ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

マーラー:交響曲第7番ホ短調『夜の歌』 by クレンペラー&フィルハーモニア管弦楽団

2011-12-28 | CDの試聴記
官庁は今日が御用納め。
私も30日は休暇を取る予定なので、仕事も年内あと一日だ。
さあ、頑張っていきましょう。

さて、最近読んだ吉田秀和氏の「フルトヴェングラー」という本の中に、次のような言葉が出てくる。
「何を語るか」「どう語るか」
この2つの言葉がとても印象に残ったので、少し書かせてもらう。

吉田さんは、概ね次のような意味でこれらの言葉を使っていた。
「何を語るかは作曲家の領域、どう語るかが指揮者の仕事」と割り切って考える指揮者が多いようだが、フルトヴェングラーは楽譜の中に封じ込められた生命を解放し、作品の語ってきかせる王国を音を通じて私たちの前に目に築き上げようとしていた。
つまり、フルトヴェングラーはどう語るかだけではなく、何を語るかについても自分の領域だと考えていたのだと。

私は、なるほどと大きく頷きながら読ませてもらった。
そこが、フルトヴェングラーの音楽における魅力の根源だったんだ。
逆に、何を語るかを持たずに(=自分の心の奥底から湧き出てくる何かを持たないまま)、楽譜に書かれた音符をそれらしく音として響かせることを目標にしているような演奏に出会うことがある。
聴いたときは耳に心地よく響いていたにも関わらず、しばらく経つと殆んど何の印象も残っていないような演奏等は、まさにその代表格だろう。
これでは聴き手に感動を与えられるはずがない。
仕事でも全く同じことが言えるわけだけど、やはり語るべきものをしっかり持って、それを自分の言葉で表現することが最も大切なのではないだろうか。

「どう語るか」という表現方法はフルトヴェングラーとまったく違うけど、オットー・クレンペラーもまさしく「語るべきもの」を持っていたマエストロだった。
そのクレンペラーによるマーラーの演奏を集めたボックスセットがリリースされたので、早速聴いてみた。
とくに印象に残ったのが第7番。

正直に告白すると、マーラーの全交響曲の中で、この7番が私にとってもっとも遠い作品だった。
まず劇的な場面が少ない割にやたら長い。
そして楽しいのか悲しいのか、はたまた怒っているのか笑っているのか、聴きながらだんだん分からなくなってくることも、この曲が縁遠くなっていた原因だった。
誤解を恐れずにいうと、この曲を聴いていると、何やら得体のしれない動物と格闘しているような錯覚を覚えるのだ。
しかし、今回久しぶりにクレンペラーの演奏を聴いて、その「得体のしれないもの」に惹かれるようになってきた。
得体のしれないものを、クレンペラーは何の加工も施さずに、むしろ彼一流の接写レンズを使って大写しにしてみせる。
その結果、グロテスクで生々しい印象をうける箇所も出てくるが、それがかえって独特の快感につながっていく。
一方、4楽章のマンドリンとギターが参加する「夜の歌」あたりは、これ以上ないくらいチャーミングだ。
美しいものは美しく、グロテスクなものは変に化粧を施さずそのままの姿で表現されるクレンペラーのマーラー。
私はとても魅力的だと思った。
年末年始、きっと何回も聴きなおすことだろう。

苦手だったマーラーの7番が、少しだけ私に近づいてきたような気がする。

マーラー:交響曲第7番ホ短調『夜の歌』
<演奏>
 オットー・クレンペラー(指揮)
 フィルハーモニア管弦楽団(ニュー・フィルハーモニア管弦楽団)
<録音>1968年9月

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ベートーヴェン:ピアノ三重... | トップ | 今年一年を振り返って »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
今年もお世話になりました (KiKi)
2011-12-29 15:05:56
ご無沙汰しております。  KiKi です。

今年は本当に大変な1年でした。  KiKi にとっては「自然と共に暮らすというのはどういうことなのか?」を改めて自分に問い直す1年でもありました。

今日のエントリーにある「何を語るか」「どう語るか」は演奏に限らず、ありとあらゆる側面で問われる課題ですよね。  もっとも「どう語るか」に関して言うならば、自分の思っている「どう」を実現化するための技術も要求される・・・というあたりが、これまた難しいところであると思うのですが・・・・ ^^;

いずれにしろ今年もお世話になりました。  ちょっと気が早いかもしれないけれど、来年もよろしくお願いいたします。
返信する
>kikiさま (romani)
2011-12-31 06:41:12
おはようございます。
コメントありがとうございました。
今年は本当にいろいろなことがありましたよね。

>「自然と共に暮らすというのはどういうことなのか?」
比較的都会に近いところで暮らしている私と違って、生活の拠点を移されたkikiさんにとっては、一層大きなテーマですよね。
1000年に一回と言われているわけですから、逆にこれから1000年はこんなことはないと信じて、来年は素晴らしい年になってほしいと願っております。

>自分の思っている「どう」を実現化するための技術も要求される・・・
そうなんです。まさにそうなんです。ただ、私自身の反省も踏まえてのことなんですが、ある場面では小手先の技術で急場を凌いでしまうことがあります。でもそれを繰り返していると、いよいよ中身の伴わない仕事しかできなくなってしまうので、「常時インプットを忘れずビジョンを持って伝える」というような姿勢を忘れないようにしたいと思っております。しかし本当に難しいですねぇ(汗)

来年もどうぞよろしくお願い致します。
返信する

コメントを投稿

CDの試聴記」カテゴリの最新記事