが分かった。優子たちと同様ルームシェアリングしていたらしいペアが、この春に卒業したので、しばらくは一人暮らしのようだ。

 道々、話を聞くと、彼はW大の二年生で、高橋宗司。意外にも大阪の出身であった。
「お好み焼きを作る」
 と言うと、ごく自然に、部屋に上がり込んできて、生地を作り始めた。悪意や下心などは丸でなく、親切心……というより、こんな料理下手にやらせられるかというピュアな気持ちで、上がり込んできたようだ。
「ねえ、ちょっと量多くない?」
「ある程度の量を作らないと、一定以上の味が出ないんだ」
「でもね……」
 そこにメールが入った――友だち連れていくから、一食分多目にお願い――

 けっきょく、わたしの友だち春奈と、宗司、お隣の木下クンまで入って賑やかな初晩ご飯になった……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・57『でんでらりゅうば』

2018-10-22 06:44:16 | ボクの妹

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妹が憎たらしいのには訳がある・57
『でんでらりゅうば』
    

 

――しばらく様子を見る――

 二日後にユースケに宛ててメールを打った。当然、となりの木下クンのPCを中継しているのでメールの出所は分からない。

――さすが甲殻機動隊。発信源も分からないし、着信履歴も残らないな――

 折り返し、ユースケからメールが来た。ユースケも、なかなかやるもんで、発信はペンタゴンになっていた。もっとも原文は――バグダッドは快晴、雲一つ無し――で、世界中に駐留するアメリカ軍、関係施設に一斉送信され、そのどこかのCPをハッキングしているCPをいくつも経由して、木下クンのCPに入ってきたものだ。通信コードからペンタゴンと知れただけである。木下クンのハッキングは秒単位で移動して、しかも痕跡を残さない。ペンタゴンも、軍の情報局も、甲殻機動隊でも見抜くことはできないだろう。

 どうせ、腰を落ち着けるなら、適度なPCマニアの側がいいだろうぐらいのネライだったが、大ヒットだった。

 その週のうちに国防省で佐官級の人事異動が小さなニュースになった。表向きは、極東アジアの警備の都合ということであったが、裏にグノーシスの権力闘争があることは、わたし(真由=ねねちゃんと俺の融合)も優子(幸子と優奈の融合)も分かっていた。対馬に移動した佐官二名がウミドリ(オスプレイの発展系)の不時着事故で死亡している。
 ユースケからの連絡も――連絡あるまで待機――のメールを最後に途絶えた。ちなみに、このメールはあるタレント政治家が、愛人に宛てた――しばらくいけない。愛してるよ――に偽装されていた。このメールは週刊BSにも流れ、その週の最大のスキャンダルになった。これはユースケのちょっとしたウサバラシだろう。

 わたしたちは、思いがけず、平穏な女子大生生活を送ることになった。わたしは国文、優子は史学科だった。こないだまで女子高生だったけど、義体なもので、N女子大の学生としては、中の上ぐらいの能力設定にしてある。また、それに合わせて生体組織も変態させ、プラス四歳。胸も念願のCカップにした。

 国文の講義で、こんなことがあった。

 講義中に、わたしの足もとに消しゴムが転がってきた。斜め後ろの席で小柄なショートヘアがキョロキョロしている。
「これ、あなたのでしょ?」
「あ、どうも」
 これだけの会話だったけど、なんだか友だちになれそうな気がした。

「さっきはどうも」

 講義がが終わると、その子はちょこんとお辞儀をした。
「あなた、長崎の人でしょ?」
「え、分かります!?」
「なんとなく。よかったら学食でお昼でもどう?」
「は、はい」 
 その子は、弾けたような笑顔になった。

「真由さん、こっちこっち!」

 手際よく、その子は学食の席を二つ確保した。わたしは、まだこの子の名前を知らない。「わたし、渡辺真由。名古屋から……」
 そこまで言うと。
「取りあえず、席キープしてきます!」
 そう言って、ショートヘアをフワフワさせて学食へまっしぐらに駆けていった。

「あ、まだ自己紹介もしてませんね!?」

 それまで、東京に越してきたカルチャーショックについて、ほとんど一人で喋っていた、その子のスイッチが切り替わった。
「わたし、川口春奈っていいます。真由さんがN女にきて最初の友だちです」
 そう言って、特盛りのエビカツカレーの、最後のお楽しみに取っておいたのだろうエビカツの尻尾を美味しそうにかみ砕いた。
「友だちだったら、さん付けはよそうよ真由・春奈でいこうよ」
「え、いいんですか?」
「ってか、友だちなら、それが自然じゃない?」
「じゃ、真由……さん(n*´ω`*n)」
「ハハ、ボチボチいこうよ」
「デザート、なにか食べます?」
「じゃ、イチゴのショ-トにコーヒー」
「承知!」
 春奈はすっとんで、デザートをあっと言う間に確保してきた。わたしは、お金を渡しながらタマゲタ。春奈のデザートは、大盛りのかけそばだった。
「春奈、よく食べるわね!」
「エネルギー効率が悪いの」
 そう言うとサロペットのボタンを外すと、七部袖のTシャツを脱いで、勢いよくキャミ一枚になった。小柄だけど均整のとれた体だと思った。
「もう一杯、なんか飲もうか。わたしおごるから」
「嬉しい、じゃ、ジンジャエール。大……ごめんなさい」
「いいわよ、わたしも、それにしようと思っていたから」
 わたしは、義体のわりには要領が悪く。直前に三人組に入り込まれ少し遅れた。席に戻ると春奈が、何やら手で遊んでいた。
「なにやってるの?」
「あ、えへへ(〃´∪`〃)ゞ長崎の手遊び」
「それ、大昔、テレビで見たことある」
「ほんと!?『でんでれりゅば』っていうのよ」
「わたしにも教えて!」
「簡単よ、こんなふう『でんでれりゅうば、でてくるばってん、でんでられんけん、でてこんけん、こんこられんけん、こられられんけん、こ~ん、こ~ん』やってみて!」
 歌に合わせて、右手のグーと親指、人差し指と小指を交互に拍子を取るように左の手のひらに打ちつける……案外むずかしい。
 わたしは、あえて義体の能力を閉じて、人間の能力でやってみた。
「だめだね、こうだってば……」

 この人間らしいもどかしさが、とても愛おしく思えた……。
 

 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・56『となりの木下クン』

2018-10-21 06:58:04 | ボクの妹

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妹が憎たらしいのには訳がある・56
『となりの木下クン』 
    

 

「ハナちゃん、名古屋ナンバーに変えて」

『なに、企んどりゃーすね、怪しいてかんわ♪』
 ハナちゃんは、古典的な名古屋弁で冷やかしながら、ナンバーを変えた。
「大阪出身じゃだめなの?」
 急な変更にわたしは戸惑った。
「念には念を。パパが用意してくれたIDの信頼性は高いけど、万一ってことがあるから」
「さすが、甲殻機動隊副長の娘ね」

 わたし達はN女子大に近い神楽坂の若者向けのマンションの住人になった。

 不動産屋には女子学生専用のを勧められたが、わたしと優子(幸子と優奈の融合)は、あえて普通の中級チョイ下のマンションを選んだ。同郷の女子大生が住むのには、ワンル-ムのマンションよりは、この程度のマンションをシェアして借りた方が自然だと思ったからだ。それに隣人がぴったりだった 

「隣りに越してきましたものですが、ご挨拶にうかがいました……」

 しばらくすると、Tシャツにヨレたジーパンの若者がドアを開けた。
「あ……ども」
 不器用な挨拶だったけど、脈拍、呼吸、瞳孔を観察すると、一瞬で二人に興味を持ちすぎるほどに持ったことが分かった。
「わたしが大島、こちらが渡辺っていいます。今まで学生用のワンル-ムに居たんですけど、不経済なんで、二人でいっしょに住むことにしたんです」
「ひょっとして、N女子?」
「ええ、木下さんは……W大ですか?」
「ええ、まあ、在籍は。お二人は地方から?」
「ええ、名古屋です」
「まだ西も東も分からなくって……」
 優子が粉をふる。木下は、すぐにひっかかった。
「そりゃ大変だ、よかったら上がりませんか。近所の情報レクチャーしますよ」
「どうしよう……」
  

