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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

沖縄の風 蹂躙し続ける私たち

2020-06-23 17:45:21 | 歴史を考える

 今年もこの日がやってきた。七五回目の沖縄慰霊の日。
 七五年前のこの日、私は国民学校の一年生であった。幼いながら、天皇陛下のためにこの一身を挺して戦えと叩き込まれていた私にとって。この日は記憶のうちにあった。

 おそらくその日のしばらく後であろう、学校で「沖縄が陥ちた。やがて、本土決戦は必至である・・・・」という訓示があったのを覚えている。どの程度リアルにこの状況を理解していたかはともかく、ある種の逼迫感のようなものがあったと思う。

        

 唯一、地上戦が行われた沖縄においては、総勢20万人が死を迎え、それら死者のうち、軍民を含めた沖縄県民はその人口のじつに四分の一を失ったのであった。
 双方の戦力からいって勝敗の帰趨は最初から明らかだった。にも関わらず本土からの司令は一日でも長く戦い続けろというものだった。

 いくら追い詰められても降伏は許されず、ただただ命をいたずらに捨てる戦いが強要されたのだ。
 こうして沖縄は、なんの見返りもないままに、一方的に「本土」の盾となることを強いられたのだ。その激戦が一応終了したのが七五年前のこの日だった。

        

 だが本当に終わったのか?

 昨秋、私は初めて沖縄を訪れる機会をもった。
 これまでも何度かその機会はあり、同行を誘われたこともあった。しかし、その都度、それを断ってきた。
 沖縄を犠牲にして自分が生き延びてきた、そしていまもなお沖縄を盾として利用しているという現実の中で、後ろめたさを振り切って物見遊山に出かける気にはとてもなれなかったのだ。

 昨秋はさいわい、同行の方も、そして沖縄で出迎えてくれる方も、こうした私の気持ちを理解していただいた上で、平和祈念公園などでの贖罪の祈り、いまなお、沖縄に犠牲を強いるその最先端の辺野古の訪問などをスケジュールに組み込んだ旅が実現したのだった。

        

 チビチリガマは東条英機の「戦陣訓八」「生きて虜囚の辱を受けず」を文字通り民間人にまで適用したような凄惨な場面が実現した洞窟で、投降しさえすれば全員が助かった(すぐ近くのシムクガマではそうだった)にも関わらず、火を放って集団自殺を図ったもののそれも叶わず、ついには自決が半ば強要され、親が子を殺し、肉親が相互に殺し合うという阿鼻叫喚を極めることとなった。
 自決者数は82(85説も)人に及び、その過半数は子供であったという。

        

        

        

 平和記念公園の海に面した明るい箇所に、黒い御影石に彫られた人名は敵味方を問わず、20万近くに及び、今尚、判明した人名が刻まれ続けているという。
 その間を散策した。碑を渡り抜ける海風は爽やかであった。
 しかしである、私を取り巻くこれらの人名は、すべて肉体を持ち、死体となったことによってここに刻まれているのだ。私を取り巻く20万の死屍累々・・・・これこそがこの場所の特異性なのだ。

        

 辺野古の海は沖縄の海の典型で、途中までは明るい色彩を放ち、何がしかの沖合で紺碧の深い色彩に転じる。その境界がサンゴ礁と外海を隔てている。それ自体がとても美しい。
 それがいま蹂躙されつつある。何度かの沖縄県民の意に反して・・・・などと今さら繰り返すまい。蹂躙する側は、そんなことは百も承知でそれでもなおそれを強行しているのだ。
 それを許している「本土」の私たちは皆その共犯である。「沖縄県民に寄り添い、真摯に対応する」という二枚舌の持ち主は、今年はヴィデオメッセージの参加だったようだが、私たちは彼の共犯者なのだ。

        

 75回目の沖縄慰霊祭、私の気持ちは晴れない。沖縄は頑張った、今度は本土決戦・・・・と力みながらも、その沖縄を新しい盟主アメリカに貢ぎ、それと引き換えに守られた「国体」のもとにのうのうと暮らす私たち。

 この日が来ると、思い出すもう一つのシーンがある。
 学生時代、沖縄から留学(当時はまだ米軍占領下で、日本ではなかった)していたA君のことだ。
 左翼も右翼も、沖縄早期返還を叫ぶなか、A君の主張は違っていた。「沖縄独立!」。彼は「早期返還」にこれをぶつけようとした。しかし、留学生が政治運動をしたことが発覚するや強制送還されるということで、私たちはそのビラを撒くのを手伝った。

 沖縄は、ほんとうに「日本」というこの国に「返還」されてよかったのか。日本というこの国は、返還された沖縄を、取引の材料としてのみ消費しているのではないのか。

  写真はいずれも昨秋、沖縄を訪れた折に撮ったもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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