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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

明神男坂のぼりたい・81〔麻衣とあたしの意外な展開〕

2022-02-23 07:00:33 | 小説6

81〔麻衣とあたしの意外な展開〕 

      


「あたし、テレビ局」

 麻衣が涼しい顔で言う。

 まるで、ユニクロのバーゲンで、お目当てのバーゲン品掴んだみたいな気楽さだった。

 この土日は、みんなオープンキャンパスとかの下見に行った子が多いようで、朝から「どこいった?」いうような話題に花が咲いてた。しかし、所詮は二年の一学期。そんな切迫感はないけど、その分新しいテーマパークに行ってきたような無邪気な興奮があった。


 美枝とゆかりは同じ大学の経営学部。これは手堅いOL志向……と言っていいのか、適当に余白を持ちながら実質フリーハンドで二十代を生きていこという、手堅いともお気楽とも言える進路選択。

 だいたいが学校や自宅から歩いて行けたり、定期で行ける範囲。とりあえずは、オープンキャンパスが珍しくって行ったというのが多い。一見意識高い系に見えるけど、学校の進路指導の成果だろうね。学校のミドルネームのグローバルは伊達じゃないってとこかな。

 そんな中で、あたしと麻衣だけが毛色が違う。むろんAKRのオーディションに行ったなんて言わない。成り行きで受けたオーディションだし、そのときは「負けるか!」いう気持ち満々だったけど、思い返せば、その場の空気。行列があったら、とりあえず並んでみようというJKの好奇心。並んで間に合ったら、とりあえず、それで満足。バーゲンなんかでは、このノリで、いらないものを買って後悔することが多い。

 それに特技でやった東京音頭はウケたけど、アイドルの特性からはズレてる。ファッションショーで、円周率を、とめどなく言いながら歩いたようなもので、人はおかしがったり珍しがったりはするけど、ファッションの評価にならないのといっしょ。それに、あれをやらせたのは、だんご屋のバイト休んで付いてきたさつき。それもただのイチビリ。とても人には言えないよ。だから人には「どこにも行ってないよ」と答える。

 麻衣も同様。テレビ局というのは学校じゃないからオープンキャンパスはやってない。大学生向けの就職見学に紛れて遊んでいたらしいし。

 例外は、他にもいた。ワールドカップをずっと見続けてた男子。もうサムライジャパンは負けたんだからと思うんだけど、当人同士は真剣で、外国同士の試合でも熱が入って、とうとうケンカになった(^_^;)。
 高二にもなってガキっぽいと思っていたら、手が出始めた。委員長の安室くんが止めようと立ち上がりかけたところに、麻衣がすごい剣幕で二人の男子を罵りはじめた。どのくらいの剣幕かというと、日本語とちがってスペイン語で、身振りも完全なラテン系、最後は仕上げに二人をはり倒して教室を出ていった。

「どうしちゃったの、麻衣?」

 麻友は水飲み場で頭から水を被っていた。アニメだったら猛烈な湯気のエフェクト入れるところだろうと思うぐらいに凄かった。

 誰かが職員室に言いに行ったので、ガンダムが飛んできた。

「いったい、何があったんだ!?」

「なんにもありません。ただ、サッカーのことぐらいでケンカしてる男子のバカさかげんが我慢できなかっただけです」

 水浸しになった麻衣はブラウスまで水びちゃで、ブラジャーが透けて見える状態だった。南ラファがバスタオル持ってきて、やっと自分の姿に気がついたみたいで、女の子らしく顔を赤くしていた。

 麻衣は、ただのイチビリや隠れヤンチャクレとはちがう。なにか心に傷を持ってるんだと感じた。だけど、軽々しく聞けるものでもないと思った。

 麻衣の展開でびっくりして、その日の学校は終わったけど、家に帰ったらあたしの番だった。

 

 AKRのオーディションに合格してしまった……!

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明神男坂のぼりたい・80〔オーディション〕

2022-02-22 07:02:16 | 小説6

80〔オーディション〕 

        
    

 100人ほども居る!

 AKR47のレッスン室前の廊下から、突き当りの階段の踊り場までちっこい折り畳みの椅子が並んでて、その椅子と同じ数だけの女の子が、お喋りもしないで行儀よく座っているのは奇観だった。

 ざっと見渡して、あたしより年上は、ほとんど居ない。中には、どう見ても小学生という子もいて、ティーンの女の子の見本市。

 これは三つ前の77の話を読んでもらったら分かるんだけど、お父さんとお母さんがガンダムに言われてやった、オープンキャンパスの申し込みに紛れてた一つ。

 今はパソコン一つでなんでもできる。「高校生進路」で検索して、あっちこっちに申し込んだ中の一つ。犯人はお父さん。進路希望を「演劇関係」と書いたもんだから、AKRだったら手っ取り早いし、書類選考に残るかどうかで、可能性も分かるという、オッサンらしい浅はかさ。

 けれど、書類選考に残ったということは、書類上とは言え、勝負に勝ったいうこと。応募は2800人もいたと言う話だから、2700人は蹴倒したことになる。あたしの頭脳回路では、これを受けなかったら「もったいない」という七文字の単語に行きつく。

 で、後先も考えないで実技選考オーディションに来たというわけ。

 自分で見えるとこを見渡しても、絶世の美少女から、吉本受けたほうがいいのにという子まで居て、見ばの点では、あたしは平均どころ? この中から最高でも20人しか合格できない。あたしは、その倍率だけで燃えてきた。

 AKRのオーディションは「動きやすい服装」とあるだけで、なんにも書いてない。チノパンにTシャツいう子が多かったけど、中には宝塚と間違ってレオタードいう子もいる。あたしは学校のジャージとTシャツ。なんせ家から15分のとこだから、近所をジョギングするようなナリになる。

 課題は「当日会場で発表」とあるだけで、なんにも書いてなかった。さすがに東京屈指のアイドルグループだけのことはある。

 五人ずつが会場に呼ばれる。あたしは八番目の席にいるから、第二グループになる。


「これって、なんの順番ですか?」

 つい、いらんことを聞いてしまう。

「コンピューターが無作為に選んだだけ。先着順いうのも面白くないからね」

 担当のおにいさんは、いいかげんな返事をして、最初の5人を中に入れた。二十分ほどしてその子らが出てきて入れ違いにあたしらが呼ばれる。

 八番だから、てっきり三番目かと思ってたら、のっけに呼ばれた。

「志望理由はなんですか?」

 いきなり聞かれた。

 相手に気持ちの準備をさせずに、生の姿を見ようという、この業界らしい対応の仕方。だから考えずに応えた。

「負けたくないからです」

「何に負けたくないのかな?」

「全てです。オーディション受けてる仲間にも、オーディションの先生たちにも、周りの期待からも、日本中のアイドルグループにも……そしてで自分にも」

 あたしは、演劇部のエチュードで課題をふられたノリになっていた。難しくは役の肉体化という。あたしは典型的なオーディション受験者という役を与えられて、それを即興でやってる感じ。なんだか自分の一生が、この一瞬にかかってるような気になっていた。あたしは世界で一番のオーディション受験者!

「じゃ、課題の歌唱テストいきます。どうぞ」

 質問は、この一つで、すぐに一曲歌わされた。条件はAKRグループの曲であること。これはチョロかった……けど、後になったら、なに歌ったのか忘れてしまった。

 次が戸惑った。

「なにか得意なことを一分間で見せてください」

「あ、えと……と……」

―― 東京音頭! ――

 この一瞬の戸惑いの隙を狙ったようにさつきがしゃしゃり出て、勝手に「東京音頭!」と言わせる。

「と、東京音頭!やります」の「ます」では、もう体がリズムを取っている。

 は~あ 踊り踊るな~ら ちょいと東京音頭 よいよい♪

 石神井の盆踊りで憶えたフリが自然に出てくるんだけど、オーディションで東京音頭はあり得ねえ!

 さつき、だんご屋のバイトはどうした!?

 花の都~の 花の都の真ん中で や~っとな それ よいよいよい(^^♪

 オーディションの先生たちも、すぐにノッて手拍子。ギターとパーカッションのニイチャンが合わせてくれて、なんと3分もやってしまった!

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明神男坂のぼりたい・79〔麻衣の機嫌が悪い……〕

2022-02-21 06:56:32 | 小説6

79〔麻衣の機嫌が悪い……〕 

        


 おはようというとスマホが飛んできた!

