六文錢の部屋へようこそ!

心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

芸術広場と日本人があまり行かない美術館@サンクトペテルベルク

2019-08-14 01:48:52 | 旅行
            
 中央にプーシキンの堂々たり立像があるさして面積が広くもない楕円形のミハイロフスキー公園は、芸術広場とも呼ばれている。
 この公園自身にその立像の他に芸術的な要素があるわけではない。その周りの諸施設からしてそう呼ばれているのだ。

 そのひとつがサンクトペテルブルク・フィルハーモニア、クラシック用の常設コンサートホールである。ここを本拠地としているのが、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団とサンクトペテルブルク交響楽団で、ウィーンフィルとウィーン交響楽団のようにその名前は紛らわしいが、ウィーン同様、サンクトペテルブルクでも、前者のほうが1772年に発足と伝統を誇っている。

         
         
 建物全体を撮し忘れたが、上の写真の左手、木立の向こうのやや赤っぽい建物がそれである。
 ここのウインドを覗くと、ガラス越しに公演を告げるポスターが並んでいるのだが、ロシアのアルファベットを学んでくるのを怠ったせいで、よくわからない。下のものが、モーツァルトとブラームスの曲を演奏するものであることは辛うじてわかった。

         
 さらにその向かい側にあるのが、ミハイロフスキー劇場で、ここはオペラとバレエの殿堂である。
 フィルハーモニアといい、この劇場といい、パリやウィーンに比べると外見は地味で、殿堂という感はないが、内部は4階までのバルコニー席が舞台を馬蹄状に取り囲む堂々たる大伽藍である。

         
 それらの世界に誇るような施設に囲まれた芸術広場であるが、その正面の主客ともいえる場所にそびえるのはロシア美術館である。
 サンクトペテルブルクに来た観光客は、エルミタージュはまず外さないと思うが、このロシア美術館はスルーしがちである。たしかにその知名度には差があるが、エルミタージュがエカテリーナⅡ世の時代から収集された西洋各地の古今の美術品を網羅しているのに対し、このロシア美術館は、まさにロシアの作家のものを展示した「ロシア」美術館なのである。

 ここは外せないと、当初からプランに入れていた。前日のエルミタージュが三時間で消化不良だったので、ホテルをはやく出て9時過ぎに着いたのだが、門のところに大柄なご婦人が頑張っていてダメだと入れてくれない。そして、しきりに時計を指差してなんか言っている。どうやら開館は10時らしい。芸術広場の公園に戻って、あたりを見回しながら小休止を決め込む。

 スズメやハトが物欲しげに足元までやってくる。向こうでパンくずをやっている人がいてそちらへ集中しているのだが、「お前もよこせ」と私の足元を離れないのも居る。ヨーロッパなどで公園の小鳥やリスなど小動物が人懐っこいのは、パンくずをやる習性があるからかもしれない。
 スズメやハトは日本のものとほぼ同じに見えるが、こちらのものはみんなまるまるとして日本のそれより一回り太い。多分この地の寒さからして、皮下脂肪を蓄えなければ冬を過ごせないのだろう。

         
 そうこうしているうちにやっと開館になる。
 なかに足を踏み入れると、最初に大階段が迎えてくれるが、どこか既視感がある。そうなのだ、あのエルミタージュの大階段と構成がそっくりなのだ。あれほどキンキラキンではないのだが。

         
 作品はロシアの作家のものだから知名度はあまりない。だいたいロシアは、その音楽などに比べて、絵画の方では比較的地味なのだ。
 しかし、展示してあるものの端々から、どこかロシア的なものを感じることができる。宗教画にしたところで、カソリックのそれと、イコン重視のロシア正教のそれとは、明らかに違う。

 19世紀中庸から20世紀始めの近代絵画にこの美術館の、まさにロシアの特色がある。
 イヴァン・アイヴァゾフスキーの「第九の波(波濤)」、ヴァシーリー・スリコフの「ステンカ・ラージン」などはかつて「社会主義リアリズム」の代表作といわれたものだが、そうした評価基準が潰え去った現在、ロシア近代表現の別の視野から評価されなおされているという。

         
         
 ここまで読んできて、勘の良い読者なら、「それをいうんなら、あれに触れないのはおかしいだろう」とおっしゃるかもしれない。そう、かつて教科書などにもその作品「ヴォルガの船引き」が載っていたイリア・レーピンの作品である。
 私もそれをお目当てのうちに入れていた。年代からいったら、上記の作品などと同じところにあるはずだがそこにはない。しばらく進んだがやはりない。見落としたかなと戻ってみたがやはりない。

 女性の係員をつかまえてカタコトの英語で尋ねる。「レーピンはどこですか?」彼女は困ったような顔で「それはない」と断言する。「いや、たしかにここにあるはずだ」と食いさがる私。私のヒアリングのつたなさに、彼女は説明に手こずったようだが、結果、理解できたのは、いまモスクワで彼の特別展が開催されていて、レーピンの作品はすべてそちらへ出払っているということだった。

             
         
 がっかりものだが気をとり直して観てゆく。前後するが、ロシアの作曲家の肖像を見つけた。上がボロディンで、下がリムスキー・コルサコフだと思う。
 あと彫像は、おなじみのエカテリーナⅡ世。そして、ロシア版ジャポニズムの作品などなど。

            
         
 美術館巡りは疲れる。ましてやお目当てのレーピンに振られたとあっては幾分のアンニュイが残る。
 しかし、トータルとしては来てよかった。エルミタージュが西方に向かって開かれた、ないしは西方を取り込んだ作品群だとすれば、こちらは紛れもなくロシアの土の匂いを内にもつ作品群である。

         
          鏡のある通路で休憩している私 右の人は関係ない人
 
 ロケーションも、エルミタージュやその前に広がる宮廷広場の様な壮大にして威圧的なものではないが、こじんまりとした芸術広場、その中心に建つプーシキン像を取り囲むように配置されたコンサートホール、オペラハウス、そして美術館となんか私の身の丈にあった情景が好ましく感じられるのだった。





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 私の「エルミタージュ幻想」... | トップ | サンクトペテルブルク・トリ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。