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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

明神男坂のぼりたい・66〔変態オヤジの妄想アイテム〕

2022-02-08 06:35:50 | 小説6

66〔変態オヤジの妄想アイテム〕 

       


 キャー、可憐な女子高生が裸にされてる!

 そう言うと「アホか」という声が返ってきた。声の主は、お父さん。
 朝、洗面所に行くと、お父さんがガルパン二人の制服を脱がせている。

 分からない人に説明。

 お父さんは売れない作家で、ほとんど一日部屋に籠もってパソコンを叩いている。で、作家にはありがちなんけど、身の回りには「なんで、こんなものが置いてあるんだ!?」というもんがゴロゴロしていて、まるでハウルの部屋みたい。

 そのガラクタの中で、ひときは目立ってるのが、作りかけの1/6の戦車。で、戦車だけだったら子供じみてるけど、納得はいく。

 どうにもキモイのは、その作りかけの戦車に1/6の制服着た女子高生二人が乗ってること。こないだ来た美枝とゆかりは「かわいい!」って喜んでたけど、あれは社交辞令のお愛想……。

 すると、お父さんはビシっと指を立てた。

「お愛想だと思ってるだろ。伊東さんと中尾さんはちゃんと分かってるんだ。お母さんが部屋片づけてワヤにしたとき、お父さんがポーズと表情直したの見て感動してただろ。お愛想であの感動は出てこないぞ!」
「あの、一つ聞いていい?」

 あたしは歯ブラシに歯磨き付けながら聞いた。

「だけど、なんでガルパン?」
「発想だ。戦車と萌キャラという、まったく別ジャンルのものをくっつけて肩身の狭い戦車オタクと、萌オタクに市民権を与えた。そればっかりじゃない。大震災で落ち込んだ茨城県の街を活性化させたんだぞ。『アマちゃん』と並ぶ震災関係の作品としてはピカイチだと思う」
「けどガルパンには震災の『し』の字も出てこないけど」
「そこが、押しつけがましくなくて、いいとこなんじゃないか。舞台を大洗にしただけで、年間何十万人いう観光客を増やした『いばらきイメージアップ大賞』も受賞したぞ。物書きとしては、大いに刺激を受けるところだ!」
「だけど、そんなの作る側の戦略じゃないの、ほら、ナンチャラ制作委員会とかメディアミックスとかの」

 お父さんは、正面を向いて改まった。

「……世の中に100%の善意なんか存在しない。企業の思惑と計算があって、それで地方の街が活性化する。それでいいんじゃないか? 明日香だって、来年は大学受けるんだろ。それって純粋に勉強しようと思ってのことか? あん?」
「それは……」

 どうも、元高校教師と作家という理屈こね回しのW属性のせいか、丸め込まれそうになる。

「だけど、お父さん」
「なんだ?」
「その前はだけただけのお人形さん、なんとかしてくれない。人形でもセクハラだよ」
「明日香が歯を磨いてるから、しぶきが飛んだらかなわないからな。はやく、顔洗え」
「ムウ……」

 あたしは、ガシガシと歯を磨いて顔を洗った。するとお父さんは、待ってたとばかりに人形を裸にする。
 制服を脱いだ人形は、下着代わりに白い水着を着ている。

「シリコン素材は色写りがしやすいんでな、保護のため……」

 人形に軽いショックを受けた。

 脚の長さは人形のデフォルメなんだろけど、ボディーは成熟した女そのもの。お父さんは、その水着も脱がしてスッポンポンにすると、お湯で、さっと洗って、ドライヤーで乾かすと、ベビーパウダーみたいなのを、小さなザルに入れて振りかけた。

「こうすると、元の元気な姿に戻る」
「お父さん、やっぱ変態だ」
「ハハ、物書きは、みんな変態。誉め言葉だなあ……」

 こたえんオッサンだ。

 部屋に戻って考えた。

 制服いうのは女を隠すようにできてる。なんでもないような子が、水泳の授業なんかで水着になると、同性でもドキってすることがある。友だち同士でも、あんまり、そういう話はしない……ただ美枝みたいな子もいる。で、ゆかりといっしょになって心配なんかしてる。

 だけど、心配してること自体が、自分自身の問題から逃げる口実……ああ、あめだ、落ち込む。

 こういうときは母親譲りのお片づけを発作的にやる。

 中学のときのガラクタを整理。あらかた捨てようと決心すると、中三のときにあげたバレンタインのお返しの袋が出てきた。きれいなポストカードと小さなパンツが入っていた。

「あ、人形にぴったりかも」

 そう思って、一階へ。

「お父さん、よかったら、これ……(;'∀')」

 こんどは生首の模型バラして脳みそをシゲシゲと眺めている。

 やっぱりただの変態オヤジ……。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

 

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明神男坂のぼりたい・65〔バラが咲いた〕

2022-02-07 06:34:15 | 小説6

65〔バラが咲いた〕 

      


 

―― 明日香とこにも届いた? ――

 朝起きたら、こんなメールがゆかりから届いてた。

 それだけで分かった。

 一つ前のメールを見る。夕べ来た美枝からのメール。


―― バラが咲いたよ! ――


 その一言に、真っ赤なバラがベランダの手すりと青い空を背景に咲いている写真。

 美枝のマンションは南向きのベランダ。何を植えても育ちがいい。

 だけど、このアッケラカンと赤く大きなバラは、丹念に手入れした様子が窺える。

 バラは、ほうっておくと一杯芽を付けて、小さな花を、時期的にも大きさ的にも、バラバラに咲かせる(期せずしてシャレになった(^_^;))。だけど、美枝のバラは、プランターに一茎のバラ。そこに大きく真っ赤なバラが三人姉妹みたいに並んで写ってる。きちんと手入れして剪定(間引き)してきた証拠。

「きれいに咲かせたね」

 思わず独り言。

「あらあ、ほんと、きれいに咲かせたのねえ」

 お母さんが覗き込む。ちょっと羨ましそう。

 うちは三階建ての戸建てだけど、北向きだから、何を育てても満足には育たない。

 小さい頃は別だったけど、あんまり花には興味ない。お父さんもそうで、三年前に亡くなったお祖父ちゃんから引き継いだ仏壇のお花も、今は造花。お母さんはため息だったけど、あたしは、それでいいと思ってる。

 そんな花無精なあたしでも、美枝のバラの意味は分かる。
 赤いバラは愛情、情熱、それから……あなたを愛します。

 スクロールすると、写真の下に、もう一言。

―― LET IT GO ――

 同じ言葉をゆかりに送った……あたしのは美枝とちがう意味だけど。

 スクランブルエッグを生の食パンに乗せて、コーヒー牛乳(あたしは牛乳はダメ)500CCを一気飲み。

「そんなに早く飲んだら、お腹こわすよ」
「分かってる」

 この言葉には切実な事情がある。

 テスト期間中は、学校9時からだったから、ゆっくり起きていく。ダメなの分かってて、この癖はなおらない。なおらないとどうなるか。

 こんな、ささいな時間のズレが、生活のリズムを崩す。

 正直言って、テスト終わってから便秘気味。

 顔洗って、歯を磨いてるうちに体が反応してくる。

 生みの苦しみってこんなんだろうなあ……一分ほどお母さんの苦労に共感したあとはスッキリ爽やか(^_^;)。

「テスト中も普通に起きてたら間に合うことだろ」

 すっかりバイト生き甲斐のさつきはあきれ顔。言い返そうと思ったら、もう姿が無い。

 

「いってきまーす!」に続いて「お早うございます!」

 

 玄関の階段降りたら、向かいのオバチャンと目が合った。

「おや、あんたとこもバラが咲いたんだ!」

 かろうじ午前中だけ日の当たる階段の下の方。ベージュの植木鉢に貧相なバラが咲いている。

「おかげさまで!」

 オバチャンは喜んでいるので、その喜びのお返しに明るく返事をする。

 だけど、貧相は貧相。

 お母さんも剪定はやってるから、大きさはそこそこ。だけど色が悪い。赤黒くくすんだ感じ。美枝の真っ赤にはほど遠い。

 向かいのオバチャンは、ほんの半年前に旦那さんを亡くしたばかり。

「明日香ちゃんちに電気点いただけでホッとするのよ、おばちゃん」

 気のしっかりしたオバチャンだったけど、やっぱり一人暮らしは堪えるんだろうなあ……だから、うちの貧相なバラでも、あんなに喜んでくれる。あたしは、それに相応しいだけの反応ができただろか……美枝のことには無力だったから、ちょっとナーバスになる。

 おばちゃんの視線を感じながら男坂を二割り増し元気に上がる。

 こんなあたしでも、人を元気にできることに感謝して、いつもより数秒長く拝殿の前で頭を下げる。

 歩きながらスマホで検索。

 赤黒いバラの花言葉は……永遠の愛だった!

 うちの家も、向かいのオバチャンにも、いいことが起きたらいいのになあ……。

 鳥居の所で横目を向けると、さつきが、もうだんご屋の仕事に励んでいた。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

 

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明神男坂のぼりたい・64〔今日はうちで、お勉強会〕

2022-02-06 09:04:14 | 小説6

64〔今日はうちで、お勉強会〕 

       

 


 テストも、あと二日。

 で、今日は、うちの家でお勉強会することになった。

 

 美枝と別れて家に帰った昨日のこと。

 

 お風呂入って三階の自分の部屋に戻ったら、さつきが人形焼き食べている。

 ちなみに、だんご屋に届けてある住所は御旅所の所番地なので、さつきは、相変わらずあたしの部屋に住んでいる。

「あ、なんで人形焼き?」

「勉強だよ、東京名物って言や、人形焼きと東京ばな奈。だんご屋としては勉強しとかないとな……そうだ、明日香も勉強会やれ!」

「え?」

「賑やかなのはいいことだ、今日は、美枝とだけだっただろ。ゆかりも混ぜてやれよ」

 なんか、こじつけの三段論法なんだけど、ゆかりを交えて集まるというのは必要なのかもしれない。

 美枝とはホッコリできたけど、ゆかりと美枝は微妙になりかけてるしね。

「そうそう、東京名物と言えば、人形焼きと東京ばな奈と明神だんごだからな。おまえらも三人でワンセットだ」

 ちょっと強引だけど、言ってることは正しい。

 

「バカな明日香のために、頼むよ!」

 電話したら、二人とも、あっさりOK。

 安心して、さつきの人形焼きに手を伸ばした。

「あれ?」

 まるで手応えが無くって、空気を掴んでしまった。

「神さまの食べ物だぞ。人間が掴めるわけがないだろ」

「エアー人形焼き?」

「怒るな、空気を掴むというのは大事なことだという教えでもある」

「真顔で人をおちょくるなあヽ(`Д´)ノ!」

 

