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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

秋野七草 その六『ナナセかナナか!?』

2019-10-25 06:53:39 | ボクの妹
秋野七草 その六
『ナナセかナナか!?』        


 妹は、テンポの違いとアルコールの具合によって、ナナとナナセを使い分けているようだ。

 もっともナナセという人格は、後輩の山路が家にやってくるまでは存在しなかった。山路が泊まった明くる朝、酔った勢いの口から出任せでナナセを演じざるを得なくなった。山路はナナセがお気に入りのようだ。
 そこで、そのあとは山路を帰すため、ちょっと誇張したナナを演じ、10メートルダッシュから木登りまで山路と競い、オテンバぶりを発揮した。これで山路はナナが嫌いになるだろうと。
 ところが、山男の山路は、そんなナナとますます気があってしまった。
 昨日再び山路を連れて家に帰ると、ほぼ同時にナナが帰ってきたが、山路はナナの指の傷を見て、ナナセと勘違い。仕方なく、ナナはナナセを演じた……。

「いやあ、夕べのナナセさんは凄かったなあ。仲間の技術屋と話しても、あそこまでは熱くなりませんよ」
 ナナセ(ナナ?)手作りの朝食を食べながら、山路は本気で妹を誉めた。
「お恥ずかしい、みんな父やお祖父ちゃんの受け売りです。女でなかったら、お兄ちゃんに負けないくらいのエンジニアになっていたかもしれませんけどね。うちはは女らしさにうるさい家ですから」
「でも、ナナちゃんみたいな妹さんもいるんですよね」
「だから、あの子は自衛隊に行ったんです。あそこなら男女の区別ないですから」
「じゃあ、なんで辞めたんですか? この浅漬け美味いですね」
「あ、それは母です」
「山路さん、ごゆっくり。あたしはちょいと……」
「あ、お母さん、どうもお世話になりました」
「いいんだよ、今日はご町内の日帰り旅行」

 そう言いながら、オレは、ナナ・ナナセ問題の終息を、どう計ろうかと考えていた。結局は、面倒くさくなり、山路の帰りを妹に任せることにした。実際夕べは飲み過ぎて頭も痛く朝飯も抜いていた。妹はナナセだったので、一滴も飲んでいない。山路を送って帰ってきたら朝酒になりそうだ。

「ナナは、入ってみて分かったみたいです。自衛隊でも女ができないとかやっちゃいけないことが、けっこうあるみたいで……詳しくは言いませんけど」
「でしょうね、あの子は、面白いことには、なんでもチャレンジしてみたい子なんですよ、とことんね……でも、そこで女の壁にぶつかってしまうんでしょうね」
「もう子どもじゃないんだから、わきまえなくっちゃやっていけないって言うんですけどね。女でやれることで頑張ればいいって」
「でも、ナナセさんにも、そういうところあるんじゃないかなあ」
「え、わたしがですか?」
「うん、ただ射程距離が長いから、ナナちゃんと違って、時間を掛けて狙っているような気がする。今の勤めも腰掛けのつもりなんでしょ。ゆっくり力をつけて、経営のノウハウを身につけたら、独立するんじゃないかな」
「ナナは現場だけど、わたしは、信金でも総務ですから、そういうことは……」
「いや、総務ってのは会社全体を見てますからね。経営陣との距離も近い。ナナセさんも、かなりしたたか」
「そんな……」

 しおらしく俯いてはいるが、気持ちは言い当てられたような気がしていた。ただ、今の信金に勤めていては、ただの夢に終わってしまうだろうが。

 その時、幹線道路から、線路際の道にドリフトさせながら三台のスポーツカーが入ってきた。歩道の先には、近場の山に登りに行く十人ばかりの子供たちが歩いていた。

「危ない!」

 妹は、とっさにジャンプし最後尾の子ども二人を抱えて脇に転がった。いままでその子どもが居た位置には先頭の車が、高架下のコンクリート壁に腹をこすりつけ停まっていた。どうやら、駆動系のダメージはなかったようで、ドライバーの若い男は。逃げようとシフトチェンジをしているところだった。
「山路、最後尾の車を確保!」
 そう言いながら、妹はコンクリートブロックを運転席の窓に投げつけて粉々にした。そして、中の二人の男がひるんだ隙に、エンジンキーを引き抜いた。
 山路は、ダッシュして三台目の車の後ろに回り。道路脇の店の看板を持ち上げ、ぶんまわしてリアのガラスを破壊。そのままリアウィンドウから飛び込み、ドライバーの男の頭をハンドルに思い切りぶつけ、これもエンジンキーを抜いた。

「なに、しやがるんだ!」

 子供たちが無事だったことに気をよくしたんだろう。二台目の車から男女がバールを持って降りてきた。それに勇気づけられたんだろう、他の二台からも、男三人と、女一人が降りてきた。
「山路、気を付けて、こいつら半グレだ!」
 半グレの六人は、言い訳の出来る道具袋を持っており。手に手に金槌などのエモノを持って立ちふさがった。
 山路は、そのエモノを避けつつ、一人を投げ飛ばし、後ろから振りかぶられた金槌をかわして腕をねじり上げた。ボキっと音がしたんで、男の腕が折れたようだ。
「山路、ネクタイでもなんでもいいから縛着!」
 そう言いながら、三人の男女を倒し、ズボンを足もとまで脱がせて足の自由を奪い、ベルトを引き抜き後ろ手に拘束した。四人目の男はその場にくずおれて失禁していた。妹は、そいつを俯せにして、馬乗りになり、こめかみに金槌をあてがい、スマホを構えた。
「こちら、通行人。状況報告、半グレと思われる車三台○○区A町、一丁目三の東城線東横で、子供たちを轢きかけ、一台中破、二台撃破、犯行の男女六人確保、至急現場に着到されたし、オクレ!」

 妹は、かつての職場の業界用語で七秒で警察に伝えた。

「キミは……ナナ?」
「あ………」

 妹と山路に、新しい転機が訪れようとしていた……。
 
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秋野七草 その五『わたしは、ナナ……セ』

2019-10-24 05:53:06 | ボクの妹
秋野七草 その五
『わたしは、ナナ……セ』        


 
 秋野七草と書いて「アキノナナ」と読む。元陸自レンジャーの妹の名前である。

 今日は、真面目な話があったので後輩の山路を、うちに泊めてやると家に電話した。山路は、こないだも終電に間に合わず泊めてやった。

「すみません。今夜もご厄介になります」

 不幸なことに妹のナナが直ぐあとに帰ってきた。「あ」と二人同時に声が出た。

「あ、ナナセさんの方ですね?」と、山路が誤解した。

 無理もない。そのときのナナは会社で指を怪我をしてテープを貼ってきていたのである。指を怪我したのは、先日のイタズラでおしとやかな(しかし架空の)双子の姉のナナセだと思いこんでいる。とっさに、ナナも気づき、ナナセに化けた。
「先日は、不調法なことで失礼をいたしました」
「いいえ、お怪我の方は……」
「あ、もうだいぶいいんですが、お医者様が、傷跡が残ると生けないとおっしゃって、こんな大げさなことをしてます」
「そりゃ、あんなに血が流れたんですから、お大事になさらなきゃ」

 まさか、あの時の血が食紅だったとは言えない。

「今夜は、またお世話になります」
「はい、先日はまともにお話も出来ませんでしたから、ゆっくりお話ができれば嬉しいです」
 心にもないことを言う。

 ナナがナナセとして二階へ上がると、携帯が鳴った。アドレスでナナと知れる。
「どうした、なんでオレに電話してくんだ(なんせ二階からかけてきている)え、今夜は泊まり? どうして、せっかく山路も来てんのにさ。あ、ちょっと山路に替わるわ」
「もしもし、山路。どうしたナナ……ちゃん。せっかく今夜は大事な話が出来ると思ったのに。ほら、例のチョモランマ……ええ、そういうこと言うかなあ。男一生の問題だぞ。あ、笑ったな! おまえな、そういうとこデリカシー無さ過ぎ。今度しっかり教育してやっから。それに、勝負もついてないしな。次は絶対勝つからな! そもそもナナはな……」

