ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

ブラームス:クラリネット三重奏曲イ短調 作品114

2009-10-17 | CDの試聴記
一年中で一番ブラームスが恋しい季節になってきた。
それも室内楽が無性に聴きたくなる。
最近よく聴くのが、クラリネットトリオ。
ブラームスは晩年にクラリネットを含む名作を立て続けに作曲した。
このクラリネットトリオもその一連の作品の一つで、クラリネット五重奏曲と対で作曲されたが、五重奏曲のほうがあまりに有名になってしまったものだから、陰に隠れてしまった感がある。
しかし、じっくり聴いてみると、実に味わい深い曲だ。

<曲目>
ブラームス
■ホルン三重奏曲 変ホ長調 作品40
■クラリネット三重奏曲イ短調 作品114
<演奏>
■ラルス・ミヒャエル・ストランスキー(ホルン)
■ペーター・シュミードル(クラリネット)
■ペーター・ヴェヒター(ヴァイオリン)
■タマーシュ・ヴァルガ(チェロ)
■岡田博美(ピアノ)

第1楽章はチェロのモノローグ風の主題で始まる。
たった4小節のこのフレーズを、チェロの名手たちは実にさまざまな表情で弾く。
私が聴いた中で最も官能的に弾いているのがヨーヨーマ(+シュトルツマン&アックス)、とてもバランスのとれた表情だと感じたのがベッチャー(+ライスター&ボーグナー)とスコチッチ(+プリンツ&デムス)、速めのテンポで淡々と弾いているのがペレーニ(ベルケス&コチシュ)といった具合。
今回ご紹介するタマーシュ・ヴァルガは、現在のウィーンフィルのソロチェリストだが、ここでは決して大きな身振りでは弾いていない。
どちらかといえば控え目だ。しかし、清らかな湧き水のような美しさを湛えている。
そういえば9月の公開レッスンで、彼がベートーヴェンのチェロソナタ3番の冒頭の表現について、生徒にアドヴァイスしていた姿を思い出す。
「あなたの弾き方は気合いが入りすぎている。音楽はまだ始まったばかり。どちらの方向へ行くのか手探りな状態のはずだよ。」
まさにその言葉を、ヴァルガはここで実践している。
そして次第に音楽が熱を帯び出すとヴァルガの表情も徐々に変わっていく。シュミードルとの掛け合いの妙は、まさにウィーンフィルそのもの。
おそらく初見で演奏したときから、こんなイメージなんだと思う。
ところで、この楽章で私が好きなのは、再現部で第2主題のあとに出てくるコデッタの部分。
チェロからクラリネットに引き継がれる美しい旋律を優しく分散和音で支えていたピアノが、その直後にほんの少しの間だけメロディを奏でる。
この箇所を聴くたびに、私は何故か不思議な温かみを感じるのだ。
岡田さんの透明な音色と端正な響きをもったピアノにも、大いに魅かれた。

第2楽章は、まさに私が「ブラームスの室内楽」に対して持っている憧れそのものだ。
シュミードルもヴァルガも実によく歌う。しかし、あくまでもブラームスの色で歌っているところが素晴らしい。やはりウィーンの伝統なのだろうか。
続く第3楽章は、このディスクの白眉だろう。
シュミードルの愉悦感に富んだ表情も抜群だし、ギターのアルペッジョを思わせる柔らかなピチカートや、幸福感に満ちた語り口に聴く表現力の豊かさこそヴァルガの真骨頂。とにかく弾力性をもったリズム感と自然な流れがいい。
終楽章のクラリネットとチェロのユニゾンは、どこかダブルコンチェルトを思い出させる。
聴き終えて、ため息が出るほど魅力的なブラームスだった。

今年のウィーンフィルを聴いて、そして公開レッスンを見せてもらって、「ヴァルガの室内楽を是非聴いてみたい」と思い立ってゲットしたのがこのディスク。
ブラームスのクラリネットトリオは比較的名演に恵まれた曲だが、聴き終わって最も幸せになれる演奏として、私はこのディスクをずっと聴き続けることだろう。

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2 コメント

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お久しぶりです (asdf)
2010-05-11 20:38:20
お久しぶりです。asdfです。

じつは、クラリネット吹きであるのにも関わらず、つい2、3ヶ月前に初めてこの曲を聴きました(五重奏曲は前から知っていたのですが・・・苦笑)。ベッチャー(+ライスター&ボーグナー)の演奏です。


やはりブラームスは良いですよね!
一連のクラリネット作品だけに限らず、彼の作品の表情の使い分けや、洗練された技巧には本当に敬服します。

さすが、『ドイツの3B』といったところでしょうか。


私自身はこの録音を聞いたことが無いのですが、
この記事を読んでいてとても聞きたくなってしまいました!

今度CD屋にダッシュしてみます=


p.s. 最近私は、アンサンブル・タッシの”メシアン/世の終わりのための四重奏曲”のCDを聞きました。武満徹の「カトレーン」が一緒になっているのですが、やはりプロは凄いと感激しました。


・・・長くなってすみません(汗)
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>asdfさま (romani)
2010-05-13 23:23:32
こんばんは。
出張のためご返信が遅くなってしまい、本当に申し訳ございません。

>やはりブラームスは良いですよね!
まさに同感です。仰っていただいた言葉で、結局すべてが言い尽くされているように感じます。(笑)
このディスク、シュミードルも岡田さんもさすがとしか言いようのない出来栄えですが、本文にも書きましたようにヴァルガのチェロが抜群なんです。
是非お聴きになっていただけたらと思います。

タッシの「世の終わりのための四重奏曲」、私も大好きです。
目茶苦茶上手いですね。でもちっとも嫌味な上手さじゃないところが素晴らしい。
ここまで書いてきて、無性に聴いてみたくなりました。いや、既に聴き始めてます(笑)
やっぱり絶品だあ。
こりゃ、眠れなくなるかも・・・

ありがとうございました。
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