「うわー、いい部屋じゃんか!?」

 ゆかりが声をあげた。

「こんなオモチャ箱みたいな部屋好き!」

 美枝も賛同。

 今日は一階のお父さんの部屋を借りた。

 三階の部屋は両親の寝室と襖一枚で隣り合わせ。当然襖締めなくちゃならないんだけど、この季節、三階は冷房が必要。それに、なにより部屋の片づけもしなくちゃならない。で、お父さんに頼んだら二つ返事でOK。お父さんは久々に渋谷まで出て映画でも観るらしい。

 とりあえず、二人が持ってきたお土産の今川焼きを食べた。

「ここ、お父さんの部屋?」
「うん。それぞれの部屋で住み分けてんの」
「ふうん……まあ、勉強には適してるね。窓ないし、玄関ホール挟んでるから外の音も聞こえてこないし」
「ここは、元ガレージ。あたしが赤ちゃんのころにジジババ引き取ること考えて二世帯住宅にしたんだ。お父さんは、ずっと二階のリビングで仕事してたけど、ジジババ亡くなってからは、お父さんの仕事場」

 今日は、真ん中の座卓の上のもの、みんな部屋の隅に片してくれてる。

「わあ、いいもの置いたあるじゃんか!」

 ゆかりが置き床に置いてある『こち亀』の亀有公園前派出所のプラモに気がついた。

「これ、お父さんが作ったの?」
「あ、あたし、子どもの頃『こち亀』好きだったから、だけど、中学いくころには興味なくなったから、未完成のままになってんの」
「うわ、入り口動く。パトチャリまで置いてある。きれいに色塗ってるねえ……」
「あ、これヘンロンのラジコン戦車! お兄ちゃんも一個もってる」

 あたしは、当たり前すぎて気がつかなかった。おとうさんのガラクタ収集癖は昔から、隣の部屋はお父さんの物置。その部屋を通らないと二階へは上がれないから、二人は、まだ見ていない。それを言うと美枝が目を輝かせて「見せて!」と言う。

「うわー、まるでハウルの部屋みたい!」
「ハウル?」
「ジブリの『ハウルの動く城』じゃんか。あのハウルの部屋みたい」

 あたしもお母さんも、いつも、この部屋はスルーしてるから、改めて見るとゴミの中にもいろいろあるのが分かる。

 百ほどあるプラモの中には、実物大の標本の人間の首。それもスケルトン。これが何でか南北戦争の南軍の帽子被ってる。
 美枝が発見した棚の上には、1/16の戦車がずらり、あと航空母艦やら戦艦大和やらニッサンの自動車、飛行機、その他エトセトラ。で、周りの本箱には1000冊ほどの本がズラリ。あたしが小学校のとき借りて読んでた『ブラックジャック』と『サザエさん』は全巻並んでる。

「すごい、これ、リアル鉄砲!?」
「うん、本物らしいよ。無可動実銃いうらしいんだけど、キショクワルイから、隅のほうに置いてあるの……それは宮本武蔵の刀のレプリカ……その黒い箱はヨロイが入ってる。あ、足許気ぃつけてね。工具とかホッタラカシだから怪我するよ」

「「スゴイスゴイ!」」

 二人で、同じ言葉を連発する。

「まあ、ちょっとは勉強しよっか(^_^;)」

 きりがないんで、切り上げを宣告。元の部屋に戻ると、また発見された。

「いやあ、なに、このリアルに可愛らしいのは?」

 それは仏壇の横で小さく体育座りしていて気がつかなかった。

「あたし、知ってる。1/6のコレクタードール。これ、ボディがシームレスで、33カ所も関節あって人間みたいにポーズとれるんだよ」

 物知りのゆかりが、目を輝かせる。

 その子は制服らしき物を着て、知的で、心なし寂しげだけど。見ようによっては和ませてくれる……だけど、あたしは恥ずかしかった。仮にも妻子持ちのいい年したオッサンがこんなもんを!?

「アハハ、ガールズ&パンツアーだ!」

 美枝が玄関ホールで声をあげた。

「この段ボール、1/6の戦車模型のキットだよ。お父さん、これに、その子乗せるつもりなんじゃない?」

 ああ、もう顔から火が出そう……。

「いや、うちのお父さんは本書きで、その……ラノベとか書いてるから、その資料いうか、雰囲気作りに……」

「明日香……お父さんの作品て読んだことあるの?」

「え?」


 美枝の指摘は、スナイパーの狙撃にあった間抜けな女性情報諜報員のようだった。

 あたしは、生まれてこの方、お父さんの本を読んだことがない。極たまに、作品を書くために、あたしら世代の生活のことなんか聞いてくる。分かってる範囲で答えるけど、たいがい「分からないよ」「そんなの人によってちがう」とか顔も見ずに邪魔くさそうに返事するだけ。

「ここは、ほんとにハウルの部屋だよ……」
「隣の部屋は、もっと……」

 もう、たいがい死んでるのに、まだ撃ってこられるのはまいった。

「よかったら、これ読んでやってくれる。お父さんの本」

 あたしは、クローゼットから、お父さんの本を取り出した。

「うわー、こんなにあるん!」
「あ、印税代わりに出版社から送ってきた本。お父さん印税とれるほど売れてないし。まあオッサンの生き甲斐。あんたたちみたいな現役の高校生に読んでもらったら、お父さんも喜ぶ」

「ありがとう」と、ゆかり。

「だけど、まずは娘のあんたが読んだげなくっちゃ……」美枝が止めを刺す。

 で、午前中は、お父さんの本の読書会になった。

「お父さんて、三つ下の妹さんがいたんだね……」

 短編集を読んでいたゆかりが顔を上げる。

「この子三カ月で堕ろされたんだ……」

 美枝がシンミリする。

 初耳だった……いや、言ってたのかもしれないけど、あたしはいいかげんに聞いてただけかもしれない。

 痛かったけど、別方向に有意義な勉強会だった……。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

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明神男坂のぼりたい・63〔明神女坂〕

2022-02-05 08:42:57 | 小説6

63〔明神女坂〕 

 

 

 遠くから見たら女子の他愛ない会話に見えただろうと思う。

 明日は日曜という中間テストの中休み、わたしと美枝は誘いあって、外堀通りをお茶の水に向かって歩いている。

 季節はとっくに終わって、沿道は葉桜の満開。誰かが植えたのか自生してるものなのか、あちこちムレるようにいろんな花も咲いている。ムレるは群れると蒸れるのかけ言葉。って、説明したら意味ないか。

 五月の花って生き物の匂い。ちょっと生々しすぎると感じる。

 

 あたしの話は他愛なかった。総合理科のテストがガタガタだったとかの自業自得的な話。

 それに合わせて、美枝もネトフリで見たおバカな映画の話とかしてたんだけど、ちょっとした間があって、シビアな話になったのは、精力の強すぎる花たちの匂いのせいかもしれない。

 

 学校を辞めるかもしれないという話。これだけでもすごいのに、本題は、もっとすごい。

 義理のお兄ちゃんと結婚したいという、とんでもない話。

 

 美枝のお父さんとお母さんは再婚同士。で、互いの連れ子がお兄ちゃんと美枝。美枝が小学校の六年生、お兄ちゃんが中学の三年生。お互い異性を意識する年頃。それが親同士の再婚で兄妹いうことになってしまった。家族仲良くなれるために、両親はお誕生会やったり家族旅行を企画したりしてくれた。

 で、二人ともいい子だから、仲のいい兄妹を演じてきた。

 それが、いつの間にか男と女として意識するようになってしまった。

「わたしが、16に成ったときにね、お兄ちゃんが言ったんだ。お誕生会やったあと『美枝にプレゼント買ってやるから、ちょっと遅れて帰る』お父さんとお母さんは、安心してあたしらを二人にしてくれた。お店二三件見て、大学生としては、ほどほどのアクセ買ってくれた……」

「美枝、ちょっとお茶でも飲んでかえろうぜ」
「うん(^▽^)」

 あたしは気軽に返事した。

「渋谷の雰囲気のいい紅茶の専門店。そこの半分個室になったような席。あたしら座ったら、店員さんがリザーブの札どけてくれた。お兄ちゃんは、最初から、その店を予約してたんだ。あたし嬉しかった……けど、あんな話が出てくるとは思わなかった」

「16って言ったら、親の承諾があったら結婚できる歳だな」
「ほんと? あたしは、せいぜいゲンチャの免許取ることぐらいしか考えてなかった」

 それから、しばらくは、お互い大学と高校の他愛ない話して。そしたら、急に二人とも黙ってしまって、お兄ちゃんは、アイスティーの残りの氷かみ砕いて、その顔がおもしろくって、目を見て笑ってしまった。あたしは妹の顔に戻って話しよう思ったら、お兄ちゃんが言うの『美枝。オレは美枝のことが好きだ』」


 言葉の響きで分かった。妹としてじゃないことが。


「……それは、ちょっとまずいんじゃない。兄妹だし」

 なまじ良すぎる勘が、あたしの言葉を飛躍させた。お兄ちゃんはその飛躍をバネにして、一気に本音を言ってしまった。

「義理の兄妹は結婚できる」

「え……」

 頭がカッとして、なんにも言えなかった。

 それからお兄ちゃんとの関係は、あっという間に進んでしまった。

「連休の終わりに、明日香とラブホの探訪に行ったじゃんか。あれ、下見。明くる日、お兄ちゃんと、もういっぺん行った。ズルズルしてたら、ぜったい反対される。あたしは、お兄ちゃんとの関係を動かしようのないものにしたかった」

「そんなことして、高校はどうするつもりだったの?」
「どうにでもなる。出産前の三カ月は学校休む」

「え……ええええ!?」

 バナナの皮を踏んだわけでもないのに、ひっくり返りそうになった。

「よその学校の例を調べたの。在学中の妊娠出産はけっこうあるんだ。私学は退学させることが多いけど、公立は、当事者が了解してたら、どうにでもなる。そのことを理由に退学はできないんだ」
「そんなに、うまいこといく?」
「ダメだったら、学校辞めて大検うける。そこまで、あたしは腹くくってる」
「ゆ、ゆかりは、知ってんの?」