 これで、今夜はナナはナナセで化け通すことになった。オヤジとオフクロには、この間に、話を合わせてくれるように頼んだ。一家揃って面白いことは大好きだ。

「と言う具合で、チョモランマに登るのには、準備も入れて三か月もかかるんです。うみどりの仕事は、その分みんなにご迷惑……」
「アハハ、そんなこと心配してたのか!?」
「だって、僕も設計スタッフの一員ですから」
「最初の三か月なんて、オモチャ箱ひっくり返すだけみたいなもんだ。アイデアを出すだけ出して、使い物になるかならないかの検討は、そのあと、さらに三か月は十分にかかる。それから参加しても遅くはないじゃないか」
「なんと言っても、オスプレイの日本版ですからね、僕だって……」
「気持ちは分かるけどな、A工業には大戦中からのオモチャ箱があるんだ。それこそ堀越二郎の零戦時代からのな。最初のオモチャ箱選びは、オレだって触らせちゃもらえない。オモチャの整理係なんだぞ」
「負けません。整理係でもなんでも」
「そんなこと言ってたら、チョモランマなんて一生登れねえぞ」
「すごいですね、若いのに二つも大きな夢があって」
「あって当然ですよ。僕にとっては、山と仕事は二本の足なんです。両方しっかり前に出さないと、僕って男は立ってさえいられないんです」
「焦ることはない。お前は帰ってきてから、広げて整理したオモチャの感想を言ってくれ。三か月もやってると、好みのオモチャしか目に入らなくなる。新しい目でそれを見るのが山路の仕事だ。うちの年寄りは、そういう点、キャリアも年齢も気にはしない。自分たちも、そうやって育ってきたんだからな」
 ここでナナが化けたナナセが割り込んできた。
「戦艦大和の装甲板を付けるとき、クレーンの操作がとてもむつかしくて、ベテランの技師もオペレーターもお手上げだったんです、俯角の付いた取り付けは世界で初めてでしたから。それを、ハンガーそのものに角度を付けるってコロンブスの玉子みたいなことを考えついたのは、一番若い技師の人だったんです……きっと山路さんにも、そんな仕事が待ってます!」
「ナナセさん。いいお話ですね……でも、そんな話し、どうしてご存じなんですか?」
「あ、これは……父が小さな頃に教えて、ねえ、お父さん……寝ちゃってる」

 それから、オレたち三人は技術や夢について二時過ぎまで語り合った。山路はナナが化けたナナセの話しに大いに感激していた。ナナは、陸自に居たときも、実戦でも、技術面でも卓越したものを持っていた。だから、女では出来ないことにも挑戦しようとし、挫折して退役してきた。民間と陸自の違いはあるが、熱い思いは同じようだ。

 そして、オレは気づいてしまった。自分の罪の深さに……。
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秋野七草 その四『ここで遭ったが百年目』

2019-10-23 06:38:06 | ボクの妹
秋野七草 その四
『ここで遭ったが百年目』       


 
『百年目』という落語がある。

 謹厳実直な番頭が、店の丁稚や若い者に細かな苦言を呈したあと「得意先回り」をすると言って店を出る。かつてから、こういう時のために借りている駄菓子屋の二階で、粋な着物に着替え、太鼓持ちや芸者衆を連れ、大川に浮かべた船で花見に出かける。店では謹厳実直な男なのだが、いやいや、外ではなかなかの遊び人だったのだ。
 最初は、人目にたたぬよう大人しく遊んでいたが、酒が入るに従って調子に乗り、桜の名所で、陸に上がって目隠し鬼ごっこをする。そして、馴染みの芸者と思って抱きつくと、なんとそれは、たまたま通りかかった店の旦那であった。
 で、明くる日旦那に呼び出された番頭が、「番頭さん、あの時は、どんな気分だった?」「はい、ここで会ったが百年目と思いました」

 この「会う」を「遭う」にしたような事件が妹の七草(ナナ)と後輩の山路におきた。
 
「やあ、ナナちゃんじゃないか!」
 
 そう声を掛けたときの、ナナは突然の出会いにナナらしい驚愕と面白さに、一瞬で生気に溢れた顔つきになったらしい。
 あとで、ナナ本人に聞くと、一瞬ナナセに化けようと思ったらしいが(といっても、ナナセが本来のナナの姿ではあるが)一昨日切ったはずの指を怪我していないので……ナナセはナナの出任せで、指を怪我したことになっている。で、山路も、それを確認した上で、ヤンチャなナナと確信して声を掛けたのである。

「なんかテレビドラマみたいな出会いだな!?」
「なんで、山路が、こんなとこにいるのよ!」

 この二言で、ナナといっしょに昼食に出た同僚たちは勘違い。

「じゃ、秋野さん、わたしたちはお先に……」
「すみません。変なのに出会っちゃって……!」
 同僚達は、なにやら勘違いした。
「わたしたちは、いつものとこだから、そっちはごゆっくり!」
 そして、桃色の笑い声を残して行ってしまった。

「おまえ、職場だと、かなりネコ被ってんのな」

「あたりまえでしょ。総務の内勤とは言え、この制服よ。会社の看板しょってるようなもんだもん。何十枚も被ってるわよ。でも、A工業の設計部が、なんで昼日中に、こんなとこに居るわけさ?」
「ああ、今日は防衛省からの帰りなんだ。飛行機一機作るのは、ロミオとジュリエットを無事に結婚させるより難しいんだ」
「プ、山男が言うと大げさで陳腐だね」
「大げさなもんか。じゃ、知ってるだけの日本製の飛行機言ってみろよ」
「退役したけど、F1支援戦闘機、PI対潜哨戒機、C1輸送機、新明和の飛行艇、輸送機CX……」
「そんなもんだろ。あと大昔のYS11とか、ホンダの中型ジェットぐらい」
「そりゃ、アメリカが作らせてくれないんだもん」
「いいとこついてるね。F2は、アメさんの横やりで作れなくなったし、ま、そのへん含めて大変なのさ。ところで、一昨日の延長戦やろうか!?」
「よしてよ、こんなナリで、木登りなんかできないわよ」
「昼飯の早食い。これならできるだろ?」
「う~ん、ちょっと待ってて」

 ナナは、近くの喫茶店に行き、カーディガンを借りてきた。オマケにパソコン用だがメガネも。

「よーし、天丼特盛り、一本勝負!」
 近所の天ぷら屋の座敷を借りて、この界隈最大のランチを出す「化け天」で、フタも閉まらないほどの洗面器のようなドンブリに入った特盛りで勝負することになった。ご飯は並の倍。天ぷらは二倍半という化け物である。むろん代金は負けた方が払う。
「ヨーイ、スタート!」
 と、亭主がかけ声をかけて、厨房へ。ランチタイム、早食いとは言え、終わりまでは付き合っていられない。三分後に見に来てくれるように言ってある。
 座敷といっても、客席からは丸見えで、一分もすると、その迫力に人だかりがした。

「「ご馳走様!!」」

「三分十一秒……こりゃおあいこだね」
 亭主の判定と、お客さん達の拍手をうけて、割り勘で店をあとにする二人であった。

 地下鉄の入り口で別れようとしたときに、山路のスマホが鳴った。

「出なくていいの?」
「ああ、これはメールだからな」
「そう、じゃ」
「またな」

 またがあってたまるか。そう思って、いつものナナ=ナナセに戻って歩き出すと、後ろから山路の遠慮無い気配。

「やったぞ、ナナ。チョモランマの最終候補に残った!」

 それだけ言うと、山路は、直ぐに地下鉄の入り口に消えた。

 七草は、ナナともナナセともつかぬ顔で見送った……。
 
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秋野七草 その三『ナナ、ナンチャッテ!』

2019-10-22 06:13:08 | ボクの妹
秋野七草 その三
『ナナ、ナンチャッテ!』         


 
 ここまで豹変しているとは思わなかった……!

「オハ、兄ちゃんワルイ。朝飯は自分でやってねえ。で、会場だけどさ……それウケる! ガールズバーで同窓会なんて、男ドモの反応が楽しみだね!」
「アハハ!」
「ウハハ!」
 と、トコとマコもノリが良い。
「あたし、いっしょにシェ-カー振るわよ! たしか、オヤジが持ってんのがあるから、やってみよ!」

 で、キッチンでゴソゴソやってるうちに、山路が風呂から上がってきた。

「あ、このイケメンが山路。兄ちゃんの後輩。水も滴るいいオトコ。朝ご飯テキトーにね」
「いいっすよ。いつも自炊だから」
「ごめんなさいね、同窓会の打ち合わせやってるもんで……ほんと、いいオトコ。あたしやります! ナナ、トコと話しつめといて!」
 マコが、朝ご飯を作り始めた。
「あのう、ナナセさんは?」
「ああ、あいつドジだから、そこで指切っちゃって、休日診療に行っちゃった」
「え、大丈夫なんですか?」
「あ、大げさなのナナセは。マコ、キッチン血が飛び散ってたら、拭いといてね。で、中山センセだけど……」

 キッチンへ行くと、シンクや壁にリアルな血痕が付いていた。

「ナナセさん、一人で大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ。大げさに騒ぎまくるから、血が飛び散っちゃって。あんなの縫合もなし。テープ貼っておしまい。ほら!」
 ナナは、偽造したメールとテープを貼った指のシャメまで見せた。
「貧血になったんで、しばらく横になって帰るって」
「だったら、やっぱり誰か……」
「ダメ! 甘やかしちゃ、本人の為にならない。ガキじゃないんだから、突き放してやって!」
「ナナ、壁の血とれないよ」
 マコが、赤く染まったダスターを広げて見せた。
「アルコ-ルで拭けばいいわよ」
「あとあと、それより、そこのハラペコに餌やって、早く戻ってきてよ。で、会費は……」
「包丁にも……」
「大丈夫、ナナセは病気は持ってないから。処女の生き血混じりのサラダなんておいしゅうございますよ」
「おい、ナナ……」

 オレは、なにか言おうとしたが、女子三人の馬力と妖しさに、次ぐ言葉がなかった……いや、半分ほど、この猿芝居に付き合ってみようかという気にさえなってきた。どうも我が家の血のようである。

