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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

愛と革命と芸術のための逃避行の結末 朝ドラ「おちょやん」から

2021-03-25 14:32:48 | フォトエッセイ

 2月24日、25日のNHK朝ドラに、特高警察に追われる女優(高城百合子=井川遥)と演出家(小暮真治=若葉竜也)が当時のソ連に亡命するエピソードが描かれていたが、このモデルは岡田嘉子と杉本良吉で、亡命そのものは実話である。

         
 
 ただし、「おちょやん」のモデル、浪花千栄子との間に、朝ドラのような関わりがあったかどうかはわからない。ドラマではおちょやんと岡田嘉子が知り合いであったことになっているが、事実は逆で、おちょやんこと浪花千栄子の亭主のモデル、二代目渋谷天外と杉本良吉が知り合いの仲であって、その関連で、二人の逃避行を援助したかもしれないといったぐらいだろう。

         
 
 ところで、この亡命した二人組のその後がどうなったかについて、私が同人誌に書いた文章があるので、以下に引用しておきたい。
 予め言っておくと、この結末はとんでもない悲劇に終わっているので、朝ドラの演出もそれを知っていて、BGMに松井須磨子の「カチューシャの唄」を流すなどしんみりした場面に仕上げていた。
 それでは以下、20年10月に発行した同人誌の私の文章から。

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 私は、一九三八(昭和一三)年にこの世に生を受けたと述べた。それはどんな年だったのだろうか。予め結論をいってしまえば、決していい年ではなかった。もっとも、この前後でいい年などはほとんどなかったといっていいのだが。
 一月三日、当時の人気女優・岡田嘉子が演出家で共産党員だった恋人の杉本良吉と手に手をとって樺太からソ連側に亡命した。国境の向こうは憧れの社会主義国、そしてそこには、世紀の舞台芸術家メイエルホリドがいる。恋と革命と芸術のための逃避行、なんとロマンティク、前途はバラの花によって敷き詰められていた。そのはずであった。しかし、バラの花が敷き詰められているのはしばしば地獄への道でもある。
 そのとんでもない真相の詳細が判明したのは戦後もしばらくしてからだった。

             

 まずは自由な天地で恋人同士が・・・・という夢が切り裂かれた。国境を越えるやいなや、ソ連当局に逮捕された二人は、生涯再び逢うことはなかったという。ついで、革命の祖国という幻想が打ち破られた。彼らはそれぞれソ連に送り込まれたスパイとして熾烈な拷問にさらされる。岡田は墜ち、恋人である杉本がスパイであると証言する。さらに杉本も、自らがスパイであることを、さらには、自分に先行してソ連にやってきて既に帰国していたやはり演劇人の土方与志や佐野硯もスパイであったと供述する。
 ところでこの土方も佐野もそして杉本本人も、当時ソ連演劇界で世界的名声を博していた演出家メイエルホリドを慕ってソ連を訪れたのであった。そして、彼らがすべてスパイであったということは・・・・。かくしてメイエルホリドの包囲網は完成し、ついには本人が逮捕され、激しい拷問のなか、スパイであったとして四〇年に処刑されている。

             

 岡田・杉本の恋と革命と新しい演劇を求めての逃避行は、じつは、三〇年代の後半、ソ連で荒れ狂っていた粛清の嵐の真っ只中への登場であり、世界的に影響力をもってたメイエルホリドを葬り去るため、スターリンが用意したジグソーパズルに対し、岡田と杉本はその最後のピースを提供したというわけだ。        
 杉本は死刑、岡田は有期刑で生き延び、七二年に帰国したが、八六年に再びソ連に戻り、九二年に八九歳で没するまで、再び日本の地を踏むことはなかった。
 イデオロギーによる絶えざる運動のなか、その敵を見出してはテロルによってそれを排除し、もってその運動の地盤を固める、これが全体主義国家の常道である。革命以後二〇年、国内に共産党に対抗する勢力はすでになく、党内反対派で目の上の瘤のトロツキーを国外追放した後は、もはや敵らしい敵はどこにもいなかった。敵がいなければ作るしかない。秘密警察による探索とその結果の針小棒大な解釈による敵の発見と製造、密告の奨励による新たな敵の発掘と創作。
 