 美枝の固い決心に、言葉が無くって、あたしはゆかりのことを持ち出した。

「ゆかりは、反対。でも自信がないから、明日香に相談……ごめん、ちょっと整理つかなくって」
「整理つかないだろうね」

 あとの言葉が続かなくって、気が付いたら昌平橋まで出てしまった。

「ねえ、神田明神にお参りしていこ、整理つかないままでいいから、いろいろお願いしてみるのがいいと思う」

「うん、そうね」

 ここからだと、男坂上って行くことになるんだけど、家の前通りたくなかったので、手前の、普段はめったに通らない坂道を上る。

「へえ、明神女坂てのもあるんだね!」

 美枝は面白がってくれたので、そのまま勢いつけていけた。

「えと、正式なお作法ってあるんだよね」

 町内のお年寄りが慇懃に参拝してるのを見て、ちょっとたじろぐ美枝。

「任せなよ、あたしの真似すればいいから」

「うん!」

 二礼二拍手一礼のお作法と、柏手の打ち方をきれいに決めてやる。

「おお!」

 感動の声をあげる美枝。

 視界の端に、ニコニコ微笑む巫女さんの姿が見えて、授与所でお守りを買う。

「わ、こんなに種類があるんだね!」

 美枝は、ちょっと迷って『勝守(かちまもり)』を買った。

「渋いね、これ、ここにしかないんだよ」

「え、そうなんだ!」

「うん、幸先いいかもよ」

 そう言うと、美枝はポッと頬を染めた。

 なんか、むちゃくちゃいじらしく思えて、なんかグッとせき上げてきて、泣きそうになった。

「ねえ、勝守記念にお団子食べよ!」

 

 そのまま随神門で一礼してからお団子屋へ。

 

「いらっしゃいませえ~(^▽^)/」

 元気よく迎えてくれたバイトのさつきは、全部分かってるよって感じで必要以上に元気がいい。

 でも、よかった。

 美枝の顔色は、いっそう良くなってきたしね。

 今夜は、さつきに、あれこれ聞かれそうだ。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

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明神男坂のぼりたい・62〔美枝が休み……!?〕

2022-02-04 07:03:17 | 小説6

62〔美枝が休み……!?〕 

       


「……よしなよ……明日からテストだし」

 ゆかりは言った。


 だけど、やっぱり行くことにした。どこへ……美枝の家へ。

 今日は、めずらしいことに美枝が学校休んでいた。普通の子だったら気にしない。だけど、美枝は違う。
 美枝は、高校に入ってから休んだことがない。中学も忌引きが一回あっただけだって、ゆかりも言ってた。

 それに、美枝にはラブホで聞いた秘密がある……。

 美枝の家は神保町にある。

―― 今からいくぞ ――

―― うん、どうぞ ――

 なんとも、そっけないメールのやりとりして神保町に向かった。ゆかりに声かけたら「やめときなよ」の返事が返ってきた。

 ゆかりは、あたしよりも、ずっと美枝とは付き合いが長い。そのゆかりが「やめときなよ」というのは重みがある「……テストだし」いうのは付け足しの言い訳に聞こえた。それに、付き合いが長いから、短い人間より親身になれるとも限らない。

 学校からは、駅一つ分距離があるけど、あたしは歩いていくことにした。

 明神だんごをお土産にしたかったけど、ちょっと遠回りなんで、途中のコンビニでプレミアムチーズロールケーキをお土産ともお見舞いともつかない気持ちで買う。

 くそ。

 レジに持っていったらタッチの差で、大学生くらいのニイチャンに先を越された。割り込むって感じじゃなかったんだけど、レジに置かれたのがコンドーさんだったんで、たじろいでしまった。ニイチャンはさっさと精算すると、柑橘系の……多分オーデコロンの残り香を残していってしまった。柑橘系は好きだけど、今のニイチャンは、醸し出す雰囲気が好きくなかった。

 美枝のうちは、八階建てのマンションの八階。

 オートロックのインタホン押して呼びかけると、美枝の明るい声で「入っといで」の応え。

 エレベーターで八階に上がり、ドアのピンポンを押すと同時に美枝がヒマワリみたいなに顔を出したんで、ちょっと拍子抜け。

 リビングに通されるまでの廊下を歩いて、4LDK以上の、ちょっとセレブなマンションだということが分かった。ファブリーズかなんかが効いてるんだろ、無機質なくらいニオイがしなかった。

「どうしたのよ、今日は?」
「今日はテストの前日やから、どうせ自習ばっかでしょ。それに昼までだし」
「え、じゃあ、勉強ばっかりしてたの?」

 お土産のプレミアムチーズロールケーキを広げながら聞いた。美枝は要領よく紅茶を用意してくれてて、すぐにティーポットにお湯を注ぎにいった。

「あたしね、二年で評定4以上にしときたいんだ。4あったら特別推薦選びほうだでしょ。明日は、成績に差のつきやすい数学あるじゃんか、あたし、これで点数稼ぐんだ」
「いいなあ。あたしは数学苦手だから、欠点でなきゃいい」
「ココロザシ低いなあ」

 美枝は小気味よくプレミアムチーズロールケーキをフォークで両断すると、トトロみたいな口を開けてパクついた。瓜実顔のベッピンが、そういう下卑た食べ方すると、なんとも愛嬌に見える。こんなことが自然にできる美枝が、ちょっと羨ましいかも。

「そんなんだったら、三年でキリギリスになってしまうよ」
「バカが一夜漬けしてもたかが知れてるしなあ」
「そだ、明日の予想問題見せたげよか!」
「え、そんなん作ってるのん!?」
「ちょっと待ってて!」

 美枝は自分の部屋にいくと、ゴソゴソしだした。

 で……ガラガラガッチャーンと美枝の悲鳴!

 痛ってえ……!

「ちょっと大丈夫!?」

 思わず美枝の部屋に駆け込んだ。美枝の部屋は美枝の雰囲気からは想像がつかないくらい散らかっていた。

「見かけによらん散らかりようだねえ」

 あたしも遠慮がなくなってきた。

「アハハ、こんなもんよ。あたしは外面女だからね。はい、これ」

 渡してくれたプリントもらって気がついた。

「柑橘系の匂い……」
「え……?」

 美枝の顔が、ちょっと歪んだ。

 コンビニで会ったニイチャンの話をした。まあ、偶然の一致と笑いたかったんだ。

 ええ! いまどきオーデコロン!? とか言って『妖怪コロン男!』とかね。

「そう、コンドー買ってたの……」

 美枝の表情がみるみる嵐の気配になってきた。

 で、びっくりした!

 ひっくり返ったゴミ箱から、未使用のまま鋏で切り刻まれたコンドーさんが一握り分ほど出てた。

「好きなんだったら、こんなもの使わないでって、ケンカになって……」

 そう言うと、目から涙がこぼれたかと思うと、机の上のものを全部払い落として、美枝は突っ伏して号泣しだした。

 

 もう、秘密にできないね。

 

 あのときラブホで聞いた美枝の秘密は、お兄ちゃんとの関係。

 美枝はお兄ちゃんとは血のつながりはない。再婚同士の連れ子同士。戸籍上だけの兄妹。

 親は共稼ぎで、家に居ることが少ない。で、いつのまにか、そういう関係になってしまった。

 ゆかりの「よしなよ」が蘇ってきた。ゆかりが正しかったんかもしれない。

 だけど、あたしは、ここまで見てしまった。

 放ってはおけない……けど、どうしよう。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校

 美枝           二年生からのクラスメート

 ゆかり          二年生からのクラスメート

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明神男坂のぼりたい・61〔うろ〕

2022-02-03 08:38:31 | 小説6

61〔うろ〕 

 

 

 いつものように男坂上って、明神さまの拝殿の前でペコリと一礼。

 すると、背後で気配というか視線を感じる。

 巫女さんの慣れた視線じゃなくて、邪な狎れた視線。

 振り返ると、随神門の外にだんご屋のお仕着せ姿のさつきがオイデオイデしてる。

「この時間からバイトなの?」

「いやな、今朝は週に一度の奉仕で、参道の清掃やってるんだ」

「バイトが?」

「ああ、女将さん、体調悪くって、それで買ってでたわけさ。関心だろ?」

「ああ、それで起きたら気配が無かったんだ」

 正直感心してるんだけど、素直には褒めてやらない。

「明日香にな、こんなものが憑りつこうとしていたから捕まえてやったぞ」

「え、なに?」

 差し出されたゴミ袋には、ゴミに混じって、手を縛られ猿ぐつわされた縫いぐるみみたいなのが入っている。

「ああ、百均のマスコット?」

「狼狽だ」

「うろ?」

「狼狽えるのうろ。人が慌てるネタを探して、タイミングよく思い出させては喜んでる下級の妖だ」

「え、あ、それはどーも……うん? なんで、あたしが狼狽えるわけ?」

「知りたいか?」

「あ、まあいいけど」

「たいしたことじゃない、一年で落とした追試が迫ってるだけだ」

「なんだ、そうか」

「じゃ、早く行け。遅刻するぞ」

「うん」

 

 通学路を半分くらいきたところでジワリと胸に刺さってきた。

 そうだよ、中間テストが迫って来てるのに、それにプラスしての追試だよ。

 狼狽というやつは、悪い奴じゃないんだ『これは大事だぞ!』って気づかせてくれる妖なんだ。

 さつきが捕まえてしまったものだから、自覚するのが遅れてしまったんだ(;'∀')。        

 

 狼狽えないから、追試やら学校の勉強やらの要らないことが、ボーっと動画を見てるみたいに浮かんでくる。

 

 英数が欠点。国語が、かつかつの40点。むろん欠点の英数は追認考査で挽回……受けるのはうっとうしい。

 放課後に残されて『二年生前学年度追認考査会場(以下教科名)』の張り紙された教室で試験を受ける。

 教室は、昔と違って廊下側に窓があるから外から丸見え。めっちゃウットウシイ。

 ときどき友だちやら、学年のオチャラケたやつが笑いながら通っていく。

 学校は、試験よりも晒し者にして、反省を促してる? いや、これはサドだね、SだよSMの世界。

 テストそのものは知れてる、だれにでもできる。なんせ、落ちたときのテストと答の両方が事前に配られ、その通りの問題が出る。これで落ちるやつは、よっぽどのアホか、学校にのっぴきなない反発心のある見上げたやつ。で、そんな見上げたようなやつはいないので追認は受けたら、みんな通る。

 ようは「恐れ入りました、お代官様!」という恭順の意が示せるかどうか。

 あたしは、お父さんの時代みたいに「造反有理」なんちゅうことは言いません。学校いうところに、そんな帰属意識もなければ、反骨の気持ちもない。だからチャンスくれるんだったら、惜しげもなく恭順の意を示して追試受けて、帳尻を合わせる。晒し者にならなきゃね。

 それに、追試の結果出るまで赤点のまんまだというのはケタクソワルイ。「今年こそは、欠点とらないぞ!」学期始めは一応決心。だけど毎日タラタラつまらん授業受けてるうちに、そんな気持ちは、春の日差しの中で蒸発してしまう。