 マコと山路が朝飯作って、食後の会話で飛躍した。

「へー、山路って、山が好きなんだ!」
「うん、オレの生き甲斐だね。こないだも剣に登ってきたとこ。次は通い慣れた穂高だな」
「国内ばっか?」
「海外は金がね……でもさ、山岳会がテレビとタイアップして、チョモランマに挑戦するパーティーに応募してんだ!」
「じゃ、体とか鍛えとかなきゃ!」
「鍛えてあるさ、ホラ!」
 山路が、腕の筋肉をカチンカチンにして見せた。で、調子にのって、割れた腹筋を見せたとき、これまた、調子に乗ったナナが、ルーズブラウスをたくし上げて、自分の腹筋を見せた。
「おお、こりゃ、並の鍛え方じゃないな!」
「あたぼうよ。これでも数少ない女レンジャーなんだから!」
「じゃ、一発、勝負だ!」

 で、庭で10メートルダッシュをやった。これはナナの勝ち。
 調子に乗ったアームレスリングは、3:2で山路の勝ち。
 腹筋は、時間がかかるので、60秒で何度やれるかで勝負。ナナが98回で勝利。
 匍匐前進は、むろんナナ。
 跳躍。指の高さは山路だが、足の高さではナナの勝ち(ナナの方が足が長い)。
 シメは近所の公園まで行って木登り競争。ナナが勝って、もう一回やろうとしたら、警官に注意されてお流れ。

 最初は、山路に嫌われるために、始めたのだが、双方本気になるに及び、事態がおかしくなった。

 どうやら、山路はナナが気に入ってしまったようなのだ。

「ナナちゃん。君は素敵だ!」

 山路の顔が迫って来た。

「ナナ、ナンチャッテ……!」
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秋野七草 その二『ナナの狼狽』

2019-10-21 06:22:59 | ボクの妹
秋野七草 その二
『ナナの狼狽』         


 
 
 オレが起き出さないうちに、こんなことがあったらしい。

 山路が起き出したころには、七草(ナナ)は起き出していて、お袋といっしょに朝の家事にいそしんでいた。
 自衛隊にいたころからの習慣で、七草の朝は早い。お袋も職工のカミサンで朝が早い。
 で、お袋は、寝室に居ながらも夕べのことは全部覚えていた。オレが山路を連れて帰ったことや、七草が、その酔態をごまかすために、七草の姉、七瀬の話をしたことなど。

「あ~、やっちゃたあ……」

 夕べのことを、お袋から聞いた。で、七草は、オレたちの朝の用意をしながら、ダイニングのテーブルにつっぷしてしまった。
「おはようございます。夕べは、すっかりお世話になりまして」
「いいえ、あらましは、夕べお聞きしました。いえね、もう床に入っておりましたんでね、この子達も、いい大人なんだから、恥ずかしさ半分、ズボラ半分でお話し聞いていましたのよ。大作がいつもお世話になっております。主人は早くからゴルフにでかけちゃって、よろしくってことでした」
「それは、どうも恐縮です」
「いえいえ、こちらこそ。朝ご飯の用意はいつでもできるんですけどね。その前に朝風呂いかがですか。さっぱりいたしますよ。その間に朝ご飯は、この子が用意いたしますので。わたし、朝一番に美容院予約してますので、失礼しますが、ごめんなさいね。これ、ちゃんとご挨拶とご案内を!」
 と、名前も言わずに、お袋は七草をうながし、美容院へ行ってしまった。で、七草が正直に白状してしまう前に、山路の方がしゃべってしまった。
「お早うございます。わたし……」
「ああ、おねえさんの、七瀬さんですね。いや、夕べ妹さんがおっしゃっていたとおりの方ですね。双子でいらっしゃるようですが、だいぶご性格が違われるようですね。いやいや、いろいろあってこその兄妹です。妹さんは?」
「あ…………まだ寝てるんじゃないかと思います。仕事はともかく、うちでは、まだまだ子どもみたいで」
「いやいや、なかなか元気の良い妹さんです。部屋に入る前は、かっこよく敬礼なんかなさってましたね」
「え、ええ、あれで、この春までは陸上自衛隊におりましたの。本人は幹部になりたかったようですが、自衛隊の方が勘弁してもらいたいご様子で、今は信用金庫に……はい(モジモジ)」
「じゃ、お言葉に甘えて……お風呂いただきます」
「あ、どうぞどうぞ。兄のものですが、お召し替えもご用意いたしますので、どうぞごゆっくり。こちらが、お風呂でございます」
「あ、どうも」

 このあたりで目を覚ましていたが、展開がおもしろいというか、責任が持てないからというか。タヌキを決め込んだ。そして、タヌキが本気で二度寝しかけたころに、インタホンが鳴った。
 ピンポーン
「お早うナナ。あら、お母さんもお父さんもお出かけ? お兄ちゃんは朝寝だね」
「こりゃ、気楽に女子会のノリでやれそうね」
 幼なじみで、親友のマコとトコが来た。そういや、高校の同窓会の打ち合わせを、ウチでやるとか言ってたなあ……なんだか、下のリビングとナナの部屋を往復する音がして、ややこしくなっているようだ。

「なんで!?」
「つい、ことの成り行きでね。お願いだから合わせてちょうだい……というわけだから」
「へー!」
「なんと!」
「ほんの、二三時間。わたしも張り切るから」
「おもしろそうじゃん」
「じゃ、そのナリじゃなくて、らしく着替えなくっちゃ!」
「メイクも、髪もね!」

  で、オレが起き出し、山路が風呂から上がったころには、夕べ玄関先で見かけたナナが出来上がっていた……。
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秋野七草 その一『そんなつもりは無かった』

2019-10-20 06:40:59 | ボクの妹
草 その一  
『そんなつもりは無かった』       
  
 
 
 そんなつもりは無かった。
 
 ハナ金とは言え、男同士アキバの肩の凝らない国籍不明の酒屋一件で終わるはずだった。ところが、二つの理由で、こうなってしまった。
 
 繰り返しになるが、そんなつもりは無かった。
 
 理由の一つは仕事である。
 
 防衛省から、ごく内々ではあるが、オスプレイの日本版を作る内示があった。オスプレイの採用は、調査費もついて、ライセンス生産が決まっている。しかしアメリカ的なデカブツで、海上自衛隊で、艦載機として使えるのは、ひゅうが、いせ、いずもなどの空母型護衛艦に限られる。そこで、骨董品になりつつあるSH-60 シーホークの後継機を国産する方針になり、その仕事が、わがA工業に回ってきたのである。むろん他社にも競争させ、基本設計とコストを比較したうえ入札になる。  
 で、その研究と概念設計の仕事が、わが設計部に回ってきたのである。正式に採用されれば、この三十年ぐらいは、この仕事、タスクネーム「うみどり」で、会社は安泰になる。  
 それで、近場のアキバというオヤジギャグのようなノリで、設計部の若い者達で繰り出した。
 もう一つの理由は、話の中で、オレ、秋野大作(あきのだいさく)が、南千住で四代続いた職工の家であることだ。
 
 後輩の山路隆造が感激し、もう一軒行きたいと言い出し、調子にのったオレも「よーし、それなら!」と、上野の老舗のわりに安い牛飯屋に行こうと言ってしまった。
 山路と言う奴は、名前の通り山が好きな男で、連休や長期休暇には、必ず休みの長さと天気に見合った山を見つけて登っていた。ウチは爺ちゃんが元気な頃、暇を見つけては山に登りに行っていたので話が合って、気が付けば看板になっていた。山路は、終電車を逃してしまったので、自然に口に出た。
 
「じゃあ、オレの家に泊まれよ」
 かくして、深夜のご帰還とあいなったわけだ。
「「ただ今あ!」」
 
 元気な声が二つ重なった。山路は、酒が入っているとは言え客であるので、神妙にしている。
「ちょ、そこ邪魔!」
 と、玄関のドアを叩いて、もう一度の凱歌あげようとする妹の拳を握り、口を押さえた。
「ちょ、なにすんのよ兄ちゃん。妹を手込めにしようってか!?」
「もう、遅いんだ。ただ今は一言でいい。ほら、近所の犬が吠え出した……」
「うっせえんだよ、犬……あら、いい男じゃん」  
 そう言うと、酔っぱらいなりに、身だしなみを整え始めた。髪は仕事中とは違うサイドポニーテールというヘンテコな頭に、ルーズな、多分帰り道、酔った勢いで買った、派手なオータムマフラー。それを申し訳程度にいじっておしまい。
「妹さんですか」
「ああ、七草と書いて、ナナって言うんだ。ああ、酒臭えなあ」
 酒の入ったオレが言うのだから、相当なものである。
 
 ここまでは、まだ取り返しの付く展開であった。
 
「どーも、あ、あたし妹の方の七草です」
「あん?」と、オレ。
「通称ナナちゃん。姉が七瀬って書いてナナセってのがいます。からっきしシャレも冗談も通じない子なんで。兄ちゃん、もうご両親も、姉上も、お休みのご様子。ここは、あたしの鍵で……あれ、鍵?」
「いや、オレの鍵で……」
「いや、あたしが……」
 ナナは、スカートのポケットに手を突っこんだ。その時プツンというスカートのホックが外れる音を聞き逃したのは失敗。
 