 駆け出しの女子大生らしく、ためらってみせる。

「じゃ、ちょっとだけ」

 呼吸を合わせて、自然なかたちで上がり込む。

 駆けだし女子大生らしく興味深げに部屋を見渡す。見渡すまでもなく、このマンションに来たときから、この部屋のことは調べ済みだ。
「あ、お茶入れますね。こう見えても実家は静岡でお茶作ってるんで、ちょっとマシなお茶ですから」
 そう言いながら、木下は自然に寝室のドアを閉め、お茶を入れ始めた。キッチンと、こっちの部屋はやもめ暮らしにしては整理されていたが、寝室はグチャグチャで女の子に見せられないものもいろいろある。
「東京に居てなんなんですけど、引っ越しのご挨拶の人形焼きです。どうぞ」
「ああ、こりゃ、お茶請けにぴったりだ」
「木下さんの部屋って、なんだかパソコンやらIT関連の機械が多いですね」
「趣味と実益兼ねてるんじゃないですか?」
 と、くすぐってみる。
「いやあ、鋭いな大島さんは。ネット販売の中継で小遣い稼ぎ程度ですけどね」
 触法ギリギリの商品の出所をごまかして、けっこうな稼ぎをしていることは、スキャニング済みである。
「スマホあります? この街の情報コピーしてあげますよ。あ、危ないウィルスなんか付いてませんから。でも、一応スキャンしてから入れて下さい」
 木下は、ケーブルを取り出すと、パソコンとわたしたちのスマホを繋いだ。
「大丈夫、安全マーク出ました」
「よかった。じゃ、送りますね」

 ソフトそのものは大したもので、神楽坂界隈からN女子、W大近辺のお店の情報やら、お巡りさんのパトロールのルート、果ては、界隈の犬猫情報まで入っていて、かわいい犬猫ベストテンまで付いていた。

「タッチすると、さらに細かい情報が出てきます」
 木下が、ある犬をタッチすると、飼い主から、お散歩ルートまで分かる。
「わあ、かわいい!」
 優子がブリッコをする。このソフトを人間に当てはめれば、人間の情報まで取り込めるということであることは当たり前である。実際木下のオリジナルのソフトには組み込まれている。また、木下のパソコンに繋いだ時点で、スマホは木下のパソコンで自由に閲覧できるようにされている。それも、わたしたちは承知であった。
 あとは、近所やら、互いの大学のいろんな話をして、一時間近く過ごし、程よいご近所になって部屋に戻った。

「あの人使えそうね」
 わたしが、そう言うと優子は声を立てて笑った。
「ほら、これが今の木下クン」
 優子がスイッチを入れると、テレビに木下の部屋が映った。なにやら、パソコンをいじっている。
「画面が見えないなあ」
「これで、どうよ」
 画面が、飛行機のように揺れて画面のアップになった。わたしたちの部屋が映っている。ただ現実のそれとは違って荷ほどきをやっている。
「よくできたダミーじゃない」
「これから微調整。彼がかましたソフトは、わたしたちのみたいに優秀じゃなくて、解像度悪いから、それに合わせるのが、ちょっと大変」
 木下が感染させたウイルスは、わたしたちの部屋中のセンサーやコントローラーをカメラにする機能が付いている。つまり、この部屋に何十個も監視カメラをつけたようなものである。
「木下クンの努力に合わせて、オートにしときゃいいじゃない」
「だって、お風呂の人感センサーや、トイレのウォシュレットにも付いてるんだよ」
「いいじゃない。全部ダミーの画像なんだから……って、今わたしをお風呂に入れる!?」
「いいじゃん、ダミーだから」
「あのな(#ToT#)」
「それより、こっちのモスキートセンサーで、よーく調べなきゃ……」
「ちょっと、脱衣場の感度下げてよ!」
「へいへい……木下クン悲しそう……でも、彼のネットワークはすごいわよ。10の20乗解析しても、情報の発信元が分からなくなってる。これを何十億ってCPかましたり、なりすましたりしたら、発信元は絶対分からないわよ」
「じゃ、そろそろリンクしますか」
 優子がリンクボタンをエンゲージした。

――どこに行ったんだ。連絡が欲しい。ユースケ――

 いきなり、ユースケのメールが入ってきた。
「わ、いきなりだ!」
「大丈夫……世界中のCPに無作為に送っている。こっちはキーがインスト-ルされてるから、解読できてるの。ユースケには分からないわ」
「そう、でも気持ちは落ち着かないわね」
 優子は、少し不安顔になった。しかたがない。つい最近ユースケと渡り合ったところなんだから……で、横のモニターを見るとダミー画像のわたしは、非常にクリアーな映像のまま浴室に入っていくところだった。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・55『メタモルフォーゼ』

2018-10-20 06:29:43 | ボクの妹

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・55
『メタモルフォーゼ』 
    


 アズマのセダンに変態させたハナちゃんを三ヶ日のインターチェンジに入れた。

 わたし(ねねちゃんと俺の合体)と、サッチャン(幸子=ボクの妹)は、信太山駐屯地にあるシェルターを出発して東京を目指した。三ヶ日を過ぎると検問があるので、このインターチェンジで、これからの行動を考えながら当面の対策を練っている。
「ウナギの焼きお握りたまら~ん」
 サッチャンが優奈の顔で、目をへの字にした。
「義体にしては、よく食べるのね」
 わたしは天蕎麦のエビ天の尻尾をポリポリ囓りながら言った。えびせんのような香りが口の中に広がる。サッチャンは、とっくにそれを食べて、三ヶ日名物のウナギの焼きお握りたまら~ん状態。
「優奈ちゃんに変態したところだから、生体組織に栄養がいるのよ。それに東京での生活の準備あれこれに頭使ったから。ほらこれが、ねねちゃんのID……」
 サッチャンが、スマホにケーブルを繋いで、情報を送ってきた。
「え、わたし渡辺真由!?」
「わたしは大島優子。二人とも親が熱烈なAKBファンだったってことになってる。N女子大のちょいワル女子学生……以下了解?」
「インスト-ル終わり。長期戦覚悟ね」
「そうならないように願ってるけど、いくよ真由」
「へいへい」

 浜松市の外れまで来たときに、検問にかかった。

「この先10キロのところで、ロボットが暴走して、軍と警察車両以外は通行止めです。一般道に降りて迂回願います」
 警官の誘導で一般道に降りた。要所要所に警官は立っており、複数の一般道に誘導していた。五カ所目からは、国防軍に替わった。どうやらロボット兵のようだ。
「この道を、まっすぐ行くと、東名にもどれます」
 ロボット兵は、そう言ったが、後続の車はしばらく停止させられ、見えなくなってから別の道に誘導されていた。
『どうやら、ハメられたようですね♪』
 ハナちゃんが楽しそうに言った。
「そのようね、でもハナちゃんは大人しくしていてね」
『えー、つまんないな』
「ハナちゃんは大事な隠し球なの」
『ええ、そうなんですか。なんだか照れちゃう♪』

 そのとき、目の前にトラックに変態していたと思われるロボットが二体地響きをさせて降下してきた。

「真由(ねね)、こいつら情報とりながら仕掛けてくる。手の内は見せないで、一気に倒す……最初に、通信回路をブレイクして」
「言うには及ばないわ」
 わたしたちは、同時にハナちゃんから飛び出した。ハナちゃんは普通のアズマのセダンのように、オートで退避した。いきなりスキャニングパルスを感じた。
「こいつら、義体を探してるんだ!」
 二人はロボットの股ぐらにしがみついた。衛星の映像で、こちらのスペックを知られないためだ。背中づたいに首筋まで上り、グレネードレーザーで首筋に穴をあけ、手を突っこんで、通信回路を基板ごと引きちぎった。これでこいつから情報を送られることはない。
 ロボットも大人しくはしていなかった。ジャンプすると背中から落ちて、わたしをペシャンコにしようとした。その時偶然に振り落とされたように見せかけ、うつ伏せに倒れた。気を失ったフリをしていると、足で踏みつぶされそうになり、横っ飛びに跳んで優子と入れ違い、戦う相手を替えた。交差するときに手話で情報を伝えた。
 互いのロボットの首筋につかまると、グレネードレーザーで開けた穴にケーブルを突っこみ、バトルセンサーに細工した。エネミー認識をロボットにしたのだ。
 二人が離れると、二体のロボットは互いを敵と認識して戦い始めた。同じスペックのロボットだったので、勝負は、あっと言う間に相打ちに終わった。