 とにかく、学校の授業はつまらない。学校の先生いうのはしゃべりが下手っぴ。

 国語の教材に『富岳百景』があった。あたしは、とうに文庫で読んでいたから中味知ってたけど、先生が読むと、太宰治が生きていたら怒るだろってくらい下手。もう文学の冒涜だと言ってもてもいいくらい(*`へ´*)。

 説明も下手というよりは、そもそも伝えようという気が無い。

『富岳百景』の時代は昭和十三年の秋。舞台は甲州(山梨県)の御坂峠。これについて先生は何も語らない。

 こちらで山と言ったら飛鳥山か愛宕山。地べたのニキビみたいなもの。そこへいくと甲州の山は、それぞれ高々としてて人格を感じる。富士山なんかは、もう神さま。太宰の故郷には津軽富士とも言われる岩木山なんてのがあって、太宰の中には山に人格やら神格を感じる血が流れてる。やっぱりそういう描写をしながら授業しないと『富岳百景』の世界には入っていけない。
 
 せめて高さ。
 
 3776メートルいうても東京の子はピンとこない。「飛鳥山の145倍! ピンとこない? じゃあ、スカイツリーの6倍だ!」とか言って、窓の外見て、今の東京は、その富士山さえめったに拝めない。とかかましたら、ちょっとは関心持つだろう。

 それに、あの話には人間の美しいとこしか出てこない。太宰が連泊してた天下茶屋は女将さんと娘さんしか出てこないんだけど、店の主人は戦争にとられて中国に行っていた。毎日中国では日本兵が三桁の単位で戦死してた時代。残された家族が心配ないわけない。だけど、太宰は、あえて書いてない。ラストの女郎さんらの遠足も、どこか牧歌的。そういう事情を知っていたら、あの作品から見えてくるものは、もっと奥が深い。太宰の「単一表現」の苦しさと面白さの両方が分かる。

 以上は、テストの解答用紙の裏に書いた内容……おかげで40点。

 英語は、国語以上にどしようもない。なんで文法なんかやるかなあ。アメリカの子は文法なんか考えんと英語喋ってるのは当たり前だのに。それに先生たちの英語の発音の悪いこと。

 あたしは映画好きだから、よく観るよ。メルリ・リープやらアン・ハサウェイなんか、スンゴクいけてる。『プラダを着た悪魔』なんか最高にオシャレな映画だし、オシャレな英語が飛び交ってる。

 チャーチルが二日酔いで、議会に出たときオバチャンの議員さんに怒られた。そのとき返した言葉がふるってる。

 I am drunk today madam, and tomorrow I shall be sober but you will still be ugly

 訳すと、こうなる。

「いかにも、マダム、私は酔っ払ってる。しかし朝には私は酔いは覚めてシラフになるけど、あんたは朝になっても不細工なままだ」

 ジェンダーとかの観点からは張り倒されるんだろうけど、面白いから英語のまま覚えてる。

 チャーチルは見てくれの御面相では無くて、オバチャン議員の心映えのことを言ってるんだ。

 で、こんなことばっかり言って、追試もナメて、中間テストの勉強もちっとも進みません。はい。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  伯母さん
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  将門さま         神田明神
  •  さつき          将門さまの娘 別名滝夜叉姫

 

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明神男坂のぼりたい・60〔連休明けのアンニュイ〕

2022-02-02 06:46:33 | 小説6

60〔連休明けのアンニュイ〕 

    


 
 一年で、いちばんつまらないのは、五月の連休明け。高校生でなくっても分かってもらえると思う。

 で、高校生で、いちばんつまらないないのは二年生。一年の時の緊張感も夢もないし、三年の進路決定が迫って来る緊張感もない。アンニュイって言えばカッコいいけど、要はダレて来る。

 去年の今頃って、なにしてただろ……?

 演劇部入って、本格的な入部が決まって、先輩の鈴木美咲も偉い先輩だと思えた。三年の先輩たちは神さま。芝居が上手いということもあるけど、なんだか言うことが、いちいちかっこよかった。

「安直に創作劇に走るのは、高校演劇の、いちばん悪いとこ!」
「なんでですか?」
「明日香、戯曲は吹奏楽で言うと、演奏会でやる曲みたいなものなのよ。そんなもん自分たちで作るような学校どこもないでしょ?」

「はあ……」

「ん? 納得のいかない顔してるなあ」
「いえ、そんな……」

 とは言うものの、本当は納得してなかった。中学校の文化祭でも、クラスの出し物の芝居は自分たちで書いていた。そして、そこそこにおもしろかった。なんで創作がだめなのか、あたしにはよく分からなかった。

「ちょっと、付いといで」

 そう言って、吹奏楽と軽音に連れていかれた。

「オリジナル、そんなの考えられないわ」

 吹部の部長は、あっさり言う。

 そして、ちょうどパート練習が終わったとこなので、演奏を聞かせてもらった。『海兵隊』と『ボギー大佐』という、あたしでも知ってる曲をやってくれた。なんでも、吹部ではスタンダードで、一年が入った時は、いつもこれからやるらしい。

 で、三曲目の曲がダサダサ。だけど、どこかで聞いたことがある。

「今のは校歌。一応は吹けなくっちゃね」

 ちょっと分かった。同じ技量でも、やる曲によって、全然上手さが違って聞こえる。

 次に軽音。

 先輩が頼んだら、B'zといきものがかりの曲をやってくれた。めっちゃかっこいい!
 軽音に鞍替えしよかと思ったぐらい。

「なんか、オリジナルっぽいのあったら、聞かせてくれる?」

 先輩が言うと、軽音のメンバーは変な笑い方をした。

「アハハ、じゃあ『夢は永遠』いこっか」

 え、そんな曲あったかな?

 それから、やった曲はダサダサだった。正直、オチョクってんのかという演奏。

「これ、ベースのパッチが作った曲。パッチは将来はシンガーソングライター志望。で、ときどき付き合いでやってるんだ」

 ベースの三年生が頭を掻いた。

 分かった。

 戯曲は吹部でいうとスコア(総譜)みたいなもの。だから、どこの馬の骨か分からんような人がつくった校歌はおもしろくない。軽音のパッチさんが書いた曲はガタガタ。

「な、だから、戯曲は既成脚本の百本も読んで、やっと本を見る目ができる。書くってのは、その先の先」

 あたしは、その三年生の言葉を信じた。

 そして、コンクールでは『その火を飛び越えて』という既成の本を演った。

 結果は、まえにも言ったけど、予選で二等賞。自分で言うのもなんだけど、実質はうちの学校が一番だった。あたしが演劇部辞めたのは美咲先輩のこともあるけど、高校演劇の八方ふさがりなところもある。

 一昨年、鶴上高校が『ブロック、ユー!』いう芝居で全国大会で優勝してテレビのBSでもやってたし、毎朝新聞の文化欄でも取り上げられ平野アゲザいう偉い劇作家も激賞してた。

 だけど、去年、この作品を、よその学校が演ったいう話はついに聞いたことがない。今年の春の芸文祭で鶴上高校とはいっしょだったけど、キャパ400の観客席は、やっと150人。

 ああ……演劇部のグチはやんぺ。

 週があけたら中間テストが射程距離に入ってくる。あたしは英数が欠点のまんま。夏の追認考査では、絶対とりかえしておかなくっちゃならない。

 

 あ、そうそう。

 

 ひとりイキイキしてるやつがいる。

「いやあ、明日香ちゃんの従姉妹なんだってね。明るくって、働き者で、ほんと大助かりよ(^▽^)/」

 だんご屋のおばちゃんは大喜び。

 えと……うちの居候のさつきですよ。

 ちなみに、履歴書に書いた住所は明神さまの御旅所。

 そこから通うふりして、実際は、姿を消してからうちの家に戻って来る。

「そんな長時間、よく実体化していられるわねえ」

 わたしに憑りついたころは、ほんの二三分の実体化が限界だったのに。

「ああ、明日香から、ずいぶんエネルギーもらったからなあ」

「勝手に、エネルギー持ってかないでよね」

「いいじゃないか、有り余ってるんだし」

「余ってなんかないよ!」

「いやいや、余ってるぞ。ほっとくと零れてしまうから、使ってやってるんだ。感謝しろよ」

「するか!」

「ほらほら、その元気さ」

「ムー、どうやってエネルギー抜いてんのよ!?」

「ああ、これでな」

「え、USBケーブル?」

「うん、明日香のおへそに端子があったからな」

「うそ?」

 ジャージをめくってみるけど、そんなものはない。

「ほんとうは、お尻にある」

「ええ(;'∀')!?」

 慌ててお尻を押える。

「アハハ、明日香のそういうとこさ。ほら、チャージが始まったから、パイロットランプがついただろ」

「え、どこ?」

「わたしの瞳だよ」

「うん……」

 グイッと突き出した顔。たしかに、瞳の真ん中が青く光ってる。

 で、急速に眠気が湧いて来て……あ、またやられた?

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  伯母さん
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  将門さま         神田明神
  •  さつき          将門さまの娘 別名滝夜叉姫

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・59〔ラブホ初体験!〕

2022-02-01 06:47:32 | 小説6

59〔ラブホ初体験!〕 

        

 


 連休を持て余していた中尾美枝から電話。

『ねえ、ラブホの探検に行こうよ!』

 なんでも、ゆかりとの約束が流れてヒマなので、うちにお鉢が回ってきたらしい。

 正直びっくり……なんだけど。

 二つのミエで「NO」を言い損ねた。

 ベランダから見える青空のようにアッケラカンとした『美枝』の言い回しと、部屋のどこかで聞いている居候への『見栄』で。

『遠足じゃ外回りしか分からなかったじゃん。やっぱ、こういうのは中身だしね。ググったら、いろいろアミューズメントパークかみたいなのがあって、面白そうでさ。本来の目的以外でも女子会で利用するのもあるんだって。ね、どうよ?』

「オンナ同士でも、変なことしない?」

 そう確認すると「ガハハ」と愉快そうで健康的な笑い声が返ってきた。

『アハハ、ないない。せっかくの連休だし、ちょっと変わったこともしてみたいってノリ。じゃ、一時間後御茶ノ水駅集合ね!』

 プツン

 電話が切れると、油絵の明日香と目が合ってしまう。

 一瞬さつきかと思ったけど、あいつの気配ではない。連休だから、さつきも出かけたかな?