             

 こうしてある朝、突然、「人民の敵」の〇〇グループが摘発される。そこには意外な人物が。あるいは昨日、にこやかに挨拶を交わした隣人が。それは意外であればあるほど効果的だ。「人民の敵」は、かくも巧妙にあなた達のなかに潜んでいる。
 人々は、疑心暗鬼のうちにバラバラに分解され、最も統治され易い集団に成り果てる。一九三〇年代の後半、ソ連はまさにそんな段階に差し掛かっていた。

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草花が育たないわが家の花事情

2021-03-25 11:16:05 | 花便り&花をめぐって

 わが家は田圃の埋立地の上にある。その折に埋め立てた土が、土と呼べるような代物ではなく、山のガレ場から持ってきたようないわば砕石状のものだ。埋め立てに立ち会っていたが、その中にはなんと重量何百キロという赤石が三個ほど混じっていて、埋め立てには使わず、庭石として使っている。

           

 ようするにわが家の土壌は、土壌改良を施さない限り、草花を育てるには全く不向きだということだ。
 土を買ってきてプランターという手もある。事実連れ合いが生きていた頃には、プランターにパンジーなどを植えたりしていたが、それも結構気まぐれで継続していたわけでもない。

           

 私に関していえばもっとものぐさで、それすらも全くしていない。したがってこの季節、春の花々が咲き乱れるのだが、わが家に関してはこの時期に咲く草花は皆無である。
 その代わり、木に咲く花は種類は多くはないが元気である。亡父譲りの紅梅の鉢以外は直植えだが、おそらくその根っ子の先端は、埋め立てたガレ石の下のかつての田圃の層にまで達しているため、育つのだろう。

 最初に咲くのは、上に述べた紅梅。2月の10日頃に咲き始め、18日には降雪をみたため、咲いた梅が雪に覆われるという珍しい光景が実現した。満開は2月25日頃か。
 3月24日現在ではすっかり葉が出ている。

         
 
 そしてこの2月25日には、例年より一週間ほど早く、桜桃が実る桜が開花し、3月5日には満開に達した。しかも花の付きは例年に比べて実に旺盛で、モコモコ盛り上がるほどだった。

         

 果たせるかな、僅かな花を残してすっかり散ってしまった3月24日現在では、たくさんの桜桃の赤ちゃんが例年以上ににぎやかにぶら下がっている。

         フォト フォト

 梅と桜の退陣に伴って、いま現在の花は連翹(れんぎょう)と雪柳である。実のところ、これらも数日前が満開で、24日現在では、葉のほうが目立ち始めた。
 この両者は、多分去年のほうが花の付きが良かったと思う。写真を見比べてみると、去年のほうが真っ黄色と、真っ白に全体が覆われている。

      フォト フォト

 今後、これらに次ぐのがツツジだろう。赤と白の樹齢40年以上の木があるが、枝先にはもう、しっかりと蕾を宿している。4月の中頃の開花だろうか。

        フォト フォト
 
 それから、花ではないがマサキの木が一本あって、まもなく出てくるこれの新葉が実にきれいなのだ。小さな黄緑の花も咲くのだが、これは気をつけてみないとそれとわからないほどに細かい。その代わりその新葉は光沢をもった若緑でまぶしいほどに美しい。

       フォト フォト

 これらがわが家を彩る春の色彩である。草花に比べれば種類も少ないが、年々歳々、それぞれ季節の到来を告げてくれる「憂い奴」たちである。
 もうあと何年みることができるかなどという辛気臭いことは考えず、花々は、ただ咲くがままに咲くという単純明快なファクトに、おのれの心情を重ね合わせ、それらを愛でたい。
 

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