 ここでも、まだ取り返しがついた。
 
 とにかく近所の犬が何匹も吠えるので、家に入るのが先決だと思った。
「ここが、お兄ちゃんの部屋。で、こっちが、あたしの部屋。その隣が姉上ナナセの部屋。両方とも覗いちゃあいけません! おトイレは、その廊下の突き当たり。では、お休みなさいませ!」
 と、この春除隊したばかりの、自衛隊の敬礼をして、その拍子に落ちかけたスカートをたくし上げ、ゲップを二つと高笑いを残して、七草は部屋に入ってしまった。
 
 この時誤解を解いておかなかったのが、この後の大展開とドラマになっていく。
 そんなつもりは無かった……。
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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・68『妹が憎たらしいのには訳がある』

2018-11-02 06:56:21 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・68
『もう妹は憎たらしくない!』 
     

 

 大阪に戻った私たちにすることはなかった。

 これには二つの意味がある。

 第一に、わたしも優子も状態が悪く、もうメンテナンスの仕様もなかった。二人とも生体組織が壊死してしまい。腐敗が進んできたので、亜硫酸のタンクに漬けられて、生体組織を溶かし、スケルトンの状態にされた。この状態が裸になって、股間にドレーンを挿入されてメンテナンスする何倍も恥ずかしいことであることを、わたしも優子も自覚した。
「わたしのスケルトンの方がキュートよ!」
「なによ、わたしの顔のスケルトンの方がかわいいもん!」
 最初はじゃれあいのようだったが、互いの機能が低下してくると、憎まれ口もきかなかくなってきた。
 見かけは上半身と下半身に裂かれてしまった優子がひどかったが、わたしはPCに受けたダメージが意外にひどく、五日目には言語サーキットがいかれてしまい。CPにケーブルを接続しなければ意思表示も出来ない状態になった。

 わたしには、ユースケに取り込まれる前の義体が残っていたが、それにCPの中身をインスト-ルすると、わたしの半分である太一の人格が復元できないことが分かった。太一を殺すことはできない。東京で、あれだけの働きができたのは、太一とねねを融合したからこそのことであった。
 優子のCPは、比較的安定していたが、CP内に収容していた優奈の脳組織が弱ってきた。一度は取り出そうとしたが、そのオペレーションに優奈の脳組織が耐えられる確率は30%もなかった。それに、取りだしたとしても、寿命は半年がいいところである。

 最初に崩れたのは、太一のお母さんである。

娘と息子を同時に失おうとしているのだ、無理もない。羊水に漬けられた太一を見ては涙になり、モニターを通じての幸子との会話も、CPの寿命を延ばすため最小限度におさえられていたため、ある日、緊急事態用の手榴弾を持ち出したところを、アラームに気づいた水元中尉に、爆発寸前に助けられた。太一の父は、そんな妻をただ抱きしめることしかできなかった。

 東京は、あれからしばらく平穏なように見えたが、グノーシス同士の争いが激しくなり、国防省のCPは事実上ダウンしていた。市民生活は平穏そのものであるが、毎日グノーシス戦士の遺体や破壊されたロボットが発見されたが、彼らは最後の瞬間に、一般人や、普通の車に擬態するので、身元不明の遺体や、事故車が増えた程度にしか、一般には認識されていなかった。国防省のCPは甲殻機動隊が肩代わりして、日常の業務に差し支えないようにしていたが、それがC国やK国に見破られるのは時間の問題だ。

 そんなある日、T物産のトラックが、真田山駐屯地へやってきた。

「厨房機器の納品です。お通し下さい」
 初老の運転手が窓越しに書類を渡した。
「話は聞いています。念のためスキャナーにかけますので、トラックごとそのセンサーの間に入ってください」
 門衛の下士官に言われ、初老のオッサンは、ゆるりとハンドルを切った。
「ああ、T物産の高橋さんですか。T物産の総務の神さまですね。調達品の取引じゃ、下手な営業さんより話がしやすいって、親父も言ってましたよ」
「あ、あなた営繕課にいた牛島准尉さん……の息子さん!? いやあ、時代ですなあ」
「今日は、総務が配達ですか?」
「来月で定年なもんですからね、ちょっとわがまま言って、若い頃に回ったところを一つ一つ回らせてもらってるんです」
「メカニックの方は、女性なんですね」
「身元や経歴はスキャン済みでしょうが、厨房関係は女性の方が分かりがいい。それに……」
「チーフの方は、陸軍の予備役なんですね」
「そうよ。ずっと給養員のボスやってたから、ここの給養装備もみんな見たげる」

 そうして、この御一行は、地下のシェルターにやってきた。

「高橋課長!」
 太一のお父さんが、すっとんきょうな声を上げた。
「いやあ、一別以来……と言いたいが、佐伯さん。あなたとは初対面です」
「え……」
「高橋さんの体を借りている。向こうのグノーシスのハンスと申します」
「グ、グノーシス!?」
「まあ、こっちにもいろいろありましてな。今日は里中副長の依頼で来ました」
「もう、恥も外聞もなく、お願いしました」
「一応、隊長にもごあいさつを……」
 そういうと、ハンスは、佳子ちゃんの妹で優子と同名の幼女に挨拶をした。
「困るなあ、ハンス。ずっとばれないできたのに」
「これからは、あなたの指揮が重要になりますから」
「ゆ、優子、どうしたの!?」
 佳子ちゃんがうろたえた。
「潜在能力が優れてるんで、二年前からやってるの。甲殻機動隊の隊長としてのアビリティーだけは高いけど、あとはお姉ちゃんの妹だから、これまで通りよろしく。じゃ、あとは副長よろしく」
「は」
 里中副長が、上官に敬礼するところを初めて見た。
「じゃ、かかろうか」
 三人の女性スタッフのオーラには、なにか懐かしさを感じた……あ、ビシリ三姉妹!

 大げさな作業になると思ったら、わたしたちと持ち込みのCPをケーブルで繋いだだけである。
 ミーと思われるビシリが、すごい早さでキーボードを操作した。とたんに、わたしの意識が飛んだ。

「お、溺れる!」 

 そう思ったら、急速に羊水が抜かれ、俺は久々に太一に戻った。気づくと空のアクリルの水槽の中で、俺はひっくり返っていた。で……みんなの視線がボクに集まった。
「キャー!」
 佳子ちゃんとチサちゃんは同じような悲鳴をあげて、それでもしっかり裸の俺を見ていた。
 ビシリのミルが目隠しに立ってくれ、ミデットが、取りあえずの服を一式を、タオルとともに投げ入れてくれた。
 水槽から出たとき、優子と真由のスケルトンは死んでいるように見えた。
「移植急ぐぞ」
 ハンスが、高橋さんの姿で言った。ビシリ三姉妹が、厨房機器の箱を開けると、中から優奈が現れた……!?
「義体だけどね、脳を移植すれば本物になる」
 ビシリ三姉妹は、優子のスケルトンの口を開けると、大きめの注射器のようなものを取りだし、優奈の前頭葉と脳幹の一部を保護液といっしょに取りだし、優奈の義体の口を開け喉の奥からCPに挿入した。
「だいぶ弱っているな……」
「はい、なにか刺激がいります」
 ミーが答えた。
「仕方がない、祐介がユースケになった今までの記録をダウンロ-ドしよう」
 微かな起動音がして、優奈がピクリとした。それから、血の気がさして、閉じた目から涙がこぼれ落ちた。
「これで、祐介のことは愛情を持って理解した。残念ながら、太一への愛情を超えてしまったけどな」
「それはいいんです。祐介の気持ちは分かっていたし、こうあるのが自然です」

 優奈が意識を取り戻し、起きられるのに一時間ほどかかった。そして優奈が元に戻った頃、幸子とねねちゃんが戻ってきた。

「お兄ちゃん、みんな!」
「お父さん!」

 幸子は、ユースケが使っていた義体に、優子から分離した幸子のパーソナリティーをインストールしたのである。
 完全な幸子に戻っていた。プログラムモードではなくニュートラルで、幸子は憎たらしくなかった。

「わたし、自然にしていても世界は壊れないのね!」
「ああ、半分賭けだったけどね。これで僕たちも希望を持って前に進める」
 ハンスが、珍しく嬉しそうに言った。
 ねねちゃんも義体で、ここまで自然になれるのかと思うほど人間らしかった。
「これは、太一、キミのおかげだよ」
 里中副長が言ったとき、急に空間が歪み、全員がショックを受けた。

 目の前に、傷つき果てたユースケが現れた。

「もう空間移動の技術も覚えたんだね」
「そうしなきゃ、生き延びられないんでね……優奈!?」
「祐介、ごめんね。いままで祐介の気持ちに気づいてあげられなくて。こんなに苦労して、こんなに傷つき果てて」
「で、でも、どうして……」
「舞洲で殺されたとき、わたしの脳の一部をサッチャンが保存してくれていたの。体は義体だけど、心は優奈だよ。祐介の優奈だよ!」
「そんな……でも、オレは幸子を殺さなきゃならないんだ!」
「もう、その必要はない。グノーシスの間でも休戦協定が結ばれた。君も、いつまでも、そんなロボットに取り込まれていなくてもいいんだよ」
「そうよ、祐介!」
「オ、オレは……ウワー!」
 ユースケは悶え苦しんだ。危ないので優奈を引きはがそうとした。
「このままで……祐介! 祐介!!」