 

 で、一時間ニ十分後、山手線某駅で降りて、東京でも指折りのラブホ街に二人でおもむいた。

 

「なんかネオン点いてないと、普通のビジネスホテルみたいだね」
「こんな時間やだから、入れるんだね。昼過ぎたら、もう空室ないだろねえ」
「あ、フロントがある……」
「あれは、法律対策上。部屋はこっち」

 やっぱ、美枝の方が詳しい。あたしは、こんなとこ来るのん初めてだし。

 パネルにある部屋は、看板通り均一料金だった。で、半分以上が使用中なのには驚いた。

「ウワー、ショッキングピンク!」

 部屋に入るなり、部屋のコンセプトがピンクなのにタマゲタ。

「やっぱり、趣味のいい部屋は使用中やだね。ま、基本的なシステムはいっしょだろから」

 ウォーターサーバーもピンク色だったから、ピーチのジュースでも出てくるのかと思ったら、当たり前の水だった。

「明日香、なにショボイ水飲んでんの。こっち、飲み物は一杯あるよ」

 コーヒー・お茶・紅茶・生姜湯・ココア・コンソメスープetc……。

「へえ、生姜湯だ……」

 石神井のお祖母ちゃんを思い出す。

「なにしみじみしてんのよ。ご休憩だから、時間との勝負だよ。ホレ!」

 美枝は、そう言うとクローゼットの上からお風呂のセットをとりだして、放ってよこした。

「せっかくだから、いっしょに入ろ」

 美枝のノリで、そのままバスに。

「うわあ、同じだ」

「え、なにと?」

 壁の色なんかは違うんだけど、お風呂自体は、去年お祖母ちゃんのお通夜で入った葬儀会館といっしょなので驚いた。

「ふうん、葬儀会館もラブホもアミューズメントパークのノリなんだねえ……」

 二人で、ゆったり入れて、お風呂の中に段差がある。ガラス張りかと思ってたら、拍子抜けするほど普通のお風呂。

「これは、フロントといっしょで、警察うるさいし、女の子には、この方が喜ばれる」
「ふーん……キャ!」

 油断してると、いきなり水鉄砲。

「アハハ、びっくりしただろ。こういう遊び心が嬉しいところさ」
「もう、とりあえずシャワーして、お風呂入ろ」

 美枝のノリで、シャワーして、バスに浸かる。やっぱり女の子同士でも、変な感じ。ちょっとドキドキ。

「じゃあ、洗いっこしょうか」

 前も隠さずに美枝が上がる。ボディーシャンプーやらリンスやら、わりといいのが二種類ずつ置いてあった。二人で違うのを使って感触を確かめる。違いはよく分からないけど、うちで使うてるのよりはヨサゲだった。

「ねえ、体の比べあいっこしよ」
「比べあい?」
「修学旅行とかでも、お互いの体しみじみ観ることってないじゃん。めったにないことだし、やってみよ!」

「え、ああ……え、鏡!?」

 美枝が壁のボタンを押すと、それまで壁一面のガラスだったのが鏡になった!

 なるほど、同じ歳の同じくらいの体格でも、裸になると微妙に違う。肩から胸にかけてのラインは負けてる。

「せやけど、乳は明日香の方がかわいいなあ。あんまり大きくないけど、カタチがいい。ほら片手で程よく収まる」

 そっと、美枝の手で両方の胸を覆われた。鏡に映すと、丸出しよりも色っぽいし、自分が可愛く見える。

 それからは……中略……自分でも見たことのないホクロを見られてしまったりとか、後で考えると恥ずかしいんだけど、平気でやれたのは、美枝のキャラだと思う。

「明日香、ベッドにおいでよ」

 髪の毛乾かし終わると、美枝がベッドに誘う。

「え、あんた裸!?」

 掛け布団めくると、美枝はスッポンポン。

「明日香も……」

 あっという間に、バスローブ脱がされてしまう。

「ちょっとだけ練習……」

 言い終わらないうちに美枝が後ろから抱きついてきた。胸の先触られて、体に電気が走った。

「もう、びっくりするじゃんか!」
「今度は、明日香が」

 そう言うて、美枝は背中を向けた……。

 やっぱ胸は触れなくて、背骨に沿って指でなぞってやる。

「うひゃひゃひゃ~~~(#'∀'#)」

「ちょ、なんて声出すのよ(^_^;)」

「明日香、上手いよ!」

「ちょ、なにがよ!?」

「女同士でも感じるんだねえ」

「もうヤンペ」

「こういう感覚、この感覚を愛情だと誤解せんことなんだよね」

「ったりまえでしょ!」

「だよね、Hの後にIがあるもんやけど、やっぱり愛が先にあらへんとねえ」

 そういう女子高生らしい恋愛論の結論に達して、あたしらはご休憩時間ギリギリまで居て、ホテルを出た。

 

 実は、美枝から、ある話を聞いたんだけど、女の約束で言えません。

 ただ、外に出たとき、五月の風が、とても爽やかやったことは確かでした。

 

 そういう女子高生の、ちょっとした冒険で締めくくろうと思ったら……帰り道、明神さまの大鳥居まで来て発見してしまった。

 なんと、さつきが実体化して、だんご屋でアルバイトをやっているのを。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
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  •  お母さん         今日子
  •  伯母さん
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  •  将門さま         神田明神
  •  さつき          将門さまの娘 別名滝夜叉姫

 

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明神男坂のぼりたい・58〔二日遅れのお誕生会〕

2022-01-31 09:12:54 | 小説6

58〔二日遅れのお誕生会〕 

     


 今日は、あたしのの17歳のお誕生会。

 ほんとうの誕生日は二日前だったけど、平日だったので、今日やることになった。

 伯母ちゃんとおいちゃんも来てくれる毎年恒例の行事。

 なんせ、あたしは鈴木家にとっても、お母さんの実家である北山家にとっても、たった一人の孫。それも、お父さん43、お母さん41のときの子で両家のジジババの喜びもひとしおだったとか。

 なんせ、一歳のころからの行事だから、当たり前に思ってるけど、これにはあたしへの大きな期待がある。それも無意識だから、心に重い。

 分かる?

 あたしは、四人。場合によっては五人の年寄りの面倒をみる、又は後始末をしなくちゃならない。

 お祖母ちゃん、お父さん、お母さん、伯母ちゃん、おいちゃんの五人。

 お父さんの方のお祖父ちゃんお祖母ちゃんは三年前と去年に片づいて……逝ってしまった。あたしが四十前になったら、両親伯父伯母ともに、平均寿命の危ない年頃。石神井のお祖母ちゃんもヘタしたら……いえいえ、幸いにしてギネスものの長生きしたら生きてる可能性がある。

 介護認定してもらって、ヘルパーさんの世話になって、場合によってはデイサービスの送り迎えは当たり前。施設に入れたとしても、ホッタラカシにはできない。着替え持っていったり、入院したら付き添い。そして、最後は四人の(場合によっては五人の)葬式、財産の(そんなに無いけど)処分。年忌法要……なんか気が重い。

 だからお誕生会は、それに向けての人生の一里塚。

 

「明日香、おまえ、えらいよなあ」

 気がついたらさつきが、抜け出して横を歩いてる。考え事してるうちに外堀通りの歩道を歩いてる。

「実体化するの久しぶりだね」
「明日香にくっついて、この時代の子どもが大変なのも、少しずつ分かってきた。年寄り多いもんなあ」
「それでも、ホッタラカシにされるお年寄り多いよ」
「ホッタラカシにしててもな、心の中から平気っていうやつはめったにいないよ。この時代に来てよく分かった。それに、明日香は、ホッタラカシにはできない性格だしなあ」
「さつきこそどうなの?」

「え、わたしか?」

「将門さまが亡くなったあとは、滝夜叉姫とかおっかないのになって、相当暴れまわったっていうじゃないの」

「ああ、それなあ……最後は光圀にやられちゃったけどな」

「あ、それ。光圀って、水戸黄門かと思ってた」

「大宅中将光圀。光圀って、今で言えば『学』くらいにありふれた名前だからな」

「あ、なんで先輩の名前に例えんのよ」

「おまえの中にいたら、真っ先に出てくる男の名前だもんな」

「う(;'∀')」

「親父は派手な死に方したからなあ、なんかやらないと、つり合いがとれない」

「それが、滝夜叉姫になること?」

「ああ、爆誕滝夜叉姫! かっこいいだろ?」

「でも、最後はやっつけられてるし」

「ああ、前非を悔いて昇天したってんだろ?」

「なんか、あっけない」

「それ、嘘だから」

「え、ウソ?」

「光圀ごときにやられるタマじゃないよ」

「え、じゃあ?」

「バカバカしくなってやめたんだ。親父と同じ道走っても仕方ないだろ。で、わたしが鳴りを潜めたら、これ幸いに退治したってことにして、光圀は都に帰っちまった。まあ、丑の刻参りの発案者ってことにはなったけどな」

「でも、明神さまのお世話にはなってたんでしょ?」

「それは違う」

「だって……」

「御旅所に間借りはしてたけど、わたしは神さまじゃない。神田明神には祀られてないしな」

 そう言えば、明神さまの境内に居る時に、さつきを感じたことが無い。

「明日香はさあ」

「うん?」

「いずれ、人の嫁さんになって、鈴木の家は終わりになる。親も伯母さん夫婦も子供いないしな。まあ、令和の時代に家なんてどうでもいいのかもしれないけどな。あ……いや……」

「なによ?」

「まんま、一生独身で孤独死ってこともありうる」

「ちょ、ちょっと!」

「お、意外に、そういうの堪えたりするのか?」

「ムー」

「ハハ、そう言う顔、学にも見せて見ろ」

「できるか!」

「意外に可愛いぞ」

「からかうなあ!」

「怒るな怒るな」

「さつきだって」

「同じだって言いたいのか?」

「うん」

「試してみよう」

 パチン

「おお!?」

 指を鳴らすと、さつきはわたしと同じ服と髪型になった。

 前の方から視線を感じる。

 大学生(外堀沿いには大学が多い)たちが、みんなこっち見てる。

 近づくと分かる。

 視線は、みんなさつきの方を向いている。

「な、同じなりをしていても違うだろ」

「す、すごい」

「だろう?」

 なんかにくたらしい。

 

 パチン

 

「え、ええ?」

 さつきが、もう一度指を鳴らすと、川の上だ。川の上、一メートルくらいの高さを歩いている。

「雰囲気はいいが、外堀通りは川面が見えんからな」

「ちょっと怖いかも」

「このあたりの神田川は谷底だからな」

 ポチャン!