 ハナちゃんが戻ってきて他の一般車両に混じった。

 東名の本線に戻ると、検問所で、同じアズマのセダンが次々に止められていた。
「わたしたち、引っかからないわね」
『型番を型オチにして、シリアルを、同型のアズマにシャッフルしておきました♪』
「同型って、どのくらいあるの?」
『国内だけで45万台はありますう。そのユーザーと、その知り合い……ちょっと天文学的数字になりますね♪』
「アハハ、ハナちゃんやるう!」
『それよりも、お二人義体丸出しですから、その対策を』
「拓磨の義体が使ってたバージョンアップのコードがあるわ。これで誤魔化そう」
「そうね、ユースケに見つかるまでの偽装になればいいんだしね」

 そうして、東京につくころには、N女子大の大島優子(幸子と優奈の融合)と渡辺真由(ねねちゃんとボクの融合)になりおおせていた……。


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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・54『羊水の中の俺』

2018-10-19 07:12:07 | ボクの妹

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妹が憎たらしいのには訳がある・54
『羊水の中の俺』 
     


 俺は特大の胎児のサンプルのように羊水の中に浮かんでいた。

「今度の任務は長くなりそうだから、羊水保存させてもらったわ」
 水元中尉が、まるで熱帯魚の移し替えをやったような気楽さで言った。
「おもしろかったわよ。みんなでお兄ちゃんのこと裸にして、エイヤ、ドッポーンってこの羊水の中に放り込んだの。頭の中身はそっちに行ってるはずなのに、裸にするときは嫌がってね。パンツ脱がせる時は一騒動だった。ねえ、チサちゃん」
「知りません、わたしは!」
 チサちゃんは顔を赤くして、あさっての方を向いてしまった。その後ろでは、親父とお袋がいっしょに笑っている。
「ほ、ほんとに自分たちでやったの!?」
 ねねちゃんの中に入っている俺の自我が、ねねちゃんの声で、そう叫んだ。
「チサちゃん、あそこつまんで、まるで眠った親指姫みたいだって」
「そ、それはあんまり……」
「そんなことしてませーん!」
 チサちゃんがムキになる。幸子が小悪魔に見えてきた。
「素人じゃできません。専門の技官が、やりました。サッチャンは冗談を言ってるんです」
「なんだ、そうか……」
「ただ、法規上、身内の方には立ち会っていただきましたけど」
「なんだ、そうか……って、みんな見てたの!?」
「うん。だからチサちゃんは、親指姫みたいだなって」
「わたしは、身内じゃないから見てません!」
「冗談です。大事なところは見えないようにしてやりましたから」
「じゃ、親指姫って?」
「親指のことよ。ほら、今だって、手は握ってるけど、親指は立ててるじゃない」
「ハハ、幸子の仕返しよ。いつもメンテナンスで太一には、その……見られっぱなしでしょ」
「それは、必要だから、やってることで……」
 俺の半分のねねちゃんが、あとを言わせなかった。

「大部隊の行動では目に付く。当面は二人でやってもらう」

 里中副長の意見で、東京に出撃するのは、わたし(ねね)と幸子になった。
「えー、わたしは、ここで毎日お兄ちゃんの餌やりしようと思ったんですけど」
「これは、並の人間じゃ勤まらない。戦闘用の義体でなくちゃな。それにねねは、向こうの信用も得ている。幸子クンは、その顔ではまずい。優奈クンに偽装してもらおうか、若干意表はつくが、ロボットのユースケを信用させるのには一番の偽装だ。向こうの世界から送り込まれた義体情報をヤミで流しておく」
「でも、国防軍の中枢だから、こちらから流した情報は、解析されれば分かってしまうでしょ」
「チサちゃんに、ほんの数分向こうの世界へ戻ってもらって流してもらう」

 その夜、チサちゃんは、詳しい事情も知らされないまま、向こうの世界に送られた。

 スマホで、向こうの古いエージェントに、暗号化した情報を流すためだ。
 チサちゃんは、元々は向こうの世界の幸子なので、短時間なら、痕跡も残らない。向こうのグノーシスはナーバスで、こちらの人間が向こうにいくとすぐに、その兆候が分かるようになっている。二三分なら個体識別まではできない、チサちゃんは、ちょっと表でスマホをかけたと思ってもどってきた。
「これでよし。移動は高機動車のハナを使え、鹵獲されたことにしておく」
『え、わたし鹵獲されちゃうんですか!?』
 部屋のスピーカーからハナちゃんの声がした。
「おまえ、どうしてこの部屋が分かった!?」
『わたしは、優秀なアナライザーでもあるんです。この真田山駐屯地のことは、一般隊員のグチまで分かります』
「司令に注意しなくちゃいかんな」

 と言うわけで、わたしとサッチャン、いや、優子はハナちゃんに乗って、その夜のうちに東京を目指した。ブラフではあるけど、もう一度ユースケたちを疑ってみるところから始めた……。


 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・53『The Father』

2018-10-18 06:53:26 | ボクの妹

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が憎たらしいのは訳がある53
『The Father』 
     

 

 ユースケは、あろうことか国防軍の戦闘指揮車に変態して、わたしを送ってくれた。

「先ほど連絡した国防軍の者です。お嬢さんをお連れしました」
 インタホン越しにロボット兵が言った。さっき、ねねが破壊した拓磨の義体からでっちあげたリモコンの兵士だ。むろん操作をしているのはユースケである。
「世話になった、そこからは娘一人で来させてくれ」
「は!」

「一応スキャニングする」
「はい」
 里中副長は、スキャニングのボタンを押した。マンションの部屋の入り口そのものが、スキャナーになっていた。
「オールグリーン。本物のねねだな」
「今日は疑われっぱなし」
「だいぶビビットなコミュニケーションだったようだな」
「おかげで……」
 ねねは、首筋のコネクターと、父のブレスレットアナライザーとをケーブルで結んだ。
「……国防省の中枢に100人ほどか。AGRとは別の動きだな」
「こちらのグノーシスでヘゲモニーを握りたいみたい。最終的にはサッチャンが完全に起動する前に破壊して、向こうの世界との連結を切断、何十年か独自の発展を図るつもりみたい。なんせ、向こうは極東戦争を相当こじらせているみたいだから、向こうのグノーシスにも、かなりシンパがいるみたい」
「厄介だな。とりあえずは、そいつらを潰さなきゃならんか……辛いなねねは、しばらくそいつらの味方のフリをしなくちゃいけないんだな」
「鳩尾にコネクターがあるとは思わなかった。幸いディフェンサーが、ここにあるから、出力を押さえてコネクターの代用にしたけど。その間、わたしは完全に無防備。トンカチの一発でおだぶつ」
「じゃ、急いで、コネクターを付けよう」
「えー、また体を切り刻むの。わたし一応女の子なんだけど」
「なあに、ほんの5ミリほど切るだけだよ。ねねの体なら三日で快復する。さあ、胸を見せて……」
「ついでにさ、胸のサイズDカップにしてくれないかなあ。Cでもいいわよ。体育の着替えのときなんか肩身がが狭くってさ」
「う~ん。ねねの体格とDNAなら、このサイズだ」
「でもさあ!」
「どうも、太一の心をインストールしてから、ねね変だぞ」
「あ、それって太一のこと変態って言ってるようなもんだよ。今のわたしの心の半分は太一なんだからね」
「悪い意味じゃない。オレも、こういうねねは嫌いじゃないからな」
「もう、ごまかして!」
「……若いころのママそっくりだ」
「懐かしむのはいいけど、胸揉むの止めた方がいいよ。なんだか変態オヤジみたい……」