 やがて、ユースケは動きを止め、静かにボディーが開くと祐介がこぼれ出てきた。

 そして、一週間して祐介の意識が戻った。義体と入れ替わっていたみんなも自然に元にもどった。

 そして、俺の妹の幸子はニクソクはなくなった……。


『妹が憎たらしいのには訳がある』  シリーズ・1 完


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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・67『C国多摩事変・2』

2018-11-01 07:04:15 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・67
『C国多摩事変・2』 
     


 300機のチンタオは二世代前のロボットであるために今のC国のコードも通用しない。

 私たちから連絡を受けたC国大使館は、すぐにチンタオたちに「行動中止」のコマンドを二世代前の様式で送ったが、彼らは通常のコマンドコードを受け付けず、C国大使館そのものを敵と見なし、攻撃を加えてきた。C国大使館は、自動でバリアーを張って無事だったが、周りの建物に被害が及んだ。Rヒルズの南側の窓ガラスは全部割れてしまった。
 国防省の対応も早く、阿佐ヶ谷駐屯地は、ミサイル発射の熱源に向けて反撃の地対地ミサイルを撃ち込んだが、ステルス化したチンタオたちはすでに移動したあとだった。

 ユースケは、首都防衛の精鋭ロボット部隊ロボコンを送った。彼らは国内最精鋭部隊で100機のロボコンで構成され、司令機の一機を上空で待機させ、3機編成の33の小隊に、それぞれ指令を送った。

 ロボコン部隊は、チンタオの初期ステルスを易々と見抜き、あっと言う間に半数を多摩地区で撃破した。それから残ったチンタオ達は、カメレオンのようにステルスのモードを変換し、都心部へと近づいてきた。
 都心は、100機以上のチンタオの攻撃を受け、あちこちで大惨事が起こった。ミサイル発射直後の熱源を衛星で探知し、その後20分でさらに50機のチンタオを撃破、擱座させた。
 チンタオは旧式ではあるが、偽装については能力が高く、都心に入ってきたものは、熱源を市販の自動車と変わらないものにし、トンネル内で、荒川で見かけたバンに擬態化し、都心の中枢に向かっていった。
 ロボコン部隊は、強力なセンサーで擬態するチンタオの速度に、次第に追いつき、1機、また1機と撃破していく。

 わたしと優子は、ロボコンを除けば、数少ないチンタオのステルスが見破れる個体なので、彼らが目標としている新宿の国防省に向かった。新宿では、まだ市民に情報が行き渡っておらず。あちこちで交通事故や、混乱が起こっている。
「あのバン、チンタオよ!」
「任せて!」
 わたしは腕のグレネードを発射した。徹甲弾モードにしたグレネードは、チンタオの内部に入って爆発するので、そんなに破片は飛び散らない。しかし程度問題で、数千個の大小の部品が凶器になって、あたりに飛び散る。わたしたちは、一度に一万個の目標を追尾する能力がある。飛び散った破片がどのような軌道を描くのか瞬時に計算し、危険の高い破片から対応する。ごく小さなものは目に仕込まれたレーザーで焼き切る。それ以上のもので脅威にならないものは放置する。

――三時の方向、破片オッサンに!――

 真由の指示でジャンプ。オタオタしているオッサンにしがみつく。若い女にしがみつかれたと思ったオッサンは一瞬ニタリ。直後背中に衝撃、チタン合金の肋骨の下の柔らかい生体組織に突き刺さる。
「おじさん、早く逃げてね。都庁の方角が安全」
 そうアドバイスしながら、背中の破片を抜く。血が噴き出し、オッサンの顔にかかった。
「ごめん……」
 腰を抜かしたオッサンを尻目に、国防省へ急ぐ。真由も女の子を庇い、首に破片が貫いている。両手両足のグレネードを使ったので、関節の生体組織が破れ、わたしたちは血みどろになった。
 国防省の構内に入ると、弾薬庫を目指した。もう手持ちのグレネードが切れてしまっている。
「甲殻機動隊。少し弾薬を分けて」
 相手はロボット兵だったので、0・1秒でIDを認識して弾薬庫に入れてくれた。
 両手足にグレネードを装填し終えた時に衝撃がやってきた。
「バリアーが破られた!」
 外に出てみると、国防省の東側のバリアーが破られていた。周囲の破片から三機のチンタオが同時に突っこんできたことが分かった。もう一機は、わずかに間に合わなかったのだろう、植え込みのところでデングリカエって黒煙を上げていた。バリアーはすぐに回復を現す薄いグリーンになっている。
「お前達も大変だったな」
 ユースケが声をかけてきた。
「CICにいなくていいの?」
「ああ、やつらの目標はCICのコマンダーのオレだ。いっそ外に出た方が始末が早い」
「最後の1機が突っこんでくる!」
「司令機よ!」
 わたしと優子とユースケは、瞬時に同じコマンドコードになり、二百キロの速度で構内を走り回った。
 もう、グレネードを撃っている暇もない。
 直前で司令機は三つに分離し、三人それぞれに向かう姿勢を示したが、これはブラフであった。ユースケのコマンドコードを正確に読み取った司令機は、ユースケに集中した。
 優子は、その前に身を投げ出した。

 強烈な炸裂音がして、司令機も優子もユースケも吹き飛んでしまった。

 優子は、正面で、まともに受け止めたので、胴体のところで千切れてしまった。生体組織がぶちまけられ凄惨な姿ではあるが、頭部は無事だったので元気ではある。
「優子、世話かけちまったな」
 片腕を失ったユースケが優子の顔を覗き込む。
「ハナちゃんが、今来るわ」
 そう言うと、二人とも安心したようだ。
「優子、おまえがサッチャンだってことは分かっているけど、そっちの勝負は当分お預けな。フェアにいきたいからな」

『いやあ、神楽坂も、マンションは爆破されるわ、新宿の方から人たちが逃げてくるわで大変でした』
「遅れた言い訳?」
「いいじゃん、ハナちゃんも大変だったみたいだから」
 同期した優子とハナちゃんは、情報を共有したようだ。
「木下クンは……」
『……なんとか、人間の形にして、あとのお世話はお願いしてきました』
「ありがとう……わたしたちもメンテナンス大変なんだろうな」
「もし、わたしのCPの中に優奈が生きてるって分かったら……ユースケ、どうしただろうね」
「さあ……」

 ハナちゃんは、わたしたちを乗せて、一路大阪を目指した……。



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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・66『C国多摩事変・1』

2018-10-31 06:29:43 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・66
『C国多摩事変・1』 
      


 よくある漢方薬の注文のメールだった。一日に数万件はある、それらの、ほんの三百件ほどだった。

 木下が、おかしいと思ったのは、それらが多摩ニュータウンに集中し、商品が、今はほとんど注文のない強壮剤だったからである。
 多摩ニュータウンは人口減少と多摩局地戦の影響で、規模が2/3に縮小され、高齢者の人口は減っている。
 こんな多量、同種の漢方薬が発注されることがおかしいと思った。勘の働いた木下は、そのうちの一軒を覗いてみた。
 内務省が極秘で持っている世帯個別調査のコードを使った。これを使えば、各世帯のテレビ内蔵のカメラや、PCカメラ、防犯カメラの映像を瞬時にみることができ、住人の個体識別もできるというスグレモノである。映された映像は、若い夫婦が子孫繁栄のための、ごく個人的な行為の真っ最中で、まちがっても強壮剤などは使わない。

「あ……」

 それはハッカーとしての直感であった。
 これは初歩的なハッキングによる情報操作だ。木下は受信先のアドレスを徹底的に洗った。
 その結果、今は壊滅した対馬戦争時代のC国陸軍の情報部宛になっていた。
 そこで木下は、その情報部のコードを偽造し、注文主に確認のメールを送った。すると、そこには、二世代前のチンタオ型、それもステルスタイプのロボットが十数台集結しつつある映像が映った。

「こいつはスリーパーだ……こないだのは、そのうちの一台にすぎなかったんだ!」

 チンタオ7号は考えた、ついさっき再起動したことを偽装電で送った。宛はチンタオ統合情報部である。そこから、再起動確認の偽装電が送られてきた。他の300台にも短波無線で情報を流し、全てのロボットが再起動の連絡をやりなおした。
 すると今度は、チンタオ統合情報部からではなく、彼らが以前稼動していたころには存在しなかった陸軍中央情報局から、暗号文で活動停止の電文が送られてきた。チンタオたちはこれをフェイクと考え、最初の再起動確認の電信を送ってきた者を敵と見なし、その発信源を突き止めた。