「キャ!」

 メッチャ大きい魚が跳ねた。

「草魚だな」

「ソウギョ?」

「外来種、もとは中国の魚だ。この何十年かで日本にも住み着いたんだ」

「神田川の主?」

「主は別にいる。草魚は手下だ」

「どんなの?」

「見たら死ぬぞ」

「死ぬんだ……」

「川面を歩くのは久しぶりだからな、草魚を偵察に出したんだろう」

「えと、もう上がらない?」

「もう少し待て、水道橋の方から森プロのスカウトが歩いてくる」

「え、スカウトされんの?」

「明日香じゃない、わたしがだ」

「なっちゃえば、アイドルとか!」

「興味ない、だんご屋のバイトならしてもいいがな」

「ハハ、毎日お団子食べられるもんね」

「よし、帰りに買え」

「え、お財布持ってないよ」

「クレジットカードとかは?」

「持ってないよ、高校生だし」

「チ、使えんやつだ」

 

 なんだか、妙な絡まれ方して家に戻った。

 

 家に帰ってすぐに伯母さんたちもやってきた。

 伯母さんは、いつもケーキを買ってきてくれるんだけど、今日は箱一杯の『明神団子』だった。

「うん、鳥居の前まで来たら、無性にお団子食べたくなってね」

「みたらし団子まである!」

「アハハ、こっちも美味しそうだったから」

 おいちゃんが頭を掻く。

 さつきのやつが、なにかやったんだ。

 

 思い出した。

 ウィキペディアで滝夜叉姫を引くと『妖術使い』というのが真っ先に出てくることを。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  伯母さん
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  将門さま         神田明神
  •  さつき          将門さまの娘 別名滝夜叉姫

 

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明神男坂のぼりたい・57〔フラレてしまった!!〕

2022-01-30 07:02:24 | 小説6

57〔フラレてしまった!!〕 

      


 フラレてしまった!!

 と、騒ぎ立てるのは早いかと思うけど。感覚的には、まさにフラレた(;゚Д゚)。

 ちなみに、あたしは今日で17歳になる。平成17年5月2日、金曜日、午後3:05に、あたしは石神井の病院で呱々の声(産声を格好良う言うと、こないなる)をあげた。

 なんで、こんなに詳しく生まれた曜日やら時間を知ってるかというと、頭がいいから……ではなく、折に触れてお父さんが言うから。

 この日は、6時間目体育館で学年集会をやっていて、それが3:05分に終わって、教室で終礼しなくちゃならないから、トロトロ歩いてる生徒に「早く出ろ、はやく出て教室戻れ!」て怒鳴っていたから。
 なんせ、終礼を早やくしないと掃除当番がフケてさっさと帰ってしまう。で……「早く出ろ!」と叫んでる時に、あたしはお母さんのお腹から出てきた。それが面白いのか、なにかにつけて、お父さんが言うので、覚えてしまった。

 ほんとうは、今日の放課後でも関根先輩が「マクドでも行こうか?」と言って、ささやかにマックシェ-クかなんかで「誕生日おめでとう」と言ってくれたら、あたしは、それ以上のことは望まない。
 誕生日は、こないだメールでさりげに教えてあるし。なんか言ってくるんだったら、夕べのうちだろうと日付がかわるまで、スマホ前に置いて待っていた。

 だけど、電話はおろかメールもこない。

 で、かねて用意のデートの申込みを送信した(#´艸`#)。

 コースは決めていた。悔しいけど、かねがねお父さんに教えてももろてたデートコース。いくつも教えてもらったけど、静かにゆっくりをコンセプトに選んだ。

 連休は、どこにいっても人いっぱい。それがめったに人がこない絶好のスポット……て、別に飛躍したやらしいことは考えてません。念のため。

 どんなコースなんだ?

 さつきが聞くけど教えません。ぜったい冷やかすもんね。

 そんなことはないぞ(* ´艸`)。

「ほら、もう笑ってるし!」

 コースの情報添付してメールを送った「もし良かったら、連休のいつでも」と、メッセ。遠慮してるようで、がっついてるかなあ……迷いはあったけど、エイっと送信ボタンを押す。

 で、1分で返事が返ってきた。

―― ごめん、部活と美保との約束があって、一日も空いてない ――

 これはないだろ。

 断られるのは半分覚悟してた。だけど、わざわざ「美保との約束」……ヤケドに辛子塗るような答えしなくてもいいじゃんか。

 鴨居に掛けといたデート用のスカートとカットソー(こないだアマゾンで買ったやつ)を仕舞って、布団被って寝た。どす黒い後悔が胸の中を蛇みたいにクネクネして、なかなか寝付けなかった。

 

「明日香、誕生日だな、おめでとう」

 

 学校で、担任のガンダムに言われた。

 嬉しいよりもキショクワルイ。

 なんで何人もいてる女生徒の中で、あたしの誕生日覚えてんの!? それが表情に出たんだろ、ガンダムは付け足した。

「クラス持つときに調査書見たら、俺と誕生日いっしょだったから覚えてしまった」
「ほとですか!? で、なんかパーティーとか、奥さんとデートとか?」
「この歳なって、そんなものしてもらえると思うか? もしやりやがったら、なんか下心あるんじゃねえかと疑ってしまうぞ」

 なんとも味気ない返事。

 一日凹んだままで、帰りの外堀通り。

 ポロンと音がしてメールが入った。

―― 誕生日おめでとう。学 ――

 え? ええ!?

 心臓が口から出そうだった。で、道の向かいに気配。

 !!?

 関根先輩が手を振ってくれてる!

 あたしはジャンプして、思い切り手を振った!

 すると――あっちあっち――と進行方向の横断歩道を指さす。

 え? え?

 急ぎ足で行くと、ちょうど青になって、先輩が渡って来る。

「地元のものでなんだけど、誕生祝」

 そう言って、見覚えのあるナメクジ巴の包み紙『名代 明神団子』のロゴ。

「じゃな、学校戻るわ」

 青信号が点滅して先輩は戻っていった。

 

 こんなに明神団子を愛しく思ったことはない。

 今度はさつきに食べられないように!

 固く決心!

 

 家に帰って開けてみると、明神さまの『開運』のお守りが入っていた。

 『恋愛成就』のお守りだったら、もっと良かったのにね。

 思ったら、さっそくお団子が一つ消えた。

 明神さまの娘は油断がならない。

 

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明神男坂のぼりたい・56〔初めてのアマゾン!〕

2022-01-29 05:49:50 | 小説6

56〔初めてのアマゾン!〕 

        


 話は前後する。

 月曜は、横浜の異人館街の遠足だったけど、その前の日曜は、しゃくばあ(石神井のお祖母ちゃん)の全快祝いに行ってきた。

 以前、佐渡君のとこらへんで書いたけど、しゃくばあは左の腕を骨折して一カ月半も入院していた。


 単純な骨折だから、普通半月もあったら退院できるんだけど、しゃくばあは骨粗鬆症のうえに足腰弱ってるので、一カ月余分にかかちゃった。

 それが、やっと退院して快気祝い……といっても、家で盛大にやるわけではない。商店街のN寿司に行って、伯母ちゃん夫婦とうちの家族三人で、お寿司を食べるんだ。

 石神井の家から歩いても10分ほどなんだけど、お祖母ちゃんは家からおじさんの車に乗せてもらってやってくる。うちら神田組は、寿司屋の前で順番取り。11時45分開店なんだけど、もう10人ほどの列ができている。しゃくばあがおじさん・伯母ちゃんといっしょに来た頃は、列は店の角を曲がって30人ぐらいになっている。
 

 6人でたらふく食べた。

 あたしは定番のマグロから始めて、中トロ、鉄火、エビ、イカ、蛸、そしてもういっかい鉄火にもどって上がり。ちょっと少ないみたいだけど、ここのN寿司は1皿に3貫載って、ネタも大きいから、お馴染みの回転寿司の倍くらいはある。

 ビックリしたのが蛸。符丁は「ぼうず」 何がビックリしたか言うと、蛸が生だということ。お馴染みの回転寿司やら出前寿司のたこは茹で蛸。いつもの調子で食べたら吸盤が上顎にくっついてえらいことになった(^_^;)。

 あたしの味覚では、サビが足らないのでサビ入りのムラサキをハケで塗ったら死ぬかと思った(;'∀')。

 サビの効き過ぎ。上を向いて、しばらく口を開けている。わさびは揮発性なので、こうやっておくと刺激が抜けていく。だけど「バカな顔するんじゃないの!」と、お母さんに怒られた。伯母ちゃんが、その姿をシャメで撮ちゃって。こんな姿、関根先輩には見せられねえ。

 くっついてきたさつきが、しきりに「うまい!」を連発。「もっと食え」言ったけど、さつきの言う通りにしていたらブタになる。鉄火の追加で辛抱させた。どうもさつきの時代には寿司は無かったみたい。

 それから、しゃくばあの手を引いて喫茶店。

 正確にはしゃくばあが、あたしの腕に掴まっている。保健で習ったし、中学の職業体験で行った介護施設でも身に付いた「手のさしのべ方」の基本。

 だけど、しゃくばあは、嬉しかったみたいで、後でお小遣いむき出しで1万円もくれたよ!

 

 いつも通り前説が長い。

 

 あたしは、この1万円で、始めてネットショッピングをやった! それもお洋服!

 カード決済だと、大人じゃないとできないけど代引きだったらできる。そう知恵をつけてくれたのは、おじさん。

 

 制服以外ではパンツルックが多いあたしは、家の中では、たいがいジャージ。だけどジャージばっかり着ていたらジャージ女になってしまう。

 ジャージ→くつろぎ→だらしないの三段論法は正解だと思う。

 人間は着るもので立ち居振る舞いが決まってくるんだよ。

 美保先輩に勝つためにも、ちょっとは女の子らしいくしなくっちゃね。

 女の子の夏のファッションを検索。正直目の毒(^_^;)。

 2時間ほどかけて、二つ選んだ。七分袖のカットソーと、大きな花柄のスカート(細いブラウンのベルト付き)

 カットソーとTシャツの違いがよく分からんので検索。

 カットソーというのは、生地が編み物で伸縮性がある。Tシャツはただの(主に)木綿の生地。体のフィット感がちがう。で、3回ほどクリックして、アドレスと住所打ち込んだらおしまい。お届けは2日後てなってたけど、遠足から帰ったらもうきていた。

 惜しい、もうちょっと早かったら遠足着ていけたのに!

 で、部屋に籠もって一人ファッションショーをやった!