 バカみたいな会話だったけど、あとの戦闘で振り返ると、とても懐かしい思いでになった。サッチャンだって、こういう機能……いいえ、心を持っているんだから解放すればいいんだろうけど、あの子の回復には、二つのパラレルワールドの運命がかかっている。今のサッチャンの頭には優奈って子の脳細胞が入っている。それで、サッチャン自身が心を解放しなくても、人間らしい感情を表現できる。でも、その表現は優奈の心なんだよね。優奈も太一のことが……いけない、わたしの心の半分は太一だ。考えただけでドキドキする。

 それにユースケもかわいそう。

 だって、優奈が太一のこと好きだって分かってたから、自分の気持ちは殺したまま目の前で優奈が酷い殺されかたして、その悲しさと、恨みごとイゾーってロボットにとりこまれて。だから、せめて、あのロボットのことはユースケって呼ぼう。そして、みんなが救われるような道を必ずさぐるんだ。

「ねね、なに泣いてるんだ?」

 気がつくと、パパは、鳩尾のコネクターの取り付けも、傷の縫合も……メンテナンスまでやってくれていた。パパにしてもらったのは久しぶり。頬が赤くなる。パパはきまり悪そうにドレーンを巻きながら部屋を出て行った。手にした使用済みの洗浄液は真っ黒だった。ここまで痛めつけていたことを、自分でも知らなかった。
「おやすみ、パパ」
「あ、ああ」

 人間になりたい。そんな気持ちが湧き上がってきて、頭から布団を被った……。

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『高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・52『拓磨クン!?』

2018-10-17 06:51:42 | ボクの妹

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が憎たらしいのは訳がある52
『拓磨クン!?』 
     



 事件は、その日の放課後にやってきた……。

「ちょっと、道が違わない、拓磨クン?」
「下水道工事で、いつもの道は通られへん。外環に出て、ちょっと大回りするわ」

 たしかに、カーナビには工事中通行止めのサインが出ていた。回覧板の記録と照合したが、隣の町内会のことなので、記録がない。半信半疑のまま助手席に座り続ける。
 交差点を左折して妙な振動を感じた。道路は平坦なのに、体の感触は僅かに車が乗り上げた感触がしたあと、緩い坂になり、すぐに車は停車した。でも窓から見える景色は、外環を外れた国道○号線のそれだった。左側にはコンビニ、右側は、回転寿司と焼き肉チェーン店。ときどきパパと来る店であった。

 拓磨が、ドアを開けて車から転がり出た。わたしはシートベルトを外すのに0・5秒遅れた。
 車から出て驚いた。そこは大きな倉庫の中であったのだ。

「窓ガラスに、ダミーの映像をかましたのね」
 倉庫の割に声が響かない。高度な吸音処理が施されているようだ。
「おまえが、こっち側のねねちゃんかどうか、確かめたかったんでな」
「あなた、拓磨じゃない……義体なの?」
 拓磨が、あいまいに笑うと、後ろのフォークリフトがガシャガシャ動きだし、三秒ほどでロボットに変身した……おそらく、祐介を取り込んだロボットだ。わたしは、程よく驚いておいた。
「ユースケ?」
『ああ、潜入させておいたねねかどうか確認したいんでな』
「リンクすれば済む話でしょ」
『ああ、普通ならな。だけど、敵も味方も技術が向上している。現に、おまえは拓磨が義体だとは見抜けなかっただろう』
「それくらいは、言ってくれてもいいんじゃない。CPがバグりそうよ」
『そんなタマか、もし、おまえがこちら側のねねならな。それに……』
「なによ」
『里中のところで上手くいきすぎている。あの里中が全く気づかないのが不自然だ。じゃ、確認しようか』
 拓磨の義体が迫ってきた。
「ちょっと乱暴だが、辛抱してくれよ……!」
 拓磨とは思えない敏捷さで襲いかかってきた。その時点で、この義体のスペックは分かったけど、知らないふりをした。二度跳躍したところで、右手首のグレネード銃を解放し、至近距離で拓磨の頭を粉砕した。拓磨は首のないまま、二三歩前進し、ドウっと倒れた。
「義体化のスペックは高いようだけど、戦闘能力はスタンダードね。さ、早いとこ情報交換しましょう。ケーブルを寄こして」
 すると、後ろから急に羽交い締めにされた。首のない拓磨が、わたしを締め上げてきた。
『そいつのCPは、胸にある。タクマ、うちのねねなら、胸骨の鳩尾のところが本物のコネクターだ』
 首無しタクマは、下着ごと制服の前を引きちぎり、わたしの胸を顕わにした。ケ-ブルが伸びてきて、鳩尾のところでコンタクトした、

 一瞬意識が飛んだ。

『間違いない、うちのねねだ。里中は入れ違っていることには気づいていないようだな』
「それを確認するためだけに、こんなことしたの?」
『ああ、これがオレのやり方だ』
 わたしは、解放したままの右手首のグレネード銃で、タクマの胸に風穴を開けた。タクマは仰向けに倒れ、完全に……ブレイクした。
「これが、わたしのやり方。義体でもセクハラは死刑よ!」
『その右手首の傷の言い訳を、考えなきゃな』
 内蔵のグレネード銃を使うときは、手首を270度曲げ、銃口を出す。そのために生体組織である皮膚は、破れて傷になる。現にブラウスの袖口は血に染まっている。
「恋に破れてリストカット……笑うことないでしょ。正直に言うわよ。あんたたち不貞グノーシスと出会って、遭遇戦になったって……なにすんのよ!」
 一瞬バレたかと思った。ユースケのレーザーがスカートごと、わたしの太ももをかすめた。
『遭遇戦をやっていたら、これぐらいの傷はあったほうが自然だろう……』

 それからユースケとは、ケーブルをつないで、情報をやりとりした。

 反乱組のグノーシスの全容が分かった。そして、ユースケの攻撃方法も。合理的ではあるが、残酷な方法であった。どうも、優奈を、あんな形で失ったことのショックが反映されているような気がする。数秒で三百回ほどシュミレーションをやって、一番人を殺さずに済む方法を二人で考えた。むろん、わたしの作戦はユースケを信用させるためのダミープラン。だが、ある線までは、ユースケと行動を共にしなければならないとも覚悟した……。

 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・51『テイクオーバー』

2018-10-16 06:56:54 | ボクの妹

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・51
『テイクオーバー』 
     



 三日と持たない……里中副長は思った。

 グノーシスが送り込んできたねねは、シリアルもオリジナルと同じで、昨日のスニーカーエイジまでのねねのメモリーは完ぺきにコピーされていた。だから、里中副長がニセモノと気づかなくても不自然ではない。
 しかし、里中副長は、自分の住みかをプライベートとアジトに分けていた。
 プライベートにも、ある程度の機密があり、軍や甲殻機動隊ともリンクしているが、ほんの日常的なアクセスしかできないようになっている。万一のためにダミーの戦闘詳報や、機密情報をカマシてはあるが、ねねが気づくのは時間の問題だろう。

 三日目、その時がやってきた。

 ねねの母親・里中マキ中尉の記憶は、レベルCの機密にしてあり、普段のねねは、それを認識してはいない。母親はずっと昔に亡くなったと思っている。先日太一をインスト-ルして母の死を看取り、国防省で的場大臣をコテンパンにしたことは記憶から抜いてある。それを、このねねは知ってしまった。
「ママは、ついこないだ、わたしの腕の中で死んだのね。わたしはママのバトルスーツを着て、国防省で……」
 ねねは涙を流していた。そしてCPの中で、全ての情報と照合し、矛盾がないか確かめている。
「ねね、辛い思い出だから、機密にしておいたんだ。でも、やはりねねには自我がある。どうしても見つけてしまうんだね。かわいそうに……」
 里中副長は、そっとねねの肩に手をやり、さりげなく親指で、ねねの首筋に触れた。ねねのCPの中で解析が進み、その情報が圧縮されて外部に転送されているのが分かった。転送先は、様々なCPを経由して分からなくしてある。第一級のハッカーの手口であるが、その先は祐介を取り込んだグノーシスのモンスターであっろうことは想像がついた。