 とっさに「なにをもったいない!」と、真剣スマホどり。

「どうしたの?」

 反射的に声をかける。教室の空気が割れかけのガラスみたいになってる。

 新垣麻衣が泣き崩れて、副委員長の南ラファがなだめ、他の者は凍り付いている。

――なかなかの呼吸だ――と、だんご屋定休日のさつきが合いの手を入れる。

「スマホにあたってもラチあかないよ。南さんの?」

「ううん、麻衣の。スマホの画面見て」

 友だちの麻衣とは言え、人のスマホ――いいの?――という気持ちで麻衣に目線を送る。泣いてるけど否定しないということは承諾のサイン。画面にはウィキペディアの「渋谷カーニバル」の項目が出てた。5秒で読んで意味が分かった。

―― 毎年10月に、渋谷で開かれていた『渋谷フェスティバル』のイベント。今年度は中止の方向 ――

「ああ、そうなんだ……」

 関係機関の財政難と道路工事の関係やら諸般の事情で今年度の開催は見送られたと書いてある。


 思い出した、渋谷フェスティバルは、前の都知事のころに廃止になっていた。今はパレードのカーニバルだけが残っていた。あたしも小さいころに保育所の仲間と観に行ったことがある。もっともマナブくん(関根先輩)のことが気になって、パレードそのものは、よく見てない。

 お祭りというと神田明神が頭にあるから。廃止になったことも、よく覚えてなかった。

 そして、もう一つ思い出した。一昨日のプールの更衣室で「今年の渋谷カーニバルには出るから、観に来てよ!」言ってたことを。

 麻衣は、パッと見では清楚な女子高生だけど、中身はバリバリのラテン系。一昨日のプールでは、いかんなく、そのラテンぶりを発揮していた。

「そうだ、こういうイベントって、あちこちでやってるから問い合わせてみたら?」

 登校してきた美枝が気を利かして提案した。

「ありがとう、みんな。あたしの発作的なカーニバル熱に付き合ってくれて」

 朝礼が始まるころには、さすがに麻衣は落ち着いた。だけど納得したわけじゃない。クラスのみんなの友情的な対応が麻友を落ち着かせたんだ。

 麻衣応援活動は、一時間目後の休憩時間に検索したり問い合わせたりするとこから始まった。

 結論はすぐに出た。

「東京近辺は見当たらないねえ」美枝が冷静な声で言った。こういう手配と、行動力は美枝が、やっぱり一番。ラブホのときもそうだったしね。

 麻衣は、表面張力ギリギリのとこで、自分を保ってた。なんとかしてあげなきゃ!

 

「そうだ、人がしてくれないんだったら、あたしたちでやればいいんだ!」

 

 美枝が飛躍した……。

 うまい具合に二時間目の先生が来るのが5分遅れたので、南ラファと中尾美枝の二人が教壇に立って決めてしまった。

「文化祭でリオのカーニバルやろ!」

 勢いというのは恐ろしいもので、その場の熱気で決まってしまった。あたしたちの2年3組は全校で一番早く文化祭の取り組みが決まってしまった。まだ、文化祭の公示も始まってないのに!

 家に帰ってから、小さな疑問が湧いた。

 麻衣のサンバ好きはよく分かる。なんといってもブラジルの子だしね。そのわりにはサッカーに興味が無い。こないだから始まってるワールドカップも、あの子の口からサッカーの話題が出たことがないよ……。

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明神男坂のぼりたい・78〔とりあえずは……〕

2022-02-20 06:53:42 | 小説6

78〔とりあえずは……〕 

        

 

 今日から水泳の授業が始まる( ゚Д゚)!

 ビックリマークが付いてんのは、あたしが忘れていて、昨日の終礼でガンダムが念押ししたので思い出したから。


 進路もそうだったけど、あたしは、どうも『その時その時少女』だ。先のこと考えて計画たてたり行動すんのが苦手。毎日毎日を精一杯生きてるんで、先のことを考える余裕がない。

 とうのは言い訳で、ただ計画性が無いだけと、ガンダムもお母さんも言う。お父さんは、そういうとこ含めて、明日香の面白さだと言ってくれる。だけどお母さんは「あんたも一緒だから、自己弁護の変化球に過ぎない」と手厳しい。

 で、昨夜は一騒ぎだった。

 水着なんかはすぐに見つかったんだけど、アンダーショーツが見つからない。

「もう、去年の最後の水泳が終わった後、ちゃんとしとかないからでしょ!」

 一時は、アンダーヘアーの処理まで考えたけど、さつきに笑われそうなので根性入れて探す。

 けっきょく二十分ほど探しまくって、Tシャツやらカットソーが入ってる衣装ケースの中から出てきた。で、後片付けが大変だった。父親譲りの始末の悪さって、お母さんが言うと、お父さんが抗議。

「おれは、どこになにがあるか、分かってるんだ」

 で、いらんところで夫婦喧嘩になりかけ。確かにお父さんは雑然としてるようで、モノを無くしたとは、あんまり言わない。しかし、お母さんは「後始末が悪い」というくくり方なので、お父さんの機能性のある雑然さは認めない。

 なんで、この二人が夫婦になったか、よく分からない。だけど、その結果あたしがいるわけで、この不条理はそのまま受け入れることにする(^_^;)。

 

 更衣室でびっくりした!

 

 女子同士でも着替える時は、できるだけ人に肌が見えないように着替える。

 ところが、ブラジルからの転校生新垣麻友は日ごろの清楚さからは想像もつかない着替え方。更衣室へいくと着てるものみんな脱いで素っ裸になってから、おもむろに水着を出し、それから鏡を見て、自分の体を点検しながら水着に着替える。

「みんなの方が変よ」

 と、麻友は言う。見かけは大和撫子だけど、この子の中身はラテン系だということがよく分かった。で、悔しいことに、プロポーションも肌の色艶も断然いい。

「背中に羽根飾りとか付けてリオのカーニバルなんか出たら、似合うだろうね」

「うん、今年の渋谷カーニバルには出るから、観に来てよ!」

 と、アッケラカ~ン。美枝が義理のお兄ちゃんと結婚したいというのにもびっくりだけど、麻友のぶっ飛び方も、なかなかのもんだ。

 あたしらが、ノロノロ着替えてるうちに、麻友はストレッチすまして、さっさとプールへ。ノソノソ着替えたころには派手にプールに飛び込む音が聞こえた。

「すごい……」

 麻友は、プールの半分ぐらいまで潜水で泳いで、見事なクロール。ターンしてバタフライ。

 そこにガンダムが来た。

「誰だあ、許可もなしに先に泳いでるやつは!?」
「あ、はい、あたしでーす(^▽^)/」

 水からジャンプして手を上げて、まるで水着のCM、にっこり笑うところは歯磨きのCM。

 ちょっと説明。

 ほんとは、うちの体育は、宇賀先生が担当。でも、怪我がまだ治らないので、今週いっぱいはガンダムが代行。あたしらは平気だけど、中には嫌がってる子もいるんだ。

 この嫌がり方も二通りで、先生とはいえ水着姿を男の前で晒すのに抵抗がある子と、ガンダムのマッチョな体が耐えられないという子。

 今日は水泳の初日だったので、水に慣れることがテーマ。

 入念にストレッチやったあと、足からゆっくりと水につかって、上半身に十分水かけて心臓を慣らす。そして25メートル、プールの端から端までを歩いたあと、ゆっくりと平泳ぎやったとこで時間切れ。

 この授業では収穫があった。

 麻友のラテンぶりに帰国子女の南ラファが好感持ってお友達になったんだ。ラファは小学校のころに日本に来たので、日本のやり方になじんでるけど、自分の感性に近い子を見つけられてうれしいみたい。

 ラファは副委員長もやってて、お仲間も多い。あたしたちだけじゃなくて、友達が増えたらいいと思った。

 見上げた空は梅雨の中休み。早くも積乱雲がムックムク。なかなかのプール開きではありましたぞ。

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明神男坂のぼりたい・77〔そう言われても……〕

2022-02-19 06:52:02 | 小説6

77〔そう言われても……〕 

         


 これで四冊目……。

 大学の入学案内。

「明日香が、行きたいって言うからよ」


 ブスっとしていたら、お母さんに苦い顔された。

 元はと言えば、あたしが悪い。

 先週の懇談で「演劇やりたいです」なんて、苦し紛れに言うたもんだから、お父さんとお母さんが相談して、あちこちの演劇科のある大学から入学案内を取り寄せたんだ。それもネットで申し込むもんだから、あたしは、ほんと寝耳にミミズ……ミスタッチ。寝耳に水です。

「OG大学……KI大学……KZ大学……OS大学」
「こんなんも来てるぞ」
「ゲ……!」

 大手劇団の研究生募集のプリントアウトしたやつが三枚。

「まあ、なにも、この中から決めなさいってことじゃないわよ。懇談のあと、明日香がなんにもしないで、紫陽花がドータラ、ウンコ踏んでコータラて、全然その気になってないみたいだから、刺激を与えるつもりで取り寄せたものだから、気楽に見ればいいよ」

 と、母上はおっしゃる。

 仕方ないんで、三階の自分の部屋に戻って、パラパラとめくってみる。

――豪華講師陣!――
――舞台で、もう一人の自分を見つけよう!――
――ここに、君の新世界!――
――人生の第一幕が、今始まる!――

 四冊目で嫌になった。

 考えてみなくても分かる。この四大学の定員合わせただけで1000人は超える。それに大学は四年制。つまり、入学しても、先輩が同じ数だけ居て、他の短大やら専門学校、劇団の養成所あわせたら、もう自宅通学可能な範囲の中だけでも10000人近い演劇科の学生やら研究生が居る。

 これだけの需要が、この業界には無い。絶対!

