ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

小菅優 ピアノリサイタル(10/18) @サントリーホール

2009-10-20 | コンサートの感想
一昨日、サントリーホールで小菅さんのピアノリサイタルを聴いた。
開場時間にはまだ少し早いと思いながら、夕方の5時15分頃にホールの前に着くと、人影がほとんどない。
休日のコンサートだからこんなものなんだろうか、いやひょっとして体調が戻らなくて公演がキャンセルになったのだろうかなどと不安に駆られてチケットをみてみると、何と開演は7時。
私はてっきり6時開演だと思い込んでいたのだ。
危ない危ない・・・
でも逆でなくて本当に良かった。
小菅優、サントリーホール、土日のコンサートと重ねて考えると、私にはどうしても6月の悪夢が甦る。
とんだハプニングに見舞われ、ホールの前まで行きながら、泣く泣く小菅さんのピアノコンチェルトを聴き逃してしまったのだ。
そうか、そのときの開演時間が6時だったんだ。
トラウマとは、げに怖いもの・・・

<日時>2009年10月18日(日)19:00開演
<会場>サントリーホール
<曲目>
■ワーグナー(リスト編曲):オペラ『タンホイザー』序曲
■シューマン:交響的練習曲 op.13
■ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番
(アンコール)
■メンデルスゾーン :無言歌集より「デュエット」
■メンデルスゾーン :無言歌集より「紡ぎ歌」
■モーツァルト :ピアノソナタK330 第1楽章

さてこの日のプログラムは、まさにロマン派のど真ん中の音楽。
こんなに重い曲を並べて、小菅さんの病み上がりの体は最後まで持つのだろうか。
何よりそれが心配だった。
それだけに、最初にステージに登場した彼女の笑顔を見て、そして3曲めのアンコールを終えて最後に客席に向かって丁寧に挨拶する姿を見て、「元気になってほんとに良かったね。ありがとう。」と私は心の中で思わず呟いていた。

冒頭のタンホイザーは、とても指ならしといえるようなものではない。
所謂つまみ食い的なパラフレーズではなく、タンホイザーの序曲をまるまるピアノで再現しようとするのだから、その大変さは想像を絶する。
彼女は最後まで正面からこの曲に向き合って弾いてくれた。
しかし、ピアノという存在すら忘れさせてくれるような美しい部分と、それでもやっぱり無理しているなあと感じる部分が交錯していたというのが実感。
次のシューマンは、より自然な表現でずっと楽しめた。
「遺作」を織り交ぜた独自の配列で演奏されたが、とくに思い切りテンポを落として演奏された「遺作変奏曲第5番」の息をのむような美しさ、逆に速めのテンポで一気呵成にエンディングまで疾走したフィナーレの見事さが印象に残る。

しかし、この日もっとも感銘を受けたのはブラームス。
前半の2曲では、どこかピアノと格闘しているところが感じられたが、後半のブラームスでは、ピアノはまさに彼女の理想のパートナーになっていた。
第2楽章のポコ・ピュウ・レントに聴く静謐な世界、躍動感に満ちたスケルツォがその証左だ。
それにも増して素晴らしかったのはフィナーレ。
とくに2番目の主題は、このソナタの中でも第2楽章と並んで極め付きの美しい音楽で、ほんの一瞬しか登場しない。
そんな儚い美しさが私の心を捉えて離さないのかもしれないが、この最高の聴かせどころを、小菅さんは何とも軽やかに、そして微笑みを持って弾ききってくれた。
これでこそ、この音楽は活きる。「皇帝」のテーマの描写も同様に素晴らしい。
私は、あらためてこのブラームスのソナタの魅力を教えてもらった。

小菅さんの最大の魅力は直球だ。
けれんみなく投げ込んでくる直球は、無限の可能性を感じさせてくれる。
そして、その直球に乗せて、「自分のメッセージを聴衆にピンポイントで伝える本能的な力」を持っている。

小菅さん、あなたはもう「高度なテクニックと豊かな表現力」というような、ありきたりのキャッチフレーズで語られていてはいけない。
「コスゲ ワールド」そのもので勝負してほしい。
それだけの才能を持った人なのだから。
次回のコンサートで聴かせてもらえる日を、心から楽しみにしている。

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4 コメント

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凄いプログラム! (calaf)
2009-10-22 18:28:21
こんばんは。もの凄いプログラムですね。タンホイザー序曲を冒頭に持って来るとは信じられません。まさか指ならしではないでしょうし。ただ他の演目との比較では先頭にもってくるのはうなずけます。表現は違いますが技術を突き抜けたところで小菅優さんならでは世界を期待したいですね。アンコールのメンデルスゾーンは最近CDが出ましたね。
返信する
>calafさま (romani)
2009-10-23 08:36:10
おはようございます。
今回のプロには私も驚きました。でもシューマンを聴きながらタンホイザーのイメージがダブってきましたし、ブラームスの緩徐楽章を聴きながら交響的練習曲の主題を思い出させてくれました。
「雰囲気を繋げる」という意図があったのかもしれませんね。

>アンコールのメンデルスゾーンは最近CDが出ましたね
そうなんです。まだ聴いていませんが、コンチェルトは明日読響のマチネーで実演を聴きます。とても楽しみにしています。
返信する
Unknown (booworm)
2009-10-25 13:25:32
交響曲的な雰囲気がつながっていて
なんだか統一感のとれたプログラムだったと思います。
私はとても楽しみました。

小菅さん病み上がりだったのですか?
返信する
>boowormさま (romani)
2009-10-25 19:58:45
こんばんは。

コメントありがとうございます。
この日のコンサート、お聴きになっていらっしゃったのですね。

>なんだか統一感のとれたプログラムだったと思います。
聴き進むにしたがって、私もそんな風に感じました。
旋律もそうですし、和音や低音のリズムも、みんな次に繋がるように配慮されていたと思います。
しかし、いずれも大変な難曲揃いで、やはり並のピアニストではこのプロは実現しないですよね。

>小菅さん病み上がりだったのですか
今回のプロは各地で演奏することになっていたようですが、気の毒なことに彼女自身が肺炎に罹ってしまい、たとえば横須賀のコンサートはキャンセルになってしまったようです。
でも、すっかり体調も戻ったようで私も安心しました。
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