 ねねの肩に置かれた里中副長の手に、一回り小さな手が重なった。

 ねねの体から、電池の切れたロボットのように力が抜けた。里中副長は、ねねをゆっくりとソファーに寝かせた。
「ノイズ一つたてずに、テイクオーバーできたわ。この子のCPは、完全にブロック。もう指一本も動かせないわ」
 もう一人のねね、つまり太一と同期したわたしが言った。
「すぐに、このねねの服と着替えるんだ。下着から全てな。痕跡は残すな」
「はい」
 わたしは、動かなくなったねねの義体から服をはぎ取ると、素早く身につけた。
「この下着の繊維、3度以上感知体温が変化すると、アラームが転送されるようになってる。警戒していたみたいね」
「それじゃ、風呂にも入れないじゃないか」
「今日一日の処置。敵も今日あたりが危ないと思っていたみたいよ。この義体は処分ね」
 わたしは、義体をシュラフに入れた。
「待ってくれ、もう、ねねの義体を処分するのは三度目だ……」
「情が移っちゃった? そういうパパ好きよ」
「……今の義体が破壊されたら、すぐこいつにテイクオーバーできるようにしておけ」
「鹵獲兵器の再利用ね」
「デスストックになることを祈ってるよ」

 そこに、我が崇拝者の青木拓磨からメールが来た。

「フフ、ぶっそうだから学校まで送り迎えしてくれるって」
「気を付けてな」
「はーい、じゃ、行ってきまーす!」

 マンションの前を南に行った角で拓磨の車が待っていた。
 一応、義体反応をチェック。パッシブだから、気づかれる心配も無し。反応はグリーン。
「どうも、お世話かけます」
 親しき仲にもナントカ。ちゃんとお礼は言っておく。一応崇拝者だけど、野獣に変わらないためのオマジナイはかけておく。前のこともあるしね。

 事件は、その日の放課後にやってきた……。


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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・50『ねねちゃんとの同期』

2018-10-15 07:14:12 | ボクの妹

 

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が憎たらしいのには訳がある・50
『ねねちゃんとの同期』
    



 幸子の股間からドレーンをそっと引き抜き「ディスチャージオーバー」と呟いた。

 いつもなら、これで憎たらしいニュートラルモードになるのだが、どうも様子がおかしい……。
 幸子は、脚こそ閉じたが、裸のままベッドに横になっている。表情もなく、呼吸のギミックも始まらない。

「幸子、幸子、どうした……?」
 幸子の体内から抜き出した洗浄剤は、時間のたった血液のようにどす黒かった。
「これはひどい……もう一度メンテナンスやり直そうか?」

「その必要は無い」

 幸子は、無機質に答えた。でもニクソクはなかった。なにか、とても大きな心のうねりを必死でおさえ、平静さを保とうとしているように思えた。
「幸子……」
「わたし……ニュートラルよ」
「でも、様子がおかしいよ」
「それは、耐えているから……」
 幸子の目から、一筋の涙がこぼれた。そして、堰を切ったように溢れ出した。
「幸子!」
 ボクは、慌ててタオルで拭いてやろうとした。すると急に幸子は、ボクの胸にすがりつき、嗚咽しはじめた。
 頬をすり寄せてやると、幸子の涙は、ちゃんと涙の味がした。
「わたしが、わたしを取り戻したら、二つの世界が壊れてしまう!」
「それは、ただの仮説だろ。それに、世界が壊れる気配なんか、これっぽちもしないぞ」
「違うの、これは違うの!」
「違わないよ、やっと幸子は自分を取り戻したんだよ。だから、こうして……」
「これは、優奈の前頭葉を取り込んだから……」
「優奈の……」
「わたし、優奈が狙撃されてバラバラになった直後、無意識に優奈の脳組織の断片を探したの。2秒で、ほとんど傷ついていない前頭葉と扁桃体の一部を発見して、わたしの体に取り込んだの」
「優奈を取り込んだ?」
「わたしのここ」
 幸子は、自分のオデコを指した。
「ここに、わたしの脳組織といっしょに保存してある。最初は、なんのためだか分からなかった。今は、はっきり分かる。優奈の義体が用意されれば、そこに移植して優奈を復元できる。その可能性のために、わたしは優奈の前頭葉を保存したの」
「そんな能力が幸子にあるのか!?」
「まだ、わたし自身気づいていない能力があるかもしれない……その一つが、今のわたしよ。今のわたし、憎たらしくないでしょう」
「ああ、こんな人間的な幸子を見るのは初めてだ……」
「どうやら、優奈の脳で取り戻した人間性では、世界は破滅しないみたい……よかった!」
 幸子は、ベッドから飛び出して、テーブルの上のテレビをつけて、チャンネルをいろいろ切り替えた。
「スニーカーエイジのニュースはやってるけど、他に変わったことは無さそう。パソコン見てみよう」
「幸子、ほんとにニュートラルなのか?」
「そうよ、嬉しいでしょ?」
「ああ、だったら、服を着た方が……」
「……あ、お兄ちゃんのエッチ!」
 ボクは、部屋を放り出されてしまった……。

「水元中尉を紹介しておく」

 晩ご飯のときに、里中副長が、女性将校を紹介した。軍人らしからぬ気さくなオネエサンだ。
「みなさんのお世話をさせていただきます。場所柄軍服を着用していますが、気軽にマドカって呼んでください」
「お父さん、他にも、なにか大事なことがあるわね」
 ねねちゃんが見抜いた。
「今から言うところだ。これを見てくれ……」
 モニターには、マッチョな戦闘ロボットが映っていた。
「味方のグノーシスから得た資料だ。義体ではなくロボットだという点に注目してほしい。戦闘機能と情報収集、総合指令機能も持っている。なりふり構わぬ高機能だ。攻撃能力は優奈クンを狙撃したイゾーの能力がベースになっている。そして、全体の管制機能は、ここにある」
 アップされたモニターには、ロボットに同化された祐介が写っていた。
「これは……」
「ケイオンのメンバーの倉持祐介クンだ。彼は隠していたが、優奈クンが好きだった。その優奈クンが目の前で爆殺されて、彼の心は怒りで一杯だ。それを奴らは利用した。この戦闘ロボットの本体は、こっちの世界で作られたものだ。義体では、向こうの世界が進んでいるが、こういうロボットは、こっちの方が進んでいる」
「この祐介が、敵に回るんですか?」
「今は、祐介クンとの同期に時間がかかっているが、戦力化は時間の問題だ。そこで、我々も手を打つことにした。太一、もう一度ねねに同期して、こいつを撃破してもらいたい」
「え、これで三度目ですよ」
「いいや、今までは単なるインストールだったが、今度は同期だ。意識の主体は完全なねねと、太一の同化したものになる。やってくれるね?」
「あの、わたしも参加しちゃダメなんですか?」
 幸子が手をあげた。
「幸子クンは、こっちと向こうの世界を繋ぐ大事な鍵だ。危険に晒すわけにはいかない」

 ボクが、ねねちゃんに同期する寸前に、幸子は余計なことを言った。

「優奈さん、お兄ちゃんのこと愛してるよ……」

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・49『憎たらしさの原因』

2018-10-14 06:53:00 | ボクの妹

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妹が憎たらしいのには訳がある・49
『憎たらしさの原因』 
     

 

 

 里中副隊長は黙り込んだままだ。

 スニーカーエイジで、優奈が酷い殺され方をしてからの甲殻機動隊の動きは早かった。
 ハナちゃんを始め、高機動車が何台もやってきて、会場の捜索をやるとともに、ボクたち関係者をすぐに会場から連れ去った。顧問の蟹江先生には、一枚の保護令状が渡されただけだった。同じ物が、フェリペ、お父さんの職場、お母さんが仕事を請け負っている出版社にも送られたことを、移送中の高機動車の中で伝えられた。