 プロでやっていけるのは、まあアルバイトみたいなのも含めて一割。専業でやれるのは……考えただけで恐ろしくなる。

「ビビっとるだけじゃ、いつまでたっても決心できないぞ」

 寝るとき以外は上がってこないお父さんが、いつの間にか後ろに立ってる。

「人生と言うのは、石橋叩いていくもんじゃない。その時その時の出来心で分岐していくんだ。ま、明日香には、めったに人生訓めいたことは言わないけど、人生はやって失敗した後悔よりも、やらなかった後悔の方が大きい……と言うな」「そう言われても……」
「人生は短いぞ。こないだ女子高生だと思ってたのが、いつのまにか還暦前のオバハンだ」

 ハックション! 二階のリビングで、お母さんがクシャミをした。

「まあ、ゆっくり考え……言っても秋の進路選択には決めなきゃだけどな……」

 それだけ言って、お父さんは下に降りて行った。

―― 楽しい選択ではないか、命がかかってるわけじゃなし、ちょっとでもやりたかったら飛び込んでみろ ――

 さつきも勝手なことを言う。

 確かに、おとうさんの言うことにも一理ある。生まれて、まだ17年と2か月の人生だけど、思い返すと小学校、保育所の時代なんか、ついこないだだった。
 関根先輩のことも頭に浮かぶ。関根先輩の気持ちが揺れてるのは、あたしの錯覚だけではないと思う。そうでなきゃ呼びもしないのに運動会観にきたりしないだろ。麻友に鼻の下伸ばしたのも照れ隠し。踏み切れないのは、あたしの方かもしれない。

 ちがう、あたしの進路のことだ。

 確かに、コンクール出た時も、他の学校の子は大根だった。舞台で、その場所に立ってるということは、みんな役として理由か目的があるからだ。台詞は思考や行動の結果で、演技で一番大切なのは対象を、ちゃんと見て聞くこと。その結果自然に台詞が出てくるまで読み込んで演りこまなきゃならない。

 ダメ、今は自分のことだ。

「明日香、こんなのきたぞ!」

 また、お父さん。今度はプリントアウトした紙一枚。

 読んでびっくりした!

 それは、AKR47の書類選考合格の書類だった……。

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明神男坂のぼりたい・76〔13日の金曜日〕

2022-02-18 06:44:43 | 小説6

76〔13日の金曜日〕 

         


 ウ、ウンコふんでしまった!!

 これがケチのつき初めだった。

 いまどき東京でウンコ踏むってめったにないことだぜ。

 東京オリンピックが、まだ準備段階の頃に、緑色のよく似合う都知事が記者会見で「東京は清潔な街です」をアピールしていて、意地の悪い記者が「わたし、昨日ウンコ踏んじゃいました」と反論。

「おや、それはレアなケースですね」

 と返したら、記者席からは――そうだそうだ――という感じで笑い声があがった。

 今のあたしは、その記者の気分(-_-;)。道行く人たちが、その時笑った記者たちみたいに思える。

 ウンがついてケチが付く『明日香ウンケチ事件!』。バカなキャプションが頭に浮かぶ。

 ティッシュであらかた落としたけど、そこはかと臭いが残る。


 だけど、通学途中。家に帰って靴履き替える手もあったんだけど、先日の紫陽花アパートよりも学校寄りのところまで来ている。気持ちは迷いながら体が学校の方に向いていく。

 犬のウンコぐらい、あらかた拭き取ったし、歩いてるうちに無くなる……という考えは交差点の信号待ちで甘いことを実感した。

 信号待ちの人たちがあたしのこと見てる。

 やっぱりそこはかとなく臭ってるんだ(;'∀')。

 まるであたしがオモラシしたみたい。


 しかたないので、公園の水道で、靴の中濡らさないようにして洗って、ティッシュで拭く。嗅いでみる……やっぱり、そこはかとなく臭いが残ってる。で、もっかいチャレンジ。


「ウン踏んじゃった?」

 都知事を〇十年若くした感じのOLさんが声をかけてくれた。


「はい、とってもレアなことなんですけど」

「ほんとに、マナーの悪い人がいるものねえ」

 そう言って、OLさんは携帯用の臭いけしを靴にスプレーしてくれた。

 将来、この人が都知事に立候補したら、ぜったい一票入れるよ!

「じゃ、気をつけてね。今日は13日の金曜だし」

 警句を残して去り行くOLさんに深々と頭を下げる。

 13日の金曜日……改めてスマホをチェックすると、まごうことなき6月13日金曜の日付。

 

 あたしにはさつきってのが憑いてる。

 世間では滝夜叉姫で通っていて、丑の刻参りの発案者であったりする。神田明神の娘なんだから、せめてウン避けの御利益ぐらいあってもいいと思うんだけど、今では、ほとんどだんご屋のおねえちゃんで、頼りにならない。

 明神さまに『開ウン御守り』というのはあるけど『ウン避け御守り』は無いよなあ、あったら買うのに。

 バカなことを考えながら、次の交差点。


――あ、信号変わる!――


 そう思ったら体が出ていた。そこに気の早い車が走り出して急ブレーキ! その車と、その後ろの車がクラクション。一応ごめんなさいと片手で謝る……ぐらいで許してもらえるほど、13日の金曜日は甘くない。

「ちょっと、そこのTGHの生徒!」

 お腹の底から出てくるような声。道の向こうで怖い顔した女性警官のオネエチャン(なんで、こんな慌ててる時に二重表現!?)

「あなたねえ、高校生にもなったら信号ぐらいまもりなさいよ」

「はい」と、素直に言ないのが、あたしの欠点。枕詞が「だけど……」言ったしりから後悔。

「だけど、なんなの!」

 ダメだ、婦警(女性警官なんちゅうリズムのとれない言葉は直ぐには出てこない)さん怒らせてしまう。

「なんでもありません。急いでたから、ほんとに不注意でした。すんませんでした!」
「その素直さを、どうして、もう10秒早くもてないのかなあ。今のは、ほんと、大事故寸前だったよ。だいたいね……」

 と、5分ほど絞られて、やっと解放。

 ダメだ、チャイムが鳴ってる、遅刻指導にひっかかる。なんでかチャイムがチャラ~ンポラ~ン、チャランポラ~ンに聞こえる。猛烈なダッシュで校門をくぐる。運動会で、これだけのダッシュしてたら、ゴール前で無様にコケなくてすんだのに。

 あ、朝礼が始まる。ガンダムは遅刻にうるさい。教壇に立たされて絞られる!

 と、思ったら、ガンダムが来てなかった。


「あ~あ、損したなあ!」

 汗みずくだったので、タオルハンカチ出して顔拭きまくり、胸の第二ボタン外して脇の下まで拭く。

「どうしたん、明日香がこんな時間に来るなんて?」
「今日は、13日の金曜なの!」

 言った言葉が、そのままウンコから、婦警のネエチャンのことまで思い出させる。ゆかりの言葉に合わせて美枝が言う。

「ひどい顔してるよ」
「ほっといて、生まれつきですねん!」

 その時、腋の下からちょっと背中側に回った手が、ブラに引っかかって、ホックが外れてしまった。

 ウ…………

「どうしたの、急に静かになって?」
「ちょっと、緊急事態……」

 片手でゴソゴソやるけど、背中のホックには届かない。また、汗が流れてくる。そのとき麻友が後ろに回ってマジックみたいに、ホックを嵌めてくれた。

「え……?」
「ブラジルで、よく、この逆やって遊んでたの」

 麻友の意外な一面を発見。やっぱり麻友は、いろいろ奥行きのある子だと思った。

 

 とにかく、今日はついてない。

 

 宿題はやったのに持ってくるのん忘れてるし、家庭科の調理実習では塩と砂糖を間違えるし、トイレに行ったら、用事済んでからトイレットペーパーが無いのに気がつく。ポケットをまさぐったら、朝のウンコのせいで手持ちのティッシュも切れてた。

「クソー!」

 思わず唸ったら、ドアの上からトイレットペーパーの福音。

「これだろ、明日香」

 美枝の声。

「サンキュ……」

 とは言ったものの、個室の外で笑ってる気配。

 クソ~!

 放課後、宇賀先生を校長室の前で見かけた。ガンダムもいっしょだった。

 気配で分かった。

 宇賀先生は職場に戻りたいんだ。それを校長とガンダムの二人で思いとどまらせたんだ。あの怪我では、まだ無理なのは被ってる帽子見ても分かった。


 宇賀先生は、あたしよりずっと前から13日の金曜日なんだ……。

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明神男坂のぼりたい・75〔紫陽花の女〕

2022-02-17 06:44:03 | 小説6

75〔紫陽花の女〕 

        

 


 紫陽花の花はかわいそう。

 だって、花言葉は……移り気。


 ほんとは移り気じゃないと思う。紫陽花も、その成長に合わせて色が変わってるだけだもん。人は、それを移り気という。

「あ、しまった!」

 忘れ物に気がついたのは、明神さまの境内を抜けてしばらく行ったところ。時計を見て間に合うのを確認して家に取りに帰る。


――あ、全然違う――


 その女の人の顔を見て、そう思った。ちょっとしたショック。

 その女の人は、この一月にできたばっかりのアパートに春になって入ってきた。通学路なので、ほぼ毎日姿を見る。

 アパートの前は、都の条例で建て替える時に減築して、それまでは通りに面してたアパートの前に、ちょっとした植え込みができた。

 女の人は、越してきてから頼まれもしないのに、草花に水をやったり手入れをしている。腕がいいのか、その人が手入れするようになってから、植え込みの花が元気になってきた。

 越してきたころに、植え込みの桜の剪定をやったので、ちょっとオーナーさんともめてるところを見た。オーナーさんは越してきた女の人が、桜の枝を勝手に切って、自分の家の生け花にしよと思たらしい。だけど、女の人の手入れがいいので、桜は最初の春から立派に花をつけた。するとオーナーさんは、女の人に植え込みを任せるようになった。植木屋さん頼まなくてももいいし、自分で手入しなくてもすむようになって、それからは任せている。

 桜が、花水木になり、バラになったころ、あたしは女の人と挨拶するようになった。

 ほんの目礼程度なんだけど、花が満開になったような笑顔で挨拶を返してくれる。その明るさに、あたしはかえって、この女の人は心に闇を持ってるんじゃないかと思った……。

 バラの花を一輪もらったことがある。剪定のために切り落とした蕾。水気が抜けないようにティッシュに水を含ませ薔薇の切り口に絡めて、アルミホイルでくるんでくれた。

 学校で半日置いた後、家に持って帰って一輪挿しに活けておいた。それが、こないだまで小さな花を咲かせていた。

 

 あたしは、ある日から女の人に挨拶しなくなった。

 朝、男の人を見送るのを見てから……女子高生らしい気おくれ……あたしにも、こんなとこがあるんです!