「しまった、こいつらCPを並列化して捜索してやがる」

 こんな事態になるとは思っていなかったので、簡易偽装と通り一遍の迂回しかやっていない。いかに二世代前とは言え並列化したCPなら数分で、ここを特定するだろう。

 木下は、CPを使ってワルサはするが、ごく身近な人間には「親切」な男である。
 となりの真由と優子を助けてやろうと思った。PCの一つを覗きモードにすると真由と優子の部屋が見える。就寝準備のため、布団をしいて、パジャマに着替えている。
「いつ見ても、真由ちゃんのオッパイってかわいい……いかん、今は、そんな状況じゃない!」
 木下は、慌てて隣の部屋に行きドアを叩いた。
「真由、優子、すぐに逃げろ、間もなくミサイルが飛んでくる!」
『なに言ってんの。あたしたち、もう寝るとこだから』
「寝ちゃダメだ、逃げなきゃ!」
『おやすみなさ~い』
「くそ!」
 木下は、二人の乙女を助けるべく、ドアを蹴破って中に入った。

 部屋の中はもぬけの殻だった。

「真由、たいへん。木下クンが、あたしたちの部屋に入った」
「え、ほんとだ」
「あいつ、チンタオのスリーパーに気づいて、あたしたちを助けようとしてるんだ!」
 その時、渋谷にいた二人の上空を一発のミサイルが飛んでいったのが分かった。
――木下クン、逃げて!――
 わたしは部屋のPCを起動して、思念で呼びかけた。それが音声化されて木下の耳には届いたが、パニックになっている彼は、とっさには理解できなかった。

 そして、数秒後にミサイルは、マンションごと、木下を吹き飛ばしてしまった……。


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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・65『荒川事件』

2018-10-30 06:44:39 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・65
『荒川事件』
     



 捜すのにずいぶん時間がかかったよ。もっとも、こちらも、それだけに構っていられなかったけれどね。

 ホンダN360Zは、入力したコースを離れ、荒川の河川敷に停まると、そう話しかけてきた。

「油断したわ」
「いや、ここまで隠れていたんだ、大した者だと誉めておくよ」

「この声……ユースケね?」

「その名前は気に入っているよ。原体になった祐介は完全に取り込んだけど、このロボットの行動や思考の力は祐介の想いが原動力になっているからね」
「今、祐介は、どうなっているの?」
 抑えた声で優子がたずねると、ダッシュボードのモニターに赤ん坊のように丸まった祐介の姿が映った。粘膜や血管のようなものが繋がり繭のようなものの中で眠っているようだった。
「そして、これがわたし……ユースケのMCPだよ。どうせ君たちのスキャン能力じゃ分かってしまうことだろうからね。友好のシルシにお見せしておくよ」
「ホンダN360Zの擬態はやめたのね。どこにでもあるアズマの大衆車だわよ、これじゃ」
 わたしの不満にユースケは、正直に答えた。
「わたしも、あれのほうが好きなんだけど、目立つからね、山手線のガードを潜った時に変えた。ちょうど周りはアズマの同型車が四台も走っていたからね。途中、衛星の目の陰になるところでシリアスもナンバーも何度も変えたよ。見てごらん、営業の途中に自主的な休息をとっているアズマが、この河川敷に何台もいるだろう」
「なるほど、都心の道路じゃ、すぐに交通監視員のオジサンがやってくるものね」
「窓開けていい?」
「いいよ」

 オートで窓が開いた。広い荒川の川風が吹き込んできて気持ちがいい。

「子供の頃、こんなとこで、よく石投げをしたものよ。ちょっと出てやってもいい?」
「それは、話が済んでからにしてもらえないか。君たちのノスタルジーに付き合うために、ここまで来たんじゃないんだから」
「ち……」
「それに、うかつに外に出られて走り回られちゃ、擬態を解いてロボットの姿に戻らなきゃならないからね。せっかく平和に自主的休憩をとっているサラリーマン諸君の安らぎの邪魔はしたくない」
「ま、とにかく話を聞いてみようよ」
「友好的な態度に感謝する」
「で……?」
「C国が予想以上に我が国に浸透してきている。M重工の重役にハニートラップがかけられていた事でも分かるだろう?」
「ええ、あれはショックだったわ。C国の技術が、あそこまで進んでいるとは思わなかった」
「的場みたいな抜けたやつが防衛大臣をやっていたからな。今の民自党の時代に相当やられてる。それだけじゃない。君たちが多摩でクラッシュしてくれた古いロボットの他にも、相当なスリーパーが潜り込んでいるようで、対馬を中心に、周辺海域をしらみつぶしにあたっている」
「で、その間は、グノーシスの仲間割れは中断なのね」
「ああ、この国がなくなっちゃ元も子もないからね」
「だったら……」

 わたしと優子は手話に切り替えた。

――向こう岸の、ミッサンのバンに気を付けて――
――上空をノンビリ飛んでるアズマテレビのヘリコプターにもね――

 そのとき、ミッサンのバンが方向転換をしたかと思うと、ヘッドライトのところから対地ミサイルを、こちら岸のアズマの営業車に撃ち込んできた。
 二台目が吹き飛んだとき、わたしたちはドアから飛び出し、ユースケはアズマの擬態を解いてロボットの姿になり、荒川をジャンプし、ミッサンのバンの擬態を解きつつあるC国のロボットに飛びかかっていった。すると上空をノンビリ飛んでいたアズマテレビのヘリコプターが、空対地ミサイルをユースケ目がけて発射した。ユースケは予定進路を変え、同時にジャミングをかけた。
 わたしたちが義体であることに気づくのには、少し時間がかかり、わたしたちは擬態を解いたC国のロボットの後ろにまわり、至近距離から手首のグレネードを四発首筋にお見舞いし。ロボットは擱座した。真由の二発で間に合ったので、わたしは上空のアズマテレビのヘリコプターを撃ち、重力誘導で荒川の真ん中に墜落させた。

「ビックリするよね」
「あ、ユースケ、フケやがッた」

 あちこちで、アズマの車や、ロボット、ヘリの残骸が燃えている。わたしと優子は体温を地面と同じにし、衛星のサーモセンサーにかからないようにして、すぐに街中に逃げ込んだ。

 これが、C国多摩事変と呼ばれる局地戦争の始まりだった……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・64『オーマイガー!?』

2018-10-29 06:37:22 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・64
『オーマイガー!?』 
    


 それから、表面上は穏やかな学生生活が続いた。

 裏ではいろいろあった。

 春奈の父親は、C国のハニートラップ、それもロボットに騙され情報を流し続けたということで、他社や自社の重役や、役人達といっしょに社会的に抹殺され、今は長崎に帰って妻と少しずつ「夫婦」に戻りつつあった。春奈は、これを機に東京で、学生生活に本腰を入れた。むろん宗司のサポートがあってのことだが。
 日本政府とC国の関係は一触即発の状態になり、グノーシスの仲間割れも休戦状態で、隣の木下クンのところからも、日本とC国の腹のさぐり合い以上の情報は流れてこず、緊張を孕んだ平和が続いた。

 そんな中、W大の理工学部と自動車部の肝いりで自動車ショーが開かれた。

「足としての車 足は第二の頭脳である」

 もっともらしいコンセプトで、自動車部が持っているガラクタ同然のクラシックカーに理工学部が適当な解説をつけ、お祭り騒ぎをやろうという学生らしい企みであった。
 むろん参加料はタダだが、自動車メーカーや、玩具メーカーとタイアップし、ブースを出してもらい、一稼ぎしようという目論見。
 企画は、我らが「となりの木下クン」で、彼自身ネット上にブースを設け、中古車から、クラシックカーのパーツ販売の仲介までやって稼いでいた。宗司クンは、スーパーの知識と、料理の腕をを生かし、友人とB級グルメの店を出して楽しんでいた。宗司クンの出店は、いわば客寄せで、ほとんど儲けはないが、趣味人として楽しみ、他学生である春奈も喜々としてウェイトレスの手伝いなんかをしていた。
 
「この車かわいいね」

 優奈が一台のクラシックカーに目を付けた。ホンダN360Zと表記された車は「古典的未来の魅力」というキャプションが付いていた。
 百年前の車だけど、21世紀に対する無垢なあこがれがフォルムに現れていた。21世紀初頭を感じさせるフロントグリル、コックピットと言っていいような乗車スペース。大胆な黒縁のハッチバック。切り落としたように無い車体後部。
「これ、極東戦争の前にヒットした『オーマイガー!!』に出てくる車だよ」
「主人公のマドカが『ファルコンZ』って名前付けて、イケメンの外人講師乗せたり、過去の世界に戻って、高校生時代の母親を助けたりするんだよね」
 優子は、頭脳の元になっている幸子か優奈が好きだったんだろう、『オーマイガー!!』の映画への思い入れと知識に詳しい。
「良かったら試乗してください。オートでしか運転できませんが、時代の雰囲気は満喫していただけます」
 W大生にしては、可愛いミニスカ・キャンギャルの女の子が、にこやかにドアを開けてくれた。

「ウワー、カッチョイイ!」

 優子のその一言で、わたしは優子といっしょに「コックピット」に乗り込んだ。
「うわー、これ音声認識もしないんだ!」
「はい、三世代前の手動入力になっています」
 キャンギャルの子が、目をへの字にして、興味をそそる。
「じゃ、神楽坂に出て、渋谷……」
 優子が、山手線の内側をなぞるようにコース設定をした。
「ウウ、たまらん、このアナログ感!」
「ファルコンZ、しゅっぱーつ!」
 優子が、映画のマドカのように声を上げた。
 車が一般道に出るまで、キャンギャルの子は笑顔で手を振っ見送ってくれた。