 つまり、ボクたちは、しばらく世間から隔離されて生きていかなければならないことを示していた。

 そして、ボクたちを乗せた十台あまりの高機動車は、会場を出ると、すぐに別々の道を走り出し、目立たないトンネルや脇道に入るとステルスモードになり、数秒後には国防軍仕様の高機動車に変身。バラバラのコースで時間差をつけて信太山の国防軍駐屯地に入っていった。
 駐屯地内の二カ所の格納庫が、地下基地への入り口になっており、ボクたちは、高機動車ごと地下基地に入っていった。時間を置いて、格納庫からは国防軍の同型の高機動車が現れ、国防軍の日常業務に就いた。これで、たとえ衛星で追尾していても、ボクたちの行方は分からないだろう。

 ボクたちは、居住スペースに案内され、しばらくその共用ラウンジのようなところに留め置かれた。

 そのスペースの片隅……里中副隊長は、さっきから黙ったままだ。

 ただ一度、ねねちゃんが、自分と里中副隊長のリストバンドをラインで繋いで、情報を伝えていた。そのとき、ねねちゃんは、我々一人一人の顔も見た。ねねちゃんに同化したことがあるボクには、それが全員の健康状態や精神状態をチェックしているのだと分かった。

 やがて、壁の一角にスクリーンが現れ、女性隊員が映った。

『副長、解析が終わりました』
「どっちのグノーシスだ?」
『これをご覧下さい』
 スクリーンが、もう一面現れた。大阪府内の地図に、十数カ所のドットが点滅している。
「これが、やつらの喪失ポイントだな……レッドが二つ……向こうのグノーシスだな」
『はい、断定はできませんが、双方のグノーシスの共同戦線の可能性があります』
「全員。喪失ポイントで向こうの世界に行ってるな……」
『こちらをご覧下さい。十分前のものです。三カ所向こうからこちらに来た痕跡です。すぐにステルス化したので、現在位置は不明です』
「こちら同様、オフラインで行動しているんだな……」
『新しい動きです』
 画面が切り替わった。ボクたちの家が映し出され、今、そこに二台のタクシーが到着したところだ。

 そして、あろうことか、タクシーからは、ボクと幸子、それにチサちゃん。もう一台にはお父さんとお母さんが降りてきた。

「全員義体だな。保護令状はキャンセルされたな……」
『これからボスが、全員のマーキングをやりますので、一時画面を切ります』
「うん」
 幸子が、パッと喜びの表情になったところで、画面が消えた。
「いったい、何がおこったんですか?」
 お父さんが冷静に聞いた。
「佐伯さん、落ち着いて聞いて下さい。向こうとこちらのグノーシスの一部が連携して、幸子クンの抹殺にかかりはじめた」
「な、なんのために……」
「お父さんも、お母さんも薄々気づいておられるだろうが、十年前の事故は、仕掛けられたものです」
「やっぱり……」
「どういうことだよ、十年前って、幸子の交通事故だろ?」
「あ、ああ……」
「お辛いでしょう。わたしが代わりに説明します。太一、君の妹はブリゾン病という難病に冒されていた……ということになっていた」
「なっていた?」
「ああ、本物なら十歳までの致死率は95%。貧血、白血球の減少、突発的な発熱。そういう初期症状は、全てグノーシスのでっち上げだ。信じ込んだご両親にグノーシスは持ちかけた。『娘さんを助ける方法があります』と」
「じゃ、幸子は?」
「この世界がパラレルワールドだということは知ってるね……パラレルワールドを結びつけ、自由に行き来するためには、コネクターという特殊な能力を持った人間の存在が必要なんだ。だいたい五十年に一人、そういう人間が現れる。幸子クンは、その能力を持って生まれてきた。ただ、この力は、両方の世界を結びつけておくだけで、大量の情報や、人間、機材を送る力は無い。双方の歴史が互いに完全ではないのは、このパイプの細さに原因があると、やつらは考えた」
「新潟に原爆が落ちたり、極東戦争が遅れて起こったり……」
「他にも無数な違いがある。向こうの世界ではケネディー暗殺は食い止められている。だが人が思うほど大きく歴史は変わらない。だが、両世界のグノーシスは、幸子クンの能力を高めることで、両世界の交流をマックスにしようとした。そのためには、幸子クンを一度殺し、その能力をコンピューターに移し替え増幅する必要があった。それが幸子クンの義体化だよ」
「幸子……」
 
 幸子は、困ったような顔で、ボクを見つめていた。
 
「ただ、その能力を最大に引き出し、安定したものにするためには、皮肉なことに、幸子クンの人間的な感情を回復しなければならない。最初は仮説にすぎなかったが、念のため、幸子クンの脳細胞の一部を残しておいた。太一、君にも大きな力がある。君は、ねねのCPにさえ人間性を与えた。幸子クンの人間性がもどらないのは……」
 そこで、里中副隊長は言い淀んだ。その後を幸子が引き取った。

「わたしの人間性が回復したら、二つの世界は重なって……おそらく、両方とも消滅する」

「それも仮説だけどね、可能性はある。グノーシスもそれに気づいて、もしくは、他の理由で、幸子クンの抹殺に乗り出した」
「じゃ、甲殻機動隊のやっていることは……」
「まどろっこしいだろうが、現状の維持。そして現状を維持しながら、幸子クンの人間性を回復させる」
『副長、ボスのマーキングが終わりました』
 画像に写ったボクたちの義体の頭上には、義体であることを示すIDが点いていた。
「この映像を見たら、現物の義体を見ても見分けがつきますよ。国防軍全員のCPチップに、これをインストール」
『はい、ただちに』

 で、こちらもただちにやらなければならない事が起きた。幸子が久々のフリーズをおこしてしまったのだ……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・48『スナイパー』

2018-10-13 06:44:48 | ボクの妹

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妹が憎たらしいのには訳がある・48
『スナイパー』 
     

 

 イゾウは閉じた思念の中で装備の最終確認をした。

 義体一体吹き飛ばすのには、十分な装備だ。

 炭素繊維の短銃身のグレネードランチャー。本来ゲリラ戦の対戦車用の使い捨て武器である。イゾウはこれを二本まとめて、二発発射できるようにしていた。一発で仕留める自身はあったが、義体の脳は頭にあるとは限らない。胸や腹に仕込んだもの、中にはバックアップのCPを持っているものもあり、義体を完全に仕留めようとしたら、頭部と胴を同時に破壊しなければならない。
 今まっさかりの極東戦争でも、こういう義体には手を焼いているが。イゾウは仕留め損なったことはない。その腕を買われて、こちらのグノーシスに引き抜かれた。むろん正式にではない。今回佐伯幸子という義体が、スニーカーエイジに出るので、できるだけ派手に破壊して欲しいという要請だ。どうやら、こちらのグノーシスは結論を出したようだ。
 しかし、イゾウは、そのことに関心はない。向こうの世界で、イゾウのようなスナイパーは、南西諸島や大陸の山岳部、時に都市部でコッソリと使われ、報酬だけが与えられ、その名が世に出ることはない。
 それが、部内だけとは言え、今度の仕事は記録に残る。三万の観衆が見守る中、まるでショ-のように自分の仕事は注目される。腹の中で沸々と喜びが湧いてくるが、それは思念バリアーの中に封じてある。思念バリアーには物理的な防御力は無い。自分の思念が読み取られ、あるいはハッキングされないためのバリアーで、スナイパーには必須のものである。ただ、このバリアーの能力を最大に上げると、聴覚が低下する。視覚とスナイパーとしての能力に集中するのに都合がよく、戦場の様々なノイズを遮断するのに有効である。

 だから、午後の部開始のアナウンスは、はっきりとは聞こえなかった。

 聞こえていれば、ただちに撤収したであろう。

 ステージにターゲットが現れた。あらかじめ登録していた桃畑律子の衣装のシリアルと合致した。

 イゾウは観衆に溶け込むために、演奏にノッた。バリアーのため、歌詞の内容までは分からないが、パワーといい、エモーションといい、人の心を動かす力を十分に持っている。こういうものには素人のイゾウにもいいパフォーマンスのように思えた。

――せめて、最後まで歌わせてやるか――

 ああ ああ レイブン レイブン レイブン 傭兵少女隊……ただ今参上! 