 今朝も、男の人を幸せそうに見送っていた。ただし、最初の男の人とは違う……。

 そして、忘れ物とりに戻る途中でも、女の人を見かけた。女の人は紫陽花の花を見つめながら、悲しそうな顔をしていた。

 唇が動いた。

「移り気」と言ったような気がした。

 忘れ物を持って大急ぎで学校に向かう途中、女の人は、もう自分の部屋に入ったのか姿が無かった。

 学校でいろいろあったうちに女の人のことは忘れてしまった。


 学校から帰ると、お母さんからショックなことを聞いた。


「あのアパートの女の人、自殺未遂だって。なんだか男出入りの多い人だったて、オーナーさんが……」
「そんな不潔な言い方しないで!」

 お母さんは食べかけのマンジュウ喉に詰まらせてむせ返った。

 紫陽花の花は移り気じゃない。成長に合わせて色がかわるだけ……だから、人に見てもらうために、ひっそりと色合いを変えてみせてるだけなんだ。

 せわしない今の人間は、アナウンサーやら天気予報士が予報の枕詞に使うぐらいで、紫陽花の色の変わったのにも気がつかない。

 それ以来、その女の人は見かけなくなった。もうアパートにはいないんだ。植え込みが荒れてきたもん。

「……挨拶ぐらい、しておけばよかったな」

 さつきの呟きに返す言葉も無かった。

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明神男坂のぼりたい・74〔三者懇談〕

2022-02-16 06:18:47 | 小説6

74〔三者懇談〕 

       


「思慮深そうですが、ちょっとオッチョコチョイですなあ」

 ガンダムの第一声がこれだった。

 お母さんはニコニコ聞いてる。

 で、その横で、お父さんが友好的なポーカーフェイス。

 あたしは、ただただ恥ずかしくてドキドキ。

 三者懇談に両親が揃ってくるとこなんてありえない。これが恥ずかしい理由。

 ガンダムは元生指部長だった。他の先生よりも生徒を見る目が確かで厳しい。これがドキドキの理由。

 うちの親は二人とも元教師だから、懇談の手のうちをよく知ってる。

 お父さんは、いま学園ものを書いてるんで、その勉強のためと言って付いてきた。ようは暇なだけなんだけど、娘のあたしは迷惑なだけ。あたしの前が安室君(学級委員長)、後が秀才の新島君。当たり前だけど付いてきてるのはお母さん。控えめだけど、両親が揃って来てるのに興味津々いう顔をしていた。


「どんなところで、そうお感じになるんですか?」


 優しく、でも鋭く切り込んでくる。普通の親だったら、黙ってニコニコ聞き流すとこだよ。こういう抽象的な評価に、どれだけ具体的な裏付けを持ってるかで、教師の力が分かるらしい。

「卒業式の時、式場に入りたがらん教師が何人か居たんですが、そういう教師に世間話を装っていじめとったようです」

 アハハハハ  ギロ

 お父さんが、大きな声で笑うし、お母さんは睨んでくるし(;'∀')。

「それから、一年の三学期にクラスの子が交通事故で亡くなったんですが、ご家庭の事情で家族葬にされました。それを明日香は調べ上げて、火葬場の前でずっと待っていて、寒さのためにひっくりかえって、火葬場の事務所でお世話になりました」
「な、なんで、先生、知ってんの!?」
「オレも、火葬場まで行ってたんだ。敷地の反対側だったんで明日香の事は気が付かなかったんだけどな。それに、明日香には言わないほうがいいと思って、今まで知らんふりしてた」
「さすが先生ですね。あのことは、この子の頼みで内緒にしてたんですけど」
「明日香の優れたところです。多少無茶なとこがありますが、大事にしてやりたいと思っています。そういうところを見込んで転校生の世話なんか頼んだんですが、転校生の子もしっかりしていて、まあ、結果的には、いい当て馬になったと思ってます」

 あたしのオッチョコチョイは他にもあるけど、先生は黙ってくれていた。観察力の鋭さと、その鋭さに、ちょっと温もりを感じた。

「しかし、成績は別もんですなあ……国・数・英が、かなり低いです。この期末と二学期にがんばらないと、三年で特別推薦で進学しようと思ったら厳しいですね」
「明日香、がんばらなきゃあ」
「分かってるって(*≧0≦*)」
「ただ、国語の答案なんか見てますと、なんちゅうか、分かってるくせに、わざと違う答え書いて成績落としているようなところがあります」
「それについては心配していません。明日香は、自分の感性で喋ったり、文章書いたりする子です。要は自己主張する場所を間違うてるだけですので、今度の期末は失敗しないと、親バカですが思っています」
「そうですなあ。おたまじゃくしは、いつかカエルになるもんですからね」

 え、あたしは成ってもカエルかよ?

「あとは、本人の進路希望ですなあ。明日香、おまえぐらいだぞ、進学希望に漠然と文系進学としか書いてないのは。なんか具体的に行きたい学部とかないのか?」
「どうなの、明日香?」

 大人三人の視線がいっぺんに集まった。もうあたしも二年、オチャラケた執行猶予言うわけにはいかない……。

「演劇科のある大学にいきたいです!」

「「「え?」」」

 大人三人がびっくりした。

 そりゃそうだろ……。

 口走った本人が、一番びっくりしてんだから(^_^;)。

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明神男坂のぼりたい・73〔宇賀先生のお見舞い〕

2022-02-15 06:22:51 | 小説6

73〔宇賀先生のお見舞い〕 

        


 やっぱり餅は餅屋だ。

 それまでは、美枝とゆかりの三人で、あーでもない、こーでもないと言い合いしていたんだけど。

「けが人さんのお見舞いに相応しい花を……」

 と、今まで三人で話し合っていた候補を言おうとしたら、間髪を入れずに花屋さんに聞かれた。

「女性の方ですか? 目上の方? お友だち? お怪我の場所は? で、ご予算は?」と、矢継ぎ早。

 待ち合わせのコーヒーショップで、話し合ったことが、みんな吹っ飛んでしまった。

「じゃ、こんな組み合わせでどうでしょう?」

 それは、カスミソウの中に赤やピンク、黄色などの明るいバラのアレンジだった。

「いやあ、この時期にまだバラがあったんですね!?」

 バラは宇賀先生に相応しいので、最初に候補にあがったんだけど、時季外れで無いだろうということで却下になってた。

 

 値段の割にゴージャスに見える花束を抱えて病室をノックした。

 

 ハーイという声がして、個室のドアが開いた。

 声から、宇賀先生自身かと思ったけど、出てきたのは宇賀先生のお母さんと思しきオバサンだった。

「まあ、あなたたち生徒さんたちね。わざわざ、どうもありがとう。さ、中へどうぞ」

 そうい言われて能天気三人娘は「お見舞いにきました!」

 ただでも声の大きな三人が、いっぺんに言ったので、病室にこだまし、慌てて口を押えた(^_^;)。

「ありがとう、三組の元気印」

 先生は明るい声で応えてくれたけど、あたしたちは後悔した。

 あのベッピンの宇賀先生の顔が三倍ぐらいに腫れて見る影もなかった。

「あ、お見舞いなにがいいかと思ったんですけど、先生に相応しいのは、だんぜんバラだと思って、色は、お若い先生に合わせて子供っぽいぐらいの明るい色にしました。まわりのカスミソウがあたしたち生徒の、その他大勢です!」

「ありがとう。あたし幼稚園のとき薔薇組で、漢字で薔薇て書けるのが自慢だったのよ」

 先生は、花束を抱きしめるようにして匂いを嗅いだ。

「いやあ、いい香り!」

「じゃあ、さっそく活けようね」

 お母さんが、そう言って花束を活けにいかれた。

「ガンダム先生が、すごく心配してらっしゃいました。授業ほとんど一時間使って、宇賀先生と人生について語ってくれたんですよ。ねえ」
「はい、けっきょく体育の時間で体動かしたのは、体育館のフロアー五周しただけです」
「ハハ、なにそれ?」
「人生を一週間の授業日に例えて、人生感じながら走ってきました」
「ハハ、岩田先生らしい手の抜き方ね」