 車が見えなくなると、キャンギャルの子は、ブースの陰でミニのコスを脱ぎ捨て、隠しておいた国防軍のレンジャーのユニホ-ムになり、迎えに来た高機動車に乗り込んだ。

 木下クンも、宗司も春奈も、会場の誰も気づかなかった……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・63『ボクの勘』

2018-10-28 06:36:21 | ボクの妹

ボクのがこんなにニクソイわけがない・63
『ボクの勘』 
 
         


「ボクの勘だけど、あの女の人はロボットのような気がする」

 マンションに戻る途中、春奈と宗司がマンションを出て駅に向かって居ることがGPSで分かった。
そして、最初に飛び込んできたのが、宗司のこの言葉だった。

 しばらく、二人は無言だった。

 春奈が涙をこらえ、宗司が、今の言葉を後悔しながら、春奈の気持ちを引き立てようとしていることが、無言の息づかいや、足音などから分かった。

「言葉なんか無くても、通じるものってあるんだね……」
 優子が、優しく言った。
「始め言葉ありき……と、聖書にはあるけどね」
「新約聖書「ヨハネによる福音書」第1章ね……わたしはクリスチャンじゃないから、この言葉は信じない」
「そうだね。今、宗司は無言で春奈に寄り添ってるよ。だから、春奈も崩れずに、駅に向かって、ちゃんと歩いている、歩けてる」

 駅の改札を潜ると、まるでシェルターにでも入ったように、春奈は、ベンチに腰を下ろし、ため息をついた。
 
 電車が来ても春奈は、ベンチを立とうとはしなかった。

 宗司は、寄り添ってベンチに座り続けた。
 場馴れしない宗司は、無意味に立ち上がり、自販機でコーヒー牛乳を買って、一つを春奈に渡した。

「プ、よりによって、コーヒー牛乳……」
「あ、ボク、何にも考えてなくて……よかったら、別の買ってくる」
「いいの、こういう子供じみた飲み物がちょうどいいの」
「そ、それはよかった」

 そう言いながら、宗司自信は、コーヒー牛乳を持て余していた。
 春奈は、付属のストローを、さっさと差し込んで、最初の一口を口にした。

「おいしい、宗司クンも飲んでみそ」
「う、うん」
 宗司は、音を立てて、半分ほども飲んでしまった。
「子供みたい」
「あ、ボクって、気が回らないから……ごめん」
「謝ることなんかないわよ」
「ロボットみたいだって、いいかげんな慰め言ってごめん」
「ううん、心がこもっているもの。でも、どうしてロボットだって思ったの?」
「……ただの勘。エントランスですれ違ったときに、なんてのかな……人間て、不完全てか不器用だから、たいてい複数のオーラを感じるんだけど、あの人からは美しいってオーラしか感じなかった。むろん表情が硬かったり、適度に足早だったり……でも、ボクには、プログラムされた動きのように思われた……いや、ドジなボクの勘だから」
「残念ながら、あの女の人は人間。これも勘だけど、当たり」

「そうなんだ……」

「中学の頃に、お父さんのゴミホリ手伝ってたら、紐が切れて、古い本やら手紙がばらけちゃって」
「アナログなんだね」
「エンジニアって、そんなとこあるでしょ。その手紙の中に、経年劣化すると隠れた写真が浮かび出てくるものがあったの。その写真、さっきの女の人にそっくりだった」
「女の人からの手紙?」
「ううん、お父さんの友だち。きれいな人だなって思った。手紙には『20年後に、この手紙を見ろ』って書いてあった。元は風景写真みたいだったけど、女の人の姿と二重になっていて、お日さまに当てると、あっと言う間に、女の人だけになった」
「その女の人、お父さんの彼女だった人?」
「うん……不思議そうに見ているお父さんが、後ろから言った『お母さんと知り合う前に付き合っていた。向こうの親が反対らしくてね、お父さんのメールや手紙は全部ブロックされていた。で、数か月後に街で会ったら、こう言われた』 彼女は、こう言った『なんで、しっかり掴まえていてくれなかったの』。それで、お父さんは、手紙やメールがブロックされていたことを悟った。で、なにも言わずに別れたって……『人を愛することは、その人が一番幸せになることを望むことで、けして押しつけるもんじゃない』って。そして『いま、お父さんが一番大切な人は、お母さんと春奈だ』って」
「……そうなんだ」
「その女の人によく似てるんだもん。ロボットだったら、いくらなんでも分かるわよ……でしょ。その……スキンシップとかがあれば分かる事よ」
「そ、そうだよね……」
「電車が来た。もう、この街から離れよう」
「うん」

「これ、やっぱり放っておけないよ」
 反対側のホームで、優子が言った。
「予定変更、ただちに実行」
 わたしは、あの女に送り込んだプログラムを書き加えた『迅速な活動停止』と……。

「あなた、ただ今。どうだった、春奈ちゃん?」
「あ、ああ、少し傷つけてしまったようだけどね……」
「ごめんなさいね、わたしが……」
 そのまま女は倒れて、呼吸が止まった。

 救急車で女は救急病院に運ばれ、蘇生措置が行われたが息を引き取った。
 そして、病理解剖されて、初めてロボットであることが分かった。同時に全国で二十体の活動を停止したロボットが発見された。わたしが発見したより十五体多い。C国のトラップは、思いの外進んでいた。

 事態は、わたしたちの予測を超えて進み始めている……。
 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・62『春奈の秘密・2』

2018-10-27 06:52:02 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・62
『春奈の秘密・2』 
        


 春奈の父の部屋から三十がらみの女がエレベーターで降りてくる。

 女がマンションから出てくると、優子とわたしは道を分かれて追跡した。
わたしたち義体にはGPS機能が付いているので相手に気づかれない。道の分かれ目で合流し、追跡を交代すれば、よほど慣れたスパイや、アナライザーロボットや義体でも、二回まではごまかせる。
 女は野川沿いの緑地帯に入っていった。顔見知りなんだろう、犬を散歩させているオバサンに声を掛けて、犬とじゃれ合った後、ベンチに座った。

 少し離れたベンチで、女のパッシブスキャンをやる。

 体から出てくる体温、水蒸気、呼気、脳波、電波などから、相手が人間かロボットか義体なのかを見分けるのだ。

「……人間?」
「確かめよう」
 ベンチに座ったまま優子と石の投げっこをする。
 優子が軽く投げた石ころを、わたしが別の石で当てるという無邪気な遊びである。ほんの数メートルの距離だけど、女子高生がじゃれているぐらいにしか見えない。他にもキャッチボールをやったり、フリスビーで遊んでいる家族連れがいるので目立たないのだ。
「真由、いくよ」
 優子が、小さく呟く。
「OK……」

 わたしは二百キロのスピードで小石を投げ、優子の小石をはじき飛ばした。はじかれた石は、まっすぐに女の顔に向かい、女は二百キロで飛んできた小石を軽々とかわすと、アクティブレーダー波を発した。

――義体か、ロボットだ――

 優子は、すぐにジャミングをかけ、わたしは小石をキャッチボールをしている親子のボールに当て、ボールを緩く女の足もとに転がした。
「どうも、すみません」
「いいえ、ボク、投げるわよ」
 女は、正確に、少年のグロ-ブに投げてやった。
 その隙に、わたしと優子は女の後ろに回り、アクティブスキャンをかけた。

――ロボットだ!――

 女が行動を起こす前に、耳の後ろのコネクターに手を当てると、CPをブロックし、アイホンに見せかけたケーブルを繋いだ。
「C国の、最新型ね。並のスキャンじゃ人間と区別つかない」
「メモリーにロックされてるのがある」
「……待って、下手に解除したら自爆するわ」
「そんなドジはしない……わたしの勘に狂いがなければ……ほら、ロックが解けた」
「どうやったの?」
「ダミーのM重工の情報を流した……大当たり。M重工のロボット技術の機密でいっぱい」
「産業スパイ?」
「兼秘密工作員。奥にまだロックのかかったのがある。このキーは軍事用だわ」
「いっそ、破壊する?」
「もっと、いい手がある……」
「なにしてんの?」
「こいつのCPにウィルスを送り込んだ。掴んだ情報に微妙な係数がかかるようにね。C国が気づくのに半年、解析に三ヵ月はかかる」
「でも、八か月で、バレちゃうじゃん」
「解析したらね……多摩で出会った二世代前のロボットのスペックが出るようにしといた」
「真由って、優秀!」
「優子にも同じスキルがあるんだけど、優奈の脳細胞生かすのにCPに負担かけられないからね……」
「ごめん」
「それよりも、M重工の技師やらエライサンの秘書やら愛人に五体、同じのが送り込まれてる」
「機密情報垂れ流しじゃん!」
「ハニートラップに特化したロボット……意外と間が抜けてる。五体でネットワークしてる。このウィルスは自動的に、他のにも感染するね」
 そこで、わたしたちはロボットを解放した。ロボットは浮気相手の娘が来たので、避難した記憶しか残っていない。