 笑顔で決めポーズになった瞬間、イゾウはトリガーを二度引いた。
0・1秒の間隔を空けて、優奈の頭と、胴体は血しぶきをあげて吹き飛んだ。
 会場は騒然となった。
――ブラフか、ターゲットが違う!――
 そう思った瞬間、パルスレーザーが飛んできた。イゾウは磨き抜かれたスナイパーの勘で、跳躍して、会場の天井板を突き抜けた。
――しまった、こんなところに戦闘用の義体が――

 

 ねねちゃんはシーリングライトのスペースで演奏を聞いていた。

 ラストの決めポーズになって、精一杯の拍手の最初の一拍を打ったところで、グレネード弾の発射を感知した。あまりの至近距離なので、グレネード弾の破壊には間に合わなかったが、すぐに発砲者にパルスレーザーを撃った。発射位置を悟られないため、ステージ上のミラーボールに反射させた。その間0・1秒。優奈の胴体が吹き飛んだとき、そいつは天井板をぶち抜き、目の前に現れた。そいつは意図的に現れたのではなく、緊急避難としてここに逃げてきたのだろう。スナイパーらしからぬマヌケ顔にねねちゃんはパルスレーザーのパワーを最大にして撃った。イゾウは視神経が捉えた映像情報を行動に反映する前に、周囲に僅かな煤をのこしただけで蒸発してしまった。

 舞台の仲間や、観客席の前の方にいた者達は、優奈の返り血を浴びてパニックになっていた。幸子は、無意識にバラバラになった優奈の側に寄り、優奈の前頭葉の破片を探し、優奈の遺体を抱きしめるふりをして、それを飲み込んだ。なかば無意識な行動だった。
「幸子、しっかりしろ!」
 俺は、幸子が義体であることも忘れて、抱き起こした。
「優奈、優奈が……!」
 幸子は、そう叫びながら、優奈の前頭葉を喉の奥経由で自分のCPの予備スペースに保存した。幸子自身、そんな機能が自分にあることに驚いていた。

 そして、その会場にいた人たちは、認識の多寡に差はあるものの、とんでもないことが起こり始めていることを実感した……。


 

 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・47『優奈のリストレーション』

2018-10-12 07:06:35 | ボクの妹

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妹が憎たらしいのには訳がある・47
『優奈のリストレーション』 
     


 そこにはねねちゃんが立っていた……。

「これ、警察病院からもらってきたの。亡くなる前にママが、一時的に元気になった時の薬剤」
「これは……」
「優奈ちゃんにも効くわ、元々は、戦闘中に負傷した者を一時的に健常にもどし、あとで治療するためのものだから」
「じゃ、優奈ちゃん出場できるのね!」
 みんなが喜んだ。幸子も喜んだが、仕様書を読んで顔が曇った。
「1・5%の確率で効かないこともあるのね」
「……ええ、それに状態によっては、完全に戻らないこともあるわ。使うかどうかは、あなた達次第。じゃ、明日会場で見てるわ。チサちゃんも来るんでしょ?」
「うん。D列の35番。みんなそのへんよ」
「わたしも、そのへん確保しとくわ」
「でも、予約いっぱいよ」
――甲殻機動隊に不可能はないの(^▽^)🎵――
 高機動車のハナちゃんが、車体をガシャガシャ揺すって笑った。

「優奈ちゃんも飲む?」

 開演前、みんなで特製のジンジャエールをまわした。よく冷えていて、喉がスッキリする。そのみんなのスッキリ顔を見て、自分も飲みたくなったのであろう、優奈は進んで手を出した。
「ぼんど、ズッギリじまず……」
「酷い声だなあ」
「あい、おどなじぐ、ごごで見でまず( ;∀;)」
「じゃ、わたしリハーサル室行ってるね。またあとで見に来るからね」
 幸子と俺はリハーサル室へ向かった。

 そして蟹江先生と加藤先輩には、ジンジャエールに薬を混ぜて優奈に飲ませたことを伝えた。二人とも驚いていたが、喜んでくれた。
「いっしょに苦労したんや、優奈が歌うのがベストやで!」
 珍しく加藤先輩が目を潤ませた。

 会場は、午前中は、まだいくらか空席があったが、午後には強豪校の出場が目白押しなるので、満席になった。

「……わたし、声が出る!」

 午前中最後の茶屋町高校の曲は、優奈の好きな曲だったので、口パクでナゾって、気づいたら自然に歌えたのである。
「優奈ちゃん、リハーサル室へ行って!」
 チサちゃんが促す。ちょうど様子を見に来た俺といっしょになったので、足を弾ませてリハーサル室に向かった。
「なんで、そんなに楽しそうなの?」
 自分が出られることを知らない優奈には、俺は本番を前にハイテンションになったバカにしか見えなかっただろう。え、いつもバカみたいだから目立たなかっただろうって……はい、そのとおりW!

 いよいよ、ボクたち真田山高校の出番が回ってきた。

――さて、急遽予定を変更。ボーカルは、山下優奈さん回復して、もとの編成に戻り、真田山高校は審査対象になります――
 幸子の出演を楽しみにしていたファンの中からはブーイングも起こったが、概ね会場の反応は暖かかった。
――なお、終演後ファンのみなさんのため、佐伯幸子の30分ミニライブをおこないま~す!!――
 会場は、どよめきにつつまれ、あとのアナウンスは、ろくに聞こえなかった。

 そして、これが大きな悲劇を生むことになるとは、誰も気づかなかった……。


 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・46『栄光へのダッシュ・2』

2018-10-11 06:42:57 | ボクの妹

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ボクのがこんなにニクソイわけがない・46
『栄光へのダッシュ・2』 
   


 優奈が倒れた、明後日が本番という稽古中に……。

「ゲホ」と言って口を押さえた優奈の手に赤いものが溢れ、そのまま前のめりに倒れ意識を失った。
「顔を横向きにしろ、窒息するぞ!」
 蟹江先生が、すぐステージに駆け上がり、呼吸と心拍を確かめていた加藤先輩を押しのけた。
「無し無し(無呼吸、無拍動)なんだな!?」
「はい」
「救急車を呼べ!」
 そう言うと、蟹江先生は、優奈の胸をはだけ、気道を確保すると人工呼吸を始めた。
 祐介は、顕わになった優奈の胸にたじろいで、一瞬目を背けた。
「アホ! こんな時は声をかけてやらなあかんのよ。みんな寄って、声を掛けて、マッサージしてやる!」
 加藤先輩が怒鳴り、みんなが優奈の側に寄り、手足をさすりながら声をかけた。
「優奈!」
「優奈先輩!」
「山下優奈!」
 蟹江先生と加藤先輩たちの介抱と処置で、優奈は、救急隊が到着するころには息を吹き返していた。

「みなさんの素早い処置が適切だったので、脳への障害はありません。声帯と気管を痛めているほかは、全身疲労だけです。三日ほど喉を使わずに安静にしていればいいでしょう」
 病院の先生は、本人を勇気づけるために、あえて、優奈の病室で、みんなに告げた。しかし、優奈には逆効果であった。
「そんな……明後日は本番なんです。なんとしても、明後日までには治してください!」
「そ、そんな無理を言われても……!」
 優奈は、医者のネクタイを締め上げていた……。

「参加辞退ですか……」

「仕方ないでしょう、ボーカルが倒れちゃったんだから」
「加藤先輩一人じゃだめなんですか?」
「もう、ずっとデュオで練習してきたんや、簡単にソロには戻されへん。それに、バンドの編成もデュオのまんまや……」
 一応ケイオンの全員が集められ、視聴覚教室でミーティングをしたが、結論は自然と参加辞退に傾いていく。あちこちから、すすり泣く声があがった。