 そんな調子で、バカで明るいことだけがテーマのおしゃべりして二十分ほどで帰った。おしゃべりの終わりごろ、おかあさんがバラを見事に花瓶に活けて持ってこられた。バラの健康的な明るさが、先生の痛々しさをかえって強調してるみたいだった。

 廊下に出ると美枝が泣きだした。病室ではほとんど黙ったままだったけど、ロビーに出てから、やっと口を開いた。

「ありがとう明日香。明日香一人に喋らして。あたし、喋ったら泣いてしまいそうで、喋れなかった」
「ううん、あたしだって、なに喋ったのか、よく覚えてないし」

 後悔していた。先生が怪我したんだからお見舞いは当然だと思っていた。だから親には「友達とお出かけ」としか言わなかった。言ってたら、お父さんもお母さんも止めていただろ。

 駅まで行くと、偶然、新垣麻衣に出会った。

「地理に慣れておこうと思って、定期でいけるところ行ったり来たり。日本の電車って清潔で安全なんだね。もう麻衣電車楽しくって……あなたたちは?」

 宇賀先生のお見舞だというと、麻衣の顔が険しくなった。

「行った後になんだけど、行くべきじゃなかったわね。先生の顔……ひどかったでしょ?」

 言葉もなかった。

 麻衣の話によると、顔を怪我すると数日間は顔がパンパンになり、人相もよくわからないくらいになってしまう。そしてブラジルでは、よくそういうことがあるらしい。

 麻衣は言わなかったけど、言い方やら表情から、身内でそういう目に遭った人がいるらしいことが察せられた。ガンダムが授業で先生の怪我の話をしたとき怖い顔になったのも、そういうことがあったからなんだろう。

「麻衣は、てっきり人生のこと考えて怖い顔になったと思ってた」
「ハハ、ラテン系は、そういうことは考えないの。その時、その場所が、どうしたら楽しくなるか。それだけ」

 身内にえらい目に遭うた人が……とは聞けなかった。


「いいこと教えたげようか」

「え、なに!?」

 麻衣は、うちが明るく話題を変えよとしてることが分かって、花が咲いたようなかわいい顔になった。

「あのね、定期というのは駅から出ない限り、どこまでもいけるんだよ!」
「ほんと!?」
「うん、うちのお兄ちゃんなんか試験前になると電車で遠くまで行って車内で勉強してたよ」
 美枝がフォロー。
「ただし、急行までね。特急は乗れないから。それから新幹線も」
 ゆかりが付け足す。
「ありがとう。じゃあ、今日は、どこ行こうかなあ!」

「そうだ、みんなで神田明神行こうよ!」

 美枝が提案して、四人で神田明神を目指した。

 こないだ、連れていってあげて、美枝は神田明神がお気になったみたい。

 四人でお参りすると、ちょうどお宮参りが二組来ていて、その可愛らしさと目出度さに四人で目を細めたり、四人並んで、お作法通りのお参りしてると外人観光客の人たちに写真撮られたり。

 巫女さんが、四人揃っての写真を撮ってくれて、最後はお決まりの明神団子で締めになった。

 四捨五入しても、いい休日になった。さつきもだんご屋の店員に徹して邪魔しにこなかったしね。

 

 

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明神男坂のぼりたい・72〔今日は全国的に木曜日〕

2022-02-14 06:29:01 | 小説6

72〔今日は全国的に木曜日〕 

        


 学校というものに十年通っている、あんまり感動したことはない。

 それが、今日はプチ感動してしまった。


「今日は、全国的に木曜日。それも今は5時間目の体育だ。人生を月曜から金曜の5日間に分けたら、この5時間目は何歳ぐらいになる?」

 五時間目の体育の授業の最初、わが担任で体育教師のガンダムが遠い目をして、そう聞いてきた。一瞬みんなが考えて新島君が答えた。

「おおよそ、60過ぎというところです」
「根拠は?」
「日本人の平均寿命は、約83歳です。それを5で割ると……16・6歳になります。それに4を掛けると……66・4歳になります。そこから残りの6時間目を引くと、だいたい60過ぎになります」

 オオオ

 新島君の暗算力に、ちょっとしたどよめきが起こった。

「よく計算した。しかし、新島の説明にケチをつけるわけじゃないが、朝のショート、授業の間と昼休みの休憩、放課後の時間入れると、ちょっと変わってくる」

「それは、誤差の範囲です……ちがいますか?」

 新島君が堂々の、いや、ちょっと遠慮気味の反論。

「数学的には、そうだけどな、人間は、この誤差の中にいろんなドラマがある。こうやって変則的に男女合同の体育してるのも、昼休みにグラウンドの用意していた宇賀先生が飛んできたカラーコーンが顔に当たって怪我したからだ」

 噂はたっていた。

 線引きでグラウンドのコースを引いてたら、昨夜からの強い風で、カラーコーンが飛んできて怪我したって。

 だけど、まさか顔だとは思わなかった。

 宇賀先生は学校では珍しい二十代のベッピン先生。

 学生時代は陸上で槍投げの名選手で、オリンピックの候補にもなりかけたけど、肩を痛めてオリンピックには行き損ねた。歳が近いこともあって、あたしらには、ちょっと眩しいけど憧れの存在だ。


「おまえらは、人生の……もう月曜日ではない。な、新島?」
「はい、火曜の……ショートホームルーム……は8時30分だから、必死で教室目指して走ってるところです」

 瞬間笑いが起こった。遅刻しすぎて早朝登校指導になってる子が何人かいたからね。

「そうだな、まだ授業も始まっていない。まだ新品の火・水・木が残っとる。月曜の失敗ぐらいは、いくらでも取り戻せる。セブンティーンいうのは、いい歳だ。そのセブンティーンを無駄にしないためにも、来週の懇談は、非常に大事なものになる。まだ懇談の日程が決まってないやつは、麗しい人生の火曜日にするために、しっかりお家の人と相談して報告しにこい。なあ鈴木以下三人」

 あ……忘れてた(;'∀')。

 うちは両親とも現役リタイアした人だから「いつでもいいよ」と言われて、それっきりになっていた。空いてる日にちと時間見て早く返事しとこう。

「今日は風が強いから、グラウンドは使用せん。最後にちょっとだけ体動かすが、それまで、もうちょっと話そう。おまえら残りの火・水・木、どう過ごすつもりだ?」

 みんなで、ひそひそ相談。で先生が聞いたら火曜の午前中は大学ということで、ほとんど意見が一致した。

「うん、まあいいだろ。だけど、大学なんてすぐにやって来るのは分かったな。そして、火曜の6時間目くらいには恋愛とか結婚とかしなくちゃならない。忙しくって、授業どころじゃない」

 みんなが一斉に笑った。

 あたしはチラッと美枝を見た。美枝は、もう6時間目を現実のものにしようとしている。麻衣のオーラを感じた。これまで見たことのない怖い顔してる。アイドルみたいに明るくてかわいくって、頭のいい子だお思ってたけど、当たり前に考えても、ブラジルから日本にこなくちゃならなかったことには人に言えない事情があるんだろうし、数年後には国籍という、あたしらには思いもつかない選択を迫られる。

 ちなみに、新島君とは新新コンビと言われ始めてるけど、成績と頭の回転と苗字の頭だけで、カップルとして認知されてるわけではない。二人に共通な前向きさを指してのことだ。

「じゃあ、ラスト。体育館のフロアーを5周走る。4班に分ける。急がなくてもいい、人生感じながら走ってみろ」

 ランニングに人生を感じたのは初めてだった。自分で走って、人の走りを見て、みんな、それぞれ感慨深げだった。

 放課後になって、情報が入ってきた。宇賀先生の顔の傷は一生残るかもしれないって。で、怪我は生徒を庇ったからだったことを……。

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明神男坂のぼりたい・71〔関根先輩曇り のち 新垣晴れ過ぎ〕

2022-02-13 06:00:46 | 小説6

71〔関根先輩曇り のち 新垣晴れ過ぎ〕 

     

 

 なんで関根先輩が居るの!?

「そりゃ、明日香がリレーのアンカーやるっていうから見に来ないわけにはいかんだろ?」

 サラッと先輩。

「だって……あたしがリレーの代走に決まったのは、ついさっきですよ。アンカーの子が休んでしまったから」
「え、あ、そうだったっけ(^_^;)?」

 焦ってとぼける先輩。ウソ見え見え。

 胸のポケットに家族のIDカードが覗いてる。あ、なんかドキドキしてきた。

「あ、ちゃんと写真撮ったぞ。ゴール前でこけたのはビックリして撮りそこなったけどな」

 で、先輩は、スマホを出してスライドショーをやってくれた。競技中のは狙うのがむつかしいようで少なかったけど、応援席にいてるのやら、入場門のところで乙女チックに出番を待ってるのやら。

 そして……中学時代の懐かしくもおぞましい写真まで( ゚д゚ )。

 障害物競争で麻袋穿いてピョンピョン跳ねてる明日香。そんで麻袋脱ごうと思って、うっかりハーパンとパンツ脱ぎかけて半ケツになったやつ!?

「な、なんで、こんな古い写真……なんで、ここだけ鮮明に!?」
「いや、たまたまや、たまたま。写真は消し忘れ!」

 焦ってる先輩も可愛い(〃▽〃)。

 って喜んでる場合じゃない!