 我ながら「馬子にも衣装」。スカートがミニだけど、フレアーがかかっててフワっとしてる。カットソーは体に緩やかにフィット。ジャージやら制服とは全然ちゃうシルエットが、そこにあった。

―― あたしって、こんなに女の子らしかったんだ! ――

 感動してしまった。

―― かわいいのは認めるけど、いきなり、これ着て学に会うのはやめろよ ――

 さつきが、いらんことを言う。

―― 坂東の女は心意気だ。都の女みたいにナヨっとするな。まず、ドーンととびこんでいけ。そして相手に通じてからきれいにしたらいい ――

 さつきの言うことも分かる。だけど、こないだみたいに、いきなり夜這いかけるのは違うと思うよ。

 もどかしいなあ、青春いうのは……。

―― なにもむつかしくない、行動あるのみ! ――

「うっさい、黙ってて!」

「このごろ独り言多いねえ……」

 洗濯物干しに上がってきたお母さんに聞かれてしまった……。

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明神男坂のぼりたい・55〔ガンダム式遠足〕

2022-01-28 07:13:36 | 小説6

55〔ガンダム式遠足〕 

 


 学校の連休はカレンダー通り。

 だから、今日みたいな日曜と昭和の日の間の月曜も学校がある。

 こんなのテンション下がって勉強にならない。学年の始めは思ったけど。今日は遠足……もとい、校外学習。

 一年の時はバスを連ねて奥多摩で飯ごう炊さんだった。あれはダルイ。240人でやってもおもしろくない。ああいうのは気の合ったもの同士で個人的にやるから面白い。

 しかし、たいていの学校は集団行動訓練ということで、昔の軍隊みたいなことを平気でやらせる。

 民主教育はどこに行ったんだ! ちょっと屁理屈。

 屁理屈言ってみたくなるくらいにつまらない。作るものは、最初からカレーライスと決まっていて、材料も炊飯用具もみんな貸してもらえる。これって手間かからないようで邪魔くさい。今はレトルトでいいのが、いくらでもある。ご飯用意して、かけたらしまいなんだけど、タマネギ刻んで炒めるとこからやらくちゃならない。目にはしみるし、手についたタマネギの臭いは抜けないし、鍋と飯盒の後始末大変だったし。

 ところが二年になると、クラス毎に好きなところに行ける!

 やったー(^▽^)/

 だけど、うちのクラスはガンダムが勝手に決めちまった。

 一応決はとるけど、こんな感じ。

「……ということで、異議のある者は居ないな。では、これで決定!」

 で、あたしらは、桜木町の駅で降りて山手を目指す。隣の二組は港を目指して山下公園。

「あんなものは中学生までだ。高校生らしいコースでいこう!」

 ガンダムの指揮で、あたしは横浜異人館街を目指す。山下公園とどないちゃうねん……そう思ったけど、ガンダムの目論見は違った。

「ホー」
「イヤー」
「すごいね!」

 と呟きながら、あたしらは途中の道でヒソヒソと歓声をあげた。

 歓声いうのは、大きな声で言うもんだけど、ここではヒソヒソになる。

 なぜって、周りは……ラブホで一杯!

 ガンダムは、黙々と先頭を歩いている。

「これは、実地教育だね」

 中尾美枝が言う。

「できたら、中も見学したいね」

 顔に似合わん伊藤ゆかりが大胆なことを言う。

 異人館街に着いたら、ガンダムが短く注意。

「おまえら三年もしたら大人だ。だから大人のデートコースを選んだ。特に何を見ろとは言わん。これから各館共通のチケットと昼食代渡す。好きなところを回って好きなもん食べてこい。じゃあな、せいぜい勉強してこい!」

 副担任の福井先生と二人で手際よく配る。これから二時まで自由行動。

 あたしらイチビリ三人娘は、さっきのラブホ街に行って、社会見学。美枝は休憩とお泊まりの値段をチェック。

「やっぱり、横浜のラブホはオシャレだねえ」
「わ、ここお泊まりで二万円もするよ!」
「きっとスゥイートなんだろうねえ」

 そこにクラスの男子が四人やって来た。

「惜しいなあ、三人だったら、ちょうど人数合ったのに!」

 美枝が大きな声で言うと、男子はきまり悪そうに行ってしまった。

 外観をみてるだけやから二十分ほどでおしまい。あたしらも異人館に入った。

 異人館には、それぞれエピソードがある。

 ある異人館は、ドイツのお医者さんが住んでいて、戦争中も留まって、空襲で怪我をした人らの手当をしてた。だけど、二十年の五月にドイツが降伏すると、日本は、このドイツ人のお医者さんを家族ぐるみ軟禁した。ちょっと日本人の嫌なとこを見た気がした。

「あ、この話って『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』で、はるかのお母さんがエッセーにした内容だと思うわ」

 ゆかりが、そう言ってアマゾンの書籍をチェック。

「840円……中古だと1円」

 お昼食べて集合したら、みんなで港の見える丘公園に行った。   

 螺旋階段付きの歩道橋がある。ここに来るのはちょっとしたハイキングだったけど、着いたらロケーションはバッチリやった。

「ここは、夜景がすばらしい」

 ガンダムが短い解説。

「ちょっと前までは、ここの手すりに愛のあかしに鍵かけるのが流行った。今は、向こうに専用の鍵かけがあるからな。マナーは守らなくっちゃならない」

「先生、なにか思い出あるんじゃないですか?」

 美枝が言う前に、あたしが聞いてやった。

「ああ、カミサン口説いたんがここだ」

「ウワー!」と、三人娘。

 いつか関根先輩と来てみたいと思ったぞ。

 

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明神男坂のぼりたい・54〔ミスドの誓い団子の迷い〕

2022-01-27 08:39:05 | 小説6

54〔ミスドの誓い団子の迷い〕 

       


 連休初日、図書館に行った。

 千代田区の図書館は三つあるんだけども、それとは別にまちかど図書館というのがある。学校の図書館と併設になっていて、規模は小さいんだけど利用しやすい。蔵書になくっても、他の大きい図書館から取り寄せてもらえるので、子どものころから利用している。

 この連休は、特別に出かける予定もなかったから、図書館で本を借りることにしたんだ。ま、タダで借りられるし、なんか飛び込みで予定入ったら、それはそれ。

 で、思いもしなかったものに遭遇してしまった。

 本ではなくて。

 田辺美保……あたしの恋敵。気がついたのは向こうの方から。


「あ、明日香じゃん」

 新刊書のコーナー見ていたら、声がかかった。

 美保先輩は、美人でスタイルもよくってファッションの感覚も良くって、セミロングの髪をフワーっとさせて、ナニゲニ掻き上げると、いい匂いがして、同性のあたしでも、クラっとくる。

「本借りにきたの?」
「う、うん。久々に」
「いっしょね。この連休特に予定ないから」

 同じようなことを言う。

「この本面白いよ。ちょうど返すとこ、あんた借りてみない?」

 差し出された本のタイトルは『ループ少女』

「ちょっとホラーなんだけど、始業式に教室から講堂に行く途中で、気を失って、気がついたら石で囲まれた部屋で寝かされてて、ドアに張り紙。数式が書いてあって。それが謎でね、それができたら……アハハ、解説したらネタバレしちゃうよね。ま、よかったら借りてみて」

 美保先輩のお勧めが面白いこともあったけど、あたしは、どこかで美保先輩とは決着つけなくっちゃと思ってたから『ループ少女』と、あと二冊借りた。

「ちょっと話そうか」

 カウンターで手続き終わったら、意外なほどの近さで美保先輩が言う。なんのテライも敵愾心もない顔だったので付いてて行く。

「あ、こんなところに神社」

 もうちょっとで本郷通というところで小さな神社に出くわす。

「知らなかった?」

「あ、うん。ここいらは図書館の他には来ないから」

 なんせ、神田明神の足元に住んでる。神社というと、もう神田明神と同義で、他の神社に寄ることってめったにない。

 それに、生活圏からも微妙に外れてるしね。

 ガラガラ振って手を合わせる。

「……なんの、お願いしたの?」
「なるようになりますように……」
「アハ、へんなお願いね(^o^)」

 ちょっとバカにされたような気がした。だけど美保先輩の顔には、相変わらずクッタクがない。

「あたしがフラレても、先輩が……その」
「フラレても?」
「ええ、まあ……だれも傷つきませんように」
「……ちょっと虫がよすぎるなあ」
「あ、すんません」
「さっきの本ね。扉は無数にあってね。生徒も無数に居てるの。で、数式はA-B=1……つまり、みんなで殺し合いやって、最後の一人になれたら助かるいう話」
「なんか、バトルロワイヤルですね」
「結末は意外だけど、言わないね。ただ、だれも傷つかないのは、無理だと思う。明日香、自分が学にフラレて平気でおれる?」
「分からないけど……だけど、美保先輩だったら負けても納得はいくと思います」
「ありがと。だけど、それは明日香の『負けてもともと』と言う弱気からだと思うよ。傷つくの覚悟でかかっておいで」
「うん……お神籤ひきませんか?」
「ようし、いいお神籤引いたほうが、マクドかミスド奢る。これでどう!?」
「セットメニュー除外言うことで!」

 で、引いてみたら、二人仲良く中吉。ワリカンでミスドに行った。

「学に夜這いかけたんだって?」
「え、知ってるんですか!?」
「学は、言ってないよ。あのときたまたまチャリで近く通ったから。正直、あの状況だけでは確信もてなかったけど、今の返事でビンゴ」
「あ、あれは(さつきのせいとは言えない)……」
「あれは未遂だった?」
「う、うん……」
「だよね。だけど、いいライバルだと思った。あたしも諦めたわけやないから、まあ、せいぜいがんばろっか」
「うん!」
「いい返事。ついでに言っとくけど、この連休は学との予定は無し。あいつも悩んでる。この連休はそっとしとこ。抜け駆けなしね。ほれ、指切り」

「ハ、ハイ」

 明るく指切り。

 どんな結果になっても、美保先輩とは、いい友達でいたいと思った。

 

 ちょっと美保先輩のペースに流された? いい友だちでいたいなんて?