 いやな沈黙が続いた。
 

 田原先輩が、謙三を促してステージに上がった。
 そして、ギターとドラムを即興で、めちゃくちゃに鳴らした。
「景子(加藤先輩の名前)、これで勢いついたやろ。蟹江先生に結論言いに行け!」
「分かった、長いことケイオンやってると、こういうこともあるよ。今度のレッスンで学んだことは、来年、あんたらが活かしたらええ」

「待って下さい」
 ドアから出て行こうとした、加藤先輩を幸子が呼び止めた。

「わたしが、代わりにやります」
「……そんな、サッチャンが出たら審査対象外やで」
「対象外でもいいじゃないですか。たとえ審査対象外でも、演奏すればスピリットは通じます。わたしたちが血を吐く思いでつかみ取ったメッセージを、みんなに伝えようじゃないですか!」
「メッセージ……」
「スピリット……」
「ようし、それでええ。賞がなんぼのもんじゃ。予定通り参加や!」
 蟹江先生が、入ってきてガッツポーズを決めた。
「桃畑中佐から、極東戦争当時の戦闘服借りてきた。みんな、これ着て、本番の舞台に立て!」
「ウオー!」
 メンバーから、どよめきが起こった。
「ボーカルは、元祖オモクロのステージ衣装貸してもろた、せいだいがんばれ!」

 この開き直り出場は、マスコミやネットを通じて、その日の内に世界中に広まった。

 火付け役は、お馴染みナニワテレビのセリナさんのようだ。急遽、プロで人気上昇中の幸子が出るので、予備の座席2000が追加された。
 その日、家に帰ると、チサちゃんが玄関で待ち受けていた。
「すごいわよ、ネットが炎上してる!」
 幸子のブログは、大会参加を祝するコメントであふれかえっていた。むろん中には、後輩の不幸を利用した売名行為であると非難するものもあったが、大半の賛成派と、ネット上で大論争になっていた。
「むかし、キンタローがデビューしたとき以来のブログ炎上ね!」
 お母さんまで、興奮していた。幸子も面白がっていたが、プログラムモードである。
「これで、良かったとは思えない」
 あとで、幸子の部屋に行ったとき、幸子はニュートラルモードで、冷ややかにニクソクつぶやいた。
「……幸子は、複雑だ」
 精一杯の皮肉を言ってやると、ドアホンを兼ねているハナちゃんが来客がきたことを告げた。

 ドアをあけると、そこにはねねちゃんが立っていた……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・45『栄光へのダッシュ・1』

2018-10-10 06:48:32 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・45
『栄光へのダッシュ・1』
    


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 優奈は懸命に練習した。

 桃畑中佐に見せてもらった初代オモクロの桃畑律子の想いが分かったからだ。

 自分たちが生まれる前に、自分たちと同じ年頃の少女たちが人に知られることもなく、対馬の山中で戦い、死んでいった。そして、それは軍や政府の一部の人間しか知らず、なんの評価も、存在さえ認知されていないことを。

 優奈は知ってしまった。

 あの少女部隊のことは公表することはできないが、その想いは伝えたいと思った。

「だめよ、優奈。声で歌うんじゃない、体で歌うんだ。体が弾けて、その結果想いが歌になるんだ!」
 加藤先輩の指摘は厳しかった。そして、加藤先輩自身も壁にぶつかってしまった。叱咤激励はできてもイメージを伝える段階で自分イメージもエモーションも希薄になっていく。
「これじゃ、ただのサバゲーだ。もっとビビットにならなきゃ!」

 俺たちは国防軍のシュミレーションを受けることにした。 

「謙三、祐介、左翼から陽動。太一はここを動かないで。真希、優奈は、わたしに続いて!」

 しかし、その動きは読まれていた。

 敵は謙三たちの陽動にひっかかったフリをして、圧力かけてきた。

「ハハ、大丈夫、陽動のまんま敵のど真ん中に突っ込めますよ!」
「余計なことはするな、おまえたちはあくまで陽動なんだ。太一、ブラフで指揮をとって!」
「了解」
 加藤先輩は、上手くいきすぎているような気がした。でも、それは、すでに真希と優奈に突撃を指示した後だった。「あ!」と思った時には、真希と優奈がパルス機関砲にロックされていることが分かった。
 閃光が走り、真希と、優奈は、粉みじんの肉片になって飛び散ってしまった。二人の血を全身に浴びた加藤先輩は、それでも冷静だった。

「総員合流、撤収す……」

 先輩の意識は、そこまでだった。

 敵は劣化パルス弾を撃ってきた。

 瞬間の判断で、先輩は身をかわしたが、パルス弾は至近距離で炸裂した。

 炸裂の勢いがハンパではないために、先輩はグニャリと曲がったかと思うと、衝撃を受けた反対側の体が裂けて、体液や内臓が吹き出していった。ボクたちの分隊は壊滅してしまった……。

「これが、対馬の前哨戦だよ」

 桃畑中佐の声がした。

 訓練用の筐体から出てくるのには、みんな時間がかかった。あらかじめ衝撃緩和剤を服用していたが、それでも、今の戦闘のショックはハンパではなかった。

「緩和剤無しでは、発狂してしまうこともある」
「……これ、実戦記録がもとになってるんですよね」
「そうだよ、この分隊は運良く生き残った。分隊員一人だけだけどね。その記録を元に作った訓練用シュミレーションだよ……ようし、全員心身共に影響なし」
 アナライザーの記録を見ながら、桃畑中佐が笑顔で告げた。
「この戦闘で、彼女たちは今のように……?」
「あの程度のブラフは簡単に読める。この戦闘では死傷者はいない。分隊がたった一人になったのは次の戦闘だ。ただ民間人の君たちにシュミレートしてもらえるのは、ここまでだ。むろん現役の部隊には最後までやらせている。失敗するものはいない。だから先日の防衛省への攻撃を陽動とした敵の侵攻は100%防ぐことができた」
 俺は、それを防いだのは、ねねちゃんにインスト-ルされた里中マキ中尉のおかげだと知っていたが、話さなかった。ねねちゃんも、お母さんのマキ中尉もそれを望んでいないことを知っていたから……。

 国防省で、シュミレートの体験をしてから、ボクたちは変わった。

 プロの軍人から見れば遊びのようなものかもしれないが。毎日1000メートルの全力疾走と、バク転の練習を始めた。顧問の蟹江先生が、たえず脈拍や、心拍数を計測している。1000メートルの全力疾走というのは、古武道の言い方では死域に入るということに近い。死んだ肉体を精神力でもたせ、その能力を最大限に引き出す。ボクたちは、それで限界の力を出そうとした。バク転は、恐怖心の克服である。短期間で、成果を出すのには、一番手っ取り早い。
 それをみっちり一時間やったあと、やっと演奏の練習。最初の三日間ほどは、全力疾走とバク転の練習でへげへげになり、とても演奏どころではなかったが、四日目には変わった!

 

《出撃 レイブン少女隊!》 

 GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! みんなのために

 放課後、校舎の陰 スマホの#ボタン押したらレイブンさ

 世界が見放してしまった 平和と愛とを守るため わたし達はレイブンリクルート

 エンプロイヤー それは世界の平和願う君たちさ 一人一人の愛の力 夢見る力

 手にする武器は 愛する心 籠める弾丸 それは愛と正義と 胸にあふれる勇気と 頬を濡らす涙と汗さ!

 邪悪なデーモン倒すため 巨悪のサタンを倒すため

 わたし達 ここに立ち上がる その名は終末傭兵 レイブン少女隊

 GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! For The Love!

 ああ ああ レイブン レイブン レイブン 傭兵少女隊……ただ今参上!


 あきらかに歌にも演奏にも厚みと奥行きがでた。ボクはいけると思った。

「あかん、真剣すぎる。この厚みと奥行きを持ったまま、楽しいやらなあかん。うちらのは音楽で、演説やないねんさかい」

 ボクたちは、加藤先輩の意見に、進んで手をあげることができた……。


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