―― まあ、半ケツと言ってもお尻の本体が丸々見えてるわけではないぞ ――

 さつきが囁いて、言い損ねる。

「そうだ、二人で撮ろうか」
「うん」

 そう言って自撮りしようとしたら、声がかかった。

「あたしが撮ろうか?」

 ブラジルの制服姿の新垣麻衣が、あたしらの前に立った。

「あ、麻衣ちゃん、お願い」
「じゃ、いきますよ~」

 カシャ

 再生すると青春真っ盛りの二つの笑顔。先輩の笑顔も見たことないほどいい。いや、良すぎる……。

「あたし、明日香のクラスに転校してきた新垣麻衣です。こちらは、明日香の彼?」
「あ、この人は……」

 説明しかけると、教務の先生が麻衣を呼んだので、アイドルみたいな返事して、校舎の中に消えていった。

「か、可愛い子だなあ……」

 魂もっていかれたような顔して関根先輩。

「あたし、麻衣の世話係だから、よかったらサイン入りの写真でももらっとこうか?」
「え、あ、いや、それは……あの子の明るさは日本人離れしてるなあ」
「ブラジルからの帰国子女!」
「ああ、ブラジルか。情熱のサッカー大国だな」

 そのあと閉会式になったので、先輩とは半端なまま別れた。気まぐれでも見に来てくれたのは嬉しい。だけど、正直に麻衣に鼻の下伸ばしたのは胸糞悪い。

―― ま、いいではないか。坂東の男は、こういうことには正直なもんだ(^▽^) ――

 さつきが姿も見せずに言う。

 団子屋のバイトはどうしたの!?

―― つつがなくやっておるぞ。だから、姿は見えないだろうが ――

 こいつ、なんか進化してない(-_-;)?

 月曜からは大変だった。

 麻衣は、TGHの制服着ても華やかさはまるで変わらない。朝のショートホームルームの自己紹介も華やかで明るくって、ほんとに、このままAKRのMCが務まりそうなぐらいだった。クラスの男子の好感度は針が振り切れてしまったし、女子も自然な明るさに好感を持ったみたい。

 あたしは慣れない日本にやって来て、さぞかし心細いだろうと、気遣いと心配は十人分くらい用意してきた。どうも、いらない心配だったみたい。

 で、心憎いことには、あたしへの心遣いも忘れていない。授業や学校のことで分かないことがあったら、必ずあたしに聞きにくる。

 要は、見かけも気配りも言うことないんだけど、その完璧さが面白くない。

 嫉妬だというのは自分でも分かってるので、なるべく表に出さないように気をつけた。

 友達は、いきなり増えても麻衣が気疲れするだろうと思って、積極的に紹介したのは、伊東ゆかりと中尾美枝の二人だけ。

 すると、クラスの子たちからは「麻衣の取り込みだ」というような顔をされる。で、そのクラスの子たちとの仲を取り持つのも、いつの間にか麻衣自身とかね。

 めでたいことなのに、こんなにイラついた経験は十七年の人生で初めてかもね。

 神田明神に『イラつき封じのお守り』は無かった。

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明神男坂のぼりたい・70〔夏も近づく百十一夜・4〕

2022-02-12 07:04:46 | 小説6

70〔夏も近づく百十一夜・4〕 

        


 夏も近づく百十一夜……いつまで続くんだ?

 と、思ってる人、ごめんなさい。

 ほんとうは、夏も近づく八十八夜でいきたかったんだけど、気がついたのが5月の28日。で、数えたら八十八夜ならぬ百十一夜。語呂がいいので、それで書き始めたら終わらなくなってしまって、もう6月。

 ほんとうは、この「夏も近づく百十一夜」で、手紙書こうと思ってた。で、一日延ばしで他のことやってるうちにタイミング失うてしまって(^_^;)。

 で、今日は百十一夜にトドメを指します。っていうか、ほとんどピーカンのカンカン照りだしい(>△<;)。

 で、なんと今日は体育祭、運動会!

 昔は、秋にやるものと決まってたらしい。

 それが、文化祭と重なることや、三年生の進路決定の時期と重なるというので、あたしたちは、小学校のころから運動会は5月末から6月の頭になっている。

 で、分かってるだろうけど、早い年は、もう梅雨が始まりかけて雨の確率が高い。

 

 で、なんと言っても暑い!

 

 あたしは、運動会は好きじゃない。スポーツはいいよ。だけど、いろんな競技を一日掛けてダラダラやるのは嫌い。

 考えてみてよ。好きで行ったライブとかでも、まあ、三時間じゃね? 人間の集中力には限界があるんだよ。映画も芝居も3時間超えるやつなんか、めったにないぞ。

 オリンピックの花と言われるマラソンもドンベの選手も入れて、まあ、3時間には収まるよ。それが運動会は昼休みを挟むとは言え、7時間以上の長丁場。

 もう、これだけでアウト!

 それに、あたしは嫌いじゃないけど、好きと言うほどスポーツは上手くない。中学二年までは関根先輩と学校いっしょだったから、かっこわるいとこ見せられないから必死。で、一等賞はとったことがない。いっつもゴール寸前で陸上とかやってる子に抜かされるんだもんね。

 ちょっと、話は横道へ。

 あたしの名前の明日香には意味がある「今日できなくてもいい。明日に香るような子でいてほしい」というのが名前の由来。まあ、お父さんらしい名前の付け方。男だったら「介(すけ)」の付く名前なんだってさ。

「介」って言うのは、昔の日本の役人の制度では、次官(二番目の役人)を表すらしい。まあ、過剰な期待や努力をしなくていいという思い。

 それには感謝なんだけどね……あたしには、なにごとも一日延ばしにするという悪いクセがある。「今日出来ることは今日のうちに」と、学校では教えられてきた。だけど、うちの家族、とくにお父さんは「明日出来ることは、今日するな」いう主義。

 これにも理屈はある。

  急いで一日でやったら見落としが必ず出てくる。お父さんは、本書いていてアイデアに詰まると、何日かホッタラカシにしとく。そうするとフッとアイデアが浮かんでサラサラと書けるらしい。

 これを「ウンコ我慢法」と言う。念のため、お父さんの命名。立派なバナナ型のウンコをひり出そ思たら、最初の便意は我慢して、その次も我慢して、そしてギリギリになってトイレに駆け込むとモリモリと立派なウンコが出来るそうで、これも立派な努力の方法だと言ってます。
 お母さんは、ただの無精もんの言い訳だと、一言のもとに切り捨て。なんで、こんな性格の違う二人が結婚したのか、あたしの中では世界七不思議の一つです。

 アハハハハハ(๑˃▽˂๑)!

 さつきがノドチンコむき出しで笑った。

 あたしは、ホームルームで種目決める時に、さっさと手を挙げたよ。

 ぐずぐずしてたらリレーのアンカーとか、借り物競走とかのしんどいか、しんきくさい競技に回されるのが分かってるからね。

 しかし、あたしは、やっぱり抜けてる。

 運動会というと、必ず休む子がいるっていう法則だよ。小学校から10回も経験してながら抜けてる。我ながら経験から学習しないバカだ。

 中学校のとき、障害物競走に出る子が休んで代わりに出た時の話。

 平均台渡って、網潜って、麻袋穿いて両足でピョンピョン。ここで、となりの子に抜かされそうになった。ラストは片栗粉の中のアメを探して(手は使えない)ゴール。あたしは、ここで時間かかると思って必死で麻袋脱いだら、ハーパンと、その下まで脱ぎかけて会場大爆笑。その時の半ケツの写真が出回ったとか。

 ああ、これが人生の判決かと(なにシャレとんねん)諦めたけど、関根先輩に見られたのは一生の不覚(-_-;)。

 あ、で、今度のバカは、休んだ子がリレーのアンカーだったこと。リレーの前が女子の棒倒しで、みんなヘゲヘゲになってるんで、パン食い競争で早々と出番の終わったあたしにお鉢が回ってきた。

「明日香、お前が走れ!」

 ガンダムの有無を言わせない命令は、やっぱ元生指部長の迫力。

 バトンを受け取ったときは二番目だった。

 あたしは一番にはなろうとは思っていない。受け取ったバトンを二番目のまんまでゴールしたら、ピンチヒッターの面目は立つ。

 ところが、リレーのアンカーと言うのは陸上の専門みたいなやつが配置されてる。それも三番目のクラスに。

 あたしはコース半分のとこで越されそうになって、必死のパッチ!

 で、あたしとしてはがんばった。50センチくらいの距離でピタっとくっついて、ゴールの寸前!

 で……ころんでしまった。

 運の悪いことに、ゴールは本部テント前。

 校長先生やらPTAの役員に混じって招待客やら一般の人らも混じっている。ころんだ瞬間、本部テントの中からいくつもの視線が刺さる。その中には、明日から正式に登校する新垣麻衣の姿。一瞬笑ってるように見えた。案外この子は見かけとはちがう子かも……と思った。

 むろん順位は大きく落としてブービー賞。

 退場門のとこで、ゆかりと美枝が待っててくれて慰めてくれた。

 で、次に心臓がフリーズドライになりそうになった。

 なんと本部テントの中で、関根先輩が見ていた……!