 この間、わずかに二秒。緑地帯に居る人たちは、ちょっと貧血を越した女性を女子高生が労わったとしか見えていないだろう。

 春奈には悪いけど、もう少し親の不倫に悩んでもらわなければならない。春奈のフォローのためにマンションに戻った……。


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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・61『春奈の秘密・1』

2018-10-26 06:38:58 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・61
『春奈の秘密・1』 
        


「春奈はどうして長崎から東京に来たの。N女程度の大学なら、九州にでもあるだろ?」

 バカな質問をする奴だと、二つ隔てたテーブルで、わたしと優子は思った。

 多摩自然公園で、スリープしていたC国のチンタオ型ロボットと戦って以来、美しい誤解で、W大の宗司とN女子の春奈は急速に仲がが良くなった。
 池の中で溺れかけた春奈は、マウスツーマウスで人工呼吸をしてくれたのは宗司だと思っている。ほんの五秒ほどだけども、わたしは宗司にも人工呼吸をしてやった。で、めでたく宗司も春奈に人工呼吸したのは自分だと思いこんでいる。
――たしかに、宗司に人工呼吸してやったとき、宗司はなけなしの肺の空気を、春奈と勘違いしたわたしに送り込もうとした。その人の良さにわたしは、倍の酸素を送ってやったけど、ロボットの目をかわすために、すぐその場を離れた。で、美しい誤解が生まれた――

「春奈ちゃんの東京弁聞いても分かるジャン。長崎の匂いはあるけど、あの子は、昨日今日東京に来た子じゃないよ」
「ワケありで長崎に行っていたことぐらい想像つかないのかなあ……」
 優子もため息をついた。
「宗司クンなら、話してもいいかな……」
「うん、なんでも相談に乗るぜ」

 宗司は身を乗り出した。その拍子に、テーブルの下で自分の膝が、春奈の膝の間に食い込んだことにも気が付かない。春奈はミニスカだったので、さすがに身をひいたが、それでも続けた。

「わたし、去年の夏までは東京にいたの。親の都合で田舎の長崎に……宗司クン。いっしょに付いてきてくれる?」
「う、うん」
 
 全然説明不足な春奈の説明に、オメデタイ宗司は二つ返事でOKした。

 駅を降りると、春奈と宗司は、成城の街の中心に向かって歩き出した。
 さすがに、春奈もポツリポツリと事情を説明する。

「お父さんとお母さんは別居してるの……で、お母さんの実家がある長崎に。わたしは生まれも育ちも東京だから……」
「やっぱり、慣れたところがいいもんな。それで東京のN女に?」
「……うん、まあ、そんなとこ」
「で、今日は久々にお父さんに会おうってか」
「うん……」

「スーパーと料理に関しては大したオタクだけども、こと女心については、小学生以下だね」
「イケてるミニスカートとチュニックの組み合わせ、ありゃ、元気に明るく女子大生やってますって背伸びだよ。無理してんね。それぐらい分かれよな、ボクネンジン!」
 優子も辛辣だ。
「せめて、デートってか、彼らしく決めてこいよな。ジーンズにスニーカー……春奈の気持ちぐらい分かってやれよ」
 二百メートル遅れて歩きながら、わたしと優子はぼやきっぱなしだった。
「ここ、わたしのマンション」
「え、すっげー……!」

 さすがのボクネンジンでも、それが、並のマンションでないことぐらいは分かった。大スターか、一部上場企業のエライサンでなければ手の届かないシロモノだ。春奈は慣れた手つきで、エントランスの暗証番号を押して監視カメラに向かって手をふった。
――はい、川口ですが。どちらさまでしょう?――
 知らない女の声がして、春奈はうろたえた。
――あ、春奈か。今エントランスを開けるから、ロビーで待っていてくれ――

 しばらくすると、五十代前半のオッサンが、つまり春奈の父親が降りてきた。

「やあ、春奈。言ってくれたら迎えにいったのに。リニア東京からだとくたびれただろう」
「ううん、わたし東京のN女子に通ってんの。あ、彼、BFの高橋宗司クンW大の二年」
「高橋です。どうも、こんなナリで失礼します」
「わたしが気まぐれで、付き合わせたから、仕方ないのよ」
「W大か、なかなかだね。専攻はなんだね」
「あ、一応理工です」
「ハハ、一応ね」
 二百メートル離れた道の角で、優子とわたしは、少しむかついた。ポケットの名刺のIDをチェックすると、M重工のエライサンだということが分かった。国防軍用のロボットを半分以上を請け負っている大企業だ。
「わたし、自分の部屋が見たい」
「あ、ああ、上がんなさい。君はここで少し待っていてくれたまえ」

 わたしも、優子も悪い予感がした……。


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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・60『5人のロボット対戦』

2018-10-25 06:40:45 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・60
『5人のロボット対戦』 
      


 

 赤さびたロボットは右足を引きずるようにして近づいてきた。木々をなぎ倒し、岩を踏み砕きながら……。

 携帯武器は持っていないようだが、搭載武器が生きているかも知れない。わたしたちは必死で逃げた。ロボットは二世代前のチンタオ型で、半ば故障しているとは言え、生身の人間には十分過ぎる驚異だ。
 わたしと優子は義体なので、その気になれば後ろに回り込み、メンテナンスハッチを解錠し、動力サーキットを切ってしまえば、ものの数秒で無力化はできるが、それでは、仲間達に義体であることを知られてしまう。

 とにかく逃げることだ。

「こいつは、チンタオのアナライザータイプだ。攻撃能力は知れているが、探査能力が高い……」
 頭上の岩が爆発した。近接戦闘用の搭載兵器、多分ショックガンを使ったんだろう。
「キャー!」
 春奈が悲鳴をあげた。優子は、春奈の口を塞ぎ、次の岩場の陰に隠れた。
「やっつけちゃ、ダメ?」
 わたしは、春奈に聞かれないように早口で優子に言った。優子は素早い手話で答えた。
――ダメ、義体であることがばれる。ばれたとたんに、C国に情報が送られる――
――三ヶ日じゃ、うまくいったじゃない――
――ダメ、他の三人に知られる。わたしたちは「人間」なのよ。

 ドーン! 

 今度は木下と宗司が隠れていた岩場がやられた。

 ただ、ロボットの動きが鈍重なので、あらかじめ察知して、次の隠れ場所に移動する余裕は、なんとかありそうだ。でも、この先隠れ場所になりそうな岩場や、大木がない。大きな池があるだけの背水の陣だ。追いつめられるのは時間の問題だ。
 宗司が飛び込んできた。
「なんで、あんたが!?」
「木下クンが、あいつのCPのハッキングをやるって。その時間稼ぎに、二組に分かれて逃げ回ってくれって」
「そんなこと……」
「危ない!」
 不満はあったけど、結果的に、わたしは優子と、宗司は春奈ちゃんとの二組に分かれて逃げ回った。

 そして、池の水辺にまで追い込まれた。

「これ以上、どうしろって言うのよ!?」
「水にに飛び込むんだ、あいつの生体センサーは一メートルも潜れば感知できなくなる」
「まだ、泳ぐには早すぎるわよ! 水着もないし!」
 真由がど抗議したが、この言い方には余裕がありそうだ。実際次のショックガンがくるまでに、注意を引きつけて、宗司と春奈ちゃんが水に飛び込む時間を稼いだ。

 池に飛び込むと同時に、岩が吹き飛ばされた。池に潜ったわたしたちは二メートルほど潜ったが、五メートルほど先でパニックになりかけている春奈ちゃんを持て余している宗司が目に付いた。

――優子、あっちを助けて。わたしはここであいつを引きつける。

 わたしは、シンクロスイミングのように水面に姿を晒すと、池の深みを目指して泳いだ。次々に撃ち込まれるショックガンで、水面は泡だった。
 優子は春奈に口移しで空気を送ってやった。しかしパニクっている春奈は、半分も、その息を吸うことができなかった。
 三十秒が限界だった。これ以上やっては春奈を溺れさせてしまう。優子はそう判断すると、春奈を水面に放り上げ、自分も高々と水上に姿をあらわした。

 ショックガン……来ない。

 立ち泳ぎで、ロボットを見ると、ショックガン発射寸前の赤いアラームが肩で点滅していた。で、動きが止まっていた。
「やったー!」
 木下クンが、ジャンプして、ガッツポーズをした。

「木下クンなら、甲殻機動隊のサイバー部隊でもやっていけるわね」
「そうね、後始末もお見事」
 木下は、ハッキングの痕跡をきれいに消しただけでなく、ロボットが興味を示したものの記録も、一切合切消した。その中には、違法に改造された彼のCPの他に、わたしたちが義体の疑いがあるという情報も入っていた。

「お二人とも、とても泳ぎがお上手なんですね!」
 
 この春奈ちゃんの記憶は消せなかった。で……。
「宗司クン、水中で人工呼吸してくれて……ありがとう」
 と、宗司にお礼を言った。宗司も半ばパニックだったので、そのへんの記憶があいまいで、
「とっさのこととは言え、ごめん」
 と、美しく誤解していた。

 で、麗しくも切ない青春ドラマの横道へと、物語は展開の気配……。
 

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