 

 帰り道、一人で歩いていると、微妙に『してやられた感』に攻め苛まれる。

 感覚的には二三歩リードした感じでいたのに、なんだか五分五分に引き戻された感じ。

 ううん、美保先輩の方が、勢いとしてリードしてる。

 それに、よその神社でお願いなんかして。なんだか、神田明神さまにも浮気したみたいな。

 久々に、お団子を買って帰る。

「あら、元気ないわねえ」

 おばちゃんに顔色よまれて「ううん、なんでも(^_^;)」と、両手をワイパーにしたら三個入りのをオマケしてくれた。

 バイト募集の張り紙に気を引かれるけど、こんな時の決心は後悔するかもと、ため息ついて店を後にする。

 ゲン直しに鳥居を潜って、二礼二拍手一礼。

 お団子を寄進。そんな衝動が湧いてきたけど、大きい方でも六個入り。

 それに、時々、お賽銭は入れてるけど、寄進なんて大仰なことはしたことがない。

 

 すると、巫女さんが目に留まった。

 

 ちょうど、掃き掃除が終わって、社務所に戻るところ。

「あら、明日香ちゃん」

「あの、よかったら食べてください。おまけにもらったからおすそ分け」

「あら、いいの?」

「はい、いつも笑顔もらってますから」

 あ、なんか、気障な言い回し。

「ありがとう、ちょうど当番三人だから、みんなでいただくわね(^▽^)」

「ありがとうございます」

「ううん、こちらこそ」

 巫女さんは、社務所に入る時に、もう一度笑顔を向けてくれる。

 その、自然な心遣いが嬉しくって、ちょっと涙ぐんでしまった。

 

「お、団子ではないか!?」

 

 巫女さんよりずっと偉いはずのさつきは、団子を見るなり、断りもなくパクつく。

「明日香も食べろよ。神さまといっしょに食べるって、目出度いことなんだぞ」

「う、うん」

 こいつは将門さまの娘ではあるけど、神さまという感じは丸でない。

「だんご屋でバイト募集してるんだな」

「なんで、知ってんの?」

「明日香の顔に書いてある」

「え?」

「いま消えた……いろいろ悩ましい年ごろだよなあ」

「あ、ちょ、それ四つ目!」

「グズグズしてると、全部食っちゃうぞ」

 食われてたまるか!

 慌てて、もう一個口に入れると喉が詰まって死にそうになった。

 

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明神男坂のぼりたい・53〔ラッキーAMY!〕

2022-01-26 07:10:47 | 小説6

53〔ラッキーAMY!〕 

      

 


 今日はガンダム(岩田武先生)の気まぐれで席替えをやった。

 四月もこの時期になると、年度初めのルーチンは、たいがい終わってしまってる。だけど、木曜は定例のロングホ-ムルーム。ただボサーっとしてるワケにはいかないんだ。


「本当は中間テストまでは出席番号順だけど、もう二年生だし、適当に慣れてきただろうから、席替えするか?」

 

 ウワアアアア(((^O^)))!

 みんなから歓声があがった。


 クラスというのは、それ自体あんまりおもしろいことはない。

 授業やら学校行事の便宜のために分けられてるのは、小中高と八年目になったら、よく分かる。

 お仲間の基本は、自然にできた仲良しグループだよ。

 だいたいクラスの中でできるけど、たまにクラスを超えてグループになることもある。そして、90%以上は男女別。いくら男女平等、機会均等だといっても、別々が自然だと思う。何年か前に小学校で男女混合名簿だったけど、なんにも変わらない。やっぱり男女に別れてしまう。先生の仕事も複雑になるだけで、二年ほどで廃止になった。

「目がわるいとか、勉強したいから前の方に来たいやつは、手をあげろ」

 これは先生の担任としての「配慮はした」いうアリバイ。

 ガンダムは、この三月までは生指部長だったから、そのへんにぬかりはない。

 好きこのんで前に行きたいヤツは……いた。近藤と芹沢という女子が手をあげた。単に目が悪いのか、なんか人間関係かは分からないけど、ガンダムは、この二人チェックしただろうなあ。

 席替えは、最初の十人まではクイズで決める。

「校長先生の名前は?」

 数人の手が上がって、まだ名前を憶えていない男子が答える。

「○○○○先生!」

 一瞬の間があって、みんなが笑う

 それは、不当人事やら恣意的な学校運営やって、三月でクビになった前校長の名前。

 ちょっと気まずい間が開く。

「ご近所問題、江戸の総鎮守と言われる神社は?」

「ハイ、神田明神です!」

 もちろん答えたのはあたし! 他にも二三人は分かってたようで、残念そう。

「じゃ、神田明神の御祭神は?」

 続いて答える。

「ハイ、大己貴(オオナムチ) 少彦名(スクナヒコナ) 平将門です!」

「え、あ、そうだな」

 ガンダムは大己貴命と少彦名命は知らなかったみたい。

―― うちの親父目立ちすぎ ――

 五月の声がしたような気がした。           

「今のAKBのセンターは?」

 くだけた質問もある。

「うちの担任はイケメンランク十段階評価で、何番目か?」

 これは、オッサンふざけすぎ。ガンダムはイケメンいうカテゴリーにもともと入らない。でも無理矢理一番と言わせて、クイズを締めくくった。あとは黒板にあみだくじ書いて決めた。


「じゃあ、自分の机と椅子持って移動、始め!」

 三十三人の生徒が、一斉に机と椅子を持って八メートル四方の教室を移動。これだけで五分は潰れる。そして机動かすときの積極性なんかをガンダムは見てる。単に時間消化だけじゃなくって、見るべきは見てる。やっぱり、元生指部長、やることに無駄はない。

 この席替えで、前が伊藤ゆかり、後ろが中尾美枝になった。

「よろしくね、明日香」

 美枝が気楽に声かけてきた。

 あんまり話したことはないけど、気楽なオネーチャン風。元気な子で、声も大きい。いつもニコニコしてるけど、言いたいことはハッキリ言う。前のクラスでイジメやってた男子を凹ました武勇伝のウワサ。

 前の伊藤さんは、落ち着いた優等生。で、この二人は一年の時同じクラスで、性格ぜんぜんちゃうのに仲がいい。
 積極的な美枝が、気遣って間に入ったあたしに声かけてくれたのが嬉しい。

「あたしたち、チームAMYいうことにしよっか?」

「AMY?」

「ほら、明日香、美枝、ゆかり」

「あ、頭文字?」

 美枝の提案で即決。

「あ、でも、あたしがトップ?」

「あ、他の並べ方だと発音できないし」

「YMA AYM MAY」

「MAYはメイって読めるかな?」

「でも、エイミイって元気っぽいじゃない?」

 ゆかりがフォローしてなるほどという気がする。

「神田明神も、将門さんがイチオシで有名だったりするし」

「あ、だったらわたし(ゆかり)がトップなの?」

「ハハ、ちゃっかりあたし(美枝)がセンターでもあるぞ(^_^;)」

 なんだか、調子よく決まってしまった。 

 

 放課後、食堂のジュースでエイミーの発足式。

 自販機のボタンを押すと、めったに出ない『当たり!』が出て、幸先がいい。

「「「ラッキー!」」」

 二個のジュースを食堂の湯呑に三等分。

「「「かんぱーーい!」」」

 湯呑をかたして、食堂を出る。

 初夏をを思わせる日差しが、ちょっぴり眩しかった!

 ここにきて二年生は、おもしろくなりそう。

 

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明神男坂のぼりたい・52〔喜べ、明日香の気持ちは確実に伝わったぞ〕

2022-01-25 07:23:52 | 小説6

52〔喜べ、明日香の気持ちは確実に伝わったぞ〕 

    


―― 僕も、明日香のことは好きだ ――

 ドッキン!

 それが、まず目に飛び込んできて、思わずお手玉になってスマホを落っことす。

 パサ

 ベッドの上なので、スマホは無事なんだけど、明日香の心は無事じゃない。

 ドキドキドキドキドキドキドキドキ

 あたしの中に勝手に住み込んだ、山川の詳説日本史でもたった一回しか出てこない将門さまの娘が、あたしの関根先輩への煮え切らない思いに業を煮やした。

 そして、こないだ神田川のテラスで、あたしに「好き」って告白させた。

 それでも、それ以上なにもできないあたしにに苛立ったのか、意地悪か、善意か、よく分からないけど、あたしが寝ているうちに先輩の番号調べて、あたしの声で電話した。

 で、その返事がメールで返ってきた。

 心を落ち着けて続きを読んだ。

―― 保育所のころから好きだったけど、明日香は他にも男の友達がいて、俺のことは眼中に無いと思ってた。こないだのことも、あとのシラっとした態度でイチビリかと思った。夕べのことで、明日香の気持ちは分かったよ。正直、今は美保もいる。煮え切らん男ですまん。でも、夕べみたいなことはダメだと思うぞ。学 ――

 心臓がバックンバックン言うてる……ん……ちょっとひっかかる?

 夕べみたいなこと……電話以外になにかしたか? 

 電話の履歴を調べた。

 美保先輩と二人の電話の履歴はあったけど、関根先輩のは無かった。で、メールの送信履歴を見る。

―― 今から、実行に移します。明日香 ――

 え……な、なにを実行に移したんだ!?

 そう思うと、ジャージ姿の自分が浮かんできた。どうやら夕べの記憶(あたしの知らない)の再現みたい……。


 時間は夜の十二時を回ってる。


 素足にサンダル。自転車漕いで……行った先は、関根先輩の家……自転車を降りた明日香は、風呂場から聞こえる関根先輩の気配を感じてる。先輩がお風呂! だけど、覗きにはいかなかった。方角は、関根先輩の部屋。その窓の下。

 明日香は、そーっと窓を開けると、先輩の部屋に忍び込んだ。で……。

 あろうことか、先輩のベッドに潜り込んでしまった!

 先輩が、鼻歌歌いながら部屋に戻ってきた。

「先輩……」
「え……!?」
「ここ、ここ」

 あたしは布団をめくって、姿を現した。

「あ、明日香。なにしてんだ、こんなとこで!?」
「実行に移したんです……あたしもお風呂あがったとこです」

 ゲ、ジャージの下は、何も身につけてないことに気が付いた! そして、おもむろにジャージの前を開けていく。先輩の目が、明日香の胸に釘付けになる!

 それから、明日香の手は、ジャージの下にかかった。

「明日香! おまえ、なに考えて!」
「言ったでしょ。明日香の最初にあげるのは、先輩だって」
「声が大きい……!」

 それから、先輩は、あたしのジャージの前を閉めると、お姫さまダッコ!

 ……で、窓から外に放り出されてしまった。

 なんちゅうことをしたんだ!

 

「好きだったら、あたりまえだろ。この時代の男はしんきくさいぞ。好きなくせに夜這いの一つもやらないでさ。だから明日香の方から仕掛けていったのよ」

「さつきの時代とはちがう!」

「だから、夕べは大人しく帰ってきたぞ。関根、ほんとうにビビってたからな。ほんとに、お前も関根も分からんわ。好きなら突撃だろ、好きな女が二人いてもいいだろ。付き合って、相性のいいほうといっしょになったらいいんだ。そうではないか!?」

「グヌヌ……」

「しかし、喜べ、明日香の気持ちは確実に伝わったぞ(n*´ω`*n)」
「伝え過ぎ!」
「アハハ、まあ、そう、怒るな。お、そろそろ学校いく時間ではないのか?」
「あ、もう7時45分!」

 ぶったまげて、制服に着替えようと思って、パジャマ代わりのジャージを脱いだ……気がついた。夕べの朝だから、パンツも穿いてなかった……。

 

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