 

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明神男坂のぼりたい・69〔夏も近づく百十一夜・3〕

2022-02-11 08:06:07 | 小説6

69〔夏も近づく百十一夜・3〕 

 

 

 通り雨 過ぎたあとに残る香りは夏 このごろ……

 お父さんの好きな『夏この頃』の歌い出しみたいな昼休みだった。

 バラが盛りになって、紫陽花が小さな蕾を付け始めた。

 ピーカンの夏空の下、となりのオバチャンにホースで水を撒いてもらうと、水のアーチの中にけっこう大きな虹がたつ。その虹の下を水浸しになりながらキャ-キャー言いいながら、友だちとくぐった。オーバーザレインボウじゃなくってビヨンドザレインボウ。その時に舞上げられる焼けた土と、跳ねる水の香り。それが、この時期の通り雨の香りといっしょ……というのはお父さんの子どもの頃の話。

 お母さんも水撒いてもらうのは好きだけど、お父さんみたいにビチャビチャになりながらビヨンドザレインボウはやらなかったそう。で、砂埃と水の混じった匂いは、お母さんには臭い。同世代でも、感性がちがうもんだと思う。

 この明神男坂下はコンクリートとアスファルトなので、この夏の香りはしない。

 

「いや、東京オリンピック以前は、そんな感じだったぞ」

「ええ? ここは明日香が子どものころからアスファルトだよ」

「東京オリンピックと言えば昭和三十九年だろうが」

 どうだ、最近のことも知ってるんだぞという感じで上から目線なのはさつき。

「親父ほどじゃないけど、実体は滝夜叉姫って呼ばれるくらいのもんだからな。厄除け、病魔退散には霊験あらたかなんだぞ。いやいや、いまさら感謝とかはしなくてもいいけど、知っておいて損はないぞ」

「なんか、居候の居直りっぽい」

「まあ、そう言うな。学校では友だちもできたみたいだけど、一人っ子というのはつまらないだろ。まあ、お姉ちゃんだと思って……」

「いやだ」

「じゃあ、転校生だ。転校生というのはラノベでは幼なじみと並んで鉄板キャラだろ」

「ええ? ラノベまで読んでるの!?」

「ああ、お父さんの本棚にいっぱい並んでるからな。ずいぶん、勉強になったぞ」

「もおー」

「安心しろ、転校生も幼なじみも、サブキャラの立ち位置だ。主役は明日香。そこは、ちゃんと分かっているからな」

 むう、ぜったいウソだ。

 

 だけど、夏を予感させる五月の下旬は好きだ。

 そんなこと思って、雨上がりのグラウンド見ながら食堂のアイス食べていたら急に校内放送。

――2年3組の佐藤明日香、職員室岩田のところまで来なさい。くりかえします……――

 繰りかえさなくても分かってる。これは、前の校長(パワハラで首になった民間校長)の人事で生指部長から我が担任に天下ってきた(本人曰くけ落とされた)ガンダムの声。

「明日香、なんかやった?」
「ガンダム、ストレス溜まりまくりだから、このごろ、ちょっとしたことでも怒るからね」
「明日香のことだ、ちょっとしたことではないんだろなあ……」
「あ、おとつい南風先生凹ましたの、バレたんじゃない?」

 このデリカシーのない励ましの言葉は美枝とゆかりです。

「失礼します、2年3組の佐藤明日香です……」

 そこまで言って、びっくりした。よその制服着たメッチャかいらしい子がガンダムの前に座っている。

 美女と野獣……そんな言葉が頭をよぎった。

「おお、明日香、こっちこっち!」

 ガンダムのデカイ声に職員室中の目がいっせいにあたしに向く、そんで職員室中の先生たちが、あたしと、その可愛い子の比較をやって、全員が同じ答を出したのに気がついた。

「この子、新垣麻衣さん。来週の月曜からうちのクラスだ」
「転校生の人ですか?」
「はい、ブラジルから来ました。どうぞよろしく」

 アイドルみたいな笑顔の挨拶に早くも気後れ。

「席はおまえの横だ。ブラジルからの転校生だから、慣れるまで明日香が世話係」
「は、はい」
「喋るのには不自由ないけど、漢字が苦手だそうだ。とりあえず、ざっと校内案内してやってくれるか」
「は、はい」
「どうぞよろしく鈴木さん」
「は、はい(^_^;)」

 出した手が一瞬遅れたせいか、新垣さんに包み込まれるような握手になってしまう。

 ダメだ、完ぺきに気持ち的に負けてる。

「それじゃ、終わったら、また戻ってきてくれ」
「は、はい」
「おまえとちがう。新垣に言ったんだ」

「アハハハ(;^_^」

 新垣さんは、タブレットを持って付いてきた。チラ見すると学校の見取り図が入ってる。やっぱり緊張してるせいか、職員室出るときに挨拶し忘れた。

「コラ、失礼しましたやろ、アスカタン!」
「は、はい」
「失礼しました」

 新垣さんがきれいに挨拶。遅れて続くけど「っつれいしました」になる。

 アハハハハ クスクスクス ウフフフフ

 職員室が、また笑いに満ちる。

 ちなみに「アスカタン」いうのは、ガンダムがあたしを呼ぶときの符丁。本人は可愛く言ってると言うけど、あたしには「スカタン」に不定冠詞の「A」がついたものにしか感じられない。

 校内を案内していても注目の的。

 本人が可愛いとこへもってきて、胸が、どう見ても、あたしより2カップは大きい。で、他のパーツも、それに釣り合っていてイケテる。ブラジルの制服もラテン系らしい華やぎがある。もう、どこをどうまわったのか分からんうちに終了。新垣さんは部屋の名前を言うたんびに、タブレットの名称をスペイン語に直してた。その手際の良さだけが記憶に残った。

「どうもありがとう。とても分かり易かった。わたしのことは麻衣って呼んで。佐藤さんのことは明日香でいい?」
「え、あ、はい!」
「ハハハ、明日香って、とてもファニー(^▽^)!」
「え、あ、ども(^_^;)」

 そして麻衣は職員室に戻っていった。

 五時間目の休み時間には、麻衣とあたしの写真が校内に出回った。美枝とゆかりも撮ってたんだ。

「うちには、居なかったタイプだね……」
「明日香と比較すると、よく分かるなあ」

 まるで電化製品の新製品と型オチを比較されてるみたいで、気分が悪い。

「型オチなんかじゃないよ。生産国のちがい」

 それって、もっと傷つくんですけど。国産品を大事にしましょう……もしもし?

 

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明神男坂のぼりたい・68〔夏も近づく百十一夜・2〕

2022-02-10 09:05:04 | 小説6

68〔夏も近づく百十一夜・2〕 

 



 東風先生のプロットをクソミソに言ってしまって、凹みながら家に帰った。帰り道は美枝とゆかりといっしょ。

「どうしたの、なんか食べたいもの食べ損なった?」
「ひょっとして、東風先生と、なにかあった?……さっき職員室行ったら、先生怖い顔してパソコン叩いてた。前の校長のパワハラのときは敵愾心満々の怖さだったけど、今日の怖さは、なにか人に凹まされたときの顔だよ。あの先生が凹むって言ったら、クラブのことぐらいでしょ。で、クラブのことで、凹ませられるのは鈴木明日香ぐらいのもんだからね」

 最初の牧歌的な推論は、ゆかり。あとの鋭いのが美枝。自分のことは見えないのに、人の観察は鋭い。ああ、シャクに障る!

 で、うちに帰っても、自己嫌悪と美枝へのいらつきはおさまらない。馬場さんに描いてもらった肖像画も、なんだかあたしを非難がましく見てる双子の片割れみたい。いらんこと言いのさつきも、こんなときは姿を現さず、あたしの中で寝ている!

 だけども、こんなときでも食欲が落ちない。晩ご飯はしっかり食べた。だけど、なにを食べたかは五分後には忘れていた。

 うちのお風呂の順番は、お母さん→あたし→お父さんの順番(オヤジが最後いうのは、よそもだろうね)で、お母さんは台所の後始末してから入る。その間、あたしは洗濯物とり入れるのが仕事なんだけど、今日はピーカンだった天気が、夕方にはぐずつきだした(うちの気分といっしょ)そんでお母さんが早々と取り込んでいいたので、することがない。自然にパソコンを開く。

 O高校演劇部のブログが目に止まる。O高校は最近更新が頻繁……だと思ったら毎日更新してる。

 エライと思った。毎日コツコツというのは、人間一番できないこと。そう思うと読み込んでしまう。で、感動は、そこまでで、東風先生と同じようにひっかかってしまう。

「知っていたら、情報があったら観に行ったのに」と思う公演もたくさんあるのです。これって本当にもったいないことだと思いませんか? やはりどれだけ観劇が好きな人でも、情報なしに公演を観に行くことは出来ません。

 一見正論風に見える三行が、まるで東風先生の言葉みたいで、ひっかかった。

 高校演劇の芝居が観られるのは、主にコンクール。

 本選にあたる中央大会は、けっこう人が集まるけど、地区大会は、あまり人が来ない。学校ごとの校内発表会や、自治体の文化行事で上演されることもあるけど、まあ、人は集まらない。

 たしかに派手な情報発信は少ないよ。校内発表なんて、外に向かって予告されることってほとんどない。

 でも、やったからって……人は来ないよ。

 だってさ、学校には、いろんな劇団とか大学の演劇部、部活グループ、自治体の文化イベントとかの案内は、結構来てるんだよ。中には招待券とか割引券とか同封してあって、そういうの貰って、一年の時、四五回は観に行った。

 でもね、費用対効果っていうんだろうか……たとえ、招待券でも、交通費だけで1000円超えちゃうのってザラじゃん。高校生の1000円て、どうかしたら三日分のお昼代だよ。

 ああ、時間とお金使ったわりには……というのがほとんどなんだよ。

 

 それってさ、天国とか極楽はいいとこだ! とか、思っていて「死ぬのは嫌だ」と言ってるのに似てる。

 こういう演劇部員って、言ってるように情報発信されても、きっと見に行ったりしないよ。

 

「明日香、暗いぞぉ」

「あ、さつき」

 気が付くと、机の横にさつきが立ってる。早々とだんご屋の制服着てるし。

「だんご屋、好きだからな」

「あ、ちょっと、いつもと違う」

「気が付いたか(^▽^)/」

 そう言うと、さつきはクルンと一回転して見せる。

 団子屋の制服はウグイス色の作務衣風なんだけど、襟のところに茜の縁取りが入ってる。

「おかみさんがな、さつきちゃんみたいな若い子が入ったんだ、少しは華やかにしようってな」

「うん、ちょっとしたことで華やか!」

「だろ、今までのに茜のパイピングしただけなんだけどな。ま、世の中、ちょっとしたことで楽しくなるってことさ」

「あ、これを機に値上げとか?」

「あ……ここんとこ原材料費上がってるからなあ」

「やっぱ!?」

「おかみさんは、さつきちゃんの時給も上げてあげたいしねえ……とか言うんだけど、わたしは趣味でやってるようなもんだからな。このままでいいですって。本当は、新規にお仕着せ作るはずだったんだけどな。100均でパイピング買ってきて、ガーーってミシン踏んで、しめて500円でイメチェンだ」

「なんか、すごく、令和の時代に馴染んじゃってんのね」

「明日香も、友だち連れて食べに来い。ほれ、三名様で来たら一人分タダって優待券くれてやるから」

「おお、サンキュ」

「パソコンというのも面白そうだなア……なんか、いっぱい四角いのが出てるけど、なんだ?」

「アイコンだよ。まあ、高機能の目次みたいなもんで、カーソル持ってきてクリックすると、そのページが出てくるわけ」

「ん、この『ASUKA』って言うのはなんだ?」

 さつきは、もう何カ月も開いたことが無いフォルダを指さす。

「ああ、あたしの写真とか動画とか保存してあるの」

「見せろ」

「やだよ、ハズイのもあるから」

「よいではないか、えい!」

「あ、ええ!?」

 なんと、マウスも持たないで、アイコンをクリックした!

「おお、わたしの念力でも操作ができるんだ!」

 あ、ちょっとヤバイ(;'∀')

「お、このねじり鉢巻きの可愛いのが明日香か?」

「え、あ、まあね」

 それは、子どものころに石神井で盆踊りを教えてもらったときのだ。

 神田明神のお祭りは見てるだけだけど、石神井の盆踊りは誰でも参加できる。

「こういうのは、さつきの時代にもあったぞ……うん、秋の稲刈りが終わったころに、お祭りがあってな。この日ばかりは、身分とか関係なしに酒飲んで、夜通し踊ったもんだ」

「動画の、見てみる?」

「お、おう、見せろ見せろ!」

 何年かぶりで『石神井盆踊り』をクリックする。

 アイコンの写真だったのが、命を吹き込まれたように動き出す。

 まだ四つくらいだった明日香が浴衣を着せてもらって、シャクジイといっしょに踊ってる。

 

 ハア~ 踊り踊るなアら、東京音頭ぉ~♪

 

 櫓の向こうには、同じように浴衣を着たシャクバアとお母さんが踊って、こっちに気が付いて手を振ってくれてる。お父さんは? 振り返ると、お父さんがギャラリーでビデオを撮ってくれている……そうだ、この動画はお父さんが撮ってくれたんだ。

 見よう見まねで踊りの輪の中に入って、二三周回ると、なんとか踊れるようになって、とても嬉しかった。

「ほんとだ、明日香、これはなかなか楽しいぞ(^▽^)」

 気が付くと、あたしの横にはさつきが踊っている。

「え、なんで?」

「細かいことは気にするな、今夜は、よっぴき踊りまくるぞぉ!」

 

 花の都の 花の都の真ん中で ヤートナ ソレ ヨイヨイヨイ ヤートナ ソレ ヨイヨイヨイ♪

 

 最初は見上げていたさつきの顔が、いつのまにか目の高さになって、いっぱいいっぱい踊りまくって、時々休んで、お酒なんか飲んだりして……家族みんなで、石神井やら神田やら学校のみんなも混じって、いっぱいいっぱい踊りまくった。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

 

  

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・67〔夏も近づく百十一夜・1〕

2022-02-09 08:27:06 | 小説6

67〔夏も近づく百十一夜・1〕 

 



 食堂でAランチ食べようと思ったら、わたしの前の子で自販機の食券が切れてしまい。やむなく玉子丼で我慢して教室に戻る途中。

 ああ Aランチ……

 未練たらしくAランチを思い、口の中に残る玉子丼の味わいを物足りなく思っていると、久々で廊下で出くわした東風爽子先生が声をかけてきた。

「明日香、ちょっと放課後あたしのとこ来てくれる」
 
 あたしは、この2月3日で演劇部を辞めた。理由は、バックナンバー読んでください。

「……はい」

 ちょっと抵抗はあったけど、もう3カ月も前のことだし、あたしも17歳。あんまり子どもっぽい意地をはることもないと思って返事した。

 ほんとは、ちょっとムッとした。

「来てくれる」に「?」が付いてない。「絶対来いよ」いう顧問と部員だったころの感覚で言ってる。生徒とは言え退部した人間なんだから、基本は「来てくれる?」にならなくっちゃいけない。

「今の教師はマニュアル以上には丁寧にはなれない」

 元高校教師のお父さんは言う。東風先生は、まさに、その典型。コンビニのアルバイトと大差はない。

 これが、校長から受けたパワハラなんかには敏感。前の民間校長辞めさせた中心人物の一人が東風のオネエチャンらしい。らしい言うのは、実際に校長が辞めるまでは噂にも出てこなかったのが、辞めてからは、自分であちこちで言ってる。校長を辞職に追い込んだ先生は別にいるけど、この先生は、一切そういうことは言わない。授業はおもしろくないけど、人間的にはできた人だと思う。

 で、東風先生。

「失礼します」

 教官室には恨みないので、礼を尽くして入る。

「まあ、そこに座って」

 隣の講師の先生の席をアゴでしゃくった。そんで、A4のプリント二枚を付きだした。

「なんですか、これ?」
「今年のコンクールは、これでいこうと思ってんの」

 

 A4のプリントは、戯曲のプロットだった。


「今年は、とっかかり早いだろ」

 あたしは演劇部辞めた生徒です……は飲み込んで、二枚のプロットに目を通した。タイトルは「あたしをディズニーリゾートに連れてって」だった。

「先生、これって四番煎じ」

 さすがにムッとした顔になった。

「元ネタは『わたしを野球に連れてって』いう、古いアメリカ映画。二番煎じが『わたしをスキーに連れてって』原田知世が出てたホイチョイ三部作の第1作。似たようなものに『あたしを花火に連れてって』があります。まあ、有名なのは『わたスキ』松任谷由実の『恋人はサンタクロース』の挿入歌入り。で、先生が書いたら、四番煎じになります。まあ、中味があったらインパクトあるでしょうけど、プロット読んだ限りでは、ただ、ディズニーリゾートでキャピキャピやって、最後のショー見てたら大きな花火があがって、それが某国のミサイルだった……ちょっとパターンですね」

「鋭いね明日香は」

「ダテに演劇部辞めたわけじゃないですから」
「どういう意味?」
「演劇のこと知らなかったら、残ってたかもしれません。分かるから辞めたんです」
「それは、置いといて、作品をね。とにかく、この時期から創作かかろいうのはエライだろ」

 あたしは、この野放図な自意識を、どうなだめようかと考えた。

「確かに、今から創作にかかろうというのはいいと思います。大概の学校はコンクール一カ月前の泥縄だし」
「だろ、だから、まだ玉子のこの作品を……」
「ニワトリの玉子は、いくら暖めてもAラン……白鳥のヒナにはなりません」
「そんな、実もフタもないこと……」
「それに、このプロットでは、人物が二人。まさか、あたしと美咲先輩あてにしてるんじゃないですよね?」

 やってしまった。先生の顔丸つぶれ。それも教官室の中で……。

「ま、まだプロットなんですね。いっそ一人芝居にしたら道がひらけるかも。それにタイトルもリスペクトすんのはいいですけど、短かくした方が『あたしを浦安に連れてって』とか」

 ああ、ますます逆効果。

「……勝手なことばっかり言って、すみませんでした。じゃ、失礼します」

 ダメだ、南風先生ボコボコにしてしまった。もっとサラリと受け流さなきゃ。あたしは、やっぱしバカの明日香だ。

 だけど、これは、さらなるバカの入り口でしかなかった……。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 さつき          将門の娘 滝夜叉姫
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校
 美枝           二年生からのクラスメート
 ゆかり          二年生からのクラスメート

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